大学院教育振興に係る論点の整理メモ

中央教育審議会諮問「中長期的な大学教育の在り方について」(平成20年9月11日)における大学院に関する課題及び論点整理について

論点1 学位プログラム等を通じた大学院の教育の実質化

大学院に入る段階において、学生の意欲及び能力を適切に評価するための方策が必要ではないか。

(例)
  • 大学院に入る段階において、意欲及び能力のある学生を適切に審査する仕組みの構築
  • 大学院に入る前段階から、学生が大学院の教育研究に意欲を持つことができるキャリア・ガイダンスの実施

大学院教育の実質化をさらに促進するためにはどのような方策が必要となるのか。

(例)
  • 大学院教育の実態に基づく適切な評価とさらなる財政的支援策の検討
  • 研究室を中心とした組織ありきの教育の在り方から、学位プログラムを中心とした研究科の在り方等への転換
  • 大学院の研究者養成、高度専門職業人養成、高度の教養人養成という人材養成機能それぞれに応じた教育内容・方法の明確化
  • 大学院におけるコースワーク(達成目標の明確化、理論と実践の反復、国際的な教育研究の機会の充実等)の徹底
  • 大学教員が研究のみならず教育をさらに重視するようFD等の取組や教育実績についての評価の実施
  • 社会人の大学院教育へのニーズの的確な受容及び社会人学生の受け入れ方策(博士課程の短期在学コースの導入、「論文博士」の在り方等)についての検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 「魅力ある大学院教育」イニシアティブが始まるまでは大学院において教育の取組はほとんど行われていなかった。事業後に取組を継続することが重要。
    • ボローニャプロセスの中で、ディプロマサプリメント(学位の学修内容を示す追加情報)の話があるが、今までの研究重視から、教育の比重を考えていかなくてはならない。
    • 工学系について質を向上させるには、教員の意識が変わることが必要。教員の研究の手伝いをさせるだけでは駄目。


学生と教員・研究者の流動性確保をさらに促進するためにはどのような方策が必要となるのか。

(例)
  • 優秀な大学院生を国内外から獲得するための方策(カリキュラム、教員の質、研究レベル、施設・設備、入学制度、経済支援、学生支援(学習支援及び生活支援)、事務体制の充実及び国際化等)の実施
  • 教員・研究者の交流を通じて、国際的、国内的、又は地域における教育・研究拠点となりうるような環境を整える取組の実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 事務体制の国際化が進んでいないのではないか。継続的に人材を養成する必要がある。
    • サポーティングスタッフの強化が大きな問題だが有効な手立てはない。

学生に対する厳正かつ適切な成績評価を実施するための方策が必要ではないか。

(例)
  • 博士課程在学中における適性試験の実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 学生に基礎学力のチェックと課題提案(リサーチプロポーサル)を課そうとしたが、これを実施すると学生の時間を取られ教員が困る。結局外国で学位を取得した者が多い化学系だけで実施された。
  • 指導教官以外の教員の関与等のルール化等などを含めた厳正な学位審査体制等の確立
  • 学位の質を下げずに博士課程の標準年限内の学位授与率の向上を図る方策の検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 博士課程の標準修業年限内の学位授与率及び外国人留学生のデータについて、目標の数値を定めて、質を下げずに目標を達成するための具体的方策を検討する必要がある。

大学院の質を保証するための設置基準の改善や評価制度の確立のための方策が必要ではないか。

(例)
  • 大学院の取組を適切に評価するための分野別の認証評価制度の確立
  • 大学院教育の設置の要件(校地・校舎の基準等)の明確化

論点2 大学院生や博士課程修了者等への進路や経済的支援

大学院生や博士課程修了者等の就職支援をさらに促進するためにはどのような方策が必要となるのか。

(例)
  • 産業界、地域社会等と人材養成、研究開発等において連携を図るとともに、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングの実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • ポスドクについてはミスマッチが生じているが、産業と先端的な学問分野を開拓する大学との間にずれがあるのは当然で、吸収できない。また、博士課程学生は中小企業に就職したがらない傾向があり、産業構造の転換が必要。
    • ニーズに合った人材を養成しているのか検証が必要。
  • 博士課程修了者について、国内の研究職だけではなく、海外の研究機関や企業への就職も視野に入れた就職促進策(キャリアパスの明確化等)の実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 工学系では、就職難の問題はなくなりつつある。薬学系も20%程度は博士を採用。
    • テニュアトラックの候補者選抜で数十倍の倍率になり、優秀な学生でも常勤職に就けない状況がある。キャリアパスを明確にする必要がある。
    • 医学博士を取得する者が少なくないのは、キャリアパスが明確だから。ただし、現在それは撤廃され、専門医資格の方が重視され進学者が減っている。大学教育だけの議論ではない。
  • 国内での博士課程修了者の採用、社会人学生の現場復帰等の促進策の実施
  • インターンシップ等のキャリア教育の充実
  • キャリアアドバイザー等の体制の整備等の実施
  • 各学問分野ごとに高度な専門的知識を身につけた者が活躍する事例に関する調査の実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 米国では教育学の学位取得者が研究者だけではなく、アドミニストレーターとして国際化対応、学修支援、プログラム開発等に携わっている。
    • 高度な知識を身に付けた人が活躍する事例について他の分野も調べるべき。
  • 大学院及び大学院生の社会的地位を高めるためのブランド力の向上方策の検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 日本の大学院生は社会的地位が低い。年俸制により経済的に保証し、誇りを持てるような大学院教育を行うことが必要。良い資質を持った学生が進学するよう、政策的に大学院生の地位を高めることが必要。
    • 修士、博士を取ることがキャリアの中でどういう意味を持つのか社会的に認知されていない。社会人ドクターがキャリアアップに繋がっているか不明であり、日本の社会が変わらないと博士を取っても意味がない。
    • 企業における博士の地位が低いことについて検証が必要。
    • 資格や専門職などメリットがなければ人が来ない。

大学院生や博士課程修了者等の経済的支援充実をさらに促進するためにはどのような方策が必要となるのか。

(例)
  • 学生への経済的支援など、高等教育への資金投入の必要性について社会全体のコンセンサスを形成
  • 教育訓練段階での授業料減免のための経済的支援の在り方についての検討(奨学金等の充実)
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 奨学金は授業料を軽減・免除するためのもの。
    • 米国博士課程最初の2年における教育訓練での支援は奨学金で行われる。
    • 米国では修士の段階からTAで入学時から支援を行っており、修士課程の段階から支援が必要。入学前から支援額を明示する必要がある。
    • 法科大学院の学生は多いが研究者の後継者はほとんどおらず、他の分野と違った学生支援を行う必要がある。
  • TA・RAによる学生の労働の対価としての経済的支援の充実方策の実施
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 給付制の支援は教員の研究に参画する学生の貢献の対価。
    • 給与は大学が高度な研究を実施するため選抜された学生への対価。
  • 海外の優れた学生を日本に呼んだり、海外に出た優秀な日本人学生を呼び戻すための経済的支援の在り方についての検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 経済的支援をやらなければ国際競争力を持つことはできない。外国の優れた学生を日本に呼び、流動化を促進するためにも給付制の支援が必要。
  • 学生への経済的支援の財源確保のため、公的資金を確保するとともに、寄附募集活動の活発化及び戦略的な資産運用などの各大学の自助努力を促す方策の検討。

論点3 大学院の今後の量的規模

国際的な競争力の確保のための世界的な教育研究拠点の形成等、大学院教育の全体像を踏まえた適正な量的規模の検討が必要ではないか。

(例)
  • 人口減少を踏まえた適正な量的規模の検討とともに、国際的な競争力の確保のための世界的な教育研究拠点の形成、必要不可欠な学問分野における研究者の確保、社会ニーズを踏まえた高度職業人養成、社会人・留学生の受け入れ等の観点から、修士課程、博士課程それぞれの適正な量的規模の検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 「適正な」というのは難しい。先進国との比較で量を増やしたが出口の視点がなかった。
    • 規模の国際比較は中身を見ていないのが問題。欧米諸国では専門職業人養成が大学院で行われている。また、大学院がマス化し始めており、学力不足の進学者が多い中、増やしても意味はない。
    • 企業は今研究を海外で行っている。グローバルな環境下で働く際に職業資格等の相互認定が必要。工学は共通な部分が大きい。
  • 大学院の入学定員の在り方についての検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 大学院の入学定員について、国立大学の場合は講座制の定員の考え方がほとんどの大学で固定化されている。定員の根拠が不明であり、充足しなければ予算が減らされる圧力もある。オーバードクター問題の原因の一つでもあり検討が必要。
  • 大学院の評価における定員充足率のとらえ方についての検討
  • 大学院の機能別分化を促すような方策の検討
  • 学問分野別に出口を踏まえた上での適正な量的規模の在り方の検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 理系は採用があるが、文系は少ない。出口の活用のことを考えると量は制限すべきでは。また分野別の適正な量を検討する必要がある。
    • 理工系は量は必要。ただし質も確保する必要がある。
    • 量と質はセットで考えるべき。国際的なベンチマーク、分野の割合、水準についても検討が必要。
    • 量と質はともに必要。量を少なくしても質が上がるとは限らない。医学教育の分野は国際比較は危険。例えば医師は国際的に少ないが、医療費や財政支援が少ない中で単に医師を増やしても上手くいかない。

論点4 大学院大学(特に専門職大学院大学)の在り方

大学院大学(特に専門職大学院大学)の質の保証のための方策が必要ではないか。

(例)
  • 大学院大学(特に専門職大学院大学)の設置審査要件の明確化(大学院大学の施設環境(校地・校舎の基準等)の明確化、研究者/実務家教員とのバランス、常勤・非常勤の割合、実務家教員の役割・責任等)  

論点5 専門職大学院の在り方

専門職大学院の質の保証のための方策が必要ではないか。

(例)
  • 専門分野別認証評価の整備・定着(評価項目のミニマム・スタンダードの策定、認証評価の特例措置の在り方、認証評価において不適合認定を受けた大学に対する措置の在り方等)

専門職大学院における教育機能の充実のための方策が必要ではないか。

(例)
  • 研究者・教員養成促進のための専門職学位課程と博士課程の接続の在り方
  • ダブルカウントの暫定措置終了後も、専門職大学院の教員が博士後期課程における研究指導に携わることにより、優れた研究・教育能力を備えた教員を育成することができるよう配慮について検討
  • 社会ニーズを踏まえた当該分野の修了者の共通的な資質・能力の検討

専門職大学院の適正規模についての検討が必要ではないか。

(例)
  • 分野の特性等に応じた各専門職大学院の適正な量的規模の検討

論点6 その他

修士課程の位置づけを再度とらえ直すことが必要ではないか。

(例)
  • 修士課程の位置づけについて、修士課程と博士課程との関係、高度専門職業人養成、専門職大学院大学との相違等の在り方の検討
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 学位プログラム型の教育課程を検討するとして、修士課程の在り方を見直す(博士課程の前段階か、高度専門職業人養成か)必要がある。
    • 以前国際的に通用する大学院について報告書をまとめたときの議論を突き詰めると、修士課程は専門職課程に変わらざるを得ないと思う。それとPh.Dコースの2本立てになるのでは。
  • 修士課程の学生の就職活動に関し、学生の学修や研究に支障を及ぼさないような在り方についての検討及び民間企業等との連携
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 修士課程の学生は就職活動で研究室に来ない。博士課程に進学する人と修士課程で終わる人は全く違い、教育が成り立たない。
    • 青田買いについては経団連で申し合わせをしているが、守られていないところがある。

学部教育と大学院教育との間の整理が必要ではないか。

(例)
  • 学部の専門教育と大学院における専門教育の関係について整理
     【大学院部会委員懇談会(平成20年11月25日)における関連意見】
    • 学部における専門教育と大学院における専門教育の整理が必要(学部教育では専門基礎教育を行うと行ってきたが、専門性が放棄されなかった。

 (以下参考)

1.中央教育審議会諮問「中長期的な大学教育の在り方について」文部科学大臣諮問理由(抜粋)

(1)社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について

第二 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための「学位プログラム」を中心とする大学制度及びその教育の再構成について

 平成17年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において、「現在、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされて いる。今後は、教育の充実の観点から,学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との提言をいただいております。
 そこで、国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質、とりわけその団体性や自律性を踏まえつつ、一人ひとりの学生のニーズに応じた大学教育が提供され、その質保証がよりきめ細かく行われるよう、「学位プログラム」を中心とする仕組みの導入の是非について、人的・物的環境の在り方を含め、御検討をお願いいたします。

第五 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための学生の履修を支援する方策について

 学生のニーズが多様化した状況を踏まえると、大学においては教育の提供のみならず、きめ細かな履修指導や進路相談等の学生支援の取組が一層重要となっており、その具体的方策の御検討をお願いいたします。また、社会人や留学生等の多様な背景を備えた学生への支援や、大学院博士課程学生への教育の在り方や修了者への支援に関し、どのような方策が必要か御検討をお願いいたします。

2.「中長期的な大学教育の在り方について」(論点メモ)(抜粋)

1 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について

(4)多様なニーズに対応する大学教育を実現するための質保証システムの在り方について

 専門職大学院に係る認証評価の特例の在り方についてどう考えるか。

(5)多様なニーズに対応する大学教育を実現するための学生の履修を支援する方策について

 大学院博士課程学生への教育内容・方法の在り方及びキャリア・ガイダンスの在り方並びにTA・RA等の経済的支援方策等についてどう考えるか。

3 人口減少期における我が国の大学の全体像について

(1)人口減少期における大学全体の健全な発展の在り方について

 人口減少期における我が国の大学の果たすべき役割、及び機能別分化等を通じた我が国の大学の健全な発展等に関する将来像についてどう考えるか。(例:機能別分化に基づく各大学の大学院・学部の定員のバランス等)

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高等教育局大学振興課大学改革推進室

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