社団法人 私立大学情報教育協会
教授法、学習指導法、教員の熱意・態度など、教員個々の教育力の温度差が教育改善に大きく影響している。多くの学生に基礎学力の低下、学習意欲の低下、人間力の低下が顕著となってきた中での教育は、教員が学生であった30数年前のスタイルの教育内容・教育方法を展開しても、学生の受容力が無い中では通用しない。それ故に教員に学生の価値観、気質、能力に見合った指導能力の再開発が求められる。
大学設置基準では、「研究上の業績を有する者」、「専攻分野について特に優れた知識及び経験を有する者」などを対象に、「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有する者」としており、教育上の能力については一切触れておらず、大学の裁量に委ねられてきた。
国としての免許制度がない、担保がない中で学士力を実現していくには、教員一人々の教育指導のあり方について、国としても最小限求められる教員の資質について何らかの方向性を提示できるよう工夫することが要請される。
教育指導能力(教育力)をどのようにとらえるべきか、確立されたものはない。しかし、教育の質を保証していくには、大学として教員が備えるべき教育力について、考えられる判断指標を設け、試行を重ねる中で共通理解を深めていく責任がある。
指標は、教育課程により多様であるため、大学での検討が進んでいない。今後、FDを研究する過程で避けて通ることのできない基本問題であるだけに、一大学での検討には限界がある。
それには、大学、産業界など関係者による外部機関等の研究会を文部科学省支援の下で連携し、教育力の判断材料を公開することが望まれる。大学は、判断指標を参考に固有の教育力について設定し、教員個々に教育力向上を目指した努力目標の提示を要請し、履行の促進に努めることが望まれる。
今後、学士力の効果を測定する中で教育力のあり方について研究を重ね、学士課程分野における教育力の方向性を整理し、教員各自が自発的に自己点検・評価を行い、教育改善が実現できるよう、教育力のポートフォリオ化が普及進展していくことを切望する。
参考までに本協会が15年前より文学から医学に亘る教育改善の研究を積み重ねる中で指摘されてきた教育力のイメージについて、とりあえず網羅的に整理してみた。
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教育力の指針をどのような範囲で考えるべきか、識者の検討に期待するものであるが、上に掲げた能力を以下のように学識、技能、態度、実践などの視点から整理・見直し、カテゴリ化することが必要と考える。
*専門分野における学問・知識の取得
*授業価値の認識 (学士力に対する授業の役割の明確化)
*教育原理の理解 (教育の目的・意義・内容・方法・評価の基本知識の修得)
*教育者の職務認識 (人材育成に対する教員の役割・使命、教育目標の共有化)
*授業設計・評価 (目標の設定、到達能力の明示、授業デザイン作成、成績評価、自己点検など)
*授業運営の技法 (協調・協同学習、PBL等のプロジェクト学習、フィールド学習など)
*講義・実習技法 (話し方、動機付け、学習意欲の刺激、プレ・模擬実習訓練、実務家導入など)
*情報技術の活用 (教材作成、eラーニング、双方向対話授業、学外との連携、理解度把握など)
*価値観・気質の配慮 (価値観を押し付ない・威圧的雰囲気のない授業の工夫など)
*理解度への配慮 (対話機会の確保、質問しやすさ、わかり易い教材、論理的説明など)
*熱意・意欲の工夫 (授業の重要性、到達能力と社会での活用場面の説明、教員の社会活動など)
*関連授業との連携 (基礎と専門科目、座学と演習・実習などの授業内容の連携・調整など)
*授業改善の実践 (教育効果の測定、学生授業評価のフィードバック、他大学・企業関係者を交えた授業内容の通用性点検、分野別FDの参加・発表など)
*人間基礎力の指導 (社会生活に必要な基礎力、学習相談、進路・人生設計の相談・助言など)
*教育改革への関与 (カリキュラム改革、FD活動の協力、教育支援体制、産学連携、教材・教具環境、学生確保の教育戦略など)
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室