資料6‐2 大学院部会におけるこれまでの主な意見

社会との連携による人材像、達成能力、知識・技術体系の明確化

総論

  • 大学院教育では、研究者のみならず社会で役立つ人材を育成することが重要。博士の活用に対する社会の意識を高めるとともに、大学院においてより社会で役立つ良い人材を輩出することの双方が必要
  • 企業側が必要とする科目は、大学院の共通科目とすべき。今は共通基礎科目を教えることが欠けている。大学院を出るときに基礎能力がどの程度あるのかを確認する試験をする必要がある。
  • 企業とコミュニケーションをとって、博士課程を卒業した学生に対する企業の本当のニーズを知る必要がある。企業が博士を採用しないのは、採用後にどうなるのかイメージできないから。また、企業の博士課程修了者に対する採用基準は厳しい。
  • 就職難の問題は、日本だけでなく、米国、欧州、アジアの他の国でも本質的には同じ問題を抱えている。雇用の問題やその後のキャリアパスはもっとグローバルな視点で考えていくべき。そのためには国際的な情報交換も必要である。
  • 官公庁において、博士号取得者を積極的に採用するようにすべきではないか。
  • 分野によって修士に求める能力と博士に求める能力は異なる。一くくりに議論するのは無理がある。個別分野毎に、具体的にどのようなカリキュラムで人材を育てていくのかという議論を行わないといけない。

人社系

  • 欧米と比較すると、我が国は人社系の博士はまだまだ少なく、会社経営者等として活躍している人も少ない。企業側には特に人社系の博士課程修了者等を敬遠する意識がある。企業と大学が意思疎通を図ることにより状況の打開が必要である。
  • 企業側は大学院修了者に、高い専門性、関連領域の知識、新しい研究の企画・マネージ力、実証分析能力、英語コミュニケーション力等を期待している。
  • 企業側は大学院教育に対して、新しい研究テーマへの挑戦、研究の一連のプロセスの経験、実証分析のトレーニング、他流試合、英語での専門的コミュニケーション、優秀な留学生の受け入れ等を期待している。
  • 社会科学では教育方法について教員に依存するところが大きく、標準化がなされていない。
  • 社会科学系は、優秀な大学院生を惹きつけるためにも、国際競争力を高める必要があるのではないか。また、学会の振興や研究環境(データベース)整備も重要。
  • ビジネス系では、この20年程度の間で、制度的にも、教育内容・手法としても随分進化があった。高度職業人専門型大学院や専門職大学院で学んだ学生は、大学院で学んだことが自分に役立っていると評価している。ただ、産業界がそのような人材をいまだ使えていない。
  • 大学院は中等教育の教員養成にもっと積極的に取り組むべき。

理工農系

  • 理工系では、産業界の基盤を支える学生の基礎科学力(数学・物理)が低下している状況にある。米国と比較しても、一般的な科学的知識のところで大きな差がある。大学院入試が機能しなくなったのも一因である。
  • 修士卒のほとんどが企業に進むため(実際、大企業の理工系採用の7割は修士卒学生)、修士課程の在り方を考え直さないといけない。
  • 大学が教えているものと産業界が求めるものはギャップが大きい。モデル拠点を作ってそこでカリキュラムの共同策定、企業の一線人材の教員派遣、企業奨学金、企業でのインターン受け入れ等の活動をすると、新入社員として学生が入ってきたときに、企業教育を行わなくてもベースがしっかりできている。
  • 企業側が大学院を出た学生に求める資質・能力は、高度な専門的知識や技術、創造性、課題解決力、環境変化への対応力、情報の分析・活用力、英語でのコミュニケーション能力、建設的な議論が行える能力、協調性、積極性、ポジティブ思考、チャレンジ精神、リーダシップ、コンプライアンス等。また、修士号取得者は専門性よりも能力重視、博士号取得者の場合はその逆である。
  • 外国人研究者、専門外の研究者、企業経営者等とのコミュニケーションの機会を充実すべき。
  • 大きな業績を上げた研究者の共通点は、基礎科学力に裏づけされた深い専門性、複数の専門性、未知の分野にアプローチするときの「ツボ」を知っていること、視野の広さ、能動的な考え方等である。
  • ものづくり分野(技術職)では、修士号取得者には、研究者としての学問的な知識だけでなく、製品開発・設計といった企業活動における実務の担い手として必要な能力を、博士号取得者には、指導者がいなくとも自ら率先して課題を抽出し、解決することのできる能力を必要とする。大学院教育には、研究職志向の学生だけでなく、企業活動の実務に必要な「基礎能力」に長けた学生を育成する役割を要望する。
  • 最新の科学技術に通じた弁理士など博士課程の学生の多様なキャリアパスを確保することが必要である。

医療系

  • 医学分野について、専門の枠にはまらない教育研究をコース・コーディネーターが責任を持って状況を把握しつつ、提供する教育プログラムは意義深い。また、このような取組により大学院の魅力を高め、医学部学生を惹き付けることは重要である。
  • 医学分野では元来医療人材育成に力を入れてきた経緯があるが、一方で医学部卒の者に対してもリサーチ・マインドの育成を行っており、現に高い研究業績も上がっていることから、これまでの医学研究に対する一定の評価も必要である。
  • 臨床系では、職業人としての医師を養成するための大学院なのか、研究面でPIを養成するための大学院なのか、全く区別されずにダブルスタンダードになっている状況にある。

大学院教育の質の向上、大学院生を巡る諸課題の解決

総論

  • 良い取組をしている大学に対して、積極的にGPその他の支援を行うことにより、大学院の質の確保につなげることができる。
  • アカデミック志向の教育、産業界の教育といったように、学生をコース別に分けるのは良くない。学者になった人、ならなかった人どちらでもメリットのある大学院教育とするべき。
  • 大学院の教育プログラムをもっと具体的にして、どういう教育課程を作ったらどのくらいの能力が身に付くのかを議論して、どのような進路に進んでも、最終的には自分で満足できる、あるいは社会的なメリットがあるような仕組みにするべき。
  • 博士課程の教育研究は狭い専門領域に入りすぎている。学生主体で自由なテーマ設定を可能にするなど、蛸壺型教育に陥らない体制を確立することが必要である。博士課程で専門領域以外は分からないというような人材を育ててはいけない。
  • 大学院において、同系列の学部からの進学者だけでなく、他分野からの進学者も取り込んで、分野融合的な教育研究を実施するころが望ましい。
  • 学会を大括り化すれば、異分野融合が起こりやすいのではないか。
  • 日本の大学は「実力の見える化」が不十分であり、第3者機関を設置して、国立大学分野別ランキングを示すのはいかがか。産業の国際競争力強化が期待できる。
  • 企業ではしばしば改組があるが、国立大学の改組も促進してはいかがか。大学のアイデンティティの明確化と人材の流動性の促進が期待できる。

学位の質の保証

  • 日本の学位がどこの国でも通用するという前提がないと、優秀な留学生はこない。日本が欧州に対して学位標準化を先導できる立場を取れれば一番良いのだが、まずは、日本の学位の要件と、欧州で進められているボローニャ・プロセスのようなものを比較しておくべき。
  • 米国では、適性試験等を全てパスして、かつ社会で活躍できるかどうかを判別した上で学位を授与する。論文を幾つ出したかは関係ない。
  • 米国では、学位を取得するために、入学2年目終了時の適性試験に合格した上で、プロポーサル試験(自身の論文以外の研究内容について概要を説明し、質疑に対してディフェンスできるかどうかを確かめる試験。研究の背景にある基礎的な内容の理解度も試される。)やキューム(抜き打ち試験)等をクリアする必要があり、一般的に4~6年は必要。米国の博士の質が高いとみなされるのは、このような教育内容によるところが大きい。
  • 学位の審査に際して金品授受の慣行が残っているのはおかしい。指導教授が主査になることは透明性・客観性確保の観点から望ましくない。
  • 教育研究や学位授与について、透明性の高いシステムを構築することが必要であり、文部科学省からも大学に対して学位審査の透明性・客観性確保の取組を促すべき。

博士課程の入口での選抜

  • 就職できない等の消極的な理由で博士課程に入る者もいる。博士課程の入口で目的意識が明確であるかどうかしっかり確認するべき。
  • 博士課程の入口はほとんどスクリーニング機能を果たしていない。定員を充足するために全入を認めている状況では、学生の質が落ちるのは当然。
  • 大学院入試を、さらに厳しく基礎学力を問う選抜方式にするのはどうか。

学生に対する進路情報の提供

  • 将来に不安を感じるということで、学生が博士課程に魅力を感じず、優秀な学生が博士課程に進学しなくなる。
  • 学生が大学院に入るときや、職業を選択する際に、キャリアパスやアカデミア職の需要等の正しい情報を提示することが重要である。今は学生がリスクに対して過剰反応している可能性がある。就職に対する不安定な状況を解決する取組が必要である。

学生に対する経済的支援の充実

  • 博士課程にもっとインセンティブがないと学生は入ってこない。また、日本人の博士課程学生が、留学生と比較して自らの待遇が悪いと感じないようにしないといけない。
  • 能力のある博士課程の学生に対して生活費相当額程度の経済的支援を行うなど、大学院教育に対する投資の拡充が国際的水準の大学院教育を達成する上で不可欠。
  • 学生に対するフェローシップの充実など、社会全体として、高等教育にもっと税金を投入すべきであるというコンセンサスを醸成する必要がある。
  • 米国に比べて、我が国では博士課程学生に対するRAによる経済的支援が不十分。米国では、学生に対して、教員が研究費の中から一定額を支給するということが当たり前に行われている。我が国でも学生に対する経済的支援の重要性に対する教員の認識を高め、学生が研究に打ち込める環境づくりを進める必要がある。
  • 米国において、RAは教員のためでもあり、学生のためでもある。教員にとっては、フェローシップよりは安価に雇用できる上、5年間程度の長いスパンで研究に取り組んでくれることがメリット。
  • 米国においては、RAの経費は教員が獲得した研究費から支給される。教員に定年はないが、研究費が獲得できなくなると、RAの雇用もできなくなり、研究室が縮小、引退ということになる。TAの雇用枠は若手研究者に優先的に与えられ、シニアな教員になるほどその枠は減らされるため、博士課程学生のRA雇用を継続し、研究を継続するには、研究費の獲得が不可欠。
  • 米国では、RA雇用における基準はなく、学生として研究室で受け入れた以上、TAやRAで必ず雇用している。
  • 米国では、研究室の定員はないが、TAを支給される1~2年生の間は、学生に研究室を特定させず、3つの研究室を直接訪問することを義務付けている。そうする中で、熱意のある若い教員に惹かれる学生もおり、有名な教員の研究室のみに学生が偏ることはない。
  • 日本の経済的支援の状況に係る調査は「のべ」調査になっており、実態がまだ見えないところもある。
  • 奨学金を受けて博士課程を修了し、その後返済を行うのは経済的に大きな負担なので、博士課程を修了する前に弾力的に返還できる制度を導入してはどうか。

研究支援者等の充実

  • 米国と比較すると、技術を補佐するテクニカルスタッフの層が全く違う。イノベーションを支える人材育成も重要である。

人材の国際流動性の向上

  • 韓国や中国、インドの優秀な人材を日本の大学院に引っ張ってくるには、大学院入試のシステムを変えないといけない。米国の場合、GRE、TOEFL、エッセイ、レコメンデーションレター等のフォーマットが殆ど同じであり、日本も同じシステムを持たないといけない。
  • 留学生が日本に定着しないと国際化は生まれない。英語だけでなく日本語教育も必要である。留学生が日本で将来住んでいきたいと思えるような環境整備が必要。
  • 海外の学生は、英語で学位を取るのなら、わざわざ日本に留学しようとは思わない。
  • 現在のように、留学生が日本の学生と議論することもできないような状況では、海外の学生は日本に留学しても仕方ないと考えるようになる。
  • 中国において、海外留学を志す優秀な人材は、まず欧米を留学先として志向することは間違いない。ただ、恩師が日本で研究をしていた、あるいは研究内容が日本の研究者と合致する等の理由で日本への留学を決める者も存在する。日本に来ると帰国しても課長以上にはなれず、キャリア選択の幅が狭まるとか、日本語ができないと駄目など、ネガティブな風評がある。
  • 中国において、米国から帰国した研究者は、ほとんど米国に居たときと同じように研究を継続している。トップレベルの大学では、待遇の改善、複数年にわたるファンディング、教員の国際公募等が進んでおり、欧米に出た研究者が戻りやすい競争的環境が形成されている。
  • 中国では、ポスドクを雇用するポスドクステーションを設置している企業もあるが、必ずしも企業の研究開発に有効に活用できていないと聞いている。ただ、設置することにより、外部から研究費を獲得したり、イメージアップを見込める効果はあるようだ。

教員の意識改革

  • 教員と企業研究者が交流を進めるべきである。そういう仕組みが整うと人材の流動化も進む。
  • 米国や中国と比較すると、日本の場合は教員に、社会に出る人を育てるという意識がほとんどない。これは、学生の意識が低いことにも原因がある。
  • 年に数回しか学生と議論しない等、教員の中には、まだまだ研究に偏っている人もいるので、研究と教育のバランスをきちんとしていかないといけない。大学院改革に重要なのは、教員の熱意と資質である。
  • 教員の教育面における成果・効果を積極的に評価してはいかがか。
  • 大学の中でも情報交換や議論を行う等の「見える化」が必要である。そうすることで取組のコストパフォーマンスが高くなる。

修士課程・博士課程の在り方

  • 博士課程について、日本では5年という期間がネックになっているが、英国は期間が短い、かつ博士号を取ると生涯賃金が上がるので、博士課程に行くことに抵抗が無い。博士課程の期間を3年にすることで、教育のターゲットが明確になり、企業も採用する。また、企業からも大学院に人材を送りやすくなる。
  • 修士課程の学生に対して、研究者育成のスタンスで教育するのは問題。
  • 修士は1年目に進路を決めないといけない状況にあり、2年間という期間を十分に活用できておらず、劣化につながっている。修士期間の見直しも含めた議論が必要。
  • 私立大学の優秀な学生は、修士卒業後は国立大学に行ってしまうため、私立大学の役割は修士を育てることと考えている。
  • 博士前期課程と修士課程は何が違うのかという議論も必要である。
  • 良き古き時代の学部教育と修士教育のシステムが、学部教育の資質の低下、修士学生の増加等の時代の変化に対応できていない。どういう資質をもった学生を、どういう規模感で、どういうインフラで育てていくかを考えていかないといけない。
  • 我が国の博士号は学術的なものと専門職的なものが未分離である点に課題がある。
  • 博士課程の単位取得後満期退学者の実態を把握すべき。満期退学後も一定の期間内であれば、課程博士の学位が授与されているようであるが、課程制の大学院制度の趣旨を踏まえた運用上の整理が必要である。
  • 大学院の適正な規模はどのくらいなのかということについて、文部科学省は、大学に対し、メッセージを発するべき。
  • 大学院生数が大幅に増加したことにより、特に人社系において、常勤職に就職できない博士号取得者の増加を招いていると考えられる。
  • 近年、中国では米国を凌ぐ勢いでサイエンスのPh.D取得者が増えている。我が国はこれらの国から引き離されようとしている状況である。

社会人の受け入れの拡大

  • 博士号取得者の就職については、現在は新卒採用がベースであるが、必要なときに企業が大学に派遣することをベースにすれば、大学院のあり方が根底から変わる。大学院で学びたい者は学びたいときにいつでも大学院に行ける体制を構築し、企業側ももっと道を開くべきである。
  • 社会人コースを作って社会人学生を差別化することは問題である。インセンティブも条件も一緒にすべき。特に、社会人コースは資金的な支援が少ないので、企業側は優秀な人を出せない状況にある。
  • 社会人を受け入れた場合には、博士課程を修了しても元の職場に復帰したり、新たに常勤職に就くことが困難であるという課題もある。

専門職大学院に関わる諸課題の解決

  • 法曹養成に全てのリソースを回して、研究者養成の道が狭まってしまった。このままでは、法学を教えられる教員がいなくなる時が遅からずくる。
  • 法科大学院の開設に伴う影響で、法学部では大学院にほとんど進学しなくなり、研究者養成ができていない。大学院に在籍しているのは外国人学生ばかり。法科大学院卒業後に博士課程(後期)への入学ができることになっているが、外国文献の読解力の獲得等の研究者としての基礎的な訓練は法科大学院ではできない。
  • 企業の立場からも、国際的活動を深めていく上で、外国の各種規制への対処のため、外国に係る深い法的知識が必要となり、対応できる人材の確保が必須。国内法律との比較検討ができないと活動の支障になるので、法学研究者の養成がなされない状況については憂慮。
  • 米国の看護学では、専門職業人の養成が先行し、教員がいなくなってしまった。このような先例もあるので、研究者養成と専門職業人養成は各大学の裁量で別々にきちんと行うことが必要。

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