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第4章 高等教育の発展を目指した社会の役割

 本章では,中長期的視点(平成17(2005)年以降,平成27(2015)年〜平成32(2020)年頃まで)想定される我が国の高等教育の将来像のうち,主として高等教育の発展を目指した社会の役割に関する事項を示すこととする。

 高等教育の発展を目指した支援の在り方

 国は,教育・研究条件の維持・向上や学生支援の充実等により学習者の学習機会の保障に努めるべきである。また,学生個人のみならず現在及び将来の社会も高等教育の受益者である。このため,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
 今後,我が国においては,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近けていくよう最大限の努力が払われる必要がある。その際,厳しい財政状況や高等教育への社会の負託をも踏まえつつ,すべての関係者が,国民(イコール納税者)の理解を得られるよう説明責任を十分果たしていく必要がある。
 高等教育への財政的支援は,国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって,高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し,機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。これにより,国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担,質の高い教育・研究に向けた適正な競争が目指されるべきである。
 具体的には,1国立大学については,教育・研究の特性に配慮しつつ,それぞれの経営努力を踏まえて,政策的課題(地域再生への貢献,新たな需要を踏まえた人材養成,大規模基礎研究等)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援すること,2私立大学については,基盤的経費の助成を進める。その際,国公私にわたる適正な競争を促すという観点を踏まえ,各大学の個性・特色に応じた多様な教育・研究・社会貢献の諸活動を支援すること,3公立大学については,地域における知の拠点としての機能を発揮できるよう支援すること,4国公私を通じた競争的・重点的支援の拡充により,積極的に改革に取り組む大学等をきめ細やかに支援すること,5民間企業を含めた研究開発のための公的資源配分を大学等にも開放すること,6競争的資源配分の間接経費の充実により,機動的・戦略的な機関運営を支援すること,7奨学金等の学生支援を充実すること等が重要である。

(1) 高等教育への支援の拡充
 高等教育機関は,教育・文化,科学技術・学術,医療,産業・経済等社会の発展の基盤として中核的な機能を有する極めて重要な存在である。
 我が国の高等教育は,国公私立の三つの設置形態による機関がそれぞれの特色を発揮することにより発展してきているところであるが,中でも私立学校の比重は高く,例えば,大学・短期大学・高等専門学校の合計では学校数・学生数ともに約4分の3を占めるなど,私立学校は我が国の高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきた。また,高等教育の費用負担は,その直接的受益性に着目して,これまで家計に多くを依存してきている。現在では,国公私立を問わず学生納付金が国際的に見てもかなり高額化しており,これ以上の家計負担となれば,個人の受益の程度との見合いで高等教育を受ける機会を断念する場合が生じ,実質的に学習機会が保障されないおそれがある。国は,個人の経済状態を問わず高等教育を受ける機会を実質的に保障して「ユニバーサル・アクセス」を実現する見地から,教育・研究条件の維持・向上や幅広い教育・研究活動を安定的に行う環境の整備とともに,意欲と能力のある個人に対する奨学金をはじめとする学生支援の充実等の各般の措置を総合的に推進することにより,学習者の学習機会の保障に努めるべきである。
 また,高等教育に関しては,学生個人とともに,高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者である。このことは,高等教育がエリート段階(進学率15パーセント未満),マス段階(同15パーセント以上50パーセント未満)又はユニバーサル段階(同50パーセント以上)のいずれにある場合でも基本的に変わるものではないと考えられる。
 ユニバーサル段階では,高等教育の普及によって個人が高等教育を受けたことによる収益は低下すると一般的には考えられるが,知的なネットワークの広さと質が極めて重要な意義を持つ知識基盤社会においては,質の高い労働力や研究成果の供給による利益のほかに,層の厚い高等教育の存立そのものが経済社会全体の発展の基盤として不可欠の存在となるものと考えられる。
 このため,高等教育に要する費用は,学生個人のほかに,社会全体や産業界等も負担すべきものであり,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
 高等教育の重要性にかんがみ,各国で高等教育への投資を充実しつつある。例えば,英国では,授業料を増額する一方で,高等教育に対する財政支出の対GDP比を0.7パーセントから0.8パーセントへと増加させつつある。
 我が国においては,私立学校が高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきたという沿革もあり,伝統的に私費負担の割合が高く,高等教育に対する公財政支出の対GDP比は0.5パーセントと,諸外国に比べて極めて低い状況にある。もとより,GDPに対する公財政支出の割合や教育制度の相違など国により様々な条件が異なるため単純な比較は困難であるが,今後,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近けていくよう最大限の努力が払われる必要がある。その際,厳しい財政状況や高等教育への社会の負託をも踏まえつつ,すべての関係者が,高等教育の社会的価値や重要性について国民(イコール納税者)の理解を得られるよう説明責任を十分果たしていく必要がある。

(2) 高等教育機関の多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システム
 高等教育への国からの財政的支援は,伝統的に,(a)国立学校特別会計や私学助成による機関運営経費の措置と助成,(b)科学研究費補助金や各種の委託研究費等の研究活動助成,及び(c)育英奨学等の学生支援経費が中心であったが,それぞれの趣旨・目的は異なるものと考えられ,これら全体で高等教育へのファンディング・システムを構成するとは必ずしも明確に意識されなかった。近年は,(a)(b)の中間的な形態として(d)「21世紀COEプログラム」「特色ある大学教育支援プログラム」等の国公私を通じた競争的・重点的支援,競争的な研究資金の間接経費や国立大学法人に対する特別教育研究経費の措置,(b)(c)の中間的な形態として(e)ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)への支援,日本学術振興会特別研究員事業等が行われるようになり,支援の形態の多様化が進められてきた。
 今後の財政的支援は,国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって,高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形にシフト移行し,各機関がどのような機能に比重を置いて個性・特色を明確化するにしても,適切な評価に基づいてそれぞれにふさわしい適切な支援がなされるよう,機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。特に,国際的環境を視野に入れた支援を行うことがますます重要になっている。これらにより,国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担,質の高い教育・研究に向けた適正な競争が目指されるべきである。
 具体的には,1国立大学については,教育・研究の特性に配慮しつつ,それぞれの経営努力を踏まえて,政策的課題(地域再生への貢献,新たな需要を踏まえた人材養成,大規模基礎研究等)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援すること,2私立大学については,その多様な発展を一層促進するため,基盤的経費の助成を進める。その際,国公私にわたる適正な競争を促すという観点を踏まえ,各大学の個性・特色に応じた多様な教育・研究・社会貢献のための諸活動を支援すること,3公立大学については,地域における知の拠点としての機能を発揮できるよう支援すること,4国公私を通じた競争的・重点的支援の拡充により,積極的に改革に取り組んで成果を挙げている大学等をきめ細やかに支援すること,5民間企業を含めた研究開発のための公的資源配分を大学等にも開放し,活力にあふれた研究環境を整備すること,6競争的資源配分の間接経費を充実することにより,機動的・戦略的な機関運営を支援すること,7高等教育を受ける意欲と能力を持つ者を経済的側面から援助するため,奨学金等の学生支援を充実すること等が重要である。
 高等教育機関の財源として,学生納付金や国・地方公共団体からの支援だけではなく,民間企業や個人等からの寄附金・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源も確保し,財源を多様化することが望まれる。国はそのような努力を積極的に支援すべきである。
 このような民間企業や個人等からの支援の充実は,社会の大学に対する評価をフィードバックし,大学の社会貢献を一層促す上でも効果的と考えられる。

 高等教育の発展を目指した各方面の取組

 国の今後の役割は,1高等教育のあるべき姿や方向性等の提示,2制度的枠組みの設定・修正,3質の保証システムの整備,4高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供,5財政支援等が中心となろう(再掲)。その際,大学の自律性に十分配慮し簡素で効率的な高等教育行政となるよう留意する必要がある。
 今後,教育基本法及び教育振興の在り方が検討される際には,このような高等教育の振興方策についての考え方を十分に踏まえることが期待される。
 地方公共団体と国公私立を通じた地域の大学全体との関係については,委託研究等の産学官(公)連携の推進や学校教員の養成,公開講座の実施等につき,有機的な連携を図ることが期待される。地方公共団体が公立大学を設置し管理運営を行う場合には,例えば公立大学法人制度を活用するなどして,大学の自律性を十分に尊重しながら,より一層の教育・研究機能の強化に向けた改革努力を支援することが期待される。
 産業界は,学士・修士・博士等の学位取得者の採用・処遇に関し,それぞれの学位の種類に応じた取扱いがなされるよう,十分に配慮することが期待される。
 また,人材の流動化を一層促進し我が国社会の活性化を図るためには,産業界が社会人の大学院等への進学・再入学を積極的に支援することが重要である。
 さらに,研究開発を自社内部で完結させる「自前主義」には効率性や競争力確保の上でも限界があることから,各企業の経営・研究開発戦略において,大学との共同研究や技術移転等の産学官連携を柱の一つとして明確に位置付け,国内の大学を一層積極的に評価・活用することが期待される。
 このような産業界の取組を促進するため,高等教育機関側と産業界側の情報交換の場を設けることは極めて重要である。

(1) 国の高等教育行政の取組
 大学は国家・社会に対して一定の自律性を保持することがその本質的特徴であり,大学に対する国の関与及び支援は,国家・社会の側から見た大学の公共性に着目してなされる。公共性と自律性とは相互に緊張関係に立つが,必ずしも相矛盾するものではない(第3章1(1)(ア)参照)。したがって,関与と支援の在り方は,大学の自律性を尊重しつつも,公共性についての国家・社会の側の理解の仕方に影響を受け,また,関与の程度と社会的な評価に応じた支援が行われるのが基本となる。
 国の今後の役割は,1高等教育のあるべき姿や方向性等の提示,2制度的枠組みの設定・修正,3質の保証システムの整備,4高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供,5財政支援等が中心となろう。その際,大学の自律性に十分配慮し簡素で効率的な高等教育行政となるよう留意する必要がある。
 特に3に関して,「高等教育の質」を保証するためには,設置認可の的確な運用を基礎としつつ,認証評価制度の充実,経営状況の悪化した高等教育機関への対応,大学入学者選抜の改善,初等中等教育の充実等の各種関連施策を総合的に推進する必要がある。
 大学の自律性を保障するためには,大学の経営のための財源の多様性・安定性を確保することが是非とも必要である。学生納付金,附属病院収入,公財政支援,外部資金,寄附金,資産運用益,学校債等の各財源別に改善ないし促進方策を講ずることが重要である。
 公財政支援に関しては,多元的できめ細やかなファンディング・システムが形成されることが,大学の財政的基盤の充実とともに自律性を保障する上からも望ましい。
 今後,教育基本法及び教育振興の在り方が検討される際には,このような高等教育の振興方策についての考え方を十分に踏まえることが期待される。

(2) 地方公共団体の取組
 国公私立を通じた地域の大学全体との関係については,委託研究等の産学官(公)連携の推進や学校教員の養成,公開講座の実施等につき,大学の教育研究活動と地方公共団体の施策展開の有機的な連携を図ることが期待される。その際,地方公共団体側がその判断に基づき,受益の程度やその見通しに対応した財政的支援を行うことも有効であると考えられる。
 公立大学を設置し管理運営を行う場合には,例えば公立大学法人制度を活用するなどして,大学の自律性を十分に尊重しながら,設置目的を明確化し,それぞれの地域の向上発展への貢献のため,地域社会の様々な要請等を踏まえつつ,より一層の教育・研究機能の強化に向けた改革努力を支援することが期待される。
 構造改革特区制度を活用して地方公共団体が策定する特区計画の下での大学の設置に関して,地方公共団体には,構造改革特別区域法に基づく責務を十分果たしつつ,創意工夫に富む取組を行うことが期待される。

(3) 産業界等の取組
 学士・修士・博士等の学位取得者の採用・処遇に関し,産業界は,それぞれの学位の種類に応じた取扱いがなされるよう,十分に配慮することが期待される。例えば,博士課程の質的向上に関する大学側の努力と博士号取得者に対する企業側の処遇・活用の努力とは,同時並行的になされなければ効果は期待できないと考えられる。
 これまでの我が国では,大学や民間のシンクタンク政策研究機構等を含めた社会全体の知的セクターの形成・充実に熱心であったとは言い難い。また,近年の経済情勢の影響で社会全体の知的蓄積は危機的状況にあるとの指摘すらある。今後は,知的セクターの人材層を厚く形成するとともに,様々な分野で知的活動を行う人材が流動し,我が国社会全体の知的基盤を構成していくことが重要である。産業界は,高等教育機関をはじめとして,人材(研究者,大学教員)の受入れと送り出しを他の様々な機関との間で一層活発に行うことが期待される。
 また,高等教育機関は人材を養成し社会へ送り出すものであることから,人材(学生)の送り出しと受入れ(社会人学生)という点でも社会と双方向の関係に立つ。すなわち,産・官・政といったセクターの人材戦略が高等教育機関の人材養成に与える影響は大きいものがあり,研究面にとどまらず人材養成面でも十分な産学官連携が求められる。特に,留学生教育に多くの資源を投じてきているこれまでの状況を踏まえれば,留学生を含めた人材の活用を社会全体で真剣に図っていく必要がある。
 人材の流動化を一層促進し我が国社会の活性化を図るためには,産業界が社会人の大学院等への進学・再入学を積極的に支援することが重要である。この点に関しては,修士課程等への企業派遣の促進のほかにも,雇用関係を一旦離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して十分な処遇を用意することも期待される。
 専門職学位課程との関係では,高度専門職業人による各種の職能団体が形成ないし活性化され,専門職学位課程と密接に連携を図ることが期待される。
 また,研究開発を自社内部で完結させる「自前主義」には効率性や競争力確保の上でも限界があることから,各企業の経営・研究開発戦略において,大学との共同研究や技術移転等の産学官連携を柱の一つとして明確に位置付けることが期待される。短期的な経済情勢や国の支援策のいかんによらない持続可能な産学官連携の体制の構築が求められている。
 産業界には,国内の大学を投資対象として一層積極的に評価・活用することが期待される。各企業の合理的な経済行動に影響を与えるためには,我が国の大学の研究水準や経営状態等に関する大学側からの適時適切な情報の提供が不可欠であるが,より効率的な投資行動のため,産業界側にも最新の正確な情報を能動的に収集する努力がおのずと求められよう。こうした動きは,我が国の大学にとっての競争的環境の醸成にも大いに資するものと思われる。
 このような産業界の取組を促進するため,様々な機会をとらえて高等教育機関側と産業界側の情報交換の場を設けることは極めて重要である。また,そうした場を通じて,産業界側の意欲的な取組を評価し顕彰すること等も有効と考えられる。

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