質向上・質保証システム部会(第3回)議事録

1.日時

令和7年7月14日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

WEB会議

3.議題

  1. 大学教育におけるAIの活用について
  2. ミネルバ大学について
  3. その他

4.出席者

委員

(部会長)伊藤公平部会長
(副部会長)森朋子副部会長
(臨時委員)浅田 尚紀、太田 寛行、大野 博之、小林 浩、田中 正弘、濱中 淳子、林 隆之、日吉 亨、平子 裕志、松居 辰則、松浦 良充、松尾 太加志、松下 佳代の各委員

文部科学省

(事務局)伊藤高等教育局長、奥野大臣官房審議官、森友大臣官房審議官、松坂文部科学戦略官、吉田高等教育企画課長、石橋大学振興課長、松本専門教育課長、佐藤高等教育局参事官(国際担当)、鈴木大学設置・評価室長、髙見高等教育政策室長、花田高等教育企画課課長補佐、太田高等教育政策室室長補佐ほか

5.議事録

【伊藤部会長】  所定の時刻になりましたので、第3回質向上・質保証システム部会を開催いたします。本日も対面とウェブのハイブリッドということで、ユーチューブライブにて配信、公開いたしますので、その準備のほうはよろしいでしょうか。
 それでは、ただいまから公開ということで、事務局から連絡事項をお願いいたします。
【花田高等教育企画課課長補佐】  失礼いたします。会議を円滑に行う観点から、発言の際は挙手ボタンを押していただき、御指名されましたら、お名前をおっしゃってから御発言いただき、また、御発言後は再度挙手のボタン押して、表示を消していただきますようお願いいたします。
 本日の会議資料は事前にメールでお送りしているとおりでございますが、会場のiPadには、本日の会議資料をチャットにてURLをお送りしてございますので、紙の資料と併せて御覧ください。
 以上でございます。
【伊藤部会長】  では、議事に入ります。まずは議題1「大学教育におけるAIの活用について」です。本日は、東京大学大学院工学系研究科、吉田塁准教授、京都大学学術情報メディアセンター連携研究部門、飯吉透教授にお越しいただいています。お二人から御発表をいただき、事務局から、初等中等教育段階におけるAIの活用事例等について、事務局からも御紹介させていただいた後、まとめて質疑応答の時間を設けますので、よろしくお願いします。
 では、吉田先生、お願いいたします。
【吉田准教授】  御紹介いただきありがとうございます。また、貴重な機会をありがとうございます。東京大学の吉田でございます。
 それでは、早速発表させていただきたいと思います。少々お待ちください。
 それでは、20分ほど情報提供させていただきたいと思います。「生成AIと教育における活用可能性」というタイトルで、私、吉田が御紹介させていただきます。
 私、東京大学の大学院工学系研究科で准教授をしております。専門は教育工学が専門でございまして、アクティブラーニングですとか、最近ですともう生成AIが専門になりつつありまして、また、オンライン学習、ファカルティ・デベロップメントなどが専門でございます。
 私自身、生成AIに関してはもともと専門であったわけではなく、ChatGPTが出てきた2022年の11月30日、正確に言うとその12月頃から認識し始めまして、そのインパクトが大きくなるだろうなというふうに感じるとともに、教員の方々ですとか教育現場に混乱が起こるのではないかというふうに思いまして、できるだけサポートしたいというふうに思い、様々な活動をしてまいりました。例えばその公開オンライン講座を実施したりですとか、各所で講演させていただいたりですとか、官公庁関係でもお仕事させていただいたり、また、コミュニティーやポータルサイトも重要だというふうに考えておりまして、そのような活動もしておりますし、また、研究もしております。ちょうど今月末に教育AIの国際トップ会議のAIEDにも参加する予定でございます。
 この活動などを通していろいろとフィードバックもいただきながら、今回は、生成AIに関する基本的なところから、御存じの方には大変恐縮なんですが、非常に基本的なところから、教育と生成AIの関係性ですとか、活用事例についても御紹介したいというふうに思っております。
 生成AIについてなんですが、生成AIとは、様々な定義がございまして、残念ながら世界共通の定義はないんですが、例えば説明するのであれば、学習データを基にテキストや画像などのコンテンツを生成できる人工知能というふうに言うことができまして、ここのコンテンツというところがポイントでして、例えばChatGPTが出てきた当初はテキストのみだったんですが、最近は画像生成ができたりですとか音声で対話ができたりですとか、場合によっては動画を生成できるようなサービスも出てきております。
 もう既に御存じの方は恐縮なんですが、少しイメージも持っていただきたいということで、簡単なデモンストレーションもさせていただきたいと思います。例えばChatGPTは、こういった画面で入力することができまして、例えば個別最適な学びに関するメリット・デメリットを表形式でまとめてくださいと。このような形でお願いすると、このスピードでメリットとデメリットを挙げてくれます。以下は個別最適な学びに関するという形で、このスピードでまとめてくれるんです。
 ただ気をつけていただきたいのは、この出力というものが例えば網羅性が高いですとか、完全に信頼できるというわけではなく、でたらめが入りやすい、ハルシネーション、幻覚と言われるんですが、そういったものがあるため、この出力は人間が責任を持って吟味するですとか、取捨選択する、修正するということも必要でございます。こういったテキストの生成もございますし、例えば、音声対話はもうかなりスムーズにできるようになっておりまして、また、ChatGPTのアプリを使ってデモンストレーションをしたいと思うんですが、これは本当に簡単にかつ非常に自然と対話ができるようになっています。
 現在、教育に関する会議で音声に関するデモンストレーションをしています。
【ChatGPT】  なるほど、教育関係の会議なんですね。今、デモンストレーションということなので、何か私にお手伝いできることがあれば遠慮なく言ってくださいね。
【吉田准教授】  もうこの時点でデモンストレーションができていると思うんですが、時間も限られているので、参加されている皆様に簡単に、例えば教育における生成AIの活用可能性など、非常に短いコメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか。
【ChatGPT】  もちろんです。それでは、簡単にコメントしますね。生成AIは教育現場で本当にいろいろな可能性があると思います。例えば、個別の学習サポートだったり、先生方の負担軽減にもつながるので、これからますます活用が広がっていくんじゃないかなと思います。
【吉田准教授】  ありがとうございます。これは別に録画してやっているわけではなく、本当にリアルタイムに行っています。なので、このようなレベルでの音声認識をして対話をするというような環境も整いつつあります。
 また、先ほど動画生成という話もしたんですが、動画生成といっても様々な動画生成がありまして、例えばテキストから動画を生成するですとか、画像から動画を生成するですとか、動画から動画を生成すると様々な動画生成があるんですが、今回お見せするのは動画から動画を生成するものでございまして、私が日本語で簡単にとった動画をまず御覧ください。
(動画上映)
【吉田准教授(動画)】  おはようございます。教員向け生成AI講座に参加いただき、ありがとうございます。
【吉田准教授】  これが私が今、動画で日本語でとった動画になります。これはヘイジェンと呼ばれる生成AIの動画のサービスがあるんですが、そのサービスにこの動画をアップロードして、英語に翻訳するということを数クリックすると、次のような動画が出てきます。
【吉田准教授(動画)】  Good morning、 everyone. Thank you for participating in AI Generation course of Teachers.
【吉田准教授】  このクオリティ、非常に驚いていまして、これをもう一度御覧いただきたいんですが。
【吉田准教授(動画)】  (一部音声欠け)……participating in AI Generation course of Teachers.
【吉田准教授】  一部欠けてしまって申し訳ございませんが、リップシンクと呼ばれるような形で、過去の私の動画が出てしまっていますが、リップシンクという形で、何がポイントかというと、ここで一旦共有を止めますが、リップシンクという形で、私の声に似たような形でまず音声が生成されていますし、言葉自体も、まさに私の唇も合っていますし、英語になっているというところで、こういったものがすぐできるというところが非常に驚くべき性能になっているところです。
 ただ先ほど英語の中で、AI Generation courseというふうに言っていまして、本当は生成AIはジェネラティブAIなんです。なのでやはり間違いは入ってしまうというところなんですが、ただこういったことも既にできるようになってきている時代になっております。この生成AIとの対話に当たって今後、プロンプトという言葉は多く使いますので、このプロンプトという言葉、簡単に説明させていただきたいと思いますが、これ生成AIに対する指示のことです。なので、例えば挨拶をお願いしますというふうに指示出ししていましたが、こういった指示をプロンプトと言います。
 このプロンプトがある程度重要になっておりまして、やはり明確に何をしてもらいたいのかということを伝えると、それに応じて、思いどおりの出力が得られる可能性が高まります。ただ、性能によっては十分な精度の出力が得られませんので、そこに限度がある場合もあるんですが、そういった状況です。また、先ほども御紹介したんですが、やはり出力をうのみにしないというところが非常に重要なポイントになっておりまして、でたらめを入れ込んでくるときがありますので、そういう意味では完全に信じるのではなく、御自身で判断するですとか、違う言い方をすると、残念ながらAIは責任を持たないんです。人間が責任を持つので、これは世界的な流れでもあるんですが、人間中心に使うというところが非常に重要なポイントになっております。
 続いて性能なんですが、性能はもう年々最近だともう月々、向上しているところでございまして、ChatGPTが出てきた当初でも、かなり精度は高く、例えばGPT3.5というものが一番最初のバージョンだったんですが、それでもアメリカの医師試験に合格ラインでしたり、残念ながらGPT3.5だとアメリカの司法試験は下位10%、下10%のスコアだったのに対して、その次に出てきたGPT4というモデルは、上位10%のスコアをたたき出しましたし、さらにGPT3.5では、日本の医師国家試験には合格ラインではなかったんですが、GPT4になると、日本の医師試験にも合格ラインになるというところが出てきました。
 これはOpenAIのChatGPTだけではなくて様々なモデルも開発されておりまして、ClaudeですとかGoogle Gemini、英語でいうとジェミナイというものも出てきています。最近ですと、このOpenAIのo3というものの性能が非常に高くなっていまして、例えば人間のトッププログラマーレベルであったりですとか、博士レベルの科学問題に正答率87.7%になっているというところで、かなり科学に関する知識をある種持っているというふうにも言えるのかなと思っています。
 ただ気をつけていただきたいのは、このような華々しい実績を見ると、全ての性能においてまさっていると、全ての性能が高いというふうに思いがちなんですが、残念ながら、人間が正答できるような簡単な問題でも間違うことがあるんです。なので、ある種、能力の分布としては、かなりいびつなものになっておりまして、そういったところはまず全知全能ではないというところは把握いただけるとよいのかなと思っております。
 生成AIのまず可能性についてまとめますと、教育においても非常に様々な可能性があるというふうに考えております。大きく分けて学習者と教職員による活用例というものがあるんですが、学習者が使う場合だと個別学習支援ということで、個別指導してくれる可能性も十分ありますし、実際にしているような例もありますし、例えば個別の教材をつくる。私の研究者の学生も、プログラミングの課題を生成AIにつくらせて、それを解いて、より難しい問題をつくってくださいということで、それをまた解くというような形で、そのような形で学習のプロセスに使っていたりですとか、また、例えば何かしら書いたレポートに対するフィードバックをもらう。そうすることによって質を向上させるというような使い方もしています。
 また、グループ学習の支援もすることができまして、グループで考えたことを渡して例えば足りない視点は何ですかというようなことをすることによって、これまで足りていなかった視点を得られるというようなものもございます。また、これは学生と話していてなるほどと思ったんですが、課外活動の支援も可能でして、例えば部活動というところで、例えば練習メニューを考えてもらうですとか、あと学園祭の運営、例えば広報文の作成支援をしてもらうというようなこともできているというような状況です。
 また、教職員による活用というのも非常に重要だというふうに考えていまして、授業支援という点では、例えば授業案のドラフトをつくってもらうということもできますし、また、教材作成で使われている方もいらっしゃいますし、また、選択式の問題もつくれますので、そういったものをつくったりということで授業支援をしていたりですとか、校務や事務支援というところで資料や報告書の作成補助ですとかデータの処理補助なども可能ですし、研究支援というところで英訳、フィードバックの生成、ある種査読のようなことも可能になってきております。
 ただ、やはりメリットもポテンシャルもあるのですが、リスクがありますので、リスクも踏まえながら、うまくそのポテンシャルを生かしていくということは非常に重要かなと思っておりまして、リスクは挙げると本当に枚挙にいとまがないんですが、例を幾つか出しております。まず知っておいていただきたいものとしては、やはりその出力が不正確な場合があると。非常に性能が高い生成AIのモデルであったとしても、やはりハルシネーションが起こってしまうというのは、もうこれはデータとしても出ているんです。という意味では、そもそもをうのみにしてはいけないというところもございます。
 評価の妥当性が低くなり得るという観点に関しては、例えば選択式の問題を画像で、例えば画面でスクリーンショットをして、それをコピーアンドペーストして、これに回答してくださいとお願いすると、すぐ回答してくれる、かつ正解ができやすいんです。そうすると、これまでの従来の学習成果物のみで評価するような評価方法の妥当性は低くなり得るのかなというふうに思っております。
 また、バイアスや毒性、いわゆる偏見ですとか攻撃的なコンテンツだったり、差別的なコンテンツを作成するような特性があるというふうにも言われておりますし、言語格差が存在しているというふうに言われています。ただ、最近はこの格差もだんだんと是正はされているのですが、基本的には英語で使うほうが性能が高い状況です。
 また、意図せずデータが学習される可能性があったりですとか、個人情報や機密情報の流出の可能性もあるというところで、学習されない設定ですとか、個人情報・機密情報は基本的に整備されていないのであれば入れないというところも重要です。
 また、著作権侵害という点もあるんですが、こちら非常に複雑ではあるんですが、学校教育の授業目的においては、一定の条件下ではかなり緩和して使えますので、そこまで気をつけないといけないわけではないんですが、授業外になると、普通の著作権侵害と同じ要件で判断されますので、注意が必要でございます。
 また、公平性が保てない可能性があるですとか、最近ですと非常に協調的な対話ができることになっていることによって、精神科医の先生も依存症に関する懸念を述べていらっしゃる方もいらっしゃいます。また、消費電力が大きいですとか環境リスクなども様々なリスクございます。
 といったところで私としては、このリスクとうまく向き合いながら活用していくというところがポイントかなと思っております。
 続いては、教育と生成AIについて簡単に御紹介させていただきたいと思いますが、もう少しイメージつきやすい例を小学校でも活用され始めていますということを御紹介したいと思います。
 これは、小学校6年生の国語の俳句の授業で行われた事例なんですが、まず、これ生成AIが俳句を出力するんです。「紅葉舞う 秋風さらさら 心落ちつ」と。こういった俳句に対して小学生たちが批判的に議論、検討します。そうすると、生成AIの詩人としての能力の限界への気づきがあります。例えば2つ季語があるよねですとか、直接的な表現があるですとか、リズムが悪い。そういったところで自分なりの俳句をつくりたくなり、自分なりの俳句をつくり、その上でさらに画像生成AIを使って俳句の自分の挿絵をつくるというような実践も行われています。
 このような形で、小学校でももう既に活用の兆しが見えているというような段階です。こういった授業の中で使っていくというような話もあるんですが、組織全体として導入していくという流れもできておりまして、これはアリゾナ州立大学の事例になるんですが、ChatGPTEduというものが今入っている状態のようで、これどういったものを目指しているかというと、AIネーティブ大学へというところで、ただ単にその授業の一つで使うですとか、教員の業務効率化で使うというわけではなく、もう大学業務全般にAIを組み込んでいく。なので、必要に応じて様々なデータを渡してそれを参照できるようにするというような試みも始まっております。そこで様々なアイデアも出てきていて、今もいろいろなプロジェクトが進行中というところで、この例では何をお伝えしたいかというと、一つ一つの授業ですとか教育の場面での利用というだけではなくて、組織的な導入というところもポイントになってきております。
 これからは簡単に研究についても御紹介していきたいと思うんですが、かつ使い方に関する研究で意味があると思って、ここで御紹介させていただくんですが、これはプログラミング学習支援の研究になっておりまして、これはスイスの大学院におけるロボット工学のコースにおける実験なんです。これは演習を行っていて、ChatGPTの利用群と利用していない群に分けて、演習の成績、演習をしているので演習の成績と事前事後のテストをしています。全体的にはChatGPTを使用することによって、演習の成績を向上させるんですが、学習、事前事後テストでは有意な差が表れませんでした。
 ただ、もう少し分析してみると面白いのが、この論文の面白いところはChatGPTの使い方によって、結果が違ったというところで、ChatGPTを例えばこのプログラミングコードはどういう意味ですかという形で概念理解に使う場合には、演習成績はやや低かったのに対してテストの成績が高いと。
 一方、デバッガー的に使う、エラーが出たらこのエラーを直してくださいという形で、演習の目的、演習の成績をある種高める目的でエラー修正に使うことをメインにしていた学生は、もちろん演習の成績は高いんですが、事前事後のテストで事後のテストに関しては成績が低いというような結果が出ていると。これはそもそも使い方によっても影響が異なりますし、評価によっても影響がある種異なるように見えるというところがポイントになります。
 これは私の研究で恐縮なんですが、私は生成AIがどの程度エッセイですとかレポートの評価能力があるのかというところを評価いたしました。こちら結論だけ御紹介すると、例えばChatGPT3.5とかGPT4にも、実はマイナーバージョンというのがありまして、何年何月に出た、何年何月に出たという実は、もう一つ小さいバージョンがあります。実はそのマイナーバージョンを含むモデルによって評価の傾向が違っていたりですとか、例えば高く点数つけやすかったりですとか、低く点数をつけやすかったりですとか、最新のモデルじゃないモデルのほうが最も安定的で性能が高かったりと。
 あと、私の研究の範囲では、GPTによる評価と専門家による評価の一致率は高いと言えないというところで、それらしい答えは評価を出してくるんですが、それもあまりうのみにはできないというような状況でございます。ここ重要なので簡単に、重要なので御紹介したいというふうに思っている研究が二つあるんですが、批判的思考能力にどの程度影響を与えるのかということに関して、アンケートをとられた研究がございます。
 簡単に申しますと、AI利用と批判的思考能力に負の相関があったという結果になっています。AIツールを頻繁に使用する人ほど、情報収集、評価をする能力が低い傾向があったというようなものになっています。様々な方法を使っていて、背景に認知的オフロードがあるんじゃないかと、この研究者たちは考えています。これはどういうことかというと、ある種思考の丸投げ、思考の外部委託をしてしまうことによって、この批判的思考能力の負の相関になってしまったのではないかというところで、ただ、高学歴の方だと、実は高い思考力を維持するというような結果も出ていまして、AIとの賢い使い方が非常に重要だというような結論をこの方々は述べています。という意味では、私もこれ同意するところもありまして、思考の丸投げにはやはり要注意ですし、AIリテラシーの教育が重要だなと考えております。
 また、こちら、最近のメタ分析の研究になっておりまして、ChatGPTの学習に対する影響評価の研究になっております。結論だけ、簡単に時間もないので申し上げますと、学習パフォーマンスは大幅に向上すると、使い方が効果を左右すると。具体的に言うと、問題解決型の学習で4週間から8週間使うと効果が最大だったということだったり、ただうまく使うと学習意欲ですとか、思考力にもプラスの効果があるというところで、これはメタ分析なので、様々なネガティブなデータも含めた結果を統合しての結果ですので、これはある意味、意味のある結果かなというふうに思っていますが、このChatGPTですとか生成AIというのは強力なツールなんですが、戦略的な活用が不可欠というところで、そういった意味ではAIの教育への組み込み方も非常に重要で、これは教員の力のある種見せどころだったり、組織としての力の見せどころかなというふうに思っております。
 最後にこの生成AIが与える教育への影響という観点に関してなんですが、生成AIが教育に与える影響は、これまでもお伝えしたように非常に複層的なんです。分野によっても異なりますし、モデルによっても異なりますし、使い方によっても異なりますし、プロンプトによっても異なります。といった意味では、実際にそれぞれの分野の方々が利用して試行錯誤するということは非常に重要で、技術を用いた思考/協働を促すような授業設計ですとか環境整備が重要だというふうに考えております。生成AIは結局ある種単なるツールなんです。なので手段が目的化しないように入れることが目的なのではなくて、その学びをいかに生成AIを用いて育むか、促すかというところがポイントになるかなというふうに思っております。
 それでは、非常に多くの情報を早口で御紹介してしまい恐縮ですが、御清聴いただき、誠にありがとうございました。
【伊藤部会長】  時間ぴったりで、しかも大変な情報量、ありがとうございました。では続きまして、飯吉先生、よろしくお願いいたします。
【飯吉教授】  京都大学の飯吉です。よろしくお願いいたします。
 まず、タイトルページの次の2ページ目です。ここは自己紹介なので割愛しますが、専門は、最近は主に教育イノベーション、高等教育システム、特に未来志向のものを取組分野としています。
 今日お話しするのは、スライド3枚目の昨年の夏に刊行された「IDEの現代の高等教育」の「高等教育とAI」についての特集号に寄稿させていただいたものをベースに拡張した内容になっておりますので、詳細に関してはこちらを読んでいただければと思います。
 続きまして、スライドの4枚目にいきます。慶應義塾大学関係の委員の方もおられると思いますが、御存知の福沢諭吉の「学問のすすめ」の冒頭部分で、100年前がどうだったかというと、当然高等教育はこの頃は進学率が一桁%だったと思いますが、社会のエリートがここで言うところの身分の高い職業を担うために高等教育を受けるという、今的にはコンプライアンス的にアウトな表現も結構多いかと思いますが、このような考え方があり、現在に至るまで形や程度は色々と変わってはきましたものの、これまでやはり高等教育・大学教育というものは、そのような役割を社会において果たしてきたと受け取られてきたと思います。しかし、これがAIの登場によって抜本的に変わる可能性があるというのは、もう既に最近色々なニュース等で取り上げられていることで御案内のことかと思います。
 次のスライドですが、AIを巡って様々な喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が世界のあちこちで起きています。AIに人が使われるのか、AIは人の上に立つのか、人の下で色々な仕事をやってくれるのか。さらに、AIには何ができて、人間には何ができないのか、両者の共通性と差異は何か、というような議論です。これだけでも、思考訓練としては色々と勉強になるのですが、このような議論が盛んになっております。
 次、スライド5枚目です。個人的な考察の提言ということですが、吉田先生のお話にもあったように、現在の生成AIは様々なことができます。もう既に大した技術なんです。ただ、ハルシネーションがあったり、色々と不完全なところはある。しかし、それらは日進月歩でどんどん改善されて進化していますので、もう本当に大した技術になる日も近いというか、既に部分的にはそうなっているということであります。
 これも御案内のようにAIが、ある意味でインターネット以上に、社会的な変革を引き起こすということも、もうかなり明らかになっていると思いますし、既に職場の業態など色々と変わりつつあります。日本の高等教育や大学界が、世界の潮流や競争の中で劣勢に陥っているのは否めないですが、AIの登場を少し希望を持って捉えれば、 AIをうまく活用することで、今まで日本の高等教育が有していた様々なハンディキャップやデメリットを逆転させたり、少なくとも同じ土俵に立つことができるようになるのではないかという点は、言語の壁などが好例ですが、大いに期待できるところです。
 さらに大事なのは、生成AIを「ちょっと横に置いておいておく」のではなく、日本の高等教育で問題になっている様々な課題や可能性について、生成AIについて色々と議論になっていることを通じて考えていくということです。勿論、それが生成AIの活用にも繋がっていきますし、高等教育において我々は本当に何をやるべきなのかという本質的なところを見抜いていくという取組が、今非常に大事だと思います。
 続きまして、スライド7、これは川端康成の「雪国」の出だしのもじりです。コロナ禍の時は、京大の旧高等教育研究開発推進センターでオンライン/ハイブリット授業対応支援の仕事に仲間と尽力していたのですが、やっと終わったと思ったら、生成AIが濁流のように押し寄せてきたという感じでした。
 次のスライド8をお願いします。どちらも対応は大変なわけですが、このコロナ禍でのオンライン/ハイブリッド授業対応と生成AIの教育利用は、状況や目的において本質的にかなり違いがあります。オンライン/ハイブリッド授業対応は、対面授業ができなくなったために、それを代替する形でオンライン/ハイブリッド授業をやらざるを得ないという状況の中で、皆がある意味で共通のゴール・目的を持っていました。
 ですから、実践する側もそれを色々と支援する側も、対面授業はできないが、オンライン/ハイブリッド授業で何ができるのかを試行錯誤し、さらにその可能性をどんどん広げていこうというところは共有されたため、皆が協働して頑張れたというところがあります。
 ところがその下に書いてありますように、生成AIの場合、まず生成AI自体が種類も色々あり日進月歩で変化しています。例えば、昨日までは考えなくてよかったことが、今日登場した新しいバージョンでは、こんなことをAIができるようになったら、これまで通りの授業ができなくなるというようなことも起こり得るわけです。さらに、様々な活用については、一人の大学教員のことを考えても、恐らく授業毎に生成AIを学生にどう使わせるかということを工夫して変えなければならず、これが高等教育全体ということになると、本当に様々な形で生成AIが活用可能性があり、それだけリスクもあるということになります。このような状況において、組織として、例えば全学的FDという形で大学が学部・研究科や教員を支援し対応していくのは非常に大変なことで、まず根本的にどのように各大学や各教員を支援すべきかが重要な課題となります。
 さらに根源的で本質的な問題で大きいと思うのは、今日この後で、同僚の松下先生によるミネルバ大学の話がありますが、ジェネリックスキルの習得についてであります。大学で教える内容としての専門知識や技能が刻々と変わっていく時代において、やはり大事なのはジェネリックスキルを学生に習得させることだろうという話にはなっているのはご案内の通りですが、生成AIはジェネリックスキルも結構うまく使いこなせます。人間よりも生成AIのほうがジェネリックスキルが優れているように見える場面すらあります。そうなると、せっかくジェネリックスキルを大学教育を通じて身に付けても、社会に出てみると「それは全部AIができるから、君は何か他のことをやって」というようなことにもなりかねないわけです。「ジェネリックスキルは大事なので、大学ではそれを涵養する」と一言で言うのは簡単ですが、実際に社会に出る学生を育てるということを考えれば、どのようなジェネリックスキルを、どの程度身に付けさせるのかということを、いま一つ吟味して再考すべき状況にあると思います。
 それから、スライド9です。これはごく最近MITの研究グループが発表したものですが、おそらく我々誰もが直感的に分かっていたことを、あえて脳波(EEG)を調べることによって、科学的に明らかにしたということで、一言で言えば「生成AIを使うとバカになる」ということです。勿論、使い方次第ということはあります。この研究の場合は、学生にレポートを書かせるという課題だったのですが、AIに丸投げすればもちろん全然考えていないわけですから、丸投げした後、あらためて似たような内容について書かせたり、質疑応答したりするとパフォーマンスもよくないし、関連することを考えさせても、実際に自分で単独で考えて書いた人に比べると劣った結果が出たということです。
 それから、脳の結合性と書かれていますが、脳の活性度合いが全然違ってくるということで、これがいわゆる「バカになる」というところです。鍛えない筋肉がどんどん弱くなっていくのと同じようなことです。
 ただし、この青字にしてあるところですが、最初は生成AIを使わずに書くことを始め、その後生成AIを使った人たちは、常時生成AIを使用した人たちよりも認知的なパフォーマンスが良好であったと報告されています。つまり、「思考の足腰」と言うか、根本的な部分をしっかりと自力で鍛えている、また、AIなしで鍛えている人というのは、AIを活用するとブースト効果みたいなものがあって、自分の脳だけでやるよりもさらに高いパフォーマンスが出るということも報告されていて、この辺が鍵なのかなと思います。もちろん、ここは大学分科会なので、高等教育・大学教育が対象ですが、初等・中等教育でAIを使わせる時にも、ここは非常に大事なところです。当然のことながら、我々は小学校1年生、漢字を一から学んでいる生徒たちに、いきなりワープロで漢字変換をさせないわけです。やはり手を使って書かせたり、ちゃんと読み上げるというような訓練は、言語を習得する上で重要なのは言うまでもありません。AIを使うかどうかの是非を考える時、我々は高等教育・高等学習についても、似たようなことを考える必要があります。次のスライドは、実際の論文の最初のページですので、御参考までに。
 それからスライド11、これは手前みそで恐縮ですが、自分が指導教授として指導した韓国からの留学生で今年の3月に修士号を取って卒業された方の修士研究についてです。創造性はジェネリックスキル的なものの一つですが、研究テーマは「生成AIを使ってCreativityをどうやって支援できるか」ということで、細かい説明は時間もありますので割愛しますが、プロンプトによってコントロールされた生成AIと対話をおこない、多少臨機応変にその学生の反応等を見ながら、創造プロセスを適宜ナビゲートしていく方法と、ワークシートを用いてプロンプトが提供するのと同様のプロセスを静的にナビゲートしていく方法との比較をおこないました。
 プロンプトによるナビゲーションには幾つかポイントがあり、例えばAIのツールには、学生を必ず褒めていくような性格付けがされています。創造プロセスの支援については、創造的思考については色々な考え方や手法があるのですが、例えばまず拡散的・発散的な思考を促し、いろいろなオプションを出させて考えさせ、その後で収束的な思考を促して整理していく。これを繰り返しながら思考を精練していくことで、創造性を支援する手法としています。
 次のスライドが、研究結果になります。大きかったのは、心理的な安全性が確保されたということです。多少荒唐無稽な創造も含めて、どこまでも自分が創造的になれる。このAIツールは、プロンプトの指示によって駄目出しをしないようになっているので、安心して考えを拡げていけるようになっているということです。
 次に、「たくさん色々なことを考え過ぎて、わけ分からなくなった」というような時も、 AIが「そこをうまくここに絞っていきませんか」というように助言してくれることで、学生は考えを整理しながら進んでいけるというのが、2番目の「認知リソースの効率的配分」です。
 それから3番目の内発的動機についてですが、ワークシートを用いると自分との対話になるため、一人で壁打ちをしている感じで弾みがいま一つよくない。一方AIとの対話では、ノリがよくなりエンゲージメントが高まってくる。AIが同僚というか仲間として色々と元気づけ助けてくれることで、内発的な動機づけも上がっていくというような傾向が見られました。
 面白かったのは、「こんなに褒められると気分が悪い。何かむずむずする。もっと叱ってくれたほうが自分は頑張るので、もう少し叱るモードも用意してほしい」というような学生の感想があったことです。個人的には、こういう人がこのAIの時代に強くなる気がします、AIと対話していると心地のよいコミュニケーションばかりで自分が傷つかないので、だんだん心理的耐性が弱くなってくるという話も一方で出てきているのは御存知かと思います。
 次のスライド12は、実践研究例2ということで、立命館大学の香西先生が主導されていて、共同研究者として僕も一緒にやっているのですが、これはAIを使ってベテラン大学教員や上手に教えられる教員たちの暗黙知や経験知を、 AIとの会話を通して引き出すシステムです。暗黙知の導出と我々呼んでいますが、導出された暗黙知や経験知をAIの助けを借りて整理し、他の教員たちが活用したり、さらには異なった教育のコンテクスト、例えば異なった科目や異なった対象学生においても活用できるように適合を支援するシステムを現在開発中です。これは自分としてもアメリカ時代からずっと追求してきた「教育知のナレッジマネジメント」という研究開発テーマであり、AIが登場したことでこういうことも実践できるようになったということです。
 最後のまとめに入っていきますが、スライド14は、Chronicle of Higher Education、アメリカの代表的な高等教育紙ですが、2年足らず前に取り上げたAIが与えるインパクトに関して挙げた5つの兆候ですが、この時点での皆さんの答えは基本的に全てイエスということになるかと思います。ですから、AIが出てきたばかりの時は、こうなるのかなと皆が色々懸念というか不思議に思っていたことが、ほぼ全てその通りになってきているということで、学習・教育の方向性等がこれから根本的に変わっていくと思います。
 それから、全部はちょっと御紹介する時間はないかと思いますが、その次のスライド15は、EDUCAUSE、これはアメリカにある大学のICTを推進する協議会で、これを模して日本でAXIES(大学ICT推進協議会)という組織が近年立ち上がっていますが、そのEDUCAUSEが行っているアメリカの大学を対象とした包括的な調査の結果です。多くの大学はAIを戦略的な優先事項とみなしており、この調査時では約6割ということですが、年々増加していると思われます。
 それから、AIコストは意外に思っていたよりもかかってしまうということや、AIの活用ポリシー、これは教育だけではなく研究やその他事務的・運営的なことも関わってきますが、これを策定している大学は増えてきているということで、これも増え続けていると思います。また、サイバーセキュリティやプライバシーポリシーなどは大学にとって弱い領域であるという調査結果になっています。
 次のスライド16はこの調査の2/2ですが、AI活用に関するFD(ファカルティ・デベロップメント)やSD(スタッフ・デベロップメント)については、各大学がかなり一生懸命に取り組んでいます。あと興味深いのは、この大学間のAI格差ということで、使い方であるとか、どのように使いたいという辺りや、 AIがどのように大学教育等に活用できるかについての期待感等は、大学の規模や種類にかかわらず大体同じ傾向を示しています。
 ところが、導入・サポートするための資源・能力・実践などについては、やはり小規模大学にとって非常にデメリットになっており、資するリソース等がないということで、苦労されているようです。また、日本でも同様だと思いますが、学生のほうがより多くAIを使っており、FD等々はあっても自分の授業の中で活用している教員はまだ少ないということであります。
 続いて、高等教育においてAIを活用する際に留意すべき観点について、3点お話しさせていただきます。これらは四半世紀以上前の自分の博士研究がベースになっています。まず1番目は、「パフォーマンスとプロセス」ということについて考えていただければと思います。パフォーマンスについては、AIに丸投げできる作業であれば、AIに全部やらせれば素晴らしいパフォーマンスが出るわけです。実際の社会や職場ではこのようなAIの活用の成果がどんどん出始めていて、場合によっては「もう人間は要らないね」という話になっています。その一方で、同じことを高等教育でできるかと言うと、例えば、学生がレポートを書く時にパフォーマンスを出すためにAIに丸投げし、教員がそれを見抜けず「これはいいですね、素晴らしい」と評価するのは、何にもなっておらず意味がないわけです。なぜかといえば、教育機関というのは、本来このプロセスというところを大事にすべきで、学生がプロセスを通してどう学習し成長するかということが、一義的に大事な組織だからです。故に、「パフォーマンスを出すためにAIは社会で使われているから、また教員は研究においてこう使っているから、学生も同じように使っていいよ」と簡単には言えないということであります。
 それから2番目は、「思考する道具 vs. 思考を促す道具」ということで、AIはある意味で「思考する道具」なので、思考を代替させてしまうと、人間は、先ほどのMITの研究じゃないですが、徐々に思考能力が衰えていくことが危惧されます。
 それから最後、一番大事なのが次のスライド19になりますが、ToolsをAIと置き換えていただいて結構です。「Effect with」の部分は、AIを使っている時にのみ、人間+AIの能力のトータルパフォーマンスとして総合的に上がる効果を意味しています。例えば、電動アシスト自転車を考えていただければ分かりやすいと思います。人間とモーターが一緒になって自転車を動かすということです。常時このような電動アシスト自転車に乗っていると、おそらく人間の脚力は落ちていくことが想定されますが、AIの「Effect with」的な利用についても同じことが言えるでしょう。
 一方、「Effect of」は、AIを使って何かをプロセスしてパフォーマンスを出した経験を経た後、AIを使わなくても、AIを使う前の自分と比べて、何かがより優るようになる効果を指します。
 次のスライド20、これは棋士の藤井聡太さんと伊藤匠さんが対決した名勝負を巡って制作された特集番組です。AIでガンガンにトレーニングを受けた新しいジェネレーションの棋士たちも、将棋の対戦時にはAIを使えないので、自分の脳だけで戦うんですが、既にAIでいろいろ学んだことが脳の中に残ってビルトインされている。つまり、先に述べた「Effect of」です。
 ただそうなると、究極的にはどの棋士も同じようなAI的な思考になっていくので、人間の棋士同士の対決なのに、AI対AIが戦っているような感じになってしまう。そこで「どうやって棋士としての自分の個性とか独特の能力、人間らしい能力を発揮するか」というレベルでの戦いになるわけですが、この名勝負では、そのような局面が非常に赤裸々に見られたということで話題になりました。詳細については、この番組のアーカイブなどを見ていただければと思いますが、まさにこういうことを我々は高等教育においてこれから考えていかなければなりません。
 次のスライド21は、高等教育におけるAIの活用推進のための政策提言です。コロナ禍の時に、通称「Plus DX」と呼ばれていたオンライン教育や学習データ活用推進のための補助金プログラムが立ち上げられ、その際にプログラム委員もやらせていただきましたが、是非同様に文科省として、大学におけるAI活用推進のための政策による支援をしていただきたい、と個人的にもお願いしたいと思います。
 ということで、勝手に「Plus AI」と書かせていただいております。ただし、先ほど申し上げたようにコロナ禍におけるオンラインハイブリッド授業のためのDX支援と、教育・学習におけるAIの活用というのは本質的にかなり様相が異なりますので、その辺は全く同じような補助金プログラムの設計にはならないとは思いますが、是非このような形で公的な支援をしていただければ、各大学や各教員も少し元気を出して進めるのではないかと考えます。続くスライド22は、ご参考までに「Plus DX」の概要です。
 最後のスライド23ですが、もう時間になりましたので、後ほどお読みいただければと思います。この4点目の「ATI・TTTI」というのは聞き慣れないかと思いますが、教育工学的な専門用語です。個々の学生の「属性」(例えば学び方や認知学習スタイルの違い)、「教え方」、「教える内容」等の交互作用に基づいて、非常に丁寧に個別対応学習を捉え考えていこうというもので、この辺りの考え方は教育におけるAIを活用していく際に非常に大事になるかと思います。
 以上で終わりにさせていただきます。どうもありがとうございました。
【伊藤部会長】  ありがとうございました。では事務局、石橋大学振興課長から参考資料2に基づき説明お願いします。
【石橋大学振興課長】  ありがとうございます。簡単に参考資料の2を御覧いただければと思います。資料自体は分厚いものでございますけども、本当にトピック的なところだけ捉えさせていただきたいと思います。
 これは今、初等中等教育分科会のほうで、次期学習指導要領について議論がなされているものの、まさにAI関連のところをちょっと抽出してきたものになっております。この新学習指導要領というものは、2026年度中に答申、2030年度施行、2042年にこの世代が大学に入ってくると、そういうタイムスパンで御覧いただければというふうに思います。
 資料がちょっと通し番号になっておりますので、下のちょっと大きな真ん中に書いてある数字を御覧いただければと思いますが、通し番号の17をまず御覧いただければと思います。
 通し番号の17、右側16と書いてあるところですけれども、今、OECDでICTを用いた探求型の教育の頻度、これは高校ですけども、どうかというと実はOECD最下位というのが今の日本の状況でございます。そういう前提に置きながら、通し番号25を御覧いただければと思いますけれども、やはりどういうことが課題かということが整理をされておりまして、やはり顕在化している課題の一つとしては、指導内容上、全体として生成AI等の先端技術に関わる内容が明確に位置づけられていないということを課題として捉えていると。これを用いて、今どうしようかというところがもう最後のほうに行きますけども、通し番号の64ページです。ポイントは、左側に丸が3つありますけれども、活用と適切な取扱いと特性の理解ということでございまして、この3つを色でも分かれておりますが、それぞれの小中高の段階で、どうやっていくかということが、今整理が始まっているというところでございます。
 例えば、小中学校の中高学年では生成AIの出力から特性を知る。中学校では生成AI等の基本的な仕組みを理解すると、こういうところになってきているということでございます。どういうところで取り扱っていくのかというのは、次の65ページ、通し番号のところでございますが、御案内のとおり小学校では総合的な学習の時間、中学校では技術分野、高校では情報ということができましたので、情報科というところでやっていくということで、まさに今こういう議論が今されているということを御紹介程度でございますが、御説明させていただきました。よろしくお願いいたします。
【伊藤部会長】  ありがとうございました。それでは、お二人の発表につきまして、御質問、御意見等がありましたらお願いします。意見交換時間は約30分とっておりますので、活発な御議論をどうぞよろしくお願いいたします。どなたからでもどうぞ、いかがでしょうか。松浦委員、お願いします。
【松浦委員】  松浦です。ありがとうございました。お二人とも包括的かつ具体的な御発表いただきましたので、この状況をよく理解するのに、参考になりました。
 私の観点というか、私どもからするとやっぱり飯吉先生おっしゃっていただいたようなコストの問題が大学で、もうこれから生成AIを利用しない大学教育というのはほぼあり得ないとは思うんですが、今この時点で導入するとなると、教育の部分と運営の二つの面になると思うんですが、非常に安全に情報のセキュリティーにも気をつけながら、しかも、効果と精度の高いものを大学の規模で導入しようとすると、大変なコストがかかって、まずはそのコストを誰が負担するべきなのか。かつてはPCなどは大学は貸出しをしていた時代もありましたが、今やもうそうではないとなると、無料版でいいんじゃないかという話もあるかもしれませんが、無料版の問題というのは様々あるとすると、それなりの質のものを大学全体で、例えば私ども3万3、000人学生おりますけれども、そこで実際に導入して活用するとなるとかなりの資金が必要で、この辺り、恐らく補助金をというふうに飯吉先生おっしゃっていただいて大変ありがたいお話だったんですが、日常的にというわけにはなかなかいかないという部分があるのかなというふうに思っております。
 また、いろいろな事業者がいろんな開発業者と絡みながら同じ事業者でも購買ロットであるとか、ChatGPTであるとか、複合的に提供をしているような状況もあって、非常にその業者選定も私ども迷うところがございます。その辺りについて何か先生方のお立場からアドバイスをいただければ大変ありがたく存じます。よろしくお願いします。
【吉田准教授】  まず吉田が御回答させていただきます。先ほどお話しいただいていたように、私としては無料版から始めるのも全く問題ない一手かなとは思っております。というのも、無料版でもやはり設定をすれば学習されない設定にできたりですとか、その点もちろん個人情報ですとか機密情報は入れないでいただけるのがいいと思いますが、ただやはり利用可能性が非常に、利用の選択肢非常に多いので、そういった機密情報、個人情報を入れなくても十分活用できる場面は多いと思うんです。という意味では無料版でもかなりのことが今最近できるようになってきていますし、これまでの経緯から見ると、もちろん有料版のほうが性能が高いんですが、だんだんと有料版の性能が例えば3か月後には無料になっているというような状況も出てきていますので、かつ最近ですともう最高性能も無料で使えるようなものも出てきていますので、実はまず無料版でもある程度できることはあるということで、無料版で試行錯誤していただくというのも一つあると思います。
 また、意外と知られていないんですが、例えばそのグーグルワークスペースですとか、マイクロソフトの365のシステムを入れられている場合は、ある種、システム管理者が設定をオンにすれば例えばGeminiを使えたり、しかもそれは学習されないGeminiを使えたりですとか、あとコパイロットもマイクロソフトはコパイロットと呼ばれる生成AIのツールをつくっている、提供しているんですが、その学習されないコパイロットを利用できたりというようなこともございますので、実は既にもしかしたら皆様の学校で導入されているシステムに付随してオンにできるようなものがあるかもしれないので、多くの場合はそういった統合的なシステム入れられていると思いますので、それの設定をルールはつくった上でオンにするというのも一つの選択肢かなと思っております。
【飯吉教授】  今、吉田先生が言われたことに付け加えていきますが、1つは「ハードウエアは、あまり考えなくていい」というところは朗報なのですが、サービスに関しても今言われたように、Google SuiteやMicrosoft Suiteなどは包括契約している大学も多いと思いますので、それらに含まれているAIサービスから試してみるのもいいかと思います。
 ただ、やはりLMSや種々の業務システムのように、今後AIも、大学の基幹的なシステムとして考えていく必要があります。先ほど補助金の必要性も提起させていただきましたが、これはどちらかというとAI活用支援のためのキャパシティや各取組の初動を誘発するためのもので、恒久的な運営資金を出すという趣旨のものではありません。アメリカの大学、特にトップ大学を見ていると、やはりお金をかけているのは、人であったりアドバイジングとかサポート体制、それからRAGと総称されるような形で、その組織に合わせられた、ある意味囲い込んだ生成AIシステムで、各大学の教育研究に特化した内容や手法が埋め込まれているわけです。このようなカスタマイゼーションに非常に金をかけているわけです。必ずしも全部の大学がこのような独自のAIシステムが必要であるとは思いませんが、競争的に大学が生成AIを活用していく中では、このようなコストもかなりかかるということです。
【松浦委員】  どうもありがとうございました。ワークスペース系といいますか、我々もうスイッチをオンして利用しているんですが、それ自体、決してスイッチオンは無料かもしれないんですけど、プログラム自体は有料なので、やはり今後どんどんどんどん、こういうこと進んでいくと何か第二の電子ジャーナルみたいな寡占化が進んで、価格競争がもう成り立たなくて一方的にコストの負担を強いられるような状況にならなければいいなというのは思っているところですので、また、いろいろと御教示いただければと思います。ありがとうございました。
【伊藤部会長】  平子委員、お願いします。
【平子委員】  ありがとうございます。お二方の先生から非常に示唆的なレポートをいただきまして、大変勉強なりました。先ほどの報告にもありましたが、初等中等教育でもこれからAIを使った学習が増えると、大学生も、基本的にこれからはAIネーティブになるのではないかと思います。
 AIへの依存症について、吉田先生のレポートの16ページに、4週間から8週間使うと効果が最大になると書かれているのですが、そのような限定的な使い方が今後可能なのかとかんじました。AIを上手に使い分けるための秘訣は何かというのが最初の質問です。
 それから、飯吉先生への質問なのですが、汎用的な知的能力はAIに取って代わられることは私も理解できますが、そうなると、AI時代の高等教育は何を教えるのかということになってくると思います。AIがまだ不得手ではないかと思われる能力の一つに、非認知スキルつまり対人関係力、協働力、レジリエンス、共感力など、このような能力育成はまだAIが入っていけない領域ではないか。逆にAIはどんな貢献ができるのかと。さきほどEffect with ToolsとEffect of Toolsの話がありましたが、Effect of Toolsを目指すのであればこのような非認知スキルの育成が大事ではないかと思います。その辺をどう考えていらっしゃるのかというのが質問です。
 最後に、資料に出てきたAIリテラシーという言葉、これも実は非常に定義が広い言葉だと思っています。AIリテラシーというのは、どういった定義として理解すればいいのか、質問させていただきます。以上でございます。
【伊藤部会長】  では、よろしく、今もう挙手されている方が6人いらっしゃいますので、全体的に比較的簡潔にいただければと思います。よろしくお願いします。
【吉田准教授】  まずは吉田が回答させていただきます。依存症を克服するにはというところは本当に非常に重要な課題でございまして、私自身、幾つか調べていますが、まだ調べ足りていないところもありますが、結論を申し上げると、まだ明確な克服策というものは見えていない状況でございます。
 私なりの考えで言いますと、実際にそもそも生成AIを基本的に道具である、道具といいますか、パートナーツールであるということをやはり早めのうちから知ってもらうということに加えて、やはり人間との協働も促していくというところで、やはりそのAIだけに頼るような形ではない形で学習環境を整えるというのは一つのソリューションかなとは思っております。
 飯吉先生の御質問の中であったのですが、私としても情報提供できるところがあるので、非認知スキルについて少しだけ補足させていただきますと、実は、生成AIのほうが非認知スキルが高いといったような研究結果も出ていまして、例えばある病気に関する質問に対して、医師の答えと生成AIの答えを比較した研究がありまして、実は生成AIが回答したもののほうが質も高いし、共感性も高いというような結果も出ている状況で、そういった意味では実は非認知スキルがそもそも生成AIは弱いというわけではまずないということでございます。という部分もございます。
 一方、私としても人間の非認知能力、非常に今後重要になってくるなと思っておりまして、そこの育成も非常に重要だなと考えております。
 簡潔ですが、以上です。
【飯吉教授】  今、吉田先生言ってくださったことに賛成ですが、ボーカロイドが最近世界的に流行っていて、この感情のない人工的に合成された音声や歌声に多くの人たちが共感を移入していくという点で似たようなことが起こっているのではないかと思います。
 一言で言えば、AIはかなりお行儀もよく、ディスカッションメンバーとしても非常に優秀で、しかも常識的に人を傷つけないように基本的に設定されています。ですから、逆にこのような「優等生的AI」に慣れてしまうと、必ずしもそうではない人間を相手にする時に対応ができなくなる、というところが問題になってくるかと思います。
 したがって、例えば何か非常識なことを言う人に対して、どのように自分で切り返し、しかもできるだけマイルドに激高しないような形で対応するみたいなことも含めて、多分その辺りに入っていかないと、人間の出番がなくなってくるのではないかと。なかなか苛酷だと思いますが、AIもかなり非認知能力を持ち合わせていますし、むしろ平均的には今後さらに優秀になっていくんだろうなというのは否めないかなと思います。
【伊藤部会長】  では、次の方に、松居委員お願いします。
【松居委員】  早稲田大学の松居です。大変貴重なお話ありがとうございました。今のChatGPTのバージョンでもかなりいろいろなことができて、面白いと言えば面白いのですけれども、今朝方、またGPT5が出るというふうな話があって、また、桁が1つ、2つ、トークンが増えるというようなことになると、かなりその言語の扱えるレベルというのはまた1段、2段上がってくると思うのです。
 そうすると、今のいろいろな諸問題の提起とその議論というのがこの流れでやっていっていいのか、あるいはどこかの時点でまたドラスティックに変わるのかというのが少し脅威でもあると思うのです。さらに、昨今生成エージェントなどのいろいろ概念が出てきて、そうすると今まではこのプロンプトを頑張って打てば、いい対話ができるよねという話だったので、これすらもする必要がないという技術も出てきているので、何が教えていただきたいのかというと、今の議論を続けていっていいのか、あるいはもっとドラスティックな変化が出てくるのか。その辺り、つまりその普遍的に議論していく必要のある部分と、もうさらに先読みをして考えていく必要のある部分があると思うのです。その辺りはいかがお考えでしょうか。
【吉田准教授】  では、まず吉田が回答させていただきます。ドラスティックに変わるのかということに関しては、もう正直予測できないというような状況です。というのも、今出てきている生成AIの非常に流暢なやり取りというのも、AIの研究者たちが想像しなかったところで起きているのです。詳細は省きますが、いきなり性能がよくなったということになっていて、生成AIの研究者たちも驚いているという状況なので、もしかしたらそういったドラスティックな変化が今後起こるかもしれません。そういった意味では私としては、その変化に対して柔軟に対応できるような体制づくりは重要だなと思っております。
 先ほど、2点目としてエージェントが出てきて、そのプロンプトが今後必要なくなるのであるということもございましたが、ただ私としては、コミュニケーション能力は結局は重要だなと思っておりまして、今本当に生成AIエージェントも注目されていて、例えばある指示出しをすると、自分でtodoをつくり出して、そのtodoに沿ってタスクをこなしていくというものも出てきているのです。ただ、実はそういったものを使うにしても、例えばこういう条件をちゃんと入れておかないと、例えば人間の意思に沿ったものにならないですとか、こちら側がうまく整理をするだったり、うまくコミュニケーションをとっていくというところは結局エージェントを使うということは、人間が何かしらを作業してもらいたいというところなので、その作業をしてもらいたい内容の言語化ということを適切にできなければ、エージェントは違うものをつくってくるわけです。
 という意味では本質的に私としては、いくらエージェントが性能がよくなったとしても、こちら側の要求をうまく言語化できない限りは、そのとおりに動いてくれないとなると、コミュニケーション能力というものはかなり本質的に重要な能力になる。たとえ性能が上がったとしても、プロンプトであったりコミュニケーションというものは重要性は低くならないのではないかなというふうに考えております。
 以上です。
【飯吉教授】  ドラスティックに変わることはもちろん避けられないわけですし、極端に言えばSFの世界で起きているような、デバイスを何も使わずに無線で脳とAIシステムがつながっていて、何か考えるとそれがグローバルなAIシステムと共有されて頭の中で知的なインタラクションが生じるぐらいのことは十分起こり得るわけです。とは言え、そのようなことを考えながら、今どうすればいいのかを考えようとすると何も動けなくなると思います。組織的・制度的な対応というのは常に後手後手になりがちですが、やはり進めるスピードで着々と進んでいかく必要があります。ドラスティックに大きく変わるというところは、しっかり先を見ながら進んでいくという、かなり玉虫色な答えで申し訳ないですが、間違いなくドラスティックに変わりますし、もっと言えば大学というものはどうなるのかぐらいのインパクトはあると思います。その辺りも見据えつつ、ただし今の大学における生成AIの活用というところから始めるしかないので、できるだけ早く先に進んでいくことが肝要です。
【伊藤部会長】  小林委員。
【小林委員】  お二人の御説明ありがとうございました。大変理解が深まりました。実は私どもの組織でももう2時間ぐらいの議事録は全部AIに任せると、人がまとめるよりきれいにまとまってきて、自分がこんなことを言っていたのかと改めて認識されるような状況になっている次第です。そう考えると、やはり今の学生、子供たちが社会に出る頃には随分働き方も変わっているのだろうなというふうに思います。
 そうした中で、コロナ禍でオンライン化が大分進んで、いわゆるデジタルネイティブの世代が出てきて、オンライン教育が随分進んだ中できました。私は文部科学省の検証の事業にも参加させていただいたのですが、オンライン教育について知識の習得については効果があったけれども、フィールドワークとかディスカッションとか、いわゆるコンピテンシーを中心に強化することはなかなか難しいという結果が出ました。ただ、今のお話だと、コンピテンシーレベルの対応についても大分変わってきて学生の壁打ち相手になれるといったことがもう起こっているという御報告がありました。
 一方で、今の御指摘だと大規模大学は予算が潤沢にあるから結構使いこなせますが、中小規模の大学だとなかなか投資や運用が厳しいということでした。ある意味汎用的能力を育むような共通教育というのが、もしかしたら全部オンライン化してどの大学も使えるようになるのじゃないかみたいな議論も出ていたんですが、そうなってくると、オンラインの中から先ほどの飯吉先生のような研究をして、教育効果の高い部分だけピックアップして共通教育のプラットフォームを作って、全大学が中小も含めて共通教育を実施するようになれば、逆に大学は発展的、専門的な教育だけをできるようになるというようなことも考えられなくはないと思います。そうした汎用的な力の育成も含めて、特に共通教育を大学全体でAIを活用していっていくようなことというのは今後、各大学の規模が縮小する中で考えられるのかどうか、教えていただければと思います。
【吉田准教授】  では、まず、吉田から簡単にコメントさせていただきますが、それについては、私としては、そのような在り方になって、完全に大学共通の共通教育となってしまうと多様性が低くなるなというふうに考えておりまして、そもそもちょっと生物学的な話になって生物の先生とお話ししたときに、なるほどと思ったんですが、やはり人類だったり動物において何が重要かというと多様性だと、多様性があるから様々な状況に対応できるということを鑑みると、私としては、大学全体で共通教育、同じものを提供してしまうと、そこにある穴に対してそれこそ人類として対応できなくなってしまう可能性があると思うので、私としては、各大学で実施するというほうが多様性を育むという意味ではよいのかなというふうには思っております。ただそのAIを使って、そういった共通教育ができるかといえばイエスだとは思いますので、そこは意思決定の問題かなと思っております。
【飯吉教授】  理念的には吉田先生に賛成なんですが、実際、大学経営が今抱えている困難というか現状を考えると、やはりコストをどこでカットするのかということは避けられないかと。朗報は、オープンエデュケーションというのを御存じかと思いますが、今MOOCだけでも世界で2万講義以上出ています。この中にも教養教育関連の講義が相当数含まれています。しかもその多くは、世界のトップ大学から出ています。
 ただ、今小林委員が御指摘されたように、オンライン教育のデメリットもあるので、そのデメリット部分への対策としてAIを導入する、例えば個別の指導であるとか、完全習得学習を実現できる可能性は高まると思います。個々の学習者にどこまでも寄り添って、分かりにくい先生のオンラインのビデオ授業について分かりにくいところを補足的にAIがTAのように補完してくれるというような取組も始まっています。
 ですから、このような可能性も考えれば、もちろん対面の授業がそこまで至れり尽くせりだとはとても思えないので、むしろそれに加えてオンライン教育プラスAIですね。さらに、プラス人間の学習コミュニティーでもいいかもしれませんが、こういうものが今後やはり大きく変わっていくし、その部分は共通化できると思います。もちろん、対面の授業や実習等で発揮されるその大学やその教員だけの個性や多様性は、一定残していくべきだと思います。ただ、大学がこれから教育や研究においてどこに注力していくべきかを考えると、やはり共通教育でもAIを活用していくという方向に進んでいく必要があると考えます。
【伊藤部会長】  では、太田委員お願いします。
【太田委員】  どうもありがとうございました。私の質問は飯吉先生の14ページの5つの兆候です。これがどうなるのだろう、どう判断したらいいんだろうということで、大学教育で先生たちにどういうガイダンスやトレーニングを提供することに対して何か全体的な動きがあるのかどうかということ。それから、授業のやり方とかそういうところまで細かいところまでいくのかどうか。
 なぜこういうことを言うかというと、一昨日、私も授業を年に1回しかやらないのですが、一コマ、サステナビリティ学入門というのを担当しまして、かなりそれぞれの分野の先生たちが、自分が思っているサステナビリティについて話をします。あまりにも多様で、聞いている学生は大変だと思うんです。そこで学生側はどうやっていろんな知識を統合しながら考えていくというので、やっぱり生成AI的なものを頼って入れるようなものを授業の中のどこかのコマに入れていかなきゃいけないなと思ったんです。そういう活用がどれだけ可能性があるのかとか、それによって授業のやり方も、これはそういう俯瞰的なT型リーダーを送り出そうということで始めているけども、そういったことはいろんな授業の中にも多分通用してくることかなと思いまして、その辺の動向というのはどうなんですかね。
【飯吉教授】  ありがとうございます。まさに特に後半のほうで言われていたようなことは大事でして、アメリカの大学でしっかりやっているところは、各教員に全ての授業のシラバスの見直しをさせています。AIの活用を大学・部局・教員自身のポリシーだけではなく、授業ごとにしっかり丁寧に検討し、このコマでは生成AIを使った演習を新たにしようとか、まさにそうすることで授業がよくなる可能性があるので、まずそこを徹底的に見直してもらう。そのためにFDワークショップを実施したり、支援リソース等を提供しています。さらに、そのような教育支援キャパシティがある大学では、どのようにAIを活用すればいいかについて、コンサル的に教員の相談に乗ったりしています。
 スライド14の4点目の「AIによって時代遅れになる授業があるのか」というところですが。逆に言えば、授業が時代遅れにならないように、どのように修正・改善するかということについて、大学・部局・教員がどれだけ自発的に取り組めるかが肝要で、取り組まなければ当然時代遅れになってしまって、「もうここは駄目だよね」という話になると思います。
 ですので、まずは足元から取り組むことが大事で、日常の授業の部分、それからその次の段階としては、学科プログラム等のカリキュラムの検討になります。「この授業はもうやらなくてもいいのかもしれない」とか「カリキュラムを少し組み直した方がよさそうだ」というような感じで、少しボトムアップ的に上がっていくように進めていくのがよろしいかと思います。
【伊藤部会長】  濱中委員、お願いします。
【濱中委員】  よろしくお願いいたします。御報告、本当にありがとうございました。大変勉強になりました。これまでの議論なのですけれども、基本的に大学教育の現場、そしてまた石橋大学振興課長の御説明もあったように、初中等との接続という観点での議論が続いていると思います。ただ、今後の大学、そして大学院教育のことを考えますと、社会人の学びの場とか学び直しの場という側面も強化していくでしょうし、強化されていくべきではないかと考えております。
 残念ながら、いまの日本の大学は、なかなか社会人に対して魅力的なものになっていないと言えるように思いますが、お聞きしたいのは、生成AIの発展がこの状況をどう変えていくかということです。すでに多くの社会人が生成AIを実際の仕事の中で使い始めているでしょうし、なかには使いこなしている人も少なからずいると思います。他方で、大学教育の場では「レポートで生成AI使用禁止」といったことも聞かれるわけで、自分の頭で考えてほしいからこそのことですが、こうした大学のありかたが社会人にとってどう映るのかが気になります。高度な技術やスキルを学びたいと考えるような社会人に対し、大学が生成AIを前になかなか動かずにいるというか、積極的に活用しない、大学だからこそ活用しようとしない選択をとるという状況であり続けると、社会人にとっての大学の魅力というのは向上しないどころか、今後むしろ減退していくのかなというようなことをちょっと考えながら聞いておりました。
 社会人対象という観点から、先生方が今日報告してくださった点とは違う御知見があれば、例えば海外の事情などヒントもあるような気もしますので、そういったところを教えていただきたいなと思って手を挙げました。よろしくお願いいたします。
【吉田准教授】  では、まず、吉田から御回答させていただきます。先ほど生成AIによって大学が学びの場として魅力がなくなるのではないかという御指摘だと思いますが、それは大学の方針次第かなというふうに思っております。
 実際、私たちの大学ではメタバース工学部というものを実施しておりまして、それは、リスキリング講座というものがございまして、会員企業にはリスキリングの講座を提供するというようなものを行っております。つい先日、私、生成AIの活用講座というものを1時間ほどで実施したのですが、非常に多くの会員数に対しても800名ほどの参加があったりですとか、申込みは1,000を超えるですとか、そういった形で非常にニーズのある講座になりました。
 という意味では、やはり社会人が欲しい情報をこちら側が高等教育で培っている知識ですとか経験を共有するということに関しては、非常にニーズがあるなというふうに考えておりまして、社会人のニーズに合ったものを提供できるのであれば、もちろん社会人はいっぱい参加してくれると思いますし、そうでなければ、全く興味がないものを提供すればもちろん興味を持たないままになりますので、バランスをどうするかという観点はありますが、すごい入門的なものもニーズはありますし、あと我々は非常にハイエンドな講座も提供しているのですが、そういったものにも一定数は興味を持たれる方もいらっしゃるんです。という意味では、社会人向けにリスキリングの場を設けるということであれば、入門的な興味のある分野に関する入門的な講座、及びそれの発展的な講座をうまく体系立てて提供することによって、生成AIが出てきたとしても場合によってはよりニーズが、大学における学びの場のニーズが高まるかなというふうには思っております。
 すみません、海外の事例に関してはまだ私、十分把握できておりませんので、まず、私の大学の事例を共有させていただきました。
 以上です。
【飯吉教授】  大学院教育についてお話ししますと,社会人対応の大学院プログラムも社会人院生も今後さらに増えていくと思われますが,濱中委員御指摘のように,社会人は今日ご紹介した言い方では「パフォーマンスツール」として,既にAIも使いこなしている人たちです。
 例えば,研究者が論文を書いてその要約をAIにやらせ,それを学術誌に投稿するのは,学術倫理的にはOKというケースが多いと思います。
 これは何が前提になっているかというと,まず研究者として,博士課程でトレーニングを受けていれば,自分の論文を要約するという能力は既に身についているということになります。身について能力ことであればAIで代替してもよいという考え方は,例えばアメリカでは,電卓を小学生1年生からは使わせないけれども,中学生には授業中に使わせている。これは,既に四則演算を自分でどうやるかが身についているから,やり方が分かっていることは代替させてもいいという考え方です。使えば使うほど伸びていく能力もありますが,四則演算能力は,使えば使うほど伸びていくわけでもなくて,歳をとるにつれて衰えていくわけですが,この辺りをどのように考えるかということであります。
 ということは,大学院に入ってくる学生が多様になり社会人と大学から直接上がってくる学生がより混在することになるので,AIを使わせる時に非常に気をつけなくてはいけないということになります。例えば,AI活用の基礎を学ぶ部分は必要な院生だけ,社会人院生はそこは必要はないけれども,新卒で大学から上がってくる大学院生については,そこをやらなくてはいけない。AIリテラシー等についてもその辺りは同じかなと思います。
 このように,大学院教育におけるAI活用は,かなりきめ細やかに個別対応を考えていく必要があると思います。個人的には日本の大学院,国内ではあまり社会的・世間的には話題にされませんが,かなり定員割れとか始まっていて,特に人社系はトップ大学でも苦戦を強いられているので,ぜひAIで魅力ある大学院教育にうまく生まれ変わらせてもらえればと思っています。
【伊藤部会長】  予定の時間になったんですけども、これを先に進めさせていただきます。日吉委員とそれから田中委員からそれぞれ連続して質問いただき、それに簡潔にお答えいただくということでお願いいたします。
【日吉委員】  ありがとうございます。吉田先生に一点御質問させてください。
 生成AIの利活用に関しては、本県でも非常に重要だと思っていまして、ルールブックを作成して進めているところです。特に高校でDXハイスクールというのを国に指定していただいておりまして、35校指定していただいているのですが、そこでは例えばスマート農業などに関してビッグデータを活用して、作物の収穫予想だとか、そういったものに活用させていただこうと思っています。
 ちょっと私のほうから細かい質問になるかと思うのですが、先ほど先生のほうで、プロンプトの作成に関して、例えば日本語よりも英語のほうがより正確に出そうだというようなお話であるとか、あとコミュニケーション能力が非常に大事だというようなお話をいただきました。やはり日本語のハイコンテクストの言語と、それと英語のようなローコンテクストですか、かなり厳密な言語の違いなのかなというふうに思うのですが、今いろいろSNSなんかが普及している中で、あまり子供たちも多く文章を書かない、雑なというのも変ですけれども、粗い文章を書くような中で今後、先生が考えるところでプロンプトの作成能力の向上のために、言語教育というものがどうしていくべきなのか。特に国語教育とか、そういった言語教育をどのようにしていけばいいというふうに先生のほうでお考えなのかをお聞かせいただければと思うのですが。
【伊藤部会長】  田中委員、続けて質問よろしくお願いします。
【田中委員】  生成AIの格段の進歩により、学術論文の査読を生成AIに行わせることも可能になってきたと聞いております。特に査読の評価基準をルーブリックとして公開しているような学会誌の場合はそのルーブリックを読みこませてから論文を生成AIに査読してもらうと、精度の高い査読結果を得られるようになってきたとのことです。
 その一方で、生成AIの判断は多くの人が賛同できる最大公約数的なものであると聞いておりますので、査読結果は無難なもので可もなし不可もなしという、よく言えばそつのない、悪く言うと面白みのない優等生的なものばかりが高く評価されるのかなと思っております。
 そのような状況下で、査読を生成AIに任せるメリットを生成AI自身に聞いてみたところ、査読者の負担軽減という回答でした。具体的に、生成AIが一次審査を行うことで、人間の査読者は形式や誤字脱字などではなく、内容や専門的な議論に集中できるようになるため、査読の負担が軽減され、査読の質も向上する可能性があるという、すばらしい回答を得られました。実際、海外のジャーナルでは論文投稿数が激増しているということで、人間が査読できる限界を超えつつあるとのことなので、これから査読、特に一次審査が生成AIで行われることが広まってくると思います。こうなってしまうと生成AIが高く評価したものがよいと大学院生も考えるようになってしまうと懸念いたします。そういう中で、指導教員として、生成AIで査読を事前にしてもらってから私のところに出してね、という指導をせざるを得なくなってくるかもしれません。一方で、人間の査読にはバイアスが含まれるので、指導教員が駄目出ししたところを生成AIが高く評価することも往々にして出てくると思うので、これからの大学院の指導は、ますます難しくなってくると想像いたします。そういうことも踏まえて御意見をいただけたらと存じます。
 私からは以上です。
【伊藤部会長】  では前半の質問は吉田先生、後半の質問は飯吉先生にお答えいただくということでよろしいでしょうか、お願いいたします。
【吉田准教授】  まず、英語の言語格差に関してなんですが、これの理由の多くは恐らく学習データに依存しているというふうに考えられます。というのも英語での学習、学習データの中の英語の比率が非常に大きいのです。そこで、英語のほうが性能が高いだろうというふうに考えられています。逆に、英語が大半なのになぜかほかの言語も学べてしまっているというところが、AIの研究者たちが驚いているところなので、どちらかというとそこが言語的な特性というよりも学習データに大きく依存しているかなというふうに考えております。
 そのプロンプトの作成能力という観点に関しましては、作成能力だったり国語の教育との関係性ということに関しては、やはり先ほどもお伝えしたように、自分自身が考えていることをちゃんと言語化できるような能力は必ず求められると思いますし、それは普通に対人コミュニケーションでも重要なポイントだと思いますので、ある種これまで重要視されてきた国語の教育というものが、生成AIによってより重要だというふうに認識されるようになるのではないかというふうに考えております。
【飯吉教授】  査読については、個人的な意見も少し入るかもしれませんが、何のための査読かというところを明らかにすることがまずは大事で、その上でベーシックな部分、例えば誰が担当してもチェックリストやルーブリックがあれば同等にチェックできるようなものであれば、そこはAIに代替させるべきで、むしろAIのほうが公平に正確にできるかもしれないですし、疲れによるも信頼性の低下などもないのでよいと思います。
 ただ、やはりすごく独創的な研究であるとか、複数分野を掛け合わせて何か考えているような、今までやられたことがないような研究論文の査読に関しては、人間としてもチャレンジングではありますが、もし内容の専門分野に近い研究者が査読を担当できるのであれば、はるかに高度な専門的・教育的な指導やアドバイスができるのではないかと思います。
 アドバイジングというのは査読の重要な役割の一つだと思いますが、特に若い経験の浅い研究者が書いた論文の査読などは、やはり人間がやったほうがいいと思います。もちろん形式的に直せるような部分については、AIができるだろうし、AIの能力もどんどん上がっているわけですが、研究論文査読の一次審査は全部AIに丸投げというのは、非常に乱暴で危険な考え方だと個人的には思います。独創的な内容でもフォーマットが整っていなければそこで落とされてしまいますし、内容はそこそこでもフォーマットが整っているもののほうが生き残りやすいということになるのであれば、先ほど田中委員が御指摘されていたように、そこは気をつけなければいけないと思います。
【伊藤部会長】  活発な御議論をいただいてありがとうございました。また、吉田先生、飯吉先生、ありがとうございました。
 松下委員、お待たせいたしました。ミネルバ大学についての御発表ということで、約20分の発表をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【松下委員】  ありがとうございます。
 今もお話が出てきましたが、汎用的な能力の育成ということに絞って、ミネルバ大学のイノベーションについてお話をしていきます。
 まず、汎用的能力は育成可能かということについては、教育学や心理学でかなり議論があります。汎用的能力というのは分野や場面を問わず、広い適用性を持つ能力で、代表的なものに、先ほども挙がっていましたけども、批判的思考力とか創造性、コミュニケーション、協働性、そういったものがあります。特に20世紀末頃から初等中等教育、そして高等教育を問わず、教育政策で重視されるようになってきました。高等教育では、社会人基礎力とか学習意欲、これは学術会議ではジェネリックスキルというような言葉も使われています。
 この汎用的能力の育成をめぐってどんな議論があるかということですが、まず、否定的な見方があります。まず、汎用的能力というのは存在し得るのか。それから汎用的ということがある場面で学んだことが別の場面、あるいはある分野で学ぶことが別の分野で使えるということなんですけども、それを転移と言いますが、そういった汎用性を支える転移というのは可能なのか、それから、その汎用的能力の育成評価は可能なのかといったことについて、疑問が出されていると。
 例えば認知科学者の鈴木宏昭さんは、教育可能性の極めて低い目標、先ほど挙げた4つのCのような、ああいったものというのは非常に教育可能性が低いと、それを大学教育で教えようとすることで、ごっこ遊びに変えてしまっているのだというような、かなり痛烈な批判をされています。
 それに対して、一方で転移の研究というのはもう一世紀ぐらい行われてきたんですけども、特に学んだ場面と、それから使う場面がかなり離れているもの、遠い転移と言うのですが、far transfer、そういったものは何によって規定されているのかといったような研究も進んできています。ミネルバ大学はそういった研究も踏まえて、この遠い転移ということに挑戦している。それによって、汎用的な能力を育成しようとしているということだと思います。
 私たちは、実際にそれが成功しているのかどうかということを確かめたいと思って、訪問調査とか、あと学生にずっと追跡インタビューをやってきました。これが先ほどの割と否定的な見方に立つロナルド・バーネットというイギリスの研究者なのですけども、彼は、大学教育で育成される能力をこういうふうに二軸で考えていて、一つは学問の世界の仕事の世界、それから特殊的と一般的と。今問題にしている汎用的な能力というのは、この学問の世界でそれが学ばれて、そしてそれが仕事の世界にも生かされるというこの部分を指しているわけです。
 では、ミネルバ大学は、それをどういうふうにして教えようとしているのかということです。ミネルバ大学はもう御存じの方も多いかと思うのですが、世界で最もイノベーティブな大学というのに過去3年間、選ばれています。アメリカの小規模リベラルアーツ大学で一学年が150名程度です。これまで世界の7都市を移動しながら、学習をするということをやってきました。ただ、2025年度からは、サンフランシスコは最初1年間いるのですけども、そのサンフランシスコと東京を含む4都市がコア都市になりまして、それぞれ滞在期間が1年くらいになるというふうに変更されています。その滞在都市で寮生活をやっていきます。それも寮も自前の建物があるというのではなくて、例えば私はブエノスアイレスに行きましたけど、タワーマンションの何階か借り切るみたいな形で寮生活をしています。
 それからその都市をキャンパスにした活動、自前のキャンパスを持たないで都市の様々な例えば企業だとか、行政機関だとか文化施設だとか、そういったところと一緒にプロジェクトをやることで、都市をキャンパスにした活動を通じて学んでいく。
 それからフルオンラインでの少人数アクティブラーニング。今日のお話ともつながってくるかもしれませんけれども、大体1クラス20名前後の少人数で徹底した反転授業を行います。今では見慣れた画面になりましたけども、こういう感じの画面を使ってフルオンラインのアクティブラーニングをやっています。
 そしてその評価ということがよく問題になるのですが、これは後ほど詳しくお話ししますけども、ずっと学びの成果と、先ほどプロセスも重要だというお話があったんですが、そのプロセスも併せて評価をしていくということです。それから教員は、7都市、一緒に移動していくわけではなくて、もう定まったところにいまして、各滞在都市には職員がいます。そういうふうに教員と職員の役割が切り分けられて、教職協働が行われているというようなことです。
 ミネルバ大学、なぜ設立されたのかということですが、設立の意図は、大きくこの4つのアメリカの高等教育が抱えている問題に対して、それを何とか解決して、グローバルリーダーを育てたいという、そういう意図からつくられた大学です。
 1つ目は、大学が、卒業後の社会や生活に対して準備できた状態にまで学生を育てられていないということ。それから2番目に非常に高額になってしまって、多くの学生がローンを抱えて卒業しているということ。3番目に、アメリカの大学というのは大体卒業率って50%ぐらいなわけですけども、卒業できたとしても、実際にはあんまり授業にエンゲージできてない。それから4番目には入学者選抜において国籍、人種、社会経済的地位とかレガシーなど、本人の能力以外の要因で定員枠が設けられているというようなこと。主に大きく4つの問題を克服しようという意図でつくられた大学です。
 一番最初に出たタイトルが、「Building the Intentional University」というふうになっていますけども、まさに自分たちの設定した原理原則に従って、意図的にゼロから立ち上げられた大学、それがミネルバ大学ということになります。
 大学のミッションとして最上位に掲げられているのは、世界のために、批判的な知恵を涵養するということで、そのためのよりもう少し具体的な目標としては、practical knowledge、実践知を育成する。その実践知というのは、フロー単位の授業というのがミネルバでは有名なのですけども、もう一つ、準正課活動とか課外活動は経験学習で、現地で実際に行う。この二つを組み合わせたハイブリッド学習というのが学習の原則というふうに考えられています。
 では、この汎用的能力、分野横断的な能力というのをどういうふうに育成しようとしているのかということなんですが、まず、先ほど挙げたような4つのコア・コンピテンシーというのは、そのままでは教えられないと。それを階層化し、具体化しています。後ほどお示ししますけども、約80のhabits of mind&foundational concepts、これをまとめてHCsというふうに呼ばれているのですけども、知の習慣と基本的な概念というのを抽出していまして、それをしっかり教えていくということをやっています。
 例えば、先ほどコミュニケーション能力という話がありましたけども、♯audienceというのはHCsの一つなのですが、文脈や相手に合わせて口頭や文書での表現の仕方を変えるというようなこと、これがHCsの一つです。それをまず1年生の一般教育で徹底的に学びます。
 そして、2年生からは専門教育が始まるわけなのですけども、5つの専攻に分かれています。この5つの専攻のダブルメジャーとかメジャー・マイナーか推奨されていますので、多くの学生は、このうちの2つの分野を学んでいる場合が多いです。そこでは、専門分野の知識やスキルを学んでいくわけなのですが、この並行して1年生のときに学んだHCsをずっと専門教育の中でも適用し続けるのです。それによって、様々な文脈で1年生で学んだこのHCs、汎用的な能力というのを実際に使いこなせるようなものにしていくということが非常に重要な部分かなというふうに思います。
 そして3、4年生でちょうど卒論とか卒業研究に当たるようなキャップストーン・プロジェクトというのがあるのですが、そこでHCsとLOsというのを統合した研究を行います。もうちょっと今日は詳しくお話しできないのですが、これがHCsのリストです。大きくはパーソナルとインターパーソナル、先ほど非認知能力なんていうのも出ていましたけども、非認知能力のかなりのものはインターパーソナルのところに含まれているかと思います。そして、この4つのコア・コンピテンシーです。それが超えて、より細かく分けられているわけです。例えば♯correlation、相関関係と因果関係を区別するなんていうのも、HCsの中に入っています。ちょっともうここは飛ばしたいと思います。
 このHCsどういうふうに選んだのかということですが、まず、その4つのコンピテンシーの中のある側面1から導き出されたものであるということ。そして2番目に卒業後の日常生活において、仕事だけじゃなくて市民生活なども含めて、そういった生活において役に立つことができるようになる。そのために必要なもの。それから3番目には、広く適用可能で、少なくとも2つの専攻のうちの2つでは非常に重要なものになっているということ。それから4番目には、ベスト・プラクティス、それから特にグローバルな文脈において、倫理的に活動することを支えてくれるようなものであるということです。それから、そのルーブリックを使って評価が可能なものという、そういう要件も入っています。
 これは学生の声の一部ですけども、本当に本に書かれていたようなことあるいはウェブサイトに書かれているようなことというのが学生に対して行われているのか、学生はどう考えているのかというのを知りたくてずっとインタビューを行ってきたんですけども、本当に学生の声を聞きますと、実際に本に書かれているようなことが行われていて、かなり彼らは、彼らの力になって、日本の大学でDPとか掲げられている目標を知っている学生って結構少ないと思うのですけども、ミネルバの学生の場合は、このHCsをちゃんと分かっていて、今自分がどのぐらいその能力がついているのかということを結構、自覚していました。
 そして、ミネルバ大学のコミュニティーの中では、それが共通言語にもなっているのだと。ただし、やはり汎用的といっても、先ほどもありましたけど、専攻専門分野によって、使いやすさの違いはあるというようなことも言っていました。
 これが先ほどこのハイブリッドでやっていると申し上げたことを少し図式化したものなのですけども、1年生で一般教育、HCsを学び、2年生以降で専門教育をやっていくんだけども、この汎用的な能力はずっと4年間学び続ける。適用し続けて、より理解を深めていくということです。そして習得の範囲、活用の範囲も広げていくということです。
 3、4年生でキャップストーン・プロジェクトというのをやるということです。それと並行して準正課活動、課外活動をやるということです。この汎用的な能力というのは分野を超えた共通部分って、1年次にその土台をつくって適用し続ける。そして分野横断的な能力というのは、ダブルメジャーとかメジャー・マイナーということをとることで鍛えられていく。そして、最後のキャップストーン・プロジェクトで統合される。ちょうどこういう建造物のようなコーナーストーン、キャップストーンというような形でカリキュラムがつくられているというふうに考えられると思います。
 これはちょっと学生の声なのですが、二人のキャップストーン・アドバイザーとセカンド・リーダーがついて、もう本当に1週間に1回ぐらい、指導をきっちりやってもらっているという話を聞きました。
 それから評価なのですけども、評価は結構、こういう汎用的な能力の評価ってどうすればいいのかというふうに思われている先生方も多いかと思うのですけども、これはやっぱり原則というのが立てられていまして、6つの原則が挙げられています。まず、この意図された学習成果、目標に掲げていたような学習成果を実際に実施していく。それから、一貫性をもって成績評価を行う。それから文脈の中でフィードバックを行う。それから、意味のあるやり方で集約をする。それから特にここ重要だと思うのですが、その進捗状況というのを表示し、そして共有する、教員と学生間で共有ができる。そして、こういったものが全部学内でやっているわけですけども、足りない部分、それから、説明責任を果たすために必要な限りにおいて、外部の尺度も使ってそれで補足をするという、そういうふうな原則が立てられています。これがループリックで全部で5段階になっています。
 これはルーブリックのテンプレートなのですが、実際には先ほど挙げましたHCsとか、それから各専門分野のLosと言われるような知識スキルごとに、これを少しカスタマイズしたルーブリックが使われています。
 先ほど文脈の中でフィードバックをするということを申し上げたんですが、それはどういうことかといいますと、こういった例えばレポートの中で、その課題を出されたときに、この課題ではどういうふうなHCsあるいはLosを使ってくださいというのが教員から示されるのです。例えばHCsがこの部分ではこういうふうな使われ方をしている。これはさっきのルーブリックに照らすと、グレードでいうと何段階目のグレードレベルなんだということが示され、なおかつなぜそうなのか、そしてそれを改善していくためにはどういうことが必要なのかというようなアドバイスが加えられます。
 具体的な該当する部分、そこを示しながらそういった評価が下されるということです。これはレポートだけじゃなくて映像制作とかソフトウエア開発とか、そういったものの場合にも、どの部分を見て、それをエビデンスとしてどういうふうな評価をしますということが説明が返されます。
 このタイムトラベル・グレードというのはちょっと特徴的なのですけども、これは先ほど言いましたように、1年生のときに一旦全部、八十幾つのHCsを学ぶんですが、それがずっと専門教育の中でも使い続ける中で評価をされるのです。それでタイムトラベル・グレードという言い方がされています。つまり、この一般教育で学ぶ汎用的な能力HCsと、専門教育で学ぶその専門分野の知識スキルとでは、少しこの評価の方法が異なるということになります。
 この学生の声、評価についても、やはりこういうすごく細かく評価されるとすごく点数が気になるのじゃないかというふうに思っていたんですけども、学生はそういった数字よりもそのフィードバックで返されるコメントとかアドバイスのほうがずっと重要なのだということを口々に言っていました。
 ミネルバ大学の準正課・課外活動も特徴的なのですけども、こういうふうに物理的な空間、生成AIは記号、デジタル空間なわけですけども、物理的な空間での学習ということが非常に重視されているわけです。グローバルローテーションを行いながらやっていくわけですけども、各都市では経験学習をやっていまして、その経験学習がこういうふうな段階をたどって、より深化していくように進められると。こういった経験学習をやるためにも、滞在期間が短いとなかなかここまで深まらないということも、4都市に絞られた一因になっています。そこでは単に観光客なんじゃなくて、地域コミュニティーの積極的な参加者として、市民的な課題や場所に根差したプロジェクトに関わるということが求められています。
 こういうふうに見ますと、私はミネルバ大学は結構汎用的な能力の育成ということに対しては、うまくやれているのではないかというふうに思います。ただ、この汎用的な能力、日本ではどうなのかといいますと、まだまだ課題が大きいかなというふうに思っています。
 というわけで、ちょっと時間もなくなってきましたけども、日本の大学へのインパクトを最後に少しだけお話ししておきたいと思います。先ほど言いましたアメリカの高等教育の抱える問題のかなりの部分は日本の大学にも当てはまるのではないか、程度の差こそあれ当てはまる部分がかなりあるというふうに思います。
 実際に、ミネルバ大学は既に日本の大学教育にも影響を与えているというふうに思います。設置基準の改正で、特例制度で遠隔授業の60単位上限の撤廃だとか、校地・校舎面積基準の適用除外とかそういうことが特例制度を使った場合にはできますけども、そういったところにも生かされていると思いますし、あと今通信制大学でオンライン授業と地域・企業と連携した課外プログラムを組み合わせてやるというのに挑戦している大学がかなりあります。また、通学制大学では清泉女子大学、今年から地球市民学部になりましたけども、かなり早い段階で、先ほどのHCsを当時114あったんですが、少しそれを圧縮して101のコンセプトというので教育をやっておられます。
 こうやって見てきますと、ミネルバ・モデルというのは何なのかということなんですが、イノベーション、ミネルバのイノベーションというのは本当に様々な要素について行われているわけです。こういったそれぞれの要素について見直しをやって、それを最適な形で組み合わせたというのがこのミネルバ・モデルだというふうに思います。中でも重要なのは、HCsを軸として構成されたカリキュラムと、オンライン学習と経験学習のハイブリッド学習ということです。ミネルバは今、自分たちの大学でつくったこのモデルをいろいろなほかの大学とか大学院、また、高校教育や企業研修などにも広げていっているのですが、どこにでも当てはまるのがこの二つなのです。なので、このミネルバのモデルを一部だけ取り入れるのではきっとうまくいかないのじゃないかなというふうに思います。
 どういうふうに導入するのか、その導入の際に注意すべき問題点としてどんなことがあるかということですが、まず、一つは、ミネルバの場合はリベラルアーツ大学ということもあって、広さということがかなり重視されているように思います。広さと深さの両立ということが本の中でも言われているのですけども、学生の声を聞くと、広さのほうに焦点が置かれ過ぎなのではないかというような声も聞かれました。
 それから、2番目にやっぱり分野による適合性の違い。やっぱり汎用性といってもどの分野でも満遍なくというわけではなくて、やっぱり相性のよさ、悪さというのがあるのです。なので、そういったことを考慮する必要があるということ。それからやっぱりこの自然科学などでは、ミネルバのやり方というのは少し限界があるのかなというふうに思いますし、また日常的に教員や上級生たちと共に学べるという、そういうコミュニティーもないという、そういう限界もあるかなというふうに思います。
 また、教員の機能分化ということで、全員がPhDを持っているのですけども、ミネルバに在職している間は教育に専念することが要求されます。しかも、任期付き、3年の任期付きで最大でも最長でも6年間ということになっています。ですので、アメリカのように雇用流動性の高い社会だと、結構うまくいくかもなというふうに思いますけども、日本のような社会、また教育と研究の両立を図りたい教員が多い日本の大学では、このところは結構ネックになるかなというふうに思います。それから、やっぱり大学のシリコンバレーのもともと起業家であったべン・ネルソンが創設した大学ですので、かなりビジネスモデルに依拠しているところがあるということです。
 最後に、ミネルバから何を学ぶかということですけども、ミネルバ大学というのはアメリカの高等教育の抱える問題に対して、その様々な常識を問い直して大学を構成するそれぞれの要素を見直して、テクノロジーの力を最大限に活用して「新結合」、これがもともとのイノベーションの意味なわけですけど、その新結合をつくり上げた大学だというふうに思います。
 ある卒業生がもう全然万人向けの大学ではないということは言っていたんですが、そういう意味ではかなりとんがった大学だというふうに思います。なので日本の大学はそこから学べる、何が学べるかということを考えますと、表面的・部分的な模倣ではなくて、大学教育の自ら常識を問い直して、自分たちならではの新結合を生み出す、そういう姿勢こそが、学ぶべき点なのではないかというふうに考えております。
 以上です。
【伊藤部会長】  ありがとうございました。ミネルバ大学に関しまして、この仕組みについての質問はもう今日は割愛させていただきますけども、これを政策提言につなげるという意味で何か質問をもしお持ちの方がいらっしゃればと思いますけど、いかがでしょうか。
 松下委員、結局は結局は、これはどこからお金がちゃんと出てくるかという問題に、ある意味帰着すると思うのです、ミネルバ大学の場合も。ネルソンが始めてそれなりのお金をしっかりと集めて、全員学費が免除されるような形で、その前にはスプリングバレー大学とか、もっと人数が少ないのですが、アメリカでそういう例もありましたけども、全員無料でしっかり鍛えるといったことあるのですけども、今回学ぶことの中でファイナンスの面で学ぶことは何かありますか。
【松下委員】  全員無料というのは、私がインタビューした学生からはそういうふうな声は聞かれなかったです。
【伊藤部会長】  ごめんなさい、そうでしたね、比較的安価なあれでした。すみませんでした。でも、それでもやっていけるということはどういうそのファイナンスの仕組みがあるかというのは経営上大切だと思うのですけども、何かありますか。
【松下委員】  私が知っていることは数少ないのですけども、大体日本の学生、日本からミネルバ大学に行った学生の話では、日本の国立大学とさして変わらないぐらいの授業であったというふうに言っていました。やっぱり非常に様々なアメリカの場合は財団がありますので、その財団からの寄附にかなり依存しているところがあります。あと、ですので、日本でも東京が滞在都市に選ばれたときには日本財団が相当資金援助をしたということがあります。
 それからミネルバ大学は、実はミネルバ大学自身は非営利の教育機関ですけども、もう一つ、ミネルバプロジェクトという営利企業があるのです。その営利企業がフォーラムという、プラットフォームをミネルバ大学などには提供しています。このプラットフォームを使うのにそれなりの使用料がかかります。これはちょっと具体的な金額を教えられなかったんですが、東大でも今使っておられるのですけども、かなりの額だというふうに聞きました。そういったところが資金源になっているかなというふうに思っております。
【伊藤部会長】  ありがとうございました。よろしいでしょうか。
 平子さん、短めにお願いします。
【平子委員】  すみません、一つだけ質問させてください。
 このミネルバ・モデルを日本の中で展開しようとすると、日本の場合はどうしても文系、理系と分かれてしまっているのですけど、どちらのほうに親和性が高いのか、先生から御示唆ございますでしょうか。
【松下委員】  ありがとうございます。ミネルバの先ほどのHCsなどももし取り入れるとすれば、今5つの専攻の中で結構学生が多いのがコンピューターサイエンスと、ビジネスなのです。先ほど清泉女子大学は地球市民学部、あそこは海外でフィールドワークをやるというのも以前からプログラムの中に入れていましたので、海外フィールドワークというのと、ミネルバの滞在都市を回っていくというのが結構親和性が高いということで、ですので結論でいいますと、ビジネスは人社系、社会科学系ですし、それからコンピューター学部は理工系です。それから地球市民学部は人社系ですので、どちらかということにはならないかなというふうに思います。
 要は、どういうふうな大学が理念、あるいは教育目標を立てているかにかなりによって変わってくるかなというふうに思います。
【伊藤部会長】  ありがとうございました。もう大体時間なのですが、最後に私から一言コメントさせていただきます。
 今日の議論、AI、そしてミネルバ、大切なキーワードは多様性だと思います。社会が要求していくということはますます合理的にAIを使える人が欲しいということになっていくというのは間違いありません。そうなってくると、恐らく大学の中ではもうAIを使いこなせる人を徹底的に育てるような大学も選択肢として出てくるのかもしれません。結局それはそういう人が欲しいと社会が言うからであります。
 また、ミネルバ大学のように、例えば神山高専とか新しい高専も出てきているわけですけども、ああいったところはある意味ミネルバに近いような形で始まっているところでありますので、様々なその多様性というものをどうやって政策的に、この文部科学省の枠組みの中で認めていくかということかというふうに思っています。
 その一方で、飯吉先生が福沢諭吉を引用してくださいましたけども、やはり大切なことは人間、生物学的には150年前からほとんど進化してないということで、学ぶには時間がかかるということであります。ですので、結果的にはどんなに効率を追求しても、逆にどれだけ自分の時間を使って、自分で考える時間をつくれるかということが大切であって、そういう意味で私などは特別部会のほうで文系、最低でも修士、理系、最低でも博士というその自分の時間を10代から20代、どこまでしっかりと使えるかということが今こそ重要だということを例えば全ての大学はそれを追求できるとは思いませんけども、そういうことを追求する大学、高等教育機関が必要ではないかということを私などは主張していたところでございます。
 AIは優しいという、人に対して優しいという飯吉先生のお話が、私も非常に考えさせるところがありました。その一方で、SNSというものは人に対して厳しいです。ですので、私たちこれから求められることは何かを実行するときに、SNSで必ず批判されます。例えばAIを使う、AIの不正利用で例えばこの授業でこの作文ではAIは使っていけませんという授業が慶應義塾であり、それを罰したときにその掲示が、文学部の掲示だったんですけども、AIを不正に利用したために罰するというふうに書いてあったのに、SNSでは、慶應はAIを使わせないのか、何、この遅れている大学はということで大騒ぎになったことがあります。
 実は先月も、私、アメリカでいろいろな大学長と会っている会議の中で、ちょうどそのときにシンガポールのナンヤン国立大学の教員、学長が全く同じ目に遭っていて、自分の大学でAIの不正利用で処罰をしたところ、文部大臣から電話がかかって、文部大臣からかかってきて、あなたの大学はAIを使わせないのかということで、要はSNSで大変なことになっているということであります。
 ですから、そういった分断が進む中において、どのようにしっかりと自分の立場を主張して、正しい社会に導くようなパッケージがつくっていける人がつくっていけるかというのは、これは高等教育の間違いない大切な役目でありますし、私も昨年、150万円学費の問題で物議を実はあれはわざと確信犯的なところがあったんですけども、その後いろいろな新聞が追ってきてくれましたけども、あれも別に私もともと福沢諭吉もその主張をしていたというのはよく勉強していましたし、いきなり思いつきで言ったわけではございませんので、様々なことをある程度パッケージとして用意して、そして社会をよくしていくということが日本でもできていかないと、今のまんまの政治状況では私は非常に不安を感じていますので、そういったことをどうやって高等教育として育てていけるものか、そのためにAIも使いこなせるでしょうけども、大学も様々な多様性ができていくことになるので、大学としていこうあるべきという大学を全て、十把一からげにすることは無理です。
 AIも徹底的に使わせるだけの大学も出てくるかもしれません。でも、あらゆる意味で自分の個性というのをどうやって政策として認めていくか、それは特に時間を使うといった教育に対してもしっかりとお金を投入していくというような政策を質向上ですから、ここの委員会は。質向上と概念で、最終報告にそういったものを盛り込んでいくということが大切だと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 本日の議論は以上となります。最後に事務局に戻します。
【花田高等教育企画課課長補佐】  本日は活発な議論をいただきまして、誠にありがとうございました。次回の部会は8月21日木曜日14時から、ハイブリッド形式での開催を予定しております。本日御発言できなかった内容ございましたら事務局まで御連絡ください。
 以上でございます。
【伊藤部会長】  本日もありがとうございました。御協力ありがとうございました。

―― 了 ――
 

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