令和7年5月26日(月曜日)10時00分~12時00分
WEB会議
(部会長)伊藤公平部会長
(副部会長)森朋子副部会長
(臨時委員)浅田 尚紀、太田 寛行、大野 博之、小林 浩、田中 正弘、濱中 淳子、林 隆之、日吉 亨、平子 裕志、松居 辰則、松浦 良充、松尾 太加志、松下 佳代の各委員
(事務局)伊藤高等教育局長、松坂文部科学戦略官、吉田高等教育企画課長、石橋大学振興課長、佐藤高等教育局参事官(国際担当)、鈴木大学設置・評価室長、髙見高等教育政策室長、花田高等教育企画課課長補佐、太田高等教育政策室室長補佐ほか
【伊藤部会長】 所定の時刻になりましたので、第2回質向上・質保証システム部会を開催いたします。本日も対面とウェブのハイブリッド会議として開催し、その様子をユーチューブライブ配信にて公開します。会議資料、音声などの準備はよろしいでしょうか。
それでは、事務局から連絡事項をお願いします。
【花田高等教育企画課課長補佐】 失礼いたします。本日は、ハイブリッド会議及びライブ配信を円滑に行う観点から、御発言の際は、会議に本日対面で御出席の先生はその場で挙手を、また、オンラインで御出席の先生はZoom上で挙手のボタンを押していただき、部会長から御指名されましたらお名前をおっしゃってから御発言ください。また、オンラインで御出席の先生は、御発言後は再度挙手のボタンを押して表示を消していただきますようお願いいたします。また、発言時以外はマイクをミュートにしていただくなど、御配慮いただきますと幸いでございます。
本日の会議資料は事前にメールでお送りしているとおりでございますが、会場のiPadに本日の会議資料をチャットにてURLをお送りしてございますので、紙の資料と併せて御活用ください。
【伊藤部会長】 ありがとうございます。
続いて、大学分科会第183回において出た本部会に対する期待や意見、コメント、要望などについて、事務局から説明をお願いします。
【髙見高等教育政策室長】 高等教育政策室長の髙見です。私のほうからは、お手元の資料3-1に沿って、4月23日に開催されました大学分科会における議論のうち、本部会に関係する主な御意見を紹介したいと思います。ポイントを絞って説明いたします。
まず初めに、1.認証評価制度の見直し及びそれに伴う情報公表の内容・方法の改善では、1つ目の部分でございますけれども、評価は何のためにして、それがどのように活用され、どのような効果を期待しているのかを意識した議論を行うことが必要であること。認証評価について、研究に特化した大学、職業に特化した大学は、別途評価基準をつくる必要があること。評価の効果と大学負担のバランスを考慮した上で、評価の目的に沿った議論が必要であること。国外では前回の評価からの伸び代の評価がなされていること。認証評価の現状と質保証の定義を再確認する必要があること。各大学の成長を正しく評価し、国が支援する仕組みが重要であることなどの意見が出されております。
また、2.学士・修士5年一貫教育制度の在り方では、制度全体が複雑化している中で、関係性を整えることが必要であること。人文・社会科学系について、より多くの学部生が大学院へ進む魅力あるプログラムを担保する仕組みをつくることが必要であること。データサイエンスなど、産業界が求める専門的な知識をタイムリーに提供することが重要であることなどの御意見をいただきました。
さらに、3.学生が主体的・自律的に学修するための環境構築の促進では、これからの時代は自己思考力、自己決定力に結びつく教育が必要であること。アメリカの高等教育は、学ぶことが楽しい、調べることが面白い、発表することが楽しいと思わせてくれ、日本の教員もFDで学ぶ必要があること。質保証システムについて、成果が十分に実感されず、疲弊という言葉すら聞かれるようになったことから、引いて整理し直すことも求められること。世界ではショートサイクルの高等教育が多様な役割を果たしているということ。
次に、4.「出口の質保証」の促進では、60%の若者が大学進学する中で、ハイエンドだけではなく、分厚い中間層の若者たちの人材育成を見据えていく必要があること。予測不可能な時代において問うべき問題を見つけ、それに対するアプローチを試行錯誤しながらトライしていく、人材育成していく必要があることなどの御意見をいただいたところでございます。
本日の意見交換に当たりましては、ぜひこれらの御意見も参照いただきながら、審議を深めていただけたらと存じます。私からの説明は以上です。
【伊藤部会長】 ありがとうございました。大学分科会のほうからこのワーキンググループというのですかね、部会は委託されているわけでございますので、分科会本体の意見も参考にしながら当然のことながら進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
では、議題に入りたいというふうに思います。議題の1、学士・修士5年一貫制度についてです。このことについて私から先に触れさせていただきますけれども、この学士・修士5年一貫制度は、いわゆる質向上という枠組みの中で、「知の総和」答申の中で私どもが提案したものであります。
ちょうど私、先々週ですかね、同志社の150年に関するシンポジウムに呼ばれて、新島襄とか山本覚馬といった同志社を始めた同志たちのことを随分調べる機会があったですけれども、やはり彼らも徹底的に若いときに時間をつくって、時間を大切にして、自分たちを確立しています。新島襄も21歳以降からアメリカの高校に留学して、その後アメリカの大学に進み、そして30歳過ぎて同志社を始めている。
要は、社会の動きは今、速くはなっているのですけれども、人間の生物学的な進化は例えば150年前からもうほとんど得られていない。その中において、楽器や語学やスポーツを見ても明らかなとおり、10代、20代、こういうときにどれだけ学ぶ力があるか、どれだけそのときこそは人間形成それから学ぶ力をつけるときなのかということで、リカレント教育も大切なのですが、学ぶ力、学ぶ方法というのはやはり若いときにつけておかないと。また、特に志というものですよね。志というものは相当若いときに時間をかけて失敗も含めて醸成していないと、なかなか大きくなってから、つまり30代、40代になってから醸成していくのは難しいことなのではないかと思います。
しかし、今、日本社会は極端な少子化で、企業はこれからますますの勢いで採用活動を学生たちにかけています。そうするとますます学生たちは浮ついて、自分たちの時間、自分たちで考える、自分たちで選択をして、自分たちで学びの楽しさを得ていくという時間がなくなっていく、世界を見に行く時間もなくなっていく。
そういう中で、どれほどの時間をしっかりと若い人たちに学びの時間、経験の時間を与えるかということが我々教育者には求められているという考えの中から、この5年一貫教育というのは効率的に学士や修士を取るためのものではなく、もっと違った意味での、どうやって若者たちに十分な時間を与えていけるのかということを観点に、「知の総和」答申では私どもが提案しているものであります。
そのような観点から、今の文部科学省または今の制度の中でどのような5年一貫教育ができているのかということをまず我々が理解するという意味で、今回松浦委員に慶應で行っていること、でも、慶應で行っているということは実はほかの大学でも行われていることであります。ですから、今これが効率的に学士と修士を取るものとして間違って捉えかねない今の制度を、根本からしてどうやって質保証と質向上という意味で私たちが制度を変えていけるかということを問われている中で、まず今できることを理解してもらうということで、松浦さん、そのような観点から御発表をよろしくお願いいたします。
【松浦委員】 伊藤部会長、ありがとうございます。慶應義塾大学の松浦でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
もうイントロダクションは部会長にしていただきましたので、私のほうから申し上げることはあまりないのですが、タイトルは、学士・修士5年一貫、そして連携制度と、連携という言葉を入れました。一貫というのはかなり強い言葉ですし、まだまだ一般化されていない。他方で、しかし、「知の総和」答申には、恐らく28ページから30ページぐらいのところに集約して言及がありますけれども、大学院修了をスタンダードにするという考え方がまず出発点としてあって、その中で、学士、修士そして博士の連続性や体系性ということが重視されているというふうに理解しております。
また一方で、学生の流動性を高めるという言及もあって、学士・修士一貫としてしまうと、もう本当に同じディシプリンでそのまま5年間という、枠組みに固定化するところもあるかと思います。その辺りはもう少し柔軟に考える必要があるのかなということで、「学士・修士5年一貫/連携制度の事例と課題」とテーマを設定させていただきました。
発表、説明には20分ほどお時間をいただいておりますが、資料は多めですので、要点をかいつまんで御説明していきたいと思います。スライドの2枚目のところに骨子を書いております。まず慶應義塾の事例を御紹介して、他大学さんの事例、これについては言及するだけにとどまるかと思います。そもそもこの学士・修士5年一貫という考え方が出てきたところの背景を見た上で、課題と論点についてディスカッションしていただくような問題提起ができればと考えております。
私ども慶應義塾でも学士・修士の一貫や連携のことについて議論や調査を重ねてきたところございますので、その辺りの成果、私自身一人の研究者としての発表というよりは、そういう慶應義塾での共同作業の成果をお話しするということになります。
まず慶應義塾の背景として、スライドの3ページ目に、学部の構成を記しております。10学部があります。人文・社会系に医療系、そして理工という伝統的な学部、それから総合、環境というのは学際の考え方に基づいて構成されている学部です。これらの学部が6つのキャンパスに分散し、なおかつ4年間通して同一のキャンパスで学ぶのは湘南藤沢に位置している総合政策と環境情報のみで、他の学部は複数のキャンパスで学ぶことになります。一貫ということを考えるときには、私どもの大学は構成上いろいろなハードルがございますことも申し上げておきます。
この学部10学部に対して14の研究科がございます。先ほどの一貫ということで申し上げますと、学部の上に煙突のように修士、博士がついている研究科というのも当然ございます。文学、経済学、法学、商学、医学、理工学、薬学等ですね。これに対して社会学研究科というのは、これは基本的には文学部の上についている位置づけなのですけれども、文学部の一部の専攻、社会学、心理学、教育学、そして人間科学の各専攻の学生が、主として進学しますが、教員は文学部以外の様々な学部から社会学、教育学、心理学を専攻している教員が集まってきていますので、必ずしも煙突型という形にはなっておりません。
それから政策・メディア研究科というのは、学部としては総合政策学部と環境情報学部という2つの学部があるのですが、大学院はそこを一つにして政策・メディア研究科という形で構成しております。
これに対して、本当の意味でのいわゆる独立研究科というのが、健康マネジメント研究科、ここは看護医療学部と非常に密接には関係をしておりますので、看護医療学部から健康マネジメント研究科の看護学の専攻に進む学生が一定数おりますが、それだけではなく、公衆衛生やスポーツ健康科学という領域も持っておりますので、必ずしも完全な煙突型にはなっていない。
これに対して、経営管理研究科、システムデザイン・マネジメント研究科、メディアデザイン研究科というのは、これはもう完全に学部を前提としていない独立した研究科となっております。そして法務研究科は御承知のとおりのいわゆるロースクールです。
このように、学士・修士一貫あるいは連携と言いましても、学部からそのまま同じ領域で修士まで行ける場合と、独立した修士課程を持っているところをどういうふうに、一貫というシステムをつくるのかという問題はございます。
スライドの8ページ目に入りまして、慶應義塾のいくつかの事例を、必ずしも学士・修士に限らずに挙げております。最初に申し上げておきますと、12ページ目にあります法曹コースは、これはほかの大学でも同じようなものがあるかと思いますが、この法曹コース以外は、学生が非常に少ない状態です。少数の学生しかこれに申請していない。そのことを前提として申し上げます。
まずスライド8枚目、9枚目になりますが、経済学部、経済学研究科の例がございます。こちらも学士・修士の一貫連携というときに割と普通に考えられる4プラス1というパターンで、修士課程を最短1年で修了可能な形で、学部生には大学院の科目を特に4年生のときに先取り履修させる。この先取り履修の制度自体は経済学部あるいは経済学研究科以外の学部や研究科でも比較的普通に行われております。5年で修了ということでないにしても、大学院進学を考えている学生は、学部のときに大学院科目を先取り履修をする例が多いです。
経済学の場合は、特に早期修了制度を他大学の学生でも適用できるという形にしまして、非常に優秀な学生は他大学から来られても、要するに先取り履修がなくても1年で修士を取得できるという形になっていますが、それは本当にレアケースです。
経済学部、経済学研究科では、さらに3.5プラス1.5という、4プラス1のいろいろな問題点をクリアできるような制度にできないか、3.5年で学部を早期卒業させ、1.5年で修士を修了させる構想もあります。内部進学者に限ってのことですが、23年度の学部入学者から開始したところであり、まだどういう形になるのかは実態としては把握できておりません。
経済学部では、スライド9ページにございますように、海外大学との今度は5.5年で学部と修士を取得できるような、海外大学との協定、連携によるプログラムもあります。ここでは一部、表に書き切れていない海外大学もございます。これも今後の学士・修士5年ないしは、そのプラスアルファを考えるとき、国際化戦略とも併せて考えるべき例になるのではないか、思います。
スライド10枚目に入りますが、、湘南藤沢キャンパスでは、最初は4年プログラム、4年間で学士3年、修士1年の計4年で取得できるというプログラムをつくりました。実際にはなかなか大変で、申請する学生は必ずしも多くないけれども、プログラムとしては意欲ある学生、先ほど伊藤部会長が志ということおっしゃいましたけれども、志ある学生には機会が提供できるということでつくっております。
これに対して、4年とまでは言わないまでも、3.5年の早期卒業と1.5年、先ほどの経済学部の内部進学と同じような形ですけれども、やはり先取り履修等を利用した上での学部の3.5年卒業という制度を、総合政策、環境情報、政策・メディア研究科では構想しております。
あと、看護医療学部と健康マネジメント研究科の看護学専攻、先ほど申し上げましたように、健康マネジメント研究科は看護学だけではないのですが、看護学の部分を下の学部とつなげて5年一貫というのをつくっております。
そして、12枚目に法曹コース、こちらはいわゆる3プラス2という形ですが、特に本学で特異な形ではなく、法務研究科がある大学はこういうことをやっておられるかと思います。
あとは少し補足的にですが、学士・修士ではないのですが、スライド13枚目には薬学研究科の修士・博士の一貫コース、薬科学専攻のほうですね。薬学は4年制と6年制がございますけれども、4年制のほうの学部を出て修士・博士とどう連携させていくのかということの試みもあります。御参考までに示しました。
14枚目は、いわゆる飛び級に基づいて修士課程に進学できる形を設定しているのですが、こちらは修士課程を修了しない場合、学士の学位が取れないという制度になりますので、申請する学生は限られているという現状です。
このほかそれぞれの学部で、学士・修士ということではございませんけれども、学士のダブルディグリー、修士のダブルディグリーというのは結構熱心に行っております。それらを組み合わせた先ほどの経済学部のような形の5年というのを組むことも可能性としては大いにあるのかなと考えています。
他大学さんの事例、もう時間もあまりなくなってきましたが、我々で少し調べた形ではこういう形がございまして、国際基督教大学はかなり早くからこのプログラムをやっておられるということと、さらに1学部ですので、あらゆる学問分野でこのことができるようになっているというのが特徴かと思います。
それから、16枚目の東大さんのCollege of Designですけれども、こちらも当初5年一貫ではじめる、というようなアナウンスがあったようには理解していますが、最近発表されたものでは5年で修士を取ることもできる、というような表現になっておりましたので、どういうことか、というのもいずれ知りたいと思います。
背景要因としてデータ的なものをお示ししましたけれども、17枚目では、ようやく博士課程の在学者が増えてきてはいるのですが、これはもう御存じのように人文・社会分野が全然伸びない。伸びない要因を考えなければいけませんが、それは逆に言えば潜在力がある、楽観的に捉えれば、人文・社会部分の大学院進学者を確保することで日本全体の大学院への進学者が増えるということがある。
それから、18枚目の入学志願者と入学者、いわゆる競争率を見ますと、左側が修士課程ですけれども、実は人文・社会分野というのは志願者はそれなりにいるのだが入学できない。いわゆる競争率が高い状態が博士も含めて続いている。これはやはり正直本学もそういう傾向はあるかと思いますが、人文・社会学の大学院の進学者選抜というのは結構ハードルが高い、水準が高い、その辺りの大学院に対する大学や教員の考え方を今後どのように変えていくのかということが課題になります。
そして19枚目は、これはもうよく出てくるものですが、国際的に見ても日本の修士・博士の学位取得者の比率が低い。
それから20枚目では、大学院修了者と労働生産性には正の相関があるということを示しています。また、なかなか現在の日本では、採用のときに特に大学院卒ということで優遇されるわけではないのですが、実際には学位を持っている人たちの所得というのは、長い目で見ると博士課程修了者等、35歳以上で高所得の傾向を示している。この辺りのところも、考えていかなければいけないことかと思います。
課題と論点をまとめました。まずこの制度の枠組みとして5年ということで考えたときに、どういう区切り方にしていくのかということはかなり大きな問題です。
例えば今ポピュラーである4プラス1という考え方をとりますと、卒業研究、卒業論文を必修化している学部では卒論を書いて1年で修論を書くということが生じます。この辺りをどう考えていくのかということ。
教育課程に関しても、先ほど申し上げましたように、同一ディシプリンで5年一貫という考え方でいいのか、あるいは学際性や領域横断というものをより学士・修士の一貫連携で促進していくのかということがございます。
これは制度の枠組みとも関わりますが、いわゆる課程制大学院なわけですけれども、コースワークとリサーチワークとの関係をどういうふうにしていくのかというのは、今、日本私立大学連盟の大学院分科会でも議論しているところです。
私どもも当初コースワークで院生の視野が広がって、リサーチワークは自分の専門性を深める、という認識でいたのですが、修了者にインタビューをしますと、実はリサーチワークの中でこそいろいろな分野との連携で視野が広がっていった。必ずしもコースワークが汎用性のある学びであったとは言えない、という指摘がヒアリングをした修了者から複数聞かれました。この辺り大学の教員の考え方、あるいは制度設計する側の考え方として、もう一度改めて考えてみなければいけないかなと思っています。
コースワークとリサーチワークの関係で見ると、先ほど、これは前回も申し上げましたが、学修量を時間で測るという現在の単位制度の根本原理というものをもう一度考え直す必要があります。、学士・修士6年だったものを5年に詰めたときに、先ほどのコースワーク、リサーチワークとの関係でいくと、いわゆる単位の実質化で授業外の学修時間ということを議論するときに、もうちょっと柔軟な扱いをしていかないとこの構想は進まないかなと考えております。
時間がちょっと過ぎておりますが、最後22ページも幾つか考えなければいけないことを、社会との関係で、私ども大学の経営、学校法人の経営に携わる者としては、学納金をどういうふうに設定するのか。5年に短縮されたから1年分要らないのだという考え方と、けれども、単位数は同じなのでそれに応じた設定をするべきだ、との意見もあります。
それから、大学自身の問題としても、先ほど申し上げました人文・社会系のほうでかなり入学者のハードルを高くしている、そういう大学院観と、これから社会が求めている大学院生の在り方というものとをうまくすり合わせて議論していく必要があります。その際にもう一度、これもさっきの単位と同じですけれども、学士・修士で積み上げていくときの定員という考え方をもう少し柔軟に設定していかないと、時代の変化に応じたプログラムが組めないのかなと考えます。
そして、最終的には学生にとってのメリット、デメリットは何なのかということもきちんと調査した上で議論をしていかなければならないと思います。
急ぎましたが、以上でございます。ありがとうございました。
【伊藤部会長】 ありがとうございました。「知の総和」答申でも、必ずしも全ての大学がこの5年制を目指すわけではなく、やはり機能別にという意味では、これを目指すところもあれば、今までどおりの4年間でしっかりとした教育を行うところもあってもよいだろうと。ただ、このままでは皆横並びの4年では、志といった様々なことをもっと高めたい人にとってはまた違う教育をつくるべきではないかということでございました。
これから大体10時55分頃まで自由に議論していただきたいのですけれども、皆様挙手をよろしくお願いいたします。林さん。
【林委員】 すみません、3点、事実確認という形になるかもしれませんけれども、まず1点目なのですが、必要単位との関係なのですけれども、学部124単位以上、修士30単位以上という形になりますけれども、例えば先ほどの大学院科目を先取りとなったときに、124の中で先取りして、例えば20とか先取りしたら、修士30のときにそれを入学前既履修として入れるのか、それとも124にプラスしてさらに先取りとして幾つか取っといて、それが修士のときに30の中に入るのか、そこの重複関係を教えていただきたいというのがまず1点目です。
【松浦委員】 学部、研究科によって運用が違うところもあるかもしれませんが、通常は学部のときにはいわゆる自由科目といいますか、卒業要件に含まれない科目として履修して、入学後認定、修士課程の単位として認定されるというパターンが一番多いと思います。
【林委員】 124を超えて取っている学生が。
【松浦委員】 そういうことでございます。
【林委員】 分かりました。ありがとうございます。
それから2点目、これもすみません、設置基準との関係なのですけれども、大学院設置基準で修士は標準修業年限2年と書いてあって、実務の経験を有する者は1年にできるという規定はあるのですけれども、この場合は修士を2年から1年にしていると解釈されてやっているのか、それとも2年間の修士課程が標準なのだけれどもそれを早期終了させているという考え方で運用されているのか。
【松浦委員】 後者のほうです。
【林委員】 後者。分かりました。ありがとうございます。
それから最後3点目、これはもうちょっと大きな話としてお聞きしたいのですけれども、博士課程との関係なのですが、こうやって学部、修士が5年になったときに、博士課程はまだ3年としてあるというときに、例えば修士と博士の間を、2足す3だから5年を4年にするとか、学部と修士じゃなくてそっちをくっつけるという議論とかはなかったのかということと。
理系だと修士まで行くのが普通な状態になっているので、そうすると今までも6年でも行っていたという状態はあって、文系はあまりそうではなかったと思うのですけれども。この議論のときは、例えば理系は6年行くのが普通だから6年でもよくて、もしくは博士を小さく、少しくっつけたほうがいいかもしれないという議論もあるかもしれなくて、文系は修士まで行ってほしいからこうやって学部プラス修士で5年というのもあるのかなと思うのですけれども、その辺り、博士との関係、それから分野との関係というのはどういうふうにお考えですか。
【松浦委員】 そうですね、実は文系のほうが修士課程に進む学生が博士まで進みたいと思う指向性は強いと思います。実務型の独立研究科なんかは修士課程までという考え方が強いと思います。その辺りのところをどう方向づけていくのかというのは私たちの大学の中でも課題です。博士進学を前提としない修士の学生を増やしたほうがいいのではないかという議論もあります。あるいは、研究者を育てている伝統のある研究科では、やはり修士・博士の一貫のルートをもっと太くしたほうがいいのじゃないかという考え方もあります。この辺りはそれぞれの研究科や分野の政策判断かなと思っています。
【林委員】 分かりました。ありがとうございます。
【伊藤部会長】 では、ほかには。では、浅田委員、お願いします。
【浅田委員】 御説明ありがとうございました。私からは2点質問させてください。
5年一貫制の学生は非常に少人数だということで、特に優秀な学生さんに適用される制度だと理解しました。学生さん自身が申請するということで、意欲ある学生さんであることは間違いないと思うのですけれども、能力について、こういうコースに入る資格審査的なものをされているのかなということです。例えば、10ページの総合政策、環境情報は第1学年2学期目に申請するので、かなり早い段階で学生さんが手を挙げます。ここは学部・修士4年一貫プログラムですから、すごくタイトなスケジュールになると思いますが、早い段階で能力があってこのコースに乗っても、あまりにも苛酷なのでドロップアウトする学生さんもいるのかなと思ったりするのですが、その辺はいかがなのでしょうか。
【松浦委員】 とにかく意欲もあり、それに能力が伴っているから申請をし、そういう学生を認めて参加させているわけですが、実際にはいろいろで、厳しい環境の中で学ばなければならないので、申請した全員がそのまま修了に結びついているわけではありません。
【浅田委員】 ありがとうございます。もう1点、11ページの看護医療学部ですけれども、看護学などの医療系は指定規則があって非常にカリキュラムがタイトで、しかも臨地実習などの実習もかなり多く組まれています。そうすると、このコースに乗って看護学の学士を取ってさらに修士も取ってというのは、現実的にどれくらい実現可能なのでしょうか。
【松浦委員】 1桁ではあるのですが、申請して修了している学生はおります。
【浅田委員】 そうですか。知識を主に身につける分野ならいいのですけれども、やはり看護はスキルを身につけて、現場での経験も必要な分野なので、相当優秀な方といいますか、非常にタイトなスケジュールの中で勉学されている学生さんがおられるということですか。分かりました。
【松浦委員】 意欲もすごく強い学生が多く、そういう学生です。
【浅田委員】 ありがとうございます。
【伊藤部会長】 では、オンラインで松下委員、続きまして、田中委員の順番でお願いします。
【松下委員】 松下です。御説明ありがとうございました。
大きくは2点です。1つは、5年で一貫ということになりますと、先ほど最後の論点のところでもおっしゃったのですが、卒業論文とか修士論文がある学部、研究科ではかなり難しいのではないかと。例えば経済学部は割と卒業論文がないところが多いかと思うのですが、そういったところですと割と実現可能性がありそうに思うのですけれども、卒業論文、修論、修士論文があるようなところで5年というのはかなり厳しくならないか。逆にその5年を実現するために、卒業論文や修士論文の質が落ちないかというのが懸念されます。
もう1つは、例えばヨーロッパではもう5年で2学位というのをやっているわけですけれども、ヨーロッパの場合は大学に入るとすぐ専門教育が本格的に始まります。日本の場合は、松浦委員もよく御存じのように、アメリカモデルとヨーロッパモデルの接ぎ木みたいな形になっていますので、教養教育というのが最初の1年あるいは1年半ぐらいはあるわけですよね。そうしますと、例えば3プラス2とかで考えたときには、教養教育を圧迫するような形で専門教育が下に下りてくる。今、非常に教養教育の重要性というのが改めて認識されていると思うのですけれども、この5年一貫としたときに教養教育にしわ寄せが来るということにならないか。この点はいかがお考えでしょうか。以上2点です。
【松浦委員】 ありがとうございます。いずれも私たちも学内の検討の中で議論になっているところです。おっしゃるとおり卒論の重みというか負荷というのは専門分野とか学部によってかなり違います。いわゆる卒業論文を要しない学部もありますので、そういう学部を中心にこういう発想というかプログラムが進んでいるところがございます。
逆に私としては、ICUさんは卒論も恐らく全分野で必修だと思いますので、どういうふうにされているのかなというのは気になるところです。卒業論文そしてそれとの修士論文の関係というのは、この制度を考えるときの非常に大きなポイントにはなってくると思います。そういう中で、4プラス1だけじゃなくて3.5と1.5という議論も出てきているのかなと思います。
それから教養教育との関係も、これも実は論点であえて触れませんでしたが、やはりおっしゃるように、ヨーロッパは3プラス2だと言われますけれども、教養とかジェネラル・エデュケーションの部分の位置づけが日本のモデルとでは異なっています。なので、実は教養の部分も視野に入れながら一貫制度をつくり上げていくとすると、入学者選抜や中等学校、中等教育との接続の部分、入り口の部分について、一定の水準を設定するとか、ということをやらないとうまくいかないところがあるのかなと思います。
ただ一方で、先ほども申し上げたことですが、煙突型で同じディシプリンで学士・修士に上がっていくというパターンのときに、教養教育の圧迫というのは問題になるかもしれませんが、学士・修士の組合せの中で学際性を担保していくという考え方をとると、実は学士・修士の一貫というか5年間の中で、今までとは違った意味での教養教育的な要素をこのプログラムの中に入れることはできないだろうかというのは、個人的にはちょっと思うところがございます。以上でよろしいでしょうか。
【松下委員】 ありがとうございました。
【伊藤部会長】 補足しますと、私がいわゆる高等教育の在り方部会、特別部会にいたときに、1つやはり一番難しいなと思ったのは、高等教育という18歳以降のことに限定して話をしていたのでここは難しいと思ったところで、例えば昔の旧制高等学校制度のようなものがあれば、高校2年生の年齢からある意味教養教育を始めていたところもあるわけですから。そこら辺のところの組合せをどうやって、実は下に下ろしていくのか、高大接続というものを超えた議論も必要なんじゃないかとそのときは思ったのですが、どうしても高等教育で区切られているので、今、松下委員が御指摘されたようなことというのはなかなか新しい設計が必要だなと思ったところも感じたところであります。
さらに、例えばダブルメジャーとか、いろいろな考え方も学部の中にはあるのだけれども、ダブルメジャーというものをどうやって年数を増やしながらつくっていくかということも十分に考えられます。いろいろな可能性をここで議論していただければと思います。
では、田中委員、よろしくお願いします。
【田中委員】 私は学士・修士5年一貫制度について、基本的に賛同する立場にございます。その上で確認させていただきたいのですが、お示しいただいた学士課程入学後に希望する学生は所定の審査を経て5年一貫プログラムに異動できるというものなのですが、もう一歩進んで、大学入学時に希望する学生は初めから5年一貫プログラムに所属して、彼ら彼女らは原則全員修士号を得て大学を卒業、修了するという制度について議論する予定はございますでしょうか。
私がこのような提案をするのは、例えば専門職課程と学士課程をつなげるというのがよい案だと私は思っているためです。例えば教員養成系学部と教職大学院を接続して5年間にプログラムを短縮するということは、専門職の高度化を学生の負担を軽減しつつ実現できるよい案ではないかと考えているからです。この点について確認させていただけたらと思います。
【伊藤部会長】 今、田中委員の指摘、伊藤ですけれども、これは「知の総和」答申の中で、やはり一部において高等教育の定義をアップデートしようという、アップグレードしようという考え方の中においては、5年、800近くの大学全てが学士横並びではなくて、もう一つ上を目指すような学位的な考え方をつくってもよいのではないかということがまず議論されたことであります。そういう意味では、田中委員の今コメントされたように、最初からもう一つ時間もかけてさらに学びや自分の志を高めることに挑みたいという人を、最初からそういう方向に持っていくという考え方が「知の総和」答申の中でうたわれたことであります。
ということで、もちろんその上で、松浦委員。
【松浦委員】 先ほどの繰り返しになりますが、私も実現可能性がどこまであるかはともかくとして、この問題を考えるときには、やはり繰り返しですが、高大接続といいますか、入学者選抜、中等教育と高等教育の接続の部分から議論をしていかないときちんとした制度になっていかないかなということは思いますので、田中委員のおっしゃることに同感です。
【伊藤部会長】 では、その上で田中委員、何かコメントをお持ちですか。よろしいでしょうか。
【田中委員】 例えば教職大学院とつなぐ場合であれば、教員養成系学部にいる4年生は大体もう既に120単位以上を取っています。4年生は教育実習に行ったり卒論を書いたりということになるのですが、4年生のうちに教職大学院に進んで、より専門的、かつより長期的な教育実習を行うということであれば全然代替可能だと思いますので、一貫プログラムに無理は生じないと思います。
同じように、例えばMBAであったり、それ以外の専門職学位であったりとつなげることも、それほど無理はないと思っております。
一方で、伝統的な研究者養成の大学院とつなげる場合は、人文・社会系であれば修論指導等にかなり無理が生じると思いますので、ST比をかなり絞ったところに関しては初めから5年一貫に入ることができるという、ある程度の縛りが必要だと私は思います。私からは以上となります。
【伊藤部会長】 では、森副部会長、お願いします。
【森委員】 ありがとうございます。森でございます。まずは、私も非常にポジティブに見ている案件でございますけれども、2点ございます。
1点目は、松下委員がおっしゃったように、私も汎用的能力の部分、教養教育の部分に関しては大きな懸念がありますので、今お答えいただいたとおり、これから解決策をぜひ模索していただきたいと思っております。
あとは2点目でございます。前の大学分科会のときにもお話ししているのですけれども、私も伊藤部会長と同様に緩やかな大学の機能分化が必要だろうというふうに思っているところでございます。このときに、私の大学自身もそうですけれども、分厚い中間層を育てていく場合に、18歳ではなかなか難しかったけれども、4年間で学びの面白さが分かって、ぜひ大学院は研究大学院に進みたいと言っている外からの大学生ですよね。そう思ったときに、本学も慶應義塾大学の大学院に行きたいと思っている学生が数人おりますけれども、そういう場合にこの5年間どこで一体接続できるのだというところですね。今、部会長からありましたように、中等教育と高等教育の接続ということは非常に重要な観点なのですけれども、高等教育同士の連携、これはどのような形で考えておられるのか、もしお考えがありましたらお聞かせいただければと思います。
【松浦委員】 先ほどの例で言いますと、経済学部、経済学研究科の一貫のところに内部進学者だけじゃない形で組み入れて、かなり優秀な学生が1年で修了したという例がございます。その辺りの工夫は私どももしなければいけないなと思いつつ、やはりそれがかなり特異なケースであったということも事実です。それで3.5プラス1.5という形も出てきていますから。この辺りを4プラス1だ、あるいは内部進学だけの3.5と1.5だというふうに区切らないような、柔軟で流動的な学生募集、それこそリカレントの学生なんかも含めた制度設計が必ず必要になってくると思います。
ただ、難しいのは、そのときに3.5で学士号を出す大学と4年でというところとをうまくどう組み合わせていくのかということは工夫していかなければいけないのかなというふうに思います。
【伊藤部会長】 では、濱中委員、お願いします。
【濱中委員】 ありがとうございました。先ほどから、5年一貫コースをどのように進めていくか、より制度的に整備されたかたちにするための方策を探る方向で議論がなされていると感じながら拝聴しておりました。
私は以前、大学入試センターに勤めており、その際に高校生を対象にした調査に関わっていました。もう10年も前ですから、現在は状況が変わっているかもしれませんが、そういった経験や、東京大学の推薦入試で入学した学生へのインタビュー、さらに現在勤務している早稲田大学で、実際に文系の学生たちに関わっていますと、高校から大学への進学時点、あるいは大学学部の前期段階で、自分の進路や方向性を見定めることは、学生にとってかなりの難問ではないかと感じています。少なくとも、見定めることができない学生は多いです。自分はこうかもしれない、と一度は思っても、やはり揺らぎや迷いが生じて、方向転換を試みる。けれどもそれもうまくいかない。そのような学生を数多く見てきました。
例えば慶應義塾大学の経験について、今、スライドの10ページを拝見していますが、1年生の2学期に申請してプログラムへの参加を認められると、総合政策学部に行けるということなのですけれども、一度「手を挙げた」後に、途中で辞退する、その道から下りるということが、どの程度できるものなのでしょうか。制度としては可能ということなのかもしれませんが、学生にとってはプレッシャーになったり、「一度手を挙げておきながら辞退するのは申し訳ない」と感じたりしてしまう学生も少なくないということはないでしょうか。こうした点について、慶應義塾大学の経験から、状況についてお話いただけるとありがたく存じます。
【松浦委員】 ちょっとこれ、この機微に触れるところは、私自身も必ずしも当該キャンパスの現場にいるわけではないので、深くは御回答できないと思います。ここのキャンパスの学風からすれば、非常にその辺りは割り切って、自由に学生が選択して、それを重荷のようには考えないような教育体制になっていると私は理解しています。なので、大丈夫ではないかなと思っています。
【濱中委員】 ありがとうございます。先ほど言及した学生とは異なり、早くからやりたいことを見定めている学生もいます。特に分野では、そういった学生は多いということもあるかと思います。こうした学生にとっては、ウエルカムな制度と思いますが、柔軟性はやはり必要な制度なのだろうなと思いながら伺っておりました。
【松浦委員】 重要な御指摘だと思います。
【伊藤部会長】 平子委員、お願いします。
【平子委員】 ありがとうございます。高大接続の話が出ていましたが、私の立場から申し上げるのは、社会との接続のほうです。このような5年一貫コースというのは画期的でぜひ期待をしたいところなのですが、従前言われていますようなSTEAM教育の充実がなかなか実現できない現状に鑑みて、この5年コースに、STEAM教育を徹底するというようなプロセスが必要なのではないかと思います。それを前提として、学生が卒業したときに、どこにどういう形で貢献することになるのか、の視点が要ります。
そこで問題となるのが日本の企業、あるいは公務員も同様ですが、このような修士を取った学生が就職をするときに、自分のキャリアパスがどうなるのかということをよく考えないといけない。つまり、従前は修士・博士を取った学生の仕事は限定されがちだったのですけれども、それをもう少し広げることによって、彼らのキャリアパスの広がりに期待を持たせることが必要なことではないかと思います。
これから先、企業がメンバーシップ型からジョブ型に徐々に変えていくと仮定すると、ジョブ型雇用で採用する職種を広げるようにしていかなければなりません。このような考え方に変えていくことを企業側に促していく必要がありますし、学生のほうも修士を取ることによって自分の専門性を生かせる仕事に就けるという期待値につながっていきますので、まさに「知の総和」につながっていくのではないかと思います。
【伊藤部会長】 では、時間が迫ってきましたので、太田委員、松居委員に続けて御発言いただき、その間に挙手された方がいらっしゃったらその方も含めておしまいにしたいと思います。では、太田委員、お願いします。
【太田委員】 ありがとうございます。私はこの後の議題になりますが、アドバイジングをどういうふうにされているのか、お聞きしたく思いました。コースをつくることによって意識の高い人はすぐに対応すると思いますが、本学が持っている仕組み(制度)では、早く修了してどうやって大学院に進むようにするかに向けたアドバイジングが重要だと思っています。特に人社系です。恐らく慶應大学では、それなりに意識の高い人がいるのでしょうけれども、むしろ入ってからどうやって意識を持ちながら専門的なところを目指していくような学生をつくっていくかという辺りが、それをどういうふうに仕組みとしてサポートするかという辺りは何かお考えはありますでしょうか。もうあまりそういう必要性はないのかもしれないですが。
【伊藤部会長】 では、後でまとめて。
では、松居委員、お願いします。
【松居委員】 ありがとうございました。例えば当方の大学あるいは学部に照らし合わせた場合の問題点に関して感じたことは、21ページに全て書いてありまして、当方は人間科学部という非常に学際性の高いところですので、ここに書いてある問題は全てかかってくるものと考えています。
その中で、特にやはり研究をして論文を書かせるということの重要性は本当に感じておりますので、仮に今度制度がアップデートされて、入学時から5年というのを選んだ場合も、研究をして論文を書かせるための適切なタイミングを考えてる必要性を強く感じました。ここまでは卒論、ここまでは修論というふうにやらせるのが良いのか、あるいはもう少し長期的に段階的にやらせるのが良いのかようなことも大事な観点であると考えます。感想のような意見になります。
【伊藤部会長】 ほかにはコメントの方いらっしゃいますか。どうぞ、小林委員。
【小林委員】 御説明ありがとうございました。3点ありまして、1点目は、今やはり私が外部評価等をしていると、どこの大学さんも大学院が定員割れで非常に課題だというふうに同じようにおっしゃるのですけれども、この制度を入れることが学生にとって大学院が魅力的なものになるのかどうか、現場の観点から教えていただければと思います。
それからもう1点、やはり縦だけじゃなくて横の流動性というのが非常に重要というのは皆さん御指摘のとおりだと感じております。これから日本も海外から優秀な学生をどんどん入れていかなきゃいけない。そういったときに、国際的な競争優位性という観点ではどうなのかというところを教えていただきたく存じます。
3点目はこれは意見なのですけれども、やはり日本は過度な年齢主義で全部年齢で決まっていて、高校から大学への飛び入学みたいなところを導入された大学もなかなかうまくいっていない中で、やはりこれは大学だけにとらわれず、もうちょっと柔軟な制度設計が必要じゃないか、3点目は意見でございます。よろしくお願いします。
【伊藤部会長】 では、アドバイジングに関してはこの後の議論に合わせてということで、もし短く、今の御質問の1番目、魅力的なものになっているのかということ、国際的な魅力という、この2点に関して何かコメントあればお願いします。
【松浦委員】 魅力的になるかどうかというより、魅力的にしなければいけないと思うのですが、ただやはり一貫ないしは連携という選択肢を学生に示すことは、彼らのキャリア形成を考える際の一つのヒントにはなっていくかなと思います。そこに同時に企業さんや雇用主の御理解をいただけるということとセットになるかと思います。
それから、横の流動性、国際性についてはまさにおっしゃるとおりで、ここでやはり考えなければならないのが学期の開始時期の問題で、これは我々も課題として認識しているところです。幾つか制度的にクリアしなければいけないところはあるかと思いますが、これによって学生のライフコースの選択肢が新たに魅力的なものとして見えるような形で制度設計していきたいなとは考えています。
【伊藤部会長】 活発な御議論いただきありがとうございました。以上をもちましてまずはこの第1の議題を終了して、議題2、学修者本位の教育を実現するアカデミック・アドバイジングについて、本日は日本アカデミック・アドバイジング協会、清水栄子会長、新潟大学教育基盤機構、上畠洋佑准教授にお越しいただいております。進行の都合上、お二人から御発表を続けていただき、まとめて質疑応答の時間を設けます。
では、まず清水先生からよろしくお願いいたします。
【清水会長】 愛媛大学教育・学生支援機構の清水栄子と申します。本日はこのような貴重な機会をいただいて誠にありがとうございます。私は現在、御紹介いただきました日本アカデミック・アドバイジング協会において協会の活動を進める一方で、愛媛大学では学修支援及びアカデミック・アドバイジングの実務と研究に取り組んでおります。本日はその立場から、お手元にございます資料にありますように、「アカデミック・アドバイジングの導入と制度化に向けた検討」というテーマで、アメリカの大学における実践例も紹介しながら、アカデミック・アドバイジングがなぜ今、日本の大学に必要とされているのか、そしてその導入、制度化に向けて何が求められるのかについて、私なりの見解をお話しさせていただきたいと思います。
スライド2ページ目でございます。今日の報告内容は御覧の4つの構成で進めてまいりたいと思います。
なお、17ページ以降に参考資料としておりますが、これらの資料につきましては、関係するところで都度御説明を加えていきたいと思います。
スライドの3ページ目でございます。まず、アカデミック・アドバイジングとはどういうものなのかということですが、大学において教職員、特に教員やアドバイザーが、学生一人一人の学びや将来を支援する教育的活動のことを指します。ここにお示ししたのは、NACADAが2006年に提示した「アカデミック・アドバイジングのコンセプト」です。NACADAと申しますのは、参考資料の18ページにもございますように、アカデミック・アドバイジングの専門職団体です。この文書を見てみますと、アドバイジングは単なる履修指導ではなく、学生の能力や志向、学修成果と結びついた、継続的かつ意図的な教育的関与であることが強調されています。
続いて、具体的にアカデミック・アドバイザーとは一体どのようなことをしているのか、ということについてお話しします。それがスライドの4ページ目でございます。こちらに示しておりますのは、アメリカにおけるアカデミック・アドバイザーの責任範囲と書いておりますが、ページの下に示しておりますように、カンザス州立大学をはじめ、5大学のアカデミック・アドバイジング・シラバスを基にして、共通して示されているアカデミック・アドバイザーの責務をまとめたものです。
具体的には、履修・学修計画の助言と制度・手続の案内から始まっています。それだけではなく、進路・キャリアの相談、さらには学生に必要な他の組織やリソースを紹介すること、そして、継続的な対話を通じて関係構築を図っていることも含まれています。こうした点が、この5大学に共通するアカデミック・アドバイザーの責務と役割として示されております。
こうした幅広い責任や支援内容をあらかじめアカデミック・アドバイジング・シラバスという形で明文化し、可視化することによって、アドバイザーと学生との間で期待の共有が図られています。このような取組は、信頼関係の構築を促す一つの方策として、日本においても検討されてもよいのではないかと思い、ここで御紹介いたしました。
スライドの5ページ目でございます。ここでは、アカデミック・アドバイジングの実践例として、コロラド大学ボルダー校を御紹介したいと思います。この大学を取り上げたのは、私が十数年前に訪問調査を行った経験があり、それ以降もウェブサイトを通じて、継続的に情報を追ってきた経緯があるためです。この大学では、全学的な方針の下、各教育プログラムにおいて教員、アドバイザー、学生が連携して取り組む仕組みが整えられています。制度の構造と運用が明確であり、日本でアドバイジング体制を整えるうえで、ヒントが得られるのではないかと思い、取り上げております。
こちらのスライドでは、大体その規模を示しています。学生数は大体3万8,000名、そのうち学部生が3万2,000名を占めています。今回は、College of Engineering & Applied Scienceの6,579名の学生に焦点を当てて見ていきたいと思います。
スライドの6ページ目でございます。こちらはコロラド大学ボルダー校の学士課程全体の基本方針を示したものです。大学全体としてアドバイジングをどのように位置づけているのか、その目的や機能、学生との関わり方について明文化された方針が示されています。
アドバイジングというのは、学生が自らの教育や将来に関する重要な問いに向き合って、学びの方向性を見いだしていくプロセスを支え得るものとされております。大学全体としては1年目から少なくとも4学期にわたる継続的な支援体制が整備されています。また、必要な学生や複数の副専攻等を持っている学生については、必要に応じて複数のアドバイザーと関わることも可能とされています。
続いて、スライドの7ページ目でございます。こちらは、工学応用科学部におけるアドバイジング体制を紹介したいと思います。ここでは、Student Support & Advising Services(略してSSAS)という組織を中心に、さまざまな立場のアドバイザーが連携して支援を行っています。
具体的には、専任でアドバイジングを担うアカデミック・アドバイザー、ここでは専任アドバイザーと表記しております。教員のメンター、さらにピア・アドバイザーと呼ばれる学生支援者が支援に当たっています。それぞれの立場から、学生のアカデミック・ジャーニー、すなわち学びの道のりをサポートしていると説明されています。
この体制は、参考資料の19ページに掲載しておりますアドバイジングの組織モデルで言うと、「分担型」に分類されるものと考えられます。学生が自分に合ったリソースにアクセスし、将来に向けた選択肢を整理しながら、学位取得に必要な要件を理解できるように、多面的な支援体制が構築されています。
スライドの8ページ目でございます。こちらには、工学応用科学部のアドバイジングの支援理念、すなわちミッションが示されています。この組織では、アドバイジングによって学生一人ひとりの成長、帰属意識、学業の成功を支援することを掲げています。そして、特に強調されているのが、多様性、公平性、インクルージョン、いわゆるDEIの価値観を前提にした支援の実践です。学生中心の関係構築という考え方に基づいて、アドバイジングが行われているという点が特徴的です。
続いてスライド9ページ目でございます。これは、あるアドバイザーがシラバスの一部を自身の紹介ページに掲載しているものでございます。この中に学生とアドバイザーそれぞれの役割や責任が明示されています。画面左下の「Your role」に学生、「My role」にアドバイザーのそれぞれの役割、責任が書かれています。学生には、自分の目標や関心をアドバイザーと共有し、履修や進路に主体的に関わることが求められています。一方でアドバイザーには、丁寧な対話を通じて学生を理解し、必要な情報や選択肢を提供することで、意思決定を支援することが求められています。このように、アカデミック・アドバイジングのシラバスは、アドバイザーと学生の関係性や支援の在り方を文章化しているものであり、その一例として照会させていただきました。
スライドの10ページ目でございます。こちらには、大学全体の授業開始までのスケジュールが示されています。これは秋学期のものになりますけれど、8月21日の授業開始日に向けて、3月以降さまざまな行事が行われております。学生が段階的に大学生活へ適応していけるよう、制度として十分な準備期間が確保されており、こうした準備期間を設けることで、学生は自分の興味・関心に基づいた履修計画を立てることができるようになっています。
そしてスライドの11ページでございますけれども、こちらは「コースアラート制度」を紹介しています。この制度では、学期中に授業を担当している教員が学生の状況をモニタリングし、成績や出席、課題の提出状況などから、懸念がある場合に、アラートとして情報を登録するものです。このアラートはメールで学生に通知されますし、どのように対応すればよいかということも具体的に示されております。さらに、アラートの情報はアカデミック・アドバイザーや学生支援スタッフにも共有されるので、早い段階で包括的な支援につなげることができる仕組みになっています。
スライドの12ページ目でございます。これがこの大学において実施されているアドバイザー向けの能力開発プログラムでございます。約5週間の集中プログラムで、日々の業務だけでは得にくい視点や知識を学ぶ機会として位置づけられています。プログラムでは、学内の他部署のアドバイザーや上層部の方々と直接対話する機会が設けられており、大学組織全体への理解を深めることができています。さらにアドバイザー同士のネットワークを構築することも狙いとされております。
以上、簡単にアメリカのコロラド大学の事例を紹介してまいりました。ここからは、日本の状況の中で、なぜアカデミック・アドバイジングが求められるのかということにつきまして、6点ございますので、スライドの13ページから順にお話していきたいと思います。
まず1つ目は学生の多様化です。能力や背景、大学への入学目的、キャリア意識等も多様化してきております。また、これまで主に支援の対象とされていた学生層に加えて、これまで支援につながりにくかった中間層の学生や、2年以上の上級生に対しても継続的な支援がさまざまな意味で必要になってきております。全ての学生を対象に、個々の状況に合わせた柔軟な支援を行うという観点から、アドバイジングが必要になっている点が1つ目でございます。
2点目はカリキュラムの多様化でございます。大学教育は、専門性を深めるだけではなく、先ほどもありましたけれども、汎用的な能力の育成も重視されるようになってきております。加えて、各大学では特色あるカリキュラムが展開されており、たとえば文理横断型のプログラムや、留学を必須とするカリキュラムなどが設計されています。また、マイクロクレデンシャルの導入により履修機会の多様化も進み、それに伴って学修履歴の管理や学びの可視化、自己調整といった観点も重視されるようになってきております。こうした状況の中で、学生がカリキュラムを理解し、自分の興味・関心によって履修を設計・計画する力がこれまで以上に求められております。それを支援するアドバイジングの重要性が、ますます高まっていると考えております。
そして、3点目は大学の研究力の低下です。現在、教員の教育および学生支援業務の負担が増しており、研究活動に充てる時間の確保が難しくなっている状況にあります。また、大学院においても博士課程修了までの長期化や、標準修了年限内での修了率の低迷といった課題も耳にいたします。こうした背景から、学部生とはまた異なる課題を抱える大学院生に対しても、継続的なアドバイジングの必要性が高まってきていると考えます。さらに、教員が個別に対応するというよりも、組織的な支援を行うことによって、教員の研究力向上にもつながるのではないかと考えます。
そして、14ページが残りの3点でございます。そのうちの4点目は、各種支援の連携不足です。正課、正課外を問わず、各大学ではさまざまな支援が個別に展開されている状況かと思います。しかし、これらが体系的に連携されていないということは現場の方々からよく耳にいたします。その結果、学生側から見ると支援の全体像が把握しにくく、必要なサポートにアクセスしづらいという問題も生じております。アカデミック・アドバイジングはいわゆる学内のさまざまな組織をつなぐハブとしての機能も持っており、連携に向けた力を発揮できるのではないかと考えています。
そして5点目が社会人の学び直しです。OECD諸国の中でも、日本は社会人の学修参加率が低い水準だと聞いております。アドバイジングによって、在学中に自分の興味・関心に基づいてどのように学んでいくかを考え、学修基盤を形成することができれば、卒業後の継続的な学びにもつながっていくのではないかと考えております。
そして、6点目が大学の国際競争力の低下です。世界大学ランキングなどにおいて、日本の大学は相対的に順位を下げている状況が続いています。こうした中で、大学教育の質保証に関する制度的な取組が、これまで以上に強く求められていると感じております。
一方で、アメリカではアカデミック・アドバイジングが、学生の学修成果や成長を支える教育的機能として制度化されており、教育の質保証の一環として明確に位置づけられております。この点からも、アドバイジングの導入と制度化が必要なのではないかと考えております。
以上6点の背景を踏まえると、やはり大学の教育機能の強化と質保証という観点からも、アドバイジングは重要な役割を果たしていくのではないかと、私個人は考えております。
最後に、導入に当たって4つの課題について申し上げます。スライドの15ページ目でございます。1つ目は、大学においてアドバイジングをどのように組織的に位置づけるかという点です。学内の各部門や研究科とどのように連携していくのか、役割分担をどのように明確化していくのか、大学の教学マネジメントの一部として、アドバイジングをどのように整理していくのかという点が重要であると考えております。
また、他部署との連携という意味でも、組織的な位置づけが必要となってきますし、先ほど申し上げましたように、学内のハブとしての機能を果たすことができるのではないかと考えます。
2点目は、アドバイザーの量的・質的な確保と育成です。アドバイジングの必要性が認識されたとしても、その人材確保はどのように行い、育成していくのかという課題でございます。各大学ではこれまでも、教職員が機能的にはアドバイジングを担ってきておりますが、組織的に展開していくためには、やはり人材の質と量の両面での確保が必要かと思います。
この点については、今日は詳しく触れられませんでしたけれども、アメリカではアドバイザーの養成を目的とした大学院課程や履修証明プログラムなども設けられております。日本においても、協会および私が所属しております愛媛大学において、アドバイザーの養成講座等の実施を検討しているところでございます。これらの概要は、参考資料の21ページおよび22ページに掲載しております。
そして16ページに3つ目の課題として、アドバイジングの国際的通用性が挙げられます。先ほど、履修登録までの期間などにも触れましたけれども、アドバイジングを行う上で、各大学が一定の基準や枠組みを持つことが必要なのではないかと考えております。そうすることで、アメリカなどアドバイジングの専門職化が進んだ国々から学ぶことができるのではないかと考えます。
最後に、4点目は制度的な観点から、政策としてどのように位置づけていただけるかという点でございます。今回の「知の総和」答申の中でアカデミック・アドバイジングを取り入れていただいて、関係者一同、大変喜んでおりました。しかしながら、現時点ではまだ、アカデミック・アドバイジングとは日本においてどういうものなのか、そして私たちは今後どのように進めていくのかという点が明確に整理されていない状況にあります。そのため、今後は政策的な観点からも検討を深め、しっかりと制度の中に位置づけていただければと思います。
時間を少し超過してしまったかもしれませんが、本日は、アカデミック・アドバイジングの国際的実践と日本の現状を踏まえ、導入に当たっての4つの課題について、私なりに整理をさせていただきました。アドバイジングは、学生の学びを支え、大学教育の質を根底から支える基盤であると考えております。ですので、制度としての整備に向けて、現場と政策とが連携しながら、よりよい仕組みを築いていければと願っております。あわせて、学生の学びをさらに促進するためには、国、大学、私たち協会、そして教職員がそれぞれの立場から、どのように支援に携われるのか、共に考えていければと思っております。以上でございます。
【伊藤部会長】 では、上畠先生も続けてよろしくお願いします。
【上畠准教授】 新潟大学の上畠でございます。本日は新潟大学におけるアカデミック・アドバイジング事例について報告させていただきます。
スライド2ページ目を御覧ください。本日の報告では、スライドでお示しする5つの構成でお話しさせていただきます。
スライド3ページ目を御覧ください。まずは本学のアカデミック・アドバイジング導入の背景をお話しします。本学の全学分野横断創生プログラム、通称NICEプログラムが、令和2年度に文部科学省のDP事業として採択され、翌年にスタートしました。従来の副専攻プログラムをマイナーとして刷新し、学部の枠を超えた分野横断的な学修を推進する教育プログラムです。このプログラムにおける学修支援の核として、アカデミック・アドバイジングを導入しました。
スライド4を御覧ください。NICEプログラムでは、全体で40を超える数のマイナー・プログラムが提供されています。オナーズ型はNICEプログラム開始前に取り組んでいた旧副専攻制度です。2024年度以降入学者は修了認定対象外で、パッケージ型マイナーに移行しました。パッケージ型はメジャーの基礎を固めるような科目群で構成されたいわゆるミニ・メジャーのものもあれば、メジャーにはない学際分野のテーマを扱ったものもあります。
スライド5を御覧ください。次に、学修創生型ですが、こちらは他大学にはない特徴的なマイナーになります。パッケージ型、オナーズ型には科目リストが付随していますが、学修創生型マイナーにはありません。自分自身の問題意識をもとにマイナーとしてどのような目標を立てて体系的な学修をするのか、学生が自らデザインしていきます。このマイナーを選択した学生には必修科目が2つあります。
スライド6を御覧ください。まず、分野横断デザインというマイナーの入門科目を通して、自分の興味・関心や問題意識を探求課題として明確にして、体系的な履修計画を作成します。さらに、マイナーの学修の終了時期に分野横断リフレクションを履修し、そこで自身のマイナーの学修を振り返り、どのような学修成果を得たのか、問題意識に対してどのように多様なアプローチで迫れるようになったのかを振り返ります。自分の学修創生型マイナーを構成する科目でこれまで学んできた学修内容や学修成果物も示します。なお、この2科目は学修創生型マイナーの必修科目ですが、ほかのタイプのマイナーの履修者であっても受講可能です。
スライド7を御覧ください。分野横断デザインではマイナー学修デザインというものをつくります。この授業の受講生が作成する学びの成果物がマイナー学修デザインです。学修創生型マイナーの学びの地図と呼べるものです。
スライド7の左側を御覧ください。マイナーの学修の狙いと概要、到達目標、学びのキーワードをまとめたマイナーの概要部分です。スライド7の右側をご覧ください。こちらが受講生が履修したい科目を一覧にした学修計画です。マイナー学修デザインはこのようなパーツで構成されていて、ここに学生自身がつくるマイナーのオリジナルの名称をつけることが特徴的です。
スライド8に、学生の学修創生型マイナーの名称例を参考としてお示ししています。共生社会の実現、まちづくり、地域活性化など、一般的に広く論じられているテーマが自分の経験や将来展望に基づいて焦点化されていることがこの名称から伺えるかと思います。マイナー学修デザインの作成は、学生が個別最適な学びを自らデザインする行為と言ってよいかと思います。
しかしながら、興味・関心をどうしたら探求課題に引き上げられるのか。また、キーワードにどのような広がりを持たせれば分野横断が実践できるかは、マイナー学修デザイン作成における重要な要素であると同時にハードルでもあります。また、自分の目的にかなう履修候補科目を見つけるためには一定のノウハウが必要です。このように、学生の学びをデザインする段階でアカデミック・アドバイジングの必要性が生じます。
スライド9を御覧ください。NICEプログラムにおけるアカデミック・アドバイジングは、マイナー履修に特化して、学生自身の学修目的や将来の目標決定、達成を継続的に支援するものとして位置づけられています。そのアドバイジングの主要な場となっているのが、学修デザイン相談です。NICEプログラムが令和3年度からスタートしまして、年間150から200件の相談があります。相談事例も蓄積されてきました。
スライド10を御覧ください。実際の相談事例を基にしたアカデミック・アドバイザーによるアカデミック・アドバイジングの流れです。1は相談内容を把握し学生の資源を掘り起こす段階、学びの資源です。2は困難を整理し対話を通して資源を具現化し、マイナーの学びの道筋をつけたり学び全体を形づくっていく段階です。ここはアドバイジングの中心と言ってよいかと思います。3は履修候補科目の洗い出しによってマイナーの学びを具体化する段階です。
スライド11になります。以上のような本学アカデミック・アドバイジングの詳細やその成果は、今年の2月に刊行した書籍にまとめておりますので御覧いただければと思います。
また、アカデミック・アドバイジングに関するFD、SDも学外を対象にして実施してまいりました。
令和3年度からスタートしたNICEプログラム、つまりマイナーの履修者数は徐々に増加し、令和6、7年度新入生全体の約3分の1が履修している状況になっています。本学では約2,200名が入学定員でございまして、それから換算するとおよそ750名程度でございます。本学の学生の間では、分野横断、文理横断、メジャー・マイナーという言葉が日常的に交わされているところを見聞きします。これもアカデミック・アドバイジングの成果であると我々は考えております。
スライド12です。もう一つのアカデミック・アドバイジングの成果は、アカデミック・アドバイザーとSA(スチューデント・アシスタント)が連携したピア・サポート体制の構築です。学生による学生・学修支援の普及によるピア・サポート文化が醸成されています。 SAは分野横断デザインという入門科目を履修した学生から雇用し、受講生の先輩学生として分野横断デザインにおけるグループワークのファシリテーションや受講生のメジャーやマイナーの履修支援をしています。NICEプログラムの広報活動にも参画しています。また、月1回のSA全体研修を実施するなど、SAのスキル、マインドのトレーニングや、SA全体のチームビルディング、チームワークの向上にも取り組んでいます。
スライド13です。また、生成AIを用いたマイナー・プログラムの履修支援システムも開発しました。生成AIに4,500以上の科目シラバスデータを学習させ、学生の興味・関心にマッチする科目をレコメンドするシステムを構築しました。特に学修創生型マイナーを履修する学生の科目選びの支援となっています。
次のスライドです。令和3年度から現在までアカデミック・アドバイジング体制を運営してきた本学で感じている課題は3つございます。
第1にアカデミック・アドバイザーの雇用、育成の難しさです。公募をしても、職種として十分に知られていないこともあり、応募者は多くございません。育成方法も手探りです。先輩アドバイザーからOJTで学んでいく方法をとっておりました。
本学で考えるアカデミック・アドバイザーに必要とされる資質・能力を、スライド14の資料で示しております。これは千葉大学アカデミック・リンク・センター、教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリックを引用の下、一部修正して作成しました。かなり高度で幅広い知識、スキル、経験が求められる仕事であると考えます。
第2に学生相談の複雑化です。マイナーの履修支援にフォーカスを当てていた本学アカデミック・アドバイジングですが、面談中には学修相談だけではなく、学生生活の相談やセンシティブなメンタル面の相談なども混在することもあります。学修相談前に学生にはマイナーの履修支援に限る旨を伝えるなどの工夫が必要ですが、現実的には難しいです。学内関係各所との連携や、アカデミック・アドバイザー自身のケアも必要になるでしょう。
第3に、昨今の日本の大学における厳しい状況を考えると、大学内のリソース不足も大きな課題です。
スライド15です。以上のようなアカデミック・アドバイジングに関する課題に直面する本学は、アカデミック・アドバイジングの将来像を描いています。詳細は資料を御覧いただければと思いますが、一言でまとめますと、アカデミック・アドバイザーと学生ピアメンターと生成AIによる三位一体のアカデミック・アドバイジング制度を実現することを目指しています。
最後のスライドです。本部会でアカデミック・アドバイジングについてディスカッションしていただくに当たり、本報告のまとめを最後にお伝えします。アカデミック・アドバイジングの課題は先に述べた3点です。この問題を政策や各大学でどう取り組み、解決していくかが非常に重要です。
最後に、本学ではアカデミック・アドバイジングについて次のように考えています。
まず1つ目、大学教育の質保証の観点から、「大学が一方的に学生を支援する」のではなく、「学生自身が主体的に学ぶことを大学が支援する」を重要視しています。
2つ目です。挑戦的な学びに向かう学生をどう支えるか、失敗からのリカバリーをどう導くかもアカデミック・アドバイザーの役割の一つであるというふうに捉えています。
3つ目、これからの大学は教職員の人材不足、それに伴う兼務の増加等のため、アカデミック・アドバイザーの確保が非常に困難な状況が想定されます。アカデミック・アドバイザーの配置だけではなく、AIやピア・サポートといった多様な支援手段の組合せなどを考慮していくことが非常に重要であると考えます。
以上で新潟大学から報告を終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
【伊藤部会長】 ありがとうございました。
では、お二人の発表につきまして、御質問、御意見等がありましたら順次よろしくお願いいたします。太田委員がまず、その後、日吉委員、お願いします。
【太田委員】 ありがとうございました。とても有益な情報提供いただきました。歴史的に振り返ると、日本でこういう議論が始まるのは多分廣中レポートですかね、25年前ですね。そこで教員中心から学生中心の大学へということをうたって、その後JASSOのほうで2007年レポートが出て、そこで今でも強烈だなと思ったのが、教育の一環としての学生支援、学生相談という理念が出されました。だから、アドバイジングということを教育の一環でやるということがどれだけ教職員が理解できているかということは本当に根本だと思っています。例えば教員業績評価の中で、教育、研究、公務、それから社会貢献で分けていくと、アドバイジングということが教育の中に位置づけられるかどうかというのはどういうふうにお考えですか。もしそうであるならば、当然アドバイジングに対するエフォート、教員がどれだけそれにエフォートを割くかというような仕組みまで作っていかなくてはならないのかと。もちろんアドバイザーという職種は必要だけれども、教員それぞれの意識の中にアドバイジングという考えを入れる必要があります。その点はどうでしょうか?
もう一つは、データです。教員と学生が共有できるデータをどうつくるかです。学生と議論をするときに、例えば成績だけの分野、学力だけの分野だと、人材育成という広い意味でのアドバイジングにはならないと思っています。この議論で、本学の場合は、学力だけでない、世界の俯瞰的理解というような要素を含めたディプロマ・ポリシーの要素をベースにして、その達成度のデータを見ながらどうやっていくかというところが、学生と教員が話し合える場になると考えています。なので、共有出来るデータをつくっていくことが、多分アドバジングの一つの根本になるのかなと思っています。その辺のことはいかがでしょうか?
あと、アドバイザーということに対して、清水先生が協会長をされているところの役割、アドバイジングのリーダーとなる人をどういうふうに育てていくか、これはもう本当に全体的な課題にはなるのではないかと思っています。
以上、そのようなことを考えた次第でございます。
【伊藤部会長】 清水先生、コメントをお持ちでしょうか。
【清水会長】 ありがとうございます。先ほどアドバイジングは、教育の一環であるというお話でしたが、確かにそうだと思っております。日本においては、教職員がこのアドバイジングの機能を長年担ってきたところがあると思います。ただ、私が研修などで「学修支援やアドバイジングに携わっていらっしゃいますよね」と、その参加された先生方や職員の皆さんに申し上げても、多くの方はあまりそのような意識をお持ちではないようです。実際には支援を担われているのですが、無意識のうちに行われているというのが現実のところだと思います。
先ほど、教員のエフォートというお話もございましたが、アメリカでは、ジョブ・ディスクリプションの中にアドバイジングが明記されていれば、教員はきちんと取り組むけれど、そうでなければ行わないという話を聞いたこともあります。この点からも、大学としてアドバイジングをどのように位置づけ、制度的にどう担保していくのかというのは一つの課題であると考えています。
アドバイザーの育成に関しましては、私も大変危惧しております。学生を支援していくためには、やはり意識を持ったうえで支援に当たっていただきたいと思っております。そのため、協会としても研修を実施しておりますし、私の所属している大学も教職員の能力開発の拠点となっておりますので、そういう機会を提供していければと思っております。
もっと申し上げれば、先ほど触れましたように、アメリカのように大学院レベルでアドバイジングを学ぶ課程がどこかの大学に設置できれば、恐らく一番望ましいのではないかと個人的には思っております。
以上でございます。
【伊藤部会長】 上畠先生、何かありますか、追加で。
【上畠准教授】 回答させていただきます。教育の一環ということについて2点あるのではないかと思います。1つが本学でも未来ビジョンのアドバイジングの姿を示しましたが、全学FD・SDのような形で教員だけではなくて事務職員の方も教育活動の一環というふうに認識していくことが非常に大事かと思います。本学ではそのような取組を広めていく計画も検討しているところでございます。
もう1つは、本学のように分野横断デザインと言われるマイナーの入門科目の正課の授業と併せてアドバイジングをやっているというところもありますので、そういったところでアカデミック・アドバイジングにおいて教育活動も担っているということを学生にも教職員にも伝えることができるのではないかと思っています。
また、エフォート問題につきましては、学生スタッフ、いわゆるピアメンター、そしてAIを活用しながら、人と生成AIを組み合わせて使っていかざるを得ないと思います。そういったもので教育のエフォート並びに研究のエフォートを教員が捻出できるように高等教育機関としての良さを出していけることを検討していきたいというふうに思っています。
また、あとIR的な部分は、実務的な仕事をしているとアカデミック・アドバイザーはIR的な仕事もしていることは私としても実感しているところでございます。恐らくそういった要素も職務の中で必要じゃないかなというふうに思っている次第でございます。
以上です。
【伊藤部会長】 小林委員、お願いします。
【小林委員】 御説明ありがとうございました。非常にアカデミック・アドバイジング、あるいはアカデミック・アドバイザーの役割というのが、質を高めていく上で、学生が多様化する中でより重要になってきているというのは実感いたしました。
ただ幾つか疑問がありまして、「知の総和」答申をまとめたときに、日本の大学、短大の入学定員の平均が大体280ぐらいというデータがありました。新潟大学さん、それから愛媛大学さん、さっきのアメリカの事例も、そこそこの規模がある大学ですとそういったアカデミック・アドバイザーというのを置けて、リソース的にも担保できると思うのですが、日本における小規模大学がボリュームゾーンだとすると、そういうところどのように対応していけるのか。かなり高度人材が必要なような気がいたしまして、そこのリソースをどう確保するのか、課題に挙げられていましたが、その点。
もう1つは、やはりこれからはAIの活用というのが非常に重要なポイントになってくると思います。既にポートフォリオを、eポートフォリオを活用しながらAIでそれを運用していっている大学さんも出てきていますし、私は以前デジタルの活用による大学・高専活用事業の審査をしたときに、そういった提案がかなり出てきていたような気がします。そうしたものが今どうなっているのか。そういったところはうまく活用できて、グッドプラクティスとして活用できるのかどうかというところをもしお聞きできればと思います。これは後者はもしかしたら文部科学省さんに聞いたほうがいいのかもしれないですけれども、その2点お伺いできればと思います。
【伊藤部会長】 では、まず清水先生、お願いします。
【清水会長】 小規模大学であっても、大規模大学であっても、アドバイザーを専任で置くというのは難しい状況かと思います。ですので、理想を申し上げれば、専門的にアドバイジングを担える少数のコアな人材が配置され、そのうえで、各学部、先ほど太田委員がおっしゃっていましたけれども、教員や職員が日常的に支援できるような体制ができるのが一番いいのではないかと考えております。
もう1つ考えられるのが、アカデミック・アドバイザーが、複数大学を巡回しながら支援を提供できる仕組みをうまくつくれないだろうかということです。これは政策的な観点から御検討いただくほうがよいかと思いますが、専門的なアドバイザーが複数大学を担当し、広域的に支援を行う体制というのも、検討できるのではないかと思います。
AIの活用については、アメリカですでにさまざまな研究は進められているようですし、先ほどの新潟大学様のように、一定のデータが蓄積されてくれば、その可能性も広がるのではないかと考えております。一方で、アドバイジングには、個別対応を行うセンシティブな部分もありますので、一気にAIに置き換えるというのは、難しいと思います。ただし、一般的によくある相談や情報提供に関しては、AIの活用も十分可能であると個人的には考えています。
【伊藤部会長】 上畠先生、何か追加でありますか。
【上畠准教授】 280名が平均ということですので、私のイメージとしては、大正大学でとられているようなメンター制度のようなものが一般的に効果的になるのではないかと思います。
AIとポートフォリオの活用についてです。AIについては先ほど述べた本学の科目レコメンドシステムを構築して、本年度の第1タームの授業から使っております。学生の評判も非常によいですが、問題点も多々ございます。フィードバックを生かしながら継続的な改善をここ四、五年のほうで行っていくところでございます。
清水先生がおっしゃったように、クローズドなデータ、非常にセンシティブなデータを取り扱う必要がありますので、生成AIを提供する企業と上手に契約をしながらやっていく必要があると思います。本学でもアカデミック・アドバイジングの相談事例をエクセルのような形で秘匿性の高いスタンドアローンPCに蓄積し、相談内容の類型化等もしておりました。このようなデータベースを使いながら、アドバイジングにおいてより具体的なサポートとかも行っております。このような事例も参考になるのではないかと思います。
以上です。
【伊藤部会長】 では、林委員、お願いします。
【林委員】 ありがとうございます。コメントと質問をさせてください。
まずコメントなのですけれども、今日の議論の中でも例えば教員の研究時間のお話がありましたけれども、学術会議を含めいろいろなところで議論していると、やはり比較的若い先生方から、教育時間が大変だとか、あるいは学生のメンタルのことも含めて支援が大変だと、そういうのが研究時間を阻害しているのだというコメントが来るのですけれども。ただ、まさに先ほど太田委員からありましたように、やはり大学は全人教育であって、教員がそういう部分まで、学生の支援まで含めた教育をするというのがこれまでの議論であったというふうに、いろいろ調べて私もそういう議論を、研究時間のところの議論をするときに、調べるとやはりそういうことを改めて認識したところです。
ただ一方で、やはりそういうことに専門性のない教員が指導をするというのは、実は教員、学生にとって不幸なことでもあって、そういう意味ではこういうしっかりとした専門職がいるというのはとてもいいことだなと思ってお聞きしていました。
それプラス、プログラム化の話、前回も浅田委員からかなり教育のプログラム化という話がございましたけれども、昔のように個別の授業が存在しているのではなくて、やはり教育はプログラムとなっていて、それで今日の新潟大のお話もそうですし、前半の慶應大学の5年一貫のほうもそうですけれども、非常にプログラムが複雑になっているところで、個別授業を担っている個別教員が指導できる範囲というのは実は限られていて、やはりプログラム化をしっかりと推し進めるのであれば、プログラムというレベルで学修指導できるような人がちゃんといるというのはやはり重要なことなんじゃないかなというふうに、今日お話を聞いて思ったところでございます。ここまではコメントです。
質問は、新潟大学さんのお話の中にもメンタルのところの支援であるとか生活支援という話もありましたし、あるいは、そこには直接書いてありませんでしたけれども、キャリア支援みたいな話もきっとあると思うのですけれども。こういうアカデミック・アドバイジングの中で、いわゆる学修の支援、履修支援みたいな話だけではなくて、様々に広がりがある中でどういうふうに、例えば清水先生の協会等でも、どうやってそれを全体像を把握して切り分けたりとかしているのかという、その全体認識についてどうお考えになっているのかというのをお聞きしたいのと。
それから、やはり学部と研究室に学生が配属になる大学院は大分違うような気がするのですけれども、その辺りでもどういうふうに御議論をされているのかについてぜひ教えていただきたいと思っています。
以上です。
【伊藤部会長】 では、まず清水先生からお願いします。
【清水会長】 今おっしゃっていただいたように、アカデミック・アドバイジングの範囲は非常に広うございます。アカデミック・アドバイジングと聞くと、学問的な助言に特化したものだと、最初は私も理解しておりました。しかし実際には大学生活全般に関わる支援へと広がっているのが現状です。学生の学修を支援していくというところが基本にあって、その中で学生の話を聞いていると、メンタル面、生活面、キャリア面など、さまざまな課題が表れてきます。
そのため、アドバイザーが全てを担うのではなく、先ほど申し上げたようにハブとしての役割を果たすことが重要です。新潟大学様でもサポートハブという言葉が使われておりましたが、アドバイザーが他部署に適切にリファー(つなぐ)をしていくことが求められており、それゆえに全学的な支援体制の構築が必要になってくると考えています。
先ほどの規模のところで1つ申し上げるのを失念しておりましたが、通常アメリカでは1人のアドバイザーが担当する学生数はおおむね300名を超えないようにしようという目安がございます。この点は、2012年頃まではアドバイザーの負荷に関する議論の中で具体的な数値として示されておりましたが、最近は専門職団体(NACADA)も数値を公表しないようになっています。それは、アドバイザーの業務負担がアメリカにおいても大きな課題になっているためだと思います。
先ほど御紹介したコロラド大学では、44名の専任のアドバイザーが配置されており、大体150名程度を担当している状況です。その点では、比較的充実した体制で理想的なモデルの一つとして本日御紹介させていただきました。少し話がそれてしまい申し訳ございませんが、補足として申し上げました。以上でございます。
【伊藤部会長】 何か追加で、上畠さん、ございますか。
【上畠准教授】 複合的な問題をどう区分けしていくかという点について考えを述べます。本学でのアドバイザーの対応を2点述べさせていただきます。1つは2人体制で聞くという形です。もう1つは、アドバイジング中に、ただ学生の話を聞くだけではなくて、ホワイトボードを使いながら話していることを整理・可視化していくことです。その中で、アカデミック・アドバイザーである自分はこの話だけに対応しますよというような形で限定しています。対応できない相談内容は、他部署と連携しながら話をつないでいくような体制をとっています。
学部のアドバイジングと研究アドバイジングは確かにおっしゃるとおり難しいです。本学では学士課程のみに取り組んでいるところです。ですので、今後大学院でも取り組んでいく中でどのようにしていくかというところは、大阪大学の大学院プログラムでアカデミック・アドバイザーを公募している情報を見たことがございます。そういった実践の中で知見等をいただきながら、本学でも学ばせていただきたいと思います。
以上です。
【伊藤部会長】 だんだんとまた時間が差し迫ってきましたので、浅田委員、そして松居委員の順番でまず質問、コメントをいただきたいと思います。よろしくお願いします。
【浅田委員】 ありがとうございます。清水先生のお話で、4ページに出されているアカデミック・アドバジングの責任範囲の5項目ですが、新潟大学の事例はマイナーの履修指導を中心としたということなので、かなり限定的にアドバイジングを捉えて実施されている。多分現実的にはここから入らないとなかなか難しいのじゃないかなと思いました。5項目はあまりにも範囲が広過ぎて専門性が高いと感じます。
質問なのですけれども、新潟大学ではお二人のアドバイザーを今置かれているのですが、どのような専門性とかバックグラウンドをお持ちの方を、特任教員として、どの職位で採用されているのか、教えていただければと思います。
【伊藤部会長】 では、具体的な質問なので、上畠さん、よろしくお願いします。
【上畠准教授】 特任教員2人の学問的なバックグラウンドとしましては、本学のアカデミック・アドバイザーの背景を見ますと、人文・社会科学系、教育工学、数学、工学などの自然科学系の先生などもいらっしゃいました。つまり、ある特定の学問分野に限定するわけではなくて、幅広い学問的な視野をもってアドバイジングができる方を雇用してまいりました。
役職としては特任准教授または特任助教という形で、教員ポジションで教育研究活動を両方担っておりました。裁量労働制の時間の中で、学生面談等も柔軟に対応するような形でアカデミック・アドバイジングを行ってきました。
【伊藤部会長】 では、松居委員、日吉委員と続けて質問、コメントお願いします。
【松居委員】 ありがとうございました。このアカデミック・アドバイジングというのは、これは既に国際的な名前であると思うのですけれども、お話を聞いていると、もう何から何までこの中に入っていくことが危惧されます。メンタル面、キャリア面、その他、課外活動も含めてです。そうすると、学生諸君から見たときに、この名前でイメージできるかどうかというのは疑問に思ったところがあって、将来的にはもう少し学生諸君に伝わるような命名のほうが良いのではないかと考えます。
あと1つ興味・関心なのですが、新潟大の学生さんの規模感は何名ぐらい参画されて、どれぐらい進んでおられるのかと、数字だけ教えていただけると大変参考になると思いました。よろしくお願いいたします。
【上畠准教授】 御質問ありがとうございます。規模感につきましては、マイナー・プログラムを履修している学生につきましては、1学年大体2,200名中3分の1程度、およそ750名前後がマイナー・プログラムを受けているような状況でございます。その中で全ての学生が相談に来るわけではありません。本学には「自律と創生」という大学の理念があります。そのため、学生にはできるだけ自律的に学びに取り組んでもらうことを授業の中で伝えています。それでも困っている学生にはしっかりと支援していく体制をとっております。
【伊藤部会長】 ありがとうございました。
では、日吉委員、お願いします。
【日吉委員】 ありがとうございます。本日のお話を伺い大変勉強になりました。
私は教育行政としての立場で1点だけ御意見のほうを申し上げさせていただきたいと思います。先ほどのテーマともちょっと関係するのですが、高校のほうは非常に多様な生徒が現在在籍しているところでありまして、そういったことから、先ほどのテーマでもありましたが、大学、大学院での学びの仕組みに選択肢が増えるということについては、私はこれは歓迎すべきことなのだろうなというふうには思っています。
ただ、これは感覚的ですが、先ほど濱中委員のお話にありましたように、高校生にとって進路をしっかり決めていくということは今なかなか難しい面があるのかなというふうにも思いまして、選択肢が多過ぎたりシステムが複雑過ぎたりしますと、選択する側が少しそこを諦めてしまうのじゃないかなというような心配もございます。そういったところから、入学後にしっかりとしたこういうアドバイジング体制というものが構築されることは大切であろうというふうに考えています。
また一方、私のほうで所管しております初等中等教育のほうでもやはりキャリア教育というものが非常に重要だと思っていまして、特にこれまであまり手薄だった普通科の高校におけるキャリア教育というものも今後しっかり取り組んでいかなければいけないなと今考えておりまして、本県でも今、取り組み始めたところであります。
今後こういったものが有効に機能していくためには、やはり高校側と大学側との連携、特に大学側としてどのような教育をなさろうとしているのかとか、また、今回この新潟大学さんの取組はすばらしい取組だなというふうに思いますけれども、こういった入学後のサポート体制がどういうふうにされていくのかということについて、丁寧なコミュニケーションを今後図っていく必要があるのだなというふうには感じております。
以上でございます。
【伊藤部会長】 ありがとうございました。今のはコメントということで、これは全体として考えていくべきかと思います。ほかによろしいでしょうか。
本分科会は、「知の総和」答申を受けて、それをどうやって政策に落とし込んでいくかというところが主な目的でございますので、前半の議論に関しましては、本日の第1議案に関しましては、例えば5年一貫教育というような話をしたときに、東大の話もありましたけれども、東大のCollege of Designの実際にホームページにいってみても、「学士4年と修士2年から成る教育プログラムですが、成績優秀者は修士課程の早期修了制度を活用することで5年で修了可能です」というふうに書いてあります。これはもしここで5年を認めてしまうと、安易にほかの5年制度がたくさん出てくるということを心配している節もあるのかもしれませんが、このような新しい試みを何らかの形で奨励していかないと、この後の分科会でもミネルバ大学の取組等が紹介されていきますけれども、そういうような新しい取組は一切日本からできていかない、いけないことになりますので、規制のみを考えるのではなく、前向きなことをどうやって進めるかということをここでは考える部分もないといけないということで、ここのところを今後議論していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
その一方で、2番目のところ、新しい試みを始めれば、アドバイジングのところですね、新しい試みを始めれば始めるほど、今、最後日吉委員も指摘いただきましたけれども、どういうものが選択肢としてあるのかさえも見えにくくなっていくというところがありますので、そういう意味ではアカデミック・アドバイジングというのは非常に重要だということが、知の答申で考えたところであります。
ただし、今日の清水先生のお話にもありましたけれども、例えばコロラド大学のボルダー校というのはコロラドの州立の大学の中でも大学院が強い、比較的トップのものであり、それとは別にコロラド・ステート・ユニバーシティーという、また違う州立大学のレベルもあり、レベルじゃないですね、機能が異なる大学があります。恐らくコロラド大学の場合は、私は知っているのですけれども、コロラド州民を学部で80%以上、ある数値が決まっていて、その数値のコロラド州民を受け入れなければいけないと。そのときには、今、選考方法が様々な地域、コロラド州の中の地域の様々なグループからトップの人を得るようにしているわけですけれども、地域によっていろいろな違いがありますから、いろいろな多様な学生が入ってくる。その多様な学生たちをEngineering Scienceとしてどうやってしっかりと支えていくのかということが目標になっているのだと思います。
先ほどの清水先生の御発表の中で、6つの部分を分けると、学修者本位という部分と、それから大学側から見てどうしても質保証をしたいと。つまり、どういう形で入ってきたとしても最終的にはこのレベルで卒業させたいという、教員たちの各単位に対する厳しさ、その単位に対する厳しさをどうやってアカデミック・アドバイザーが支援しながらしっかりと卒業させていくのか。その一方で、今度はコロラド・ステート・ユニバーシティーになると、もう少し研究大学ではなく、要はまず学びを深めるということに集中しているので、そういった機能の異なる大学ごとのアカデミック・アドバイザーの役目も異なっているのではないかというふうに思いますので。
そういう意味で、今、愛媛大学でも新潟大学でも、いわゆる一般選抜のみではなく、国立大学法人が総合型選抜や学校推薦型選抜を入れていくと、様々な多様な学生が入ってくる中において、一般選抜だけであればもう学業だけでいいのだということになると、そのとおりの成績のつけ方で学校を運営するのは簡単なのでしょうけれども、多様な学生が入ってくる中においてどういうふうにアドバイジングをしていくのかというのが大切だということで、これもどのように政策に落とし込んでいくのかというのが今回のこの議論の目的ですので、今後ともこの観点から、中間報告のまず取りまとめに向けて、皆様の今日十分に出せなかった御意見等を事務局のほうに寄せていただければと思います。
本日の議題は以上となります。最後に報告と次回の開催日程について、事務局から説明をお願いいたします。
【花田高等教育企画課課長補佐】 本日は活発な御議論いただきまして、誠にありがとうございました。
次回の部会は7月14日月曜日10時から、ハイブリッド形式での開催を予定しております。
本日御発言できなかった内容ございましたら、事務局まで御連絡ください。
なお、本日お配りしております参考資料2のとおり、「知の総和」答申の内容が分かる動画コンテンツを文部科学省のホームページで配信しております。本部会の委員である伊藤部会長、小林委員も御出演されておりますので、委員の皆様また御視聴の皆様におかれましてはぜひ御覧ください。
以上でございます。
【伊藤部会長】 本日の議事はこれにて終了いたします。ありがとうございました。
―― 了 ――