資料5 法科大学院教育の課題と見直しの方向性について(たたき台/修正案)

(たたき台)

はじめに

●  法科大学院教育については、少人数を基本として、双方向的・多方向的で密度の濃い授業が実施されるなど、従前の大講義型を中心とした法学教育や司法試験の合格に向けた学習から大きく変化を遂げており、学生に物事をじっくりと考える能力を養うなど、優れた教育となっている。

●  関係者からは、修了者について、自発的・積極的な学習意欲が高いこと、判例や文献等の法情報調査能力が高いこと、コミュニケーション能力に優れていることなどの優れた点が見られるとの評価もなされている。

●  一方、法科大学院全体については、未修者教育の問題などが共通の課題として顕在化するとともに、法科大学院間の格差が目立ち、特に課題のある法科大学院の実態が、法科大学院制度全体に対する社会的信頼の確立の障害となり、制度の円滑な安定化を妨げていることは否定しがたい。

●  こうした法科大学院制度の優れた点を伸ばすとともに、現在、法科大学院制度が抱えている課題の解決に向けた取組を推進することを通じて、司法制度改革の理念を踏まえた法曹養成制度が適切に機能するよう、法科大学院教育の更なる見直しの方向について検討する。

 

1.これまでの改善状況と主な課題

 本特別委員会は、平成21年4月、「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について」(報告)をとりまとめたところであり、文部科学省において、同報告に基づき、次の取組を実施してきている。

〔これまでの改善状況〕

(1) 入学者の質の確保

● すべての法科大学院が入学定員の削減を実施し、ピーク時であった平成19年度5,825人から、平成24年度4,484人と約2割の減。

● 入学者選抜の選抜機能を十分に働かせるため、競争倍率(受験者数/合格者数)の確保を促した結果、実入学者数はピーク時であった平成18年度5,784人から、平成24年度3,150人と約4割の減。

(2) 修了者の質の確保

● 法律基本科目の基礎的な学修を確保するため、未修1年次の法律基本科目の履修登録単位の上限数を6単位まで増加できるよう省令を改正し、平成23年度現在、50校が単位数を増加。

● 成績・進級判定の厳格化の結果、標準修業年限での修了者の割合が、平成18年度81% から、平成22年度74%までに。

(3) 教育体制の見直しの推進

● 深刻な課題を抱える法科大学院に対し、自主的・自律的な組織見直しを促進するため、司法試験合格率や競争倍率を指標とした公的支援の見直しを平成24年度予算より6校を対象に実施

● 現在、法科大学院3校が学生の募集停止を実施又は表明。(このうち1校は他校との統合を予定)

(4) 質を重視した評価システムの構築

● 修了者の進路等を評価項目に追加、重点評価項目の設定など認証評価基準・方法の改善のための省令改正を実施

● 各法科大学院の教育の改善状況について特別委員会として調査を実施し、結果を公表

〔入学者及び修了者の状況〕

● 法科大学院入学者及び修了者について、既修者/未修者別の状況は、以下の通り。

・ 入学者数は、平成16年度5,767人、うち既修者2,350人/未修者3,417人であったが、平成24年度3,150人、うち既修者1,825人/未修者1,325人と、未修者の減少数が大きい。

・ 標準修業年限修了の状況について、平成16年度は、既修者92.6%/未修者76.3%であったが、平成20年度は、既修者91.3%/未修者64.9%と、未修者の標準修業年限で修了する者の割合が低下。

● 司法試験合格状況(各年)については、以下の通り。

・ 毎年の合格数総数については、平成22年頃までに合格者数を年間3,000人とする政府目標(閣議決定)は、平成23年の司法試験合格者数2,063人となっており、未達成。

・ 受験者数は増加する一方、合格者数が政府目標に達せず、平成20年度以降約2,000人で推移している結果、単年度の司法試験合格率は年々低下(H18年度48.3%→H23年度23.5%)。

● 司法試験合格状況(累積)については、以下の通り。

・ 累積合格率(合格者数/修了者数)は、既に修了後5年を経過した、平成17年度修了者(既修者のみ)は 69.8%、同じく平成18年度修了者は49.5%(内訳:既修者63.4%/未修者39.5%)。

・ 法科大学院修了後に3年以上5年未満を経過した平成19年度及び20年度修了者の合格状況も、既修者は6割を超えている一方、未修者は約3割と差がある。

〔主な課題〕

(1) 法科大学院ごとの状況の違い

● 各大学院の司法試験合格状況について、公的支援見直しの指標である全国平均の半分未満を仮の指標として、各大学院(募集停止予定校を除く)の累積合格率を比較すると、

・ 指標を上回る大学院43校の累積合格率は、50.7%

・ 指標を下回る大学院29校の累積合格率は、15.7%。

● 深刻な課題を抱える法科大学院では、平成24年度における入学者選抜の競争倍率が2倍に満たない大学院が13校存在。

(2) 未修者教育の課題

● 直近の平成23年司法試験の合格率は、既修者で35%、未修者で16%。累積合格率では、既修者で61%、未修者で28%となり、既修者と未修者の間に差が生じている。ただし、未修者の合格者数については、平成19年635名に対して平成23年881名と増加。

● 平成20年度入学者の標準修業年限での修了率は、既修者が91.3%に対して未修者は64.9%。

● 短答式・論文式試験を通じて、既習者と比べ未修者の合格状況は厳しい状況にある。特に短答式試験は大きな課題。

 短答合格者(対受験者)  : 既修者81.4% ⇔ 未修者54.1%  (その差27.3%)
 最終合格者(対短答合格者): 既修者43.5% ⇔ 未修者30.0%  (その差13.5%)

● 未修者の司法試験合格者数や標準修業年限での修了率は、法学部出身者に比べて非法学部出身者がより厳しい状況にある。
 平成19年と23年の司法試験の合格者数を比較すると、法学部出身未修者は合格者数を増やしているが(344名→621名)、非法学部出身者はやや減少(292名→260名)。 
 平成21年度入学者の標準修業年限での未修者の修了率は、法学部出身59.7%、非法学部出身50.4%。

 

2.これまでの検討状況と今後の見直しに関する基本的な考え方

[これまでの検討状況]

○ 本特別委員会では、21年の特別委員会報告後、ワーキンググループを設け、個別の法科大学院の教育活動状況について把握を行い、入学者選抜や授業内容、成績評価・修了認定、教育体制、司法試験合格状況等において課題を抱える法科大学院に対し、現状分析や課題の洗い出し、改善の取組状況などの調査し、その結果をこれまで5回にわたって報告・公表し、課題を抱える法科大学院に対して改善の取組を促してきたところ。

○ 政府の関係6省庁による「法曹の養成に関するフォーラム」においては、法曹養成に関する制度の在り方について検討を重ねており、本年5月には、論点整理が行われた。また、平成23年11月の提言型政策仕分け、本年4月の総務省の行政評価等において、法科大学院をはじめとする法曹養成制度における問題点の指摘や対策、提言などがなされている。

[今後の見直しに関する基本的な考え方]

○ 本特別委員会のワーキンググループの調査結果が示すように、多くの法科大学院では課題の改善に向けて取り組み、短期間にもかかわらず、かなりの効果を上げているところが見られる一方、一部の法科大学院では、教育の質の改善に関する取組が十分でないところも見られる。

○  本特別委員会においては、こうした状況を踏まえ、「法曹の養成に関するフォーラム」における制度の在り方に関する検討を待たずに対応できる実施上の課題については、速やかに具体的な改善方策を検討・実施していく必要があると考える。
 基本的には、教育の質の向上を図り、入学定員の適正化等を進め、法科大学院が法曹養成制度の中核機関としての責務を果たし、社会全体からの信頼の確立を目指すべきである。

○ その際、法科大学院ごとの状況の違い、未修者教育の充実に関する課題、既に講じてきた施策の進捗状況や効果等を踏まえて、きめ細かな改善方策を検討・実施していくべきである。

 

3.今後検討すべき改善方策案

1.課題のある法科大学院群を中心とした入学定員の更なる適正化等による入学者の質の確保

(1) 個々の法科大学院への働きかけ

○ 中教審/改善状況調査の対象校を絞り込み、より重点的なフォローアップを実施。

○ 課題を抱える法科大学院に対する改善計画の提出要請・ヒアリング・改善状況調査結果の公表の実施。

○ 認証評価で不適格となった法科大学院に対する改善状況の報告・確認の徹底。

 など

(2) 法科大学院に対する公的支援の更なる見直し

○ 入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。

 など

2.課題のある法科大学院群を中心とした教育体制の抜本的見直しの加速

(1) 組織改革の加速に向けた取組

○ 各法科大学院において連合大学院・共同教育課程・統廃合等に関する組織改革を促進するための改革モデル及び支援策の検討。

○ 入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。(再掲)

など

3.未修者教育の充実など法科大学院教育の質の改善等の促進

(1) 未修者教育の充実方策の実施

○ 着実な取組を実施している法科大学院における未修者教育に関する優れた取組みの共有化の促進

○ 共通的到達目標を踏まえたカリキュラム策定の促進、夜間開講や3年を越える期間の教育課程を設定ができる長期履修制度の活用の促進、純粋未修者に対する教育期間の在り方に関する調査研究、入学前の未修者用教材の開発

○ 未修者教育充実のための新たなワーキンググループを設置し、改善方策について集中的に検討

など

(2) 入学者選抜の改善 

○ 適性試験の成績と法科大学院入学後の成績等との相関関係の検証及び検証に基づいた改善を実施

○ 社会人または非法学部出身者の受入割合の検討、優秀な学生を積極的に受け入れる方策の検討など

など

(3) 質の高い教育環境の確保 

○ 主要科目担当の専任教員配置要件の明示や実務家教員の割合を明確化するなどの改善方策について検討

○ 教員の資質能力向上の観点から、研究家教員と実務家教員が共同してFD(ファカルティ・ディベロップメント)の促進

○ 双方向・多方向の授業を有効に実施するための適正な人数の在り方などクラス規模の検討

など

(4) 認証評価結果の主体的な活用を通じた改善

○ 今後2順目の認証評価が本格化することから、今回の評価基準・方法の改善を踏まえて、法科大学院教育の改善がより主体的に行われるよう促進

など

(5) 法科大学院における教育の状況やその成果の積極的な公表等

○ シンポジウムの開催等を含め、着実な取組を実施している法科大学院の教育の状況やその成果を広く社会に発信する取組の促進

○ 法曹資格取得者をはじめ法科大学院修了者が高度の法的素養を持つ人材として、広く社会で活躍できるよう支援するため、その進路状況のより精確な把握、就職支援の充実方策の検討

など

(6)  法科大学院による継続教育への積極的な参画

○ 現に実務に携わる法曹関係者が、法科大学院における科目等履修制度等を活用することを通じて、先端的・現代的分野、国際関係、学際分野を学び直す機会の創出に向けた取組の促進

など

4.今後の政府における検討に期待すること

 司法制度改革の理念を達成していくため、法科大学院の在り方に密接に関連する課題として、下記に掲げる事項について、政府全体で検討し、対応を講じていくことを期待。

○ 司法制度改革の理念を踏まえた検討

 一段とグローバル化が進展するとともに、地域における法曹ニーズや少子高齢化の進展に伴い社会システムが更に複雑化するなか、今後の社会における法曹として活躍が期待される人材に求められる資質とは何か、また、そのために必要な法曹養成制度の在り方とは何かについて、司法制度改革の理念を踏まえて検討する必要がある。

○ 多様な人材の確保に向けての検討

 司法制度改革が目指してきた多様な人材の確保の観点から、法科大学院での教育に加えて、合格基準の透明性の確保等をはじめとした司法試験の在り方をどう改善していくかなど、総合的な検討が必要である。

○ 好循環に転換するための継続的・総合的な検討

 これまでの施策として入学定員の見直しを行い、実入学者数の減を含めて、見直しの取組が進められているところであり、こうした取組の効果を損ねることにならないよう、司法試験の受験回数や予備試験の取扱いなどについては、法曹養成に関する制度全体の見直しの中で慎重に検討することが必要である。

 

(修正案)

はじめに

1.我が国の法曹養成制度については、司法制度改革の新しい理念に基づき「点による養成」から「プロセスによる養成」へ大きく転換することとなり、その中核的機関として法科大学院制度が平成16年度に創設されて以降、本年度で9年目を迎えることとなった。

2.この間、法科大学院は7期にわたって修了者を輩出し、これまで1万人以上が法曹資格を取得している。そして、弁護士については、その登録数の約4分の1は法科大学院修了者が占めるなど、司法制度改革に基づく新しい法曹養成制度が目指した質・量ともに充実した法曹を育てるという理念が具現化しつつある。

3.法科大学院においては、法理論と実務との架橋を強く意識した教育が、少人数を基本として、双方向的・多方向的で密度の濃い授業を通じて実践されるなど、従前の大講義型を中心とした法学教育から大きく変化を遂げており、学生にものごとをじっくりと考える能力を養うなど大学院レベルにおける人材養成としても一定の成果をあげていると考えられる。
 また関係者からは、法科大学院修了者について、自発的・積極的な学習意欲が高いこと、判例や文献等の法情報調査能力が高いこと、コミュニケーション能力に優れていることなどの優れた点が見られるとの評価もなされている。

4.しかし、その一方では、法科大学院志願者数の減少や一部法科大学院修了者の司法試験合格率の低迷、そしてそれに伴ういくつかの課題が生じていることから、このような状況を打開するため、本特別委員会においては、平成21年4月に「法科大学院教育の質の向上について(報告)」(以下「特別委員会報告」という)をとりまとめ、法科大学院の教育の質の向上を図るため、総合的な改善方策を提言したところである。

5.そして、この提言に基づき、各法科大学院においては、教育の改善に向けた取組を進め一定の成果を挙げてきているところであるが、こうしたなか、法科大学院志願者数の減少が続くなど、法科大学院を中核とした法曹養成制度全体を取り巻く環境は一層厳しさを増している。
 特に、法科大学院については、未修者教育の問題などが共通の課題として顕在化するとともに、法科大学院間の差が目立ち、課題のある法科大学院の実態が法科大学院制度全体に対する社会的信頼の確立の障害となり、制度の円滑な安定化を妨げていることは否定しがたい。

6.このため、改めて本特別委員会において法科大学院が置かれている現状と課題を確認し、法科大学院教育の優れた点を伸ばすとともに、現在、法科大学院制度が抱えている課題の解決に向けた取組を推進することを通じて、司法制度改革の理念を踏まえた法曹養成制度が適切に機能するよう、法科大学院教育の更なる見直しの方向について検討することとする。

 

1 これまでの改善状況と主な課題

1.特別委員会報告に基づくこれまでの改善状況

○ 入学者の質と多様性の確保

・ すべての法科大学院が入学定員の削減を実施し、入学定員はピーク時より約2割の減

・ 競争倍率(受験者数/合格者数)の確保を促した結果、実入学者数はピーク時より約4割の減

○ 修了者の質の確保

・ 未修1年次の法律基本科目の単位数の上限数を増加できるよう省令を改正し、50校が単位数を増加

・ 成績・進級判定の厳格化の結果、標準修業年限修了者の割合が約7割まで低下

○ 教育体制の見直しの推進

・ 深刻な課題を抱える法科大学院に対し、自主的・自律的な組織見直しを促進するため、公的支援の見直しを実施

・ 法科大学院3校が学生の募集停止を実施又は表明

○ 質を重視した評価システムの構築

・ 修了者の進路等を評価項目に追加、重点評価項目の設定など認証評価基準・方法の改善のための省令改正を実施

・ 各法科大学院の教育の改善状況について調査を実施し、結果を公表

 特別委員会では、平成21年4月、「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について」(報告)において、入学者の質と多様性の確保、修了者の質の保証、教育体制の充実、質を重視した評価システムの構築に向けた改善方策について提言を行った。
 文部科学省及び各法科大学院においては、この特別委員会報告の提言に基づき、次に掲げる取組を実施しているところである。

〈入学者の質と多様性の確保〉

 各法科大学院において、教育の質の向上を図るため、入学定員の削減に取り組んだ結果、入学定員は平成19年度5,825人から、平成24年度4,571人まで縮減し、ピーク時から見て約2割減となっている。
 法科大学院の入学者選抜において選抜機能を十分に働かせ、質の高い入学者を確保するため、文部科学省では、入学者選抜における競争倍率(受験者数/合格者)2倍の確保の徹底を促しており、入学者選抜において競争倍率2倍を確保できなかった法科大学院は、平成22年度40校あったものが、平成24年度には19校まで減少するとともに、入学者の質の確保に向けた取組などの結果、実入学者数については、平成19年度5,784人から、平成24年度3,150人まで縮減し、ピーク時から見て約4割減となっている。
 適性試験についても、特別委員会報告において、適性試験の統一的な入学最低基準点の設定に係る考え方が示されたが、その後、更に特別委員会において検討を行い、入学後の学修状況や司法試験合格状況等を考慮し、入学最低基準点を総受験者の下位から15%を基本として各法科大学院が設定すること、及び法科大学院の募集要項等に明示する必要性を明確にし、各法科大学院に周知するなどの取組を推進しているところである。

〈修了者の質の確保〉

 法科大学院修了者の質の確保の観点から、特別委員会報告では、共通的な到達目標の設定を提言したことを受けて、平成22年9月、法曹三者を含めた学識経験者等により、法科大学院修了者が共通に備えておくべき能力等の到達目標モデルが作成され、全法科大学院に対して提示された。現在、各法科大学院では、このモデルを踏まえ具体的な到達目標を設定するとともにカリキュラムの改善に向けた取組を推進しているところである。
 また、法学未修者の教育のより一層の充実を目指して、文部科学省においては、法学未修者1年次における法律基本科目の基礎的な学修を確保するため、各法科大学院が法律基本科目の単位数を6単位程度増加させて一年次に配当することを可能とする省令改正等を行った。この改正により、平成23年現在、50の法科大学院において一年次の法律基本科目の配当科目数が増加されるなど、法学未修者の教育の充実が図られているところである。
 さらに、法科大学院における厳格な成績評価・修了認定の徹底を促した結果、進級制を導入する大学が、平成18年度の57大学から、平成22年度には69大学まで増加するなど取組が進むとともに、平成18年度修了者の80.6%が標準修業年限で修了していたものが、平成23年度修了者では68.7%まで低下してきている。

〈教育体制の充実〉

 法科大学院の教育体制の充実・見直しについては、特別委員会報告とともに、その後特別委員会で行われた更なる議論を踏まえ、平成22年9月、文部科学省において、深刻な課題を抱える法科大学院の自主的・自律的な組織見直しを促進するため、競争倍率や司法試験合格率等を指標として、国立大学法人運営費交付金や私学助成の減額を行う公的支援の見直しを発表し、平成24年度予算より実施しているところである。なお、平成24年度予算で見直し対象となる法科大学院は6校となっている。
 なお、平成24年6月現在において、3校の法科大学院において、学生の募集停止を実施又は停止することを表明しているところである。

〈質を重視した評価システムの構築〉

 特別委員会報告では、法科大学院がその役割を十分果たしているかを評価できるよう、評価基準・方法を改善すべき旨提言している。
 文部科学省においては、この提言を受けて、平成22年3月、マル1 評価項目の改善として、新司法試験の合格状況を含む修了者の進路に関する事項を新たな評価項目として追加するとともに、マル2 評価方法の改善として、法曹養成の基本理念を踏まえ、特に重要と判断した項目の評価結果を勘案しつつ、総合的に評価するなど、適切な適格認定を行うことができる評価方法となるよう省令改正を行い、各認証評価機関もこの省令改正を踏まえ、自らの評価基準等を改めたところである。
 現在、これら改正された認証評価基準や方法に基づく2順目の認証評価が、平成23年度から開始されているところである。
 また、特別委員会においても、特別委員会報告の取組状況を法科大学院毎に確認するため、平成22年1月から、5回に渡る改善状況調査を実施してきており、個別の法科大学院における課題を指摘・公表するなどしてその改善を強力に促進しているところである。

 

2.入学者及び修了者の状況

○ 法科大学院入学者及び修了者について、既修者/未修者別の状況は、以下の通り。

・ 入学者数は、平成16年度5,767人、うち既修者2,350人/未修者3,417人であったが、平成24年度3,150人、うち既修者1,825人/未修者1,325人と、未修者の減少数が大きい。

・ 標準修業年限修了の状況について、平成16年度入学者は、既修者92.6%/未修者75.1%であったが、平成21年度入学者は、既修者89.6%/未修者56.6%と、未修者の標準修業年限で修了する者の割合が低下。

○ 司法試験合格状況(各年)については、以下の通り。

・ 毎年の合格数総数については、平成22年頃までに合格者数を年間3,000人とする政府目標(閣議決定)は、平成23年の司法試験合格者数2,063人となっており、未達成。

・ 受験者数は増加する一方、合格者数が政府目標に達せず、平成20年度以降約2,000人で推移している結果、単年度の司法試験合格率は年々低下(H18年度48.3%→H23年度23.5%)。その内訳は、23年度で、既修者35.4%、未修者16.2%である。なお、各年の合格者数(未修者)を見ると、平成19年635名、23年881名であり、増加。

○ 司法試験合格状況(累積)については、以下の通り。

・ 累積合格率(合格者数/修了者数)は、既に修了後5年を経過した、平成17年度修了者(既修者のみ)は 69.8%、同じく平成18年度修了者は49.5%(内訳:既修者63.4%/未修者39.5%)。

・ 法科大学院修了後に3年以上5年未満を経過した平成19年度及び20年度修了者の合格状況も、既修者は6割を超えている。一方、未修者は約3割である。

〈法科大学院の入学者数と修了の状況について(未修者・既修者別)〉

 法科大学院の入学者数については、初年度の平成16年度は5,767人(うち既修者2,350人/未修者3,417人)であり、平成18年度が5,784人と最大となった。その後、各法科大学院が入学定員の削減や厳格な入学者選抜の取組を行った結果、平成24年度は3,150人(うち既修者1,825人/未修者1,325人)であり、入学者数は絞られてきている。この減少の内訳について、平成16年度と比較した場合、全体は約4割の減となっている中、既修者の減少は約2割であるのに対して、未修者は約6割の減となっており、未修者の減少数が特に大きくなっている。
 また、標準修業年限修了の状況について、平成16年度入学者は、既修者92.6%/未修者75.1%であったが、平成21年度入学者は、既修者89.6%/未修者56.6%と、既修者の修了率はほぼ同程度の割合で推移しているのに対し、未修者の標準修業年限で修了する者の割合は約20%減と大きく低下している。

 〈司法試験合格状況(各年)〉

 司法試験合格者数については、平成14年に閣議決定された司法制度推進計画において「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す」とされている。しかし、その合格者数は平成20年までは順調に増加したものの、その後4年間は約2,000人の合格者数で推移しており、年間3,000人の政府目標は未達成のままである。
 このため、司法試験の各年の合格率は、法科大学院修了者が初めて受験した平成18年司法試験で48.3%となった以降、毎年の修了者輩出による受験者数の増加に伴い、各年の合格率は年々低下しており、直近の平成23年の司法試験では合格率23.5%となっている。

〈司法試験合格状況(累積)〉

 これまでの法科大学院の全修了者数(17年度~22年度の累積修了者数:25,825名)による司法試験の累積合格率(過去の全司法試験合格者数に占める全修了者数の割合)は、43.0%(累積合格者数:計11,105名)である。
 このうち、年度毎の修了者別に見た場合、平成17年度及び18年度の修了者は、既に法科大学院修了後5年が経過したものであり、最終的な累積合格率は、平成17年度修了者にあっては69.8%、平成18年度修了者にあっては49.5%という結果になっている。
 平成17年度の修了者は既修者のみであったが、既修者及び未修者の両者がはじめて修了した平成18年度修了者のそれぞれの累積合格率は、既修者は前年と同様6割を越えて63.4%であるのに対して、未修者は39.5%にとどまっており、既修者と未修者との差はかなり開いている。
 また、法科大学院修了後に3年以上(受験可能な機会が3回以上)が経過した平成19年度及び20年度修了者についても、その傾向は同様であり、既修者の合格率は6割を越えている。一方、未修者の合格率は3割程度にとどまっている。

 

3.主な課題

(1) 法科大学院ごとの状況の違い

○ 各大学院の司法試験合格状況について、公的支援見直しの指標である全国平均の半分未満を仮の指標として、各大学院(募集停止校及び予定校を除く)の累積合格率を比較すると、

・ 指標を上回る大学院43校の累積合格率は、50.7%

・ 指標を下回る大学院28校の累積合格率は、15.4%。

○ 深刻な課題を抱える法科大学院では、平成23年度における入学者選抜の競争倍率が2倍に満たない大学院が19校存在。

(2) 未修者教育の課題

○ 直近の平成23年司法試験の合格率は、既修者で35%、未修者で16%。累積合格率では、既修者で61%、未修者で28%となり、既修者と未修者の間に差が生じている。ただし、未修者の合格者数については、平成19年の635名に対して平成23年の881名と増加している。

○ 平成20年度入学者の標準修業年限での修了率は、既修者が91.3%に対して未修者は64.9%。

○ 短答式・論文式試験を通じて、既習者と比べ未修者の合格状況は厳しい状況にある。特に短答式試験は大きな課題。

 短答合格者(対受験者)  : 既修者81.4% ⇔ 未修者54.1%(その差27.3%)
 最終合格者(対短答合格者): 既修者43.5% ⇔ 未修者30.0%(その差13.5%)

○ 未修者の司法試験合格者数や標準修業年限での修了率は、法学部出身者に比べて、非法学部出身者がより厳しい状況にある。

・ 平成19年と23年の司法試験合格者数を比較すると、法学部出身未修者は合格者数を増やしているが(344名→621名)、非法学部出身者はやや減少(292名→260名)。

・ 平成21年度入学者(未修者)の標準修業年限での修了率は、法学部出身59.7%、非法学部出身50.4%。

〈法科大学院間における差の拡大〉

 各大学院の司法試験合格状況について、公的支援見直しの指標である全国平均の半分未満を仮の指標として、各大学院(募集停止校及び予定校を除く)の累積合格率を比較すると全体では43%であり、指標を上回る法科大学院群の累積合格率が50.7%であるのに対し、指標を満たしていない法科大学院の累積合格率は15.7%に留まっている。また、入学者選抜における状況でも、競争倍率2倍に満たない法科大学院が19校存在している。
 このように法科大学院の出口の指標である司法試験の合格率や、入口の指標である入学者選抜における競争倍率や定員充足率の観点から、法科大学院の間に大きな差が生じている状況にあることが指摘できる。

〈未修者教育の課題〉

 新たな法曹養成制度の理念では、法科大学院入学者における多様性の確保が重視され、法科大学院制度は未修者コースが基本として制度設計がなされている。しかし、現在の未修者に関する各種データを既修者と比較・分析した場合、いくつか課題があると考えられる。
 例えば、直近(平成23年)の司法試験合格率は、法学既修者35%であるのに対し、法学未修者は16%に留まっており、これは制度創設以降継続している傾向となっている。また、司法試験の累積合格率も法学既修者が61%であるのに対して、法学未修者は28%であり、単年度の合格率に相応して同様の傾向となっている。
 この司法試験の合格状況に留まらず、法科大学院における標準修業年限修了率においても、法学未修者が厳しい状況にあることが見受けられ、平成22年度修了者について、法学既修者の約90%は標準修業年限の2年で修了しているのに対し、法学未修者については、標準就業年限3年で修了できる者は約56%と、その差は大きく、しかも拡大している。
 さらに、短答式試験の合格率は既修者81.4%であるのに対して、未修者54.1%とその差は27.3ポイントと差が開いているが、短答式試験の合格者が論文式試験を経て最終合格する割合は、既修者43.5%であるのに対して、未修者30.0%とその差は縮小している。短答式・論文式試験全体を通じて、未修者にとって厳しい状況にあるとはいえ、特に、短答式試験が未修者にとって課題となっていると指摘することができる。
 また、未修者のうち法学部出身者と非法学部出身者を比較すると、法学部出身者に比べて非法学部出身者がより厳しい状況にある。例えば、平成19年司法試験と平成23年司法試験の合格者については、法学部出身者が合格者数を増やしている(635名→881名)のに対して、非法学部出身者はやや減少している(292名→260名)。また、平成21年入学者の標準修業年限修了率(未修者)を見ると、法学部出身者が59.7%であるのに対して、非法学部出身者は50.4%となっている。

 

2 これまでの検討状況と今後の見直しに関する基本的な考え方

○ 本特別委員会は、平成21年の特別委員会報告後、ワーキンググループを設け、法科大学院の教育活動状況について把握を行い、課題を抱える法科大学院に対し、改善の取組状況などを調査し、その結果をこれまで5回に渡って報告・公表し、改善の取組を促進。

○ 政府関係6府省による「法曹の養成に関するフォーラム」においては、法曹養成に関する制度の在り方について検討を重ねており、平成24年5月に論点整理を実施。

○ 法科大学院の現状は、多くの法科大学院では課題の改善に向けて取り組み、短期間にもかかわらず、かなりの効果を上げている一方で、一部の法科大学院では、教育の質の改善に関する取組が十分でないところも見られる状況にある。

○ 本特別委員会においては、こうした状況を踏まえ、「法曹の養成に関するフォーラム」における制度の在り方の検討を待たずに対応できる実施上の課題については、速やかに具体的な改善方策を検討・実施していく必要があると考える。

○ 基本的には、教育の質の向上を図り、入学定員の適正化等を進め、法科大学院が法曹養成制度の中核的な機関としての責務を果たし、社会全体からの信頼の確立を目指すべきである。

○ その際、法科大学院ごとの状況の違い、都市部と地方部における法曹養成に関する状況の違い、未修者教育の充実に関する課題、既に講じてきた施策の進捗状況や効果等を踏まえて、きめ細かな改善方策を検討・実施していくべきである。

<本特別委員会のこれまでの検討状況>

 本特別委員会では、平成21年の特別委員会報告後にワーキンググループを設け、個別の法科大学院の教育活動状況について把握を行っている。
 具体的には、入学者選抜や授業内容、成績評価・修了認定、教育体制、司法試験合格状況等において課題を抱える法科大学院に対し、現状分析や課題の洗い出し、改善の取組状況などの調査し、その結果をこれまで5回にわたって報告・公表することを通じて、課題を抱える法科大学院に対して改善の取組を促してきたところである。

<政府のこれまでの検討状況>

 このような状況の中で、平成23年5月に関係6大臣(内閣官房、総務省、法務省、財務省、文部科学省、経済産業省)の申し合わせにより政府内に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」では、法曹の養成に関する制度の在り方について検討することを目的とし、法科大学院の視察、関係者ヒアリングを通じて、現状把握や意見交換を行い、平成24年5月、法曹の養成に関する制度に関する「論点整理」が取りまとめられたところである。
 また、平成23年11月の行政刷新会議による提言型政策仕分けでは、「法科大学院の需給のミスマッチの問題については、定員の適正化を計画的に進めるとともに、産業界・経済界との連携も取りながら、法科大学院制度の在り方そのものを抜本的に見直すことを検討する」旨のとりまとめが行われた。また、本年4月の総務省の政策評価において、法科大学院における教育の質の向上や未修者教育の強化、入学定員の更なる削減・他校との統廃合の検討などの勧告が行われた。

<今後の見直しに関する基本的な考え方>

 本特別委員会のワーキンググループの調査結果等にかんがみると、法科大学院の現状については、多くの法科大学院では課題の改善に向けた取組が行われ、短期間にもかかわらず、かなりの効果を上げているところが見られるが、その一方で、一部の法科大学院では残念ながら依然として危機意識に欠け、教育の質の改善に関する取組が十分でないところが見られるという状況である。
 本特別委員会では、これまでも改善状況調査を通じて指摘を重ねてきているが、これら一部の法科大学院の状況について、その適切な改善が図られないと、法科大学院制度全体の信頼性を損ねるおそれもあるところと考える。
 本特別委員会においては、こうした法科大学院の現状を踏まえつつ、「法曹の養成に関するフォーラム」における制度の在り方に関する検討を待たずに対応できる実施上の課題については、速やかに具体的な改善方策を検討・実施していく必要があると考える。
 基本的には、特別委員会報告において「入学者の質と多様性の確保」、「修了者の質の保証」、「教育体制の充実」、「質を重視した評価システムの構築」の4つの観点から整理された総合的な改善方策については、今なお有効な施策でもあることから、それらの遂行を徹底していくことが重要であると考える。特に、教育の質の向上、入学定員の適正化を図り、法科大学院が法曹養成制度の中核機関としての責務を果たし、社会全体からの信頼の確立を目指すべきである。
 そして、具体的な改善方策の実施に当たっては、法科大学院ごとの状況の違い、未修者教育の充実の課題があること、既に講じてきた施策の進捗状況や効果等を踏まえて、きめ細かな改善方策を検討・実施していくべきである。
 なお、法科大学院教育の質の向上を進めるに当たっては、法科大学院が専ら法曹養成のための教育を行う機関として、原則、その修了者にのみ司法試験の受験資格が認められていることを踏まえれば、入学者や修了者の質の確保とともに、司法試験の合格状況についても一つの重要な指標として考慮していく必要がある。
 また関連して、司法試験の合否にかかわらず、修了者が法的素養を持つ人材として広く社会で活躍できるよう支援するための取組についても併せて促進していくことが重要である。

 

3 今後検討すべき改善方策案

 前述ローマ数字1、ローマ数字2において、法科大学院に関するこれまでの改善の取組状況、法科大学院の現状と課題、今後目指すべき改革の方向性について確認してきた。
 これら改革の方向性を着実かつ効果的に進めるために必要な改善方策については、課題を抱える法科大学院と着実な取組を実施する法科大学院に応じて、主に、以下に掲げる3つの観点から取り組むべきである。
 特別委員会としては、その具体化に向けて更に検討を深め、随時提言していくことにするとともに、文部科学省においても、本提言を踏まえ具体的な施策を立案し、成案がまとまったものから速やかに取り組んでいくことが必要である。 

1.課題のある法科大学院群を中心とした入学定員の更なる適正化等による入学者の質の確保

(1) 個々の法科大学院への働きかけ

○ 中教審/改善状況調査の対象校を絞り込み、より重点的なフォローアップを実施。

○ 課題を抱える法科大学院に対する改善計画の提出要請・ヒアリング・改善状況調査結果の公表の実施。

○ 認証評価で不適格となった法科大学院に対する改善状況の報告・確認の徹底。

(2) 法科大学院に対する公的支援の更なる見直し

○ 入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。

 まず第1の取組としては、課題を抱える法科大学院群を中心とした入学定員の更なる適正化等による入学者の質の確保を進めることが重要である。

<個々の法科大学院への働きかけ>

 具体的な改善方策として、個々の法科大学院への働きかけを行うこととが重要であり、現在、特別委員会報告に提言された施策の実施状況に関するフォローアップのため、特別委員会が実施している改善状況調査については、特に、重点的なフォローアップが必要とされた法科大学院に対して重点的に書面調査・ヒアリング・実地視察を実施することが適当である。
 また、文部科学省においては、達成すべき年度を明示した数値目標の設定や未達成の場合の組織見直し等への取組を明らかにさせるなど課題を抱える法科大学院に対する組織見直しに係る改善計画の提出・ヒアリング・公表を実施することも考えられる。
 更に、今後多くの法科大学院が2順目の認証評価を受ける時期に入るが、その際、不適格認定を受けた法科大学院に対しては、文部科学省から不適格と判断される原因となった事項の改善が図られるまで報告・確認を継続的に要求するなどの取組を求めることが適当である。

<法科大学院に対する公的支援の更なる見直し>

 また、法科大学院の組織見直しを促進するため、平成22年9月に文部科学省から発表された「公的支援の見直しについて」は、平成24年度予算より、6大学を対象として実施されることとなっている。
 現行の仕組では、法科大学院への入学者選抜における競争倍率と司法試験の合格率等の2つの観点を指標としているが、現在、競争倍率の確保を重視していることにより入学定員と実入学者数が大きく乖離する実態があるので、これを是正する観点から、上記の2つの指標に加え法科大学院の入学定員の充足状況を新たな指標として追加するなどを検討することが必要である。
 ただし、その際には、新たに入学定員の充足状況を指標に追加することで、課題を抱える法科大学院が入学者の質の確保をおろそかにすることがないよう、指標の組み合わせなどに工夫が必要である。また、更なる見直しの適用時期についても、入学者選抜の実施等において、現場に無用の混乱が生じないよう配慮することが必要である。

 

2.課題のある法科大学院群を中心とした教育体制の抜本的見直しの加速

 組織改革の加速に向けた取組

○ 各法科大学院において連合大学院・共同教育課程・統廃合等に関する組織改革を促進するための改革モデル及び支援策の検討。

○ 入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。(再掲)

 第2の取組としては、課題のある法科大学院群を中心とした教育体制の抜本的見直しの加速を促すことが重要である。

<組織改革の加速に向けた取組>

 具体的な改善方策としては、上記に示した課題のある法科大学院群を中心とした入学定員の更なる適正化を進めるとともに、組織見直しに向けた取組を促進していくことが必要である。
 このため、文部科学省においては、国公私立の法科大学院を対象に、共同教育課程や連合大学院、統廃合等の取組を促進するため、組織見直しに向けたモデルケースを示すなどして改革を促進する取組を推進するとともに、法科大学院が教育体制の見直しに取り組みやすくなるよう、その支援を検討することが必要である。
 また、「1.課題のある法科大学院群を中心とした入学定員の更なる適正化等による入学者の質の確保」でも記載したように、公的支援の更なる見直しを実施していくことで、入学定員の削減をはじめとした組織体制の見直しを加速するよう取り組むことが必要である。

 

3.未修者教育の充実など法科大学院教育の質の改善等の促進

(1) 未修者教育の充実方策の実施

○ 着実な取組を実施している法科大学院における未修者教育に関する優れた取組みの共有化の促進

○ 共通的到達目標を踏まえたカリキュラム策定の促進、夜間開講や3年を超える教育課程を設定ができる長期履修制度の活用の促進、純粋未修者に対する教育期間の在り方に関する調査研究、入学前の未修者用教材の開発

○ 未修者教育充実のための新たなWGを設置し、改善方策について集中的に検討

(2) 入学者選抜の改善

○ 適性試験の成績と法科大学院入学後の成績等との相関関係の検証及び検証に基づいた改善を実施

○ 社会人または非法学部出身者の受入れ割合の検討、優秀な学生を積極的に受け入れる方策の検討など

(3) 質の高い教育環境の確保 

○ 主要科目担当の専任教員配置要件の明示や実務家教員の割合を明確化するなどの改善方策について検討

○ 教員の資質能力向上の観点から、研究者教員と実務家教員が共同して行うFD(ファカルティディベロップメント)の促進

○ 双方向・多方向の授業を有効に実施するための適正な人数の在り方などクラス規模の検討

(4) 認証評価結果の主体的な活用を通じた改善

○ 今後2順目の認証評価が本格化することから、今回の評価基準・方法の改善を踏まえて、法科大学院教育の改善がより主体的に行われるよう促進

(5) 法科大学院における教育の状況やその成果の積極的な公表等

○ シンポジウムの開催等を含め、着実な取組を実施している法科大学院の教育の状況やその成果を広く社会に発信する取組の促進

○ 法曹資格取得者をはじめ法科大学院修了者が高度の法的素養を持つ人材として、広く社会で活躍できるよう支援するため、その進路状況のより精確な把握、就職支援の充実方策の検討

(6) 法科大学院による継続教育への積極的な参画

○ 現に実務に携わる法曹関係者が、法科大学院における科目等履修制度等を活用することを通じて、先端的・現代的分野、国際関係、学際分野を学び直す機会の創出に向けた取組の促進

 第3の取組としては、課題がある法科大学群に対する改善方策を展開するとともに、プロセスとしての養成を更に充実していく観点から、着実な取組を実施している法科大学院群を中心に、未修者教育の充実をはじめとした法科大学院の教育の質の改善等を促進することが重要である。

<未修者教育の充実方策の実施>

 全体として未修者教育に課題があることは明らかになっているが、一方で未修者教育においても確実な成果を上げている法科大学院も存在することから、着実な取り組みを実施している法科大学院における未修者教育に関する優れた取り組みの共有化を促進することが必要である。
 また、共通的到達目標を踏まえたカリキュラム策定を引き続き促進すると共に、社会人等の多様な人材の法科大学院での学修を支援できるよう、夜間開講や3年を超える教育課程を設定することができる長期履修制度の活用の促進とともに、法科大学院入学前に法的知識・考え方など学べる仕組みを構築するなどの取組を促進することが適当である。
 このほかにも、純粋未修者の教育期間の在り方に関する調査研究や未修者に対する教育手法の開発など、未修者教育の充実方策について検討するために、特別委員会の下に新たなワーキンググループを設置して対応することが必要である。

<入学者選抜の改善>

 適性試験については、特別委員会としても、既に各法科大学院において適性試験の総受験者の下位から15%を入学最低基準点として設定することを促すなど改善方策を打ち出しているが、さらに、文部科学省においては、入学者の質の確保を一層強化する観点から、適性試験管理委員会と協力しながら、適性試験の結果と法科大学院入学後や司法試験の成績との相関関係を含め、その内容等について検証し、必要に応じて改善に向けた取組を促すことが適当である。
 法科大学院への志願者数が大きく減少するなかで、入学者選抜における社会人又は非法学部出身者の割合を3割確保することが、入学者の質の確保という点で難しくなりつつあると考えられる。入学者の多様性の確保とその質の確保をどのように両立させるかは、未修者教育の充実方策とも関連する事柄であるので、その点も十分考慮しつつ、文部省告示における努力規定を再検討することが考えられる。
 また、優秀な学生を積極的に受け入れていくためには、学部教育との連携を深めるとともに、飛び入学や早期卒業などの活用を検討することも考えられる。

<質の高い教育環境の確保>

 質の高い教員の確保に向けて、文部科学省においては、例えば、専門職大学院設置基準において、主要科目の専任教授・准教授による担当や法律基本科目群及び法律実務基礎科目群への専任教員配置の明示、或いは、実務家教員の割合を明確化するなどの改善方策について検討することが必要である。
 教員における資質能力の向上のためFDについては特別委員会報告書でも推進してきたところであるが、法科大学院において、理論と実務の架け橋を強く意識した教育を実施していくため、研究者教員と実務家教員とが共同して行うFD活動を促進していく必要がある。
 また、法科大学院では双方向・多方向的な授業に取り組んでいるが、昨今入学者数の現象により、各学年における学生数が減少していることから、この双方向・多方向的な授業を有効に実施するための適正な人数のあり方などクラス規模についても検討する必要がある。

<認証評価結果の主体的な活用を通じた改善>

 各法科大学院にとって2回目の認証評価が、見直しが行われた評価基準・方法に基づいて本格化することを踏まえ、文部科学省においては、今後行われる認証評価の実施状況やその結果について報告を受け、情報収集・分析等を行うことを通じて、見直された認証評価の仕組みが適切に運用されているかどうかを把握し、必要に応じて更なる改善方策を検討することが必要である。さらに、その評価結果をより積極的に法科大学院教育の改善に主体的に活用される方策についても検討する必要がある。

<法科大学院における教育の状況やその成果の積極的な公表等>

 各法科大学院においては、エクスターンシップやシンポジウム等を含めて、法科大学院の教育やその成果を広く社会に発信する取組を日常的に行っていくことが必要である。
 また、文部科学省としても、法曹有資格者や法科大学院修了者が専門的な法的知識・考え方を持つ人材として広く社会で活躍できるように支援するため、その進路状況のより正確な把握や就職支援の充実方策の検討が必要である。それらの結果として、法務博士(専門職)が社会に広く認知されることを目指すことが望ましい。

<法科大学院による継続教育への積極的な参画>

 現に実務に携わる法曹関係者が、法科大学院における科目等履修制度等を活用することを通じて、先端的・現代的分野、国際関係、学際分野等を学び直す機会を創出することで、単に法曹を輩出するだけでなく、広く人材の育成を支援していくことが必要である。

 

4 今後の政府における検討に期待すること

○ 司法制度改革の理念を達成していくため、法科大学院の在り方に密接に関連する課題として、下記に掲げる事項については、政府全体で検討し、対応を講じていくことを期待。

(1) 司法制度改革の理念を踏まえた検討

 今後の社会における法曹として活躍が期待される人材に求められる資質とは何か、また、そのために必要な法曹養成制度の在り方とは何かについて、司法制度改革の理念を踏まえて検討する必要がある。

(2) 多様な人材の確保に向けての検討

 司法制度改革が目指してきた多様な人材の確保の観点から、法科大学院での教育に加えて、司法試験の在り方をどう改善していくかなど、総合的な検討が必要である。

(3) 好循環に転換するための継続的・総合的な検討

 これまでの施策として入学定員の見直しを行い、実入学者数の減を含めて、見直しの取組が進められているところであり、こうした取組の効果を損ねることにならないよう、司法試験の受験回数や予備試験の取扱いなどについては、法曹養成に関する制度全体の見直しの中で慎重に検討することが必要である。

 以上、特別委員会として、法科大学院教育の現状と課題、今後の改革の方向性、改善方策について提言するが、さらに現在、政府全体としても、内閣官房、総務省、法務省、財務省、文部科学省、経済産業省といった関係6大臣の申し合わせに基づき設置された「法曹の養成に関するフォーラム」において、法曹の養成に関する制度の在り方に関する検討が進められており、本年5月10日には、その論点整理が行われたところである。 今後は、これら論点整理に基づき、活動領域拡大の方策の検討、活動領域拡大を踏まえた将来の法曹人口の検討、法曹養成制度の在り方について検討を深めていくことが予定されているが、その際、法科大学院教育の改善を含めて司法制度改革の理念を達成していくため、下記に掲げる事項について政府全体として検討し、その対応を講じていくことを期待したい。

 まず、第一に期待することは、司法制度改革の理念を踏まえた検討が行われることである。一段とグローバル化が進展するとともに、地域における法曹ニーズや少子高齢化の進展に伴い社会システムが更に複雑化する中、今後の法曹において活躍が期待される人材に求められる資質とは何か、また、そのために必要な法曹養成制度とは何かについて、これまで進められてきた司法制度改革の理念を踏まえて検討することが必要である。

 第二に、多様な人材の確保に向けて検討を行うことである。具体的には、今般の司法制度改革で目指しているところの多様な人材の確保の観点から、法科大学院での教育に加えて、合格基準の透明性の確保をはじめとした司法試験の在り方をどう改善していくのかなど、総合的な検討が必要である。

 最後に、法曹養成制度が好循環に転換することを目指した継続的・総合的な検討を行うことである。これまで、プロセスとしての法曹養成の制度が好循環へ転換していくことを目指して取り組まれた施策として、入学定員の適正化を行い、実入学者数の減を含めて見直しの取組が進められているところであったが、例えば、司法試験の受験回数制限の扱いなどに変更が生じた場合にはこうした取組の効果を損ねる恐れがあることから、法曹養成に関する制度全体の見直しの中で、整合性がとれるよう慎重に検討することが必要である。

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高等教育局専門教育課専門職大学院室法科大学院係

(高等教育局専門教育課専門職大学院室)