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資料2
 
パートタイム学生、社会人学生の受け入れと大学の役割について
 
立命館大学総長   長田豊臣
   
I. 生涯学習課題をめぐる状況
  1. 社会的な関心の高まり
       生涯学習課題への対応は、21世紀における大学の担うべき主要な機能のひとつであり、従来の学歴偏重型の社会から、各個人が自らの必要に応じて生涯学習を進めることができ、かつその成果を活用して社会に参加する仕組みを構築することで、より豊かな社会づくりに貢献していくことが重要である。高等教育機関に対して、社会人のための学習機会の拡充や、新たな情報通信手段を活用した高等教育機関等による学習機会の拡充、大学・高等学校における学校外での学習成果の認定の拡大等、具体的な対応が求められている。さらに通信衛星等を活用した公開講座・大学院レベルの遠隔教育実施の促進、生涯学修成果の認証を行うための仕組みの検討等を具体的に提起し、社会全体として生涯学修の成果を正しく評価し、その人のキャリアとして認めていく仕組みづくりを目指すべきである。
     
  2. 大学における社会人受け入れの状況
       生涯学習社会への関心が高まる中で、大学が社会人を受け入れる環境はここ数年で大きく変化しつつある。その特徴のひとつは、社会人のニーズが学部教育から大学院教育へ重点移動していることである。
   ここ10年間で社会人特別入試を実施している大学学部は、89年に139であったのがその後一貫して増加し、98年には616に達している(約4.4倍)。同様に大学院研究科における社会人特別入試は、89年の63から98年には536へと増加した(8.5倍)。
   また、学部における科目等履修生受け入れ大学数が92年から97年の6年間で4.4倍(116→511)に拡大する中で、科目等履修生の在学生数は5.8倍(2,119→12,213)となっており、受け入れ枠の拡大以上に受講生数が増加している状況である。
   
II. 立命館大学の社会人学生受け入れの状況
     1900年に夜学の京都法政学校から出発した本学は、一貫してパートタイムの学生の教育に努めてきた。とりわけ96年度から昼間主に社会人受け入れの定員を設け、独自入試を行い、新たな段階を切開いてきた。
  1. 学部における社会人独自の入学定員と独自入試
       今日のわが国における受験システムの下では、就学を希望する社会人の入学は極めて難しい。そこで本学においては、社会人独自入試を行うなど、多様な入学制度をおきつつも、教育の質を担保して同一水準で卒業できるようにしている。
      1    法学部、文学部、経済学部、経営学部の4学部において1学年80名計320名、4学年で総計1,280名(立命館大学の2001年度学則定員総計26,385名)の社会人を独自入試にもとづいて受け入れている。なお、政策科学部、産業社会学部においても定数は定めていないが社会人を受け入れている。
      2    試験は「社会人自己推薦」(志望動機を中心とした小論文と面接)、「社会人1教化型」、「協定企業・団体推薦」、「スカラシップ」(18〜23歳の勤労青年入試)、「社会人編入」の5種類の入試を春と秋の年2回実施している。
       
   うち、京都府・京都市などの協定企業・団体(53)からの推薦入学は毎年20名前後である。
     
  2. 社会人学生の履修実態・学生生活状況
    (1) 社会人学生の構成、学業成績の状況
         社会人学生の構成は多様で、定年退職後や子育てを終わった人々が生涯教育として入学する人、この中には勉学が深まるにつれてさらに大学院へ進む人もいる。また税理士、公認会計士、司法書士などの資格取得のために法学部や経済学部、経営学部に入学する者、また最近では一部ではあるが長い浪人生活の上23歳となり、社会人入学する者もいる(本学では社会人入試の受験資格として23歳以上としている)。
   他方で、社会人学生の若年令化が進んでいる。2000年度中間主社会人4回生のうち20代の占める割合は28%であるが、1回生の同様の割合は60%に達している。この傾向は特に男子学生に顕著に見られる。
   学業成績の状況は、全回生で総取得単数、GPAとも高くなっており、総じて良好な学修状況であるといえる。しかし一方で例えば第1期生の社会人学生のうち4年間で卒業に至った学生はほぼ半数(56%)にとどまっており、職業や家庭環境の中での学びの厳しさも現れている。
    (2) 社会人学生の履修実態、昼夜開講制
         卒業要件ならびに成績評価は一般学生と同様。ただし、一般学生では必須となっている外国語は選択制としている。
   従来の一部(昼間)二部(夜間)制度を改め、昼夜開講制を広げてきたが2001年度から全面昼夜開講制とし、本人の希望で主として昼間で学ぶのか、夜間で学ぶのかを選択できるようにした。結果、就業構造の変化もあり夜間主を選択した学生も約7割の科目を昼間時間帯で学んでいる。夜間主社会人学生で、夜間主のみで履修している学生は4割弱であり、他は何らかの形で昼間主科目の履修をしている状況がある。その動機は、昼間主科目履修者のうち「勤務の都合」、「科目に興味があった」と、勤務形態そのものが多様化する中で昼夜開講制を活用している実態や、夜間主時間帯に縛られず、興味に沿って昼間主科目を履修している実態が伺える。職業の分布においても、昼間主時間帯での学習が可能な層が一定部分を占めている。
   一方、昼間主社会人学生の夜間主科目履修は43%であり、履修単位数も3分の2が10単位未満となっている。その理由は、「勤務の都合」よりもその科目に興味があった学生が上回っている。社会人学生が、昼夜開講を活用しつつ自らの興味に沿って学習していること、また勤務実態の多様化の中で昼夜開講制を活用して学んでいることがわかる。他方で、夜間主のみで学ばざるを得ない学生も一定数存在しており、依然として夜間主のみで卒業できるカリキュラムがその役割を果たしていることもうかがえる。
     
  3. 大学院
       大学院においても社会人独自入試を行ない、現在、修士課程422名、博士課程37名(学則定員2,700名)の受け入れを行なっている。この間の社会人の受け入れは、98年度に志願者数162名(合格者数109名)、2001年度には志願者数242名(合格者132名)と、増加の傾向にある。
   また、本年度開設した応用人間科学研究科は入学定員50名のうち半数を社会人から受け入れる制度を実施している。看護学校の教員が修士の学位を取得するため、また医療や福祉機関で働く人が臨床心理士の資格を取得するために入学してくるケースが多い。
   経済学研究科、経営学研究科、法学研究科などでは最近、税理士、公認会計士、司法書士、司法試験の受験のためなど資格取得を目的とする人が圧倒的に多い。その点で、今後の大学院前期課程については、それらの目的に合致するプロフェッショナルスクールの整備が求められている。
   なお、近年、本学ではファイナンスや国際課税など最新のテーマにもとづく特定分野に特化した研究シンポジウムを東京、大阪で開講しており、企業の担当者などが数多く参加している、これらの分野で現職を対象とした大学院教育が求められている。
   また、立命館アジア太平洋大学に設置しようとしているビジネススクールにはエグゼクティブコースの設置を検討している。
     
  4. 学費ならびに奨学金
       社会人学生のために、最初から4年以上で卒業する計画(希望)をもつ学生は4年間の通常学費総計を希望する年限(5年など)で分割して納めることができるようにしている(毎年320名の入学者の内40名程度の学生が申請し認められている。途中からの変更・辞退者がいるので現在123名)。また勤労青年(18〜23歳の就労青年)奨学制度を設け、学費の4割減免制度を実施している(272名)。
   本学においては、一般・社会人の区別なく成績優秀者等(上位5%)に対して、学費の半額減免の奨学制度(417名)を設けているが、社会人から22名が受賞している。
     
  5. 社会人学生のための独自プログラム、その他
       臨床心理学などを中心とした「総合人間学プログラム」(12科目)を学部枠を越えた社会人対象プログラムとして開講しており、928名が受講している。滋賀県草津キャンパスにおいては、同じく社会人学生を対象に、情報処理を中心とする「社会人講座」(4科目)を開講し、176名が受講している。また働きながら学ぶ社会人の修学上の便宜をはかるため、放送大学を受講した場合に本学の単位に認定する制度を設けているが、現在の登録者数は延べ195名である。
     
  6. 非正規学生の受け入れ
       科目履修生(単位認定)745名、聴講生(単位認定は行なわない)426名、大学コンソーシアム京都のシティーカレッジ(市民講座)受け入れとして143名、また協定にもとづきJR西日本職員の1年研修プログラム(毎年8名、正規開講科目を上限36単位受講)を受け入れている。
   
III. 今後の社会人学生受け入れ課題の展開方向
    (1) 大学院を含む生涯学習課題へ
      1 大学院教学における生涯学習課題への対応
           全国的には、例えば昼夜開講制を実施している大学院は154大学院にのぼる。個別の対応でも、サテライトキャンパスを開講している大学院は40、土・日開講大学院は42、通信制を開設している大学院は6という状況である。また教育訓練給付制度の適用を受け、科目等履修生として社会人の積極的な受け入れを図っている大学院も2001年度当初には15を数える。社会人受け入れを軸とした大学院展開は既にひとつの大きな流れとなっている。
   今後も、1大学への全入化が進む中で、学位取得の面からも社会人の需要が大学院に移行すること、さらに2社会の高度化の中で、様々なリカレントを目指す社会人の関心が高度な教学内容を提供できる大学院に移っていくことが当然予想される。
      2 考えられる検討課題
       
   高度職業人養成、資格取得などを軸とした社会人対応型の大学院教学の創造
   昼夜開講制、土曜開講などの社会人受け入れのためのシステム構築
   学士編入制度との接続による4年間プログラムの検討
   教育訓練給付制度等の活用によるいわゆるパートタイム院生の積極的な受け入れ
    (2) 学部教学における新たな展開
      1 社会人学生確保への努力
       
   長期間在学制度の検討(8年以上在学、3年以上休学制度など)
   単位制学費制度との組み合わせ(あるいは新たな単位制学費制度の検討)
   大学院との接続による4年間プログラム(学士入学から大学院へ)の検討
      2 学部における生涯学習課題展開
       
幅広いニーズを捉える教学内容の構築
  社会人対応型の資格取得目的のプログラム開発
  社会人の経験を活かせるような新たな科目群の検討
 
総合人間学プログラムの見直しを含めた社会人向けプログラムの検討
 
科目等履修制度を活用した新たなプログラム開発
  教育訓練給付制度の講座増
  企業との連携プログラムの模索
  教養講座的パッケージの設置
 
考えられる形態
  ボランティアコーディネーター型(委託による教育パッケージ)
  教育訓練給付制度型(一定の資格取得的パッケージ)
    (3) 通信制教育、遠隔授業やIT化を活用した時間的・空間的な学びの場の拡大
    (4) 本学卒業生の「循環的学習環境」作り
    (5) エクステンションにおける生涯学習課題展開
    (6) 生涯学習課題を総合的に進める責任体制の構築

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