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第2章 第3節 入学者受入れの方針について−高等学校段階の学習成果の適切な把握・評価を−

1 入学者選抜

(1) 現状と課題

1いわゆる大学全入と高等学校教育・大学教育の新たな課題

  • (ア) 少子化と大学の入学定員の拡大が進行することに伴い,大学・短期大学の志願者のほとんどが入学できる状態になってきている。このことを形容する大学全入という言葉は,大学進学の需給関係の変化を象徴している。入学をめぐって激しい競争が行われる選抜性の強い大学が一部に存在する一方で,私立大学の47パーセント(平成20年度)は入学定員を充足できず,また,合格率が90パーセント以上という大学も100校以上存在する。このように,大学の入学者確保をめぐる状況が二極化しているが,総じて大学への入学が容易となってきている(図表2-20〜2-22)。
  • (イ) これまでの大学入試は,大学教育を受けるために必要な学力水準を評価・判定するというよりも,入学者を選抜する機能が強く意識されてきた。
     過度の受験競争は,知識の詰め込みを助長するものであり,自ら学び,自ら考える力などの「生きる力」を育(はぐく)むことを妨げるおそれがある一方,大学進学をめぐる競争が,入学者全体の学力水準を維持・向上させ,高等学校教育の質の保証や大学教育の入口の質を保証する機能を一定程度果たしてきたことは否定できない。
  • (ウ) しかし,いわゆる大学全入時代においては,多くの大学において,大学入試の選抜機能が低下し,入試によって入学者の学力水準を担保することが困難な状態になりつつある。
     また,高等学校では,これまでのように,大学入試の存在自体が大学進学希望者の学習意欲を喚起し,高等学校の指導と相乗して学力を定着させることが困難になりつつあるという,入試方法の改善では解決できない問題も指摘されている。
     このように,大学の入口管理と,高等学校教育の質保証を,大学入試の選抜機能に依存し続けるならば,大学及び高等学校の双方に大きな影響を及ぼすと懸念される。
  • (エ) 第1章で述べたとおり,大学進学率が上昇すること自体は肯定すべきことであり,他の先進諸国でも同様の傾向にあるが,そのことは,高等学校において,大学入試における選抜機能の存在を背景とした指導や大学進学希望者の学習意欲の喚起が困難になっていくことを意味している。
     今後,高等学校・大学は,入試によって学力水準を担保できるという考え方から,様々な方法で客観的に学力を把握し,それを高等学校の指導の改善や大学入試,大学の初年次教育の基礎資料として役立てていくことを通じて学力水準の向上を図るという考え方への転換が求められる。

2入試方法の多様化の経緯と現状

  • (ア) 本審議会は,従来,過度の受験競争を緩和する観点から,入試方法の多様化や評価尺度の多元化,受験機会の複数化などについて提言を行ってきた。
     平成12年の大学審議会答申「大学入試の改善について」は,「18歳人口の減少や推薦入学の増加等により,相当数の者にとって大学入試が過度の競争ではなくなりつつある中で,高等学校教育と大学教育との円滑な接続をどう図っていくかが重要な課題」との認識を示した。また,入試方法の多様化等の基本的な考え方を維持しながら,受験教科・科目数に関しては,「入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で設定することが必要であり,各大学の教育に必要なものを課すことは当然」との認識を示した。また「まず大学はそれぞれが特色ある教育理念等を確立することが必要であり,それに応じた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確化し,対外的に明示する」ことを強く要請している。
  • (イ) このように,様々な社会環境の変化に応じて,大学入試の改善策が示されているが,基本的には,入試方法の多様化を推進する方向で取組が進められている。
     これまで各大学では,学力検査だけでなく,面接,小論文,リスニングテストの実施や,推薦入試,帰国子女や社会人,専門高校・総合学科卒業生を対象とした入試を採用するなど取組を進めてきた。
     しかし,推薦入試やAO入試は,大学進学者は一定の学力を有しているとの前提の下,必ずしも学力検査を課さない形態で普及しており,学力検査を伴う大学の一般入試の割合は56パーセント(平成20年度)まで低下した。
  • (ウ) このような状況に対して,推薦入試やAO入試における外形的・客観的な基準が乏しく,事実上の学力不問となるなど,本来の趣旨と異なった運用がされているのではないかとの懸念も示されている。
     また,高等学校段階の学習成果を記した重要な資料である調査書の活用状況を見ると,例えば,高等学校の教科・科目の評定平均値を出願要件としているのは,推薦入試・AO入試の実施学部のうち,それぞれ7割,1割にとどまっており,こうした実態も,推薦入試・AO入試をめぐる懸念を強めている。
     大学側も,推薦入試・AO入試の実施学部の半数以上が,学力担保に課題を感じるようになっている(図表2-23〜2-30)。
  • (エ) 大学入試の改善に関連して,文系志望者,理系志望者がそれぞれ理系科目,文系科目を十分学ぼうとせず,学習の幅が狭く,偏ってしまう懸念が指摘される。そこで,できるだけ募集単位を大くくりにすることが望まれる。これは,学部・学科の縦割りの壁をどのように打破するかなど,学士課程教育の改革と連動して実現される課題でもある。
  • (オ) 受験生の側に着目すると,多くの大学において入学者受け入れ方針の策定が普及したものの,その中身は抽象的なものにとどまるため,高校生に対して習得を求める内容・水準を具体的に示すものとなっていない。
     また,推薦入試やAO入試などの入試方法の多様化が進むにつれて,高校生等にとって入試方法が複雑になり,分かりにくくなっている,入試に携わる大学の教員にとって負担が重くなってきている,との問題も指摘される。
  • (カ) 我が国の入学者を選抜するシステムは,大学入試センター試験と大学が個別に行う入試の組合せで行われている。
     大学入試センター試験を利用する大学数は,現在,777大学・短期大学(平成20年1月実施)に至っている。利用大学は,大学入試センター試験によって,高等学校段階の基礎学力を客観的に把握するとともに,当該大学の個性・特色に応じた入試の工夫を行っている。大学入試センター試験は,我が国全体として,入試の改善を推進する上で,大きな貢献をしてきたと言える。
     こうした積極的な評価の上に立ちつつ,各大学は大学全入時代に伴う様々な環境変化を踏まえ,改めて大学入試センター試験と大学が個別に行う入試との関係の在り方について考えることが望まれる。

3高等学校教育への影響,特定の大学をめぐる過度の競争

  • (ア) 大学入試の在り方は,社会的な関心が極めて高く,国民生活への影響も大きい。また,高等学校以下の学校教育の在り方とのかかわりも深く,慎重な検討を要する。
     国においては,高等学校以下の教育課程の基準である学習指導要領の改訂が進められており,本審議会は,本年1月,「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」答申を行った。同答申では,大学入試について,記述式など思考力,判断力,表現力等を問う出題の充実,ボランティア活動などの社会参加の状況の評価の推進などを求めた。
     また,同答申は,大学全入時代における高校生の学習意欲をめぐる課題についても提起した。高校生の学習時間の二極化等が指摘され,大学進学者について,平日の勉強時間が「ほとんどなし」,「30分程度」が約3割を占めた調査結果もある(図表2-31,2-32)。
  • (イ) 近年の高等学校における必履修科目の未履修問題は,大きな社会問題となった。高等学校関係者が教育課程の基準を遵守せず,大学での選考に重要な調査書の信頼性を著しく損なうことになったのは,極めて残念なことである。
     一方,この問題は,大学入試の選抜機能が低下しつつある今日においても,大学入試が高等学校教育に与える影響が強いという現実を改めて示すことになった。
  • (ウ) また,全体から見れば少数であるが,社会的な影響力という面で,選抜性の強い特定の大学をめぐる受験競争の問題も看過できない。大学進学を念頭において行われる中学校受験等をめぐり,競争の低年齢化や裾野の広がりが生じていることも,知・徳・体のバランスの取れた発達や,教育の機会均等といった観点から懸念される。大学全体として見れば,入試方法の多様化等は相当に進んでいるが,こうした特定の大学については,必ずしも多様化が十分に進んでいるとは言えない。
     こうした問題は,社会全体の価値観が反映しているとも考えられ,大学入試だけを通じて解決しようとしても限界がある。
     また,有力な大学への進学をめぐる受験競争は諸外国にも見られ,競争そのものが全否定されるべきでないという意見にも十分留意する必要がある。
     しかしながら,選抜性の強い特定大学にあっては,調査書等で高等学校段階の学習成果を適切に評価するとともに,総合的な学力を問う方向で,入試制度をさらに改善することが望まれる。

4高等学校と大学の接続の在り方の見直し

  • (ア) このように,高等学校と大学の接続については,様々な課題が存在し,必ずしも十分に行われているとは言えない。この問題は,高等学校の努力だけに帰することも,大学の努力だけに帰することもできない。また,客観的できめ細やかな学力の把握にも,各高等学校・大学それぞれの取組だけでは限界がある。
     大学入試の選抜機能の低下が高等学校における大学進学希望者の学習意欲の喚起や指導に影響し,大学の約6割が高等学校の履修状況に配慮した取組が必要となる現在,高等学校・大学は選抜だけでつながる関係から,客観的できめ細やかな学力の把握とそれに基づく適切な指導によって学力向上が図られるよう,共に力を合わせて取り組む関係へと転換することが求められている(図表2-34)。
     すなわち,大学全入時代を迎えた今日,教育の質を保証する観点から,システムとして高等学校と大学との接続の在り方を見直すことが重要である。
  • (イ) 受験生,大学の双方が多様化する中で,学士課程教育の質の維持・向上の前提として,高等学校と大学間の円滑な接続を実現し,両者の希望のマッチングを図るため,高等学校の出口管理や大学入試のシステムを改善することが求められている。そして,それぞれの学校段階において,一人一人の生徒や学生に対し,学力を客観的に把握する指標を活用し,そこで得られた情報を高等学校と大学間で共有することにより,教育の質を保証する新たな仕組みを構築していくことが望まれる。

(2) 改革の方向

  • (ア) 大学全入時代を迎え,各大学の入試の在り方,高等学校での履修状況や評価の在り方がますます多様化してきている。ユニバーサル段階,大学全入時代を迎え,大学が選抜する時代から,大学と進学希望者とで相互選択する時代に移っている。両者の希望,ニーズのマッチングを図りながら,ともすれば抽象的とされる入学者受入れの方針の明確化が求められる。
  • (イ) また,教育の質を保証する観点から,単に個別の学校の努力のみに委(ゆだ)ねるのではなく,システムとして,高等学校と大学との接続の在り方を見直していくことが求められる。従来,主に過度の受験競争の緩和の観点から,入学者選抜の改善等が推進されてきたが,今後は,各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け,若者が人生の階梯(かいてい)を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。
  • (ウ) 本答申を契機に,生徒・学生が意欲を持って学んでいくことができるよう,高等学校及び大学の関係者が緊密に連携を図り,これらの点を踏まえた新たな枠組みづくりに向けた主体的な議論を進めていくことを期待したい。
     その際,本審議会が審議に当たって基礎資料の一つとした「高等学校と大学との接続に関するワーキンググループ」の「議論のまとめ」(参考資料6)を踏まえ,以下の「具体的な改善方策」を進めていくことを望みたい。
  • (エ) この中で提言している「高大接続テスト(仮称)」に関しては,学力を客観的に把握する方法の一つとして一定の意義があると考えられる一方,高等学校教育の在り方との関係上,留意すべき点も種々あることから,高等学校及び大学関係者間の十分な協議・研究が行われることを期待する。また,この新たな仕組みも含めて,今後,高等学校教育全体の質保証に向けた取組が進められることを望みたい。
     なお,本審議会は,このテストを導入すれば学習意欲や学力が育成されたり,大学入試の選抜機能が回復したりするなど,高等学校との接続の課題が直ちに解消すると考えているわけではない。大学全入時代における学習意欲や学力の育成,大学入試の改善は,学力を客観的に把握する様々な指標に関し,各高等学校・大学・大学進学希望者がいかに有効に活用するか,その努力にかかっている。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 大学と受験生とのマッチングの観点から,入学者受入れの方針を明確化する。
    • その際,求める学生像等だけではなく,高等学校段階で習得しておくべき内容・水準を具体的に示すように努める。特に,高等学校で履修すべき科目や取得が望ましい資格などを列挙するなど最低限「何をどの程度学んできてほしいか」を明示する。
  • ◆ 受験生の能力・適性等を多面的に評価するという観点から,入試の在り方を点検し,適切な見直しを行う。
    • 個別学力検査は,入学志願者の自ら学ぶ意欲や思考力,判断力,表現力等を適切に判断できるよう一層の改善を図る。また,現行の入試方法が,必要以上に複雑化し,透明性を損なうおそれがある場合は,簡素化・合理化を図る。逆に,入試方法の多様化等が不十分な場合は,改善を図る。
  • ◆ 推薦入試やAO入試については,それぞれの意義を踏まえ,入学者受入れの方針との整合性を確保しつつ,適切に実施する。
    • いかなる入試方法であっても基礎学力の把握が適切に行われるべきであるとの認識に立って,学力に関わる様々な客観的な指標を活用し,学力把握措置を講じる。なお,高等学校の学科ごとの特性にも配慮する。また,専ら学生確保の目的のみによって,入試の実施時期の過度の早期化を招くことは避ける。さらに,AO入試を担う職員の専門性を高め,体制の充実に努める。
  • ◆ 入試科目の種類・内容については,入学者受入れの方針に基づいて適切に定める。
    • その際,入試に限らず,例えば,高等学校の履修の実態も踏まえつつ,あらかじめ履修すべき科目や学習内容を指定又は奨励するなどの手法を活用することも検討する。さらに,文系・理系の区別にかかわらず,幅広い総合的な学力を問う学力検査を行ったり,募集単位を大くくりにしたりすることを積極的に検討する。
  • ◆ 高等学校との接続をより密にする観点から,求める資料の多様化や適切な活用を進める。
    • 推薦入試において,評定平均値を出願資格や出願の目安として募集要項に明記する等,調査書の積極的な活用に努める(あわせて,高等学校においては,必要な情報を確実に記載することをはじめ,調査書の信頼性や精度を高めるための取組が必要)。高等学校での学習状況に関する資料として,どのような情報を欲しているかをあらかじめ明示し,当該情報の調査書への記入や,関連資料(例えば,主体的な学校外活動の成果の記録や,様々な学習活動に関して整理した記録)の添付を高等学校あるいは受験生に求めるよう努める。
  • ◆ 入試問題作成の合理化を図り,良問を出題する観点から,大学の実情に応じて,過去の試験問題等を利用することも検討する。
    • 検討に当たっては,当該大学に限定せず,複数の大学間で相互に利用することも選択肢となり得ることに留意する。また,当該大学の入学者受入れの方針との整合性に十分配慮する。
  • ◆ 大学入試に関する取組や関連データの情報公開を積極的に行う。

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 入学者受入れの方針のさらなる明確化や具体化などについて各大学の取組を促す。
    • 過去の試験問題の利用については,それが適切に行われる場合,公正性に反するものではないという考え方を明らかにする。
  • ◆ 明確な入学者受入れの方針の下,高等学校との接続や連携の面で,優れた教育実践を行っている大学に対して支援を行う。
  • ◆ 推薦入試やAO入試等について,その基本的な留意点を明確化して周知する。
    • 推薦入試・AO入試等について,調査書を有効に活用するとともに,これを補完する学力把握措置を講ずるように促す。AO入試の実施時期については,青田買い等の批判を受けないよう,実施時期のルール化を図る。
  • ◆ 高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みづくりについて,高大接続の観点からの取組を進める。
    • 調査書の活用を促進する観点に立って,その様式を見直す。また,高等学校段階での学力を客観的に把握する方法の一つとして,高等学校の指導改善や大学の初年次教育,大学入試などに高等学校・大学が任意に活用できる学力検査(「高大接続テスト(仮称)」)に関し,高等学校・大学の関係者が十分に協議・研究するよう促す。(協議・研究に際しては,大学入試センター試験や各大学の個別学力検査との関係,卒業や入学に関する各校長・各学長の責任・権限,高等学校教育に与える影響,高校生の負担感等についての配慮が必要。)
  • ◆ 大学入試に関する取組や関連データの情報公開を促す。
    • 各大学の情報公開の実施状況を調査して公表する。

2 初年次における教育上の配慮,高大連携

(1) 現状と課題

1初年次における教育上の配慮

  • (ア) 入学者選抜をめぐる環境変化,高等学校での履修状況や入試方法の多様化等を背景に,入学者の在り方も変容しており,総じて,学習意欲の低下や目的意識の希薄化などが顕著となっている。
     大学教員を対象とする調査によれば,6割を超える教員が「学力低下」を問題視し,特に論理的思考力や表現力,主体性などの能力が低下していると指摘している(図表2-33)。また,大学1年生を対象とした調査結果によれば,大学の授業に「ついていけない」,大学で「やりたいことが見つからない」等の回答が相当の割合を占めている(図表2-31)。
     こうした実態を踏まえ,大学においては,高等学校での履修状況に配慮した取組を多くの大学で行うようになってきている。とりわけ,近年では,補習・補完教育が広がりを見せつつあり,文部科学省の調査(平成18年度)では,約3割の大学で補習・補完授業が実施されている(図表2-34)。
  • (イ) 一方,新たな学校段階への移行を支援する取組として,初年次教育への注目も高まってきている。初年次教育は,「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り,学習及び人格的な成長に向け,大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく,主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」あるいは「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」として説明される。
     アメリカの初年次教育は,主体性や意欲の乏しい学生への対応策として考案されたものである。その取組が中退率を抑止する上で有効な役割を果たすとともに,その後の大学生活への適応度を規定している。
     我が国の大学においては,初年次教育として,「レポート・論文などの文章技法」,「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」,「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」,「学問や大学教育全般に対する動機付け」,「論理的思考や問題発見・解決能力の向上」,「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている(図表2-35)。
  • (ウ) 今後,学部・学科等の縦割りの壁を越えて,充実したプログラムを体系的に提供していくことが課題となるが,初年次におけるこれらの教育上の配慮を行うための前提として,当該学生の高等学校での学習状況等に関する必要な情報が,大学に円滑に引き継がれることが大切であり,高等学校との一層緊密な連携を図っていくことも課題となる。

2高大連携

  • (ア) 高等学校と大学との接続の場面においては,大学入学者選抜の点のみ焦点化されがちであるが,高等学校と大学との連携により,教育内容や方法等を含めた全体の接続が図られていくことが重要である。
     高大連携の取組により,特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒に,高等学校段階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させることや,その学習成果として生徒が大学の単位を取得し大学進学後に既修得単位として認定を受けることなどは,生徒の能力の伸長を図る上で有効と考えられる。
     また,高大連携は,個々の高等学校教員・大学教員にとって有効な研修の機会となり得るものである。大学の社会貢献機能が着目される中,大学がそれを通して地域社会に教育研究成果を還元していくことも可能になってくるものである。
     しかしながら,高大連携の取組の現状としては,いまだ散発的な状態にとどまっている。

(2) 改革の方向

  • (ア) 学校間の接続をめぐっては,高等学校が学習指導要領等に基づき,高等学校として求められる学力を保障して卒業生を送り出すこと,また,大学が,安易に学生数の確保を図るのではなく,自らの入学者受入れ方針に基づき,大学教育を受けるに足る能力・適性を見極めて入学者を判定することが本来の在り方である。
     そうした観点からは,補習・補完教育の広がりを安易に是とすることはできないが,大学として,自らの判断で受け入れた学生に対し,その教育に責任を持って取り組むことは当然であり,必要に応じて補習・補完教育や初年次教育等の配慮を適切に行っていかなければならない。
  • (イ) 高大連携の一層の推進に当たっては,個々の大学が,学生募集の観点から実施するだけでは,その普及・深化が十分に図ることはできない。大学間の協同による教育の提供など,その実質化に留意する必要がある。
     また,優秀な高校生を念頭に置いて,学問へ誘(いざな)う活動のみならず,学力が必ずしも高くない高校生に対して,大学進学の目的意識を持たせたり,入学後の補習・補完教育の負荷も軽減したりする観点からの取組も重要になってくる。同時に,高等学校における進路指導が,偏差値に偏ったものとならないよう,大学改革の状況や個々の大学の個性・特色について,一層の理解を求めていくことも大切である。
     さらに,専門的な知識や技能の効果的な向上を図る観点から,専門高校等と大学が連携して,学習の連続性に配慮した高大連携を推進することも望まれる。

(3) 具体的な改善方策

【大学に期待される取組】

  • ◆ 学習の動機付けや習慣形成に向けて,初年次教育の導入・充実を図り,学士課程全体の中で適切に位置付ける。
    • その際,大学生活への適応,当該大学への適応(自分の居場所づくり,自校の歴史の学習等),大学で必要な学習方法・技術の会得,自己分析,ライフプラン・キャリアプランづくりの導入などの要素を体系化する(例:「フレッシュマンゼミ」,「基礎ゼミ」など)。また,きめ細かな学習アセスメントを実施し,学生の現状や変化の客観的な把握に努める。
  • ◆ 大学や学生の実情に応じて,補習・補完教育の充実を図る。
    • 自ら受け入れた学生に対しては,十分な教育の責任を負うという認識に立って取り組む。ただし,高等学校以下のレベルの教育を計画する場合,教育課程外の活動として位置付け,単位認定は行わない取り扱いとする。
  • ◆ 幅広い高校生を対象に,地域の実情に応じた連携事業など,高大連携の様々な取組を一層推進する。

【国によって行われるべき支援・取組】

  • ◆ 初年次教育や高大連携などに関する優れた実践に対して支援する。
  • ◆ 補習・補完教育の充実のため,eラーニング型のシステム開発,大学間の連携による教材開発を支援する。
  • ◆ 高等学校までの学習歴に関する情報が,大学に引き継がれていく仕組みを構築する(大学から社会への移行の段階も同様)。
    • 例えば,高大接続を実効あるものとする観点から,必要に応じ,所定の資料に加えて入学者に関する具体的な情報が高等学校から大学へと引き継がれ,入学後の指導に当たって適切に活用されるよう,所要の環境整備を図る。