大学院部会 議事要旨

1.日時

平成20年11月25日(火曜日) 17時~19時

2.場所

文部科学省 3F 2特別会議室

3.出席者

委員

(委員)荻上紘一(部会長)、黒田玲子、野依良治の各委員
(臨時委員)天野郁夫、有信睦弘、生駒俊明、石弘光、矢﨑義雄の各臨時委員
(専門委員)伊藤文雄、梶山千里、河田悌一、川村正幸、北村敬子、清水康敬、菅裕明、福田康一郎、堀井秀之、山田礼子の各専門委員

文部科学省

河村私学部長、久保高等教育局審議官、片山高等教育企画課長、永山国立大学法人支援課長、藤原専門教育課長、下間学生支援課長、榎本高等教育局企画官、今泉大学改革推進室長、水田大学設置室長、浅野専門職大学院室長 他

4.議事要旨

(○:委員、●:事務局)

(1)事務局より長田豊臣委員の辞任と河田悌一氏の専門委員への就任について紹介があった。

(2)事務局より配布資料の説明があった。

(3)事務局より「これまでの大学院教育に係る施策のフォローアップについて」説明があり、質疑応答、意見交換を行った。内容は以下のとおり。

○ 大学院生に対する経済的支援について真剣に考える必要がある。観点は2つあり、1つは奨学金により授業料を軽減・免除することである。もう1つは、主要な大学院大学において教員の研究に参画する学生の貢献の対価として給付するものである。特に理科系においては、大学院学生の参画がなければ研究が成立しない。学生は月200時間の貢献をしている。これに対価を払っていないのは日本だけである。

○ 資料6について、TAが前年度に比べて減少した理由は何か。

● 調査結果の詳細な分析が済んでおらず、原因は不明である。

○ 大学院生の獲得競争は熾烈であり、経済的支援をやらなければ国際競争力を持つことはできない。国は財政難だとして、高等教育にお金が使われていない。高等教育が崩壊して優れた学生が全て外国に行ってしまうことが心配である。外国の優れた学生を日本に呼び、流動化を促進するためにも給付制の支援が重要。

○ 何故そういう状況になっているかというと、教育訓練と研究が明確に区別されていないことがあると思う。アメリカの博士課程では、最初の2年は徹底して教育訓練を行うが、ここでの支援は奨学金により行われる。これと給与を出すということは考え方が違うもので、大学が高度な研究を実施するため、厳しい選抜を経た学生に対して対価を払うということが明確になっていると推測できる。一方、日本では厳しい選抜を行うと博士課程に学生が来なくなってしまうという話もある。
 また、日本の社会の問題で、博士課程学生は就職できないと言われているが、少なくとも工学系では就職上の問題は無くなりつつある。また薬学系も20%程度は博士課程学生を採用している。ポスドクについてはミスマッチが生じているが、日本の産業と大学の学問との間にずれがあるので当然の話である。大学は先端的な学問分野を開拓し、しかもその部分に重点的な資源配分が行われるが、産業は成熟しておらずポスドクを吸収できない。国策で予算を重点配分し、その結果増えた研究者を路頭に迷わせるのは無責任であり、国がきちんと対応すべきである。もう一つの問題として、日本の博士課程学生は中小企業に就職したがらない傾向がある。産業構造を転換させるためには、積極的に中小企業に博士課程学生が就職し、新しい産業の創出を促す必要がある。科学技術政策と教育政策とのマッチングが必要。

○ 大学院生に対する教育面の経済支援がミスリーディングとなっている。修士の段階から支援が必要で、アメリカの場合はTAにより入学時から支援を受けている。大学院に入る前に支援をどのくらい受けられるか明示する必要がある。また、どういう教育理念に基づき、人材を養成するかということも明確にする必要がある。そのために大学院を学部の延長ではなく、独立部局として扱うことが必要である。

○ これまでの議論は博士課程の研究者養成や職業人養成の話に偏っている。大学院学生数が2倍になり、大学院は多様化し、かつてのグラデュエートスクールではなく、学部卒業後に継続して勉強する者の受け皿としてのポストカレッジスクールとなっている中で、問題の深刻さは修士課程が何をするところか分からなくなっているところにあり、それが博士課程全体にも影響を及ぼしている。修士課程のあり方を見直す必要がある。
 今後、学位プログラム型の教育課程を検討するとして、修士課程を博士課程の前段階として位置づけるか、あるいは専門職業人養成を目的とするのか、その場合専門職大学院と何が違うのか検討する必要がある。しかし、大学院教育振興施策要綱や調査の結果でも修士課程はほとんど触れられていない。もう少し博士課程以外のところに目を向けていただきたい。
 また、大学院は大学教員の養成機能も持っているが、これについても触れられていない。是非議論していただきたい。

○ 国際化の問題であるが、大学に留学生や教員が多数来ている中、事務体制の国際化は進んでいるのか。現状では事務が対応できていない。文部科学省として国際化に対応できる人材を体系的に養成するつもりがあるのか。単発では駄目で継続的に人材を養成する必要がある。将来的な計画はどうか。

● 国立大学、私立大学で育成の方法は別だが、国立大学については、文部科学省としては、去年具体的な育成方針を決めて、各大学から来ている人の中から計画的に専門的な人材を養成しようとしている。また、国大協やブロック別でもそのような人材を育成しようとしている。

○ 量的にはどうか。

● 今のところは数十人程度である。それとは別に、各大学により民間人を採用しているケースもある。

○ 財政的な支援はどうか。

● 国際化拠点を育てる中でそういった人材を養成する。高等局で来年度予算要求している「グローバル30」の中で、人材の計画的育成に対する支援策を盛り込んでいるところである。

○ 修士課程で終えようとしている学生は就職活動で研究室にほとんど来ない。博士課程に進学する人と修士課程で終えようとする人は全く違い、教育が成り立たない。

○ 大学院の入学定員は何かという問題がある。これまで見直しがないままである。もともとこれは教員の数を決めたり、国立大学の場合は講座制の中で、1講座につき修士:博士が2:1となっていたりしたが、その時代の定員の考え方がほとんどの大学で固定化されている。博士を減らして修士を増やすという動きはあるが、定員は何を元にして決まっているのか。定員を満たしていないものが放置されている。一方では定員を充足しなければ、予算、補助金が減らされるという圧力もある。オーバードクター問題の原因の一つも定員と予算配分の制度にあり、また非合理的な形で決められた2:1という定員配分も大学によって合わない部分がある。是非定員の問題について検討していただきたい。

● 平成3年から重点化計画により、特に上位大学の博士課程を中心に博士課程の定員が増加し、修士課程も倍増した。ただし、オーバーした場合はともかく足りない場合はペナルティはかけてこなかった。当時は博士課程を増やして有用な人材を増やそうという政策があったが、現在の実態に合わせて博士課程を減らして修士を増やすのがよいのか、あるいは博士課程をもう少し充実させるのか、財政的支援も含めて検討する必要がある。また実態調査も行っていく。

○ 量と質はセットで考えるべき。国際的なベンチマーキング、分野の割合、水準についても検討が必要である。経済的支援を行う場合、それに見合う学生がいないというのは、学生の質の問題もあるが、教育を行ってきた先生方にも問題があるのでは。

○ 国立大学の法人化後、裁量が拡大するはずだったが、未だに定員削減が続いており、事務や研究助手等削りやすいところから削られている。研究教育体制が先細りになってしまうのではないか。また、ある大学のテニュアトラックの候補者の選抜の際、生命科学系では数十倍の倍率になり、優秀な学生でも期限付きの職を渡り歩いている状況がある。将来のキャリアパスを明らかにする必要がある。

○ 博士課程の標準修業年限内の学位授与率のデータについて、目標の数値を決めて、質を下げずに目標を達成するために具体的にどういうことを行うかを示して、各大学の取組を促進する必要があるのではないか。外国人留学生の数値についても同様。

○ 経済的支援については、学生の質の保証、学部と大学院の関係、科研費も含めたお金の使い方について考える必要がある。学部と大学院の関係について言えば、選抜も無く進学し教員の研究の手伝いをしているだけの状況である。優れた学生を雇いグラントをつけるという概念はないが、それは質の保証にもつながる問題である。学生は基本的には勉強をするもので、教員の手伝いをするのであれば、それに対して補償する必要がある。その財源は科研費の60%くらいを人件費に使えるようにすれば良い。

○ 日本の大学院生は社会的地位が低いのが問題であり、例えば年俸制により経済的に保障して、親も誇りを持てるような大学院教育を行う必要がある。日本の大学院は勉強したい学生がたまたま進学する場にすぎない。良い資質を持った学生が進学するように、政策的に大学院生の社会的地位を上げることが必要である。

○ 社会人は博士課程に入学する者が増加している。博士課程のあり方も分野によって違う。

○ 自然科学系と人文社会科学系では状況は大きく違い同じ形では議論できない。人文社会科学系では、修士、博士を取ることがキャリアの中でどういう意味を持つのか社会的に認知されていない。社会人のドクターがキャリアアップになっているのか不明である。社会人が専門分野を生かして修士課程で学ぶのはまだ分かるが、博士課程は研究者がターゲットで広がりが無い。日本の社会が変わらなければ大学院への進学者は増えないのではないか。法学系の場合、法科大学院の学生は多いが研究者の後継者はほとんどおらず、他の分野と違った学生支援を行う必要がある。

(4) 事務局より「大学院教育の充実のために今後議論すべき論点について」説明があり、質疑応答、意見交換を行った。内容は以下のとおりである。

○ 自分の場合、私学におり、社会科学系でしかも高等教育という特殊な分野を専攻している。学生には修士を出て大学等に就職してはと勧めている。アメリカには教育学の学位取得者が沢山おり、研究者だけでなくアドミニストレーターとして活躍している者も多い。日本であれば教員が全て行っていることだが、国際化対応、学修支援、プログラム開発などに携わっている。そういった面で活躍できれば良いと思い、学生に勧めているところである。国立大学などの職員採用の際、教育学などを学んだマスターを前向きに採用するようなキャリアパスがあっても良いのではないか。

● 以前は国立大学は全体として1000人定員を削減して1100人増要求し、改革をしているところに厚く定員を配分していたりしたが、定員削減により事務職員と教員の数が逆転した。法人化後は大学ごとに定員を決めることとなり、組織改革が難しくなっている。教員中心主義となっており、サポーティングスタッフの強化が大きな課題であるが有効な手立てが無い。
 また、大学院はこれまで国立大学中心に質的、量的に整備してきたが、平成17年の大学院答申の中で分野別に検討を行ったのが最初である。ニーズに合った人材を養成しているのか分野別にも検証する必要がある。企業における博士の地位が低いことについても検討していくことが必要。

○ 資料5は研究大学院や私立大学の上位の大学院を対象にしたもの。専門学校が設置したような大学院をどうするか。論点6として「その他の大学院」が必要では。

○ 大学院答申で分野別の問題点が抽出され大学院への支援事業も始まったが、それまで大学院において教育の取組が何もされていなかったことが分かった。医療系は資格や専門職と密接に関連しているが、メリットがなければ人が来ない。
 また、支援事業に対する考え方が大学によってかなり違う。事業が終わった後、取組を継続するのかが重要。

○ 論点3の量的規模の話であるが、「適正な」というのは難しい概念である。ワーキングプア的な博士課程修了者が社会問題になっているが、大学院の量的な問題が大きな原因である。先進国との比較で量を増やしたが出口をどうするかという視点が無かった。理系はまだ採用があるが文系は少ない。先程の教育分野における高度な知識を身に付けた人が活躍する事例について、他の分野も調べるべき。出口の活用のことを考えると量は制限すべきではないか。また分野別の適正な量を検討する必要がある。量的に増やした反動が今出ているのではないか。

○ 規模の国際比較については90年代から議論しているが、中身を見ていないのが問題である。日本は理工系中心で人社系の大学院生が少ないが、欧米諸国では人社系が多く、専門職業人養成が大学院で行われている。日本では法科大学院ができてMBAも増えてきたが最近のことである。規模を倍増したのは何を拠り所としたのか。単なる国際比較は危険である。
 また、高等教育への進学率が50%を超える中、大学院がマス化し始めている。日本の場合、マス化は専門職業と関連しないところで進行し、学力不問で進学している者が多いため大学院の価値が上がらない。もう一つ重要なのは、学部教育と大学院教育との関係である。法科大学院の際も法学部はどうなるかという議論をしなかったため問題が起こっている。文科省は学部段階は専門基礎教育で、高度専門教育は大学院でやると言ってきたが、実際は学部は専門性を放棄しなかった。学部における専門教育と大学院における専門教育の整理が必要。

○ 理工系について言えば量は必要。ただし質も確保する必要がある。企業が青田買いをするのは優秀な学生が少ないからである。企業は外国で研究を行うようになっている。

○ これまで企業は工場などを海外進出させていたが、今は研究を海外で行っている。中国の研究者の方が日本の研究者より優秀になりつつある。青田買いについては、経団連企業は申し合わせをしているが、罰則が無いため守られないところがある。
 また、以前国際的に通用する大学院について報告書をまとめたときの議論を突き詰めると、修士課程は専門職課程に変わらざるを得ないと思う。それとPh.D.コースの2本立てになるのではないか。それから、企業は今後ますます厳しい国際競争にさらされるが、人材の専門性が問題になる。グローバル化して日本人と外国人が同じように働くとすると、既にGATTOがWTOに改組された時、各国の職業資格など人が提供するサービスについても障壁となってはならないと合意されており、技術者の分野ではNAFTAやAPECで取組が行われている。工学は共通な部分が大きい。
 もう一つの問題は、ボローニャプロセスの中で、ディプロマサプリメントが強調されているように、今までの研究重視から、教育の比重を考えていかなくてはならない。

○ 量と質はともに必要。量を少なくしても質が上がるとは限らない。医学教育の分野は国際比較は危険である。例えば医師は国際的にみて少ないが、医療費や財政支援が少ない中で単に医師を増やしても上手くいかない。
 医学部は医学博士を取得するものも多いが、公立病院の部長になれるなどキャリアパスが明確だからである。ただし、現在それは撤廃され、専門医資格の方が重視され進学者が減っている。ただ大学教育だけの議論ではなく、社会における位置づけを明確にするような議論をしなければならない。

○ 工学系について質を向上させるには、教員の意識が変わることが必要。教員の研究の手伝いをしているだけでは駄目。学部長のときに、学生に基礎学力のチェックと課題提案(リサーチプロポーザル)を課そうとしたが、これやると学生の時間が取られ先生が困る。結局外国で学位を取得した者が多い化学系だけで実施された。そういう意味で、制度も重要だが、教員の意識をどう変えるかということを考えないと質の保証は進まない。

○ 制度上では大学院は教育機関であるが、実態として機能しているかが問題である。

○ 大学院GPを始めたことによって教員の意識が変わりつつある。

○ 「魅力ある大学院教育」イニシアティブにより、大学院で教育をしなければならないとの認識が出始めた。効果はあったと思う。始まったばかりではあるが。

(5)事務局より「「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)」(中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会報告)について」説明があり、質疑応答、意見交換を行った。内容は以下のとおりである。

○ 概要の「第2修了者の質の保証」について、法律基本科目の基礎的な学修を確保という表現であると、法科大学院の基本理念である多様な専門性を持った先端的な科目を履修させるということとずれてしまうのでは。まとめ方がやや簡単である気がしたが、最終答申に向けて改めて確認する。

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