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I 基本的な考え方
     
  1. 検討の前提(国立大学の法人化を検討する場合に、まず前提とされるべき基本的な考え方の整理)
     
    前提1:「大学改革の推進」
       国立大学の法人化は、閣議決定でも確認されているとおり、大学改革を推進するための一環として検討が行われるべきものである。
   すなわち、この問題は、行政機能のアウトソーシングや、運営の効率性の向上、透明性の確保といったいわば行政改革の視点を越えて、教育研究の高度化、個性豊かな大学づくり、大学運営の活性化など、従来からの大学改革の流れを一層促進し、活力に富み国際競争力のある大学づくりの一環として検討することが前提となる。
   また、そのためには、現在の国立大学に、単に法人格を付与するとか、既存の法人制度の枠組みに単純に当てはめるといった消極的な発想ではなく、予算、組織、人事など経営面での諸規制が大幅に緩和され、大学の裁量が拡大するといった法人化のメリットを大学改革のために最大限に活用するという積極的な発想に立って、新しい国立大学の姿を模索する必要がある。
   さらに、国立大学の法人化が、国立大学だけの改革にとどまらず、我が国の大学全体の活性化と教育研究の高度化に真に資する契機となるためには、その前提として、国公私を通じて、第三者評価に基づく重点投資のシステムの導入など競争原理の導入や効率的運営を図りつつ、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援を拡充することが不可欠である。
     
    前提2:「国立大学の使命」
       国立大学の法人化に当たり、法人化のメリットを最大限に活用した新しい国立大学像を模索する一方、国立大学が本来果たすべき使命や機能を、いかに従来以上に十全に実現させ得るかという観点が、検討の前提として必要である。
   国立大学に期待される使命や機能については、すでに大学審議会答申等でも整理されているが、国立大学は、今日まで我が国の学術研究と研究者養成を担ってきたほか、全国的に均衡のとれた配置により、地域の教育、文化、産業の基盤を支え、学生に経済状況に左右されない進学機会を提供するなど、重要な役割を果たしてきている。
   もちろん、こうした使命や機能は、公私立大学等との関係において常に相対的なものであり、また、時代の変化や社会の要請を踏まえて変化していくものである。また、個々の国立大学ごとに、置かれている状況や条件によって、期待される使命や機能の内容に相当の幅が存在することも否定できない。
   しかし、国立大学の果たすべき使命や機能は、法人化それ自体によっては大きく変化するものではない。むしろ、21世紀の我が国の「知」の基盤を支えるため、国立大学への期待がますます高まる中で、各大学ごとに期待される使命や機能の一層の明確化とその確実な実現が従来以上に強く求められる。
   同時に、タックスペイヤーたる国民や社会の意見が大学の運営に適切に反映されるとともに、大学の運営の実態や教育研究の実績に関する透明性の確保と社会への積極的な情報提供がなされ、これを基礎に大学の在り方が適正に検証されるなど、国民に支えられ、最終的に国が責任を負うべき大学にふさわしい法人像を模索する必要がある。
     
    前提3:「自主性・自律性」
       前提の3点目としては、これも閣議決定で確認されているとおり、大学としての自主性・自律性を尊重するとともに、各大学における運営上の裁量を拡大していくことが必要である。
   およそ大学の教育研究活動は、大学の設置形態に拘わらず、教育研究者の自由な発想や、大学人自身による企画立案が尊重されることによって、初めて真に実りある展開と発展が見られるものである。したがって、法人化後の新しい国立大学像の設計に当たっては、前提2で指摘した「国民に支えられ最終的に国が責任を負うべき大学」にふさわしい法人像との調和を図りながら、大学としての自主性・自律性が十分に尊重される制度であることが、当然の前提となる。
   また、前提1のように、法人化により国立大学の改革を推進していくためには、財務、人事、組織編制など、制度設計の様々な面で、公私立大学の扱いとの均衡に留意しつつ、大学としての円滑な運営に障害となるような日常的な規制はできるだけ緩和し、運営面での各大学の裁量を拡大することが必要である。
   さらに、法人化は、国立大学の多様化に途を拓くべきものである。公私立大学等との使命や機能の分担にも十分留意しつつ、法人化を契機に各国立大学の特色や個性を一層伸ばす観点から、大学独自の工夫や方針を活かした柔軟な制度設計ができるだけ可能となるよう特に留意すべきである。
     
  2. 検討の視点(法人化を契機に、国立大学がどのように変わるのか、どのような大学を目指すのか、という基本的な視点の整理)
     
    視点1:世界水準の教育研究の展開を目指した個性豊かな大学へ
       これからの国立大学は、人材育成や学術研究面での国際競争が一層激しくなる中で、国からの財政投入によって支えられる大学として、国立の名にふさわしい、世界水準の教育研究の展開を目指すべきである。
   また、地域にあっては、公私立大学等との連携・協力・支援関係を一層深めつつ、地域の発展基盤を支える教育、研究、文化の拠点としての機能の充実強化に努めるべきである。
   各大学は、国立大学として期待される使命や機能を認識しつつ、置かれている状況や条件を踏まえ、大学独自の理念や目標、個性をより明確にし、大学としての存立の意義を明らかにしていくことが求められる。その上で、個々の理念や目標の実現を目指して、教育研究を多様に展開し、個性豊かな大学として発展していかねばならない。
   関連して、各国立大学ごとの将来の在り方、存立の意義等を検討する中で、未来に向けての多様な発展と運営の基盤強化等を目指し、国立大学間や学部等の再編・統合を大胆かつ積極的に進める必要がある。
     
    視点2:国民や社会へのアカウンタビリティの重視と競争原理の導入
       これからの国立大学は、国民に支えられる大学として、国民や社会に対するアカウンタビリティを重視した、社会に開かれた大学を一層目指す必要がある。
   このため、教育研究、組織運営、人事、財務など、大学運営全般にわたって、透明性の確保と社会への積極的な情報の提供に努めるべきである。
   また、大学運営に高い見識を持つ学外の専門家や有識者の参画により、国民や社会の幅広い意見を個々の大学の運営に適切に反映させるとともに、社会の多様な知恵を積極的に活用し、大学の機能強化を図っていく姿勢が重要である。
   同時に、大学の運営に当たって、教育研究のサプライ・サイドからの発想だけではなく、学生、産業界、地域社会などのデマンド・サイドからの発想を、常に重視する姿勢も重要であり、特に教育の受け手たる学生の立場に立った教育機能の強化が強く求められる。
   さらに、国立大学における教育研究の世界に、第三者評価に基づく競争原理を導入すべきである。このため、厳正かつ客観的な第三者評価のシステムを確立し、各国立大学の教育研究の実績に対する検証を行うとともに、評価結果に基づく重点的な資源配分の徹底を図るべきである。
     
    視点3:経営責任の明確化による機動的・戦略的な大学運営の実現
       これからの国立大学は、法人化により経営面での権限が大幅に拡大するなど、大学運営における自主性・自律性が拡大することに対応して、大学運営における権限と責任の所在の一層の明確化を図るべきである。
   また、拡大する経営面の権限を活用して、学部等の枠を越えて学内の資源配分を戦略的に見直し、機動的に決定、実行し得るよう、経営面での学内体制を抜本的に強化するととともに、学内コンセンサスの確保に留意しつつも、全学的な視点に立ったトップダウンによる意思決定の仕組みを確立することが重要である。
   同様に、各学部等においても、全学的な運営方針を踏まえつつ、学部長を中心とした意思形成の仕組みを導入すべきである。
   関連して、学長など大学運営の責任者に学内外から適任者を得るための方法を確立するとともに、学内における教育、研究、運営等の適切な役割分担による諸機能の強化を図る必要がある。

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