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22.設置審査における視点の明確化について

(平成16年11月4日大学分科会配付資料)

平成16年11月4日

大学設置・学校法人審議会長
相澤 益男


「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」について

1  本報告書が、「高等教育の危機は社会の危機」として、大学の質的低下などに警鐘を鳴らしている点は時宜を得たものと考える。今後、その危機的な状況に関する分析の充実を図り、広く社会的な理解が得られるよう、一層の工夫を期待したい。

2  本報告書が、質保証の観点から、「設置認可の重要性と的確な運用」の節を設けて強調している点は、評価できる。設置認可制度の大幅な弾力化により、大学の設置が益々容易になってきている中、その成果の一方、少子化に伴う学校経営の環境変化などを背景に、海外におけるディグリー・ミルの問題は我が国においても「対岸の火事」とは言いがたい状況に向かいつつあると考える。学習者保護のためには一定の事前関与が不可欠であり、「ディグリー・ミルからの防壁」として、設置認可制度の意義を改めて確認することが重要である。設置認可と事後の第三者評価それぞれの担う役割・機能は、元来異なるものであって、必ずしも代替可能ではない。その意味では、今後の望ましい質保証システムの在り方の表現としては、報告書中の「双方の適切なバランス」よりも、「相互の有効な役割・機能分担(協調)」の方が適当ではないか。

3  本報告書が、大学選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰することの問題点、「情報の非対称性」などについて触れ、市場万能主義に依拠すべきでないことを明記した点は、非常に重要である。また、若年層への教育サービスは、本人の人生において、人間形成や能力開発の面でかけがえのない時間を費やす営みであり、我が国の将来を担う10代の進学希望者等に十分制度的な配慮をすることが社会の理解を得られないとは考えられない。この点について、一層わかりやすく説得力ある記述によって、社会により広く問題の所在が示されるようにする必要がある。

4  近時の大学の設置審査に当たっては、大学及びその設置構想が多様化する中、「大学とは何か」という根本的な問題に直面し、判断に苦慮する局面が少なくない(別紙「最近の設置認可をめぐり論議のあった課題の例」参照)。本報告書は、「機能別分化」について指摘しているが、高等教育機関の概念とその中における大学の位置づけや専門学校等との関係、学校教育法第52条に表された大学の目的や基本的要件の在り方などについて、より一層審議が深められることを期待したい。思うに、「大学」は、人類の長い経験と叡智に基づき、概ね国際的に共通した概念が形成されてきた存在であり、それと著しく乖離するものを「大学」と呼ぶことはできない。高等教育を担う機関は「大学」に限られるものでないが、それらとの関係は教育の質の優劣ではなく、こうした国際的な「大学」の概念に適合するかどうかの相違である。「大学の質」を単に市場に委ねるのみでは済まない所以もここにあると考える。

5  本報告書では、「大学」という存在が、学問の研究と教育の双方を担うこと、教養教育を担うものであることを確認しているが、「大学」を構成する教員の観点からすれば、普遍的な真理の探究を使命とする研究者が中心となって研究を行うとともに、単に目前の実際生活上の技能に止まらない、幅広い知識や態度を教えることのできる、自律的な組織体制が整っていることが必要である。大学の設置構想が多様化する中、こうした機能が担保されるよう、事前の設置認可や事後の評価の在り方について、より具体的な改善策あるいはそのための検討課題を提起してはどうか。例えば、今後の設置審査あるいは事後の評価における観点として改めて明確にし、必要に応じてルール化を図るべき事項としては、次のようなものがあると考える。このように「大学の質」に関わる要件を明確化することは、多様な主体が参入して健全な大学間競争を活発に行うための環境整備として、欠かせないものと考える。

<明確化すべき観点、ルール化を図るべき事項の例>
1  学位を授与する機関として、教員組織中、博士号など相応の学位所有者を相当程度含むこと(※ 米国では授与する学位の上位の学位所有者が中心となることが一般的)
2  研究対象とする学問分野を明らかにし、当該分野の研究者教員を置くこと
3  「専任教員」については、一定の授業時間を担当するなど大学の教育研究や管理運営について相応の責任を負うこと
4  「実務家教員」を教授とするためには、当該実務に関する公的資格、顕彰など第三者の評価を経た顕著な実績が必要であること
5  自らの設置の趣旨・理念に即して教養教育の実施方針・内容を明示・公表すること(学士課程等)

6  教育や研究の高度性を確保する上では、教員組織のみならず、施設・設備その他の環境も重要である。特に、IT化など時代の変化に即して、図書館などの教育研究環境の具備すべき最低条件を改めて検討し、事前の設置審査あるいは事後の評価の指針を設けることの重要性についても本報告書で言及することが望ましい。

7  本報告書は、大学の「機能別分化」について記しているが、個性化・特色化を促進する観点からは、設置認可申請や自己点検・評価に当たって、各大学が、自らの重点的に担う機能と、その機能に関わる教育研究上の具体的な目標を明示することが重要であり、そうした目標を達成する可能性や実際の達成度について検証することが、事前・事後を通じた効率的な質保証システムの在り方として望ましいと考える。換言すれば、各大学の設置認可申請書は、その大学の社会的使命・責任に関する宣言、約束として位置づけられるものであり、設置審査とは、当審議会と申請者との「対話」を通じて、宣言の実行可能性や約束の信頼性を確認する手続過程である。

8  設置認可制度については、これまでも幾多の改正が重ねられてきている。特に、平成15年度の制度改正による学部・学科等の設置に係る届出制の導入に伴い、社会の要請に応じた機動的・弾力的な教育研究体制づくりが促進されたことは評価でき、今後、円滑な運用の確立を図っていくことが重要である。
 その一方で、安易な構想も見受けられるなど、質保証の面で懸念の存することも否定できない。相応の時間をかけて、申請者との「対話」によって設置構想における問題点を是正し、その内容を充実させていく認可制度の仕組みは欠かせず、当面、届出制の範囲を拡大すること等については慎重に対処することが望まれる。なお、将来的には、第三者評価制度が確立された場合、評価機関の評価結果等を踏まえて、当該大学に係る認可・届出事項の範囲を見直す等の工夫も考えられるところであり、その参考となる海外の状況(例えば米国の州の設置認可制度やアクレディテーションの仕組に関する変遷や試行錯誤の動き、直面している課題など)について情報収集を進めていくべきである。本報告書では、規制緩和の意義に触れると同時に、こうした届出制の在り方についても言及することが必要である。

9  また、私立大学等については、それぞれの建学の精神に則った自主的な運営により、社会の多様な要請等に応えつつ個性豊かで特色ある教育研究を行う高等教育機関としてその役割を果たしているが、日本の大学教育の3/4を担う高等教育機関を設置する学校法人が安定的・継続的な経営を行っていくことは、今後の高等教育の発展に大きな役割を果たすものであり、また、学生が安心して教育を受ける環境を確保する観点からも極めて重要である。今般の私立学校法の改正においては、学校法人の管理運営制度の改善強化と説明責任の強化が図られ、さらに財務情報の公開が義務付けられたところであり、学校法人の管理運営及び財務状況の審査である法人審査については、これらを踏まえて十全に実施することが必要である。当審議会としても、学校法人による虚偽の申請によって認可がなされたという最近の不祥事を重く受け止めており、より厳密な審査に努めることとしている。さらに認可後の学校法人の経営状況を注視し、その上で経営安定のための指導・助言体制の整備を一層図る必要があると考えているが、その旨も言及することが適当である。

10  「高等教育の質の保証」の観点から、「教育内容・方法、財務状況等に関する情報の開示」について指摘している点は、当を得たものと考える。質の保証を実効あるものとするためには、公的な設置認可や第三者評価だけでなく、大学自らの積極的な情報開示が不可欠である。その観点から、情報公開のより具体的な在り方として、インターネットによる情報公開の推進の必要性、さらに、公開すべき内容の例について盛りこむことを望みたい。インターネットにより公開すべき内容の例としては、自らの社会的使命・責任に関する宣言、約束とも言うべき設置認可申請書や学部・学科等の設置届出書、学則などの基本的な情報が挙げられる。こうした情報公開の推進を通じて、大学の様々な事務手続の簡素化・合理化を図っていくこと、設置審査の透明性を高めていくことは重要である。「約束の遵守」こそが市場での選択や健全な競争を成り立たせるための基礎的条件でもあり、設置審査と事後の情報公開はそれを担保する仕組みとして不可分である。関連して、「事前規制から事後チェックへ」という流れも踏まえ、開学から完成年度までの間における設置計画の履行状況について的確に調査・把握し、その結果を公表する体制を整えることの重要性に関しても言及することが適当である。

11   「高等教育の質の保証」は、公的な制度やシステムによる以前に、「大学コミュニティ」による自律的・自主的な改善の努力やモラル、ピアレビューによって支えられるものである。これらの重要性は、大学の在り方が多様化し、社会に対して開かれたものとなっていく中にあっても変わるものでない旨、より強調してはどうか。「大学とは何か」という問題も、国内外を通じた「大学コミュニティ」自身の共通認識やコモンセンスを捨象しては論ぜられない。大学の成り立ちからして求められる要素や事柄は多々あり、それらを全て法令等の形式により網羅・表現しようとすることは不可能であり、また適切でもない。多様化する設置構想を受けて、新しい大学を「大学コミュニティ」に迎え入れ、知識社会の基盤を形成していくためには、前記「8」でも述べたように、相応の時間をかけた申請者との「対話」を通じて、大学として求められるものを個別具体的に明らかにしつつ、個性・特色と国際通用性とを兼ね備えた大学の誕生を支援していく営みが欠かせない。

12  社会の変化は急速であり、大学改革は不断に推進していく必要がある。制度改正の検証も遅滞無く進めていかなければならない。しかし、一方では、学校教育の性格上、一定の修業年限があり、教育の成果として卒業生を送り出し、その卒業生の活躍をもって社会の評価を受けるには相応の時間も必要となる。言い換えれば、改革に携わる者には、その効果と課題を的確に検証し、示す義務があるのであり、目まぐるしく制度の改正を進めるだけでは、無用の混乱やコストを生じさせることになる。質保証のシステムの在り方を論ずる場合においても、拙速に陥らず、十分に最近の制度改正に関する検証を行うことが求められる。また、当面する課題である株式会社立大学の問題についても、構造改革特区制度の下で開学したばかりの事例の評価に相応の時間を要することは論を待たない。こうした大学改革の推進に当たって一般的に留意すべき点についても言及することが望ましい。


(別紙)

最近の設置認可をめぐり論議のあった課題の例


 教育目的・内容が資格取得や技能の習得に特化している構想について、それを「大学」と位置づけ得るか。
(学校教育法第52条)

 専門学校や学部とのレベルの相違が不明確な構想について、それを「専門職大学院」と位置づけることができるか。
(学校教育法第65条)

 報酬や担当時数が過小である場合や、企業経営者などの本務を他に有する場合などに、それを「専任教員」と言えるのか。
(大学設置基準第12条)

 研究業績を有しない「実務家教員」が大部分を占めるような「大学」があり得るか。
(学校教育法第52条、大学設置基準第7条)

 教授・助教授・講師の差異をどのように考えて適格性を判断するのか。
(大学設置基準第14〜16条)

 教員審査に当たって、専門学校・予備校での教育経験、実務家としての業績をどのように評価するか。
(大学設置基準第14〜16条)

 正規学生数に対して科目等履修生が過大な場合の取扱いをどう考えるか。
(大学設置基準第31条)

 研究室が大部屋で狭隘、教員研究費が過小など、研究環境に問題がある場合の取扱いをどう考えるか。
(大学設置基準第36条)

 大学図書館などの保有図書数が過小な場合の取扱いをどう考えるか。
(大学設置基準第38条)


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