質保証システム部会(第7回) 議事録

1.日時

令和2年1月25日(月曜日)15時~17時

2.場所

WEB会議

3.議題

 (テーマ)質保証システム全体を通じた考え方、「質が保障されている大学」
について
(1) 学生調査を活用した質保証、情報公表について有識者ヒアリング
(2) 大学における質保証の取組について有識者ヒアリング
(3) 意見交換
(4) その他
 

4.出席者

委員

(部会長)吉岡知哉部会長
(委員) 永田恭介,日比谷潤子の各委員
(臨時委員)浅田尚紀,飯吉透,杉谷祐美子,瀧澤美奈子,谷本和子,土屋恵一郎,
長谷川知子,濱中淳子,古沢由紀子,宮内孝久の各委員
(専門委員)大森昭生,小林浩,林隆之,前田早苗,吉見俊哉の各委員
 

文部科学省

(事務局)伯井高等教育局長,森田大臣官房審議官,森私学部長,淵上高等教育企画課長 他

オブザーバー

小林 雅之 桜美林大学総合研究機構教授
山中 明生 公立千歳科学技術大学理工学部長・教授
近田 政博 神戸大学大学教育推進機構教授
 

5.議事録

【吉岡部会長】 所定の時刻になりましたので始めたいと思います。本日もWebexによるウェブ会議でございます。YouTubeでライブ配信されております。
本日は,学生調査を活用した質保証,情報公表に関するヒアリングのため,桜美林大学より小林雅之総合研究機構教授,大学における質保証の取組に関するヒアリングのため,神戸大学より近田政博大学教育推進機構教授,千歳科学技術大学より山中明生理工学部長・教授に御出席いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは議事に入る前に,事務局から連絡事項をお願いいたします。

【堀家高等教育政策室長補佐】 失礼いたします。事務局でございます。
本日はウェブ会議及びライブ配信を円滑に行う観点から,御発言の際は挙手マークのボタンを押していただき,部会長から指名されましたら名前をおっしゃっていただいてから御発言いただきたいこと,また,御発言後は再度挙手マークのボタンを押して表示を消していただきますようお願いいたします。また,御発言以外はマークをミュートにしていただくなど,御配慮いただけますと有り難く存じます。不都合が生じることもあるかと存じますけれども,御協力のほどよろしくお願い申し上げます。
会議資料につきましては,議事次第に記載のとおり,事前にメールでお送りしております。
なお,1月1日付で高等教育局に異動がございましたので,御紹介させていただきます。
森私学部長でございます。

【森私学部長】 森でございます。引き続きよろしくお願い申し上げます。

【堀家高等教育政策室長補佐】 森田大臣官房審議官でございます。

【森田高等教育局審議官】 森田でございます。よろしくお願いいたします。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
それでは議事に入ります。本日も引き続き「質保証システム全体を通じた考え方,質が保証されている大学」をテーマとしてヒアリングを行い,その後,意見交換をしたいと思います。お手元に資料1といたしまして「テーマに関するこれまでの主な意見」をお配りしております。時間の都合上,説明を割愛いたしますので,適宜資料を御覧になり,議論の前提としてください。
それでは,学生調査を活用した質保証,情報公表に関して,桜美林大学の小林教授に御説明いただきます。よろしくお願いいたします。

【小林教授】 ありがとうございます。時間が限られておりますので,前置きは省略いたしまして,今日の内容について簡単に御説明いたします。学生調査と大学情報の公表が質保証に関連して非常に重要だということは今更申すまでもありませんが,ここでは四つのレベルで検討することが重要だということをお話ししたいと思います。
イギリスについては既に学生調査の御紹介があったと思いますので,アメリカについて今回は御報告いたしたいと思います。アメリカの場合もいわゆる学生生活における調査と,特に質保証に関連するものとして,間接評価に当たる学習成果の調査について簡単に御紹介いたします。また,これらに関連して重要と思われる大学のデータコンソーシアムについても簡単に御紹介いたします。
そして,アメリカの現状を踏まえまして,日本の学生調査の現状をアメリカと比較しながら御紹介いたします。
続きまして,大学の情報公表についても,同じように日本とアメリカを比較しながら,日本の問題点を指摘したいと思っております。
それから,非常に簡単ですけれども,各大学のレベルで学生調査をどのように活用するかということについても御紹介したいと思っております。
最後に,高等教育政策としてこれをどのように考えていったらいいかという点について,若干私見を述べたいと思います。
はじめに,質保証の観点から考えますと,非常に重要だと思われるのは,情報を収集し,共有し,合意を形成していくこと。それを意思決定に生かしていくこと。そのためにはエビデンスを収集する,これはいわゆるインスティチューショナル・リサーチ(IR)の役割なのですけれども,その一つとして学生調査を捉えることが非常に重要だと考えています。
今まではどちらかというと,学生調査は大学情報公表のための基礎資料の一つとして考えてきており,多くの大学では学生調査を質保証やIRとして位置づけられていないと思います。IRの最大の狙いは,大学の強みと弱みを明らかにすることで,そのためのツールとしてはベンチマーキングという手法が非常に重要だと考えられます。学生調査はこのために活用されることが必要だということをまず強調しておきたいと思います。
大学の強みと弱みを捉えるためには国際的,全国,中間組織,各大学の四つのレベル,それ以外にもう少し下位のレベルである学部等で学生調査が行われている場合もあるかと思いますが,この四つのレベルで検討する必要があると思っています。
そのような観点からまずアメリカの主な学生調査を見ていきますと,全米レベルで展開されているものとしては全米の教育統計局(National Center for Education Statistics, NCES)が行っている様々な学生調査があります。中間組織による全米レベルの学生調査といたしましては,いろいろありますけれども,その中でも特にNSSE,CIRP,CSSといった全米レベルの調査。そして国際レベルといたしましてはSERU。これはまだ参加校は少ないのですけれども,研究大学間の学生調査を共同で行うという試みで,日本の大学も幾つか参加しております。
それからアメリカの場合に重要なことは,データコンソーシアムによって調査データが交換されているということです。これについては後で御報告いたします。
そしてもちろん,各大学で学生調査が主にIRオフィスで行われています。
初めにNCESの調査で,日本の日本学生支援機構「学生生活調査」に当たるものとしてはNPSASという調査があり,これは数年置きに行われております。
アメリカで特徴的なことは様々なレベルの追跡調査が行われていることで,大学入学後のBPSという調査や高校を卒業してからの追跡調査がありまして,一番古いものでは1972年から続けられている調査があります。
また,学生調査そのものではないのですが,日本の学校基本調査に当たるIPEDSという調査が行われており,大学情報公表とも非常に関わっておりますので,後で御紹介いたします。
アメリカにおいて重要なことは,様々な調査がされているだけではなくて,オンライン集計,あるいは個票のデータをダウンロードして利用することが可能になっている点です。これらについては参考文献を御覧ください。
アメリカで中間組織のものとして全米レベルで展開されている学生調査としてはNSSEがあります。これはもう日本でも様々な紹介がなされていますので簡単にいたしますが,インディアナ大学が行っている調査であります。様々なレポートの中で三つのピア校,ライバル校のベンチマーキングが可能になっている点で,この調査は非常に有名になったわけです。
調査項目については7ページに示したとおりですけれども,実際のベンチマーキングの例をお示ししますと,8ページの図の一番左側が調査対象校,これは架空の例ですけれども,その平均点。それに対しまして左から2番目が三つのピア校の平均点。ライバル校がどういう状況にあるかを示しています。右から2番目はアメリカのカーネギー分類という大学分類で同じ分類の大学の平均点。最後にNSSE参加校全体の平均点ということで,こういった形で自分の大学がどのような平均点を持っているか比較が可能になる,これがNSSEの一番重要な特徴です。
次に,UCLAが行っているCIRPという調査。これは非常に古くから行われている調査で,1970年代からずっと続けられています。調査全体のレポートが出されておりますので御覧になれば分かりますが,その中でも,この一番左上にありますPolitical Viewsというアメリカの学生の政治的な志向を調査していることがこの調査では非常に有名な項目になっております。
次に,データコンソーシアムの例について少し御紹介いたします。これらは非常に限定された会員校の中でのみ学生調査を含む様々なデータを相互に交換するコンソーシアムで,アメリカの大学協会(American Association of Universities, AAU)が出しているデータ・エクスチェンジ・システムや,名前のとおり高等教育のデータをシェアするコンソーシアム等,様々なものがあります。Consortium on Financing Higher Educationについては次に御紹介いたします。Student Retention Dataというアメリカの大学では非常に重要な学生の中退に関するデータを交換するコンソーシアムもありますし,コミュニティー・カレッジで相互にデータを交換する等,様々なレベルでデータの交換がなされています。Big Tenというアメリカの公立大学10校のアライアンスもあります。
Consortium on Financing Higher Education, COFHEは,日本では余り知られていないのですが,非常に重要なコンソーシアムですので御紹介したいと思います。これは1970年代半ばに創設されたアメリカのリベラルアーツ・カレッジと私立の研究大学35校のみが参加しているコンソーシアムで,本部はMITの中にあります。ただ非常に閉鎖的で,外部からはなかなか情報が得られず,内部で非常に活発なデータの交換が行われているコンソーシアムであります。独自調査としても新入生,在学生,同窓生あるいはその親の調査が行われており,データが相互に交換されています。
アメリカの調査やコンソーシアムの例に対して,日本の全国レベルの学生調査は,日本学生支援機構と国立教育政策研究所が行っている「学生生活調査」あるいは「大学生の学習実態に関する調査」が隔年で行われています。また,全国大学生協連合会が「学生生活実態調査」という形で毎年行っている調査があります。これらが継続的に行われている調査ですけれども,これ以外には東京大学が「全国大学生調査」を2007年と2018年に行っております。更に文部科学省と国立教育政策研究所が「全国学生調査(試行)」という形で行った調査,短期大学基準協会でも「短期大学生調査」を過去数年間にわたって行っています。もう一つ,アメリカの大学のコンソーシアムに近いものとしては,日本の大学IRコンソーシアムで,会員大学限定で学生調査が行われ,データの交換がなされており,これが唯一ベンチマーキング可能な学生調査となります。
個別大学での学生調査についてはそれぞれ様々なレベルで行われておりますが,今日最初に強調しましたように,IR,内部質保証として位置づけることがやはり重要で,そのためには学生個人を特定できることが非常に重要です。記名式や学生番号など,様々な方法で学生を特定して,それによって追跡することによって学生がどのように成長しているかを入学時から卒業,あるいは卒業後まで追跡することができるということであります。
もう一つは,こういった学生を特定できるということは,学生の様々なデータ,履修成績や学習ポートフォリオのようなものとひもづけて分析することが可能になるということです。
こういった形で調査結果を質保証に生かす仕組みを確立していくことが重要だと考えられますが,これにつきましては2週間前の大学分科会でも茨城大学と京都光華女子短期大学の例が紹介されておりますし,それ以外にも様々な大学での取組も紹介されておりますので,ここではこれ以上紹介は割愛いたしますが,全国学生調査とのベンチマーキングができるかどうかがこれから重要になってくると考えております。
次に大学の情報公表の例です。これは先ほど申しましたNCESが日本の学校基本調査に当たる調査を全て公表しているわけですけれども,その中のCollege Navigatorというシステム。それからオバマ前政権のときにできましたCollege Scorecardという,大学をベンチマーキングできるような情報公表。それからCollege Portrait,それ以外にも様々なものがありますが,その中でもう一つだけ,Common Data Setを簡単に御紹介したいと思っております。
College Navigatorにつきましては,15ページのようにIPEDSの情報全て閲覧できるようになっております。この折り畳まれたところを開けますと様々な情報が細かく出てくる仕組みになっております。
College Scorecardにつきましては,ベンチマーキングができることが非常に大きな特徴で,16ページのトップページは非常に簡単な情報しかありませんが,例えばスタンフォード大学とベンチマーキングしたいということでクリックいたしますと,そのピア校,ライバル校が出てくるわけで,ここではその中でペンシルベニア大学の例を出しております。このように比較対照が可能だということが非常に大きな特徴です。
Common Data Setについても日本では余り知られていないと思いますが,これは大学情報公表のデータを標準化,共有するシステムです。様々な情報が様々なフォーマットで提供されているということではベンチマーキングができませんので,標準化して同じ項目を調査して,それを提供しようということで,College Board,US News,Petersonが協働で事業を行っているものであります。クラスサイズや教育の質に関する情報を収集して,それを提供するシステムでありまして,学生に関する情報としては17ページにありますような項目が挙げられています。
これに対して日本では大学の情報公表はどうなっているかといいますと,「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(以下,「グランドデザイン答申」という。)と「教学マネジメント指針」で示されたとおりで,実際には大学ポートレートや各大学のホームページ,民間の情報公表サイトが様々な情報提供をしているわけですが,問題は相互に無関係に進展していることで,収集されたデータの公表と活用もIPEDS等に比べると非常に不十分だと言わざるを得ないと思います。また,データの共有と利用も進んでいないわけで,Common Data Setのような共通のフォーマットをつくっていくことが重要だと考えています。
学生調査につきましても,個票レベルではなかなか学生のデータは公表されていないわけでありまして,日本学生支援機構が実施している「学生生活調査」は将来公表の予定があるとお聞きしていますが,まだまだ大学IRコンソーシアムの中の会員校の相互交換程度,公表程度になっているかと思います。学生調査を含むデータ共有の中間組織が未発達だということが非常に大きいわけです。
それらを考えますと,やはりベンチマーキングをすることが質保証にとって非常に重要で,もう一つはアカウンタビリティーのための大学情報を公表することで,質保証につなげていくこともあるかと思いますが,こういったことに標準的な学生調査を公表・活用していくことが重要だと思います。公表することによって,こういった調査のさらなる改良の必要な点が明らかになり,調査とデータベースのフィードバックが確立されることが非常に重要だと思っています。日本でも学校基本調査あるいは大学ポートフォリオのような試みが既になされているわけで,こういったデータを様々なレベルで活用していくことがこれからは必要ではないかと考えています。
もう少し大きな論点で言いますと,大学間の競争と協働をどのように促進してくかという問題になるかと思います。日本はアメリカに比べますと中間組織やデータコンソーシアムが非常に未発達ですので,これらを今後,高等教育政策としても支援していくようなことが必要ではないかと考えております。私の報告は以上です。ありがとうございました。

【吉岡部会長】 小林先生,ありがとうございました。
それでは,ただいまの御説明に関し質疑応答を行いたいと思います。御質問のある方は挙手マークのボタンをお願いいたします。長谷川委員,お願いいたします。

【長谷川委員】 小林先生,どうもありがとうございました。大変分かりやすかったです。
大学の情報公開につきましては,日本経済団体連合会もCollege Score BoardやCollege Navigator等の仕組みもヒアリングした上で,大学間,ピア校との横の比較が客観的にできるような情報開示をしてほしいということは提言等で10年ほど前から申し上げています。しかし大学ポートレート等を見てみましても,各大学の個別の情報は細かく出てきているのですけれども,客観的に横で比較するのがなかなか難しいというところが余り変わっていない。横の比較は民間のいろいろな調査が,この分野ではこの大学がといったようなランキングなどをたくさん出しているのですが,民間の調査だとやはり信頼性の問題があるということで,正に先生がおっしゃったことは共感するところが多かったです。
質問といたしましては,アメリカのConsortium on Financing Higher Educationでやっていらっしゃるような同窓生や親,動向等の細かい調査ですとか,記名式や学生番号など,学生個人のアイデンティフィケーションをすることが重要という御指摘もあったのですが,個人情報保護等の管理はどうなっているのでしょうか。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。小林先生,後でまとめていただいても構いませんので,現時点で簡単に答えられる部分をお願いいたします。

【小林教授】 個人情報の保護は非常に重要だということはアメリカでも重視されておりますので,いろいろな注意を払っております。大学の中だけではなくて,データを交換するわけですから,その中で学生が特定化されないこと等の工夫はいろいろなされている。大学だけではなくて,大学外に情報が出ないような仕組みは様々につくられている。そのために非常に閉鎖的な仕組みになっているということも言えると思います。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では続けます。日比谷委員,お願いいたします。

【日比谷委員】 小林先生,御発表ありがとうございました。私はCommon Data Setの大々ファンでございまして,今日は御紹介いただいたことを非常にうれしく思っています。
国際基督教大学(ICU)にいた頃は頻繁にこれを見ていたのですけれども,データが標準化されていることが非常にすばらしいと思っています。聞くところによると,アメリカでもこの3者の協働を進めるのはそれなりに大変だったと。今,結果を見ているけれども,ここまで来るのは大変だったというお話もちらほら聞きます。もし日本でこれに類するものを構築していくとしたら,どんな体制で,どこが主導権を取ったらいいとお考えでしょうか。以上です。

【吉岡部会長】 小林先生,お願いします。

【小林教授】 Common Data Setにつきましては,アメリカの場合でも確かに大変な苦労があったとは聞いております。ただ,この3者は大学情報を提供する民間の企業,それから大学情報を長年半官半民のような形で行っているCollege Boardというところが間に入っていて,純粋な民間というわけでもないのです。どこかが民間企業という形で一つだけではなくて協働で行っていることに意味がありますので,日本でもそういったコアになるような民間企業あるいはそれを支援するような形で,例えば高等教育政策としてそういうものを考えていくことになれば,こういったことが可能になるのではないかと考えています。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。それでは林委員,お願いいたします。

【林委員】 小林先生,どうもありがとうございました。
質問しようと思っていたことは日比谷委員が御質問されたこととほぼ一緒だったので,もし追加のコメントがあれば伺いたいと思います。Common Data Set以外も様々な調査があって,それらの間の調整ということを小林先生は御指摘されたわけですけれども,私の知る限り,大分前から御指摘されていて,それでも日本は進んでいないという状況だと思うのです。
今おっしゃったような半官半民のような形態もあろうかと思うのですが,例えば文部科学省がもう少し音頭を取るべきであるとか,国立大学協会,日本私立大学協会等の協会組織がもっとしっかりやるべきである,あるいは独立行政法人のようなところがやるべきであると。中間組織が余りうまく機能していないのではないかという感じはあるのですが,先生の御意見として今後どうあるべきか,もし先ほどの日比谷委員へのコメントに追加があればお話しいただければと思います。よろしくお願いします。

【小林教授】 ありがとうございました。
御指摘のように私も大分前から言っているわけですけれども,なかなか進行していないのが日本の現状です。日本の場合,やはり大学の側(がわ)の協力がなかなか得られないのも大きな問題だと思っていまして,その場合には公開していいデータからやっていくことが必要だと思います。既に公開されているデータを集めて,それを共通のフォーマットにするというようなことも必要です。それに対しましては,やはりなかなか一つの企業だけではできないので,林委員がおっしゃったように,中間組織をつくること。今まで独立行政法人や大学ポートレートもやっているわけですが,なかなか進行していないので,その辺りの方法を是非ここで議論していただければと思っています。

【林委員】 ありがとうございました。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。それでは古沢委員,お願いします。

【古沢委員】 ありがとうございます。私も日比谷委員,林委員の質問とほぼ同じだったのですけれども,様々な調査がかなりランダムに行われているということですが,最も必要なのはデータの標準化や共通化なのでしょうか,手法の点で今欠けているところは何かということでお聞きしたいと思います。以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。小林先生,よろしいでしょうか。

【小林教授】 簡単にお答えいたしますと,フォーマットが共通でないとベンチマーキングはできませんので,そういう意味では非常に重要です。ただ,それを実施する体制として中間組織が重要だということは,先ほど来強調しているとおりです。様々な業界あるいは大学が集まって,共通のフォーマットをつくる組織をつくっていくことが重要であると考えています。

【吉岡部会長】 では瀧澤委員,お願いいたします。

【瀧澤委員】 三つお伺いしたいのですが。アメリカの場合,こういった共有をすることに関して,個々の大学のモチベーションとなっているのは何なのかということ。また,ピア校というのがあったと思うのですけれども,あれはどのように決めているのかということと,それがどんどんデータに基づいて更新されていくのかということ。そして,質を満たさないような大学がこのようなデータが公開されることで自然淘汰(とうた)されるような動きがあるのかどうかということ。以上,三つをお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

【吉岡部会長】 よろしくお願いします。

【小林教授】 最後の質問に関してですけれども,IPEDS,これは全米教育統計局がやっているものですけれども,これはデータを公表しないと連邦奨学金の受給資格が得られないといった非常に強いペナルティーがありますので,必ず情報は出すということになっています。日本の場合にはそういった強い強制力はありませんので,なかなかできないということです。
ただ,アメリカの場合もデータコンソーシアムをつくっているのは,自大学の情報は知られたくないけれども他大学の情報は知りたいというのが大学側の言い分ですので,仲間内でコンソーシアムをつくって,その中だけでデータを交換するシステムが多くなっているのが実態です。それによってライバル校の状況を知ることができることが一番動機になっています。簡単ですけれども,お答えいたします。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では前田委員,お願いします。

【前田委員】 貴重な御報告ありがとうございました。私からお伺いしたいのは大学側の人材の件です。以前,アメリカの評価機関がIRを置かないと評価ができないシステムに変えたために,小さな大学はそういった人材を置くことが難しく苦労しているということを聞いたことがあります。例えばこれだけデータがいろいろ取れるようになった中において,大学側からしたらどのような人材がそこにいればいいのか。小さな大学でも大体対応できるようなシステムなのか。その辺りをお聞かせいただければと思いました。

【吉岡部会長】 小林先生,お願いします。

【小林教授】 これはデータの共通化と非常に関係しておりまして,アメリカの場合はデータの共通化が進んでおりますので,フォーマットをそろえる等の苦労はないわけです。それをデータとしてデータベースから引き出す技術があれば簡単にできますので,私の知っている例でもコミュニティー・カレッジ・クラスになりますと,IRの担当者は1人ぐらいしかいなくて,それで大体学生調査とベンチマーキングは行えるような体制ができていると。そう聞いておりますので,日本でもそういった整備が必要ではないかと考えています。以上です。

【前田委員】 ありがとうございました。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では濱中委員,お願いします。

【濱中委員】 濱中でございます。小林先生,どうもありがとございました。
情報公表と質保証は関係があるという大前提は理解しているつもりですし,またアメリカの状況についてもとてもよく分かったのですけれども,実態として,このような情報公表が,大学にとってどの程度のプレッシャーになっているのかということをお聞きしたいです。
といいますのは,スライドの8ページ目でベンチマーキングの例も出ておりましたけれども,幾ら共通フォーマットを作成したところで,公表されるのはこのような箱ひげ図,つまり素人からすれば余り差が分からないようなものになるような気がするのです。例えば国立教育政策研究所等が実施する全国学生調査では,学習時間に関して調査しています。これを機関別の状況がわかるように公表するとなっても,恐らくこれに似た箱ひげ図が出てくるのではないのか。詰まるところ,それほどインパクトを持ちえないのではないか。そのような疑問を呈することもできますので,アメリカの場合,個々の大学がどの程度こうした情報公表を意識しているのか,御存じでしたら是非教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【吉岡部会長】 小林先生,お願いします。

【小林教授】 なかなか難しい質問ですけれども,これらは個々の大学がどの程度生かせるかということが,逆に大学にとっては非常に重要になるわけです。ですから一見すると平均に差がないように見えるかもしれませんけれども,その中でどのような差異を見いだすか,あるいはその差異がない,もっと上を目指す等,大学の戦略を考える上の基礎的なエビデンスになっています。
ですから,こういった情報を活用できている大学はそれを質保証に十分生かすことができるわけですけれども,逆にそういったことは余り考えていないと大学は質保証が十分にできないという分化が起きているのではないか。日本でそのようなことが起きるかどうかはこれからの問題だと思いますけれども,そのためにもこのような調査が行われていることが私は重要だと考えています。以上です。

【濱中委員】 ありがとうございました。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では小林委員,お願いいたします。

【小林委員】 小林雅之先生,ありがとうございました。
私も小林雅之先生もずっとベンチマークは必要だと言い続けて,なかなか実現できていないのが現状です。IRあるいは質保証に活用するといったときに,ベンチマークはかなり重要度が高いと思います。先日御発表いただいた山形大学IR室の浅野先生もIRにはベンチマーキングが必要だとおっしゃっています。しかし,小林雅之先生は大学側の協力が得られないために,横並びでの比較ができないとおっしゃっていました。
そこで2点質問です。1点目は,大学側の協力を得られるようにするためのインセンティブ,方法は何が考えられるでしょうかという点。2点目は,全体に公表するのではなくて,先ほどアメリカであったようにコンソーシアム内で共有してベンチマーキング化に使えるようにするという2段階の情報公表があり得るのかどうか。こちらの2点について教えていただけますでしょうか。

【吉岡部会長】 小林先生,お願いします。

【小林教授】 先ほどの質問に答えてなかった部分もあるのですけれども,NSEEの場合ですと3校の平均点です。ですからピア校,ライバル校は3校の平均ですが,どの大学かということは分からないわけです。これはNSEEの側(がわ)が決めて,その平均点という形で示しています。ですから直接はそのような形で大学の情報が漏れないような工夫にもなっているわけですけれども,そのような工夫は日本でもやらないと,なかなか進まないのではないか。
コンソーシアムの中だけで情報交換しているのもそういった意味がありますので,日本でもできるところからやっていくしかないと思っています。例えば,大学の授業料の比較は,大学側は既に全て公表しているわけですから,学生側からすると授業料がどうなっているか,簡単に比較できる仕組みがあれば非常に助かると思いますけれども,なかなかそういう仕組みもできていないのです。ですからその辺りのことはできるところから始めていくのが日本では一番現実的なやり方かなと考えております。以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございました。では宮内委員,お願いいたします。

【宮内委員】 ありがとうございます。
アメリカのコンソーシアムや調査機関が1970年代からあることを伺ったのですけれども,そういったコンソーシアム,機関を維持し発展させるスポンサー,ファイナンシャルバックグラウンドはなぜそんなに頑強なのかということを伺いたい。具体的にどのような大口の寄附者があるのかやどのようなコストシェアリングをどのような思想でやっているのか。と申しますのは,こういったもののフェアネスの担保が非常になると思うからです。余り大きな人がリードしてしまうとフェアネスがなくなるとか,新興大学とエスタブリッシュメントのフェアネスの担保という観点から,お金はどのように集めて,どのようにその公平性を担保しているかということについて教えていただきたいと思います。

【吉岡部会長】 小林先生,お願いします。

【小林教授】 これもアメリカの大学のことで全てが公表されているわけではないので,ごく僅かな例としてお話しいたします。コンソーシアムに関していいますと,会員校からの会費で維持されているものが大部分です。もちろん調査に関してはそれぞれが調査の実費という形でまた別に負担しています。先ほど大学の競争と競合ということを申し上げましたけれども,同じようなグループ,例えばコミュニティー・カレッジや公立大学,あるいはCOFHEのような私立大学,それぞれが別々にコンソーシアムをつくっているわけでありまして,その中でお互いに利害が共通する部分をお互いに支え合っていく仕組みでやっているので長く続いている。逆に言いますと,そういったコンソーシアムで長く続かなかったものもあるわけで,その辺りはアメリカらしいと言えると思います。直接のお答えになっていないと思いますけれども,私が知っているところはそのようなところです。以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございました。時間の関係もありますので,質疑はここまでにさせていただきたいと思います。ある程度同じような質問ですが,結局のところ日本ではどうしてこのようなことができないのだろうかという問題で,やはりこれはかなり大きな問題だろうと思います。恐らくアメリカにおける大学の位置づけ,各大学のスタンスや,競争している者同士の連携の仕方のようなものがあるのではないか。大学の形態の違いがあっても,それぞれの役割意識があるので連携ができて,そこで情報が共有できるというところがあるのではないかと思います。
これを同じような形ですぐ日本で実現するのは恐らく難しくて,小林先生がおっしゃるように,できるところから,あるいはごく簡単なところからでもやっていくというような方法をとっていった方がいいのかもしれないと思いました。
今の問題はかなり大きな問題ですし,今後の質保証システムを考えていくときに非常に重要な問題になっていきますので,今後とも考えの中に入れていきたいと思います。小林先生,どうもありがとうございました。

【小林教授】 ありがとうございました。

【吉岡部会長】 それでは続けて,大学における質保証の取組について有識者のヒアリングに入りたいと思います。最初に土屋委員から明治大学の取組
について御説明いただきたいと思います。土屋委員,よろしくお願いいたします。

【土屋委員】 明治大学の取組が全体の中のどのような位置づけになるかは分からないのですが,必ずしも明治大学がやっていることが特別なことではなくて,恐らく多くの大学がやっていることと等しいモデルなのだろうと思っています。
5番目のシートを御覧ください。今,大学の質を保証する責務としては教育プログラム,カリキュラム,教員組織がありますし,あるいは学習環境を整えると。そこにはLMS,Learning Management System,図書館あるいは学術施設設備があります。それらのサポートの提供に責任を持つことが質保証の一番大きな観点だろうと思っております。もちろん大学の主体は学生であり,教員であり,職員であるわけですけれども,大学全体が一つの組織として,共有された理念を持ちながら動いていくことがとても大事だろうと思っております。その意味では,教育プログラム,カリキュラムにつきましても,全学の共通の認識をどのように獲得していくのかがとても大事ですし,また同時に難しい問題でもあると思います。
学習環境につきましては,ここにLMSと書いてありますが,実は明治大学は2001年ぐらいから「Oh-o!Meiji」というネットワークをつくっておりまして,これは明治大学と富士通が共同で開発したものでありますけれども,この「Oh-o!Meiji」を通して授業支援をこの20年間やってまいりました。サイトに学生がアクセスすると教員から課題の提示があったり,あるいは学生側から課題への答案があったり,様々な形での学生と教員とのコミュケーションが取れるような環境をこの20年間維持してまいりました。これはかなり私どもが大学の質保証をするときに大きな手段になってきたのだろうと思っております。とりわけ現在のようなコロナの環境の中においては,オンライン授業もこの「Oh-o!Meiji」というシステムによって行われておりますので,その意味でこの20年間の蓄積は現在のコロナ禍で学修の質を支えていく大きな柱になっているのだろうと思っております。
そして7番目のシートを御覧ください。2012年からこの2021年までの歴史の中でどのような形で大学教育の質的転換を図ってきたのかということですけれども,これは外部的な要因もあり,文部科学省や中央教育審議会の答申等もあって,様々な形での大学に対する要望にどう応えていくのかが一つの大きな動機でありました。とりわけ100分授業というものが2016年から始まったわけですが,この100分授業によってかなり授業の質的な変化を実現することができたのだろうと思っております。実際的には100分授業と聞いたときに,教員も学生も負担が重過ぎるのではないかという反論もありました。私自身もそう思っているときがあったのですが,実際にそれをどのように運用していくのかということを考えたときに,私どもは100分を半分に分けて,50分のモジュール制に転換いたしました。それをすることによって,2学期4タームが非常にやりやすくなった。そこで,海外大学との学事暦のずれを修正することも非常にやりやすくなったと言えると思います。
また,アクティブ・ターム,つまり4タームの中で1タームは例えば必修科目を置かない等,つまり海外への留学がしやすいような環境の整備をこの100分授業,50分モジュール制によってつくることができました。これは今後の大学が更に国際的な環境の中でどう質的に転換していくのかを考えてみると,大変大きな転換点であったのだろうと思っております。
また,ナンバリングを全部しまして,海外大学の授業との連携の在り方をつくることもできました。また,このナンバリングを通して,今,非常に苦しんでいますのは,これはどこの大学でも同じだと思うのですけれども,授業数が増え過ぎて,幾ら教室を増やしてもなかなか足りない,ゆとりがない。ところが授業を減らそうとすると,教員は大体余り肯定的な反応は示さないのです。非常にたくさんの授業を持ちたがる教員もいまして,それを減らすのは大変だったのですが。この間の言わば質的転換の中で,やっと科目数の削減へと踏み出していくことができるようになりました。まだ完全ではないのですけれども,この4年間に,学内の世論としては学部ごとに授業数を減らしていこうという形になっていって,いわゆる骨太なカリキュラム,学生にとってもカリキュラム更新のしやすい環境もつくられつつあると言ってよいと思います。
このための学長自身の取り組み方は大変重要でした。私が学長になるまでの間に私を含めて3人の学長がいたわけでありますが,学長が替わっても一貫して授業の質的転換を考えて,それをしっかり教員にも伝えてまいりましたので,大きな意味では学長が替わっても変わることのない方針をどのように維持していくのか,それを全学の共通の課題として持ち続けていくのか,ということがとても大事だと思っております。
17ページに,各学部,大学全体の教育の質をコントロールしていくためのシステムがあります。3月に自己点検・評価報告書を出して,5月には年度計画書を学長が出します。この年度計画書に沿って,各学部にも年度計画を出してもらいました。学部だけではなくて,各研究所や学生支援,あるいは留学・国際連携も含めた,全ての面にわたって各担当部署に対して単年度計画と予算計画を出すようにと言っております。
7月になりますと,今度は学長による学部長・各機関長への計画ヒアリングを行っています。これは各学部や機関にとっては非常にプレッシャーの強いものなのですが,学長と学長スタッフ,副学長,それから明治大学は法人と教学と2長制ですので,理事会側から教務理事それから学務理事が出席して,予算についてのヒアリングを行っております。
このような制度,システムが全学に対する学長方針の浸透と,全学の予算プログラム,財政の中でどのように学部を運営していくのかということに関して,学部長,機関長の意識が非常に深まるというか,全体で理念を共有しようという雰囲気になるわけです。このヒアリングの場が私は大変重要だと思います。
かなり具体的に理事側からも,学長側からも各学部長に対してヒアリングを行い,そしてその検証も含めて,予算をどうつけていくのかということまでやりますので,このことがやはり明治大学の教学理念を全学に共有する大きな役割を果たしてきているのだろうと思っております。
21ページに飛びますが,自己点検・評価は各大学がやっています。毎年,自己点検・評価をやり,認証評価もやるものですから大変な負担であるわけですが,明治大学は2017年からこれを,3ポリシーを評価軸としたカリキュラム評価へと転換しました。大学基準協会の評価から3ポリシーに基づく教育実態を検証し改善しようという意図の下で,カリキュラム評価に転換いたしました。
このことは,各学部も研究機関も全てその3ポリシーに基づいて学部運営がどう行われているかを年度計画として出してきます。それについて学長サイドから,あるいは教学の事務室サイドからそれについての検証を出します。そのような形で学部あるいは大学全体の在り方をきちんと学長方針の下で皆が共有しようということはかなりできてきたのだろうと思います。
また,今,一番大きく力を入れているのは,IRによって言わば学部教育や機関教育を支援していこうという方法です。とりわけキャリア支援との関係で,日本経済団体連合会との話でも,学生が何をしているのかを可視化してほしいという要求が非常に強かったものですから,私はキャリア就職支援部に対しても,教務部に対しても,IRによって学生像をしっかり外部に出せるようにしてほしいと申し上げました。
そこで,学生アンケートやエントリーシートを活用して,ワードクラウドという形で,学生たちが何を学び,何をしてきたのかをワードマッピングのような形をつくって,外にも見せられるようにしております。それはある意味で明治大学の教育の実態をIRを通して,データ活用を通して外にも見えるようにし,同時に学部に対してもそれを見せますので,学部自身もそのIRのデータを通して,一体学生がどのように明治大学の教育を受け止めているかを理解することもできると言っていいと思います。
23ページ,このデータベースのワードクラウドは就職キャリアと連携しながら,企業向けの案内誌に学部案内としても活用しています。これを個人別にまでできるかということも,学生アンケートやエントリーシート,あるいはGPAを活用しながら,個々人のデータとして出せるかというと,情報公開あるいは個人情報をどこまで公開していいのかというところがネックになりますので,そこまではできないのですが,少なくとも各学部・学科が一体何をやっているのかということを,このような形で外部に出せるようにしたいと思ってこれまでやってまいりました。
それは先ほどの「Oh-o!Meiji」というラーニング・マネジメント・システムと同じで,やはりかなり面白い展開が今後可能になるのではないかと思っていますので,今,IR,評価情報に大体7,8人配置しておりますけれども,そうした評価情報をこれからも維持していって,何とか大学の情報公開につなげていきたいと思っております。
また,これまでのこの会議でも国際的な認証がとても大事だという議論がありました。私もそう思います。コンソーシアムを組んででも国際認証をやれるようになるといいだろうという話が永田委員からあったのも覚えております。例えば24ページにあるEPASという,ビジネススクールにおける国際認証を明治大学のグローバル・ビジネス研究科が取りました。このような形で国際認証をこれから取っていって,やはり各学部もできれば連携している海外大学とコンソーシアムを組んで,国際認証による質保証の在り方を議論していくことがとても大事だと思っております。
かなり駆け足でお話を申し上げましたけれども,やはり大事なのは,学長を中心にして持続的にそれぞれの大学をどのように動かしていくのかということを,教員にも,職員にも,あるいは学生にも見えるようにしていくことです。そう簡単に教育改革はできないのですが,リーダーシップを持っている人たちがこれに関して,事務機構も含めて,諦めることなく持続的に取り組んでいく,その中で新しい大学像を示していくんだということをこれからもやっていく必要があるだろうと思っています。
これまでの各学部縦割りの大学の質保証の問題から,むしろ学部間の,あるいは大学全体の横断的な形でのプログラムの評価も含めての質保証がこれから浮かび上がってくると思います。私もユニバーシティーからミックスバーシティーということをずっと言っていました。いわゆる単一の,縦割りの組織ではない,むしろ横にもつながり世界にもつながったミックスバーシティーとしての質保証をどのようにしていくのかをこれから考える時代になっていくのだろうと思っております。
発表の中で触れなかったことに関しては資料の中にございますので,機会がありましたらお読みいただけると有り難いと思います。以上でございます。

【吉岡部会長】 土屋委員,どうもありがとうございました。質疑応答は3名の方の報告終了後とさせていただきたいと思います。
続いて,千歳科学技術大学の山中教授に御説明いただきます。山中先生,よろしくお願いいたします。

【山中教授】 千歳科学技術大学の山中でございます。よろしくお願いいたします。皆さんにお配りした資料の表紙が2020年となっていますが,2021年1月25日です。修正いたします。
公立千歳科学技術大学のAP事業の取組ということで,大学は北海道の千歳空港のすぐそばにある,学生数が1,000人ぐらいの小さな大学でございます。沿革から見ていただきますと,平成10年に公設民営の私立でスタートし,APプログラムが私立として採択されまして,その途中で公立大学に変わったという経緯がございます。ですので,公立大学は割と小規模大学が多くございますので,公立大学の代表というよりも,小規模大学の取組のスタイルを見ていただければよろしいかと思っております。
小さな大学ですと,やはり高校から学生をちゃんと持ってこないと定員割れで大変なことになってしまいますので,開学当時から高大接続,当時は高大連携と言っていましたけれども,そのような取組をずっとしておりました。現在は,例えば教育システムを高校の先生と一緒に開発するとか,北海道の中の高校50校と連携協定を結んでいるとか,地域に関しては,大学の学生が地域の子供たちの理科教室支援をしているとか,地域の小中学校と連携協定を結ぶとか,そのようなことをしております。
また,私たちは小さいながらも教職課程を持っておりまして,免許としては数学,情報,理科になりますが,学生たちをきちんと教育した上で,地域の小中学校の授業支援のような形でボランティアとして派遣すると。彼らはその中で教職課程の勉強をしていく,地元の中学校の先生なども大学の教育に参加していただくスタイルでの活動をしてまいりました。
大学としては,就職しないと学生が来ませんので,最初から社会を見据えたキャリア教育を一生懸命やっていたということです。幾つか載せていますけれども,企業と共同研究を推進したり,教員の中で企業経験のある者が30%から40%ほどおりますので,社会の雰囲気を学生に伝えていくチャンネルをつくっております。そのようなこともあって,進路決定率が90%以上を維持しています。企業から,学力的にはまだまだという学生も積極的に採用していただいていると思っています。
それらの活動の中で,我々は教育プログラム,これは特色GP,現代GPと,ずっと文部科学省のGPを使って活動をしてまいりました。ですから,一番上の特色GPは完全に高校との関係,高大接続の部分ですし,現代GPの平成16年の部分は社会に出ていくための活動。それから現代GP,これはどちらかというと大学の中の教育マネジメントを整備するという形の集大成としてAP事業をしておりました。
我々のAP事業の取組は,小規模ですので,まずはディプロマ・ポリシーをきちんとコンピテンシーベースのものに改訂していこう,それをベースに今度はカリキュラムをきちんと体系化していきましょうと。つまり,どちらかというと大学のカリキュラムは何々を教えますよという雰囲気だったのを,学生が何を学ぶことによって何を身につけるかということを,きちんと明確にしていこうということです。それにつきまして幾つかの施策を行っております。
ディプロマの基本構成ですけれども,学力の3要素,皆さんよく御存じの部分,知識・技能,思考力・判断力・表現力,主体性・多様性・協働性,これをそれぞれの科目できちんと結びつけることをしました。ですから,いわゆる基礎的な座学の部分は基礎知識であり,それから社会に出ていくための基盤スキルという部分もある。その間に言語リテラシー,これは多くの方は英語力ですかと言われますが,我々も企業の方といろいろとお話をして問題になっているのは国語力です。日本語を話す・聞く・読む・書くのこの部分が弱い,特に理系は弱いから,ここをきちんとしましょうという形でディプロマの再設計をいたしました。
これらのディプロマ・ポリシーに基づいて我々が行ってきたことは,まず小規模大学ですから,完全に教職員全員参加の形にしましょうと。いわゆるFDにどのように取り組むかということになります。実際,FDをやろうとすると,多くの場合,FDの取組はFD委員会でやってもなかなかいかない。うちの大学ですと教授会は教員全員参加のスタイルになっていますので,教授会のときにこのAP事業の推進会議をやってしまうという形で,全員参加の道をつくりました。
それからこの後お見せしますけれども,いろいろなワーキンググループをつくっており,それに必ず教員が参加する,その参加の仕方は各教員に決めていただくスタイルで行いました。学外の連携は企業の連携等をしております。
組織につきまして,9番目のスライドの右下にワーキンググループがありまして,一番下に社会連携,これが企業との関係です。企業の方々にも参加していただいて,どのような授業や学びが社会で必要とされるかということもここでキャッチします。その上に大学連携。これは我々の大学も大学間の活動をいろいろと行っており,どうしても小規模の理系大学で,文系,社会文化系の部分が弱いですので,その部分を他大学の人から情報を頂いて強化する。もう一つが高大連携で,高校の側(がわ)の学びをきちんと大学の学びにつなげていく取組をワーキンググループで行いました。
そのように外部の意見を取り入れ,我々はCIST質保証マップという形で,授業の名前の中にどういうものを大学としては学ぶのか,何ができるようになるのかというのを書き込むようなマップをつくりました。また,他大学の先生から助言を頂いて,それをどうやってよくしていくかということをFD関係の先生方に研修をしていただきながらブラッシュアップしていきました。そして,企業の方に個別ヒアリングを行いました。例えば,「今の若い人はプレゼンテーションは上手になりました。でも中身がないですね」みたいな話がよく出てきます。プレゼンテーションばかりやってくるので,逆に知識の根本がおろそかになっているケースもありますねというような。ですから,我々はきちんとバランスを取らなければいけないということをヒアリングで理解した上で,取組を行いました。
11番目のスライドにお示ししている5番までAP事業をやったのですけれども,今日は1番のところだけ簡単に御紹介いたします。保証マップの整備です。
先ほど言いましたように全教員が参加というか,全教員が授業をしますので,それがどのような内容なのかをそれぞれきちんと理解して,お互いに連携していこうということを,やっていきました。12番目にお示ししているような例を取っています。
その下の階層,例えばよく情報処理基礎みたいな名称はよく出てくるのですけれども,ではその下に何があるのかということは余り明確になりませんので,もう少しその下の実際の授業に密接になっている部分を書き込んだものを質保証マップという形で公開いたしました。
それに基づいて,本格的にカリキュラムを変えました。これは2019年度から段階的に実施しておりまして,最終的に,14番目のスライドの1番下に書きましたけれども,今年の4月入学生から完全にカリキュラムを変えようと準備をしています。特に共通基盤教育。本学は入学時には学科を決めません。化学や生物をやりたい学生,電子や物理系をやりたい学生,あるいは情報や人間工学がやりたい学生が全部一緒に入って,1年生は共通の授業をやっています。この部分をもう半年一緒にやってもらって,より普遍的な授業をきちんとしましょうというスタイルに変えようということです。特に,15番目のスライドに書きましたように言語リテラシー,これは国語,日本語です。それからキャリア科目です。これはキャリア,今までの学びが社会のどこにつながっていくのかというのをきちんと見せよう,見せるということだけではなくて,自分たちできちんと理解しようというスタイルの授業をやっています。それからもう一つはプロジェクト型教育です。PBLをきちんと初年次からやろうというスタイルです。
最終的にこのような形で新しいスタイルの授業科目を我々の保証マップの中できちんと明確にして,カリキュラムをつくっていきました。最初に数学モデリングとかデータ活用と書いてある部分は,今の言い方でいきますとデータサイエンスの内容になっています。
最終的に汎用力評価のためのシラバスという改訂をしています。つまり授業を直しただけではなくて,シラバスも改訂するというスタイルです。改訂のポイントは,成績評価基準の明示の中で,学修成果項目,16番目のスライド,2ポツの下に書いてある青字の部分です。これは専門知識,主体性,協調性などをどのようなところで評価しますかということをきちんとシラバスに書き込むようにいたしました。これは他大学の取組を参考にして,我々のところでもJABAEEの9項目を参考にしてそれを書き込むようにいたしました。
例えば17番目のスライドが一つの例ですけれども,成績評価のところで試験が80%,レポート10%,その他5%ですよと書いてあるだけではなくて,それ以外にそれぞれ基礎学力,専門知識,倫理観,主体性,論理性云々(うんぬん)と,こういうところにどう結びついているかをきちんと書き込もうと。それを学生に必ず見せるようにしています。その中で,学生たちが授業,科目を履修するときに目標設定をして,最後に評価項目の内容を振り返りでもう一度確認する授業展開を行っています。
18番目のスライドがその共通科目のシラバス例,これはエレクトロニクス系の授業ですけれども,どちらかというとこれまでの授業スタイルの部分です。下の共通基盤科目の演習科目はどちらかというと新しいアクティブ・ラーニングを主体にした授業の部分を,それぞれ同じような評価割合の仕方で記載しています。
本学の展開について簡単なまとめをいたしますと,最終的には目標と実績の定量化や課題の明確化をしていこうと。これは基本的にどうしても小規模ですので,学長が何とかというよりも,みんな共通の問題意識で活動できる仕組みをつくってやっております。
最後に,資料に載せていませんけれども,質保証を本学ではどのように捉えるべきかというのを簡単に考えてみました。大学が真ん中にあって,親御さんあるいは高校から信頼されないといけない,信頼されないと学生は来ませんので。そのためにきちんとまずは責任を果たす。責任を果たしたことを信頼していただくというようにして,我々は少しずつ発展してきたのだと理解しております。これは今度,企業にとってもいろいろな責任,学生教育に関して一生懸命責任を果たしてきたつもりです。それについて信頼を得たおかげで,うちの学生はやめる人たちが少ないという信頼を得た上で,企業から多くの採用を得ているのだと思っています。
これは今までの実績ですので,これを質保証という建前から考えると,より人材育成の方針を明確にして,社会からより多くの信頼を得るツールとして質保証をこれからうまく活用していきたいと考えております。以上でございます。
 
【吉岡部会長】 ありがとうございます。続きまして神戸大学の近田教授に御説明いただきます。よろしくお願いいたします。

【近田教授】 神戸大学の近田政博と申します。私の話は神戸大学の教育・学修成果の質保証ということでございますが,これはいわゆるリソースの非常に豊富な旧帝大のような大学ではなくて,地方の大学がどうやってやりくりをしていくかという文脈で御紹介したいと考えております。私は研究者でもありますけれども,今回の御報告は個別の大学の教学マネジメントの当事者といいますか,現場を預かる立場としてその運営側の人間として今日は御報告したいと考えています。
神戸大学は基本的には部局自治の伝統が非常に強く,これまで委員会方式で全学的な合意形成を図ってきました。という意味では非常に保守的な国立大学の典型でございます。余り奇をてらうようなことはしていなくて,オーソドックスなことを積み重ねてきたということでございます。また,評価コストが非常に増大しておりまして,これが教育現場を圧迫しないようにすることが私の仕事だと自任しています。
神戸大学の概要ですけれども,学生・教職員合わせますと大体2万人のコミュニティーでございます。学部は10ございまして,大学院が15あります。国立大学の中でも割と大きい方かと思います。大体六甲台のエリアにいろいろ集中しているのですが,海事科学などは深江という海に面した地域にありますし,医学部医学科は別のキャンパスにございます。保健学科も別のキャンパスにございます。ということで,かなりいろいろなところに散らばっているという立地でございます。
神戸大学の組織文化ですけれども,もともと神戸高商,神戸高等商業学校がルーツになっておりますので,経済学部と経営学部の建物が本館と称されます。大学の本部ではなくて,経済・経営の建物が本館というところが非常に象徴的です。先ほど申し上げましたようにキャンパスが非常に分散しているために,教学面は部局の自治の伝統が非常に根強かったということがございます。そうはいっても,最近は部局の予算が減少してきておりますので,全学的な教学マネジメントの重要性がだんだん高まってきております。
それでは,質保証のためにどういう組織体制を整えているかを御紹介したいと思います。
まず,大学教育推進委員会という大きな委員会をつくりました。これはいわゆる共通教育だけではなくて,学部の専門教育,大学院,全てを統合する,大学が扱うあらゆる教育活動を統合する会議としてつくりました。教育研究評議会は教育だけではなく,ほかのものもいろいろ扱いますので,教学面に特化した,大学全体をまとめる委員会としてこの委員会を位置づけました。その中に各部局の代表も参加してもらっているのですが,いわゆる共通教育を主管する国際教養教育院を中に位置づけております。これは担当の副学長がおります。したがって,機構全体を統括する理事,教育担当理事と,共通教育を担当する副学長が二人三脚で大学全体の教学運営を行って,私のような者がそれを多少補佐するという体制になっています。
7番目のスライドが内部質保証の三層化構造でございます。先ほども出てきたものかと思いますが,各部局・教育課程と,全学の委員会レベルと,それから最終責任レベルのこの3層でつくられてきて,つい最近整備したところでございます。認証評価を直近に控えておりますので,このような形で整備をしました。ここは私の独り言ですが,これはちょっと複雑にし過ぎているのではないかなと思っています。こんなに6層構造になってしまったら会議と書類が増えて,かえって意思決定に時間がかかり過ぎて,見た目は非常に美しく見えるのですけれども,これは本当に現場でうまく機能するのかについては,少し不安がございます。
それから教育部会制度がございます。これは共通教育を運営する際に,こういった情報科学とか,健康・スポーツ科学とか,文学と芸術とか,いろいろな科目カテゴリーごとに部会制度を設けて,部会長を責任者として定めております。部会ごとにピアレビューと,それから外部評価を7年置きにローテーションで回して,それぞれ質保証を行っていく仕組みを整えています。共通教育はともすると無責任体制になりやすいので,責任体制を明確化しております。
では,それを実現するためにどんな方策を取っているかということでございます。まず一つは「神戸スタンダード」という教養教育の目標を立てました。これは所属の学部にかかわらず,神戸大学の学生が卒業時までに身につけるべき教養の能力ということで,各学部の専門のことはそれぞれやってもらうとして,教養として身につけるものとしてこの三つの柱を考えました。この赤色,緑色,それから青色がそれぞれの科目に対応する形で,三種の神器ではないのですが,三種の教養科目に再編いたしました。
11番目のスライドではその到達度を測定しております。これはそれぞれの学年の到達度を見たものですけれども,学年が上になるほど到達度は高くなる傾向はあります。ですが,水色の棒グラフ,多様性と地球的課題を理解する能力,これは最初の入学した当初は少し低めに出ておりまして,これはなかなか教養教育とか共通教育のところで担保しにくいといいますか,座学ではなかなか身につけにくい特性が出ているかと思います。今,コロナでなかなか留学とか海外体験は非常にしにくくなっておりますので,ここをどうやってカバーするかが今の課題になっています。
それから2学期クオーター制を2016年度から導入しました。導入してから丸5年が経過しました。これは他大学とよく似ておりまして,短期留学の増加,集中的な学修の実現を目指したものであります。8週,8回で1単位ということで,週複数開講しているものもあります。学士課程の大半はクオーター化しております。その結果,海外派遣数は増加傾向にあるのですけれども,今年度は特別ですが,学修時間も増加傾向にあることが把握できております。
ただし,これは問題もいろいろありまして,学事暦が過密化してしまって,トラブルのときの不測の事態への対応が非常に過密になって難しくなったという副作用を引き起こしています。また,クオーター制にすると成績を小まめにつけなければいけなくなるものですから,大変な成績評定の労力が増大しまして,学内の教職員からは非常に大きな反対意見がございます。
それで今年度からは軌道修正をしました。セメスター的運用という妥協案を見いだしまして,成績入力をクオーターごとにつけるのではなく,学期単位で運用することを認めました。逆に言うと,学生にとってはそこのクオーターで取った成績がすぐに分からないという副作用もございます。
「学修の記録」という,正課と正課外の学修活動の時間を自己申告する仕組みもつくりました。それから先ほど御紹介した神戸スタンダードの達成度を全ての学生が毎年度末に確認する仕組みも整備いたしました。その結果,14番目のスライドにお示ししたようなデータが得られています。これは1週間の学修時間です。水色のところが授業関連,つまり予習・復習に関する1週間の学修時間。これは授業の時間は含んでおりません。6時間程度ということですから,これは1日平均まだ1時間ないのですね。だから絶対値は非常に少ないということが言えます。コロナの中で遠隔授業で多くの課題を出している教員もおりますが,課題をとにかく出すことがいいことだとは思っておりません。
成績評価方針も,秀とか優がインフレ現象を起こさないようにするために,申合せを学内で行っております。秀は10%程度を大体とする。それから秀と優の合計は40%を大体上限とするという申合せをつくって評価方針として定めています。
学生や社会との対話による質保証ですが,これは先ほど小林先生のお話は耳が痛いお話でした。卒業生や修了生に対するアンケート,就職先機関に対するインタビュー調査をやっていますが,これはやってみて非常に手間がかかることがわかりました。また,学生との教育懇談会も直接学生の生の声を聴く機会を設けました。11月,12月にかけて実施したところです。
コロナ禍,この1年間の学修状況ですけれども,これもいろいろなアンケート調査や教育懇談会で学生から直接聞き取って確認いたしました。そうしたところ,学部生では友達をつくるのが本当に苦労したとか,履修登録が分からなくて大変だったと。大学院生だと実験とか調査ができなくなってしまったとか,留学の予定が変更になったと。発表のときの相手の反応が分からなくて苦労した。こういった意見が多数見られました。
ということで,これが最後のスライドでございます。私の言いたかったことは委員長として現場の教学マネジメントの合意形成の責任を担っておるわけでございますが,大学の構成員,教授陣の信頼感,納得感,合意形成を得ないと,全然組織としては成長できないことを常々感じています。例えばNIAD等の評価機関がこう言っているからこうやってくださいねというような,youで物を言っても全然らちが明かず組織全体として成長しません。大事なことは,youではなくて我々としてどうするかと。同僚としてweで語ることが基本かと思っています。
2点目ですが,すぐに成果を期待するのは非常に難しいです。つまり,教育や学修活動はなかなか即効性はないので,取りかかってから成果が出るまでやはり一定の時間がかかります。最初のうちはコストがかかるだけなんです。成果が実感できるようになるまでには一定の時間がかかります。そこが辛抱できるかどうか。なかなかそこの辛抱ができなくて,クオーター制の問題でもそうですけれども,すぐ右往左往してしまいがちなところがあります。ですので,すぐ成果を期待するとよくないと常々思っています。
それから3点目ですが,評価コストが肥大化しています。これができるだけ日常的な教育活動を圧迫しないように委員会の運営,組織の合意形成を取っていく必要があると思っています。今,大事なことは,教育現場の授業を止めないこと,教育活動を止めないこと,研究指導を止めないことだと思っています。ところが,実際には認証評価を直近に控えていますので,いろいろな評価書類を先生方に依頼しなければなりません。それは背後から部局の教員を撃つようなものでありまして,これをできるだけ圧迫せずに,日常の教育活動が円滑にできることが大事だと思っています。
それからPDCAサイクルは問題が多くて,これをまともにやると,planとcheckばかりになってしまって,doがなくなってしまいます。大事なのはdoでありまして,do,do,do,do。planやcheckは後回しでもいいのですけれども,doがなくなると教育できなくなってしまいます。今,大事なことはdoだと思っています。なのでそこをよく自覚して,副作用をよく自覚して,その中で評価のバランスを取っていくことが大事ではないかと思っています。ありがとうございました。

【吉岡部会長】 どうもありがとうございました。
それでは3人の方の報告についての質疑を行いたいと思いますが,この後,全体的な討論の時間を取りたいと思いますので,直接の質問に限ってお願いしたいと思います。質問をする場合,どの先生に対してということを明確にしていただくのと,質問がそろったところでまとめてそれぞれの先生にお答えいただきたいと思います。意見等についてはこの後の時間に回したいと思いますので,よろしくお願いいたします。
では飯吉委員,お願いいたします。

【飯吉委員】 3人の先生方,ありがとうございました。
近田先生に質問ですが,神戸スタンダードのところで,能力が三つに色分け,科目の種類が三つに色分けされていますが,この到達度というのは学生の自己評価のみなのでしょうか。と言いますのは,小規模大学が多いかと思いますが,大学によっては例えばカリキュラム・ポリシーを通じて,各科目のシラバスの中にこの三つの能力に相当するようなものがどれ程度その授業を通して養成されるかをしっかりと記載させ,それと整合させる形で成績評価も行っている大学もあります。つまり,カリキュラム・ポリシーから見て,教員側の評価と学生側の自己評価が合わさらないと,本当のところはなかなか見えてこないのではないかと思われます。学生は,ある意味で正常性バイアス的に,学年が進行すれば能力はついていると思い込みがちになることも考えられます。それがこの学年が進むにつれて右肩上がりになっている自己評価結果と繋(つな)がっているのかどうかは分かりませんが,その辺りについて教えていただけますでしょうか。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では谷本委員,お願いします。

【谷本委員】 大変興味深いお話をありがとうございました。関西外国語大学の谷本と申します。
神戸大学の近田先生にお尋ねしたいのですけれども,ページ数は16ページになるのですが,学生や社会との対話による質保証はとても大切なことだと考えております。特に神戸大学のようなかなり学生数の多いところで,卒業生・修了生へのアンケートはどのような場面でどのような機会に実施されているでしょうか。そして就職先の機関にインタビュー調査をなされていらっしゃいますが,就職先も様々な分野にかなり学生さんは行かれていらっしゃると思います。その中で,どのような企業さんをピックアップして調査をなされていらっしゃるのでしょうか。以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では杉谷委員,お願いいたします。

【杉谷委員】 ありがとうございます。青山学院大学の杉谷でございます。よろしくお願いいたします。
先生方,お三方にお尋ねしたいのですけれども。特に土屋先生と近田先生のお話で共通するような部分としては,評価のコストの問題があったかと思います。最後に認証評価のお話も出ましたけれども,具体的にどんな点に問題を感じるのか,どんなところに負荷がかかるのかというお話を伺いたいです。
他方,山中先生はシラバスの中で汎用的能力もかなり細かく設定されていて,ポートフォリオという形で学生にも獲得度が目に見えるような形で出されているようなのですが,それをなし得られた大学の御事情はどういうところにあるのかを伺いたいと思います。それが小規模な大学というところにあるのか,AP事業に採択されたところにあるのか,あるいは理工系でいらっしゃる専門分野の特質などにあるのか,どのようにお考えなのかというところを伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。では宮内委員,お願いいたします。

【宮内委員】 ありがとうございます。
近田先生に神戸スタンダードについて伺いたいです。基本的なリベラルアーツ教育は日本の大学に欠けていると私はいつも思っているのですけれども,教養課程がなくなってから,なかなか神戸スタンダードのようなことの共通認識を全学で形成するのは難しいのではないかと想像しております。神戸大学において合意形成をするときに,いかなる障害があり,それをどうやって乗り越えてこういった立派なステートメントをつくっていったのかを教えていただけると参考になります。ありがとうございました。
【吉岡部会長】 ありがとうございます。それではお三方に順番に,御自分のところだけで結構ですのでお答えいただければと思います。ではまず土屋委員からお願いします。

【土屋委員】 認証評価の負担,コストの面ですけれども,これは恐らく全ての大学で認証評価に関わっている教員が強く感じていることだと思います。大学によっては専門に職員を置いて,その方が全部やっているケースもあるみたいですけれども,やはり通常の教育やあるいは研究業務がある中で教員が認証評価に関わっていくものですから,かなり負担が重いことは事実です。
そこで,明治大学では認証評価の歌なんかを作って,みんなで憂さ晴らしをしながらやっているような状況もあります。毎年自己点検・評価をやるのはとてもつらいと。だから3年に1度にしてほしいとか,2年に1度にしたらどうかという意見も出てきているくらいですので,これは各大学が共通して思っていることだと思います。
では,それをどうしたらいいのか。自己点検・評価をより有意義にするためには,私としてはやはりIRを活用して,よりきちんとデータとして出せるものに転換していけば,その負担は少しは減っていくと思います。
あるいは,先ほどEPASの話をしましたが,EPASのときにはやはり特別の予算を組みました。それだけやはりかなりお金もかかりますし,これから国際認証評価,あるいはJABAEEなんかもそうなのですけれども,労力以外にやはりきちんとお金をかけていかなければならないので,そのコストをやはりこれから大学はそれぞれの財政の中に組み込んでいって,その財政負担をしながら国際認証を得ていくことがこれから必要になっていくだろうと思っております。以上です。

【吉岡部会長】 では山中先生,お願いいたします。

【山中教授】 山中です。うちはもともと理系だというポイントはもちろんあるのですけれども,一番大きいのは,コアのところは自前にしていますが,いろいろな大学の知恵を拝借したというのが一番大きいと思います。
ポートフォリオの枠組みは九州工業大学のいろいろな取組を参考にさせていただきましたし,大学間連携で総合大学,国立私立等いろいろな大学の情報を頂けたというのが一番大きなポイントだと思います。
結局,自分でできるところはやるけれども,知恵を拝借できるところは頂くということに尽きると思います。以上でございます。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。近田先生,多岐にわたっておりましたが,簡潔にお願いいたします。

【近田教授】 では手短にまとめてお話しします。
まずは飯吉先生から御質問いただきました神戸スタンダードの到達度の話。これは学生の自己評価ではないかということですが,おっしゃるとおりです。学生側の自己認識ですので,むしろ逆に彼らが成長していって自分自身の意識が高まれば,逆に評価が厳しくなったりする可能性もあって,これは飽くまで本当に主観的なものだということです。教員側の評価と照らし合わせる必要が確かにありまして,これは各教育部会別にそれぞれの科目別に管理者をしっかり持っておりまして,部会長が責任を持ってレビューをする仕組みになっています。ですので,学生だけではなくて,教員にもデータを取っております。
次は各種調査のところです。私のスライドでいいますと16番目のところでしょうか。卒業・修了生アンケートのことですけれども,これは各学部・研究科の中で最も就職先として多く就職した先を各学部から選んでもらいまして,そこの卒業生の就職先企業や,あるいはお役所に依頼いたしました。それから,卒業生に対しても,過去5年以内に卒業した学生をサンプリングしまして,直接聞き取りました。
ただこれは意外に当てにならないことが分かりました。何が当てにならないかといいますと,まず企業の方は非常に印象論でおっしゃるんです。ふだん仕事している中で,神戸大学の卒業生についてどんな印象をお持ちですかと言われても,印象論で話してしまうわけなので確たるエビデンスに基づいたお話にならなかったというのが正直なところです。
それから,卒業生に対して聞いた話もいろいろレビューしてみたんですけれども,もう卒業して5年6年とかたっていきますと,過去の美化作用が起きてきますので,確たるエビデンスに基づいて話せるわけではないですよね。割と今やっていることは何も知りませんので,大学時代の懐かしい思い出を語ってくれることが中心になってしまいます。だから,ここは無駄とは言いませんけれども,労力をかける割には大したことは得られなかったというのが率直なところです。
最後の御質問ですけれども評価のコストのお話。これは杉谷先生から御質問いただきました。どんな点で負荷が大きいのかということですが,一番大きいのが事務職員の時間を,膨大な時間を奪っているということです。物すごくたくさんの職員がこのために時間もすごく費やしていて,人件費は恐らく相当かかっているのだろうと思います。もちろん教員に対する負担もあります。
具体的に申し上げますと,今回の認証評価ですと教育課程別に全部見ていこうということになったものですから,従来の部局別ではなくて,更に細かく学位単位の教育課程別となりますと,各学部の教務係がパンク寸前です。それから成果指標を出さなければいけない。基本的には成果ベースということになりますと,教育の成果なんて,そんなに簡単に出るわけではないですから,ある意味では無理やりつくらざるを得ないところが出てきます。だから理想としては教育課程別で成果別でというのは正しいのですけれども,現場に下りていくとかなり無理な書類作りが起こり得るということで,その中でどうバランスを取っていくかが求められております。お答えになっているかどうか分かりませんが。

【吉岡部会長】 ありがとうございました。大変いろいろな局面というか,いろいろな側面から御発言いただきまして,どうもありがとうございました。
以上で,お三方の報告及びそれに対しての質疑の時間を終わりにしたいと思います。先生方,どうもありがとうございました。大変勉強になりました。
それでは,「質が保証されている大学」というまとめ的な議論を行いたいと思います。御意見のある方,挙手をお願いいたします。吉見先生,お願いいたします。

【吉見委員】 吉見でございます。いろいろ大変参考になる御報告をありがとうございました。
これまで出ている議論との接続で申し上げたいことがあるのですけれども。今後21世紀における大学の質保証ということを考えていくときに,私たちは二つ考えておくべき条件があると思います。一つは言うまでもなくポストコロナの時代で,オンライン化が劇的に進んだ状況をどう受け止めていくのかという問い。もう一つは,先般のグランドデザイン答申の中で出ていたような学修者視点というものをどう受け止めていくのかという問いです。
それをつなぎ合わせますと,やはり私は学生たち,教員等の大学における時間のマネジメント,これは1週間の単位だったり,1クオーターなり1セメスターの単位であったり,1年あるいは4年の単位であったり,幾つかの単位があると思いますけれども,この時間をどのように把握し,そして質が向上するような時間を創出していくのかという視点が大変重要だと思います。
特に学びが深まっていくためには,時間のゆとりといいますか,教員の側(がわ)も忙し過ぎたら駄目になっていくだけです。学生も忙し過ぎたら駄目になっていくだけだと思います。どんなにコンテンツや教育を一生懸命しても,忙しければそれは消化できないから,クオリティーを維持するなんていうことは不可能だと思います。
そうすると,クオリティーの問題でとても大切なことは,やはり時間のゆとり,時間の隙間や遊びとの部分をきちんと大学が確保するような仕組みをどうつくっていくかという視点が大変重要で,最初の小林先生のお話にもあった調査も,そういった視点からの調査とかマネジメントがやはり考えておくべき点なのではないかと思う次第です。
以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。それでは濱中委員,お願いいたします。

【濱中委員】 ありがとうございます。今の吉見委員が御指摘された忙し過ぎることの問題点は本当にごもっともだと思います。そういった観点からも土屋委員,山中先生,近田先生にもし御意見があればお伺いしたいのは,3大学とも質保証に向けてとても意欲的に取り組まれている大学でいらっしゃって,それぞれの大学で頑張っているのに,ここで例えば全国学生調査のようなものを使いましょうということになると,それはまた労力が増すだけのものになるのか。それとも既に意欲的に取り組んでいる大学にとっても歓迎されるものになるのかということを教えていただきたいです。先ほど小林雅之先生から,情報を活用できるかどうかは人次第だということも御指摘いただきました。それぞれの大学で既に質保証に向けた情報を扱っていらっしゃる方々の労力を考えるとどのようなことが言えるのか,その辺の御事情を教えていただきたいと思いました。よろしくお願いします。

【吉岡部会長】 せっかく出席していらっしゃるので,お三方の先生方,どなたからでも結構ですので御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。

【土屋委員】 土屋です。実は明治大学は全国学生調査はやりませんでした。これは文部科学省に申し訳なかったのですが,やらないというお返事をして,それはもちろん大学独自で既にやっているので,二重になるようなことはやりたくないと。既に明治大学がやっている学生調査で十分なので,文部科学省の全国学生調査には乗らないとお返事しました。その方針はまた変わるかもしれませんが,今のところはそうなっております。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。ほかの今日御出席の近田先生,山中先生,何か御発言はございますでしょうか。

【近田教授】 近田でございます。神戸大学は今の土屋先生のお話と全く同じでございまして,もともと学生調査をやっておりましたので,二重になってしまうことを避けるために今回参加いたしませんでした。ただ,本来の趣旨である,それをやることによって標準化されてむしろ合理化されて,現場の労力が軽減されて無駄がなくなっていくのであれば,それは望ましいことではないかと思います。
短期的に見るとコストがかかることでも,長期的に見れば合理化されることが実感できれば,それはいいことかなと思うのですが,ただ,どちらかというと短期的にコストがかかることの方が多いです。すいません。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。山中先生,何かございますか。

【山中教授】 特別ないのですけれども,本学の中でも学生調査や卒業生調査は,むしろAPの中で今までやってきたということがありまして,それをまずきちんとしたいというのがまず先にあります。当然小規模ですから,ほかがどうなっているかは全然分からないので,そういうところで将来的に全国規模の調査の中で地位というか,見えるようにしたいですが,まず自分のところをきちんとできるようにしたいというのが優先だと思っています。以上です。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。それでは飯吉委員,お願いいたします。

【飯吉委員】 認証評価,自己点検評価,学生による授業評価など,様々な評価が学内で行われていて,評価疲れやコストがかかる等々の不満が各大学で噴き出ています。自分の所属する大学の中を見ても,縦割りでいろいろな調査や評価が行われています。それぞれのアリバイ提示や説明責任は果たせており,また各々PDCAサイクルは回っていっているようには見えますが,それぞれが自己完結してしまっているようにも思えます。つまり,大学全体として大局的なセンスメーキング,それも何のためのセンスメーキングかというと,個々の学生の学びの向上のためという,吉見委員が先ほど御指摘されたこととも関連しますが,そういうものに何かうまく結びついていないような感じを受けます。
そのセンスメーキングをするための一つのツール・方策が,学生調査なのかなと思います。個別にいろいろと取り組まれていることが,学生調査を通じて,実際にそれらが総体的に本当に効いているかどうかを診ることができるのではないかと考えます。ただ,先ほど土屋委員のお話にもありましたが,「既に自分たちの大学で学生調査をやっているのに,また別の学生調査を文部科学省がやるのであれば,それはパス」ということになってしまいがちですので,これらの縦割り的な調査・評価がどんどん増えていくことを,何とか逆行・逆回転させていく必要があると思います。以上です。

【吉岡部会長】 杉谷委員,お願いいたします。

【杉谷委員】 これは文部科学省に対する質問になるのですが。先ほどから出ている全国学生調査,あちらはあちらで有識者会議も開かれているようですけれども,今どういう状況になっていて,今後の見通しも含めてどういうことになっているのかを,ここで一度御披露いただいた方がよろしいかと思います。よろしくお願いいたします。

【大和田係長】 失礼いたします。事務局でございます。
ただいま全国学生調査に関する有識者会議を実施しておりまして,こちらは令和元年度に実施した試行実施の結果を踏まえて,次回の試行実施,それから本格実施という形でより多くの大学また短期大学に参加を求めて,国として調査を実施していくと。
その中身がどういった質問項目であるか,正に情報公表,調査結果の公表の在り方はどのような形が最も各大学の教育改善につながるような効果的な方法なのかについて,これまで今年度3回にわたり御議論いただいております。年度内にもう一度開催して,ある程度,次回試行実施の方向性を固める予定になってございます。
また,その「全国学生調査」に関する有識者会議のこれまでの検討経緯,詳細につきましては,次回2月9日の大学分科会において委員会座長の河田大学分科会臨時委員から御説明させていただく予定でございますので,そちらを御覧いただければと考えてございます。簡単ではございますが,以上でございます。

【杉谷委員】 ありがとうございます。

【吉岡部会長】 もうそろそろ時間ではありますけれども,是非という御発言があればと思いますが。よろしいでしょうか。
ありがとうございます。それでは本日の議論は以上にさせていただきたいと思います。
事務局から御連絡をお願いいたします。

【堀家高等教育政策室長補佐】 失礼いたします。事務局でございます。
本日まで第10期の質保証システム部会において活発な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。本日時間の都合上御発言できなかった内容等につきましては,事務局まで御連絡いただければと思います。以上でございます。

【吉岡部会長】 ありがとうございます。
今,事務局からありましたように,今期の質保証システム部会は本日をもって最後となります。2月9日の大学分科会でここでの審議状況の報告をすることになっておりますが,その報告内容については部会長に御一任いただければと思いますけれども,よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【吉岡部会長】 よろしいですね。
それでは最後に文部科学省から一言お願いいたします。

【伯井高等教育局長】 先生方,ありがとうございます。高等教育局長の伯井でございます。先ほどありましたように,本日,第10期中央教育審議会大学分科会質保証システム部会最後の部会ということで,一言御挨拶させていただきます。
この質保証システム部会は昨年7月に第1回の開催以降,正に新型コロナウイルスの感染拡大という異例の状況の中で,ウェブ審議なども含めて合計7回の議論を積み重ねていただきました。今期中は特に有識者,関係団体からのヒアリング,来期以降の質保証システムの具体的な検討を行う前提となる質保証システムの全体像や,そもそも質が保証されているとはどういうことかという点につきまして,多角的な観点から御議論を頂きました。
新型コロナウイルスの感染拡大を始め,高等教育を取り巻く環境が非常に大きく変動する中で,現在,世界各国ともにコロナ禍の中での大学教育をどのように遂行していくのか。さらにはニューノーマルにおける大学教育の在り方を考えているという状況でございます。我が国においても新たな高等教育の仕組みを構築していく必要がございますが,その中で質保証をどうしていくのかというのは極めて重要なテーマでございます。本部会における御審議は今後の高等教育政策の中核になるものと考えております。
質保証に関する論点は,御議論いただきましたように多岐にわたるとともに,相互に関連するものでございます。高等教育システムの根幹をなす設置基準の在り方を始め,大学設置認可制度やあるいは認証評価制度の在り方,大学の情報公開制度の在り方,また今回のコロナ禍での提言を踏まえたオンラインの教育を進めていく上での質保証の在り方,さらには質保証を担う人材の育成方策など,様々ございます。来期の部会では今期の議題を土台といたしまして,高等教育に深い知見・経験を有する委員の先生方のお力を頂きまして,具体的に更に制度の在り方を御審議,深掘りをさせていただければと思っております。
今期中の自由闊達(じゆうかったつ)な御議論に改めて御礼(おんれい)申し上げますとともに,それぞれお忙しい先生方でございますが,来期以降のさらなる充実した御審議をお願い申し上げまして,私からの挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。

【吉岡部会長】 どうもありがとうございました。
私からも一言。これまでの議論につきましては,お手元の資料1に事務局がまとめてくださっています。これをお読みいただくと分かりますけれども,質保証というものについての考え方や,あるいはその在り方についても様々な御意見が出ておりますし,これまでの議論,幾つもの実践例を通じて,特に内部質保証というものの実例とか,どこが何をやっているのかということも含めて,大変勉強になったと思います。
また,コロナウイルス感染拡大が起こったことで,設置基準等を含めて大学というものの客観的基準は何なのかということもやはり非常に重要な議論の基礎になることになりました。また,今後大学をどうしていくのかということを考えるための重要度の順位ということも含めて考える必要が出てきたと思いますし,いろいろなことが明らかになったと思います。また,本日の小林先生の報告もあったのですけれども,データの公表や共有化の意味も勉強することができました。
最後,吉見委員がおっしゃっていましたけれども,何のための質保証なのかという点。質保証システムをつくることがどういうことなのか。これはこの部会が何のためにやっているのかということにもなりますけれども,先ほどあったように,いわゆる大学を活性化していくこと,そのためには負担を減らす必要があります。システムをつくって客観的な制度をつくるというのは,個々の手探りの努力を軽減する側面がないとうまくいくわけはないので,そういう意味では,これからシステムに組み上げていく,そして,それをどのように実装していくか。それが実際に機能していくかということについても考えていかなければならないと思いました。
勉強会が続いたような感じになりましたけれども,いろいろと認識の共有もできたかと思います。皆様,本日まで7回開きましたけれども,しかもウェブ上でいろいろと御不便もあったと思いますけれども,活発な御議論を大変ありがとうございました。
ということで,本日をもちまして今期の質保証システム部会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――





 

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