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ドイツ高等教育大綱法改正の概要

ドイツ「高等教育大綱法」の改正
(1985年第3次改正〜2002年8月第6次改正)
(1)   制定の経緯
  学生紛争をきっかけに1960年代後半に始めて各州は高等教育法を制定した。1969年の連邦共和国基本法(憲法相当)改正で「高等教育制度の一般的原則」に関する大綱的立法権が与えられ,1975年に各州の高等教育法の最大公約数的全体像として高等教育大綱法が制定された。
(2)   第6次改正までの経緯
第3次改正(1985年)
  多様化による競争促進を目的として,個性的な高等教育の発展を促すこととし,管理運営面では学長制以外の形態を加え制度的充実を図り,入学者決定を認め裁量権の拡大と教育責任の強化を行った。
第4次改正(1998年8月)
  高等教育の効率向上により競争促進・多様化・国際化を目指すことを目標とし,1組織運営の柔軟化2業績評価の重視3入学者決定システムの修正4国際化を基軸とした学修構造の再編等の改正を行った。
第5次改正(2002年2月)
  教員制度改革として,若手研究者向け準教授職の新設及び助手相当の職種の廃止に向けた条件整備とともに大学教授資格を廃止し若手研究者の採用を促す条件整備を行った。同時に,業績給を導入した。
(3)   第4次から第6次改正までにおける主な改正点
1 組織運営の柔軟化
  既存の極めて詳細な管理運営・教育研究組織等の規定を大幅に簡素化し,高等教育機関の法的形態及び自治権,州による監督の規定のみとした。
2 業績評価の重視
  予算配分への業績主義の導入,機関評価の実施
3 入学者決定システムの修正
  自校選抜方式の拡大
4 国際化を基軸とした学修構造の再編
  学修規定と試験規定の弾力化,単位制の導入,学士及び修士学位の導入,長期在学問題の対策強化
5 若手研究者養成を基軸とした教員制度の再編
  準教授の新設と助手相当職の廃止,大学教授資格の廃止,教授任用条件の変更,学内昇進の一部許容,博士志望者への組織的対応の充実
6 その他
  授業料徴収に関する規定,学術分野への女性進出支援


ドイツ「高等教育大綱法」の第4次〜第6次改正の概要


1. 組織運営の柔軟化
  従来,管理運営・教育研究組織等について極めて詳細に規定されていた。以下の規定を削除し大幅に簡素化され,州および高等教育機関の裁量権が拡大した。
1   国(州)との関係について,国の業務と他の業務との一体的管理,特定の国の任務の遂行に係わる行政監督,特定事項に関する州と高等教育機関の協力
2   高等教育機関内の管理運営組織について,学内組織に関する一般原則,高等教育機関の統轄,中央合議制機関の使命
3   教育研究組織について,学部,共同委員会,共同学修部,教育研究施設,教育研究支援施設
高等教育機関の管理運営に関しては,以下の規定のみとなった。
1   高教育機関の法的形態及び自治権
2   州による監督

2. 業績評価の重視
  基本的に州立の高等教育機関の財政は,大部分が州予算により賄われているが,高等教育行政への業績主義導入を明確にした。具体的な実施方法は示していないが,予算配分への反映も規定した。連邦政府は業績に基づく学内予算配分も促している。
  また,高等教育機関の評価の実施を新たに規定し,評価指標として教育・研究実績,若手研究者の養成,男女同等の地位確保の実現程度などを列挙している。教育に関する評価活動については学生の参加も規定した。

3. 入学者決定システムの修正
  第3次改正により,適性審査などによる高等教育機関による入学者選抜(自校選抜)が認められたが,医学部などの一部の専攻に限られていた。第4次改正では,自校選抜を連邦全体の入学制限を実施する学修課程の入学定員の20%にまで拡大した。

4. 国際化を基軸とした学修構造の再編
  EU統合に伴う学修構造の共通の枠組みが模索されるようになっている。
(1) 学修と試験の弾力化
  第4次改正において,授業時間の割合,年間学修計画と授業の提供等の詳細な学修構造に関する規定を大幅に簡素化した。
  修了資格の同等性を確保できるように試験規定を制定することを定めていたが,各州が学修成果,試験成果等の同等性を保証することに配慮するという規定に変更した。また,試験の目的,試験実施教員,試験官人数等の規定が削除された。
(2) 単位制の導入
  転学や留学の際の便宜を図るために,学修成果の証明として新たに単位制度を導入することを規定した。単位制としては,EU学術交流プログラム「エラスムス」が導入した単位互換制度を用いることとしている。
(3) 学士及び修士学位の導入
  従来からの第一学位であるマギスターとディプロームは,ドイツ固有の学位であることから国際的流通度が低く外国で就職する際に不利になることが,懸念されてきた。学士と修士は,それまで外国大学と協定等を交わした大学に限って認められていたが,第4次改正では試行として一般の高等教育機関にも認め,第6次改正では一般的な学修課程として認められた。
(4) 長期在学問題の対策強化
  標準学修期間を大幅に超えて滞留する長期在学が,高等教育項財政支出を圧迫してきたため,第4次改正では在学期間短縮をする具体的な措置が講じられた。
1   「試し撃ち」制度の導入:高等教育機関修了には,2回しか受験できない修了試験または国家試験等への合格が必要であった。そこで,在学期間短縮化のため適当と見なされる課程では標準学修期間内の受験は受験回数に含まない「試し撃ち」制度を規定した。
2   標準学修期間の再設定:従来からある標準学修期間を高等専門学校は最高4年,大学では原則として4年半と改めて設定した。
3   中間試験による進級管理の強化:標準学修期間が4年以上の専攻では,新たに規定した基礎課程修了時の中間試験への合格を本課程への進級要件とした。

5. 若手研究者養成を基軸とした教員制度の再編
  第3次改正では助手相当職種を増やす若手研究者救済措置を講じたが,独立的な研究が可能となるまで長期間を要する体制に変化はなかった。第5次改正では,優秀な若手研究者が外国や民間企業へ流出する傾向に対する新たな歯止め策が講じられた。
(1) 準教授の新設と助手相当職の廃止
  3年任期制の準教授職を新規に設置し独立的な研究活動を認め,独立した教育・研究活動が認められていない助手相当職を廃止した。準教授の採用に際して,博士号の取得期間と学術協力者としての期間との合計が6年(医学は9年)を超えてはならないと規定した。連邦政府は準教授の採用年齢を平均33才と見込んでいる。
(2) 大学教授資格の廃止と任用条件の変更
  大学教授資格を廃止し,準教授在職経験を原則的な教授任用条件と新たに規定した。準教授在職経験に代わり外国あるいは大学以外での研究実績も認めている。
(3) 学内昇進の一部許容
  原則として禁止されていた学内昇進を一部緩和し,任期付き準教授の終身雇用教授への昇進を認めた。なお,施行後8年で現役教授50%の退職が予測される。
(4) 博士志望者への組織的対応の充実
  第5次改正は,博士志望者に関して規定し,学籍登録・高等教育機関の学術的指導・研究指向学修の提供などを定めた。
(5) 教員への業績給の導入
  州公務員である大学教員の給与には俸給体系が適用されてきたが,大綱法の第5次改正とともに教員の給与を定める連邦俸給法が改正され,教授の給与を,固定額の基本給と業績評価に基づく業績給から構成することを定めた。

6. その他
(1) 授業料に関する規定
  第6次改正で初めて,第一学位取得までの高等教育の無償制を定めた。ただし,特別の場合には各州が授業料徴収できるとする例外規定を設けたため,完全無償制に引き戻す実効性はなく,長期在学者に対する授業料徴収をいくつかの州が検討している。
(2) 学術分野への女性進出支援
  第3次改正における女性研究者の不利の除去を目指す規定に続き,第5次改正では,男女同等の地位確保の実現への財政配分の反映,定期的評価,学術分野への女性登用促進等の諸規定を具体的に加えた。


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