第5期・中央教育審議会大学分科会の審議経過と更に検討すべき課題について(平成23年1月19日) (3)大学教育のグローバル化に関する課題 2.海外の大学とのダブル・ディグリー等の対応 (検討すべき課題) (検討事項例) |
中央教育審議会における検討課題を踏まえ、海外の大学とのジョイント・ディグリーについて、
について、有識者を含めた検討を行った。
今後、ジョイント・ディグリーに関する質保証を含め、海外の大学とのジョイント・ディグリーを可能とする仕組みを整備する。
世界的なグローバル化の進展を背景に、高等教育においても、国境を越えた学生のモビリティが年々拡大しており、それに伴い、様々な協働教育の取り組みが大学間で積極的に展開され始めている。
本検討会においては、そうした流れを受け、我が国の大学が海外の大学との交流を促進する上で、有益な連携方策となるジョイント・ディグリー(JD)、ダブル・ディグリー(DD)について検討を行ってきた。
国際的な流れを踏まえると、以下のような状況が概観できる。
欧州における大学は、国家の成立よりも古くから存在し、その後、国家の影響下に入る機関となった。欧州の各国は、例えば、米国やロシアに比べると規模の小さな国であったため、ひとつひとつの国で、これらの大国に対抗することは困難であったことが、欧州統合が進展した一因となった。大学においても同様のことが想定されたため、大学間の連携によりその力を強めようとする力が働いたと言える。その際、欧州では、教育以外の経済等における統合の動きも強かったこともあり、国境を越えた文化や言語の流動化が進み、大学等高等教育機関も協定等を締結し、その連携を深めた。大学の連携の中で学生は留学経験を得ることが可能となり、連携の一つの方策としてJDやDDが活用されていった。
米国は、そもそも、世界中から、学生及び教員等を惹きつけることができるため、国際的な大学間連携はあまり進展しなかった。しかし一方では、Washington Accordのように実質的同等性を相互承認するための国際協定を主導し各国との共同体制を構築したり、学生を海外に留学させるための基金構想を連邦議会に上程したりするなど、変化を示している。
アジアにおいては、近代国家が誕生した後に国家制度の整備とともに大学が成立しており、各国の国内制度の中で大学教育制度が確立している。昨今、アジア地域の経済成長が著しい中で、学術レベルの向上も進み、ASEAN
University NetworkやCAMPUS Asiaなど地域自らのイニシアティブにより高等教育に関する共同の枠組みを構築し連携を模索する動きが加速している。こうした枠組みを有効に展開するには、個々の大学レベルで交流を進めることが不可欠であり、JDやDDについては、こうした動きの中で、今後、質保証を伴った大学間交流をより促進する一つの方策として捉えることができる。
以上のような大きな視点から捉えると、JD、DDの活用によって、我が国の大学がその教育の幅を広げ学生に異文化を経験させることができる等の効果を得られるのみならず、世界における地域連携を進める効果を得ることが可能となる。我が国の場合は、特にアジア圏において教育連携を進めていくことが、地理的近接性の利点も活かした高等教育の拡大のみならず、協働教育への取り組みによる互恵的な関係を構築することを可能とし、地域の平和的繁栄のためにも極めて有効と考えられる。
JDとDDの関係性については多様な考え方がある。JDをDDの発展型として捉える考え方もある一方、それぞれ目的が異なるプログラムという考え方もある。これらは、あくまでもプログラムを設計する大学の考え方によることとなるが、重要なのは、我が国の大学が海外の大学と連携して養成する人材像に基づきカリキュラムを設計するときに、DDに加え、JDという新たな選択肢を得ることである。
また、連携先の大学が属する各国の制度等により、共同プログラムの開設方法がJDあるいはDDのどちらかに限定されるケースも考えうる。我が国として大学教育の国際化を推進する以上は、その双方に対応できるように制度等を整えておくことが望ましい。
JD、DDの意義については、実施主体となる大学がどう捉えるかによって異なるが、本検討会としては、我が国の大学が海外の大学とのJDを実現するに当たって、各大学が一大学では提供できない、より高度で革新的なプログラムを行うことを目的とすべきと結論づける。
以下、各々の関係者にとっての意義について述べるが、学生に高度で質の高い教育機会を与え、大学、企業、国に優秀な人材獲得を可能とするこのような教育プログラムの展開は、今後、こうした高い理念の下に、積極的に図られるべきものとする。
JD/DDともに、その学位の質保証を確実に行うことが重要である。各大学は、それぞれのプログラムが、1つの大学で授与される1つの学位と比較して付加される価値を明確にし、そのプログラムを修了した学生が修得する能力等を学生のみならず社会に対して説明する責任をもつ。学生が当該プログラムを修了した際に、その質に疑義が生じるようなことは厳に避けなければならない。
DDについては、原則的に各国の質保証制度に則ったものであることが前提となっており、我が国の現行制度においても対応できている。そのため、以下は基本的にJDプログラムの質保証について示すものとなるが、DDプログラムについてもこれらの考え方を踏まえて行う必要があることは言うまでもない。
各大学がJDプログラムをどのように編成するかについては、相手大学、相手国の制度によって多様な形態を取り得るが、以下、各大学において最低限留意すべき点を示す(別添1)。
自らの教育理念や体制に基づき編成するJDプログラムについて、1.提供する学位レベル(学士、修士、博士)及び対象となる学問分野(同分野及び異分野)が明確になっているか、2.名称は、誤解を与えないよう実態に即したものとなっているか、確認が必要。
海外の大学が当該国において必要な質が保証されている機関であり、連携するにあたり十分な教育資源を有している機関であるか、確認が必要。
我が国の大学と海外の大学とが連名で一つの学位を授与することができることとなるため、学内規則の整備が行われているか、確認が必要。
我が国の大学と海外の大学が安定的かつ継続的な教育連携を確保するため、あらかじめ、大学運営の責任者の名義等により、プログラムの運営方針について協定等により取り決めたか、確認が必要。
我が国の大学と海外の大学がそれぞれ別途実施する場合と、共同で実施する場合、さらにはその組み合わせ等が想定されるため、どのように行うか、確認が必要。
カリキュラムの調整や交流の促進が円滑に行われるよう、1.双方の大学が英語など共通言語による授業や課程を提供するなどの工夫が講じられているか、2.各大学それぞれの言語で教育が提供される場合は、学生の円滑な学習が確保されるよう、言語教育課程の充実等が図られているか、確認が必要。
我が国の大学と海外の大学の学籍をもつため、学生に対する責任等につき、遺漏がないよう適切に処理しているか、確認が必要。
我が国の大学と海外の大学それぞれの修了要件を満たす必要があるため、確認が必要。
○単位:
各大学において修了要件として取得すべき単位数(我が国の場合は学士課程124単位、修士・博士課程30単位)
授業科目は1.共同で開設すること、2.海外の大学の科目を我が国の大学の科目として位置づけること、3.単位互換の手法を活用すること等が想定される。
○論文:
各大学において修了要件として作成しなければならない論文(我が国の場合は博士課程及び修士課程(特定課題研究でよい場合を除く)で必要)。
論文指導は共同で行うことが想定される。
提携する海外の大学と十分に協議をした上で、共同で学位を審査する際の基準を設ける等により、適切な学位審査が確保されているか、確認が必要。
双方の大学に一定期間滞在し、教育機会を得ることが確保されているか、確認が必要。ただし、学生の移動等に伴う負担等は相応に配慮する必要がある。
我が国の大学と海外の大学双方に在籍することから、過度な授業料等の負担がないよう学生の便益に配慮がなされているか、確認が必要。
何らかの事情で学生が履修を断念した場合や、プログラムの修了基準を満たさなかった場合、さらにはいずれかの大学がプログラムの継続が困難となった場合等の対応について、あらかじめ必要な方策を定められているか、確認が必要。
設置認可手続や認証評価の取扱など、ここに記されないものは各種の法令規定を踏まえ行うものとする。
○「我が国の大学と外国の大学間におけるダブル・ディグリー等、組織的・継続的な教育連携関係の構築に関するガイドライン」(平成22年5月、中央教育審議会大学分科会大学教育の検討に関する作業部会大学グローバル化検討ワーキンググループ)
我が国と外国の大学が、教育課程の実施や単位互換等について協議し、双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム。
我が国と外国の大学が、教育課程を共同で編成・実施し、単位互換を活用することにより、双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム(我が国と外国の大学が、共同で教育課程を編成・実施する場合に、単一の学位記を授与することは、我が国の法令上認められていない)。その際、学位記は各関係大学が授与するが、そのほかに、共同で編成された教育課程を修了したことを示すサティフィケート(証明書)を発行することが想定される。なお、これには、国内大学の共同実施制度(国公私を通じ、複数の大学が相互に教育研究資源を有効に活用しつつ、共同で教育課程を編成し、共同で1つの学位を授与するもの)は含まない。
※「ダブル・ディグリー」及び「ジョイント・ディグリー」の定義については、海外においても一様ではなく、一方ではダブル・ディグリーを複数の高等教育機関によりそれぞれ発行される2枚の学位記、ジョイント・ディグリーを2又はそれ以上の機関が発行した単一の学位記であると考える場合もある。他方では、ジョイント・ディグリーについて、国による学位記を伴わずに、プログラムを提供した機関自身により発行される共同の学位記(この場合の「共同の学位記」については、法令上の位置づけは明確でない)とする場合もある。
○EU圏内:ユーリッヒ・シューレ、「国際ビジネス教育に関する国際ダブル・ディグリーコンソーシアム(CIDD)論文集」、2006年
ジョイント・ディグリー:統合された学修プログラムを提供する2又はそれ以上の機関により発行される単一の学位記。学士課程、修士課程、博士課程の単一の学位記は全ての参加大学の学長により署名され、各国の学位記を代替するものと認定される。
ダブル・ディグリー:統合された学修プログラムにかかわる大学によりそれぞれ発行される、2枚の各国において認定される学位記。
○大西洋間の共同・二重学位プログラム調査報告書(マティアス・クーダー(ベルリン自由大学)、ダニエル・オプスト(国際教育研究所)2009年)
ジョイント・ディグリー・プログラム:学生は(少なくとも)二つの高等教育機関で学修し、学修プログラムを修了した時点で、関係教育機関すべてが共同で発行し署名する単一の学位記を受け取る。
デュアルまたはダブル・ディグリー・プログラム:学生は(少なくとも)二つの高等教育機関で学修し、学修プログラムを修了した時点で、関係教育機関それぞれから独立した学位記を受け取る。
○欧州におけるボローニャ・プロセスにおける加盟各国報告書(2007~2009)
ジョイント・ディグリーは、2またはそれ以上の高等教育機関により授与された1枚の学位記であり、当該学位記が他の国内における学位記を付さなくとも有効であるものである。
○「ジョイント・ディグリーの認証(認定)に関する勧告」(欧州における高等教育の学業・卒業証書及び学位の認証(認定)に関する地域条約(2004年6月9日採択))
「ジョイント・ディグリーは、少なくとも2つ以上の高等教育機関によって、あるいは1つ以上の高等教育機関と他の学位資格授与組織によって、共同で発行される高等教育の資格である。その資格は、ときに他機関の協力も得て、高等教育機関が共同で開発、提供、もしくはその両方を行う学修プログラムに基づくものである。
また、このジョイント・ディグリーは、以下の形で発行され得る。
a) 一国ないし複数国による学位記に加えて発行される共同学位記
b) 国による学位記を伴わずに、学修プログラムを提供した機関自身により発行される共同学位記
c) 当該の共同資格の唯一の公式な証明として発行される一国ないし複数国による学位記
○ International Joint, Double and Consecutive Degree Programs: New developments, issues and challenges (Jane Knight and Jack Lee, Ontario Institute for Studies in Education, University of Toronto)
“A joint degree program awards one joint qualification upon completion of the collaborative program requirements established by the partner institutions.”
“A double degree program awards two individual qualifications at equivalent levels upon completion of the collaborative program requirements established by the two partner institutions.”
“A consecutive degree program awards two different qualifications at successive levels upon completion of the collaborative program requirements established by the partner institutions.” ※
※ コンセクティブ・ディグリー
本報告では取り扱っていないが、「学士課程と修士課程」、「修士課程と博士課程」など、段階の異なる課程を接続して行う共同教育プログラムのこと。
制度上は概ね、「海外への/海外からの」進学として整理が可能と考えられ、国内大学においても既に幾つかの例が見られる。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室