法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)

はじめに

 1.法科大学院特別委員会においては、法科大学院の修了者の質が十分ではないとの指摘が一部でなされ、法科大学院の教育のあり方についても問われるなかで、各法科大学院に対する実態調査、関係機関の見解等の検討や法曹関係者からのヒアリングなどを行い、現状の正確な把握に努め、以下のような認識に至った。

 (1)新しい法科大学院制度を総体としてみれば、司法制度改革で期待されている役割を果たすため、多くの法科大学院において理論と実務を架橋する教育課程の整備が着実に進み、法科大学院を修了した司法修習生の素質・能力も司法修習生の指導に携わる関係者からは、全般的に従来に比べて遜色はないばかりか、以下のような優れた点が見られるとの評価がなされている。 

  1. 自発的・積極的な学習意欲が高いこと
  2. 学習のための方法論を身に付け、判例や文献等の法情報調査能力が高いこと
  3. コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力に優れていること
  4. 法曹倫理の学修等を通じて法曹の果たすべき社会的使命についての確かな理解を得るに至っていること
  5. 法律基本科目だけでなく、実務に有用な知的財産法、経済法など多様な分野についての学識を有していること

 (2)しかしながら、法科大学院についての認証評価の結果や司法修習生考試の結果などを踏まえると、法科大学院における教育の実施状況や法科大学院修了者の一部について、以下のような問題点が認められ、これらの速やかな改善が必要とされている。

  1. 法律基本科目をはじめ基本的な知識・理解が不十分な修了者が一部に見られること
  2. 論理的表現能力の不十分な修了者が一部に見られること
  3. 各法科大学院における法律実務基礎教育の内容にバラツキがあること

 2.このため、本特別委員会においては、法科大学院における教育の質の一層の向上を図るため、法科大学院における教育の質の保証の在り方について、法曹関係者を含めた幅広い関係者の参画を得て、ワーキンググループを設置し、集中的に審議を進め、以下のような改善の方向をとりまとめた。

第1 入学者の質と多様性の確保

  1. 競争性の確保
  2. 適性試験の改善
  3. 多様な人材の確保

第2 修了者の質の保証

  1. 共通的な到達目標の設定と達成度評価方法
  2. 教育内容の充実と厳格な成績評価・修了認定の徹底
  3. 司法試験との関係

第3 教育体制の充実

  1. 質の高い教員の確保
  2. 入学定員の見直しと法科大学院の教育課程の共同実施・統合等の促進
  3. 教員養成体制の構築
  4. 教員の教育能力の向上

第4 質を重視した評価システムの構築

  1. 教育水準と教員の質に重点を置いた認証評価
  2. 積極的な情報公開の促進
  3. フォローアップ体制の構築

 3.本特別委員会としても、今後、関係者からの御意見をいただきつつ、今年度末までに、さらに審議を進めて、改善方策をより具体化していきたいと考えているが、法科大学院関係者においては、この改善の方向を真摯に受け止め、法科大学院における教育の質の一層の向上に、ただちに取り組むことを強く要望したい。

 4.文部科学省においては、法務省をはじめ関係機関と連携を図りながら、この改善の方向を踏まえて、各法科大学院の現状と今後の改善計画について把握し、必要な改善を推進していくことが望まれる。

第1 入学者の質と多様性の確保

1.競争性の確保

改善の方向性

  • (1)今後、企業の雇用動向や司法試験の合格率等の状況の変化にもよるが、法科大学院の入学志願者数は、今後、ほぼ一定の水準で推移していくものと見込まれる。
  • (2)各法科大学院は、それぞれ魅力あるものとなるよう切磋琢磨し、自らの活動に関する情報を社会に対して積極的に発信し、志願者の確保に努めていく必要がある。
  • (3)特に一定程度の志願者数の確保が困難である法科大学院については、質の高い入学者を確保するため、入学定員の見直しなど、競争的な環境を整える必要がある。

現状

  • 志願者数は、平成16年度の72,800人を除き、平成17年度~19年度においては4万人台で推移したが、毎年、減少傾向にあり、平成20年度は4万人台を割っている。平成19年度と比較して平成20年度は5,652人減となっている。
  • 平均志願倍率は、平成16年度の13倍を除き、平成17年度~20年度においては7倍前後で推移しており、3倍を割っている法科大学院が13校に達している。
  • 現在、74校の法科大学院(国立23校・公立2校・私立49校)が設置され、入学定員の総計は5,795人であるが、定員過欠員の状況は、平成16年度(177名超過)を除き、定員割れの状態が続き、平成20年度では388名(46法科大学院)の欠員が生じている。
  • このうち、2年連続で定員割れが生じている法科大学院は28校あり、そのうち入学定員の8割を満たしていない法科大学院が10校ある。
  • こうした中で、平成20年度より、複数の法科大学院で入学定員の見直しの検討が始められている。

2.適性試験の改善

改善の方向性

  • (1)適性試験は、多様な経歴を有する志願者について、法科大学院における学修の前提として要求される判断力・思考力・分析力・表現力等の資質を試す共通の方法として、すべての法科大学院において十分活用されるよう、法科大学院入学後の成績などとの関係をも考慮しながら、適切な改善が図られる必要がある。
  • (2)志願者数が減少する中、定員を充足するために、適性試験を課している制度趣旨を無意味にするような、適性試験の点数が著しく低い者を入学させることにならないよう、適性試験低得点者の法科大学院入学後の成績などをも検証しながら、統一的な入学最低基準を設定することを検討すべきである。
  • (3)適性試験の公正かつ安定的な実施を図るため、試験のユーザーである法科大学院関係者が主体的に参画した上で、適性試験の統一化を図る必要がある。
  • (4)法学既修者コースの入学者の質の確保のため、法学既修者認定試験の内容・方法等について、今後とも検討を継続していく必要がある。

現状

  • 入学者選抜において、適性試験の成績に5割近い配点を与えている法科大学院が多いが、年々、入学者選抜における適性試験の配点の割合を下げ、小論文等他の選抜方法の比重を上げてきている法科大学院も見られる。
  • 本来、適性試験においては、法曹として必要な推論力、分析的判断力、論理的判断力、読解力、表現力などを測ることが期待されているが、現在の適性試験の内容については、必ずしもこれらの能力を十分に評価するものとはなっていないとの指摘がなされている。
  • 現状においては、個別の法科大学院ごとにみると、法科大学院での成績と適性試験の成績との相関がそれほど強く認められない。特に、志願者が多いため、適性試験の高得点者のみが入学した法科大学院制度創設時や適性試験の同程度の点数の者が入学している法科大学院においては、適性試験の結果に有意的な差がなく、相関関係の有無について分析することが困難である。
  • 多くの法科大学院においては、適性試験の点数の高い学生を入学させているのに対して、一部の法科大学院では、著しく低い点数の者を合格させているなど、適性試験が十分機能しているとは言い難い事例も見られる。
  • 現状においては、独立行政法人大学入試センター及び財団法人日弁連法務研究財団の2つの適性試験実施機関が、それぞれの方針に基づいて適性試験問題を作成して入学志願者の能力を測り、一定の機能を果たしている。
  • しかしながら、2つの適性試験実施機関が存在することにより、両試験の結果を正確に比較することは困難であり、また、現状では最低水準ラインの設定を行うことも困難となっている。
  • また、志願者数が減少し、1機関当たりの運営に必要な受験者数を確保することが困難となってきており、長期的・安定的な実施体制の維持について懸念が生じている。
  • さらに、法学既修者認定試験の内容・方法についても、以下のような指摘がある。
  • (1)法科大学院ごとに法学既修者の認定の水準・方法が異なるが、法学既修者の認定は厳格に実施すべきである。
  • (2)法学既修者の認定を厳格にしすぎると、法学部出身でありながら法学未修者コースに入学しようとする者が一層増加し、法学未修者コースの入学者の大部分が法学部出身者で占められてしまうに至るおそれがある。
  • (3)各法科大学院が個別に実施する法学既修者認定試験の中には、入学後の成績や司法試験の成績と一定の相関が見られ、チェック機能が適切に働いているものもある。

3.多様な人材の確保

改善の方向性

  • (1)法科大学院制度創設前に存在していた社会人の入学希望者は、かなりの部分が法科大学院1期生等として、すでに入学したと考えられ、今後も、社会人の潜在的なニーズは少なからずあるものの、入学志願者数は、ほぼ一定した水準で推移していくと考えられる。
  • (2)法学部以外の出身者についても、現在、25%程度で安定しており、(1)と同様の状況と考えられる。
  • (3)一方、適性試験の実施時期の検討とともに、多くの法科大学院において8月下旬から12月にかけて実施されている入試時期の弾力的な運用等、入学者選抜方法における社会人に対する一定の配慮が必要である。
  • (4)また、社会人学生が法科大学院にアクセスしやすい環境を整えるため、働き続けながら法科大学院に通学することを希望する社会人に配慮して、夜間コースの設定や、標準修業年限よりも時間をかけて履修していく長期履修コースの運用により、働きながら学習できる環境を整備する必要がある。 
  • (5)その際、複数の法科大学院が共同して夜間コースを設置することも考えられる。
  • (6)現在、夜間コースは関東地域に多く設置されているが、今後、既存の法科大学院の改編等により、関西地域や他の地域にも整備されていくことが望まれる。
  • (7)一方で、働きながら法科大学院で学ぶことを希望する者については、高度な法律的知識・思考力を身に付けることにより、一層質の高い業務が行えるようになるという利点があることから、雇用者側の理解と積極的な協力が望まれる。
  • (8)なお、多様なバックグラウンドを持つ法曹を養成する観点から、より一層社会人、他学部出身者を法科大学院に受け入れるためには、法学未修者が3年の教育課程を経れば法科大学院修了にふさわしい質と能力を備えることができるよう、カリキュラムや授業内容・方法の改善にさらに努めるべきである。

現状

  • 社会人入学者の割合は、平成16年度は全入学者の48.4%と高い割合であったが、平成17年度~20年度にかけては30%前後で漸減傾向である。
  • 他学部出身者の割合は、平成16年度は全入学者の34.5%を占めていたが、平成17年度に30%台を割り、その後は20%台後半で漸減傾向である。
  • 社会人ないし他学部出身者を対象とする特別選抜での入学者の全入学者に占める割合は、平成16年度~20年度にかけて、3%~4%で推移している。

第2 修了者の質の保証

1.共通的な到達目標の設定と達成度評価方法

改善の方向性

 法科大学院教育の改善を図るため、法科大学院の学生が修了時までに到達すべき共通の目標を設定し、法科大学院修了者の一定以上の質の確保を図る。

(1)共通的な到達目標設定の目的

  1. 将来の法曹として、法科大学院修了者が共通に備えておくべき能力の明確化
  2. 偏りのない学修の確保
  3. 法科大学院における教育内容・方法の改善の促進

(2)共通的な到達目標設定の際に特に留意すべき事項

  1. 法科大学院教育の多様性と裁量の確保
  2. 共通的な到達目標を超える教育(その水準や対象領域)についての各法科大学院による創意工夫の尊重
  3. 授業内容・授業方法への過剰な干渉の排除
  4. 知識偏重(暗記型学習助長)の回避

(3)共通的な到達目標の性格

  1. デファクト・スタンダードとなることを期待
  2. 到達目標の対象は、授業の内容として直接取り扱うかどうかにかかわらず、法科大学院の学生が修了時までに必ず修得しておくべき項目
  3. 共通的な到達目標の学修のみで足りるとする趣旨でないことの確認

(4)共通的な到達目標の内容

  1. 到達目標設定の対象となる領域
    当面は、法科大学院の教育において共通に修得することが期待される主要な部分を明確にするという観点から、法律基本科目及び法律実務基礎科目を対象。
  2. 到達目標で問われる質・能力
    • 必要な基礎的な理解 
    • 体系的な法的思考能力
    • 創造的・批判的思考能力
    • 事例分析能力
    • 論理的表現能力
  3. 到達目標の内容(例)
    当該法領域の理解にとって不可欠な制度枠組、基本となる法理、重要な条文等について、
    • 法制度、法理や条文の趣旨を理解しているか
    • 条文の要件・効果を理解しているか
    • 条文等の解釈・適用に関する重要な問題点を理解しているか
    • 条文等の解釈・適用に関わる主要な判例・学説の考え方や対立点を理解しているか
    • 複数の制度や複数の法分野の基本的な連関を理解しているか

(5)共通的な到達目標の水準

  • 法科大学院における学修として共通に必要な水準(ミニマム・スタンダード)を定める。  
  • 共通的な到達目標の学修のみで足りるとする趣旨でなく、法科大学院それぞれの教育理念に則り、創意工夫によって、共通的な到達目標を超える到達目標を設定することは、各法科大学院に委ねられる。

(6)共通的な到達目標の抽象度

 法科大学院生や各法科大学院において共通の理解が得られるよう、可能な範囲で、具体的な項目を定めて明確化する。

(7)共通的な到達目標達成の評価方法

 到達目標の達成度の評価については、1.各法科大学院における単位認定・修了認定における評価、2.認証評価機関による評価においてどのように活用することができるか等について、今後引き続き検討する。
 また、学生の到達度を厳格に評価するシステムのあり方についても今後検討を進める。

現状
  • 司法試験委員会の考査委員ヒアリングや司法研修所の教官の所感などから、法科大学院を修了して司法試験を受験している者や司法修習を受けている者のうちに、基礎的な理解や思考能力が十分身についていないと思われる者が一部に見られる、との指摘がなされている。
  • 法科大学院が担うべき法律実務基礎教育の内容について、明確な共通の理解が必ずしもなく、法科大学院によって法律実務基礎科目の内容にバラツキがあるとの指摘もなされている。

 2.教育内容の充実と厳格な成績評価・修了認定の徹底

改善の方向性

  • (1)偏りのない履修・学修の確保のため、各科目群(法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目)のバランスに配慮し、適切な科目区分整理を行いながら、法曹として求められる法律基本科目の基礎的な学修を確保することが必要である。
  • (2)法律実務基礎科目の内容をさらに広げるか、また配当年次をどうするか等について、検討すべきである。
  • (3)法学未修者の教育を充実するため、1年次で学ぶべき内容、学ぶことができる内容の明確化を図るとともに、1年次における法律基本科目の履修可能単位数の上限や単位認定のために必要な授業時間数につき弾力的な取扱いを認めるべきかどうかについて検討が必要である。
  • (4)厳格な成績評価を徹底するため、その一方策として、一部の成績区分への偏りが生じることのないよう、適切な成績分布の確保が必要であり、また、GPA制度の有効活用が期待される。
  • (5)再試験を実施する場合は、それが定期期末試験における成績不良者の救済措置とならないよう、適切に運用される必要がある。
  • (6)特に法学未修者の1年次から2年次への進級については、法律基本科目の基礎的学力が備わっているかどうかを厳格・適切に判定する必要がある。
  • (7)成績評価や進級判定を厳格に実施しているかどうかについては、認証評価においても、特に重点的に配慮される必要がある。

現状

  • 法学未修者1年次における、法律基本科目を中心とする教育においては、現在の授業時間(45時間(15時間の授業と30時間の事前事後学習))や単位数(現在は、1年間の履修登録上限が36単位)では、基礎的な学力を着実に身につけさせるには十分でないとの指摘もなされている。
  • 平成19年度の標準修業年限の法科大学院生の平均的な修了率は約8割となっており、法学未修者については約7割5分となっている。
  • 認証評価の結果において、再試験のあり方について改善の必要性が指摘されている法科大学院も見られる。

3.司法試験との関係

改善の方向性

 法科大学院は、新たな法曹養成制度の中核的な教育機関として、司法試験及び司法修習と有機的連携を図りつつ、法曹に必要な学識及び能力を備えた者を養成することを目的として設置されているものである。司法試験の合否のみにより法科大学院の教育成果のすべてを評価することは適切とはいえないが、3回の司法試験の結果、修了者のうち、司法試験に合格し、法曹として活躍できる者の割合が著しく低い状況が継続的に見られる法科大学院については、入学定員数の調整を含めた適切な入学者選抜や、教育水準の確保・向上を前提とした上での厳格な成績評価及び修了認定の徹底などを担保するための方策を講じ、現状の改善を図る必要がある。

現状

  • 大多数の法科大学院において、平成17年度の既修者の修了者の50パーセント以上が、平成18年から平成20年までの3回の新司法試験に合格しているが、50パーセントに満たなかった法科大学院は8校であった。
  • 法科大学院の修了者が、直近の司法試験で合格している割合が、平均の半分にも満たない法科大学院は、平成18年は11校、平成19年は30校、平成20年は 34校であった。
  • 平成18年から平成20年までのいずれの司法試験においても、上記割合が平均の半分にも満たなかった法科大学院は、8校であった。

 ※ 合格率の算出に当たっては、法科大学院によって、修了者数と実際の司法試験受験者数との乖離がある例も少なくないことに十分留意する必要がある。

第3 教育体制の充実

 1.質の高い教員の確保

改善の方向性

  • (1)各法科大学院においては、法律基本科目をはじめとする法科大学院の教育上主要な科目について、年齢構成にも配慮しながら、適切に専任教員を配置し、十分な教育体制を確保すべきである。
  • (2)平成25年度まで認められている学部等との教員数のダブルカウントの暫定措置については、延長しないこととする。各法科大学院においては、可能な限り早いうちに自主的にこれを解消することが望まれる。
  • (3)認証評価機関による評価においては、当該分野の状況などを踏まえながら、教員の資質・能力・実績について、適切に評価が行われることが期待される。

現状

  • 多くの法科大学院において、法律基本科目(特に民事訴訟法、刑事訴訟法、民法、行政法など)や展開・先端科目(特に司法試験の選択科目である知的財産法、環境法、経済法など)の専任教員の確保が困難となりつつある。
  • 現状では、多くの法科大学院において専任教員数のダブルカウントが行われており、将来的な解消にあたっては、学部や博士課程との連携や法科大学院の教育体制の維持について、関係者の間で懸念が生じている。
  • 教員の年齢構成に偏りがある法科大学院が見られ、認証評価においても改善が指摘されている。

 2.入学定員の見直しと法科大学院の教育課程の共同実施・統合等の促進

改善の方向性

  • (1)法科大学院の設置については、司法制度改革審議会意見書を踏まえ、関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとなっている。
  • (2)今後、法科大学院教育の質の一層の向上のため、例えば、以下のような状況が見られる法科大学院については、自ら主体的に入学定員の見直しを個別に検討する必要がある。
    1. 入学定員の規模に比して質の高い教員の数を確保することが困難
    2. 志願者が減少し競争率が低いため質の高い入学者を確保することが困難
    3. 修了者の多くが司法試験に合格していない状況が継続
  • (3)特に小規模の法科大学院や地方の法科大学院において、今後、単独では、質の高い教員が十分確保できず、充実した法律基本科目や幅広い先端・展開科目の提供が困難となるなど、教育水準の継続的・安定的な保証について懸念が生じている場合には、他の法科大学院との間で教育課程の共同実施・統合等を図ることを積極的に検討する必要がある。
  • (4)このような各法科大学院における教育課程の共同実施・統合等が促進されるよう、教育体制の整備のための必要な支援が望まれる。
  • (5)これらの取り組みによって法科大学院全体の入学定員が縮小され、法科大学院修了者が相当の割合で法曹資格を取得できるようになれば、優秀な法曹志望者の法科大学院への入学を促進することにつながることが期待される。

現状

  • 志願倍率が3倍を割っている大学が13校に達しており、一部の法科大学院においては、適性試験の成績が満点の半分にも達しない学生を入学させているケースも見られる。
  • 法科大学院の約8割近くが、法律基本科目の専任教員の完全な確保は困難であると考えている。
  • 入学定員が50人以下の比較的小規模な法科大学院は36校で、全体の約半数近くとなっている。
  • 文部科学省において制度改正が行われ、平成22年度より、国公私立の大学における教育課程の共同実施が可能となる。

3.教員養成体制の構築

改善の方向性

  • (1)ダブルカウントの暫定措置終了後も、法科大学院の教員が博士後期課程における研究指導に携わることにより、優れた研究・教育能力を備えた教員を育成していくことができるような配慮について検討が必要である。
  • (2)研究科(博士課程・修士課程)との連携を図りながら、複数の法科大学院が、その一つを基幹校とした連携型の教員養成システムを構築することも考えられる。 
  • (3)法科大学院のカリキュラムにおいても、法科大学院の教員を志す学生のために、外国法や研究論文の作成などの選択的な学習ができるような科目配置を行うよう配慮することも考えられ、その際、他の研究科・他専攻の履修単位数の法科大学院修了要件単位数への算入の仕方についても整理が必要である。
  • (4)法科大学院生が、法科大学院修了後に後期博士課程に進学することは、経済的な負担が大きいため、授業料免除や奨学金の充実など経済的支援の充実をも図るべきである。

現状

  • 法科大学院修了者のほとんどは法曹の道に進むことを希望するため、特に博士後期課程への進学を希望する者が減少してきており、将来的な法科大学院教員の養成に懸念が生じている。
  • 博士課程に進学するなどして教員を目指そうとする法科大学院修了者等については、経済的な負担が大きいが、奨学金など経済的な支援が十分でない。
  • 法科大学院のカリキュラムにおいては、研究論文の作成や外国法といった研究者養成に必要な基礎的な教育が十分なされる体制になっていないとの指摘がある。

4.教員の教育能力の向上

改善の方向性

  • (1)教員の教育能力の向上を図るため、各法科大学院におけるFD(ファカルティ・ディベロップメント)を充実させるとともに、その成果を授業内容・方法の不断の改善につなげていく体制を整備する必要がある。
  • (2)教員の教育能力についても、適切な評価のあり方や、評価の結果が改善に反映されるような仕組みを検討する必要がある。

現状

  • ほぼすべての法科大学院においてFDのための組織が設置され、FD活動の一環とし  て、主に学生による授業評価や教員相互の授業参観などが実施されている。しかし、これらの取組みの成果についての検証や教育内容・方法の改善への結びつけが十分に行われているとはいえない。
  • 特に、学生による授業評価については、すべての法科大学院で実施され、その結果は授業を担当する教員にフィードバックされているものの、授業評価の結果が授業内容・方法の改善のために十分活用されているとは言えない状況も多く認められる。

第4 質を重視した評価システムの構築

 1.教育水準と教員の質に重点を置いた認証評価

改善の方向性

  • (1)現在、1回目の認証評価が行われている途上であり、平成20年度にはピークを迎え、44校が認証評価を受けることとなっており、これらの状況を踏まえながら、本委員会においても検討を継続していく必要がある。
  • (2)認証評価においては、法科大学院教育の質の保証の観点から、例えば、入学者の適性試験の状況、共通的な到達目標の達成状況、厳格な成績評価・修了認定の状況、教員の教育研究上の業績・能力、著しく低い司法試験合格割合の継続などについて、重点的に評価を行っていくことが期待される。
  • (3)認証評価における不適格認定の内容・方法については、各認証評価機関の間でバラツキが見られるので、各認証評価機関それぞれの特色・独自性を損なわないよう配慮しながら、調整を図っていくことが望まれる。

現状

  • 認証評価は、平成19年度までにすでに24校について実施され、5校が不適格の認定を受けた。平成20年度には、44校が認証評価を受けることになっている。
  • 現行の認証評価については、3つの認証評価機関の間で評価の方法・内容にバラツキがあるとか、形式的な評価にとどまっているといった問題点が一部で指摘されている。

2.積極的な情報公開の促進

改善の方向性

 今後、実態調査などを実施しながら、各法科大学院による情報公開の現状を把握し、より一層積極的な情報提供の推進のための具体的方策について検討を継続していく。

現状

  • 現在、各法科大学院においては、入学者選抜の状況、教育内容・方法や修了者の進路などについて、社会に対して一定の情報提供がなされているが、なお十分ではないとの指摘もなされている。

3.フォローアップ体制の構築

改善の方向性

  • (1)今後、各法科大学院において改善が適切に進められているかについて、本委員会の中にフォローアップを行う組織を設置し、継続的に実態を把握しながら、必要な改善を各法科大学院に対して促していく仕組みを構築する必要がある。
  • (2)各法科大学院における改善の進捗状況を踏まえながら、必要に応じて、法令違反の場合は、学校教育法に基づく措置等の適切な対応が取られることが望まれる。

付属資料 審議経過

  • 第1回 平成20年3月27日 法科大学院の教育の質の保証について(審議) 認証評価の結果について
  • 第2回 平成20年7月18日 ワーキンググループの審議状況について 法科大学院の教育の質について(審議)
  • 第3回 平成20年7月23日 法科大学院の教育の質について(審議)
  • 第4回 平成20年8月21日 法科大学院の教育体制の強化について(審議)
  • 第5回 平成20年9月5日 ワーキンググループの検討結果について 教育体制の充実について(審議)
  • 第6回 平成20年9月30日 中間まとめ(案)について(審議)

第4中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会委員名簿

(臨時委員)2名
  • 座長 田中 成明 関西学院大学大学院司法研究科教授
  • 座長代理 木村 孟 独立行政法人大学評価・学位授与機構長
(専門委員)14名
  • 磯村 保 神戸大学大学院法学研究科教授
  • 小山 太士 法務省大臣官房司法法制部司法法制課長
  • 井上 正仁 東京大学大学院法学政治学研究科長・法学部長
  • 小幡 純子 上智大学大学院法学研究科教授 
  • 鎌田 薫 早稲田大学大学院法務研究科長
  • 川端 和治 弁護士
  • 川村 正幸 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
  • 小島 武司 桐蔭横浜大学長
  • 瀬戸 純一 駿河台大学教授
  • 永田 眞三郎 関西大学法学部教授・学校法人関西大学理事
  • 中谷 実 南山大学大学院法務研究科教授
  • 林 道晴 司法研修所事務局長
  • 諸石 光熙 弁護士
  • 山中 至 熊本大学大学院法曹養成研究科教授

 計16名

中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会 第1ワーキンググループ委員名簿

(専門委員)7名
  • 大貫 裕之 中央大学大学院法務研究科教授
  • 大村 敦志 東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授
  • 笠井 正俊 京都大学大学院法学研究科・法学部教授
  • 主査 鎌田 薫 早稲田大学大学院法務研究科長
  • 主査代理 永田 眞三郞 関西大学法学部教授・学校法人関西大学理事
  • 野澤 正充 立教大学大学院法務研究科教授
  • 平野 敏彦 広島大学大学院法務研究科研究科長

 計7名

中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会 第2ワーキンググループ委員名簿

(専門委員)12名
  • 石川 敏行 中央大学大学院法務研究科教授
  • 主査 磯村 保 神戸大学大学院法学研究科教授
  • 大塚 直 早稲田大学大学院法務研究科教授
  • 小林 量 名古屋大学法学部・法学研究科教授
  • 佐々木 宗啓 法務省大臣官房司法法制部参事官
  • 高瀬 浩造 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授
(司法修習委員会委員)
  • 田村 政喜 司法研修所教官
  • 土井 真一 京都大学大学院法学研究科教授
  • 長沼 範良 上智大学法学研究科教授
  • 藤原 浩 弁護士
  • 主査代理 山口 厚 東京大学大学院法学政治学研究科教授
  • 山本 和彦 一橋大学大学院法学研究科教授

 計12名

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学改革推進室

大学院係
電話番号:03‐5253‐4111(内線3312)