大学院部会 議事要旨

1.日時

平成21年6月10日(水曜日) 15時~17時30分

2.場所

文部科学省 13階 13F2・13F3会議室

3.出席者

委員

(臨時委員)有信睦弘(部会長)、今榮東洋子、木村孟、小杉礼子、中西友子(副部会長)の各臨時委員
(専門委員)延與秀人、桐野髙明、五神真、菅裕明、角南篤、続橋聡、中西茂、古市喜義、堀井秀之の各専門委員
(意見発表者)佐藤将史株式会社野村総合研究所主任研究員、妹尾昌俊株式会社野村総合研究所副主任コンサルタント

文部科学省

坂田文部科学審議官、布村文教施設企画部長、土屋政策評価審議官、岡文教施設企画部技術参事官、久保高等教育局審議官、戸谷高等教育局審議官、藤原会計課長、片山高等教育企画課長、義本大学振興課長、藤原専門教育課長、下間学生・留学生課長、榎本高等教育政策室長、水田大学設置室長、今泉大学改革推進室長、蝦名国立大学法人支援課企画官 他

4.議事要旨

【有信部会長】 
 それでは、第5期中央教育審議会大学院部会委員懇談会を開催したいと思います。本日はご多忙の折ご出席いただきまして、ありがとうございました。
 本日は出席者の数が定足数に満たないので、委員懇談会として開催させていただきます。
 それから、前回からご案内しておりましたように、5年前に「新時代の大学院教育」という提言が出されて、その後大学院教育の実質化という取り組みが進められてきましたが、それに向けて現状がどうなっているか文部科学省で調査していますので、その結果について報告していただきたいと思います。
 それからもう一つは、毎年の予算の策定に向けて、当面の議論の内容をまとめていく必要があります。したがって、大学院部会としてもこれまでの議論のまとめを出していきたいと考えております。今回を含めてあと3回ぐらいで議論を集約していく必要がありますので、そのことを頭に入れながら議論を進めていただければと思います。
 本日は、大学院教育の実質化、国際的に卓越した拠点形成のあり方、大学院の量的規模に関して議論を深めるということで進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 それでは、まず事務局から配付資料の確認をお願いします。

【今泉大学改革推進室長】
 それでは、配付資料の確認をさせていただきます。まず議事次第がございます。資料1といたしまして、4月28日に行いました第43回の本部会の議事録がございます。議事録については、もしご意見等あれば6月16日までに事務局にお寄せいただきたいと思います。続きまして資料2といたしまして、「大学院教育の実質化状況について」という、ただ今部会長からご紹介のあった調査結果についての資料でございます。
 資料3-1といたしまして、本日ご発表いただきます東京大学の堀井委員から、「東京大学大学院工学系研究科工学教育推進機構の活動紹介」と題した資料がございます。資料3-2といたしまして、本日ご発表いただきます菅委員から、「大学院教育-日米の違い-について」と題した資料がございます。資料4といたしまして、本日ご発表いただきます五神委員から、「国際的に卓越した大学院先端研究教育拠点の形成について」と題した資料がございます。資料5-1といたしまして、本日ご発表いただきます野村総合研究所さんから、「平成20年度 様々な社会経済環境の変化を踏まえた博士課程の今後の状況についての調査」の資料がございます。資料5-2といたしまして、「大学院教育の現状について(追加資料)」と題した資料がございます。
 資料6-1といたしまして、大学院に関する課題と論点整理のペーパーがございます。資料6-2といたしまして、「大学院部会におけるこれまでの主な意見」がございます。資料7といたしまして、「大学院部会の今後のスケジュールについて」の資料がございます。参考資料1といたしまして、「大学院修了者に係る関連資料」、参考資料2といたしまして、本日ご欠席されました山田委員からの意見、コメントの資料がございます。
 そのほか、机上配付させていただいているものといたしまして、大学院教育改革に関するご意見伺いの資料、そして本日ご発表いただきます野村総合研究所さんの参考データ集、さらに5月31日に東京新聞等に出ました「博士課程定員縮小」と見出しの付いた資料がございます。この点については、この後詳しく事務局から説明させていただきたいと思っております。そのほか、大学院教育振興施策要綱、新時代の大学院教育の中教審答申等を配布させていただいております。
 以上、不足等ございませんでしょうか。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。これまでの議論で、問題点の所在とその解決の方法については、ほぼ大まかな方向性が見えてきたような気がしています。この点は、今後の議論を踏まえながら事務局を中心に整理していきたいと思っていますが、先程申し上げたように、当面のまとめをするということで、これからの3回の議論については、中間段階として議論を集約するということを念頭に置いて進めていただければと思います。
 それでは、最初の議題の大学院教育の実質化状況について、文部科学省から調査結果を説明していただきます。

【今泉大学改革推進室長】
 それでは皆様、資料2をご覧ください。これは大学院教育の実質化の状況について、本年度大学院を置く国公私立大学597大学を対象としてアンケート調査をしたものでございます。
 まず、教育上の目的の学則等への規定状況でございます。全学的な目的を定めているところは84.5%となっております。具体的な取り組み状況については、計画的に教育課程を編成して体系的に教育内容が身に付くようにしているところが90%ございます。一方、インターンシップ、キャリア教育の実施、海外の大学との連携、英語によるプレゼンテーション能力等の養成については、40%から60%ぐらいのパーセンテージとなっております。
 教員組織の整備状況でございますが、専門的知識を有する大学職員を雇用しているところについては43%でございます。また、FDに関しては既に86%実施している状況でございます。また、成績評価基準の明確化についても、93%既に実施しているところでございます。さらに、学生に対する修学上の支援として、経済的支援の内容があらかじめ周知されているところが87%、TA・RA等の経済的支援を行っているところが76%でございます。
 自己点検・評価体制の整備等につきましては、専門分野別の自己点検・評価を実施しているところが77%、第三者評価を実施しているところが60%程度となっているところでございます。また、教員に対して教育面での能力や業績の公正な評価を行い、それを給与等の処遇に反映しているところは38%と低い値になっているところでございます。
 なお、教員の教育業績の評価に関しまして、学士課程答申の中に言及のありましたティーチング・ポートフォリオを紹介させていただきたいと思います。これは、教員の教育業績に関する証拠・記録する資料が集合したものであり、教員の教育活動を可視化する資料として活用されているところでございます。
 また、教員の教育活動を可視化するだけではなく、将来の授業改善に役立てる、または優れた授業、巧みな工夫がほかの人にも共有される財産となり得るということも期待されます。こういう取り組みを行っている先進事例としては、金沢工業大学さんと立命館大学さんでそれぞれ新採教員を対象とした取り組みを行っているところでございます。
 以上でございます。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。数字上では、それぞれの指標でこれだけ進捗しているということがわかりますが、この内容が具体的、実質的にどうなっているかについては、いろいろと議論があると思います。ただ、まずはこういうことが進まないことには実質化に結びつかないということもありますので、それはある程度確認できるのではないかと思います。
 あと、一番重要なのは、大学院サイドでの自己点検を通じて実質化されるということですが、ただ、その方向が間違いのないように、私たちとして何をすべきかということをぜひ議論していただきたいと思います。
 それでは、本日の議題についてのプレゼンをお願いしたいと思います。本日は、議題ごとにプレゼンテーションとディスカッションを行う方式で進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。まず、東京大学における工学教育推進機構での取り組みについて堀井委員から、日米の大学院教育の比較、あるいはTA・RA等についての経済的支援に関連して菅委員からのプレゼンをお願いします。お二人のプレゼンが終わったところで、議論していただこうと思っていますので、よろしくお願いします。 

【堀井委員】
 それでは、資料3-1「東京大学大学院工学系研究科工学教育推進機構の活動紹介」についてご説明させていただきます。2ページの工学教育推進機構の目的と活動ですが、学科・専攻の領域を超えて、共通的、俯瞰的、学融合的な教育と手法を研究開発し、その実践により具体化を行います。具体的には、工学知構造化教育ということで工学教育の構造化と可視化、シラバスの体系化、創造性工学教育ということで問題発掘、解決能力開発、新しい教育方法の創出、国際連携教育ということで国際的なコミュニケーション能力開発、教育改革のための調査ということでカリキュラム分析、達成度調査を行っております。事業の期間は平成17年から5年間で、本年度が最終年度になっております。
 3ページをご覧いただきますと、工学教育の構造化と可視化について、MIMAサーチをはじめとしてシラバスを電子化し、ITツールを使って学習の支援を行っており、3種類の検索が行えるようになっています。一番上がMIMAサーチというもので、科目と連関のグラフ表示ということで、学生がどういう科目をとるか考えたときに、関心のあるキーワードとそれを教えている科目の関係が見られるようになっております。それから、体系的に分野のカリキュラム構造を知るということで、課題指向型の表示と通常の学年進行型のカリキュラムの表示の3種類ができるようになっております。
 4ページ目はMIMAサーチによる講義の相互関係表示ですが、これはどなたでも工学系研究科のホームページから入っていくことができます。左上の検索キーワードというところで例えば環境エネルギーとインプットしますと、このキーワードに関連した科目が表示されます。
 通常の検索ですと、左側のようにただ科目が順番に並ぶだけでございますが、右の図にあるように関連する講義が相関性の近さによって線で結ばれており、かなり類似性の高いもの、例えばエネルギー問題に関する講義、環境問題に関する講義、地球環境問題に関する講義は丸でくくられるという形で、どういう講義があるか可視化できます。大体毎年講義の登録期間の前に非常にアクセス数が増えており、かなり使われていることを確認いたしております。
 それから、5ページ目は課題指向型分野構成の例ということで、例えばIT分野、ナノバイオの分野、環境の分野のように横断的で複数の学科がそういうカリキュラム、講義を持っているときに、それをキーワードからではなくて、分野の構造、階層に基づいて、階層構造をたどっていくことによって、カリキュラム体系を知ることができるようになっております。これが工学教育の構造化と可視化という部分でございます。
 そのほか、創造性教育の部分については時間の関係で省かせていただいておりますが、6ページ目の工学教育推進機構が提供している共通講義ということで、各専攻が各専門分野において提供しているカリキュラム以外に、工学全体にとって重要な講義を工学教育推進機構で分析して、共通講義という形で提供しております。この例は工学・技術の社会とのかかわりということで、設計から利用、管理運用、再生というサービス、製品のライフサイクルを理解させるために、産業界からのご協力もいただいて、インターンシップや施設・現場見学を組み合わせ、最後には論文の書き方も指導するという、通常の専攻で提供されている講義とは違ったタイプの分野横断的な共通講義を提供いたしております。
 それから、7ページは国際コミュニケーション能力開発プログラムということで、後ほどご紹介します学生の達成度調査からは、学生が自分の国際コミュニケーション能力がかなり足りないという認識が強く、また、国際コミュニケーション能力を高める講義を提供してほしいという要望が学生からかなり強くございます。教養学部、工学部、工学系研究科という流れの中でそれぞれ英語に関する教育をしておりますが、大学院においては科学・技術英語A、Bということで英語論文の読み方、書き方、プレゼンの仕方を講義しております。
 8ページは科学・技術英語A、Bの具体的な内容でございますが、講義と演習を組み合わせた新しい講義スキームということで、科学・技術英語教育経験のある日本人教員による講義、それからネイティブな講師を雇って、しかしネイティブな講師は必ずしも科学・技術英語について詳しくないので、講師に対する指導を東大の教員が行うことによって、適切な英語教育ができるようにしようというものです。9ページ目は教育の一部ですけれども、例えば学生が書いた英文に対してこのような形でいろいろ修正し、指導している例でございます。
 10ページ目は、国際コミュニケーション教育に関する学生からのアンケートの結果ですが、学生からは非常に評判の高いカリキュラムとなっております。こうした英語に関する教育だけではなく、11ページにありますように、東大とソウル大との英語による遠隔交流講義を衛星を使って行っているわけですが、この運営支援も工学教育推進機構で行っております。
 12ページは国立の8大学で連携して行っている事業ですが、学科・コースごとに約100のキーワードを選定して、卒業生が自己評価を行う専門力達成度調査というものです。ここにお示ししたのは学部卒業における結果でございますが、修士修了時における結果も同様に得ております。
 あるキーワードに対して応用できる程度の学力を身に付けたものが5点で、青色で示しています。用語の内容をよく理解している、ほぼ理解している、あまり理解していない、理解していないというように学生が自己評価をして、卒業する前の2月ごろに紙を渡して卒業論文と同時に提出するという形になっております。下の図では、ある学科における結果を示しております。
 縦軸には回答者、横軸にはキーワードが並び、平均点の高い学生から順に上から並んでいます。また、点数の高いキーワードから順に左から並んでいて、青が多い方が良いということです。このような分布になっているということが一目瞭然でわかるので、教えている側からすると、右にある比較的だれもあまり理解していないキーワードがなぜそうなっているのか分析を行いますが、コース制をとっていることが多いので、あるコースによってはとっている学生が少ないキーワードもあるという事情もあるかと思います。
 それから、13ページは人間力達成度調査というものです。問題発見・解決力、チーム能力、コミュニケーション能力等が一体何によって達成されたか示しています。例えば問題発見・解決力は卒論で養われたと答えている学生が84%でありまして、矢印が上を示しているのは去年に比べて比率が高まったということです。
 ご覧いただきますように、人間力の達成度の上で卒論が果たしている効果は非常に大きいということがおわかりいただけると思います。卒論はやらなくてもいいという意見もあるようですが、やはりこういう根拠に基づいて分析するべきではないかなと感じます。国際力がなかなか身に付いていないことは、この表からも見受けられるかと思います。
 それから、ここには示しませんでしたが、修士でも同じように調査をしています。例えば問題発見能力が身についた学生が大体45%であり、いつそれが身に付いたかということについては、学部在学時代と答えている学生が11%、修士課程在学時と答えている学生が85%、その多くは修論で身に付いたと答えておりまして、やはり修士課程における教育効果はかなり大きいのかなということを読み取っております。
 14ページ、15ページは工学教育推進機構のような組織がMIT、ペンシルバニア州立大学、プリンストン大学にございまして、これらを比較して、それぞれがどのような役割を果たしているのか、どういう機能を担っているのかを示したものであります。東大の工学教育推進機構は海外の他大学と比べても、知の構造化に基づく工学知の構造化・可視化、創造性教育などかなり特色をもった存在であるということが言えると思います。
 最終年度でありますが、今後どのようなことをやっていくべきかという議論もしておりまして、その一つは横断的な分野の教育をいかにやっていくのかということです。進化する教科書という新しい教材を開発して、それに基づく教育を進めようとしています。例えば今回の中教審への諮問の中にも学位プログラムを中心とした教育というものが挙がっていますが、それを考える上で工学教育推進機構における分析、あるいは教材の開発が重要になると考えております。
 それから、インターン制度、特に海外インターン制度を充実していくことが大きな課題となっていますが、それはこのような組織が担っていくべきではないかと考えております。現在、修了要件は修士課程が30単位、博士課程が20単位です。海外と比べますと単位数が小さく見えますが、これは単純に講義だけの単位数になっていて、実質的にはもっと多くの時間をインターンや修士論文の研究に使っているので、海外のスタンダードに合わせて、単位数を実質的に行っていることが実際に見えるような形にするべきではないかという検討も行っております。
 また、インターン制度を実際に体系的に行っていくときには、単位をどう認定していくのかということが課題になりますので、そのあり方を検討していくことも必要かと思います。
 また、達成度調査についてご紹介しましたが、これ以外にも東京大学大学院工学系研究科では、国際ベンチマーキングということで海外の大学とベンチマークして比べています。これをもう少し体系的、継続的に行っていくことも必要でしょうし、AHELOのようなものに対応していくことを考えるとすると、工学教育推進機構のような存在が不可欠になるのではないかと思っています。
 現在は、大学院の入試問題は公表されているわけですし、大学院の修士の入試問題はある意味で学部教育の達成度、あるいは達成目標を示したものだと言えると思うので、入試の点数がどういう分布で得られるか分析して、公開することも含めて利用を検討していきたいと思います。また、可能であれば東大の入試問題をMITの学生にやらせてみて、どのくらい差があるかを見てみるのは、AHELOをやるより実質的ではないかということも議論しているところです。
 以上です。どうもありがとうございました。

【有信部会長】
 ありがとうございました。それでは、引き続き菅委員お願いします。

【菅委員】
 私は少し視点を変えまして、アメリカと日本の現状の大学院の違いをご紹介したいと思います。私がこういう場にいるのは本を1冊書いたのが理由でありまして、この本は、日本とアメリカの違いというか、アメリカのシステムが一体どう動いているか、高校、大学、大学院、ファカルティーになるまでをすべて書いた本であります。
 大学院でのメンタリングというのは日米通して同じことだと思いますが、指導者もしくは教員としてのメンタリングにおいては、学生の能力を伸ばしてやり、能力をつぶさないということ、加えて将来活躍できる場がどこか学生に見極めさせるということがとても重要なことであります。
 先ほどのお話にあった工学教育推進機構などでも同じですが、制度として学生を育てることを目指す必要があります。今現在おそらく日本の大学では、大学院の教育はどちらかというと先生にかなり依存している部分が大きいので、もう少し制度的なものを見直す必要があろうと思います。
 一方で学生は、制度として、あるいはメンタリングをしてくれる指導教員の人たちから、できる限り良い環境を与えてもらって、自分の能力を最大限伸ばす。また、その中で将来活躍できる場がどこか見極める。それが企業であるのか、アカデミックであるのかも非常に重要なことであります。いつも私は学生たちに言っていますが、大学院は自分の将来への投資であるということを学生に認識させる必要があろうかと思います。
 アメリカの場合は、それをかなり認識させるシステムで動いています。4ページに、アメリカの大学院のシステムを書いていますが、基本的に各大学で入学選抜試験を行うことはありません。ロケーション的に非常に遠いということがあるので、大体GRE、Graduate Record Examinationというものがあって、さらに外国人に対してはTOEFLがあります。
 主にエッセイ、もしくは推薦書の選抜により学生が選ばれますが、入学してきた学生は一般的に理系では修士、博士の一貫コースをとる場合が多いです。一貫コースの場合は、経済的サポートが5年間を通じてずっとあります。一方、修士コースもありますが、一般的に修士コースは経済的サポートがありません。一貫コースに入った場合は、1年もしくは2年生の間はTAサポートを受けます。残り3年ないしは4年間にRAサポートを受けて、5年間ずっと経済的サポートを全員の学生が受けることが、日本との非常に大きな違いだと思います。
 また、2年生から3年生に上がるときに、必ず各大学院で適性試験があります。研究のプレゼンテーション、プロポーザル、抜き打ちテストとさまざまな方法で試験を行いますが、そういう試験の後研究に没頭していって、最終的に論文を提出することで修了するというシステムです。
 もう一点重要なところは、アメリカの大学院のシステムを見ますと、自分がどういう学位を取るとどういう職に就くかはっきりしています。例えば修士コースから民間企業に入ると、研究補助職に就くと大体決まっています。一方Ph.D.を取ると研究開発職に就きます。日本の場合は、矢印があちこちに行くというのが現状で、日本の博士課程に進みたい大学院生にとっては、自分のキャリアパスがあまりクリアに見えてこないというところが、優秀な学生でありながら博士課程には行ってくれないという現状ではないかと思います。
 TAサポートとRAサポートを簡単に紹介します。5ページですが、TAサポートについては大体入学1年目に受けて、要するに大学の先生が学部の学生を教える手伝いをするということです。重要なポイントは2点で、理系は大体1年目だけで、2年以降も継続して受ける場合もありますが、それは指導教員がRAshipを払えない場合で、一方文系は一般的にTAshipが唯一の経済的な糧ですので、文系の学生さんはほとんどずっとTAを行います。もう一点は、授業料は学部学生を教えることを担うことによって免除してもらっています。
 学生はTAを通して何を得るかといいますと、学部生に教えることで基礎知識を復習し、教える技術を学ぶという2点の教育的な配慮が入っているとお考えください。
 6ページ目について、今度はRAshipですが、RAshipは理系の学生が2年生以降に受ける経済的サポートで、ここが非常に重要ですが、指導教員から研究報酬として受け取るかわり、研究に責任を負うというクリアなギブ・アンド・テークの立場が博士の学生と教員の間には生まれます。
 授業料は一般的に指導教員が研究報酬の一部として払います。それはどこから来るかというと、実は研究費から授業料も払うことができるようになっています。1人につき年間で大体250万から300万円ぐらいが現在相場でありまして、それプラス授業料を払うということになっています。先日もヨーロッパであるアメリカ人の先生と話しましたが、研究室の大きさはどれくらいだと言われて、20人ぐらいだと答えたら、でもおまえは20人に全然払わなくていいのだろうと言われて、やはりアメリカ人の目から見ても、アメリカと日本の大きな違いがそこにあるということだと思います。
 次に「博士に魅力あるキャリアパスを」と主張していることですが、学卒で就職した人は27歳で大体500万円ぐらいの年収があるのに比べて、博士の学生が修了したところで借金が600万円という差を見ると、なかなか学生が博士に行かないというのがよくおわかりになると思います。就職しても、その後の給料は学卒・修士卒とあまり変わらないというところも全然違いまして、アメリカの場合は博士の学生の社会的地位が非常に高くて、博士を取るとかなりいい給料がその後もらえるというのがクリアにあります。
 それから、どうやって経済的支援を行っていくかということについては、奨学金、TAship、RAshipの強化ということがありますが、今回はもう少し具体的にアイデアを提案していきたいと思います。
 1つは、現在行っている学術振興会によるフェローシップを強化するということです。ピアーレビューによる審査と、もちろん支援数を増加させるのは非常に重要なことだと思いますが、これはアメリカでも同様ですが、どちらかというと全員に与えるものではなくて、本当にエリートコースの人に与えることになると思います。今、日本の学術振興会の支援数はアメリカの支援数とほぼ同じぐらいだと思います。ところが、アメリカでは全員がサポートされており、その源は先生の研究費です。
 もう一つは、トレーニング・グラントという考え方です。トレーニング・グラントとしてCOE関係が強化されていくべきだろうということです。見直しと書いているのは、要するに強化という意味の見直しでありまして、トレイニーへの経済的支援を今後も強化していく必要があると思います。
 ただ、この2つは実を言うと先生たちは何もせず、待っているだけです。COEを取ればそれで済むというところですが、本来ならばそうではなく、研究課題に関与していた学生には各先生の研究費から経済支援を出していくべきだと私自身は思います。それを何とか義務化する方向に向かなければ、何も変わらないのではないかと思います。例えば、JSPSですと基盤Aのような1,000万円程度の研究費を獲得した先生は、プロジェクトに関与する学生に対しての経済的支援を義務化していくという方向に行くべきではないかと思います。
 ただ、全額出していくのはとても大変なことですので、間接経費がどう使われているかというのはいろいろ議論もあるかと思いますが、むしろ間接経費を一部サプリメント的に使っていくのも非常に重要であろうと思います。あるいは、学生に人件費を出している場合は、別途研究費をサプリメントでJSPSから与えるといった工夫が必要だと思います。そういうように、今後先生自身が自分の研究費から学生に対して支援を出していこうという努力をしないと、おそらく何も変わっていかないのではないかと私は感じております。
 文科省に関してはJSPSとJSTの研究支援がありますが、JSTの予算についても同様です。やはり大学というのは、学生に労働力を頼っている部分が多々あります。もちろんポスドクを雇用する場合もありますが、それでも学生の研究労力は非常に多大なものですので、そこに人件費として使っていくべきだろうと私は考えております。
 以上です。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。それでは、今のお二方のプレゼンテーションを受けて、大学教育の実質化という観点でいろいろと議論を深めていきたいと思います。質問、コメント、ご意見等ありましたら遠慮なくお願いします。
 菅委員の説明の中でTA・RAについてのお話がありましたが、5年目に出た答申のときの議論で、実は野依先生が随分刺激的なことを仰ったのをいまだに覚えています。学生は研究者ではない、なぜなら学生からは授業料を取っているのであって、給料を払っているわけではない。もし大学院生が研究者であるならば、給料を然るべく払うべきであるという論理であったと思います。その中でもう一つ重要なのは、スカラシップとフェローシップの違いをきちんと明確にする必要があるということで、スカラシップは教育上の援助だから教育的な資金であって、フェローシップは研究補助で学振の奨励研究員のようなものですから、それは明らかに研究労働の対価として支払われるという意識をもっと明確に持つべきだという趣旨の発言をされていたのが非常に印象的でした。アメリカで言うRAというのは、そういう意味ではどういう位置づけになっているのでしょうか。

【菅委員】
 実を言うと、学生がTAをしているときはむしろ教育です。TAをしている1年生、2年生の間に学生はコアコースと言われる授業をかなりとります。そのときは研究に対する報酬ではなく、ティーチングアシスタントをすることによって大学に自分の労力を提供して学部の学生の教育に携わり、そのかわりに経済的支援を受けるということです。だから、このときはどちらかというとスカラシップ的な扱いだと思います。
 ところが、2年生以降、あるいは学生によっては1年生の後半ぐらいからかもしれませんが、RAに変わったところで初めて研究者としての労働の提供に変わってきます。したがって、学生は先生、PIに当たる人が書いた研究計画に基づいて、それを遂行していく立場に変わって、そこからはある意味研究者としての取り扱いになると思います。ただし、未熟な発展途上の研究者ですから、当然そこにはいろいろ意味での教育が入ってきます。ただ、そこからは授業をとったりすることはほとんどなくなるという形になっています。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。

【延與委員】
 大変いいお話だと思います。私ども理研では、ニューヨークに支所を持っておりまして、学生や若手を結構扱っていますが、最大の問題は、授業料の関係で米国大学では学生を雇うよりポスドクのほうが安いという逆転現象が起こっていて、非常に限られた学生しか持てない状況になっていることだと思います。
野依理事長も最近は、理研で働く博士学生にはみんな給料を出すと言っていますが、アメリカ人と日本人の学生を比べた場合に、研究に対するスピリッツについては、各自のステータスにはよっていないということを私は感じています。米国で大学院生になるということは、ドクターを取るまでお金の心配はあまりないです。そうやっている方と、苦労して必死に親の仕送りでやっている日本の学生もいるわけですが、スピリッツでは劣っておらず、やはりいい人が残っています。したがって、支援が日本人の若者が持つ東洋的スピリッツに合致しているかどうかよく考えたほうがいいというのは、私が感じているところです。

【菅委員】
 アメリカの学生は高いというのは確かです。アメリカの場合は、特に私立の大学が非常に力を持っていて、そういうところは学生に払う給料と授業料を合わせると、ポスドクを雇う給料をはるかに超えます。それが現状ですが、州立大学は違います。州立大学ですと若干安いか同じくらいです。

【延與委員】
 同じくらいですね。

【菅委員】
 1つの大きな違いは、大学院の学生は3年、場合によっては4年と長いスパンで働いてくれるので、その間教育することによるいろいろなメリットも出てくるわけです。ポスドクは1年、2年のスパンで雇用する場合が非常に多いので、1つのプロジェクトをきちんと遂行しようと思うと、やはり学生を地道に育てていったほうがいいという意見を持っている先生は非常に多いと思います。
 次にスピリッツの問題ですが、おそらく日本の学生で博士課程に行きたいというスピリッツを持っている人は既にいいスピリッツがあると思います。ところが、優秀だけどいろいろな理由で迷ってしまう学生が多い。私はそこがとても問題だと思います。ドクターを取る学生を今後増やしていかなければならないということを前提にした場合、どうやったらその学生たちが同じスピリッツを持ってくれるかが問題となります。もともとスピリッツを持つ可能性を有する学生がたくさんいるわけですが、我々はそれをわざわざ失っている可能性も非常に高い。
 したがって、どうやってインセンティブを与え、彼らにモチベーションを持ってもらうかというところが大切だと思います。例えば私は、学生に学振よりも少しだけ低い給料を出すことによって、彼らはモチベーションを持っていい仕事をして、次に学振をとりに行こうというモチベーションに変わるというやり方をしています。十分ではないインセンティブを与えて、それがモチベーションに変わるのをどう組み込んでいくかということがとても重要なポイントではないかと思います。

【小杉委員】
 年間250万から300万の給付というお話は、非常に重要だと私は思います。この年ごろは幾つになっているかというと、20代後半にかかってきています。人のキャリアから考えると、普通の若者たちは結婚して将来を考えて、場合によっては子供もつくるというキャリアのステージに入ってきますが、たまたま大学院にいてしまうとそのキャリアのステージに乗れないことになります。
 これは、人のキャリアを考える上ではとても大事なことだと思います。他のコースを選んだら得られるはずの人生の喜びが、このステージに入った人だけが得られないという問題はとても大きく、キャリアにとっても障害になると思います。かつてのように、ここを我慢すれば必ず次に大学の中にポストがあって、将来の可能性が高いとなると、今を捨てても将来のためにかけることができますが、将来の可能性がかなり見えなくなっている中で、コストが高いという状態は非常に問題だと思います。
 以上です。

【角南委員】
 菅先生の4ページの表は非常にわかりやすいと思います。私自身は、社会科学系でアメリカの大学院のプログラムを経験してきましたが、すごく似ていて、理系のほうと一度突き合わせてみると非常にわかりやすいことがいくつか出てきます。例えばRAは我々のほうではなく、その分レジデンスという概念があって、フルタイムで大学院に在籍し、大体2期制だと3年間6タームで幾らというコストが最初に入る段階で明確になります。
 経済学、政治学、社会学については、途中で失敗して出てもウォールストリートに就職したほうが数段給料はいいということですから、リターンについてもいろいろ途中で考えて、どこからエグジットが出ていくのかということで、例えば適性試験と書いてありますが、社会科学系ですと、あなたは向いていないので別のキャリアに行ったほうがいい人生があるかもしれないとか、二、三回エグジットできるチャンスもあります。
 また、社会科学では5年で終わらないケースが非常に多いのですが、その場合は、コストがかからないリサーチをフィールドでやるというようなファンディングの多様性もきちんと担保されているので、長くかかったからといってお金がたくさんかかったというのはあまりないのではないかと思います。
 したがって、そういう意味では、コストという概念もこの表の中に入って、エグジットが出ていくと、理系と社会科学系が合致した非常にクリアなグラフになるのではないかと思いました。それから、ロースクールとかビジネススクールからドクターコースに入ってくる人もいますので、まさにこの表をそのまま生かせるのではないかなとも思いました。
 それをベースにして考えていくと、先ほどモチベーションというところで話が出ましたが、大学院に行くのを迷っている人は、どれぐらい時間とお金がかかるかについても入り口のところで考えていかないと、なかなかモチベーションが上がらないと思います。したがって、そういうことも考えながら、どれぐらいの割合で金銭的にサポートされるのかというコストを、議論の前に明らかにしていくということもあるのかなと思います。

【菅委員】
 後で野村総研の資料で出てくると思いますが、迷っている学生に関しては経済的な理由がかなりのウエートを占めています。したがって、迷うというのは決して悪いことではなく、いろいろなことをよく考えているということですから、そういう学生はとても優秀な可能性が十分ある。だから、もちろん大学院へ行かないというのも決断ですが、大学院に行って日本の将来を別の角度から担ってくれる人も育成していかないといけないというところだと思います。

【五神委員】
 前半の1、2年生のときのコアコースのイメージをお聞きしたいのですが、スクーリング重視という議論がたくさんある中で、私が知っている米国の一流大学、トップの大学、でのコアコースの科目数はそんなに多くなくて、1学期にせいぜい2科目ぐらいが限度で、あまりたくさんとると習得できないのでむしろ注意されると聞いたのですが、菅先生の経験だといかがでしょうか。

【菅委員】
 私の経験ですと、例えばMITは実を言うと何も設けていないです。決まった単位数は非常に低く設定されていますので、とりたい授業をとって、場合によってはとらなくてもいい状態です。
 ところが、私が就職していたニューヨーク州立大ぐらいのレベルになりますと、もう少しボトムアップしないといけないです。そのために、コアコースが4コースあって、4つのうち自分の専門以外の若干違う、化学系ですと有機化学だけじゃなくて無機、分析、物理といった3つのコースをとらないといけない。それプラスもう少し専門的なものが2つぐらいあって、一応コアコースを終えるわけです。1年生の終わりにはそれが全部修得できるという状況になっています。したがって、TAをやっている期間はコアコースをとり、専門的なコースをもう少し加えて、終わったらあとは研究に没頭するということです。

【五神委員】
 1、2年の2年間だとすると8科目で、私が聞いている、1学期にせいぜい2科目が上限という話とだいたい符合するということですね。

【有信部会長】
 2科目といいますが、科目数と単位数の関係はどうなっているのですか。

【菅委員】
 単位数は各大学で適当に設定していいので、大学によってさまざまです。大体1科目2単位みたいな感じです。要するに、アメリカの大学は単位数で授業料が決定されます。
 アメリカの場合は、実を言うと1年、2年は授業料が高いです。その後授業をとらなくなって実験だけとなります。実験は2単位くらいです。そうすると、年間2単位の授業料だけになるので、授業料がそこで急激に落ちます。州立大だと年間7,500ドル払わないといけないのが、大体2,000ドルぐらいに変わります。したがって、単位数によって授業料が決まっているということと、博士の後半になると授業が実験のみに変わるので、授業料が急激に下がる。だから、先生たちもRAのときはわりと払いやすいというのが州立大です。私立大ではそれはしていないので高いです。

【延與委員】
 アメリカはこういう方法で、博士課程に進んだ先でお金をもらえない学生は全くおりませんが、学生のいない研究室がかなりありますよね。それに対してはどうお考えでしょうか。

【菅委員】
 それがいいかどうかは別にして、アクティビティーが低くなると学生が入らなくなるという傾向が日本よりも強いと思います。ですが、必ずTAがあります。TAサポートは大学によりますが、例えば私が就職していたニューヨーク州立大バッファロー校ですと、フルプロフェッサーの人にはTAラインが1認められています。要するに、お金がゼロになっても1人の学生は自分の研究室にいられる。アソシエートプロフェッサーでは2で、アシスタントプロフェッサーでは5になります。
 要するに、若い先生はすぐにお金を取れないので、最初からTAラインが5つあって研究が推進できるようになっていて、テニュアをとるとそれが2になり1になりというプレッシャーをかけています。それによって、先生たちは研究費を取る努力を続けていかなければなりません。これがいいか悪いかは別にしても、そういうシステムになっているというのがアメリカであると思います。

【今榮委員】
 日本では各大学に定員があって、その定員を大学でどう先生に配分するかは学内の問題としてやっています。私がヨーロッパにいたときは、先生が支払えない、ないしはキープしたくない学生はどこかに行けというようにして移動すると聞いています。そうすると、大学の定員についてはアメリカではどうなっているのでしょうか。定員の中で先生に配分しているのか、学生が大学を越えて移動しているのでしょうか。

【菅委員】
 各大学において入学するときに定員を決めているので、定員はあります。TAが何人というTAラインも決まっています。したがって、たくさん入れ過ぎるとTAが払えなくなるので、TAラインをもとにして、定員数は自分たちで決めています。それは大学内部での交渉によって、この学科はこれだけの定員でこれだけのTAをつけますと決めています。
 先ほど仰っていたように、個人的な問題は別にして、例えばRAを払えない事態に陥ったときに、特別にTAにしてもらうという方法も1つあります。それは先生が交渉しなければなりません。もう一つは、払えないので別の研究室に移ってくれということもあります。したがって、お金が十分あってリサーチアシスタントを雇える別の研究室に学生たちは動いていくのですが、学生たちもよく見ているので、最初から危ない先生には行かないということも起きます。

【有信部会長】
 最初の堀井委員の説明で、東大は非常にいいことをやっていると思いますが、2つ質問があります。1つはここで言う工学教育推進機構のスタッフは専任のスタッフになっているのか、大学の教員が研究教育の傍らでやるという形になっているのか、その運営はどうやっているのかということについて補足していただければと思います。
 それともう一つは、MIMAエンジンのようなものを使ってかなり組織的にやっていて、学生にとって非常にいいものだと思いますが、例えばほかの大学がこういうことやろうとしたときに、実際に提供できるような形になっているかということについてよろしくお願いします。

【堀井委員】
 15ページに海外の大学の組織と比較した表があって、その最後から2つ目にセンタ要員と書いておりますが、専任教員4名、兼任2名、事務スタッフ2名ということで、概算要求でつきましたお金で特任教員を雇って運営しています。それから、MIMAエンジン、あるいは工学教育推進機構で開発したツール群は、もちろんほかで使っていただけるところがあればぜひ使っていただきたいと考えております。

【有信部会長】
 今非常に重要な問題となっているのが、コースワークの考え方です。もともと5年前に出された提言の中で、大学院での教育がきちんと行われていない、特にアメリカの大学との比較で、日本の大学院ではコースワークが基本的に不足しているのではないかという観点でコースワークを強化すべきだというときに、この場合は特にアメリカの典型的な有力私立大学を例にしながら、そういう議論がなされてきたということを覚えています。
 いずれにしても、大学院の中で教育がなおざりにされてきたという事実は確実にあって、提言以降の幾つかの政策の中で大学院教育を実質化していくという過程で、大学の先生方が初めて大学院は教育をやるところだと気がついたという例も多々あって、その部分については間違いないと思います
 それから、東京大学で進めているように、教育を実質化していくためのより有効な手段を提供していくという方向も正しいと思います。単位数をどうするかという議論については、例えばアメリカの場合はドクターコースとマスターコースは基本的に違うという設計になっていますが、日本の場合はそれを一緒に議論している部分もあるわけです。したがって、その辺のところを含めてもう少し整理した上で、次の施策に結びつけていく必要があると思います。

【堀井委員】    

 大学院教育の体系化というか、もう少しコースワークを重視するという意見はあって、東大の工学系研究科でも、大学院の講義をより構造化してコア科目のようなものを設けることを検討していますが、国際ベンチマーキングということで、例えば材料工学、物理工学の分野で東大、バークレー、ケンブリッジ、イエールは文系だけですが比較を行いました。 
 そのときには、同じ分野であるとして教えている内容は大体同じで、レベルも同じだということが明らかになりました。例えば試験問題を見てみると、この問題なら東大でも十分使えるとか、こんなレベルの高い問題を出していると驚いたりということがありました。ただし、教える時期の早い遅いの差はあります。日本の特徴は、学部教育でかなりのレベルまで教えていて、アメリカの場合は、学部までは教養教育で、専門教育は大学院からスタートするという感じです。したがって、一概に比較することが本当にいいかというと、少し疑問な部分もあります。
 実際に先ほどご紹介した達成度調査を見てみますと、修士論文研究で学んでいる部分、身につけている知識、問題解決能力についても評価するべき点があります。よって、どういう修士論文研究をさせるかということは極めて重要で、教育効果の高い研究を通じた教育をやっていかなければいけないのですが、そこの部分を軽視していいという話では決してないと思います。ですから、慎重な議論が必要ではないかと思います。

【菅委員】
 アメリカのシステムを論じる上で一つ重要なのは、別にアメリカがいいと言っているわけではないのですが、アメリカの場合は大学院に入ること自体が、ドクターを取ることを目標にしているわけです。最初の時点でマスターを取ることを目標にさせていないというところがまず第1点です。つまり、ドクターを取ることをまず目標にさせて、結局向いていなくて出ていく者をマスターという位置づけにしているわけです。
 最初の1年間でコースワークをきちんとやるというのは、足並みをそろえるという意味もあります。確かに学部教育はどちらかというとリベラルアーツのような感じですので幅広く勉強している場合が多いのですが、優秀な学生たちは早くからラボに入って勉強しています。ですので、入った時点でいろいろな学生がいて、外国人も非常に多いので、足並みをそろえて同じスタートラインをとるために1年間はきちんと教育しましょう、そのかわり残り4年間ありますということで、最初のスタートがPh.D.であるというところで随分違います。
 したがって、日本で大学院教育を強化していくことを議論するのであれば、ドクターを取ることを最初の目標とすることを考えながらでないと、今の状態の修士が終わってドクターに入っていくというパターンの中で大学院を強化しなさいというと、修士での研究がおろそかになってしまうという心配が起きてしまう。大学院教育を強化する際には、そこも考えなければいけないと私は思います。

【木村委員】
 堀井先生のプレゼンテーションの中に卒論の役割というところがありました。私は78年と96年にケンブリッジに居たのですが、その20年間でケンブリッジのカリキュラムが非常に大きく変わっておりまして、78年は小卒業研究のようなものしかなかったのですが、96年にはそれにかける時間が相当増えていました。
 これについては賛否両論あって、リソースの関係でケンブリッジだからできるという見方もあるのは事実です。現在は日本の卒論の4分の3ぐらいの量の本格的な研究をやらせているようです。彼らも卒業研究のメリットを認めて、時間を増やす方向へ動いているのではないかという気がします。
 それから、今の菅先生のお話ですが、まさに英国もその通りで、初めからドクターを取ることが目標となっています。ケンブリッジでは、駄目だと判断した学生には、マスターをあげるから出ていきなさいということで選別していますので、だれも初めからマスターを目指しては来ていません。
 ま、先ほどスピリッツの話がありましたが、アメリカについては少しの大学としかつき合いがないのでわからないのですが、少なくとも英国については上位の大学で、分野によって若干違いますが、工学分野でも応用性の強いところは、学部を出てからストレートでリサーチスチューデントになる学生はほとんどいません。短い人で3年、長い人では5年、6年たってから戻ってきてリサーチスチューデントになるので、スピリッツは日本とは全然違います。
 英国では年齢のことについて随分議論したのですが、彼らはインセンティブを持っている学生が来てくれればそれに越したことはないという非常に割り切った考え方をしているので、その辺は日本も少し考え直す必要があると思います。日本はどうしても年齢にこだわる社会ですから、30とか31でドクターを取ってもなかなか就職できないというような状況が出てしまうのではないかと思います。

【有信部会長】
 1つだけ誤解がないように補足しておきますが、5年前の提言で修士論文をなくしてもいいという文言が入っているのは、特にドクターコースと一貫で考えるべきだという論調の中で出てきているので、基本的に堀井委員が言われたように、修士論文の効果が非常にあるということを無視しているわけではないです。その点でぜひ誤解がないようによろしくお願いしたいと思います。
 まだまだ議論はあるかと思いますが、かなりいろいろ問題点がクリアになってきたように思いますので、今後きちんと整理していければと思います。
 それでは次に、「国際的に卓越した大学院先端研究教育拠点の形成について」という観点で、五神委員からプレゼンテーションをお願いします。

【五神委員】
 先端を伸ばす、出る杭を伸ばすと最近よく言われますが、そういう観点で大学院教育をどう見なければいけないかということについて、背景も含めて、このアウトラインに沿ってご説明したいと思います。
 まず2ページは、去年の5月17日のニューヨークタイムズの一面報道です。私が昨年6月の頭に国際会議でドイツに行ったときに米国人の研究者に日本は大変ですねと言われ、この記事のことを知りました。日本人の若者の工学離れと同時に外国人のエンジニアをうまく取り込めていないことがこの記事で課題として指摘されています。
 私はもともと理学部卒で、20年ぐらい工学部で教鞭をとっており、専門分野は物理学です。ご存じのように、日本は昔から物理学が非常に強いです。3ページのデータは物理学の分野でも優位性が危ういということを示すものです。物理学の場合はアメリカの物理学会が出しているPhysical Review、Physical Review Lettersという雑誌に主要論文の大半が集まるという寡占化が進んでいますので、これを見ると世界全体の動向がぱっとわかります。この右のグラフは米国以外からの投稿論文数の推移を示したものです。ドイツがずっと強くて、日本もその次に強かった。余談になりますが、90年から2000年にドイツ、日本が共に大きく伸びていますが、これはこの期間に両国で物理が伸びたというのではなく、それぞれの国が持っていたジャーナルがアメリカの雑誌に負け、米国雑誌による寡占化が進んだという話です。
 ここで、問題なのは、中国、あるいはインドが最近急速に伸ばしていることです。このデータには米国内から投稿される論文は入っていませんが、米国在中の研究者も含めるともっと顕著なはずです。このデータは投稿論文数ですが、採択率も中国は日本よりも高くなっていると聞いています。日本人は原稿をもう少しよく練ってから論文を投稿してほしいとエディターに言われるぐらいの状況です。このようにアジアの台頭は非常に目立っているのです。
 4ページは、工学人材という観点で経緯をまとめたものです。日本の大学の工学部は国の近代化施策として明治政府のもとでつくられ、キャッチアップの為の装置として非常にうまく機能しました。大学の中に工学部を置いたのは日本独自のもので、当時は世界初でした。
 もう一つのポイントは、旧制時代の学部は研究教育大学が前提でしたので、非常にハイレベルで、少数を対象としたエリート教育だったということです。戦後の学制改革でそのモデル、カリキュラムを踏襲して大学の数を増やしました。これはかなり背伸びしたモデルですが、結果的にはうまくいって高度学士を非常にたくさん出し、吉川先生はよく仰るように、日本の産業技術イノベーションとも言うべき、高品質大量生産のモデルを支えました。エレクトロニクスや車といった比較的難しいものをうまくつくるというところで高度な学士が大活躍しました。
 下のデータは毎日新聞の元村記者が2007年に中央公論に出した「理系『負け組白書』」という記事からの引用です。予備校の模擬試験での進路希望調査結果の推移を示したものです。工学部志望者が着実に落ちていることがわかります。工学部基幹部門の苦戦というのは、東大も例外ではありません。
 5ページは、若干観点が違うのですが、私が気になっているもう一つのデータで、高等学校における物理学の履修率の落ち込みです。我々の学生時代は8割以上が物理を履修していましたが、今は2割を切っています。急激な落ち込みは、82年の教科改訂の際に起きました。中堅の40代半ばの人たちはこの後の世代ということにので、例えば理科の先生でも高校で物理を履修しなかった人が相当数含まれているはずです。日本の製造業の中心は機械、電機であり、それらは力学や電気といった物理と深くかかわるものです。高等学校で大半の生徒が“物理をとらない”という負の選択をしているというところが問題です。
 6ページは科学技術系人材育成と大学院について私なりにまとめたものです。学部と大学院の学生数の日米比較から大学院生が少ないので大学院を強化しなければならないということで大学院重点化が行われました。その結果、修士課程進学者は大きくふえ、博士もふえました。昔は大学院入試が厳しく、例えば東大工学部ですと学部卒業生の半分ぐらいしか合格出来なかったので、4年生の夏休みに大学院入試に向けて、みんな猛勉強していました。今はそこが緩くなった結果、学部課程の習熟度が落ちました。日本が誇ってきた、高度な学部教育の質低下につながる要因となったと分析しています。また、基礎分野では博士がふえて高学歴ワーキングプアの問題が顕在化しています。これは基礎分野だけの問題ではなく、応用分野の学生にネガティブなメッセージとして伝わり、博士人材として確保しなければならない優秀な人材が博士課程から逃げるということになっています。
 大学院生の量について考える際には、規模感を掴んだ上で、エリート、中核技術者、中堅技術者をだれがどこでどう育てるかを論じることが大事だろうと思います。いろいろなデータをこの委員会で出していただいていますが、例えば学部で見ますと、これは理工系の統計ですが、かなりの部分を私立大学が出しています。修士、博士と進むに従って、国立大学がほとんどになります。
 コストのかかる理工系の学部教育のかなりの部分を私立が担っているという状況のもとで、さらにその上の大学院としてどのような技術者をどこでどう育てるのかという設計の問題です。18歳人口130万人のうち修士に行くのは理・工・農・医・歯・薬を全部入れて5.3万ですから、1クラスから何人という意味で言えば、理系修士というだけで既にかなり限られた人たちになります。博士ですと僅か1%という話になります。
 大学院をどうするかということと同時に、大半のバチェラー卒の技術者の人たちの教育レベルをどう引き上げていくかということについても考える必要があります。現在では、この18.8万人の学士全てが世界に誇れる高度な学士教育を受けているとはとても言いがたい状況です。先日、経団連の調査で、70%が修士卒というご議論がありましたが、国全体の総数から見ると大半はまだ学部卒です。産業規模を支える基幹技術者の量、質をどう維持するかという意味では、やはり学部教育が大事だろうと思います。高度学士技術者を育成するというモデルの痕跡がまだ残っているうちに、それを点検し、修復していくことが重要です。ある層の修士学生に対して、学部教育で取りこぼした部分の補修をきっちりやることも効果的であろうと思います。
 ここまでが前置きでして、そうはいっても知識集約型の社会の中では、先端的な本当のトップをどう伸ばすかということが非常に重要で、その為にも大学院の転換を図らなければなりません。開拓力・俯瞰力を持つ本当の意味での高度な人材を着実に育成しなければなりません。理・工・農だけの数で言いますと、博士の定員は1学年は6,000人程度です。今博士の定員を減らそうと言っていますが、それはこの6,000人を減らすという話になってしまうわけです。この6,000人を高度人材としてどう育てるかという視点に立ったときには、学部や修士教育の点検改革と並行して議論していかねばなりません。大学院修士で設計図をきちんと書けるようにしてほしいという議論がありましたが、それはむしろ学部の問題です。また、大学院の課題として、教育か研究かという議論がありましたが、高等教育システムとして大学院で人材育成機能の成果が問われるのは当然です。従って、大学院卒の学生のキャリアパスの設計とそれに応じた教育課程の適正化ができていないことは問題です。博士について言えば、6,000人の理工系博士を、トップ人材として伸ばし活用するという課題であると言い切って良いのではないでしょうか。高等教育の最上位階層としての役割、必要規模をどう設定するか。
 そうはいっても、現状では6,000人の博士は維持できないというのならば、大学そのものの規模を再検討するということが避けられないのだと思います。現在の我が国のシステムにおいて、理工系の基礎研究の基盤を支えているのが国立を中心とする研究教育大学であり、その規模は博士の規模とリンクしているということです。そのリンクを考えずに、博士の人数だけ縮小する議論をすすめると、基盤的な研究活動を支えている場を失うことになります。それをどう補償するかという議論が欠落すると大変危うい。研究独法に担ってもらうのか、あるいは民間企業を公的資金で援助してやって行くかなどという議論をきちんとしなければいけません。
 8ページ以降で、私たちがすすめている光科学の事業を中心に話しをすすめたいと思います。私達の研究センターの開所式で黒川清先生に「ロダンとラマン」と題するお話をしていただきました。その中で、とんでもない突出したことをする人はどのような人かという面白い話がありました。例えばボストンマラソンとニューヨークマラソンに優勝した回数、グランドスラムを獲得した回数の統計を見てみます。もちろん0回の人が圧倒的に多なります。1回の人も相当すごいごく少数の人ですが、2回、3回、4回となるとさらに少なくなります。分布の裾野を見るとガウス分布には全く合わないことがわかります。一方、ゴルフの飛距離の分布はガウス分布になります。これは、とんでもないことしでかすようなトップ層を伸ばすには、ガウス分布的のような平均的な見方ではなく、優れたものを伸ばす特別な仕組みを考えることが大事であるということを意味しています。
 このような観点で大学院においてトップを伸ばすということを考えてみました。東京大学や京都大学は、他の大学に落ちたから来るという人がほとんどいません。このことは、東大や京大では、学生の学力分布がものすごく広がっており、レベル差が大きいということを意味します。
 私が教えている工学部には毎年1,000人程度の学生が進学して来ます。そのトップ層について調べてみました。東京大学では進学振り分けというものがあり、駒場の教養の1年半の成績で進学振り分けをする制度です。その点数でみて、工学部に進学する1,000の中の、トップ50、トップ100を調べてみました。ここで言う、成績上位者の特徴は大学に入ったにもかかわらず、まじめに勉強し続ける勤勉な人、勉強好き、忍耐力がある人です。自然科学、人文社会、語学、体育などまんべんなく勉強をしないと上位100には入れません。こういう人は、企業でも歓迎される資質を相当持っていると思います。また、この上位層は自分の志望どおりに進学先が決まります。
 10ページの成績上位者(工学部進学)にみるこの20年間の志望選択の推移を見示しました。上の図は各分野のトータルについての区分けですが、各分野の定員はほとんどかわっていません。システムマネジメント系のように新しくできたものもありますが、基幹部門の比率は変わっていません。
 20年前の成績上位層の分布を見ますと、私のいる応用物理系は数理、物理工学、計測工学などですが多くの上位層が進学しています。航空宇宙も人気があって、次に強いのが電気という形になっています。
 それで、20年後どうなっているかといいますと、例えば応用物理系は高どまりしています。航空宇宙は今でも人気のあるグループですが、トップ層で見ると明らかに落ちています。電気系はご存じのように非常に厳しい状況で、機械系はロボティクスなどが引っ張っているという形になっています。 東大入学直後の調査では7割近くが研究者志望ですので、工学部に上位進学する者も多くは研究者を目指して東大に入ってきたと思われます。研究者になりたいけれども、理学ではなくて工学を選択している学生は、先ほどの菅先生の話にもありましたように、18歳、19歳でいろいろなことを悩んで考えている人たちだとも言えます。応用物理系の場合は、物理は好きだがもっと社会とかかわりたいとか、2年生の時点で分野を特定したくないからという学生がこの層には多いようです。そのほかは、化学の実験が好きとか、ロボットに興味がある、宇宙に憧れているというのがあります。いずれにしても、産業界への参画を意識した人です。
 高い資質のある学生が工学部にはたくさん進学していますが、その中からの博士進学者は非常に少なくなっているのです。21年の調査で、ベスト50の4分の1が応用物理系に進学していますが、修士を出た後の進路先は多岐にわたっています。赤の印が博士ですが、そんなに多くはありません。むしろ、他大学から進学して来た人が博士進学を好むという傾向があります。高度な勉強をして社会に出たいと思って工学に来て、大学院にも進学した優秀な人たちが博士に進学していないということは、高度な人材育成という意味で不安があるという状況です。
 12ページ以降は、トップの人材育成に関し、最近私達が進めている光科学分野の取り組みの紹介です。光科学は理学、工学、工学の中でも電気、機械、化学、応用物理などいろいろな分野から参加できる横断的な分野です。どの分野でも光科学関連の研究室は比較的人気があるようです。
 この光科学分野には、我が国で世界から非常に注目されている研究が多数進められています。13ページを見ますと30年間に我が国の研究者と世界のトップ研究者との交流が進んでいて、ノーベル賞受賞者が最近たくさん出ているというのが特徴ですが、この交流のおかげでトップクラスの研究室に大学院で留学したり、ポスドクで行く若手研究者が沢山います。そういう人たちの経験を活かして、日本に世界トップの人材育成の拠点をどのように創っていくかを考えながら、大学院教育にフィードバックをかけているところです。
 14ページの左側に一つの例を示しました。彼は私の研究室のドクターの1年の時に中退してMITのPh.Dコースに進学しました。4年半でドクターを取ったのですが、その年に指導教員は若い准教授の先生でしたが、ノーベル賞をとりました。ノーベル賞の受賞論文に彼のPh.D.コースの中でやった研究論文が3本ぐらい引用されています。このように、修士卒後間もないタイミングでしたが、ノーベル賞に直結するような最先端の研究に参加でき、成果を上げているということです。もちろん本人が優秀な学生であったということも大きいのですが、光科学分野には大学院生を惹き付けるチャレンジングな課題が沢山あるという実例でもあります。
 それから、右側の例は一秒の世界標準の定義を更新するような、新しい原子時計の開発をしている若手研究者の例です。世界中の人々が使っている時間の基準を書き換えるという話ですから、かなり注目されている仕事です。
 15ページは、学部教育の効果を加速するという意味で、我々が重要だと考えている卒業論文研究の紹介です。卒論は教育効果という意味で非常に重要ですが、研究としてのレベルも非常に高くなっています。例えば卒論研究成果をすぐにトップジャーナルに出版することがしばしばあります。そこに示した、ファイバーレーザーの研究はオリジナルな研究ではないですが、極超短パルスのレーザーをゼロから自作するということを卒論研究の中でやったというものです。装置を製品で買えば何千万するものを80万円ぐらいの予算でつくりました。こうした卒論を通した指導は時間と手間がかかる一品生産になります。
 産学分野での人材活用という面で考えますと理学系に進学した学生のキャリアパスについても気になります。最近では理学系でも修士で就職する学生が激増していると聞いています。こういった経済状況ですから、18歳、19歳のときに悩まずに理学部に進学したけれども、修士ぐらいになって心配になり、これはいかんということで、とにかく修士で就職してしまおうというのでは困ります。理学系でも企業の活動にふれる機会を設けるべきと考えました。そこで、修士課程の学生を対象に、産業界の技術者と連携して、実習授業を通して、光分野の先端産業技術を学生に見てもらう機会を創ることを考えました。それが理工連携で進めている修士教育改革の事業です。
 そこでは、先端企業の人たちがチューターとなって、企業にある機材、民生技術を持ち込んで学生に見せています。例えばDVDのピックアップにいかに精緻な技術、最新技術が詰まっているか学生に見せるという教育です。これは学生と企業の双方に良い効果が生まれています。
 もう一つ光関係での取り組みとして進めていることに、5機関の連携によるネットワーク型の拠点形成事業があります。法人化後東京大学はひとり勝ちの色彩が強くなってよろしくないと言われています。法人のトップダウンによってそれぞれの法人が工夫して、強化する改革に取り組んでいます。各法人が頑張って、効果を上げているのですが、個々の学問分野で見たときには、法人という短冊で分断され、弱体化してしまう分野も出てきています。
 我々はそこに危機感を感じまして、光科学の強い機関で連携し、ネットワーク型の拠点を形成するというプロジェクトを、昨年から10年間の予定でスタートしています。これは、先ほどの修士の教育改革プログラムともリンクしており、大学院修了者を産業界にもシームレスに輩出できるように配慮しながらやっていくという計画です。
 しかし、この連携ネットワークの中に入った学生に安心してもらえば良いというわけにはいきません。国際トップの熾烈な競争の中でより力強く鍛える仕組みが必要です。私の研究室では、最近次々にハーバード、イエールといったアメリカの一流大学に留学する学生が出ています。特にアジアの最優秀の留学生がそういうコースに移っていきます。その中で日本の競争力をどう維持していくか、教育機関としての大学院を魅力ある拠点としてどのように改良できるか考えているわけです。
 18ページは、私たちの競争相手であるMIT、ハーバードのセンターです。先ほどのケターレ先生が現在リーダーを務めています。MITとハーバードは近いので連携して、関連分野の10人とか15人ぐらいのトップサイエンティストがPIとして集まって、大学院教育と研究を連携して進めています。その活動で注目すべきものに、毎週必ず行うウィークリーセミナーがあります。PIが65%以上出席しています。そこで学生が未発表のデータを出してプレゼンをします。ノーベル賞級の先生がたくさんいる中でそれを皆でディスカッションするわけですから、論文を書く前の議論はものすごく密度が高くなり、大学院生に対する教育効果も絶大です。PI出席率65%は私の生活から考えると驚異的な数字です。つまり、研究教育という本来の部分に時間をきちんと確保できている、あるいはそこを最優先しているというところが見えます。今日本の大学では時間の劣化というのが非常に問題になっていて、そこも考えなければいけません。
 それでは、国際競争力のある大学院拠点を日本につくろうとしたときに、まず世界のトップの学生を確実にとらえるためにどうしたらいいのでしょうか。菅先生の話にもありましたが、日米で入学の仕組みが随分違って、特にアジアの優秀な学生は米国の大学に行くことがデフォルト値になりつつありますので、それと対抗するために今の大学院入試のままでよいかということが第一の問題です。
 日本の付加価値をどうつけるかという課題も重要です。優秀な学生、例えば韓国で数番以内、1番、2番の子がまだ今は日本にも来ています。彼らに聞きますと、日本は産業力があるとか、日本語で学べることは非常に魅力があると言っています。ですから、菅先生の資料の最後に書いてあったことと同じですが、留学生に対して、日本語教育を充実させることはものすごく重要です。これなしには日本の優位性は発揮できないと思います。そして、日本の産業界との交流のメリットを彼らに与えて帰すことも重要です。
 それから、2つ目の厚みのある支援も全く同じで、例えばハーバードに行こうとすると、年間5万ドルとか6万ドルの支援があります。これから授業料を引きますと生活費で300万円ぐらいとなります。これぐらいであると、多分中国のトップ学生はハーバードに行くか東大に来るか迷うと思います。
 もう一つは、あの先生に習いたいと思って留学してきたのに先生がいないというのでは話にならないので、先ほど述べた時間の劣化の問題はものすごく重要です。
 20ページは、アメリカの大学院入学の流れを示したものです。研究室の学生の留学や、ハーバードからのサマースチューデントの学部生の推薦等で私も作業を経験しています。ウエブのシステムが進んでいて、アメリカの大学院入試はどの大学も大体このようになっています。共通のシステムを使っているところも多い様です。志願者はウエブでTOEFL、GREの成績を登録し、本人のエッセイを送る。これと指導教員などからの推薦状を送ってもらいます。米国の大学院では、これらをもとに、ファカルティーのメンバーが限られたリソースをどう配分するかということで侃々諤々の議論をして、入学生を選抜しています。中国、韓国の優秀な学生は、このシステムに乗っかって留学先を決めている人たちが大多数です。
 そのときに、10カ所ぐらいに出願しているようです。受かる人は全部受かったりするわけですが、そのときに東大にも同じような入り口がないと優秀学生層を引き込むことは難しいと思います。また、ダブルスタンダードで、日本人と外国人は別というのも変な話で、日本人も同じシステムで選抜するのが理想です。しかし、これを今、大学院教育の実質化しなければいけないというレベルのところにいきなり導入することは難しいでしょう。わけのわからないAO入試となってしまう危険性もあります。ですから、これはあくまでトップを伸ばす施策の中で構想していることだとご理解ください。
 ここで、新しいコースをどうつくるかですが、従来ですと新専攻を立ち上げるということになります。大学院の総定数が限られている中で、新しい専攻を立ち上げるためには、既存の専攻をつぶして削り取らなければなりません。その作業はどんなにパワフルな人でも10年かかってもできない難事業になります。それぞれの専攻は伝統がありますので、潰すことは簡単にはできません。横串としてのコースの姿を明示しながら、それが定着していく中で、行く行くはそちらが主体になるという形で連続的に変化していくような方式を検討しているところです。
 そのときにコアになるのは研究指導です。トップ研究で引っ張るPIは10人ぐらいの規模がいいと思います。研究室間の風通しを良くしておき、大学院生や研究者がいろいろなPIと自由に議論できる環境を用意することが重要です。それから、演習、講義です。講義はコースワークが非常に重要だと思っていまして、要するに、そこのコースを卒業したというステータスはそこで何を学んだかということなので講義は重要です。私のイメージは講義の数ではなくて講義をいかに定着させるかということで、アメリカの場合も数は少ないですが全部演習がついていて、しかも単位を取るのが難しいと聞いています。つまり、きちんと手を動かしてそれを頭に染み込ませた人にしか単位を認定しない。数は厳選して、限られた数の中で体系をきちんと合理的に理解できるようにプログラムをつくっていくということです。
 最後のページはそういうものをまとめたもので、全部日本に集まる絵が書いてあります。多分こんな状況にはならないと思いますが、6,000人の博士のうちの何割かが、中国、韓国、インドのトップ留学生によって占められ、日本のトップの学生と同じ条件で切磋琢磨するという場が実現すると良いと考えています。例えばナノバイオとか、光以外にも比較的このようなスキームに乗りやすい分野がたくさんあると思うので、そういうものを幾つか立てていく中で博士を活用する姿を実体化して行くのが良いと思っています。言い忘れましたが、産業界とのリンクが非常に重要で、最低でも修了生の6割以上の人たちは、インダストリーに行って研究開発をすることが自分の自然なキャリアだと思うようなコースにすべきだと思っています。これらはまだ、アイデア出しの段階ですが、そういうものを志向していきたいと考えています。

【有信部会長】
 ありがとうございました。さまざまな視点でいろいろな提案も含めて、議論の種を提供していただいたと思っています。何か質問、コメントがありましたらどうぞ。

【今泉大学改革推進室長】
 事務局からですが、少し補足をさせていただければと思います。資料5-2の最後の26ページ目、27ページ目をご覧ください。
 ただいま五神先生から教員による密接な指導が必要で、そのためには教員の時間の劣化を防ぐ仕組みが必要であって、教員が教育研究に時間を優先して使えるように支援する体制といたしまして、私どもは5月29日に成立した補正予算の中で300億円計上させていただいて、教育研究高度化のための支援体制整備事業を設けているところでございます。その中で、教育研究業務とかプロジェクトマネジメントを支援する体制として、特に研究中心の一定規模以上の国公私立大学を対象といたしまして、27ページにあります研究技術スタッフの整備、研究関係事務管理スタッフの整備のための費用等を用意しているところでございます。
 以上、紹介させていただきました。

【有信部会長】
 ありがとうございました。特に五神委員からの説明は、日本の中でトップ層の志向があるのだけれども、その行き先についてミスリーディングということではありませんが、きちんとした方向に向いていないというのが最初のところの問題でありますし、後半の問題については、制度的というか、学生に対してさまざまな意味での支援が欠けていて、この部分についてはかなり具体的なアイデアも出していただいています。
 それからもう一つは、トップクラスの研究拠点をつくるという意味では、さっきの堀井先生の話にもありましたが、海外とのベンチマークと同時に連携が重要であるということと、日本の中にカッティングエッジというか、先端的な技術を持った産業があることがいわば日本の一つの切り札になる。そことの連携をうまく主張するなり、生かすというやり方をしていくことが、日本の研究教育の水準を上げることと同時に、海外から優秀な人材を呼び寄せる重要なファクターになるのではないかと思います。そういうことがいろいろと提言されたと思っています。
 非常に丁寧に説明していただいたので皆さんよく理解していただけたと思いますが、時間の関係もありますので、次に移りたいと思います。それでは、「様々な社会経済環境の変化を踏まえた博士課程の今後の状況についての調査」ということで、野村総研の佐藤主任研究員にプレゼンしていただくことになっていますので、よろしくお願いします。

【佐藤主任研究員】 
 野村総研の佐藤と申します。これより、お手元の資料5-1にあります平成20年度の調査報告のプレゼンテーションをさせていただきます。
 初めに幾つか申し上げたいことがあるのですが、これまでの委員のご発表は、主に東大であったり京大であったりかなりトップ層の大学についてのご議論だったと思うのですが、我々の調査研究の対象は、そういった大学さんも含めた日本の大学院の博士課程全体を統計的に見ての調査でございます。ですので、必ずしも東大、京大さんの実情には合わない調査報告もあるかと思いますが、その辺はご考慮いただければと思います。
 あともう一つが、タイトルにもありますように社会経済環境の変化を踏まえたということなので、大学の事情というよりは、むしろ日本の統計上のデータからどういったことが読み取れるのかというところをメーンのテーマにしてございます。
 結論から申し上げますと、今回は将来予測を描いておりますが、かなりシナリオがネガティブな結果になってございます。ただ、先ほど委員の皆様からもご発表がありましたように、各大学もしくは産業界でネガティブな結果に陥らないような萌芽的な取り組みがされているということも我々は認識してございまして、こちらは2カ年の調査でやっておりますので、今年度の調査については、ネガティブなシナリオを打破するためには、どういったポジティブな施策に意味があるのかといった評価をやっているところでございます。この発表そのものは非常にネガティブな結果になってしまうかと思いますが、ご容赦いただければと思います。
 1ページ目でございます。我々は、今回2015年を一つのゴールとしまして将来の予測を行いました。私どもは『2015年の日本』という本を出版もしておりまして、2015年をめどにいろいろなシナリオを描いているわけでございますが、2015年の社会がどういう時代になっているかということについてはグラフがあります。既に始まっています人口減少に加えて、この時期から世帯数の減少が想定されています。
 基本的に、日本経済は世帯ごとの消費行動によって基盤を形成していますので、この時期から特に内需の元気がなくなるのではないかというのが1つの大きなポイントでございます。また、既に起こっておりますように途上国の台頭もありまして、日本経済が内需に頼るのではなくて外需との競争、グローバル競争の渦中に巻き込まれてくるタイミングも2015年ではないかと位置づけてございます。
 2ページ目からシナリオの内容について申し上げているところでございますが、このページと後々のほうにもう一つシナリオを2本柱で描いてございます。大きく言いますと、このページに書いてございますのが大学院博士課程に対する進学の状況に関するシナリオで、後述しますのが就職、むしろ卒業後のキャリアパスに関するシナリオでございます。
 進学に関して申し上げますと、既にご指摘がありますように、2008年度現在で少子化に伴って修士からの進学者が減少しているということが言われております。全体の進学者はふえている傾向でありながら、直接的な進学は減っているということです。シナリオとしましては、2015年ごろになると優秀な学生の進学減少がさらに強まってしまうのではないかと想定しています。
 主な理由としまして、外部環境から考えますと、ここに挙げている3つの理由があると考えてございます。将来の生活に関する国民の不安が増大していくのではないかということが1点目。2点目は、将来不安と少し重なるところでございますが、経済格差もしくはそれに付随した教育の格差が博士課程への進学に影響を与えるのではないかということ。3点目については、どちらかというと留学生の獲得といった観点につながるところでございますが、日本の国際プレゼンスが既に低水準をずっと継続し、なかなか上昇の機運が見えない中で、七、八年もたてば留学生の獲得が難しくなってくるのではないか。こういったことを考えましても、直接的な修士からの進学及び留学生の獲得という意味で、学生のモチベーションや進学に対する意欲を損なってしまう現状が続いてしまうのではないかと懸念してございます。
 3ページ目以降で根拠となるデータを示してございます。まず、オーバビューについては3ページ目でございますが、皆さんもご存じの内容かとは思います。左のグラフにありますように、青色で塗ったところでございますが、修士課程から博士課程への進学が非常に少なくなっているということが継続的に見られているところです。右側にあります年齢構成を見ましても、20代の博士課程学生は非常に減ってきておりまして、社会人学生もしくは海外からの留学生を含めて高年齢化が進んでいるという現状でございます。
 4ページ目以降、それぞれの理由についてのバックデータでございますが、まず将来不安に関しましては、国民世論調査を毎年とっているわけですが、近年10年間ぐらいで悪くなっていくと答えている世論が非常にふえてきているところでございます。こちらは3種類の選択肢を挙げて回答してもらっているのですが、明確に上がっているのが悪くなっていくという回答です。近年の金融不況の影響を考えると、これは今後さらに継続する、もしくは右肩上がりが続くと考えられます。
 5ページ目が経済の格差です。富裕層という言葉も最近よく聞かれますが、データを見ましても格差が明らかにわかるところでありまして、こちらのグラフが、年収階層を幾つかのグループに分けまして、世帯ごとに教育費に幾らかけているかということをデータ化したものでございます。
 収入の高い年収階層Ⅴという青色のデータを見ると、教育費の状況はあまり変わっていないのですが、むしろ中位階層以下の方々の世帯においては教育費が非常に下がってきているということが明確にわかってきています。先ほどの将来不安の上がり方を見ましても、やはりこのトレンドは今後七、八年ぐらいは続くだろうと考えられますし、ここから考えられる一つの現象としては、初等中等教育段階での知的好奇心を失ってしまう子供の増加といったところです。そういう意味では、アカデミックキャリアとかに夢を持つ子供さんが減っていく可能性があるのではないのかということが一つ懸念材料になります。
 6ページ目が経済格差のもう一つのお話でございますが、先ほど委員からもご指摘いただいたところでございますが、大学生もしくは修士学生の段階で、経済的な状況が博士課程へ進学する上での一つのネックになっているということを示しているのがこのグラフになります。本調査の中で、学部学生と修士課程の学生に無作為にアンケート調査をさせていただきました。その際に、特に在学中の生活水準が保障されていないことが博士課程進学の阻害要因であるという回答が非常に多かった状況でございます。
 特に右のグラフの赤枠で囲っている生活水準云々というところですが、こちらはクロスをとっておりまして、3本ある棒の真ん中、進学するか否か考えている最中であるという学生さんがいるのですが、迷っている学生さんの中だけで見ますと、経済的な状況というのが34%で、ほかの選択肢と比べても数字が一番大きくなってございます。そう考えましても、やはり行くというモチベーションもしくはメンタリティーがある学生さんは別の話ですが、迷っている学生に限って言いますと、経済の問題は非常に大きいということが言い切れるかと思います。
 7ページ目以降が留学生に関するお話でございます。日本の国際プレゼンスということでございますが、少子化なり進学者の減少から考えますと、施策としては留学生の獲得は委員の皆様からのお話にもあったように重要なところかと思いますが、日本の国としての魅力はどうなのだというのを客観的に評価したのがこのページ以降でございます。既にご案内のところかと思いますが、左側にありますように、2013年ごろまでの将来的な予測も含めまして、他の先進国もしくは途上国と比べてもGDPの成長率は非常に低水準で推移するということがわかってございます。
 また、各項目別に国ごとの競争力がどうなのかというのを見たのが右のグラフで、日本のランキングを項目別に分けたものでございます。赤色でまとまっているものに代表される科学の競争力は、先進国間で比べてみても非常に評価が高い一方で、働く場所、生活する場所、研究する場所として見た日本の国の環境はどうなのかということを見ますと、緑や青に代表されますように、先進国のグループとしては非常にランクが低い場所に位置づけられているということです。また、明確な上昇の機運はなかなか見られていない状況でもございまして、今回の金融不況を重ね合わせてみましても、近年のうちに急速に評価が高まるとは少し考えにくいのではないのかなと見てございます。
 実態として、8ページが留学生の伸び方についてでございます。左側はご案内のところだと思いますが、特に2000年以降学部学生を含めた留学生の伸び方は非常にふえてきております。各大学で留学生がふえてきているというところかと思いますが、大学院生に限って見てみますと、データの都合上修士もまざっている数字ではございますが、着実に伸びてはおりますが、特に近年ふえているかというとそういうわけでもなくて、20年以上前から同じぐらいの伸び率でふえているというのが現状でございます。
 ですので、留学生がふえるのは間違いないわけでございますが、大幅に施策の効果があってふえているかというと、少なくとも現状ではそういうわけではないということもありまして、右のグラフにもありますように、他の国と比べましてもまだまだ低水準を続けていて、ここはメスを入れる必要があるのではないかというところでございます。
 ここまでは進学の量的規模に関するお話でございましたが、9ページ目以降は、研究職も含めた就職、修了後のキャリアパスに関するお話でございます。修了後のキャリアパスについては、産業界の方々から特にご指摘が強いところでございますが、現状でも博士取得者のアカデミック志向が非常に強い。ともすれば視野が狭いとか社会性が少ないという厳しいご意見も出ている中で、2015年にどうなっていくのかということを少し考えてみました。
 そうしますと、結論から申し上げますと、格差という表現が正しいかわかりませんが、分野によって少し志向に差が出てくるのではないのかなということをここで述べてございます。理由としては大きく2つあると考えておりまして、1点目は特に産業のグローバル化が博士課程に影響を与える可能性が高いと考えています。
 後ほど具体的に申し上げますが、製造業と非製造業のビジネスのあり方が変わってきてございます。特に製造業と工学系は非常にリンケージが強い部分がございまして、製造業がグローバル化する中で工学系の学生の意識が少し変わってくるのではないか、逆に他の分野の学生さんの意識は少し変わりにくいのではないかということで差が生まれると考えてございます。
 一方で、一般企業ですと団塊世代の退職は既に始まっているところでございますが、大学で言いますとそれが少し遅れてやってくるということで、2015年はまさにターニングポイントだと考えています。そうなりますと、少しアカデミックポストに空きが出るということは根本的な解決にはなりませんが、一時的にでもそういった状況を迎えると、アカデミックキャリア志向が強い学生にとっては逆にチャンスということで、民間よりもアカデミックにこだわるという状況が続く可能性があるのかなと考えてございます。
 10ページ目以降は現状のデータでございます。まずこのページでごらんいただきたいのは、工学系とそれ以外の専攻の博士課程の学生だけに絞って見たものでございますが、工学系の学生の過半数が民間への就職を希望している一方で、他の分野においては差が明確にありまして、アカデミックキャリアにこだわっているという現状が見てとれるかと思います。
 11ページ目以降が理由についてのバックデータでございます。今後グローバル化していく社会の中で日本の製造業がどうなっていくかということを見ているのがこのページでございますが、左側のグラフをご覧いただきますと、日本とアメリカが他国と少し異なる容態を示しているわけでございます。このグラフは、縦軸と横軸がそれぞれ製造業と非製造業の海外売上高比率で、海外で売り上げがあればグローバルだという前提があってつくっているグラフでございますが、そういったものを見ますと、日本においては製造業が比較的海外でのビジネスを展開しているのに対して、非製造業の海外での売り上げは非常に低いといったバランスが見てとれるかと思います。特にオランダを見ますと、そのバランスが日本とは逆転しているというところでございます。
 実際に製造業と非製造業のこの数年の営業利益ベースの推移を見ておりますと、非製造業がどちらかというと伸びていない一方で、製造業はかなり営業利益を伸ばしてきて差が広がってきているということが見てとれます。こういった状況を鑑みても、グローバル社会で勝ち残っていくために、製造業のほうが専門的な人材もしくは国際的な人材をニーズとして持ち得るのではないかということを考えまして、実際に博士課程修了者が製造業と非製造業にどういった就職の仕方をしているのか見たのが、次の12ページでございます。
 まだまだ萌芽的な広がりで、赤と青の実線のところでございますが、製造業と非製造業の博士課程の人材の就職率に差が出始めてございます。おおむね製造業は工学系の学生が多く、今後この状況はグローバル化の進展に伴って広がっていくと想定されます。この中に点線で書いてございます非製造業は医療、教育、学術研究機関で、どちらかというと民間就職というよりはアカデミックポストととらえていただければと思います。
 最後に13ページですが、団塊世代の定年退職でございます。こちらは2007年のデータで、大学の学校教員統計調査をベースにつくっているグラフでございます。現状60歳前後の方々が七、八年後には65歳以上のグループになります。大学によりますが、大学においては65から70歳が定年退職の一般的な層になりますので、そういった方々が団塊世代に当たるということで、2015年ごろには今と比べて比較的大量にポストの退職が想定されます。
 その際に、空きポストが出ることに伴って、少しながら今のポスドク問題の緩和につながるのではないかと想定されます。これはもちろん一時的なものでございまして、根本的な解決になるかどうかは別の話かと思いますが、そうなりますと、どちらかというとアカデミックポストに執着している部分がある他分野の学生さんにとっては、逆にこれが1つのチャンスとなりまして、民間の企業への就職というセンスをなかなか持ちにくい状況が続いてしまうのではないかということです。これはポジティブ、ネガティブ両方の側面があるかと思いますが、民間就職という観点で見た場合のネガティブ要因になるのではないかと考えてございます。
 以上が就職に関するお話でございまして、工学系とそれ以外の分野の格差が出てくるのではないかというシナリオでございました。最初に申し上げましたように、全体を通してかなりネガティブなシナリオがあるわけでございますが、今萌芽事例がいろいろ出てきておりますので、今年度の調査を踏まえた上で、改めてポジティブなシナリオもしくは打つべき施策を提案させていただければと考えているところでございます。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございました。次に資料5-2について、事務局から追加で説明があります。

【今泉大学改革推進室長】
 事務局から資料5-2について説明させていただきます。これは、皆様の検討の際の材料としていただければと思います。
 この資料は、大学院の今後のあり方を考える上において学位レベル別、学問分野別にそれぞれ状況が違うということについて、基礎的データを集めて示したものでございます。ただし、人文、社会、理学、工学の4分野については前回既に皆様にお示ししているので、本日は農学、保健、教育を追加しております。そこについて簡単にご説明申し上げたいと思います。
 まず農学でございますが、資料5-2の9ページ、10ページ目をご覧ください。傾向としては工学に似ております。就職状況については理学に似ている状況です。顕著に違うところといえば、国立の比重が非常に大きいところが特徴的なところでございます。
 次に11ページ目、12ページ目の保健の博士、修士の状況でございます。ここでは、特に専門的、技術的職業への就職者が非常に多いということ、また、博士であっても就職率が非常に高いということが特徴的なところです。あと、保健について言えば、その他国立、その他私学とあるように、地方にある大学において修士の規模が大きい反面、博士について言えば国立の割合が大きいという形になっております。
 次に13ページ目、14ページ目の教育の博士、修士の状況でございます。ここでは、教育の修士について旧帝大以外の国立大学の比率が非常に高いことが特徴的なところです。あと、就職先について言えば、当然ではありますが、大学教員または大学以外の学校の教員になる者が非常に多い状況が見てとれます。
 続きまして、15ページ目から21ページ目でございますが、これは各学問分野別で学生たちがどういう進路をたどっているか、そのフロー図を示したものでございます。これにつきましても、人文、社会、理学、工学については前回示させていただいております。ただ、前回示したものは人文と社会を分けずに人社、理学と工学を分けずに理工という形で出させていただいておりますので、各学問分野別に分けておるという状況でございます。
 次に22ページ目、23ページ目でございます。各学問分野別で教員の年齢構成がどうなっているかということについて示したものでございます。先ほど野村総合研究所から、今後大量の定年退職者が出る話がございました。ただ、各学問分野別に見ると必ずしも同一の傾向ではなくて、学問分野別に違いがあるというのを示したものでございます。
 さらに、最後でございますが、5月31日付の「博士課程の定員の縮小」という見出しの新聞記事がございました。その事実関係については、国立大学法人支援課蝦名企画官から説明させていただきたいと思っております。

【蝦名国立大学法人支援課企画官】
 資料5-2の25ページをお開きいただければと存じますが、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」という資料です。
 国立大学法人は平成21年度で第1期の中期目標期間の最終年度を迎えるということで、文部科学大臣は中期目標期間の終了時に組織及び業務全般にわたる検討を行って、所要の措置を講ずるということが法律上規定されております。これに基づきまして、22年度からスタートいたします第2期に向けて、こうした点について自主的に見直しをしていただきたいと先般6月5日に各大学に対してお示しし、先般来の新聞報道等はそれについての報道でございます。
 25ページは、組織についての内容を抜粋したものでございます。特に、報道にもございました大学院博士課程につきましては赤字でお示ししております。少し読み上げますと、「大学院の博士(後期)課程においては、法人のミッションに照らした役割や国立大学の機能別分化の促進の観点、又は学生収容定員の未充足状況や社会における博士課程修了者の需要の観点等を総合的に勘案しつつ、大学院教育の質の維持・確保の観点から、入学定員や組織等を見直すよう努めることとする」という内容になってございます。
 見直しの内容につきましては、各国立大学におきましてご検討いただいて、第2期の中期目標や計画の中に適宜反映させていただければと考えております。内容については、例えば組織を時代の要請に応じたものに変えていくこと、あるいは博士課程については規模を縮小したとしても、むしろ修士をふやしていくとか、さまざまな方向性があり得るものだろうと思っております。
 いずれにしましても、見直しの内容は博士課程を一律に縮減することを求めるものではなく、各法人の状況に応じた見直しを促すという内容となっているところでございます。また、大学院重視の政策を転換したという一部報道もございましたが、そういった内容を含んでいるものではないということも申し添えさせていただければと存じます。
 いずれにしましても、量的規模の問題につきましては、この場も含めまして中教審において今ご検討いただいているところでございます。ということで、このようなことを先般6月5日に各大学に対してお示ししていることをご紹介させていただきます。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。いずれにしても基本的な方針があって、将来の知識基盤社会に備えて高度な専門知識を持った人材がこれからさらに必要になるという前提のもとに、いろいろな施策を打っていく。ただし、これを全部一律にやってよいかという問題はありますので、そこの部分についての検討をやるべきという話だろうと思います。今の説明を踏まえて、特に今後の博士課程の需要と供給という問題も含めて、長期シナリオに基づいた説明、それから具体的な現在の大学院修了者の進路状況を見ながら、議論いただければと思います。

【今榮委員】
 今の野村総研さんのお話で質問させていただきますが、大学院教育でのもう一つの大きな問題は語学の問題があります。日本人に対しては英語教育、留学生に対しては日本語教育をどうするかという問題がありますが、今のお話の中で、日本がガラパゴス化する上において、語学教育の影響がかなりあるのでしょうか。その点をご説明いただきたいのですが。

【佐藤主任研究員】
 今おっしゃられた語学教育というのは、英語を勉強するほうですか。

【今榮委員】
 そうです。

【佐藤主任研究員】
 これは語学教育にフォーカスして調査しているわけではないので、私見も多少まざっているところがあるとは思いますが、7ページのグラフにありますように、日本は生活の場所として非常に障壁がある国だと思います。
 大学の中にいるだけであれば、おそらく多少なりとも英語を話せる方もいらっしゃると思いますし、英語ができれば論文も読めるし先生とも話せるというのはあると思うのですが、留学生が来る上で、日本での生活も条件として非常に厳しい部分があって、例えば学生の中でも英語を話せる人の割合が少なければ、留学生としては学生生活を営む上で非常に大変な部分がありますし、まして町に出たらほとんど話せる人がいないわけで、そういった点を考えても、いろいろな意味での交流ができる舞台をせめて大学レベルで整えておくというのは非常に重要ではないのかなと考えています。

【有信部会長】
 今の野村総研の説明の中で言うと、将来的に見て製造業ではドクターに対する需要が高まり、非製造業では基本的には高くならないという話がありましたが、逆に言うと、これは非製造業が相変わらず生産性が低くて、効率の悪い業務形態を続けていくという前提で話をされていると思います。
 つまり、非製造業が将来的に海外に対して競争力を持つ、あるいは国内のGDPに関しても、今確かに7割ぐらいが非製造業のGDPだと思いますが、逆に言うと、ここの部分の生産性がもっと高まる可能性があるわけです。その一番重要な要因は、やはりここで働く人たちの専門性がさらに高くなるということだろうと思います。ここの部分については、予測の中ではどう考えておられたんですか。

【佐藤主任研究員】
 現状、この予測ではあくまで趨勢が続いたらどうなるということで、今お話にあったように、今の生産性の状態を保ったらまずいということなので、今後打ち手としてやっていく上では、日本の経済が元気になるためには製造業だけじゃなくて非製造業も何らかの手を講じる。
 そういう意味では、専門性のある人材を雇用していかなければならないということがあると思うので、むしろ将来シナリオはほんとうは幾つかの枝分かれがあるべきでして、今の趨勢が続くケースと、趨勢をまずいと感じた方々が今の趨勢をもっと右肩上がりに変えていこうとシナリオを変えていく枝分かれのもう一個のシナリオがあると思います。右肩上がりによくなっていくシナリオは今回考慮しておりませんが、このままの状態が続けば必ず必要になってくる行動だと考えています。

【小杉委員】
 見方がよくわからないのですが、12ページの博士課程の修了者に対する就職者の割合というのは、100%というのは博士課程修了者でしょうか。

【佐藤主任研究員】
 これは、博士課程修了者の中で就職者がどれだけのパーセンテージでいるかというのを年度ごとに見ているものになります。

【小杉委員】
 それが業種で分かれているのですか。

【佐藤主任研究員】
 はい。業種ごとに就職のときにどこの分野に行ったかというのがデータになっています。

【小杉委員】
 それでは、100%はどういう状態ですか。

【佐藤主任研究員】
 100%の積み上げの数字です。

【小杉委員】
 博士課程の学部に対して何%ならわかるのですが、産業に対して何%というのは、博士課程が産業ごとに修了したわけではないので、よくわかりません。

【佐藤主任研究員】
 母数は博士課程修了者です。

【小杉委員】
 それでは、修了者のうちの就職者。就職者の中の産業別構成ですか。

【佐藤主任研究員】
 100%の中には、就職者と進学している人も含まれます。

【小杉委員】
 卒業者の中で、その産業に就職した人の比率を出しているということですね。

【佐藤主任研究員】
 そうです。

【小杉委員】
 わかりました。そうすると、製造業が全体の中の10%ぐらいで、非製造業の中で大きく除外した医療、教育、学術関係が、実は今博士課程修了者の最も多いところですよね。

【佐藤主任研究員】
 そうです。

【小杉委員】
 ここは公共と限ったものではない。学術分野というのは、ある意味ではこれから拡大していく部分ではあると思うのですが、サービス業の中のアカデミックに関係あるといいますか、知識基盤型のサービス業は、ある意味では除いた残りをその他の非製造業と言っているわけですね。そうすると、ここでアカデミックが伸びないのはごく普通じゃないかという気もしないでもないですが、この区分けが納得いきません。

【佐藤主任研究員】
 ここでかいてある点線のものですが、今おっしゃられた除外したものであり、ここで対象にしているのは企業ではありません。非製造業のその他というのは、例えば金融機関だとか我々のようなコンサルティング会社といった会社も含まれます。ですから、当然ある程度アカデミックな人材の需要がある分野もここには含まれております。
 一方で、点線の部分はどちらかというと公的な機関が位置づけとして非常に濃いので、ここでは民間に就職する場合にどういった分野に就職して枝分かれが出てくるかを見たかったということで、あくまでもここは公共と民間という区分けをして除外させていただきました。

【小杉委員】
 学校基本調査では産業で公共をこういうふうに区切れないような気がするのですが、それはともかくとして、そうするとむしろ非製造業を知識基盤型の非製造業とそうではない非製造業に分けることができるのではないかと思います。野村総研のようなところがこれからどのぐらいどうなるかということを分けたほうが、多分議論がわかりやすいような気がします。

【佐藤主任研究員】
 わかりました。そこのところはもう一回統計を見直したいとは思いますけれども、今のご意見は参考にさせていただきます。

【有信部会長】
 多分統計では無理だと思います。つまり、例えばサービス業の中にはデパートの店員などみんな含まれているからです。
 もう一つは、製造業という区分けの中でもいわゆる間接部門というのがあって、ここの人たちはみんな製造業に含まれるのですが、直接部門、間接部門という言い方はおかしいのですが、製造業の中でも事務系の部分は現在でも極めて生産性が低いと言われているわけです。何で低いかというと、ここの部分の専門性が低いからで、いわば外圧というのではないけれども、今後日本の企業が競争力を高めていくためには、必然的にここの部分の専門性も上げていかざるを得ないというモーメントはあるわけです。
 ですから、間接業、あるいはサービス業と製造業という分け方だけでは、これから先のことを考える意味では十分ではないような気がします。どういう形で分解していくかということだけでも非常に重要な課題になるとは思いますが、ぜひ今後検討するときには考えていただければと思います。

【堀井委員】
 グローバル化、ガラパゴス化ということですが、ガラパゴス化が非常に問題であると言われています。確かに問題の部分もあるのですが、ほんとうにグローバルスタンダードがいいのかというのはよく考えたほうがいいと思います。例えば日本は、世界で言うとクリエーティブクラスと言われるトップ20%の優秀な人材を、日本の特殊性によってほぼ何の努力もせず調達することができてきたという事実もあると思います。携帯が世界に普及しないみたいなことをよく言いますが、むしろモトローラが入ってこようとしたときによく守り切ったという見方もできると思うのです。
 これから日本がどう進んでいくべきかということを考えたときに、ほんとうにグローバルスタンダードに合わせていくのがいいのか、あるいは、むしろガラパゴスを目指すというのはちょっと言い過ぎだと思うけれども、どう考えたって中国やアメリカと同じように戦えるはずがないので、日本の特性をよく踏まえて、日本の強さを生かしていく日本なりの戦略を考えるということもあると思います。
 教育においても同じことが言えるのではないかなと思います。日本発で世界の人が認めるいいものは山ほどあって、そういう日本らしさみたいなものを追求して、もっと世界が尊敬するいいものを日本から生み出せるような国を目指していくということが大切で、大学における教育においてもそういう観点が必要ではないかと思います。

【有信部会長】
 非常に重要な問題提起だと思います。逆に言うと、日本はグローバルスタンダードにどんどん蹂躙されてきているわけですが、それに対して、企業は、商売する上ではグローバルスタンダードでなければ商売ができないということで、グローバルスタンダードに合わせています。
 そうすると、今度は教育、あるいは人材育成をどう考えるかというときに、今の議論が非常にセンシティブになってきます。つまり、人材も結局世界で活躍しなければいけないのですが、世界で活躍できる人材を育てるという観点に立ったときに、グローバルスタンダードに従って育てるべきか、日本で固有の価値観を持って育てるべきかという議論になるだろうと思います。この点については、今すぐ結論が出る話ではなくて議論を続けていくものだろうと思いますが、ぜひいろいろご意見を今のうちにでも出しておいていただけるといいと思います。

【菅委員】
 異論というわけではないですが、少子化は当然起きてしまうという現状を目の当たりにすると、経団連も言っているようにアジア、あるいは一般的に外国の留学生が日本で労働力として根づいてもらわないといけない。その労働力が優秀な労働力であればあるほど日本にとっては助かるわけです。彼らが自国に帰ってからも日本との連携を深めてくれるでしょうし、いろいろな意味で日本が魅力的な国でないといけないと思います。
 そのときに、日本の博士の学生ですら自分のキャリアパスが見えない国に外国から留学してくるかという問題があると思います。だから、留学してくることによって日本におけるキャリアパスが見られる、日本の大学からちゃんとした教育を受けられる、もちろんそのときに経済的な糧がないと優秀な留学生は当然糧のある国に行きますので、十分な経済的支援を受けられる、この3つはこれからグローバル化、ガラパゴス化も含めいろいろな意味で日本の発展を考える上ではとても重要なポイントだと思います。これは今後ちゃんと議論して、きっちりした指針を出していかないといけないと思います。

【木村委員】
 今のキャリアパスが見えるという議論について、イシューが違いますからここではほとんど議論の対象になりませんが、高専の評価はOECDのハイアーエデュケーションレビューでは非常に高くなっています。96年のデアリングレポートでも同じですが、高専の教育は高く評価されています。
 私も随分いろいろな高専へ行って学生さんと話しましたが、殊に専攻科の学生が非常に明確なキャリアパスを描いていることに感心させられます。大学の卒業生の多くが就職で困っていたときに、高専では、最低の学科でも8倍という求人率になっていました。今は20倍、30倍も普通です。また、採用取り消しはほとんどありませんでした。3人あったと聞いていますが、すぐ次が決まったようです。
 要するに、教育が大事なのです。きちんとした教育を高専の先生方がやっておられるから、学生たちもちゃんとキャリアパスが見えるようになっている。OECDレビュアーの一人は、「日本の高専の学生は非常にエキサイトしている。きちんとした教育でエキサイトさせられて、しかも自分の将来のパスがよく見えている」と話していました。キャリアパスが見えるというのは社会構造の問題もありますが、やはり教育の問題が相当あるのではないかと思います。
 それから、経済産業省的な議論になってしまいますが、例えば日本は要素技術ではものすごいものを出しています。iPodの中身の90%は日本の技術だと言われています。しかし、それらをインテグレーションしたアップルはものすごく稼いで、日本のメーカーはほとんどプロフィットを得ていないのです。そういう現象が携帯、DVDでも起きています。
 私はどちらかというとナショナリスティックなので、堀井さんがおっしゃることは理解できるのですが、今のままの教育ではだめではないかと思います。これは経済産業省の議論だから、ここであまりやるといけないのですが。

【堀井委員】
 全くおっしゃるとおりだと思うのですが、むしろiPodのようなものは本来日本で生み出すべきものだったと思います。まさに日本的な製品で、それが日本から生み出せなくなっているところに問題があります。だから、一応東大ではアイスクールというのをこの9月から立ち上げて、そういうものを生み出す能力をもう一回見直してみて教育したいと思っています。ですから、日本らしさを追求するということはどういうことかよく考えてみて、まさにiPodのようなものが再び日本から生み出せるようにするということが大切だと思います。

【五神委員】
 同じ工学系仲間ですけれども、私とは大分方向性が違うのですが、日本人がどこまでクリエーティブクラス、トップに食い込み続けるかというのは重要な問題です。その候補となる人材を今の社会や産業界の環境中できちんとリザーブできるのかどうかというのが問題です。グローバル化してきたときに、製造業ではドクターの需要が高まるはずです。先日、日本のある電機メーカーの研究所のかたからお聞きしたはなしですが、人材を国際的にオープンに募集し、採用試験を全くフラットにやると、残念なことに日本のPh.D.は、応募はたくさんあるが通らないのだそうですこのような状況を直さないといけないということが1つです。
 それで、今は日本の優秀な人のほとんどが修士を出てすぐ企業の中に入る。今まではそれでよかったのですが、向こう5年、10年、ちょうど団塊の世代が入れかわるぐらいの時に、彼らが国際競争の中で、PhDを持っていないと困るとなったときに、彼らを大学院でスムーズに受け入れられるような施策が必要です。
 それから、高専のレベルが非常に高いという議論がありましたが、やはりどのようなレベルの人材をどこでいつ育てるかを見極めることが大事です。本来学部卒の要求レベルなのに、だらだらと修士までかけるというのはナンセンスで、コストパフォーマンスの悪い話です。レベルと規模の最適化は全体の見直しの中で必要であると思います。

【有信部会長】
 今の議論は多分慎重にやらなければいけないので、まとめるのは非常に難しいのですが、ある意味でスタンダード的な観点を日本の中にも持ち込まなければいけないと思います。
 ヨーロッパにせよアメリカにせよさまざま異なった人たちがいて、異なった人たちの中で共通のものを見つける、あるいは異なった人たちが享受できる共通の価値を与えなければいけない中で物を考えるのと、非常にユニフォームな中でそういうことを考えるのでは、基本的に発想の違うところがあります。日本の教育はユニフォームな中で非常にいい効果が上がってきたのですが、これをグローバルスタンダードとして展開するためには、堀井先生が言われたようにガラパゴスじゃないもう一段飛んだ施策が必要であり、それはグローバルスタンダードを超えるというか、新たなグローバルスタンダードになるようなものでないといけないと思います。
 この点についてはもっと議論する必要があり、そう簡単に今みたいなことを言ってしまっても実は何も言ったことにならないので、議論を続けていければと思います。

【中西(友)副部会長】
 話しを伺っていて、本日の議題は大学院教育ということなのでマスターもドクターも一緒の議論でもいいかと思いますが、修士を出た人がこれだけたくさんいるわけです。先ほどのデータで10%、数パーセントしか製造業に行かないということはあるものの、ほとんどの人が社会に出ていくわけで、大学に残る人はほんとうに少ししかいないということです。ですから大学院といえども実際に社会の多くを構成する人を育てているということになろうかと思います。
 すごく優秀な人は放っておいても伸びると思います。したがって、大多数、少なくとも半分以上の人をどう育てるかということが大学院教育の非常に大きな課題だと思います。先ほど木村先生が言われ、また五神先生が書かれた資料に時間の浪費と書かれてはいますが、教育面をもっと活性化しないと優秀な人材は育成されてこないと思います。
 アメリカでは、私が一緒に仕事をしているカリフォルニア大の教師もそうですが、教師の熱意がどうしてあれだけ出てくるのか、不思議なくらいです。国際会議でも、最近はその半分以上が若い人向けの場合もあり、先進国では人材育成にものすごく力を入れています。中国や他の発展途上国でも、教師だけでなく学生の情熱も全然違います。ですから、大多数の学生が情熱を持てるぐらいの教育をするという教員側の意識改革が起きるような、何か仕掛けがないと、幾らいいカリキュラムがあってもうまくいかないこともあるのではないかと思います。教育問題は非常に大切で、いかに活性化するかということは評価にもかかわることと思います。

【有信部会長】
 一番本質的なところに触れてきたと思いますが、それも非常に重要なポイントだと思います。ほんとうはここの部分が解決されないと何も解決しないというところもありますので、それも含めて今後詰めていくということにしたいと思います。
 それでは、事務局のほうで今後の予定等についてお願いします。

【今泉大学改革推進室長】
 それでは皆様、資料7をご覧ください。次回の大学院部会につきましては、6月23日火曜日、17時から19時までの開催としたいと思います。次回のテーマといたしましては、まだ調整中ではございますが、先日木村委員のほうからお話がありました博士課程の3年制についてと、本日議論になりました国際的に卓越した教育拠点の話について、中国の状況を角南先生にお願いしようと思っております。
 また、冒頭で有信部会長からお話のありましたこれまでの議論のまとめについて、骨子案を事務局から提出したいと思います。ただ、まだ議論が尽きていないところについては、今後の検討課題という形で、議論された部分とまだされていない部分を区分けした形で骨子案を提示したいと考えております。
 あと、次回以降でございますが、7月10日金曜日、10時から12時まで会議があり、予備日として7月31日も17時から19時でとっております。
 以上でございます。

【有信部会長】
 それから、先ほどの新聞記事では、文部科学省の意図とは違い、「博士課程の定員削減をしろ」と文部科学省が指示したという記事になっています。
 これは、さっきの資料の説明にもありましたように、分野ごとにそれぞれ違う課題を抱えているため、一律に博士課程について議論をするのは無理があるのかもしれないと思います。ただ、先ほども少し議論がありましたように、あまり安易に現状ベースでの議論ではなくて、やはり将来を見据えてそれぞれの分野ごとに量の議論をしていかなければいけないと思います。
 高度な知的基盤社会を支える人材を育成していくという前提は基本的に変わらない中でも、今言ったように理学系、工学系だけでもかなり状況が違うという話もありますので、今後、分野ごとに分けた量の議論をどこかで進めていかなければいけないと思っていますので、よろしくお願いします。

【今泉大学改革推進室長】
 最後に、もう一つお願いしたい件がございます。机上にご意見伺いという資料を配らせていただいております。委員の皆様の中には、大体月に一度2時間程度の大学院部会の中だけでは議論が尽くせない、または発言の機会が少ない、たまたまその期間に休んでしまったという方々がいらっしゃると思います。そこで、各論点についてお感じになっていること、ご意見等あれば、この様式にお書きいただいて6月16日までに事務局あてにご連絡いただければと考えております。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。ぜひその点よろしくお願いします。
 それでは、これで閉会にしたいと思います。どうもありがとうございました。

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学改革推進室

大学院係
電話番号:03-5253-4111(内線3312)

-- 登録:平成22年06月 --