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資料4

早稲田大学における学生支援

早稲田大学学生部長 岩井方男

 多くの学生は、卒業後、社会で活躍することを欲している。この現実を踏まえると、高度の研究と教育の充実が大学の社会的使命であるが、学部教育は学生が社会に飛び立つための助走路、大きなジャンプのための踏み板として位置づけざるをえない。もちろんこれは、いかなる意味においても社会への迎合ではない。大学も社会の一部分であるかぎり、優れた教育を施した学生を社会に送り出すのは、教育機関としての大学が果たすべき重要な社会貢献の一つである。
 激動する社会で活躍するための条件は、個々のレベルではきわめて多様である。しかし、年長者が若者に教えるべき最重要項目の一つに、「社会性」がある。社会性とは、「自分が他者と共に生きているという認識」と言い換えられる。さらに、他者の中に埋没しない独立した人格を持ち、他者が何と言おうと自分が正しいと判断したらそれを実行に移せること、また、自分の行為に対して責任を持ち、他人の批判を率直に受け入れ自らを正すこと、であるとも言い換えられよう。大学においても事情はまったく同様であり、優れた社会性を有した学生の育成、成熟した市民の予備軍を作り上げるために、学生支援関連箇所は一致協力して取り組まなくてはならない。
 ただし、ここでいう「教育」とは教室内の教育にとどまらず、「学生支援」とは教室外の支援にとどまらない。大学が学生に提供するすべては、教育であり支援である。教務部対学生部という従来型の分類には、実状にそぐわない部分が生じている。

 早稲田大学学生部および関連箇所では、「学生支援のすべてが教育の一環である」との認識のもとに業務を行っている。
[課外活動支援]幸いなことに、早稲田大学の課外活動はきわめて盛んである。教職員は側面からの助言者にすぎず、主役はあくまで学生である課外活動は、学生の独立心や指導性を育成する絶好の機会であり、教職員には大きな負担となるが課外活動ごとに会計監査を実施して適切な補助金を交付し、優秀な業績を表彰するなどして、振興を図っている。
[経済支援(奨学金)]奨学金は単なる金銭の授受ではなく、それを媒介とした人と人とのつながりであることを認識させるため、寄付金による奨学金においては、奨学金寄付者と奨学生との交流の場を設けている。日本学生支援機構奨学金では直接的交流は不可能であるが、いずれの場合も、社会は人間同士が助け合わなければ成り立たないことを教える方法として利用している。また、限られた財源を有効に利用するため、常に学内奨学金制度の見直しを図り、本学奨学金の趣旨を関係諸団体に御理解いただいて寄付金増額等の成果を得ている。なお、本学においてはTA・RAに対する報酬等は奨学金と見なしていない。
[障がい学生支援]障害を持った学生にも、等しく学びの機会を提供するのが本来の目的であるが、障がい学生支援にも学生の社会性を涵養する働きを持たせている。それゆえ、早稲田大学における障がい学生支援は、一部を除きすべてボランティアである。その効用については、改めて述べる必要はあるまい。
[キャリア形成支援]職業の選択は人生の選択でもあり、キャリア形成支援の重要性は論を俟たない。かつて、就職斡旋は学生部業務の一部であったが、重点の移行に伴い、キャリア形成支援業務は学生部の外局としてのキャリアセンターの分担となった。しかし、就職試験時期に人生設計を建てるのでは遅すぎる。一二年生のときから、学生に社会との接点や人生についての考えをまとめさせるため、早稲田大学では、キャリアセンターと学生部を物理的にも近接させた。学生ボランティア(就職活動を済ませた学生)と経験豊かな教職員の緊密な連携のもとに、セミナー形式で学生の社会意識向上を図って大きな成果を上げている。
[国際化支援]留学生受け入れや送り出し促進、あるいは、留学生との交歓・交流レベルの「国際化」は、すでに早稲田大学の他箇所で行われている。学生部では、国際コミュニティーセンターを設け、学生に国際化の意味を問いかける。異なる文化の衝突から生まれる軋轢、そこから生じる新しい価値観の発見、自らの国際性の検証を実体験できるよう、学生ボランティアが主体となり、教職員がその手助けをする。
[学生相談]学生の多くを占める二十歳前後は大いなる惑いの年齢であり、精神的にも不安定となり、また社会生活に未熟なため、さまざまなトラブルに巻き込まれやすい。クラス担任制度の充実もさることながら、「総合健康教育センター」において、医師、弁護士等専門家による対応が常時可能となる体制を組んでいる。また、何よりも予防が大切なので、本センターの教育機能をフルに発揮させ、学内各箇所との連携を強化している。なお、大きな関心を集めている「自殺」については、検討すべき資料が少なく、その防止策等はここで発表すべき段階に至っていない。
[学生生活調査および広報]学生支援の基礎データとして、毎年標本調査を実施し、大学全体の施策の指針としている。また、全学の学生に読ませるため、グラフや読み物を主体とした報告書に資料をまとめ、配付している。大学の方針を学生に周知するのみならず、学生同士が知り合い、コミュニケーションが活発化するように広報誌を発行しており、その一部を学生ボランティアの力を借りて英訳し、日本語の読めない留学生の便宜を図っている。この試みは、大学としての一体感醸成やボランティアたちの英語力向上に役立っているばかりでなく、学んだことがすぐに役立つ充実感をボランティアたちに与えている。
 以上は学内箇所単位の学生支援であるが、学生支援は従来の垣根を越えた教育の一環であるとの認識から、「自校教育」を学生部主催で行っている。早稲田大学の自校教育はいわゆる「愛校心」とは関係ない。残念ながら、我が校には受験に失敗した学生、都会に出てきて行き場を失い迷っている学生等が存在する。彼らに早稲田大学の建学精神を伝え、卒業生たちの足跡を辿らせ、共にスポーツを観戦し校歌を歌うことにより、早稲田大学の学生としての意識を目覚めさせ、それを精神的拠り所とさせるのが本来の目的である。この科目は、全学共通科目(「オープン教育科目」)として、卒業単位に組み込まれることが全学で認められている。その他、大学が地域の知の中心であり学生たちがその担い手であることを自覚させるために、地域との交流を促進する等の試みを行っているが、これ以上言及しない。
 最後に、学生支援が全学的規模で行われるよう、学生部が努めている点を指摘しておきたい。社会性のある学生を育てるための支援は学生部が責任を持つ。しかし、牽引車だけでは学生という大きな団体は動かない。全教職員が後押しをしてこそ、効果的教育が可能となる。全学的な学生支援体制作りの旗振り役が学生部である。

以上


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