大学院教育の実質化の検証を踏まえた更なる改善について

大学院教育の実質化の検証を踏まえた更なる改善について

 1.検討の経緯

  知識基盤社会において,大学院の果たすべき役割は極めて大きく,中央教育審議会は,平成17年9月に「新時代の大学院教育」(以下「大学院答申」という。)をまとめ,大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)と国際的な通用性,信頼性(大学院教育の質)の向上を通じ,国際的に魅力ある大学院教育を構築していくことを求めた。
 文部科学省は,「大学院答申」に基づき,平成18年3月に,平成22年度までの5カ年の振興計画として「大学院教育振興施策要綱」(以下「施策要綱」という。)を策定し,研究科・専攻ごとの人材養成目的等の公表,成績評価基準の明示等を課す大学院設置基準の改正や,組織的な大学院教育改革推進プログラム(以下「大学院GP」という。)等による支援を行っている。

  「施策要綱」の策定から4年が経過し,平成22年度末に終期を迎えることから,平成23年度以降の「第二次大学院教育振興施策要綱」(仮称)の策定を視野に,今後の大学院教育の改善の方向性を明らかにするため,平成21年9月,大学分科会大学院部会に,人社系,理工農系,医療系及び専門職学位課程のワーキング・グループを設置した。
 この中で,「大学院答申」に掲げた大学院教育の実質化等の進捗状況や課題を検証し,今後の改善方策について検討を行うため,人社系,理工農系及び医療系ワーキング・グループでは,学問分野別(人文学系,社会科学系,数物科学系,物質・材料科学系,電子・情報科学系,機械工学系,建築・構造工学系,生命科学系(生物学及び農学),医学,歯学,薬学,看護学)から抽出した約350専攻に対する書面調査を行い,さらにヒアリング及び訪問調査を行った。また,専門職学位課程ワーキング・グループでは,法科大学院と教職大学院を除く全84専攻に対する書面調査を行い,さらに,ヒアリング及び訪問調査を行った。

 

2.大学院教育の実質化に関する検証結果

  我が国の大学院は,学生に対し体系的な教育を提供する場(教育の課程)として位置付けられ,そのような教育の課程を修了した者に特定の学位を与える課程制大学院制度を採っている。
 「大学院答申」は,大学院の人材養成機能を,1創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等の養成,2高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成,3確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成,4知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成,の四つに整理した。その上で,博士,修士,専門職学位それぞれの課程の目的等に応じ,課程制大学院制度の趣旨に沿い,人材養成目的を踏まえた教育の組織的展開の強化,すなわち大学院教育の実質化を求めた。

  今回実施した大学院教育に関する検証結果を踏まえると,「大学院答申」や「施策要綱」に基づく施策の展開とあいまって,修士課程や博士課程(前期)を中心に,多くの大学院において,教育の実質化に向けた取組が進展していると言える。
 修士課程や博士課程(前期)では,産業界等に就職する職業人の養成や,多様な分野における高度で知的な素養のある人材の養成等,多様な教育が展開されている。
 グローバルCOEプログラムや大学院GP等の支援を受けている研究科・専攻では,博士課程(後期)を含めて,体系的な大学院教育への改善が確実に実施され,特に,産業界等と連携した研究,国際的な経験を積む機会の充実,RA等の経済的支援の充実等に関し,有意義な改革が進んでいる。
 しかしながら,取組に参加していない他の専攻や大学院に,こうした成果が十分に普及・浸透せず,大学院間の格差が広がっているという指摘もある。
 また,人材養成目的や修得すべき知識・能力,入学者受入方針の記載が抽象的な大学院も少なくない。
 特に,博士課程では,
 ○ 博士の学位が如何なる能力を保証するものであるか,その共通認識が確立されていないこと,
 ○ 博士課程(後期)の教育が個々の教員の研究活動を通じたものにとどまり,学位プログラムの整備という観点で課題があること,
 ○ 修了者が様々な社会で活躍するような,多様なキャリアパスが十分に開かれているとは言えないこと,
などが明らかになっている。
 こうしたことを背景として,博士課程への進学者数が低下している分野も多くなっている。

    (これまでの主な成果)

    ○分野を問わず大半の大学院が,「大学院答申」以降,人材養成目的を明確にするために学則等を改正しまた,大半の大学院がコースワークの充実等により専攻横断的な科目履修に取り組んでいる。
    ○ ほとんど全ての大学院において,経済的支援の取組が実施され,受給人数も全体的に増加傾向にある。
    ○ グローバルCOEプログラムや大学院GP等の支援は,大学院の改革意欲を促しており,拠点として選定された大学院では,体系的な教育を確実に実施している。また,複数教員による論文指導を行うところも見られる。経済的支援の充実,国内外の研究プロジェクトへの参加等の改革も進展している。
    • 人文・社会科学系大学院
       経営学等の社会科学系大学院では,社会人学生の割合が高く,多くの大学院が,産業界や地域社会との連携による講義,中長期のインターンシップや学外実習などに取り組んでいる。
    • 理工農系大学院
       数物科学等では長期に大規模研究施設等に滞在する実験研究等がみられ,物質・材料科学,機械工学をはじめ産業界との結びつきの強い分野を中心に,企業等との連携による教育プログラムやインターンシップが進展している。
    •  医療系大学院
       社会人学生の割合が高く,多くの大学院が,長期履修制度や夜間・土日開講制など,履修機会の確保に取り組んでいる。
       医学,薬学分野を中心に,創薬,治験,医療機器開発等の分野で産学共同研究が広く行われ,寄附講座や外部招へい講義等の形で産業界と連携した教育プログラムに取り組んでいる。

     
    (主な課題)

    ○ 人材養成目的や修得すべき知識・能力,入学者受入方針の記載が概念的・抽象的で整合的でない大学院や,実際の教育や入学者選抜がこうした目的に沿って展開されているとは言えない大学院もあるなど,大学院教育の実質化の取組には,大学院の間で相当な差がある。
    ○ 前述の事業の支援対象となった場合も,それが単発的な取組にとどまり,他の専攻や大学院に成果が十分に普及・浸透せず,大学院間で格差が広がっているとの指摘もある。
    ○ 博士課程(後期)では,学位が如何なる能力を保証するものであるかの共通認識が,大学院関係者・社 会ともに十分に確立されていない。課程制教育を通じた人材養成目的や修得内容が曖昧で,教育が個々の教員の研究活動を通じたものにとどまっていることが多い。
    ○ 多くの大学院で研究の進捗状況に関する中間発表を行うなど,学位の質を確保しつつ円滑な学位授与を促す取組が行われている。しかし,標準修業年限内での博士号の学位授与率は,「大学院答申」以降も向上していない。
    ○ 各大学院において,経済的支援の取組が進んでいるが,受給人数・受給額ともに未だ十分ではない。
    ○ 博士課程(後期)を中心に入学者や学位授与者がいないなど学生数の極めて少ない専攻があり,学生が切磋琢磨する環境として不十分であるとの指摘もある。

    • 人文・社会科学系大学院
       修士課程や博士課程(前期)から博士課程(後期)への進学率は高いが,博士課程修了者のキャリアパスの中心は大学教員であり,修了者が社会の様々な場で活躍する多様なキャリアパスが確立されず,学位授与プロセスや将来のキャリアパスが十分に学生に明らかにされているとはいえない。こうした中,博士課程修了後にいわゆるオーバードクターとなる者が多いこともあり,標準修業年限内に学位を授与しようとする意識が比較的低い。
       また,博士課程(後期)進学の前提としての修士論文の作成に係る負担が過度であるとの指摘がある。
    • 理工農系大学院
       理工農系の博士号取得者の進路は大学等のみならず産業界等にも大きく広がっているにもかかわらず,博士課程5年間を貫く人材養成目的や修得目標が曖昧で,教育内容やキャリア支援体制が多様なキャリアパスに十分に対応しているとはいえず,大学院教育の方向性と産業界等の期待とのミスマッチが指摘されている。
    • 医療系大学院
       医療系大学院を取り巻く状況は大きく変化しており,学生の専門資格志向,医師・歯科医師臨床研修制度や薬学部教育6年制の導入,看護系大学の増加などは,研究者を志す学生の減少などキャリア形成に大きな影響を与えており,研究者等を志して大学院へ進学する者の割合が減少している。こうした中,優れた研究能力等を備えた医療系人材の養成機能が強化されてきているが,具体的に修得させるべき臨床技能や研究能力に関する到達目標が不明確な場合も少なくない。
    • 専門職大学院
       専門職大学院は,平成15年度の制度創設以降,様々な分野に急速に広がっており,高度専門職業人養成を目的とした理論と実務の架橋を図るためのカリキュラムの在り方,専任教員や認証評価の在り方,他の学位課程や学校種との関係等に関し課題が生じている。

     

3.大学院教育の改善の方向性

(大学院教育を取り巻く情勢)
 知識基盤社会が進展し,新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す中,様々な分野において高度で知的な素養のある人材の必要性が高まっている。特に,世界が優れた知恵で競い合う時代に,イノベーションを生み出し社会に新たな価値を創造する高度な人材や,専門分化した膨大な知識の全体を俯瞰し地球温暖化をはじめ高度な地球規模の課題の解決のために国際社会でリーダーシップを発揮する人材が不可欠となっている。

  このような中,グローバル化や地域内経済の一体化の進展に伴い,欧米やアジア諸国では,国際競争力強化のため優れた資質を備えた博士人材の養成と確保に懸命となっている。既に,世界の研究・ビジネスの場では,博士号を保有していることが高度な専門性に裏付けられた資質能力を有する証しとして必須要件になりつつあり,多くの国で大学院の質の強化に取り組んでいる。

  我が国では,これまでの大学院教育の実質化をはじめとする改革が全体として着実に進展し,個々の大学院でも多くの成果が上がっている。しかしながら,課程制教育としての大学院を確立し,その質の一層の向上のために取り組むべき課題は少なくない。また,他の主要国と比較して,人口当たりの博士号取得者,とりわけ多様な年齢層の博士号取得者が少ない上に,多くの分野で博士課程(後期)への進学率が低下しており,博士号の取得者の多様な進路が十分に開拓できていない。

  このように,我が国では,全体的傾向としては,博士号保有者が,高度な専門性を有する人材として,社会の様々な分野でリーダーシップを発揮して活躍できる状況に至っているとは言えず,むしろ,我が国の様々な制度や慣行は国際社会の中で極めて特殊な状況となり,世界的な潮流から遅れている事態になっている。これは,人口減少期を迎え,人材こそ成長と発展の鍵となる我が国にとって深刻な問題である。

(改善の方向性)
  上記のようなグローバル化や知識基盤社会が進展する中,「大学院答申」に掲げる大学院教育の実質化に向けた取組を一層強化することが必要である。特に,今回の検証結果を踏まえると,大学と企業,行政等が協力し,多様な学修研究機会を提供しながら,国内外の多様な社会の要請に的確に応える開かれた体系的な教育を展開することが急務である。これらを通じて,社会人や外国人学生を含む多様な学生が将来の見通しをもって互いに切磋琢磨する環境の整備を進めていく必要がある。
 このため,博士課程,修士課程,専門職学位課程それぞれに,

  1. 学位課程ごとにどういう人材を養成しようとしているのか明示する,
  2. 専攻の枠を超えて学位課程を担当する教員によって,組織的な教育・研究指導体制を構築する,
  3. 教員間の綿密な協議に基づき,修得すべき知識・能力の内容を具体的・体系的に示す,
  4. 一貫性のある教育を通じて,その課程を選択した学生に必要な知識・能力を修得させ,その証しとして学位を授与する,

といった学位プログラムとしての大学院教育を確立し,大学院教育の組織的展開の強化を図ることがこれまで以上に重要となる。

 また,博士課程教育については,国内外の社会の多様な場で活躍する高度な人材を養成するため,課程を通じて一貫し,質が保証された博士課程教育を確立する必要がある。このことを通じて,社会からの大学院と大学院生に対する評価を高め,優れた人材を大学院,とりわけ博士課程に引き付け,博士号取得者が高度な知識と高い倫理観を備えたリーダー候補として産学官の多様な場で確実に採用・処遇されていく好循環を構築していくことが急務である。

 こうした観点を踏まえつつ,平成23年度以降の「第二次大学院教育振興施策要綱」(仮称)の策定を想定し,大学院教育の更なる改善に向けて国,大学,産業界,地域社会等の関係者が,重点的に取り組むべき方策を以下に示す。


4.大学院教育の改善方策

(1)課程制大学院制度の趣旨に沿った体系的な教育の確立

 博士課程,修士課程,専門職学位課程のそれぞれに,明確な人材養成目的や,学位の授与要件,修得すべき知識・能力の内容を具体的・体系的に示す。その上で,コースワークから研究指導へ有機的につながりをもった体系的な大学院教育を確立する。

 国内外の社会の多様な場で活躍できる人材を養成する大学院教育を確立するためには,各課程に応じて人材養成目的や修得すべき知識・能力の内容を明確化し,体系的な教育を展開することが不可欠である。
 特に,博士課程は,大学教員や研究者の養成のみならず,高い研究能力を持って産業界等の社会の多様な場で活躍する人材の養成が求められる。このため,コースワーク,論文作成指導,学位論文審査等の各段階が有機的なつながりを持って,専攻分野に関する高度の専門的知識・能力の修得に加え,1研究課題を発見し設定する力や,2研究方法等の構築する力,3他人を納得させられるコミュニケーション能力や情報発信力,4自らの研究分野以外の幅広い知識,5国際性,6倫理観などを身に付けさせることが重要である。
 修士課程や博士課程(前期)は,研究者等の養成の一段階として,また,高度専門職業人の養成など多様な人材の養成が求められることから,コースワークを充実し,専門的知識・能力と関連する分野の基礎的素養の涵養や,倫理観,語学力を含むコミュニケーション能力などを学生に身に付けさせることが必要である。その際,学生が幅広い基礎知識や俯瞰的なものの見方を修得した上で専門分野を選択できるよう,各大学や研究科等において,それぞれの学位プログラムの特性に応じて,共通的な教育を組み込むことも有意義である。

<大学院教育の質の向上につながる優れた取組の支援>
 国は,明確な人材養成目的に基づき,高度な専門的知識・能力に加え,幅広い視野,研究計画能力,コミュニケーション能力,国際性等を課程を通じて体系的に修得させるプログラムや,関係する産業界や研究機関,他大学等との連携により優れた教育方法や教材を開発し,大学院教育全体の質の向上につなげる優れた取組等の支援を通じ,引き続き,国際的にも魅力ある教育の取組の普及・発展を図っていく必要がある。

(2)組織的な教育・研究指導体制の確立

 教員の役割分担と連携体制を明確にし,教員間の綿密な協議に基づいて体系的な大学院教育を提供するための組織的な教育・研究指導体制を確立する。

 前述の体系的な大学院教育は,求められる知識・能力を効果的に修得させる組織的な教育・研究指導体制が構築されてこそ実現される。これまでの大学院教育には,担当教員による個人的な指導に過度に依存する傾向も見られたことから,専攻の枠を超えて学位プログラムを担当する教員間の綿密な協議に基づき,カリキュラムに関する共通理解をもち,各教員の役割分担と連携体制を明確にすることが重要である。
 その際,柔軟かつ機動的な教育研究の展開を実現するとともに,若手教員が自らの資質・能力を十分に発揮して教育・研究を担当できるよう,講座制又は学科目制を基本原則とする規定を削除したことや助教制度の創設など教員組織のあり方を見直した趣旨を踏まえ,各大学は,自らの権限と責任において,各教員の役割分担と連携体制を明確にするなど,教員組織の具体的な編制等を定めることが必要である。

<複数の教員による研究指導体制の確立>
 高い専門性とともに幅広い視野,創造性を備えた人材を養成する観点からは,異なる専門領域をもつ複数の教員が論文作成等の研究指導を行う体制を確保することが重要である。各大学においては,上記の助教制度を設けた趣旨を十分に踏まえ,教員組織を見直していくことが必要である。
 また,国においても,各大学院の組織的な教育・研究指導体制の現状と優れた事例の積極的な提供を進めるべきである。

<教員の教育・研究指導能力の向上>
 体系的な大学院教育を充実させるためには,大学院教育に携わる教員の教育・研究指導能力の向上が不可欠である。大学院については学士課程段階と比べ,ファカルティ・ディベロップメント(FD)や教育評価に関する取組が少ないため,各大学は,研究科や専攻の教員が常にお互いに教育について活発に議論するとともに,諸外国の大学院の教育研究指導の経験を活用するなど組織的な研修体制を充実させる必要がある。さらに,複数教員による指導体制や授業内容の公開等を通じた同僚教員による評価(ピアレビュー)を通じて,教育・研究指導能力を向上させる取組も求められる。
 また,教員に対する評価に当たっては,研究業績だけでなく,教育業績や教育能力の評価を充実させ,採用・昇任,再任用等の人事や処遇への反映や,教育・研究指導能力向上の取組との有機的連携などの工夫が必要である。

<学生の教育・研究指導能力の向上>
 学生にとって,ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)は,単なる経済的支援としてのみならず,教育・研究経験を積むことを通じてこれまで学修した知識の定 着が図られるとともに,高度な専門性に加え全体を俯瞰しながら知識・技能を教授できる大学教員等の養成に重要な機能を果たす。優れたTA・RAの存在は大学教育の質を高めることから,大学院の教育活動の中にTA・RAの取組を積極的に位置付けることが求められる。
 国においては,大学院における優れた大学教員の養成のための取組(プレFD)をはじめ大学教員の教育力の向上のための共同利用拠点の形成を促すことが必要である。

<組織的な教育・研究指導体制の確保>
 学生数が非常に少ない博士課程等の専攻においては,体系的な大学院教育を通じて多様な学生が互いに切磋琢磨する環境を確保する観点から,専攻横断的な教育や大学間の連携・協力などによって,組織的な教育の充実を図っていくことが求められる。また,安易な入学者数の確保を優先するのではなく,大学院教育の質の保証の観点から,定員の充足状況や社会的需要等を総合的に勘案し,必要に応じ,自ら入学定員を見直すよう努めることが必要である。

(3)学位プログラムとして一貫した博士課程教育の確立

 課程を通じ一貫した学位プログラムを構築し,国内外の社会の多様な場で中核的人材として活躍できる人材を養成する質が保証された博士課程教育を確立する。

  今日の博士課程(一貫制及び区分制博士課程)については,前期を中心に体系的なカリキュラムの編成が取り組まれるようになっている反面,後期では特定の研究室の担当教員による研究指導中心の教育手法が主となることが多く,博士課程としての体系的な科目履修・単位取得のシステムが確立されているとはいえない面がある。
 また,「大学院答申」は,博士の学位について,「研究者として自立して研究活動を行うに足る又は高度の専門性が求められる社会の多様な方面で活躍し得る高度の研究能力とその基礎となる豊かな学識」を身に付けた者に対して授与するとの考え方を示したが,大学院の間に博士の学位の考え方に相当な差異がある。
 今後,博士号取得者が国内外の社会の多様な場で中核的人材として活躍していくためには,明確な人材養成目的等に基づき,課程を通じて一貫し,質が保証された学位プログラムとしての博士課程教育を確立し,専門領域の研究指導のみならず,関連領域を含む幅広い知識や社会の変化に対応し自ら課題を設定し解決する力,高い倫理観,国際性等を身に付ける体系的な教育を実施していく必要がある。
 その際は,修士課程修了者が産業界等への就職の中核を占めている現状を踏まえ,区分制博士課程では,同一専攻の中に,博士課程(前期)を終えた段階で就職する学生のための高度専門職業人養成プログラムを併せ持つなどの工夫が必要である。

<博士課程学生の基礎的能力の審査>
 最終的に博士論文の作成に向けて,5年間を通じ一貫した体系的なカリキュラムを編成する観点から,学生が本格的に博士論文作成に着手するまでに,博士論文作成に必要な基礎知識,研究計画能力,倫理観,語学力を含むコミュニケーション能力などを体系的なコースワーク等を通じて修得しているか否かについての審査を行う仕組みの導入が有効である。
 他方,区分制博士課程をとる多くの大学院においては,博士課程(前期)の修了要件に修士論文が課されているが,修士論文の作成に係る負担が過度となるとの指摘がある。
 このため,修士論文が研究者としての訓練を積む上で大きな役割を果たしてきたことや,前期課程修了後に就職する者等の取り扱いに留意しつつ,課程を通じ一貫したカリキュラムを編成する観点から,博士課程(前期)の修了時に,修士論文の作成に代えて前記のような審査を行う場合の制度的取扱いや博士課程(後期)へ受け入れる要件を明確にすることが適当である。

<標準修業年限や修得単位数の在り方の検討>
 大学院設置基準は,博士課程の標準修業年限を5年とし,前期と後期の区分を設けること(区分制)も,区分を設けないこと(一貫制)も可能となっている。また,修士課程として扱われる前期課程の修了要件は30単位以上の修得及び修士論文等の審査・試験,博士課程の修了要件は30単位以上の修得及び博士論文の審査・試験となっている。
 しかし,1修士論文等を要しない一貫制課程の標準修業年限等が区分制課程と変わりないこと,2特に産業界等の研究経験を経て博士課程(後期)に入学する社会人や他大学院からの進学者等に求められる科目履修の考え方が確立されていないことから,一貫制,区分制博士課程の趣旨がより明確になるよう,標準修業年限や修得単位数のあり方について,今後検討が必要である。

<社会人の博士課程への入学の促進>
 今後,産業界等においては,これまで以上に高度な知識,能力を備えた人材が必要となることから,社会人の再教育を念頭においた教育の重要性はますます高まっていく。また,高齢化が進展する中,高度で知的な素養の修得のニーズが高まっていくと期待される。
 このため,各大学院においては,専攻分野や業種などに応じて各大学と産業界等が積極的に連携し,博士課程(後期)においては,社会人にとって魅力的な博士課程の構築を図るとともに,入学後に補完的な教育を提供することも必要である。

(4)教育情報の公表の推進

 産業界や地域社会等が大学院教育に対する認識を深め,学生が将来のキャリアパスを描くことができるよう,大学院教育の「可視化」を進める。

  「どのような人材を受け入れ,どのような教育を行い,どのような人材を送り出そうとするのか」は大学院教育の根幹であり,学生が将来のキャリアパスを描くためにも,さらに,大学院に対する社会的な信頼を高め,大学院教育の質を保証するためにも,基本的な教育情報が明らかにされていることが必要である。
 このため,各大学においては,教育情報の公表に関する学校教育法施行規則の改正を踏まえ,人材養成目的,学生に修得させるべき知識・能力の体系,入学者受入方針(アドミッションポリシー)を整合的に設定するとともに,カリキュラムや成績評価,教育研究組織,学習環境,学生支援等の教育情報を学生や社会に広く公開し,開かれた大学院教育を行うべきである。
 また,国においては,人材養成目的,カリキュラム,入学者受入方針等の大学院教育に関する情報を集約し,一覧できる仕組みの整備を検討し,それぞれの研究科,専攻の特徴が可視化できるようにすることが重要である。

(5)産業界等との連携の強化と多様なキャリアパスの確立

 社会の多様な場で活躍できる人材を養成するため,産業界や地域社会など多様な機関と連携し,これらの資源を活用しながら多様なキャリアパスに対応した教育を展開するとともに,キャリアパスの確立に向けた取組を進める。

  知識基盤社会を支え,牽引する人材として,専門応用能力を有する博士,修士,専門職学位の取得者が,今後,教育・研究機関のみならず,企業,行政機関,ジャーナリズム,国際機関といった社会の多様な場で活躍することが重要である。特に,博士課程については,企業や地方自治体等と連携し,多様なキャリアパスに対応した教育を実施し,大学教員やポストドクター等のみならず,学生の多様なキャリアパスを開拓する取組を充実する必要がある。
 一方,大学等におけるキャリアパスについては,ポストドクター,助教等といった各段階のキャリアパスを見通すことができるようにするため,若手研究者のポストを増加させるとともに,とくに世界的研究拠点の形成を目指す大学等においてはテニュアトラック制の導入・拡大を進めることが期待される。また,女性研究者が出産・育児等と研究を両立できるよう,在宅勤務や短時間勤務,柔軟な雇用形態・人事制度の確立,研究サポート体制の整備等を推進することが求められる。

<多様な学修研究機会に接する教育の推進>
 各大学院において,多様なキャリアパスに対応した教育が必要であり,幅広い知識の修得や課題設定・解決能力の育成,知識を実際に活用していく訓練の機会として,様々な研究プロジェクトへの参加や学会,ワークショップ等への参加,他の研究機関,企業等での一定期間の研究経験や実践的なインターンシップの実施などが有効である。カリキュラムの編成に当たっては,他大学や研究機関,学術団体,企業等の関係機関との連携を強化し,このような多様な学修研究機会に豊富に接し研鑽を積む教育が充実されることが求められる。

<大学院教育に関する大学と産業界等との協議の場>
 大学と産業界が,大学院が養成する人材像と産業界等の評価や期待に関する考え方を共有し,大学院修了者のキャリアパスに関する認識を高めることが重要であり,専攻分野や業種などに応じて,国レベル,各大学レベルそれぞれに,産業界等との間で協議の場が設けられる必要がある。また,このような場に学生も積極的に関わることが期待される。

<学生のキャリア支援>
 さらに,大学院において,学生に対するキャリア情報の提供,キャリアアドバイザー等の体制の整備など,キャリア支援のための取組を強化することが必要である。特に,博士課程修了者の就職事情は,新卒市場のような一括採用方式ではなく,転職市場に近い通年採用方式も見られることから,一人ひとりの学生に対してきめ細やかな履修指導や就職支援を行う体制を整備する必要がある。また,各大学院において,自大学院の学生の進路状況を適切に把握することは,教育機関としての最低限の責務である。
 他方,国,地方公共団体等においては,これら公的部門での大学院修了者の雇用・活用の拡大について検討することが求められる。また,産業界等においては,大学院教育への具体的なニーズの明示,大学院修了者の実力を適性に評価した人材の登用,社会人学生の大学院在籍期間と復帰後の適切な処遇等が期待される。

(6)優れた学生の進学促進

 意欲と能力ある学生に広く公正に大学院を受験する機会が与えられ,経済的な不安を抱えることなく将来の見通しをもって大学院教育を受けられるよう支援する。

<学生に対する修学上の支援の充実>
 大学院において優れた人材の育成を行うため,修学上の支援の充実を図ることが重要である。これまで,独立行政法人日本学術振興会の特別研究員事業,及びTA・RA等としても活用できる競争的研究資金の拡充等を行ってきており,これを引き続き推進するとともに,独立行政法人日本学生支援機構における奨学金の大学院生に対する業績優秀者免除制度を拡大することが必要である。併せて,進学意欲を持つ優秀な学生が経済的な不安を抱えることなく大学院に進学できるよう,独立行政法人日本学生支援機構における奨学金の予約採用の実施方法について,進学予定先の大学院からの推薦ではなく,在学学部からの推薦に実施方法を見直すことが適当である。
 なお,修学上の支援とあいまって,競争的な教育研究プロジェクト資金の活用に当たっては,教育の組織的な展開の中で優秀な学生の自主的な研究遂行能力を伸長させることを重視した支援に意を用いることも有効である。
 また,国内外から優れた学生を確保するために,各大学においては,例えば,大学院在学を通じて必要な学生納付金等や経済的支援等に関する見通し(ファイナンシャル・プラン)や経済的支援等の実績などを提示することが重要である。

<国内外に開かれた入学者選抜>
 学位の質を保証するために,国内外から優れた学生を獲得し,様々な背景を持つ学生が互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていくことは重要であり,公正かつ国内外に開かれた入学者選抜を実施する必要がある。
 各大学院は,それぞれの人材養成目的や特色に応じ,入学後の教育と有機的なつながりを持った入学者受入方針(アドミッションポリシー)を明示するとともに,入学者選抜にあたっては,安易に定員の充足を求めるのではなく,入学者受入方針に基づき,狭い専門領域に偏ることなく学生の多様な能力や意欲,将来性を見極める公正な入学者選抜を行う必要がある。
 また,入学者選抜に関しては,大学設置基準に「入学者の選抜は,公正かつ妥当な方法により,適当な体制を整えて行うものとする」(第2条の3)の規定があるが,大学院設置基準に規定がなく,「大学院入学者選抜実施要項」を通知により示しており,公正で開かれた入学者選抜を推進する観点から,大学院設置基準にも規定を整備することが適当である。

(7)外国人学生・日本人学生の垣根を越えた協働教育の推進

 アジアを中心とした大学と連携し,日本人・外国人学生の垣根を越えた交流を通じた協働教育等により,国際コミュニケーション能力を備え高い国際感覚をもったグローバル人材を養成する。

  国際的に活躍できる人材を養成するためには,学生が国際的な環境の中で日常的に切磋琢磨し研鑽を積むとともに,我が国の学生を積極的に海外へ送り出し,海外での学会,ワークショップ等への参加,海外の研究機関や企業等での一定期間の研究経験やインターンシップへの参加の機会を設けることが求められる。
 このため,各大学院においては,海外の大学,研究機関等と国際的なネットワークを構築し,外国人教員の積極的な採用,渡日前入学許可の拡大から大学及び社会での受入れ体制の整備,就職など修了後の進路支援に至るまでの外国人学生の受入れを体系的に充実するとともに,日本人学生の海外派遣を推進することが必要である。国としても,海外大学との学生の受入れ・派遣双方向での交流プログラムの開発等を進める大学を支援していくことが重要である。

(8)我が国の成長を牽引する世界的な大学院教育拠点の形成

 21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラムの実績を土台としつつ,産業界等との連携を強化し,学位プログラムとして一貫した国際標準の博士課程教育を行い,国際社会で活躍し世界を牽引するリーダーを養成する世界的な大学院教育拠点の形成を推進する。

  国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進するため,これまで,世界的な教育研究拠点の形成を重点的に支援する「21世紀COEプログラム」や「グローバルCOEプログラム」が実施されている。
 これらの実績を土台としつつ,今後さらに,環境,医療等の成長分野で世界を牽引するリーダー(卓越した専門性,広範な知識,豊かな教養とリーダーシップを備えた博士人材)を養成するリーディング大学院の形成に対する支援を強力に展開することが重要である。
 リーディング大学院の形成を進めるに当たっては,俯瞰的なものの見方や専門性等を修得するため,体系的なコースワーク,研究指導等の有機的連携による一貫した学位プログラムとしての国際標準の博士課程教育を構築することが必要である。また,企業,官公庁,国際機関等との協議の場を設け,これらの機関と連携した教育を実施し,関係業界,経済団体からの採用面等での支援などによりキャリアパスの確立を推進することや,国際ネットワークの中で,国内外の優秀な教員・学生を結集し,学生の国際性を涵養するためのグローバルな教育活動を展開することが重要である。その際,人文・社会科学系を含めた,分野の枠を超えたアプローチを重視することも求められる。
 なお,このようなリーディング大学院への重点的支援を行うに当たっては,国は,大学の教育研究活動に係る直接的な支援のみならず,教育研究組織や施設設備の整備,学生への経済的支援の実施などの関連施策を併せて充実していくことも重要である。

(9)専門職大学院の質の向上

 社会経済の各分野で指導的役割を果たすとともに,国際的にも活躍できるような高度専門職業人材を養成する制度創設の理念に立ち返り,教育内容の充実と質の向上を図る。

  専門職大学院制度は,社会経済の各分野で指導的役割を果たすとともに,国際的にも活躍するための知見と応用力を有する高度専門職業人を養成することを目的として創設されたものである。
 専門職大学院の急速な広がりに伴い,社会的要請を踏まえたカリキュラムの在り方や産業界等との連携,他の学位課程や学校種との関係等についての諸課題が指摘されていることから,制度創設の理念に立ち返り,本来の役割や機能に照らし合わせて,その在り方を見つめ直す必要がある。

<専門職学位課程と博士課程(後期)との接続>
 大学における教育と研究は一体であり,教育資源の蓄積を支える研究活動の活性化,教員の養成機能の確保,あるいは進学を希望する学生への対応等や,国際競争力への影響などを勘案すると,専門職学位課程と博士課程(後期)との接続を図ることは重要である。
 このため,専任教員のダブルカウントの特例措置が終了する平成26年度以降も引き続き,専門職大学院の教員が同時に博士課程(後期)において研究指導を行える環境を維持できるよう,制度的対応を検討する必要がある。

<認証評価の見直し>
 専門職大学院の認証評価については,認証評価機関が存在しない場合に,自己点検・評価とその外部検証で代替することが可能とされているが(学校教育法施行規則第167条第2号),専門職大学院の質保証の観点から,この特例措置を廃止することが適当である。
 また,各認証評価機関は,恒常的に大学の質を保証するためにも,評価基準や実施方法を不断に検証し改善していく必要があり,カリキュラムの充実度,学生の修了後の進路や,教員の資質・能力等の向上のための取組状況などの項目を導入することにより,質に重点を置いた評価を行っていくことが求められる。また,そのための関係規定の改正なども検討する必要がある。

<「実務家教員」の明確化>
 実務家教員に関し,法令上は,専任教員に占める割合の下限は規定されているが,専門職大学院ごとの実務家教員の取扱いが様々となっている現状を踏まえ,専任教員の定義,専任教員に占める実務家教員の割合の取扱いなどの明確化が必要である。

<優れた理論と実務教育のバランスに配慮した体系的なカリキュラムの確立>
 専門職大学院は,高度専門職業人の養成に特化し,国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する役割を担っていることから,優れた理論と実務教育のバランスに配慮した体系的なカリキュラムの確立が不可欠であり,その上で,学部新卒者や有職社会人などバックグラウンドの異なる学生の多様なニーズに配慮した教育内容の充実を図る必要がある。
 このため,産業界や職能団体等との連携協力により,基礎的な能力・知識に関する共通的な到達目標の設定や教材開発等の取組を促進するとともに,特色ある教育拠点の形成を促進し,修了生が社会で能力を発揮し評価される環境を整える必要がある。

(10)学問分野の特性に応じた改善方策

<人文・社会科学系大学院の改善>
 専門分野毎に違いはあるものの,人文・社会科学系大学院の博士課程修了者が大学教員以外の社会の様々な場で活躍する多様なキャリアパスが確立されているとはいえず,標準修業年限内の学位授与率が低い。また,博士課程(後期)への進学の前提となる修士論文の作成に係る負担が過度となっているとの指摘がある。こうした中,円滑に学位授与へ導くプロセスや将来のキャリアパスの見通しを明らかにすることが重要な課題となっている。
 人文・社会科学系大学院には,学問の特性から,産学連携になじまないと考えている大学院が未だに多いが,学生の将来のキャリアを考え,教育機関,産業界,行政機関等との積極的な連携を強化し,多様な学修研究機会を設けながら,多様なキャリアパスを意識した教育を行うことが求められる。そのためには,大学院が養成しようとする人材像に対する社会の理解を深め,学生が将来の見通しを描けるよう,基本的な教育情報が明らかにされていることが必要である。
 また,博士号の取得が学生にとって多様なキャリアへの出発点となることを考えれば,学位の質を確保しつつ標準修業年限内に学位授与へ導くよう努めることは重要である。円滑な学位授与を進めるため,学位授与の要件,学位授与までの各過程に必要となる期間,学位取得後のキャリアパス等の情報の公表を促進することが必要である。また,論文作成に係る研究テーマや研究方法,詳細な工程等を記載した研究計画の作成や研究進捗状況の中間発表等を通じて,学生と教員との間で学位授与に必要なプロセスの確認・共有することも有効である。

<理工農系大学院の改善>
 我が国の技術者等の就職は既に学士課程段階から修士課程段階に移行し,理工農系の修士課程段階は,こうした高度専門職業人養成の中心的な役割を担っており,我が国の理工農系大学院は,修士号取得者全体の約6割を占めている。
 また,理工農系の博士号取得者の進路は大学等のみならず産業界等にも大きく広がっているにもかかわらず,博士課程5年間を貫く人材養成目的や修得目標が曖昧で,専門分化した教育内容やキャリア支援体制が多様なキャリアパスに十分に対応しているとはいえず,社会人など多様な年齢層の学生が少なく,大学院教育の方向性と産業界等の期待とのミスマッチが指摘されている。
 理工農系の博士号取得者が国内外の社会の多様な場で中核的人材として活躍していくためには,産業界等と一層緊密に連携し,これらの要請に応え,さらに,社会人の学修需要の高まりに応える質の高い博士課程教育を提供することが求められる。
 現在導入が進む産業界等と連携したインターンシップやPBL(=Project-Based Learning)などの取組は,産業界等が求める実社会とつながりをもった教育の充実や学生の社会性の涵養などの点からも有効であり,プログラムに関わる産業界等の関係者もカリキュラムの編成に参画し,共通理解をもってカリキュラムの一環として行われることが望まれる。

<医療系大学院の改善>
 我が国の医療系大学院は,医学・歯学の博士課程の入学者が博士課程全体の3割を占め,また,病院等に従事する社会人学生の割合が高く,職業人養成の性格が強い。
 医療系大学院を取り巻く状況は大きく変化しており,学生の専門資格志向,医師・歯科医師臨床研修制度の導入,薬学部教育6年制の導入,看護系大学の増加などは,研究者を志す学生の減少など,各分野の大学院生のキャリア形成に大きな影響を与えるとともに,改革を進めようとする大学院に少なからぬ影響をもたらしている。
 こうした中,優れた研究能力等を備えた医療系人材の養成機能が強化されてきているが,具体的に修得させるべき臨床技能や研究能力に関する到達目標が不明確な場合も少なくない。
 このため,国際的に通用する高度な職業人を養成する観点から,課程修了時の到達目標を明確にするとともに,高度化・多様化する医療の動向等を見据えた体系的かつ実践的な教育を展開するため,他の医療機関や研究機関,学内外の他専攻等と有機的に連携し,面的に拡がりをもって,ライフイノベーションを担う能力を持つ医療人養成に取り組むことが求められる。特に,未来の医療を拓く,基礎研究を担う者を確保するとともに,臨床研究は,医師をはじめとする多様な専門家のチームで行われることから,臨床疫学,生物統計学,倫理学,規制科学等を基礎とし,他分野・他大学院との共同により,実際の臨床研究の場を利用した教育が推進されることが望まれる。

 

 5.大学院教育の改革を推進するための計画

  これまでに述べた今後の大学院教育の改善方策は,「大学院答申」に掲げる大学院教育の実質化の方向性を踏まえながら,大学院教育の更なる改善のため国,大学,産業界,地域社会等の関係者が今後重点的に取り組むべき事項を掲げたものである。したがって,以上に掲げた方策以外にも,「大学院答申」に掲げられた若手教員等の教育研究環境の改善,大学院評価の確立及び国際的な質保証活動への参加といった方策については,引き続き,関係者が取り組むことが必要である。
 大学院教育の改善のための方策を名実ともに実現し,実効性を持って機能させるため,国は「第二次大学院教育振興施策要綱」(仮称)を早期に策定し,体系的かつ集中的に大学院教育の改革に関する施策展開を図っていくことが求められる。また,大学院教育の改善状況や成果等の把握に努め,必要に応じ本要綱の見直しを行うことが必要である。

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学改革推進室

大学院係
電話番号:03-5253-4111(内線3312)

-- 登録:平成22年09月 --