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資料5−2

法科大学院年次計画履行状況調査の結果等について(平成17年度)

1. 調査の目的等
   年次計画履行状況調査(以下、「アフターケア」という。)は、各法科大学院の教育水準の維持・向上及びその主体的な改善・充実に資することを目的として、文部科学省告示(注1参照)に基づき、文部科学省が、設置認可後、当該認可時における留意事項(設置基準の要件は満たしているが、一層の改善・充実が必要と認められた事項)、授業科目の開設状況、教員組織の整備状況その他の設置計画の履行状況について、各法科大学院から報告を求め、書類、面接又は実地により調査するものである。
 なお、文部科学大臣は、公私立大学の設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、学校教育法第15条に基づき、改善勧告や変更命令などの是正措置を講ずることができることとされており、是正措置の発動に当たり必要があれば、当該大学等に対して報告又は資料の提出を求めることも可能である。国立大学についても同様に、法令違反等の状況が判明した場合には、国立大学法人法に基づき、是正措置要求などの措置を講ずることができることとされている。
 アフターケアの本来の目的は設置計画の履行状況を調査することであるが、仮に調査の過程で法令への適合性に疑義が生じた場合は、大学設置・学校法人審議会としてこれを指摘し、文部科学大臣の判断により、これらの是正措置等を段階的に講ずることもあり得るものである。

2. 実施体制及び実施方法
   大学設置・学校法人審議会大学設置分科会では、今年度、運営委員会の下に「年次計画履行状況等調査委員会」を設置し所要の調査審議を行うこととしたが、法科大学院については、新たな法曹養成の中核を担うものであるという制度の特質を踏まえ、特に専門的な調査を実施する必要があることから、昨年度に引き続き「法科大学院特別審査会」(別紙1)に付託し、調査に当たった。なお、法科大学院については特に、制度の重要性にかんがみ、学年進行が完成する年度までに全ての法科大学院の実地調査を実施するとの方針をとっている。
 実施方法として、まず、昨年度と同様に全ての法科大学院(74大学)(別紙2)を対象に書面調査を実施した。今年度は、書面調査の実効性を向上させるため、「履行状況報告書」に加え、これを裏付ける詳細な「補足説明資料」の提出を求めることとした。
 書面調査の結果、昨年度付した留意事項への対応が十分でない法科大学院(10大学)及び認可後に公表された新司法試験の選択科目への対応等のため認可時の計画から授業科目やその配当年次を比較的大きく変更したなどの法科大学院(18大学)の計28大学について、実地調査を実施した。また、平成16年度に開設した法科大学院(実地調査対象大学を除く。)のうち、法学既修者の受入れ割合の高い23大学について、面接調査を実施した。

3. 総合所見
   全体的に見れば、昨年度に引き続き、各法科大学院でそれぞれが設定した理念・目的を実現するために、教育課程の質的充実・改善を軸に、設置計画に沿った種々の創意工夫ある取組を継続的に行いつつあるとともに、昨年度付した留意事項への対応にも努力している状況であることがうかがわれる。
ただし、項目別所見で指摘するとおり、学生の入学状況、教育課程の運営状況、成績評価の状況、教員組織の整備状況、自己点検・評価などについて一部に課題を残している大学がある。中でも、ファカルティ・ディベロップメント(教育内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)(以下、「FD」という。)については、多くの法科大学院が更なる努力を要する状況にあると思われる。
 今後、各法科大学院においては、認可時の留意事項なども踏まえつつ、設置計画の確実かつ円滑な履行に努めていくことはもとより、学生のニーズ等にも的確に対応しつつ、法科大学院にふさわしい教育水準の確保と向上のため、一層の創意工夫が期待される。
 今年度の調査結果を踏まえて留意事項を付したものは、別紙3のとおりである。このうち、平成16年度開設の2大学については、特に教育研究活動全般を通じ格段の充実を図るよう求めており、学年進行の完成する平成18年度を迎えるに当たって、当該大学における真剣な取組を強く望みたい。
 なお、昨年は、信州大学の法科大学院の設置申請に際して、申請書類に虚偽の記載が行われた事実が判明し、当該大学の設置計画について、再度法令・基準への適合性を確認する手続をとらざるを得ない事態が生じた。このようなことは誠に遺憾であり、今後、当該大学において再発防止策を講じることはもとより、各法科大学院においても、法曹養成を担う教育機関としての使命を改めて自覚し、法令遵守はもちろんのこと、倫理意識の確立・強化に一層努めるよう、あえて付言しておきたい。

4. 項目別所見
   各調査項目ごとにその全般的な状況を示すと、以下のとおりである。

(1)  学生の入学状況
   昨年度は、入学定員との関係で入学状況に課題のある大学が相当数見られたが、今年度も、入学定員を大きく下回っている法科大学院(2大学)、法学既修者の受入が当初構想よりも著しく下回っている法科大学院(1大学)があった。ただし、こうした入学状況は、教育の質を維持する観点から、当該大学がどのように入学者選抜を行う方針であるかという要因に起因する場合もある。また、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れる観点から、各法科大学院においては、法学系以外の学部出身者や社会人等が入学者の3割以上となるよう努めるものとされているが、今年度これを下回る大学もあった(2大学)。
 さらに、今年度は入学定員を大きく上回って学生を受け入れている例はなかったが、昨年度から2年連続で入学定員を超過しているところが見られた(16大学)。少人数教育や双方向・多方向授業の実施など、法曹養成を担う教育機関として求められる教育水準を確保するため、定員管理については、特に厳格な対応を求めたい。
 各法科大学院の入学志望者の状況は、流動的であるが、入学者選抜方法等の一層の改善・工夫に努めてもらいたい。また、ごく一部ではあるが、入学者選抜方法等に変更を加えながら、その情報の事前開示が不十分であった例も見られたので、そのようなことのないよう、適切な対応を求めたい。

(2)  教育課程の運営状況
   各法科大学院において、おおむね設置計画どおりに開設・運営されている。ただし、大学によっては、以下のような課題も見られる。
1  授業科目の一部が、法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の各科目群に適切に分類・整理されていない。
2  特に展開・先端科目について、教育効果を考慮すると配当年次の変更が不適切であったり、学生の履修状況に偏りが見られる。
3  法学未修者の受入が多い法科大学院では、特に、双方向・多方向の授業をどのように実施するのかなどの検討を要し、運営面での改善・工夫が望まれる。
 実地調査を実施した法科大学院では、その規模にかかわらず、おおむね少人数教育によるきめ細かい履修指導体制がとられており、授業等に対する学生の満足度も総じて高い状況であった。その上で、今後更に充実を図るべき点として、以下のようなものが挙げられる。
1  従来の法学部教育における一方的な講義形式からいかに脱却するか、法学未修者を対象とした授業において双方向・多方向的手法をどのようにとり入れるかなど、授業運営上の工夫。
2  大規模校におけるクラス分け、同一科目の教員間の授業内容・方法、教材の利用等についての十分な検討・調整。
3  現職の社会人が多い法科大学院にあっては、十分な自習時間の確保、学修負担の考慮、個々人の状況に応じた履修指導などが必要であり、例えば長期履修制度の導入など、履修形態の在り方についての検討。
4  進級制度の整備や修了試験の趣旨の明確化。
 なお、昨年度も指摘したとおり、法律基本科目に関して、正課外として、特別の講座を開設している法科大学院が依然見受けられる。確かに法律基本科目の履修の充実は重要であるが、法科大学院制度の趣旨を踏まえれば、正課外では学生の自主的学習に委ねるべきであるとの位置付けを明確にするとともに、新司法試験対策に偏することなく、本来の教育課程に沿った運営が強く望まれるところである。
 これとともに、基礎法学・隣接科目や展開・先端科目の履修などを含む、幅広い知識を修得させるための工夫・努力が一段と求められる。

(3)  成績評価の状況
   各法科大学院では、各授業科目の成績評価に当たり、定期試験、授業への出席状況や授業態度、課題の提出状況その他の日常の学生の授業への取組と成果を評価するなど、各授業科目の多元的な成績評価に加え、あらかじめ学生に各年次終了時に望まれる到達度を明示し、その水準に達していない場合にはその段階以降の授業科目の履修を認めないこととしている法科大学院が多数である。
 今年度の調査では、実地調査及び面接調査において、対象校から、成績評価の結果・成績分布状況等についても提出を求めた。これらの資料を検討すると、成績評価に関しては、授業科目間での成績分布のばらつきが存在し、それを是正するため、特に、1客観的・統一的な基準の明確化、2学生に対する成績評価基準の事前提示、3成績評価基準の厳格な運用、その方法の検討などの面で、更なる工夫・改善を要する法科大学院が少なからず見受けられた。
 厳格な成績評価・修了認定は法科大学院制度の根幹であり、後述するFDへの取組とあわせて、教員間で十分な共通理解を確立し、組織的な取組を一層強化・充実していくことが必要である。

(4)  教員組織の整備状況
   設置計画に沿って、おおむね整備・補充が図られている。ただし、専任教員の平均年齢が著しく高い大学や年齢構成に偏りのある大学が依然若干数あり、早期の対応が待たれる。
 また、学年進行に伴い学生数が増加することを踏まえ、教員の教育負担面への配慮の方策や、教育効果を勘案したクラス規模の縮小など、中・長期的な視点からの教員組織の整備・充実を図っていくことが必要と思われる。
 なお、ごく一部の法科大学院であるが、法律基本科目につき、理論的教育を担う専任教員の配置が行われていない状況が見られた(2大学)ため、引き続き、早急な対応を要請した。

(5)  FDへの取組状況
   大多数の法科大学院でFDに関する各種委員会(会議)が設置され、組織の整備が図られつつある。ただし、教育内容・方法の改善・充実(例えば、双方向・多方向授業の工夫、同一分野の授業科目間の連携、科目ごとの予復習時間の適切な確保など)について、取組が必ずしも十分でない状況も見られ、一層実効性のある活動や組織的な取組が望まれる。また、教員間には、授業に取り組む姿勢や意識に依然格差があり、専任教員だけでなく、兼任・兼担教員を含め、教員相互の授業参観を制度化するなど、教員の意識の啓発をはじめ、FDの今後一層の充実が期待される。こうしたFDの取組は、理論的教育を担う教員と実務家教員との協調体制を確立する上でも極めて重要である。
 なお、FDの一環として、学生による授業評価アンケートはほぼ例外なく実施されており、一部には、その結果を組織的に分析し、教員相互に情報を共有するとともに、授業の改善策を公表するなど積極的な取組を行っているところも見受けられる。一方、アンケートの実施時期や回収率などの基本的な面で課題の残る法科大学院も見られ、また、アンケート結果への対応を個々の教員の判断に委ねるにとどめているため、教員間で対応に差が生じるなど、なお組織的な取組が十分ではないところもある。学生に対してアンケート結果を効果的にフィードバックすべく、今後、授業の改善策を含め、その結果等を広く公表するなど取組の一層の充実・工夫が望まれる。

(6)  自己点検・評価への取組状況
   大多数の法科大学院で内部組織として法科大学院独自の自己点検・評価委員会を設置し、具体的な点検項目・内容等について検討を進めている。ただし、一部には、独自の委員会等を設けず、全学的な委員会における取組にとどめていたり、委員会等を設置していても具体的な活動が十分でない状況が見受けられた。今後、認証評価などを視野に入れつつ、法科大学院として独自の自己点検・評価体制を整備し、実質的な活動を展開していく必要がある。

(7)  施設・設備の整備状況
   施設・設備は、設置計画に沿って順次整備が進められている。全法科大学院が専用施設(講義室、演習室、自習室、図書室など)を有しており、そのほとんどがパソコンやデータベースの利用などの環境面にも配慮している。自習室や図書室の利用時間の拡張など、工夫も施されつつある。特に小規模校では、学生専用の机、ロッカー等が整備されており、学生の満足度も高い状況であった。
 なお、図書については、基本的な図書・雑誌・判例集の充実、貸出しルールの明確化などの面に関し、学生からの改善要望意見が少なからず見受けられた。この面での環境の整備は、継続的に図られていく必要がある。

5.  今後の取組
   法科大学院特別審査会では、実地調査未実施の法科大学院すべてについて、来年度中に実地調査を実施する予定である。また、今回付した留意事項への対応が十分でない法科大学院に対する実地調査も、従来と同様、来年度も行うこととしている。
 法科大学院特別審査会では、本年度の調査結果を踏まえ、今後、各法科大学院に実施が義務付けられている「認証評価」(注2)との有機的な連携が図られるよう、来年度の調査の実施に向けて、調査報告書の様式等の一層の改善・充実を図り、各法科大学院の特色を活かした主体的な取組を支援・促進していく方針である。

注1  文部科学省告示第50号(抄)
 大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第33条の規定に基づき、新たに大学院等を設置する場合の教員組織、校舎等の施設及び設備の段階的な整備について次のように定める。
 平成15年3月31日
(1・2略)
3  文部科学大臣は、大学院等の設置又は課程の変更を認可した後、当該認可時における留意事項、授業科目の開設状況、教員組織の整備状況その他の年次計画の履行状況について報告を求め、必要に応じ、書類、面接又は実地により調査することができるものとする。

注2  学校教育法第69条の3(抄)
(1・2略)
3  専門職大学院を置く大学にあつては、前項に規定するもののほか、当該専門職大学院の設置の目的に照らし、当該専門職大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況について、政令で定める期間ごとに、認証評価を受けるものとする。ただし、当該専門職大学院の課程に係る分野について認証評価を行う認証評価機関が存在しない場合その他特別の事由がある場合であつて、文部科学大臣の定める措置を講じているときは、この限りでない。


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