大学院部会(委員懇談会) 議事録

1.日時

平成26年9月25日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省 東館3階 3F1特別会議室

3.出席者

委員

(臨時委員)有信睦弘(部会長),川嶋太津夫,菱沼典子の各臨時委員
(専門委員)加治佐哲也,齋藤康,篠原弘道,永里善彦,真壁利明,の各専門委員

文部科学省

吉田高等教育局長,義本高等教育局審議官,藤原高等教育局私学部長,徳田生涯学習政策局審議官,里見大学振興課長,田中高等教育政策室長,猪股大学改革推進室長  他

オブザーバー

濱口名古屋大学総長,五神東京大学教授

4.議事録

【有信部会長】
 それでは,所定の時刻になりましたので,大学院部会を開催したいと思います。御多忙中のところ,朝から御出席いただきましてありがとうございます。最近の天候不順の最たるもので,何だか新幹線がどうも止まっているということです。濵口先生にきょうお話しいただく予定ですけれども,多少遅れるということで後で説明しますが,順番を変えさせていただきます。
 本日また前回に引き続き定足数を満たしていないということで,正式な委員会ではなくて,懇談会という形で進めさせていただければと思います。
 前回から申し上げていますけれども,平成28年度というのは,今度新たに5年間の第3次大学院教育振興施策要綱を実施する年の最初に当たります。その準備のために来年の夏頃をめどに,大学院部会としても具体的な提言を出したいということで,精力的に会議を進めていきたいと思っています。この提言を受けて,文部科学省で大学院教育振興施策要綱が策定されることになっています。
 また何度も言いますけれども,第5次科学技術基本計画が平成28年からスタートしますし,たまたま国立大学の第3期の中期計画が,また28年度からスタートすると。この第3期の中期計画というのは,今までと大きく違って,大学の大きな変革を伴う形で進められる構想になっているはずです。これもどういうことになるか分かりません。
 そのようなこともありまして,大学院部会からの答申は非常に重要な役割を果たすと思っていますので,是非よろしくお願いします。
 前回,前々回に関して文部科学省でまとめていただいた大量のマクロデータに基づいて議論を進めさせていただいていますが,これからは順次個別にそれぞれの課題について,ヒアリングを進めながら新しい提言に向けての議論を進めていきたいと思います。
 資料4にありますけれども,大体月1回ぐらいのペースでヒアリングをやることになっていますので,なかなか委員の方々には御負担を掛けますが,是非よろしくお願いをします。
 本日は名古屋大学の総長の濵口道成先生と,東京大学の大学院理学系研究課長の五神真先生にお話を頂くことになっています。五神先生は学術会議の「我が国の研究力強化に関する研究人材雇用制度検討委員会」の委員長を務めておられますので,その観点からもお話を頂けるかと思っています。また名古屋大学の濵口先生は,科学技術・学術審議会の人材委員会の委員長を務めておりまして,つい先頃,その人材委員会が提言の中間まとめを出しています。その点にも関連して,多分何とかたどり着いて,お話を頂けるのであろうと思っています。
 五神先生,濵口先生ともに最後まで御同席いただけるということなので,是非議論にも加わっていただければと思います。
 それでは事務局から,配布資料の確認をお願いします。

【猪股大学改革推進室長】
 配布資料につきましては,机上の議事次第に掲げているとおり,机上に御用意させていただいておりますが,抜けている資料などお気付きがありました場合には,事務局にお声掛けをお願いいたします。
 なお,資料1の議事録(案)につきましては,修正などの御意見があります場合には,10月17日金曜日までに事務局へ御連絡をよろしくお願いいたします。以上でございます。

【有信部会長】
 それでは早速審議に入りたいと思います。濵口先生の御到着が流動的なので,本来ならばお二方の説明を受けた後で議論を頂く予定にしておりますが,場合によっては順序を変更する可能性があるかもしれません。
 それでは最初に,五神先生から説明をよろしくお願いします。

【五神教授】
 それでは御紹介いただきました東京大学の五神が,潜望鏡で見ているような管見ではありますけれども,私の視点で大学院教育の在り方と改革の方向性についてお話させていただきます。
 私自身は22年答申のときの大学院部会の専門委員でしたので,この部会とはかなり深く関わってきたものであります。

【有信部会長】
 よろしかったら座ったままで,結構ですので。

【五神教授】
 アウトラインは盛りだくさんになっておりますが,頂いた時間は30分ぐらいとお聞きしていますので,その範囲内で適宜御説明させていただきます。
 これは国交省のデータで,日本の人口がこの1,000年,2,000年規模でどういうふうになっているか。ご覧のとおり,戦後,あるいはここ100年と言うべきですが,人口が大きく増加しています。人口即国力ではないにしても,これだけ日本が発展してきた。それが2004年をピークに微分係数が、ネガティブになる。この絵を見て明らかなように,微分が負になるのは初めてだということですので,今までにない状況であることは間違いない。そのようにネガティブで,かつてない状況というのは,例えば1人当たりのGDPの順位がずるずると落ち続けている。これは2007年で止まっていますが,多分その後もそう良い状況にはなっていない。我々の世代ですと,とにかく右肩上がりというのがデフォルトでありましたので,減っていくことに慣れていない。そのような中で,焦り過ぎてしまって,既存のストックを必要以上に放棄してしまうような改革が進んではいけないと思っているわけです。
 これは学術関係でいくと,論文の状況を見ても,実はここ10年ぐらい停滞は顕著になっており,この全世界と書いたものですが,世界が順調に伸びている中で,2005年ぐらいから日本,あるいは東京大学がぴたっと頭打ちになっている。実は法人化になったのは平成16年,私はその次の年の平成17年に小宮山前総長の特任補佐ということで,世界の先頭に立つというようなことを掲げていたわけです。ちょうどそれはこの辺りだったので,このまま行けば先頭に立つのはそうおかしくないと。冷めた同僚からは,そのような馬鹿なことを言ったよねと10年後ぐらいに言うであろうと言われ,そんなはずはないと言い返した覚えがあります。ですが,その冷めた同僚が言ったとおりになっているところが,極めて残念な状況であります。
 これもやや古くなりましたけれども,2008年のニューヨークタイムズの1面報道で,日本といえばハイテク産業がよく知られている中で,人材という意味で言うと,工学系分野の人気がかなり陰りをみせていると取り上げられた。今,少し回復したかもしれませんが,非常にそのような傾向が見られた時期であると同時に,外国人のエンジニアの獲得ができていないということで,非常に日本のビジネス,工業がこれからつらいのではないかという話が報じられ、実際そのとおりになっていて,人材獲得という意味でも苦戦が続いているというわけです。
 では,どのようなことを考えなければならないかという一つの象徴例ですけれども,これは経産省が作ったバルーンマップというもので,日本企業の世界シェアに対して,その市場規模を縦に取って,例えば車ですとこのような大きなバルーンがあると。これが日本のGDPを支えているわけです。このグレーの大きな立派なバルーンが,これがエレクトロニクス系でして,これがわずか4年後のマップで見ると,最終製品が変わったのもありますけれども,明らかにこの辺りの構造が大きく変わっている。
 ただ人材という意味で言いますと,大学院修士ぐらいの24歳,25歳から企業に就職して,その人たちがそのような産業界の中で何十年と働いているのです。これを4年間でその人たちが失職して消えてしまうということは,日本では起こらないわけです。これはアメリカですと,インダストリーの雇用は大変不安定でして,ある日机の上に解雇通知がぽんと置いてあるということが起こるわけです。私も90年代の前半にベル研でビジターとして仕事をしていたときに,同僚の一人が,君のセクションはきょうからなくなりましたという通知を見て,ぼう然としていたことがありました。これが向こうの企業文化ですが,日本ではそのようなことはない。
 ですから,安定した雇用が確保されている中でも,その市場あるいは産業の規模で見ると,これはかなり大きな変化が日々起こっている。そのような中で安定性を強みとして,どうやって雇用を拡大していくか,そのために人材育成をどうしたらいいかということが極めて重要であろうと考えています。
 これは数年前にスタンフォードのラッシャーさんが説明した絵ですが,1人当たりのGDP,賃金,稼ぎに対して,縦軸はその国での新しい新興企業がどのぐらいGDPに寄与しているかという比率をプロットしたものです。もちろん,貧しい国は開発途上ですから,新しい会社が一生懸命稼いでいく。ところが成熟していきますと,それが落ちていって,あるところでV字ターンをする。日本はここなので,ちょうど谷間ですね。USがここにあると。
 ですから,ここから伸びていくには成熟後の成長ということで,これは成熟後の成長をどうしたらいいかという話です。要するに無から有を作っていく人,それは必ずしも大勢の人が参加する必要はないのですが,そのような人たちの絶対数が足りている中で,産業を作っていくという活動は必要であると。そのような議論は,実は私が参加していた頃の大学院部会でも散々やりました。だからこそ,大学院教育の中で高度人材,要するに知識集約に備えた創造社会を牽引する,インターナショナルにも資格を認められたPh.Dですね,博士人材が大事だということを施策としてずっと打ってきたのだと思います。
 これは18歳人口で見ますと,1955年に168万人いたのが,2010年には120万人を既に切っています。ここが定員ベースで学士の定員。この濃い部分が大学院。一番濃いところがPh.Dということになります。
 そのような意味で大学院教育を抜本的に強化する中で,知識集約社会での新しい産業を創造していく担い手をどう育てていくか。その場として博士教育をどうシステムとして,課程性の博士とをより強靭なものにしていくかが議論されたわけです。最近,イノベーション,総合戦略や財政審などの報道発表もありますが,どれもある程度めり張りを付けて,その上を伸ばすような抜本的改革は必要であるというトーンになっています。
 こちらは経産省の委員会の産構審ですが,どうやって雇用を伸ばしていくかという観点に立ちますと,日本が東アジアの中での工業先進国であり,あるいは学術的にも先進国である中で,そのような優位性を生かしてどういうふうに雇用,稼ぎを増やしていくかという戦略を,これは当然グローバル化していますから,世界経済の変化を見据えて考えなければいけない。けれども,世界全部フラットで,同じ道筋というわけにはもちろんいかないし,そうではないはずです。日本の既存の資源,優位性を生かして,どうやって5年10年の間にV字回復して,雇用を作りながら賃金を上げていくかというときに,狙いが定まっていない。私もこれらの会議に,幾つか小委員会の委員長として参加していましたが,そこは誰も語りたがらないのか語れないのか,という状況になっています。
 これは,ちょうど先ほどお話がありましたように,28年に5期の科学技術基本計画が始まるという話ですが,科学技術基本法が95年に議員立法により制定され,科学技術立国,創造立国だということで産業競争力の強化と大学院の,例えば博士や大学院重点化などは,ある程度呼応した形で進んでいる。また人材問題で今深刻化しているポスドクについては,ポスドク層は世界標準で見たときに絶対いるレイヤーであるので,ポスドク雇用を1万人創出しましょうと支援計画が策定され、実際今は1.6万人か1.7万人のポスドクがいる。
 ところが安定的なキャリアへの接続が見られないというところが,問題になっているわけです。ここで法人化が起こった。法人は自立的に経営をしながら,いろいろな縛りがなく,その最適化ができる。国立大学も多様ですから,それは制度的には良いことのはずですが,それが生かせたかどうかが今問われていて,これは外野から見ますと,自治能力の欠如,ガバナンス力のなさではないかと言われているわけです。
 ともかく,このような中で博士の数は増えた。今は頭打ちになっています。ポスドクも増えたと。このような人たちが若手の優秀層で,研究人材,研究になっていくはずですから,価値創造の主役になるはずなのですが,その行き先が必ずしも見えていない中で,成長戦略を具体的に作らなければいけない状況になっているわけです。
 大学院重点化というのは,基本法直前にスタートしたものですが,確かに学生数がここで急伸したことは確かです。この数,この量的拡大に合わせて,その質をどうするかが17年の大学院答申の質保証の問題や,それを検証するための22年の答申に,ここの場の議論が来ていたわけです。
 大学側の現場から見ますと,確かにこの間多くの支援を打っていただいたと理解しています。例えば,基本法成立直後のセンター・オブ・エクセレンス,COEは,これは研究強化ということでしたが,その次の21世紀COEでは,かなり大学院生をエンカレッジする部分が増えてきた。グローバルCOEになりますと,かなり大学院支援の部分が増えている。
 これは民主党時代の仕分けでは,既存ディシプリンにしがみついた強化策ではないかという批判も出ましたが,実際は現場でお金がどういうふうに使われたかというと,多分350憶円ぐらいの総予算の中で150億円ぐらいは,大学院生のRA支援でした。これは現場の先生の判断として,博士課程の学生が親の支援,あるいはアルバイトでやっているのはおかしい、欧米標準でいくならば,きちんとした支援をすべきだということで,この予算の運用としてRA支援に相当つぎ込んだわけです。
 ところが,これがいろいろ不利な状況の中で続きませんでした。実はその150億円のRA支援がなくなることは,現場にとっては激変だということがあり,24年,25年でこの卓越した大学院拠点形成支援補助金というのが措置されて,これもかなり綱渡りだったと聞いていますが,それでも2年間はこの規模で続きました。ところが,これが今年度はありません。
 私はこの頃,大学院部会の専門委員をやっていたので,このような推移,あるいはリーディングの立ち上げも見てきましたが,支援する大学の数がどんどん減っていくので,これは予算としては極めてぜい弱なものであることは明らかで,いつかは倒れるなと心配していました。
 決して安定的な形ではないにしても,その場の判断でやっていた相応な支援が今はないという状況が,非常にネガティブになっている。この内訳は省略します。そのような中でリーディングプログラムが構想されて,つまり大学重点化後,博士というものをたくさん育てるキャパシティーは用意できた。それがもっと多様な分野で活躍すべきであるという議論の中で,博士をリーダー人材として位置付けようと,課題解決に資するリーダーを育てるプログラムを作った。
 これだけのことをやっているにもかかわらず,このResearch University11(RU11),あるいは東京大学で見ますと修士から博士の進学率は,むしろ急速に落ちている。特に東大は顕著です。平成13年に41.9%だった進学率が, 10年後の23年には16ポイント以上落ちている。
 これは後ほど濵口先生の資料にもありますが,東大の研究員,教員の雇用が平成18年と24年で見ると,右側が任期なしのポスト,承継ポストで,こちら側が任期付き。承継ポストでも助教は任期付きですので,左に入っています。このように,わずかこの数年の間に若手の任期なしポストが消えて,それ以上に有期の雇用が激増している。これはいろいろな競争的資金ですね。その科学技術基本計画の下で行われているプロジェクトを遂行するために,東大ではそのような大型プロジェクトを獲得する比率が高く,そこの数割は人件費,若手雇用に回りますので,それがここになっていると。
 問題はこれがピークも高齢側にシフトしていて,要するに行き先のないまま停留している状況が見えている。これが問題意識ということで,アジアが台頭している中で,日本がきちんとした国際的な人材獲得というものがうまくいっていないのではないか。あるいは産業構造への変化,つまりどのように日本経済が成長していくかということを見据えた中で,それを予言しながら人材育成をしないと,人材育成には時間が掛かりますので功を奏さないわけです。しかし,そこが必ずしも,きちんとした議論が進んでいない状況です。
 そのような意味で,我々の取組を少し簡単に紹介したいのですが,私は,専門は光科学,レーザー物理学をやっていて,レーザーの分野からはこの10年ぐらい非常に頻繁にノーベル賞が出ています。それはなぜかというと,私の分析ですと,80年代,冷戦時代にレーガンのレーザーを使った軍事研究もあったわけですが,そのような高度な研究が90年代に民政あるいはラボに下りてきて,レーザーの原理的な優位性が実際に実験でリアライズされたのが,20世紀の終わりから21世紀の初頭と。ということで,今正に学問分野としては極めて活況を呈していると思われます。
 これは実は工業的にも極めて重要でして,レーザーというのは特殊な光ですけれども,私がラボを作った頃は,18ワットの光を出すのに30キロワットの電力が必要だった。非常に変換効率は低かったのです。今はそれが60%,70%,つまりほとんどロスなく高度な機能を持った光に電気を変換できるということで,何桁も性能が向上した。これは科学技術の歴史的な流れになっています。光というのは非常に学術的にもすばらしいので伸ばしていこうということを,我々の分野ではずっとここ10年以上やってきたわけです。
 しかし、アカデミアの強靭化という意味で,法人ごとに,個々にトップダウンマネジメントを生かして伸ばしましょうということだけでは,日本のような小さい国の学術全体を伸ばすことはできません。そのため同じ分野で連携するような仕組みも同時に作る必要があるということを,光の分野において平成20年から29年までの10年事業としてやっております。
 そのほか,例えば先端分野は当然インダストリーが強いわけですから,そのインダストリーがアカデミアの中の,特に理学系のような基礎的な分野のところに機材を持ち込んで,知を探求するのは好きだけれども,応用することにあまり興味がないという人たちに,知を応用することのすばらしさを実感させる体験プログラムを,2007年からすでに始めているのです。CORALと呼んでいる事業です。やっていて,これは非常に大きな教育効果を出しています。
 これらを踏まえて,我々はリーディング大学院プログラムの中で,フォトンサイエンス・リーディング大学院という名前で,つまり非常にファンダメンタルな先端的な研究と,知を活用するというその知能,価値創造の分野をバリアなくつなぐことを意図して進めたいということで,リーディング大学院を提案しました。
 立ち上げ当初は,五神先生の分野に優秀な人を囲い込むために,政府予算を取ったのではないかとも言われましたが,そうではなくてフォトンサイエンスをキーワードとして,幅広い分野の基礎研究をしている人たちを支援しています。素粒子理論なども,もちろん入っています。
 やりたかったことは,優秀人材が博士離れしていることが,東大ではかなり顕著になっている。特に工学系では非常にそれが大きな問題になっている。
 これは大学院重点化によって定員は増えたけれども,この優秀層,この辺りのこの人たちが進学しなくなった。これをこのような形に変えていく仕組みを作りたいと。
 それで,この分量の人たちがみんな狭いアカデミアに収まるわけにはいかないので,いろいろな分野に出ていくことができる仕組みを作る。これは強制的ではなくて,それぞれの学生さんたちがそのようなことに気が付くチャンスを増やす仕組みを作りました。
 1つだけ,どんなことをやっているかを御紹介します。イノベーションマネジメント講義というのをやりました。これは先生を探したのですけれども,なかなか日本の中には見つからず,ちょうどアメリカのインダストリーでプロダクトラインマネジャーをやっている旧知の人がいましたので,この大槻さんにお願いしました。要するに先端技術を売ることはベル研のスピンアウトの会社や,先端半導体レーザーのメーカーでやってきたことですが,そのようなことについて事例を示しながらグループディスカッションを行う。そのグループディスカッションの中で,より近くで見たいという学生が出た場合には,海外のパートナー企業に長期間インターンシップとして派遣して,そこで実際に研究者あるいはその開発をしている人たちの中に送り込み,作業をしてきてもらうことをやっています。
 これまではパイロット的なもので始めていましたが、3か月間ベル研のスピンアウトの会社に派遣された学生さんは,,先方からすぐにでも雇いたいと言われるぐらいの高い評価を得ました。学生さんは,海外ではPh.Dキャンディデートというだけで全然扱いが違い,Ph.Dというものがどのようなものか,日本とは違った雰囲気で評価されているのを実感し、またこのような活動というのは,極めて自分にとっては役に立ったと言っています。
 ただし,彼が同時に言ったことは,自分は特別選ばれて行けたのだけれども,自分がこの経験をするために掛けているコストを考えると,これはぜいたく過ぎるのではないかと。要するにアパートを借りて何とか生活できている一方で,このようなことができるのはサステーナブルでない,のではないかと,学生に言われたのですね。そのとおりです。本来はニーズがあるはずで、日本の会社ももう少し積極的に支援することができるはずです。ですからこのリーディング大学院の中では産学共同のプラットフォームを実装して,学生が海外経験をもう少し気楽にできるように,また外に行きたい人は行かせればいいのですけれども,外に行かなくても大学院で学びながらできるようにしようと考えました。
 ところがリーディング大学院の予算は,このようなプラットフォームを作る部分はほとんどないので,ここをどのようにしようかと。ちょうどいいタイミングで文科省のCOI STREAM事業が開始し,これは新しい雇用を作るような夢を描かなければいけないという事業でしたので,正に我々が育てているこの先20年30年,日本の産業を、社会を引っ張っていく人たちが,研鑽を積む場所を作るには,このプログラムは使えるであろう。ということで,この事業を活用しながら今コースを充実させているところです。
 実はCOI STREAM事業が始まる前から,このような拠点を作りたいという構想はありましたので,先ほどの大槻先生のイノベーションマネジメントの講義の中で,学生たちに日本の状況を分析させて,どのような拠点を東大に装着するのがいいかという課題を出して,議論をさせて,まとめたペーパーがこのようなことになっています。東大にはいろいろな教育プログラム,あるいは先端設備がある。あるいは政策的なことを議論する場所もあると。政策ビジョンセンターがそうですね。
 それらを活用しながら,実はシーズは企業群の中にたくさんある。あるいは人もたくさんいる。つまり,修士の優秀層のほとんどが博士に行っていないわけですから,東大から輩出した優秀な人のほとんどが企業で,働いているわけです。そのような人たちが自由に行き来して,マネジメントの専門的な表現ですがCross Functional Teamsを活用し,お互いに技術や人をトランスファーしながらアウトプットを出していく。アウトプットは最終製品であるのは良くないであろう。つまり出口を縛ることになるので,知財や人材など新産業という多少漠然とした形でアウトプットを設定して,この中で人や技術が回る仕組みを作ることが重要です。場合によっては人が転職するかもしれないし,ここで培った技術を元の企業に持ち帰って,大規模な社会実装をするかもしれない。これがベンチャーを作ってM&Aで,大規模な社会実装をするという通常議論されているモデルに比べて,どちらが今日本の現状にふさわしいかを考えたわけです。
 つまり,外資系企業が有力ベンチャー企業を買収のターゲットにしているといわれている中で,各企業は日本の産業力,製造力,社会実装力を高め,ここにひも付いている,つまり安定雇用にひかれて優秀層が企業に就職している現状があるわけです。ですからそこのところをどのように接続していくか,ということを考えた。
 こういったイノベーション拠点事業を現在進めていて,それを大学で認知してもらうためには大学の中にも組織が必要なので,昨年理学系の中に機構を作りました。
 東大の中での大学院の課題というのは,我々の切り口はその中の非常に先鋭的な部分で,全体的に見るともっとたくさんある。3月まで副学長をしておりましたから,吉見副学長とともに検討会を開いてこれらの課題について議論をしました。明らかに東大全体で見ると,大学院生の質は低下している。卓越性も落ちている。国際性もない。学位システムも硬直である。硬直とはどのようなことかというと,5年たったところで,なぜか学位をきちんと取れている人が多過ぎる。学位のリクワイアメントから見れば,それは極めて不自然ではないか。社会人には優秀な人がいることは知っているけれども,その人たちはノンディグリーのまま生涯を終えていく。ここをどうしよう。それからリーディング大学院は,東大では9プログラムが走っておりまして,年間かなりの額の支援を頂いていていますが,これらの恒久化というのは非常に深刻なものです。この課題を解決するには,大学院重点化の見直しが極めて重要だと考えます。
 これは,うちの研究室でやっている週報制度というもので,学生さんの週報に対して私が一人一人全員にコメントを書いて,全員に見せるという指導を工夫しておりますが,結局一品生産なのですね。ですから,大学院教育というのは,一人一人の個性に合わせて先生が時間を掛けて教育することで価値を生み出してきたといえます。その形態は多分続くのだと思う。そのようなものの質を維持しながら,無から有を作り出す人をどのように育てていくか。先ほど言ったものを,どのように直していくか。
 ちなみに,私たちの理学系研究科は,27年概算要求で修士定員を減という純減の要求を出しています。ただ,欧米で教員をやっている人たち,例えばIPMUの村山先生と話しますと,東大の教員1人当たりの大学院生の数は何かすごく多いように見えると。本当にそのように丁寧な指導の中で育てられるのですか,とおしゃっていました。今,うちの研究室の学生は10人ぐらいですけれども,多分そのぐらいが限度だと思います。場合によっては20人,30人という大学院生を抱えている先生もいますが,それは難しいかもしれない。
 東大はこのようにより顕著に進学率が落ちている。ただ,私の実感と若干違うのは,物理の分野を調べてみると,実はこれらの施策の効果は大きくて,学生を支援することは極めて重要で,回復していることが見て取れます。
 リーディング大学院で言いますと,ここで切れますので「平成30年問題」と私は言っていますが,実は今年度募集してM1の学生を採用しましたが,彼らには,ここはまだ保証できません,支援が続くように努力はしているのですけれども,平成30年の予算を議論する仕組みに日本はなっていないので,最後まで保証すると言えなくて済みません,という言い方をしています。
 ただ,ここをどのように恒久化するかは,正にこの部会で議論していただきたいところでありますが,そこは大学院教育の受益者が誰かということをよく分析しながら,支援のポートフォリオを作っていく必要があると思います。
 具体的アクションとして,東大では大学院教育強化3事業に取り組んでいます。1つは倫理教育の強化、これは絶対必要。それから支援システムをどのように構築するか。MD一貫のグローバル大学院を作りたい。リーディング大学院が正にそうなのですが,リーディングのときの博士リーダーを作ることに捉われず,大学院の既存資源をもっと生かして,例えばディシプリンベースでもいい教育をしているところは,これに乗せようということで,WINGSというプランを今構築中です。
 ただ,ひとつ産業という意味で,既に社会人になっているマスター卒の,例えば研究課長賞を取ったぐらいの人たちがたくさん,東大工学系からはマスター卒で産業界に入っています。そのうちの何割かを,きちんとここでディグリー化することを同時にやっていきたいと思っています。
 もう一つは、米国のアドミッションは日本と全然違うやり方をしていて,ウエブベースで募集を行っています。これを受け入れるかどうかは大きな議論のポイントだと思っています。
 もう大体時間ですので,この辺りでまとめたいと思いますけれども,一番大事なことは大学院学生支援システムの構築がないといけない。現在,博士課程ですけれども,生活費相当年間180万円を受けている院生は全国で10%程度です。この間ローザンヌのEPFLから学生が見学に来て,付いてきた先生が,博士1年間での支援額が540万円だと言って,自慢していました。リーディングでも240万円ですから,これは結構厳しい。そこと競争しなければいけない。本当にグローバルな人材を育成するにはそれくらいになります。
 私は,本来は大学院教育の受益者は本人なので,例えば本人が奨学金を受けて,自己投資をする形で回るようにするのがゴールだと思っています。つまり,それだけ生涯賃金を増やす教育を受けることができるので,ローンを組んででも大学院に行きたいと思うような大学院を作っていかなければいけない。しかし,そこまでに移行するわけにはなかなかいかない中で,現状からの接続という意味では,米国型の競争的資金で教員がきちんと課題を与えて支援する。あるいは,DCは本人が何をやりたいということで,能力のある人を選ぶ仕組みですから,ここも重要で、この拡充が必要だと思います。
 それ以外に,大学が戦略として,例えば東京大学でインド哲学は絶対続けなければいけないとなれば,専門家が5年に1人ぐらいきちんと学べるようなサポートを,大学が学長側の判断ですることがあっても良いでしょう。そのためには,執行部が持つ基盤財源を強化する必要があって,ここは間接経費が重要であろうと思っています。
 もう時間がないのですが,結局大学で見たときに,先ほど東大の雇用関係,特に若手研究者の雇用が非常に不安定になってしまった。それはある意味,運営の停滞が要因として顕著に現れていますが,一番そのひずみが現れやすいのが大学であることも事実なわけです。東大としては卓越した教員がたくさんいるのですけれども,その人を大学の中に囲い込むようなことは良くない。ですから,ある先生がほかの機関でも重要なミッションをオファーされて,両立できるのであれば,それができるような仕組みを作りたい。あるいは,優秀な教員を優遇する仕組みが必要だ。このようなことを議論してきました。
 東大はこれだけのいろいろな人事制度改革をずっとここ数年やってきたわけです。
 その中の一つが,クロス・アポイントメント制度で,今にいろいろな観点で注目されています。ただし,我々はこの運用を非常に注意深くやろうと思っています。東大の教授の身分を他の機関の身分と併せ持つということですが,東大教授を水増しするような仕組みとして運用されないように,東大の承継ポストの範囲内でしか運用できないルールになっています。
 先ほど最初にご紹介のありました学術会議の課題別委員会,ちょうど提言が22期ぎりぎり,今月末までなので,何とかきょうぐらいに会長が判断して通してくれるのではないかという状況になっていますが,その提言を出したところです。特にポスドク研究者をどのようにするかについて提言を出そうということで,特に言いたかったことは,ポスドクを雇うプリンシパル・インベスティゲータですね。要するに競争的資金を取って,雇う側にも育成責任を負わせるような仕組み,あるいはそのパフォーマンスを可視化するようなことをやっていくべきだと据えています。ほかにもいろいろ言っていますが,目新しいところは,そのようなことになっています。
 そうはいっても,絶対雇用を安定化する新しい仕組みがないと,各大学の自助努力の改革では,東大のような大規模なところでも限界があるので,これは法人化のときの思想と逆行するかもしれませんが,2期やってきた実感としては,短冊に切ってそこで頑張れという話でできることとできないことがあると思います。特に学術は機関を超えてつながって行われているので,そこのアライアンスは実は非常に強いものがある。ですからそれを活用する人事制度改革を併せてやらなければならない。人材は雇用の安定性がないと優秀な人は集まりませんし,しかし流動性がないと活性化されない。流動性と雇用の安定性は必ずしも相反するものではなくて,それらを両立させることができるので,それを日本の制度の中に実装していただきたいと思います。
 これがまとめですけれども,大学院改革,無から有を作る層を強化する仕組みが必要だと。それから流動性と安定性を両立させる人事制度改革を機関の中でも作る必要があるし,日本は小さな国なので,オールジャパンで考えなければとても戦えないと思っているわけです。
 済みません,長くなりましたけれども,以上です。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。
 濵口先生が到着されましたので,当初の予定どおり,引き続き講演していただいて,その後まとめて討論したいと思います。
 では,濵口先生,よろしくお願いします。

【濵口総長】
 済みません,きょうは新幹線が結果として30分遅れまして,大変御迷惑をお掛けしました。それからきのうまでイギリスに行っておりまして,準備不足ですが,御容赦いただければと思います。
 昨日イギリスから帰ってきたのですが,実は名古屋大学はエジンバラ,それからケンブリッジのセント・ジョーンズ校と学生の交流協定を結んでまいりまして,あとSOASというロンドン大学の東アジアアフリカ研究所とも提携を進んでまいりました。
 いろいろ大学評価の順位の問題では言いたいことがいっぱいあります。けれども,イギリスを見てこないといけない問題がありまして,エジンバラの場合,我々これはいかんなと思ったのは,彼らの外国人学生比率のターゲットは50%というのですね。名古屋大学は今20%を目指して15%まで来ておるのですけれども,全然我々は遅れているなと。
 それからケンブリッジのセント・ジョーンズは,500年ぐらいの歴史を持っておるのですけれども,一番しっかりしているのは学生のメンター制度で,2人の学生に1人の教員が付いて,全寮制で教育をやっている。それがもう500年続いているということであります。一方でかなり危機感を持っていて,日本の大学としては名古屋大学と500年の歴史で初めて提携をやると,学生を送りたいと言っていただいて大変ありがたいと思っています。
 それからSOASは,アフリカ,それから東アジアにかなりしっかりした展開をしておるのですけれども,我々もアジアを中心としたアジアキャンパスを造って,10月から学生を受け入れる作業に入っております。彼らとちょうど補完的な活動ができるであろうと。我々の大学院の方が彼らのコースより先を行っている実感もありまして,やれることをやっていくことが非常に重要だということと,日本の大学院教育が客観的に見ていると,ガラパゴス化しかねないリスクを非常に深めていると思いますので,少しきょう,お時間を頂きたいと思います。
 済みません,大まかなお話だけざっとさせていただきたい。今,日本の現状で何が進行しているか。大まかな点で私が言いたいことは,1つは少子化の問題がありますね。改めて言うまでもありませんが,特に高度専門人材の枯渇が予測されるであろうということであります。その一方で,これは喜連川先生のデータですけれども,この20年余り情報爆発とも言えるような状況が起きてきております。結局大学教育のシステムはこれから相当変わってくるであろうし,大学という組織の相対的な位置も大きく変わります。あるいはリーダーの求められる像というのも,今変わってきていると実感がしています。
 それを裏付けるのが,この去年2013年にオックスフォードが出しているデータがございます。この表は何だろうと思われますが,左が20年後にも恐らく存在する仕事。右は20年後にかなりなくなる仕事。このリストは日本語化していますけれども,完全に今後20年で消えてくるであろうという仕事であります。今後20年間でアメリカにある700余りの職業の50%が消失するであろう,という予測が立っています。すごく今,社会が流動化している,ICTとロボット化によって,第2の産業革命的なうねりが今起きていると実感しています。
 その中で,大学あるいは大学院教育に求められる姿勢は,定位置を確保して,そのまま恒常的なシステムで動いていくだけでは対応し切れないものがある。この職業の変遷に伴って,どのような教育をやるか,あるいはそれに適応できる人材をどのように育成するか,高度専門人材として育成するかという課題が今,求められ始めています。
 では,その知識基盤社会というキーワード,日本では正しいかというと,全然正しくない状況がもう一つある。これはもうガラパゴス化の典型でありますけれども。上のグラフはアメリカのデータですが,高校卒から大学院卒までずっと比較してみると,まず就職率は学歴が上がるほど良くなる。明らかに良くなります。それから収入もずっと良くなります。大学院卒が一番いい職業になっているわけですね。
 ところが日本は,正確なデータは取れなかったのですけれども,こちらのグラフが大卒,こちらが院卒で,横軸が金額であります。大卒より院卒の方が少し右にシフトしているようでありますが,その差は本当に微妙であります。ここに大きな院卒のピークがありますが,これは実は医学部出身者,医学博士ですので,ここはネグレクトしていいと思います。ですから実際は,本当に収入の差というのは微妙であると思います。
 それからあえて申し上げますと,国家公務員は院卒になると局長になれないといううわさを聞いております。どのようにされるのかなと。ずっと私も注視しておるのですが。
 これは終身雇用,年功序列の典型のパターンの一つだと思うのですね。そこから我々は抜け切れていないですね。今,新卒一斉採用は崩れ始めていますし,終身雇用も崩れ始めていますが,まだアメリカ型のような本当に能力に応じた給与が払われている状況にはないと。イギリスで講演しても,そこが一番厳しく質問を受けるところでもありました。
 その知識基盤社会を支える博士人材,ポスドクの現状はどのようになっているかということであります。五神先生もおっしゃっておられますので,余りディテール入りませんけれども,将来不安であるので余り行かないですし,経済的支援の拡充,あるいは民間企業による博士課程修了者の雇用増加が期待されておるのですが,余りうまくいっていないように思います。
 具体的には,出口を見てみるとよく分かるのですけれども,博士課程,日本全体で1万5,000人ぐらいの終了者のうち,29%,3割ぐらいがポスドクになってきますが,この流れが余りよく分からない。どのようになってくるのか。1割5分ぐらいはパーマネントのポジションに就くのですけれども,ここも大分細っていると。今,実は大学院の学生数でいくと,保健系が一番多いのですが,その理由は結局定常的な職業に就けるから,安定してみんな大学院に入ってドクターを取るわけですね。
 逆の関係がこちらにあるわけです。一度定常的なポストが取れないと,後,かなり厳しい状態にあります。これは五神先生のデータをお借りしてきているのですけれども,改めて言うまでもなく任期付きのものが増えているということ。
 それからいろいろな調査,いろいろなデータがあるのですけれども,企業側が博士課程修了者をどれぐらい雇用したいか。毎年雇用しているというのと,ほぼ毎年雇用したいというのが10%ぐらいあるのですね。このデータを見ると,まあまあある程度採っているという幻想を与えられるんですけれども,決して現実はそう甘くないのではないか。それは独自に,上場企業6,000社が就職四季報に基づく院卒の雇用者を一々一つずつ拾って,うちの大学で調べてみたのですけれども,6,000社で精々600名なのです。この6,000社の1割というと600社ですよね。ということは,1社1人雇用してこのような状態なのですけれども,私の周辺の会社で,例えばデンソーは50人とか雇用する非常にドクターに人気のある企業ですけれども,そのような企業が幾つかあります。と,これは物すごいディスクレパンシーがあるデータになっています。もう少し実態をよく見ないといけないのではないか。
 それから2011年,かなりボトムにいきましたが,最近少し回復してきているのと,それから業種によって雇用が大分違う。ずっと実感しておりますが,科学系は博士人材を非常に高く評価して,恒常的に採用していただきますが,問題はサービス業であります。最も今増えている職種に,博士人材が切り込めていない。なぜかといったら,サービス業に要求される俯瞰的な視点や,マネジメントの能力というのを,博士号を修得した人がきちんと修得しているという指標が余り見えないからであろうと。多分企業側はそう思っているのであろう,と思うのですね。
 一方ではポスドクの滞留と高齢化問題がかなり深刻であります。任地変更でずっと調べてみても,ポスドクは高齢化しております。例えば40歳以上が13%今ありますし,35から39が20%ありますから,35歳以上のポスドクというのは今3割いるわけですね。21年のデータでありますが,全体で1万5,222名,これが現在1万7,000人ぐらい,隠れポスドクを入れると2万人ぐらいいると思われますけれども,実にその3分の1が35歳以上。これがどんどん高齢化しております。
 もう一つのポイントは,ポスドク1人,博士を1人育てるのに,博士号を取得するまで大体税金が1億円掛かるという試算があります。つまり2万人で2兆円の実質的な損失が実はあるのではないか。これをきちんと生かすか生かさないかが,日本の国力を強化できるかどうかの大きな分かれ目になってくるのではないかと。それからもう一つは,ポスドクの半分が国立大学法人にいると。ここもひとつ大きな課題であると思います。
 修士課程の学生が博士課程になぜ行かないか,これは五神先生がおっしゃられておりましたので,余り申し上げません。もう一つの高齢化の問題は更に詳細に見ると,実は女性に顕著であります。女性の方がどんどん高齢化率が高くなっております。ここのフラクションでありますが,今,女性の場合は4割が35歳以上になっています。2013年は,2009年のデータよりも,こちら進行しておると思います。
 もう一つは,きょうはデータをお示ししませんが,国立大学協会でいろいろ調査をしてみると,今,国立大学の助手以上のポストに就いている女性というのは,17%ぐらいになってきていると思いますが,ほとんどは低位の職であります。助教まで行かないのですね。助手のままであります。任期制のものが多い。そこにたくさんの優秀な女性の人材が停留している,ということが見えると思います。
 それからもう一つ,女性問題で分かることは,これも独自調査なので余りソリッドなデータではありませんけれども,外務省の海外在留人数の調査統計というのを平成24年,25年を見まして,ずっと上がってみますと,海外在留邦人120万人のうち留学研究者が26万人大体いることが分かってきます。北米に15万,西欧に6万弱,太平洋州に4万弱ですが,何とこの6割が女性なのです。国内で低い大学だと5%も女性教員を採用していない状況の中で,6割海外に女性研究者がいる。つまり,はっきり申し上げると,多くの優秀な女性が国内の雇用状況に失望して,海外に自分のチャンスを求めている。また,帰ってこようと思っても,ジョブオファーがないから帰ってこれないような現実があるのではないかと。これも我々は優秀な才能を生かしきれていない。せっかく1億円も投資した人が,このような状態でいるという現実を見なければいけないと思うのですね。
 あと,もう一つのポスドクの問題は,ミスマッチが明らかにあります。それは何かというと,大学のポスドクの分野を見ますと,大学院の学生では保健が一番多いのですが,ポスドクになると35%が理学,農学が10%弱になります。2つ合わせると45%,半分近くになってくるわけですね。これに保健を入れると,55%ですね。6割近くが,モレキュラバイオロジー系の分野にいるのです。企業を見ますと,企業の研究者の分布は,7割が工学部なのです。理学系というのは,2割なのですね。ですから,ここに大きなミスマッチがあって,企業が必要としている高度専門人材に十分大学が対応し切れていない。あるいはここで養成してきた,すごい才能のあるモレキュラバイオロジーの分野の人たちが,社会実装するような形の研究展開ができていない。受け皿になるような新しい分野を日本が開発できていない。
 それは例えば創薬を見ると明らかです。きょう,データをお示ししませんが,1980年代新規の創薬を創出している国を調べてみますと,たしか日本が28%になっておりました。アメリカが32%だったと記憶があります。つまり,1980年代,ほぼアメリカと日本は互角だったのですね。これは2010になりますと,新薬の5割がアメリカになっています。日本は8%に落ちています。
 つまり,ここですごく養成してきた人たちが,そのような薬を造るという活動には十分つながれていない。日本は相変わらず工学系の素材産業の研究が多かったのではないかと思う。その失われた20年の展開の中で起きている現象が,ここにも反映しているであろうと言えます。創薬の場合ですと,80年代末から90年代にかけて分子標的治療というのが始まって,抗体医薬品やたんぱく,あるいは短いヌクレオチドを使ったいろいろな創薬が始まっているわけですけれども,そこに日本が全然切り込めていないのですね。それがこの停留を生み出しているようにも,見えるわけであります。
 そのようなのを含めて,実は私どもの第7期人材委員会では今,中間まとめを作った段階であります。まだこれ,年末にかけてもう少しブラッシュアップを図っていくことになると思いますけれども,私が国を取り巻く環境の変化,特にオープンイノベーション,知識基盤社会,ここら辺りが大きなキーワードになっていると思います。
 それからフォーカスを当てられるものとして,女性,外国人をどのようにするかという問題がありますけれども,まだまだこれはしっかり議論をする必要があると実感しております。詳細は見ていただければと思います。
 粗々でまとめますと,今,どのような問題があって,どのように解決していくべきかを,大まかな道筋として私が感じていることは,1つはICT化による知識基盤の社会の到来があると言われて,世界のトレンドはそれになっている。これと裏腹との関係で,グローバル化が起きているわけですけれども,現実に職業の変化,恒常的革新を迫られる学問体系の価値観,その座標軸の変化に我々は対応し切れていない。
 一方,個別的な変化として少子化があるし,研究ポストの減少,それから日本社会全体が高度成長期のモデルからまだ転換ができ切れていない。まだ,我々はジャパン・ワズ・ナンバーワンの意識を引きずったままで,愚かなことをやっている部分が物すごくあると思います。その1つが,新卒一斉採用,企業内育成,生涯雇用というこのモデルがもう通じないのに,まだその価値観に基づいた社会構造になっていることと,多様性,分野横断型のリーダーの育成が不全になっている。これをつなげていない。大学院というものが社会的価値を持たないように見える一番の原因はここにある。
 それから,イノベーション人材,アントレプレナーの需要があるのに,これを育成するような教育システム,大学の人間にとってはアントレプレナーなどは一番遠い存在なので,大学教授にこれをやれというのは無理なのです。それをでは,どのような構造体でやるかというときに,我々は知恵を出し切れていない。その結果として,博士人材の評価の低さ,給与の低さがあるし,その一方で旧態依然として博士人材育成モデルがあると思うのです。研究者予備軍を育成することだけに頭がいっている。大学院を重点化して,社会実装しなければいけない時代になっているのに,研究者だけを養成しているような発想になっていると。
 それから最後の点が,大学と企業のミスマッチでありますね。バイオと工学。これは日本の今後の科学技術とどういう展開,グランドデザインを持ってやっていくかという大きな問題にもなってきます。バイオの人材をこれだけ育成してきたとしたら,そこを展開させるサポートが必要でありますし,いや,工学系でもっと日本はオリジナリティを発揮して展開していくのだとなるならば,バイオのあの人材をどのようにするのか。
 あるいは,全体から見えることは分野横断型リーダーの育成が,かなり大きな課題になっていますから,この分野を超えた人材を社会へ送り出すシステムを,大学院のところでどのように工夫するのか。出口の工夫というのが,かなり今,必要な時期に入っていると思いますけれども,相変わらず出口の見えないポスドクキャリアパスのままの現状で,どんどん高齢化が経時的に起きているという状況があると思います。
 課題,対応策として,余り私も知恵がないのですけれども,1つは大学院の質の保証,これは必要であります。あえて申し上げれば,日本の今,博士号は大変危機的な状況にある。博士号の質を疑われている状況が海外からはあります。それをどのようにして,我々は超えていくのか。これも大変な問題を含んでいると思います。恐らく論文が,特にバイオ系は通らなくなってくるであろうと思いますね。これももう少し考えなければいけないと思います。
 それから,俯瞰的な視点や強い意志,科学的判断力,専門性の高い人材,これを今までのシステムともう少し違う要素を入れながら育成していかないと,社会的な需要とミスマッチが起きてくるであろうと。
 もう一つは博士号人材に,私は2種類のキャリアパスが必要な時期に入ってきていると思います。ここのデザインが曖昧であるために,両方が混同されているのではないか。1つは傑出した人材の研究者としてのキャリアパスを作るというのと,もう一つは企業人として,しっかり社会活動ができる人材。これを2つ分けるような形での養成が必要なのであろうなと。
 あと,企業人としてキャリアパスを作っていく場合に,今後改革が必要なのは,研究インターンシップをもっと強化していかないと,つながらないと思います。
 それからもう一つ大きな状況は,将来を見ると,国境を超えていくようなことは考えていかなければいけないです。これをやらないと,ガラパゴス化してきますし,イノベーション人材にとっても,日本独自の視点だけで動いていくような状態になっていくと思う。
 ざっとだけ申し上げたいのですけれども,リーディング大学院は非常に意味があると思います。是非これを展開していただきたい。それが切なるお願いでありますが,俯瞰的視点,強い意志と科学的判断力,専門性の高い人材を作るという意味で,大学院改革に大きな意味があります。それはどのようなところにあるかというと,繰り返しますが,大学院の育成の視点は明治以来,今まではプロフェッサーを養成することにあったということが大学の基本的なスタンスだったと思う。社会から要請されている,企業トップリーダーからの指摘は,高度な専門性を持った,俯瞰的視野を持った人材。ここは物すごく需要が高い。ICTの発達によって,更にここの需要は増えてくるであろう。特定の専門性だけに固着している人材は,今後の社会展開に適応できないであろう。ここをどのように教育システムを開発していくかが,今,大きな課題だと。
 我々,リーディングではこれが大事だと思っていまして,今,6本走っておりますが,特にこの「PhDプロフェッショナル登竜門」と,それから今年から始まります「ウェルビーイングinアジア 女性リーダー」,これを少しお示ししたいです。このPhDプロフェッショナルは,我々従来の高度な専門性をコアとして,本籍部局で育成しながら,更にその能力を活用するリーダーシップ能力,異分野理解力やディベート力,コミュニケーション能力,国際性,自立性,これらを養成するための2つの2層性のカリキュラムを持っています。俯瞰力と独創力を付けようというので,海外からも,国内のトップリーダー内山田さんはじめ参加していただいて,今教育を始めております。
 例えばノースカロライナ・アンビションキャンプというのは,これは2年前から始めていますが,英語漬けで4週間ぐらいの徹底した集中講義をやりながら,アントロプレナーシップを勉強したり,アジアへ送ったりということをやっております。
 もう一つの「ウェルビーイングinアジア」の方は,これはジェンダー問題というのは国境を超えて,多文化社会,アジアの中で考えていく問題であるとともに,専門性を超えたものがあるというので,我々は今,保健学科,医学科,それから農学,教育学部,それから国際開発学科研究科の横断型で,女性を中心に集めながら育成をし始めているところであります。いろいろなリーダーに来ていただきながら,かなり深い議論をしておりまして,合宿をやらせると大体大学院の女の子はみんな1回は泣いて,いろいろ自分の不安を語るというようなことがあって,気合が入る状態になってくると思います。
 今,もう一つ研究人材を育成するときも,社会へ送る人材と同じで,問題点としては,大学院修了からPIになるところまでの日本の教育システムがへたってきているのではないかと感じております。これは宣伝になりますけれども,研究者になったからすぐPIになれるというのは甘い考えで,PIになるためにはいろいろな教育トレーニングが必要なのですが,昔は大講座の中の教授,助教授,講師,助手というヒエラルヒーの中で,ある部分これが経験的にトレーニングされていたのです。けれども,今はポスドクからいきなりPIになりますので,ある女性のようにいろいろなトレーニングが欠失したままで,データの改ざんが起きています。これはもう日本のあらゆる分野で,今後起きるのではないかと不安を持っております。PIをどのように育成するかというところを,大学院から終わった後からどのようにトレーニングするか,名古屋大学も今実践的に開発しようと,いろいろやっております。
 例えば,これはひとつ大きな試みでずっとやってきて,今まで60人ぐらい育っているのですけれども,大学独自のポストを作って,2段階審査で最後はリベートでしっかり選んで,それで分野を問わずに研究交流をさせるということと,海外留学を義務化する。それから,先ほどのリーディング大学院の,実はこの人たちは若手メンターをやっておりまして,1対1で分野の違う,若い自分の世代に近い人に教育を施す。その中でトレーニングしていくことを始めています。それと,世界トップレベルの若手の研究拠点をずっと今,形成し始めています。今年はまた女性のグループを作っております。
 最後,時間がなくなりましたけれども,国際化というのを考えていかないといけないけれども,我々の大学院システムがきちんとガラパゴス化しないで,国際的にも指標をクリアしておくかどうかを,今後きちんとやっていかないといけないのではないかと。
 最初,始めておりますのが,私ども「フライブルク―名古屋―アデレード」の医学系研究科の合同学位協定をこの春3月に結びまして,今動かし始めています。ポイントは,合同教育カリキュラムを編成して,学生を各2名程度ずつお互い1年以上派遣することと,教員を二,三か月ずつ派遣して,合同審査の委員会を作って学位を審査して,サーティフィケートを出していくと。入学審査と共同カリキュラム,これは結構大変なのですけれども,日本で16単位,海外で10単位名古屋大学の場合はきちっと修めて,その上で研究をやることと,幅広くいろいろな分野の専門的な勉強コースを作ってあります。学位審査は国際審議ピアレビューのようなところで,論文を発表することがエッセンシャルでありますし,合同学位審査委員会で厳しく審査します。それから両大学で合同学位をやる。
 これは文系でも,今SOASと我々やろうかというので,この前議論してきたばかりであります。
 それから,もう一つは今年から始めます「アジア諸国の国家中枢人材養成プログラム」というのを,これを今スタートさせたばかりであります。名古屋大学アジアキャンパス学院というのを作りまして,法学の分野,医療行政の分野,生命農学の分野,国際開発の分野,この4研究科で実際の学生の受け入れをやりますが,普通の学生は受け入れません。JICA等で2年マスターコース,名古屋大学に来て,修士を取りながら,2年しかサポートがありませんので国に帰って,結構優秀なポジションになっている人が今800名ほどおります。副大臣,局長クラスがずらっとこの4分野は,20年たったらそろってきております。そのような人たちを順次この大学院に入れて,我々ハイブリッド型という言い方をしておりますが,ドクターコースで,サマースクール的なプログラムで一,二か月インテンシブに名大キャンパスで指導をやって,単位を取っていただく。それから現地に今キャンパスを開設しておりますが,そこに教員を配置して,日常的なサポートをやるのと,名古屋大学の教授を定期的に現地に派遣して指導をする。それからインターネットで,日常的なコミュニケーションをやると。その3種類の指導をやって,3年間で英語論文を完成して,ピアレビューの雑誌に出したら,ドクターを出しますということを今やっております。
 今,7か国に順次リアルなキャンパスを作り始めておりますが,現地の場所や,建物の取得,それから教員の給与を払った場合の税金の払い方,現地法人の資格の取り方など,いろいろ海外キャンパスを展開する場合のイロハのイのところを,ここで今,実はやっております。それでもって,我々のシステムが法的にもきちっと整合性のある形で海外にキャンパスが展開できるかどうかを,今,これから数年かけてチェックをしていくということと,これはもう名古屋大学のショーケースになりますので,アジアでもトップレベルの人材をこの分野で集めます。ここを中心として,来るべき更に若年人口が減ってくる時代に,アジアの各国から優秀な人材を恒常的に集めるための戦略的な拠点にしようと考えております。
 もう一つは,高度専門人材をどのように育成するかがあります。内視鏡センターを実は今,ベトナムに展開しております。フエに,1年前に開設しましたが,若手の医師を月給2万5,000円でフエ大学の先生にして,月症例1,000人の治療を今やっておって,ベトナムでも胃がんの最初の治療をずっと始めています。非常に評価が高くて,この間7月にハノイのバクマイ病院にトレーニングセンターをまた一つ開きました。それからホーチミンに今後展開する予定です。日本の誇る技術をいかにしてアジア展開するか,その中で高度専門人材をいかに育成していくかというモデルとして,今考えています。
 あと,就職支援が大事だと思います。名大はB-jinというのをやっておりますけれども,大体14か月で,年間1,500人ぐらいずつサポートをやっていますが,半分が名古屋大学以外の方です。オープンにやっております。このような活動をやってきた結果,例えば理学部では就職率が昔5割だったのですが,今は7割前後までようやくアップしてきたという。年によっては8割近くまで就職支援ができるとこまでいっています。
 ですからまだ,つなぎのところのギャップが激しいので,指導にすごく時間が掛かる。異業種にどうしても送り込まなければいけないです。例えば宇宙をやっている人は,研究職以外は就職先がないので,どのようにするかということがあります。バイオもバイオ以外のことを考えないといけない。それから,専門的な数学というのは,このようなことをサポートしなかったら,高校の先生になるしかないわけですね。ですから,この機能というのは,本当に必要な時代に入ってきているのであろうと。先ほど申し上げました研究者育成と,企業人材とを分けて育てるための構造を作る必要があると思います。
 もう一つ,On the Job Trainingをやるという意味で,COIは非常に効果があると思います。バックキャスト,アンダールーフ,支援など,このようなことを言ってきておりますけれども,私もずっと参加して議論してきて,ビジョンを固めながら今,日本全国で12か所スタートしたところであります。
 名古屋大学の場合,今,車に焦点を置いてやっております。もうかなり動いてきていますが,ここは新しい社会支持層ができる製品を作る場であるとともに,企業と大学人,アカデミアと毎日顔を合わせる,アンダーワンルーフで人づくりをする場であるし,そのような場でもあります。東芝,トヨタ,パナソニック,富士通に入っていただいています。もう我々の作業は国境を超えておりまして,タイのチュラロンコン大学にもオフィスを作ってありますが,そこを中心として社会実装するための車の実験は,もうタイでやり始めております。
 ということで,大変恐縮ですけれども,発表を終わらせていただきたいと思います。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは引き続き,今のお二方の説明について,議論を進めていきたいと思います。まず,今のお二方のお声に関して,質問等がございましたら,どなたからでもどうぞ。

【永里委員】
 お二人に質問があるのですが,1つは五神先生に知を探求する人材ではなくて,知を応用研究する人材の育成を考えていらっしゃるということをおっしゃっています。産業界とのコラボレーションは重要だと思うのですが,先生は自分の研究の中に産業界の人を入れよう,という御説明もあったような気がしますけれども,例えば産総研や理研も含めて,その辺りのことについて先生のコラボの考えはどうかという質問です。
 もう一つ,濵口先生にですが,私は化学企業に属しているので実は理解があるのですけれども,ドクターのところで,バイオの方が大学の方で多くて,企業の方は工学系の方が多い。大学生は何で就職が不利である,不利というか,なのにバイオの方をやるのでしょうかという質問です。では,お願いします。

【五神教授】
 産業界とのコラボレーションの話ですけれども,私は実は4年前の2010年に工学部から理学部に戻ったのですね。21年半工学部にいて,マンツーマンで100人以上の学生を育て,そのうち8割は今インダストリーにいる。かなり優秀な学生が多くて,博士を取らずにマスターで企業に行っている人が多い。彼らは非常に基礎的な学力があり,あるいは研究能力を備えています。例えば修士で一流誌に論文を投稿するような学生たちが,産業界の中でどのように活躍をするか。非常にオリジナリティの高い,産業界にとってもプラスになる活動ができる場合もあるし,そうでない場合もある。彼らは産業マインドがあって企業に就職している一方で、基礎的な研究にも非常に興味がある人材です。そのような人たちは,東大などにはたくさんいるのですけれども,現在の大学と産業界は、その人たちを存分に活用できるような仕組みにはなっていない。そのためには,産業と大学とのコラボレーションを,もっと現場レベルでやる必要がある。
 というようなことを考えていく中で,4年前に理学部に戻って見てみると,物すごく突破力がある,集中力のある学生がいる。しかし,それが真理の探究という切り口だけでマインドセットされているのです。産業界の人と真剣に技術の議論をすると,例えば私の分野ですと,光を当てるとガラスと金属がつながるという現象がある。それは使いたいのだけれども,どのようにつながっているかは,従来の工学的アプローチでは、どのぐらいの強さでつながっているかという試験をするところで止まっていて,ミクロレベルでの理解がない。そこを分からせてくれれば,このような分野にも使えるのに,という課題が,産業界にいっぱいある。それをどうやって学問で考えましょうかということを学生に課題として提示すると,優秀な学生がわっと寄ってくることを実感したのです。
 ですから,そこには明らかに知の探究と活用というのは,実は二律背反ではなくて,ともに融合させることによって,日本の潜在的な人材力を活かせる分野,日本の強い学術的な力を価値創造に使える分野がたくさんあるということを確信したわけです。それで,濵口先生にもお世話いただいているCOI STREAM事業に手を挙げました。21年半工学にいたのに,なぜわざわざ理学に移ってからやるのですかといろいろな方々から聞かれましたけれども,だからこそやるということを申し上げました。今は産業界の方々からの強い期待を実感しています。
 毎月このCOI拠点ミーティングをやっていますけれども,企業のトップ層のメンバーが必ず出席していますし,台湾やフラウンホーファーなどに,ベンチマーキングのための視察にも一緒に行っています。 では,理研や産総研はどうか。産総研は例えば社会実装するための橋渡し研究所としての機能を強化しないといけないという議論が,例えば経産省の審議会等でも議論されている。しかしながら,社会実装するための橋渡しをするためには,人の流動性が必要なのですね。産総研の人が,ベンチャー企業を立ち上げるために職を辞するか,というところが問題なのです。産総研も元公務員ですから,安定雇用を目指してそこに就職している人も多いという事情がある。
 人材の流動性を実装しやすいという意味では,大学と企業の連携が重要な役割の一つとして位置付けられます。しかし,社会実装するための現場に即した研究開発を本気でやろうとすると,理研や産総研とのコラボレーションは必須なので,そのような活用をする。いずれの場合も、主導するブレーンを,司令塔をどこに置くかというと,大学側ではないかというイメージを,私は持っています。

【永里委員】
 ありがとうございました。

【濵口総長】
 バイオの方がどうして多いのかという問題ですけれども,1つは人間とは何か,生物とは何かという問い掛け自体が,学生に分かりやすくて,非常に興味を引くところはあるのです。けれども,それは極めてエモーショナルな問題で,実は私は日本の高等教育の歴史的な設計と,その流れの中で起きている問題がひとつあると思うのです。
 典型が女子大だと思うのですね。女子大は家政学部が中心で,元々は良妻賢母を作る高等教育として動いてきて,それが近代化の中で今何をやっているかというと,理学部に移ったりしているわけですよね。決して工学部に行かないのですよ。ここにすごく構造的な問題があって,女性のポスドクが増えて高齢化している原因の一つは,設計が悪い。女子大に工学部を作るべきだと思うのです。そうしたらもっと就職はすっと続いてきます。
 工学の方がなぜポスドクが少ないかといったら,簡単に言えば就職がいいからであります。先ほどトリッキーな状態で,しっかり説明していなかったのですが,ポスドクは理学が多いといって,企業は工学が多いと申し上げましたが,トータルの数を見ますと,ポスドクは1万7,000とかそのようなものですよね。企業の研究者は53万人おるのですよ。ですから,工学系だけで38万人ぐらいいますので,少し設計を変えれば吸収が可能なのですね。その分野を超えて,うまくつなげれるかどうかという設計ができれば。それは大学側がそのような教育システムを開発しないといけないと思うのです。そこをある程度やっていくことによって,工学の今の企業の研究スタイルももう少し変わってくるのではないかと。アメリカや中国に負けない体質を作るための新しい視点を入れる,ということができるようになってくるのではないかと。飽くまでもそこのつなぎの問題と,歴史的な経緯の問題が,今の現状を生み出しているのではないかと,そのように感じております。

【永里委員】
 ありがとうございました。
 今のお話ですと,大学の方の工学が少し変えていくというお話ですから,そのためには御自分自身が分かっていないのを変えていこうとしても,産業界の方からもそのようなことに関して,お手伝いする等,何か必要ですよね。

【濵口総長】
 そうですね。ですからリーディング大学院は,本当にたくさんの産業界の現場の方にも参加していただくということ。COIは実際に教授として,大学に入っていただくことですね。どこにすれ違いがあるかというのが,リアルに今,ようやく認識できる時代へ入ってきて,どのようにこれを変えていくかというのが,ここから数年の大きな作業になってくると思うのです。それをリーディングを例えばやめてしまうことで,終わらせてしまうと,相変わらず旧態依然としたこの大学院の形が残ってしまって,オーバードクターがどんどん増える状態になってくるのではないかと思います。

【永里委員】
 ありがとうございました。

【有信部会長】
 五神先生は今の,何か御意見ございますか。

【五神教授】
 私はリーディング大学院もCOIもやっていて,企業の方とかなりディスカッションをしていますが,企業も産業構造をどのように変えていったらいいか模索しているのですね。そこで博士人材を一緒に育てる。あるいはそういったイノベーティブな研究を一緒にやることで,変わる方向性をきちんと作っていこうという企業の方々の期待を感じています。そのような源流を作るための作業だからこそ,かなりお忙しい企業のトップ層の人たちが真剣に時間を割いて参加してくれている。
 ですから,どのようにチェンジしていくかですね。私が卒業生で出した学生のほとんどが,企業の中で今30代,40代で働いている。彼らを見ていると、もっとプロダクティブに活動できるはずだという人は,たくさんいるのですよ。そのような場を作っていくために,我々も一緒にやろうという視点で,この2つのプログラムは機能し始めていると思っています。まだ成果は十分には出ていないと思いますけれども。

【有信部会長】
 今の永里委員の質問に関していうと,1つは第1期,第2期,第3期と科学技術基本計画の中,で大ざっぱに言って国の研究開発予算の4割が,ライフサイエンス系に投入され続けてきたという実情があります。これは濵口先生も御指摘がありましたけれども,国の研究費を投入しながら,出口側の手当てがほとんどなされていないですね。したがって,今のポスドクのかなりの部分がライフサイエンス系で停留したまま,高齢化していると。このような実情があるということを,産業界サイドはかなり第1期,第2期の頃に,余りにも科学技術予算が偏り過ぎているという主張をしたのですけれども,結局そのまま来てしまっていて,出口側が準備されていないということも一部あると思うのですね。それは多分,そのようなことであろうと思います。
 それから,濵口先生にお伺いしたいのですけれども, 2期ぐらい前の人材委員会だか,当初かなり人材の流動化は極めて重要であるということで,これを促進すべきだという提言があったように思います。その辺りについての議論はどうかということと関係して,濵口先生がおっしゃっていたドクターコースで学生を育成するときに,2本立てが必要だという話になると,研究者養成と産業界向けというふうに分けてやってしまうと,逆に大学にしか使い物にならないという,そのような人が育ってしまわないかという心配があるのですね。俯瞰的な能力というのは,研究をやる上でも極めて重要だと思いますし,本当に優れた人はどこに行っても優れていると思いたいのですけれどもね。実際はそうではないのかという,その辺りで育成の仕方について多少議論があるような気がするのです。この辺りについて,少しお伺いしたいと思う。

【濵口総長】
 人材育成のモデルで,2つラインを作るか,作るべきでないかというところ,すごく悩ましい問題があると思うのです。バックグラウンドとして今起きていることの一つは,情報量が膨大になってきていると思うのです。例えば医学の分野が私は専門ですので,戦後間もなくからずっと6年間で教育しているのですけれども,戦後間もなくの医学の情報量を1とすると,2000年ぐらいのところである人に言わせると500あると。その1対500を同じ6年間でやれ,と言われているわけですよね。もう至るところ,カバーし切れないものがぼろぼろありながら,とにかくゴールへ到達させているのが,今の教育。これは世界中変わらないと思うのです。
 そこで何が必要かというと,共通して分かることは未体験,あるいは全く今まで勉強していないことに対して,どのような対応を取れるかという個人の能力ですね。分析力と行動力,あるいはリーダーシップと,そのようなポジティブな能力が従来よりよほどないと,このほとんどが未体験,未履修の分野の中を泳いでいくような状況に,今あるような気がするのです。
 そのような意味では,2つのライン,どちらも同じで養成すべき人材というのは,従来型の知識をしっかり覚え込んだ人というだけでは駄目で,高度に自発力がある,分析力のある,自分の行動と判断に自己責任をしっかり持てる,そのような人材を育成しなければいけないというのが,共通なのです。その養成すべき分野の情報をある程度絞り込まないと,完全に例えばマスター,ドクター5年の間でどこまで到達させるかというときに,どっち付かずになるような感じがするのですね。その研究者として養成していくのは,私が言いたいのはごく一部でいいと思うのです。ほとんどは社会へ出ていく人材ですので,そちらの設計を今もう少ししっかり入れないと,今までの研究者養成だけの大学院だと限界が出てきているという意味で,2つ要るという言い方をしたわけです。済みません。

【有信部会長】
 そのような意味ですか。
 どうぞ。

【真壁委員】
 本日濵口先生から,それから五神先生から非常に私としては重要で,頭の整理になる発言があったと思います。濵口先生から日本社会の座標軸の変化,これに対応できていないと。具体的に言いますと,ただいま申し上げましたが,情報知識体系化する大学の機能不全というのがあると。私もそのとおりだと思っていました。それから,五神先生から,日本は小さな国になっていると。それにどのように備えるかということの対応策が必要だと。私はいつもそう言っているのですけれども,そのとおりだと思います。
 それで考えてみますと,日本人,あるいはアジアの我々にとって,もしかしたらこうかなと思うことがあるのですけれども,研究とは何かということなのですね。日本人というのは「分かる」ということを言います。「分かる」ということは,理解したことですね。それは分析したこと,分かる,分けるということが,外国人と議論してみると非常に強い人種ですね。
 それで考えてみると,大学院の教育と研究にミスマッチングがあることは,私も大学の一教員として残念ながらそうだと思っています。日本の産業構造を別に置いておいたとして,では大学の研究と教育はどのようなのかと言いますと,仕組みとシステム改革というのを文科省で非常に積極的に今まで進められていることはよく分かりまして,私もリーディング大学院についてはかなり自分で考えましたので,存続してほしいと思っています。
 それでリーディング大学院の,私はオールラウンド型というのを非常に重要だと思って,主張してきたわけなのでありますが,大学院の研究と教育について私はこう思います。1つはアナリシスする研究。専門家を育てるということは,この非常にアナリシス力が問われると思います。
 一方で日本人に欠けていると私はずっと思っているのですけれども,シンセシスする,総合化するという力が弱いのではないかと。特に博士を出た方に弱い方が目立つのではないかと。社会で,実践でこういったところを身に着けている点も,日本で多かったのではないかと思っています。このシンセシスするということを言い換えると,自分の頭で統合化していく力を,博士の時代に身に着けることだと理解をしているわけです。
 そのような点からすると,大学院生,特に博士の学生の将来像については,機能分化して考えるのがよろしいのではないかと,持論として持っています。これは委員長と少し違う考えかもしれないですけれども,いかがでしょうか。
 以上です。

【有信部会長】
 いや,今のポイントは,五神先生のトライされているフォトンサイエンスにしても,基本的には理学と工学の融合ということで,工学というのは元々様々なディシプリンを統合して,物事を設計したり,新しい知識を作っていくという部分があるわけですね。それから濵口先生が言われていたICTというのは,極めて総合的な学問といいますか,ある意味では分析的とは全然違う方向の学問になってきていて,そこの部分はきちんと押さえていかなければいけないという意味で。

【真壁委員】
 そうですね。

【有信部会長】
 特に慶応でやっているあれは何でしたか,システムデザイン研究科。

【篠原委員】
 SMD。

【有信部会長】
 SMDでしたか。ああいうトライアルは,非常によく存じ上げていますし,非常に重要なトライアルだと思っています。
 そのような意味では,何か五神先生,言いたいことありますか。

【五神教授】
 私もこの大学院部会に専門委員として長く参加していたのですが,このタイミングで今何をやるべきかが極めて重要で,実効性のある議論を是非続けていただきたいと思っています。
 先ほどの40%ライフに投入したという事実があって,そこに人材がいる。でも,それは産業とつながっていないから駄目だった,やめましょうという話は,多分ないのだと思うのです。濵口先生のおっしゃりたかったことは,それを全部何とか救いましょうという話ではなくて,その中にある価値を活用するということが,過去の投資を有効にするために必要で,そのような視点が絶対必要である。だけれども,その反省を踏まえて,この間の学術会議の人材の提言でも,PIがポスドクを雇うときに,その人が4年後,5年後にどのようになるかまで考えて雇ってください、そこは研究者同士の信頼関係の中で責任を持ってほしい,という視点で書いたわけです。そのような意味での修正は必要です。
 しかし,それはストックだけれども,先に何があるか,先ほどのコンピュータライゼーションでどのような仕事が消えるかなどという議論の中で,日本の優位性をどのように生かしていって,どこで稼ぎ雇用を生み出していくべきか。そのための人材として,今あるキャパシティーの1万何千人の1学年の博士,あるいは1万7,000人いるポスドクの人たちをできるだけ効果的に活用するために,この5年は何をしなければいけないのか。過去5年と同じ程度にその在り方を模索していますと,アジアの中での地位はもっと急激に下落します。それは間違いないと思います。
 なぜ私がそのように確信しているかというと,アジアの地域から海外に留学を希望する学生のトップエリート,例えば韓国のトップテンに入っている学生が東大に来たいと思うかどうかという数を見ますと,残念ながら激減しているのです。それはアジアの地域,世界の中での日本の立ち位置が,若者から見たときにバリューが落ちているのですね。けれども,総じて言えば,ほかの国よりはまだずっと高いわけです。
 ですからそこのところの価値があるうちに,この5年どのようなことをやるかが極めて重要で,それには両輪が必要。人材の育成の仕方の,基礎・応用理学,工学は私自身が行ったり来たりもしているので,言いたいことは山ほどありますが,そこは時間が掛かるので,ここはやめておきます。

【有信部会長】
 はい,ありがとうございました。
 ほかに。はい,どうぞ。

【川嶋委員】
 お二人のプレゼンテーションをお聞きして,結局大学と産業界の接点の出口のところが一番問題で,このことについては随分前から学士教育だけ,大学院教育も含めて,社会と大学の接点の認識のずれなど,ミスマッチがあることを指摘され続けてきました。例えばきょうのお話ですと,大学側の従来型の大学院のコンセプトは研究者養成。他方,企業の側だと博士よりは修士を採用しがちである。あるいは待遇に反映されていないなど。かなり出口を巡って,それぞれの問題は明確なのです。五神先生はチェンジしなければいけない,そのチェンジする「てこ」というか,ソリューションが今見えないというのが,私もありませんけれども,非常に課題であろうと思う。
 1つのソリューションになるかどうか分かりませんけれども,私が考えるのは,特に国立大学に対して国が国費を投入し続けることを,これからもされるのであれば,国立大学の分野と学位レベルのポートフォリオを変えていかなければいけない。先ほど東大で重点化以降,急激に大学院生と教員の比,次数も増えているという。一方で,学士の方の定員は変わったかというと,変わらないまま継続している。先ほどマスターは減らす,純減するというお話でしたけれども,これから経済的な支援なども含めて,特に国立大学では,分野と学位レベルのポートフォリオを再検討する必要がある。先ほどバイオロジーと工学の分野でミスマッチがあるというお話がありましたけれども,その定員と分野についてもう少し大学が柔軟に変化,変えることができるような制度設計をこれからしていくことが,1つの変化のきっかけにはなると思いました。以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございました。
 ほかに。ああ,どうぞ。

【齋藤委員】
 お二人の先生方のプレゼンテーションは大変勉強になりました。ありがとうございました。
 名古屋大学の「ウェルビーイングinアジア実現のための」というプログラムを作っていらっしゃるというお話を伺っていて,日本が日本の中だけではなく,アジア,あるいはアフリカ,そちらの国々にどのような貢献をしながら世界的な地位を保っていくのかという視点を,もっと考えなければいけないと痛切に今,感じているところです。
 今,非常に大きな国立大学のお話を伺ったところなのですが,私立大学が今後の日本の大学の中で,どのような役割を取っていくのか。特に大学院教育に関して,私立大学が非常に規模の小さい中で,自分たちの学生から徴収する費用の中だけでほとんどやっていくというところで,非常に問題が大きいなと,思っています。今,リーディング大学院の中で,学生の奨学金というか,TARAの費用が賄えることによって,学生が安定した学習,研究活動ができていくというお話がございましたけれども,それがすべての大学院生になるような奨学金の制度等の考え方をどのようにするのかというのは,是非考えていただきたいと思っているところです。
 もう一点,大学院の博士課程の人材育成の中で,教育研究者とそれから実社会,大学が実社会ではないわけではないですが,企業等々で活躍する人材のその機能を見据えて,教育プログラムを作るのは,私も大事ではないかと思っています。それがないことによって,今,大学の教員の質の低下も問題になっているわけです。大学の教員の質を担保する意味でも,大学の博士課程の中で,研究のほかに,教育とはどのようなものかを考える視点を入れるものが1つ走り,それから研究を実践にどのように使っていくかというところを走らせるものがもう一つあると。そこを学生がどちらかを自分の将来像として選んでいく仕掛けが必要ではないかと思いました。
 ありがとうございました。

【有信部会長】
 はい,ありがとうございました。
 はい,どうぞ。

【加治佐委員】
 今の話,私ももう少し具体的にお伺いしたいと思うのです。濵口先生がこれまでは大学院博士課程,プロフェッサー養成が高度な専門性だけではなくて,俯瞰力,広い視野を兼ね備えたPh.Dプロフェッショナルを養成するのだ,という御指摘で,非常によく分かります。そのための取組を本当にたくさんされておりまして,非常に刺激的といいますか,すばらしいと思います。
 そこで,私はこのような分野をほとんど知りませんから,的外れになる可能性がありますけれども,実は我々違う分野でもあり,このような新しい取組をしようとするときに,とりわけ大学院はそうですけれども,なかなか旧来の教員が付いていけないというか,変わらないというところがあるわけですね。この名古屋大学でいろいろたくさん取組をされていますけれども,少なくとも写真に出ている人は全部外部の方ですよね。
 つまり,私が言いたいのは,外部の人材資源を活用して,内部に刺激を与えて,内部の人を変えようという意図はよく分かります。ただ,東京大学の方は抜本的な人事改革ということでほとんど年俸制にしたり,ほかの大学と兼務するなど,いろいろされていて,そのこと自体は分かるのですが,既存の大学人の意識,あるいは能力,特に能力だと思いますけれども,そこらの変革といいましょうか,そこはどのような試みを,取組をされているのかをお伺いできればと思います。

【濵口総長】
 よろしいですか。
 私どもで一番この1年力を入れて,なかなかまだ工学部の反対で,最後の一押しが終わっていないのですけれども,今やっていますのは,実は全学部の助教ポストをテニュアトラック化するという議論をずっとやっています。ほぼ1年たってきましたが,ほぼできる状態にはなっています。5年間は年棒制で雇用して,5年後に透明性の高い状態で審査をやる。それで審査をクリアした人は講師に上げると。講師に上げるときも年棒制を入れるか,承継職員ポストになるかを選択させるということをやっています。
 これはどうしてかというと,大学の教授の,教員の審査で一番の弱点は実は助教ポストであると思っています。これは教授が,自分の言っていることをよく聞く人を大体選ぶものなのですね。そこで人事のこう着化がまず始まるのです。教授の方はある程度透明性の高い状態で論文審査もやりますので,客観的には思考はしっかりできるのですけれども,一番のマジョリティーが実は解決できていない。
 それからもう一つの大きな問題は,よく言われますトップダウン,ボトムアップという議論があります。私はこれの議論をいつも聞いていて,昭和三,四十年代の経験のままで議論されているなあと。どこが違うかというと,実はこれを見ていただくと,大学の一番のサイレントマジョリティーはポスドクなのです。それから職員がマネジメントに,ある意味で主体性をしっかり発揮して参加できていないのです。そこを変えないと,教授の意識だけ変えていっていたって,余り変わらないのですね。
 今,私どもでやっていますのは,例えば事務職員の事務を外そうと。名は体を表しますので,この1年議論しておるのですけれども,職員にするのか,名大職員にするのかなど,いろいろな議論があるのです。そのカバーする分野が,例えば知財の問題から,リスク管理から,大学の法制度の設計から,外国への派遣から。
 例えばキャンパスを作るというと,一番仕事が,実は労働が掛かるのは職員なのです。現場でどのように税金を払うのか,その国の法律はどのようになっているのか。このやり方で通るのか。それから例えば給与の水準は名古屋大学の水準と,アジアの某国の水準では場合によっては10倍ぐらい違います。フエ大学で今,現地に送ったのは,ばりばりの臨床医が給与2万5,000なのですよ。これ,20倍ぐらい違うのですね。その現地の給与でやるのか,うちの給与でやるのか,この落差をどのようにするのか。そのようなところも,物すごく今研究しながら設計して,走っているのですね。そのようなところは,教授だけやらしておったって駄目なのです。教授は研究に専念していただければいいと。
 若手教員をうちの大学部の場合は横断型で集めて,調査戦略室というのを作ったり,いろいろプロジェクト型,これはトヨタのプリウスを作ったやり方に学んでいるのですけれども,組織横断型のワーキンググループを常に作り上げて,プロジェクトベースでかなり詰めると。そこでいろいろなグループが走っていますので,全体を更にカバーするような意見交換などをやる。
 それからサイレントマジョリティーの意見を集めるためには,私どもは円卓会議というのをやっていまして,これは15人ぐらいずつ各層を集めて,総長と率直に何回か議論をやります。最後はICTで議論をまとめて,それを教育研究評議会にぶつけるということをやって。
 要するに申し上げたいことは,組織全体のデザインをどのようにシステミックに変えていくかを考えないと,例えば教員人事の一人一人のパフォーマンスをどのように変えるか,所掌をどのように変えるかということをやっておったって,大学は変わらないと思います。そこの戦略性がまだ日本の大学は,全体的に弱いのだと思います。我々はだけどこの5年ぐらいは,かなり研究してやれるようになってきて,それができるものですから,リーディングでもかなり積極的に取りにいきますし,それをカバーする組織もきちんと作って,動けるように,中で自然と動いてくるようにはなってきていると思います。
 外の知を使うところの一番の問題点は,旧予算にあります。これをどのようにするのか。企業のトップを呼んでこようと思ったら,5倍ぐらい給与を出さなければいけないわけですよね。今,我々は幸か不幸か税金ですべて賄われておりますので,透明性,公平性,説明責任が常に掛かる。ですからその給与の高い人を採ってきて,例えばタックスペイヤーに説明できるかといったら,一般の市民はこの10年間で平均給与が100万下がって,400万台になっているわけですから,そこに例えば我々このような人を3,000万で雇いますというのが,なかなか通らないわけですね。公的な存在なものですから,そこが今,一番苦しいところであります。
 これをどのようにするのか。すべての大学を完全に私立化すれば,できると思うのですよね。そのような選択をするのか。それで賄えるかどうか。そうすると今度は,授業料を全体的に相当上げなければいけない状態になります。日本の公平な,ある意味で均一な社会を作ってきた装置としての大学がありますので,そこはある部分維持していかなければいけないと。このジレンマでずっと悩んでいるところでございます。済みません,長くなりました。

【有信部会長】
 はい,いいですよ。

【五神教授】
 大学の先生に何を期待するかということですが,人材としてクリエーティブな,創発性,エマージェントの方ですね、それを引き出す教育をすべきです。要するに無から有を作るというところが,学問でも産業創造でも極めて重要で,そのためにはトップの研究を,本当の世界のトップできちんとやっているというところでの人材育成は不可欠で,東京大学ではそのような機能をないがしろにするわけにはいかない,最重要なミッションだと思っています。
 ただ一方で,例えばリーディングやCOIで期待しているような俯瞰力の涵養といったことが余りにもないがしろにされていた,あるいは検討されていなさ過ぎたという面はあって,そのような意味での改革を進めているところです。濵口先生が指摘された柔軟に変える仕組みという意味で考えたときに,大学院重点化の見直しはこのタイミングで必須だと思います。これは教育研究の高度化を図るために重点化しましたが,それと同時に組織運営の予算組織として大学院を置いたということが,一番先端的です。臨機応変に変えていかなければいけない部分が、予算構造の主体になっていることで、硬直してしまっている。それは重点化のときの意図とは全然違うものです。法学部から始めた重点化のときには,そのようなことは考えもしなかったと思います。
 が,今は日本も小さくなり,世界が小さくなり,変化の次定数がどんどん短くなっている中で,先端部分を変えていかざるを得ない,変えていかないと置いていかれるという状況の中で,20年前の重点化のシナリオは見直しが必要であることは明らかです。教育ですから,連続性が重要で,安定の部分に根を置くことは必要ですが,変えるべきところは変えやすいような組織構造にするという改革が必要です。それは教育の中身だけの話ではなく,運営にもかなり関わってしまっているので,大学院重点化の実質的な,現代的な見直しというのは,絶対今やらないといけないと感じています。

【有信部会長】
 ありがとうございました。
 いろいろ貴重なお話があったと思いますし,私自身の言い訳をしておきますと,4割ライフサイエンスに研究費が投入されたのが無駄だったと言っているわけではなくて,要するに産業政策と研究開発政策そのもののマッチングが取れていないと。このマッチングが取れていないのは,今の産業サイドと大学院との間のマッチングが取れていないという話もありましたけれども,これも取れていない。
 ただ,元々ライフサイエンスそのものが非常に重要で,将来的に日本にとって金になるという判断があって,ずっと投入され続けてきたわけで,その事情は今も多分変わっていないと思うのですね。ただ,そこの部分の手当てが日本の中でできていない。
 これを別に考えると,今の産業界と大学院でミスマッチがあると言われていますけれども,産業界の現状と今の大学院のミスマッチをベースにマッチングを考えていていいのかという問題もあって。これは日本の将来を考えながら,マッチングを考えていかなければいけない。
 そのような意味で,現在進んでいるリーディング大学院等々含めて,そこで様々新たな提案がなされ,人材育成の試みがなされているので,これの行く末を見ながら,ある意味で新しいマッチングの在り方というか,私たちという言い方はあれですけれども,産業サイドからすると,むしろ大学が将来の導きの星になってほしいという期待が一方であります。産業界サイドそのものは,今までも散々指摘されましたけれども,過去の成功体験からいまだに抜け切れていない。したがって,そのまま過去の延長で進もうとしている部分が,まだかなりあると。それをどのように変えていくかというのは,非常に深刻な課題であると。ここがうまく大学と社会といいますか,日本の将来等がうまく絡み合わなければいけない。
 そのような中で,その人材育成をどのようにしていくか。考え出すと,非常に難しい問題を一杯抱えてしまっているわけです。どこか五神先生が言われるように,今も喫緊の課題として手を着けるところには手を着けないといけないということであろうと思いますので,そこのところを是非,今後ヒアリングを進めながら見極めていければと思っています。
 いろいろ本当に……。

【篠原委員】
 1分で済ませます。

【有信部会長】
 はいどうぞ。

【篠原委員】
 時計を見ながらやります。
 きょうお話のあった中で,いろいろアカデミアと産の連携という観点では,きょうもお話にあったクロス・アポイントメント制度というのが,1つの使えるものだと思っているのですね。
 実は私,社内でこのクロス・アポイントメント制度について随分議論しているのですけれども,誤解かもしれませんが,これは飽くまでも大学の立場から見たときの制度でしかなくて,実際に我々が大学と具体的に詰めていこうと思うと,そのようなことはできません,のような話が多くて,非常に中途半端だと僕は思っています。
 ですから,どんな場合が考えられるのか。ここに書いてあるように,大学の,その素晴らしい研究能力を産業界に持ってくるという使い方以外にも,例えば大学の若い先生方が,早いタイミングで,産のニーズを現場で知るというような使い方もいろいろあるはずですから,是非このクロス・アポイントメント制度については,もう少し幅広の制度設計をお願いできればと思っています。

【有信部会長】
 今の点については,少し具体的に,もう既に進めているところもありますから,検討をやっていけばいいと思います。
 それでは済みません。もう時間が過ぎてしまいましたが,非常に貴重なお話を頂きました五神先生,濵口先生,どうも本日はありがとうございました。今後の参考にさせていただければと思います。
 それでは,事務局から何か連絡事項がありましたら。

【猪股大学改革推進室長】
 次回の大学院部会は10月3日金曜日,15時から17時を予定しております。また,それ以降の開催の予定につきましては,資料の4に掲載しておりますので,御覧ください。以上でございます。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,若干時間が過ぎてしまって申し訳ありませんが,本日の大学院部会,これで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学改革推進室

大学院係
電話番号:03-5253-4111(内線3312)