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資料4

経済団体からの諸提言について
経済界が望む人材像−

【経済団体連合会】

平成5年7月

  「新しい人間尊重の時代における構造変革と教育のあり方について」

 変化の激しい時代においては、世の中の動きを先取りし、事前に適切な対応を取ることが重要であり、また、専門分野での知識・技術とともに、専門外の分野に対しても柔軟に取り組める能力が期待される。さらに、我が国の文化や伝統に対する理解とともに、国際的な広い視野から地球的規模でものごとを考えられ、国際感覚と語学力に優れた人材が求められる。

平成8年3月
  「創造的な人材の育成に向けて −求められる教育改革と企業の行動−」

 来るべき21世紀において、豊かで魅力ある日本を築くためには、社会のあらゆる分野において、主体的に行動し自己責任の観念に富んだ想像力あふれる人材が求められる。
 しかし、わが国の現状を見ると、教育制度はもとより、企業の人事システムなど社会全般においても、このような創造的人材が育ちにくい状況にあり、このままでは世界における指導的国家の一つとして、活力ある日本を築くことは不可能といわざるをえない。今後、わが国にとって、人材育成の面で、誰もが自分の目標を実現するに相応しい教育や進路を選択でき、その能力を最大限に発揮できるよう、「複眼的」で「複線的」なシステムを実現していくことが大きな課題となっている。

 創造的な人材は画一的な教育システムの中からは生まれない。各教育機関はその特色を十分発揮するとともに、学生・生徒の個性・素質などをいかした教育を行い、互いに切磋琢磨しながら教育内容を高めていかねばならない。

 1,経済の分野では、リスクを伴う起業に果敢に取り組む人材、組織の創造的破壊を行う人材が、新しい産業や事業を次々と興して、豊かな国民生活、活力ある経済を実現していく。
 2,社会においては、個々の市民が、自律的に公益活動を行う市民活動団体(NGO、NPO等)などに参加して、地球環境に配慮した循環型の経済社会システムの構築や豊かな長寿社会の確立などの諸課題に創意工夫しながら取り組んでいく。また、才能あふれる人々が、文化や芸術など人類共通の知的資産の充実に寄与していく。
 3,政治・行政の分野では、構想力・洞察力に優れた人材が、多極化する世界システムの中にあって、わが国の将来を見通し、進むべき道筋を定め、政策を実践していく。また、地域の特性に応じた個性的な政策を展開し、豊かな地域社会を実現していく。
 4,教育界では、一人ひとりの子供を十分に理解する鋭い感性を持った教育者が、子供の個性や能力を引出し、次代を担える人材に育てていく。

 それぞれの人材が持っている独創性を引き出すことに併せて、科学・技術や、芸術・文化などさまざまな分野で世界をリードできる高い独創性をもった人材を発掘、育成していくことも重要である。

 「複眼的」評価システムに基づく「複線的」選択機会を確立することにより、受験戦争の圧力を軽減していく中で、個人の主体性を尊重する人材育成システムを実現していく必要がある。

平成12年3月
  「グローバル時代の人材育成について」

 産業界が変貌していくにあたって、どのような人材が必要とされるかについてはある程度共通している。まず、あらゆる人材に共通して、主体性、プロ意識、知力の基礎的能力が求められる。

  「主体性」とは、主体的に問題を発見、設定し、解決に導くことのできる能力。「プロ意識」とは、しっかりとした職業観、自己責任の観念、アカウンタビリティ(責任を持って説明できる能力)、高い倫理観。「知力」とは、産業社会に携わっていく上で必要不可欠な基本知識・基礎学力であり、これには相手の言うことを正確に聞き取り、自分の考えを適切に伝えられるコミュニケーション能力も含まれる。これに関連して経済のグローバル化の進展により、日常会話をはじめとする英語力、情報ネットワーク活用能力が求められている。

 指導的立場の人材については、哲学を含む幅広い教養を前提とした、以下のような人材が求められている。1,時代の変化を先取りして、将来ビジョンを示すことのできる人材。社会の変革を実現し、世界をリードできる独創的な人材。2,さまざまな意見をまとめて人材を糾合し、物事を確実に成し遂げる人材。3,国際場裡にあって、各国のリーダーと対等に渡り合える人材。4,新しいビジネスを創造し、実行する起業家精神旺盛な人材。5,各分野における高度な専門知識、最先端の知識を持った人材。

平成16年4月
  「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」

 日本人が世界の舞台で活躍しこの競争を勝ち抜いていくためには、これまでわが国社会が誇ってきた倫理観を改めて身につけ、あわせて自国の文化や歴史などの教養をしっかり持つことが重要である。その上で、与えられた知識だけに頼るのではなく、ものごとの本質をつかみ、課題を設定し、自ら行動することによってその課題を解決していける人材を育成することが急がれる。

 現在、企業は内外の企業との熾烈な競争の中にあり、特に、知恵で競い合う時代になっている。こうした中、産業界は以下の3つの力を備えた人材を求めている。
 第1に「志と心」である。「志と心」とは、社会の一員としての規範を備え、物事に使命感をもって取り組むことのできる力である。顧客への対応や関係企業との関係をはじめ、事業活動を推進していく上で、誠実さや信頼を得る人間性、倫理観を備えていることが不可欠である。また、仕事をはじめ、様々な形で社会に貢献しようという意欲、目標を成し遂げようとする責任感や志の高さなども求められる。最近の若者の傾向として指摘されている、自分から果敢に挑戦する意志や情熱に欠けていること、物事に対する好奇心や夢がないことなどの問題を解決していかねばならない。
 第2に「行動力」である。「行動力」とは、情報の収集や、交渉、調整などを通じて困難を克服しながら目標を達成する力である。自らの目標達成に向けて、周りの人々、時には外国人の人々と議論し理解してもらうためには、高いコミュニケーション能力が必要である。そのためには、意見の違う相手と意見を戦わす訓練を経験しておくこと、自国の文化を十分理解した上で、異文化を理解する能力を磨くことなどが不可欠である。最近の若者の多くは、「知識・情報は与えられるもの」「仕事はマニュアルどおりに行うもの」という姿勢が染みついており、進んで行動する力の養成が必要である。
 第3に「知力」である。「知力」とは、深く物事を探求し考え抜く力である。各分野の基礎的な学力に加え、深く物事を探求し考え抜く力や論理的・戦略的思考力さらには高い専門性や独創性が求められる。「正解が一つでない問題」あるいは「解明されていない問題」を大学生に考察させようとすると、思考が止まってしまうという指摘もある。自分の知識を総合し発展させる思考訓練を早い段階から行うことが必要であろう。
 社会は、多用な人々が存在し、それぞれの分野で活躍することで活力が生まれる。したがって、全ての生徒・学生に、この3つの能力を完璧に満たすことを期待しているわけではない。しかし、どのような分野に進もうと、それぞれ最低限の水準が満足されなければならない。そのうえで、これら3つの力がどのようなバランスをとるかは、各人の個性であり、その多様性が社会の活力をもたらすことになろう。

 自分で目標を立て、その達成に向けて継続的に課題に取り組む意欲を持続させ、試行錯誤し取り組んだ体験を有することは、その後の人生において大きな拠り所なる。

 学生の知的世界が狭くなる傾向にある中、教養教育の重要性は増している。専門分野以外にも関心を持ち、教養、倫理観、社会への使命感などバランスの取れた見識を身に付けることが、仕事の質を高めるために必要であり、また国際化時代において仕事をしていく上でも必要である。

平成17年1月
  「これからの教育の方向性に関する提言」

 「行動力」と「知力」については、実社会で必要とされる知識と判断能力を身につけさせることが不可欠である。たとえば、急速に進むIT化に対応するための能力や技能を磨くとともに、インターネット上を飛び交う情報の真贋を見極める能力や交信にあたってのマナーなどを身につけることが求められる。また、グローバル化に対応するため国際コミュニケーション能力の向上が必要になる。

 「志と心」「知力」については、戦後教育において十分な配慮がなされなかったわが国の伝統・文化・歴史に関する教育の充実が必要である。グローバリゼーションの進展に伴い、諸外国の人々と交流する機会が今後とも増えることは確実であり、日本の伝統・文化・歴史を身につけ、自らの考えをはっきりと持つことは、国際人としての不可欠の要件である。しかし、現状では大学を卒業しても、わが国の伝統・文化・歴史に関する知識や常識に欠ける事例が見られる。

 「志と心」「行動力」「知力」の3つをバランスよく身につけたリーダーの養成が必要である。高い志を持ち、世界の舞台で活躍できる人材を、さまざまな分野で生み出していくことが求められる。しかしながら、高いコミュニケーション能力、構想力と決断力、幅広い教養、高い倫理観や責任感など、リーダーに必要とされる素養を伸ばす教育がほとんど行われていない。

 これからの教育を考えるにあたり、まずは、基礎学力(特に理数系)や、国際コミュニケーション能力IT時代に対応する能力・技能など新しい時代のリテラシーを充実させることが必要である。なお、情報化社会の進展が子どもたちに及ぼす悪影響など負の側面への対策も十分に考えなくてはならない。
 さらに、国際化時代を生きる日本人に必要となる素養を身につけるという意味で、これまで十分な配慮がなされてこなかった以下の点を、初等中等教育から重点的に取り組んでいくべきである。

 自国の伝統や文化、歴史を学び、また国旗や国家に対する理解を深めることは、国際的に活動をする上でも最低限必要な知識であり、けっして偏狭な国家主義の復活を意図するものではない。諸外国の人々と交流していくためには、わが国が歩んできた近代史の正確な知識を持っておくことが不可欠である。また、今後、国内外を問わず、自分の価値規範とは異なる文化を背景に持つ人々と交流する機会が日常的に増えることは確実である。自らのアイデンティティの確立なしには、異文化を理解することは難しい点を認識すべきである。

 権利と義務は表裏一体の関係にあることを踏まえ、権利意識とバランスのとれた公共の精神、つまり社会の構成員、あるいは組織・団体の構成員としての責任と義務を教育の中で強調していくべきである。また、自らの選択には責任を取るという自己責任についても理解させ、自立した個人を育成することが不可欠となっている。こうした観点から教育基本法に示された教育理念の中に、社会の構成員としての責任と義務を考えることを追記すべきである。

【日本経営者団体連盟】(平成14年5月に経済団体連合会と統合)

平成7年4月
  「新時代に挑戦する大学教育と企業の対応」

 人間社会にとって何が最も重要かを把握しうる人間性豊かな人材が求められている。政治・経済・社会・科学などあらゆる分野で、新政策や新技術などを企画・開発し、創造的な成果を生みだしていくには、その背景を構造的に把握し、豊かな感性、インスピレーションの中から新しい構想を創り上げていく能力が必要である。このように、ものごとを人間性重視の立場から根本的、構造的に把握する能力、すなわち構想力を養成するためには、歴史・哲学・思想・社会心理等の修得が文科系・理科系を問わず重要となってくる。

 今日の日本で最も求められているのが、独創的・創造性豊かな人材である。与えられた問題を与えられた知識でいかに効率よく学習するかというこれまでのキャッチアップ型教育では、独創性・創造性は育たない。独創性・創造性を涵養するには、幅広い関心、向上心に加えて、新しいものへの強い好奇心、チャレンジ精神や粘り強さの育成が求められる。

 多様化し、複雑化する今日の社会においては、問題発見や新しい課題を見付けだすことがむずかしくなってきている。その中で、何が問題なのかを自ら発見し、解決方策を生みだし、実行するという挑戦力と意欲を備えた能力が求められる。そのためには、流行や実利にのみ惑わされることなく、根本からものごとを考え、問題が起きたら自分で考えて解決する知恵と忍耐力、闘志が必要である。

 国内・国際社会を問わず何よりも大切なことは、まず自ら「個」を確立した上で、「個と社会との関わり」を認識し、歴史観と多様な価値観を理解できる能力を身につけ、かつ豊かな感性を磨いて、世界と対等に付き合えるようにすることである。

 人材が多様化するなかで、価値観を異にする多くの者を納得させ、意志決定と行動に導くリーダーシップを有する人材が、社会、企業の各層において必要となる。新しい時代にふさわしい教養を身につけた、また、議論をまとめていく能力をもった人材が求められる。そのため、協調性があり、人間としての行動規範をしっかりともち、人の心を理解でき、思いやりと包容力のあるリーダーシップに富んだ人物の育成を期待したい。

 大学教育においてまず必要なのは、人間形成である。それにはヒューマニズムを発想の基本に据え、歴史・哲学・思想・社会心理等(リベラル・アーツ)の修得を通じ、幅広い教養と豊かな人格を兼ね備えるよう努めることが大切である。とくに新しい時代に求められる国際性と創造性を合わせもち、しかも物事を構造的に把握し、そこから新しい構想を生み出していく力(構想力)をもった人材、さらに課題提起力があり、その解決に向けてタフな向上心とチャレンジ精神旺盛な多様な人材の育成を期待する。

平成9年2月
  「グローバル社会に貢献する人材の育成を(日経連教育特別委員会・グローバル社会の人づくり検討委員会)」

 これからのグローバル社会は、我々の未知の世界でもある。そのような状況のもとでは、自らが主体的に考え、問題を発見し、それを解決していく能力が、より一層重要となる。また、自らの行為は自己責任に基づくものであることを充分理解するとともに、倫理観に基づいて、自らを律し、どのように行動していくかが問われることとなる。
 そのためには、次のような点が必要となる。1世の中の常識はもちろん、歴史や哲学といったリベラルアーツなどの幅広い教養や倫理観を身に付ける。2物事を論理的に考えたり、客観的に判断する能力を養う。3自らの考えを、主体的に、実際の行動や成果に結び付ける構想力や行動力・折衝力を養う。4自分らしく生きるために、自らを顧みるとともに、自分自身を高めたり、夢を持って生きる努力を行う。

 グローバル社会においては、他人との関わり、協調し、共生していくことが重要となる。そのためには、まず、他人の痛みがわかるといった、他人に対する思いやりや、共感性・感受性を豊かにする努力を行わなければならない。
 また、同質性・均質性を求めがちな考え方を改め、多様な価値観を理解し、認め合うとともに、柔軟な思考力を養うことも必要である。個々人の多様性を尊重するためには、考え方のベースとなっている文化や歴史等を充分理解しなければならない。それと同時に、他国やそれぞれの土地に溶け込む努力や、相手の流儀や慣習に合わせることも必要である。

 グローバル社会においては、人と人との相互理解と交流を図っていく上で、外国語、特に英語力の向上が極めて重要である。今後はヒアリングやスピーキングといった、相手と直接コミュニケートすることに重点をシフトしていくべきである。
 また、ネイティブ・スピーカーからコミュニケーション手段としての外国語を学ぶことによって、ディベートやプレゼンテーション能力を高め、加えて外国の文化・歴史・思想、あるいは、外国人の考え方等を学ぶことも重要である。

 グローバル社会の中で、信頼を得るとともに、リーダーシップを発揮していくためには、一人一人が、幅広い分野にわたる知識とともに、特定分野での高度な専門性と、それを縦横に活用する力を有することが、より一層重要となる、そのバック・グラウンドとしては、他からも評価される専門的知識、技術力やテクニック、情報収集・分析力、プレゼンテーション力といったものが求められ、これらを修得し、自らのものとして身に付ける必要がある。

【経済同友会】

平成元年12月
  「新しい個の育成 −世界に信頼される日本人をめざして−」

 対外的には世界から信頼される日本となり、国内的には個人にとってより大きな自己実現の可能性をつくり出すためには、まず日本および日本人自身が自己変革することが不可欠である。その際、われわれは、1社会貢献(ノブレス・オブリージの精神で世界に貢献すること)、2自己実現(自らの考えを、正しくわかり易く他に説明すること)、3他者尊重(多様な価値観・行動様式を認めること)の三つの点が「変革の基本」となると考える。

 日本及び日本企業の変革を実現させるためには、国民レベルで「新しい個」への自己変革が広く行われることが必要である。「新しい個」とは、「自己の評価基準を明確に認識し、なおかつ、他者をも独自の評価基準をもつ者として尊重し、自他のかかわりのなかで、新しい価値を創造することのできる個」である。

 企業人としての「新しい個」は、前記「変革の基本」に沿い、以下の資質をもつことが望ましい。1社会(コミュニティー)に貢献できる(・地域社会の活動に強い関心をもっている・公的問題意識、目的意識をもっている・視野が広く、長い)、2自己表現能力を持っている(・自国の歴史、文化をよく知っている・交渉力、ディベート能力がある・実践的な語学力を身につけている)3相手(異文化)を理解、尊重することができる(・他国の歴史、文化に関心を持っている・コーディネーション能力がある・バランス感覚をもっている)

 つまり、今後企業人として求められるのは、所属する集団の利益を最優先する個ではなく、またその集団の中に埋没したり、あるいは逆に自己の主張を振り回したりする個でもなく、他者とのバランスを図っていく個である。また、生活者としても、広い社会的関心をもち、コミュニティーに貢献する精神をもった個である。その際、「あそびのこころ」や「ゆとり」をもつことも重要であると考える。

平成3年6月
  「「選択の教育」を目指して −転換期の教育改革−」

 わが国が、1新たな目標の模索・構築の時代、2個人が主役の時代、3リーダーシップ発揮の時代、へと移行している今日、教育は、これまでの形式的平等と効率性を重視した画一的教育から脱皮して、多種多様な資質を持つ個人の個性や才能を引きだし、豊かに花開かせることを基軸に据えた教育へと転換しなければならない時期に来ている。すなわち、時代を切り拓く勇気と力、自ら考え選択し創造する力、国際社会で相互理解を深めるためのコミュニケーション力、を涵養するとともに、国際的に通用する「徳」を備えた人材を育成することが強く求められている。

 初中等教育においては、基礎学力、体力、公徳心をきちんと身につけた「伸び伸びとした人間性」を育む教育が行われ、また高等教育においては、リベラル・アーツを基盤とした専門教育の十分な習得を目指す、すなわち、すぐれて「学問」の行われる場になることが好ましい。

 企業は既に「人物・実力本位」の採用に移行しつつあるが、その求める人物像は個々の企業によって異なる。ただ企業は「人物・実力本位」の採用選考に当たって、学生時代に何に打ち込み何を体得したか、状況を切り拓く力を身に付けているか、自他との関わりの中で新しい価値を創造する姿勢を持っているか、等を見るのであって、学力だけではこれらの資質をはかることはできない。

 わが国が歴史的転換にある中で、多様な個人の個性や才能を花開かせるとともに、時代を切り拓く勇気と力、自ら考え選択し創造する力、国際社会での相互理解に資するコミュニケーション力を身につけるための素地の涵養が求められており、教育の果たす役割は大きい。

 これまでの高等教育においては、それぞれの専門分野での優れたテクノクラートの育成に主眼が置かれてきたため、いくつかの分野を横断して貫く思想・哲学或いは歴史等、いわゆる知性・教養についての教育が軽視されてきた。これからは学際的な教養を身に付けた専門家の養成が求められており、「カリキュラムの変革」に対応して、リベラルアーツが重視されるべきである。

平成6年4月
  「大衆化時代の新しい大学像を求めて −学ぶ意欲と能力に応える改革を−」

 企業はこれまで、大学における教育や研究に多くを期待するよりも、企業内での教育・訓練や研究・開発を前提に経営を行ってきた。しかし今後は、知識や技術の陳腐化がますます速まり、人材の流動化も進むだけに、企業としては、大学で充分な基礎教育を受けた学生を求めることになるし、また、技術開発に当たっても、大学における基礎研究との有機的な結びつきを一層強めることが重要になる。
 加えて、日本の大学が、自然科学の分野では独創的で世界水準を超えるような基礎研究の成果を輩出し、社会・人文科学の分野でも地球環境問題や人口問題、民族問題など人類が直面する現実の問題を解き明かすなど、「次の時代を拓く」先端分野での研究能力を高め、世界をリードすることが求められている。

平成9年3月
  「「学働遊合」のすすめ」

 企業は採用の際、一人一人が入社後、「何を」「どこまで」できるのかという可能性に期待を寄せている。したがって、学生には、今まで「何を」「どこまで」やってきたのかを自らの言葉で語ることを求めている。

 今後、重要性が増すビジネスの基礎・基本の能力としての「コンピュータ活用能力」「異文化を受容する力」「情報を収集する力」は、これからのグローバル化時代においては、その前提として「語学力」、中でも、現在、国際語となっている「英語」が共通して求められていることを強調したい。

【企業は「ビジネスの基礎・基本の能力」の変化をどのようにとらえているか(97.1)】
 
従来から重要であり、今後も重要である「ビジネスの基礎・基本の能力」
1位「行動力・実行力」、2位「人間関係を円滑にする力」、3位「常に新しい経験・知識等を身につける力」、4位「論理的に考える力」、5位「問題を発見する力」
従来重要ではなかったが増す「ビジネスの基礎・基本の能力」
1位「状況の変化に柔軟に対応する力」、2位「コンピューター活用能力」、3位「異文化を受容する力」、4位「情報を収集する力」、5位「語学力」

平成11年4月
  「創造的科学技術開発を担う人材育成への提言 −「教える教育」から「学ぶ教育」への転換−」

 教育委員会(注1)が97年度に企業を対象に実施した調査(注2)では、次代の研究開発や技術開発を担う人材に求められる能力や素養として「創造性・独創性」の重要性をあげる回答が最も多かった。ところが98年度に実施した調査では、多くの経営者は、最近の新入社員や若手社員の思考力や応用力は「以前と変わらない」か「以前より低く」なっており、このままでは将来の企業活動が憂慮されると考えている。豊かな創造性の育成は、人格形成期を過ぎてからでは遅く、幼児期からの家庭での教育、初等中等段階からの創造性教育や理科教育などに着目する必要がある。

注1  現経済同友会教育問題委員会
注2  教育委員会(経済同友会)は、1998年1月に東証一部上場企業(商業、金融・保険などを除く、964社対象:251社回答、回答率26.0パーセント)の技術教育担当者を対象としたアンケート調査を実施した。

 “創造”とは、「これまでにないものを創り出すこと」であると考えられるが、創造という活動をどのように捉え、また、どうすれば創造性を発揮できると考えられるであろうか?創造のプロセスは、大きく2つの段階に分けることができる。第1段階は、必要な知識と経験の蓄積をもとに、想像力や論理的思考力によって組み合わされた新しいアイディアが頭の中で孵化することであり、第2段階は、創意工夫したり他者の協力を得ることによって、頭の中で孵化した新しいアイディアを具現化することである。したがって、創造性を発揮するには、その前提として、まず個性や自由な発想を認め尊重する風土があることが重要である。また、必要な知識を単に知っているのでなく十分に理解し体得するレベルに高めるとともに、経験を蓄積することが創造性発揮の必須の条件である。その上で、創造的活動を促進させるためには、夢やロマンを追求する心、明確な目的意識と課題設定、必要な情報を収集・分析するためのリテラシー、他者とのコミュニケーション能力、外部の意見や評価を真摯に受け止める姿勢などが必要である。さらに、物事を成し遂げたときの達成感や感動の体験によって向上心を高揚させ、さらなる創造的活動へと自らを動機付けることによって、一層の創造性発揮が期待できる。

 これまでのキャッチアップ優先の時代において、良質で均質な人材が必要とされたことから、知識を効率的に与え、管理運営や評価判定も容易な、教育提供者主体の「教える教育」が行われてきた。しかし、これから必要とされるのは、「これまでにないものを創り出すこと」のできる創造力のある人材である。
 個性を伸ばし創造性を育むには、学習の主体は学ぶ側にあることを再認識し、これまでの「教える教育」から子供たちが自ら考え、自ら目的意識をもって学ぶ、子供たちが主体となる「学ぶ教育」に転換する必要がある。子供の頃に身につけた「自ら学ぶ姿勢」は、生涯にわたる貴重な財産となる。

平成15年4月
  「「若者が自立できる日本へ」 −企業そして学校・家庭・地域に何ができるのか−」

 新しい時代を生き抜いていくためには、社会人としての力を身につけ、自分なりの目標をもって、自己責任のもとで主体的に行動することが必要である。社会人としての力とは、基礎的な学力、自分の考えを伝え、他者の考えを理解する力、他者を尊重し、円満な関係を築きながら共に行動する力、自分自身をコントロールしたり、動機付けする力、必要なときに自ら学ぶ力、そして悪いことを悪いと思う心などである。そうした「自立した個人」を若いうちに育成することが重要である。

 これからの個々人は、グローバル化や産業構造の大きな変化に伴い、これまでとは全く異なるパラダイムの中で、生き残っていかなければならない。そうした状況では、あらゆる分野において、古い習慣や概念にとらわれず、広い視野のもとで、スピードを上げて判断を下していくことが要求される。そのためには、これまであまり重要視されてこなかった深い教養や、それを基盤とした高度な専門知識・専門技術というものを、できるだけ若年時に身につけておくことが、非常に重要になってくる。

 これからの時代には、リーダーシップの発揮が求められるのは、一部の人間だけにとどまらない。社会のあらゆる場面、さまざまな職業や役割の中で、多用なリーダーシップを発揮することが求められるであろう。そのためには、若いうちから「自立した個人」としての自覚を持ち、深い教養を身に付けていることが重要になってくる。そうした基盤をもった人材を数多く育成し、企業が若者に重要な仕事を任せることで、その中から日本の将来を担うリーダーも生み出されるに違いない。

平成18年6月
  「「日本のイノベーション戦略」 −多様性を受け入れ、新たな価値創造を−」

 企業同様、社会も成長の段階に応じて必要な人材のタイプが異なる。例えば、変革期にはフロンティア精神を持った人材が求められ、日本の幕末も改革を先導する人材を多数排出している。21世紀を担う次世代の日本人に求められる資質は、オープンマインド、チャレンジ精神、そしてグローバルで多元的な視点など、イノベーションに必要な資質と共通する資質が多い。しかし、その中でも自ら考える能力と、コミュニケーション能力は特に重要である。

 多様化する世界の中では、一人一人がまず自立していなくてはならない。その前提として、自らの考えをしっかりと持つ必要がある。その為には、教えられた答えをただ覚えるのではなく、自らの頭で考える能力を磨く必要がある。自らの頭で考え、自分の意見を持つことは、環境の変化に対応できる能力を育てると同時に、自らのキャリアについて考え、志を持ち、それを追求していくモチベーションを高めることに結びつく。

 また、多くの人と交わり、自分の考えを伝え、様々な価値観を吸収し、連携するには高いコミュニケーション能力が肝要である。現場で何が起こっているかを察知し、それを将来のトレンドに膨らませて伝えるにもコミュニケーション力が重要となる。最近では携帯電話やメールなど、ITを通じて連絡は取りやすくなっている反面、その事がかえって人と人の直接的なアナログな触れあいを希薄しており、結果として社会の中でうまく人と接することができない子供が増えている。それでは、世界どころか、国内でさえもコミュニケーションが取れない日本人が増えてしまう。

 これ迄のように結果の平等を求めて単に平均点を高くすることを目指す教育制度でなく、個々人の違いを認め、尊重し、個性や得意な分野を伸ばすような教育方法が必要となる。そこでは、自らの考えをしっかり持っている自立した人材を輩出するには、単に問題の答えを覚えさせるのではなく、まず生徒に答えを考えさせる事が重要である。実社会では状況に応じて答えが異なるように、状況を判断し、考え、自ら判断する能力と、人とうまく接することができるコミュニケーション能力を養う必要がある。
 また、今後も変化し続ける実社会で通用する人材を育成するには、早い段階から社会との接点を作り、関心を持たせることで、世の中の出来事に対して当事者意識を持たせることが必要である。更に、社会との接点を通じて、多様な価値観に触れ、そして社会のニーズを知ることは、自らの人生を考える重要な材料となる。


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