大学のグローバル化に関するワーキング・グループ(第2回) 議事録

1.日時

平成25年8月29日(木曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3階3F1特別会議室

3.議題

  1. 大学のグローバル化の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

(委員)長尾ひろみ委員
(臨時委員)勝悦子委員
(専門委員)井上洋,江川雅子,大野高裕,榊佳之,島田精一(主査代理),新宅正明,二宮皓(主査),堀井秀之,米澤彰純,吉川裕美子の各委員

文部科学省

(文部科学省)布村高等教育局長,小松私学部長,常磐大臣官房審議官,浅田高等教育企画課長,里見大学振興課長,渡辺学生・留学生課長,田中高等教育政策室長,白井大学振興課課長補佐,大川学生・留学生課課長補佐,佐藤国際企画室専門官,安藤国際企画室専門官 他

5.議事録

(1)大学分科会大学のグローバル化に関するワーキング・グループの議事進行について,二宮主査から以下のとおり説明があった。

【二宮主査】おはようございます。所定の時刻になりましたので,第2回のグローバル化に関するワーキング・グループを開催いたします。委員の皆様におかれましては,大変お忙しい中,御出席いただきましてありがとうございます。
 まず,本日の議事進行について簡単に説明させていただきます。このワーキング・グループでは,これから我が国の大学の海外における展開や国際的な教育連携をどう充実していくかということについての環境整備,あるいは双方向の留学生交流の戦略的な推進など,様々な視点から検討することになっておりますが,とりわけグローバル化を推進するための制度的な課題,それをどう克服するかという観点が最も重要かと思います。本日は,まずは各大学における具体的な取組を勉強させていただき,それから議論を深めていこうということになっています。
 そのために二つの大学から御説明をお願いすることにしております。一つはグローバル人材,特に日本人学生をいかに海外に派遣するか等について挑戦されている東京医科歯科大学の医学部附属病院長をされております田中雄二郎先生から,もう一つは,グローバル化の中でグローバルな大学としてどう展開するかということについての実践的な取組を挑戦的にされている立命館大学の川口清史総長から,各大学の取組について御説明をお願いすることにしています。
 まず,お二方の御説明を,続けて拝聴,勉強させていただき,その後に質疑,あるいは意見交換を進めたいと思います。
 前半の1時間程度をそういう時間に使わせていただき,その後,第1回のときに話し合った結果としてのテーマですが,これまでの大学分科会からの宿題ともなっていますので,ジョイント・ディグリー等について,少し基礎,基本から始めて,制度をどう考えればいいかについての審議,意見交換をしたいと考えています。
 こういう形で本日は進めたいと思いますので,御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。
 それでは,まずは事務局から配付資料について説明,確認をお願いします。

(2)事務局より,大学のグローバル化の在り方等について,資料1から資料4に基づき説明があった。

【安藤国際企画室専門官】本日の配付資料でございます。本日の配付資料としましては,資料1から4までをお配りしています。資料1につきましては,前回のワーキング・グループにおける委員の主な御意見を事務局において項目ごとにまとめさせていただいた資料です。資料2,3につきましては,本日御発表いただきます東京医科歯科大学様,立命館大学様から御提供いただいております発表資料です。資料4につきましては,事務局の方で御用意しました大学のグローバル化に関する諸制度・ジョイント・ディグリーなどについて,御説明をさせていただいた資料です。
 また,参考資料としては三点ございます。参考資料1につきましては,平成23年7月から平成24年2月に文部科学省の中で設けられました外部の有識者検討会議において取りまとめられました,国際的な共同学位についての基本的な考え方についての報告書です。参考資料2につきましては,先日8月6日に東京にて開催されました第4回の日中韓大学間交流・連携推進会議の合意内容についてのプレス発表資料です。参考資料3につきましては,先般8月22日に公表されました,文部科学省内に設置された留学生交流の推進に関する有識者検討会の中間まとめの報告です。
 また,本日メイン席のみにお配りしている机上資料として,ジョイント・ディグリーについての実際の学位記の海外大学の例を御参考の資料としてお配りしています。こちらの資料につきまして,具体の海外の大学名が入った資料が含まれていますので,今回机上資料ということで,会議後回収という形にさせていただければと思います。会議終了後は,そのまま机上にお残しいただければと思います。
 資料につきましては以上でございます。

【二宮主査】それでは,資料を御確認いただきたいと思います。何かありましたら,事務局の方にお願いします。
 それでは,議事に入らせていただきます。東京医科歯科大学附属病院長の田中先生から,東京医科歯科大学における留学,国際展開のビジョンといったことを中心に,医歯学系ですので,理工系でもそうですが,カリキュラムが非常にタイトである,あるいは,なかなか海外に出掛ける仕組みが築きにくい中で,どのように日本人学生を積極的に海外に派遣しグローバル人材として育てていくかについて試みられていますので,御説明いただきたいと思います。
 では,お願いいたします。

(3)日本人学生の海外派遣について,東京医科歯科大学の田中病院長から以下のとおり説明があった。

【東京医科歯科大学田中病院長】田中でございます。よろしくお願いいたします。
 これからの主要な産業として医療が重視され,当然ですが,やはり医療・医学の領域についても,グローバル化について課題がいろいろございますので,そこのお話から入らせていただきます。
 まず,医療ツーリズムという言葉が最近定着してきましたが,先進国というのは,ハンガリーが年間100万名,タイが60万名といった患者さんを受け入れているところですが,日本においては,まだその実数さえ出ないような状況にあり,非常に後進国であります。
 それから,パンデミック,新型インフルエンザ等がありますが,そういう世界的流行病や災害時の国際協調への参画が後れているということがあります。実際に東日本大震災のときも,諸外国から救援に来ていただきましたが,来ていただいた方を受け入れる現地の医療人が,英語ができないということで,結局,立ち往生したという例は,報道にもよく見られたことです。
 それから,医療の標準化が進み,診療ガイドラインが国際化されていますが,こういうガイドラインを作る際にも,なかなか日本人が入っていけない,あるいは非常に参画が少ないということがあり,これも,海外で活躍する,あるいは自由にディスカッションができる医療人が少ないという問題があります。
 それから,その医療を支える分野として,生命科学研究,臨床研究が殊に問題なのですが,研究論文数で後れをとっています。中国にも既に抜かれていますが,特に問題なのは,国際共著である共著論文の数が少ないことです。つまり,国際共同研究が非常に少ないということで,世界で勝負するという点では非常に問題となっています。
 それから,国際保健/医療政策分野ですが,一番有名なWHO,世界保健機構では,ポジションというものは,人口比と,拠出金の額によってある程度用意されていますが,日本に割り当てられている数の30%から20%程度しか,実際に埋める人材がいないという問題があります。
 それから,産業分野では,医薬品も,医療機器も,完全な輸入超過になっています。分野によっては一部そうでないところもありますが,全体としては輸入超過になっており,こういった課題があります。
 こういう課題の中で,東京医科歯科大学は,教育理念に国際性豊かな医療人を掲げ,2002年頃から特に力を入れて取り組んできたことがございます。まず2002年に,ハーバード大学の医学部と教育提携を結びました。世界のメディカルスクールの中のトップに長くいる大学との提携は,インパクトが大きく,その提携開始だけで入学者の,入学時のTOEFLの平均点が20点ぐらい上がるというような事例もありました。
 そういった大学へ臨床実習に6年生を派遣するようになったのが,今から10年前です。
 そのほか,世界の大学ランキング,ベストテンの常連である,ロンドンのインペリアルカレッジの学生と,2005年に相互交換を開始しました。その後も,欧米だけでなく,アフリカや南米,そしてアジアにも教育拠点を作り,学生の派遣が容易になるような取組を進めてまいりました。
 結果,グローバルヘルスリーダーの育成体系ということで,文部科学省のグローバル人材育成推進事業にも採択していただき,頂いたコメントも,グローバル人材の育成の中心になって取り組む拠点大学であるという,その意義と責任を認識するようにということでしたので,その認識の下に頑張っていきたいと思っているわけです。
 特にそういうことですので,今まで以上に力を入れたいと考えていて,このようなプログラムで今は運営をしています。
 つまり,先ほど申し上げましたような医学,医療の領域におけるグローバル人材の課題がありますので,その課題に応えるような教育をしたいということです。まずThink globally,act locallyということで,診療の国際標準化や国際協調ということであれば,これは,もう全ての医療人に求められるレベルだろうということです。
 更に,もう一歩踏み込んで,Think globally,act globallyということで,世界で活躍する医療人を育てたいという,この二段構えの教育体系,事業を推進しているところです。
 すなわち,Think globally,act locallyというのはボトムアップに相当することで,入学時から始まりますが,語学力を強化したり,単に語学力だけではなく,批判的な思考力を強化したり,その専門領域の英語力を上げるということです。
 それ以外に少人数で,入学生の10%程度を想定していますが,リーダー教育を行いたいということで,リーダー教育には,より高い英語のレベルだけではなく,長期的なキャリア構築ができるような支援,そして豊富な海外留学機会を提供していきたいと考えています。
 その中で,その少人数教育では,関連領域の知識や批判的/創造的思考力,リーダーシップスキルを,ケーススタディー形式で長い時間掛けて養成したいと考えています。それだけではなく,バックグラウンドとなる西洋哲学や比較文化などを系統的に英語で学び,そして英語で議論できるような,そういう人材を育てたいと考えています。
 東京医科歯科大学は,医学部だけではなく歯学部もございまして,医学科,看護師や臨床検査技師を育てる保健衛生学科,そして口くう保健学科があります。歯科衛生士や歯科技工士を育てる医科と歯科の総合大学ですが,これからのお話は,その中で医学部医学科に関する取組を御紹介させていただきます。
 医学部の医学科の取組としましては,まず内的動機付けというところからスタートします。これは実は入学前から始めます。どこの大学でもオープンキャンパスというものがありますが,東京医科歯科大学にもございまして,そこでは特に,東京医科歯科大学はこういう教育をやる,在学生に留学機会を用意している,そういったことを私たちがお話しするというよりは,実際に経験している先輩たちが,本キャンパスに来る受験希望者に対してプレゼンテーションをします。
 その次の段階としては,まさに入学直後に,グローバルに活躍する先輩やリーダーと交流する機会を設けて,そういう大学に入ったのだという意識を高めます。
 その後は,後ほどお話しますが,英語模擬交渉で,更にそれをリアルな環境で体験してもらい,その後,医学導入の科目で,卒前留学について更に詳しく説明するという,こういう内的動機付けを用意しました。
 この内的動機付けの結果,海外留学希望者が増え,そして受験者が増え,グローバル対応力への関心が高まり,英語実習への意欲が明らかに高まるという効果が得られました。
 英語模擬交渉というのは,その中の一つの取組ですが,例えば今年行ったものでいいますと,北部ナイジェリアのポリオワクチン接種は再開すべきかどうかというテーマについて,外国人留学生を交えた少人数グループで,例えば1人の学生はWHOの役,1人の学生は現地政府の役人の役,あるいは国境なき医師団の役と,1人ずつ役割を変え,課題について議論をしたり交渉事をしたりします。そうしますと,中に入っている外国人留学生は,いわゆる情緒的な交渉ではなく理詰めの交渉をしますので,ふだん学生たちが経験していない交渉過程を見ること,あるいは体験することで,グローバル,対応能力とはどういうものかについて体感することになります。
 それから,やはり私たちは早い時期にロールモデルを見せることが重要だと考えています。2002年からハーバードと提携している関係で,既に卒業してアメリカで臨床をやっている医師,卒業生がおり,そういった卒業生や,あるいは本学の卒業生以外でも,世界で活躍しておられる日本人をお招きして,どういうキャリアパスで,その仕事を追求していったのかといったことを,よくお話ししていただいております。
 このような取組のほかに,正規の語学科目を用意しており,これは教養課程から,つまり1年生から,その後2年生,3年生と続きますが,シームレスに同じ到達目標,すなわち英語で診療が行えるということでなく,英語で議論ができるということをテーマにして,少人数教育を進めているところです。
 ただ,学生というのは,それだけではなかなかモチベーションが上がらないので,やはりボトムアップということを考える正規学科科目の使命としては,英語の問題を試験に出すということであります。全ての科目で定期試験の10%分を英語で出すことにより,それぞれの授業で,英語で勉強するというモチベーション,必要性が生じるわけです。
 ちなみに,日本の医学教育においては,教科書は全部,日本語が用意されていますが,例えば韓国では,全部の教科書が韓国語,ハングルではないですし,例えばタイでも,タイ語で授業を行いますが,教科書は英語で書かれたものです。そういう点で,英語力という点では,卒業時点で日本は決定的に後れていますので,こういう取組も必要だと考えています。
 そういう彼らのモチベーションを最大限に維持するのが海外留学であり,留学は2か所設定しています。一つは研究のために留学する。もう一つは,臨床に参加するために留学するということであります。
 研究実習というのは,もともと医学科のカリキュラムの中で半年間,国内の大学院,つまり私どもの大学院等で1人1課題,半年間十分に研究し,プレ大学院を体験し,医師としてのアカデミックマインド,リサーチマインドを養成するという目的で設定されましたが,そこにインペリアルカレッジを皮切りに,幾つかの大学で研究ができる機会を設定しています。臨床実施もハーバードの関連病院でやるという機会設定をしますが,やはり,特に重要なのは準備教育と考えています。
 準備教育は,研究実習の場合は,語学力というよりは,そのバックグラウンドになる知識を英語で学べるようにするということに力点が置かれますが,臨床実習の場合は,英語が分かるだけでなく診療が英語でできるようになりませんと,向こうの臨床実習では,ただ見学に終わってしまいますので,かなり時間をとって準備教育を行います。
 このような海外留学の意義は,グローバル対応力の向上意欲のある学生に,意欲の高い時期に,効果的な学習機会を与えるということが重要と考えています。
 また,研究/臨床実習という形式の留学がなぜいいかというと,一つは,後ほどの課題でもお話ししますが,医学部の授業というのは全ての科目が必修になっています。ですから,講義の期間中に留学することはほとんど不可能ですので,実習期間を活用する。それが逆に実践的な学習ができるという意味で,海外に行っても非常に自由に話をする機会が多い。つまり,講義のときに向こうに行って講義を受けるというだけですと,なかなか他学校の医学生と交流する機会はありませんが,研究や臨床で行くと,いろいろな友達もでき,非常にいいということであります。
 それから,臨床実習の場合は,向こうも受け入れる枠が非常に少ないという問題があるほかに,高額な授業料が要求されます。例えばハーバードでも月額35万円から40万円の授業料が要求されますが,研究の場合は余りそういうことがないので,枠が設定しやすいということがあります。
 そういう機会をいかに作っていくかということですが,先ほど申し上げましたように,本来の大学のカリキュラムの中で,そういう自由度を持たせる期間を設定しなければ,なかなか実現は不可能です。東京医科歯科大学では半年間,自由選択学習という授業がない期間を設けていますし,臨床実習の間も,週1回,1時間程度の授業を除けば,ほとんど授業がありませんので,そういう期間に選択で海外に行くようなことができる。単位互換の留学が,在学期間を延長することなくできるということであります。
 それから,入学前からの内的動機付けが大事だというお話は先ほど申し上げたとおりです。
 提携校や海外拠点の利用ということで,なかなか難しいところはありますが,それを活用しているということです。
 あとは,過去に派遣を経験した先輩たちに準備教育に参加してもらうよう,いろいろ働きかけるということです。これは,せっかく留学した経験が,だんだんフェードアウトしていくので,こういう教育に参加することで,英語力も含めた維持の機会が与えられるということでもあります。
 それから,留学先ではいろいろな問題が起こりますので,教育拠点であれば教育拠点教員,あるいは,その留学先の本学の卒業生たちの同窓会を作って支援してもらうようにお願いする。
 それから,文部科学省にも御支援いただいていますが,財政的支援が欠かせないということであります。
 課題ですが,先ほど申し上げましたように,日本の医学部は全部日本語で教育が行われていますので,学部教育は全部日本語です。したがって留学生も1学年に1名か2名しかいません。ですから,学習環境はとてもグローバル化とは言えませんので,大学院で研究に来ている留学生を動員したり,あるいは東京医科歯科大学は早稲田大学と提携させていただいたりしましたが,国内提携校と,そういうグローバル環境を構築したいと考えています。
 それから,非常に時間割が過密で,休みも短いということがあります。夏休みも私どものカリキュラムで1か月ぐらいしかありませんので,それを使っての留学はなかなか難しいので,先ほど申し上げましたように,研究留学や,実習期間を使うということをやっています。
 それから,臨床実習では,準備教育を十分にするために,米国の看護資格を持っている人間や,ネーティブスピーカーを確保し,教育に参画してもらっています。
 留学先の確保は次の大きな課題であります。今,GHLOという仕組みを活用しようとしています。と申しますのは,今こうして教育してきた結果,海外に留学する希望者がどんどん増えていますが,今度は,そういう需要に供給が追い付いていないという現状があります。今,希望者は,私どもの医学科は,学年で80名から100名しかいませんが,そのうちの半分が選考に応募してきても,その半分,すなわち4分の1程度しか,実際に海外に行く機会が用意できません。
 これを解決するために,アメリカで用意された,GHLOのようなネットワークに参画することで,ここにあるような,4大陸で24校が加盟する,こういう公衆衛生も含めた医学の留学ネットワーク,国際ネットワークに参加することで,留学機会が少ないという問題を解決しようとしております。これらは,単に機会が増えるだけではなく,いろんな手続が簡素化されるので,積極的に活用させていただきたいと考えております。
 このような経緯を経まして,今は100名になりましたが,定員80名という小さな医学科で,今のところこれだけの人数を海外に派遣することができております。
 ですから,先ほどお話ししたように,入学時では大体4分の3,4名のうち3名が海外に行きたいと言っています。選考の段階,すなわち4年生ぐらいになりますと,4名のうち2名が行きたいと言っている。しかし,今は4名のうち1名しか行けないというような状況になっていますので,それを是非増やしていきたいと考えています。
 こういった海外に行った学生たちを見ますと,その短期間であっても非常に成長します。そういった人たちが,将来グローバルリーダーとして育って我が国に貢献する,世界に貢献することを期待しております。
 御清聴ありがとうございました。

【二宮主査】どうもありがとうございました。
 それでは,続きまして川口総長の方から御発表,御説明をお願いしたいと思います。

(4)大学のグローバル化について,立命館大学の川口総長から以下のとおり説明があり,意見交換が行われた。

【立命館大学川口総長】立命館総長,大学長の川口でございます。本日はこういう機会を与えていただきまして,本当にありがとうございます。
 私の方は,お手元にございます資料で御説明させていただきたいと思います。
 立命館大学は,1980年代に新しい大学づくりをスタートいたしまして,それ以来,国際化というものを大きな柱に掲げてきました。とりわけ2006年に定めました「立命館憲章」において,立命館のミッションとして国際的な社会貢献をしていく,多文化共生社会,大学,学園を作っていくことを掲げております。そういう意味では,グローバル化という現在の取組は,大学,立命館の総合アイデンティティーとして進めているということです。
 1998年に国際関係学部を設置しましたが,それは学部設置ということにとどまらず,Dual Degreeであったり,あるいはカナダのブリティッシュ・コロンビア大学とのジョイント・プログラムであったりと,様々な多様なプログラムを展開してまいりました。アメリカン大学とのアンダーグラデュエートのDual Degreeは既に20年を経過し,300名の学生が,そこで学位を取得してきていますし,アメリカン大学からスタートしたマスターレベルは,現在,数大学まで広がっており,これも,既に100名を超える取得者になっております。
 UBCのジョイント・プログラムは,毎年100名をUBCに派遣し,向こうでワン・アカデミックイヤーを過ごさせるプログラムでありますが,これも20年を経過し,既に2,000名を超える学生がここで学んでいます。
 一方,2000年に立命館アジア太平洋大学を大分県別府市に設置しましたが,そこは学生の半分が国際学生であり,教員も半分が国際的な人たちであり,日英二言語授業ということで展開してきました。いわば,これまで日本になかったような国際的環境を整える大学として今日まで過ごしてまいりました。既に卒業生が110か国地域,1万名を超えるというところになっています。まさしく世界で,アジアで今,卒業生が活躍をしているということを作り出してまいりました。
 こうした成果の上に立って,我々が次のグローバル学園をどう作っていくかということを今,迫られています。とりわけ近年では,グローバル30の1大学に指定していただきまして,そのことを軸に様々なプログラムを展開しておりますが,とりわけ,図の中央にございますキャンパス・アジアの取組と,もう一つは,情報理工学部がやっております大連理工大学との取組。これが一つの新しい段階を築きつつあり,これに依拠しながら新しいプログラムを展開したいということで,大きく四つの柱で現在,検討を進めています。
 一つは,これは既に,相手大学との連携もとり,文部科学省の公募事業にも応募させていただいたASEANとの連携事業であります。これは,既に参加学部も決定し,スタートの準備ができております。
 それから,キャンパス・アジアの拡大版を社系でやりたいということで,今,日中韓の3か国で,大学間連携のプログラムを用意中であります。これもほぼ,参加学部と相手大学も確定しまして,いよいよ具体的な段階に入ってきています。
 それから,大学院につきましても,いろいろな形で海外との連携が現在進められています。
 ただ,学園としましては,今四つの附属の中学校・高等学校と一つ小学校という,かなり大きな初等中等教育を持っておりまして,私たちはそれを一貫教育と呼んでいますが,そことの連携をしたいということです。附属高等学校が今1学年1,000名おりますが,そのうち80%以上が立命館大学に進学してきます。そういう子たちを一定の,グローバル人材のベースを備えた者として迎え入れたいということでやっています。既に立命館宇治高校はIBのディプロマプログラムを持っており,今年は海外の四十数大学へ直接進学が決定しているということもありますが,それにとどまらず,むしろ立命館大学に来る学生につきましても様々な形でやりたいと考えています。
 現在,一つの大きな取組は,海外の大学のファウンデーションコースにブリッジプログラムを展開したいということです。今年から既に,カナダのUBCに30名を派遣し,数か月のプログラムを実施しています。これをイギリス,オーストラリア等の大学と現在,話を進めています。
 これと関わり,インフラの整備もいろいろ進めていまして,ここには出ていませんが,国際寮の整備を現在進めていますし,そのファウンデーションコースは,海外に送り出す場合,高校生を送り出すだけではなく,海外からの受入れのときに,いわゆる今までの制度でいえば留学生別科と言われているものを,別科ということではなく,イギリスやオーストラリアでやっているようなファウンデーションコースとしてできないかという検討を現在始めているところです。
 それが大きな見取図でありますが,内容的にはこういうことを考えています。
 Global Initiativeと私たちは今,呼んでいるわけですが,今までは受け入れ,送り出しということを基本的なコンセプトで考えてきたグローバル教育ということです。しかしながら,むしろ,それはMobilityというコンセプトで捉えるべきではないかというのが,今の私たちの議論のポイントです。学生がいろんなキャンパス,いろんな国で学び,いろんな授業を学び,そこで多文化や多言語に接する。そういう場を作るということが一つの,これは既にEUでは進められていますが,やはり日本においても,そういうMobilityというコンセプトが大事ではないかと思います。立命館は,そのネットワークの,少なくともアジアにおけるネットワークのコアになろうと考えているということが一つです。
 もう一つは,教育の水準,それから教育方法であり教育内容というものを,いかに世界水準まで高めていくかということが非常に大きな課題になるわけですが,これを日本国内の我々のこれまでの経験だけでやることには限界がありますので,ここで思い切った海外大学との提携,連携をやりたいということです。
 具体的な中身として,海外大学との共同プログラムや,あるいは国際移動キャンパスやASEANの連携といったことが具体的な制度,あるいは手段としてあります。
 こういうことを通じて今,中身が問われるわけですが,我々が議論しているポイントは,アジアリテラシーという言い方でまとめようと考えています。それは言語であり多文化の理解であるのですが,やはり一つの焦点は,アジアにある国として,アジアの共通性,あるいはアジアを世界,グローバルに発信できる,あるいはグローバルの視点でアジアを見直すことができる,そうしたものを我々はアジアリテラシーという呼び方をし,そこに焦点を当てながら,そこにふさわしい教育の中身なり,内容なり,方法なりを考えていきたいということであります。
 さて,その今申し上げました二つの私たちの先端プログラムというものを少し紹介させていただきたいと思いますが,一つはキャンパス・アジア・プログラムです。これは文部科学省の世界展開力強化事業で採択していただいたものです。国内で10のプログラムということだそうですが,立命館大学では学士課程,学部レベルでのプログラムだということが非常に大きな特徴です。相手先は韓国,東西大学校と中国の広東外語外貿大学の3大学です。各大学から10名選抜され,30名が共同で生活をしながらキャンパスを移動します。2年間にわたり,それぞれ2度キャンパスを訪問するというプログラムです。その中で共同生活,それから共同で授業を受け,討論し,様々な文化的なフィールドワーク等を一緒にやるということです。昨年の12月に広東外語外貿大学からスタートをし,この春,立命館に参りました。私もいろいろ学生と話をさせてもらいましたが,この30名は東北の福島へ復興の状況を視察に行くというようなフィールドワークもやっています。
 言語は全て現地語でやっています。日本へ来たときは日本語で授業をする。中国では中国語でやる。韓国では韓国語でやる。これは人文学ということのこだわりだそうでして,本当にそれで授業を分かっているのかというと,そこでは学生同士がお互いに助け合います。彼らはキャンパス・アジア語だと言っていましたが,日本語でやって分からなくなると,中国語の分かる学生が中国語でフォローする。韓国でも韓国語でフォローするということをずっと積み上げていき,これを2年間やることで,どういう人材が生まれてくるか,本当に私たちは楽しみにして見ています。今のところ,非常に学生諸君は楽しくやっているということです。これが一つのプログラムです。
 私たちは,この人文学でのプログラム,非常に内容は濃く,すばらしいプログラムですが,はっきり言って,非常にコストが掛かります。これは大変なコストが掛かるし,学生にとっての負担も非常に重く,やはり少数のエリートプログラムかなと感じます。今,これをベースにして,いかに社系に広げるかというのが,冒頭にありました三つ目の矢印の日中韓のものであります。
 ここで今議論していますのは,社会科学系でむしろ英語をベースに,共通言語にしながら,共同のディスカッションと共同のフィールドワーク,いわゆるPBLをベースにしたものにしたらどうかというところが現在の到達点です。まだ,これからカリキュラム等は詰めていく予定です。
 それから,もう一つ。これは,まだきちんと御報告申し上げられてないものですが,中国の大学と共同で学部を作り,いよいよ,それがスタートします。大連理工大学の軟件学院,ソフトウエア学部ですが,それと立命館大学の情報理工学部が共同し,大連理工大学の中に学部名称が「大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウエア学部」という,これはカリキュラムの作成から全て本学の情報理工学部が関わり,言語は基本的には日本語で,日本的な,日本の情報理工教育を行うというカリキュラムになっています。
 幸い,この3月に中国教育部の認可を受け,正式にこの9月から学部としてスタートします。定員は100名ですが,この幾つかの科目については,立命館大学から教員を派遣し,教員がローテーションで日本語による授業をやっていくということです。
 立命館大学の学生も向こうに行きますが,それは短期でして,正式の学生ではありません。この100名のうち40名が3回生次に情報理工学部に転入をします。この40名につきましては,情報理工学部卒業時点でDual Degreeを取得する計画です。残りの60名は大連理工大学だけの学位となります。ただ,その学位の学部名称の中に両大学の名称が入っているということで,非常に複雑なことになっています。
 これは,内容的には,Joint Degreeにかなり近いのですが,制度上,中国でもJoint Degreeということにはならないようで,こういう名前でジョイントを表し,一部の学生にはデュアルを与えるという構造でやっています。
 ここでは,学部の運営にも参加し,本学の教授が向こうの日本側の代表として議論に参加するということです。それから財政も,向こうの滞在費や航空運賃等は,この国際情報ソフトウエア学部の財政の中から賄われます。ただし,本学から派遣する,今,7名の教授を予定していますが,この人件費は立命館大学が持たなければいけません。そこまでは,学部の財政で賄えないということが実態です。そういう意味では,7名の人件費は相当の持ち出しになります。ただ,転入学で40名が入ってきますので,この分は,その7名の枠でやってほしいということで,情報理工学部長にお願いをして,何とか財政的にはそこで賄いたいと思っていますが,多少の持ち出しは覚悟しながらやりたいということであります。
 先ほどのDual Degreeも,財政のお話をしましたが,アメリカン大学の学費は300万円,3万ドルぐらいです。その非常に大きな学費を全部学生に持てというわけにはいかないので,そこの差額については立命館大学が奨学金という形で出します。それから,UBCのジョイント・プログラムも,向こうへ寮も建てたということもありますが,相当の持ち出しですので,この国際プログラムに非常に多くの経費を掛けてきていることについては,私立大学の現状の中では,なかなか厳しいものがあることも,是非,御理解いただきたいと思います。
 そこで,もう一つの資料です。今日の議論の中で焦点になっておりますのがJoint Degreeということですが,我々は今ちょうど議論を始め,調査も始め,相手大学との話合いも始めたところです。先ほど海外大学と協力することによって国際水準の教育を実現したいということを申し上げましたが,まさしくそれの方向性が,このJoint Degreeということです。
 今,アクティブラーニングやPBLについて,非常に大きな教育方法の展開が要請されているわけですが,日本の伝統的な大学の中で,今,国際的な最高水準の教育を実現しようとしたときに,何によってそれができるかというと,やはり一つの有力手段が,海外の大学と共同してやるということではないかと思っています。
 それは単純に海外の大学を日本に引っ張ってきて,彼らに,彼らのシステムを展開して日本の学生を教育してもらうということではなく,やはり日本の大学の持ってきた優れた点と,海外の大学が今開発している最先端のものをどう組み合わせて新しいものを,まさしくアジアのモデルとなるようなものを作れるかということを是非示していきたい。
 少し余談になって恐縮ですが,例えば情報理工学部がなぜ日本的な情報理工教育を中国でやろうとしているか。これは,やはり日本の理工系教育の持っている大きな強みがあるからです。情報理工はハノイ工科大学で既に一度実践をしているわけですが,非常に大きいのは,やはり卒業研究であるとか,チームで,いわば縦割りでやるプログラムというのは,海外の大学になかなかない日本的な特徴であります。そこでハノイのベトナムの学生も非常に伸びたし,彼らも非常に新しい経験をしたということです。
 それから今,日中韓のキャンパス・アジアの話をしましたが,彼らが今,日本に来て何が新鮮かというと,ゼミがものすごく新鮮だと,中国の学生も,韓国の学生も申します。
 そういう日本の大学教育の優れた点があるわけで,それは,アジアの学生には相当フィットする。そういうものをどう生かしながら,今申し上げました新しい教育をしていくか。
 例えば今,単位制限ということを言いますが,単位を制限するというのは結果でして,むしろ大事なことは一つの科目をいろんな角度で,いろんな方向から学ぶという仕組みを作ってやらなければいけない。立命館大学では一つの科目を2単位,15週で終わりということになっていますが,今,多くの欧米大学は一つの科目を,講義もあり,チュートリアルもあり,ディスカッションもありと,様々な形で一つの科目を集中的にやるという仕組みを持っています。私たちもUBCでそれは経験をし,アメリカンで経験してきているわけですが,こういうことを日本の大学の制度として取り組むためにはどうすればいいかというと,やはり海外大学と一緒にやることがいいのではないかと思います。
 海外大学と一緒にやるということを,ただ努力してやったということでなく,国際的にも認証される形でやりたい。それは,やはりJoint Degreeではないでしょうか。これを,両方が教育課程を責任を持って作り出し,それを両方の国の認証機関でもきちんと認証していただける水準になるということを国際的にもきちんと打ち出したいということです。
 多くの国で既にドクター,マスターレベルではやっています。しかしながら,やはり学士課程は難しいというのが,どの国でも出てくる言葉です。しかし,立命館大学としては,やはり学士課程でこそやりたい。そこで,このJoint Degreeをやりたいというふうに思っていまして,これに何とかチャレンジをしていきたいと思っています。
 難しい問題は多々あります。日本の仕組みは大体,学科,学部で積み上げてきておりまして,プログラムとして卒業させるということは果たしてできるのか。どこかの学部に間借りするみたいなことがあっていいのか。これだけで学部を作ってしまうのかというようなことも含めて,そこから実は議論をしなければいけないと思います。
 少なくとも日本の大学の学部,立命館大学にしても,プログラムについては海外のパートナー大学のオフィシャルプログラムとして,その大学で公的に認めていただかなければいけないということがありますので,その辺も国によって随分制度が違います。ですから,国ごとに,どういう形で我々は提案できるか。そういう点でも,文部科学省との御協力なり御支持を頂ければ大変有り難いなと思っています。
 いずれにしても我々として,今,ようやく一定大学との話合いも始まったところですので,これから一歩一歩具体化をして,また御相談申し上げまして進めていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いしたいと思います。
 以上でございます。

【二宮主査】大変興味深い御説明ありがとうございました。
 それでは,御説明に基づきながら意見交換,あるいは質問に移っていきたいと思いますが,委員の大学における経験も踏まえながら,あるいは御紹介いただきながらの質問であっても大変有り難いと思いますので,どうぞ,どなたからでも,よろしくお願いします。

【米澤委員】ありがとうございます。二つとも大変興味深いお話で,いずれも大学の中で学生の移動を促進していく中で,よりグローバルなリテラシーを高め,それからリーダーを高めていくというような話だと思います。
 田中先生の方にお伺いしたいのですが,恐らく東京医科歯科大学として今進められているのは,このような形で在学中に,いろいろな形での教育においての留学,それから研究の機会を与えることで,グローバルに活躍できるリーダーを作っていこうというような趣旨ではないかというふうに伺いました。
 その中で,これと同時に,私が必ずしも医学の専門ではないので教えていただきたいのですが,例えば中国のかなりいい大学,北京大学や天津医科大学みたいなところが英語でプログラムを行い,主に南アジアの学生がそこで学び,その後,本国に帰り,その教育の単位を生かして医師免許を獲得し,そして臨床に就くようなことが行われているという話を伺ったことがあります。
 それから,例えばフィリピンの大学で学んだ医師,それから看護師などが,これは時代によってかなり違うようですが,例えばアメリカで臨床に当たるとか,そういうことが国際的に起きていると聞いています。恐らく英語でのプログラムの本格的な実施というときには,一方で,グローバルリーダーみたいなものをやりつつ,もう一方で,量的には,トランスナショナル・エデュケーションに近いのかもしれませんが,ほかの国で医学教育を受け,医師の免許を,自国で,あるいは,例えばヨーロッパでしたヨーロッパ域内で使われるような形で取っていくような,臨床教育としての国際的な学生移動みたいなところと両方を考えていく必要があるのかなというふうに考えております。このような事柄について日本の医学全体,医学教育全体の中で,どのような形の議論が行われているのかということと,それから,その中で,恐らく二つの目的は相反する部分もあると思うのですが,御意見を伺えればと思います。


【東京医科歯科大学田中病院長】ありがとうございます。医師不足ということが社会問題になっておりまして,医学部の定員は増えてきているわけですが,もちろん,その増えた定員は,日本の中で医療をするために増やしているというのが政策的な位置付けだと考えています。
 ですので,今,米澤委員からの御質問にありました,英語で教育して海外で活躍するような人材を日本の医学部で育てる動きには,どこでもなっていないというのが現状です。
 では今後もそうなのかというと,大学によっては,少人数,例えば30名程度の,英語だけで医学を教えるコースを設定して,しかも,その場合の受入れ学生については外国人を想定していることを計画している大学があるというふうに私は聞いておりますが,どの程度それが実現に向かって進んでいるのかは私も把握しておりません。
 あと,もう一つの動きとしては,海外の医学部を卒業した日本人の医師が,今度,逆に日本で医療をやりたいというふうに希望する受皿が,また十分にないというのも一つの問題点で,実は,そういう人材が日本に戻ってくることで,彼らは,今度は日本発のグローバルリーダーになっていくポテンシャルを十分に持っていますが,それは十分に日本に戻ってきて医師として活躍するためには,医師国家試験を,また受け直さなければいけない。そのための準備教育も,かなり大変です。そういったようなハードルは高く,そこについても,トランスナショナルということでいえば,日本について言える問題点だと思います。
 以上です。

【榊委員】豊橋技術科学大学の榊です。まず田中先生に御質問したいのですが,医師をグローバルに育てるということで,グローバルリーダーとおっしゃるのですが,そういった卒業生が活躍する場というのは,どういうことをお考えなのでしょうか。医療としての場もあると思うのですが,例えばWHO,そのほか等々で,国際的な政策等でも活躍する場もいろいろあると思うのですが,出口で,実際にどういう人材を育てられようとお考えかということと,東京医科歯科大学の中自身で,教員の方の教育,教員自身の方のFDについてはどのように取り組まれていますでしょうか。医学の分野で,国際的には分かりませんが,かなり日本での,いわゆる従来型の講義や教育方法と,今のインペリアルカレッジやハーバード等では,また,いろいろやり方が違うのではないかと思うのですがいかがでしょうか。この二点,お伺いしたいと思いました。

【東京医科歯科大学田中病院長】どういう人材を,どこで将来活躍する人材を想定しているかということですが,資料2の下の方のスライドにございますが,特に後れているのは,国際保健/医療政策分野の部分です。これは,既にポジションはオファーされているにもかかわらず,それを埋める人がいないということです。
 そこに入ることによって,医療のグローバル化の中での政策的なリーダーシップをとっていくことができるはずなのに,それができていないということで,しかも,そういうポジションというのは比較的若い年齢層に提供されますので,短期的にも効果が出てくると考えています。特にここの分野に行けるような人材を育てていきたいというふうに考えております。
 それから,後段の御質問の教員の意識改革,FDですが,これは2002年からのSハーバードとの提携には,実は教員派遣,教員のトレーニングというのも提携の中に含まれておりまして,毎年10名から15名の教員を1週間から2週間,ハーバードの現地に派遣して,向こうの教育を体験するということをずっとやってまいりました。結果,100名ぐらいの教員がそれを経験しておりまして,それがちょうど点と点が線になり線と線が面を作るみたいに大きく本学の教育改革に寄与したという現状がありますので,委員の御質問のとおり,並行して教員の意識改革をすることは非常に重要だと考えております。
 以上でございます。

【榊委員】田中先生と川口先生に伺いたいのですが,東京医科歯科大学の場合には専門的な人材を育てるということと,それから立命館大学の場合には,もう少し違う形の専門職という,情報系は別としても,そうでない分野かと思います。
 私は工学系にいますが,工学系ですと非常に専門的に高いことがあると,学部での教育から英語でやるということ自身は,受ける学生側の英語能力にもよりますが,基礎というところをあやふやにしてしまうリスクがあります。私どもと提携している例えばスウェーデンの工科大学は,学部まではスウェーデン語で全部教えています。それから,大学院が今度は全部英語でやるという形をとって,基礎は,やはり母国語でしっかり教え込むというようなこともとられていて,なるほどと思った経験があるのですが,その辺について各先生,どんなふうにお考えでしょうか。

【立命館大学川口総長】榊先生と同じ考えでございます。今,立命館大学の理系は理工学部,生命科学部,薬学部は特殊ですが,留学生も全て,日本語基準でしか受け入れていません。ですから,非常に少ないのが現実であります。
 先ほど,ファウンデーションコースということを申し上げましたが,これは一番私が期待しているのは,実は理工系の留学生でして,ここで日本語だけではなく,日本の工学教育を日本語で受けられるだけの数学,物理等の基礎的なところをきちんとやり,受け入れられる仕組みを是非作りたいというのが今の議論であります。
 大学院については,既に英語基準でどんどん受け入れていまして,これはほとんど卒業研究,マスター論文を書いたりであるとか,研究室での議論は,日本語と英語両方でやるということで,そこは完全に英語だけでやっているということではありませんが,日本語,英語併用して大学もやるということで進めております。

【勝委員】お二方に少しお伺いしたいのですが,まず東京医科歯科大学様ですが,グローバル人材育成推進事業の1校ということで,18大学ある東日本ブロックの幹事校の会議が明治大学で開催されたときも,このお話をお聞きましたが,先ほど出口部分で国際機関からのオファーがあるということで,これは東京医科歯科大学のみならず,やはり日本のプレゼンスの向上という意味では非常に重要なことがあると思うのですが,ほかの医学部での動き,こういった動きがどういう形になっているかという,日本の大学の医学部の潮流を教えていただければというのが一点と,それからもう一点,川口先生にお伺いしたいのですが,ダブル・ディグリーをやられているということで,実は日加の学生フォーラムというのを毎年開催していまして,日本側は13大学,カナダ側は10大学のコンソーシアムで行っております。前回はカナダアルバータ大学で開催したのですが,そのとき私も参加しましたが,立命館大学の学生が非常に優秀でした。英語でグローバルイッシューを議論するものですが,彼に聞いたところ,アメリカン大学とのダブル・ディグリーコースの学生とのことでした。
 やはり,こういったプログラムは,人材育成に非常に効果があるというのは私も実感したのですが,この場合は全学でやられていると思うのですが,私どもも学部で今ダブル・ディグリーをやっていまして,全学で,その入り口の部分から恐らくダブル・ディグリーとして入試をして,そういった選抜をして学部に割り当てる,この仕組みについて少し教えていただければと思います。

【東京医科歯科大学田中病院長】それでは,最初の御質問についてお答えいたします。
 他大学の状況についてということですが,いろんな大学は,既にこのグローバルということについては,かなり意識して取り組んでおられます。具体的な取組でいえば,例えば東京医科歯科大学では4名に1名が海外に行くチャンスがあると申し上げましたが,例えば三重大学は,たしか4割ぐらいの学生は海外に行くチャンスが在学中に与えられていると思います。京都大学もそうですが,いろんな大学がかなりのチャンスを在学中に設定しております。
 ただ,先ほど申し上げましたように,医学部の授業は非常にタイトになっているので,海外に行ける期間は,例えば夏休みであるとか,そういう期間しか,なかなか設定できないという実情があります。
 ですから,東京医科歯科大学のように,ある程度一定期間,海外にも行けるような実習期間を設定しているというところまでは,まだ,なかなかいっていないのではないかと思います。

【立命館大学川口総長】アメリカン大学のデュアル・ディグリーは全学にオープンにしているわけではなく,幾つかの学部が,そこに参加できるということになっております。圧倒的な中心は国際関係学部でありまして,あとは政策学部であったり,あるいは経済学部であったり等が,たまに何名かいるということであります。
 入学試験のときに,その希望を出させ,合格者の中で同時にアメリカン大学の希望者を,そこで併せて選抜をする。最初の半年は,日本の立命館大学で過ごして,次2年間をアメリカン大学で過ごし,帰って,あと1年半は,また自分の大学で過ごすというプログラムであります。
 ですから,最初のところが相当英語が強くないといけないということと,前半の前期で相当集中的に英語もやります。
 これが成功した一つの原因は,実はアメリカン大学も,彼らはTOEFLを要求してこなかったので,彼らの基準で英語試験をしてくれたことがあります。これは非常に,正直言って助かりました。その結果,一定の数を毎年送ることができたということであります。
 入学試験,これ以外にも,我々はグローバルゲートウェイ入試と呼んでいますが,特別のプログラムを前期にやります。もちろん,学部によって,それをやる学部とやらない学部とあるわけですが,先ほどの理工学部では,もちろん乗らないわけですが,入試の成績で,まず学部の入学が決まった上で,これにも合格した学生だけを別プログラムに集めて,英語を中心に特訓をする。こういう形でやっております。

【大野委員】早稲田大学の大野でございます。ありがとうございました。
 東京医科歯科大学の田中先生に伺いたいのですが,医学部ということで,先ほど来,全て必修の授業であるということで,なかなか海外へ出るとすると,研究や臨床実習があるかということでした。それは今のステップとしては分かるのですが,次のステップを考えたときに,いわゆる,本来であれば東京医科歯科大学で今まで教えていることを海外の大学と連携しながら,つまり,他大学,海外の大学がそれを教えていくという仕組み。つまり,例えばジョイント・ディグリーみたいなことを使ってやっていくという可能性について,お考えになっておられますか。
 そのときに,医師の国家試験であるとか,日本語でやっているところがありますので,そういう問題等はあると思うのですが,本格的に海外の大学と連携して医師を要請していくことがあるときの課題も,どういうところにあるかというところを教えていただければと思います。

【東京医科歯科大学田中病院長】ありがとうございます。先ほどの榊委員の御質問にお答えしていませんでしたので,併せてお答えさせていただきます。専門職の教育を母国語でやるべきなのか,英語でやるべきなのかという点ですが,能率から考えれば明らかに母国語の方がいいわけです。実際に学生に聞いてみても,例えば東京医科歯科大学で研究を半年間やる方が,ずっと到達度は高い。要するに,優秀な学生の中にも母国語でどんどんできますので,海外に出るよりも東京医科歯科大学で,日本で,やりたいという学生もいます。
 ただ,私どもが考えていますのは,そこにとどまっていると,なかなかグローバル人材は育っていかないのではないかということで,学生のキャパシティーも千差万別で,母国語でなくても,英語でも吸収して伸びていく学生もいますので,そういう少数の学生に対しては,機会を是非与えるべきだと考えています。
 ここから先は大野委員の御質問へのお答えになりますが,今,私どももジョイント・ディグリーについては,海外教育拠点のある大学との提携を検討している段階でありまして,そこでは,例えばある科目については向こうの大学の授業を受けるとか,そういったことを想定はしていますが,先ほど申し上げましたように,それがこなせる学生というのは少数ではないかと思っています。

【長尾委員】川口先生に御質問させていただきます。先生が提示してくださいましたパワーポイントの4ページのところで,Dual Degree,Joint Degreeの御説明が図になっておりますが,そこについて二つ質問があります。
 一つは認証評価についてです。海外大学の認証評価と書いてありますが,これは,どういう認証評価の在り方なのか。今,日本でやっている基準協会の認証評価(accreditation)は機関認定です。それを有効にするのではなく,二つの大学が一つのプログラムを証明(certification)した形で,双方が認め合う新たな認証評価のことでしょうか。大学自体の質の保証を担保するための双方の認証評価というこの言葉の意味が分からないので,御質問させていただきます。
 二つ目の質問は,このJoint Degreeの場合には,科目,教育課程の中で共通した一つのプログラムを作っていくという形でよろしいのですね。学科全体や学部全体ではなく,一つのプログラムを選択させ,そして,特別なプログラム科目をJoint Degreeという形にするのですね。

【立命館大学川口総長】御指摘いただいた点,まさしく今,私たちが議論をしているところでして,これも国によって違いますので,認証が恐らく一番難しいかと思います。ただ,今の日本の現状からいいますと,先生御指摘のように,それぞれ機関認証を受けたところがプログラムをやるということで,機関認証ということで認証してもらうのが一番やりやすいと思います。
 プログラム認証になりますと,これは,それをやっている国もあるのですが,カリキュラムを改革するごとに認証を受け直さなければいけないということになってしまうかと思います。これは,なかなか厄介です。ですから,可能な限り,その学部なり,大学なり,機関なりが受けているところがやっているプログラムだということで,プログラムの認証ということに代えていただけるようにするのがいいのかなと思います。今の議論の状況では,相手との話がこれからありますし,また文部科学省の今の認証の政策がどういうふうになるかということとも関わるので,是非これは御議論いただきたいと思います。
 それから,プログラムという形において,いろいろな学部の学生が参加できるような形にするのがいいのか,一つの学部丸ごとが,このJoint Degreeとなると,これもなかなか難しく,今の日本の制度からいうと,一つの学部丸ごとやる方がすっきりするということはあるのですが,それも,このためにわざわざ新しい学部を作るのかということにもなりかねないと思います。なかなか重たい課題でして,楽なのは,プログラムとしておいて,本籍はどこかの学部にある。それから,その学部の人材育成目標とはどういう関係になるということを問われたときに,認証評価というのは,なかなか難しいということもあります。
 そこも議論しているところでありまして,一番いいのは,比較的近い学部のところに学科にしてしまうのも一つの手かなということです。それは,今まさしく議論中であります。また皆様のいろんなお知恵を拝借できればと思います。

【長尾委員】今のお答えに対してのコメントですが,まさに今,このワーキング・グループがやろうとしているジョイント・プログラムの定義が,先を行ってくださって,実際そこでどういう問題が,我々が議論しなければいけないのかということが出てきているところだと思うので,いい課題を与えてくださいまして,ありがとうございます。

【二宮主査】ありがとうございます。時間も大体予定した時間になりつつありますが,少し発言をさせていただきたいと思います。
 東京医科歯科大学におかれましては,オープンキャンパスの段階から,グローバルリーダーを養成しようということで,かなり組織的,計画的な取組をされて,いい大学を選ばれて,すばらしい大学に行かせているというその仕組みがよく分かりましたし,それからまた東京医科歯科大学の学生は医療人として,グローバルな人材として育つべきだという,構造的に捉えられて,グローバル化対応の医療人養成ということについて大変参考になるお話を頂きました。この後また残っていただくと聞いていますので,更に御一緒させていただきたいと思います。
 それから,川口総長には,私はこういうイメージでお聞きしていたのですが,総長としては,世界標準とか,世界水準とか,あるいは立命館だけでは,なかなか育て切れない,そういう付加価値の高い学位というか教育,サービスを提供したいと思ったときに,一つのモデルがジョイント・ディグリーではないかということだったと思います。
 それまでいろいろな形で,ダブル・ディグリーはよく分かりました。デュアル・ディグリーも分かりますが,ジョイント・ディグリーについての野心というか,試みてこられた中で,長尾委員も指摘されたとおりですが,学科とプログラムという質保証の側面,あるいは設置認可の説明に加えて,今のままでは様々に制度的な問題があり,特化できないといいますか,クリアできないのだと思います。もしここがどうかなれば,これは,やはり,更に付加価値の高い人材養成ができるという観点から,我々こういう議論をしていきたいと思っていますが,何が更に問題だとお感じになっているかを御指摘いただければと思います。

【立命館大学川口総長】ありがとうございます。一つ付け加えるとすると,やはり学位記,学位を誰が出すのかというときに,今,学位は学長が出すことになっています。ジョイント・ディグリーは,それからいうと矛盾するわけです。本当に理想的な形は,二つの大学の学長が出すことになるわけでして,その辺をどう克服するか。学位規則に書いてあるわけですので,そこのところが一つの大きな問題として出てくるのではないかと思います。

【二宮主査】ありがとうございました。
 それでは,御説明いただいたことをめぐる意見交換,質疑はこれぐらいにさせていただきまして,次のテーマに入らせていただきたいと思います。
 先ほど申し上げましたように,ジョイント・ディグリー等となっていますが,基本的にはダブル・ディグリーも,もちろん含んではいるわけです。ジョイント・ディグリーというテーマについて,これから,その制度の在り方について議論をしてまいりたいと思います。
 配付資料も用意してございますので,まずは事務局から配付資料について御説明を頂きながら進めていきたいと思います。

【白井大学振興課課長補佐】それでは,資料の4番に基づきまして少し御説明をさせていただきたいと思います。
 資料4ですが,「大学のグローバル化に関する諸制度について」ということで,少し基本的な部分もございますので,御案内となる先生方もいらっしゃるかと思いますが,再度,改めて御説明させていただければと思います。
 現在,大学のグローバル化に関連する制度としては,非常に伝統的な部分ではありますが,まず留学という制度があります。本来であれば,一つの大学に入り,そこで4年間であれば4年間の修業年限を済ませることが基本ではございますが,大学が他の大学,外国の大学と協議をした上で,そこで学ぶことについては,その期間,外国の大学で学ぶ期間を修業年限に通算をすることが,この留学という制度の本来の趣旨です。
 仮に学生が個人的な理由等によって休学をして留学する場合には,この修業年限には通算されないということになります。
 留学をした場合に,そこで学んだ単位については通常,単位互換協定を結んで,他の大学で学んだ単位について,その日本の大学で学んだ単位として認められます。
 現在,この単位については,学士課程であれば60単位,トータル124単位,学ばなければいけないところの,およそ半分まで他の大学で学ぶことができるという制度設計になっています。
 これらの仕組みを活用し,外国大学との共同教育プログラムを組んだり,先ほど御説明ありましたが,ダブル・ディグリーという形の学位を授与したりするようなことも広く行われております。
 それから,資料4の右側の方になりますが,外国大学日本校の指定制度があります。こちら,例えばテンプル大学などが有名なところですが,外国大学が日本に進出をする際に,本国と同じような制度であると位置付け,例えばテンプル大学の日本校を卒業した場合にも,アメリカ本国のテンプル大学を卒業したと同じように扱うという制度です。
 これにより,日本にいながら,日本の大学院への入学資格,あるいは大学への転学,単位互換等が認められるという制度になっています。現在4校が認められているという状況です。
 それから,海外キャンパスという制度です。これは日本の大学が外国に進出する場合の制度になっていますが,外国で学部や研究科を置いて,そこで学位を取得することも可能になるという制度設計です。
 ただ,この現在の制度,海外キャンパス制度については,日本と同様の校地,校舎基準であるとか,あるいは専任教員の基準等というものを求めていますので,少し各大学にとっては使い勝手が悪いのか,現状,サテライトオフィスとか,このキャンパス以外の形での海外展開というのは非常に多く見られていますが,この海外キャンパスの活用事例は現在ゼロということになっています。
 なお,一部の大学は外国に展開されている大学もございますが,多くの場合はダブル・ディグリー,海外の大学との連携であったり,あるいは外国に現地法人,現地の非営利法人といったものを別途設置したりしているような事例が多いかと思います。
 現状の制度は以上ですが,これから,更にそのグローバル化を進めていくために,どのような新しい仕組みが考えられるのかということが,この部会で特に御議論を頂きたい点です。
 今,私どもとして,問題意識として持っておりますのが,ジョイント・ディグリーと海外サテライトという部分です。このジョイント・ディグリーについては,また後ほど御説明申し上げますが,外国大学との共同プログラムを修了した場合に複数の大学による連名の学位を授与するという制度です。
 国内については,既に教育課程の共同実施という形で制度が開かれています。国内でのジョイント・ディグリーが既に開かれておりますので,これから問題になるのは国際的なジョイント・ディグリーということになります。
 それから右側の方,海外サテライトですが,既に海外キャンパスという制度がありますが,こちらはかなり本格的な形の海外への大学の進出というものを想定していますので,現在,使い勝手が悪いということで,例えば国内のサテライトキャンパスのように少し簡易な形で外国に進出することはできないのかということについて御議論を頂きたいと思います。
 ただ,余り簡易な形にしますと,そこで学位を取得しているわけですので,学生の学習環境の確保等がきちんとできているのかという課題も生じてきますので,そこのバランスをいかに確保しながら制度設計をしていくのかということがポイントになろうかと思います。
 ちなみに,このサテライトキャンパスですが,こちらにつきましては大学教育部会の方でも国内のサテライトキャンパスについて議論するということになっていますので,まずは先行的に,このグローバルワーキングの方ではジョイント・ディグリーについて御議論を頂きたいというふうに考えています。
 資料の2ページにお進みいただきたいと思います。外国大学との共同教育プログラムを履修した場合の学生に対する評価ですが,主にこの三つぐらいの様式が考えられるかと思います。
 左の二つ,マル1とマル2というものについては,現在の制度で既に実施が可能であるものです。そして右側のジョイント・ディグリーについては,これから制度改正するというものです。
 一番左側ですが,学位記にサティフィケートを付加するという方式です。外国大学との共同プログラムを終えた場合に,ダブル・ディグリーまでは行きませんが,かなりの期間,外国で,例えば1年間,外国の大学に行き,そこである程度の単位を修得したというような場合に,基本的に授与される学位は日本の大学の学位ということになりますが,ただ,そのプログラムとしては,かなり国際的なテイストの強いプログラムを終えたということについて,この学位記に加えてサティフィケートと言われるような証明書を同時に添付することで,そのプログラムの趣旨を,この学生であるとか,その学生を採用される企業等にもお伝えできるという制度です。
 二つ目はダブル・ディグリーです。これは先ほど立命館大学の方からも御説明を頂きましたが,単位互換等を活用することにより,一つの教育プログラムの履修に対して,日本の大学と,あるいは海外の大学,それぞれの大学から別個の学位が授与されるというような制度設計です。
 そして一番右側のジョイント・ディグリーが,これから議論しなければいけない部分ですが,複数の大学が連名で授与する学位ということになります。
 この教育プログラムに関しては当然,一定の共同性が備わってきますので,各大学間で十分に協議をされることが望ましいということになりますが,特にジョイント・ディグリーになりますと,各構成大学が具体的な学位の授与を行うということになってきますので,その教育プログラムについては各大学間で十分に協議をすることが不可欠だと存じます。
 また学位授与に関しましては,各国がそれぞれの学位授与に関する法制度を設計しております。例えば左側のマル1,マル2でありましたら,各国のそれぞれの判断で学位を授与することができることになりますが,連名での学位ということになりますと,例えば日本の大学とアメリカの大学が連名で学位を授与するということになりますと,では一体どの国の法制度に従った学位授与を行うことになるのかということが一つ大きな課題になってきまして,そこを解決する必要があるということがジョイント・ディグリーの非常に難しい議論,論点です。
 3ページにお進みいただきたいと思います。ジョイント・ディグリーに関する,これまでの議論の経緯を簡単にまとめてございます。
 ジョイント・ディグリーは比較的新しい動きでして,特にヨーロッパにおけるボローニャプロセスの動きなどを踏まえ,ヨーロッパを中心に設計されてきた制度かと思います。日本におきましても,平成20年から,こうしたヨーロッパの動きなどを踏まえまして,各国・地域との組織的・継続的な教育連携の構築を促進するための方策ということで,中教審に諮問がされております。
 それ以降,このグローバルワーキングの前身になりますような中教審の組織におきまして,このガイドラインというものを一旦作っております。
 また,平成24年の2月からは,「ジョイント・ディグリーの在り方に関する検討会」,これは,この部会の委員にも御就任を頂いております大野先生に座長をお願いしたものですが,そちらの方で検討会を行いまして,報告書として,また,これは後ほど御覧いただければと思いますが,参考資料の1に,その検討会の報告書を入れております。そこでは具体的なジョイント・ディグリーを作る際の留意点でありますとか,定義,考え方等について基本的な部分をまとめています。
 また最近ですが,平成25年5月,教育再生実行会議の第三次提言では,「ジョイント・ディグリーの提供など現行制度を超えた取組が可能になるような制度面・財政面の環境整備を行う」ということで,御提言も頂いているということです。
 以上を踏まえ,このジョイント・ディグリーについて御議論いただきたいと思いますが,初めてですので,少し基本的なところですが,資料の4ページにございますダブル・ディグリーについても併せて御紹介をしたいと思います。
 ダブル・ディグリー,一般には,単位互換の活用等によって,一定の教育プログラムの履修に対して,複数の大学からそれぞれ別個の学位として授与されるものです。
 本来であれば,シングル・ディグリーとここに書いてございますが,例えばA大学とB大学で,それぞれの学位を取得するためには,このA大学とB大学それぞれに通う必要があるわけです。例えば学士課程を念頭に置きますと,A大学で4年間,124単位を取得する。それからB大学で4年間,124単位を取得する。足かけ8年を掛けて,ようやく二つの別個の学位が出るというのが基本です。
 ただ,今行われているダブル・ディグリーの多くは,このプログラムにある共通部分に着目をしまして,例えば一般教養の部分であるとか,あるいは学位の分野が類似の分野であれば,当然それは単位互換等を活用することができますので,これをある程度縮小,短縮をして,ダブルのディグリーを出しているというような状況かと思います。
 ただ,一つ問題になるのが,非常に極端なケースです。例えば卒業に要する論文も1本のみで二つの学位が出るというようなケースも,これは実際に生じていると思います。
 この一番下のケース,これは学生にとってのワークロード,あるいは論文等については,一番上のこのシングルの場合と比べますと実質半分ということになりますが,ただ授与される学位としてはA大学,B大学それぞれの学位が別個に出ますので,これは外見上,区別はできないということになってしまいます。
 これは私ども,本来ジョイント・ディグリーになるべきであろうダブル・ディグリーのプログラムということで,仮にジョイント・ディグリー型のダブル・ディグリー,JD型DDというふうに呼びたいと思いますが,こういったものについては,本来はジョイント・ディグリーになるべきなのではないかと考えています。これが一つ,ダブル・ディグリーの問題点として提起させていただきたいと思います。
 次の5ページです。ジョイント・ディグリーについてということですが,このジョイント・ディグリーについては,先ほど立命館大学の川口先生からもいろいろ御説明を頂きましたが,何といっても,このメリットとしましては,複数の大学における,よりすぐれたリソースを相互に活用することができるという点が挙げられようかと思います。ここで挙げているA大学,B大学,当然それぞれの強み,弱みというものがあると思いますが,その中で,ある意味いいとこ取りをするような,それぞれの一番強い部分を組んだ教育プログラムを設定して,それにジョイント・ディグリーを付与するというようなことが考えられようかと思います。
 また,海外大学とのジョイント・プログラムということになりますので,当然その海外の大学で標準的に行われているような,例えばナンバリング,キャップ制であるとか,あるいは,その外国大学との共同での研究指導・論文指導,あるいは学位の審査といったようなことが必要になってきます。いや応なく我が国の大学が国際的な通用性のある質の高い教育プログラムを組んでいかざるを得ないということになろうかと思います。
 学生にとっても,先ほどのダブル・ディグリーの例でも御説明しましたが,通常の学習期間,例えば学士課程であれば4年間で124単位ぐらいの範囲で,外国大学にも行き,そこで指導も受けるということになります。多様な学習機会を受けることが可能であって,経済的にもある程度リーズナブルな範囲で履修をすることができるということは言えようかと思います。
 そしてまた,連名の学位を授与されるということが,例えば将来的に採用される企業であるとか,そういったところにもまた評価を受けることが期待されるのではないかというふうに考えられます。
 それともう一つ,このジョイント・ディグリーにつきましては,先ほど御説明いたしましたように,現在行われているダブル・ディグリーの中に,本来ジョイント・ディグリーとして位置付けられるべきジョイント・ディグリー型のダブル・ディグリーというものもありますので,それに対応することで,ジョイント・ディグリーの道を開くことで適切な学位授与につながることも期待されようかと思います。
 資料の6ページにお進みいただきたいと思います。このジョイント・ディグリー,そんなに良い制度であれば,すぐ取り入れるべきとは思いますが,ただ,そうはいいましても,いろいろ論点というものが挙げられようかと思います。
 特に問題になりますのが,外国大学による学位の授与をどのように国内法制に位置付けていくのかという部分かと思います。今,日本の学位授与は,日本政府による,国による設置認可を受けることによって,その範囲の中で学位の授与というのが認められることになります。設置認可を受けて,また7年に1回の認証評価を受ける。その前提があって初めて学位授与が行われるという前提です。当然,日本国内において設置認可を受けていない外国の大学,これはB大学としていますが,B大学は日本国内においては学位授与を認められないということです。
 外国においても,いろいろ制度の差異はございますが,大体設置認可,あるいは国による設置認可であるとか,アクレディテーション団体による認証評価というものが義務付けられており,そうしたものをクリアした,一定の質保証を担保されたもののみが学位授与を,その国で行うことができるということになっています。
 問題になりますのは,ここで挙げております外国のB大学,これを日本政府による学位授与の仕組みにどのように取り込んでいくのか。この日本政府の学位授与の仕組みというのは,この少し紫がかった後ろの網掛けで表現しておりますが,A大学とB大学が共同で教育プログラムを組んだ場合に,その共同で学位を授与したいわけですが,これを日本国において有効な学位としていくためには,どのようにして,このB大学,若しくは,この共同教育プログラムの部分を,この日本の法制度に取り込んでいくのかということが非常に大きな条件になっています。
 具体的には,では,その外国大学の質保証をどのように担保していったらいいのか。当然,外国も様々な国,様々な法制度があります。それらの法制度の違いといったものをどのようにクリアして,日本政府として学位授与を認めていくのかということがあります。
 また,先ほど少し議論が出ましたが,認証評価のやり方にしましても,プログラム評価を行っている場合もあれば,また日本のように機関評価を行っている場合もあります。そういったものについて,どのように認証評価を行っていくのかといったようなこともあります。
 それから,目指すべき共同教育プログラムの在り方といったことについても,これも先ほど少し御議論を頂きましたが,一定のしっかりとした組織のようなもの,例えば共同学部でありますとか共同学科のような,組織として,ある程度恒久的なものを求めていくのか。それとも,非常にカジュアルな形で,一定のプログラムという形で作って,それを何年かやれば,またそれをどんどん改変していくという柔軟性の高いようなものにしていくのかといったようなところで,そもそもどういった制度設計にしていくのかというところで御議論いただく必要があろうかと思います。
 なお,制度的な面での関係点については,左下に少し書いておりますが,大学設置基準の中においては,大学はその必要な授業について,授業科目を自ら開設することが必要となっています。
 これは当たり前のことですが,大学は学位を提供する以上は,学士課程124単位であれば,それに124単位を充足するだけの体系的な授業科目を自分で用意しなければいけないというのが大原則です。
 このジョイント・ディグリー,共同教育プログラムの場合には,ある意味その例外を設ける形になりまして,一部のものについては,このB大学の授業科目でも良いということになりますので,その例外という形で制度設計するのが基本的な考え方になろうかと思います。
 それから,学位規則という規定があります。この学位規則では現在,国内の大学の連名での学位授与は認められていますが,これも先ほど川口総長からもお話しいただきましたが,外国大学との連名は現在認められていないということですので,こちらについても手当てをする必要があるという状況です。
 最後,7ページですが,国内のジョイント・ディグリー,国内大学における教育課程の共同実施制度という制度です。こちらについては,今,この平成25年8月現在,学部段階で4つの共同課程,そして大学院段階で六つの共同教育課程というものが既に行われています。
 例えば,この学部段階,今,獣医学科が非常に多くなっていますが,これもいろいろ話を聞いてみますと,獣医の中での強み,弱み,あるいは自分が得意な分野を相互に補完するという意味で,例えば畜産系が得意な獣医学科と,それと小動物系が得意な獣医学科が,それぞれ共同学科を開設するという事例が見られるようです。
 あるいは大学院であれば,例えば医学部をお持ちでない早稲田大学と東京女子医科大学が相互に,この共同課程を組むといったような,ある意味,先ほど申し上げたような強みを生かした共同課程が作られつつあるというような状況です。
 今現在,この国内の共同制度につきましては,この共同教育課程について,各構成大学が31単位以上,これは学士課程の場合ですが,31単位以上を,それぞれの大学で学ばなければいけない,それぞれの関連する大学が一定の学修機会を,それぞれの大学で持たなければいけないというような制度設計になっています。
 こちらが,これから国際的なジョイント・ディグリーを考えていく上での一つの議論のたたき台となろうかと思いますので,御紹介させていただきました。
 こちらからの説明は以上です。

【二宮主査】ありがとうございました。ジョイント・ディグリーについて,今からいろいろ意見交換,あるいは議論していくわけですが,その出口の方は,スライドの6ページにありますように,今後論点をしっかり組み立てていき,一つひとつ,更に議論をしていくということになりますので,きょう,いろんな質問をしていただいたり,意見を述べていただいたりしながら,事務局の方で,それをある種の柱立てに沿って,論点としてまとめていただく。そして,それに基づいて次回以降も,また継続的に議論するということになろうかと思います。
 そういうことですので,今からは,御自由に質問なり,御意見なりを賜ればと思っております。特に流れを作ることはありませんので,よろしくお願いしたいと思います。

【堀井委員】6ページ目の制度的検討事項と,これは非常に重要な検討事項だと思いますが,同時に外国の制度がどうなっているのかということも必要であろうと思います。日本の制度は日本で変えることができるわけですが,海外の制度は日本から変えるというのは,なかなか簡単なことではないので,日本だけ準備ができても,海外の方で準備ができていなければ,これは成立しない話なので,優先順位として,やはり海外の制度がどうなっているかというところの検討が必要なのではないかと思います。

【新宅委員】新宅です。きょう初めて参加しています。
 大学のこのような動きについて,今,この限られた時間で頭に入れてみたのですが,6ページのこの論点ですが,この論点の幾ばくかは,大野先生が委員長をされておられた,この参考資料1にも定義されていますので,できるだけショートカットした議論を進められるべきだと思います。
 今,堀井委員からもお話のありました,この外国の制度との絡みのところですが,日本の制度を設計する際に,個別に想定されるB大学ごとに制度設計するのか。それとも汎用的なものが出来上がるのか。後者の方が絶対必要だと思います。
 いかに,今,想定しているのではなく,将来も変わるであろう大学連携のプログラムにするか。これは世界でも使えるようなグローバルモデルが,ここでできるかどうかということが非常に重要なポイントだと思います。
 最終的には,そこに行き着くことを目標に,ステップワンがあり,立命館大学がそれをピックアップできるというような,今できること,将来目指すこと。将来目指すのは,世界に使ってもらえるようなグローバルのモデル,この提供のモデルを是非デザインしていっていただきたいと思います。
 それをするから時間がかかるというのは問題ないのですが,最終的なゴールが不明確な議論を進めても,今の法律制度を手直しするだけに終わるので,それでは世界で使えるのということにならないように,論点をまとめていただければ非常に分かりやすいというふうに思います。

【二宮主査】なかなか貴重な御意見だと思います。とりあえずは,我が国の大学の中で,この世界に飛び込んでいきたいと,果敢に挑戦したいという大学があるときに,それを,いろんなものが縛っていたら,恐らく通用性の高いものに入っていけないと思います。であるとすれば,ここで丁寧に議論して,そういうことをやっていただけるような制度的な設計を,少し特例なのかどうか分かりませんが,それから少し,例えばアジアの地域におけるフレームワークをどう考えていくかと。質保証を伴った,そういう学位をお互いに出していくという,そのフレームワークをどう考えていけばいいかということも,このワーキング・グループの議論の一つではないかという御意見だろうと拝聴いたしました。ありがとうございます。

【米澤委員】ありがとうございます。三点,手短にコメントさせていただきたいと思います。
 一点目は,資料4の一番初めの図の現行というところです。先ほど御紹介ありましたように,海外キャンパスについては現在活用例がないという話ですが,一方で実質面として,日本の大学が,コンソーシアムとして共同で大学を海外に設置しているような動きというのがかなりあります。一つがマレーシア日本国際工科院(MJIIT)だと思います。これは最近設置されたものですが,日本の多くの工学系の大学がコンソーシアムを組んで共同で協力しており,先月行ってみたのですが,16名ぐらいの日本の教員が教育を行っているところで,日本の教育の海外展開として既に大きなものになっているのではないかと思います。
 それから,エジプト日本科学技術大学(E-JUST)という,これも日本の大学が協力してエジプトに設立された大学があります。それから,より民間色が強いですが,泰日工業大学というのもあります。
 このような形で,日本の複数の大学が共同で海外に教育拠点を設けたものについても,日本がそれなりに国際協力の意味で,公的にも,私的にも国際的な貢献していますので,きちんと位置付けてもいいかと思います。
 また,それを今度は,学位の問題と絡めて活用していく可能性もあるかと思います。これが一点です。
 二点目ですが,私も教育が専門なので,教育の専門家からすると,一つのプログラムで二つ学位を出すことの違和感は確かにずっとありまして,これがジョイント・ディグリーの大きな推進力になっていると思います。同時に,ジョイント・ディグリーはダブル・ディグリー以上に共同プログラムとしての内容が濃いというところも,もう一つ大きな点かと思います。
 ダブル・ディグリーの大きな問題点としては,これは私自身も大学に籍を置いていますので非常に分かるのですが,一つの大学と共同で長い関係としてやるというのもあり得るのですが,実際には複数の大学と共同でやりたいというのが,かなり本音に近く,それは,共通のプラットフォームを我々として出せるものを作って,他の大学との共同教育にも活用していくという形をとりたくなるのですが,そのときに必ずしも共同で,きちんと話をしないで,共同教育プログラムが成り立ってしまうということがあります。しかし,ジョイント・ディグリーという形のときには,よりきちんと共同性が保たれている事例が多い点が強調されてもいいかと思います。
 最後に,三点目として,そのジョイント・ディグリーがヨーロッパで主に議論されているというところの一つの理由は,恐らく国を超えた地域としてのディグリーをどのように担保していくのかという共通の話合いの枠組みができやすいということがあるのだと思います。
 具体的には,先ほど御紹介のありましたように,日本と同じように,現状では各国の政府がそれぞれ認可をするということが原則になっているのですが,一方で,これは必ずしもヨーロッパ全体の動きではないのですが,European Consortium for Accreditation,ECAという組織がありまして,そこで一部の国々,あるいは評価を関わっている,イニシアチブをとっている方々が,国を超えたレベルで,より簡略な形で設置認可を行うようなことを例外的にできないかという議論を進めています。日本としても,こうした動きにも注目しながら政策的取組を進めていけばいいのかなと思いますし,これはすぐに実現の可能性はないと思いますが,同じく日本が属している,例えばアジア太平洋のような地域で,どういうことができるかについて考えていくことも将来的には大事かなと考えています。

【江川委員】一つ質問です。このジョイント・ディグリーについて,私はまだ不勉強なので教えていただきたいのですが,実際に質を担保するときに,認証評価であるとか,そういう制度的な面ももちろんありますが,論文指導や学位審査を実質的にどのようにしっかりやっていくかというところがとても重要だと思います。実際にヨーロッパなどで既に行われているところは,具体的にどのような形でやっているか教えていただければと思います。

【白井大学振興課課長補佐】このジョイント・ディグリーに関しては非常に多様でして,例えばヨーロッパの非常に極端なケースですと,10大学とか15大学ぐらいが,ある種のコンソーシアムのようなものを作り,そのコンソーシアムにおいて共同学位を授与するということがあります。例えば15大学が連名で1名の学生に対して学位を授与するというようなケースも生じています。
 そういった場合においては,当然その15大学全てにおいて共同で論文指導であるとか,そういったものはできないと思いますので,そこの少し違った考え方,非常に多様な考え方がとられているという現状です。
 ただ,今,私どもとして考えていますのは,やはりジョイント・ディグリーですので,しっかりとした共同教育プログラムを作っていただき,それについて,学位の審査についても,各構成大学がきちんとした形で,それに学位の授与に関与するような形の制度設計の方が望ましいかと考えていますが,ただ,今,現実に行われていますプラクティスとしては非常に多様な状況になっているという状況です。

【江川委員】では逆に,一番タイトにやるときは,例えば論文審査に二つの大学が物理的に一緒にやるのか,あるいは主担当と副担当がいるのかとか,その辺はいかがですか。

【白井大学振興課課長補佐】タイトにやっている場合は,先ほど申し上げましたように,きちんと各構成大学の方から,共同での学位審査委員会のようなものができまして,そこで一緒に審査しているというような状況です。

【江川委員】そのときに,例えば一つの大学でやるときでも,論文審査では主査や副査で役割が違いますよね。ですから,そういう意味でいうと,やはり主はどちらかの大学にいらして,でも副査は別の大学でないといけないとか,研究内容によっては,評価するメンバーの中に別の大学の人が入っていて,どちらかというと一つの大学が主でもいいとか,その辺はどうでしょうか。

【白井大学振興課課長補佐】  通常の場合,学生も,ジョイント・ディグリー・プログラムでありましても,本籍的な大学というのがどこかに決まると思います。その大学の先生方が,通常は主査という形で入られて,他の構成大学の先生が副査的な形で学位審査を行われるようなケースが多いかと思います。

【井上委員】一つ,私ども経団連が今,力を入れています規制改革の流れの中で,このジョイント・ディグリーの早期導入をする方法があるのではないかという,ちょっとヒントめいたことを申し上げます。実は企業実証特例制度というものが5月,経済産業省の茂木大臣から提案されて,恐らく,競争力関連の法律にも盛り込まれていくと思うのですが,企業が新しい技術を開発したいのだけど,いろいろな法律にひっかかってしまう実験をやらせてもらいたいと提案したものに対して,行政が特区的な規制緩和の処置をとるという枠組みができるはずですが。これを「大学実証特例制度」のようなかたちで作ってはいかがでしょうか。
 必ずしもジョイント・ディグリーだけではないと思うのですが,様々な大学設置基準ですとか学位規則に関わる部分でグレーゾーンになっているところを思い切って緩和するような包括的な処置の中で,申し出た大学に実証させてみるということです。
 当然,大学というのは教育機関,あるいは研究機関ですので,そこで出てくる人材ですとか,様々な知見とかを実証し,いち早く導入するスピード感が必要なのではないかと感じました。
 以上です。

【勝委員】先ほど海外の制度,それから今の規制緩和とも関わるのですが,きょう頂いた資料の中で,ジョイント・ディグリーの学位記の海外大学の例ということで,ERASMUS MUNDUSがあるわけですが,今,本学で中日のEUの代表の方を招いて,ERASMUSのコンファレンスをやったのですが,そのときに欧州代表部の方が言っていたことによれば,中国が今,非常に,このERASMUS MUNDUSで学位を出している。これに対して日本は非常に少ないということがありまして,その大きな要因としては,やはりジョイント・ディグリーのこの制度的な枠組みがないというような指摘がありました。その現状として今,日本の大学が,このERASMUSでどの程度参画しているかどうか。その辺のデータ等があれば,是非教えていただきたいと思います。

【佐藤国際企画室専門官】具体的な数というのは,まだ把握しておりません。これから調査していきたいと思っています。

【二宮主査】その参加というのは,今,ジョイント・ディグリーとして参加されている等はできないですね。

【勝委員】例えば法政大学であるとか,桜美林大学であるとか,幾つかの大学はある分野の大学のプログラムとして参加していて,学位は恐らく出せない形になっているのだろうと推察します。その反面,中国が今,参加している大学が非常に急速に増えているというような状況の説明がありまして,その背景には,こういった制度的な問題があるのかと思いましたので,今,御質問させていただきました。

【島田主査代理】私は企業の立場から,グローバル人材の育成は今,喫緊の日本の大きな課題だと思います。大学でのグローバル人材の育成ということを考えると,いろいろなアプローチがありますが,今までの皆さん,先生方の御意見のとおりだと思うのですが,ジョイント・ディグリーというのは,これは本当の意味の大学でのグローバル人材の育成というのを実現しようとすると,どうしても必要なことではないかと思います。
 しかし,ジョイント・ディグリーといっても,日本の中だけであれば,そう難しくはないのでしょうが,海外となれば,法制度や教育制度,いろいろ違いますから,なかなか難しいのですが,余り難しいからといってパーフェクトな解を認めようとしても,これは100年掛かってもできないのではないかと思います。
 そういう意味で,ヨーロッパでEUが20数か国かあるということで,通貨統合までやっているわけですから,エラスムス計画やボローニャプロセスというものが出てくるのは自然の流れだと思います。私が,イタリアの大学に若い頃留学したとき,もう40年近く前ですが,イタリアの大学は既に,国立大学では,どこの大学で単位を取っても,それは認められるという制度でした。
 そういう意味で,大学単独での単位取得制度が,ずっと続いてきたということもあり,いろいろ制度的にも,あるいは法制度の面でも,ジョイント・ディグリーというのはいろんなハードルがあると思います。エラスムス計画がEUでやった中,実現はしていませんが,日本としては東アジア共同体構想というものが一つあるわけですから,教育の面では,大学のジョイント・ディグリーを具体的に早く進めるためには,具体的にサクセスストーリーを作り,相手国を広げていくというようなアプローチも必要なのではないかと思います。
 いずれにしても,このジョイント・ディグリーというテーマは是非深く検討していただいて,何らかの形で具体的な一歩が進めば良いと希望しています。

【榊委員】先ほどのERASMUS。我々の大学も何名かの教官が入ってやっていますが。これは,私の理解では,あちらに主体がある。ヨーロッパチームがプログラムを認めてもらうためには,アジアも含めて,いろんな国際的なチームを組まないと,そのプログラムは認められないということで,そういう意味で,我々の教員も入っているというような状況です。
 これは一つのよいモデルかと思います。
ERASMUSのように,もし日本の大学が,いろんな海外の経験も踏まえた大きなプログラムを組んで新設する中で,それを日本の認証機関か何かが認定しながら,各大学の非常に自主的,あるいは自発的な取組を支援していくというやり方で,それはジョイント・ディグリーでないとしても,そういうグローバル人材を育成していくというやり方もあるのではないかということで,ディグリーに必ずしもこだわらなくてもいいのではないかという思いも今,規制改革のお話を伺いながら思っていました。あとは,このジョイント・ディグリーは全部の学生に当てはめるわけではないわけだと思います。当然ある種の,エリートと言うと少し言い過ぎですが,そういう意欲のある学生にということになりますと,これ自身は,そういったときに,日本の大学の認証評価の仕方は固いと思いますので,どのように認証するのかという,その辺の制度も改める必要があるのかなと感じました。
【二宮主査】今の御発言の確認ですが,例えば我が国の大学が,例えば先生の大学である豊橋技術科学大学がジョイント・ディグリーを出そうというときには,海外の大学との学長と連名で学位記を出すことは,まだ認められていないということですよね。しかし,今のERASMUS MUNDUSを活用するときに,世界からの要望,要請も強くありますし,我が国の大学の国際展開にとっても大変メリットのあることなので,例えば特例,例外を認めるとすれば,ERASMUS MUNDUS的な形で,ヨーロッパの大学からオファーがあり,我が国の大学にとってもメリットがあると認めたときには,参加して,向こうのジョイント・ディグリー,ディプロマもありますが,学長が,そのサインをできる。つまり,先方から見るとジョイント・ディグリーは出ている。しかし,それは豊橋技術科学大学のジョイント・ディグリーではないという。参加した,そういう署名の仕方としては,できるのだろうかという,その制度論としてということですね。

【榊委員】余り頭の中で整理をしていないのですが,やり方は,恐らくいろいろあると思います。

【二宮主査】もう一つは,日本の大学が他の大学と連携しながら,同じように,他の大学の学長のサインも頂いて,例えば日本の学生にジョイント・ディグリーとなるものを学位記として出す。もちろん登録番号も,ちゃんと残る。そういうやり方のときには,なかなか連名では出せないのでしょう。国内の組織は大丈夫ですが,国際的な組織はできていないという,そのあたりを今後どうするかという問題も,もう一方で残したままです。

【米澤委員】井上委員,そのほか産業界の方々から御意見が出てきているように,このジョイント・ディグリーを日本が認めることで,特にヨーロッパとの大学の交流において,非常に大きな機会が広がる可能性というのはあるのではないかと思います。
 他方,実は,アジアや北米の大学との関係について考えると,実際はダブル・ディグリーの方が圧倒的に多くて,シンガポールなどは,むしろ一流大学とのダブル・ディグリーを使って学生の国際的な学習機会を拡大しているようです。したがって,ジョイント・ディグリーの話は,むしろヨーロッパの大学といかに付き合うかという点が,今のところメインの論点かなと考えています。
 その上で,韓国はかなり早い時期に,このジョイント・ディグリーを認めて,かなり,それなりに参加の実績を出しているということです。それから,中国,インドネシアに関しては,これは確認をしていただきたいのですが,必ずしも全ての大学が容易に参加できるような形で正式に認めていない可能性もあります。インドネシアに関しては,例外的な処置として,通常の設置認可と別な形で進めているようです。
 私の個人的な意見としては,どうせやるのであれば,きちんと日本の法体系の中で制度として正面突破で認めていくというような形の方が望ましいと思うところです。

【二宮主査】ありがとうございます。事務局の方も,またその点は,調査していただくようにしたいと思います。
 大野委員から手が挙がっていましたので,大野委員の御発言の中に是非含めて御発言いただきたいというのは,参考資料1で頂いておりまして,その6ページの最後のところの学位記について,7ページにわたっての1行,2行ですが,学内規則の整備が行われているか,確認が必要であるといった留意点があるだろうという御指摘ですが,その部分の真意がよく分からないので,そこの部分も含めて御発言いただければ大変有り難いと思いますので,よろしくお願いします。

【大野委員】ありがとうございます。先ほど榊委員の方から,いわばグローバル化を進めるために実質的にきちんとしたものができればいいのではないかという御発言がありました。確かに,そのとおりだと思います。
 ただ,これまでのスキームを見たときに,例えば今回,この資料4の2ページ目にありますように,これまでも学位記+サティフィケートであるとか,あるいはダブル・ディグリーであるとか,こういう形でやってきたわけですが,ただ,きちんと明確に,いわゆる学位の質保証というところでいうと,ある種,便宜的に何とかつじつま合わせをやっていたというところがあります。
 そろそろ,そういう意味での便宜的な方法が,もうもたないのではないかという問題意識を持っています。私もたまたま関わって議論させていただいたということがあります。ですから,米澤委員のお話にもありましたが,やはり,そろそろ正面突破していいだろうと思います。
 ただ,ジョイント・ディグリーについて,我々が調べた範囲で言いますと,ヨーロッパにおいても,まだ,きちんと確立できているわけではなく,例えば先ほど事務局のお話にありましたように,15ぐらいの大学が連名でやっており,本当にそれが機能しているのだろうかということを我々自身も,少し心配するようなところもあります。
 そういう意味では,先ほど堀井委員からもありました,あるいは新宅委員からもありました,海外の状況を踏まえながらも,その世界の一つモデルになるようなものというふうなことでの取組が必要だろうと思います。そういった意味で,海外でも,まだまだ手探りの部分もあるということですので,我々は我々なりのものを作っていくことが必要だと思います。
 そのときに,やはり海外でも,どういう制度でということが十分できていませんので,それを待っていると,なかなか前へ進まないだろうと思いますから,日本としては,これで用意する。その用意ができれば,各大学では,それぞれ先方の大学と,その国の状況を踏まえて,その先方の大学の国の中で可能な形でのジョイント・ディグリーという形を作ればいいだろう。そのときに,日本の大学は,きちんと日本の法制度に基づいて,きちんとしたジョイント・ディグリーを出しているのだという立場をとればいいのではないかと思います。それが,ある意味では,海外に対しても影響力を持つのではないかということを考えています。
 二宮主査の方から,参考資料1の学位記のところについて,少し分かりにくいということだったわけですが,やはり学位記にジョイント・ディグリーの全てが集約されるということになりますので,そういった意味で,規則をきちんと作っておくことが重要であるということを考えています。これについて,では,具体的に中身としてどういうものを要件として備えるべきかということについては,まだまだ検討が,このワーキングのときには進んだところではありませんが,ただ,この資料の一番後のページを御覧いただきたいのですが,ジョイント・プログラム編成に当たっての留意点ということで,幾つか検討すべき項目,チェックリスト的なところを出させていただいております。
 そういった意味で,例えば4にも学位審査というところがありますし,あるいは,それ以外の修了要件等々とありますが,そういうことをきちんと学内規定に盛り込む。しかも,それが,先ほど来出ています認証評価,これにもきちんとたえ得るというものが出来上がることが必要なのだと考えて,この資料をまとめさせていただいたところです。

【二宮主査】ありがとうございました。
 資料4の6ページに説明がありましたように,制度的な検討事項としては,その左側のところの設置基準の,そこで例外を作り,国として,大学のチャレンジを支援するほどの意味があるのか,あるいは質の保証を担保できるのかといったことについては,やはり丁寧に議論したいと思います。例外も,特例を設けるというのは,やはり大きなことですので,よほどしっかりしたものでないと,そう簡単には,ここはおせません。
 この場合は,カリキュラムそのものが124単位を自らと考えているわけですが,ジョイント・ディグリーの場合は124単位が連携の中の自らになるかどうかとか,やはり,その辺を論点としては議論せざるを得ません。ダブル・ディグリーとは少し違うというところを議論していただきたいと思います。
 それから,学位規則の連名で,国内はできて外国はできないというのは,プログラムの問題でなく組織の問題なのです。組織は共同設置しなくても,プログラムを共同設置するということについて,特例が設けられるかどうか。
 それから,第三点は,先ほど榊委員の発言に便乗して申しましたが,我が国が積極的にジョイント・ディグリーをそのモデルを作って世界に呼び掛けていくのか,あるいは世界の大学と手を携えて,国際展開をやっていくために,日本はなかなか出ていけないのではないか。その部分でも,せめて可及的速やかに,何とか制度を緩めてもらえないだろうか。あるいは例外を認め,挑戦できる大学が,まずは質保証も担保しながらやれるようにしたらどうだろうかと思います。韓国を一つの見本にしながら,少し勉強してみたらどうだろうかといったようなことでないかと思います。
 そういう形で論点を少し加えさせていただき,今後明確にしていただきながら,第3回の議論をと思っています。
 本日は川口総長,田中病院長,大変貴重な御意見ありがとうございました。
 それでは,事務局で次回の日程等もあるかと思いますので,よろしくお願いします。

【安藤国際企画室専門官】本ワーキング・グループにつきましては,大体月1回のペースで進めさせていただくことを考えております。

【二宮主査】私も含めて,是非御協力を頂きたいと思います。
 それでは,本日はこの議事は終了させていただきます。どうもありがとうございました。
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