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資料1
中央教育審議会
大学分科会(第30回)H15.12.18




薬学教育の改善・充実について(報告)要旨
− 中央教育審議会大学分科会 薬学教育の改善・充実に関するワーキング・グループ −


検討の経緯

   薬学教育の改善・充実については、「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」(平成14年9月設置。以下「協力者会議」。)において議論が行われ、平成15年8月に「中間まとめ」が提出。
   協力者会議における検討を受けて議論の整理を行うため、同年10月に大学分科会のもとに「薬学教育の改善・充実に関するワーキング・グループ」が設置され、薬学教育の修業年限延長、大学院教育の在り方等につき、3回にわたって検討。

1:薬学教育の修業年限について

   薬剤師の養成のための薬学教育については、学部段階の修業年限を4年から6年に延長。
   多様な分野に進む人材の育成のために、現行の4年間の学部・学科の存置も認める。

2:設置基準等について

[6年制学部]
   6年制学部の卒業要件は186単位以上。早期卒業は不可。
   専任教員数は、教養教育、専門教育及び実務実習の充実を考慮した増員が必要。
   学位は「学士(薬学)」。なお4年制学部卒業者には「学士(薬科学)」等。

[6年制学部を基礎とする大学院]
   博士課程のみ。標準修業年限4年以上。修了要件は30単位以上の取得と論文審査。
   学位は「博士(薬学)」。なお、4年制学部を基礎とする大学院の学位は「修士(薬科学)」「博士(薬科学)」等。
   入学資格は6年制学部卒業者と同等以上の学力がある者にも認める。また「飛び入学」も可。

3:その他

   実務実習期間の大幅な延長に伴う実務実習受け入れ・指導体制の整備。
   共用試験の実施。
   第三者評価のシステムの整備。




薬学教育の改善・充実について
(報告)


平成15年12月18日
中央教育審議会大学分科会
薬学教育の改善・充実に関する
ワーキング・グループ







   薬学教育の改善・充実については、「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」(平成14年9月24日、高等教育局長裁定により設置。以下「協力者会議」という。)において議論が行われ、平成15年8月29日、その「中間まとめ」が文部科学省高等教育局長宛に提出されたところである。
   「中間まとめ」では、1医療技術や医薬品の創製・適用における科学技術の進歩、医薬分業の進展など、薬学をめぐる状況が大きく変化してきている中、薬剤師を目指す学生には、基礎的な知識・技術はもとより、豊かな人間性、高い倫理観、医療人としての教養、課題発見能力・問題解決能力、現場で通用する実践力などを身につけることが求められていること、2このため、各大学において教養教育を充実しつつ、モデル・コアカリキュラムに基づく教育を進めるとともに、特に臨床の現場において相当期間の実務実習を行うなど、実学としての医療薬学を十分に学ばせる必要があること、3各大学がモデル・コアカリキュラムに基づく教育に加えて、それぞれの個性・特色に応じたカリキュラムを編成することが必要であること、4こうした様々な要請に応えるには、薬学教育の現状の修業年限(4年間)は薬剤師養成には十分な期間とは言えず、今後は、6年間の教育が必要であることが、提言されている。
   また、同「中間まとめ」では、教育制度の在り方として、薬剤師養成のための薬学教育は6年間の学部教育を基本とするが、多様な人材の養成といった薬学教育の果たす役割にも配慮して4年間の学部教育も必要である、と述べている。
   本ワーキング・グループは、協力者会議における検討を受けて議論の整理を行い、大学分科会における検討に資することを目的として設置された。ワーキング・グループでは、これまで3回にわたり、大学における薬学教育の修業年限延長及びこれに伴う大学院教育の在り方等について検討を行った。その結果を下記のとおり報告する。




1.    薬学教育の修業年限について
   大学における薬学教育は、近年の医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴う医薬品の安全使用や薬害の防止といった社会的要請に応えるため、教養教育や医療薬学を中心とした専門教育及び実務実習の充実を図るとともに、これらを有機的に組み合わせた教育課程を編成して効果的な教育を実施しうるようにする必要がある。また、現在厚生労働省において行われている薬剤師国家試験受験資格の見直しの検討において、当該受験資格を得るための教育は6年間の学部教育を基本とする旨の提言が行われている。さらに、諸外国における薬学教育の実施状況を見ると6年間の教育が行われている例が多い。
   以上を踏まえ、今後、薬剤師の養成を目的とする薬学教育については、学部段階の修業年限を4年から6年に延長することが適当である。
   なお、現在、薬学教育においては、薬剤師の養成のみならず、薬学に関する研究、製薬企業における研究・開発・医療情報提供、薬事衛生行政など、多様な分野に進む人材を育成している。これは、我が国の薬学が基礎研究を出発点として発展してきたという歴史的背景によるものであり、特に薬学研究においては世界的にも高い評価を得ている。このため、薬学系の基礎教育を中心とした教育を行う現行の修業年限4年の学部・学科を存置することを、併せて認めることが適当である。
   6年制の学部においては、「中間まとめ」で述べられている「モデル・コアカリキュラム」を参考にしながら、各大学において教養教育、医療薬学及び実務実習の拡充が図られる必要がある。4年制の学部においては、基礎薬学を中心としつつ、特に薬学の研究者を目指す者に対しては、近年の学問の発達に対応したカリキュラムの充実が図られることが望まれる。

2.    設置基準等について
   6年制学部に係る大学設置基準等及び6年制学部を基礎とする大学院に係る設置基準等については、以下のとおりとする。

(1)    大学設置基準等について
   卒業の要件
   卒業の要件は、大学に6年以上在学し、186単位以上を修得するものとする。
   なお、早期卒業は認めないことが適当である。これは、6年制学部においては、薬剤師の国家資格取得に直結した教育が行われること、人格的により成熟した段階で知識のみならず十分な技能・態度を有する専門的な人材を養成するという教育上の必要性があること、及び教育課程において実習の占める割合が高く学習に要する時間に個人差が少ないこと等から、修業年限未満の在学期間での教育課程の修了及び卒業を認めることは適当ではないと考えられるためである。

   専任教員数
   修業年限の延長に伴い、教養教育、専門教育及び実務実習の一層の充実が求められることを考慮して、専任教員数については、それぞれの教育内容に応じた増員を行う必要がある。

   学位の名称
   6年制学部を卒業した者に対して授与する学位の名称は、「学士(薬学)」とすることが適当である。
   なお、4年制学部を卒業した者に対して授与する学位は、これと異なる適切な名称(例えば、「学士(薬科学)」など)とする必要がある。

(2)    大学院設置基準等について
   大学院の課程
   6年制学部に基礎を置く大学院の課程は、博士課程のみとし、前期、後期の区分を設けないものとする。その標準修業年限は4年とする。

   修了要件
   6年制学部を基礎とする大学院博士課程の修了の要件は、大学院に4年以上在学し、30単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、当該大学院の行う博士論文の審査及び試験に合格することとする。
   ただし、優れた研究業績をあげた者については、大学院に3年以上在学すれば足りるものとする。

   学位の名称
   6年制学部を基礎とする大学院博士課程を修了した者に授与する学位の名称は、「博士(薬学)」とすることが適当である。
   なお、4年制学部を基礎とする2年の修士課程又は5年の博士課程(前期課程、後期課程の区分を設ける場合は、2年の前期課程と3年の後期課程)を修了した者に対して授与する学位は、これと異なる適切な名称(例えば「修士(薬科学)」、「博士(薬科学)」など)とする必要がある。

   入学資格
   6年制学部を基礎とする大学院博士課程の入学資格は、6年制学部を卒業した者を原則とするが、これと同等以上の学力がある者にも入学資格を認めることが適当である。
   また、6年制学部に4年以上在学し、大学院を置く大学の定める単位を優秀な成績で修得したと認める者を、当該大学の大学院に入学させるいわゆる「飛び入学」の制度を認めることが適当である。なお、この制度の適用により大学院に早期進学した後、進路変更等により薬剤師免許の取得を希望する者に対しては、学部再編入を認めることとするなど、柔軟な対応が各大学においてなされることが期待される。

3.    その他
(1)    実務実習の受け入れ体制・指導体制の整備について
   実務実習は、調剤や服薬指導等の薬剤師の業務を学生が実際に体験することにより、医療の現場において薬剤師の果たすべき職責の重要性を認識させ、医療人としての職業倫理や責任感を身につけさせるものである。これを、教養教育や医療薬学教育と有機的に組み合わせて実施することにより、薬学生としての自覚を促すことが重要である。
   実務実習については、「実務実習モデル・コアカリキュラム」を踏まえたカリキュラムを各大学が策定し、実習を実施することとされており、医療の担い手としての薬剤師の養成という観点から、充実した実務実習が実施される必要がある。特に、医療現場等における医師・歯科医師・看護師を含めたチーム医療に積極的に参加するとともに、医薬品の安全管理・危機管理能力の育成に努めることが必要である。
    「実務実習モデル・コアカリキュラム」では、実務実習の期間は相当程度の期間(おおむね24週間程度)を要するものとなっており、現状の2週間から4週間程度の実務実習の期間が大幅に延長されることとなる。
   このため、指導体制の整った十分な病院・薬局を確保するための体制を構築する必要がある。
   また、各大学においては、実習先の病院・薬局との十分な連携体制を図るとともに、実務実習を行う学生に対して適切な指導を行う必要がある。さらに、実習の実施を支援する職員等、教員以外の職員体制の充実にも留意する必要がある。

(2)    共用試験の実施について
   相当程度の期間の実務実習が行われることから、実習を行う学生の質の確保が重要である。このため、「中間まとめ」では、実務実習の開始前に、学生の実務実習に必要な基本的な能力(知識・技能・態度)を適切に評価するための共用試験の実施について提言が行われており、これに沿った具体的な検討が進められるべきである。

(3)    第三者評価について
   中央教育審議会は、「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」(平成14年8月5日答申)において、大学に関する第三者評価制度の導入を提言した。これを受けて学校教育法第69条の3において認証評価機関による評価が規定され、全大学が「大学の教育研究等の総合的な状況」についての評価(いわゆる「機関別評価」)を受けるものとされた。他方、専門分野別の第三者評価の実施も規定されたが、その対象は、第三者評価の必要性が特に強いとされた法科大学院等の専門職大学院に限られている。上記答申においては、このように限定を行わざるを得なかった理由につき、「現在直ちに多くの分野で専門分野別第三者評価が実施できる状況にはない」とされている。
   他方で、医療人の養成を目的とする分野は、国民の命を守り、健康を確保するという重大な任務を負う人材を養成することになるため、他の分野と比較した場合、その教育研究等の状況に係る第三者評価の必要性が高いと考えられる。薬学においては特に、修業年限の延長の趣旨を踏まえ、各薬系大学・薬学部の教育課程において、教養教育、医療薬学及び実務実習が充実され、資質の高い教員による教育が行われることを確保する必要がある。
   こうした状況にかんがみ、大学における薬学教育の質の保証を図るため、修業年限の延長に併せ、早急に第三者評価のシステムが整備される必要がある。このため、薬学教育の関係者のみならず、その他の大学関係者、職能団体や企業の関係者等の参画も得つつ、第三者評価機関の組織、評価の基準、方法等につき、十分な検討が行われる必要がある。




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