資料3 各法科大学院の改善状況に係る調査結果

各法科大学院の改善状況に係る調査結果

平成24年9月20日
中央教育審議会大学分科会
法科大学院特別委員会
法科大学院教育の質の向上に関する
改善状況調査ワーキング・グループ

1.経緯及び趣旨

 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会(以下「法科大学院特別委員会」という。)では、平成21年4月にとりまとめた「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)」に基づき、これまでに5回にわたって各法科大学院の教育の改善状況について調査を実施し、その結果を公表することにより、各法科大学院における改善の取組を加速させるように促してきた。
 その結果、これまでの調査を通じて、課題を抱えた多くの法科大学院で、入学定員の見直しをはじめとする組織見直しや教育の質の向上に真摯に取り組んでいることが確認できた一方で、一部の法科大学院では、なお入学者選抜における入学者の質の確保や成績評価・修了認定の在り方に課題を抱えていることが確認されてきたところである。
 このような状況の中、「法科大学院教育の質の向上に関する改善状況調査ワーキング・グループ」(以下「本ワーキング・グループ」という。)では、平成24年度入学者選抜の調査結果を分析したところ、より多くの法科大学院において入学者選抜における競争倍率2倍以上の確保を目指した取組による競争的な環境の整備等が進み、入学者の質の確保が図られつつあるが、一方で、依然として入学者選抜における競争性の確保が不十分であったり、適性試験の点数が著しく低い者を入学させたりしている法科大学院が一部に存在していることが明らかになった。さらに、新たな課題として入学定員充足率が5割にも満たない法科大学院が近年増加傾向にあるとともに、入学者数が1桁となった法科大学院も増加していることが確認された。
 以上のことから、今回の調査では、本年6月に開催された法科大学院特別委員会における審議を踏まえ、入学者選抜における競争性の確保や適性試験の適正な位置づけとともに、新たに、入学定員の充足状況や入学者数に課題があると考えられる法科大学院を対象に調査を実施することとした。

2.調査の概要

 本ワーキング・グループでは、法科大学院特別委員会における審議を踏まえ、各法科大学院における入学者の質の確保に関する取組や、入学定員及び入学者数に関する状況についての調査方針及び内容を審議・決定し、次のとおり実施した(調査対象校については別紙参照。)。

<1>書面調査 

 各法科大学院における入学者選抜の状況を把握するため、以下のとおり書面調査を実施した。

(1) 競争倍率(受験者数/合格者数)が2倍を下回る状況は、法科大学院志願者の総数が減少していることを考慮しても、入学者選抜における選抜機能が十分に働いているとは言えない。平成24年度入学者選抜において競争倍率が2倍未満となった法科大学院に対し、質の高い入学者を確保するために、競争的な環境を整えることが不可欠であると考えられることから、その理由や入学定員の見直しを含めた競争性の確保に向けた今後の取組等について調査を実施した。
(2) 適性試験については、本年3月に開催された法科大学院特別委員会において、適性試験で著しく低い点数の者は、入学後の学修状況や司法試験合格状況等を考慮して入学させないよう、各法科大学院において、総受験者の下位から15%を基本として入学最低基準点を設定すべきとの考え方が示されたことを踏まえ、平成24年度入学者選抜において適性試験の点数が下位15%未満の者を合格させた法科大学院に対し、その理由や入学最低基準点の設定に関する考え方等について調査を実施した。
(3) 上記(1)及び(2)に加えて、平成24年度入学者選抜において、入学定員充足率が5割に満たない法科大学院に対し、その理由及び授業や選択科目の開講への影響に関する状況等について調査を実施した。

<2>ヒアリング調査

上記書面調査に対する各法科大学院からの回答を分析・審議した結果、次の(1)~(2)のうち2つ以上に該当する法科大学院にはヒアリング調査を実施し、入学者の質の確保に関する取組の状況や今後の運営方針、適性試験の最低基準点を設定する必要性等について聴取することとした。

(1) 平成24年度入学者選抜において競争倍率が2倍未満となった法科大学院
(2) 適性試験における総受験者の下位15%未満の者を合格させた法科大学院
(3) 平成23年度及び平成24年度入学者選抜の結果において、入学定員充足率が5割に満たない法科大学院

 加えて、平成24年度の入学者数が1桁であった全ての法科大学院に対しても、双方向的・多方向的な授業を実施する上で支障がないか、教育を実施する上で確保することが望ましい入学者数についてどのように考えるか等を聴取することとした。
 さらに、これらの聴取結果を踏まえ、計25校の法科大学院に対し、平成25年度以降の入学者の質の確保を促すこととした。

3.調査の結果

 本ワーキング・グループとしては、今回の調査を通じて各法科大学院の入学者の質の確保や、入学定員及び入学者数の状況に関し、以下のような所感を得た。

【総論】

 入学者選抜における競争性の確保については、平成22年度入学者選抜において、競争倍率が2倍未満となった法科大学院が40校にも上っていたが、平成23年度入学者選抜では19校、平成24年度入学者選抜では13校となり、全体としては相当程度改善が図られてきたところである。一方で、依然として入学定員の充足等を優先するなどして、複数年にわたり改善が見られない法科大学院(10校)や、前年度よりもさらに競争倍率を下げている法科大学院(1校)も存在している状況にある。
 次に適性試験については、平成24年度入学者選抜において、適性試験における入学最低基準点を設定した法科大学院は36校あり、その多くが総受験者の下位から15%以上の点数を基準点としている。また、入学最低基準点を設定するまでには至っていないものの、入学者選抜の過程において適性試験の点数が著しく低い者は不合格とする運用を行っている法科大学院も多く、55校では結果として下位15%未満の者を合格させていない。一方で、下位から15%未満という著しく低い点数の者を合格させた法科大学院も18校あり、中にはそのような者を多数合格させた法科大学院(10名以上1校)もあった。
 最後に入学定員及び入学者数については、入学定員の適切な見直しを行わないまま、入学定員充足率が5割に満たない状況が継続している法科大学院が平成22年度には13校であったものが、平成23年度には21校、平成24年度には35校と、近年急速に増加する傾向にある。また、入学者数が1桁となった法科大学院についても、平成23年度には11校であったものが、平成24年度には20校まで増加しており、これらの法科大学院全てにおいて入学定員充足率5割を満たしていない状況にある。

 本ワーキング・グループとしては、法科大学院が法曹養成における中核的な機関としての社会的責任を果たすためにも、プロセスとしての養成の入口にあたる入学者選抜の段階において入学者の質を確保することが重要であると考えている。その上で充実した教育を提供するとともに厳格な成績評価・修了認定を実施することで、質の高い修了者を輩出することが必要であることから、本ワーキング・グループでは、入学者選抜における入学者の質の確保の重要性について、これまでも繰り返し強調してきたところである。
 その中でも、競争倍率2倍以上の確保は、それのみで入学者の質が十分確保されるとは言えないとしても、少なくともこれを下回る(不合格者よりも合格者の方が多い)状況では、選抜機能が働いているとは言い難いことから、最低限守るべき基準として提示されているものである。
 また、適性試験についても、法科大学院入学後の成績や司法試験の成績との正の相関は必ずしも強いとは言えないものの、そこで判定される一定程度の判断力・思考力・分析力・表現力等は、法科大学院における教育により高度専門職業人としての法曹を養成するための基礎として必要とされる資質・能力である。それ故、入学者選抜における重要な判定資料として活用することが求められており、実際、適性試験の成績が著しく低い者については、一部例外を除き、全体としては法科大学院入学後の成績も伸びず、仮に修了できたとしても司法試験に合格していないことから、入学者の質を確保するためには、このような者が入学しないような選抜システムとすることが必要だと考える。
 さらに、入学定員と入学者数が大きく乖離している状況については、当該法科大学院が魅力ある、質の高い教育の提供等ができる体制であるという評価を学生から受けていない、また、入学定員等を踏まえて用意された教員数や施設設備などの教育体制が実際に入学した学生数に比して不相応な規模になっているという課題を抱えていると言えるため、このような法科大学院では、入学定員の見直しをはじめとする自主的・自律的な組織見直しに取り組むことが強く望まれるところである。
 また、入学者数が1桁となった法科大学院については、双方向的・多方向的な授業が効果的かつ継続的に実施できるよう、また、異なる意見や見識を有する複数の学生が互いに影響を与え合うなど切磋琢磨する学修環境となるよう、一定規模の学生数の確保が必要であると考える。該当する法科大学院の大半においても、授業運営および教育効果上それが望ましい状態でないという認識にはあるが、これについては、抜本的な方策ないし対応を早急に講ずることが求められるところである。
 法科大学院として優れた人材を輩出するためには、質の高い入学者を出来るだけ多く確保し、それらの者に対して質の高い効果的な教育を行い、その上で厳格な成績評価、修了認定を行うことにより修了者の質を保証するといった、入学以後の段階を含めた全体としての意識的な取組が必要である。入学者選抜についての対応のみで足りるわけではないが、その最初の段階として、入学者選抜において入学者の質を確保することは極めて重要である。したがって、依然として改善を要する点が存在する法科大学院においては、入学者の最低限の質を確保するための選抜システムとして競争性の確保や入学者選抜における適性試験結果の扱いの厳格化とともに、一定規模の学生数の確保に向けた努力が強く求められる。

【ヒアリング調査における各法科大学院の説明とそれに対する本ワーキング・グループの考え】

○ 平成24年度入学者選抜の結果、競争倍率が2倍未満となった理由については、入学志願者数の減少を挙げる法科大学院が多く、具体的には、全国的な志願者数の減少、他の法科大学院との競合により入学者の確保が困難となっていること、自校の司法試験合格状況の低迷等が挙げられた。これらの法科大学院においては、改善方策として、広報活動の強化や入学者選抜の内容・方法・日程・会場設定等の改善、学生への経済的支援の充実、教育指導体制の強化による司法試験合格状況改善への取組等が示された。
 しかし、志願者数の多寡にかかわらず、入学者の質を確保するためには競争性の確保が必要であり、志願者数の減少はその必要を減じる理由とはならない。
○ 競争倍率が2倍を下回る結果になるとしても、一定の入学者数を確保することを重視して合格者数を決定したとする法科大学院や、合格発表後に追加合格者を出したことで競争倍率が2倍を下回ったとする法科大学院があった。
 しかし、このような方法により競争性を軽視して一定の入学者数を確保できたとしても、概して、最終的に修了できない者や、修了しても司法試験を受けるだけの学力があるという自信を持ち得ない者、受けても合格するに至らない者を多数出してしまう結果になるといえよう。入学者選抜の段階から入学者の質の確保を図ることは極めて重要である。そのために各法科大学院は入学者選抜において競争性の確保を徹底するべきであり、その結果として入学者が入学定員を相当に下回る状況が継続する場合には、入学定員自体を見直すなど、更なる抜本的な改善に取り組む必要がある。
○ また、前年までの入学者選抜に比べて合格水準を下げているわけではないこと等から、入学者の質は確保できていると説明する法科大学院もあった。
 しかし、全体の志願者数が減少しており、以前にも増して入学者の質を確保することが困難な状況になりつつある中で、競争性の極めて低い入学者選抜において質の高い入学者を確保し続けることができるかは疑問である。また、従来どおりの合格水準を維持していれば質が確保されるとする説明についても、その「合格水準」が普遍性のあるものとまで言えるかは疑問とする余地があり、当該法科大学院の修了者のうち相当数が司法試験に合格していない状況にあるなどの実績にも照らすと、入学者選抜における競争性の確保に取り組む必要を減じるだけの十分な説得力を持つ説明とは言い難い。すでに述べたとおり、入学者選抜において、競争倍率が2倍未満の状況では、入試における選抜機能が働いているとは言えず、このような状況を続けるのは、入学者の質の確保についての意識が低いと言わざるを得ないことから、その点での早急な意識改革が必要とされる。
○ さらに、複数回行った入学者選抜について、全体として競争倍率が2倍を上回ることを目標としたため、各回において競争倍率2倍を堅持しなかった結果、競争倍率が2倍を下回る結果になったと説明する法科大学院や、法学既修者については競争倍率が2倍を上回ったものの、法学未修者については競争倍率が2倍を下回ったと説明する法科大学院があった。
 しかし、入学者選抜全体として競争倍率2倍を上回ったとしても、各入試日程や試験区分により選抜機能に差がある状況は決して望ましいものではない。入学者選抜の各回において、入学者の質の確保のため、競争倍率が2倍を上回るよう努めることが求められる。
○ 適性試験については、平成25年度以降の入学者選抜において、総受験者の下位から15%を最低基準点として設定すると説明する法科大学院が見られた。他方、適性試験の点数が最低基準点に満たない場合であっても、面接試験の結果や、社会人としての職歴、資格の保有状況等の要素を加味し、適性試験の点数が総受験者の下位から15%未満にある者についても合格とすることがあると説明する法科大学院や、総受験者の下位から15%よりも低い点数を最低基準点として設定している法科大学院があった。さらに、適性試験の成績と法科大学院入学後の成績、司法試験の成績との間に有意の相関が認められないことや、適性試験の点数が著しく低い者であっても入学後に学力が伸びる可能性があることから、入学者選抜の段階で絞りきることは適切でないという考えの法科大学院もあった。
 確かに、これまで得られた検証結果等に照らす限り、適性試験の点数が高い者は法科大学院入学後の成績が良い、あるいは、司法試験の成績も良いという正の相関が顕著に認められるとまでは言えない。しかし、ごく一部の例外を除くと、適性試験の点数が著しく低い者は、一般に法科大学院入学後の成績も良くなく、仮に修了できたとしても司法試験に合格していない。そのような意味から、入学者選抜における質の確保のための最低ラインとして、適性試験の点数が著しく低い者を入学させることのないように、適性試験総受験者の下位から15%を基本として最低基準点を設定し、受験生にその旨を開示し、厳格に運用することが必要であると考えられる。
○ 平成24年度の入学者選抜の結果、入学定員充足率が5割に満たない法科大学院からは、入学定員充足率が低いのは、そもそも法科大学院への志願者数が全国的に減少していることに原因があると説明する法科大学院が多くあった。
 しかし、志願者数の全国的な減少傾向の中にあっても、高い競争倍率と入学定員充足率の両方を維持している法科大学院も存在していることから、全国的な傾向に原因を求めるだけでなく、個々の法科大学院において、この法科大学院間の競争に耐えうるだけの組織的な力量を培い、教育力の向上に努め、志願者の確保に向けた取組や入学定員の見直しなどを早急に行うといった対応をとることが求められる。
○ また、入学者数が著しく少ないことについては、それが望ましい状態ではないという認識が該当法科大学院の大半にあった。そのなかで、現時点では大きな支障はないものの、学生の年次が上がるにつれて選択科目での履修者が少なくなり、双方向的・多方向的な授業の実施が難しくなる可能性や、演習授業等で学生1人当たりの負担増について言及し、今後支障が出てくるのではないかという法科大学院もみられた。一方、むしろ少人数指導による充実した教育を行うことができるので問題ないという法科大学院や、教員が多面的な視点を示すことや実施方法の工夫などで対応できると説明する法科大学院もあった。
 確かに、学生数が少ないことによって少人数指導による充実した教育が行えるという見方もできなくはないが、そのような状況が継続した場合、双方向的・多方向的な授業が効果的かつ継続的に実施できているのか、異なる意見や見識を有する複数の学生が互いに影響を与え合うなど切磋琢磨する学修環境となっているのか、少人数の中で学生が自らの到達度を他の学生との比較において客観的に判断できているのか、さらには、学生同士で取り組む自主ゼミの開催など自発的な学修にも影響を与えていないのかといったことについては大いに疑念が生じるところであり、教育の質の確保の観点から、一定規模の学生数の確保に向けて取り組むことが必要であると考える。

【まとめ】

 今回の調査では、課題を抱える多くの法科大学院から、入学者の質の確保の重要性を認識し、平成25年度以降の入学者選抜において、競争倍率2倍以上の確保や適性試験最低基準点の設定に取り組んでいくことが表明された一方で、ごく一部ではあるが、全国的な司法試験合格率の低迷や法科大学院志願者数の減少という状況の中で、個々の法科大学院の努力には限界があり、平成25年度以降の入学者選抜においても、そのような取組を行うことは困難であるとする法科大学院もあった。
 しかし、こうした一部の法科大学院の問題意識の低さを放置してしまうと、そのままでは、法科大学院全般、さらには法曹養成制度全体の信頼性を失わせることにつながりかねない。法曹養成制度全体のあり方の問題として取り組まなければならない課題があることは確かだとしても、個々の法科大学院として、質の高い修了者を出していく責務を放棄できるものではなく、その責務を果たすために、入口である入学者選抜における入学者の質の確保も極めて重要であることは、繰り返すまでもない。平成25年度入学者選抜における各法科大学院のさらに徹底した改善の取組に期待したい。
 また、入学定員充足率が5割に満たない法科大学院や入学者数が1桁となった法科大学院においては、その現状を重く受け止め、より一層多くの学生から選ばれる法科大学院となるための質の高い教育を提供するといった取組を進めるとともに、現状を踏まえた入学定員の更なる適正化や組織の見直しなどの取組も速やかに進めることが強く望まれる。

4.今後の取組

 今後は、平成24年司法試験の結果等も踏まえながら、各法科大学院における改善状況について、引き続きフォローアップを実施し、その結果について随時、法科大学院特別委員会に報告していく予定である。

 

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高等教育局専門教育課専門職大学院室法科大学院係

(高等教育局専門教育課専門職大学院室)