大学院部会 議事録

1.日時

平成22年5月28日(金曜日) 13時~15時

2.場所

文部科学省 3階 3F1特別会議室

3.出席者

委員

(委員)荻上紘一、金子元久の各委員
(臨時委員)有信睦弘(部会長)、今榮東洋子、小杉礼子、丸本卓哉の各臨時委員
(専門委員)延與秀人、梶山千里、桐野髙明、五神真、菅裕明、続橋聡、中西茂、堀井秀之、山田礼子の各専門委員

文部科学省

山中官房長、小松高等教育局審議官、加藤高等教育局審議官、藤原大臣官房会計課長、坪井大臣官房政策課長、藤原大学振興課長、榎本高等教育政策室長、樋口大学改革推進室長、中野専門職大学院室長、茂里視学官他

4.議事録

【有信部会長】  
 それでは、所定の時刻になりましたので、大学分科会大学院部会委員懇談会を開催させていただきたいと思います。
 本日は、分野別ワーキング・グループで実施した大学院教育の現状に関する検証結果についてご報告いただくとともに、検証を踏まえた検討を深めるべき点について審議を進めたいと思いますので、よろしくお願いします。
 それでは、事務局から配付資料の確認をお願いします。

 【樋口大学改革推進室長】  
 失礼いたします。それではお手元の配付資料の確認をさせていただきます。
 まず、議事次第を1枚めくっていただいた後、資料1といたしまして、48回の議事録(案)がございます。それから資料2といたしまして、カラー刷りの「大学院教育の実質化の検証について」、それから資料3―1、3―2が理工農系ワーキング・グループの検証結果、検証のまとめについて、資料4―1、4―2が人社系ワーキング・グループの検証結果、検証のまとめについて、資料5―1、5―2が医療系ワーキング・グループの検証結果、まとめについて、資料6―1、6―2が専門職学位課程ワーキング・グループにおける審議及び報告書についてという形で、それぞれクリップ留めしてございます。
 それから机上に参考資料といたしまして、参考資料1「各大学院における『大学院教育振興施策要綱』に関する取組の調査結果について」、参考資料2といたしまして大学院の現状の資料、それから、「大学分科会の各部会・WGを通じた論点について」というものと、「『学位プログラム』を中心とした大学院教育について」というメモを置かせていただいています。過不足等ございましたら、おっしゃってください。
 なお、資料1の議事録の案につきましては、ご意見がございますれば、6月11日までに事務局までご連絡を頂戴できればと思います。
 以上でございます。

 【有信部会長】 
 ありがとうございました。
 それでは審議に入りたいと思います。昨年9月以来、ワーキング・グループの各メンバーには多大なご苦労をかけて、机上にそれぞれ置いてありますように大部の調査結果を取りまとめていただいておりますので、この取りまとめ結果について、まず事務局から説明をお願いします。

 【樋口大学改革推進室長】  
 それでは、主に資料2に基づきましてご説明を申し上げたいと思います。
 資料の1枚目の表紙のところのご説明でございますけれども、この大学院教育に関しましては、平成17年に「新時代の大学院教育」という中央教育審議会の答申がございまして、その後の制度改正等を含めて、「大学院振興施策要綱」という要綱を策定してございます。
 他方で中央教育審議会においては、平成20年9月より中長期的な大学教育のあり方という諮問がございまして、昨年8月の第1次報告に向けたその検討の中で、大学院教育に関して、この大学院答申並びにその振興施策要綱の検証を行うための分野別のワーキング・グループを設けて検討するということとされたことを踏まえまして、この大学院部会において、人社系、理工農系、医療系、専門職学位課程の4つのワーキング・グループを設け、昨年9月来、学問分野別、人文・社会科学系から医療各分野系に至る合計約350専攻、これは、これらの専攻は全国で約4,300専攻ございますので、そのうちの350専攻、約8%に相当します書面調査を行うとともに、ヒアリング調査等を実施いたしまして、平成17年の大学院答申に掲げた項目の進捗状況等を検証してまいったわけです。
 また専門職課程におきましては、法科大学院、教職大学院を除く84の専攻がございますけれども、このすべてについての書面調査ないしヒアリング等を行い、検証を行ってまいりました。今日お手元に机上資料として立てて置かれておりますファイルは、人文・社会から医療系までのそれぞれの大学に対します調査のそれぞれの個票でございます。
 こうしたものを踏まえまして、4つのワーキング・グループで検討を重ねて、おおむねその審議を終えている状況でございます。この検討状況を、去る26日の大学分科会にご報告申し上げました。その結果を申し上げるわけでございますけれども、基本的に大学院答申、及び振興施策要綱に基づく制度改正等々がございまして、修士課程を中心として大学院教育の実質化に取り組む大学が増加してございますし、おおむねすべての大学で経済的支援の取り組みが実施されるなど、着実にその取り組みの進展は見られるわけでございます。
 他方で課題もございまして、人材養成目的が抽象的である、あるいは実際の教育がそういった方針に基づいて展開されているとは言えない大学院があるという格差、取り組みの差異、あるいは、特に博士課程に関しましては、博士の学位というものがいかなる能力を保証するものかという共通認識の確立が十分ではなく、担当教員による研究活動を中心としているものにとどまっていることが多いという指摘もございました。
 2ページ以降、それぞれの分野ごとに現状の成果、課題を挙げてございますが、かいつまんで若干申し上げたいと思います。理工農系につきましては、課題といたしましては、博士の学位というものがいかなる能力を保証するものかという考え方に、やはり共通認識が確立されていない。そういう中で、5年間を貫く人材養成目的というものがあいまいで、博士の取得に必要な能力を確認する仕組みが十分確立されていないというところがございます。そういう中で、大学院が教育する方向と産業界等の期待とのミスマッチというものがありまして、その中で、多様なキャリアパスに十分対応しきれていないという状況もあるという課題がございました。
 他方で人文・社会学系につきましては、キャリアパスというものが依然として主にその大学教員が中心でございまして、高度専門職業人として社会の多様な場で受け入れる環境があまり確立されていないと見なされるところがございました。また、そういった将来のキャリアパスというものが学生に十分明らかになっていないということがございました。そうした中で、人文・社会系につきましては、特にその標準修業年限内に学位を授与しようという率が低いわけでございますが、そういった意識も若干低いということもございます。
 他方で医療系につきましては、医療系は主に病院等に従事する社会人学生が多く、職業人養成の性格が非常に強いわけでございますが、大学院の課程に取り組む中において、近年の学生の専門資格、専門医等の志向、あるいは医師等をはじめとする臨床研修制度等の外部的な要因の導入等がございまして、こうしたものが、研究者を志す学生の減少、あるいは大学院生のキャリア形成というものに大きな影響を与えているというところもございます。そういう中で、医療系大学院は社会人を養成するという機能を強化してございますが、そうした中で臨床的な研究能力をいかなるレベルに養成するかという到達目標が不明確であるという状況も見られたところです。
 また、専門職学位課程におきましては、これは平成15年以降、その積極的な発展というものがある中において、例えば教員組織のあり方あるいは認証評価機関が設置されていないような分野が存在するなど、急速な広がりにかかわる諸問題も存在しているという状況がございました。
 そうした中で、今後の大学院教育に求められる方向性でございますが、基本的な認識といたしまして各分野共通にありますのは、社会のあらゆる分野におけるイノベーションというものが求められる中で、さまざまな国内外のあらゆる分野で活躍できるリーダーというものの養成と、それからその大学等の研究機関だけではなくて、企業、経営ジャーナリズム、行政、国際機関、そういった社会の多様な場で活躍する人材を養成することが期待されるという中にあって、7ページに各分野ごとの改善の方向性をまとめてございますけれども、理工農系においては、特に博士課程教育を5年間の一貫した学位プログラムとして確立させていくということが強調されておりましたし、人文・社会系につきましては、学位の授与へ導くプロセス、あるいは将来のキャリアパスというものを明らかにするということが強調されておりました。
 また医療系につきましては、さまざまな機関、あるいは他専攻との連携を有機的にして、高度化する医療の動向を見据えた体系的な教育をするということ、それから専門職課程におきましては、高度専門職業人を養成するという理念に立ち返って、本来の役割、機能に照らし合わせて、教育内容の充実や質の向上等を図っていくというところが方向性の基本として強調されたところでございます。
 こうしたところを踏まえて、8ページ以降に、各ワーキングそれぞれの改善の方策というものの、最大公約数的な、おおむね合った方向性をまとめてございます。これを、柱といたしましては7つの柱にまとめてございますが、簡単に申し上げれば、1つ目の柱といたしましては、特に例えば複数の教員で組織的に教育・研究指導体制を確保する過程を通して、組織的・体系的な大学院教育というものを行っていくということ。
 もう一つは、教育情報の公表というものもございますが、それとともに、国内外の多様な機関との連携による開かれた大学院教育というものを施していくということ。
 3つ目といたしまして、博士課程大学院というものの趣旨に沿った博士の学位の考え方、共通認識というものを確立して、例えば博士論文の作成に着手するために必要な基礎的能力の審査、こうしたものを修士論文作成にかえてその修了要件にするということを明確にするなどの、5年間を通した一貫した学位プログラムとしての博士課程教育を確立していくということ。
 4つ目には、公正なる入学者選抜、あるいは優秀な学生が経済的な不安なく大学院に進学できるような支援を行っていくことを通した、すぐれた学生の進学の促進。
 さらには、それぞれの分野に応じつつ、各大学と産業界等との協議の場、それから高度な知識、能力の修得が求められて、高まるであろう社会人の需要に対応した大学院教育等々を通して、産学官の連携を通してキャリアパスを確立していくということ。
 それから大学間の連携・協力などによって組織的な教育を行う質の高い教育体制というものを確保すること。
 最後に専門職大学院につきましては、今あります専門職学位課程の専任教員と、その他の学部、研究科の専任教員を兼ねるダブルカウントの扱いの26年度以降の対応、あるいは先ほど申しましたけれども、認証評価機関がない場合の特例措置等の見直しをはじめとする専門職大学院の質の向上といった項目を検討状況としてまとめてございます。
 今後は、こうした話を大学分科会の今後の報告の中に整理をしていくとともに、平成23年度以降の新たな振興施策要綱といいましょうか、政策パッケージの策定を視野に、今後の大学院教育の改善の方向性というものの検討をお願いしていくことになりますが、本日二つの机上資料を設けました。まず、「大学分科会の各部会・WGを通じた論点について」というものをお配りしてございます。
 現在、大学分科会の中では、さまざまな部会、ワーキングを通して、その提言の検討をしているところでございますが、これらは大きく分けて二つの論点に共通するところがございます。一つは、大学教育を一定の教員組織によって担われる学位プログラムとして構成することによって教育の質を保証するということ。もう一つは、各大学がそれぞれの個性・特色を通して機能別に分化していくということでございます。
 この大学院部会の論点といいますのは、このうちの一つの点、主に学位プログラムとして構成することを通しての教育の質の保証というところの軸足が大きいわけでございまして、この基本的な考え方といたしましては、1、2、3、4と4つの点がございますけれども、一つには、大学において体系的なカリキュラムが整備されるということ、その体系的なカリキュラムに沿って実際の教育が実施されるということ、その体系的なカリキュラムにはどのような知識・技能が修得されるか明確にしていくということ、その知識・技能の修得に対してどのような専門分野名を付した学位が授与されるかという、こうした点について具体的に検討していくということが課題になるわけでございます。
 その中において、もう一枚机上資料としてお渡ししましたが、学位プログラムを中心とした大学院教育のあり方についてのメモがございます。このうちの学位プログラム、大学院部会はここの学位プログラムに係るところに軸足があるわけでございますけれども、この大学院部会は、その学位プログラムを中心としたものへ前進的に転換していくものとして、このような転換を促進していくために必要な政策手段は何かということを検討していくというのが大きな命題でございます。
 この学位プログラムといいますのは、構成要素といたしまして、修得すべき知識・技能の内容、プログラムを担当する教員集団、その修得に対して授与される学位の表記、それからそれぞれの当該学位プログラムを選択・履修する学生、この四つが構成要素でございますけれども、こうした要素の中で、こうした斬新的な転換というものを図っていく上でさまざまな通例があるわけでございますが、制度改正、財政支援、それから特に教員の意識改革、さらには学位取得者を採用する企業等の理解、そうしたものをより魅力的な学位プログラムとして構成するための大学関係者と企業等関係者の間の協議、そのほかさまざまな要素がございますけれども、こうした点につきまして、この検証結果も踏まえながら検討を深めてまいる必要があろうと思っているところでございます。今後はこうした点を踏まえて議論を集約させていきたいと思ってございますので、ご審議のほうをよろしくお願いしたいと思っております。
 以上でございます。

 【有信部会長】  
 どうもありがとうございました。
 それでは、検討いただきました各ワーキング・グループの主査の方から補足の説明をお願いしたいと思います。
 私は理工農系ワーキング・グループの主査もやらせていただきましたので、まず私から理工農系について補足をさせていただきます。
 理工農系は、実際には専門分野、また理工農の中でさまざまに分かれるものですから、ワーキング・グループのメンバーに、それぞれまたその中で分かれた、より詳細な専門分野ごとの専門家の方々に相当突っ込んだ検討をしていただきました。突っ込んだ検討をした結果、やはり共通な結果があぶり出されてまいりました。先ほど説明がありましたように、理工農系について言えば、ドクターコースの修了生について、就職は一般的に言うとそう大きく深刻ではないが、一番深刻な問題は、博士課程前期もしくは修士課程の中の優秀な学生が、後期あるいはドクターコースに進まずに、そのまま就職してしまう傾向が非常に強いということです。したがって、大学の教員の立場から見ると、本来、大学のドクターコースで研究に専念して華々しい成果を上げてほしい優秀な学生たちが、大学に残らずにどんどん企業に就職してしまうということで、ドクターコースそのものの質が非常に心配であるという問題が一つあります。
 それから、修士課程においては、修士課程を修了して就職する人が、おそらく理工農系では大半になっておりますが、これについては、教育そのものの改善は相当程度進んでいるということで、教育の実質化も順調に進みつつあるという評価だったと思います。
 もう一つ大きな問題は、博士課程に優秀な学生が進まない原因がどこにあるかということです。一つはキャリアパスがよく見えないということ。自分が博士課程に進んでいって、その先どうなるかということに対する不安が一点、もう一点は、経済的な問題があるということで、この二つについても対応が必要ではないかというふうに考えております。
 したがって、全体的に言うと、優秀な学生を博士課程に進めるための施策として、一つは経済的な支援、あるいはキャリアパスを明確にするという外部支援的なものと同時に、制度的な面では、博士課程の一貫制コースをつくって、修士課程と博士課程を明確に区別、区分けをした形で、博士課程に優秀な学生が進むという形の制度化を進めてはどうかというのが一つの提案であります。
 もう一つは、途中で修士課程を修了した段階で、博士課程に進学せずに就職してしまった優秀な学生たちも、また学位が必要になって大学に戻ってくるということが想定されるため、そのように一度社会に出た人たちが学位を取得する際に、学生と同等で公平にその学位がとれる条件をきちんと整備をするという意味で、社会人向けの具体的な施策を講ずる必要があるという、二つの大きな柱があると思います。
 私からの補足は以上です。
 それでは人文・社会系、金子先生、お願いします。

 【金子委員】  
 人文・社会系ですけれども、我が国の大学院で一般的に指摘されています、学位授与率が低い、あるいは修了後のキャリアが不明確であるといった点は、多分人文・社会系で非常に端的にあらわれていると思います。前回の答申、あるいは大学院改革要綱で提案された改革は、全体として見ればまだ道半ばであるということが言えるのではないかと思います。ただ、全体に人文・社会系の大学院といってもかなり多様であり、専門分野別に、社会科学系、人文・経済、あるいは教育では事情がかなり違うといったところもあるようですので、まとめは人文・社会別に要点をまとめることになっております。
 その中でも、ただ領域とはまた別に、先進的な大学院とそうでない大学院との分化も進んでいるということも実際にあります。特に大学院GPをもらっているような大学院では、さまざまな新しい試みがなされているところもあるいうことが一方では確認されましたが、ただもう一方で、かなり古典的な学術性を基礎とした大学院教育がかなり強い影響力を持っている大学院もあるということも事実であります。
 端的に言いますと、例えば修士課程、修士号については、博士課程に至る一つの過程としてとらえるべきだというのが一般的なとらえ方で、この部会でも議論になると思いますが、これは、大学によりましては修士論文自体が非常に重要だと位置づけている大学院も必ずしも少ないわけではないということです。
 もう一つは、小規模の大学院がかなり多いということです。このことが今後、効率化あるいは高度化をするときにおいて、かなり大きな問題になるだろうということも言えると思います。
 もう一つ、大学院卒業後の進路についてです。これは問題であることは先ほど申し上げたとおりでありますけれども、特に学術分野以外のところに就職するといった道を広げなければいけないというのは共通の見方でありますが、ただこれを具体的にどのようにしてそういった機会を拡大していくのか、その具体的な方策については、まだこれから検討しなければいけないところだと思います。
 ただこれに関しましては、一つ言えるのは、まだ大学側も卒業生の進路について明確に把握しているわけでは必ずしもなく、学生にとっても、大学院進学に際してのキャリアパスが不明確であるということです。こういった意味で、キャリアパスを明確化していくということが少なくとも当面は非常に重要な課題になるのではないかと思います。
 これに限らず、大学院に関しては情報公開を進めていくことが、さまざまな意味で、間接的に、あるいは直接的に、人文系の大学院のあり方を変えていく一つのきっかけになるのではないかと考えています。
 以上です。

 【有信部会長】  
 ありがとうございました。
 それでは医療系について、桐野委員、お願いします。

 【桐野委員】  
 「医療系ワーキング・グループにおける検証結果について(概要)」というのがあります。この概要に沿ってご説明いたします。
 医療系というのは、医学、歯学、薬学、看護学の4系統ですけれども、その中で調査を行った結果をお話しします。この特徴は、社会人学生の割合が高いということと、この傾向は職業人養成の性格が強いと強くなっているんですが、その傾向が強くなっている一方で、学生の専門資格への志向や、医師・歯科医師臨床研修制度の導入、薬学系は6年制教育を導入したということがあり、研究者を志す学生数が減少しているということであります。これは、各分野の大学院生のキャリア形成に大きな影響を与えることが明らかになっております。
 一方で、医療系人材の養成機能を強化するということでありまして、いろいろな大学で人材養成あるいは職業人としての養成の自主的な取り組みを進めていたり、創薬とか、治験とか、医療機器開発などの産業界と連携した教育プログラムが進んでいるということは事実ではありますけれども、臨床技能や研究能力に関する到達目標が不明確で、今後、臨床研究の位置づけなどにも課題が見られるということがわかりました。
 改善の方向性、2ページ目にありますが、まず第一に、今後、医学系、医療系大学院が魅力ある教育を展開するためには、教育の補充を含む基盤的経費を確実に措置するということが重要であり、これは他の大学院でも同じだと思いますが、競争的資金のさらなる充実とともに、基盤的経費の確実な措置がぜひ必要であるということを強く感じました。
 その上で、五点ほどございますが、一点目は、人材養成目的に沿った入学から卒業までの一貫性のある大学院教育の確立が必要であるということで、具体的な臨床技能や研究能力に関する修得目標を明らかにして、それに沿って教育していくようなシステムが必要であるということです。
 二点目は、産業界や地域社会など多様な社会部門と連携した人材養成機能の強化が必要であるということです。これは、この教育内容が非常に多様化しておりますので、実際の臨床研究の場を利用した教育の推進などが必要になると思われます。
 三点目は、学習・研究環境の改善が必要であるということで、研究者と臨床に従事する者との処遇面の格差に考慮して、研究を志す者の大学院への進学を促進するような方策が必要であるということが言えます。
 四点目は、大学院評価による質の確保が重要であるということです。体系的かつ効果的な自己点検と外部評価を行い、国際標準を意識して改善していかなければならないと考えます。
 五点目は、大学院教育を通じた国際貢献・協調が今後ますます重要になるであろうということでございます。
 以上が医療系ワーキングの概要でございます。

 【有信部会長】  
 ありがとうございました。
 それでは専門職過程について、荻上委員、よろしくお願いいたします。

 【荻上委員】  
 先ほど室長から報告があった中で、専門職大学院についても何点か課題が挙げられていて、改善の方向性も五点ばかりに整理されておりますが、ここでは特にドクターコースとの接続の問題と、認証評価システムについて少し補足をしたいと思います。
 まずドクターコースとの接続の問題でありますが、今回、幾つかの専門職大学院の実地調査並びにヒアリングをいたしました。その中で、専門職大学院学位課程を修了した後、さらに進学を希望する学生が少なからずいるという実態が見られ、それに対応するためには、幾つかの大学院では、その進む先を、制度上、専門職学位課程の上につくるというわけにはいかないということから、横の上につくって、実質的に学生が進学できるようなことを考えているようです。そういった際に、教員に着目すれば、これは平成25年度までだったかと思いますが、暫定措置としてダブルカウントが認められているわけですけれども、それが終了してしまうと、その専門職大学院の教員が博士後期課程と兼ねられなくなります。そういう事態になりますと、活発な研究活動によって得られた成果を専門職大学院教育へ還元しにくくなる、あるいはダブルカウントができなくなることによって後期課程の存続が危うくなるということが実態としてわかりました。そういった状況を何とか打開するためには、25年で終了するそのダブルカウントの措置を継続するか、あるいは何か別の制度的なことを考えるというような対応が必要なのではないかと思います。
 そういうことを考えなければ、理論と実務の架橋を目的とする専門職大学院において、教育資源の蓄積を支える研究活動が活発に行われなくなってしまう、あるいは教員の養成機能を担う場所がなくなってしまう、あるいは進学を希望する学生への対応ができにくくなるといったようないろいろな面で障害が出てくるのではないかということが懸念されております。そういうことで、25年度で終了するダブルカウント制度をその先どうするかということは、非常に大きな検討課題であろうということが一点目です。
 もう一つは認証評価システムです。現在、専門職大学院については、いわゆる機関別の評価と違って5年ごとに認証評価を受けなければいけないということになっておりますが、まだすべての分野に対して対応できる認証評価機関が存在するという状況になっておりません。徐々に増えてきてはおりますが、認証評価機関が存在しない場合には、現在、特例措置というのがあって、自己点検評価、あるいはいわゆる外部検証で代替することができるということになっていて、幾つかのところはその特例措置を使って対応しているわけです。既にその制度がスタートして6年が経過しております。この先ずっとその特例措置を続けていくということがいいのかどうかということについて議論をいたしましたが、これは見直す必要があるのではないかということを明確に確認いたしました。ということで、これは法令の改正を必要とするのかと思いますけれども、認証評価制度の特例措置の見直しということも早急に検討をすべき課題というふうに認識をしたところでございます。
 以上です。

 【有信部会長】  
 ありがとうございました。
 それぞれのワーキング・グループからの検討結果の報告をいただきました。この後、それぞれ論点を議論していきたいと思いますが、その前に、今までの報告の中で、質問あるいはご意見がありましたらよろしくお願いします。
 特に最初に少し整理をしておきたいんですが、先ほどの医療系の大学院と今の専門職過程とで違う点があり、医療系では研究者に進む人が減っているという問題あり、一方、専門職学位では、例えば特に法科大学院で典型的ですけれども、教員が、今、ダブルカウントできているのが、ダブルカウントできなくなるということであり、ダブルカウントできなくなるということは、法科大学院の教員がいなくなってしまうということですよね。

 【藤原大学振興課長】  
 逆でしょうね。

 【有信部会長】  
 逆ですか。

 【藤原大学振興課長】 
 直接は専門教育課の担当かと思いますけれども、ダブルカウントは、専任教員の算定の仕方の問題でございます。もともと専門職大学院というのは、既存の研究科とは別途、1セット教員の数をそろえなければならないということになっているのでございますが、25年までの間は、学部との間では3分の1まで、研究科との間ではその数の全部をダブルカウントできるという形になっておりまして、それが切れるということになりますと、基本的に全く別にその組織をつくらなければいけないということになり、博士課程とのつなぎといいますか、連携ができなくなる、という問題かと思います。

 【有信部会長】 
 簡単に言えば、教員はダブルカウントされないため、もともとの大学院側に行ってしまうということですよね。あるいは法科大学院側の、いずれにせよ教員の数はトータルして足りなくなるということで間違いないですよね。そういう問題があるということで、いずれにしても、将来のそこの専門職を育てるための手だてがどちらも不足をしてくるということだろうと思いますが。

 【荻上委員】  
 数の問題ももちろんありますが、専門職学位課程と全く別の先生が博士後期課程を担当するということになると、両者の接続が非常に難しくなりますので、そのことも問題だと思います。

 【有信部会長】
 それでは、いろいろ質問があると思いますけれども、どなたからでも、どうぞよろしく。
 それでは、もう一つ、医療のほうは臨床で研究をやる人が少なくなるということですか。基礎のほうは、どちらかというと医学部の出身者がほとんどいなくなっているということですか。

 【桐野委員】 
 そうですね、傾向としては、基礎医学のほうは徐々に理学部出身の先生方が増えていくということは国際的にも必然です、それはそれでいいんですが、例えば象徴的には解剖3科というのがあり、解剖学、病理学、法医学、これはもちろん医学部出身じゃなければ絶対だめだとまで言えるかどうかわかりませんけれども、そこにも医学部はいないということになると、基礎医学と臨床医学は切れてしまうような感じになってしまいます。
 基礎生物学の研究は、それで全然何も問題はありませんが、病気の研究という意味では、将来的にはかなり大きな問題になるだろうと言われております。特に初期臨床研修制度が悪いということはないと思うんですけれども、それが始まったころから、かなり強く基礎医学への医学部からの進学者というか、基礎医学の道を選ぶ人が減ってしまっています。例えば病理学という、亡くなった患者さんを解剖して調べ、病気の研究をするところでは、40歳以下の病理学者が非常に少なく、あと20年ぐらい経つと、これは大変なことになるだろうと言われています。
 医学・生物学という広い範囲で言えば、理学系の優秀な研究者が育っておられるので、そこに医学部の基礎系の教員の7、8割は理学部出身になるだろうと言われています。

 【有信部会長】 
 基礎医学を選ぶ人が減っている一番の原因は何ですか。

 【桐野委員】 
 医学部だと、昔は少しモラトリアム的といいますか、例えば「白い巨塔」の財前五郎と里見さんが病理学の大河内教授のところに机を並べて勉強したという話があります。昔はそうでした。臨床科も数年は基礎医学に行って勉強してからまたもとに戻る。その中で一部基礎医学にトラップされて、そのまま基礎医学者になった人、今の高名な先生方のかなりの部分はそうです。
 ただ、今は臨床医学の情報量とデューティーが非常に強くて、早く一人前にならなければならないというインセンティブが強いために、そういうのんびりとした教育がないんですね。次はすぐ専門試験で、症例を幾つ、手術を何件という形になってきて、のんびり勉強していたら仲間に取り残されてしまうという気持ちがあるために、そういう勉強が進まないんです。
 それはアメリカなんかも典型的で、アメリカはMD、Ph.D.を意図的につくらない限り、それをつくれないんですね。つまり、ほんとうに情報量が、終戦直後の医学の情報量から現在までを比較すると、約500から1,000倍になっていると言われているので、その辺のところが遠因だろうと思いますが、直接的には、キャリアパスの問題や、処遇の問題もあり、複合的です。

 【有信部会長】 
 そうだとすると、具体的な解決策というのが非常に難しい。

 【桐野委員】 
 例えば分子生物学や分子遺伝学の教育は、理学部の先生で何も問題ありません。中には医学部出身者がいてもいいですけれども、非常によく教育しておられる。ただ、医学部出身者が行かなければならないようなところについては、個人的には、やはり初期臨床研修制度の若干の修正をしておいたほうがいいのかなと思います。
 ただ、それには反対の人も相当います。例えば解剖3科へ進む人は、初期臨床研修制度を2年間全部やらなければいけないというふうにするのかなど、ちょっと異論もあるので、そんなことをしたら制度全体が崩れるという考えもありますし、ただ、それは議論しておかないといけないことだろうと思います。
 病理学は、病院の中に診断病理という立派な部門があって、保険診療点数も取れる立派な診療の一部です。患者を直接診ないという意味では、放射線科のお医者さんなどと似ているんですが、そういうところを考えると、もうちょっと工夫があってもいいかなと思います。

 【有信部会長】 
 そこの部分になると、今度は教育の問題というよりは厚労省の問題になるわけですか。あるいは文科省の問題になるんですか。

 【桐野委員】 
 文科省と厚労省の間の谷は千尋の谷より深いのですが、最近は随分交流されるようになってきました。交流をして、そのあたりを解決していただければと思いますが、必ずしも文科省や厚労省だけの問題というよりは、医学そのものに含まれる内在的な問題がありますので、これは医学教育をやっている大学側がみずから解決していかないといけないと思います。

 【菅委員】 
 先ほどのことについての確認ですが、例えば病理というのは、今後何か発展していく可能性があるので、やはり新しい人を担保していかないといけないとお考えですか。

 【桐野委員】 
 そこは、学問領域であれば、将来の発展を望めないような、ただ守っているだけのところに人が来ないのは当然なので、例えば肉眼解剖学というレオナルド・ダビンチのような世界があり、それも、昔、比較解剖学という、動物とのいろいろな細かいことがすごく進歩した時代がありましたが、それはある程度終わっています。だからアメリカでは解剖学者というとみんな細胞分子生物学をやるわけで、解剖学教育をどうするかというと、アメリカではそのような解剖学者はインドから招いていますが、日本はそれができないんです。

 【菅委員】 
 例えば我々の理工系の分野だと、トラディショナルに保っていかないといけないところがありますが、ただそれだけでは発展性がないので、何かと組み合わせてインターディスプリナリーにして発展することで、その分野のこともある程度保っていこうという方向性が生まれるんですけれども。

 【桐野委員】 
 小宮山さんが、熱力学はそのうちなくなるのではないかと言っていました。そういう分野は医学部の中にはいっぱいありまして、今おっしゃるように解決して、新しく進歩するところとやっていかないと、進歩がなければやはり魅力もないと思います。

 【金子委員】 
 私たちが議論していて一つ出てきた課題は、修士の扱いについてです。大学院は修士と博士の2段階、段階別の組織をとっているわけですが、このときに、その修士の扱いをどのようにするのか。その修士の学位を与えるときに使われるエネルギーは非常に大きいので、その後くたびれてしまって博士の学位まで至らないという批判が多々あります。
 一方で、ほかの専門分野では、修士の地位を相対的には弱めたほうがいいのではないか、それとは別に、もう少し博士の学位の学習を始める前の一段階として一定の試験をするといったことも考えられるのではないかという議論が強いと聞いていますけれども、将来、修士の取り扱い、博士の取り扱いをどのような形にしていくのか。これは実態としてどうするかという問題もありますし、制度的にどのように位置づけるかという問題もあると思います。
 冒頭にプログラム制についてのメモが出ていましたが、プログラム制というのは私にはまだわからないところもあるんですが、ただ、プログラム制ということを言い出すと、例えばこの修士と博士の関係をどうするのかということはかなり大きな問題で、そうすると、今まで一応博士のプロセスの中に修士が統合されているという形ですが、プログラム制というのであれば、修士と博士を明確に分けなければいけないのではないかという議論もあり得るのではないかと思います。
 いずれにしましても、この積み上げ制について、どうも各専門分野で意向が微妙に違っているのではないかと思います。人文・社会系も、先ほどかなり伝統的に修士を強調するところもあると言いましたが、しかし他方で、社会に積極的に出ていくのであれば、やはり修士号をきちんと定義して、その内容・目的をもう少し考え直すといったことも考えられるという意見もあり、人文・社会系の中でも必ずしも一貫しているわけではありません。
 ただ、繰り返しになりますが、一般的には、むしろ学術分野の、今、学術的なキャリアに進むのは難しくなってきており、現場はやっぱり非常にすぐれた学術的業績を出さなければいけない。したがって、むしろマスターのレベルできちんとした研究をさせようという議論も出てくるわけです。そのあたりが難しい問題です。
 人社系ではそういう議論がありましたので、これについては、人社系に出席された委員からご意見をいただくことも重要だと思いますし、特にほかの分野で、このことについてどういう議論がなされているのか、コメントをいただければと思います。
 以上です。

 【今榮委員】 
 理工系というのは、修士課程まではかなりの学生が進学するが、その後の博士課程への進学は非常に少ないものですから、なかなか博士課程で統一的な教育プログラムをつくれないというところがあるのと、それから有信委員が説明されましたように、幾つかの課題があって、そのために学生がなかなか博士課程にとどまらないということがあるんです。
 その課題の一つ、例えば経済的な保証については、本当にそれだけの資源があれば、それは確保できる問題であって、一番容易に解決をできる課題ですが、一つ、キャリアパスが見えないということについては、例えばアカデミックなところは、もう数が決まっていますので、大学の学生が増えても、それ以上には確保できないということになると、やはり企業に向けたキャリアというのが必要になるんですが、そこのところで企業側と非常にギャップがあり、そのあたりが今度は学位プログラムなんかに絡んでくるということになるかなと思います。有信委員がお話しされた博士一貫コースをつくるという話は、私も非常に賛成で、きちんとした修士から博士に連続した教育をするというのは、私としては非常に大事なことだと思っております。
 ただし、理工系のところでの課題にありましたように、修士課程においていろいろな問題があるということと、それから別の意味で、学部から修士、それからドクターで、やはり自分の研究の興味のある別の大学の研究室に移るというプロセスも残しておかなければいけないので、プログラムに関しては、今のところは大学ごとに違っているので、その辺を統一しない限りは、教育もそこで移ったために途切れてしまうということがあるので、総合的に考えていかなければいけないと思っております。

 【菅委員】 
 補足ですが、理工系は基本的に5年間やるのが好ましいとの考え方がほとんどだと思いますが、実質的に大学院の講義の体系化をしますと、そちらに時間がすごく取られてしまうというコメントがとても多くありました。どうしても研究がその分減ってしまうので、修士のときに研究する時間が減ってしまうというのが非常に心配だというコメントが各大学でかなりあったと思います。それを考えますと、体系化をするというのは、博士との一貫的な感覚でやっていくほうが大学院にとっても研究がしやすい環境ということではないかと思います。
 そうなると、今度は社会がそれを受け入れるかという問題に絡んでくると思います。ほかの検討すべき改善方策について書かれているものを見ますと、今までずっと同じようなことが書いてあったと思います。やはりここで重要なのは、各ワーキング・グループで得たものにどのような違いがあるのかということがクリアにわかるようなものを出していただくほうが、おそらく議論もしやすいのではないかと思います。最後、コメントになりましたけれども、よろしくお願いします。

 【有信部会長】 
 大学で大学院の指導をしている方にお聞きしたいんですが、修士課程で優秀な学生たちがそのまま就職してしまうと言いますが、会社の側から見ると、相当数の優秀な人たちが、会社に入ってからまた学位をとっています。その人たちは、今で言ういわば社会人コースを利用しながら学位をとっています。逆に言うと、大学側としては優秀な学生が残らないというのは、困ることだと思います。しかし、会社の側からしても、変に今まで育てた優秀な社員がどこかに行ってしまってもらっては困るという旧来の古い考え方もありますので、大学院に戻って学位を取得するのをある程度抑えるということで、本来学位を取得するべき人たちが取得できずにいるということがあるかと思いますが、この辺の実情についてどのような印象をお持ちですか。

 【丸本委員】 
 私も実際の大学院の現場をちょっと離れておりますので、少し変わっているかもしれませんけれども、やはり博士課程に行くという決心をするのに一番重要なのはキャリアパスなんですね。特に農学系の場合は、昔は農水省も含めて先行採用というのがございました。これは、今、ほとんどなくなりました。
 博士に行くと、研究は進みますが、就職の範囲が非常に狭まってくるということで、本当は博士課程に行きたいんだけれども、ちょっと遠慮しようかという学生が、今、結構出てきています。修士で終われば就職の幅がかなり広いため、修士へ行き、その後に就職をしても、今言われたようにドクターをとるという意欲が強ければ企業からもかなり戻ってきていますので、一つは、5年一貫制でそのままずっと行って、最終的に就職がない場合のことを考えるとリスクが大きいというのが一番大きな原因ではないかと私は思います。その辺が解決されると、優秀な人はドクターにどんどん行くようになるのではないかと考えております。

 【小松高等教育局審議官】 
 今、話題になっていることと関連して、ご意見をお伺いしたいことがございます。資料2の「大学院教育の実質化の検証について」という資料でございますが、いろいろな分野を横断的に見たときに、先ほど菅先生がおっしゃったように、本当は違いを明らかにしたほうが実質的には支援政策を立てるときも間違いはないとは思いますが、この8ページの「今後の検討すべき改善方策について」の3番目の「5年間を一貫して見通した博士課程教育」というところが今、一番話題になっているところと関連が深いのかなと思います。昔から問題にもなっていて、また先ほどお話があったように、いつも同じことが言われていながら何となく回っている点があって、それは、この5年間のまさに修士と後期と言われているところとのつなぎと、外に出たときにどうするかということです。
 中で研究者を育てるときには、その5年間を一貫したほうが将来の見通しが立つというのはそうだけれども、一方、責任を持って世の中にちゃんと適切なときに送り出していくという観点からするといいかげんなことはできないという、この両者のせめぎ合いだと思います。例えば、今まで出ている意見の中を私どもがまとめてみますと、その2つ目の、具体的には制度改正の関係に関連してきますが、修士論文のところで力を使ってしまって、その後に続かないという、いろいろな弊害や問題点が指摘されているわけですが、分野によっては、そういうところで論文の書き方などはしっかり勉強した上で博士へ進むという、5年間の中で1回こういうハードルがあったほうがいいという考え方と、それから、ここが分断されてネックになっているので、むしろ緩やかにしたほうがいいんじゃないかという意見の両方を今までのワーキングでずっと聞いております。
 それで、例えばここに書いているような話も出ているということで書いているんですけれども、一つは、今、修士論文というのは当たり前のように思われていますが、制度的には既に、別に修士論文以外のものも認められるということになっております。ただ、世の中にはかなりいろいろな種類の大学院があり、解釈が食い違って、間違った運用になってもいけないので、非常に限定的に運用しているという状況です。
 例えば舞台芸術の分野などで、論文ではなく実演などで審査するといったようなときは、修士論文以外で修士号を取得することができるという運用を行っておりますが、全く別の考え方としては、5年一貫制という中なので、修士号を与えるときに修士論文にかえるということで、何かしらの方法によって基礎的能力を審査するということも、今も制度的には全くできないわけではないと思うんです。基本的にはあまり多く運用しないようになっていると思いますが、そういったことを例えば法令上明記して、みなさんに考えていただくということも、ここの議論の中で言えば一つの方法かなということで、ここへ挙げてあります。
 ただこれが、例えば修了後企業へ送りだされる先生方なり、あるいは採用する企業側から見たときに、そこは修士論文がないと、採用しにくいとか、採用後、役に立たないということで、学生にとって非常に不利になるということであれば、こういうふうにはできないのですけれども、必ずしも不利ではないのではないかという意見が結構あるように思います。この辺は、私ども事務方としては、制度にかかわるので気になっていて、今後どういうふうにしてこの5年間を支援していくべきかということにかかわるため、今のまま運用程度で行くべきなのか、そういうところをいろいろ考えてみたらいいのではないかと思っています。つまり、全てそのようにする訳ではないが、制度的にはそういうこともできるというような定めをつくっておくのがいいか、この辺も気になっていますので、感触だけでも、今、お聞かせいただき、またいずれご議論をいただけないかと思いますが、いかがでございましょう。

 【堀井委員】 
 修士論文についてですけれども、例えば学生に達成度調査というのをやっていて、問題解決能力などさまざまな能力がどうやって身についたかという調査を行っていますが、学生の修士論文研究に対する評価というのは極めて高いですね。卒業論文研究に対する評価も学生の評価は非常に高いんですけれども、東大工学部工学研究科で行っている調査ですが、修士論文は極めてうまくいっていると思いますし、教えている教員の側も、卒業研究論文、修士論文については高く評価していて、疲れ切って博士課程に進まないといった状況ではないと考えています。
 特に工学系の場合には、やはり早く社会に出て活躍したいという希望を持った学生が工学部には多く入ってきていますので、現状が、博士進学20%、修士号をとって就職する学生は80%だということがあって、博士に進学する学生が増えたとしても、修士を出て社会で活躍したいという学生は、やっぱり引き続き大多数であろうと思います。そういう学生に対して質の高い修士論文研究をさせてあげるということは、大学としては非常に大事なことではないかなと思います。
 それで、今の80%・20%が将来どういう数値に変わっていくべきかということを考えたときに、例えばですけれども、直接博士に進学する学生が30%になって、社会に出ていく学生が70%、その70%のうち20%が社会人博士として博士に帰ってくる。そんなことを考えると、現在の修士に進学する学生のうち50%ぐらいは、博士課程で学位を一生のうちにいつかとるということが一つの姿として考えられると思います。
 こう考えたときに、この5年一貫制というものの規模感がどのぐらいであり、それが修士から出ていく学生とどのように共存するべきかなどについてイメージできていくのではないかなと思います。

 【有信部会長】 
 今の件に関して少し補足をしますけれども、今、堀井委員が言ったことは、アンケートをとると明確にそういう結果が出ます。しかし企業サイドからその解釈をすると、結局、教育そのものがある意味で機能をしていないということになります。つまり修士論文だとか、修士研究だとか、卒業研究以外の教育に対して、学生がほとんど評価をしていないんです。何度か個別にアンケートをとったり、企業内で聞き取りをすると、教育そのものが役に立ったという意味での評価が相対的に低い。それに対して修士論文の評価は確かにものすごく高い。
 これはなぜかというと、修士論文を通じて教員と初めてコミュニケーションができて、きちんとした指導が受けられて、あるいはその研究室の先輩とか同僚とかとの切磋琢磨があるからということだと思います。こういうことが効果としてすごく出てきているという結果もあります。
 これはすべてではありませんけれども、企業サイドでのそのときの結論は、やはりもっと教育をきちんとやるべきだろうということでした。確かに卒業論文とか修士論文は、今までは非常にいい効果を出していますので、これを即やめると、悪いといわれている教育だけが残って問題かと思います。

 【小松高等教育局審議官】 
 そういう話をよく聞きますが、先ほどの菅先生の話にも出てまいりましたが、研究を一生懸命やっていかないと研究指導が大変なので、そういう中で単位をとって、30単位とかをどういうふうにするかというのは、ありていに言えば、なるべく手をかけないで、それよりも研究そのもののあるプロジェクトに力を入れていくということが、現実問題としてあるという話をよく聞きますが、少なくとも前回の新時代の大学院教育の答申のときはそこが非常に問題になっていて、そこを例えばメインの概念として先生方がコースワークなどをかなり強調され、あるいは学位を、主として5年間後の博士の段階ですけれども、研究の企画力やコミュニケーション力などをその専門と絡めて、コースワークなどでしっかり可視化をして、免許皆伝的な学位ではなく、順に積み上げて、何をしたかどうかを見えるようにしていかなければいけないんだということをかなり強く出されていますけれども、それはまさにその点が問題になっていて、それをしっかり確立していく必要があるということであったと思います。

 【有信部会長】 
 そのとおりです。それで、今までは、修士論文等々でそういうことが初めて涵養されていたということです。大学院でも教育はそれぞれの教員の個性に応じてやられていて、どちらかというと研究が主体でやっていたので、どうしても研究を通じて教育をすると、それぞれの研究室ごとに格差が大きかったり、そこで一方的に研究の手段として使われたりするということが起こり得ていて、こういうことをできるだけなくして、大学院として一定の教育の質を保つようにしなければいけないということで、この前の院答申につながったと理解をしています。
 そこについては、堀井先生のおっしゃることは当然です。今度の検証の中でも、単純な、いわゆる座学がコースワークではないということで、コースワークそのものについてもさまざまな工夫がなされてきていますし、PBLのように具体的に学生たちを鍛えるということで、修士課程については教育的にもかなり進んできたという検証は一応できています。
 ただ、この中で5年一貫制が出てきたというのは、例えば院答申の中で、修士の定義というのが若干あいまいだからです。専門職学位というのは明確に規定されていますし、博士というのは高度の研究遂行能力を持つために幅広い学識をきちんと備えさせなければいけないということが言われていますが、修士は何か非常にあいまいな表現になっており、結果的に、その二つが分かれるような方向がそこで議論されていたということになるんですね。
 ここでの今までの議論を踏まえると、博士前期課程にストレートで進んできた優秀な学生ができるだけ博士後期課程に残って、さらに高度な幅広い知識を身につけて社会に出ていって社会で活躍するような道筋をつけるために、5年制一貫コースというのを新たに設計し直すというシナリオもあり得るということと、もう一つは、既に社会に出てしまった優秀な人たちが学位をとるときに、形式的に学位を出すということであっても彼らにとっては十分有効だし、あるいは彼らの中で実際にそのまま大学に残ってしまう人たちもいるわけですけれども、それがさらに機能的に働くような形としても、5年制一貫コースが成り立つか成り立たないか。あるいは、そういう部分が必要であるとしたら、5年制一貫コース以外に、社会から戻ってくる優秀な人たちが実際に大学の中で力が発揮できて、それが大学のいわばレピュテーションだとか研究能力をさらに高めるという形で機能するような制度設計があり得るか。できれば、これが5年制一貫の中に全部組み込めてしまえば、これは非常にいい設計になるんだと思います。

 【金子委員】 
 先ほどの問題ですが、前回の答申については、そういう意味では私は少し疑問がもともとあったんですが、一貫制がいいという議論は、基本的には、設計としては多分そういうことが言えるだろうと思います。一貫制にしておいたほうが、基礎をまず最初にやって、それからある程度応用をやっていく。それから、仮に修士課程で卒業して社会に出る場合も、やはり修士課程である程度基礎をきちんとやっていれば、外に出てからもう一回戻ってからもリサーチなどができる。ですから、総合的な設計としては、修士課程は一応基礎的なことをやって、その場合、必ずしも論文を厳しく課さないで、一種の試験みたいなことをやる。その後、もう少し特化して研究をやればいいということはあるだろうと思います。
 実際、理工系はよくわかりませんけれども、人文・社会系の一つの大きな問題は、修士論文で力を使い尽くしてしまうということがありましたけれども、もう一つの問題は、あまりにも早く特化してしまうために、周りが見えなくなってくるので、それがやっぱり社会に受け入れられない非常に大きな原因になっているということです。
 私も修士論文の指導はつまらないということをよく聞きます。ものすごく細かいことを言い出して、そこで固まってしまうから、後でほかに発展しようがなくなるというケースが非常に多いわけですね。
 いずれにしても、設計上は、修士課程は比較的基礎的なことをやって、体系的にやるということがいいのではないかという議論があるのは、一方ではそうだろうと思います。ただもう一方で、学生の教育の現場から見れば、非常にドライな理論体系を、教科書的に教えてもおもしろくないであろうし、学生もおもしろくないのではないでしょうか。
 実際に学生に聞きましても、先ほどのお話のように、修士論文は体験としてかなりよかったという人が多いわけです。次に、大学教員に対する調査をやったんですが、その中に、修士論文に価値が置かれ過ぎていると思うか思わないかという質問項目を入れたら、そう思うという人は2割ぐらいでした。8割はやはり重要だと思っているわけです。それは現場の経験からすれば、修士論文でモチベーションが上がって、やっぱり自分で研究することが重要だと考えているということだと思います。
 一つの大きな点は、人から教えられるのではなくて、自分から主体的に何かを探したり研究するという体験自体が多分非常に重要だということだろうと思うんですね。ですが、先ほどのような設計の問題から言えば、それをやり過ぎると、いきなり細かいことをやり過ぎて、後で融通がきかない、あるいは社会に行ってからも困るということにもなりかねないと思います。
 実際、アメリカとの比較において、いろいろな人にインタビューをしたことがありますが、アメリカの大学院生と日本の大学院生の一番大きな違いは、比較的基盤のあるところがしっかりしているか、あるいは非常に細かいところをやっているかというところだと聞きますけれども、ただ、今の段階で、学術的な意味が非常に大きいときは、今はやはりもう少し基礎から固めていって、いろいろな体験を混ぜていくほうが相対的には望ましいので、その方向に向かっているのではないかと思いますが、問題は、それに対応したペタゴジーをどのようにつくっていくのかということです。これは大学院の、むしろ大学の教える側の問題ですけれども、先ほど有信先生がおっしゃったように、それなりに授業の工夫はされているわけですけれども、それで今のところ十分なのかという問題はあるのではないかと思います。

 【五神委員】 
 やはり論点としてどういうことをスタートに考えたかというと、高度人材として、博士という課程をどう使って、それを今の定員である、例えば理工系ですと6,000人、それをつくることが必要だということが明らかだということが前提にあると思うんですね。その根拠は、一番の要因は国際化です。
 中国からアメリカでPh.D.をとる人だけでも6,000人ぐらいいるという中で、アメリカはこう、日本はこうというモデルの中で、大学院博士課程を議論してもしようがない。それは、そのPh.D.という学位をきちんと与えて、その資格が国際的に通用する中で活躍していかなければいけない、勝負をしなければいけないという状況の中で、博士課程というものを見直したときに、それをきちんと国際的に通用する基準で機能させなければいけない。
 そうすると、理工農で言えば、修士課程で数万人いるわけです。それが日本の高度な部分の労働を支えていることは確かで、その教育も大事である。しかし、それに比べて博士の部分が弱体過ぎるし、国際的なスタンダードから見たときに遅れていることは明らかで、博士課程をどうやってきちんと定着させるかということを考えるときに、博士の教育を受けるのに最もふさわしい人が博士に進学しないという現状を修正する方策として、理工農では5年一貫制という方向性を出したというわけです。
 しかし、その5年一貫制の規模を何千人としたときに、そこに人をきちんと集めるためには、それに応じた規模感のあるキャリアパスを用意しなければいけない。受け皿を用意することを施策として提示できるかどうかが重要です。それができないのであれば、一貫制にするといっても、そこには学生は来なくて、筑波大学の一貫性がうまくいかなかったのと同じことが、たとえ東大でやっても起こるわけです。
 ですから、何千という規模のものを、博士のキャリアを民間・官・大学、アカデミアを含めて、どういう割合で、どういうふうに用意していくべきかということをきちんと考えながらやっていかなければ、これは絶対に失敗すると思います。しかしやらなければいけないということは明らかで、これは、中国から6,000人、韓国から2,000人ぐらいがアメリカでドクターをとっていて、その人たちがコンペティターになることは明らかなわけですから、それは避けられない。
 部会長がおっしゃっているように、民間で既に社会に出ている人たちの中にミッシングジェネレーションができてしまっては困る。つまり、その中にもPh.D.という学位を持って、残りの20年、25年ぐらいのキャリアにおいて世界を相手に闘わなければいけない人が相当数います。その人たちにきちんと学位を与えるということをやるべきであると思います。
 問題は、高度な人材として博士が何千人必要だといったときに、その人が、今必要とされていることに対してふさわしい力を与えることができるかどうか。また、ふさわしい能力を持った人をきちんと選抜できるのかということを考える必要があると思います。そのときに、現在の大学のシステムやインフラを大いに活用すべきです。先程、医学系で知識等が500倍、1,000倍になったという話があったように、ほかの分野でも同じだと思いますが、修得すべき知識量というのが非常に増えている中で、それを再体系化し、学理として整理して、それをリーズナブルな形で教えていくという作業が必要となるからです。それは教育研究と一体化する中で作業を進めるのが一番効率的であって、それは大学院におけるコースワークというものに相当するような、学理をきちんと体系的に整理して教えるという作業の中に同時に出てくる自然な作業です。
 ですから、コースワークを積極的に進めるということが、大学人にとっても、学問を深める為にも、無駄な別の作業を強いることではなく、まさに本来のミッションであり、矛盾しないと思います。

 【梶山委員】 
 大学院を5年制にするというのは、先ほど言われたように、社会の受け皿をどうするかということが非常に重要ですね。ただ、私はちょっと別の見方をしたいと考えていています。本来、勉強をするときと研究をするときは、ある程度分けてやるべきだと思っています。
 日本の場合は、私は理工系しか知りませんけれども、修士1年に入ったら、最初からずっと研究をやって、それで2年後に修士論文を提出するわけです。その間に授業も受けるわけです。授業を受けることと研究をすることとのメリハリがつかないんです。本当は基礎学力をきちっとチェックしながら進んでいくべきなんです。博士課程も同じです。
 ですからそういう意味で、5年制のいいところは、最初は徹底的に勉強をさせ、後半は徹底的に研究をさせるというメリハリをつけられるということです。修士2年、後期3年と分かれていると、そういうメリハリがなかなかつきにくいんですね。
 ですから、修士論文が非常にいいという先ほどのお話は、別の見方からすると、それは修士論文しかやっていないからすごくいいように見えるけれども、まず一生懸命基礎学力をつけさせて、その理解をチェックするために試験があり、そこで先生と1対1に対応しながら勉強していたら、むしろそちらの方がよかったという人も出てくると思うんです。日本はそういう経験がほとんどないため、先生たちともっとも会うチャンスがあるのが修士論文、博士論文を書くときなんですね。ですから、基礎の勉強と、その大学院のための研究というのは、きちんとメリハリをつけてやるべきだと思っています。

 【金子委員】 
 今のお話もそうですけれども、その前に、先ほど非常に高度な人材が必要であり重要だということで、それはそうだと思いますが、ただ、大学院の教育のモデルとして考えるとどうなのかということです。私は3つのモデルがあると思うんですが、第1モデルは、5,000人だか、6,000人だか、その分は一貫制で非常に高度な教育を、最初からあまり区切りもつけず、修士を想定しないでやってしまうというモデルです。
 2番目のモデルは、一貫制であるけれども、比較的、修士はあまりリサーチとかそういうことはやらせないで、基礎的なことをもっときちんとやらせる。基本的には準備期間であるというモデルです。
 3番目のモデルは現行どおりで、修士でもそれなりにロードをかけ、それなりに研究もやらせるというモデルです。それは一種の経験としては重要だと思います。博士では、もう一回、修士よりも本格的なものをやるというモデルです。
 非常に端的に言うと以上の3つのモデルがあると思うんですけれども、高度な人材を教育するのは2番目のモデルでもできないでしょうか。できるのであれば、2番目のモデルというのも結構あり得るのではないかと私は思うんです。2番目において、比較的修士のリクワイヤメントを、リサーチというよりはむしろ基礎的な教育に置くというモデルでも高度人材の養成はできるのか。そこは矛盾するのかどうかということについてお聞きしたい。

 【有信部会長】 
 今の話は、基本的には矛盾しないと思います。
 議論の方向性が見えてきたような気がします。五神委員が言われたように、中国から、例えば高水平というプログラムだけでも、毎年5,000人の優秀な学生が選抜されて、世界中の大学院で学位を取得して、その後中国に戻って2年間は働くというプログラムが動いているわけです。それ以外に優秀な人たちが、どんどんアメリカで学位をとっています。実際にアメリカでPh.D.の学位をとる人数は、例えば韓国でも日本の倍ぐらいだと思います。国際的に競争するといったときに、当然、日本の能力ある人たちが修士を出たまま就職をすると、不利になるのは目に見えているというのは論理的には明確です。ただ実感的にそういうことを感じている人たちがあまりいないので、そこに至るまでとりあえず放っておいていいかという現状に対する一つの提案がここで出されていると理解をしていただければいいと思います。
 インセンティブにしても、なぜか実感を持っていない人が多いゆえかどうかわかりませんが、博士課程に対してネガティブなキャンペーンが多いんですね。例えば生涯年収が違うといった議論がありますが、例えば修士課程を出て、そのまま企業に就職して3年間働いたとして、年収500万円としても1,500万円ですね。この1,500万円の差がほんとうに生涯年収の差として意味があるかどうか。会社の中でちょっとした昇進の前後があれば、これぐらいの差はすぐに出てきてしまいますし、例えば違う会社に就職すれば、このぐらい簡単に違ってしまうわけで、大して意味がないことが非常に大きな意味として喧伝されているということもありますし、例えば3年間遅れて入ることに対して、企業の人たちが非常にネガティブな印象を持っているということも言われておりますが、これはたまたまそういう人事採用担当者に聞けばそういうことを言うかもしれないけれども、実際に人を欲しがっている現場の人たちに聞けば、また違う答えが返ってくるかもしれませんので、キャンペーンという意味では、もう少し正しいことを知らせていくということが重要だと思います。それが重要であるということを示す意味でも、新しい施策を出して、その新しい施策の中で具体的な方向性を見えるような形にしていくというのが重要な気がします。
 具体的なあり方については、それぞれ、今、金子委員からも意見がありましたし、いろいろな設計の仕方があると思いますけれども、五神委員がさっき言われたような流れの中でいくと、これを例えば理工農系だと学位プログラムのような形でまとめ上げていくということも十分可能だろうと思います。ただその全体像や目指すところをやはり明確に危機感を持って打ち出さないと、全く理解されていないというのが現状です。理工農系の人たちだけがドクターを持っていないと大変だといって危機感を持っていても、受ける側がまだ実際には危機感を持っていないという状況もありますし、これは多分人社系も似たような状況があると思うんです。
 ですから、そういう方向で少し論点の整理をしながら詰めていきたいと思います。例えば具体的にどういう制度設計にすべきかという議論と、制度と同時に、その中の構成、つまり教育をきちんとやらなければいけないという部分の構成をどういうふうにしていくかという話など、こういうことについて少し詰めていければと思いますが、ご意見がありましたらどうぞ。

 【五神委員】 
 この議論をしていて一つ気になったのは、人社系は、博士のキャリアとしてはアカデミアがほとんどで、それが減っているから博士の数を増やせないという話がありますけれども、本当にそうなのかということです。グローバル化していく社会の中で、人文・社会系のPh.D.も日本にとって必要性は高まっているので、もっと着実に養成していかなければいけないのではないでしょうか。そこをまず確認したいと思います。

 【金子委員】 
 ここが非常に難しいといいますか、要するに、あるべきであるというのと、現在がどうであるかというのは、その議論がかなり微妙なところでございます。ただ、先ほど私が実態の把握が非常に重要だと言っていたのは、実際には就職している人が結構いるということがあるんです。しかし、我々が把握しにくいようなところに就職している。これは基本的には、情報関係、教育、医療などの社会サービス系のところですね。しかも比較的小規模の企業なので、それを把握しにくいんですね。

 【五神委員】 
 日本人で、理工系でない方で、世界をまたにかけて活躍している方の中で、やっぱりPh.D.が必要だと思ったときに、海外でドクターをとるしかなくて、海外でドクターをとったという話は時々聞くんですけれども、それは量的にはネグリジブルな少数の例外の話なんでしょうか。

 【金子委員】 
 その点は、今、10年とか15年ぐらい前と様相がかなり変わっていて、かなり国内で出るようになったので、国内の大学院で学位をとりにくいために、例えば国際機関に就職しにくいという状況はかなり変わってきているように思います。
 ただ、今おっしゃったようないろいろな人材が、普通の企業を対象とした調査では分からないようなところにおそらく就職しているということなんですね。しかもポテンシャルはそこにあるので、そういうところに就職できるような可能性を広げていくということは非常に重要だと思います。

 【五神委員】 
 施策として議論するときには、マクロに見たときの規模というのがどういうふうに推移しているか。それが500人なのか、1,000人なのかという数字がつかめると、議論が非常にわかりやすくなるなといつも思うんです。

 【金子委員】 
 その点に関しては、要するに今までの調査方法では、つかみにくいところに就職しているので、非常に把握はしにくいということです。ですから、例えば大学の側がもう少し努力をして調査をすることが非常に重要だろうと思います。

 【丸本委員】 
 先ほども申し上げましたが、社会や企業が本当にドクターを求めているという情報が大学院の学生にはあまり伝わっていないような気がします。ですから、博士課程に進むと専門的にはなるけれども、どうしても就職のチャンスが少なくなるという雰囲気が、今、出ているんじゃないかと思うんです。
 5年間も非常にいいと私は思いますけれども、結局5年になると、先の見通しが本当に立っているのかという不安を学生が持つわけです。ですから、キャリアガイダンスもそうですが、ちゃんとニーズがある、自分が勉強して頑張れば、ちゃんと先はあるんだという不安は国としても解消しなければいけないことではないかと思います。
 もう一つは、博士課程まで進む学生には、少なくとも給付型の奨学金がきちんと措置されて、勉学の期間も不安がないというような状況をつくり出さないと、必ずしも家庭的に裕福な人ばかりがドクターに行っている訳ではありませんので、大学も努力をしておりますが、その辺の制度を国としてもある程度整備する必要があると思います。ドクターコースに行って博士号を取得したいという学生はたくさんおりますので、教育の問題はありますけれど、そういう環境整備を、この議論と同時に、並行して進めていくことが重要ではないかと考えます。

 【有信部会長】 
 博士課程に進学するに当たっての不安というのは、今おっしゃるように、確かに就職できるかどうかということもありますが、3年間で学位がとれるかどうかということも実はかなり大きな不安なんです。自分の経験からしても、我々の時代は、ドクターコースに行って学位が取得できる人は、3年間で半分いればいいほうで、大体半分にも満たないという状況でした。それでもドクターコースに行く人は行ったということだったわけです。
 今の話に対して少しだけ補足すると、学術審議会の人材委員会のデータがありますが、ドクターコースの修了生の就職は、全体で見ると、ここ数年間増えておりません。したがって、結果的に言うと就職口は広がっていない。しかし、大企業だけとってみると増えております。むしろ大企業側が増えていて中小企業側がわりとシュリンクしてきている。中小企業で採用数はそんなに多くありませんから、大半は大企業で吸収しているということだろうと思います。
 この辺のことも本当はもう少しきちんと説明をしないといけないし、おそらく企業の種別によってもドクターに対する感覚が違って、ドクターを多く採用している企業は、ドクターに対して抵抗がなく、要はドクターもマスターも全く同じ感覚で採用しております。また一方、それがいけないという言われ方をしているわけです。ドクターをもっとちゃんと評価をしろと言われているわけですけれども、こういう状況も踏まえなければならないと思います。
 ドクターに対して言うと、先ほど梶山委員も言われましたように、徹底的に教育をすることによって、ちゃんとした学識を備えた研究能力のある人材として外に送り出せば、当然評価は高くなる。実際には企業の中でも、博士課程の修了者に対して給料の差をつけ始めているんですね。そういうことも実はほとんど知られていないということもありますので、そういうことも含めて、提案できるようにし、ただしその設計についてはこの中でもう少しよく議論したほうがいいと思います。

 【梶山委員】 
 優秀な修士がドクターに行かないというのは今言われたことだと思いますけれども、もう一つ、私は今、学生支援機構にいますので、やはり奨学金のことは言っておかないといけないと思うんです。従来の日本の奨学金というのは経済的支援であり、優秀な学生を育てる、優秀人材育成という概念はほとんどないんです。それが給付型だと思うんですね。
 例えば、来年、子ども手当の2万6,000円を1,000円だけ下げて2万5,000円にしたら、2,100億円浮くわけです。2,100億円というと、1年間100万円を給付すると21万人に支援できるんです。平均3年サイクルで考えると、1年間に7万人の人を支援できます。すごい数なんですね。今後、給付型で優秀な学生が経済的に安心して大学院で勉強できるというシステムをつくることが必要ではないかと思います。

 【桐野委員】 
 関連しますが、医学部の初期臨床研修制度のときに、国が研修医の給与を出すべきだということになり、研修医は現状では月額30万から40万円、場合によっては50万円近くの給与を受けて仕事をしています。これは研修医の医学を学ぶ者という側面と、病院に働いて診療報酬をあげているという側面の両方があると思いますが、そのときに、基礎医学に行く人たちにもそれなりの処遇をしないと競争力がなくなってしまうため困るという議論をすると、必ず何で医学部だけなんだという議論になるんです。
 逆に言えば、理学部でも、何学部でも、博士課程以降は給与を支給するべきなんですよ。これは当たり前のことです。しかし、大学院の学生も学生だから授業料を払って勉強をするのは当たり前ではないかという概念があるため、まず一つにはこの概念壊さないといけないと思います。
 もう一つは、現在、各大学とも特任型の任期付きのポジションを増やしています。このこと自体は悪いとも言えないんですが、非常に不安定なポジションになっているので、例えば国が、予算が足りないといって仕分けであの特任型のポジションをなくしてしまって、もう二度と回復できないほど大きなダメージを与えるということが一つ。
 もう一つは、それぞれの奨学金や、あるいはそれを給与にしてもいいけれども、その配分を、それぞれの大学に何人、この学部に何人、この研究科に何人というような配分の仕方をせずに、研修医と同じように個人にまず給付をして、その個人が研究室を選ぶようにすれば、ものすごく競争力は出ると思います。そういう工夫をされて、今も大学院の博士課程にはかなりいろいろな支給があり、昔より随分よくなっていると思いますが、そこはぜひやらないと。将来博士課程に行った方が就職に困らないような時代にしなれば、これは直接的に企業と研究者との間の競争になってしまうので、ますます不利になってしまいます。そこはお考えいただいたほうがいいと思います。

 【有信部会長】 
 最初の意見の、ドクターコースの学生は研究者か学生かという議論は、実は前の院答申のときにやったので、そこについては、今のご意見を踏まえてもう少し検討の余地があろうかと思います。いずれにしても随分よくなりましたが、研究者としての側面と学生としての側面は両方あって、学生としての側面からすると、やはりきちんとした教育をしなければいけない、つまり育成しなければいけない対象であるということなんです。

 【桐野委員】 
 研修医も同じですよ。

 【有信部会長】 
 だからそこは何で医学部だけなんだという話になるのかもしれませんけれども、例えば、医学部の研修医ができて何でほかの部分ができないんだという議論もあり得るので、基本的にドクターコースの学生をどう扱うかということを含めて考えるということと、それから今の学位プログラムという問題提起とあわせてどう考えていくかという話で、こういうことを考えると、一番問題なのは、全部一律にやってもだめだということなんです。やってもだめだというのは、今、盛んに議論されているのは主として研究大学院的な部分です。世界に冠たるというか、世界に先行していく、あるいは世界の主要な部分で活躍する優秀な人材を輩出するという部分で、優秀なという言い方が価値観を伴って言われるので、表現が非常に難しいんですけれども、こういう部分と、やはり社会の中で実質的に活躍をしていく専門的な人材を育成するという部分と、それぞれ役割が違うというところがあって、例えば企業の中では、何も試験の成績がよくて先端的な知識があるといった人たちばかりが企業を運営するわけではありません。むしろ全然違う層の人たちが企業を運営しているわけですね。しかしその中で、企業を引っ張っていくコアになるものを生み出す人たちは、非常に優秀な人たちが生み出している、こういう構図になっています。
 したがって、大学院にしても、はっきりとした位置づけがされたものについて、まずはこういうものだということを明確にした上で議論を詰めて、具体的な例示というか、こういう人たちを育てるということをはっきりさせたほうがいいのではないかと思います。

 【荻上委員】 
 今、部会長が言われたような、その二つの機能といいますか、二つの目的を一つの研究科、あるいは一つの専攻だったかもしれませんが、そこで、まさに学位プログラム的なものを立てて取り組んでいる大学院があります。これは、大学院教育改革支援プログラムに採択されて、まだ進行中かもしれませんけれども、現にそういうところをやっているいい例があるはずですので、事例として紹介していただくようなことも事務局のほうでやっていただくと参考になるのではないかと思います。
 学位プログラム的な側面からとらえることもできるし、それからこの資料で言えば、資料2の8ページのところの「5年間を一貫して見通した博士課程教育」というところの二つ目にある、先ほど審議官が言われた修士論文云々というところにも関係してくると思いますし、いろいろな側面を持っている例がたしかあるはずですので、そのような資料も用意していただければ議論の参考になるのではないかと思います。

 【樋口大学改革推進室長】 
 その点については次回の会議までに資料を用意したいと思います。

 【延與委員】 
 先ほどから気になっていますが、5年一貫制自体はいいと思うんですけれども、研究者教育と、博士の学位を持って企業に行って頑張る人の教育を分けて考えないと、何かおかしくなるのではないかと思います。後継者たる研究者を自校でつくり直せないようなところは仕分けすればいいわけです。自分の後継者をつくるという部分は、大学院を持っているところなら必ず自分でやらなければいけないことで、しかし、大学外にどういう人材が必要かというところまで気を配って何かやりましょうということを、この会議で去年、延々議論したことだと思っていました。それらをごっちゃにすると、多分違うものになってしまうと思います。また、どのように進めるかというところでは、分野の違いが大きいとの結論も出、分科会も持たれたのだと思いますが、この答申書に生きていないように思います。

 【有信部会長】 
 そこはごっちゃにしないようにというのが、今、申し上げたことなんですけれども、例えば、ただし企業で活躍するにしても、研究者として研究能力を持った人たちはやはり必要だと思います。

 【延與委員】 
 そのとおりです。

 【有信部会長】 
 ですから、そういう人たちを養成する。つまり、イノベーションの源流になるような、本当に創造的な仕事を先導していけるような人たちをもっとつくらなければいけないというのが理工農系で言えば一つの課題になっているわけです。
 それから人文・社会系で言うと、具体的に仕事を進めていく上で、非常に高い洞察力を発揮できるような、広い視野と学識を持った人材が育成されているかどうかということが問題になるわけで、それぞれ多少違うということだと思います。

 【延與委員】 
 だから、出口の主体はアカデミアではないということですね。

 【有信部会長】 
 もちろんアカデミアに限っているわけではありません。
 実際には大学院部会の具体的な答申としては、ここにまとめられているようなことを今の議論を踏まえて少し整理をすればいいと思いますが、さっき言った次のステップの、新しいことをどうやっていくか。例えば5年制の博士課程というものを一応提案しているわけです。ただ、これは本当はもう少し具体的に詰めないといけないと思うんです。これをどうやって詰めるかという話ですが、どうしましょう。全体の場で延々と議論をしても、そのたたき台をつくらないことにはどうしようもないので、たたき台をつくるようなことを少しやってはどうでしょう。

 【延與委員】 
 筑波大のケーススタディをやったほうがいいんじゃないですか。

 【小松高等教育局審議官】 
 その進め方はいろいろあろうかと思いますので、ご示唆に従いながらやりたいと思いますが、今までのご議論の進み方との連動で言えば、もちろん適宜少し少人数にピックアップしていただいてご議論いただいても結構ですし、ただどちらにしても、先ほど荻上先生からお話があった、現に今行われているような学位プログラムの試みを例えば幾つか取り上げてみるとして、今日は使う時間もなかったんですけれども、机上配付資料として学位プログラムの関係のメモが1枚ございますが、これを議論するにしても、例えばその構成要素は何だろうかというようなところや、このぐらいのアプローチから見るのかなとか、あるいはその政策手段をどうするのかなとかいうことを、少し軸を立てて議論してみていただくこともいいのではないかと思います。

 【有信部会長】 
 ただ、いずれにしても、これで議論しましょうといっても、具体的に詰まらないと思うんですね。ですから、ある種のたたき台が必要かなと思っています。少し整理をした上で議論をすることが必要だと思います。
 では次回、それを含めて、あわせて議論できるようにしましょう。全体の枠組みと、たたき台として非常にドラスティックな案でもいいから、具体的にどのような形で施策を進めるかという、例えば5年一貫制で非常に先端的な大学院をどこかにつくってみるとか、現実に筑波のナノテクアリーナでは、新しい大学院の動きもありますね。確かに3つぐらいの大学が集まってやろうということでやっていますから、その中でまた何を教えるかということを含めて検討しようとしていますので、そういう具体的なことを、例えば先導的に幾つかのところで、機能を分けていいと思うんですが、やってみるというような手段もあり、それが学位プログラムという形でどのように実現するかというモデルケースをつくってみるというのはあるかもしれません。
 全体の制度を一度に大幅には変えられないと思いますから、そのステップを踏まえて、変えたほうがよければ変えるということと、もう一つ考えておかなければいけないのは、ボローニア・プロセスで3・2・3という学位のサイクルの標準があるということと、アメリカは基本的に学位プログラムという形で物事が進んでいるということと、将来的に両方にきちんと対応できるというか、その両方をむしろ先導するような形で日本として確立していかないと、アジアに対して日本の魅力がなくなってしまうということがありますので、少し何かモデル的なものをきちんと考える必要があるという気がします。このような問題意識を持って先端的なことをきちんとやっていかなければいけないと思います。
 いろいろいい議論が出てきたとは思いますが、中途半端なところで時間になってしまいましたので、また次回少し整理をするということにしたいと思います。
 事務局から何かあれば。

 【樋口大学改革推進室長】 
 ありがとうございました。次回は、6月15日の夕方17時から19時を予定してございます。主な議題といたしましては、ここは今後の大学分科会全体のまとめに係る大学院部会としてのコントリビューションといいましょうか、今日の議論を踏まえて要点を整理してお示しするということと、今後の議論に向けた検討の土台をどうしていくかということにつきまして、部会長ともご相談してご用意していきたいと思っております。
 以上でございます。

 【有信部会長】 
 それでは、本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。本日はこれで閉会いたします。

 

 

 

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