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(2)4 高等教育の多様な機能と高等教育機関の機能別分化個性・特色の明確化

 高等教育の発展のためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校等が各学校種ごとにそれぞれの位置づけや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種においては、個々の学校が個性・特色を一層明確にしていかなければならない。
 同時に、誰もがアクセスしやすい柔軟な高等教育システムの構築に向けて、学習者の立場に立って相互の接続と連携の改善を図っていくことが重要である。
 高等教育のうち、大学は、全体として
  1世界的研究・教育拠点、2高度専門職業人養成、3幅広い職業人養成、
4総合的教養教育、5特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究、
6地域の生涯学習機会の拠点、7社会貢献機能(地域貢献、産学官連携等)
等の各種の機能を併有するが、各大学ごとの選択により、保有する機能や比重の置き方は異なる。その比重の置き方が各機関の個性・特色の表れとなり、各大学は緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。(例えば、大学院に重点を置く大学やリベラル・アーツ・カレッジ型大学等)
 18歳人口が約120万人規模で推移する時期にあって、各大学は教育研究組織としての経営戦略を明確化していく必要がある。

高等教育が果たすべき多様な機能各学校種ごとの個性・特色の明確化
 戦後の我が国における高等教育の急速な拡大により、量的側面での「ユニバーサル・アテンダンス段階の高等教育」は実現しつつある。しかし、人的物的資源が必ずしも十分でないままでの急拡大が質的充実を伴ってきたとは言い難い。また、18歳人口が低位安定期を迎え約120万人規模で推移する中では、個性に乏しい数多くの高等教育機関が単一の市場(18〜21歳の日本人フルタイム学生イコール「伝統的学生」の獲得)を巡って競争するという状況は、社会全体としての効率性に欠ける面が大きい。新時代の高等教育には、全体として多様化するとともに、学習者の様々な需要に的確に対応(複数の市場を開拓)して個々の高等教育機関が自らの資源を重点的に投入し質的な向上を図ることによって、質的側面での「ユニバーサル・アクセス」(2(1)参照。)を実現することが求められている。
 近年、教育内容の改善や充実を図って様々な改革が続いている。この結果、多様化が進む中で大学とは何かといった本質や、高等教育機関間の個性・特色の違いが不明確になってきているとの指摘がある。ユニバーサル段階の高等教育は、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校等が、各学校種ごとに、それぞれの位置づけや期待される役割・機能活かし十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種の中において各高等教育機関個々の学校が個性・特色を明確化することが重要である。
 また、各高等教育機関が個性・特色の明確化を図り、全体として一層の多様性を確保すると同時に、誰もがアクセスしやすい柔軟な高等教育システムを構築し、学習者の立場に立って相互の接続や連携を改善することが重要である。
  またさらに、高等教育機関間の連携協力による各機能の補完や充実強化も、必ずしも設置形態の枠組みには捉われずに促進されるものと考えられる。
 例えば、地域の国公私立大学間の連携によるコンソーシアム方式での単位互換制度の充実や、学問分野を超えた融合領域形成のための大学院間の連携等が考えられる。

2)大学の機能別分化
 高等教育機関のうち、大学は、全体として
  1 世界的研究・教育拠点
  2 高度専門職業人養成
  3 幅広い職業人養成
  4 総合的教養教育
  5 特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究
  6 地域の生涯学習機会の拠点
  7 社会貢献機能(地域貢献、産連携、国際交流等)
  等の各種の機能を併有する。各々の大学は、自らの選択に基づき、これらの機能の全てではなく一部分のみを保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし、時宜に応じて可変的でもある。その比重の置き方が即ち各大学の個性・特色の表れとなる。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(イコール大学の選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
 例えば、12の機能に特化して大学院の博士課程や専門職学位課程に重点を置く大学もあれば、4の機能に特化してリベラル・アーツ・カレッジ型を目指す大学もある。こうした大学全体としての多様性の中で、個々の大学が限られた資源を集中的効果的に投入することにより、個性・特色の明確化が図られるべきである。
 さらに、我が国の高等教育はユニバーサル段階を迎えつつあることから、特に(ア)の346の機能に重点を置く大学にあっては、例えば、充実したリメディアル(補習)教育の実施や、就職や他大学の学士・修士・専門職学位課程等への円滑な進学・編入学を特色とすることも考えられる。
  このように、18歳人口約120万人規模での低位安定期推移する時期にあって、各大学は教育研究組織としての経営戦略を明確化していく必要性がある。このとき、
  各大学は、「機能別分化」を念頭に、他大学とは異なる個性・特色の明確化を目指すこと。
  国や地方公共団体等は、各大学が重点を置く機能を自主的に選択できるように配慮しながら、財政面等で支援すること。
  等の点に特に注意しなければならない。
 日本の大学について、米国のカーネギー教育振興財団が行っている大学分類のように授与する学位の種類や量に応じて大学を分類することも、現状認識の一つの方法として可能である。自らの理念・目標や大学院の有無・規模等の違いに応じて、こうした様々な分類を参考としつつ、重点を置くタイプを大学が自ら選んでいく必要がある。このような努力は、各大学が志向する方向を明確にして発展を図っていることの表れでもあると考えられ、国としても、「個性が輝く大学」を推進するため各大学の努力を支援していくことが重要である。
 一方、例えば教養教育といった、大学として最低限求められる共通の要素や学位を授与される学生が最低限身につけるべき分野別に共通の要素等についての考え方を整理する必要もあり、引き続き検討する。
 特に、高等教育の中核を担う大学に関しては、教育・研究・社会貢献という使命・役割を踏まえて、それぞれに応じて具体的にどのような機能に重点を置き、個性・特色の明確化を図っていくか、各大学ごとの自律的な選択に基づく機能別の分化が必要となっている。そういう面からも、質の保証がますます重要な課題となってきている。

)様々な学習機会全体の中での高等教育の位置づけ

 今後の高等教育像を考える際には、初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。より良い教員養成の在り方についても検討していく必要がある。
 各大学は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、適切に入学者選抜を実施していく必要がある。また、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)も明確にし、教育課程の改善や「出口管理」の強化を図ることが求められる。

  1(ア)高等教育と初等中等教育との接続
 初等中等教育は、「ゆとり」の中で「生きる力」(確かな学力、豊かな人間性、健康・体力)を育む教育を推進しており、生涯にわたって学ぶことのできる自己教育力や基礎基本、個に応じた指導等を重視する流れにある。
 高等教育はその性質上、また、国際的な標準での質の保証が今後の重要な課題となっていることからも、一定の水準を確保することが強く要請される。まして特に、産業界をはじめ実社会の人材需要は「独創性」「即戦力」「基礎学力」等高度化・多様化の一途をたどっており、人生選択・職業選択の機会が年齢的に高くなる傾向の中で、高等教育を受けることによる付加価値の程度がますます注目され、高等教育段階での教育機能の重要性が指摘されている。
  高等教育は初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に、高等教育は初等中等教育の在り方に大きな影響を及ぼすものである。また、両者の接点である大学入学者選抜を取り巻く環境も、このような急速な少子化の進行等状況を背景として、大学入学者選抜を取り巻く環境も大きく変化し、私立の4年制大学のうち約3割、短大では約4割が定員割れを起こしている。中には、入学者選抜が、〔3−本章(1)で述べる「高等教育の質」の一環としての学生の質に関する選抜機能を十分に果たし得なくなってきている例も見られる。また、進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階での教育内容の多様化によって、大学入学者について一定の履修歴を一律に求めることは事実上困難となりの多様化が一層進み、このことが学生の学力の低下を招いているのではないかといった指摘もある。このような状況をも踏まえて、大学高等教育の質の確保・向上等に努める必要が出てきている。
  こうした中で今後の高等教育像を考える際にはこのような状況を踏まえ高等教育と初等中等教育との接続にも十分留意する必要がことは、今後ますます重要である。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
 初等中等教育との関連では、高等教育が初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に、高等教育が初等中等教育の学校教員の養成機能を担っているという点も極めて重要である。教員養成を担当する大学教員の確保や資質向上を含め、より良い教員養成の在り方について、今後とも検討していく必要がある。
 今後の高等教育においては、初等中等教育を基礎として、「主体的に変化に対応し、自ら将来の課題を探求し、その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力」(イコール課題探求能力)の育成が重視されよう。中でも、後述のように、学士課程教育では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うこと、修士・博士・専門職学位課程では専門性の一層の向上を目指した教育を行うことを基本として考えることが重要となろう。
 どのような学生を受け入れて、どのような教育を行い、どのような人材として社会に送り出すかは、その大学高等教育機関の個性・特色の根幹をなすものであることから、各大学機関は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、入学志願者や社会に対して明示するとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、実際の選抜方法や出題内容等に適切に反映していく必要がある。また、大学は国内外の環境の変化や激しい競争にさらされる大学がことから、このような努力を通じて、次の世代を担う者に対し、各人が学んでおくべき内容を示すという機能を果たすことも期待される。
 加えて、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)についても、各大学高等教育機関が明確にすることで、教育課程の改善やいわゆる「出口管理」の強化を図っていくことが期待さ求められる。

  2(イ)高等教育と生涯学習・社会教育の関連(含リカレント教育)
 「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会を構築するためには、各種の主体により多様な学習機会が豊富に提供されなければならない。そのうちで、質的に高度で体系的かつ継続的な学習機会の提供者として、大学等の高等教育機関が重要な役割を果たすことが期待される。
 生涯学習体系への移行、多様な高等教育機関の発展等の観点から、いわゆる単位累積加算制度(複数の高等教育機関大学等で随時修得した単位を累積して加算し、一定の要件を満たした場合、大学卒業の資格を認定して学士の学位を授与する制度)を、学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等に留意しつつ設けることについて学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等に留意しつつ、更に検討する必要が今後の重要な課題である。
 社会人の再学習需要の高まりや経済情勢・雇用形態の変化を踏まえ、企業等におけるキャリア・パス形成との関連に留意しながら、特に修士・博士・専門職学位課程でのリカレント教育に対応した履修形態等について更に検討する必要が今後、具体的な対応が求められあるよう
 我が国における短期高等教育の位置づけについて、ユニバーサル段階での新たな意義・役割や単位累積加算制度の検討との関連等に留意しつつ、明確化する必要がある。

ウ)個性・特色ある大学の機能別分化
)高等教育を取り巻く環境の変化と今後の見通し
社会人、外国人留学生、パートタイム学生等の増大学習者層の多様化
 社会人学生は特に大学院で増加してきており、通学制の大学・短大・高専(本科)に在籍する社会人学生は合計で約3万人に達している。また、留学生数は近年急増し、大学・短大・高専に在籍する留学生数の合計は平成15(2003)年度に初めて10万人を超えるに至った。
 大学等における社会人の受入れの推進については、従来より大学審議会の累次の答申等を受けて、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制の導入等の制度改善が図られてきた。更に残された制度上の課題についてはさらに、平成14(2002)年2月の答申「大学等における社会人受入れの推進方策について」において、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や通信制博士課程等の導入について提言され、これを受けて制度的な整備が図られてきている。
 今後は、生涯学習の進展に対応して科目等履修生や聴講生等の履修形態の多様化が更に進み、科目等履修生や聴講生等が一層増加するものと考えられる。また、一定のコースないし科目(群)を学んだ成果としての履修証明として、学位以外の方法が社会的に定着し、その取得を目的とする学習者も増加するものと予想される。

)情報通信技術の発達
 IT技術の発展に伴い、各家庭へのブロードバンド通信が急速に普及しつつある。これまでの通信教育は郵便やテレビ放送等を利用したものがほとんどであったが、時間の融通のきかない社会人が働きながら学んでいくためには、空間的及び時間的制約を受けない環境、例えば、在宅のまま夜間に学べる環境を整えていくことが重要な課題である。このため、今後は、IT技術を利用した履修形態、いわゆるe-Learningの役割が増加していくものと思われる。ただし、e-Learningは、知識の伝達には有効な手段であるが、これのみに頼り過ぎる余り、これからの時代にますます重要な幅広い人間性や社会性の涵養が疎かになることのないよう、十分な教育上の留意が必要である。
 通信制による高等教育は、地理的・時間的制約による通学の困難な者に対して学習機会を提供している。放送大学について、多様なメディアの活用等による更なる充実が期待される。今後は、e-Learningの普及等、情報通信技術の飛躍的な向上を背景として、通学制と通信制の境界がより連続的なものとなり、伝統的な「キャンパス」の概念にも少なからず影響を及ぼすものと予想される。

)高等教育の国際化の進展
 21世紀の国際社会は、社会・経済・文化のグローバル化一層の発展によって国際的な競争が激しさを増す社会であり、今後、高等教育機関においても海外分校・拠点の設置、外国の教育研究機関との連携、e-Learning等を通じて国境を越えた教育の提供や研究の展開等、国際的な大学間の競争と協調・協力が進展していくものと考えられる。
 IT技術の普及・ブロードバンド化に伴い、国内の高等教育機関だけではなく、海外の高等教育機関による、e-Learningを活用した高等教育の幅広い提供や情報発信・収集活動が一層活発化すると考えられる。このように、IT利用の普及等を背景に履修形態の多様化とともに高等教育の国際展開が加速すると言える。
 海外に目を転じてみれば、米国・英国や豪州といった英語圏の国々やドイツ等の高等教育機関が、東アジア・東南アジア各国に現地校を開設し、現地校のみの教育を受けることで居ながらにして本国の学位を得られるようにすることが盛んに行われ始めている。また、中国・韓国・マレーシア・シンガポール等アジアの国々でも、このような国際動向に積極的に対応し、外国の優れた高等教育機関を誘致し又はこれと連携するための施策を展開し始めている。これは、国内の進学率の急激な上昇に対応すること、また周辺国の教育拠点(ハブ)となることを目的としたものと思われる。我が国に関しても、海外の高等教育機関と我が国の機関が提携して、我が国における海外学位の授与や海外における我が国の学位の授与などが複数計画されており、制度的な枠組みの整備が急務となっている。
 以上のことは、我が国の18歳人口が減少を続ける中、各高等教育機関は国際的な競争的環境の下で個性・特色の明確化を一層進めなければならないことをも意味していると考えられる。
 なお、国境を越えて展開される大学教育の提供による学位授与の機会を拡大するに当たっては、我が国の学位の国際的通用性の確保に十分留意することが必要である。また、我が国を含めた各国の大学制度、各大学の適格認定を含めた評価、教育内容及び学位の通用性等について判断することのできるように、国際的な大学の質の保証に関する情報ネットワークを構築することが急務である。我が国は、こうした国際的な協議に積極的に参加・貢献すべきである。
 また、今後は、留学生の交流等も含めて、国境を越えて展開される我が国の高等教育による国際的な貢献という視点を常に念頭に置いていく必要がある。
 特に、学術研究分野においてアジア地域内部でのパートナーシップをどう構築していくかは、我が国の高等教育にとって大きな課題である。


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