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資料  5
中央教育審議会大学分科会
留学生部会(第8回) H15.6.11

平成15年6月11日
五百旗頭眞専門委員資料

21世紀人材計画

―21世紀の世界的先端水準をこなし
社会各分野をリードする日本人人材の育成計画―

1    趣旨

   日本は、非西洋世界のなかで最も早く近代化に成功し、先進社会の一員となった国である。その秘密は、外部文明の長所や強味を鋭敏に察知し、それを速やかに学びとりつつ、活用・応用し、さらには外部の本元を凌駕する発展を追求する日本人の意欲と能力にあった。そのようなロマンを象徴するのが、明治国家がまだ発足したばかりというのに、新政府要人たちが大量に欧米へ出かけた岩倉使節団であろう。それには40名の留学生が随行していた。
   明治国家がめざましい近代化に成功しながら、昭和の日本が戦争に沈んだ後、敗戦日本は改めて教育を重視した。「子供たちにりっぱな教育だけは与えたい」との希いがどれほど多くの親たちに共有されていたことであろうか。食うや食わずの中でも、次の世代への知的・文化的投資を最重視する。これは国家百年の計を想い、伸びて行くことを約束されている国民の姿である。この気概ことが、戦後日本の経済国家としての成功を支えた根本要因ではなかったか。
   1980年代頃、日米欧はほぼ平準化し、それぞれ先んじた局面と遅れた部分があると認められる事態となった。明治の岩倉使節団以来の欧米に学びキャッチ・アップするという壮大な課題はほぼ達成されたといえよう。だが、もっぱら学ぶべき段階は終わったとの認識もしくは気分には、大いなる陥穽がひそんでいる。ひとつには、「もっぱら学ぶべき段階が終わった」ことは、互いに旺盛に学び合うべき局面の到来を意味する。なぜなら、世界の各分野における先端部分は、互いに刺激し学び合いつつ、猛然たるスピードで進展を競っており、「もう他国に学ぶものはない」と日本が自足感情を持った瞬間から、国際先端水準よりの後退を招来するからである。
   今日の日本は、外国人留学生を迎えることにかなり力を入れ、よい条件の制度を用意している。また、国内で勉学する日本人にも、日本育英会奨学金の段階から学術振興会特別研究員の制度へと展開して、かなりの基盤を提供するようになった。けれども、日本人学生・院生の外国への留学については、フルブライトなど他国や民間に多くを委ね、国家的事業としては重視していない。
   今後の日本が最も必要とするのは、国際的な先端水準を若い時期にこなしたうえで社会の各分野をリードする人材である。従来の追いつき型の局面を越え、各分野の国際的なコミュニティとのやりとりを通して、共通の課題に対処しつつ、日本の変革・再建を行うのが急務となっている。そのための人材を育成するため、とりわけ社会・人文分野における有為の若者を留学させる充実した制度を、国家戦略的な課題として樹立すべきである。
   もちろん、今後とも日本の人材の圧倒的多数は日本国内で教育を受けた者に担われるであろう。それを否定するのではなく、それに外国での先端的研究をこなした者をミックスすることが肝要である。政治、官僚、ジャーナリズム、実業、NGO/NPO、学問など、多くの分野がそのような人材を必要としている。


2    実施内容

(1) 社会・人文分野において強い志をもつ大学卒業予定者、大学院生、大学卒業後5年以内の社会人を、2〜3年で100名、留学させる。
(2) 留学先は、各分野において世界の先端的な研究教育が行われている機関であり、大学院修士号、博士号取得を基本とする。
(3) 留学機関は、各課程に必要な年限に加え、1年以内の準備期間、学位取得後2年以内の応用的活動(実務体験や比較研究など)を合わせうるものとする。


3    実施主体

(1) 本計画は、内閣の下に独立行政法人を設けて実施する。事務局が官僚主義の幣に陥らぬよう、情熱をもつ専門スタッフを集め育成することに留意する。
(2) 視野と見識に恵まれた約10名の委員から成る長期戦略委員会において、本留学制度の基本方針を審議、決定する。
本委員会はまた、激動する内外の状況にあって特に新たな人材を必要とする分野を3年毎に決定し、それにもとづき、あらたな講座、研究所、基金、財団等を設けるなどの措置を国に勧告する(たとえば、アジア地域機構、国際経済制度、紛争予防、地球環境政治など)。
(3) 長期戦略委員会の下に、留学生選考委員会を設ける。慧眼と公正さを保障するため、委員の分布や任期に留意する。


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