大学振興部会(第3回) 議事録

1.日時

令和4年8月9日(火曜日)16時~18時

2.場所

Web会議

3.議題

  1. 経済団体等からのヒアリング
  2. 意見交換

4.出席者

委員

(部会長)永田恭介部会長
(副部会長)吉岡知哉副部会長
(委員)越智光夫,日比谷潤子,村田治の各委員
(臨時委員)大森昭生,川嶋太津夫,小林弘祐,曄道佳明,古沢由紀子,益戸正樹の各委員

文部科学省

(事務局)森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当),伊藤文部科学戦略官,山下高等教育企画課長,柿澤高等教育政策室長,平野大学入室長,髙橋高等教育企画課課長補佐ほか

5.議事録

【永田部会長】  第3回の大学振興部会を始めます。
委員の過半数がオンサイトで現場にいまして,少し意見交換がスムーズになると思います。相変わらずハイブリッドでの開催ということになっております。皆様にはお忙しい中,御出席いただきありがとうございます。このハイブリッド開催ですが,YouTubeライブで配信をされます。
 それでは,事務局から連絡事項をお願いいたします。

【髙橋高等教育企画課課長補佐】  本日はウェブ会議及びライブ配信を円滑に行う観点から,御発言の際は,端末の挙手のボタンを押していただき,部会長から指名されましたら,お名前をおっしゃってから御発言ください。また,御発言後は再度挙手のボタンを押して,表示を消していただきますようお願いいたします。また,発言時以外はマイクをミュートにしていただくなど御配慮いただけますと幸いでございます。
 本日の会議資料は,次第のとおりとなっております。事前にメールでお送りしておりますので,御確認ください。
 以上でございます。

【永田部会長】  ありがとうございます。本日の議題です。文理横断・文理融合教育等についてということは変わりません。前回いろいろと産業界からも意見を聞いたらどうだということもありましたので,本日,経団連とSMBCバリュークリエーションからヒアリングをさせていただきます。それに基づいて,意見交換等を行います。
 早速ですが,日本経済団体連合会から最初のヒアリングをさせていただきます。経団連は「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を設立され,議論をずっと積み重ねていらっしゃいます。本年1月には大学教育のあり方に関する提言をまとめられています。文理横断・文理融合教育だけではないのですが,ぜひとも,御意見をお伺いしたいということで,お招きをいたしました。
 それでは,長谷川常務理事,よろしくお願いいたします。

【長谷川経団連常務理事】  御紹介ありがとうございます。経団連の長谷川です。本日は貴重な機会をいただきまして,誠にありがとうございます。
 文理横断・文理融合教育の推進や,初等中等教育における学びの変化,文理横断に対応した大学の在り方などを中心に,経団連や今御紹介いただきました産学協議会における検討成果を踏まえて意見を述べたいと思います。
 それではまず,お手元の資料で1ページ目でございますが,まず,文理横断・文理融合教育の推進についてお話しさせていただきます。
 2ページを御覧ください。こちらについては,本日御参加の皆様には何度も御説明しているので,またかという感じではございますが,初めての方もいらっしゃるかもしれませんので御説明をさせていただきます。
 なぜ文理横断・文理融合教育を推進する必要があるのかということに関して,まず,経団連が実現を目指している未来社会の姿について御説明いたします。その未来社会とはSociety5.0です。Society5.0はもともと経団連の中西会長が,副会長時代にCSTIにおいて,科学技術基本計画策定の議論の中で提案した概念でございますが,その後,日本政府の成長戦略に組み入れられました。
 Society5.0とは,人類が狩猟社会,農耕社会,工業社会,情報社会というように段階を経て発展してきたと捉えたときに,それに続く第5番目の「創造社会」という意味です。社会の変革時には必ず大きな技術革命とイノベーションが起こり,これが産業のみならず社会全体を変えてまいりました。
 現在も,AI,ビッグデータ,もしくは2050年カーボンニュートラル達成のための様々なトランジション・テクノロジーなど多くの科学技術やイノベーションが生まれ,経団連はこれらのデジタル化による変革,デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーン技術による変革,グリーントランスフォーメーション(GX)も産業構造のみならず,経済社会全体の大変革を引き起して,Society5.0に突入すると考えています。
 経団連では、Society5.0を、単に科学技術,革新技術やビッグデータを手段として使うということではなく,多様な人々の2つのソウゾウ力、クリエイティビティとイマジネーションによって,革新技術を活用しながら社会課題を解決し,新たな価値を創造する社会と捉えています。その意味で,Society5.0の中核は人間の英知になります。
 3ページを御覧ください。これは2019年1月に経団連と国公私立大学のトップによって設立された採用と大学教育の未来に関する産学協議会で,Society5.0で活躍する人材に求められる能力や大学教育の在り方,産学連携について検討してきたものでございます。そこでまとめたSociety5.0人材に求められる能力を整理した図です。
 まず,リテラシーとして数理的推論,データ分析力や外国語によるコミュニケーション能力,その上に論理的思考力と規範的判断力,課題発見・解決力,そして未来社会を構想・設計する力,そして,これら今述べたような能力は相互に関連しておりますので,リベラルアーツ教育を通じて涵養する必要があること。これらの能力の上に,高度専門職の人材として専門知識・能力が求められるということで合意いたしました。
 これらの能力の育成には,大学の4年間だけではとても足りませんので,初等中等教育から始めて大学院レベルまでの教育が必要であること。また,併せていわゆるVUCAと言われるような変化や知識の陳腐化が非常に激しい時代ですので,社会人になってからも継続的にリカレント教育,もしくはリスキリングを受けることで,知識や技能を更新していく必要があることで合意しております。
 次の4ページを御覧ください。こちらは経団連が今年1月に公表した大学教育に求める内容に関するアンケート結果ですが,企業は多種多様な人材を求めつつも大卒者に特に期待するものを,資質と能力と知識に分けて聞いております。
 大卒者に期待する資質としては主体性,チームワーク・リーダーシップ・協調性,そしてリカレント教育の重要性と関連しますが,学び続ける力も上位に上がってきております。期待する能力としては,課題設定・解決能力,論理的思考力,創造力が上位に上がっておりまして,期待する知識としては,文系・理系の枠を超えた知識・教養が最も多く上げられておりまして,リベラルアーツや文理融合教育が求められていることがうかがえます。
 特に期待する知識には,専門分野における基礎知識もしくは専門知識を求める回答も上位に上がってきておりまして,文理横断・文理融合教育の推進と,ますます高度化する専門教育とのバランスをどう取るかということについては工夫が求められます。
 一つの解としては,学部の4年間で全てを完結させるのではなく,大学院レベルの教育も重視すること。また,先ほど述べたように社会人になってからの学び直し,リカレント教育も含めて,人生において職場と大学をはじめとする学びの場を行ったり来たりすることができる学びと仕事の好循環を確立する,もしくはそれが可能な社会とすることが重要だと考えております。
 そのためにはSociety5.0に対応する教育とともに,企業においても日本型雇用システムを見直し,新しい時代に対応する働き方や雇用制度改革,円滑な労働移動の促進なども必要だと考えております。
 5ページを御覧ください。これまで整理してまいりましたとおり,Society5.0において求められる知識・能力を涵養するために必要な教育としては,経団連ではこの1月に公表した大学教育改革に関する提言において,ここの下の段に記載しております5つの教育,文理融合・STEAM教育・リベラルアーツ教育,第2に,PBL等の課題発見・解決型教育,第3に専門教育,第4に数理・データサイエンス・AI教育,第5にリカレント教育が重要であると指摘しております。
 6ページを御覧ください。文理融合・STEAM教育・リベラルアーツ教育については,専門教育とともに,大学教育の両輪と位置づけて双方をバランスよく学修し,幅広い視野を涵養することが求められます。そのため各大学の強みや特色を生かしつつ,メジャー・マイナー制度,ダブル・メジャー制度,学部や研究科の枠を超えた学位プログラムなどを積極的に取り入れるべきだとしております。この提言では九州大学の共創学部や,本日も御参加でございますが,国際基督教大学の取組みを事例として紹介しております。
 その際,一つの大学で実施が難しい場合は,オンライン講義なども活用して,大学間連携による文理融合・STEAM教育を共同実施することも有効だと考えております。
 7ページを御覧ください。他方,我が国の大学においては,文理横断・融合教育が十分に発展しているとは言えない状況にあります。これを改善するための一つの方策として,高校段階からの文系・理系のコース分けを解消することが指摘されます。
 具体的な対応策としては,第1に,高校において文理横断的な教育プログラムを開発・実施して,それをなるべく多くの生徒に履修させることで,文系を選択しても自然科学の基礎知識が,理系を選択しても人文・社会科学の基礎知識が身につくようにすることがあります。その際,実社会の課題などをSTEAM教育の題材として提供していただくとか,もしくは実務家教員の派遣,工場などの企業施設の提供などの面では,企業と連携することも重要だと考えます。また,より根本的な高校教育における課題としては,新しい時代に対応した人材の育成は初等中等教育から大学教育に至るまで,一人一人の成長に応じて段階的に行う必要があります。
 GIGAスクール構想による初等中等教育における個別最適化を重視する学びの変化などを踏まえて,高校においても,多様な他者との協働的な学びを意識して,STEAM教育の要素を組み入れた探究型学習を軸とする教育改革を進めることも必要だと考えます。
 また第2に,大学入試によって,早い段階から文系・理系のコース分けが行われるということを是正するためには,アドミッション・ポリシーやこれに基づく大学入試改革が必要だと考えております。まず一つは,学力だけではない多様な能力やリーダーシップ,素質,多様な経験などを総合的に評価する入試の実施及びその枠の拡大,第2に文理を問わず、数学の試験や、思考力・判断力・表現力を問う記述式の試験を導入すること。第3に,多くの大学の入試において,「情報Ⅰ」を選択できるようにすることなどが指摘されます。
 また,高校段階における理数系選択に関して,「理数系は女子には向かない」,もしくは「女子が理数系を選択しても,その後のキャリアパスが分からない」といったジェンダーバイアスによる保護者や学校,社会からの圧力がかかる状況を改善するためには,ロールモデルとなるような、企業で活躍する女性の理工系人材や,企業におけるキャリアパスなどについて,経済界からもより積極的に発信することが必要だと考えます。
 8ページを御覧ください。数理・データサイエンス・AI教育に関しては,DXを通じたイノベーションが求められる中,先ほど紹介した経団連のアンケート結果では,大学が優先的に取り組む課題とすべき教育として,課題解決型のPBL教育の充実に次いで,「IT・AIリテラシー教育」が第2位となっております。
 また,経団連が別に実施した大学等におけるリカレント教育のニーズに関するアンケート結果では,IT,数理・データサイエンス,統計は専門知識として企業の若年層,中年層,ミドルシニア層を問わず,全ての階層で学ぶことが強く期待されるという結果が出ております。既に政府による数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度が実施されていますが,今後、日本全国の大学で,リテラシーレベルの数理・データサイエンス・AIを必修科目として位置づけることが求められます。
 その際,全ての大学が独自に開講する必要はなく,オンライン講座などを活用して,複数の大学間で,共同で開講することなども積極的に検討すべきと考えます。
 最後に,大学の出口の質保証や社会との間で信頼と支援の好循環を形成するために必要な取組みについてお話しします。
 10ページを御覧ください。大学が出口における質保証により,入学から卒業まで一貫した教学マネジメントを行うためには,大学教育の質保証の観点から,学修成果の可視化・公表を行うことが不可欠です。
 大学には,学修ポートフォリオやディプロマ・サプリメントなどの活用により,学修成果の可視化に努めるとともに,外部の大学評価機関による評価なども活用して,評価指標の改善に努めていただければと思います。
 また,各大学は,ディプロマ・ポリシーに基づく独自の評価を行っているため,学生や企業が、大学間で評価を比較することは難しくなっています。日本学術会議が策定している分野別参照基準なども踏まえて,各分野で学ぶべき知識や素養が身につくカリキュラムとなっているか,また,カリキュラムを通じてどのような知識や能力が身につくかについて,国において,より客観的な評価が可能となるよう、検討を進めていただきたいと思います。
 最後に11ページを御覧ください。企業や個人から寄附や外部資金などを獲得するためには,ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレータ(URA)や産学間のコーディネート人材の育成とともに,大学による情報開示の拡大とその質の向上が重要と考えます。
 企業が行っているように,大学も多様なステークホルダーとの対話,連携のツールとして,自らの教育,研究,社会貢献に関して大学版の統合レポートを作成し,公表することが一案と考えます。資料では,経済界から見て開示が期待される情報の事例を整理しておりますので,後ほど御覧いただければと思います。
 私からの発表は以上です。御清聴ありがとうございました。

【永田部会長】  ありがとうございました。クリアに御説明いただいたと思います。
 それでは,長谷川常務に御質問等あればお伺いいたします。いかがでしょうか。村田委員,どうぞ。

【村田委員】  よろしいでしょうか,御質問させていただきます。
 7ページのところの文理融合教育等々のところ,文理横断をどうするかというところの高校段階から文系・理系のコース分けの解消のところの対応策として,大学入試改革とあるんですけど,具体的にどういうことをお考えでしょうか。

【長谷川経団連常務理事】  本日,2つ、指摘いたしましたが,アドミッションセンター入試のような,資料には筑波大学のAC入試を御紹介しておりますが,いわゆるAO入試ですとか推薦入学とか,学力だけでない総合的な能力や多様な体験活動などを評価する入試もあると思いますし,もう一つとしては,これは前に村田先生からも御指摘があった点ですけれども,大学において文理横断・融合教育を実施するといっても,全く理数系の素養がない文系の学生にいきなり統計や数学を教えるのは少し難しいところがあると思います。そういう意味では,数学の試験は専門に関わらず全員が受けるようにするとか、もしくは記述式,思考力・判断力・表現力を評価するような記述式試験を課すとか,なるべく知識偏重にならないで,文理横断・STEAM的な素養を評価する入試にすることがあると思います。
 より端的に申しまして,経済界から意見が強いのは、なるべく数学や統計は全員が受けるようにする,少なくとも高校時代に全員が履修するような仕組みを検討してはどうかということです。一番早いのは入試科目に入れることですけれども,「高校段階で全員が数理,統計や物理,化学を履修するような形に持っていけないか」という意見は多くの方から出ております。

【永田部会長】  よろしいですか。

【村田委員】  もう1点なんですが,3のところに情報1の入試があるんですが,御存じのように,情報1というのは数学とかなり対応しているものですから,これを入れるということは共通テストに入ってきて,多くの大学がこれを受けることになれば必然的に数学を学ばざるを得ない。逆に今AIのところもありましたから,むしろ情報1を必ず入試で受けるように制度設計ができないのかなというふうに思ったりするんですけどね。

【長谷川経団連常務理事】  経団連も「情報Ⅰ」をなるべく大学入試科目に入れるよう提言しています。

【村田委員】  必ず,なるべくすると受けるところと受けないところがあって,そうじゃなくても今恐らく高校段階で情報1のレベルがかなり違っていると思うんです,私学と国公立でも。それでなくても格差が出てくるので,必ず情報1を入試でやるとして,必修にして。
 情報1をということが必要かなと思うんですけどね。

【長谷川経団連常務理事】  他方で,情報Ⅰは必ずしも理系だけではなくて,内容的には文系の要素もあるので,そういう意味では,より多くの方が受けやすいのではないかという議論はしておりました。

【永田部会長】  ありがとうございます。そのほかいかがでしょうか。越智委員,どうぞ。

【越智委員】  広島大学の越智です。ありがとうございました。もう全て確かにこれ,そのとおりです。10ページのディプロマ・サプリメントに関してなんですが,これはもともとヨーロッパで大学間の単位の互換性とかで使われ始めたものなんですけど,日本型ということで, 10年ぐらい前にも議論があったんじゃないかと思います。その中でやはり企業のほうがこれを本当に使う気がどの程度あるのかということだろうと思うんです。つくるためにかなりのエネルギーを使うと思います。
 また,それと同時にあんまりきちっとしたものをつくって,あんまりリジットになり過ぎてもまた評価がどんどん増えてくるというような点もあるので,どういうふうにそこら辺をお考えかと。
 もう一つは日本の中だけでせっかくつくるんなら閉じるんじゃなくて,国際的にも使えるようなものをつくっていったほうがいいんじゃないかなというふうにはちょっと考えるんですけど,お考えをお聞かせください。

【長谷川経団連常務理事】  日本だけではなくて,国際的に通用するものをつくるというのは非常によいことだと思います。今,日本企業も海外からの従業員を採用することが増えており,今後ますます増えると思いますし,逆に日本人が海外の企業に就職することもあると思いますので,そういうときにも使えるものであればよりいいと言えます。
 現時点で,企業がどれだけディプロマ・サプリメントを使うのか、については、そもそもディプロマ・サプリメント自体がそれほど普及しておりませんので,どこまで皆さんが使う気があるのかというのはよく分かりません。ただ,人事の方々からは、数回の面接だけでは分からないような多様な評価をしたいと、よく聞いております。そういう意味では役には立つのではないかと思います。他方で,先ほども少しご説明しましたが,各大学が独自につくっているものだとなかなか大学間で横並びの評価がしにくいこともありますので,国際的な通用性とともに、できれば客観的で比較可能なものにより近づいていくと,企業側としては使い勝手がよいのではないかと思います。

【永田部会長】  川嶋委員,どうぞ。

【川嶋委員】  川嶋です。よろしくお願いします。
 一つは今,越智委員が質問されたことと同じことを,お聞きしようかなと思っておりました。ディプロマ・サプリメントでその学修成果を可視化したときに,果たして企業さんが採用のときに活用していただけるのかという,単に大学にこういうのをつくれというだけではやはりなかなか学生も大学も本気になってつくることはできないんじゃないかなと,それが1点目です。
 2点目は,御指摘の論点には、大学だけではなくて,これからのSociety5.0の人材育成につ,初等中等教育を通じてというお話があり,私はその点におおいに共感しておりました。さらにそれに加えて,学部だけではなかなかそういう人材は育たないので,大学院も含めてということ,これも私は全く従来から考えていることなので共感はするのですが,一方で,大学側からすると、ではなぜ採用するときに学部卒じゃなくて,修士卒とか博士卒の人をもっと積極的に採っていただけないのかというのが私の疑問というか質問です。
 もう一つお聞きしたいのは,この理系の分野を5割に増やすという話も出ていますけど,文理融合だけじゃなくて理系の分野の人材も増やすと。そのときに例えば現在,企業の経営者の方,これはあくまでも印象ですけど,やはり文系,特に法学部とか経済学部卒業の方が社長さんとか取締役にかなり輩出されていると思うんですけれども,そういう点でもう少し理系人材,例えば工学部を卒業したあるいは工学の大学院を修了した人をもっと企業としては積極的にマネジメント層に採用するとかそういうことも必要なのかと思っています。そうすれば、いわゆるシャワー効果で企業がどんどんどんどん変わっていただけると,大学もそれ以下の高校も変わるんじゃないかなと私は考えているものですから,質問させていただきました。

【長谷川経団連常務理事】  ありがとうございます。確かにまだまだ全国的なレベルで見ると学部卒中心の採用で,院卒修士は少数ということはあります。他方,経団連主要会員企業から聞いておりますと,修士もかなり採用しています。人数的には学部卒の方が多いですが、修士もある一定割合で普通に採用している企業が増えております。それは優秀な人を採りたいという企業側のニーズからすれば,修士卒でも優秀な方だったらもちろん新卒で採りたいわけです。今、申し上げたのは人文・社会科学系の話です。理工系では修士がどちらかというとデファクトスタンダードですが,人文・社会科学系でも修士の採用が増えつつあります。
 ただ,産学協議会の議論において問題となるのは,修士を採用した時に、修士という学位に対する評価が実際には行われていないのではないかという御意見を大学側委員からいただきます。つまり、単に2年間,学部卒より年齢給が上というような形の処遇になるのが一般的であり、修士号や修士課程で学修した成果をどれだけ評価して処遇してくれているのかについて議論がございます。そこで、産学協議会では,経団連や産学協議会も協力して、理工系の博士課程を対象に文科省が実施しているジョブ型研究インターンシップに加えて、人文・社会科学系の修士向けのインターンシップを同様に行えないかということで,去年1年間、ワーキンググループで議論してきました。少しずつ取っかかりが見えてきたところですが、理工系と比べると,修士2年間で修士号を取ったことによる専門能力や知識がどれだけ上がったかについて、人文・社会科学系の場合は可視化しにくいところがあって,それをどうするかが一番大きな課題です。今年度、なんとか試行的に実施するところまで持っていければとは思っております。
 社長や経営者レベルで理工系をもっと増やしたらいいということはおっしゃるとおりだと思いますが、メーカーを中心に理工系の経営者も最近増えてきています。

【永田部会長】  メーカーは多いですね。

【長谷川経団連常務理事】  多いです。

【永田部会長】  よろしいでしょうか。一つ聞かせてください。今のコンテクストに関して,経団連から中等教育に対して働きかける,あるいは働きかけてきたという経験はありますか。高校側にこういったことが大切ですというような。大学側はこの点についてはよく意見交換しているのですが,いかがですか。

【長谷川経団連常務理事】  高校との直接の意見交換は確かにあまりないです。

【永田部会長】  先ほどの入試を介してだけではなくて,高等教育と中等教育の間はディスカッションが必要ですが,ひょっとすると新しい目として初等中等の改革も必要だとおっしゃるならば,やはり経団連もそのようなことも少し考えてもいいのではないでしょうか。つまり高等教育が前提ですが,そこに行く子たちに対して,将来このように経済界はなっていてこういった勉強をしてくれないと駄目ですという働きかけは必要ではないかと思いました。

【長谷川経団連常務理事】  分かりました。

【永田部会長】  STEAM教育は賛成です。一方で,国語の話は全然出ないのですが,国語は一番論理的なストラクチャーになっていて,理系でも相当難しい国語をやっておかないと,いけないと思います。そのような意味合いで,最近の若い人たちは高度な意味での文章が書けません。英語はあまり必要ではないとアンケートにも出ているので,もう十分できたかあるいは機械が翻訳をしてくれるようにだんだん変わってきてはいるのですが,国語はそうはいかない。経済界ではどのようにとらえているのでしょうか,国語はやはり文章が書ければいいのでしょうか。我々は,国語は最も論理性を求められるものだと思っています。

【長谷川経団連常務理事】  産学協議会で議論をしていた時は,Society 5.0人材に求められるリテラシーとしての能力に論理的文章表現力が入っていました。文系にしろ理系にしろ,論文やレポートを書く際には論理的な文章表現力がない学生が最近多いという実態があり、そこをもっと頑張らないといけないという指摘を多数受けています。いわゆる国語という概念から言うと,夏目漱石を解釈することは、それはそれで重要ですが、その点がどこまで必要かといった議論は実はあまりなかったです。

【永田部会長】  国語という言い方がちょっとおかしいかもしれませんけど,論理学なんですけど,やっぱり大切なのかなと思っていて,それがさっき言った人文・社会系の人たちが評価軸がないと言いますけど,違うんじゃないかなと思って,そういうところで僕らは評価しなきゃいけないし,評価できる人材がこれまたあんまりいないのかも分からないんだけど,大学教育においても非常に重要ですし,ましてや初等中等までと言うんだったら,ちょっと国語という言い方がいけなかったかもしれませんけど,僕らもまた考えなきゃいけないなとは思っております。
 そのほかよろしいですか。じゃあ吉岡さんで最後になります。吉岡先生,手が挙がっています。どうぞ。

【永田部会長】  国語という言い方が少しおかしいかもしれませんでした。論理学ですが,やはり大切だと思っていて,それが先ほど言った人文・社会系の人たちの評価軸がないと言いますが,違うのではないかと思っています。そのようなところで我々は評価しなければいけないし,評価できる人材があまりいないのかも分からないが,大学教育においても非常に重要です。ましてや初等中等までと言うのであれば,少し国語という言い方がいけなかったかもしれませんが,我々もまた考えなければいけないとは思っております。
 そのほかよろしいですか。それでは吉岡委員で最後になります。吉岡委員,どうぞ。

【吉岡委員】  今のお話にちょっと乗っかった形で一つ考えるのは,論理的な文章を書く能力というのはよく言われますけども,その前にテキストの解読能力というのがやっぱり重要で,テキストの解読というと,昔は一行一行本を読んでやっていたから,読むというのはとても限られているように言われますけれども,やはり社会認識も人文認識もそれから理系であっても、その文脈というものはどうなっているのかという,広い意味でのテキストの解読力というのがやっぱり落ちていると思うんです。それがやっぱりすごく重要だろうと。
 ただ,これをどうやって試験にするか,テストの問題として考えるのは難しいですが,やはり大学,あるいは高校からなんでしょうけれども,非常に重要なのは解読の能力というものだろうと思うというのが今の永田会長の話に乗っかった形の意見の一つです。
 それからもう一つなんですが,society5.0という、今移りつつあるというその社会で必要とされる人材のイメージなんですけども,一方で例えばデータサイエンスが誰もが読めるようにするというその誰もの範囲なんですね。一つは全国民がある一定の水準までできなくちゃいけない,これは多分そうだろうと思うんです。だから,例えばコンピューターだったら,ちょっと前だったら例えばエクセルぐらいできてくださいねみたいな,そういう押しなべてここまでやるべきだという議論がある。もう一方で,やはり新しい社会をつくっていくためには突出した才能とか突出した経験を持った人間,変わったことをやれる人間というのがやはり必要だという議論があって,そちらで押すと、数学なんかできなくたっていいとか,海外を旅行して一人旅した経験みたいな,ちょっと昔のイメージだとそういうようなもの。そういう人材をどうやって見いだすかということの中で、一つ大学がやってきたのはAO入試の導入であったという,そういう側面があるわけです。つまり一般的な入試ではない形で自分はこういうことをしたということで拾い出してみようという,そういうやり方があるのですが,その辺の関わり合いというのをどういうふうに考えたらいいのか。
 それからもう一つは,こういう調査の問いの仕方が違うんだと思うのですけども,ちょっと前までは企業の求める最大の人材は,コミュニケーション能力と言われていて,コミュニケーション能力というのと今ここで出てきたような数値との関係というのはどういうふうに考えたらいいのか。私自身がよく分からないのですけれども,どういうふうに考えたらいいのかということで,もしもアイデアみたいのがあったら教えていただければと思います。

【長谷川経団連常務理事】  例えばバイオリニストになる方とかピアニストになる方にAI,データ,数理等が本当に必要なのかといった議論は産学協議会でもございましたが,求められているのはリテラシーです。まさにおっしゃったとおり、ワードやエクセルが使えるぐらいのレベルでは,今後のSociety5.0がデータ駆動社会であることを踏まえると,読み書きそろばんの世界として,リテラシーは身につけたほうがよいのではないかということは言えると思います。
 その上で、Society 5.0はまさにその2つのソウゾウ力でつくる社会ですので,突出した才能は重要です。そういう意味では、リテラシ-以上のレベルについては、別に全員がやる必要もなく,皆さんが得意な能力,タレントを伸ばしていくことの方が重要かと思います。
 コミュニケーション能力という言葉を今回使わなかったのは,その言葉自体が何を意味しているかよく分からないという指摘があるからです。これまでの経団連アンケートでは、企業が一番重視するのはコミュニケーション能力となっていたのですが、このコミュニケーション能力って何だろうという議論になりました。確かに全く対人関係能力がなくて,誰ともしゃべれないような人は企業に入っても活躍が難しいという面はありますので,そういった意味なのか。それとも,柔軟性や社会性など,違った言葉で言い換えられないかということを検討しました。今回のアンケートでは、「コミュニケーション能力」と言っていたものを要素分解して聞いてみたということでもあります。

【吉岡委員】  ありがとうございます。

【永田部会長】  ありがとうございます。この辺りにさせていただいて,まだ議論は後でもできると思います。長谷川常務理事,ありがとうございました。
 引き続きまして,今度はSMBCバリュークリエーションの山本代表取締役社長から,SMBCグループにおける文理融合人材の育成ということで,お話をお聞きしたいと思います。
 それでは,山本社長,よろしくお願いいたします。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  御紹介いただきました、SMBCバリュークリエーションの山本と申します。まずは、このような機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
 本日はお手元の資料にありますとおり、「SMBCグループにおける生産性向上の取組と文理融合人材の重要性」というテーマでお話しさせていただきます。
 まず、資料2ページを御覧ください。私は文系が多い銀行の中で、少し変わったキャリアなのですけれども、17年間、危機管理・組織防衛に従事し、テロや東日本大震災といった事件・震災下で、お客様並びに従業員の安全確保、そして、事業継続に努めてまいりました。また、危機管理対応者というのは、平時は暇だと思われがちなもので、今のデジタルトランスフォーメーションの基盤となりました、2010年の本店移転に伴う、100年以上続いてきた紙文化からの脱却を目指した働き方改革のプロジェクトや、従業員の安否確認を自社のシステムで行えるように、ソニーやセコムの方々と一緒に安否確認システムをSMBCグループ用につくって特許をいただくというような、極めて特殊な経験をさせていただきました。
 また、SMBCグループの2017年中期経営計画における業務改革推進などで、様々な人に出会い、先進的なテクノロジーや斬新なアイデアに触れる中で、我々SMBCグループの強みであり財産である従業員の能力をさらに引き出し、生き生きと働いてもらえるような環境を整備すべきと考え、生産性向上のツールであるRPAを導入・推進してまいりました。
 その後、欧米各国から短期間で大きな成果を出した生産性向上プロジェクトだと評価されたことを端緒に、これまでSMBCグループで培ってきた生産性向上のノウハウをお客様に提供し、その実現にコミットするために、2019年に三井住友銀行の100%子会社として、 SMBCバリュークリエーションを設立、代表取締役に就任いたしました。
 本日は、文系出身の私がRPAやコグニティブOCRなどのテクノロジーを活用しながら、いかに生産性の向上をスピーディーに実現できたのかという点を、文理融合の重要性の観点からお話しさせていただければと思います。
 では、資料3ページを御覧ください。こちらが本日のアジェンダとなります。まず、金融業界を取り巻く環境、そして、SMBCグループの生産性向上の取組について、さらに、SMBCグループの人材育成、最後にまとめとして、文理融合人材の重要性についてお話しします。
 では、1ページおめくりください。4ページです。まず、御存じのように銀行は文系出身者が多いのですが、実は1960年代の第一次オンライン化に始まり、近年のインターネットバンキング・フィンテックに至るまで、お客様の多様化するニーズにお応えするため、テクノロジーとともに進化を続けてまいりました。
 続いて、5ページを御覧ください。また、従業員は、お客様の多様なニーズにお応えするため、財務分析や金融工学などの理系的な知識や、担当する業界知識・経営理論などを習得する必要があり、いわゆるスーパージェネラリストが求められています。こういった環境で従業員は成長していきます。
 続いて、6ページです。さらに近年、金融・デジタルを取り巻く環境は加速度的に変化し、お客様をはじめあらゆる領域にデジタル化と変化の波が押し寄せてきています。我々はその激変する環境の中で、これまで築き上げてきたお客様との信頼関係を基盤とし、より付加価値の高い商品・サービスを提供していくことが求められています。
 続いて、7ページを御覧ください。多くの企業が不安定かつ急速に変化する市場ニーズに応えようと、多様性の拡大や労働力の減少という課題に対応しながら、新たなチャレンジを試みておられます。しかし、現場の負担は大きく、労働環境を悪化させ、若手中堅従業員の成長機会を奪い、その結果生産性が低下し、市場やお客様のニーズに応えることができない悪循環に陥ることがよくあります。
 このような負のスパイラルから抜け出すためには、個人としての付加価値の高い業務に時間を充当できる環境を整備するとともに、優秀な人材を戦略事業領域に再配置するなど、機動的な取組による生産性の向上が急務となります。
 続いて8ページを御覧ください。そして、この生産性向上の成功確率を上げるためには、オーナーシップと情熱を持ってプロジェクトを牽引する、自社の従業員の役割が重要です。もちろん外部リソースによるインサイトや、共につくり出す共創なども重要ですが、自社の従業員は、商品やサービス・社内のリレーション・企業カルチャーなどを熟知しており、オーナーシップを持って素早くロイヤリティー高く、プロジェクトを進めることができます。
 続いて9ページを御覧ください。本日御列席の皆様には釈迦に説法かとは存じますが、RPA、ロボティック・プロセス・オートメーションについて簡単に御説明させていただきます。
 RPAは人が行っていたPC上の業務を代替し、自動化するテクノロジーです。ヒューマンエラーが起きがちな入力・集計作業やシステム間の情報連携の自動化を得意としています。1990年代に1人に1台パソコンが整備され、我々のオフィスワークは大幅に改善されました。この自動化オートメーション技術は、近い将来、我々の働き方を画期的に改善してくれる可能性を秘めたテクノロジーだと考えています。
 続いて10ページを御覧ください。従来、RPAはインドなどで行っている大量の定型事務を代替し、人員削減やコスト削減を実現するツールとして欧米で活用されていました。しかし、我々は、様々な業務の自動化・効率化を進め、余力を生み出し、その捻出された時間を付加価値の高い仕事や自身のやりたい仕事に振り替えることで、生き生きとした働き方を実現する、という新しいRPAのコンセプトを打ち出しました。
 結果、11ページにありますように、RPAは、多くの企業が経営課題と捉えておられる資本の選択と集中を素早く実現するための、極めて有効なツールとなりました。具体的には、変化する業務環境の中で、まず競争領域と非競争領域を見極め、非競争領域をRPAによって効率化し、そこで捻出した余力を競争領域に素早くシフト、競争領域の業務を優秀な自社の従業員に託すことができるということです。
 続いて12ページを御覧ください。一般的に競争領域における付加価値をつくり出すアプローチには、イノベーションによる破壊的な変化とインプルーブメントによるリニアな成長の2つがあります。
 御存じのようにイノベーションとは0から1を生み出す変革、破壊的イノベーションとも言われているとおり、新たなサービスを生み出し、ブルーオーシャンで飛躍的な成長を目指すものですけれども、多額の投資や外部の有識者を活用するなど、ハイリスク・ハイリターンで成功確率の低いアプローチと言われています。
 一方、インプルーブメントは、現状の課題やニーズへ適応するための改善の積み重ねによって小さな収益機会を補足していくものなので、現状認識を正確に行い、費用対効果を適切にコントロールできれば、成果はイノベーションほど大きくありませんが、比較的高い確率で成功できるアプローチです。RPAは、このインプルーブメントアプローチに向いています。
 次は、14ページを御覧ください。さて、我々SMBCグループでは、2017年から3年間の中期経営計画の中の一つの柱として、3年間で300万時間、約1,500人分の仕事をRPAにシフトし、余力を捻出することに挑戦しました。
 そして、15ページにお示しのとおり、RPAによって捻出した約1,500人分の余力を、新しいビジネスへのチャレンジなどに再配置し、圧倒的な生産性の向上を目指しました。
 続いて、16ページを御覧ください。具体的には、資料のStep1「定型業務から解放」、Step2「マネジメントワークの実践」、Step3「1つ上の業務へストレッチする」といった3つの成長ステップを、RPAを起点に実現しました。RPAに定型業務を移管する過程で、業務を俯瞰・整理し、役割を分担するなどのマネジメント業務を実践する機会を、従業員は獲得することができます。そして、業務移管で生まれた余力で、一つ上のレイヤーの仕事にストレッチして、チャレンジする機会も得ることができます。このように、RPAの導入をきっかけに、成長機会や効果を獲得することができるようになるのです。
 これをもう少しお示ししているものが17ページです。この従業員の働き方の変化、ストレッチ効果を見越し、タイミングを合わせながら、現場からエース級の人材を引き抜いて、新しい戦略事業領域への再配置を行います。一方で、ボトムラインにはRPAなどを活用したテクノロジーによる労働力の代替を行っていきます。そうすることによって従業員個人の生産性が改善され、全社的に付加価値業務に対応できる、組織体系に変わっていくという相乗効果が生み出されていきます。
 続いて1ページおめくりいただいて、18ページです。つまりRPAの導入をトリガーに、人は生き生きと働き、組織は選択と集中を機動的に行うことができるようになり、その結果として付加価値向上が実現し、また新しいチャレンジにより、急速に変化する市場やお客様のニーズに対応する力を強化することができるということです。
 その結果、19ページにお示しのとおり、現在では560万時間、約2,800人分の業務がRPAへシフトされ、人が中心のデジタルトランスフォーメーションはより一層進んでおります。
 続いて20ページを御覧ください。このSMBCグループの取組と実績をお客様にお話しする中で、多くのお客様からRPAの導入を一緒にやってほしいとの声があったため、金融庁の認可を取得し、2019年2月にSMBCバリュークリエーションを設立しました。
 当社は、お客様の課題解決、そして、その先にある社会課題の解決に向け、UiPath・PwC・Deloitte・accenture・EY、そしてIBMといった仲間と協働するユニークな会社です。
 ここまでSMBCグループのRPAによる生産性の向上についてお話しさせていただきましたが、ここからは文系出身者が多いSMBCグループにおけるデジタル活用や人材育成について簡単にお話しさせていただきます。
 次は、22ページを御覧ください。我々SMBCグループでは、文系であってもデータやシステムを活用したり、理系であってもビジネススキルを磨いたりする機会を設けております。そして、多角的に総合力の高い人材の育成を目指しております。
 そのためのカリキュラムとして、次の23ページにお示しのとおり、グループ全体でデジタル・ユニバーシティを設置し、デジタルのスキル・リテラシー・マインドに関する講座をe-ラーニングを通して提供しています。営業向け・企画向け・戦略向けなど、それぞれの特性に合った効率的かつ効果的なカリキュラムになっています。
 次、24ページを御覧ください。例えば全従業員の利用基本セットにおいて示しているとおり、ロジカルシンキングのような汎用的なスキルから、ツールの機能やデジタル活用の最新事例のような一般的なデジタルナレッジまで、幅広く提供されております。
 また、営業基本セットにおいては、デジタル・ソリューションを実際に導入する際の流れや事例、または営業トークといった、実践的な講座も提供されています。
 今日は一つ、次のページで、デジタルスキルを身につける場としてのRPA開発研修を御紹介したいと思います。25ページを御覧ください。総合職、事務職、文系・理系を問わず、1,600人以上のグループ従業員がこの研修を受講し、自らの業務でRPAを活用しています。
 この研修は、まず半日かけて、RPAとは何か、RPAで扱っていいシステムは何か、どのような規則を遵守しなければならないかについて、しっかり理解をします。その後、自分の業務でRPAを活用する方法について、インストラクターとワンオンワンカウンセリングで協議し、開発計画をつくります。その後の開発は言うならばレゴブロックの製作のようなものでして、レゴブロックの解説書を見ながら組み上げていきますと、いつの間にか完成品が出来上がるように、インストラクターが従業員に寄り添いながら開発手順を示し、必要なサポートを行うことで、自分の業務で活用できるRPAを従業員自らが開発していきます。
 当初、この研修は知識習得後、従業員に独力で開発してもらうようなカリキュラムにしていたのですが、開発は全然進みませんでした。つまり、頭で理解したことと実際につくることの間には大きな壁があるということです。その失敗を踏まえ、現在はこの寄り添い型のRPA研修になっており、現在の研修修了率は97%と非常に高くなっております。
 続いて26ページを御覧ください。このRPA開発研修は、従業員が自ら応募し、参加できる研修としておりまして、行内至るところにポスターなどで周知活動を行いました。こちらにあるようなポスターは、実は研修の主たるターゲットである若手が自らアイデアを出し、つくったものであります。
 続いて、27ページを御覧ください。嬉しいことですが、受講生の中からこういった研修を通じて、新たなキャリアにチャレンジする人も現れました。この方は、RPA研修に参加し、交通費精算RPAをつくりました。この交通費精算RPAは簡単に言いますと、インターネット上で交通費を計算し、経費申請した内容のチェックをするというものですけれども、検証者であるグループ長から大変喜ばれ、ほかのグループのグループ長からも同様にRPAをつくってほしいという依頼をされました。その後、この方は、部内のRPA活用による生産性改善リードを担うことになりました。そして、新しいことを学び身につけることで、自身の評価が上がったり組織へ貢献できたりするという自覚から、自ら進んでプログラミングの勉強もされ、Javaの認定試験などにも合格されました。その後は企画業務に挑戦されています。
 この方は、特に専門性がなくとも、情熱を持って不断に学ぶことで、新しいキャリアを自らの手で切り開くことができるようになるということを示してくれた、大変我々も勇気づけられる事例となっています。
 続いて、28ページを御覧ください。一方で、業務分析・課題解決能力・業務改革推進力など、ビジネススキルを身につけるための研修も実施しています。2010年の本店移転に伴う業務改革・働き方改革を契機に、これまでは徒弟制で上司や先輩の背中を見ながら学んできたことを、体系化した研修として実施しておりまして、特に理系出身の方からは好評を得ています。
 具体的には、次の29ページにお示ししていますように、マルチタスクによる情報収集能力や論理構成能力、ロジカルドキュメンテーション能力などを、体得する講座を用意し、ビジネスコアスキルの知識習得と実践を行っております。
 次は、31ページを御覧ください。私がこれまでの経験や多くの人から学んだことは、激変する経営環境の中で多様化するお客様のニーズや御期待にお応えしていくためには、自身の専門分野の知識だけでは十分ではないということだと思っています。
 文系出身者であっても、理系分野であるテクノロジーや確率統計について学ぶ必要はもちろんありますし、理系出身者であってもお客様のニーズを的確に捉え、最適な提案を行うためには、そのお客様とのコミュニケーションを通じ、ニーズを把握し、真意を理解する必要があります。したがって、今の企業において、IT・データの活用能力、コミュニケーション能力、ビジネスナレッジ・スキルといった総合的な能力は、必要最低限なものだと私は考えています。
 最後、32ページでございますが、このように総合力を持った文理融合人材は企業にとって重要な存在になっています。実際、多くのビジネスシーンでは、最先端のツールを活用して、効率的・効果的に情報を収集したり、データ分析から導出された課題を解決して、ビジネスモデル化したり、多くの関係者に共通の目的を持ってもらえるようなコミュニケーションを図るといった、文理を問わない総合的な能力が多く求められています。
 また、近年、単なる記憶や座学知識の活用だけであれば、RPAやAIなどによって完全に代替されるケースも出てきておりまして、これからの時代に人が自身の価値を出すためには、新たなチャレンジが必要になってくると考えています。この一つの解決策として、私個人的には、リベラルアーツなどの学習を通じ、自らの価値観・価値軸を醸成することは極めて重要だと考えています。こういった人材は、今後も企業で余人をもって代え難い人材となると考えています。こういった動きはSMBCグループに限らず、日本、ひいては世界においても広がっていく可能性が高いと私は考えています。
 我々SMBCグループとしても、甚だ微力ではございますけれども、日本の生産性の改善や社会活性化の一助となるべく、文理融合の、また、人間力を兼ね備えた次世代で活躍する人材育成に努めてまいりたいと考えておりまして、今日は貴重なお時間をいただき、この場で発表させていただきました。
 御清聴、誠にありがとうございました。

【永田部会長】  どうもありがとうございました。具体的な事例も含めてお示しをいただいたところです。それでは,御質問等ございましたらお受けいたします。いかがでしょうか。益戸委員,どうぞ。

【益戸委員】ありがとうございます。益戸です。山本社長,本当にありがとうございました。かなり企業戦略的なところまで、踏み込みながらの御説明をいただき大変よく理解出来ました。
 ただいまのお話の中にもありましたが,企業の現場においては,高度な専門知識がないとできなかったプログラミング開発なども,様々なテクノロジーを活用すれば,専門知識を持たない者も行うのが当たり前になっている事を改めて実感したところです。
 もちろん,テクノロジーを開発する場では、引き続き高度な専門性が求められているわけでしょうが,企業における重要な戦力である大多数の文系人材は,テクノロジーの何をどう活用して、何を行うかの知恵の部分を,今後も一層求められる流れであることも実感いたしました。
 私が知る限りでは,銀行などの金融界に限らず,小売りやサービス,商社,流通などあらゆる業界,そして行政機関においても同様にこの動きは始まっていると理解しております。そうした人材需要の対応へのアプローチが本日議論されている文理横断ですとか文理融合の話題に出てくる,幅広い学びによって多様なものの見方や考え方を身につけるということにリンクしてくる訳です。
山本社長の資料の最後に出てきた総合力を持った文理融合人材の重要性ということについてですが,私の経験では、学生時代からいかに負荷のかかる知的活動を行っているかということがポイントなのではないかと思います。アクティブラーニングですとかPBLですとか,様々な教育手法の工夫がなされて,その有効性は評価されています。そうした教育内容のなかで,文理横断・文理融合的な内容を取り扱えば,先ほど申し上げたとおり幅広の学びにつながり有効だと考えます。
加えて負荷をかけるということは,逆に教える側にとっても相応の労力が必要となる話だと思いますが,やはりより良い人材育成のためには,従来以上に教える側も手をかけていただいて,学生のうちになるべく多くの知的トレーニングを積ませていただきたいと思いました。
 以上です。ありがとうございます。

【永田部会長】  ありがとうございます。曄道委員,どうぞ。

【曄道委員】  上智大学の曄道でございます。本日の御説明どうもありがとうございました。大変分かりやすく,ただ一方で,やはり先端の企業での人材育成に触れる機会として,大学として今後どういったその資質を備えさせるべきかということにはまだまだ課題が多いなという印象を持ちました。
 私からも一つ質問させていただきたいと思います。31ページにお示しをいただいた総合力を持つ人材という中に,それぞれIT・データ活用能力やコミュニケーション能力,ビジネスナレッジ・スキル,そういったことを挙げておられ,恐らくですが,その総合力という意味ではこの円環がどう結びついているかが非常に重要なのかと。どういうふうに埋め込まれていくのか,あるいは大学の教育の中で資質としてどう統合させていけばよいのか,もしお考えがあれば伺えればと思います。

【永田部会長】  山本社長,いかがでしょうか。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  一つ、まず大学における教育について私自身も振り返ってみますと、やはりもっと勉強しておけばよかったなと感じます。これは、実は企業に入った方は皆さんお感じになられると思います。よって、やはり学生がオーナーシップを持って学ぶことと、その環境に置かれていることが好機だという自覚を持っていただくことが重要かなと思います。まず一つ、その危機感だったりオーナーシップだったり、学ぶというパッションを持つということが、大学教育の大前提として重要かなと思いました。
 そういう中で、どういった学問を勉強しておくことが企業において重要になるかというお話については、どのような学問であってもよいかと私は思っています。ただ、重要なことは、大学教育というのは、茶の世界の守・破・離のようなものかと思うのですが、見て、倣い、自己に吸収し、それを自分の型に仕上げていくための最初の核となるものです。どのようなものでも、そのコアの部分が多様でかつしっかりとしたものに依拠していれば、その後そこについていくものは、真珠のように多層に巻いていくことで、非常にきれいな艶や趣が出てきて、人間として魅力が増していくのではないかと考えています。そういう中においては、実はどの科目をというよりは、幅広く、将来何かに役に立つことを前提とした意欲的な学習をしていくことが、まず一つ重要かなと感じました。
 もう一つは、社会に出てこれは感じることなのですが、一度触れた学問について、社会でそれを応用・活用しようとすると比較的簡単にできます。でも、一度も触れたことのない知識にいきなりチャレンジするときは、大変時間と労力を要します。そういった意味でも、大学教育の広範な科目を履修できるという機会は大変貴重な機会であって、社会人になってからもっと勉強しておけばと反省し、振り返る日々でございます。お答えになっていますでしょうか。

【曄道委員】  ありがとうございます。いろいろな工夫がやはり大学の中でも必要かなと強く感じました。ありがとうございました。

【永田部会長】  社長,大変すばらしくて,大学はそのような場所です。大学院はそれにさらに研究の意味が強くなっていて,極端な言い方であれば,文理融合しなくてもいいのではないか。今,回答のほうは事実そのように聞こえています。発表全体を聞いていてもやはりそこに本質があるというのは感じました。そこへ持ってきて最後に,そのようないろいろな領域の知識があるというのは非常に重要であると。そこで初めて効くのかもしれなくて,文系や理系のいろいろな分野のことをきちんと本質を知っていて,あとはどこか得意なところがあればそれがうまく掘り起こせるという,多分そのようなお話だと思います。あまりに当たり前というか,よほど大学ができていないというか,学生さんが勉強をしておけばよかったとおっしゃいますが,大学のほうもそのように教えていないのかもしれなくて,よくよく反省しないといけないのかもしれません。日比谷委員,どうぞ。

【日比谷委員】  御説明ありがとうございました。大変興味深く伺いました。
 私,3つ質問がありますが,最初は26ページのところで,このRPA研修は応募制で実施して,自主的な研修参加を促進とあるんですが,大勢の従業員の方いらっしゃると思うんですが,こういうものに積極的に手を挙げて応募する方がどのくらいいらっしゃるのかということですね。
 それで,その次のページで,このAさんの事例はなるほど大変にすばらしいと思うんですが,こういう人はとても珍しいからここに取り上げられているのか,それなりの数がいるのか。前の質問と関連しますが,どこか、おたくのグループの会社に入って,しかし,応募もしないし,応募しないから,こういうキャリア転換もないというような人は最後どうなっていくのかという,関心ですね。
 最後に,これはもっと根源的な問いになるかと思いますけれども,最後のページで,人間力を磨くことが重要って書いていらっしゃるんですが,よく企業の方とお話しして人間力は大事ですと言われるんですが,会社としてということじゃなくて,山本さんとして個人のお考えでも結構ですが,人間力ってどういうものだとお考えですか。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  ありがとうございます。まず1つ目の、どのくらいの人が応募するかという、実はこれは驚きがありまして、こういったものを掲示して募集しましたら1日で募集枠をいっぱいになるほど、皆さん興味を持っていました。これは、一つは若い世代の方は、先ほどお話の中にもありましたが、リテラシーがやはり我々の世代とは違うのかなと思います。大学の講義をiPadでノートを取るというような世代の人たちは、新しいテクノロジーをうまく使って自分の業務を効率的に行うことや新しいことにチャレンジすることに対して結構貪欲です。そこで重要なことは、それによって自分は何かよくなるのだという期待感を持たせられるかどうかで、やらされるものはあまり受け付けないような気質はあるかもしれませんが、自らやりたいと思うようなきっかけさえつくれば、結構積極的に皆さんやるのかなと思っています。もう一つは、若い世代の人に特徴的な現象としては、一つは承認欲求と貢献欲求が強いかなと思います。つまり新しいことをして何か評価されたり、それが社会のため、またはその部のため、や隣の人のためになると、結構一生懸命やったりもします。
 2つ目は、こういったAさんのようなケースはまれかというと、結論から言うと結構まれです。一方で、このちょっと下のレベルでは、自分の業務でRPAやいろいろなテクノロジーを使って業務を効率化・合理化し、そして、新しいことにチャレンジするみたいなことは、結構多くの人がやっています。先ほど1,600人を超えると言いましたけれども、こういった人たちはまさしく仕事を変えています。
 そういう人を横で見ていると、これも若い人によくあるのですが、他人と違うことで少し不安定になるのです。だから、誰かができていて自分がやっていないという環境に自分を置くことが非常に億劫なので、ぜひ自分もやろうというふうになります。なので、先ほどの2つ目にお話しいただいた、応募してこない人については、私はそのままでいいのかなと思っています。強制する必要はなくて、それぞれの人がやりたいことに積極的にチャレンジし、試行錯誤し、その結果それが評価されたり、自分の業務でその先にあるお客様の役に立ったりするというような枠組みを、我々側でしっかりと整備していくことが重要だと思っています。
 最後の32ページの人間力でありますけれども、私、個人的には、人間力というのは魅力だと思っています。魅力の源泉は何かというと、価値観や判断軸です。その人に相談すると正しい答えが出てくるかであったり、その人がやっている仕事に大義があるかであったり、その人が、その会社にいることに存在価値があるかを表せるもの全てを僕は人間力だと思っています。仕事ができることもそう、知識が深いこともそう、そして、社会貢献の実践・、実現ができることも人間力だと思います。その一つ一つの手段として、知識があったりスキルがあったりするのかなと私個人は考えております。

【日比谷委員】  ありがとうございました。

【永田部会長】  ありがとうございます。吉岡委員,どうぞ。

【吉岡委員】  意見というか質問というか,やや印象なんですけれども,伺っていて,イメージする組織というものについての考え方がやっぱり変わってきているのかなと思いました。今多分そんなことを単純に思っている人はいないと思いますけれど,ある時期はやっぱりトップが,あらゆる情報をできるだけ集中して問題点を探ってそこにメスを入れるという,トップダウンで組織を動かすというのがある種のモデルだったと思うんですが,それに対してこれはボトムアップと言っていいのかどうか分かりませんけれども,少なくともその従業員の主体的な判断であるとか状況判断であるとか,あるいはどこに改善の余地があるかということは,その従業員が見つけていくということが目的でもあるし,きっかけにもなっているという組織イメージかなと思いました。
 そういう意味では,これが多分その個々の従業員の能力開発ということでもあるのでしょうけども,それよりもある種のチームをつくったり,ペアで訓練したりするみたいなところも含めてこういうチームをつくっていくということかなとお話を伺っていて思いました。そういう意味で,組織と個人の関係というのをちょっと変えてみたということだなと。
 大学との関係と言うと,こういうことって多分個々の授業をいかに真面目に聞かせるかという話よりも,例えばゼミであるとかゼミの経験であるとかあるいは理系だったらその研究室の仕組みであるとか,そういうものが結構重要なのかなと。
 それはその学生の学びでもそうですし,そこで学んだ身振りといいますかそれが社会に出てから役に立っていくという部分が関係しているかなと思いました。さらに言うと,例えばサークルであるとか部活動みたいなものが持っている意味というのがやっぱりあるのかなと思ったところです。ほとんどコメントですけれども,そう思いました。ありがとうございました。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  おっしゃっていただいたとおりかなと思います。
 一つだけ、これはもしかしたら大学生にオーナーシップを持たせるところにヒントがあるかもしれませんが、実はこの生産性向上の取組を始める前に、経営者は明確なビジョンを示しています。やはり金融業界というのはこのままで生き残ることはできないし、お客様に価値を提供するためにやはり情報の交差点に立ち続けなければならない。それは何かというと、新しいことに取り組むこと、そして我々が金融という枠組みを超えていくこと、こういうことが重要で、変化しない者は生き残れない。今のまま業務をやり続けていては、我々は市場で勝ち続けられず、ひいてはお客様に価値を提供し続けられない。変わらなければならないのだ、と我々のトップは危機感をあおっているのです。
 この大前提の下に、変わらないといけないときにどのように変わったらいいのかと思う従業員に対して、ソリューションとしてこういったものを我々として提供することで、多分うまく歯車が回ったのかなと思います。ただ、吉岡様がおっしゃったように、やはり従業員が主体的にやっていくというのは、これからのキーワードかもしれません。
 もう一つは、こういった取組に必要なチームの中での個の意味合いは、ゼミや課外活動からも学べると考えています。私は中高大と野球部でしたが、やはり個が強くなければチームは強くはなりませんが、一方で、チームで同じタイプの人ばっかりいてはそのチームは強くなれないのですよね。
 なので、多様化する人材をいかにうまくまとめ、ゴールを共有し、それぞれの長所を活かすかということは、企業におけるプロジェクトマネジメントや経営判断においては重要な素養となってきます。そういうものを大学のゼミやサークル活動の中で学べるということは極めて重要で、本人が自覚しようがしまいが、必ず企業に入ってから役に立つのではないかなと、私も全く同じ感覚を持っています。

【永田部会長】  ありがとうございます。私も聞こうと思った内容は同じだったのですが,オーナーシップを持たせるという意味で,博士課程はまさにそのオーナーシップを鍛える場。それから,少なくとも世界で最初のことを1回はやっていないと博士を取れません。しかし,企業は欲しがらないです,何か変です。直接答えていただかなくて結構なので,実は,学士課程だけでできることはやはり限界があって,山本社長のところで行っているこれはとてもいいわけです。要するに大学卒業後にこれだけのことをやれるというのはすごい。
 ただ,そこを認識しないといけない。単に学士課程を出たから,全部できるかといったらやり今の時代は難しいと思います。
 村田委員,どうぞ。

【村田委員】  私は先に言わせてもらいます。吉岡先生の質問と関連して,山本さんのお答えになった一つに納得したことがありまして,先ほどイノベーションじゃなくてインプルーブメントだと,改善なんですよね。いや,それで本当にどうなんだろうなと,ずっと改善であれば,トヨタの「カイゼン」という言葉があるように,イノベーションが日本はなかなか起こってこなかったのにというところがすごく引っかかっていたんですが,最後おっしゃって,結局トップがイノベーション,意識の改革を今変わらないと生き残れないと,まさに意識のイノベーションをトップが起こしているから,それに基づいたインプルーブメントに意味があるということをおっしゃっていただいて,全てが納得しました。コメントです。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思いました。

【永田部会長】  川嶋委員,どうぞ。

【川嶋委員】  ありがとうございます。1点は,お話は少なくとも私には貴重な教訓になったということです。と言いますのも、最後におっしゃった,変わらないと生き残れないという金融業界の話が出ましたけれども,まさに大学というのは、特に日本の大学は,このままでは生き残れない,変わらないといけないと危機感を感じていますので、金融業界の状況と似ているのかなと共感したところです。
 しかしながら,今日お聞きしたような組織の中でAIとかRPAを導入して業務の効率化というのは,私が見る限りほとんど日本の大学では進んでいない。もちろん教育の面では人的集約,人が教えるというところがあるので,なかなか自動化とかそういうのは難しいところもあるかと思うのですが,それを支える大学の教育研究を支援する間接部門とかはどんどん効率化,合理化,インプルーブメントしていったほうがいいのかなと思うんですが、なかなかそれができていないなというのがお聞きしていた私の印象です。
 もう1点,これは大変失礼な質問かもしれませんけれども,住友銀行グループでは採用の際は多様性が必要だとおっしゃるんですが,今日の議論だと文系か理系かというときに,何か採用ポリシーがあり,理工系出身者と人文社会系出身者,学部卒,大学院修了の採用比率をポリシーや考えに基づき採用されているのでは推測するのですが,最初から何かその多様性を確保するような方針の下で採用されているのか,今日のお話のように出身分野は別にして,入ってからこの総合力があるような人材を育成しようとしているのか,その辺はどういうふうにお考えなんですか。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  まず、1点目の変わっていかなければならない大学教育の中で、アクティブラーニングはどんどん変わっているように思えます。今の大学の教育カリキュラムは企業で必要になるような様々な経験を積める機会が多くなっているかなと思いますが、一方で運営側の負荷も大きくなっているはずだと思うのです。
 なので、アクティブラーニングを増やすためには何かを効率化しなければならないとすると、そこで必要になるような教育のうち、定型的なものはe-ラーニングで学ぶような、いわゆるアナログとデジタルのベストミックスなカリキュラムというのが今後拡充されていくのではないかなと推察します。
 2つ目の採用方針については、大前提として人事部はいろいろ考えてやってくれているので、私から何か申し上げるのも、この場ではちょっと僣越かなと思いますが、私から見ている人事部の採用というのは非常に多面的で、いろんなことにチャレンジしているなという印象を持っています。それは従来型の新卒ばかりの採用形態ではなく、キャリア採用を積極的に進めていますし、院卒を含めた採用についても積極的にやっているように外からは見ています。
 しかし、まだまだ欧米の企業の大学院卒の採用にかけるパッションに比べると、我々国内の企業の院卒に対する評価や、その採用に対するウエートというのは十分ではないのではないかなと私自身は思っています。実際、企業に入った後、もう一度学びたいということで、海外に大学院留学を希望する従業員はやはり我々の中でも非常に多いわけで、そういったパッションが起きるということ自体、やっぱり大学院卒の価値というのはそれなりにあるのではないかと私は個人的には思っています。

【川嶋委員】  効率化の点を申し上げたのは,教育はいろいろなイノベーションが起きているかもしれませんけど,むしろバックヤードというか教育,研究を支えるところの業務の効率化というのが,日本の大学はまだ不十分かなと私自身思ったということで発言させていただきました。ありがとうございました。

【永田部会長】  それでは,このセッションの最後,越智委員,どうぞ。

【越智委員】  ありがとうございました。よく分かりました。
 特に,31ページの3つのIT・データ活用能力,ビジネスナレッジ・スキル,コミュニケーション能力の中心に人間力というのがあって,関係しているということだったと思います。質問は個別になるんですけども,2ページの理系と文系を分けて理系が30年で14.4%から16.1%と少し増加したとのことですが,これはこの程度なのでしょうか。文理融合と言いながらの質問にはなりますが,文系・理系の比率が将来的にはどういうふうになっていくだろうか,というところと,それと余力をすごく生み出しておられたですよね,RPAで。あのことによって新入社員の数というのは減っているんですか,それとも業種が多様化して,数そのものは変わっていないんですか。余剰の時間が560万時間生まれたことによる効果というのはどういうふうに使われているでしょうか。

【山本SMBCバリュークリエーション社長】  すみません、今後は文系・理系の採用比率がどのようになっていくかというのは人事部の採用方針なので、私は存じ上げません。今回このRPAを使って余力を捻出したのは、やりたいこといっぱいあるからです。具体的に申し上げると、中小企業のお客様ともっと経営について議論をしたいのだけれども、担当する先が多くて、なかなか話す時間を持てない、人がいます。そういう人に余力を作るために、その人が訪問する前に必要な書類は、夜間または早朝にロボットがデータセンターでいろんなデータをかき集めて、まとめて、その本人のスケジュールをみてメールで送るようなシステムにしたのです。
 これによって、本人はそのベースの資料を見ながら考え、そしてお客さんのところに行って、何を提供するのかの検討に時間を使うことができるようになりました。実際、業務はどんどん増えていますが、現有の人員でそれをカバーし切れないので、余力をつくらざるを得ないということです。構造的な問題として団塊世代が退職され全体人数は減りますので、サステーナブルな企業成長を考えますと、それ相応の採用が不可欠であろうと考えています。

【永田部会長】  ありがとうございました。まだまだいろいろ御質問,御意見,意見交換をしたいのですが,今日のところはここまでとさせていただきます。どうもありがとうございました。
 それでは,もう一つは夏休みの前なので,やっておかなければいけないのですが,皆さんに対する宿題みたいなものです。事務局のほうでこれまでの文理横断・文理融合の教育の推進ということで随分議論を進めてきて,メモもたくさん取って,皆さんの御意見もたくさんあったということなので,これを少しまとめた形にして,審議経過を皆さんにお示しして,今後の夏休み以降の議論に生かしたいということです。
 それでは事務局から,審議経過のメモについて御説明をいただきます。

【柿澤高等教育政策室長】  それでは,高等教育政策室長の柿澤でございます。資料3を御覧いただければと思います。
 資料3でございますけれども,委員の先生方には事前にお送りしておりまして,目を通された先生もいらっしゃるかと思いますので,今後の議論の時間のために,説明はできるだけ簡潔にさせていただきたいと思います。
 まず,資料3の1ページ目から3ページ目まで,ここが文理横断教育・文理融合教育の意義や必要性を述べている部分でございます。1つ目の注釈,1ページ目の下,ちょっと文字が細かくて恐縮でございますが,ここで文理横断・文理融合教育と,これはこの文章を前提として言っておりますけれども,文理横断と文理融合についてはここでは特段の区別をせず,人文・社会科学,自然科学などの様々な学問分野を横断的に学び,学修の幅を広げるような教育を総称して,文理横断・文理融合教育としているというふうに入れております。
 これは学生が様々な学問分野を学ぶことを文理横断,そして,人文・社会科学系の学問と自然科学系の知見を組み合わせた,いわゆるその文理融合的な学問分野を文理融合と捉えることもできますけれども,このような区別,定義が一般的に確立しているものではないということで,特段そこを分けずに記載しているというところでございます。
 こちら資料3の1ページの2つ目の丸のところでは,答申等における文理横断・文理融合教育の必要性ということで,ここでは具体的な例としては2つ,学士課程答申,学士課程答申の中での学士力,この中でも,学士力の4つのうちの1つ,知識・理解として,「人類の文化,社会と自然に関する知識の理解」ですとか,あるいはその数量的スキル,情報リテラシーも含む内容となっていると。また,2040年の高等教育のグランドデザイン,平成30年の答申になりますけれども,こちらでもこの文理横断的に知識,スキル,能力を身につけることが,社会における課題の発見とそれを解決するための学問の成果の社会実装を推進する基盤となるということが述べられているところでございます。
 2ページ目を御覧いただきまして,2ページ目の1つ目の丸のところでございますが,社会経済の課題の多様化・複雑化が進み,単独あるいは少数の専門分野の知による課題解決がますます困難になっているということで,こうした中,文理横断・文理融合教育の取組や,知識や情報を組み合わせて新たな価値を創出する人材,多様な他者と協働して社会における課題を発見・解決する人材を育成するという観点でも,一層重要性が増しているということで,また,産業界からも,こうした取組を求められているというところはまさに本日のヒアリングでも出たところでございます。
 また,「第6期科学技術・イノベーション基本計画」におきましても,「総合知」の創出と活用が重要ということが言われておりますけれども,総合知の活用に向けては専門知の深さと併せて俯瞰的・横断的な視野を求められ,こうした素養を涵養する上でも文理横断・文理融合教育の取組が重要となってくると。
 また,一番下の丸のところですが,デジタル社会の「読み・書き・そろばん」的な素養としても,人文・社会科学分野を専攻する学生も含む全ての学生に対して,数理・データサイエンス・AIに関する知識技能が求められているということで,こうしたことについてはまさに国のほうでも,この教育プログラムの認定制度の創設,普及促進等も行っているというところでございます。
 次に,3ページ目,文理横断・文理融合教育の方法論というところでございます。文理横断・文理融合教育の具体的な方法論については,大学関係者においても必ずしも具体的な取組のイメージは共有されていないが,学士課程段階における様々積極的な取組例については,例えば次のようなアプローチに大別することができるということでございまして,これは前回第2回会議でも様々な取組について,大学からヒアリングを行ったことなども踏まえて,ここでは4点に分けております。
 1つ目は,このリベラルアーツ教育を中核に据えた学位プログラム。2つ目は,文理横断・文理融合教育を通じた課題解決力等の涵養に重点を置いた学位プログラムというところで,この2点目に関連しては九州大学の共創学部の取組も前回会議でヒアリングしたところでございます。
 4ページ,3つ目の文理横断・文理融合教育的な学問分野に基づく学位プログラムというところに関しましては,例えば環境学ですとか,あるいはこのデータサイエンス分野といったところがこの類型に当てはまるだろうと。4点目としまして,一般教育・共通教育における文理横断・文理融合教育の取組というところでございます。一般教育・共通教育において人文・社会科学や自然科学の諸分野にわたり授業科目を広範に開設している大学は多いんですけれども,単に学生が幅広い授業科目から選択可能ということではなくて,文理横断的な学修を通じて,ディプロマ・ポリシーに定められた資質・能力を育成することを一般教育・共通教育の目標として明確にした上で,各分野のバランスの取れた履修を求めている大学ですとか,データサイエンス教育,STEAM教育等を全学的に必修化している大学等もあるというところでございます。
 5ページ目の一番上の丸でございます。この文理横断・文理融合教育のアプローチは一定の型,このやり方ということにはまるものではなくて,各大学においてこの自らの強みと特色を生かした質の高い教育を展開することが期待されるというところでございます。
 次に3点目,文理横断・文理融合教育の推進に向けた方向性というところでございますが,この5ページ目のはじめのところは,一般教育・共通教育,教養教育をめぐる課題と文理横断・文理融合教育について述べております。こちらは第1回会議の中でも,こうした一般教育あるいは教養教育に係る課題の定義といったところも御指摘がございましたので,こちらを入れているところでございます。
 文理横断・文理融合教育には多様なアプローチがあり得るが,ややもすると一般教育・共通教育のカリキュラムに関する事柄であるという狭い範囲での捉え方がなされたり,あるいは教養教育と同一視されたりするという傾向があり,このことが大学設置基準の大綱化以降の一般教育・共通教育,教養教育をめぐる課題と相まって,我が国の大学において文理横断・文理融合教育が必ずしも十分に進展しているとは言えないことの背景にあるものと考えられるというところでございまして,この5ページ目から6ページ目にかけては,こうした一般教育あるいは共通教育,教養教育をめぐる課題について,経緯を少し振り返ったところでございます。
 この6ページ目の下から2つ目の丸のところになりますけれども,こうしたこの一般教育・共通教育,教養教育をめぐる経緯や課題というものが,文理横断・文理融合教育を進めるに当たっても留意する必要があるということでございまして,どのような資質・能力を持った人材を育成するのかといった明確な目標や目的意識を持たずに,一般教育・共通教育において,単に個々の教員の研究分野に基づく幅広い授業科目が開設されていることをもって文理横断・文理融合教育の実践を標榜しても,教員の積極的な取組や教育方法・内容の改善,学生の学修意欲の喚起等につながらず,期待される教育成果につながらないという意味で,教養教育と同様の課題を抱えるのではないかというところでございます。
 次に,6ページ,1番目の下,文理横断・文理融合教育の質保証に向けた取組というところでございますが,どのようなアプローチを取る場合であっても,「教学マネジメント指針」を積極的に活用しつつ,各大学がそれぞれの個性や特色を生かしながら教育の質保証に取り組むことが求められるということでございまして,その前提としてのディプロマ・ポリシーにおける,学生が身につけるべき資質・能力のできる限りの明確化ですとか,ディプロマ・ポリシーと一貫性のあるカリキュラム・ポリシーに基づいて,明確な到達目標を有することが授業科目やプログラムを支える構造となるように,体系的,組織的な教育課程の編成が必要とされるといったことがございます。
 7ページ目の丸の2つ目でございますけれども,この文理横断・文理融合教育の推進は,専門教育の希釈を意味するものではなく,分野を超えた専門知の組合せ,総合知の活用が必要とされる時代にあっては,専門教育においても従来の専攻を超えた幅広く深いレベルの教育が求められるということでございまして,この教育課程の編成・実施等における横断性・学際性の向上と専門性の深化とのバランスについては,各大学において,学位プログラムの学問分野の特性,学生の進路等社会における顕在・潜在ニーズも十分に踏まえた上で検討することが必要というところでございます。
 また,一番下の丸でございますが,「このほか」というところでございまして,この我が国では学生の学修時間,また,その密度の濃い主体的な学修を行うことができていないといったことが従来から指摘をされておりますけれども,その要因として,授業科目の過度の細分化や履修科目数の多さということが指摘されているということで,この文理横断的なカリキュラムの編成・実施が単なる「足し算」,「広く浅く」の履修となり,こうした傾向に拍車をかけるようなことがないよう,各大学においては,学生の時間は有限であることを前提に,授業科目の精選・統合,同時に履修する授業科目数の大胆な絞り込み等が必要であるといったところでございます。
 また,8ページ目でございますけれども,これまで学生の学修意欲の維持・向上に関する御指摘もいただいていたところでございます。
 これを踏まえまして,この文理横断・文理融合教育の教育プログラムの意義や狙いなどについて,大学としても分かりやすく情報発信を行うですとか,アカデミック・アドバイジングを行う,あるいはその履修条件を適切に設定するといったことも述べられているところでございます。
 また,8ページ目,この推進体制というところでございますけれども,推進体制のところではこれも事例発表等でもございましたけれども,2つ目の丸,いわゆる「教教分離」を導入する大学も国立大学を中心に増えてきているということで,こういったところの部分も社会の要請の変化や学問の動向に即した柔軟な学位プログラムの機動的な編成,複数専攻制,メジャー・マイナーの導入等に資するものであるということでございます。
 9ページ目のところでは,またこれも事例発表を踏まえてのところでございますが,学群・学類制,あるいはその学域・学類制といった形で導入して,レイトスペシャライゼーションの考え方に基づく取組,こういったものも学修者一人一人の志向に応じて,その可能性を最大限に伸長するという観点からも有意義ではないかと。
 また,次の丸のところでございますけれども,地方大学において,他大学との連携といった観点も入れているところでございます。
 また,国の取組としましても,国としてもこれまでインセンティブの付与等取り組んできたところでございますが,時代の要請に即応した大胆な教育改革を促す観点から,文理横断・文理融合教育をベースとした新たな学部の設置等に対する機動的・継続的な財政的支援を行うことも必要ではないかといった観点も入ってございます。
 最後に4のところでございますが,これまでの会議でも多く意見をいただきましたこの初等中等教育における文理分断の状況,高大接続の課題というところでは,こちら9ページの一番下の丸でありますけれども,やはりこの人文・社会科学分野を専攻する学生が,自然科学分野の学問を学ぶ場合に,理数系の基礎的な知識・理解の不足が課題になることが多いということでございまして,初等中等教育段階における文理分断の状況や,高大接続の改善が求められる,その意見が根強いと入れております。
 一つ飛ばしまして,特に高校段階でございますが,入学選抜を見据え,3分の2の高等学校が文系・理系コース分けを実施,文理選択は高1の秋,文系・理系のコース開始時期は2年次の4月からであることが大半ということで,あまりに早い時期に文理選択を迫られ,特定の教科について十分学習していない傾向があるとの指摘も入れてございます。これも会議で多数いただいた意見でございます。
 一方で,この文理分断の状況は,大学入学者選抜の在り方が変わらなければ解消されない意見もあるというところでございまして,こうした高等学校における文型・理系のコース分けも,大学入学者選抜に対する高等学校教育の適応化であるという側面もあるのではないかというところでございます。
 この10ページ目から11ページ目にかけましては,最近のこの初等中等教育段階におきましても,やはりこうした文理分断の状況の改善を図る必要があるということで,様々な施策が取り組まれているところでございます。
 11ページ目の一番上の丸のところでございますけれども,文理両方を学ぶ高等学校教育,高大接続改革を推進するという観点からリーディング・プロジェクトも取り組まれておりますし,また,学習指導要領も改訂をされておりますが,さらに設置基準,高等学校の設置基準も改正されているといったところを紹介しております。
 最後に11ページ目の,この高大接続の改革に向けてというところでございます。
 入学者選抜の改善に向けて,各大学においてまずもってアドミッション・ポリシーをディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシーと一貫性・整合性のあるものとして定めた上で,入学志願者の実態も踏まえつつ,適切な出題教科・科目や入試方法の在り方について検討することが求められるということで,その際,大学入学者選抜に求められている原則的な考え方の1つである「当該大学の学修・卒業に必要な能力・適性等の判定」の観点から,各大学への入学後の教育に必要な入試科目については,大学入学共通テストの活用や個別学力検査により適切に課すことが重要であると述べております。
 また,こうした役割分担が円滑に行われるようにということで,日常的に大学と高等学校が意思疎通をする必要性も述べられているところでございます。
 「このほか」ということで,令和4年度から年次進行で実施されている指導要領に基づいて,高等学校ではこの主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が進んでいるということを踏まえまして,この高大連携による教育プログラムの充実,こうした学習を通じて養われた資質・能力を入学者選抜において多面的・総合的に評価・判定する取組が拡充されることも期待と。
 また,「国においては」というところで,こちらも第1回会議でも御意見をいただいたところでございますが,入学者選抜の改善に関する各大学の取組を適切に把握,他大学の模範となる先導的な取組を推進することが重要と。また,積極的な取組を促進・評価する観点から推進策を講じるということで,具体的には,定期的な実態調査に基づく好事例の選定・公表や優れた取組に対するインセンティブ付与,また,各大学が入学者選抜の改善を図る上で参照すべき指針となるよう「教学マネジメント指針」について,入学者選抜の改善等の観点からの記述を盛り込んだ追補を作成することが求められるとしてございます。
 以上でございます。

【永田部会長】  ありがとうございます。今まで出てきた意見をまとめたところなので,意見はないかもしれません。少し根源的なことで皆さんにお聞きしたいです。
 実は今日,国語の話を若干したのはそこに理由があるのですが,数理・データサイエンス・AIを,どのような立場で捉えているかというと,文系の子にとっては理系の1科目,あるいは1分野,理系の子にとっても実は身につける必須な分野。これは文理融合とは言わないです。文理問わずと言うのが適切だと考えます。
 先ほどもSMBCバリュークリエーションの御発表の中で,文理融合と書いてあるところと文理問わずと書いてあるところがあるわけです。ここで文理融合とか文理横断と言っていますが,文から見たときに,数理・データサイエンス・AIだけをもってして,理との融合とは言えないわけです。
 それから,理から見たときに文とは何だろうかというのは一度も議論されず,みなさん当たり前のように文理融合,文理横断と言っています。私は先ほどの国語もそのような意味で聞きました。もう少しそのようなことを言うと,なぜSTEAMと言っているかというと,文理の理は数学です。極端な話,文理融合の理というのは数学だという認識だと思います。論理性から考えてもそれからありとあらゆる自然科学の基盤から考えても。だとすると文理融合ではなくて文数学とかになってしまいます。地学・天文学の話が出てきたかといったら1回も出ていないし,文理融合だからといって,遺伝子の話などが全然出てこないわけで,出ているのは数学です。ですから,我々はこの文理融合・文理横断と題して話し合っていますが,根本的にこの点の認識はしっかり持たないと後で禍根を残すか思っています。
 先ほどもあったのですが,私も聞きたかったです。理系の人たちが文と融合するといって,その文とは何なのか。それもでも文理問わずはライティングスキルとかそのようなことが書いてあるので,それは文理問わずです。そうすると文とは何なのか。

【日比谷委員】  哲学かな。

【永田部会長】  そうです。

【村田委員】  おっしゃるとおり,哲学だと思います。

【永田部会長】  私もそう思います,哲学です。そうだとしたら,はっきり一度も出てこないのはおかしくないですか。

【日比谷委員】  おかしいです。

【永田部会長】  実は筑波大学のかつての第1学群というのは数学と哲学と語学と物理だったのです。つまり根源的な文系・理系の人たちが一緒に学ぶという構造です。数学と哲学のことを指しているならば,そのようなことであるということをあからさまにしないといけないはずです。しかし,違うのでしょう。社会が言っている文理横断・文理教育は,この概念的なこととは違うことを指しているのではないか。我々はおもねるわけではないが,社会の認識をきちんと取り入れた上で議論しないと乖離してしまいます。だからそこは,今回審議まとめの中で,我々が自分に問いかけなければいけないことです。この点をどう思われますか。

【村田委員】  よろしいですか。永田先生,今日の山本さんの話もそうなんですが,まさに文理問わずというか,根源的なことは何なのかというところだと思うんです。数理資本主義という答申が,2019年だったかな,出たと思うんですよね。それでも数学だと思うんです。
 一方で,これも有名な方で,スタンフォードで校長をされてて,言ってみれば高校版のミネルバみたいな,星先生というスタンフォード大学の哲学を出ておられる方で哲学教育をされています。
 もう一つ,最後に山本さんが人間力,先生質問された人間力何ですかというときに,まさに価値観も哲学なんですね。そうするとSTEAM教育と言われている,その中で大きいのはあるいはデザイン思考という言葉があるんですが,基本的に何かというとPBLって,Project Basedなんです,Problemじゃなくて。じゃあ何が課題かということを見つけるには哲学がないと駄目なわけで,まさにその哲学,問題意識の根底にある自分の生き方というのがすごく大きい。社会科学と自然科学とがちょっと違うところはメソドロジーのところも関わってくると思うんですけども,社会科学の場合はどうしても哲学が,その人の価値がその学問に反映しがちですよね。そういう意味では,哲学と数学が社会科学,自然科学,人文科学の授業で教えられることが必要と思います。
 そうするとSTEAM教育あるいはデザイン思考といった大学で何を今やろうとしているのかというと、課題の発見・解決だと思います。この課題を解決するためには当然何を課題とするのかということも大事だし,それを解決するためにはいろんな学問の知識が要るし,数学も当然必要となってくるかもしれないし,物理の知識もというような根源的なところをちゃんと押さえておかないと,それが一番今重要なんだと思うんですよね。
 単に文理がどうだとかって,それをやるためには文理横断あるいは文理融合が必然的に必要なのかという問いの立て方をしておかないといけないんだろうなと今日の山本さん話を聞いて思いますし,今,永田先生がおっしゃることも。まさにGIGAスクール構想というのは,まさにそういうところから出てきたはずだと思いますから,そこをやっぱり大学としてもきちんと押さえておく必要があるのかなと思います。

【永田部会長】  大学分科会に出していきます。社会とここの間に乖離も若干あるのかもしれないが,あったとしても,どうしても話さなければいけないことは話さない限り,中央教育審議会としてはおかしいだろうと思います。
 数学,哲学は,数学もだんだん根源的になっていくとどんどん哲学化します。なぜなら,哲学には一部に解釈論が入っているので,絶対的な真実を見つけるだけではなくて,解釈しなければいけないでしょう。そこに初めて論理性が出てくるわけです。数学というのは論理的であって,しかもその真理探究を絶対旨としなければいけないところがある。
 そのような議論をなくして文理横断・文理融合と言われても。哲学と数学は初めからマージしているのではないかということもあり得ます。ですから学校で絶対に数学を途中でやめてしまってはいけなくて,きちんと最後まで勉強しないと大学行ってから困りますということだと思うだろうし,国語と先ほどは言いましたが,その論理性を論理学でもいいのですが,きちんと保っていくために違う,つまり解釈する学問としての部分は哲学でやっていかなければいけないわけでしょう。それがないと,結局教わったものの知識だけをサイクルさせるだけになってしまう。
 だから根源的に言えば,文理横断・文理融合でいいのですが,その本質的な文とか理は,その前提をどこかにきちんと書いた上で,だから,数学はこうであるが,その中から派生してくるこのようないろいろな理学的な分野がある,文としてこのようなものに派生をして,文とは何かがあって,だからこうだ,だから必ずしも数学と哲学をやらなくてもいいのだ,物理と社会学の一部をやったとしてもいいのではないか。今までそのような議論をしていないから,何となく文の子に数理・データサイエンス・AIだから,数学とこれをやっておけばいいというようなことを言っているけが,おかしい,少しアンバランスだと思います。
 そこを明確にしないといけなくて,山本社長は大変いいことをおっしゃっていて,結局何にでも適用できるような人間ができていかないといけないとおっしゃっているわけですから,やはり根源的な議論をしておかないといけません。大学で少し何かをやりましたとかそういう問題では全然ないと思います。
 あえて時間を使って今日言わせていただいたのですが,根源的なことについて,やはり我々は責任があるのではないかと思っています。

【越智委員】  おっしゃられるとおりだと僕は思うんです。文理融合と言うのがいいのか,文理問わずと言ったほうがいいのか。そこで文のほうで哲学という話が出たんですけど,STEAM教育でAが入るとやっぱりアートがあって,クリエイティビティの部分が入ります。芸術の部分について,これも文理問わずになるのかも分かりませんけど,イノベーションを起こすためにはアートはもう絶対不可欠だと僕は思っています。
 ですから,どういうふうなバランスで文理融合になるのか,そこにどういうふうにその芸術がかぶさってくるのか分かりませんが,芸術のアートもやっぱりきっちりSTEMじゃなくてSTEAMですから,やっぱり入って。

【村田委員】  アートって言って芸術でやっちゃうと変なんです。

【越智委員】  いやいや,芸術と言うと言葉としてあれですけど,創造力というか,そういう部分をやっぱり押さえておかないと僕はいけないんじゃないかと思います。

【永田部会長】  バチェラーオブアートとバチェラーオブサイエンスですから。

【日比谷委員】  いいですか。アートは非常に大事,芸術って大事。でも美学というのはやっぱり哲学の一分野ですから,そこでもやっぱり哲学は重要だと私は思いますけど,ちょっと最初に言おうと思ったら今,越智先生がおっしゃったので,世の中全体がもう日経新聞を開くとデータサイエンス,数理,AI,何とか講習とか出てきて……。

【永田部会長】  それは文理問わずです。

【日比谷委員】  すごくそっちに引きずられてしまって,なんかもうそれを1年生全員必修にしたらそれでもう文理融合しましたみたいな議論がすごく跋扈してしまっているのであえてそういうふうに言いますけど,やっぱりここできっちり押さえる必要があると私も思いますし,それからその理の人に文とは何かという質問は,これから理の人をつかまえて,次々に聞いてみようかなという気持ちになってきていますけど。

【村田委員】  哲学でしょう。

【永田部会長】  だから,今日のお話は最後に人間力であると出てきてよかったです。

【日比谷委員】  価値観って言ってくれたのはよかった。

【永田部会長】  そのとおりだとみなさん思うわけです。そのときに,越智委員の言葉で言えば創造力であるし,私であれば解釈だとか美学であるとかいろいろあるでしょう。そうするとようやく初めて文理融合は意味を持ってきていて,本当にそのようなクリエイティビティを持たせるためには,理の人は文を学ぼうというのは初めてこれで整理できます。それから解釈だけでは駄目で,真理探求を目指さなければいけない部分があるというのは,数学,理の本質なわけです。往々にして文というのは広い分野で,解釈がなければ成り立たない。なぜなら3,000年前のものを見たとして,それが真実かどうかではなくて,解釈しなければならないからです。
 そのような前提があった上で話さないと,何か我々まで世の中の文理横断・融合に引っ張られてしまってはいけないのではないかと思いました。

【日比谷委員】  手が挙がっています,小林先生。

【永田部会長】  小林委員,どうぞ。

【小林委員】  実は今日ネットワークが悪いのか,皆さんの話は永田部会長の発言が一番明瞭だったんですけど,ほかの方々が何言ってるんだかさっぱり分からなくて,資料で何とかフォローしているような状態でしたので,ちょっと場違いな話だったら大変申し訳ないんですけども,文理融合の話は横断についても話が大分煮詰まってきたと思うんですけど,今日の資料3の資料はかなりよくまとまっていると思います。歴史から始まって大綱化,設置基準の大綱化によって教養教育がかなり打撃を受けて専門教育に移ってしまって,大学によってはその教養,リベラルアーツも残しているんですけども,かなりそれが反省の時代に入っているというような視点がかなりよく見えて,そのやり方についてもいろいろあると思うんですけども,一つやっぱり気になるのが文理融合,いろいろな考え方が人によって違うと思うのと,また大学によってちょっと考え方も違うと思うので,一つの意見に統一するというやり方が本当にいいのかどうかというのは分からないので,少し大学にとっての自由度というのを認めていただきたいというのが一つ。
 それからあと最後のほうで,高校のときに文科系・理科系が早めに分かれてしまうからよくないという議論はやったと思うんですけども,それから入試にまで踏み込んだ議論はあんまりやっていなかったと思うんですけども,つまり,その共通テストにするべきだとか資格試験みたいな形にするべきだというような議論は全くやった覚えはなくて,私立大学としてはかなりこれは看過できない議論だと思いますので,その辺の表現をちょっと和らげていただければと思います。
 以上です。

【永田部会長】  検討します。吉岡委員,どうぞ。

【吉岡委員】  先ほどの議論,ここでの議論を伺っていて,私,先ほどテキストを解読することがとても大事だと言ったそのテキストを世界と言い換えてもいいですけれど,解読する力というのは,永田先生おっしゃったその解釈と言ってもいいんですけれども,これは文系・理系問わず数学もやはりその世界を解釈していく,解読していくことで,多分哲学と言ったときの一番の根源はそこかなと思いました、というのが1点。
 それからもう1点,STEAMのアートは何かってやっぱりちゃんと議論したほうがいいと思うのです。技術と言うと狭過ぎる,リベラルアーツなんだと,これもちょっと少しずらしただけだと思うのです。
 やはり私は日本語で言う芸術に近くて,美とか均斉とかバランスであるとか,そういうものを理解する能力というのがやはり基礎にあって,それは多分自然科学にとってもそうだし,人文・社会科学にとってもとても大事な能力だということだと思うので,そのアートというのをわざわざ入れたのは何なのかということはちょっと鍵の問題かなと思いました。
 以上です。

【永田部会長】  ありがとうございます。時間が来たので今日はここまでで,夏休みの宿題ですが哲学は最終的に行動しなくではいけないので,基本的にはそのものに従って行動することまで含めて哲学と,イデオロギーとかそのような問題ではなくて,やはりもっと深く議論しなければいけないと思います。審議まとめなので皆さんと話してきたことがまとめてあります。これを改めて読んでみて,少し待てと思ったので申し上げました。夏休みがあるので,皆さんの合間にいろいろお考えいただいて,また,秋の陣ということにさせていただきたいと思います。
 それでは,今後の予定等,事務局からどうぞ。

【髙橋高等教育企画課課長補佐】  本日は,産業界の皆様におかれてはヒアリングに御協力,また,委員の皆様におかれては活発な御議論,誠にありがとうございました。
 本日,ネットワークの調子等,この部屋の環境のおかげでウェブ参加の委員の方々,インターネットで視聴の方々には大変お聞き苦しかっただろうと思いますが,大変申し訳ございませんでした。
 次回の大学振興部会は,9月の14日,16時から18時を予定しております。実施方法等については,改めてお知らせいたします。
 本日,時間の都合上,御発言できなかった内容,特に審議まとめの内容等についてはいろいろあるかと思いますので,御意見等,事務局まで御連絡いただければと思います。
 以上でございます。

【永田部会長】  ありがとうございます。それでは,つつがなく夏休みをお過ごしください。また,秋にお会いしたいと思います。どうもありがとうございました。
 
―― 了 ――

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)