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  参考資料2
中央教育審議会大学分科会
留学生部会(第9回) H15.6.30
 


平成15年6月






新たな留学生政策の確立に向けて

日本私立大学団体連合会

   国策としての「留学生受入れ10万人計画」が、ほぼ達成の見込みとなったことに関しては、私立大学としても少なからず貢献したものと自己評価しているところである。この状況下において、中央教育審議会は大学分科会に新たに留学生部会を設置し、質量ともに充実を目指した「新たな留学生政策の在り方」についての検討が開始されたことは、誠に時宜を得た対応である。
   検討にあたっては、留学生を知日派に育成することが、我が国の教育・研究だけでなく、広く安全保障や経済・社会にとっても極めて重要であるとの観点に立ち、留学生政策が、国家戦略の一環としての総合政策として確立されるべきものと考える。
   本連合会は、「我が国への受入れ留学生の約70%の教育を担っているのは私立大学である」との自負と責任から、私立大学と国公立大学との競争条件のイコール・フッティング環境を整備するとともに、留学生政策の基本的在り方および緊喫に改善を必要とする事項を以下に提示し、その実現に向けて検討されることを期待する。


1    新たな留学生政策の基本的方向
1. 継続的で一貫性のある新たな留学生政策の確立
(1)    留学生政策は、我が国の「知的国際貢献」である
   「未来からの大使」とも言われる留学生は、平和の基盤となる国と国との架け橋である。世界から信頼される国家を目指す我が国にとって、留学生の受入れは、諸外国の人材育成に寄与する「知的国際貢献」である。
   我が国が、「知的国際貢献」の責務を果たしていくためには、国際競争力を兼備した魅力ある大学群の育成と、継続的で一貫性のある留学生政策の確立が重要である。そのためには、留学生政策を「国策」として位置付け、国家戦略の下、財政的にも制度的にも磐石な体制確立が不可欠である。
(2)    国家戦略としての新たな留学生政策の視点
   資源の乏しい我が国においては、人材育成が非常に重要であり、我が国への留学を通して多くの知日派の人材を育成することが戦略的にも求められている。知日派の留学経験者が近隣を含めた諸外国に多数存在することが、広い意味で我が国の安全保障に大きく寄与するのである。しかも、我が国を取り巻く国際環境は急速にグローバル化しており、大量の財、資本、人などが国境を越えて移動している。留学生が出身国の国家建設に携わるマンパワーになるとの側面に十分留意しつつも、併せて、卒業後、留学生に国内で就職する機会を拡大して、彼等のマンパワーを大いに活用することも考慮すべきである。このように、留学生政策は、グローバル化時代における経済活動、社会・労働政策、安全保障とも連動した国家戦略としての視点を踏まえ、新たな留学生政策の検討が必要である。
(3)    非ODA予算拡充の必要性
   留学生予算の約96%を占める政府開発援助(ODA)予算は、近年、その使途についての見直しが進められているが、留学生政策は、我が国のグローバル戦略のひとつであり、留学生予算の拡充は不可欠である。
   留学生の9割がアジア地域の出身であり、その受入れが知的国際貢献であることを踏まえれば、留学生予算の大半がODA予算と位置付けている現状は理解できるものの、日本人留学生の派遣等を対象とした非ODA予算の拡充が不可欠である。
   しかし、基本的に国内で支出される留学生関連予算の大半が開発途上国を対象としたODAに依存することは不自然である。ODAを原資とするのではなく、むしろ「国策」の下での総合政策予算として、省庁の枠を超える新たな予算編成の枠組み検討が必要である。
(4)    日本留学試験の拡大
   留学生の質的保証の観点から、昨年度から実施されている日本留学試験の充実は必須である。現在、同試験の海外実施地域は拡大されつつあるが、留学生のうち6割を超える中国本土での実施の見通しが示されていない。これにより、日本留学を希望している多くの中国人学生は、渡日前に入学許可を得ることが不可能になり、また、日本留学試験の成績上位者に与えられる学習奨励費の予約も渡日前にできない状況にある。中国側に対して制度の説明等を十分に行ってきていることは承知しており、今後は、一層試験の魅力を高めるような努力を大学、国においてなされる必要がある。
(5)    国策としての新たな留学生政策
   新たな留学生政策は、これまでの10万人計画の実現過程への真摯な検証をもとに策定され、例えば、留学生政策基本計画を策定するか、懸案とされている教育振興基本計画の中に明確に位置付けられる必要がある。
   具体的には、国策としての留学生受入れ政策の推進にあたっては、留学生が安心して勉学に取り組める環境を整備することが肝要である。
   留学生にとって最大の関心事は、1授業料の負担額、2奨学金制度の有無とその充実度、3留学生宿舎の有無と共に、4留学生に対する医療費等の補償の問題が考えられる。
   国公立大学に優先的に多く在籍しているいわゆる国費留学生が、恵まれた環境にある一方、私立大学に在籍する大半の私費留学生にとっての留学生活は、このいずれにおいても極めて厳しい環境を強いられている。この現状は、改善されなければならない。
(6)    卒業後の就労
   これまでの留学生政策では、留学生は、我が国で教育を受けた後、母国に帰国することを意識しているものと推察される。しかし、留学生が国家建設の担い手になるとの母国の期待に十分留意しつつも、併せて我が国の人口における少子・高齢化を考慮すると、留学生が卒業後も我が国にとどまり、習得した知識や技術を発揮してもらうことも積極的に考える時期にきている。そのための、留学ビザから就労ビザへの切り替え手続きの簡素化を行うべきである。

2. 日本人学生の海外派遣の促進
   留学生政策を「国策」として、国家戦略的見地から考察すると、留学生の受入れだけでなく、我が国から諸外国へ、明確な目的を持った学生を積極的に派遣する制度の充実も等しく重要な施策である。
   これまでは、「知的国際貢献」という認識が示すように、留学生10万人計画のもと留学生の受入れが政策の中心にあった。しかし、近時、日本の高校卒業直後に海外の大学への進学志向が高まりつつあることも踏まえ、海外への留学生派遣に対する政策的な対応が検討されるべきである。学生を海外に派遣することにより、日本文化等を海外に伝え、相互理解の促進にも寄与する。留学した日本人学生が、日本発の「架け橋」となることが期待されるのである。
   なお、派遣にあたっては地域を配慮し、欧米偏重になることなく、特に現在我が国で専門家が少ないアフリカ、中近東、南アジア、ラテン・アメリカなどへの留学を積極的に奨励する必要がある。


2    経済支援充実のための具体的事項
1. 新たな経済支援制度の確立
   新たに誕生する独立行政法人日本学生支援機構の理念に示されている、統一的視点からの支援政策の推進にあたっては、私費留学生にも重点をおいた新たな支援制度の確立が強く望まれる。
   特に奨学金制度については、真に留学生の利便性に強く配慮した内容とともに、返済までのフォローにも着目した制度の考察が必要と思われる。

2. 授業料減免学校法人支援事業の拡充
   本事業は、私費留学生の授業料を減免した学校法人に対して、授業料の3割を上限として支援するもので、私立大学に対する固有の支援制度であり、既に世界的に認知された公約となっている。
   昨今は、留学生受入れ数の飛躍的な増加に対して、充分な経済支援がなされないのが実情である。制度開始時には、申請に対して100%支給されたものが、現在では約40%と大幅に低下している。その結果、留学生が等しく援助を受けるための不足分は、学校法人の負担となっている。学校法人は、その原資を捻出するためには、教育研究費への支出を制限し、日本人学生からの授業料から捻出するなどして対応している。このため国策に沿って留学生を受入れることが、私立大学にとって財政的に大きな負担増となるような現状は、早急に改善される必要があろう。
   私立大学としても、真に修学を目的とした留学生の要望に応えられるよう、魅力ある大学構築への努力が必要である。

3. 学習奨励費の拡充
   経済的に困難で、かつ成績優秀な留学生に対し毎月一定額の奨学金が支給される本制度は、安定した経済支援の上からも、また留学生の勉学意欲を喚起する点においても非常に大きな意味を持っている。よって支給対象者と支給率を拡大する方向で、抜本的な見直しが急務である。

4. 宿舎の確保
   留学生にとって最も難しい問題は良質かつ低廉な宿舎の確保である。特に施設が乏しい私立大学にとって、留学生用の宿舎確保は財政的に大きな負担となっている。そこで、国際交流会館など留学生宿舎の新設に対する建設費補助は、日本学生支援機構として独立行政法人化した後でも、継続、拡充されねばならない。
   しかし、留学生だけの宿舎は留学生を「出島」に閉じ込めることになり、次善の策である。留学生と日本人学生が共同して生活ができる混住型の宿舎が理想形であり、建設費補助の対象を拡充すべきである。
   また、宿舎の提供に協力している個人や企業等に対する、資金面及び税制面における優遇措置にも配慮の必要がある。

5. 新たな生活支援制度
   留学生にとっても最も身近な生活に密着した部分への支援の充実が重要である。
   例えば、留学生への公営バスや地下鉄のフリーパスの支給、さらには、留学生に正しい日本文化を理解してもらうために、公設の博物館や美術館等への入館が容易に可能な環境を整備する必要がある。

6. 特色ある留学生支援施策を講じる学校法人に対する援助
   今後の留学生政策をさらに推進するためには、大学自身の戦略の一環として留学生支援施策を積極的に取り入れている学校法人に対する新たな支援、援助方策の開発が必要である。
   特に私立大学の中には、建学の理念のもと、国際協力や国際相互理解をミッションにかかげて多くの留学生を受入れ、派遣を行うことにより国際人養成を推進している大学が少なからずある。特色ある留学生支援施策を講じている学校法人を援助し、成功事例を拡大することは、他の大学にも大きく影響を及ぼし、ひいては国策としての留学生政策の発展に大いに寄与するものである。
   そのために、これまでの予算とは別の枠組みで、学校法人に対する援助を新設すべきである。


3    在留資格等規制緩和の具体的事項
   我が国における留学生の生活を実りあるものとするためには、先にあげた経済支援制度の充実とともに、受入れ環境の整備が重要である。
   特に、在留期間の延長については、煩雑な事務手続きの簡素化だけでなく、実りある留学生活を送るうえでも、極めて有意義なことと考える。
   また我が国で学んだ留学生に、さらに活躍の場を提供する制度的環境整備も必要である。特に、就労ビザの手続きを簡素化し、容易に取得できるようにすべきである。

1. 「留学」の在留資格
   現在の在留期間(最大で2年間)は、欧米諸国と比較して短く、個々の学生の予定在学期間に応じて認められることが望ましい。

2. 「短期滞在」の在留資格
   現在の在留期間(最大で90日間)を、例えば、4年以上大学に在学し、学士号を取得した留学生で、在留期間の延長を希望する者に限っては、その期間をあらかじめ最大で180日間とするなどの、柔軟な対応を可能とすることが望ましい。

3. 就労ビザ
   卒業後、我が国で就職を希望する留学生を、強力なマンパワーとして認識し、就労ビザへの切り替え手続きを簡素化、その取得を容易にする。


以   上

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