大学院部会 議事要旨

1.日時

平成21年1月15日(木曜日) 10時~11時30分

2.場所

文部科学省 16F 特別会議室

3.出席者

委員

(委員)荻上紘一(部会長)
(臨時委員)天野郁夫、有信睦弘、石弘光、黒田壽二、菱沼典子、矢﨑義雄の各臨時委員
(専門委員)伊藤文雄、梶山千里、川村正幸、白井克彦、菅裕明、福田康一郎、堀井秀之、山田礼子の各専門委員

文部科学省

德永高等教育局長、坂田文部科学審議官、土屋政策評価審議官、河村私学部長、戸谷高等教育局審議官、義本大学振興課長、村田私学行政課長、白間私学助成課長、下間学生支援課長、榎本高等教育局企画官、今泉大学改革推進室長、浅野専門職大学院室長

4.議事要旨

(○:委員、●:事務局)

(1)事務局より配布資料の説明があった。


(2)事務局より「大学院教育の充実のために今後議論すべき論点について」説明があり、質疑応答、意見交換を行った。内容はおおむね以下のとおりである。

○ 大学院の中で教育についてどういう形で取り組むかというモチベーションが、最大の問題である。我々の世代は、文系は徒弟制度的なつながりで教育を行い、研究者になるという期待感を持ってやってきた。現状は、教育に対する貢献を評価する数量的基準がなく、教員の採用や昇進の際には研究業績のみで判断している。教育を研究業績と同じくらい評価することが必要。外国では例えば学生による授業評価を行い、結果を公開している。また、学生や同僚の評価を踏まえて、大学が良い教育を行っている教員を表彰している。研究が頭打ちになった教員が教育に特化するということがあっても良い。大学院GPはいかに学生を教育するかということで選定しているが、教育評価の基準を設定することが必要。

○ 自分は学部卒業後アメリカに留学したが、教員が大学院の教科書を書くことに熱心であった。それは、評判の良い教科書を書いた人がその後USアカデミーの会員に選ばれるなどのインセンティブがあったからである。日本でも良い教科書を書くことが評価の材料になれば良い。

○ 教育に対する評価は重要であると思う。医療系の場合は、学部教育改革の結果、各大学において教育担当の専任教員を置くようになった。講座単位の教育を崩すきっかけになった。大学院GPの取組を見ていると、大学院教育を担当する専任教員を置くところが増えており良い傾向である。

○ 論点については、大学の教員に反省させるのはいいが大学の中だけで反省しても限度がある。大学外の評価を入れていく必要がある。これだけでは、大学内の人間しか理解できない。社会との関わり合い中で大学のあり方を考える視点が必要。
 また、平成17年の大学院答申の中でグローバル化について議論しているが、大学内部にとどまっていた。外国の状況との比較が必要。
 それから、まだ大学には入口管理重視の考え方があるが、出口を管理することで質を維持する方が良い。

○ 精神主義にならないようにする必要がある。いくら教育が重要といっても実現するための条件が整備されていなければ意味はない。いくつか問題があるが、第一に、一定数の学生がいて教員がカリキュラムを組んで教育を行うような、スクールとして成り立っている大学院研究科はいくつあるのか実態を把握することが必要。
 次に、教員の授業負担を考慮する必要がある。現状は学部の負担の上に大学院の負担が増えている。きちんと教育するためには教員を増やす必要があるはずだが、ほとんど増えないままやってきた。大学院を重視すれば学部がおろそかになる状況である。
 3点目は専門学部制の問題である。学部における専門教育と大学院修士課程における専門教育について何が違うのか整理が必要。ほとんど議論がなされていない。どういう科目を学部で教え、大学院で教えるかということを整理する必要がある。
 4点目は修士課程の問題である。研究者養成つまり博士課程の前段階として位置づけるか、あるいは専門職業人養成を目的とするのか、検討する必要がある。修士課程から専門職大学院に移行すればはっきりするが、あいまいなままやっている。
 もう一つの問題として、多様なバックグラウンドを持つ学生が大学院に入学していることがある。他大学や他分野からの入学者が増えれば、教育に大きなエネルギーを使うことになる。お金も時間も手間もかかるはずだが、そういう状況が放置されている。教育を熱心にしろと言うだけでなく、大学院の教育条件を整備する必要がある。

○ 自分は社会科学系でアメリカで大学院教育を受けたが、教育者としてのトレーニングが充実していた。カリキュラムは、コースワークがはっきりと決まっていて、主の指導教官の他に3名のアドバイザーがいる集団指導体制であった。論文の指導だけでなく教育課程の中でも指導を受け、研究室内の閉鎖性も無かった。日本に戻って難しいところもあるが、コースワーク制や複数の分野を学んだ上で論文を書くといったことを行っている。
 コースワークの中ではリサーチメソッドが重要である。複数科目が必修であったが、研究のトレーニングと同時に教育者としてのトレーニングも受けた。日本の課題としては、研究のトレーニングは進んでいるが、大学院が大衆化している中、グラデュエートスチューデントの教育者としてのトレーニングができていないことがある。

○ 今までの組織としての大学、大学院から学位課程を中心に考えていくことが必要。学位の連続性について考える必要がある。課程制を中心とした考え方に変えていくべき。

○ 現実には、大学教員は学部教育も大学院教育も頑張っているのではないか。さらに実質化できるのか。人を増やすことのほか、システムを変えるところがあるのか。
 そもそも大学院とは一体何か。入ってくる学生は何を期待してくるのか。学生が入学して何が得られるかというと、今までの大学院は研究者養成であった。今後は研究者養成だけでなくなっている。日本の研究水準を上げるのであれば、環境やお金やポストがなければならない。そうしないと学生が入った後、出口が見えず、ビジネスとして成立しない。競争原理はあるのか。学生が教育に魅力を感じて入ってくるのか、その結果として何が得られるか明確にする必要がある。分野によっても違うと思うが、どういう内容のものをどれくらい提供する必要があるのか、専門職も含め細かく議論する必要がある。研究者を養成するシステムも大事。学生から見て納得できる大学院にする必要がある。

○ 大学院の研究科と専攻は何か。例えば、東大の法学政治学研究科は修士課程が20名で法曹養成が300名である。20名で研究者養成をやって他は専門職大学院であるのに、一つの研究科である。カリキュラムの議論はできるのか。将来、大学院の教員が足りなくなる。日本の大学院はグラデュエートスクールではない。人社系の実態がどうなっているか把握すべきではないか。

○ 大学院教育に関して、制度面は改善されたが教員の意識が変わっていない。大学教員は資格がないので、教員としての心構え、教えるテクニックなど指導する場が必要である。新任教員対象にFDはやっていたが満足なものではなかった。例えば免状を出したり、30時間の講義を義務付けてはどうか。最初にきちんと教えないと教員の授業は自分流になってしまう。免許を与えて10年ごとのリニューアルをしてはどうか。
 もう一つの問題は、理系の博士課程の学位の質保証がいい加減であることである。質保証のプロセスがきちんとできていない。学位の基準が研究論文や学位論文を書くことであるため、専門には強いかもしれないが、基礎学力を確認する術がない。キュームやリサーチプロポーザルを制度としてやらなければならない。現場に任せてはなかなか進まない。今の学生は自分で勉強する力も指導を受ける力もない。

○ 医学系は大学院教育の実質化が遅れている。実質化を推進することは基礎研究の推進には貢献すると思う。ただ、社会や人々との接点が大きい領域であり、卒業生のほとんどが医師として活躍し、全員が大学院に入れない中、その人たちを活性化させることも重要。社会人学生の受入れ方策として論文博士がテーマになっているが、教育をしっかりするという意味で論文博士のあり方を議論する必要がある。達成目標やアウトカムできちんと評価する。

○ 大学院答申において論文博士はあいまいなままであった。

○ 医療系は、論文博士については大学院答申の時と状況が変わっている。
 それからGP事業の事後評価のデータは貴重であり、活用の方策を考えるべき。例えば、研究者養成、専門職養成とあるが学位論文の指導に活用できる。課程制でも十分やっていける。

○ 大学院GPは成果があがっていると思う。

○ 教員の意識改革について言えば、ヨーロッパのある著名な大学でも採用の面接で、どういう新しい教育を行うか、どういう教育哲学を持っているかなど細かく質問され議論する。欧米では教育の哲学を持っている人を採用する。一方、日本の教員は教育と研究は一体であるという考え方の人が多い。教育と研究を区別して考えて、それぞれきちんと全うするということが大学院のあり方であると思う。

○ 大学院の教員の資格は、設置基準を見てもほとんど研究者としての資格である。研究ができるのであれば、当然教育もできるであろうという考え方の基に採用を行っている。
 それから、どういう人材をどれくらい養成するかということを各大学に任せたままでいいのか。看護分野においては、アメリカでは専門職ばかりになり、大学教員がいなくなっている状況である。

○ 現職の若手教員の労働の状況はどうなっているか。学部、大学院に加えて専門職大学院もある。論文を書いたり、学内行政、GP獲得の仕事もある。大変な状況であると思う。欧米では、年齢に応じて、研究者、教育者、または大学の管理担当者というように仕事が分化している。若手研究者の負担が多くなっているが、頑張っている人が報われないと、大学院教育の実質化もできない。

○ 専門職大学院については、横の連携がなく大学院教育が組織的でない。コースワークが確立していない。修士課程と差別化を図るのであれば、一定規模以上で、分野を限定する必要がある。修士課程イコール専門職はおかしい。

○ 専門職大学院の問題は次期に引き継いで欲しい。

○ 若手研究者は創造性、社会常識、課題設定能力が低いとの評価があるが、専門分野の知識を与えることだけが教育ではない。これらは国際的にも重要なものと認識されている。教育目標が明確化されているだけでは意味がなく、どんな教育をするか徹底的に議論し共通認識を持つことが必要である。出口管理の一つの方策として、例えば、企業が採用試験を公表してはどうか。

● 平成17年の大学院答申で初めて分野別に議論したが、あまり教育の中身までは議論できなかった。大学行政をやる上でどう大学院教育を推進するか方法論がなかった。医学と工学分野についてはモデルカリキュラムのようなものがあったが他分野はない。良い事例は波及させることが必要であるが、例えば、モデル事業は個別成功事例を一般化することが必要。また東大でモデル的にライフサイエンスの良い教科書を作っている。そういった良い事例を文部科学省として応援していきたい。
 また、博士前期課程と修士課程の問題については、観念的には分離された方が望ましいと考えるが、実際には上手くいかない。教員の負担の問題については、難しいところもあるが手当てしていきたい。

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