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2. 新時代の高等教育と社会

(1) 「知識基盤社会」における高等教育の役割
 高等教育の役割は、人格の形成、能力の開発、知識の伝授、知的生産活動、文明の継承など、非常に幅広い。高等教育は、中等教育後の様々な学習機会の中にあってその中核をなし柱となり、社会を先導していくものである。
 21世紀の「知識基盤社会」の特質として、例えば、
1知識には国境がなく、グローバル化が一層進む、2知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間無く生まれる、3知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要となる、4性別や年齢を問わず参画することが促進される
等を挙げることができる。教育は、このような社会の変化に的確に対応していく必要がある。
  このようなこれからの「知識基盤社会」においては、高等教育を含めた教育は、個人の人格の形成の上でも社会・経済の発展や国際競争力の確保という国家戦略の上でも極めて重要である。国際競争が激化する今後の社会では、個々の高等教育機関ばかりではなく、国の高等教育システムないし高等教育政策そのものの総合力が問われることとなる。国は、将来にわたって高等教育につき責任を負うべきである。また、個々の高等教育機関や学生・企業等の関係者も、十分な自覚を持って困難な時代に立ち向かう努力と気構えが必要である。
 知識基盤社会においては、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展の基盤となる。そのため、高等教育における教育機能を充実し、創造性・独創性に富み卓越した指導的人材を幅広い様々な分野で養成・確保することが重要である。
 また、活力ある社会が持続的に発展していくためには、指導的人材の他に、専攻分野についての専門性を有するとともに、幅広い教養を身に付け、高い公共性・倫理性を保持しつつ、時代の変化に合わせて積極的に社会を支え、あるいは社会を改善していく資質を有する人材イコール「21世紀型市民」を多数育成していかねばならない。

(2) 「知識基盤社会」における高等教育の中核としての大学
  高等教育の中核をなす大学は将来の全人格的な発展の基礎を培うためのものであり、技能や知識の習得のみを目的とするのではないという大学教育の基本的特性を明確にすべきである。また、大学教育(学部段階・大学院段階を含む)としてのコア部分の整理を通じて、「大学とは何か」ということも明確化すべきである。
 「大学とは何か」を明確にし、今後の高等教育の展開を考えていく上で、学校教育法第52条に規定する大学の目的の単一性と実際の大学の多様性との関係をどう整理するかが重要となる。
 19世紀ドイツ以来の「フンボルト的大学観」は我が国の大学の在り方に大きな影響を与えてきた。この考え方は、研究と教育を一体的に結合させるという大学の本質を明確にする役割を果たしてきたものの、大学人を第一義的に研究者であると自己規定し、研究成果の披瀝が最高の教育であるとする考え方は、主として少数エリートに対する大学教育の時代想定前提として成立するものであり、21世紀の今日ではもはや歴史的意義を有するに止まるのではないか。フンボルト以外にも注目すべき大学観として、例えば、オルテガが1930年頃のスペインの社会状況を前提として大学の使命を1教養教育 2専門職業人養成 3「それに加えて」科学としたものや、米国のクラーク・カーが著書「大学の効用」(1963年初版)の中で現代の大学を教育・研究・社会サービスの多機能を持った「マルチバーシティ」と考えたこと等が挙げられる。大学観も時代や社会状況に応じて変貌していくべきものと考えられる。
 大学は歴史的には教育と研究を本来的な使命としてきたが、我が国の大学に期待される役割も変化しつつあり、現在においては、大学の社会貢献(地域社会・経済社会・国際社会等、広い意味での社会全体の発展への寄与)が強調されるようになってきている。当然のことながら、教育や研究それ自体が長期的観点からの社会貢献であるが、近年では、公開講座や産学官連携等を通じた、より直接的な貢献が求められるようになっており、こうした社会貢献の役割を、言わば大学の「第三の使命」として捉えていくべき時代となっているものと考えられる。
  このような新しい時代にふさわしい高等教育大学の位置づけ・役割に関し、社会人受入れの推進等の生涯学習機能や地域社会・経済社会との連携も視野に入れる必ていくことが重ある。
  こうした人材の育成とともに、社会の発展、文化の興隆や国際競争力の源泉となるのは、活発な学術研究である。

(3) 高等教育と社会との双方向の関係:高等教育の危機は社会の危機
 学術研究の高度化、学習需要の多様化、社会の価値観の変化、国際化・情報化の進展等の中で高等教育が今後ともその役割を十分に果たすためには、各高等教育機関が競争的環境の中でそれぞれの個性・特色を明確にし、全体として多様な発展を遂げていくことが必要である。
 しかし、高等教育が近年の社会の変化に真に対応できているのか、質的低下を招いているのではないかといった点については、大いに課題がある。
 今こそ、大学における教養教育の充実、大学院の充実、グローバル化への対応、短期高等教育の多様化、グローバル化への対応など、我が国の高等教育を時代の牽引車としてふさわしいものへと変革していかなければならない。
 特に、人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、優れた人材の養成は更なる発展のために不可欠であり、高等教育の危機は社会の危機でもある。しかしながら、我が国の高等教育は伝統的に私費負担の割合が大きい。また、民間のシンクタンク等を含めた知的セクターの形成・充実にも社会全体で熱心であったとは言い難く、近年の経済情勢の影響で社会全体の知的蓄積は危機的状況にあるとの指摘すらある。
 今後の我が国が社会の危機を回避し、活力ある発展を続けるためには、高等教育が自らを変革しつつ社会の発展に寄与すると同時に、高等教育の受益者は学生個人のみならず社会全体であるという視点を踏まえ、社会の側がこれを積極的に支援するという双方向の関係の構築が不可欠である。
 このような観点から、公財政支出の抜本的拡充及び民間資金の積極的導入による財政支援とともに、産業界等による学生の採用時期・方法の工夫や適切な評価に基づく処遇など、高等教育の発展を支える各方面の取組も必要である。

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