大学分科会(第142回)・将来構想部会(第9期~)(第22回)合同会議 議事録

1.日時

平成30年7月11日 13時~15時

2.場所

文部科学省 旧庁舎6階 第二講堂

(東京都千代田区霞が関3-2-2)

3.議題

  1. 産業界からの提言等について
  2. 新学習指導要領について
  3. 我が国の高等教育に関する将来構想について
  4. その他

4.出席者

委員

(分科会長・部会長)永田恭介分科会長・部会長
(副分科会長)日比谷潤子,村田治の各副分科会
(委員)有信睦弘,五神真,志賀俊之,室伏きみ子,山田啓二の各委員
(臨時委員)麻生隆史,安部恵美子,金子元久,河田悌一,黒田壽二,小杉礼子,小林雅之,鈴木雅子,千葉茂,福田益和,古沢由紀子,益戸正樹,両角亜希子,吉岡知哉,吉見俊哉の各臨時委員

文部科学省

(事務局)伯井文部科学戦略官,瀧本大臣官房審議官(高等教育局担当),蝦名高等教育企画課長,丸山私学助成課長,白井教育課程企画室長,石橋高等教育政策室長 他

オブザーバー

(オブザーバー) 一般社団法人日本経済団体連合会三宅教育問題委員会企画部会長,一般社団法人日本経済団体連合会長谷川SDGs本部長,公益社団法人経済同友会小林副代表幹事・教育革新委員会委員長

5.議事録

【永田分科会長・部会長】  定刻になりましたので,中央教育審議会大学分科会第142回と将来構想部会第22回の合同会議を始めさせていただきます。
 お暑い中,お忙しい中,お集まりいただきまして,ありがとうございます。
 報道カメラは議事が始まるまでとさせていただきますので,御承知おきを頂きたいと思います。
 議事に入る前に,文部科学省から御発言がございます。瀧本審議官,お願いいたします。
【瀧本大臣官房審議官(高等教育局担当)】  それでは,失礼いたします。高等教育局担当審議官の瀧本と申します。本日,別件の対応で幹部が遅れています。私の方から一言おわびを申し上げさせていただきます。
 先週,7月4日,当省の佐野太前科学技術・学術政策局長が受託収賄の容疑で逮捕されました。同日付で大臣官房付に異動していますが,現職の職員が逮捕されたということにつきましては,誠に遺憾なことでございます。関係の皆様をお騒がせしたこと,あるいは教育行政に対する信頼を更に大きく揺るがせにしたこと,学校現場を含めた教育現場にも多大な御迷惑をお掛けしていることにつきまして,改めて申し訳なく思っており,おわびを申し上げたいと思います。
 文部科学省としては,捜査に全面的に協力をしつつ,事実関係の確認に基づいて,今後適切に対処していくこととしています。
 なお,逮捕から7日目の昨日になりまして,初めて本人の,容疑を否認するという報道がなされました。私どもとしても,報道で知る限りでございます。行政機関として,文部科学省といたしましては,こうした事態を招いてしまっていることにつきましては,深刻に受け止めて,行政に対する国民の信頼回復に向けて全力を尽くしてまいりたいと思います。
 中央教育審議会の委員の皆様におかれましては,引き続き将来の高等教育の充実に向けまして御指導いただきますようお願いを申し上げ,おわびとともに,引き続きの御指導をよろしくお願い申し上げます。
 失礼しました。

(1)  資料1-1,資料1-2に基づき,一般社団法人日本経済団体連合会(以下、「経団連」)の三宅 龍哉教育問題委員会企画部会長,長谷川 知子SDGs本部長から、本年6月に発表された「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」について説明があり,その後意見交換が行われた。

【永田分科会長・部会長】  それでは,本題に入らせていただきます。
 本日の議題は,大きく分けて三つあります。
 一つは,産業界からの我々の中間まとめ等を勘案した上での御意見を拝聴しようというものです。まず,6月19日に「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」が経団連から出ております。本日は三宅教育問題委員会企画部会長並びに長谷川知子SDGs本部長にお越しいただいています。
 また,6月1日に「私立大学の撤退・再編に関する意見」を公表されました公益社団法人経済同友会(以下、「経済同友会」)から,小林いずみ副代表幹事・教育革新委員会委員長にもお越しいただいています。続けて御発表いただいて,御意見を交わしたいと思っています。
 二つ目は,新学習指導要領について,初等中等教育での情報学の分野等を含めて,これからどのように改革・改善が行われるのかについて,事務局から簡単に御説明をさせていただこうと考えています。
 三つ目は,我が国の高等教育に関する将来構想についてですが,前回お話をいたしました続きとして,国公私を通じた機関や課程に着目した我が国全体における高等教育の規模の在り方についてです。本日は,資料をお示しし,時間があれば,委員の皆様から御意見を頂きます。また,次回にも資料を用意する予定です。今回,前向きな御意見を頂ければと思っています。
 最後に,将来構想部会においてとりまとめた中間まとめの今後の参考ということで,Society5.0の実現に向けた大学改革について,五神委員から御発表を頂くことになっています。
 その他,委員の方々から御提案があれば,議論をしたいと思っています。
 それでは、事務局から,資料についての確認をお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。配付資料の確認をさせていただきます。資料の1-1,1-2が経団連様からの資料となります。資料2が経済同友会様からの資料となります。資料3が新しい学習指導要領について,資料4が国公私を通じた機関や課程に着目した規模の在り方について,資料5が五神委員の御提出資料,資料6が今後の日程でございます。また,参考資料に,6月28日付でとりまとめました中間まとめについて,参考資料1と2としてお配りしています。また,吉見委員より参考資料3の御提供がございましたので,これも併せて御覧いただければと思います。不足がございましたら,事務局にお申し付けください。
 以上でございます。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございます。
 それでは,議題に入ります。最初は,産業界からの提言についてということで,先ほど御紹介いたしましたように,経団連並びに経済同友会から関係の方々においでいただいています。
 それでは,最初に経団連から,「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」ということで,15分程度で御説明いただき,15分程度で議論を交わしたいと思っています。
 それでは,三宅企画部会長,よろしくお願い申し上げます。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  三宅です。よろしくお願いいたします。
 改めまして,経団連の教育問題委員会で企画部会長を拝命しています,三宅と申します。本日は,御紹介いただきましたように,経団連がとりまとめました「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」につきまして,このような場で御説明いただく機会をいただきまして,ありがとうございます。
 資料1-1が提言の概要,1-2が本文であります。私の説明は,時間の関係で,主に概要版に沿って行いたいと思いますので、そちらを御覧いただきたいと思います。
 1ページ目を御覧ください。まず,経団連として本提言をとりまとめた背景について御説明いたします。人口減少社会の到来による労働力不足の壁を乗り越えるためには,質の高い教育を受けた多様な能力を持つ人材と,そうした人材を育成する多様な高等教育機関の存在が不可欠であると考えています。
 また,経団連が目指す超スマート社会でありますSociety 5.0の実現に必要なイノベーションを生み出すエコ・システムの確立には,教育,研究の両面で大学が重要な役割を担っていると考えています。しかし,足元を見ますと,現在,日本の大学のレベルは,玉石混交です。私立大学の中には,恒常的な赤字や定員割れが見られる大学もございます。また,トップ大学と言われる大学でも,直近の世界大学ランキングでは順位が落ちているという状況かと思います。
 こうした中,政府の各種会議でも大学に関する検討が行われ,一部は,先般公表されました「経済財政運営と改革の基本方針2018-少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現-」(いわゆる骨太の方針2018)に盛り込まれました。また,この中央教育審議会でも,まさにこちらの将来構想部会で高等教育の将来像に関する検討が行われております。この秋に答申が予定されていると伺っています。
 そこで,経団連といたしましても,これまでの大学行政を改める絶好の機会だと考えまして,昨年秋から教育問題委員会にて検討を行い,提言をとりまとめたというのが,今までの経緯でございます。
 なお,経団連では,昨年12月から本年2月にかけまして,会員企業や各都道府県の地方別経済団体に加盟する企業を対象に,高等教育に関するアンケートを実施して,443社様から回答を得ました。アンケートの結果は4月に公表していますが,これも提言とりまとめに向けた基礎資料として活用いたしました。
 概要の2ページ目を御覧いただきたいと思います。本提言では,限られた人的・物的資源を有効活用しつつ大学改革を進めるという視点に立ち,大学教育の質の向上,そのために必要な大学の再編・統合,大学のマネジメント力・財務基盤の強化という3点に絞って,考え方をとりまとめています。
 ここからは,この3点につきまして,具体的に御説明申し上げます。
 まず,大学教育の質の向上に向けては,第1に,高大接続の円滑化と大学入試改革を挙げています。高校卒業時に大学で学ぶ最低限の基礎的学力が備わっているよう,高大接続の円滑化に向けた取組を促進するとともに,大学入試を主体的に考え,自ら解を導き出す能力を問うものに改革すべきであると申し上げています。また,入試での文系・理系の区分を廃止すべきと考えています。
 第2に,三つのポリシーに基づく教学マネジメントによる大学教育の質保証を求めています。特にその中でディプロマ・ポリシーが重要と考えております。成績や単位取得などの卒業要件を厳格化して,これを満たさない場合は卒業させないようにすべきであるなど,学生がしっかりと学修する体制づくりを進めるべきとしています。加えて,教育の効果や成果を測る指標の開発が急務であるという指摘をさせていただいています。
 第3に,人文社会科学系教育の強化を求めています。3ページ目を御覧いただきたいと思います。Society 5.0によって生まれる新たな科学技術を社会実装するためには,経済,経営,法律,倫理哲学など人文社会科学系の知識や専門性も必要となると考えています。そこで,文理融合の柔軟な組織や教育カリキュラムを編成し,人文社会科学系の教育を強化すべきという指摘をしています。
 第4に,グローバル化の推進を求めています。双方向の留学生交流を促進するために,関係省庁や産業界が協力して,外国人留学生の受入れ環境を充実させるとともに,日本企業への採用を促進することが必要と考えます。
 これとあわせて,優秀な外国人教員の採用と,それに合わせた教員の報酬体系の見直し,海外大学との連携・海外展開の拡大も必要と考えています。
 第5といたしまして,情報開示の拡大と学修成果の見える化を指摘しています。4ページを御覧いただきたいと思います。大学教育の質向上のためには,情報開示を通じて外から改革へのモメンタムを高めることが重要となります。そのため,例えば,米国の大学スコアカードのように,大学のカリキュラムや卒業要件,学生の学修度合いや能力などの情報を,ほかの大学との比較が可能な形で開示すべきと考えています。また,学修ポートフォリオの導入などによって,学生が何を学び,何を身に付けたかなど,学修効果の見える化を進める必要があると考えています。
 そして,第6として,今後は大学教育においても,MOOCのようにオンラインを活用した授業やカリキュラム,EdTechの活用を拡大すべきと指摘しています。
 次に,5ページ目を御覧ください。(2)ですが,実践的な職業教育の場としての専門職大学,専門職大学院についてであります。経団連が先般行いましたアンケート調査からは,専門職大学への期待の高さがうかがえます。残念ながら,来年4月に開学が予定されている専門職大学の多くは医療・介護分野のようですが,今後必要なものとしては,システム・エンジニア,プログラマー,あるいは情報セキュリティ人材など,企業のニーズが高い分野での開校が期待されています。
 また,高等専門学校につきましても,企業のニーズを反映したカリキュラム改革や,グローバル化に向けた努力がなされており,更なる強化を期待しています。
 (3)はリカレント教育であります。人生100年時代を見据え,年齢にとらわれず,誰でもいつでも学び直せる環境整備が重要であります。ですが,なかなか大学の活用が進んでいないというのが実情でございます。政府の各種補助制度を整理して,企業にとって使い勝手のよい体制となるよう,改革を求めています。
 大学にこうした一連の改革に真摯に取り組んでいただくようお願いする一方で,(4)でありますが,企業側も採用の多様化を進め,大学が提供する学生の学修成果に関する情報,これを採用時に積極的に活用するなどの対応が必要と考えています。
 また,大学と連携・共同してオープンイノベーションを進め,最先端の技術・サービスを生み出していくことで,日本全体としての競争力向上につなげるべきと考えます。
 次は6ページ,ここからは,第2の柱である,大学の教育・研究力を高めるための連携や再編・統合の推進について示しています。グラフのとおり,18歳人口は,92年の205万人をピークに減少し続けており,2040年には88万人に減少する見込みと言われています。にもかかわらず,国立大学の定員数はほぼ横ばい,私立大学では4割が定員割れという状況だと伺っています。
 7ページを御覧いただきたいと思います。こうした状況の中で,大学の教育・研究力を強化するとともに,特に人口減の影響を受ける地方大学の持続可能性を高めるためには,大学の数や規模を適正化,並びに大学間の連携や再編・統合の推進が必須と考えています。これらを機動力とスピード感を持って改革を実現するために,提言では,内閣に省庁横断的な会議体を設置して,大学の再編・統合に関するグランド・デザインを策定するよう求めています。
 また,地域の国公私立大学と地方公共団体,産業界で協議会を構成し,グランド・デザインを基に再編・統合の具体的な進め方を検討して実施すべきと考えています。
 次の8ページ,9ページは,再編・統合に向けて必要な制度改正を指摘しています。これらの多くにつきましては,中央教育審議会におかれましても,議論と検討がされていると承知していますので,この2ページについては説明を省かせていただきます。
 10ページを御覧いただきたいと思います。大学の再編・統合を考える上で,学生の8割が所属する私立大学は重要な論点と考えています。私立大学を経営する学校法人の中には,定員割れなどのために経営が悪化しているところが4割強あります。経営改善に向けて改革を実行し,立て直しがなされているところもある一方で,経営困難で破綻のおそれのある大学もあると聞いております。仮に破綻となりますと,学生その他への多大な不利益が生じることになります。
 そこで,提言では,経営悪化傾向にある私立大学の合併や早期撤退を促すために,マル4のところでありますが,政府や日本私立学校振興・共済事業団の経営相談機能,これを強化すべきと指摘しています。
 加えて,マル5でありますが,私立大学の経営の自由度を高め,かつ合理化に向けた対応を取りやすくするために,現在は認められていない学部・学科単位での合併や譲渡を可能にすべきと考えています。
 11ページを御覧いただきたいと思います。マル1ですが,機能分化による国立大学の教育・研究活動の強化を示したものであります。各大学が自ら選択した三つの類型に基づく機能別分化を更に推進して,教育・研究を強化することを求めています。
 12ページでは,マル2でありますが,国立大学の機能分化推進に向けた運営費交付金の配分に関わる評価方法の改善を求めています。現在,評価方法は,三つの類型に基づく重点支援枠への取組に関する評価と,中期目標・経営計画に基づき行われる国立大学法人評価が併存しており,資料に記載のとおり,どちらの評価方法にも課題があると考えております。さらに,2つの異なる評価に基づいて運営費交付金が配分されることで,結果として予算のメリハリが相殺されるのではないかという指摘もございます。そこで,提言では,独立した第三者評価機関を設置し,二つの評価を一本化してより合理的・客観的な評価とした上で,評価に基づく重点支援枠の予算の拡充と競争的な配分を行うよう求めています。
 13ページを御覧いただきたいと思います。私立大学につきましても,教育効果や成果を測る指標に基づく評価に従って,補助金を競争的に配分するよう見直すべきと考えます。特に,私立大学に対する経常費補助金の特別補助の増加によりメリハリが相殺されているという指摘があります。特別補助につきましては,その目的と成果を検証し,効果のないものは廃止すべきと提言しています。
 最後に,14ページを御覧ください。提言の第3の柱である大学の財務基盤強化と経営改革の推進について示しています。国立大学のガバナンスにつきましては,過去に様々な課題が指摘され,それらを解決するための法的整備はおおむね終了していると承知しています。次の段階としまして,学長権限の実質的な強化など,ガバナンス改革の実装と運用が鍵になると思います。そこで,これらの改革を進める上で,民間企業のマネジメントの手法も参考にしていただきながら,経営品質の向上を図っていくべきとしています。
 また,国立大学の収入のうち運営費交付金の占める割合が3割以上に上ることから,財務基盤の強化も課題であります。産学連携事業の推進や学内ベンチャーからの収益確保のほか,近年実施されました大学保有資産の活用に関する規制緩和などを大いに活用するとともに,寄附拡大に資する税制改正や,学部ごとの授業料設定の自由化など,更なる制度改正を進めて,大学自らが自律的・持続的に維持・拡大できる経営の強化をしていくことが重要であると指摘しています。
 以上が経団連の大学改革に関する提言の概要でございます。補足して申し上げますと,本提言につきましては,去る7月2日に,教育問題委員会の岡本毅委員長,東京ガス相談役と,渡邉光一郎委員長,第一生命ホールディングス会長が,林文部科学大臣を訪問し,提言を直接手交するとともに,提言内容の実現への協力をお願いいたしました。
 また,翌7月3日には,両委員長が自民党を訪問し,文部科学部会の赤池部会長や,教育再生実行本部の馳本部長,同本部高等教育改革部会の渡海主査などと意見交換をいたしました。中央教育審議会大学分科会並びに将来構想部会の委員の皆様におかれましても,是非経団連の考え方を御理解いただきまして,今後の参考にしていただければ幸いと存じます。
 御清聴ありがとうございました。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございました。
 それでは,委員の方々,経団連の御説明について御意見・御質問ございますか。
では,有信委員,どうぞ。
【有信委員】  説明,ありがとうございました。将来構想部会で議論されていることをバックアップしていただくような内容にもなっていて,非常によく検討していただいたと思っています。一般社団法人日本経済団体連合会の検討ですので,逆に言うと,今の大学問題に産業サイドとしてやるべきことがいろいろあるような気がします。例えば,18歳人口が減って,18歳から22歳までの人たちの相対的な人口が減るという話の中で,様々な能力を持つ人材が必要なので,その教育が必要だということがあります。ここは全く同感です。ただ,その中で,産業界もどんどん職種転換をしたり,新しい分野に挑戦したりということがあるとすると,リカレント教育が非常に重要になってくるという観点があります。そうだとすると,今の働き方改革の中で,大企業の中で朝から晩まで働かされて,リカレント教育を受けている余裕がないということです。むしろ,中小企業の方がもっと厳しい状況だと思います。それから,大企業の本社が,圧倒的に東京に集中しています。いわば,地方創生に対して様々な問題を起こしているわけです。こういうことに対して,産業サイドとしてどう考えているかということを,教育問題,人材育成の問題と併せて考えていく必要があるような気がします。このようなことは議論されていますか。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  ありがとうございます。リカレント教育については,相当期待感も強く,必要性は産業界でも共有化されていると思います。一方,運用がなかなか伴っていないというのも事実かもしれません。そうした中でも,例えば,夜間であるとか,土日に大学に通っている人材も多数ございます。また,オンライン教育を活用するというような機運も出てきております。このように、仕事とリカレント教育が両立できる環境は整いつつあると思っています。
 それから,会社自身の意識としても,改めて教育する必要性について理解は進んできていると思います。実行に向けた具体的な対応については,各企業がこれから真剣に考えていくものと思います。各企業は人材の再教育が企業の競争力につながるという意識は持っており,恐らく今後はその実現に向けた工夫がなされる方向に進んでいくだろうと思っています。
 長谷川さん,一極集中の問題,どこか別の部会で議論はありますか。
【長谷川経団連SDGs本部長】  経団連の長谷川と申します。一極集中の問題につきましては,経団連で地方創生を担当している委員会が集中的に議論をしています。ただ,この問題を突き詰めて考えていきますと,経団連は昔から道州制の実現を提言しており,今の都道府県の単位が果たして適切なのか,より広域な地域経済圏で,それこそ再編・統合して連携する中で,効率性を高めていった方がいいのではないかということになってまいります。
 また,推進しようとしているSociety 5.0の実現という観点からしても,より広域的な単位で考えた方がいいのではないかというようなことも含めまして,その委員会で検討を進めているところです。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございます。
 それでは,志賀委員,どうぞ。
【志賀委員】  ありがとうございます。有信委員と同じ視点なんですが,前回も委員会の中で,産業界として採用活動の在り方を見直さないといけないということがございました。要するに,例えば,学業をもっと重視した採用活動を行う,あるいは,産業界が大学と産学連携を真剣に進めるということです。今日の御発表の内容は,この大学分科会でも盛んに議論されていたものをもう一回産業界としても肯定していただいたというところにとどまっているように感じます。大学改革の中で産業界が果たすべき役割はすごく大きいと思っています。
 今のまさに採用活動を行われていますが,大半の大企業は,私が所属している企業も含めて,数合わせの採用を依然としてやっています。本人の素質ではなく,大学の名称でエントリーシートも打ち切るようなことを産業界がやっているわけです。これで大学側にもっと学生に勉強させろといっても無理があります。したがって,例えば,私は経済同友会の人間なので,経済同友会の場合は,例えば,採用活動の中で,インターンシップをしっかりと取り入れていこうということです。自ら大学と連携をしながら,長期間のインターンシップ制度を取り入れています。経団連もこういう実行につながることをやっていただきたい。
 特に今回,協議体の創出のようなことを提言されています。私はここで4年委員をやっていますが,あらゆる課題は抽出されていると思います。課題を抽出するのではなく,実行をしっかりとやっていくということだろうと思います。新たなる会議体ではなくて,何を実行するのかを一歩踏み出すべき時期に来ていると思います。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  御指摘ありがとうございます。採用の問題については,考え方としては本当にそのとおりだと思います。まだごく一部の動きですが,例えば,サイバーセキュリティ人材については,従来の新卒という考え方と全く違う動きがあるとも聞いています。そうは言っても恐らくは,現状はまず数を採らないといけないというところがあるのは御指摘のとおりです。私の個人的な意見も含めてですが,これは早晩,労働環境を含めて検討すべきテーマであると感じています。
 また,会議体の話は,課題を出すというよりは,グランド・デザインを描く,実行計画を立てるという意図でございます。では,なぜ省庁横断的かというと,これはひとえに教育の問題だけではなくて,例えば,地域創生や地域の経済政策,人口動態まで含めた,あるいは先ほど御指摘いただいた雇用のルールなどまで含めた,多元的なテーマを一元化する必要があるのではないのかと考えているからです。そのため、省庁横断的という表現をしています。ですから,決して課題の抽出ではありません。地域に任せればいいではないかという議論もあろうかと思いますが,単に部分最適のシグマが日本の姿になるというのは適切ではないと考えています。まず,日本の将来はどうあるべきなのかという全体のデザインを描いて,それをそれぞれの地域と連携した実行部隊の方で実現をしていくという,そうした政策誘導ができないかという考え方でございます。
【永田分科会長・部会長】  山田委員,どうぞ。
【山田委員】  ありがとうございます。幾つか御質問させていただきたいと思います。地域による協議体,あるいは広域地域の拠点大学を核にという話がありましたが,これは道州制的な範囲を軸にそういうことをお考えなのかどうかということが一つ目の御質問です。
 その上で,「地域の国公私立大学をグループ化し」という,この地域の意味について伺いたい。道州制ごとに国公私立大学をグループ化していくという話なのか,それとも,地域の中における都道府県単位なのかをお聞きしたいということが二つ目の御質問です。
 気になりますのは,大学をこういう形で,例えば,11ページのように三つに分けていく。大まかにはこのようになっていくと思います。けれども,一番大切なのは,大学をこういうことで決め付けるのではなくて,その中で柔軟に,一体的に運営することによって,それぞれの大学や生徒の個性を伸ばせる方向に持っていくべきではないかなと感じます。そうしますと,こういう大学の機能分化だけではなくて,まさにノーベル賞を取られた中には,徳島大学,山梨大学の方々が頑張っているという事実からも,それをどういう形で生かしていくのかというシステムを組み込まないと,単なる機能分化は,かえってマイナスになるのではないかなと感じます。いかがでしょうか。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  ありがとうございます。まず,地域の話に関して言うと,今の都道府県よりは広域である必要があると思っています。それが道州制とイコールかどうかについては,まだそこまでの議論はできておりません。どのくくりがいいのかということの議論は必要かと思いますが,ある程度の広域を,都道府県よりも広域のイメージを持っています。
 それから,機能分化のところは,御指摘の側面もあろうかと思いますが,私どもの考えは,人口が減っていく中で,大学は何らかの特色を出していかないと,人が集められないのではないかということです。逆に,学生にとっても,どの大学に行けば何ができるのかという,何らかの特徴的なものをつかまないと,漠然と偏差値で学校を選ぶようなことがあってはいけないと思っています。何らかの特色をはっきりさせていくという意味の機能分化であります。
【山田委員】  最先端の工場とか,最先端のことをやっているのは,結構地域が多いです。ですから,地域と最先端との間でうまく柔軟なシステムを作っていただきたいと思います。
【永田分科会長・部会長】  益戸委員,どうぞ
【益戸委員】  三宅企画部会長,お話をありがとうございました。私も志賀委員のご発言のとおりと考えます。この部会に参加した当初は、教育界の様々な問題について、細かく存じ上げませんでしたので、まさにコメンテーター,評論家的なスタンスで議論に参加していました。この将来構想部会は、今日で22回目です。 出席回数が増えるにつれ、教育問題の中で、過去、改革出来なかった理由やその歴史がある事を勉強させて頂きました。又、この部会も随分議論の深みが増しました様に思います。志賀委員のおっしゃったとおり,論点は出揃(そろ)ったと思います。次はどのステップか。教育界も経済界も,高等教育改革待ったなし、時間がないと言っているわけです。いよいよ改革の執行段階の議論に入ってくるということです。とすると,誰が執行して,その責任を持つのかということが重要です。
 高等教育改革の為の新たな会議体を持つのではなくて,なぜ今まで変わらなかったかということをよく分かっている文部科学省が執行責任を負い,日本の重要な問題ですから、当然のことながら,各省庁が文部科学省に協力をするべきではないでしょうか。経済界,各省庁ともに一体感を持ち、財務省に対して,しっかりと改革が実現出来るように予算を要求すべきです。その財源については,これをやめてこれを作ろうということを検討しているわけですから,しっかり予算がつかない方がおかしいと思います。ですから,全省庁一丸となって予算捻出と執行を努力しなければいけません。
 又、文部科学省についても各局が協力をし,特に高等教育局の中での不都合があっては絶対いけないと思います。いよいよ,次の段階の議論に入ってきたと感じています。
【永田分科会長・部会長】  吉岡委員,どうぞ。
【吉岡委員】  有信委員と,志賀委員のお話と重なると思いますが,私は就職問題懇談会の座長をしておりました。議論の基礎になっていることは以前からほとんど変わっていません。大学に対していろいろな要求が出てきます。例えば,きちんと授業でやったこと,勉強したことを見えるようにしろと言われます。ですが,実際にアンケートを見ると,採用の際に成績はほとんど見ない。何が大事かというと,人間力やコミュニケーション力と言われるわけです。具体的にどういうものが大事かということが学生には分かってこないわけです。そういう状態の中で,学生たちは,大学を選ぶ時から就職を非常に懸念しています。
 実際に,4年制の大学生は,3年の後半から,例えば,1dayインターンシップと称する会社見学みたいなものから始まり,就職活動がスケジュールの中に載っていくわけです。企業がどういう人材を必要としているのか,個々の企業がどういう特性があるのかをもっと具体的に示してほしい。それがなければ,大学として,うちの大学はこういうところが本当に売りだということを作っていくのは,非常に難しいのです。学生はそのレベルで動いていないわけです。
 ですので,個々の企業にしても,それから,経団連というか,経済界全体としても,どういう人間が現在必要であり,今後必要であるかという人間像を明確にしていく努力を大学とともに進めていただきたいと思いました。
 それから,企業でも,トップの方々がおっしゃることと,現場の方々がおっしゃることにすごく差があって,大学のキャリアセンターや,学生たちは振り回されるということがあります。その辺の意思疎通をきちんとするということが大事だと思います。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  ありがとうございます。人材像の話ですが,個々の企業は人材獲得競争が相当シビアになってきているので,ホームページをそれぞれ見ますと,特色のある人材像が定義されつつあると思います。
 ただ,残念ながら,アカデミアの体系とは必ずしも一致しておらず,そのため,なかなか学業とのリンクがまだ弱いように見えるのが課題だと思っています。決して学業をおろそかにしているということではございません。付言させていただきます。
【永田分科会長・部会長】  村田委員,どうぞ。
【村田副分科会長】  ありがとうございます。吉岡委員のお話と関係しますが,今回のこの提言の中にも,いわゆる入試改革のことが含まれています。入試改革は,小・中・高でのアクティブ・ラーニング,あるいは,勉強の仕方を変えたことが大学に入るときに変わっていかないと意味を持たない。全く同じことで,今度は大学から卒業し,就職する段階で変わっていかないと意味を持たない。新卒一括採用がずっと続けられていますが,これは高度成長期の制度です。基本的には同質的な労働力とオン・ザ・ジョブ・トレーニングを大前提とした採用の仕方です。今,全く状況が違っている中で,相変わらず,同じ新卒一括採用が行われています。お答えになられましたように,各企業がいろいろな工夫をされても,結局,学生から見れば,分かりません。まさに新卒一括採用をどう変えるかということは,幾ら大学側が努力してもどうしようもないことです。むしろ,そこが経団連の方で変わっていただかないといけないと思います。根本的な大学と企業との関係,あるいは新しい人材の育成につながらないと思います。大学側は,絶えず企業から,大学は何をしているのだと言われます。けれども,今回は,企業は何をしているのだということを申し上げたいと思います。
【三宅経団連教育問題委員会企画部会長】  ありがとうございます。
【永田分科会長・部会長】  三宅企画部会長、ありがとうございました。時間の都合上,ここまでとさせていただきます。

(2)  資料2に基づき,経済同友会小林いずみ副代表幹事・教育革新委員会委員長から「私立大学の撤退・再編に関する意見」について御発表があり,その後意見交換が行われた。

【永田分科会長・部会長】  この後,経済同友会からも御発表があります。続きまして,小林いずみ経済同友会副代表幹事・教育革新委員会委員長から御発表を頂きます。よろしくお願いいたします。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  経済同友会で教育革新委員会の委員長を務めています,小林でございます。本日は,大学の将来構想を検討する場において説明の機会を頂戴し,御礼申し上げます。
 早速,内容の説明に入りたいと思います。
 最初に申し上げておきたいのは,大学改革は,研究と教育,質と財務,国公立と私立と,非常に幅広い課題があります。これを全て網羅しようとすると,論点が拡散してしまうという危機感がありまして,昨年度は,あえて私立大学の財務面に焦点を当て,とりまとめを行いました。先にありました経団連の御発表とは焦点が異なる点はお許しいただきたいと思います。
 まず,お手元に配付しています『私立大学の撤退・再編に関する意見』は,私立大学の撤退・再編に関して,財務面で持続性に疑義のある大学への対応に焦点を当ててとりまとめたものです。グローバル化とデジタル化が進展し,世界が大きく変わっていく中において,日本の企業・個人が活力を持ち,イニシアチブを取っていくためには,知の創造の拠点である大学の課題解決能力がこれまで以上に重要になっています。
 また,教育機会の格差是正のため,2020年度から低所得世帯を対象に,いわゆる高等教育の無償化が導入されますが,同時に,地方の中小私立大学を中心に,約2割の大学が定員充足率8割を切り、事業活動収支差額がマイナスの大学が4割を超えるという現実があります。18歳人口が減少する中,こうした私立大学の経営の持続性が懸念されており,高等教育の無償化が高等教育全般の質を下げることがないよう,大学の持続的な発展を実現する観点から,新陳代謝を活性化し,高等教育機関の経営改革を急ぐ必要があると考えています。
 一定レベルの教養,勤勉さや事務処理能力,集団行動に長けた人材を多く輩出することが,経済発展にも社会基盤の形成においても必要な時期には,従来の高等教育システムが大きな役割を担ってまいりました。中でも,高度成長期に急速に拡大した高等教育ニーズへの対応という観点で,私立大学が非常に大きな役割を果たしてきたということは十分に認識しています。
 今後は,技術革新によって様々な職種がAI等に代替され,世界最先端のイノベーションを起こせる人材や,ローカルビジネスを立て直せる人材,あるいは,こと・ものの価値を魅力的に伝えて,社会変革等にリーダーシップを発揮できる人材など,自ら状況を把握・認識して決断し,周囲を巻き込んで行動する人材が求められるようになります。こうした中,私立大学には,新たな社会のニーズに柔軟に対応することが期待されており,その実現には,ガバナンスの強化が不可欠であると考えています。
 こうした状況を踏まえて,私立大学のガバナンスを強化し,経営改革を促すために,経済同友会では,大きく三つの提案をさせていただきます。
 一つ目は,大学の財務情報公開の徹底です。入学希望者などが十分な情報を得られる環境を整備することにより,私立大学の健全な市場を作り出すことが可能と考えます。そのために,大学に分かりやすい形での情報公開を促すインセンティブを与える制度改革を提案しました。
 情報公開に関する提案の1点目は,私立学校法第47条第2項を改正し,財務内容,例えば,財産目録,貸借対照表,収支計算書,事業報告書,監査報告書などを各大学の公式ホームページに公開し,広く一般に閲覧できるようにするということです。現状では,学校の利害関係者のみが閲覧できるというふうに限定されている点の法改正を要求するものです。
 2点目が,日本私立学校振興・共済事業団法第23条第5項の改正です。私学事業団に,私立学校の経営に関する情報の収集・分析の結果,経営困難な状況と判断された学校法人に対し,主体的に指導・監督する権限を付与するとともに,在学生,入学希望者及びその保護者に判断材料を提供する観点から,同事業団のホームページで経営状態の区分及び財務状況等を高校生にも分かりやすく,かつ一覧性の高い形で広く一般に公開することを提案します。
 3点目が,経常費補助金の配分に係る要素の一つである情報の公表の実施状況による増減率の傾斜を高めることです。経営改革の後押しをするための制度改革として,大幅な定員割れが継続するなど財務的に持続性に疑義があり,中長期的に安定的な教育サービスを提供することが不可能と判断される大学については,早期健全化を促す必要があります。
 二つ目は,私学事業団は,経営判断指標に加え,財務面に影響を及ぼす可能性のある要素も勘案した早期健全化指標を策定し,その指標を基に早期健全化が必要な大学を特定します。早期健全化の対象となった大学は,地方公共団体,地元の産業界と連携し,改革プランを作成します。もし一定期間,例えば,2年という期間を我々は推奨していますけれども,その期間を経ても有効な改革プランを作成できない場合には,文部科学省による経常費補助金は不交付とすることを提案しています。
 当然のことながら,高等教育の質を向上させるには,財務面のみならず,教育の質という観点の持続性についても十分に検討しなければなりません。社会に対するアカウンタビリティーを高めるために,認証評価制度や三つのポリシーの運用が画餅に帰すことがないよう,第三者も含めた多角的な議論を継続し,具体的でより質の高いものへと絶えず見直していくガバナンスの体制を構築していくことが必要です。
 三つ目は,こうした改革プランが策定できない大学,実行できない大学があった場合,それを支援するための受け皿として,官立民営の第三者機関である私立大学再生機構,これは仮称ですけれども,の設立を提案いたします。機構は,在学生の他大学への転籍や教職員組合等のステークホルダーの権利調整,債権の買取り,資金供給,保証などの金融機能の提供,そして,債権放棄額の損金算入,期間を限定した優遇策の適用,再生支援中の大学の保有,カリキュラムの調整など業務縮小と組織縮小のペースのコントロール,あるいは経営人材の派遣,学校事務のプラットフォームの共通化による経営の効率化など,それぞれの状態に応じた支援を行い,学生の身分や学修の継続を図りつつ,場合によっては大学の再編・撤退を進めます。改革が進まない大学が破綻し,学生の行き場がなくなるような事態が起きないよう,私立大学再生機構が支援する場合には,補助金の交付は継続していただくというようなセーフティーネットを作ります。
 なお,私たちは,このような機構は8年程度の時限組織とすることが,私立大学の改革を促進する上で有効と考えています。そこで蓄積したノウハウは,その後の大学の自主的な再編・撤退に使えるような形で継承していきたいと考えています。
 また,再編・撤退に関し,在学生の身分の保障や,卒業生の利便性を担保するために,学籍管理は文部科学省が一括して行うことを推奨します。
 大学の質の向上と学生の教育機会の格差是正を同時に実現するためには,まずは限られた公的資金を有効に配分することが必要です。私立大学の再編・撤退を促すことにより,目的と成果が明確な大学を支援し,日本の高等教育の質を上げ,そこで学ぶ学生の質の向上を図らなければならないと考えています。
 簡単ですが,説明は以上です。
【永田分科会長・部会長】  それでは,皆様の方から御質問,御意見等ございますか。
 有信委員、どうぞ。
【有信委員】  公益社団法人経済同友会は,前に私立大学のガバナンスに関する報告を出していただきました。かなりドラスティックな提案で,その後の学教法の改正,あるいは,様々なガバナンス改革に大きく影響したと思っています。今回も踏み込んだ内容で提案していただいていると思います。
 その点は非常にいい提案だと思います。これは明らかに大学の経営という観点から様々に議論していただいています。経営上問題があって,その経営上の問題が学生に大きな被害を与える可能性があるので,セーフティーネットの観点から,それに対する様々な施策を打つべきだということだと思います。こういう論理構造になっている。しかしながら,もう一方で,教育・研究の自由という観点から考えると,例えば,大学の撤退・改変に対して,一体誰がそれを指導するのかということが非常に重要なポイントになります。
 この論調ですと,最終的に文部科学省に預けるような格好に見えます。行政が大学の改変を指導するというのは,直接的には不可能な話ではないでしょうか。つまり,国が教育内容に干渉するということになってしまいます。したがって,これはあくまで大学が自主的に判断をしてという方向に収れんさせていかないといけないと思います。恐らく憲法の学問の自由というところに抵触してくる話のように思えるのです。このようなことについてはどう考えていますか。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  我々の議論の中では,最初のステップ2の改善計画を立てる時点で,それぞれの大学がその地域において何らかの役割を期待されているわけです。大学の数が多いから単純に数を減らせばいいということではなくて,大学として存在する限りにおいては,その地域,あるいは何らかの社会的な役割を全うして,そこで活躍できる学生を育てるべきであると考えています。
 ですから,この判断は文部科学省がするというよりは,まずは地域も巻き込んで,地域の行政,それから,地域の産業界も巻き込んで,そこの地域にどういう学校が必要なのかということだと思います。そして,それのためにはどういうカリキュラムを組む,あるいは地域の支援,経済的な支援を得る,そういったことを地域ぐるみで考える必要性があります。もしかしたらその中で,地域における幾つかの学校は再編したらどうかという議論も起きるかもしれません。けれども,まずは自主的に改革プランを作っていただくということがステップにあると思います。そして,それでもなおかつそういった改革プランができない,あるいは改革プランはできたけれども,それがなかなか実行に移せないような場合において,私立大学再生機構というようなものを考えています。これは官立ですけれども,実際の運営はあくまでも民間で運営をするというような形で,いろいろなアイデアを出し合って,再編ですとか,撤退に持っていくというような仕組みで,必ずしも文部科学省主導ということを考えて作ったものではありません。
 ただ,学籍管理については,学校がどういう形で再編されていくかを考えますと,1か所で行った方がいいと考えています。これは文部科学省が主体となってやるべきではないかということを提案しています。
【永田分科会長・部会長】  そのほか,いかがでしょうか。
 吉岡委員,どうぞ。
【吉岡委員】  今後,実際に経営破綻しそうな大学が生じてくるということがあるという中で,そういう大学はもう潰れてしまって当然だという議論から,どういうふうに退場させていくかという議論に踏み込んだことで,議論が先に進んだと思います。
けれども,大学から見た場合に,財政的に赤字である,あるいは,人が集まらないということと,そこの部分が大学や学問にとって重要であるということは違う。これは当たり前ですが,違います。例えば,とりわけ,基礎的な研究,それから,人文社会系で言えば,それこそ古典学などというのはほとんど人も集まらないし,お金も掛かる。そういうような部門というものは,基本的には赤字を抱えているわけです。それが赤字だからという形で,そこが不必要であるという議論にならないと思います。これがまず大前提だと思います。
 もう一点,大学について議論するときの単位です。学校法人という形で考えるのか。例えば,ある学部は赤字部門だけれども,しかしながら,同じ学校法人の中にある別の部門でもうかっているから,そこでもうかった部分を赤字部門に流していいかというと,これはまた問題です。でも,だからといって,赤字部門は切り離せないということは幾らでもあります。そのときに,学校法人レベルで経営が成り立っていると考えるのか,学部で考えるのか,学科で考えるのか。赤字の学科などは潰していった方がいいという議論になりかねないということを考えると,そのようなことはどの単位でどう具体的に考えるのかということが,次のステップで必要だろうと思います。
 それから,同じ学校法人の中に幾つか大学を持っているということもあります。大学だけではなくて,ほかの経営体の教育機関を持っているところもあります。その場合,財政問題における単位の取り方ということを整理しておくべきだと思いました。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  ありがとうございます。我々の中でもその点は議論を行いました。ただ,そこまで全部ひっくるめて提案をしてしまいますと,焦点が非常に広くなってしまいます。今回は最初に申し上げましたように,あえて財務面という切り口からの提言をさせていただいています。
 当然のことながら,それぞれの大学の存在というのは,決して財務面だけで判断できるものではありません。ですから,先ほども申し上げましたように,実際には指標を作る際にはそういった財務面だけではないところの価値も,指標の中に入れて判断をすることが必要です。ただ,一方で,学校法人という中で,大学の価値が何なのかということを考えた場合には,先ほどの御質問にもありましたように,第三者も含めて,必ずしも財務的に赤字かどうかということだけではなくて,ここでしかできない研究,あるいは,ここでしかやっていない,この地域だからできる研究というようなこともあります。これは地域にとっての財産です。そういうことも含めて総合的に考えていただくと同時に,どのような再編の仕方をするのかとうことです。これは経団連の提言の中にもありますが,例えば学部単位で統合するなど様々な手法を使って,大学の全体としての価値を上げていくことが,最終的に財務面においてのプラスにつながるということです。
 それから,議論するときの単位ですが,難しいのは,学校法人の中には,大学だけではなくて,初等中等教育と一緒に運営している学校もあります。そのあたりをどう考えるかというところはなかなか悩ましい問題です。今回の提言の中では,そこまでは踏み込んでおりません。あくまでも交付金というものをベースにしたプランということで御理解いただきたいと思います。
【永田分科会長・部会長】  両角委員,どうぞ。
【両角委員】  御発表ありがとうございました。私学の経営問題については,明らかに経営困難になりそうな大学があるということが予想されているにもかかわらず,どう撤退させるかという仕組みがないこと自体は大きな問題だと思います。踏み込んだ御提案をしていただいたということは,議論が起こるという意味でも価値ある内容だと思って拝聴しました。
 二つほどお伺いします。一つ目ですが,早期健全化指標の確立についてですが,基本的にこれまでの私学に対する政策は,そういう経営困難校を出さないという方針でした。例えば,この図表1にあるイエローゾーンやレッドゾーンというのも,早期問題発見のための指標として作られたものだと思います。なぜこれではいけないのかということについてイメージがあるようでしたら,教えていただけますでしょうか。
 二つ目ですが,私立大学再生機構というものの設置を提案されています。名前は再生なのですが,やろうとしていることは再編・撤退です。いわゆる本当の意味で,再生の可能性があるところを再生するというものは含まないのかどうかについて気になりました。ここで御提案いただいているものは,先ほど有信委員もおっしゃったように,なかなか法律の問題を解決しないとできないことではあると思います。ただ,例えば,経営がまずくなってきている大学の経営陣を代えたらうまくいくような場合に,それができない仕組みになっていると思います。そういう意味で,その学校自体を再生させるような,そういうスキームは考えていらっしゃるのかについてもお伺いできればと思います。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  御質問ありがとうございます。まず,一つ目ですが,レッドゾーン,イエローゾーンについてです。これらは実際には公表されていません。それぞれの大学がこういった認定をされたとしても,実際に具体的なアクションにはつながらないという点,それから,今の与えられている権限の中ではこれ以上踏み込むことができないという点があります。どういうアクションを取るべきかという指導のところまでの権限がないので,レッドゾーン,イエローゾーンということを出しただけで終わってしまっているというところが弱いのではないかと思います。せっかくここまでやるのであれば,その先一歩を踏み込むだけの権限と,そして,これを公表することによって,学校側が何らかアクションを取るというインセンティブを与えなければいけないのではないかという問題があります。そのため,もう一つ踏み込んで早期健全化指標を提案しました。
 二つ目ですが,再生される可能性についてです。これは私立大学再生機構に行く前の段階で,それぞれの学校がまず再生プランというのを作って実行しています。本来であれば,それが実行できれば再生できるはずです。ですが,何らかの理由で実行できない,あるいは再生プランができない場合に,私立大学再生機構の方に来るような仕組みになっています。私立大学再生機構の第一目的は,全部再編する,あるいは撤退することではありません。経営者を代えることで改善できるようであれば,それは改善をします。あるいは,再生の中で一部を切り出して,再編します。必ずしも学校がなくなるということだけではなくて,自分たちでできない部分の再生支援をするという意味も広く含めた上での私立大学再生機構ということを考えています。
【永田分科会長・部会長】  法制度としては,大学の設置認可の後,最初の卒業生が出るまでの間、アフターケアが行われます。その後,きちんと教育・研究をやっているか,あるいはそれに資する財務的な基盤があるかということは認証評価で確認されます。認証評価の問題は,大学に対して改善を指摘はするが,改善するかしないかを確認する権限がないという点です。制度・教育改革ワーキンググループでは議論していると思いますが,大学としての健全性を見ているけれども,指導できないという仕組みになっています。この問題については、制度・教育改革ワーキンググループで,どのようにしてポジティブなサイクルに変えたらいいか、という法改正に関する議論はされていると思っています。今後,資料が出てくると思います。
 一方,もう一つの議論は別の問題で,再生に関する議論のところで出てきたと思いますが,ある教育や研究で目指しているものを,その内容を変えないで再生させるということは,大変難しいだろうと思います。では反対に、よりニーズのある分野に変えて教育や研究をすれば良いのではないか、ということは分かります。けれども,その分野がその大学の最も重要な核であれば,これもまた非常に難しいと思います。
 山田委員,どうぞ。
【山田委員】  経団連,経済同友会の話を伺いまして,確かに,大学の再編・統合,何らかの地域におけるイノベーションが必要だと思います。その点から申しますと,一定のシステムを入れていく,つまり,私立大学再生機構も含めて対応していくという考え方には,基本的に賛成です。
 ただ,その中で,考えなければならないのは,地域において子供たちが高等教育をどうやって受けることができるのかという,その最低限のナショナルミニマムをどう作っていくのかという観点が抜けますと,これは非常に厳しい点があるのではないかと思います。広域的なという話も出ましたが,例えば,島根・鳥取から岡山・広島へ通うのは大変時間が掛かります。実際,家から通う子供たちは非常に厳しい状況にあります。
 例えば,私ども京都では,福知山市の私立大学が経営困難になり,福知山市が公立大学を作りました。そのときに,日本海側の子供たちが非常に多く集まったということもございます。文部科学省が総合的に見ていくと思いますが,地域の在り方についての問題になってきますから,地方公共団体が早くこのシステムに入っていかないと,効果的な解決はできないのではないかと思います。この私立大学再生機構も含めて,地方公共団体の積極的な活用を提案されてはいかがかと思います。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  ありがとうございます。2点目の経営改革を後押しするための制度改革で,第1ステップの早期健全化というところにおいて,地方公共団体,それから産業界との連携が,再生プランを作っていく上で重要であると考えております。第2ステップにおいては,学校だけではなくて,周囲の地域,行政を巻き込んで,その地域におけるその大学の価値をきちんと再定義して,そして,再生をしていくということを申し上げています。
【永田分科会長・部会長】  そのほかいかがでしょうか。
 古沢委員,どうぞ。
【古沢委員】  発表ありがとうございました。非常に踏み込んだ提言だということで,興味深くお聞きしました。
 その中で,先ほど吉岡委員からも御指摘がありましたが,経営という観点で,余り小さい単位で見ていくと,大切なものを失ってしまうというか,地域の状況も踏まえながら,柔軟にやっていく必要があると思いました。
 そこで,1点,4ページにある私学事業団の経営判断指標に基づく経営状態の区分という表についてです。これは最近,情報公開請求で明らかになったものですが,このレッドゾーン,イエローゾーンは,該当する法人が,自分の法人が該当しているのかどうかも分からない状況です。非常に状況が厳しい場合は,私学事業団で助言等をされているということですが,せっかくいろいろと調査をされているので,更に活用していくということが大事ではないかと思いました。
【小林経済同友会教育革新委員会委員長】  我々の提言の中でも,事業団の機能を強化してほしいと考えています。そして,ステップ1,ステップ2,ステップ3の中の一つの大きな核として機能を発揮できるような改正をしていただきたいと思っています。

【永田分科会長・部会長】  河田委員,どうぞ。
【河田委員】  古沢由紀子委員から披露されましたごとく,このレッドゾーンの4ページに出ている17の学校法人数は,読売新聞社からの情報開示の要求があって,明らかになったものであります。私ども私学事業団としては,その学校名探しになるのでやめてほしいということをお願いしていました。私どもとしては,その大学法人に対して,貴法人はレッドゾーン,イエローゾーンにあるから,早く経営改善計画を立て,改革しなさいということは当然指導しているわけです。ですから,当該法人がその事実を承知していないなんてことは,ありえません。私も3月末までこの私学事業団で理事長をしておりましたので,誤解を解くために申し上げました。
 それから,86法人というのも,必ずしもレッドゾーンに悪化していくわけではありません。健全な方向に戻る法人もたくさんあります。イエローゾーンであっても,更に危なくなるかどうかは必ずしも分からないわけです。報道関係が危機をあおり立てるのは,具合が悪いと思っています。
 それから,今日は,経済同友会 教育革新委員会の小林いずみ委員長から,とても良いご発表をしていただきました。私立大学再生機構(仮称)について,私ども私学事業団の方でも,黒田壽二委員が座長をしておられた「私立大学等の振興に関する検討会議」でも,提案してみようということは,既に打診済みでございます。各大学団体,私立大学連盟と私立大学協会,それから,私学事業団が入って,経営不振のそれぞれの大学法人に対して幾らか資金をそれぞれ積み足したり,それでも駄目なとき,再生できぬ場合は,合併,あるいは部分的に廃止していこうという案を作成準備しています。今日の段階でこういう案をご提出いただいたので,積極的にやっていけば,再生できる大学はたくさんあると思います。それぞれの私立大学も,国立大学も,公立大学も,心配し考えている以上に,改革と再生に対して熱意を持っている。そういうことが言えると思います。
ただ,私立大学の場合,キリスト教系の大学,学校法人といっても,新教もあれば旧教もあります。新教の中でもいろいろな宗派があります。なかなかそれを合併することは難しいのです。仏教系の大学もしかりでございます。しかし,そういう努力が必要な時期に来ているということは,私学事業団としてもよく分かり,承知し,対策を準備しております。
 以上です。
【永田分科会長・部会長】  どうもありがとうございます。
 今日,二つの団体からの御発表をお聞きしました。お互いに全部理解できているとは言えませんが,重要なことは,私学に限らず,廃止,再編あるいは再生という言葉が出てきているということです。
 それから,両方の団体から言われたことの中で,文部科学省がしっかり決断・実行すべきというコメントは,非常に重く受け止めないといけないと思います。それだけ期待が大きいということであり、将来構想部会の委員からも同じような激励が出ました。イニシアティブをとるべきは誰だ、という議論も出てきているわけですので、我々としては,文部科学省がそのような意識が持てるような答申をしなければいけないと思います。

(3)  資料3に基づき,事務局から新学習指導要領について説明があり,その後意見交換が行われた。
 

【永田分科会長・部会長】  続きまして,二つ目の議題,新学習指導要領についての御説明です。これは,高等教育の将来像を考えるに資する内容であると判断をしました。御説明を頂いて,質疑等をしたいと考えています。
 それでは,事務局から御説明をお願いいたします。
【白井教育課程企画室長】  初等中等教育局教育課程課の白井と申します。
 それでは,お手元の資料3番,新しい学習指導要領についてという資料を基に御説明させていただきます。
 初めに,資料の1ページですが,スライドの1番になりますけれども,スケジュールです。学習指導要領の改訂,足掛け10年ぐらい掛かる非常に長いスパンでございまして,現在,平成30年度ということで,ようやく中間地点に達しているという状況でございます。
 高等学校につきましては,平成34年度から全面実施ということになりますけれども,特に入試という観点からは,平成36年度から新しい指導要領に基づく入試という非常に長いスパンでございます。
 ただ,移行期間,来年度から高等学校についても移行期間に入りますけれども,この期間でもうできるものは前倒しでやっていくということでございまして,例えば,アクティブ・ラーニング,そういったものについては,来年度から高校で導入されるということになります。
 次のスライドにお進みいただきたいと思います。高校教育を取り巻く状況というのが2枚目にございます。既に御案内のとおり,大変多くの者,約98%以上の者が高校に進学しているという中でも,非常に多様化している。また,選挙権年齢,さらに,成年年齢が18歳以上に引き下げられるということで,消費者教育,主権者教育がより重要になってきている。また,三つ目ですけれども,特に今回の高等学校の教育改革というものが,高校の教育改革だけではなくて,入試改革,また,大学の教育改革とも連動している,三つの連動の中で動いているという意味で,従来以上に大きな重要性を持っているということが言えようかと思います。
 スライドの3ページからが,今回の学習指導要領の特にポイントを集めた部分でございます。資質・能力の三つの柱とありますけれども,従来,コンテンツ,どんなことを学ぶのかということが,伝統的にカリキュラムで重視されてまいりましたけれども,今,コンピテンシー,資質・能力に着目するのが,国際的なトレンドにもございます。今回の学習指導要領では,この三つの柱,知識・技能の柱,思考力・判断力・表現力の柱,学びに向かう力・人間性の柱というこの三つの観点から,全ての教科について,このコンピテンシー,資質・能力を観点にして整理をいたしました。
 具体的に,4ページに,必履修科目の主要なものですけれども,数学1,それから,現代の国語というところから,一部抜粋をしてございます。
 例えば,数学1,データの分析という領域がございますけれども,こういうところでは,ア,次のような知識及び技能を身に付けることとしまして,(ア)では,分散,標準偏差,散布図及び相関係数の意味やその用い方を理解すること,イのところでは,次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けるということで,目的に応じて複数の種類のデータを収集する等の具体的な資質・能力について規定をしているということでございます。
 国語についても同様でございまして,書くことということであれば,目的や意図に応じて実社会の中から適切な題材を集めて,その妥当性や信頼性を吟味して,伝えたいことを明確にするといったように,かなり具体的に書いています。
 スライドの5番です。「主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」)」という資料でございます。このアクティブ・ラーニングについては,もともと大学教育改革の中から出てきた言葉であるというふうに思いますけれども,特に小・中学校においてはかなり以前から先生方,生徒たちと密接に指導を行っているということがございました。一方で,高等学校については,どうしても大学入試等を念頭に置いた教育という観点もありまして,なかなかアクティブ・ラーニングということがこれから大きな課題になっているという状況かと思います。このアクティブ・ラーニングについては,単に対話をするということでは決してなくて,対話も含めながら,先生方が専門性を発揮して,生徒の事情に応じた指導方法をとっていくということが重要なポイントかと思います。
 また,深い学びというところでは,生徒がどうしてその教科を学ぶのか分からないという声も非常に根強く出ていることから,具体的にどういった見方,考え方,どういったアプローチをしたら,よりその教科に迫ることができるのかということを重視した教育をとってくれということをお願いしているところでございます。
 次のスライド,6ページにお進みいただきたいと思います。今回の学習指導要領では,カリキュラム・マネジメントという考え方を取り入れています。このあたりは,大学のカリキュラムポリシーづくりにも共通している部分もあると思いますけれども,三つの側面ということでございまして,一つには,各教科について教科横断的な視点で捉えて,それを組織的に配列していくという考え方です。二つ目が,データに基づいてPDCAサイクルを回していくということ,それから,3点目が,地域の人的・物的資源も含めながら,効果的にこういったものを活用していくという考え方です。
 特にマル1については,スライドの7ページにお示しをしていますけれども,今,教育課程にはいろいろなことを求められています。例えば,金融教育,租税教育,主権者教育,消費者教育,環境教育と,様々な要素が求められていますけれども,そういったものを各教科にいろいろな形で受け止めているというのが現状でございます。
 ここでは防災を例に挙げていますけれども,一つ防災教育をとりましても,例えば,小学校,中学校,高等学校とそれぞれいろいろな教科・科目において,その要素が入っているという状況でございます。例えば,今,ちょうど西日本で大変大きな水害が起きていますけれども,水害ということを考えた場合に,小学校を見ていただきますと,特活,特別活動の中では,避難訓練といったものを行っている,それから,社会科では,例えば,地域の市役所や消防,警察の在り方について学ぶ,それから,理科においては,流水の働き,流れる水の働きについて学ぶといったようなことがございます。これらを断片的に学ぶんではなくて,それを関連付けて学ぶ,また,自分のこととして捉えるように指導していくということが重要でないかというのが,このカリキュラム・マネジメントの1番目の側面の考え方ということになります。
 スライドの8ページ目からが,特に今回,高等学校の学習指導要領の改訂に着目をしたところについて,要点を集めています。高等学校については,もともと必履修科目はかなり限られておりまして,全体の約35%が一般的な状況だと思っています。各高校の多様な事情に配慮しまして,選択科目が非常に多くなっているというのが高等学校教育の特徴でございます。その中で,黄色の部分,現代の国語,英語コミュニケーション1等,この黄色の部分が必履修科目として定めているところでございます。
 きょうは時間が限られていますので,一部の教科・科目について御説明をしたいと思います。
 9ページでございます。国語科の科目構成ということです。国語については,かなりたくさんの授業科目が充実しておるんですけれども,以前から指摘されている課題としまして,一つには,書くことあるいは話すことといった発信の部分が必ずしも強くないんではないかと。どちらかというと,読み取り,そちらが重視されている教育になっていないかというような課題が指摘されています。
 それから,もう一つ,最近,国立情報学研究所の新井紀子先生が『教科書が読めない子どもたち』という本を出されてたりしていますけれども,きちんと読んでいく力,読解力というところについても課題があるのじゃないかという御指摘もございます。
 そういったものに応える観点から,一つには,論理国語という選択科目を設けています。実社会において必要となる,論理的に書いたり,批判的に読んだりする力の育成を重視した科目,もちろん作者の心情等を重視する国語教育が決して悪いということではございませんけれども,このように構造的に文章を捉えていく力というものをきちんと付けていくと。それは大学に入ったときのアカデミック・ライティング等にも役立つものになるかというふうに思います。
 また,話すあるいは書くといった表現について,国語表現という選択科目を設けまして,実社会において必要となる他者との多様な関わりの中で,伝え合う力の育成を重視した科目というものも設けているところでございます。
 次のスライド,10ページにお進みいただきたいと思います。探究という考え方については,いろいろな小・中・高,全ての学校段階において重視しているところでございます。今回は,スーパーサイエンスハイスクール等の先行事例も踏まえまして,新たに高等学校では,理科と数学にまたがる理数探究,理数科という教科を設けました。この理数探究は,非常に自由度の高い科目でございまして,生徒が興味関心に応じて自分で主体的に課題を設定するというようなことが前提になっています。
 その中で,自分で課題を設定し,自分で情報を収集して分析して,それを表現していくということが求められるものでございまして,例えば,スーパーサイエンスハイスクールなどでは,インフルエンザの感染のメカニズムを自分たちで解明をしたというような優れた研究成果も出ているというところでございます。
 それから,11ページです。情報科でございます。情報科については,従前,社会と情報,それから,情報の科学という科目がありましたけれども,多くの方が,社会と情報という科目を取られているということがございました。こちらは割合簡単な,イリュウジ的な科目にとどまっています。今回は,情報1という科目を共通必履修科目にしまして,基礎的な部分でありますけれども,全ての生徒がプログラミングや情報セキュリティを含んだネットワーク,データ活用の基礎等を学んでいくということを位置付けているところでございます。
 以上が指導要領全体のポイントということになりますけれども,12ページ以降では,学習評価について触れさせていただきたいと思います。今,働き方改革,とりわけ先生方,これは小・中・高問わず,大変先生方,お忙しい中で御苦労いただいているという状況がございます。その中で,特に学習評価について,働き方改革の中央教育審議会の部会の方では,例えば,指導要録の参考様式の大幅な簡素化も含めて,効果的で教師に過度な負担を掛けることのない学習評価を実現することが必要であるという御提言,中間まとめを頂いています。
 この学習評価については,現行の学習指導要領では,4観点,13ページのスライドにございますが,関心・意欲・態度,思考・判断・表現等の四つの観点に基づく評価を,それぞれA,B,Cといったような形で行っています。それらを最終的に総括をしまして,5段階評価で1から5までの評定をするというのが,現行のやり方でございます。
 これについては,新しい指導要領の下では,三つの要素,知識及び技能,思考力・判断力・表現力等,主体的に学習に取り組む態度という三つの観点に基づいて評価をしていこうということで,中央教育審議会の答申を頂いています。
 これが具体的な形で反映されてまいりますのが,最終ページ,14ページ,15ページにあります指導要録というものになります。先に15ページの方を見ていただきますと,こちらは小学校の指導要録の参考様式でございまして,例えば,国語というところを見ていただきますと,国語については特別に5観点になっていますけれども,国語への関心・意欲・態度,話す能力・聞く能力,書く能力といったように,それぞれの項目が設けられておりまして,それぞれについて先生方がA,B,Cといったような評価をするというのが現状のやり方でございます。
 最終的に総括をした評定値というのが,左下にある評定欄に,3年生の国語であれば5であるとか,4年生の算数であれば3であるといったような評価が付いていくということになります。
 一方で,高等学校においては,従来,観点別評価というのが行われてまいりませんでして,14ページのスライドを見ていただきますと,こちら,科目数も大変多うなっていますけれども,評定値,最終的な総括値,総括の評価としての評定値,それから,修得単位数のみが規定されるという現状になってございます。こういったものについて,高等学校においても,より精緻な形での観点別評価を行っていくべきではないかというような議論がある一方で,こういった観点別評価を行うことについては,先生方の負担,あるいは生徒への還元の効果といったことについて,より議論を深める必要があるのじゃないかということもございまして,現在,中央教育審議会の教育課程部会というところで検討を進めているところでございます。
 ただ,この指導要録,特に大学入試の関係におきましては,この指導要録と連動するような形で,調査書というものが作られています。調査書が各高等学校から大学に提出されるわけでございますけれども,その調査書において,一体大学側として特にどういう観点の情報をお求めになっているのかということについては,私ども,それを踏まえながら,指導要録の参考様式についても整理をしていきたいというふうに考えてございます。現在,国公私の各団体,国立大学協会,国公立大学協会,それから私立大学団体連合会の団体からも,書面での意見を求めさせていただいておりまして,そこで出されてきた意見を踏まえながら,この新しい指導要録の在り方,ひいては,それは調査書とも連動してくると思いますけれども,それについて検討を進めているところでございます。
 早口になりましたけれども,こちらからの説明は以上でございます。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございました。
 それでは,御質問あるいは御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
 千葉委員,どうぞ。
【千葉委員】  ありがとうございます。学習指導要領の改訂は,大変結構な方向性だと思います。ただ,経団連の報告にもありましたように,18歳人口が減少していきますと,地域によっては無試験で入れるような大学がたくさん存在するような流れになったときに,能力を身に付けて大学に進むことが実現できるのかどうなのかということが心配です。それをお聞かせ願いたいということが1点目です。
もう1点は,情報の科目に対して,教員をどうするかという問題があります。アメリカでは一足先にこういう状況が起きているわけです。人件費を増やすわけにはいかないということで,情報の教員を採用すると,数学の教員を辞めさせるというような事例も出ていると聞いております。このようなこともどうお考えになっているのか,もしお分かりになれば,教えていただけますでしょうか。
【白井教育課程企画室長】  ありがとうございます。最終的にどのような力が付けられるのかということは,まさに先生方がこの学習評価の中でどういうふうに評価をするのかということにかかってくると思います。現行でありますれば,もし指導要領が求める基準に達していないということでありますと,Cの評価が付いていくと。Cが多くなると,評定値としては1とか2とか,そういった評定になってくるということになりますので,そういった評価を大学の側でどう受け止められるのかということになってこようかと思います。
 一つ,今回の指導要領の中では,リメディアルといいますか,義務教育段階で十分な力を付けてこずに高等学校に入ってくるという生徒も現実にいます。そういった生徒にも配慮して,学校設定科目,学校が独自に設定する科目等で,そこについては補うというようなことについても明記をしているということで,なるべく全ての生徒に学習指導要領が求める力を付けるように配慮しているところでございます。
 それから,もう一点,情報科についてです。情報科については,情報の免許を持った先生方の採用が,なかなか情報単独では各都道府県において難しいというのが現状かと思います。それゆえ,例えば,数学の担当の先生が情報をダブルで免許を持っているというような現状が多いかと思いますけれども,そこら辺,採用するサイドの事情もあると思いますし,また,情報の免許については,なるべく取りやすく,情報の免許を仮に取れない場合であっても,情報を教えられる一定のクオリティーを持っているということを認証するような仕組みを作ることで,仮に免許外の先生が担当する場合でも,一定の内容が担保された情報の科目と。教育ができるという仕組みについて検討しているところでございます。
【千葉委員】  うまく実現するように,よろしくお願いします。
【五神委員】  東京大学の五神です。
 学習指導要領改訂は,10年がかりの事業だと説明いただきました。教育には安定性が必要なので,これぐらいの時間を掛けるということは当然だと思います。しかし,例えば「情報」の導入について考えると,科目を導入するまでの議論に10年かかり,そこで学んだ人たちが社会に出るまでには更に約10年が経過します。「情報」という科目が教える内容の性質を考えると、20年後に必要な情報教育がそこに実装されるとは考えにくいのです。
 東京大学では,数理・データサイエンス教育について,文系,理系共通で教えるような枠組みを,半年~1年かけて整理し,既に開講しています。
 この改訂によって大学入学者の資質がどう変化するかという点で見ますと,数学のカリキュラム改定の影響がかなり心配です。確かに,確率・統計等の統計関係は重視されていますが,例えば,統計学の基礎として重要な一次変換や行列は現行課程でもほとんど扱われていませんし,ベクトルは新課程で数学Cに移行するため、文系学部を目指す生徒の多くが履修しなくなることになります。ベクトルは文系にも大変重要です。現代的というか,未来を十分に見据えた上での議論が必要であると思います。
 この数学カリキュラム改定の議論には情報サイエンスの専門家がほとんど入っていませんでした。例えば,東京大学の文系の学生が海外のMBAに留学して,最初に最も評価されるのは数学力だと言われています。数学力によってクラスで存在感を示したことで,他の学生からまともに会話をしてもらえるようになったという人がたくさんいるのです。そういう日本の教育の強みが失われることは重大な問題ですし,まさに今の改革の方向から外れてしまいます。
 今は数学のカリキュラムをどのような形で弾力化できるのかということと,「情報」の中にそれを補えるような最低限の要素を入れることが重要です。
 問題になるのは,先ほども御指摘があったように,情報教育を担当できる教員の分布です。これは数学の教員が数学の一部としてカバーできるのなら良いのですが,今,行われている情報教育の状況を考えますと,それを実装することは難しいと思います。
 時間がかかると言っても,実施は平成34年です。まだできることはたくさんありますので,是非検討していただきたいと思います。情報サイエンスも,来るデータ活用型の社会,まさにSociety5.0の基盤となります。そこで必要なリテラシーについては,かなり明確になってきているので,そこを是非最新のカリキュラムに入れていただきたいと思います。5年前にはそこまで議論ができていなかったと思いますが,今ならまだ間に合うので,是非お願いいたします。
 変化を示す一つの例として,スマートフォン等の普及によって、キーボードを触ったことがないという学生が増えてきていることがあります。いわゆる普通のプログラミング言語でプログラムを書けた世代は,もう貴重な存在なのかもしれません。団塊世代ぐらいから50代ぐらいまでにはプログラミングに強い人がいましたが,それがだんだん細ってきています。これから先はプログラミングの中身も新しくなりますが,そこにこのカリキュラム改定が間に合っているのかという大きな疑問があります。もちろん大学でも,高大接続で補えることには可能な範囲で取り組みますが,「Society 5.0の時代に必要なリテラシー」を,全体として捉えて対応することは重要な視点だと思います。指導要領改定とはタイムスケールが違うので難しいと思いますが,発想力を持って取り組んでいただきたいと思います。
【永田分科会長・部会長】  村田委員,どうぞ。
【村田副分科会長】  私からはお願いですけれども,3ページ目,資質・能力3つの柱で,学びに向かう力,主体的に学ぶ力が必要だと言われています。当然,そのことは,調査表等々にどう書き込んでいくかということが重要になってきます。そのときに,今の調査表は,各高等学校では,紙ベースではなくて,いわゆるWebベースで,パソコン上でやっています。高校生はその都度印刷して,持ってくる。大学がそれをまたパソコンに打ち込む。こんなことをやっているわけです。初めからウエブでそのまま流せばいい話です。ただ,それができないのは,教育委員会にお聞きしますと,個人情報の問題があってできない。そこは非常に意味のない無駄があります。主体的に学ぶ力をどう大学教育に,高等教育をどう大学に反映できるかという高大接続の一番の改革のところが駄目になってしまうと思います。是非そこをお願いしたいと思います。
【永田分科会長・部会長】  そのほかいかがでしょうか。
 吉見委員,どうぞ。
【吉見委員】  質問を二つさせていただきたいのですが,一つは,8ページの高等学校の教育科目のところで,英語についてです。一般的には,日本の中学・高校,特に高等学校の英語教育に問題があるのではないかということは随分言われてきています。この一連の議論の中で,英語の教育に関してどういう改革案が議論されたのか,これを一つ教えていただきたいということです。
 それから,もう一つは,既にいろいろな先生方から御意見が出ていますが,教える側の要員が足りないということです。リカレント教育ではないですが,今までの教員免許の在り方も含めて,いろいろなことを経験されている方たちを学校で,高等学校,中学校で活用していくということが言われています。学習指導要領の枠を超えてしまうかもしれませんが,教える側を社会の中から入れていく仕組みについて議論があったのかどうか,その2点を教えていただければ幸いです。
【白井教育課程企画室長】  ありがとうございます。初めにリカレント教育といいますか,いろいろな人材を大学,高等学校の中に,いかに中に取り入れていくということはいろいろな形であるかと思います。例えば,理数探究なんかは,先ほど御説明しました新科目ですけれども,こちらは高校の先生が教えるというだけではなくて,例えば,大学とか研究所なんかに実際に行ってみて,そこで専門的な知識を持った方から教わるというような形を考えているところでございます。免許ということになりますと,ハードルが上がってきてしまいますけれども,仮に免許がなくても,そのあたりを先生方と外部の方がうまく連携していただくということを様々な形で考えているかと思います。
 それから,英語についてです。英語について,私は専門的な知識を持っていないんですけれども,今回,CEFRという国際的な英語の基準がございまして,そのCEFRに準拠をした形で高等学校,それから,中学校等,それぞれについてどの程度まで達成するのかという目標を明確にしまして,それに基づいて育成を,力を付けていくということについて,新しくお示ししているということが大きな違いかと思います。
【吉見委員】  ただ,先ほどの生きる力ではないですが,深く考える力や対話する力ということが出てきて,コンピテンシーについては日本語だけでやっていても仕方がありません。英語でやる力を付けるのは高等学校レベルでも重要だと思いますが,そういう議論はありますか。
【白井教育課程企画室長】  授業の中で,例えば,英語でディスカッションをしたり,表現するということ,これは国語も共通の課題なんですけれども,英語でも話したり,あるいは書いたりという発信の力が非常に弱いのではないかということが同じように言われています。今回,英語コミュニケーションという新しい科目を設定していますけれども,その中で特に話す,書く,従来ただ文法を読んでいく,文章を読んでいくということだけではなくて,発信の方を重視したプログラムになっているところでございます。
【永田分科会長・部会長】  吉岡委員,どうぞ。
【吉岡委員】  高校の先生の環境をよくしないといけません。特に,情報や数学は高校の先生が大学院まで行こうが行くまいが,そこで勉強したことをあとは教えるだけというやり方ではとても無理です。高校の先生が研究者としての,研究と接点を持つということを本気で考えないとならないだろうと思います。加えて,時間の問題と,もちろん給与面の問題もあります。
 戦後のある時期は,大学の教員が高校で教えたり,高校の教員がその後大学に戻ったりということがありました。そこで育った生徒たちにとっては非常に重要だったと思います。
 以上です。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございます。
 その他に御質問・御意見があれば,事務局に御連絡いただければと思います。

(4)  資料4に基づき,事務局から国公私を通じた機関や課程に着目した規模の在り方について説明があり,その後意見交換が行われた。
 

【永田分科会長・部会長】  それでは,我が国の高等教育の将来構想の中で,国公私を通じた機関や課程に着目して,我が国にどのぐらいの規模のものが必要だろうかということについて考えていこうと思います。それでは,この課題について事務局からデータの説明をお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。資料の4でございます。
 冒頭のところに論点と大前提ということで書かせていただいております。2040年のときに各機関,課程の望ましい規模をどう考えるのかという議論を,今回,次回に議論していただければと思っています。
 中間まとめの抜粋を入れていますが,大学進学者数は2040年に51万人になることが見込まれ,12万人程度減してしまうという状況にあります。できるだけ多くの学生が進学し,リカレント教育も受けていくという前提で考えるべきではないかということです。
 その上で,課程ごとの規模,それから,留学生や社会人の更なる受入れをどう考えるのか,国公私の設置主体ごとの規模をどう考えるのかという観点で御議論いただければ有り難いと思っています。
 2ページ目以降は,データになります。簡単に何を準備したかだけ御説明させていただきます。御質問や追加のデータ等について御指示をいただければと思っています。
 2ページ目は,各国の比較を入れています。
 3ページ目以降は,学校系統図に従いまして,日本,アメリカ,イギリス,ドイツ,中国ということで,各国の高等教育段階の学校の段階,それぞれの規模感についての資料でございます。
 8ページ目以降は,各国のそれぞれの高等教育機関の概要を御説明させていただいています。10ページ以降は,国公私の役割別の議論に入っていくということの前提の資料といたしまして,平成17年の将来像答申の国公私それぞれについての箇所についての抜粋の資料でございます。13ページ以降は平成10年の21世紀大学像の答申,16ページ以降は昭和46年の答申を引いているところでございます。それから,18ページ以降は一般社団法人国立大学協会からの「高等教育における国立大学の将来像(最終まとめ)(抜粋)」,20ページ以降は一般社団法人公立大学協会からの「公立大学の諸課題とその将来構想に向けての議論」23ページ以降は一般社団法人日本私立大学連盟からの「未来を先導する私立大学の将来像(抜粋)」とそれぞれの役割を記した部分を準備させていただいています。
 簡単ですが,以上でございます。
【永田分科会長・部会長】  大切なことは,平成17年度から繰り返し述べられている国公私の大学のそれぞれの役割,あるいは規模について,こういう議論が既にあった,ということです。その上で,我々は2040年に向けてどう考えていかなければならないか、ということを議論させていただきたいと思います。
 事務局からの説明の中で,人口が減ることについては述べられました。けれども,大切なことは,我が国に高等教育を受けた人がどれだけ必要かという議論は,将来の社会のあり方等を想像しないと答えが出てこない、という難しさがあります。人口減少があったとしても,基幹的に国を支えるためには,最低限、どのぐらいの人たちがどのレベルの能力等を持っていなければいけないか、という水準も考えなければなりません。
 それから,他国と比べてみると,既に少子化が進んでいる国々を御覧いただければ,その傾向がよく分かると思います。明らかに少子化が始まっている国,例えばイギリスでは大学院生の規模は53万3,000人という数字があります。一方,我が国の大学院では国公私を合わせても25万人という数字です。こうし見ると,大学院生の数が研究力の一部に反映しているわけですから、我が国は研究力が低下していると言われますけれども,当然ではないか、という見方もできます。
 そういった観点を,この統計を見ながら,是非とも次回までにお考えを頂きたいということです。

(5)  資料5に基づき,五神委員からSociety5.0の実現に向けた大学改革について御発表があり,その後意見交換が行われた。

【永田分科会長・部会長】  次回についてですが,将来構想部会では,研究力という観点からの議論をまだほとんど行っていません。研究力の観点から高等教育の規模全体を考えると,大学院のあり方について考えるということになると思います。大学院部会長の有信委員とも相談をさせていただいて,次回には,学士課程と大学院課程を含めた規模感というか,我が国が目指すべき将来像について議論したいと思っています。
 こうしたことを考えるうえで参考にしていただきたく,Society5.0の実現という観点から見た高等教育の将来像について五神委員から御発表いただきます。
【五神委員】  貴重なお時間を頂きまして,ありがとうございます。東京大学の五神です。
 資料には「大学の出番だ 国立大学の再々定義」と書きました。これは,国公私全ての大学のミッションの再々定義がSociety5.0の実現には不可欠であるということです。私は2016年から既に18回行われている未来投資会議に民間議員として参加する中で,大学をどう活用すべきか、そのために大学がどう変わるべきか,ということについて考え、議論してきました。本日はそれを紹介したいと思います。
 2ページをご覧ください。タイトルにもあるように,日本には時間がありません。国連のSDGsのゴールが設定されている2030年には,団塊世代が80歳超になっています。今の要介護比率のままで2030年を迎えると,貴重な労働力である団塊ジュニア世代が,男女問わず,介護離職せざるを得ないもしれません。少子化対策については以前から取組が行われてきましたが,過去10年間でも大きな成果は挙がっていません。これまでできなかったことをこの先10年で実現することは,意識を相当変えないと難しいと思います。新しい発想で、今後5~7年の間に働き方改革などを通じて、全世代が生産活動に参加する新たな社会の形を作っていくことが急務です。大学改革についても,10年前と同じ議論を続けるべきではありません。
 3ページは未来投資会議の主な議論です。私たちが目指すべき、日本発の未来社会像「Society5.0」については,G7で安倍首相が世界に発信し,非常に共感を持って,各国首脳から受け入れられました。これまで、日本をはじめ多くの先進国の経済成長モデルは、労働集約から資本集約に向かう中で達成されるというものでした。例えば,農業であれば,生産性を上げるためには,農地を大規模化して資本集約を進めましょう、という考え方です。その中で,日本は工業立国として,世界第2位の経済大国になりました。その背景として、オートメーションと品質管理による日本発の生産イノベーションが非常に大きな牽引(けんいん)力になったことはご承知のとおりです。しかし、現在日本は,他国と比べて地方と都市の格差が大きいと言われています。また,第一次産業の集約化はなかなか難しく,少子化,高齢化の問題も際立っているなど課題を多く抱えています。
 4ページをご覧ください。未来投資会議では,毎回「スマート〇〇」という議論がありました。インターネットによってこれまでサイバー空間に蓄積されたデータがある規模を超えてビッグデータを形成するようになったことと、,それを解析するディープラーニングのアルゴリズムに代表されるAI技術が至るところで有効性を示し始め、同時多発的にイノベーションが起こりつつあるのです。それによって産業のスマート化が可能になってきました。
 4ページ下部は,農業について未来投資会議で事例発表をした山森さんという方が示した資料です。三浦市では10アール程度の小さい規模の畑が分散していて,農地は集約化していないのですが,センサーを用いてデータ収集し,気象データなどと組み合わせてビッグデータ解析をすることで高い生産性を実現しているそうです。今までの資本集約型の成長モデルにはあてはまりにくかった産業分野でもスマート化によって生産性を劇的に向上させることができるのです。同じように考えますと,私の専門に近いものづくり分野では,これまでは大量生産の技術を使い、高品質で低価格な製品を生産することで人々の生活の質を向上させてきました。その一方、これは人が物に合わせて生活するという側面もありました。しかし、今はオンデマンド生産や3Dプリンティングによる一品生産のコストが下がり,今までと同じコスト,同じ品質を維持して人に合わせた個別生産のものづくりができるようになってきています。テーラーメード医療,あるいはリモート診断のようなものも考え方は同様です。
 5ページをご覧ください。スマート化は,一次,二次、三次を問わず、あらゆる産業生産性を向上させるチャンスであると同時に,地方と都市の格差を解消し,老若男女全ての人が意欲を持って等しく社会に参加できるこれはSDGsで掲げられている「インクルーシブ」な社会に向かう処方箋です。未来投資会議でも,日本のストックは非常に有利で、デジタル革命後の良い未来社会作りを世界に先駆けて実践すべきだという議論をしていました。
 ところが,この半年~1年,世界の議論は,むしろデジタル革命の負の側面に向かっています。それは,データは,既にデータを持っている企業や組織のところに集まってしまい,データを持たざる者との間にどんどん格差が広がるという懸念です。デジタル革命後の社会を悪い方向ではなくよい方向に向けるには,自然に任せるのではなく,意志を持ってよい未来社会を選び取る必要がある、そのために大学の果たす役割が重要だと、未来投資会議では議論しています。
 6ページをご覧ください。大学が社会の期待に応えて、より良い未来社会創りに貢献するためには,財源の多様化が必須です。大学による価値創造を社会に広く認識してもらい,評価してもらう中で,大学に資金が循環する仕組みを作るべきです。Society5.0は,科学技術イノベーションだけでは実現できません。革新技術を社会実装するために社会システムをどう設計するか,例えば,自動運転により事故が生じた場合の法整備のようなことを考える必要があります,また、より多く人に意欲を持って参加してもらうための経済メカニズムの設計も必要です。つまり、科学技術イノベーション、社会システム、経済メカニズムを三位一体で連携させる必要があります。これは非常に高度なクリエイティブさが要求される創造的な活動です。これは過去の法律書,過去の経済書を読んでも答えはわかりません。まさに大学の出番なのです。
 しかし,資金が循環しなければ,仕組みを作っても機能しません。そういう視点で見ると,日本には一つ大きな問題があると分かりました。資料に日本と中国のいくつかの企業について株価の時価総額と売上高の比較を示していますが,デジタル革命の影響を享受している企業は,売上高に比べて株価が高いのです。これは,投資家からの期待によって経済が回っていることを意味します。これを私は「期待値ビジネス」と呼んでいます。
一方、過去20年間を振り返ると,日本では20年前に銀行が破綻したこともあり,もともとの間接金融の文化が、より保守的なものになりました。資本集約型の経済においては,経済成長のロードマップが明確だったので、銀行にとっても投資先は明確で、そこに手堅い投資を行うことが重要でした。しかし、今は明確な成長モデルがありません。しかも,その後デフレーションが20年間も続いたので,お金を投資よりも貯蓄に回す人が増え、お金銀行に集まってしまっています。そのため、日本ではリスク投資文化が極端に進んでいません。
 他方,東京大学では,毎年約40社の関連ベンチャー企業が生まれています。現在,東京大学関連ベンチャー企業は330社を超え,そのうち17社が株式上場しており、時価総額は約1.4兆円に上ります。ベンチャー企業は,期待値ビジネスとは相性が良いので,大学発ベンチャー企業との連携を通じて大学が期待値ビジネスを回す中心になれる可能性があります。これを通じて日本のリスク投資文化を醸成すれば、大学への資金循環は好転するはずです。
 7ページをご覧ください。最近は日本でも投資文化も変化しており,大企業との連携という意味でも,よい方向が見えています。一般社団法人日本経済団体連合会では2017年の「企業行動憲章」でSociety 5.0の実現を通じたSDGsの達成を掲げています。また、国連が掲げた責任投資原則(PRI)によって、投資家の間では、企業のESG(Environment, Society, Governance)課題への取り組みを考慮した投資が重視されるようになっています。安定・成熟した企業にとっては安定な長期成長が重要です。ESG課題に取り組むことは長期的に見て新たな事業の機会創出につながり、それが企業価値を高めると考えられているのです。SDGsやESGへの取組みは大学の活動との整合性も極めて高く,大学がこれらを実現するための連携の中心になれると考えています。
 東京大学では,8ページにありますように,指定国立大学法人への申請にあたり,SDGsの活用を将来構想に組み入れ,SDGsの実現を共通目標とする活動を多用なセクターと多角的に進めています。現在,学内で約170のプロジェクトが動いています。
 今日お伝えしたいのは,その先が大事だということです。9ページをご覧ください。知識集約型の社会における経済的な価値は,物から知識・情報にシフトします。高度経済成長期の産業インフラであった高速道路や港に替わるインフラは,情報の通路であるネットワーク網であり,これに投資すべきです。日本には,既に学術情報ネットワークとして整備されたSINET5があります。これは国立情報学研究所(NII)が運用していますが,例えばシリコンバレーのインターネット環境とは比べ物にならないほど,極めて高品質なものです。しかも全47都道府県を100Gbpsという超高速でメッシュ状に繋いでいるため、知識集約型社会におけるインクルーシブな社会づくりに効果的に活用することができるのです。例えば,遠隔医療で精細なデジタル画像をやり取りすることは,通常のネットワーク環境では難しいですが,SINET5であれば可能です。
 11ページをご覧ください。データ独占社会に進まないようにするために、SINETの活用を急いで具体化しなければなりません。データを目的に合わせて共有して活用するためには,管理のされたセキュアなネットワークがあることも重要です。現在SINETは学術情報に特化して使われていますが,同じ物理的インフラを使いながら,ほぼコストをかけずに,学術情報のネットワークとは別に経済活動のためのレイヤー,社会システム設計のためのレイヤーなど,公的データを含め様々なデータをみんなで使うためのセキュアなレイヤーを独立に作ることができます。例えば,今まさに気象観測データや測地データがどんどん増えています。また,Internet of Thingsが進み,サイバー空間上に蓄積された情報もどんどん増えています。これらのビッグデータをリアルタイムで活用することがこれからの価値創造の中心になります。国力を支えるにはネットキャパシティーが重要で,世界のどこと比べても,こんなにすごいインフラは今のところ日本にしかありません。今,急いで投資すべきなのです。
 なぜこのような優れたインフラが整備されているかというと,実は1980~1990年代に電電公社(現NTT)が極めて未来志向の「ファイバー・トゥー・ザ・ホーム構想」を進めたおかげなのです。また,大学でもこのネットワークが必要とされていました。例えば素粒子実験の国際プロジェクトにおいては,非常に大きなデータを分散型で解析することが必要だったのです。こうしたことが重なり、SINETが整備されたのです。今では,全国各地に存在している大学は,その高度な知恵と人材によって、SINETを支える柱になっています。数年以内で劇的なゲームチェンジを起こすために,SINETと大学を知識集約型社会における産業の基盤インフラと捉えて活用することが重要です。このような議論に,未来投資会議でも多くの人が合意しています。
 12ページは最後のまとめです。20世紀において,大学は人材を社会に送り出す,いわば人材の高い発射台でした。しかし,今は、知識集約型社会に転換し、経済的な価値の源泉が知・情報となるので,大学がこれらを支える基盤インフラになれるのです。そう考えると、大学のミッションは, 18歳人口が減少するという制約から離れて、新たな発想で捉えるべきです。10年前とは劇的に違った議論をしなければなりません。
 本日は,是非この話を伝えたいと思い,時間を作っていただきました。
 以上です。
【永田分科会長・部会長】  ありがとうございます。
 五神委員の持論と,SINET5等の具体的な事例も含めて、かなり示唆的な部分があったと思います。時間がまいりましたので,大変残念ですが,この続きは,今後の合同会議に議論を譲りたいと思います。五神委員、本日はレクチャーのみで申し訳ありませんでした。
 それでは,今後の予定について,事務局からお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。資料の6を御覧ください。
 次回の将来構想部会は,7月25日の水曜日10時から12時で予定しています。場所は追って御連絡をさせていただきます。
 以上でございます。
【永田分科会長・部会長】  本当にお暑い中,お集まりいただきまして,ありがとうございました。御協力ありがとうございました。


―― 了 ――

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)