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参考資料3

新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−(産業界への期待に関する部分 抜粋)

平成17年9月5日
中央教育審議会

第2章   新時代の大学院教育の展開方策

1   大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)のための方策
(2) 産業界,地域社会等多様な社会部門と連携した人材養成機能の強化
  従前より,産業界,地域社会等と大学は,人材養成,研究開発等において連携を図ってきたが,これを更に推進していくことが必要である。その際,産業界等においては,それぞれの業種などに応じて,自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに,各大学院においては,そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等を取り入れていくことを通じて,両者の協力関係をより一層推進し,産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが重要である。また,大学院の地域連携活動の一層の推進を図り,大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境の整備も重要である。
    【具体的取組】
 大学院と産業界が目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有した産学協同教育プログラムの開発・実施
 単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施

 さらに,各大学院,企業等は,博士課程修了者等の多様な進路の開拓を図るための取組を実施することが求められる。国は,大学や企業等,双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ,産学官連携による人材養成の取組への支援や社会ニーズを踏まえた魅力ある大学院教育に対する支援を行うことが必要である。
    【具体的取組】
 各大学院による教育内容・方法の改善や教員の資質向上,学生のキャリアパス形成に関する指導,博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール
  企業等による大学院教育に対する自らのニーズの明確化,博士の学位の取得者等の実力を評価した人材の登用など,今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置の実施
<社会のニーズと大学院教育のマッチング>
   従前より,大学と産業界等は,インターンシップ,共同研究や人材交流などを通して連携を図ってきた。しかしながら,博士課程修了者の資質について,産業界等からは「専門分野以外の幅広い知識や経験」,「独創的な発想力」など必ずしも期待どおりではなく,産業界等社会のニーズと大学院教育に乖(かい)離があるとの指摘がある。このような乖離の存在は,これまで産業界等は,採用する学生がどのような大学院教育を受けてきたかということより,採用後の社内教育を重視する「自前主義」を優先し,産業界等の大学院教育に対するニーズを大学側に具体的に示してこなかったことや,大学院の側においても,各専攻に置かれる課程がどのような人材養成を目的としているのか明確ではなく,かつ当該目的や教育内容・方法が社会のニーズを反映しているものかどうか十分に把握・検証してこなかったことにも起因しているものと考えられる。このため,今後,産業界等においては,各種教育機関の役割分担などを踏まえつつ,それぞれの専攻分野や業種などに応じて,自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに,各大学院においては,そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等の不断の改善を行っていくことを通じて,両者の協力関係をより一層推進し,産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが必要である。
  また,今後の知識基盤社会において産業競争力を持続的に維持・強化していくためには,大学と企業等は,研究のみならず教育,すなわち人材養成の分野においても,短期的な経済情勢,国の支援策等のいかんによらない,恒常的で持続可能な産学連携の体制の構築が求められる。具体的には,1大学院と産業界が,目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有して,産学協同で教育プログラムを開発・実施することや,2単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施などが考えられる。
(中略)
その他,それぞれの専攻分野や業種などに応じて,大学院の側と産業界側の情報交換の機会を充実させることも極めて重要であり,職能団体や学協会等はこのような場の設定に主体的な役割を果たすことが期待される。
 なお,税制面においては,平成17年度から,人材養成に積極的に取り組む企業について教育訓練費の一定割合を法人税額から控除する人材投資促進税制が創設されたことを踏まえ,産業界等は,このような制度の積極的な活用等により大学院教育に係る支援体制を充実することが期待される。

<大学院修了者の進路の多様化>
   高度な知識基盤社会を支える人材として,専門応用能力を有する博士,修士の学位の取得者が,今後,社会の多様な場で活躍することが重要である。特に,博士の学位の取得者について,産業界においては,研究開発をマネジメントできるリーダーとしての役割のみならず,産学官連携プロジェクトを構築するなど産学官連携を実践する鍵(かぎ)としての役割も期待されるが,例えば,米国と比べて民間企業への就職は少ない状況にある。また,知識基盤社会においては,最先端の学理の探求や基礎研究成果を創出し,新たな知識体系を創造・構築していく人材のみならず,社会のニーズや課題に対して,必要な知識を活用・統合しつつ,中長期的展望に立って新たな技術的価値や解決策を創出したり,基礎的な研究成果の可能性を的確に見抜き,産業化に結びつけることができる人材の活躍が求められる。
 これらを踏まえ,大学院教育の改革や人材養成面での大学と産業界等との連携を強化するとともに,学生はもとより,大学,産業界等の各主体が,博士課程修了者は大学の研究者になることが当然という意識を改める必要がある。博士課程修了者等の多様な進路の開拓を図るため,各大学院においては,幅広い知識・能力に裏打ちされた高度な専門性を培い,社会のニーズの変化に対応できる人材養成を行うよう,教育内容・方法の改善や教員の資質向上,インターンシップへの参加を含む学生のキャリアパス形成に関する指導,博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール等に取り組むことが求められる。企業等においては,大学院教育に対する自らのニーズを明確に示すことや,博士の学位の取得者等について,年齢等にかかわらず,課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うなど,今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置などの知的経営に向けた構造的改革への努力が求められ,企業側のこのような意欲的な取組を評価し,顕彰することも有効であると考えられる。なお,特に修士課程及び博士課程(前期)の在籍者については,就職活動の早期化により学修時間が圧迫されることのないよう企業側にも適切な配慮が望まれる。
  また,大学と産業界との連携が深まるためには,研究者や高度な専門的知識を持つ者が多様に流動することが効果的であるが,それには,そのような流動が広く行われる社会的条件が形成されることが求められ,このような方向に向けて,大学と企業等との人材交流が推進されることも必要である。
 大学や企業等の双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ,国は,産学官連携による人材養成の取組への支援や,社会ニーズを踏まえた魅力ある教育を行う大学院への支援を行うことが必要である。

(3) 学修・研究環境の改善及び流動性の拡大
1 学生に対する修学上の支援及び流動性の拡大のための方策
 博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため,博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援策の充実を図ることが重要である。
    【具体的取組】
 特別研究員事業,及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充
 学生への経済的支援制度の審査等の早期化

 学生においても,高度な研究水準にある大学院等で,異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり,異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり,学生の流動性を拡大していくことが必要である。
    【具体的取組】
 大学院入学後の補完的な教育プログラムの提供

 さらに,社会人の大学院教育に対する期待にこたえるため,そのニーズを的確に受容し,大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。
    【具体的取組】
 企業等におけるキャリアパス形成に応じた各大学院におけるリカレント教育の実施
 社会人の大学院への進学・再入学についての産業界等による支援
<社会人が学ぶための環境整備>
  (中略) 今後は,産業界が社会人の大学院への進学・再入学をより積極的に支援していくことが重要である。例えば,雇用関係をいったん離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して採用の機会を提供し,採用後は十分な処遇を用意することなど,人事・処遇を含めた職務体制・環境の見直しが求められる。さらに,十分な研究実績がある社会人の大学院教育に対する学習需要にこたえるため,その研究歴等を勘案した上で適切な教育・研究指導を行うことなどを目的とした博士課程短期在学コースの創設の検討等を行っていくことが必要である。
2 若手教員の教育研究環境の改善及び流動性の拡大のための方策
 大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには,若手教員の研究環境の改善,とりわけ,博士課程学生からポスドク,助教等といった大学における教員・研究者としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援措置の推進を図っていく必要がある。
    【具体的取組】
 若手教員のキャリアパスに応じた体系的な教育研究環境の整備

 大学院の教育研究能力を高めていくためには,多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員・研究者が相互に刺激し合い影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり,教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。このような人材の流動性拡大の検討に当たっては,産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要である。
    【具体的取組】
 各大学院による教員の流動性拡大に関する取組の実施
 各大学院における教員の流動性に関する取組の競争的研究資金の審査・評価への反映
  企業等における研究者の流動性に関する取組の実施
<教員・研究者の流動性の拡大>
  (中略)
  企業等は,我が国で最も多くの研究人材を抱えており,大学等との人材の流動化を進めることにより,多様な研究経歴を持つ研究人材が切磋琢磨する中で技術革新を図り,我が国の産業競争力の強化を図ることが求められている。
 また,今後の知識基盤社会にあっては,新たな知見や価値を創出していく人材を数多く輩出し,知的セクターを形成する研究基盤の重層化を図っていくことが,国全体の持続的な発展のために極めて重要である。このような基盤を形成するために,大学院と社会とを往復しながら研究者等の資質・能力の向上を図っていけるような社会へと転換していくことが求められる。しかしながら,企業等における研究人材の異動回数は比較的少なく,機関を越えての人材の流動性が低いとの指摘がある。このため,例えば,
  1  修士・博士等の学位の種類に応じた適切な採用・処遇に配慮すること,とりわけ博士の学位取得者について,年齢等にかかわらず,課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うこと
2   企業等の研究者・技術者が,一定期間大学等他の研究の場で研鑽を積むことや,博士課程へ進学,再入学して学位を取得することへの職務上のサポートや人事・処遇面に係るインセンティブを付与すること
3   大学院・企業等が同様の専門分野で任期付研究者やポスドクに関する人材交流を進めること
など,今後の知識基盤社会に向けた努力が求められる。

第3章   大学院教育の改革を推進するための計画と社会的環境の醸成
2   大学院教育の改革を推進するための社会的環境の醸成
<高等教育への支援の拡充>
   本審議会答申「我が国の高等教育の将来像」で述べたとおり,高等教育機関は,国公私立を通じ,その特色に応じて,教育・文化,科学技術・学術,医療,産業・経済等社会の発展の基盤として中核的な機能を有する極めて重要な存在であり,人文・社会科学,自然科学の各分野におけるバランスのとれた教育研究の推進が欠かせない。高等教育に関しては,学生個人と共に,高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者である。これを踏まえ,大学院教育を含めた高等教育に要する費用は,学生個人のほかに,産業界等を含む社会全体も負担すべきものであり,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。(後略)

<自己資金調達と外部資金導入に係る環境醸成と条件整備>
   高等教育機関への公財政支出の拡充を図る一方で,産業界等には,国内の大学を投資対象として一層積極的に評価・活用することが求められる。そのためには,我が国の大学の教育研究水準や経営状態等に関する大学側からの適時適切な情報の提供が不可欠であるが,より効率的な投資行動のため,産業界等の側にも最新の正確な情報を能動的に収集する努力が自ずと求められる。共同研究の実施や寄附講座の開設などの大学における産業界等からの外部資金の受入れは着実に増加してきているが,大学におけるバランスのとれた財政基盤を確立し,社会のニーズにこたえた教育研究活動を活発に行っていくためには,起債等自己資金の調達や寄附金,技術移転等も含めこれまで以上に資金面を含めた産学官の連携を促進していくことが重要であり,企業等が投資しやすくする環境の醸成に努めていく必要がある。また,各企業の人材養成,経営・研究開発戦略において,共同研究や共同教育プログラム等を産学官連携の柱の一つとして明確に位置付けることも期待される。
 今後の知識基盤社会にあって,短期的な経済情勢や国の支援策のいかんによらず産業競争力を持続的に維持・強化していける産学官連携の体制の構築が求められる。なお,研究面については,平成15年度から特別共同試験研究税額控除制度が設けられ,また,教育・人材養成面については,平成17年度から人材投資促進税制が創設された。企業側には,産学官連携の体制の構築に当たり,このような税制面の優遇措置を積極的に活用していくことが期待される。


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