資料3 大学院教育の実質化の検証を踏まえた更なる改善について(中間報告)に関するパブリックコメント(意見公募手続)の結果について

1.意見募集の概要

(1)募集期間 平成22年11月3日(水曜日)~平成22年12月2日(木曜日)

(2)告知方法 ホームページ

(3)受付方法 電子メール、郵便、ファックス

2.意見総数    

17通 (個人:15名、団体:2団体)

(意見内容別件数59件)         

<内訳>

   (性別)男性:14名、女性0名、不明1名

   (職業)大学関係者:9名、会社員:3名、団体職員2名、その他1名

   (団体)高等教育関係団体:2団体

3.意見の概要

「3.大学院教育の改善の方向性」について(4件)

○「改善の方向性」に賛同する。高等教育のグローバル化が進む中で、我が国の大学院教育の優位性を示すためには、中間まとめに挙げられた改善の方向性とそれに沿った具体的な施策が不可欠である。

○国内だけでなく、グローバル化した国際社会の要請に対応できる教育を展開することは、非常に重要であると考える。その中で、博士の学位保有者の進路確保の面に難があるという現状は、ニーズに合った大学院教育が展開されていない可能性があり、その改善を行っていくことは有用である。博士号取得者イコール研究者という従来の認識を持つ人材の養成だけでなく、広く社会で活躍できる人間を養成する必要がある。

○創造性豊かな研究者、高度な専門性、教育者としての資質、知識基盤社会での活躍等のアウトカムに対応した幅広い機能を大学院に持たせる必要がある。そのためには建学の精神に基づく特色ある教育研究を行う私立大学の支援が必要であろう。

○改善の方向性の考え方には基本的に賛成である。ただし、より組織的な教育・研究指導体制の構築には、教員の多くが学部教育との兼担をしている現状を考えれば、負担増に対する充分な配慮が必要であろう。

「4.大学院教育の改善方策」

改善方策全般について(3件)

○大学院重点化は意義のあることであるが、一方で適切な定員管理による大学院教育の質的向上も重要である。大学院教育においても私立大学の担っている役割は大きい。「大学院の定員管理の適正化」を施策として明確にしたい。

○多岐に細分化された現在の学位名称は、国際的通用性を踏まえた改善(たとえば専門分野の大区分と細分野を併記するなど)が必要であろう。「学位制度の改善」を施策として取り上げていただきたい。

○大学院教育を通じて、我が国に有為な人材を育成しようとするならば、大学院に多様な機能を持たせつつ、ディグリーに適した明確な教育課程を形成させるべきである。いたずらに専門特化することが学問の独自性や創造性などを向上させることにはならない。大学院を選択する人材が夢を持って進める環境を形成すべきではないか。

「(1)課程制大学院制度の趣旨に沿った体系的な教育の確立」について(1件)

○全体を通じて提示されているのは、個々の研究室、研究者に依存する教育体制から組織的な教育・研究体制への移行を進めるということである。そのための具体的な方策、例えば入学段階で研究領域を固定するのではなく、入学後のコースワーク等を通じて研究領域を確定させていくこと、専攻の変更等が柔軟に行なえるようなルールを制定すること、複数指導体制を確立すること、標準修業年限での学位取得を促進すること等は、今後の大学院教育において不可欠であると考える。また、大学院は、組織的な教育を行なうことによってはじめて学位の意義、養成する人材の質の保証等を社会に対して明らかにすることができる。社会が大学院教育の成果を評価するようになると大学院に優秀な人材が多数集まり、組織的な教育がより効果的に行われるようになるという好循環が生まれると考える。

「(2)学生の質を保証する組織的な教育・研究指導体制の確立」について(5件)

○これまでの大学院教育が個々の担当教員のそれぞれの研究室で行う研究活動に依存する傾向があったことは中間まとめの指摘のとおりであり、これを改善するためには教員の教育・研究指導能力の向上が不可欠である。文科省は、教育業績や教育能力を評価する客観的な評価指標を早急に確立し各大学にガイドラインとして提示し、その評価指標に基づいて各大学が教員の教育業績や教育能力の評価を充実させ、教員の採用・昇任・再任用等の人事や処遇に反映させることが有効であると思われる。

○教員の教育環境の整備をより重視するべきではないか。現在の制度では、教育に関する評価基準がない、あるいは研究業績に比べて教育の業績の評価が低い。そのため、教員には、教育よりも研究に対するインセンティブが強くはたらくと考えられる。

極端に言えば、教育面での活動は、教員の職業倫理だけに依存している。教育活動が不十分であっても、研究での業績をあげれば、将来への道が開ける制度となっている。これは、大学院教育(学部教育も同様)の大きな障害となっていると考えられる。

これを解決する方策として、研究活動よりも教育活動を重視する教員の導入、教育活動に対する適切な評価基準の導入を進めるべきである。現在の大学の、特に教授クラスの職員は、学校運営、入試関連、それに関わる会議、書類作成、講義・採点などの仕事に加えて研究活動を行っている。全てを満足にこなせということに、元来無理がある。教育活動と研究活動を完全に切り離すということではなく、両者のウェイトの置き方に変化をもたせ、ある教員は教育を重視し、それが適切に評価される。一方の教員は研究を重視し、それが適切に評価される。そうした環境を整備することが、高等教育機関の機能充実につながるのではないか。

○学生が少ない大学院では学士課程と同様の授業評価を行うことは難しい。そのため本中間まとめでは複数教員による指導体制、授業内容の公開を通じたピアレビュー等が提案されている。この中で、現状で比較的容易に実施できるのは複数教員による指導体制の確立ではないだろうか。さらに、コースワークを通じた専門領域の決定、専攻を変更する機会の保障等によって学生が特定の教員に依存する体制を改めることによって、学生は授業や研究指導に対する評価を表明できるようになる。組織的な教育・研究指導体制への移行は、教員のFDという観点からも必要である。

○課程ごとに育成すべき人材像を決めることと、組織的な教育・研究指導体制の確立は最も重要と考えるが、これらの取り組みについて懸念することがあるとすると、大学教員の意識改革である。今回挙がっている改善方策は(当然のことながら)学生の育成に焦点があてられているが、教員が高いモチベーションと、社会にマッチした感覚を持ってこれに臨まなければ机上の空論になってしまう。また、大学教員については、事務手続き等で多忙を極めており余力がない、研究成果を挙げることに過剰に邁進し学生の育成への関心が低い、社会・産業界が期待する人材像と異なった人材像を思い描いて育成している、などと言った指摘が様々な調査研究や委員会等で指摘されているところで、こういった指摘に応じる意味で、大学教員のあり方を変える積極的な仕掛けが必要なのではないか。

実際に大学教員に大学院改革に臨むにあたり、国として理想とする取り組みの具体イメージ(海外事例など)を共有、達成すべき目標(能力要件、キャリアパスなど)の明確化、高いモチベーションで臨むためのインセンティブづくり、と言った、実質的な教育改革が実現するための踏み込んだ内容を、国からガイドラインとして示すことが重要ではないか。新しい取り組みであるほど、マネジメントに関わる部分を個別の大学に委ねてしまうと、大学自らの内部改革は容易ではなく、教員の意識や役割の改革は進みにくいと推察する。また、そのような踏み込んだ検討をすることが、既往の教育改革施策との差別化にもつながるのではないか。

○政策を十分に実現させるためには、大学「教員」の機能別分化が不可欠ではないかと考える。例えば、「専攻の枠を超えて、学位課程を担当する教員によって、組織的な教育・研究指導体制を構築する」ことについて、従来の大学教員は、もっぱら研究者個人としての研究成果によって、大学の「外」にある特定の研究者コミュニティの意向によっても大きな影響を受けて、大学「内」で評価(昇進等)されてきており、研究以外について本質的な動機付けは難しいと思う。競争的外部資金による政策誘導によっても、(特に大学以外の世界を知らない)大学教員の意識を根本的に改革するにはいたらないと思う。そこで、大学を機能別分化させるだけでなく、大学「教員」を研究だけでなく教育等にも機能別分化させる政策、そのような分化が研究を最上位とする階層化につながらないような、新たな人事(評価)制度の導入等が必要となるのではないか。

「(3)学位プログラムとして一貫した博士課程教育の確立」について(6件)

○質の保証された博士課程教育に関しては、産業界の期待も大きい。広範な体系的なコースワークや複数専攻制、研究室のローテーションに加えて、「中間まとめ」で提案されている博士課程学生の基礎的能力の審査の仕組み(Qualifying Examination)の導入は、博士課程に進学する学生が、体系的なコースワークを通して必要な基礎知識、研究計画能力、倫理観、語学力を含むコミュニケーション能力を習得しているかを審査するために有効な仕組みであると考えられる。

○本中間まとめに提案されている、社会人の博士課程への入学の促進についても産業界の期待は大きい。近年、多くの分野で博士課程(後期)への進学率が低下し、修士修了時点で産業界に就職する学生が増えていると言われている。これらの修士修了時点で就職した学生が一定期間社会人としての経験を積んだ後で、博士課程に再入学し学習する機会を持てるようにすることは、本人に生涯学習の機会を与えるだけでなく、他の博士課程の学生に対しても、産業界の風を吹き込むことにより、博士課程教育の活性化に資することにつながるものと思われる。

○大学院(理科系、医療系)を、博士、修士といった分け方ではなく、最初から博士課程のみにして、期限を4年として、1年目は研究に必要な研究手法(実験方法、統計手法など)を主にして、多くの学生が同じような手法を、指導教員の研究室格差なく、会得して研究ができるようにする。修士は途中でドロップアウトした場合のみ(必要な講義科目を取得後)に与えるようにして、最初から博士で4年間の院生活を送るようにする。

○「研究室ローテーション等様々な研究に触れる機会」については賛成だが、それには修士課程を3年制にして、修士1年生の間はたっぷりこれに時間をかける、くらいのことをしなければならないと思う。現行の大学4年、修士2年、博士3年の枠組みでは無理であり、博士課程段階で専攻する専門分野を選択させるのでは遅いと考える。

○本中間まとめでは博士課程での一貫教育として、コースワークの後にQualifying Examinationを実施し、その後に博士論文の執筆に取りかかるというアメリカ型の博士課程教育を提唱しており、また、区分制博士課程では修士論文の作成が修了要件になっているが、Qualifying Examinationによって代用することも提案されている。しかし、修士論文は多くの学生にとって初めて執筆する本格的な研究論文であり、博士後期課程に進学する学生にとっても教育上の意義は大きい。また、博士前期課程修了後に就職する学生にとっては、修士論文や大学院教育における最終的な成果である。Qualifying Examinationの実施は、大学院教育の質の保証という観点からも有効な方策であるが、区分制博士課程では、修士論文および後期課程入学試験との関係を慎重に検討する必要がある。

○人文科学系大学院の場合、自然科学系大学院や社会科学系大学院に比べて、論文作成能力の養成がとりわけ重要視されるため、Qualifying Examinationで修士論文に代替することは現実的でないように思える。

「(4)教育情報の公表の推進」について(5件)

○大学院教育については、学士課程教育以上に国として質の強化に取り組んでいる状況を海外にアピールする必要がある。各大学院教育の情報を一元化して発信すれば、それだけ高等教育集団としてのプレゼンスも高まる。その具体的な制度設計については、今後慎重に審議されることを期待するが、基本情報は国において一元化し、特色ある教育実践などは各大学が個別に工夫発信できるような共通基盤が欲しい。なお、国際化推進のために英語による情報発信は欠かせない。

○情報公開の方向性は理解できるものの、学生支援や修了者の進路については、大学間格差が大きく、情報公開が格差を更に促進するという危険性を孕んでいる。すなわち、博士課程の全学生の授業料を免除できる大学と、その他の大学との格差、同窓生のサポートにより修了生の就職が容易な伝統校とその他の大学との格差を考えれば、その危険性が理解されよう。

○大学院教育に関する情報の集約が、情報公開の推進になるかは疑問である。本来の意図が不明で、大学院の比較を行うことを情報公開することと誤解しているのではないかと危惧する。少なくとも、大学院の概要、シラバス等は大学のホームページで公開しており、入学希望者には、無料で大学院に関する資料を提供している。また、大学院生指導の産物としての学術論文、学会発表の業績は研究年報として広く公開されている。

○各大学の公開状況の一覧を国が公表する必要性はあまりあるとは思わない。教育情報の可視化については、現在どの私立大学でもHPや冊子等での公表に努力している。大学院教育に関する情報公開もこの動きに任せておけばよい。

○「大学院教育のさらなる改善のためにはどうしたらよいのか」という,もっと広い視点で問題を捉えた方策も必要なのではないかと感じる。具体的には改善方策の「教育情報の公表の推進」の項目だ。「産業界や地域社会等が大学院教育に対する認識を深め」るためには,まとめにあったような「大学院教育を取り巻く情勢」について,広く産業界や一般国民に伝えることも重要ではないか。高度な専門性のある人材やその育成が不可欠であること,国内外を問わずそのような人材の獲得競争が激化していること,高度な専門性のある人材が充分に力を発揮できる環境づくりが世界に比べて遅れていることなどについて,国民が問題として認識できるような広報が必要だと思う。このような方策は,目に見える効果が出るまでに相当な時間を要するし,また,どれだけ効果があるのかを判断するのも難しいものだと思う。しかし,多くの国民が問題意識を共有することが大学院教育の改善を大きく進める基盤となるとも思うので,その点についてはこれからも地道な努力を続けていってもらいたい。

「(5)産業界等との連携の強化と多様なキャリアパスの確立」について(11件)

○博士課程修了後のキャリアパスにまだ大きな課題があると考える。そのため、企業など研究機関と大学院生が連携した研究活動の機会を創出することにより、学生が博士号取得後のキャリアを描くことが容易になると思う。その結果、博士課程へ進学する学生の数が増加して、深い知識、高い論理的思考力を有する国際競争力の高い人材の育成が可能になる。

  まず、平成17年策定の「大学院教育振興施策要綱」により、グローバルCOEなどの戦略的な研究拠点が立ち上がり、潤沢な研究資金のおかげで先端的な研究成果をあげている。また、博士課程学生をRAとして雇用することなどにより、学費負担に対する経済的な支援が充実した。したがって、博士課程へ進学する学生の経済的負担は大きく減少したと思われる。

  しかしながら、更に高度な知的創造活動の為に、海外の研究機関や企業などとの連携が必要であるが、大学院の学生が関わる産学連携の研究は少ないと思う。例えば、海外では企業の研究所に大学院の学生が出向して、高度な技術を駆使した非常に競争力が高い製品の開発を行っていることの報告もある。日本の大学院教育でも、このような大学院の学生と企業の研究所が人材を交流させて、研究活動を行う機会を増やすべきであると思う。そのための制度づくりや支援を期待したい。結果的に、このような海外の研究機関や企業との産学連携の研究に大学院の学生が関わることにより、学生がキャリアパスを描きやすくなり、また、日本の学生の質を高めることになることを期待する。

  資源の乏しい日本が発展する上で高い技術力は必須であり、今後の国際競争力を高める為にも、大学院教育、特に産学連携の研究活動を強く推進することが、今後の日本の繁栄に必要不可欠である。

○博士課程への進学率が低い問題は、博士課程終了後の進路の狭さが足かせになっている。博士課程に進む学生は研究者としての道を志す者に限られている。企業が積極的に博士課程修了者に対して門戸を開かない限り博士課程への進学は、修士課程の大学院生の選択肢となり得ない。

○会社や公務員にもっと院を修了した学生を優先的に採用して、それなりの給料を与えて(キャリアのような方法は本当にいいのか疑問である)、院を出ていない人との10年間の給料の総額の差を1.5倍とか差をつけるように、要請して欲しい。そのことで、院でしっかりと研究すること、さらに研究することで良い給料が与えられる、研究費が獲得できるようにして欲しい。

○安定的な就職口の確保が必要である。有期「特任」教員では将来の不安が解消されない。

○本中間まとめでは「産業界との対話」の重要性が強調されているが、修士の学位に対する社会的評価が必ずしも高くない人文・社会科学系大学院ではこの点は非常に重要である。大学院が養成する高度専門職業人に対する社会的評価が高まることによって優秀な人材が多数大学院に集まる。「中間まとめ」で繰り返し指摘されているコークワーク等を通じた組織的な教育も一定数以上の学生が在籍することではじめて機能すると考えられる。このような好循環を生み出すために、本学でも教育情報の公開を通じて大学院教育の可視化を促進するとともに、院生に対するキャリア支援等を通じて、多様なキャリアパスの開拓に力を注いでいきたい。

○特に学生の多様なキャリアパスの確立については,現状まだまだ不十分なところだと思われるので注力してもらいたい。

○日本が直面しつつあるグローバル競争時代に必要な、「国際社会でリーダシップを発揮する高度な人材」の育成が日本の将来にとって喫緊の課題であり、産業界として非常な危機感を持っている。欧米に例を見るまでもなく、大学院博士課程は研究機関だけでなく産業界、官界でリーダー層となる人材育成の重要なキャリアパスであり、大学院博士課程教育の実質化への取組みは、産業界も大いに期待している。産業界の期待は、大学を中心とした研究者の育成ではなく、国際感覚、ビジネス感覚を持って広く国際社会で活躍できる人材である。しかし、現状の大学院は、一部の大学の試みを除いて、従来型の研究職従事者の育成の域をでていないのが現状であり、早急な改善の取組みが必要である。

今回の「中間まとめ」で示された大学院教育の改善方策は、全体的には、1)体系的な教育の確立、2)学生の質を保証する組織的な教育・研究指導体制の確立、3)学位プログラムとして一貫した博士教育課程の確立、4)産業界との連携の強化と多様なキャリアパスの確立、等々、産業界がかねてより期待して大学院教育改善の方向性と合致しており、高く評価できる内容となっている。しかし、このような改善方向は既に議論されているものであり、如何に確実に実行するかが課題である。そのためには、より具体的な実行計画のものにマイルストーンを定め、実行者である大学との合意形成を図ることが重要である。また、現在問題となっているリーダー層育成に関しては、広く薄くの政策では実効を臨むことは出来ない。改革実行のポテンシャルのある拠点を厳選し、重点投資を行うことが必要である。

○米国に比べて我が国では大学と産業界の連携が弱い。大学院を産業界へのリーダー層の人材供給の場と捉えた場合、大学院教育の部分でも大学と産業界の強い連携が不可欠であり、それにより現場レベルで大学、学生、産業界の間の相互理解が深まり、「大学院教育の実質化」が進む。本中間まとめでは、産業界と連携した教育への取組み、産業界の人的、資金的支援、等々、教育と言う観点での産学連携の議論が足りないように思われる。

○現在の大学院教育を大きく歪めているのは、大学院修了後の就職問題である。本中間まとめでもキャリアパスについて言及されているものの、あくまでも形式的なものであり、現状を改善するとは思えない。企業側の大学院修了生への門戸を広げないと、大学側が学生の将来に関する展望を語っても、絵に描いた餅に過ぎず、将来の収入が保証されない学部学生がそのような不確定な状況の中に進んで身を投じることはありえない。大学院入学直後から就職活動を開始するような状況では、本中間まとめの目指す大学院教育が実施できるかについて危惧の念を抱いている。

○本中間まとめ中に度々記載されている「グローバル化」とは大学だけの問題と捉えるべきではなく、大学院生の将来を受け入れる産業界を含めた問題と考えるべきで、産官学に影響力のある審議まとめが創出されるべきである。

○諸外国に比較して我が国で博士号取得者が活躍していないように見える理由は、企業における教育が諸外国に比べて優れているからであり、大学院教育が諸外国に比べて劣っているわけではなく、それほど心配する必要はない。今後は、我が国の大学院教育も、企業における教育に負けないよう、充実させていくべき。

「(6)優れた学生が見通しをもって大学院で学ぶ環境の整備」について(8件)

○本中間まとめでは、優れた学生が見通しをもって大学院で学ぶために、大学院進学後のファナンシャルプランを明らかにし、同時に学生に対する経済的支援を充実させなければならないと述べられている。また、優秀な学生の自主的研究遂行能力を伸長させることを重視した支援の必要性も指摘されている。研究支援には、学生が将来研究者として競争的資金を獲得する際のノウハウを身に付けさせるという効果もある。本学大学院では、海外での学会発表等に対する支援、論文掲載料に対する補助、英語論文の校閲に対する補助、学生の研究プロジェクトに対する支援等さまざまな形の研究支援を行っているが、それらに対して非常に多くの応募があり、特に理工農系を中心に博士前期課程の学生の応募も多い。日本学術振興会の特別研究員事業は博士後期課程の学生が対象であるが、その前段階として博士前期課程の学生に対する研究支援を促進することも必要ではないだろうか。

○返還不要の奨学金を増額すべき。最低でも有利子奨学金は無くすべき。

○院生をもった場合の研究費に関し、外部資金を獲得できないこともあり、院生の人数が多く研究費が足りなくなる時もあるため、実験系の院生に与える研究費をもっと増やして、院生が自分の研究費があることで、研究をもっと積極的に行えるようになると思う。一人年間50万円ぐらいは必要かと思う。さらに、院生が獲得できる研究費(院に入学する時、1、2、3年の時に獲得できる)を設立して欲しい。

○特に修士課程の大学院生の経済状況は厳しく、サポート制度の充実を求める。

○国際舞台で活躍する優秀な人材育成に取り組む大学には、国公私立の分け隔てなくその教育プログラムや学生生活、キャリア形成などに対して手厚く支援する施策を期待する。

○複数教員制、学生の授業料の減免、若手研究者のポストの増加などが質の向上に必要であることは理解できるものの、その一方で大学の経営と教育システムにおけるバランスを十分に考慮する必要があると考える。

○大学院進学に関して、キャリアパスと同様に重要なのが経済的支援の問題である。奨学金に関して言及されているが、給付なのか貸与なのかが不明である。大学院修了後に返還義務が生じるのであれば、学生に対し将来の負担を強いるだけのことである。仮に返還を要求するのであれば、就職先の確保および、返還が経済的な負担にならないような収入を学生に約束できるような方策を提示すべきである。

○日本学術振興会特別研究員についても採用枠を大幅に広げないと、大学院生の進学意欲を高められない。日本学生支援機構への要望よりも優先すべきことではないか。人材育成機関としての大学院に産官学が投資を行うという観点で、経済的な支援を行う提言を行っていただきたい。

「(7)外国人学生・日本人学生の垣根を越えた協働教育の推進」について(2件)

○本中間まとめでは、外国人学生・日本人学生の垣根を越えた協働教育の推進が提唱されている。優れた外国人学生を受け入れることは大学院教育の質の向上に大きく貢献し、また、グローバル人材の養成にもつながる。国際化拠点整備事業(グローバル30)に採択された本学では、大学院経営学研究科においてダブル・ディグリー制度をスタートさせ、また、9月入学制度や英語での授業科目の整備などを通じて多くの優れた外国人学生を受け入れる準備を整えつつある。行政刷新会議の事業仕分けはグローバル30について厳しい評価を下しているが、スタートしたばかりの事業に対して性急な判断を行う姿勢自体に大きな問題があると言わざるを得ない。英語による大学院教育という市場での競争相手は主に米国の大学院であり、新規参入者が成果を上げるのは容易なことではない。長期的な視野に立ってグローバル30を継続させなければ、わが国の大学院教育の国際化、グローバル人材の養成は大きく後退すると思われる。

○企業はグローバルな事業展開の中で、生産拠点のみならず開発や企画の現地化をも加速しており海外の人材の採用も増加していく。このような環境下で優秀な人材を確保するため、我が国の学生の採用や評価にあたっても海外の優秀な学生との比較を避けられず、国際社会で活躍できる人材の育成への産業界の危機感と期待はきわめて大きい。早急に以下のような具体的施策の実行が必要と考えるものである。

・国際感覚・ビジネス感覚のある、あるいは経験のある教員の確保

・ビジネスマインド形成や国際ビジネスの現場の理解に資するコースワークを設営する改革をグローバルな標準で行うこと

・外国人教員、民間経験教員、環境として留学生の増加など

「(8)成長を牽引する世界的な大学院教育拠点の形成」について(4件)

○本中間まとめでは「リーディング大学院」の形成に関する支援が取り上げられている。「リーディング大学院」は学位プログラムとして一貫した博士課程教育を対象にしていて、これまでの21世紀COEプログラム、GCOEよりも大きな規模の大学院教育拠点に対する重点的支援であるが、このような支援策の推進に賛同する。本学では、GCOEの採択、大学院GPの採択によって、当該プログラムの成果だけではなく、教育制度改革および競争的資金の獲得へのインセンティブが全体として高まるという効果が現れている。行政刷新会議の事業仕分けではこれらの支援策に対して極めて厳しい評価が下されているが、評価を当該プログラムの直接的な成果に限定し、また、長期的な視点から論じるべき教育研究拠点の支援に対する成果について性急な判定を行うという二重の誤りを犯しているように思われる。

○提言内容は的確であり期待できるものである。しかし、問題は、目に見える確実な取組みが如何に実行出来るかである。そのためには、21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラムのような一過性の重点施策による取組みだけではなく、通常予算の中で確実に実行できるように、十分な議論と予算確保が必要である。

○リーディング大学院などの新しい種類を増やすのは慎重にしてほしい。昨今、これまで以上に従来のものをしっかりやることより新しい看板を掲げることが特に目立つ。従来のものをしっかりやろうという意欲をそぎ、また、新しいものも結局は足腰が弱く、共倒れとなる危惧を抱く。

○一口に”博士課程教育”と言っても、いわゆるリーディング大学院と、それ以外の大学院とでは、個別の事情が異なるため、同列に議論できないことも本問題を一層複雑にしていると思われる。

「(9)専門職大学院の質の向上」について(1件)

○今後、大学院として充実させるべきは、従来から存在し、教科の力を充実させてきた教科実践の大学院であって、教職大学院は根本的に見直すべきである。

「(10)学問分野の特性に応じた改善方策」について(7件)

○理工農系大学院、特に博士課程教育の改善策について、現状分析として「大学院教育の方向性と産業界等の期待とのミスマッチ」があげられているが、企業出身教員として同感である。特に博士課程教育ではこの点が最大の課題かと考える。 その結果、博士課程修了者の、産業界への就職も難しくなっているのであろう。この改善策として「インターンシップやPBLなどの取り組みが有効」とあるが、現状の仕組みの延長線上ではおのずと限界があろう。より実効性ある策としては、「カリキュラム編成への産業人メンバーの(オブザーバー)参加」や、上記取り組みを選択単位ではなく”必須単位”とすること等を検討してもよいのではないか。

○医療系大学院については、医学科学生がMDPhDコースに入学する場合、医学部を一旦中退して大学院に入学し、学位取得後再入学するという、制度的に不安定な状況で行われている。米国ではMDPhDコースが完全に制度化され、NIHからの授業料、生活費への助成も手厚く、優秀な学生がコンスタントに入学し、学位取得後、再び臨床に戻ることによって、基礎と臨床をつなぐPhysician Scietistとして活躍している。わが国でも、MDPhDコースの制度化とそれに対する助成等、トランスレーショナルリサーチの牽引者となる若手研究者の育成を方向性として打ち出してほしい。

○全学問領域を通して課程制大学院として直面している問題も存在する。しかし、例えば修士の学位に対する社会的な評価は、文系(人文・社会科学系)と理系(理工農系)では全く異なっている。その結果、本学でも大学院進学率、在籍院生数等で文系研究科と理系研究科の間には大きな差があり、優先的に解決されなければならない問題は必ずしも同一ではない。「中間まとめ」で示されている10項目の改善方策のうち、学問領域別の方策は最後の項目で示されているが、その他の項目についても学問領域別に方向性を示す方が望ましい。

○わが国では大学院に進学した学生の大半は修士の学位を得て就職する。今回の「中間まとめ」では博士課程一貫教育に重点が置かれているが、わが国の現状を考慮すると、博士前期課程あるいは修士課程の2年間の教育という枠組みで大学院教育の改善を議論することも重要であると考える。例えば、日本学術振興会の特別研究員事業は博士後期課程の学生が対象であるが、博士前期課程あるいは修士課程の学生を対象とした研究支援も必要ではないだろうか。

○研究者を養成するのか、職業人を養成するのかが不明確である。分野毎に事情は異なる為、少なくとも分野毎に注力する箇所を明記して頂きたい。

○理系の研究事情が反映されておらず、意見交換段階に留まらず、策定段階に至る迄、理系関係者を会構成員に含めて頂きたい。

○工学系大学院にとっては、博士課程(後期)学生の課程修了年齢が27歳になる現実を考えると、「理工農系大学院の改善」に記載されてあるキャリア支援体制やキャリアパスの課題をどのようにクリアするかが一番の問題と思われる。産業界の採用拡大を期待するだけでは、いくら学位プログラムとして一貫した博士課程教育を確立しても、中小私学にとっては、博士課程(後期)に進学する学生の確保は今と変わらず困難である。

その他(2件)

○博士課程はともかく、修士課程の大学院生についての議論が不十分である。

○博士論文に関しては、同じような形式にする。例えば、1編(以上)の論文発表と研究をまとめた博士論文冊子作成にして、各大学間の比較もできるのではないか。

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学改革推進室

大学院係
電話番号:03-5253-4111(内線3312)

-- 登録:平成23年01月 --