大学院部会におけるこれまでの主な意見

博士課程教育の内容・方法の改善

  • 博士課程の教育研究は狭い専門領域に入りすぎている。学生主体で自由なテーマ設定を可能にするなど、蛸壺型教育に陥らない体制を確立することが必要である。博士課程で専門領域以外は分からないというような人材を育ててはいけない。
  • 大学院において、同系列の学部からの進学者だけでなく、他分野からの進学者も取り込んで、分野融合的な教育研究を実施するのは望ましいことである。
  • 企業側には特に人文社会系の博士課程修了者等を敬遠する意識がある。企業と大学が意思疎通を図ることにより状況の打開が必要である。
  • 大学院教育では、研究者のみならず社会で役立つ人材を育成することが重要。欧米と比較すると、我が国は人社系の博士はまだまだ少なく、会社経営者等として活躍している人も少ない。博士の活用に対する社会の民度を高めるとともに、大学院においてより社会で役立つ良い人材を輩出するこの双方が必要。
  • 社会科学では教育方法について教員に依存するところが大きく、標準化がなされていない。
  • 大学院は中等教育の教員養成にもっと積極的に取り組むべき。
  • 最新の科学技術に通じた弁理士など博士課程の学生の多様なキャリアパスを確保することが必要である。
  • 将来に不安を感じるということで、学生が博士課程に魅力を感じず、優秀な学生が博士課程に進学しなくなることについては大きな危機感を感じている。
  • 博士課程の単位取得後満期退学者の実態を把握すべき。満期退学後も一定の期間内であれば、課程博士の学位が授与されているようであるが、課程制の大学院制度の趣旨を踏まえた運用上の整理が必要である。
  • 医学分野について、専門の枠にはまらない教育研究をコース・コーディネーターが責任を持って状況を把握しつつ、提供する教育プログラムは意義深い。また、こ のような取組により大学院の魅力を高め、医学部学生を惹き付けることは重要である。
  • 医学分野では元来医療人材育成に力を入れてきた経緯があるが、一方で医学部卒の者に対してもリサーチ・マインドの育成を行っており、現に高い研究業績も上がっていることから、これまでの医学研究に対する一定の評価も必要である。
  • 米国では、学位を取得するために、入学2年目終了時の適性試験に合格した上で、プロポーサル試験(自身の論文以外の研究内容について概要を説明し、質疑に対してディフェンスできるかどうかを確かめる試験。研究の背景にある基礎的な内容の理解度も試される。)やキューム(抜き打ち試験)等をクリアする必要があり、一般的に4~6年は必要。米国の博士の質が高いとみなされるのは、このような教育内容によるところが大きい。
  • 米国では、適性試験等を全てパスして、かつ社会で活躍できるかどうかを判別した上で学位を授与する。論文を幾つ出したかは関係ない。

博士課程の入口での課題

  • 就職できない等の消極的な理由で博士課程に入る者もいる。博士課程の入口で目的意識が明確であるかどうかしっかり確認するべき。
  • 社会人を受入れた場合には、博士課程を修了しても元の職場に復帰したり、新たに常勤職に就くことが困難であるという課題もある。
  • 博士課程の入口はほとんどスクリーニング機能を果たしていない。定員を充足するために全入を認めている状況では、学生の質が落ちるのは当然。

博士課程の教育研究組織の在り方

  • 大学院の適正な規模はどのくらいなのかということについて、文部科学省は、大学に対し、メッセージを発するべき。
  • 大学院生数が大幅に増加したことにより、特に人社系において、常勤職に就職できない博士号取得者の増加を招いていると考えられる。
  • 近年、中国では米国を凌ぐ勢いでサイエンスのPh.D取得者が増えている。我が国はこれらの国から引き離されようとしている状況である。

博士課程の学生に対する経済的支援

  • 能力のある博士課程の学生に対して生活費相当額程度の経済的支援を行うなど、大学院教育に対する投資の拡充が国際的水準の大学院教育を達成する上で不可欠。
  • 学生に対するフェローシップの充実など、社会全体として、高等教育にもっと税金を投入すべきであるというコンセンサスを醸成する必要がある。
  • 米国に比べて、我が国では博士課程学生に対するRAによる経済的支援が不十分。米国では、学生に対して、教員が研究費の中から一定額を支給するということが当たり前に行われている。我が国でも学生に対する経済的支援の重要性に対する教員の認識を高め、学生が研究に打ち込める環境づくりを進める必要がある。
  • 米国において、RAは教員のためでもあり、学生のためでもある。教員にとっては、フェローシップよりは安価に雇用できる上、5年間程度の長いスパンで研究に取り組んでくれることがメリット。
  • 米国においては、RAの経費は教員が獲得した研究費から支給される。教員に定年はないが、研究費が獲得できなくなると、RAの雇用もできなくなり、研究室が縮小、引退ということになる。TAの雇用枠は若手研究者に優先的に与えられ、シニアな教員になるほどその枠は減らされるため、博士課程学生のRA雇用を継続し、研究を継続するには、研究費の獲得が不可欠。
  • 米国では、RA雇用における基準はなく、学生として研究室で受け入れた以上、TAやRAで必ず雇用している。
  • 米国では、研究室の定員はないが、TAを支給される1~2年生の間は、学生に研究室を特定させず、3つの研究室を直接訪問することを義務付けている。そうする中で、熱意のある若い教員に惹かれる学生もおり、有名な教員の研究室のみに学生が偏ることはない。
  • 日本の経済的支援の状況に係る調査は「のべ」調査になっており、実態がまだ見えないところもある。
  • 奨学金を受けて博士課程を修了し、その後返済を行うのは経済的に大きな負担なので、博士課程を修了する前に弾力的に返還できる制度を導入してはどうか。

学位審査の透明性・客観性

  • 学位の審査に際して金品授受の慣行が残っているのはおかしい。指導教授が主査になることは透明性・客観性確保の観点から望ましくない。
  • 我が国の博士号は学術的なものと専門職的なものが未分離である点に課題がある。
  • 教育研究や学位授与について、透明性の高いシステムを構築することが必要である。
  • 文部科学省からも大学に対して学位審査の透明性・客観性確保の取組を促すべき。

人材の国際流動性・海外から見た日本

  • 中国において、米国から帰国した研究者は、ほとんど米国に居たときと同じように研究を継続している。トップレベルの大学では、待遇の改善、複数年にわたるファンディング、教員の国際公募等が進んでおり、欧米に出た研究者が戻りやすい競争的環境が形成されている。
  • 中国において、海外留学を志す優秀な人材は、まず欧米を留学先として志向することは間違いない。ただ、恩師が日本で研究をしていた、あるいは研究内容が日本の研究者と合致する等の理由で日本への留学を決める者も存在する。日本に来ると帰国しても課長以上にはなれず、キャリア選択の幅が狭まるとか、日本語ができないと駄目など、ネガティブな風評がある。
  • 海外の学生は、英語で学位を取るのなら、わざわざ日本に留学しようとは思わないだろう。

専門職大学院

  • 法科大学院の開設に伴う影響で、法学部では大学院にほとんど進学しなくなり、研究者養成ができていない。大学院に在籍しているのは外国人学生ばかり。法科大学院卒業後に博士課程(後期)への入学ができることになっているが、外国文献の読解力の獲得等の研究者としての基礎的な訓練は法科大学院ではできない。
  • 現在のように、留学生が日本の学生と議論することもできないような状況では、海外の学生は日本に留学しても仕方ないと考えるようになる。 法曹養成に全てのリソースを回して、研究者養成の道が狭まってしまった。このままでは、法学を教えられる教員がいなくなる時が遅からずくる。
  • 企業の立場からも、国際的活動を深めていく上で、外国の各種規制への対処のため、外国に係る深い法的知識が必要となり、対応できる人材の確保が必須。国内法律との比較検討ができないと活動の支障になるので、法学研究者の養成がなされない状況については憂慮。
  • 米国の看護学では、専門職業人の養成が先行し、教員がいなくなってしまった。このような先例もあるので、研究者養成と専門職業人養成は各大学の裁量で別々にきちんと行うことが必要。

その他

  • 官公庁において、人社系をはじめ博士号取得者を積極的に採用するようにすべきではないか。
  • 中国では、ポスドクを雇用するポスドクステーションを設置している企業もあるが、必ずしも企業の研究開発に有効に活用できていないと聞いている。設置することにより外部から研究費を獲得したり、イメージアップを見込める(研究開発を重視していると見られる)効果はあるようだ。

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