大学教育部会(第8回) 議事録

1.日時

平成23年12月9日(金曜日)17時~19時

2.場所

文部科学省東館3階 3F1特別会議室

3.出席者

委員

(部会長)佐々木雄太部会長
(副部会長)谷口功副部会長,黒田壽二副部会長
(委員)浦野光人,金子元久,宮崎緑の各委員
(臨時委員)林勇二郎,吉田文の各臨時委員
(専門委員)荻上紘一,高祖敏明,篠田道夫,鈴木典比古,田中愛治,長束倫夫,納谷廣美,濱名篤,山田礼子の各専門委員

文部科学省

金森文部科学審議官,磯田高等教育局長,河村文教施設企画部長,小松私学部長,常盤高等教育局審議官,勝野私学行政課長,藤原大学振興課長,榎本高等教育政策室長,森友教育改革推進室長,石橋大学振興課課長補佐,西川高等教育政策室室長補佐,小山田高等教育政策室専門官 他

4.議事録

(1)国際的な動向を踏まえた大学教育の展開について,文部科学省から資料1~資料4の説明があり,意見交換が行われた。

【佐々木部会長】 課題は,資料2に書いてありますとおり,学生の学習密度をいかに高めていくかということです。そのためには,学士課程答申に列挙されているさまざまなツールを,答申が言っているように,相互に連携させて運用していくということが大事なのではないか。改めて答申読み直して,これを確認したいと思っているところです。
 そう言いながら,資料の順番にひとつひとつ個別に審議を、というのは矛盾したことになりますし,また,個別に議論していくと時間配分が非常に難しくなります。しかし、トータルに上っ面をなでるよりは,一つ一つのツールの意味についてご確認をいただきながら,そのツールが他のツールとどうかかわり,あるいはどう組み合わさって効果を持つかという観点でご議論いただくのがいいと思います。そこで,資料の2,3,4の順番にご意見をいただいていきたいと思います。
 資料2の前半部分については,これまでの議論の,とりわけ前回の議論のおさらいという性格を持ちますが,これらについて,改めてご意見がありましたら,まずお伺いしておきたいと思います。例えば,2ページ目は金子委員から提起された課題でありますし,3ページ,4ページは,鈴木委員からの提起に基づくものです。両委員から補足することがありましたら,ご意見を賜りたいと思います。いかがでしょうか。

【鈴木委員】 資料2の4ページ目に「参考」,国際基督教大学の例とあり,ここに体系的な教育課程編成,履修指導に基づく教育課程の実施,厳格な成績評価,の3つが挙げてあります。これは簡潔にまとめられていると思いますが,要は,3ページ目のカリキュラム編成上のツール例とあるところの,右側に,シラバス,プログラム・シラバス,ナンバリング,GPA制度,キャップ制等が,ツールという言葉を使っていますが,このツール全体が,1つのパッケージになっているということで,1つが欠けてもうまく機能しません。  例えば,コース・ナンバリングというのがあります。今度の中教審の学士力答申の中で教育課程編成の方針(カリキュラムポリシー)が重要視されていますがこのコース・ナンバリングによって教育課程編成の方針が体系化されることになります。  それから,教育の実質化ということになりますと,授業の具体的内容はシラバスに全て含まれているわけで,これは先ほどですと一番最後の資料でしょうか,アメリカの大学では,シラバスは教員と学生間のコントラクトだと書かれていましたが,ICUでも,これは先生が学生に対してこういう授業を開講しますという1つの宣言であって,学生はそれを受けて,それならばその授業をとります,という,これも宣言であって,宣言と宣言の間の合意ということになります。  それで学期始めに,授業科目を登録するときに,アドヴァイザーが,学生一人一人についているわけですが,今学期はこれらのコースを履修しますということをアドヴァイザーに相談をして,教員もそれならば大丈夫だろう,あるいはこれはとり過ぎだ,あるいは,学生のメジャー(専攻)から考えてこういう科目履修も考えたらどうだろうといったアドヴァイジングを一人一人に行います。履修登録票にアドヴァイザーが署名をしないと,学生は履修届けが受理されないということになっております。ですから,先ほどのナンバリング,それからシラバス,これとアドヴァイザー・アドヴァイジーシステムが非常に有機的に統合されているということになります。  その結果はどうあらわれるかというと,GPAにあらわれるということであります。GPAは,4ページ目の厳格な成績評価という一番右を見ていただきますとわかりますが,先ほど申し上げたアドヴァイザーがサインをしないと科目の登録ができないのですが,教員はサインをする前に,前学期までのGPAを,学生と一緒に精査するということになっておりまして,GPAがこのくらいならば,今までの学期ごとによく勉強してきたはずだとか,あるいは急にGPAが下がったのはどういうわけだ,とか,そういうことを学生にたずねて,学生から答えを引き出すということです。その結果をよく話し合って,例えば今学期は最低の13単位,これが標準ですが,あるいは今学期は15単位履修にしても大丈夫だとか,そういうふうな指導をしております。  それから,次に成績不良による除籍勧告等の厳格な運用を行って,学生の授業放棄を抑止するということが書いてありますが,これも行っております。学生は科目登録をして,その後1週間はこの科目履修をやめますということはできますが,それ以降は登録したものは学期の最後まで履修しないといけないということになっております。これがコントラクトということの内容であり,途中で放棄しますと,成績は不可となり記録にも残ってしまい、体系的な科目の履修ができなくなってしまう。要するに,最後のところ,学習成果としてのディプロマポリシーがあやふやになってしまうということですので,学生に勝手に学期中に授業放棄をさせないということが,質の保証にとって非常に重要なことになります。  それから,いろいろな理由で成績不良の学生は出てくるわけで,ICUでは,4年間で3学期,GPAが1.0を下回りますと除籍の勧告をするということになっております。ただ,やはり救いの手を差し伸べないといけないというのは当然であり,例えば,ある学期に1.0未満のGPAが2回目になりますと,教養学部長のほうからウォーニング,警告が出されます。1.0を下回っているから勉強をきちんとやるようにと,これはアドヴァイザーにも保護者にも警告が出されます。そうすると,教員は学生を呼んでこれはどういうことだったのかという確認をするということを行います。このままいくと除籍ですぞという警告で、学生もこのくらいになるとかなり真剣に勉強をやり直さないといけないということになります。お子さんの学業成績が思わしくないので,このままでは大学を退学していただく可能性もありますという知らせが出されます。しかし,そこでやめるというよりも,教養学部長はアドヴァイザーを呼んで,どういう状況かということを確認します。例えば,私もアドヴァイジーを今も持っていますから,その学生が成績不良ですと学長であっても教養学部長に説明しないといけないという状況もあります。とにかく,面接をして,事情がわかれば,教養学部長が教育的見地から再考して,とにかくしっかりやれということで,履修を許す。そのときには,アドヴァイザーが,これからはしっかり監督して,成績を上げさせますので今回は認めてくれというふうな,要するにペティションというのを書かなければいけません。ですから,アドヴァイザーの先生は,どうしても学生の生活指導,それから学業の指導ということにかかわっていかざるを得ないということになります。  GPAは,成績優秀者の顕彰にも使われます。例えばGPAは4点が満点ですが,毎学期3.70以上の学生は,教養学部長がディーンズリストというのをつくって,当該の学生およびアドヴァイザーにディーンズレターを出します。それから,GPAというのは,ある意味でグレードインフレーションというのに非常に敏感にあらわれてきます。教授会で,前学期の大学全体の分野毎のGPAはどうだったかというGPA一覧表が教授会で配られることになっております。そうすると,やはりGPAをこのくらいまでに抑えるようにということは全く指示はないのですが,分野によってはGPAが3.2とかの数字が出てきますと,かなりインフレ気味ですねというような共通理解があります。成績としてはAが4点,Bが3点,Cが2点,Dが1点,それで,Fというのが0点ということですが,大体GPAは2.6から2.7くらいの間が,つまりBとCの間くらいが,慣例的に,まあこのくらいだろうというふうな,教員全体の共通理解として受けとめられています。  こうGPA制度を厳格にやっていきますと,海外留学するなどという場合に,海外の大学はこれをきちんと受けとめてもらえるということがあります。  GPA制度というのは,内部的にそういうふうに成績管理という面もありますが,今申し上げたように,海外との学生の単位の互換や,就職などの時にも,非常に客観性を持って信用に値するかどうかということも見られますので,大切なシステムであると思います。  それからシラバスも,単位の互換制度をやっているときには,非常に多くの場合,例えばICUに留学してきた学生が自分の母校に戻るときに,この科目の成績を持って帰りたい,例えば,ICUとカリフォルニア大学の間で,お互いに留学生が上限30単位までは持って帰れるのですが,そのときに,シラバスの内容を確認するという作業があります。ですから,こちらで使ったシラバスを向こうの成績を管理するオフィスに提出したり,あるいはこれを認める先生が,向こうの先生が自分のシラバスとこっちで教えているシラバスを比較して,これは認められる,認められないということもありえます。ということで,GPA,あるいはシラバスというのは,教育の国際的通用性を持たせるためには,非常に重要な手段であると思われます。

【佐々木部会長】 さまざまなツールをどう機能させていくか,組み合わせて,連携させて機能させていくかという1つの典型として,貴重なお話をいただきました。

【宮崎委員】 資料2の表紙の図ですが,これは単にアメリカの例ということで参考に載せてあると解釈しています。我が国らしい図を書いていくときに,ぜひこれはリクエストしたいと思うのですが,この表紙の図では一方通行なのですよね。教える側から教えられる側に一方通行なのですが,みずから学生が学んでいく,矢印の逆向きとか,互いに刺激し合って学んでいく双方向の矢印とか,そういうものをふんだんに入れた,そのためのSA,TAだと思いますので,そういうことも入れて図を書いていただけると,アメリカとは一味違う我が国というのが出てくると思いました。SA,TAは本来,その業務を通じて学生が自ら学び,伸びていく手段のはずですし,一歩先んじれば師となる半学半協の精神を具現化するための制度だと思いますので。それが1つです。
 それからもう1つは,今までのところのシラバスなどは形として既に,いろいろ大学で様々なバリエーションで行っていると思います。しかし,形は整っていても,実際に運用面で守られているかどうかというと,この辺がなかなかつらいところがあり,各教員のキャラクターにもよったり,いろいろな実効性を巡る問題があると思うのです。ですから,せっかく枠が決まっていても,本当にそれが機能しているかどうかというのをどこで見きわめるかというのは,これはガバナンスのほうのお話になってしまうのかもしれないのですが,それをどうチェックするかというのを,もし,良い例があったら教えていただきたいと思います。

【鈴木委員】 どのくらい学生が勉強しているかを調べる,それも一応やっているのはやっているのですが,例えば,一番端的なのは,ICUの学生1人が図書館から借り出す年間冊数というのは58冊なのです。ですから,1週間に1冊以上借り出しているということです。ICUは学部学生が大体2,600人ですが,全学生の半分つまり1400~1500人は図書館に毎日行っている。半分は図書館に行っているという感じで,これは間接的な証拠ですが,そういうことで,とにかく,図書館に24時間ルーム,24アワールームというのをつくってもらいたいとか,そういうことからして,学生は勉強しているという実質的な面があります。  それから,おっしゃるように先生によって教え方の温度差があります。ですから,そういう先生には,学長である私が,まじめにやってということを言うときもありますが,教養学部長が,学生からこういうコメントが来ていますということを言うこと等を通じて,教育の質向上と実質化を,先生のほうからも図るということはやっております。しかし,おっしゃるように理想どおりにはいかないと思います。

【佐々木部会長】 それでは,シラバスの話も出てきましたので,資料3を含めて,ご意見をいただきたいと思います。冒頭に認証評価の評価基準の問題がありますので,これについて納谷委員,荻上委員からご意見いただければと思います。また,金沢工業大学の事例については,黒田委員からコメントをいただきたいと思います。

【荻上委員】 この資料3の1ページ,2ページあたりのところで,シラバスがつくられているかどうかは,見ればわかりますから,評価するのは簡単です。しかし,活用されているかということは,評価する際には難しかったと理解しております。大学によっては,授業評価アンケートなどの中で学生にそういった質問項目を設けているところもありましたが,そうでないと,学生インタビューの中で学生に聞いて,大体返ってくる答えは決まっていました。学期始めに使いますと。「シラバスをよく使っていると思う人,手を挙げてください」というような聞き方をしましたが,半数ぐらいの学生が手を挙げて,「どういう使い方をしていますか」と聞くと,大体,学期始めに科目選択などでは使いましたと答えが返ってきます。「常時,シラバスを持って歩いて,それを見ながら学習をしたという人はいますか」というと,1人ぐらいはいる大学もありましたが,ほとんど手が挙がらないという,大体そんな状況です。
 それから,シラバスに関して言うと,今この資料にあったような,こういう詳しいシラバスをつくっている大学はごく稀で,ほとんどは1ページのシラバス,それはカタログというのでしょうか,そういうものが大部分でした。
 それから,授業形態,学習指導法などについて,どんな工夫が行われているかということについても,可能な限り調査はいたしましたが,これも小さい大学の場合にはそれなりに見ることができたと思っていますが,巨大大学の場合には,そこまで見るのはほとんど不可能だったというのが実感です。

【佐々木部会長】 資料3の冒頭のページの一番下に,シラバスとコース・カタログとの違いに留意するようにというコメントの記載がありますが,ここのあたりはどうですか。金沢工業大学の事例は、かなり詳細なシラバスの一例だと思いますが,黒田委員からご説明いただけますか。

【黒田副部会長】 私の大学は工科系ですから,基本となるのはアメリカのエーベット(ABET)の評価教育システムです。これもどんどん毎年変わっているのですが,それが大体基本になっています。それと合わせて,日本のJABEEの審査を受けるということになっていますから,これも相当,JABEEの審査は厳しいのです。細かいところまで入ってこられます。
 そういうことがあって,このシラバスというのは非常に重要視しているのですが,今日,参考に出ていますのは,この「プロジェクトデザイン」という,アメリカではエンジニアリングデザインという呼び方をしていますが,アクティブラーニングとして1年から4年までの間,これをずっと続けていって,4年のときにはこのプロジェクトデザインで学生たちが設計したことについて発表する,毎年発表しているのですが,4年のときの発表には多くの一般企業の方が傍聴に来られます。その傍聴の中で,いろんな質問が企業の方から出る,それに学生が答えていくという,そういうシステムになっているのですが,このシラバスだけをとらえますと,何だ,こんなものかということなのですが,各コースで,どういうステップで勉学をしていくかというものは別につくられています。それによって,学生たちはどういう方向で勉強していったらいいかということが見られるようになって,各個人がどういうコースを選んでいったらいいかということを判断するということになります。
 金沢工業大学の特徴は,一般にGPAと言われていますが,本学ではQPAと呼んでいるのです。「クオリティー」という言葉を使っています。といいますのは,ただ単にテストの成績の評価だけでなく,普段の生活態度や学習姿勢などが加わってくるのです。それによっての評価なものですから,QPAという表現であえて呼んでいるわけですが,ご覧いただきますと,テストだけでは単位が取れないということになっています。
 本学にはCLIPという特別な学生の勉学システムがあるわけです。学習ポートフォリオからキャリアポートフォリオに至るまでのことをずっと継続的に学生たちは記録を残していくという方法をとっていますので,これは先生方が毎週,学生のポートフォリオをチェックするというのは大変ですが,学生の書いたポートフォリオに対してコメントをつけて返しているということをやっております。
 そういうことが総合的にやられる中での1科目のシラバスというのが,こういうことになっていますよという例として挙げさせていただいているわけです。金沢工業大学の代表的なプロジェクトデザイン,工学教育の中心になる分野です。すべての学問を集大成してこないと,このデザインはできないということになるものですから,これを中心の柱に掲げていますが,それぞれの分野において,こういうシラバスがつくられ,私どもの大学では,成績評価というのは個人の教員1人が評価するのではないのです。共通的に議論をして評価していくということになっていますので,何人かの先生方で1つの科目を持っていますと,共通の土台をつくった上での評価をする。ですから,その辺が今,日本で行われているシステムとは違うかもしれませんが,客観的に評価をしていくということをやっております。

【田中委員】 シラバス,非常に勉強になりました。金沢工業大学の黒田委員のところのシラバスは非常に丁寧につくられていて,すごくよくできていると思うのです。
 ただ,早稲田大学の場合でも北海道大学と金沢工業大学とちょうど中間ぐらいの感じなのですが,毎週何をやるかということまで書くのですが,早稲田大学で私が今問題だと思っているのは,シラバス集という,こういう厚い本をものをつくっているわけですね。今はコンピューターのウェブに載っていますから,学生たちはそれをダウンロードして,1枚1枚出せるようになっていますが,つい4年ぐらい前までは厚い本になっていた。そんなものを持って歩く学生はいないわけです。
 それで,ワシントン大学,ユニバーシティー・オブ・ワシントンのシラバスは,数えてみますと,ページで9ページになるわけですが,9ページのシラバスで,先ほど荻上委員がおっしゃっていたとおり,シラバスというのは授業が始まったときに学生がそれを持って授業に行く,明日はこの授業だというときに何を読んでいかないといけないかということを学ぶためのガイドラインである,教えるほうもそれに沿って教えるという,これは金子委員がよくご存じのことで,アメリカでは当然なのです。日本では,どうしても文部科学省に言われて,シラバスをつくることが目的化してきて,つくったからもういいとなっている。学生はそれをただ家に置いているだけでもいいようになってしまっているのです。これでは本来のシラバスの機能になっていないのです。毎週の授業に,きちんとシラバスに沿って勉強するガイドラインが本来の役割だろうと思うのです。そこのところが教員も学生もまだよくわかっていないのではないかというのが,私自身の大学でもそうなのです。
 金沢工業大学のを見ると,そこが相当丁寧にやられているようなのですが,あとは一教員それぞれと学生一人一人が本来の目的を理解していただくことが,教育の実質化について重要でないかと思っております。

【黒田副部会長】 今,お褒めをいただいたのですが,私のところはシラバスという表現をわざわざ括弧書きにしたのはそこにあるのです。学生の学習支援計画書と称しています。学生は学習ノートというのを持っているわけです。そのノートに,ページからダウンロードして自分のシラバスをつけ加えていく。それにプラス学習ポートフォリオというのがついてくるわけです。だから,これに従って,学生は今どういうことを学んだか,どこがわからなかったということもポートフォリオには書くようにしているわけです。そういう積み重ねで,卒業するまでに分厚い一人一人のノートができ上がるわけですが,それが非常に大切だということにしております。

【濱名委員】 黒田委員にお尋ねしたいのですが,私も以前から敬服して拝見しているのですが,わかりにくいのは,授業方法の中でかなりチーム活動を入れていらっしゃるのですが,総合力指標と達成度評価のマトリックスを見たときに,どこでグループとしてのワークを評価されようとしているのかというのが,この資料からだと少しよくわかりにくいのです。
 その点について,もしおわかりであれば教えをいただきたいのと,それとアメリカのシラバスの中で,ウイークリーレポートの作成とか,課題が出てくるのですが,課題自体はその都度,表示をするというやり方をとっておられるのか,あるいはこれとは別に,課題のリスト,アメリカでシラバスだと,具体的にアサインメントも含めて何をやるかというのがあらかじめ示されているのですが,そのあたりについて,金沢工業大学の場合はどうされているのか,教えていただければと思うのですが。

【黒田副部会長】 「プロジェクトデザイン」というのはチームラーニングのシステムです。大体6人ぐらいで1組になってこのプロジェクトを進めるということになっていますから,テーマの選定も学生が選定する。大枠は教授の方が示すのですが,学生の提案したものがよければそれで研究を進めなさいということになり,そのときに6人が何を担当するかというのを決めます。決めていって,それで週ごとにローテーションをかけていくというやり方をしています。
 ですから,自分の役割というのは一通り一巡することになるということになります。5ページのところに書いてありますが,その他のところで,個人評点が23点未満の場合は,チームとしての評価点は加算されませんと書いてあります。ですから,個人も努力して勉強しないといけない,だれかに頼ってレポートができたようではだめだということをここでうたっているわけです。ですから,そういう点では非常に学生たちは真剣に対応してくれていると思います。

【鈴木委員】 先ほど,荻上委員がシラバスのことについてお話しになったときに,シラバスが学習のためのシラバスになっていないことをおっしゃり,それから田中委員もそういうことをおっしゃっていました。資料3の冒頭ページ目の一番下ですが,「シラバスの実態が,授業内容の概要を総覧する資料(コース・カタログ)と同等のものにとどまらないようにすること」とあります。これが実は,日本でシラバスと考えられるものの多くはコース・カタログなのです。ですから,実際の受講生が,次のクラスに出席するまでにどういう予習をしていったらいいのかということに役に立たない。ここをしっかりと区別する必要があると思うのです。それが非常に重要なことだと思います。  それから,先ほど宮崎委員のほうから,実際,学生にどう勉強させるかという質問でしたが,例えばICUの場合には,シラバスよりももっと直接的に,毎回毎回の授業でコメントシートというのを学生に配ります。これは授業が始まる前に,A4の大きさの紙の半分くらいのものなのですが,これを配って,記名式で,授業終了時に当該授業に関するコメントを書かせます。コメントシートは授業の終わりに必ずTAが集めてきて,授業が終わった後,教員の研究室でTAと2人で,どういうコメントがあったかというのを調べる。そして次の授業のときに,そのコメントシートでどういうコメントがあったかというところから授業を始める。  これは,1つには前の授業で理解できなかった箇所などの積み残しを起こさせない,つまり前の授業をきちんとわかって次の授業に進めるということを確認するということと,もう一つは,これはオフィスアワーの一つの形態だということです。1週間に1回,2時間ほど教員が研究室のドアをあけて,オフィスアワーですよといったって学生は来ません。ですから,学習の指導という観点からすると,本当に授業についてきているのか,あるいはわかっているのかというのは,このコメントシートを通じて確認できるということです。  もう一つは,コメントシートの内容は学期が進むにしたがって,その内容がずっと変わっていきます。1週目,2週目ぐらいは,試験はどんな試験をやるのですかとか,あるいはこの授業は難しいですかというコメントなのですが,やはり3週,4週,あるいは5週目になってくると,授業の内容についてのコメントシートになります。それから,次になってくると,この授業の後にどういう次の授業をとったらいいでしょうかといった質問に移っていく。つまり,学びの深まり,広がりというのがわかるのです。  ですから,シラバス,これも大切であると。しかし,本当の現場での学びの実質化というのは,こういう工夫がどうしても必要で,このような教育の向上の試みはどのくらいの規模のクラスでやれるかというのもあるのですが,私はTA等を使えば100人,150人,200人ぐらいのサイズでもやれるはずだと思います。

【荻上委員】 今の関連で,鈴木委員が言われたようなコメントシートのようなことをおやりになっている大学は,私どもが評価した中でも幾つかありました。それを,今,委員が紹介されたように有効に活用していると思われる大学に対しては,すぐれた点として積極的に評価をするようにしてきたつもりです。
 それから,シラバスで冒頭ページ目の一番下にある「(コース・カタログ)と同等のものにとどまらないようにすること」という,これに関しては,シラバスというものが義務づけられてといいますか,各大学がシラバス――と言ってはいけない,コース・カタログなのかもしれませんが,そういうものをつくるようになってまだ日が浅いということもあって,コース・カタログにとどまっていると思われるようなものでも,「これはシラバスではありません,こんなものではいけません」という評価は,一回り目にはしませんでした。1ページのものであっても,シラバスとして認めてきましたが,この数年の間にかなりよくなってきたと思います。最初のころは相当空欄が目立っていました。1ページであってもかなり空欄が目立っていましたが,さすがに最近は,1ページのコース・カタログに関して言えば,ほぼ必要なことが埋めつくされています。全学で統一フォーマットでおやりになるところまでは来ていて,その内容はほぼ空欄がないように埋められているというところまでは来ていましたので,コース・カタログと同等のものにとどまらないようにという意味では不十分だとは思いますが,一回り目に関しては,それでよしというか,ネガティブな評価をするということはいたしませんでした。
 これから2期目に関しては,多分,コース・カタログでは不十分であるという評価をきちんとしていくことになるのかと思いますが,1周期目の実情を申し上げるとそんなことでした。

【納谷委員】 今,荻上委員がおっしゃられたことは,大学基準協会の場合でもほぼ同じ状況だと言ったほうが,総括的にはいいと思います。詳しい話はむしろ鈴木委員のほうが正確にご案内できると思います。
 大学基準協会の評価も,大学全体で評価するのが認証評価になっていますから,例えばA学部,B学部にこれこれの問題があるとか,いいところがあるとか,こういうことがせいぜいのところで,シラバスに関する評価の仕方については非常に難しいところがあります。
 ただ,大学基準協会でも,基準づくりのところで,各分野ごとの評価の基準をつくって,例えばJABEEみたいな形のコアがはっきりできるような工学部とか,そういうところは比較的みんな持っているのです。それに沿ってきちんとシラバスもできている。全体的に言うと,1ページ目にありますような,コース・カタログのほうが文系については多い。ようやくここのレベルに,そろってきたというところではないかと思います。
 もう一つ言えることは,これから私たちは2期目に入って,今,荻上委員がおっしゃられたように,きちんと各大学,学部,研究科でそういうことについてしっかりと取り組んでやり始めているかという点に,今度の認証評価の対象としてかなりウエイトがかかってくることは間違いないと思います。もう一つは,実際やっているかどうかについては,エビデンスを出してもらって,確認できるかどうかというところも従来と違ってウエイトが入ってくる。こういうことは進んでいて,次のステップに進みつつありますが,アメリカの例とか,その他にあるような形のものは,特別な大学とか特別な研究科以外は,少ししかないというのが現実ではないかという印象は持っております。
 以上,これが今の現状ですが,これでいいと言っているわけではなくて,質保証をするためにはコース・カタログではなくて,今まで我々が考え,検証してきた内容のレベルに持っていくように,こちらの部会で,ここはいい例だからきちんとやってほしいというモデルを示していったほうがいいのではないかと思います。
 そういう具合にしていってあげれば,認証評価も全部足並みがそろって,大体こういうことはこういうことという形ができやすくなるのではないかと思っております。

【山田委員】 鈴木委員や納谷委員,田中委員,そして荻上委員のご説明を聞いてずっと疑問に思っていたことが,クリアになってきたのですが,私どもの大学などでも今の時期に書いて出して提出しているシラバスというのは,いわゆるコース・カタログという感覚だなというのが確認できております。私自身もそれはずっと思っておりましたので,学期の初めに5枚ぐらいのかなり詳しいシラバスというものを自分なりにつくって提出して,最初の授業で渡しています。そしてまた,学生によっては,受けている受講生によって,それこそ変わっている部分もありますので,いわゆる形成的評価をしながら授業の15週の間の中で若干ずつ変わってくるということがあります。
 こういうものというのが本来はあり得るかなと思うのですが,もう一つ,先ほどのアメリカの例なんかでもあったように,これはまだ自分自身でも解決できていないところで,ぜひこの部会の中でも考えていくべきことかと思うのですが,いわゆるコントラクトという考え方があって,学生の間でも,コース・カタログらしきものがシラバスということで定着してきて,それを出して,実際に私でもそうなのですが,授業の最初にかなり詳しいシラバスをつくったりしますと,先生,これはコントラクトに違反しているのではないかという,いわゆるクレームコミッティーなんかに学生が持っていくケースというのが結構出てくるのです。
 だから,こういうところというのは,いわゆる形式論で学生も受けとめてきて,それを認識しておりますから,非常に難しい日本独自の問題なのか,アメリカでもどうなのかということもあるのかもしれませんが,そのあたりのコントラクトという考え方をどう考えていくべきかというのも整理していかなければいけないではないかと思ったりいたします。

【納谷委員】 今のことですが,法科大学院の学生たちは,はっきりとそういうことを言って,きちんとやることはやれというニーズは非常に強くなってきています。多分,専門職とか何かの新しい形態の教育分野では,文系でもかなりそれは進んでいる分野だと思います。
 先生方の意識を変えるためには,相当力が要る仕事があるとは思いますが,やはりここで基準を示して,こういう形でやってもらいたいということを提言することが必要だと,私は今の段階ではそう思っております。

【吉田委員】 単純な質問ですが,鈴木委員にお伺いしたいのですが,こういう非常に丁寧なシラバスをつくられているし,手厚い教育をされているのはよくわかるのですが,大体教員のほうは,年間平均して幾つぐらいの授業を持っていると考えてよろしいのでしょうか。

【鈴木委員】 科目的に言いますと,6科目,卒論指導は入っていません。3学期制ですので,1学期2科目ずつ教えるということになります。  ですから,先ほども,例えばクオーター制のところで,先生が,忙しいと,山田委員がおっしゃっていたかもしれませんが,すごく忙しいというわけです。それはそうだろうと思いますが,でもアメリカから来た先生の中には,こんな授業負担は普通ですよ,と言う人もいます。ICUではサバティカルを厳格に守っております。すなわち6年間忙しい時期を過ごすと,1年間の研究期間を取れます。サバティカル中は海外に行って研究する教員が多い。そうすると,行政的には7年に一度,1人欠けるということですから,全教員の7分の1は毎年サバティカル取得中ということなのです。これがカリキュラム維持,教学維持のために非常に大きな課題にはなります。非常勤でどうやっていくかということも含めてです。
 ですから,3学期制ではティーチングロード的に言うと,確かに忙しい。

【吉田委員】 ただ,今のお話を伺って,要は1学期に2科目ということです。おそらく普通の私学の場合には,もっと大きなティーチングロードを持っているというのが一般的だと思うのです。これはこの前も,話に出ておりましたが,日本の大学が非常に細かい範囲でカリキュラムを決めるということのために科目数が増えてしまう,それが結果的に教員の負荷を増やしてしまう。教員の負荷が増えることが,実は手厚い教育ができないような構造になってしまうという悪循環の部分があるのです。なので,今のシラバスなり等々の問題,あるいはTAをどう使うかという問題についても,もう少し構造的な問題も含めて議論ができるようになるといいと思うのですが,その辺りについては,それぞれの大学でどのように工夫されているのかというのは教えていただければと思います。

【濱名委員】 今の吉田委員に対する直接的な答えの前に考えないといけないのは,先ほどの山田委員の表現の中に,現状の問題が隠れている,私なりにとおっしゃったのですが,シラバスに対して私どもが全国学科長調査をやったときに確認した最大の問題は,コース・カタログのレベルということだけではなくて,個々の教員が書いたシラバスがそのまま出てしまう。十数種類のばらばらの科目履修で,横の連携とか,縦の連携は全く調整のないまま,シラバスが出されているということだと思うのです。おそらく金沢工業大学の場合,そうではないと思うのです。全体として,どの科目が何を目標にしてという構造化ができていると思うのです。セメスター問題の議論の中で出ていたように,十数科目をばらばらに科目履修している日本の現状で,他の教員がシラバスを修正できるという回答をされた学科長は4割以下だったのです。多くの大学では学級王国といってもいい状況です。小学校の学級王国は学級担任が1人で,担任によって当たり外れだという話になっているのですが,学校段階が上へ行くほど,個々の教員の持つ影響力は直接的には小さくなる。にもかかわらず,個々の教員はほかの教員とは全く調整をしないという,その問題があるのだろうと思うのです。
 吉田委員が言われていることに対する私どもの試みとしては,できるだけ科目の数を減らそうということです。例えば教育学部は,教免法でほとんど科目が決められている,それは吉田委員のところと同じだと思うのです。そうすると,科目数の減が無理だったら,シラバスを相互にチェックすることで,共通の素材が使えないか,共通のトピックが使えないか,あるいは共通のリーディングスを活用できないかという形で,自分の科目で1から10まで全部教えるのではなくて,できるだけ教員間の調整をし,他の科目と連携をしながら,あるいはシラバスを突き合わせながらというやり方をとっていかないと,シラバスの書式を詳しくしましょうということだけでは,システムは機能しないのです。
 これまで,教員個人のオートノミーというのがものすごく尊重されてきたのが日本の大学だと思うのですが,組織やチームで教えるという部分を,もう少し強調していく必要があるのではないかと思います。

【納谷委員】 私たち明治大学の法科大学院のある科目では,今おっしゃられたことを実際やっているわけです。1つの科目を複数の教員でやらなくてはならないクラスでいえば(50名を1クラスにしても,定員200名でしたら4クラスつくらないといけない),教材としてどういうものを使うか,次の授業で何をやるか,何回目には何をやるか,テストはどこでやるか,どういう内容のテストをするかなど,全部決めてから授業に担当教員全員が入っていくわけです。だから,これを求めていけば,今のような問題はなくなるのですが,従来の学部ではなかなかそんなことはできない。例えば必修科目を3人で持ったら,みんながばらばらの内容で授業,しかもばらばらの進行です。これが基本になっている。これを改めさせることは非常に難しいが,やらないと納得する学習の条件にはならないだろうと思います。でもこれをやらないと,さっき言った,例えばGPAの話でも,A先生に行けば優の数が多くて,こっち側に行ったらものすごく少ない,学生たちは振られた先でいい成績,悪い成績,全体が評価がおかしくなってしまう。
 もう一つ,吉田委員の話を聞いて,いつも思っているのですが,学部では,先生方の研究課題に合わせて授業科目はどんどん増えている。これは自分で自分の首を締めているわけで,やはりどこかで適正な学部が持つ授業数,科目数はお互いに,数量と中身を各学部等でそれぞれの目的に沿ってきちんと決める仕事があるのではないか。これは学部自治できちんとやってもらわないと本当はいけない。これらについては,はっきりと言うべき時期に入ったかと思っています。

【高祖委員】 今,納谷委員がおっしゃってくださったこと,私も今,考えていたのですが,学生にキャップ制があります。今の現状の問題点を考えていくと,例えば,先生にもある種のキャップ制みたいなものが要るのではないでしょうか。ただ,これは国が何か方針を出すということではなくて,もっと上手な考え方をしたらいいと思うのですが,教員の担当する適切な科目数についても切り込んでいかないと,この辺の問題は片づかないような気がします。
 それからもう一つは,私のこれまでの日本での議論の受けとめ方と関係していると思うのですが,ツールとか,今日,紹介されたものを見ていても,どうしても教員のサイドから論じているというイメージがとても強いのです。先ほど山田委員がおっしゃった契約というのは,教員と学生が,いわば経歴とか経験からいったら教員が上なのですが,この学習については,同じ土俵に立って契約するという発想があると思います。
 シラバスなどを通して,そうした発想にどう変えていくかという方向性をはっきりと打ち出して検討を進めていくことが必要なのだろうと思うのです。
 そういう面で,今日ご紹介いただいた資料3のワシントン大学のシラバスを見ると,Expectationsというところの上のほうに,「In this class,students are expected,」とあり,学生に何を求めているかというと,時間どおりに来いとか,何かの事情があって来れないときはきちんと事前に連絡しろとか,学習のマナーの基本から書いてある。しかし,他方でそのページの下のほうには,「As the instructor for this course,students can expect」というのですが,先生に対して学生は何を期待していいのかをはっきり言っているのです。ですから,「契約」という言葉を使うのがいいかどうかはわかりませんが,学生たちの動機づけとインセンティブをどう中に組み込んでいくかということを同時に考えないと,先生のほうから考えたツールを工夫するだけでは足らないのではないか。そんな印象を持っているのですが,その辺について,何か少し議論が深まったらいいと考えております。

【長束委員】 いろいろとお話を伺いまして,まず資料2の3ページにある構図を見させていただいて,非常にすばらしい内容だと思いました。先ほどからシラバスの話もありますが,高校現場でもシラバスをつくりますが,先ほどの金沢工業大学のシラバスなどは,高校レベルでつくっているものからかけ離れて,非常にすばらしいものだと思います。高校では,やはりコース・カタログというものをつくっているという状況ですので,さらにICUのコメントシートですとか,ここにあるようなナンバリング,GPA制,ポートフォリオ,アドバイザーなど,本当に,これが全部きちんと実現すれば,すばらしい大学の教育内容になると思いますし,先ほどからいろいろな大学の実践例というのは本当にすばらしいものだと思っています。
 このすばらしい内容を学生がいかに活用していくかというか,なっていくかというところで,1つ意見というか,考えを述べさせていただきたいと思うのです。大学は学問をする場という意味が1つあって,もう一つ,社会へのかけ橋というか,就職をする生徒は企業に行くという,また大学院に進む,上級学校に進む生徒はそこへということで,キャリアの積み重ねのような部分が意味合いとしてあるのだと思うのです。ここに挙げているいろいろな部分というのは,非常に学問を学ぶ場として,いかに教育内容を上げるかという視点で非常によくできているものと感じました。
 ただ,高校からすると,生徒を大学にいかせ,キャリアの積み重ねと考えますと,実はコース・カタログというのではまだまだということですが,高校現場からすると,コース・カタログでシラバスがあるというのは,生徒にどのような授業を大学でやっているということで大学を選択させるのに非常に役に立つのです。シラバスを見て考えろという指導もできます。
 先ほどの中で,ナンバリングという面では,高校からすると,そのナンバリングが,高校の科目とどう連携するのかというのは教えていただきたいと思いますし,そういう視点でつくっていただけるとプラスになるかと思いますし,GPAという制度も,今,推薦で入学がかなり進んでいますが,そういう中でそれが使えたら生きてくるのかと思います。高校からすると,大学との連携ということで,今,いろいろとお話ししていただいているようなものが生きてくるのかと思いますし,さらに,企業という面で考えていくと,そのナンバリングしているものが企業とどう連携するのか,企業の人材としてどれを勉強したらよいかというのもあったりすると違うのではないかと思います。GPAも,それをもとに企業で採用等とつながっていくと,ただ単に大学の教育内容ということだけではなくて,高校から大学,大学院,先ほど海外の大学に行くのには非常に有効だというお話がありましたが,企業へという形でのつながりができると,学生からすると,やはりどうしても目先というのも考えると思うので,生きてくるのではないかと感じました。
 最後は質問になりますが,金沢工業大学は,非常に就職にも強いということで,いろいろと言われているのですが,先ほどキャリアポートフォリオみたいなお話をされていました。多分,そういった意味で先に生かすということを,もしかしたらやられているのかと思いましたので,その点についてお聞かせいただければと思います。

【黒田副部会長】 キャリアポートフォリオというのは,最終的に自分が進むべき道を書かせているわけです。これは,学年が進むごとに変わっていきます。自分の修めた学問の内容と社会とのつながり,その辺をしっかり自分なりに自覚をしてもらうという,大きな意味があるのです。だから,年齢が上がるに従って,自分がやりたいと思っていることが変わってくる,そのことを自分が自覚するということが非常に重要なのです。それによって自分は将来,こういうふうに最終的に進みたいのだと。それに従って就職活動もお手伝いをしていくということをやっているのです。
 ですから,ただ単に就職活動だけをやっているのではなく,こういうプロジェクトデザインのところで企業の方が,大体300社以上の方が来られて,学生と直接議論をされますので,そういう意味では非常に就職にも役に立っているということですし,学生自身が大学の先生からの質問ではなくして,企業の人からの質問に答えていくわけですから,大変緊張してやっている。それで産業界とのつながりというのが非常に強くなってきていると思っています。

【林委員】 資料2の3ページ目のツールでいろいろな議論がされていますが,学位授与の方針があって,それは最終的にカリキュラムを組まれて,アドミッションポリシーにいきますが,その辺のところは大学の自治,学問の自由の中で組まれていく,そういう評価がされます。
 認証評価が2順目になってくる中で,シラバスのあり方も今のようにカタログではないということで,その辺が非常にいい方向に来るとは思うのですが,どこまでが大学のそれぞれの自治なのか,あるいは学部,学科,研究科の方針でいけばいいのか,中身まで入る必要があるのか。今少し就職の関係があったり,コース,ナンバリングの中の中身の話も聞きましたが,いわゆるあくまでも学位授与の方針なのです。だから,専門職大学院,法科大学院の話も出ましたが,法科大学院の法曹の試験に受かるためではなくて,あくまでも学位授与という方向でないと,法科大学院も困るわけなのですが,ただそうはいいながらも,目的型の教育からいいますと,シラバスの中で書き込まれていないような具体的に,こんなことをやるということになってきますと,ぎりぎりのところを書かざるを得ないようなことが出てくるのではないかと思うのです。
 ですから,国家試験につながるようなもの,卒業,学位と同時にそういうものを取らないと意味がないというところは,かなりそういうせめぎ合いが出てくるところで厳しいという感じがします。
 それから,例えば実践とか実務的な教育をやらないと,今,どちらかというと,学問のための学問だけではなかなか企業としては,受け入れがたい。むしろ実践,実務をやるような工学部,例えば金沢工業大学でいいますと,エンジニアリングデザイン,プロジェクトデザインになるのでしょうか,そういうものが組み込まれているかどうかということがものすごく重要であって,それがなくてもうちはいいということになると,あくまでもスコラ的なものになってしまうということも含めて,認証が当然出てくるでしょう。
 そうすると,学部,あるいは学科,文学部はこうで,あるいはここはこうということがある程度枠組みは組まれていくということなのですか。

【納谷委員】 少し誤解があるかもしれないのですが,分野ごとの基準は,できているところとできていないというか,できかねると言ったほうがいいのでしょうか,それは確かに部分的にあります。
 それからもう一つ言えることは,今あるのは学部とか学科ごとにその基本方針はきちんと定めているが,もう一つ踏み込んで,ある分野の講座制や授業科目につき具体的に決めるところまでやり切れていない大学が多いことです。
 私たちは,それはいいと言っているわけではないのですが,そこを各学部で,またはコースごとにきちんとやってほしい。コースは比較的決まっていると思うのですが,そこを自分たちはこういうレベルで,こういう内容でやりたいということを,まず自らの方針として学部で決めています。現実,そこが学部自治で,そこがきちんとやられているかどうかということを,認証評価機関としてはきちんとチェックをかけます。
 今おっしゃられたように,学部で決めたフレームが,本当に分野として適当か適当でないかということは,また別な問題です。我々の基準で,それは少し不十分ではないかと判定したときは,そのことを指摘する。こういうのが今の認証評価のやり方だと基本的には考えます。

【林委員】 だから,その辺のところがどんどん進化して,変わっていっていると思うのです。インターンシップをどんどん入れないといけないとか。

【納谷委員】 そういうことも,もちろん,望ましい。この大学としてはこういうインターンシップを強めて,それに合うような人材教育をしたいという自分たちで目標設定しますと,認証機関としては,実際それをきちんとやっているかどうかということをチェックします。やっているという言葉だけでは不十分だったときは,ヒアリングを行ったり,実施調査を行う。こういうことで詰めていきます。

【荻上委員】 先ほど来,話題になったことに関して2点申し上げたいと思います。
 先ほど,濱名委員から,各教員が書いたシラバスがそのまま出てくる,重なっていたり,抜けていたりということが起きるという話がありましたが,これはシラバスの問題ではなくてFDの問題だと私は理解しています。どこの大学に行っても必ず「FDをやっていますか」と聞きますが,必ず「やっています」という返事は返ってきます。しかし,そのほとんどが研修会,あるいは講演会といったようなレベルにとどまっていて,まさに科目間の打ち合わせといったようなことが丁寧に行われている,これが本来のFDのはずですが,そういったことが行われていると我々が確認できた大学は,残念ながらあまり多くなかったというのが,これも1期目の実情です。FDというものに対して,若干誤解が多くの大学にあるのではないかと思います。
 それからもう一点は,教員の,授業が増えてくるという話がありましたが,これはまさに教育課程編成の方針といいますか,学位プログラムといいますか,そこがきちんとしていないからだというのを,これも1期目の評価をしてみて強く感じた点です。学位プログラム,あるいはカリキュラムがきちんと決まっていて,それに基づいて教員組織編成が行われ,授業科目が決まっていくべきものであると我々は理解しておりますが,しばしば,先生が先にいて,授業科目が決まるという,これは教育課程編成の方針に反すると思いますから,まずはそういう意味では,教育課程編成の方針の重要性がすべての大学にきちんと理解されているとは言えない状況だと言わざるを得ないかと思います。

 

(2)ルーブリックについて,濱名委員から資料5に基づいて説明があり,その後,意見交換が行われた。

【佐々木部会長】 「ルーブリック」とは何か,私も辞書を引いてみたのですが,よくわかりません。今日は,濱名委員からご説明をいただきたいと思います。これは,成績評価にかかわる基準の問題だと思いますので,ご説明いただいた後,先程のシラバスの議論も含めて審議を続けたいと思います。

【濱名委員】 資料5をごらんいただきたいと思います。
 「ルーブリック」という言葉が先行してしまったのですが,具体的には,1)にありますように,「目標に準拠した評価」のための「基準」つくりの方法論とお考えいただいて,学生が何を学習するのかを示す評価基準,初中等教育では規準(のりじゅん)とか基準(もとじゅん)とかと言うのですが,評価の観点を示すものと,学生が規準の中で学習到達しているレベルを示す具体的なクライテリア,評価,これは基準(もとじゅん)と言うようですが,これをマトリックス形式で示す評価指標です。これだけですと,少しわかりにくいのですが,一番代表的なルーブリックは全米カレッジ・大学協会AAC&Uがつくっておりますバリュールーブリックというものです。これは1ページの下のところに6)に出てきますが。ただ,PISAとか,文科省の教育課程実施状況調査でも,一部ルーブリックは既に導入はされているということです。
 ちなみに,谷口委員の熊本大学のウェブサイトの学習指導評価論にもこういう説明が出ております。
 それでは,なぜバリュールーブリックが出てきたかというと,AAC&Uはアメリカの中でもCLAとかMAPPといったテストによってアウトカムを測定することに対して,非常に否定的な団体ですので,スペリングレポート以降,そうした動きへの対抗策を考えていく中で,このバリュールーブリックをつくったということです。
 これ,実は後ろのほうに本学の吉田武大という教員が書きました紹介論文がありますので,詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが,全米のジェネラルエデュケーションの中で出てくるであろう共通性のある到達目標というのを,2ページの裏にあります15領域を想定いたして,これについて全米の大学で実際に使われているルーブリックを集めて,それをもとにつくり上げたものです。
 柱立てとしては,学士力に似ているのですが,知的・実践スキルというものと,個人的社会的責任感という部分と,それと学習の統合,学士力の議論の際にこの辺の資料は見ていましたので,似てきて当然というところでして,そこにあります15の力です。
 そこで,どんなものかを見ていただくためには,この別添資料2がバリュールーブリックの中からのサンプルです。15の中で日本語に訳したもの,本学内でつくったものがありますのでそのひとつです。これはクリティカルシンキングです。「はじめに」というところは,15項目,ほとんど同じようなフォーマットになっていまして,大学で活用されている既存のルーブリックを幅広く調査して,学習成果の記録を参照して,タスクフォースでつくったものであるということで,その中ではそれぞれの学習成果における基本的な評価基準をはっきり明示するもので,学生に求められるパフォーマンスレベルを下位の到達レベルから上位の,より洗練されたレベルへ漸進的に明示するというものです。
 ここでクリティカルシンキングは何かという定義があり,その後,概念説明の部分があって,表があります。この表は縦側が規準と言われている評価の観点です。クリティカルシンキングは,能力を身につけることと,危険負担と問題解決と反論を包含していることと,結論と含意,それと総合化することという6つの観点から構成されている。横軸が「秀」から「可」へ4段階で設定されています,1段階が一番ベースになるわけですが,1から4に右から左へといけばいくほど,到達度が高くなるというのでしょうか,より高度のパフォーマンスレベルだと設定してあります。ちなみに,AAC&Uは,これはこのままで評価に使うものではない,あくまで観点の整理だという言い方をしています。
 それでは,現実に日本の国内で使っている事例というのはあまりないのですが,別添資料の3に,日本国内で大学の中で使っている学内共通でリサーチに関するルーブリックを使っている例をつけさせていただきました。これはリサーチに関するルーブリックで,縦が規準です。ですから,テーマの立て方,これまでに明らかにされている知見の活用ができているか,研究方法と分析の視点が定まっているか,それと現実に分析ができているか,そして結論が明らかになっているか。横が0から5までの6段階で設定しています。これは,AAC&Uを見たときに,実際にAAC&Uどおりのルーブリックを直接評価に使うと,1年生はみんな0とか1しかつかないのですね。上級生は0や1でもいいのかというと,そういうわけにもいかないので,このケースの場合は,その次の表は,1年生の春学期から2年生の春学期,下位学年,上のコモンルーブリックの0から3までのものに,つくり直したものです。
 上位学年用のものとどこが違うかというと,上のものですと,2とか3というのは,あまり肯定的な表現ではないのです。ところが,それをそのまま使うと,下級生は,プライドを傷つけられるというか,自信をなくすので,より肯定的な書き方をして下位学年用につくっています。上位学年用になりますと,最後の表ですが,0で書いているのは共通ルーブリックの0ではないのです。上級生になっているわけだから,一定のレベルからスタートしているという設定で,5までのところを0から3と置きかえています。これをどう使うかというと,社会調査の授業でも使いますし,インターンシップでも使えますし,フィールドスタディーでもそうですし,あるいはサービスラーニングのような科目であったとしても,問題を発見して,それを分析する要素が入った授業では,共通してこのルーブリックを活用するようにと運用されています。
 そうすると,縦の規準別には,科目によって,例えば,社会調査法ですと,テーマの立て方がすごく重要だから,そこの配点比重を変えていく。例えば,縦に,先ほどの,黒田委員の金沢工業大学のシラバスの中にも配点が出ていましたが,テーマの立て方を30点にするか20点にするかというのは,科目担当者が内容の性格によって調整することができる。
 これを使うとどんなことが可能になるのかというと,もとの2ページのところに戻っていただきますと,ルーブリック評価のメリットと書いているのですが,これは私が考えたものなのですが,被評価者,学生と評価者の双方に評価規準と評価基準の,2つの基準をあらかじめ提示して,評価の観点を可視化します。つまり学生は何がどこまでできたらいい成績がつくのかということがあらかじめはっきりしています。パフォーマンス評価をする上では非常に有効であるということと,もう一つは,評価者ごとのずれの発生を抑制する。つまり,どうしてもレポートそのものの「てにをは」にこだわる教員がいると,社会調査法なのか日本語なのか,何を評価しているのかわからなくなって,学生,あるいは社会からも学生からも評価を受けるときに,ふたをあけてみないとわからない,それでは困るということで,それを統一できるということと,もう一つは,被評価者へのフィードバックに活用できることです。これを使っている大学はどうしているかというと,例えば下位学年用のルーブリックを,その科目の中間レポート提出の際に,これを張りつけて提出させるわけです。そうすると,教員はレポートを真っ赤にして直さなくても,このルーブリックの各行に丸をつけていって,あるいはポイントになるところに線を引いて返してやる,それに加えレポートの中に若干の書き込みをすると,何がよくてこの点数になったのかということがわかる。できていることとできていないことがわかりますし,これを学内で共通して使っていくということになりますと,基本的にはそれを繰り返していくことによって,本当にリサーチ能力が高くなっていく,あるいはそれが成長していくことが記録として残っていき,エビデンスとしてもこれを活用することができます。
 では,これを導入すればすぐできるようになるかというと,問題は,これを使っても,なおかつ同じレポートをFDで採点してみると,評価にずれは出てくるのです。それは何回かやっていかないと,自分が非常に日本語表現力のところに力点を置いて評価する癖があるや、厳しすぎるということを先生方に理解してもらって使っていかないと安定して活用できにくい。例えば,アメリカのAAC&Uは,大体アンダーグラジュエイトの前半の2年間で,リベラルエデュケーションで15の目標をある程度カバーするためにこれらをつくって,標準的なものを示して,各大学がカスタマイズして使うことを求めているわけですが,そういうやり方をとっていけば,科目間の内容だけではなくて,評価の観点についても組織的な活用をすることができるということになるのではないかということです。
 これがルーブリックアセスメントの内容です。

【谷口副部会長】 今日のお話で,例えばシラバスがコース・カタログ以上のものでないといけないとか,あるいは,濱名委員のお話のルーブリック,要するに評価の仕方ということに関して,こういうことが標準化されて一般化していくということが非常に大事だということがよくわかりました。そういうことが広がっていくようにしていかないと,教育の質というのは保てないだろうと思いますので,ぜひそれを進めていただきたいということを申し上げたいと思います。
 例えば,シラバスもモデルを示す,先行的なモデルを示すということが大事だろうと思います。評価についても,例というか,モデルを示していかないといけない。モデルの通りでないといけないということではないのですが,標準の形としてそれを示していくことが非常に大事だろうと思います。
 そこで,例えばシラバスとかについて,金沢工業大学が進んでおられるという意味において少し先走るかもしれませんが,実施した方法でうまくいったとか,どういう課題があるのかという,成果や次のレベルへのフィードバックというか,その辺がどのようになっているのか,どうしておられるのか。これでうまくいったのだということをどのようにして評価していくのか,そのあたりについて,どの様にしておられるのか,少し教えていただけたらありがたいと思います。

【黒田副部会長】 私どものところは,それは大変厳しい,FD活動の中でやられています。個々の先生方の動きというよりも,組織的に学位課程プログラムとして,学部,学科単位ですべてが決められていくのです。だから,カリキュラムをつくるときも,授業内容も全部組織的に構築されていますので,その中での評価ということになります。
 しかし,個々の先生の授業がうまくいったかいかないかということは,必ず自己点検評価授業というのがあります。これは参加した学生が全部コメントを書くわけです。それを分析してみますと,先生方の授業の内容が,どこのところがよかったか悪かったか,全部ここに細かく出てきますので,それによって次年度,修正するというフィードバックをかけていっているのです。
 だから,これはなかなか大変ではあるのですが,フィードバックをかける学生たちが出したレポートを自分のところで分析せずに,これは分析業者に委託しているのです。そうすると,第三者の目で正確にわかります。自分のところで,手前みそで評価しますと,悪いところはみんな伏せられてしまいますので,公平で公正な評価分析をやらないといけないと思っています。

【谷口副部会長】 その結果はシラバスとかを改訂していく際に反映されていくということですか。

【黒田副部会長】 毎年修正をかけていくということをやっています。

【金子委員】 今までのご意見を聞いていて,これから議論がどういうところに行くのかなということを考えていたのですが,少し今までの流れを考えていまして,前の学士課程の答申,今日,話も出ていましたが,あれは,私は2つポイントがあったと思うのです。1つは,学士というものは何を意味するのかというか,学力,内容の問題ですね。ある意味では到達目標なのだろうと。この中で,「学習力」という言葉も使われたし,コンピテンシーといいますか,一般能力みたいなものが提起されたと思うのです。
 もう一つ,かなり改革の道具として,私は小道具と言うのですが,小道具と言うのは言い過ぎかもしれませんが,シラバスの問題とかTAとかGPAとか,ルーブリックはまだ出ていませんでしたが,そういう問題がかなり提起されています。
 今回の議論は,今日の冒頭の事務局からのご整理にも書いてありましたが,1つは小道具はあまり小道具でばらばら出てきているのではだめではないかということで,体系化して,相互に関連があるのだということで,それをワンセットとして意味があるということで,それは非常に重要で,さらにこれを提起していくことは重要だと思うのですが,それにつけても重要だと思われるのはガバナンスの問題で,今日かなり議論されていましたが,講義の内容の体系化,整理といったものが,学科,コースの単位でやっている限りは整理し切れない,これはやはりガバナンスの問題ではないかという問題だったと思いますし,それからいろいろな小道具を使って,それがどうきいているのかというも,これは評価するのも,フィードバックもガバナンスの問題だと思うのです。
 ですから,ガバナンスの問題が出てきたというのが,今回の,前回には必ずしもあまり明確でなかった問題ではないかと思います。そこのところはもう少し議論をして,具体的な議論がこれから必要になってくるのかと思いました。
 もう一つは,ただそのことを考える上でも,かなり次の新しいというか,今まであまり議論されていなかった問題として,教育に対する教員の意識といいますか,そういったものも,ここの議論で今まで出てきているのが,どうもずれてきているのではないかと。どうも今までの間の意識だとだめなのではないでしょうか。小道具は小道具で重要なのですが,かなり根本的なところで,意識面で考え直すところがあります。
 例えば,それは先ほどおっしゃっていましたが,非常に根本的なところで,仕分けのところに出てきたそうですが,教育と研究との関係等どうもそういう意識がなくて,教育の重要性だったら,あまり正面にいざというときに出てこないとかあると思うのですが,もう一つかなり重要なのは,これは私の資料で申し上げましたが,どうも日本の先生は,一方で授業を自分自身のものだと思うと同時に,学生との個人的なコンタクトを非常に重要視しているものですから,授業数もかなり多くして,いろいろなことをやりたがる。ただ,システマテックにきちんと学習をさせるというところではどうも弱いのです。そこのところはもう少し考え直すべきなのではないかという問題提起を,答申を,来年何とかこの形で出るのでしょうが,そこのところはある程度しないといけないのかと思います。やはり道具だけの問題ではないというところがあります。
 それと,あともう一つ,前回の答申で出ていた問題は,教育内容の問題といいますか,到達点の問題なのですが,基本的にコンピテンシーの問題が提起されたのですが,今回はまだこの議論はあまりやっていないのです。それで,濱名委員が示された,1枚目,2枚目に書いてあるのは道具としてのシラバスで,これはどういった内容でもあり得るのですが,もう一つ,後ろのほうに出ているAAC&Uの紙は,むしろ一般的なコンピテンシーをどうつくるかという問題意識でつくられているわけで,ここのところの議論は,今回はまだあまりたっていないのですが,やはりかなり必要です。特に一般教育と専門教育と,それからコンピテンシーの関係というのは,まだあまり議論されていないのですが,これは少しやっておく必要があるかと,今いろいろとお話を聞いていて感じました。

【佐々木部会長】 今後の議論の進め方という観点で貴重なご意見をいただきましたが,これについてはいかがですか。

【濱名委員】 私は初期の段階で,ガバナンスの話の前に教学マネジメントと申し上げたのですが,おそらく今回あたり出てきているものを小道具と見るか,あるいはそうしたものを動かすためには,何のためのガバナンスなのかがはっきりしてきます。私は実はガバナンスとかFDは手段だと思うのです。何かの方向性,ストラテジーとか目標があって,それを達成するためにこそガバナンスが行使され,あるいはFDを活用するのだと思います。
 その場合に,日本の大学の教員というのは,非常に学級王国というのか,オートノミーを非常にある意味で隠れみのに使ってきたし,学生との関係は今,金子委員がおっしゃったようなことをすごく喜ぶわけです。しかし,横の教員間の連携ということについては,アメリカではラーニングコミュニティーという,学生同士を一緒に科目履修し協働学習させることと,教員間でもそれらの学生を意識して情報を交換することをすごく重視している。
 そういうことを考えていくと,教学マネジメントを実現するためのガバナンスというか,そういう部分が重要であるということが,だんだん見えてきたのではないかという気がするのですが,そこでやっとガバナンス論と教学マネジメント論が交差するところへ来たという実感を持っています。

【田中委員】 ほぼ濱名委員と同じ意見ですが,金子委員がおっしゃっていた教員の意識の問題,教育研究ということもありますが,教育だけに絞っても,かなり意識の改革が必要だと思うのです。というのは,もう何人かの先生が既におっしゃっていることですが,先生に合わせて科目をつくってしまうとか,それからどうしても多くの学生と接触したいために科目がどんどん増えるということがあるわけですが,基本的にはシラバスというものがしっかりあって,それを教員同士がお互いに見せ合えば,ある,似たような分野の方たちは,科目の統廃合ができるはずなのです。
 例えば,具体的に申し上げると,私の今いるところで,「安全保障論」と「軍縮論」と「平和構築論」というのが3つ並んでいたりするわけです。先生に聞くと,「平和構築論」はリベラルな方がやるので,「安全保障論」は保守の人がやるのだとか言うのですが,それは本来あり得ないのです。例えば,マクロエコノミストでも小さな政府の方と大きい政府の方でも,本来教えるべきところは同じであって,プロとコンを教えて両方を対比させるわけです。だから,メニューをしっかりとお互いに見せ合っていけば,7割,8割がかぶっていることがわかるはずなのです。ならば,3つの科目は1つになるのだと思うのです。それを3人の先生が教えれば,3セメスターを交代で教えることができれば,1人は休めるということになります。通年ずっと教えたとしても。もしくは,隔年でも教えられる。空いた時間は研究に回っているわけですし。その空いた時間は何かということは,1つの科目に対してエネルギーを注入できるわけですね。8科目とか9科目とか担当していれば,1科目に対するエネルギーはすごく薄くなるわけですから,学生とのコンタクトは広くなるかもしれませんが,教えるディマンドが弱くなりますから,金子委員がこの間おっしゃったように,学生が勉強しなくなる,教員が一生懸命教えないから学生は勉強しなくなると思うので,結局,せんじ詰めれば,教員同士のコミュニケーションと意識で,共同してこの分野はこう教えるということができ上がらない限りは,効率的で体系的な科目配置にはならない。そして,教育の中身も薄くなるのだと思うのです。
 今,先生方がおっしゃったように,今,そこまで来ているのだと思うのですが,私もこの場で何回か申し上げたのは,教員同士のコミュニケーションが大事で,そこで価値観を共有しなければガバナンスというものは出てこないだろうと思っているのです。

【黒田副部会長】 我々大学人としては,今までの議論というのは非常によくわかります。大学みずからが改革しようとする,その力というのはわかるのですが,これを一般社会から見たときに,大学は何をやっているのだということになりがちなのです。ですから,日本の国家として高等教育機関の中での大学というのはこういう位置づけに今後はなるのですというメッセージを発信していかなければなりません。今まで大学は,戦前の大学で学んだ人たちによって,戦前のシステムそのままで来ているわけですから,それが大学だと思っているのです。
 ところが,進学率が50%を超えた段階で,大学は変わらざるを得なくなっている,その大学が今後どうなるのだということを,社会に対して訴える必要があると思うのです。社会や国民に対し説明して理解を深めていかないと大学は多すぎるのではないかとかなくして,専門学校でもいいのではないかという話になるわけです。大学の使命と社会との関わりについて,説明責任を我々自らがはたしていかなければだめなのです。
 我々は,どちらかというと,内輪なのです。内輪での改革の方向性については,多くの時間をかけ議論してきましたからわかっています。改革のためのツールはいっぱい出てきているわけです。それを総合的にまとめて改革していくわけですが,それだけでなくして,社会に対して訴えていくという,その力をつけていかないと,大学が変わったと言われるようにはならないと思うので,ぜひともその辺は考えていっていただきたいと思います。

【佐々木部会長】 今日は非常に貴重なご意見をたくさんいただいたと思います。ただ, TAの問題等々,積み残した部分がありますので,これらを含めて次回以降の議論にゆだねたいと思います。教員の意識改革をするというのは,実際、一番難しいことです。なぜかと考えてみたのですが,大学の教員は一般的に言って危機感が薄い、現状に安住しているからではないのか、というのが私の差し当たっての結論です。経済危機の中で自分も失業しそうだとなれば,企業の改革は内発的に起きるわけですが,今のところ大学はそういう状況には至っていない。しかし,金子委員おっしゃったように,難しい課題ではありますが、教育に関する教員の意識改革が一番大きなポイントです。そのためのツール,そのためのガバナンス等について、次回以降,詰めて議論を重ねてまいりたいと思います。

―― 了 ――

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