資料3 博士課程研究基礎力試験(Qualifying Examination)について(論点整理)
博士課程研究基礎力試験(Qualifying Examination)について(論点整理)
中央教育審議会答申「グローバル化社会の大学院教育」(平成23年1月31日)
≪学位プログラムとして一貫した博士課程教育の確立≫
課程を通じて一貫した質の保証された博士課程教育を確立する観点から,アメリカの博士課程教育で広く行われている「Qualifying
Examination」,すなわち,学生が本格的に博士論文作成に着手するまでに,博士論文作成に必要な基礎知識,研究計画能力,倫理観,語学力を含むコミュニケーション能力などを体系的なコースワーク等を通じて修得しているか否かについて包括的に審査を行う仕組みの導入が有効である。・・・
課程を通じ一貫した学位プログラムを編成する観点から,博士課程(前期)の修了時に,修士論文の作成に代えて上記のような審査を行う仕組みの導入を進めることが必要であり,その場合の制度的取扱いや学生を博士課程(後期)へ受け入れる要件を明確にすることが適当である。
Qualifying Examinationについて
- Qualifying Examinationは,一貫制博士課程が主体のアメリカ等の博士課程教育において,学生が本格的に博士論文作成に係る研究を行う前に,コースワーク等により当該研究を主体的に行うために必要な知識や能力を修得しているかを包括的に審査する仕組みであり,大別すると,
1.幅広く専門分野の知識を評価するCumulative
Examination
2.論文研究に必要な知識や研究展開力等を評価するResearch Presentation
& Defense
3.研究計画力や独創性,論理的思考力等を評価するResearch
Proposal
などにより,修了までに複数段階にわたって行われている。また,2又は3に合格し,博士の学位取得の見込みが一定期間内にあると認められる者を「博士候補者(Ph.D.
Candidate)と称することが広くなされている。
- 我が国でも,博士課程の前期課程の定期試験や後期課程の選抜試験で1に相当する試験を課し,修士論文又は特定課題の研究成果の審査及び試験という枠組みの中で2に相当する試験を目指す取組も見られる。
- しかしながら,今後,前述のQualifying Examinationの仕組みを推進していくに当たっては,以下に示すように,博士課程の前期と後期の区分制を主体とし,修士論文又は特定課題の研究成果により一定の研究成果をもって前期課程の修了を審査する我が国の博士課程の状況に照らして,特に,博士課程の前期と後期との接続について制度的な整理を行う必要がある。
我が国の博士課程教育の状況
- 大学院設置基準において,博士課程は,前期2年と後期3年の課程に区分する積み上げ式の編制(区分制博士課程)も,5年一貫の編制(一貫制博士課程)も,ともに取り得ることとしているが,現在,区分制博士課程に対する一貫制博士課程の割合は専攻単位で2%に過ぎない。
- 一貫制博士課程においては修士課程の修了要件を満たした者に修士の学位を授与することができ,また,区分制博士課程における前期2年の課程は修士課程として取り扱われ,当該課程の修了(=修士の学位の授与)が後期の課程の入学資格要件となっている。
- 一貫制博士課程,区分制博士課程のいずれの修士の修了要件も,修士課程と同様に,修士論文又は特定課題の研究成果の審査によって,研究を主体的に行うために必要な知識や能力を研究成果の提出を通じて評価している。
- 特定課題の研究成果は,主に修士課程の枠組みの中で高度専門職業人を養成する観点から推進されてきた。一方,専門職大学院については,研究指導及び論文,研究成果の審査への合格は必須としていない。
- 区分制博士課程においても,5年間の教育を有機的なつながりをもって行う観点から,特定課題の研究成果を求めることは有効とされているが,特定課題の研究成果を求められる当該課程の学生は,これに加え,最終試験,後期課程進学に係る選抜試験の形で,学生の能力評価の試験が複数課せられている場合が多く見受けられる。
- アメリカなど一貫制博士課程においてQualifying Examinationに合格した者の我が国の大学院への編入学については,
Qualifying Examinationの合格は,修士の学位の取得ではないため,個々の大学院の判断により博士課程後期への入学資格の付与がなされる。
改正の方向性について
- 体系的なコースワークから博士論文作成に係る研究指導へ有機的に繋がりをもった一貫した博士課程教育を構築するため,コースワーク等を経て博士論文作成に係る研究を主体的に行うために必要な知識や能力を修得していることを評価する各大学院の試験(博士課程研究基礎力試験(Qualifying
Examination))を修士論文又は特定課題の研究成果の審査及び試験に代わるものと位置付け,これに合格した者が,博士課程(後期)に円滑に進めるようにする必要があるのではないか。
- このため,区分制博士課程については,修士論文又は特定課題の研究成果の審査及び試験の合格が前期課程の修了要件となっているため,上記の試験の合格を前期課程の修了要件に加え,修士の学位を授与することとしてはどうか。
- 一貫制博士課程については,修士論文又は特定課題の研究成果の審査及び試験の合格が修士の学位の授与要件となっているため,上記の試験の合格によっても修士の学位を授与することとしてはどうか。
- 修士課程の修了要件についてはこれまでの通りとし,修士論文又は特定課題の研究成果の審査及び試験の合格を求めることとしてはどうか。
- アメリカ等でQualifying Examinationに合格した者であって,修士の学位を有する者と同等以上と位置付けられる者については,我が国の大学院の入学資格要件を付与することとしてはどうか。
博士課程研究基礎力試験(Qualifying Examination)の運用について
- 前記「Qualifying Examinationについて」に記載したアメリカ等のQualifying
Examinationの1及び2に相当するものとして,各授業科目の試験とは別に,専攻分野に関する高度の専門的知識及び能力並びに当該専攻分野に関連する分野の基礎的素養が修得されていることを試験するとともに,研究報告の提出及び発表を通じて研究の意義や背景,研究計画・展開力等を評価するものとしてはどうか。
- 博士課程の後期課程において,前記アメリカ等のQualifying Examinationの3に相当する研究計画書審査が実施されることを通知等で促してはどうか。
- 各大学の判断により,上記の試験(1,2,3に相当する試験)に合格した者を「博士候補者」と称することはできることとしてはどうか。その際,「博士候補者」の呼称を取得することが目的化しないよう,円滑な博士の学位授与に向けた取組を通知等で促してはどうか。
高等教育局大学振興課大学改革推進室
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