大学院部会(第107回) 議事録

1.日時

令和4年6月16日(木曜日)15時00分~17時00分

2.場所

WEB会議

3.議題

  1. 大学設置基準の改正に伴う大学院設置基準等の改正 について
  2. 「総合知」の基本的考え方及び戦略的に推進する方策 中間とりまとめ報告 について
  3. 人文科学・社会科学系の大学院教育に関する方向性 中間とりまとめ について
  4. その他

4.出席者

委員

(部会長) 湊長博部会長
(副部会長) 村田治副部会長
(臨時委員) 加納敏行、神成文彦、小長谷有紀、小西範幸、佐久間淳一、迫田雷蔵、須賀晃一、高橋真木子、塚本恵、長谷川眞理子、波多野睦子、濱中淳子、堀切川一男、宮浦千里の各委員

 

文部科学省

(事務局)増子高等教育局長、森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当)、里見大臣官房審議官(高等教育局担当)、西大学振興課大学改革推進室長、佐野科学技術・イノベーション推進事務局総合戦略担当ディレクター(内閣府)他

5.議事録

【湊部会長】それでは,所定の時刻になりました。第107回大学院部会を開催したいと思います。
御多忙中のところ,御出席をいただき,誠にありがとうございます。本日は川端委員,菅裕明委員,田中委員は御欠席,波多野委員は少し遅れての御出席と伺っております。
では,まず事務局から,会議に当たっての連絡事項等をお願いいたします。

【西大学改革推進室長】事務局でございます。毎度のお願いでございますけれども,ウェブ会議を円滑に行う観点から,御発言の際には挙手ボタンを押していただきまして,部会長から御指名がありましたら,お名前をおっしゃってから御発言いただきますようにお願い申し上げます。また,発言時以外は,マイクをミュートにしていただくようにお願いします。
資料につきましては,議事次第に記載のとおり,事前にメールでお送りしております。画面投影はいたしませんので,お手元の資料を御覧くださいませ。
システムの状況によっては不具合もあるかと存じますけれども,御協力のほど,どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。

【湊部会長】それでは,早速議事に入りたいと思います。
1つめの議題は,大学設置基準の改正に伴う大学院設置基準等の改正についてということであります。これは,今般,大学設置基準の改正が進められておりまして,それに伴って,関係する大学院の設置基準等についても,改正が必要な箇所があるか等について検討を行っているものでございます。
この改正案につきましては,西大学改革推進室長より御説明をお願いしたいと思います。

【西大学改革推進室長】西でございます。お手元に資料1-1をお願いいたします。「大学設置基準の改正に伴う大学院設置基準等の改正について(案)」というものでございます。ちょっと複雑なところもありますので,できるだけ簡単に御説明申し上げたいと思います。
先ほど部会長から御紹介がありましたとおり,大学設置基準の改正について,現在,大学分科会のほうで審議が進められております。それに伴いまして,大学院も連動して改正が必要なところ,必要でないところ,それぞれ事務局の案として整理しておりますので,それについて御審議いただきたいというものでございます。
まず中段,(1)厚生補導組織について(新設)と書いてございます。1枚おめくりいただきまして,2ページに,関連条文イメージというのが御用意してあります。これが下のほうに大学設置基準,まさに審議中でございますけれども,第七条,大学は,学生に対し,課外活動,修学,進路選択云々と,厚生補導を組織的に行うため,専属の教員又は事務職員等を置く組織を編成するものとするというのが,大学の学部の設置基準にもともとございまして,他方,大学院には現在これに当たる規定はございません。
ただ,今回の,まさにその方法で御審議いただいていますようなキャリアパスのサポートをしていくとか,あとは学生に対する様々な社会的な支援といったことが必要であるという観点から,大学院設置基準におきましても同じような規定を置くべきではないかということを検討しております。
具体的には,2ページ目にございますように,基本的には大学設置基準と同じような書きぶりを引っ張ってくるのですけれども,とはいえ,大学院生でございますので,年齢的にもやや成熟しているということと,あとは,学部のように,授業よりも個人の研究活動が中心であるということから,課外活動についてまで大学の組織としてサポートしていくというのを必ず設置基準上,求めていくというのはやや過大ではないかといったことから,大学設置基準上,「課外活動」と波線を引いておりますけれども,そういう課外活動という言葉を落として,そういった厚生補導組織というものを大学院においても整備しておくということを改正したいと考えてございます。
3ページ目,(2)教育補助者の規定について(新設)と書いてございます。今回の大学設置基準の改正においては,TAやSA,大学においては当然の文化としてありますけれども,実はそのTAやSAを置くという法的な根拠が今までなかったということで,大学設置基準上もそれを明示して,かつ,当該者に対して必要な研修を行うということを規定する方向で審議されております。
大学院におきましても,当然,TA,SAといったものは置かれますので,同様の改定を行う必要があろうと考えてございますけれども,今回,関連条文イメージのところを御覧いただきますと,下のほうの大学設置基準のところを御覧いただきますと,大学は各授業科目について,当該授業科目を担当する教員以外の教員,学生,その他大学が定める者,これを指導補助者と呼んで,これに補助させることができますというのを一つ。
また,十分な教育効果を上げると認められるときには,当該授業科目を担当する教員の指導計画に基づいて,指導補助者に授業の一部を分担させることができる。補助だけではなくて,授業の分担もできますよということを,今回,大学設置基準のほうでは,学部ではするということになっているのですけれども,大学院においては,大学院生が授業を分担して大学院生に授業をするというのは,いかにもおかしい構造になってしまいますので,大学院において,この似たような条文を置く際には,授業補助については,もちろんTA,SA,学生さんができますよということにしつつ,他方で,授業の分担をすることはできないと。授業の分担ができるのは,当該教員以外の教員であったら授業の分担はできるけれどもというような規定にしたいと考えてございます。
なので,波線の部分でございますけれども,比較しますと,学部のほうは指導補助者ができますよと書いてあることに対して,大学院部分につきましては,当該授業科目を担当する教員以外の教員が分担することができるということで,限定をかけようと思っております。
次のページ,4ページ目,(3)基幹教員についてというところでございます。今回の大学設置基準の改正につきましては,現行専任教員に係る規定,「一の大学に限り,専任教員となる。」という規定がありますけれども,このクロスアポイントメントの多様化ですとか,民間からの教員登用の促進等を踏まえまして,教育課程の編成,その他の学部の運営について責任を負う教員であって,主要な授業科目を担当する者であったり,8単位以上の学部の課程を,授業を担当する者だけを限定して,教育課程に責任を負う者ということで,基幹教員という新しい考え方を持ってこようとしております。では,これを大学院設置基準についてどう考えるかということで検討しましたところ,学部はもちろん授業が中心ですということ。他方,大学院でももちろん授業はやりますけれども,学生の研究テーマに応じた個別の研究指導を行うということが重要でありまして,現行規定におきましても,大学院の教員組織というのは,研究指導を行うということを原則として念頭に置いて定めております。
そのため,基幹教員のように,授業科目の編成ですとか,単位数で組織上の位置づけのウエートを変えるといったことの表現が必ずしもなじまないのではないかと考えております。また,その基幹教員かそれ以外かと考えました場合に,大学院の場合は専攻を定めておりますけれども,専攻を行う場合に最低限必要な教員の人数というのが法令上定められておりますけれども,大学院の場合は,最低必要な教員以外の教員もそれぞれの学生に対しては,研究指導,修論,もしくは博論について指導責任を等しく負っているということから考えますと,大学院については,学部における教員の在り方とは違いが大きいということを踏まえますと,大学院は特に研究が中心であって,学部は授業が中心ということから考えますと,今回の基幹教員という考え方がストレートに適用するということがなじまないと考えますので,今回は基幹教員についての考え方は改正しないと言うのが適当ではないかと考えてございます。
また,同様に,専門職大学院におきましても,専門職大学院は大学設置基準における専任教員というものとはまた別の考え方で成立しておりますので,今回,学部の改正に伴って,専任教員の考え方,もともと別のものなので,連動して改正するということはしないのが適当であると考えてございます。
6ページ目,(4)教育課程等に係る特例制度についてというのがございます。今回,大学の学部のほうでは,内部質保証がきちんとできている,情報公表をきちんとしている大学については,一部の規制上の緩和をするということが予定されております。
ただ,説明書きの中段上ぐらいに書いていますけども,もともと大学院設置基準では基準が設けられていないもの,例えば遠隔授業の単位数の上限であるとか,校地校舎の面積の基準を緩和していくといったことが想定されているのですけれども,そもそも大学院はこの規定がございませんので,ここについては改正する必要がなかろうということ。その他,大学院設置基準と該当する部分について見てみましても,単位数の緩和をしていくというものが多くございます。ただ,単位数の緩和につきましては,大学院設置基準でも相当程度弾力的に運用しておりますので,これについても改正は必要ないのではないかと考えてございます。
具体的には7ページ目以降に書いてございますけれども,7ページ目の(1)院設置基準及び専門職大学院設置基準において該当する規定がないものということが書いてございますけれども,一番上にあります遠隔授業の60単位上限とか,校地校舎面積基準といったものが,特例の対象になるということが考えられておりますけれども,大学院基準ではもともと規定が存在しないということです。
(2)の①,院設置基準において該当する規定があるもの及びその状況等というところですが,授業科目の自ら開設につきましては,大学院では,連携開設科目や共同教育課程等によって他大学と連携して教育研究を実施することがもう可能でございますし,研究指導委託という方法もございます。
次に,1年間の授業期間は,35週を1年間と見ますよというもの。これについても弾力化する必要がないのではないかと考えております。その他,他大学等における授業科目の履修については,上限が15単位ですよということ。大学以外の教育施設等における学習ですとか,次のページに行っていただきますと,白丸の部分だけ申し上げますが,入学前の既修得単位の認定,連携開設科目により修得する単位の上限,共同学科に係る卒業の要件,国際連携学科に係る共同開設科目,国際連携学科に係る卒業の要件ということで,いずれも相当程度,半分もしくは4分の1程度まで単位数の上限が緩和されておりますので,ここをさらに個別に見ていくと,弾力化していくということは必要ないのではないかと考えてございます。
すみません。大変早口で恐縮でございました。説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございました。
それでは,ただいまの大学院設置基準等の改正についての見解,もし御意見等ございましたらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。では,佐久間委員,まずお願いできますか。

【佐久間委員】それでは,教育補助者の規定についてというところがありましたが,これは,現状では,制度的に大学院と学部があって,教員のほうも大学院担当だとか,大学院手当とかそういう形で出ていて,そこで差別化されているわけですよね。だから,現状はしようがないと思うんですけど,ただ,大学院といっても,いわゆる後期課程と前期課程があるわけで,後期課程の学生が前期課程の授業の一部を担当したとしても,あながち,非常に不合理というわけではないと思います。実態として,実際の教育も,学部教育と博士前期課程の教育の間に物すごく差があるかというと,そういうわけではないので。
ただ,一方で,前期課程の授業を大学院生に担当させるためには,学生をちゃんと訓練しないといけません。その訓練も今,始まったばかりなので,現時点では,まずは訓練した学生に学部の授業の一部を担当させることができると。そういうことでいいと思うんですけど,将来的にはやっぱり,大学院生で,将来,大学の教員になろうという方には在学中からそういう訓練をするということも,一方ではうたっているわけですので,大学院,特に博士前期課程については大学院生が授業の一部を担当できる可能性もぜひ検討していただきたいなと思うところでございます。どうぞよろしくお願いします。

【湊部会長】ありがとうございます。御指摘のように,大学院補助といっても,やはりグレーディングがありますので,それに応じた研究補助の在り方があるのではないかという御指摘です。私の理解では,カリフォルニア大学バークレー校などはこれを積極的に進めていますが,あそこではそういう補助教育のためのサーティフィケーションを非常に細かくグレーディングをつけてやっていますよね。そういうシステムがある程度備わっているということが前提になるのかなという気はいたしますけれども,御指摘の点は留意させていただきたいと思います。
それでは,村田委員,お願いします。

【村田副部会長】ありがとうございます。お聞きしたいことと,質問があります。基幹教員について,学部の教員の基幹教員を認める。今回,本制度を導入するんですが,大学院につきましては,この基幹教員の制度を今回は改正しないということですが,大学院と学部にそれほど大きな違いがあるのかなというのが正直な素朴な疑問なんです。当然,学部で基幹教員の制度を導入するのであれば,大学院にもこの制度を導入すべきだと思うんですが,今回は見送るという,ちょっと理由がいまいち,ストンと入ってこないのでお教えいただければと思います。

【湊部会長】西室長,何かその辺の議論をされましたか。

【西大学改革推進室長】ありがとうございます。すみません。大変分かりにくいところなのですけども,資料の4ページ目のところに長々と書いておりますけれども,やはり大学の学部は特に授業が中心になりますということと,法令上も大学院が授業のみならず,研究指導,研究を行うということが中心になっているということから考えますと,基幹教員というものの考え方が,やはり大学の教育課程そのものに責任を負うということの考え方が強くございまして,他方で,教育課程というよりも,特に大学院修士,とりわけ博士になった場合に,教えるべき教育の内容があらかじめ固まっているというよりは,研究指導の中でそれぞれの教員と学生の間で研究指導の内容を固めて,それぞれ中身が変わっていくということを考えますと,課程そのものについて責任を負う基幹教員というコアの部分を担う人と,それ以外の人という位置づけよりも,大学院に所属している全ての教員が,学生に対して研究指導を一対一の関係で全て等しく責任を負っているんだという考え方で整理したほうが適当なのではないかと考えたため,基幹教員ではなくて,基幹教員という考え方を入れる,入れないということで御提案しているものでございます。

【村田副部会長】よろしいですか。その部分を読んだ上ですけども,学部のほうも,これはもともとクロスアポイントメントではなくて,こういう形でやっていきましょうと。逆に,企業とのクロスアポイントメント,特に理系の場合は,教育ではなくて研究だと思うんですよね。そうすると,修士論文や博士論文の指導というのを当然基幹教員として位置づけていくということが当然あり得ると思うんですよね。だから,なぜ大学院はせずに学部はするというところはちょっと,今の御説明,2回目を聞いてもストンと入ってこないんですよね。
大学院は当然,特に博士課程は研究ですから,教育と研究のところ,両方で基幹教員の制度をしていくということでないと,特に企業とのクロスアポイントメントというのは,研究の部分が多いと思いますから,ということを考えた場合に,どちらもありなんじゃないかなと思ったわけですね。

【湊部会長】ありがとうございます。今の論点で,ほかの委員の方々からもし追加的な御発言があればお伺いしますが,いかがでしょうか。
基幹教員というもののファンクションを非常に狭義に捉えるのかどうかということかもしれませんけれども,少しここは,さらに……。

【村田副部会長】須賀委員から手が挙がっています。

【湊部会長】ごめんなさい。須賀委員,お願いします。

【須賀委員】私も同じところです。クロスアポイントメントのような仕組みが基幹教員というものをつくるための非常に重要な契機になっているんだとすると,クロスアポイントメントが今どこで使われているかが問題ですが,学部ではなくて大学院だと思うんですね。大学院の中ではとりわけ研究のほうに重きを置いてやっている。要するに,大学の中で,今,大学で不足している部分を他の機関から参加いただいて,個別の研究指導を深めていくという形が,大学院のクロスアポイントメントだと思います。だとすると,クロスアポイントメントから出発するのはむしろ大学院のほうであって,学部でクロスアポイントメントから教育課程に責任を持つ人として基幹教員とすると,その辺で最初からちぐはぐなところがあったような気がいたします。少し整理して,クロスアポイントメントという仕組みとは全く違ったものとして,基幹教員をつくるんだったら,それはそれなりに意味があるかなという気がいたします。
ただ,科目数をこれだけ持ってもらい,それで教育を中心としてやっていく方ということであると分かりやすい。それは恐らく自分の大学で足りない科目が非常に重要な科目であって,それを重要な基幹科目として位置づけるためには,ほかからサポートが必要というような形であれば,基幹教員という仕組みは,当然,学部の基幹教員なら分かるような気がするんですけども,普通に言うクロスアポイントメント教員とはかなり異なるという気がいたしました。そのような言葉の上での違いも分かりにくさを反映しているのかなという気がしております。
以上です。

【湊部会長】そうですね。今,御指摘のように,ディフィニションのところをもう少し明確にしていくことによって,大学院レベルで,もしこういうものを置くとすれば,明示的な定義づけというか,説明が必要なのかなという気がします。大学院の場合,特に博士課程になると,やはり個別の指導教員(メンター)というファンクションが前面に出てきますよね。その辺との兼ね合いのところが少し分かりにくいのかなという気が確かにいたしますけれども,ここは大学における基幹教員と全く同等の意味合いなのかどうかということも含めて,大学院における基幹教員というものについてもう少し検討を深めた上で,どうするかを検討していただくということでよろしいでしょうかね。
村田委員,どうですかね。

【村田副部会長】よろしくお願いいたします。

【湊部会長】了解いたしました。では,ここはもう少し検討させていただくということで引き取らせていただきたいと思います。
これ以外の論点で,もし御意見等ございましたら伺いますが,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
ありがとうございます。それでは,今ほど御指摘いただいた2点について,事務局を含めて,検討させていただきたいと思います。ありがとうございました。
それでは,続きまして,議題2に移りたいと思います。議題2は,総合知の基本的考え方及び戦略的に推進する方策,その中間取りまとめの報告についてということで,これにつきましては,内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局で,本年の3月ですかね。取りまとめをいただいたものであります。これは,人文科学・社会科学系の研究や教育の目指すところとかなり重なるところもある重要な内容であると思いますので,今回,これについて少し委員の皆様に御紹介をさせていただきたいと思います。そのために,今日は,内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局から,統合戦略担当の佐野ディレクターに御説明をいただけるという案配になっております。
佐野さん,よろしいでしょうか。

【佐野ディレクター】よろしくお願いいたします。御紹介ありがとうございました。改めまして,内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の佐野と申します。統合戦略という基本計画を策定しているグループについております。もともと私は環境エネルギー担当だったのですが,環境エネルギーが分かるなら総合知も分かるのではないかと仕事を割り振られまして,最近は専らこちらの総合知のほうの検討をさせていただいております。
今日は貴重な時間をいただきありがとうございます。15分ほどで説明させていただきます。よろしくお願いします。
本日の資料は,昨年度,約1年間かけまして,総合科学技術・イノベーション会議,有識者議員懇談会において議論を深め,取りまとめたものです。その過程では,様々な自然科学系,人文・社会科学系の先生方からも御意見いただき,今日参加されていらっしゃる高橋先生などにもインタビューを行いまして,そして,1年かけて取りまとめたものです。
配付させていただいた資料は,ポイントという資料と,ちょっと分厚い本文の資料と2つ作成しました。これらで構成されております。
まずは本文の4ページから説明させていただきます。分量が多いので,かなりかいつまんで説明させていただきます。
4ページですが,総合知の議論の出発点は,科学技術・イノベーション基本法のあらゆる分野の科学技術に関する知見を総合的に活用し,様々な課題に対応すると,こういう文章がありましたので,ここが出発点になっております。そして,それを受けまして,第6期科学技術・イノベーション基本計画では,総合知に関して,基本的な考え方や戦略的に推進する方策について,令和3年度中に取りまとめるということとなっており,昨年度中に取りまとめに至ったものです。
また,基本計画の2章のところでは,人文・社会科学や総合知に関連する指標について令和4年度までに検討を行い,令和5年度以降,モニタリングを実施することということが書いてあります。よって,現在はこの指標の検討を開始したところでありますが,これが非常に難しいものでありまして,皆様からも意見をいただければ大変ありがたいと考えております。
この取りまとめにおきまして,私たちが考えたことの一つが「総合知」という,たった3文字の中に様々な意味が含まれている可能性,また,様々な意味を含めることができる可能性がある。そういう3文字であるということです。そして,その3文字に対応する概念を,1年間でたった一発でつくるということは相当困難であろうということです。
そこで,本文3ページ,「はじめに」のところの下に黒字で書いておりますが,まずは何でも全てを考えるのではなくて, CSTIですから,科学技術・イノベーションを推進する視点で総合知というものをまずは考えてみよう。そして,一旦,中間取りまとめとして整理しまして,その後,社会に広く,様々な方にこの総合知を紹介して,意見をいただき,そして,よいものに改良していこうと,そういう方針で進めていくこととなりました。
こういう背景でつくったものですので,本日お配りした資料が最終的な完成品とは考えないでいただいて,様々な角度から御意見をいただければ大変ありがたいと考えております。
ここからはしばらく,ポイントの2枚の紙で説明させていただきます。まず表側から説明いたします。
今,なぜ「総合知」が必要なのかという部分ですが,世界の研究や技術開発の目的の軸足が,「持続可能性と強靱性」,「国民の安全と安心の確保」といったものに加えて,「一人ひとりが多様な幸せ(Well-being)を実現できる社会」に移りつつあると考えております。これらの課題は,一つをとっても非常に複雑な問題で,専門知一つで解決できるものでは決してないと考えました。
ですので,これらの一つの課題に対しても,様々な専門知を持ち寄り,解決していく。そういった仕組みをもっと日本の中で充実していく必要があるのではないかと考えました。そして,そこに書いてありますが,我が国の科学技術やイノベーションが,世界と伍していくためには,「あらゆる分野の知見を総合的に活用して社会の諸課題への的確な対応を図る」ことが不可欠というメッセージでまとめることになりました。
その右にイラストで,手に埋め込まれたマイクロチップとかロボット,それから,高齢化社会というイメージを描いてありますが,研究が人間に近づき,そして,人生に近づき,技術と幸せの関係を考えていくときに,自然科学の力だけでは到底できないだろう。このときに人文・社会科学の力をかりてやるとかそういう発想ではなくて,もう全ての科学技術,全ての知恵を動員して,これらの諸課題を解決していくべきではないかということをメッセージとして出していこうということになりました。
総合知の考え方というのを中央に示しております。様々な議論の末にこの形に落ち着いております。「多様な『知』が集い,新たな価値を創出する『知の活力』を生むこと」と整理しております。ここでは,多様な「知」が集うとは,属する組織の「矩」を超え,専門領域の枠にとらわれない多様な「知」が集うこと。そして,新たな価値を創出するとは,安全・安心の確保やウエルビーイングの最大化に向けた未来像を描き,そして,描くだけでなく,科学技術・イノベーション成果の社会実装に向けた具体的な手段も見いだし,社会の変革をもたらすこと。そのための「知の活力」を生むこと,また,生む過程,生む手段,そういったことをひっくるめて,「総合知」とするのがよいのではないかと議論が行われました。
そして,創造知の説明があまりに抽象的で分かりにくいとよく言われたものですので,もう少し活用イメージ,どんなことをやったらいいのかというのを書いたものが左下の総合知の活用イメージの部分になります。こちらの説明をしますと,複雑な課題,毛糸がこんがらがったような絵が書いてありますが,複雑な課題になると,それぞれの課題が相互に絡まり合って,なかなかほどきにくい,こんなこともあるかと思います。こういった複雑な課題に対し,まず,1,属する組織の「矩」を超え,専門領域の枠にとらわれない多様な「知」を持ち寄る。そして,2,複雑な課題を基にしてビジョンを形成する。3,それをバックキャストとして課題を整理する。これは1回で課題が整理されないのであれば,何度もビジョンの作成,バックキャスト,課題の整理,これを繰り返すことによって,より整理されて分かりやすい課題にしていく。こういう過程も非常に大事であろうという議論がなされました。
うまく整理できましたら,その課題を専門知を連携しつつ解決し,そして,目指す未来を実現していく。こういう流れが総合知の活用のイメージではないだろうかとして描いております。
このような総合知の活用により,新たな価値を創出できたり,それが科学技術・イノベーションの社会実装を推進したり,また,持続可能性や一人一人の多様な幸せ,ウエルビーイングに真正面から向き合うことになるのではないかということを書いております。これらが最終的に一番右下の科学技術・イノベーションを我が国の「勝ち筋」の源泉にというところでまとめております。「勝ち筋」といいますと,少しどぎついという御意見もいただくことがあるのですが,勝つ,負けるというよりは,科学技術によって日本が世界の確保たる位置をキープしていく,そんなイメージを持っていただいたほうが近いかなと考えております。
その上に,少し小さめの字で下線をつけて書いてありますが,総合知の活用というのは,それを目的にしたいわけではなくて,新たな価値の創造や課題解決による社会変革を推進していくための,あくまでも手段であるというところを常に念頭に置いて,整理を行いました。
これで,次,裏面に行っていただきまして,裏面には,「総合知」の戦略的な推進方策というものをまとめてあります。
左上のところから行きますが,総合知の社会への浸透を踏まえて,段階的に方策を推進していくのはよいのではないかとしています。といいますのは,総合知,今回,中間取りまとめを行いましたが,社会に浸透しているわけでもありませんし,コンセンサスが得られているわけでもありません。そして,もっとよい,総合知の表現があるかもしれません。だから,こういったところはどんどん皆様の意見を取り入れて考えながら,そして,推進方策もだんだんと書き加えて,よいものにしていこう。そういう考え方となっております。
まずやることは,丸の1つ目,総合知の活用事例とともに,基本的考え方を社会に発信していくこと。2つ目に,総合知を活用する場の増加を促進すること。それから,その場を通じて人材を育成し,また,人材活用につながる評価手法を構築していくこと。人材の登用により,社会の幅広い領域でさらなる場が生まれて,それが循環していくこと。こういったことがなされるのが推進方策として重要な観点ではないかと考えております。
ただ,内閣府でできることは非常に限られておりますので,分厚い本文におきましても,それほど推進方策がしっかり書き込まれているわけではございません。この下に線表で書いてありますが,これに議論を書き加えた程度のものになっております。この線表の左に,問い,「場」の構築,人材育成,人材登用,この4つを軸として置き,これらの推進が重要であろうというところにまず落ち着きました。特にその中でも最初にできることは,「場」の構築だろうと。内閣府では,ムーンショットや次期SIPといった総合知を活用できる場所があります。そこで,こんなふうな制度の設計をすることによって,総合知はこんなふうに活用されて,そして,こんな成果が出たと。そういうところをしっかりとモニタリングして,それを社会に周知する。大それたことは決してありませんが,まず第一歩としては非常に重要なことだと考えています。
社会へ情報発信するために,本年度,総合知キャラバンと称しまして,日本各地で,総合知のこちらからの情報発信だけではなくて,議論する場をつくっていきたいと考えています。実際にやっていきます。また,総合知のポータルサイトなどをつくって,ここでも,できるだけインタラクティブな情報交換をしていきたいと考えております。
このようなことをした上で,徐々に社会に浸透し,右側に,10年後と書いて,赤い囲みに入れてありますが,「我が国の科学技術やイノベーションに携わる人材は,人文社会・自然科学/アカデミア・産業界を問わず誰もが意識せず『総合知』を活用する社会に」と,こういうところが最終的な目標,目指すところではないかなと考えております。
この過程では,総合知だけ考えるのではなくて,下,3分の1ぐらいに,相乗効果の期待される施策として書いてありますが,地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ,スタートアップ・エコシステム支援,こういったものもみんな関係してくると考えております。
推進方策がぼんやりしているという指摘もあったので,右上のところに,その他の留意点という記述を用意しました。総合知を推進するからといって,専門知をおろそかにしていいというものではないです。あくまでも専門知が束ねられて,総合知としてよいものとなっていくわけなので,専門知をおろそかにしてよいわけでは決してございません。
それから,表層的な文理融合にしないということも書いております。例えば,人文・社会科学の先生を1人,プロジェクトに入れたから,これは総合知だよねとか,そんなふうには決してならないように,やはり手段が目的化しないというところをきちんと認識して進めていきたいと考えています。そんな感じで,その他の留意点というところでは,周りから何となく方向性を示すようなことを書いてあります。
推進方策の中に,人材登用(評価)という部分があります。総合知に関するインタビューを多くの先生に対して行いましたが,人材評価が非常に重要だという意見をしばしばいただきました。現状では,社会実装や地域への取組といった,総合知が活用できるだろうという取組がなかなか大学の研究者の評価にならないという御意見がありました。
既にそういうところに取り組んでいる大学もあると,うれしい話も聞いた反面で,なかなかそれで全国的に広がっているものではないと,そんな感じの意見をいただきました。こうした問題に対する明確な回答は今ないので,この総合知の取りまとめ本文でも重要性を指摘したにとどまるのですが,今後,十分検討していく必要があると考えております。
ここで一つ,お礼を申し上げたいと考えております。本文の28ページになるのですが,戦略的な推進方策(関連施策例)と書いてあるのですが,各省庁に問い合わせまして,こういう施策も総合知的だよねとか,これが進むと総合知が社会にもっと理解してもらえるよねとか,そういった感じの総合知に関連した施策というものを挙げていただき,登録をいたしました。文科省様からも9件,施策を登録していただきました。御協力ありがとうございました。
それから,ちょっと進みまして,32ページから先に,総合知の活用事例というものをまとめてあります。総合知はとても抽象的で,初めて説明した人には何が何だかよく分からんなと言われることがありましたし,今後もそういうことはよくあると思いますので,活用事例集というものを力を入れてつくりました。
こちらは2枚で1組になっていまして,1枚目に,プロジェクトの背景と,それから,課題の整理をいたしまして,2枚目に,それに対して,どういうチームをつくって,どう実現していったか。実現していこうとしているかということを書いていただいて,2枚セットで,5件ぐらい事例を載せてあります。少しずつ毛色の違うものが載せてありまして,ああ,こんなのも総合知なんだ,あんなのも総合知なんだと,いろいろ考えていただけたらいいなと考えて作成いたしました。
私からの概要の説明は以上となります。御清聴いただきありがとうございました。御意見いろいろいただけると非常にありがたく存じます。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】佐野さん,どうもありがとうございました。
それでは,全体として,かなり茫漠とした話になりますが,ただいまの御説明を伺った上で,委員の先生方から,何でも結構です。ポイントあるいは問題点,あるいはどう考えるか等々につきまして,ここはもう御自由に御意見いただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
それでは,まず加納委員からお願いできますか。

【加納委員】ありがとうございます。加納でございます。今回御紹介いただいた総合知という言葉ですけども,従来,人文・社会学の知見の活用とか文理融合といった非常に曖昧な手続的な表現であったものが,恐らくこの総合知という言葉の定義をすることで,目的を定義するというイメージに変わってくるかなと思いました。
ただ,この総合知は,今回のお話もあったんですけども,恐らくサイエンステクノロジーのタイプですね。例えばムーンショットだとかSIPのような社会実装を目的としたものから,実は脳機能のメカニズムの探求といったような,探索型の研究という非常に幅広い領域に研究のタイプが存在すると思います。こういったいろいろなタイプ別に総合知の定義というのも大きく変わってくると思います。
こういった中から,今回の22年,それから,23年にかけて,あらゆる研究の中で,では,総合知といったものがどういうものかといったことをこれからピックアップして,ノミネートしていくということが今後重要かなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。随分手が挙がってまいりました。では,順次お願いしたいと思います。
まず堀切川委員,お願いできますか。

【堀切川委員】堀切川です。御説明ありがとうございました。総合知というなかなか面白い言葉をつくられたなと思いましたが,半分分かって,半分まだ体にしみ込んでいない部分もあります。ただ,目標とする社会が多様なニーズに応えるというか,ウエルビーイングを実現できる社会とおっしゃっておられた,いろんなニーズに応えていく物づくりというか,実現していくというのは賛成なので,方向性としては大賛成であります。
全く個人的な意見ですが,昭和は大量生産の時代で,みんなが同じ車とか家電を持つ,共通の同じものを持つことで平等を目指すみたいな雰囲気があったと思うんですけれど,これが平成に入って,多品種少量という言葉のものになってきて,幅が広がっていったとしたら,個人的には令和は超多品種微量の時代になると思っています。そういう意味で,社会ニーズが極めて多様化するので,そういう多様なニーズに応えるために,一つの専門力だけじゃなくて,いろんな専門知を集めて頑張りましょうというのが総合知ということなのかなと自分なりに理解しました。
その部分については,全然反論はないんですけれど,知と知が一緒に融合すると,すぐ社会実装までつながるイノベーションを起こすというのはあまりにも短絡的な感覚です。実現させるにはまたそこに力が必要で,多様なニーズを知っている人とどう出会うか,物づくりでいくと,それを実現するための作戦をどう担うのか。それも大量生産の時代ではないので,極めて少量だけど,クオリティーの高いものをどうつくっていくかとなると,社会実装力とか実現力という言葉と総合知がつながらないと,真の意味での新しいイノベーションが実現していく社会にはつながらないと思っています。
総合知という言葉で不足しているところがあるとすれば,実現させる力を持つ人材とどう出会わせるかというところがないといけなくて,そのまた前提は,多様な社会ニーズをどう把握するかという,その力がないと駄目だなと思っています。私は今までいろんな商品をいっぱい作って開発してきたんですけれど,出会っている人は全部専門性も違うし,実は知という言葉のくくりの外にいる人たち,あるいは,それを享受される,ニーズを受け取る側の一般社会の人たちの意見が極めて大事だったと思っているので,そういうところとの出会いと連携のシステムをつくるような形で総合知という発想を進めていただければありがたいなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございました。
それでは,小長谷委員,お願いできますか。

【小長谷委員】御説明ありがとうございました。総合知を組立てていくときに,場の構築がまず何よりも大事で,人材育成も人材登用も場なくしてはできないわけです。この場について,ムーンショットという事例だと,多くの人がそこには関わらないので,何かレッスンの場というようなものをもう少し具体的に設定しておいたほうがいいと思われました。
ちなみに,キャラバンとしてラクダが描かれていますが,ラクダは,鼻づらが合うと勝とうと思って走るんですが,あまり突出過ぎると,後ろから来るラクダを待つんです。砂漠という厳しい環境を渡るために,1人で渡ると危険だから,縦につながって渡っていく技があります。
全員がリーダーではなくて,フォロワーも含めて人材を育てるように,もう少し場を増やしていただければありがたいなと思いました。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,長谷川委員からお願いします。

【長谷川委員】総合知という呼び方をすると,専門知とか暗黙知という知のカテゴリーの一つのように聞こえるんだけれど,そうではなくて, 専門の異なるいろいろな人々が集まって議論を多角的に行っていく中から, そうではない場合とは違うものが見えてくるという, 問題解決のアプローチをさしているように思いました。それはここにあるように,ある目標が共有されている中で,それを理解して,実現していくためには,どうするかというと,従来のように,一つの分野の人がその分野のやり方に従ってやるというだけではなくて,いろんな異なる視点を持った人が一つの場で論じ合って,それで多角的に問題を検討した結果,こういうことにも気をつけなきゃいけない,ああいうマイナスもあるということを総合して,一つの問題解決に至ろうという,そういう連携の仕方とか,組織の在り方を言っているのではないかと。そこから生まれてくるものは,従来の一つの分野から,ある研究者がやりたくてやったことから生まれてきたものとは違うものができるんだろうという,そういうことだと思います。
日本の社会の在り方はすごく縦割りなので,それを変えて,横串を通して,みんなで議論してという姿勢にしましょうということではないですかというのが私の理解でした。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,佐久間委員,お願いします。

【佐久間委員】御説明ありがとうございました。文系の立場からすると,御説明の途中にありましたが,人文科学・社会科学系が加わりさえすればよいというのではないんだと。また,表層的な文理融合ではいけないんだという,そこら辺は非常に重要なところだと思います。ただ,現状はどうかというと,私の周囲の方の御意見を聞いても,何か文系はいいように利用されているんじゃないかみたいなそういう気分が強いのは事実です。ただ,そういう現状に文句があるなら,人文科学・社会科学系だって,もうちょっと,じゃあ,どうするんだという発信をしていかないといけないと思います。そこの資料の中の推進に向けた取組の中には,人文科学・社会科学系主体でやるものも幾つか挙がっておりますので,そこら辺もちゃんと取り組みをやっていく必要があるのではないかなと思いました。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,村田委員,お願いします。

【村田副部会長】ありがとうございます。何人かがおっしゃったこととダブるかもしれませんが,三十数年前だと思うんですが,世界で,知のホーリズムというのがはやったと思うんですね。それは知の分類が細分化されてきたのではなくて,全体を見渡していきましょうというホーリズム。まさにこの総合知だと思うんですが,結局そのときにうまくいかなかったのは,専門知がちゃんとないと,総合知というのが出てこないんだと思うんですね。先ほど長谷川委員がおっしゃったように,むしろ人材育成のところで,専門知を複数持つダブルメジャーのような形で,専門知を2つ以上の分野で持っていく人を育てていかないと,全く違う専門を持っている,専門知を持っている人が議論できなくなっちゃうんですよね。相手の専門知の議論がある程度分かっていないと議論ができないわけですから,そういった人材を生み出すことこそが,総合知につながっていくんだろうと思います。基本はやっぱり専門知であって,そのときにダブルメジャーのように2つの専門を持っているという人材を育てることが極めて重要なこと。それと,最終的に総合知といったときに,ホーリズムがうまくいかなかったのは基本的な哲学だと思うんですね。
どの価値観でどの哲学の下に総合知を,いわゆる総合的に知識を統一していく,統合していくかという哲学の重要性だと思うんですね。ここにまさに人文科学という哲学の役割,ある意味,万学の王と言われているかもしれませんが,そこに哲学の役割があるんだと思いますから,そういうこともう一度しっかりと議論していただければ,単に文理融合ではなくて,哲学の問題とダブルメジャーの問題,人材育成はそこが重要かなと私は感じました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,濱中委員,お願いいたします。

【濱中委員】ありがとうございました。大学院部会の委員としては,村田先生がおっしゃったように,総合知と専門知とをどう育成していくのか,専門を学ぶ学生にどのタイミングで総合知と出会わせるのかという点を意識すべきだ等と思いながら聞いておりました。
1点指摘させてください。資料2の本文で言うと14ページ,ポイントの資料2-1でいうと,1枚目の左下のところの総合知の活用イメージのところなんですけれども,「属する組織の『矩』を超え,専門領域の枠にとらわれない多様な『知』を持ち寄る」から,「目指す未来の実現」まで,1,2,3,4,5とあるんですけれども,私のこれまでの経験でお話しさせていただくと,一番左にある「複雑な課題」のところこそが,総合知が実は必要なところなのではないかなという気がします。というのは,これだけ複雑な社会事象の中で,何かを変えていかなければならない,作り出さなければならないという課題が抽出される,その抽出の仕方,何を課題として捉えるのかというところこそ,総合知を発揮しなければならないところだと思われるからです。ある領域の人にはこれが課題だと見えていても,ほかの領域の人たちからすれば,また別の姿で見えてきたり,それを課題とすることによって,別の課題が出てきてしまうだったり,まずはここのところに総合知を発揮すべきではないか。ここのところを整理しないまま,何かいろいろ議論が進むと,結局また振出しに戻るというようなところもあるかと思います。最初が肝心であり,そこにも総合知が必要だともいえるのではないでしょうか。この「複雑な課題」の部分にも何か番号を振るような,何かそういうことをしていただけたらいいかなということを思いました。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,小西委員ですかね。小西委員,お願いできますか。

【小西委員】総合知という言葉は10年以上前から耳にはしていたのですが,何となく分かっていて,何となく分からないという状況でしたので,今日のお話を聞いて少し明確になったなと思っています。ありがとうございます。
「はじめに」の3ページのところに「中間取りまとめの位置づけ」というところがございますが,2段落目のところに,「我が国は,気候変動などの地球規模課題への対応や,レジリエントで安全・安⼼な社会の構築などの問題」,こういう諸問題があって,そして,科学技術・イノベーション政策が必要なんだ,そこに総合知が必要なんだということが書かれております。
私の質問は,ここにはマネジメントの視点がどこにもないのですが,どうなんでしょうかということです。といいますのが,私がこのレジリエント等々を聞いたのが,俗に言うダボス会議で,10年ほど前にグローバルリスク報告書を公表していて,ここに書かれていることはグローバルリスクについてです。これをどう企業経営の中に織り込んで,企業経営を変えていくかということで,私はこのレジリエント,これは回復力とか弾力性と訳していましたが,もちろん強靱性でも結構なのですが,この言葉を知った次第です。
そこでリスクマネジメントの徹底が必要だろうとか,ステークホルダー経営が必要だろうということを私なりに整理をしてきたのですが,ここでは科学技術・イノベーション政策のことを話していると言えばそれまでですが,マネジメントの視点を加えることによって,どういう人材育成が必要なのかということが深く関わってくると思っているのですが,議論しなくていいのかな,という感想程度ですが,そう思ったと次第でございます。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,まだ多くの挙手をいただいていますので,先へ進ませていただきます。
高橋委員,お願いできますか。

【高橋委員】ありがとうございます。では,コンパクトに質問が1点とコメント1点です。まず質問のほうなんですけれども,長谷川委員がコメントなさったことと関係すると思うんですけれども,この総合知の定義関係です。資料2-1には,「多様な『知』が集い,新たな価値を創出する『知の活力』を生むこと」ということで,状態を示す名詞に読めます。ただ,一方で,いろいろな資料の中には,いわゆる知識のカテゴリーの一つとも読める部分がかなりあります。文章を読みますと,状態のほうで書いてあるような感じがするんですけども,これはもし御議論があったなら,趣旨というか,背景を教えていただければというのが,恐らく理解が一つのポイントかと思います。これが質問です。
コメントなんですけれども,状態なのか,知識の一つの単位なのかということによって変わってくるかと思うんですが,最終的には,これは総合科技会のペーパーであるということも含めると,知の活用自体がもう,知識自体が目的じゃなくて,ウエルビーイング等の課題解決のための手段ですと書いてあります。そうすると,資料2-1の2枚物が若干,勝ち組を見いだす方策とか,最後のR&Dの,いわゆるお金に結びつくような方策に取られかねません。とりわけ資料2-1のページ1の右下,細かいんですけれども,勝ち組がやっぱりゴールに見えます。ここら辺はやはり概念の整理というか,目的と手段はどっちなんだという辺りは,これはきちんと統一するべきかなと気になりました。コメントです。
ということで,質問のほう,状態なのか,それとも,いわゆる知識の単位が名詞なのかというところについて議論があったのであれば教えてください。
以上です。

【湊部会長】佐野さん,この辺はどうですかね。今,お答えいただけますか。

【佐野ディレクター】ものすごく議論がありました。そして,まず,これは知なのかと。静的な知というもので止めるべきなのか。それとももうちょっと幅広いものとしたほうがいいのかという辺りから始まりまして,最終的には,動的な意味を持たせたい,ダイナミズムを持たせたいという意見が多くありました。ですので,最終的に,「総合知は何々な知である」では終わらずに,「知を生む」こととしました。知を生むアプローチとか,知を生むプロセスとかそういった意見もあったのですが,そこは逆に皆さんに考えていただくのもよいのではないか。
もうこれだというのではなくて,総合知はこう考えたらもっといいんじゃない? とか,そういうところをちょっと余地を残すことによって,より深く,よいものを皆さんで考えていただきたい。そういうちょっと余地を残してあります。ただ,あなたたちはどう考えたんだと問われれば,動きのあるものにしたかったというのが一番の回答になるかと思います。
先生,回答になっていますでしょうか。

【高橋委員】ありがとうございました。むしろそこの部分を脚注に入れていただいたほうが理解が進むかと思いました。
以上です。

【佐野ディレクター】ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,次に行きます。宮浦委員,お願いできますか。

【宮浦委員】ありがとうございます。今,コメントにあったんですけれども,概要のところの「活用のイメージ」というのがあまりにも漠然としていて,どういうイメージを持っているかよく分からないという発信になってしまっている可能性があるので,それは再考する余地があるんじゃないかと思います。
第2点目は,人材育成についてなんですけれども,大学院部会として考えると,その場合は幾つかあると思うんですけれども,そういう総合知に通じる人材を育成する手段というのがいま一つ,どこで人材育成するかよく分からないという状態になっていると思います。
大学院は,総合知は重要と言いながらも,研究科が文系,理系それぞれあって,専門知を中心に論文を書く人材育成が進められている中で,なかなか具体化しにくい,人材育成の場が具体化しにくいので,総合知研究科をつくるぐらいの気持ちで取り組まないと,なかなか大学院として総合知の育成というのは結構難しいのかなと思います。
その辺り,単なる文理融合ではなく,総合知を根幹的に理解できる人間をつくる研究科をつくるぐらいの気持ちがないと,人材育成はうまくいかないんじゃないかなという気がいたします。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,神成委員,手が挙がっていますか。お願いします。

【神成委員】私の聞いた印象としましては,何か新しいパラダイムシフト的な提案をなさっていることになっているのかな,というところが,あまりぴんときません。何で今さらこういうことで旗振りが必要なのかなというのが,ぴんとこないです。というのも,文部科学省の過去の施策で,本日の資料の関連施策例の中に実は入っていないんですが,11年前からリーディング大学院プログラムというのが始まりまして,特にオールラウンド型のリーディング大学院というのは,まさに,言葉は違いますけども,総合知を持ったリーダーを育成するために,俯瞰力を持った,そして,発信力を持った,総合的なリーダーを育成しようという目的で11年ぐらい前からもうやっているわけです。私がコーディネートしてきましたプログラムは,文系と理系の修士号を2つ取って,専門性を高めた上で,そして,産業界の方々をも巻き込んで,総合的視点から社会問題解決のための政策提言をしていこうという教育を文科省のプロジェクトの中でずっとやってきています。どうして今さらこれを大きなパラダイムシフトのようにして旗振りしなくちゃいけないのかなというのが少し疑問に思いました。
ただ,大学院部会でありますので,こういった総合知をもった人材育成を目標にしていかなる人材育成のプログラムをつくるかということを継続的に議論することは重要です。リーディング大学院プログラムの成果もありますし,こういう学生を育てるために,総合的な文系理系の垣根を取っ払った一つの大きな大学院の博士課程という中で,クラスター的に専門性がくっつき合って教育研究をしていくような,そういう新しい教育の仕方というのを考えるためのいいきっかけにはなるとは思います。
また,総合知ということを考えていくと,一段高いレベルのリベラルアーツ教育を大学院の中でしっかりやるということも重要だと思います。先ほど哲学という話がありましたが,まさにそういうところをきちんと修了単位として教育に組み込んでいくのか,あるいはプラスアルファとしてアドオン的に行うのか,あるいはそれ専門の「総合知」博士課程をつくっていくのかは,いろいろ考え方があるかと思いますけども,大学院改革の中にそういうものを盛り込んでいかないと,仮に「総合知」がパラダイムシフトとしての効果がある言葉だとしても,言葉だけ独り歩きしてあまり成果は出てこないのではないかと感じました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
一通り,委員の御意見出そろいましたか。まだ,どうしてもこれは言っておきたいということがあれば伺いますが,よろしゅうございますか。
もしよろしければ,私から一つだけ。質問か,コメントか分かりませんけれども,ポイントの二枚物の1ページ目のところに活用イメージという図があって,その右に,総合知の活用は云々とあって,2つのことが書いてあるんですね。1つは,「新たな価値を創出」するということ。それからもう1つ,「持続可能性や一人ひとりの多様な幸せに真正面から向き合う」という2つのことが書いてあるんですが,これはかなり違う局面を実は含んでいるような気がします。
最初のものは,どちらかといえば,科学技術の諸要素が本当の意味でイノベーションになるかという点について,やはりそこに全く別の異なった要素,新たな要素との結合が起こると,科学技術的な要素が飛躍的に伸びて場合によってはイノベーションに繋がり得るということで,固有の科学技術の諸要素以外の要素,例えば人文科学・社会科学系などの,社会の色々なものに対する新しい考え方がどこかで一緒になったときに,科学技術の大きなイノベーションとして飛躍することができるというようなイメージとして捉えられる。
だから,ここでは人文科学・社会科学の考え方が,何というか,イノベーションのドライバーの一つとして位置づけられる,という意味のことが書いてあるんでしょう。他方,一つ下のほうのサステナビリティ云々というのは,最近,ポストノーマルサイエンスなどで言われているように,課題がこの毛糸のグルグル巻きのように非常に複雑で,いわゆる科学技術のベーシックな要素だけでは多分答えがない。最適解が見つからないということになりかねない。そういったところに新たな考え方や価値を導入して,最終的な意思決定をするとなると,特にウエルビーイングというようなことになると,客観的に自明の目標というのはないわけですから,どれがいいかというのをみんなで議論して決めていくというプロセスが入ってくる。そういうところで,例えば人文・社会科学的な要素が非常に重要な要素を占めていくべきであるということなのか。そういうことであれば,総合知というのは,これは単に社会変革の一つの手段ですということよりは,それはむしろディシジョン・メイキングの主要な要素の一つになってくるということであると思うのです。そう考えると,依然として,この総合知ということの中に,今多くの委員の方々が色々な立場でおっしゃったけれども,様々な要素が混ぜ合わさってきていて,全体としてどう受け取る側の考え方に依存した形になるのかなと。これはこれ以上,定義できないといえばできないでしょうけれども,でも,当面これが科学関係の方針として出されるのであれば,どういう局面を,少なくとも今は総合知の意味として,国が重要視しているのかということをかなり明確に出していただかないと,また一般的な総合知議論に終わってしまって,色々な面がありますね,というふうになりかねないなという気もしました。
ですから,これは本当に難しい課題ですし,当然,人文科学・社会科学が社会で重要な役割を果たすのは間違いないことでありますから,今回,これに係る大学院教育の議論の上で,やはりこの総合知というものの政府の考え方をどういうふうに意識して,我々の大学院改革の方策をまとめていくかというのは重要だと思っています。
自分でも何を言っているか,あまりよく分かりませんけれども,そういうところで,まとめにもなっていませんが,いずれにしろ,問題提起としては分かりやすい提示をいただいていますので,そういったものを批判的に我々も考えながら,人文科学・社会科学系の大学院というものの在り方について,ぜひ参考にさせていただきたいと思います。
時間もそろそろですが,よろしいでしょうか。
特に追加的な御発言もないようでございますので,それでは,議題2はこれで取りあえず終了いたします。佐野さん,本日はどうもありがとうございました。

【佐野ディレクター】こちらこそ,貴重な御意見ありがとうございました。

【湊部会長】はい。それでは,次の3つ目の議題になります。これも少し時間のかかる事項ですけれども,これは本来の人文科学・社会科学系の大学院教育に関する方向性のこれまでの私たちの議論の中間取りまとめの,さらに案ということになりますが,それについて再度,西室長から簡単に御説明をいただければと思います。よろしくお願いします。

【西大学改革推進室長】お手元の資料3をお願いいたします。「人文科学・社会科学系における大学院教育改革の方向性 中間取りまとめ(案)~自主的な『問い』の尊重と教育課程として果たすべき責任の両立に向けて~」というサブタイトルをつけてございます。前回いろんな論点と方向性をお示しした際に,課題全体と目指すべき全体像を示すべきだということの御指摘ございましたので,まず全体像を御用意してございます。
1ページ目でございますが,1ページ目にあるのは課題の整理,今現状,こういう課題がありますよねというのが並んでおります。左上,研究室・ゼミ単位で見ますと,分野としてカバーしている領域の広さに反して,個別テーマの専門性が深く狭いですよねと。学生の研究テーマと教員の得意分野のミスマッチが起こっているということ。右側,円滑な学位授与に向けた教員の意識やマネジメント能力が不足している。十分な教育研究時間の確保に課題がある。学生にとっては標準修業年限の超過による生活の困難,経済的支援がなくなるということで,生活の困窮や精神的ストレスの増加というのが見られるということで,その下を御覧いただきますと,標準修業年限と実際の修業年限が大きく乖離しているという現状があります。
右上,では,それに対して,大学院・研究科というところは何をしているのかというところですが,課題だけ羅列しているので批判的になっていますけれども,教員の研究指導の評価・確認及び円滑な学位授与に向けた進捗管理が適切に行われていない。組織的な研究教育・キャリア支援体制の不備,産業界等のニーズ把握,修了者のキャリアパスの追跡・把握が行われていない。研究科の規模が小さく,学生の興味関心に沿った多面的な指導や研究室異動等が困難である。ゼミ等,異分野の学生との交流といった点についても幅広く議論する機会が少ないとか,キャリアパス,学外の文化に触れる機会が少ないので,食わず嫌いになっているということが指摘されておりました。
右側を見ていただきますと,大学,日本全体で俯瞰したときにも,各大学の中,かつ,研究科の中で小規模で分散的,閉塞的な研究室が各地に存在して,離れ小島状態ですと。組織の小ささとかフィットする国の施策が,今まで自然科学系ばかりで,国の予算もなかったということで,改革が進みづらかったのではないかといったことがありました。
民間企業へのキャリアパスというところですが,就職率が低いですよねと。2番目のチェックが,具体的なロールモデルが定着していない。3つ目,人口当たりの修士号・博士号取得者が極めて少ない。学生自身が非アカデミアのキャリアパスに目を向けておらず,視野の拡大が必要。修了者のキャリアパスについて,研究科の目標と実際との間に大きなギャップが存在していますということ。
大学教員等へのキャリアパスで見た場合に,標準修業年限を大きく超過しても大学教員として正規雇用されることに結びついていない。学位授与では教員採用に係る基準が不透明であって,予見性やキャリア選択の判断材料に乏しいということです。
右側を見ていただきますと,大学院進学率は非常に低くて,理学系や工学系のおよそ10分の1です。入学者充足率が低く,小規模の専攻や研究科が多数存在していまして,修士課程入学者の充足率は60%ということ。本来であればということで,矢印を引っ張っていますけども,人文科学・社会科学系大学院の果たすべき役割は大きい。しかし,進学の意欲ですとか人材育成機能に対しては多くの課題が指摘されていて,今こそ抜本的な改革が急務である。人文科学・社会科学の学問的・社会的意義を広く社会に示していく必要があるといったのが現状の課題の整理でございます。
次のページを御覧いただきますと,では,それをどうしていくのかといった全体像です。研究室・ゼミ単位で見ますと,個別具体的で明確な学生の問題意識や研究テーマに適合する教員からの指導を受けることができる,このマッチングの仕組みを構築しなければいけないということ。研究室異動の円滑化ですとか,専攻の大くくり化ですとか,研究指導委託をもっと活用するといったことによって学位取得を円滑化する。大学院研究科としても,一言で言えば質保証ということになってしまいますけれども,学位授与方針とか教育課程編成方針というのは,ディプロマポリシー,カリキュラムポリシーを定めておりますけれども,これが研究指導計画とマッチしているのかといったことをきちんと可視化していくといったことですとか,それをやったことによって実績として評価するということ。研究指導やマネジメント能力の高い教員に対するインセンティブでありますとか,学位授与にかかる教員の意識改革が必要である。あと,各研究科が定める標準修業年限とその実績をオープンにしていくことが必要だということでした。
学生の視野拡大と価値の社会的認知に向けて,大学院修了者の価値や社会的通用性の気づきを与える取組,例えば現代的な社会課題に挑んで,新たな価値創造を目指すような多方面参画型。例えば大学と企業と自治体が一緒になって,PBL教育に取り組むということもあるのではないかということです。
右側を見ていただきますと,大学院間連携を通じて,規模を大きくすることによってネットワーク型の教育研究体制・キャリア支援体制を構築していく。それができるように,国としても振興方策を実施していくということ。これを通じますと,左側,左下の民間企業のキャリアパスということで,修士課程においてはキャップストーンの学位プログラムの拡充ですとか,専門職大学院も含めたリカレント教育の振興ですとか,民間企業におけるロールモデルというものが今どういうものがあるかということを収集して,周知したり,大学にフィードバックしたり,そのことによって教育課程をまた検証していただいたりということの好循環が生まれるのではないかと思っております。
大学教員等へのキャリアパスということにつきましては,アカデミックポストへの予見可能性がないという話がありましたので,あらかじめ早期に選抜したり,見極めをすると。それに対して対価を伴ったプレFDを実施することですとか,海外経験を提供する。逆に言うと,これに選ばれなかった学生は,早めに違う方法を,進路を考えていかなければいけないということになってまいります。教員採用に関する基準,要件や必要な業績等の可視化をしていくということ。これによって輩出される人材像ということが右のほうにありますけども,課題発見力・問いの立て方,自らの好奇心に基づく主体的な探求力といった強みを生かした人材が輩出される。加えて,多様性・異分野の中で他者と共創し,広く伝える能力,課題を俯瞰し解決に導く力(データを利活用した検証・提案)ができるような資質能力を身につけるといったこと。
人文科学・社会科学の振興によって,新たなコンセプト,意味的価値を提案する生産性の向上,ウエルビーイングの向上,世界を先導する社会的価値観の創出,総合知によるイノベーションといったことが起こるのではないかということを,期待を込めて書いているものでございます。
これが全体の見取図でありまして,3ページ目からは目次と書いてありますけれども,各論についてずらっと並んでおります。
4ページ目,そもそもこの議論が何で始まったかというところが整理してありますが,説明は割愛させていただきます。
5ページ目,キャリアパスの俯瞰。全体としておさらいになりますけれども,右上の②進学率といったところですけども,人文科学・社会科学系では,学部から修士課程の進学率については,全分野平均10%なんですけれども,人文科学・社会科学系は人文で2%,社会科学系は4%でしたということ。修士から博士に関しては,全体,全分野平均は10%ですけど,人文系では16%と高くなっています。
左側,③の就職ですけれども,人文科学・社会科学分野の修士課程修了者の就職率,また,博士後期課程修了者の就職率はいずれも全分野と比べたら低いという結果が出ておりましたということのおさらいです。
6ページ目を御覧いただきますと,学生や教育研究の特徴についてということで,一言で申し上げると,なかなか苛酷な状況な割には,学生さん,みんな満足していますというデータをお示しして議論したと思いますけども,そういったことが書いてあります。
下の方向性で,改革の方向性を書いてありますけれども,学生の好奇心や自主的な問いを尊重する人文科学・社会科学分野の特徴は大学院教育の本来あるべき姿であり,この強みや長所を失わせない形でのキャリアパスの開拓等に資する改革を検討する必要があろうと。小規模な研究体制が閉鎖的関係性を解消し,より適切な指導・マネジメントを受けながら研究に専念できる環境を整備していくということが目標にあるということであります。
7ページ目,4播,標準修業年限の超過について。これは非常に大きな問題として掲げられておりましたけれども,現状の真ん中のところですけども,学生の研究テーマと教員の専門領域のミスマッチということによって,学生の学位取得の期間が大きく左右されるというデータがございました。その2つ下,学位論文執筆に向けた教員の意識やマネジメント能力が不足しているのではないかといった指摘。また,組織的な進捗管理やサポートが不足しているという指摘もございました。
これについて改革の方向性ですけれども,下段,オレンジの枠です。学生の問題意識や研究テーマに合った教員からの指導が受けることができるような仕組みの構築をしていくということ。2番目,標準修業年限と実績を公表すること。3番目,ディプロマポリシー,カリキュラムポリシーに準じた研究指導状況の可視化と実績を評価する。教員の意識改革が必要であるといったことです。
8ページ目,大学教員等へのキャリアパスについてということで,真ん中のところですけれども,大学教員等を目指す者にとって,博士後期課程の標準修業年限を大きく超過することは,安定した大学教員のポストを獲得することには必ずしも繋がっていないというデータがございました。
また,一番下,教員採用に係る基準も不透明であるため,アカデミアを志向する者にとっての予見性やキャリア選択の判断基準が乏しいといったことから,右側,改革の方向性にありますけども,アカデミックポストへの早期選抜,見極めをしていくということ。また,教員採用に関する基準や要件・必要な業績等の可視化,若手教員のポスト拡充が必要であるということの結論を得ております。
9ページ目,民間企業等へのキャリアパスについてということで,非常に厳しいですといったことが現状に書いてありまして,下のほうの改革の方向性です。1番目の矢印ですけれども,ロールモデルが定着していない現状にあっては,大学院修了者自身が,自分自身のスキルや経験がどのように社会や希望する企業や業界で生かされるのかということを説明できること。あるいは大学院修了者の価値の相互理解に向けた場を学内外で提供するような,そういった気づきの機会が必要ではないかと考えております。
2番目,真ん中ですけども,学生と社会の双方に,修士・博士人材の価値や社会的通用性の気づきを与える取組の推進といったことが必要ではないかということでございます。先ほど,一番初めの概括で説明しましたPBL教育ですとか,リカレント教育とか,あとはロールモデルを頑張って探してきて,それを紹介するというようなことです。
10ページ目,7番,大学院の組織的取組について。これはなかなか,こちらも手厳しい指摘等はございましたけれども,現状の上から2番目,修了者の進路について,研究科の目標と実績のギャップが大きい。修了者のキャリアパスが捕捉できていない。3つ目,分野を問わず,博士人材に関する産業界からのニーズを把握している大学ほど産業界への就職率が高い。ニーズを把握していない理由は,産業界へ就職したい学生が少ないからといった回答になっています。
中段下,学位授与方針・教育課程編成方針に準じた教育・研究指導の実施や進捗管理及びその可視化について,組織としての役割が十分に果たされていない。その下,教員の業績評価の実施率が低く,教育・研究,いずれの観点でも実施していない研究科が約半数に上るということ。これらを踏まえた改革の方向性としては,学生に対する組織的な就職支援や触発の場の提供,産業界のニーズを把握していくこと。2番目,3番目は再掲ですので,割愛させていただいて,研究指導やマネジメント能力の高い教員に対するインセンティブというのを大学院として組織として取り組んでいくべきではないかと考えております。
11ページ目,指導教員の意識等についてというところです。現状については,なかなか課題があるということが書いてありまして,説明は割愛しますけれども,改革の方向性について御紹介させていただきます。大学や研究科及び教員間において,以下の内容が共通理解として設定される必要がある。1,博士課程はあくまでも学位授与に向けた一連の教育課程である。これは当たり前なのですが,大学の博士課程の目的は,教員と同等レベルの教育研究業績を上げることではなく,課程修了時に自立した研究者としての研究活動を行うための資質能力を身につけることであって,博士課程の学位論文はその立証手段であるということ。
2番目ですが,指導教員には,標準修業年限に照らした適切な研究指導計画の策定や,大学としてのDPやCPを踏まえた研究指導を行う責務があるということ。大学院の教員は,研究業績のみではなく,高度な教育研究上の指導能力があると認められる者でなければならないということは,大学院設置基準を先ほど御紹介しましたけども,9条に既に書いてあるということです。
指導教員の意識や能力の問題は,当該教員を雇用し,学生の指導教員として割り当てている大学院組織としての責任問題であるということ。これらを踏まえますと,研究科または専攻は,指導教員と学生の間の研究指導計画が適切なものとなっているのかということで,定期的・組織的なマネジメントを通じて指導教員の在り方改革を実行する必要があるのではないかと。どういった観点でやるのかというのを例として挙げておりますが,大学院におけるディプロマポリシーに定めた資質能力等を身につけるための具体的な研究指導計画になっているか。標準修業年限で学位取得が可能な計画になっているか。見通しが立たない研究テーマ設定になっていないかといったこと。適切な頻度で研究指導の機会が保証されているか。学生の研究内容や研究活動で培った能力が社会にどのような価値を提供するか,どのように生かされるか等を意識する機会を提供しているか。学生の円滑な課程修了に向けて有効と思われる場合は,他の教員や専攻との連携に積極的に取り組んでいるかといった観点で,適切に組織としてはマネジメントを発揮していくということを通じて,指導教員の意識改革を図っていくべきだと考えてございます。
12ページ目,研究科や専攻の規模・構造的課題についてというところでございます。現状は少し割愛させていただきまして,真ん中,小規模な研究会では学生の幅広いニーズに教員や研究家として対応し切れていないケースがある一方で,研究指導委託の実質率が極めて低いというのが現状としてあります。
改革の方向性としては,大学間連携や研究指導委託を通じたネットワーク型の教育研究指導体制及びキャリア支援体制を構築していくということが考えられるのではないかと考えております。人文科学・社会科学系の分野特性を踏まえた振興方策というのを国として実施していくべきであるということを書いています。
最後,13ページ目でございます。修士課程と博士課程をそれぞれ分けてちゃんと議論しなければいけないといった御指摘が前回ございました。現状ですけれども,人文科学・社会科学において修士課程へ進学するといったことが,「大学教員を目指す者に向けた課程」であるとの印象が強く,自然科学系よりもハードルが高いといった指摘がございました。
改革の方向性ですけれども,あくまで,現状に照らせばというところでございますが,人文科学・社会科学系の大学院修了者の社会での活躍や進学率の向上に当たっては,当面でございますが,修士課程を中心とした教育改革を通じて,キャリアパスの拡大等を図っていくことが適当であろうと。修士課程においては,法令上,修士論文を書かなくても学位授与ができるということになっておりまして,学術的な研究成果によらずとも学生の興味や問題意識を尊重しつつ,実社会との接点や社会課題の解決に重きを置いたプロジェクトの実践により学位を授与する課程等,多種多様で外部と双方向的な大学院教育を展開・拡充していくことも有効ではないかと考えております。
次の枠ですけども,他方で,仮に修士課程への入学者が増えたとしても,博士課程修了者のキャリアパスを拡大することは容易ではないと考えますので,今回,明らかになった大学院教育に関する各種の体質改善が進まない限り,安易に修士から博士への進学者を増やしていくということに関しては慎重になる必要があるのではないか。博士課程においては,当面は,大学教員等のキャリアパスを中心とした諸課題に関する改革を進めていくことが重要であるということで,具体的にはその下に書いてあるようなこということでございます。
以上がこれまでの議論を踏まえまして,おさらいも含めてでございますけれども,中間まとめということで,たたき台として御用意したものでございます。御審議よろしくお願いいたします。
【湊部会長】ありがとうございます。今回の取りまとめは,人文科学・社会科学系の大学院に,今,考えられている色々な問題点を個別に挙げて,おのおのの原因の解析と,可能な対策等々,ずっと最初から挙げて議論してきたわけですけれども,前回の議論もありまして,まず大きく,人文科学・社会科学系の大学院改革に向けた課題と,どういう対策が必要か,可能かということの概要を最初に示していただいたということになります。
これにつきまして,まずは委員の先生方から率直な御意見,御感想等をお伺いしたいと思います。
早速,村田委員から手が挙がりました。お願いします。

【村田副部会長】ありがとうございました。非常に網羅的にまとめていただいていると思うんですけれども,例えば4ページの議論の背景のところに,日本企業の経営者と米国の経営者の大学院の比率があったり,恐らく,科学技術・イノベーション基本計画,今日の,先ほどの議論もそこだと思うんですけれども,あるいは,昨年の4月に出ました経団連の産学協議会の報告書もそうだと思うんですけども,いかに大学院修了者を企業あるいは社会に送り出すかというところが重要であって,今までは人文科学・社会科学系というのは,いわゆるアカデミアしか見ていなかった部分なんですね。それが一番根本の問題だと思っています。そうすると,今日,網羅的に出されているのは半分以上がアカデミアの話なんですね。問題の根本は,アカデミア問題ではなくて,いかに産業界あるいは社会に大学院修士以上の人たちを送り出すかというマッチングの問題が一番大きな根本課題ですので,そこに焦点を絞って,報告書を再構築していただかないと,申し訳ないんですけども,これでは,言わばこれまでの枠内での話をしているだけで,何ら大きな変更にはなっていない,あるいは提案になっていないとしか私には思えないですね。それでもう少しその辺の書いている内容の整理をして,強弱をつけていただくことがぜひ必要かなと思いますので,お願いしたいと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。恐らく議論の過程でそこに大きな問題があるというのは十分承知の上で,その原因の一つが,もちろん学生を受け入れる側のところもあるだろうけど,学生を教育して送り出す側の問題,そこの問題点が,キャリアパスがなかなかその先展開しないということの原因の大きな一つではないかという観点もあるんだろうと思うんです。

【村田副部会長】ですから,そこのところで,今,部会長がおっしゃったように,まず問題の根本がここであるということを立てていただいて,それを解決するためにどういうものがあるのかという形をしていただかないと,これは全部羅列されてしまっているものですから。問題がぼやけてしまっているんですよね。そこをぜひお願いしたいと思います。

【湊部会長】非常に私も同感です。ただ平面的に見ていくと,多くの問題があって,その根源を溯れば,実はここに本当の問題があるので改善すべきで,そうすればもう少し先のキャリアパスも広がるような展望が出てくるというふうにすべきだと。おっしゃるように,そういう書きぶりが必要なのでしょうね。ありがとうございます。それは十分に検討させていただきます。
それでは,挙がっているのは迫田委員ですかね。

【迫田委員】ありがとうございます。包括的にまとめていただきまして,ありがとうございます。これまでいろいろ意見が出ていたものが整理されてきたなと思います。まとめ方については,今,村田先生が言われたように,少し考える必要あるかと思いますが,大きな問題を捉えているのではないかなと感じました。特に,11ページのところ,これまでアカデミア中心で,研究に重点があって,教育課程ではなかったという辺りの指摘は,本当に大事なところだと思います。さらにそこから拡大していくという観点で申し上げると,出口のところをどう充実させていくかというところが重要だと思います。
今のままですと,優秀な人は大学院に行かない,アカデミアを目指している人以外は行かないということになってしまうので,そこの門戸をどう広げていくかという課題だと思います。そういう意味で,修士と博士を分けて整理していくというのも一つの方向感だと思います。今,欧米で経営者となっているのは,ほとんどMBAや修士レベルのところだと思います。人文科学・社会科学系の厚みの違いが今,欧米の企業と日本の企業の大きな差になっていると思います。いかに社会に送り出すかという観点で,大学院教育を再構築する必要があると思います。
そういう意味で,リーディング大学院のような優れた取組はこれまでもあり,社会との結びつきを意識してやっていけば,明らかに就職率が上がるという経験をしてきています。その経験を生かして,もう1回つくり直していけばいいのではと思います。ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。よく理解できました。
では,高橋委員,お願いできますか。

【高橋委員】ありがとうございます。くしくも,迫田委員,村田委員と問題意識は同じです。具体的に申し上げたいんですが,ページ10の民間企業等へのキャリアについてです。これはやはり私自身は,就職活動の時期がとても大切だと思っています。リアルには,日本において数の多い自然科学系のマスターの採用活動と連動して,企業がM1の夏からかなり活発になりますよね。ただ,それでは,書いてあるような大学院の修士博士人材の価値を企業が把握するにはまだ早過ぎます。なので,根本的に変えるなら,先ほど迫田委員もおっしゃったように,欧米の大企業が大学院以上のディグリーを持っていることが当然であり,大学院の価値がそういう意味できらきらに輝くということをつくっていくためには,大学院の教育の質を持った人たちをその後に評価するという,ここがエッセンシャルだと思うんですね。ここを避けて通れない時期に来ているのではないかと思います。そこをぜひ,今までも少し議論が出ていましたし,踏み込むということの方向性を出していただければいいのではないかと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事なポイントで,これは大学側ではなかなか対応できない。むしろ,社会あるいは産業界のほうで何とかお願いしたいということになると思います。ありがとうございます。
それでは,小長谷委員,お願いできますか。

【小長谷委員】ありがとうございます。今,村田先生をはじめとして,おっしゃっているアカデミア以外の後,キャリアパスの話ですけれども,アカデミアを出口にした場合に考えられていることと,教育の内容自体としてはそれほど違わないと思います。そういう意味では,改革の方向性というのは,ぜひこのように進めていただくのがいいかなと聞いていました。
特に12ページのネットワーク型の教育研究のところについて,一つ意見を加えておきたいと思います。こういうことになると,教育の放棄に見えてしまうかもしれませんが,自分よりもよりよい人を探すというのは,実は聖なる仕事だと思います。
また,地方大学が離れ小島に見えるような感じがするので,これは認識を変えておかないといけないと思います。地方大学は確かに組織力や数という点では離れ小島かもしれない。けれども,あるテーマに関しては世界一だとか日本一だとか,そういう先生がぽつんといらっしゃるんですね。だから,テーマに基づいて,よりよい人を探すときに,むしろそこが一番大事になったりします。物理的に離れた人が連携するということを図式化するときに無意識のバイアスがないようにして下さい。

【湊部会長】今のポイントも非常に大事なところなので,誤解を招かないように,ここはきちんと整理したいと思います。ありがとうございます。
次に,濱中委員,お願いできますか。

【濱中委員】まとめをありがとうございました。大学院教育の中身をいかに充実していくのかというところに力点が置かれたまとめになっていますが,量のことを考えなくていいのか,ということを申し上げたくて手を挙げました。先ほども進学率の話が出ていましたが,今の規模だと大企業であっても,人文科学・社会科学系の大学院を出た人は,採用されたとしても毎年数名というぐらいの状況ではないかと思われます。そしてそれくらいの規模だと,たとえ企業で働いている人文科学・社会科学系大学院修了者が活躍したとしても,本人の素質がすばらしいからなのか,それとも教育の成果としてすばらしくなったのかが,雇っている側の企業はずっと見定めることができないという状況が続くことになります。
計画に量のことは書きにくいというのは重々承知しておりますが,教育の質のことだけを書いても不十分だということは,あえて指摘させてください。質と量の両方を考える必要がないか,その視点の必要性を申し上げたくて,手を挙げさせていただきました。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございます。御指摘はごもっともで,これは人文科学・社会科学系に限らず,昨年の出生数が約81万人ですから,もう確実に我々の若い時代に比べても半分以下になっている。そもそも日本の学生の母集団が,場合によってはピーク時の3分の1近くになってしまうので,それを大前提として我々は議論しないといけないという大きな課題は確かにあると思います。ありがとうございます。そこも気をつけたいと思います。
それでは,佐久間委員,お願いできますか。

【佐久間委員】一つは,大学教員等へのキャリアパスのところに,ファストトラック化というのがあるんですけど,お話は分かりましたが,ただ,これは現状でやると,選ばれた人も選ばれなかった人も路頭に迷いそうな感じもします。こんなのできるわけないだろうみたいに思われてしまうと書く意味がなくなってしまいかねないので,そこら辺は少し書きぶりを考えていただければと思うのが1点です。あと,これは質問なんですけど,対策の中で,各研究科が定める標準修業年限と実績の公表とあります。これは別にいいんですが,ここの意味をお伺いしたいと思います。各研究科が定める標準修業年限というのは,要は,3年以外,例えば4年であっても容認するという,そういう趣旨なんでしょうか。

【湊部会長】これは西室長,どういう意味があるんですか。

【佐久間委員】3年に決まっているなら公表する必要はないと思いますが。

【西大学改革推進室長】はい。博士については,3年が標準であると定めておりますけれども,各大学が,これはもう少しこのテーマで,専攻というか,テーマについては時間がかかるというものは4年と設定することも可能でございます。

【佐久間委員】そういう意味なんですね。ただ,その一方で,いろいろ,例えば大学の評価とか,あと,大学院生の支援なども,3年で出ることを前提に設計されているので,そこら辺,ちょっと整理が必要かもしれないと思います。

【湊部会長】はい。そこは誤解を招かないようにしたいと思います。ありがとうございます。
それでは,塚本委員,お願いします。

【塚本委員】ありがとうございます。取りまとめ,大変分かりやすくなっていると思います。先ほどの企業の話がありましたが,可能であれば,骨太の方針の中にも今年中に策定となっている人的資本投資の開示の中に,大学院の修士,特に博士人材が,何人在籍,採用しているかとか,リカレントで何人大学院に社員を送っているかなども,項目として入れてほしいというのを部会から提案としていれるのも一つの案ではないかと思います。優秀な人を保有しているとともに,継続的に社員に投資をしている会社が選ばれるようになってきているので,ひとつのトリガーとなりえるかもしれません。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。できれば書き込みたいと思います。
それでは,堀切川委員,お願いできますか。

【堀切川委員】堀切川です。人文科学・社会科学の大学院教育の改革の方向性の概要の御説明,ありがとうございましたというところですが,個人的には,修士課程と博士課程,やっぱり立ち位置が全然違うので,別に考えるというのは大賛成であります。その上でですけれど,修士課程のほうで,民間企業と産業界へのキャリアパスを広げていこうと。そのために大学院も改革しましょうという方向性は理解できるんですけれど,本音,民間企業,産業界が人文科学・社会科学系の修士を出た人でないと,こういうところに活躍できないといって,ニーズが大きくなるかというと,短期的には非常に難しいと思います。
同じように,大学院側の教員組織側も人文・社会の教育のやり方,修士課程はいろいろ大きな改革してくださいと言われて,動きは出てくるんだろうと思いますが,やっぱり短期間では難しいと思います。にもかかわらず,やっぱり人文・社会の大学院への進学者数は増やしたほうがいいと思います。
一つは,社会的な背景として,少子化がここまで進んでくると,少なくとも理工系の場合は修士まで行くことを親がもう理解して,子供の数が少ないので,修士まで行くことを自然に理解して進学させています。同じ意味でいくと,少しでもメリットがあれば,人文・社会の子供さんを修士まで行かせようという親は,意外とそちらのほうが増える確率は高いと思います。
最大のメリット,親への説得という意味での最大のメリットなんですけれど,大学3年,学部3年になったときに,既にもう就職活動で,どこでもいいから受かるところを100社も受けるような,もうほとんど授業を半分聞いていないような状況が,修士課程まで行くとなれば,学部4年間,まずしっかり勉強ができる。それから,修士課程の2年間で,自分が本来,社会で何をやるべきか,何をやりたいのかという見極めの期間として,極めて役に立つんだと思います。
ここを実は人文科学・社会科学系の大学院の非常なるメリットとして各大学が取り組むと,まず,親,社会が行かせてみようかと。変なところに勤められるよりずっといいぞということが起こるので,私は,修士課程の改革はより急いで,しかも成果が出やすいと。私としては楽観的に思っているところです。
あとはやっぱり博士課程,後期課程のほうにつきましては,どうしてもアカデミアに行きたいという人,研究者になりたいという人がどうしても数少なく,そういう人たちが入る場所になりますので,ここの改革は大変だなと思いますが,これは,実は人文科学・社会科学系に限らず,理工系も実は同じ問題を抱えているのだと私は思っているんですけど,修士課程の中でドクターに行ってほしい人材ほど社会に出ていってしまう。理工系は特にそういう,優秀なやつほど社会に出ていって,大学院,アカデミアは厳しいなというので,優秀な人を残すにはどうしたらいいかと考えると,そんなうまい手はありません。
昔を考えると,昔がいいと決して言いませんが,教授,助教授,助手時代には,修士を出て,助手になって,ずっと研究しながら,助手の仕事もして,論文博士を取るという,そういう方々が立派な教授になったり,学長になったり,活躍している人はすごく多かったんですよ。それが准教授,助教という枠になってから,いわゆるドクターでないと助教にもなかなか入れないとなってくると,優秀な人を大学が確保するのはちょっと厳しくなっているかなと思うので,あえて駄目な意見を言います。無理な意見を言います。
助教以外に助手というポジションもあることはあると思うんですけれど,本当に優秀で残したい人は,修士が終わったら助手で取って,同時に社会人ドクターの学生にも入れるという道はあり得ると思います。自分で稼いで,大学にも教育貢献,学部教育に貢献して,教育も学びながら,昔で言う論文博士にちょっと近い,もともと人文系は3年で厳しいのであれば,助手というポジションで学位を取らせ,社会人ドクターに入れることで学位を取りやすくして,その後,初めてその人は自分のキャリアパスを自分の自己責任で考えていく。本当に優秀なら助教になる,准教授になればいいしという,そういう道を用意しないと,なかなか根本的にはドクターのほうは難しいかなと理解しています。
ちなみに私の周りにいた若い同僚の教授たちは,昔のように,優秀なやつを助手で,修士のまま採りたいと言っている人,実は結構おられます。そこの部分だけは,今の教育制度では,優秀な人が残りにくくなったねという声をよく聞くので,ひとつ検討の余地あるかなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます,建設的な意見です。私の不手際で,まだ発言を希望される委員が随分いらっしゃるんですが,時間も差し迫っておりまして,できればお一人,二,三分で簡潔にお願いできればありがたいと思います。
それでは,須賀晃一委員,まずお願いします。

【須賀委員】須賀でございます。よろしくお願いいたします。私は,2ページ目の要約のほうです。2ページ目の右の下で,客観的な姿というと,恐らくこういう方向に行くのが望ましいということなんだろうと思うんですが,その中に,先ほど言った総合知という言葉が出てまいります。そうすると,これは人文科学・社会科学系で求めている知というのが,随分と変わってくるかなという感じがしております。これまではつながっていると,専門知,それも非常に細分化された意味での専門知を追求していくという中で,人文科学・社会科学系のアカデミアが成り立っていたと。そことは全く違った方向を考えていかなきゃいけないというメッセージになっているんだろうと思うんですが,そうすると,総合知と専門知の関係をどういうふうに見るのかという点をある程度明らかにしておかないと,これから先,問題だろうと思います。
前回の産業界の方のお話からしますと,どちらかというと総合知はリベラルアーツを意味していて,産業の中で要求されているものも,専門の知識そのものではないという形であったので,それに対応するような形で大学院改革をどこまでやるのかということの決意を我々はしなきゃいけないのかなと,こんなふうに思いました。そこで,中身をもう少しはっきりさせる,特に先ほどの総合知との関係ではっきりさせておかないと,方向が全く定まらないような気がしております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございました。おっしゃるとおりだと思います。
それでは,神成委員,お願いできますか。

【神成委員】学生を送り出す側としての文科省あるいは大学院教育課程からの書き方なので,こういう書き方しか,なかなか難しいのかなと思うんですが,文章の中には,一応,これからの産業界展開を考えると人文科学・社会科学系大学院の果たすべき役割が大きいという,送り出す側からのコメントで書かれています。前回の部会での富士通の方のお話などを聞くと,産業界は,人文科学・社会科学系の学生として,社会課題解決の問題意識とか,数学的推論,データ分析力,異分野との連携研究の経験,こういうことを備えた大学院生が欲しいということを明言されているわけですよね。
しかしながら,その要求に対して,現在の大学院は対応できていないというような構図が明確であるならば,むしろそういう産業界からの要望というものをもっとクローズアップして,スタート点の問題提起として明確に書いたほうがいいのではないかなと思います。ただ,そのエビデンスは,私も100%確信はしていないんです。産業界からのこういった人文科学・社会科学系の学生に対する人材の要望というのに対して,あまりにも産業界の声は,現状においては小さ過ぎると思うんですよね。
もう少し声を大きくしてもらって,そして,大学に対して人材育成の要望をきちんと述べていただいて,大学がどうやったら人材を育てられるかという,人材育成の意識共有をきちんとキャッチボールして,大学院の改革をしていくというプロセスが必要ではないかと思いましたので,もしそういう側面での書き方を共有していただけるのであれば,お願いしたいと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。構成の問題でした。
それでは,小西委員,お願いします。

【小西委員】短く,一つだけお願いでございます。今回は,民間企業等へのキャリアパスの1項目に,リカレント教育の振興ということが書かれております。この大学院部会が始まったときは,もう少しリカレント教育というのは大項目だったのかなという記憶があります。例えばリカレント教育は,12ページの改革の方向性で,ネットワーク型の教育研究指導の体制の記載があり,これももちろん利用できますし,修士課程だけではなくて,例えば,欧米の会計士さんは博士号を取っているのがもう当たり前になっていて,国際的な会計基準を開発しなければならない現代では,修士レベルでは対応できないという状況になっています。つまり,リカレント教育が色々な項目に関わってきますので,できれば格上げしていただいて,1つのスライドでリカレント教育を整理するようなまとめ方をしていただければという,そういうお願いでございます。
以上です。


【湊部会長】ありがとうございます。御指摘のとおりで,ただ,リカレント教育については,この部会の柱の一つになっていますので,これとは別にまたかなり大きい話が出てくると私は想定しております。ありがとうございます。
それでは,加納委員,お願いします。

【加納委員】ありがとうございます。短くお話しします。9ページ目の民間企業へのキャリアパスについての改革の方向性の部分です。このトーンが,どちらかというと,大学修了者とか学生という形で,学生側が主人公になっていますけれども,やはりこれは教員側にもいろいろな課題があるかなと思っています。例えば学生のテーマの設定という観点から見ても,教員側ももう少し社会への貢献といった形で,学生にどういうテーマを与えていくかといったところにも配慮が必要かなと思っておりますので,ここの方向性の中にぜひ教員側への取組についても追加していただければと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。もっともだと思います。
それでは,宮浦委員,お願いします。

【宮浦委員】ありがとうございます。リカレントにも関係するんですけれども,恐らく人数を的確に,すぐにでも増やす方法としては,社会人の方が,理系出身でも文系出身でも,社会人大学院生として人文科学・社会科学系の大学院に入学していただくというのが一番安定的,かつ,すぐできる方法ではないかということで,そこの強化が重要だと思っています。総合知の面でも重要かと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
西室長から,手が挙がっておりますが,何かここで言っておくことはありますか。

【西大学改革推進室長】すみません。ありがとうございました。また改めて構成を検討したいと思いますけれども,一つ,先生方のお話を伺っていて,私もいろいろデータを御用意しながら議論させていただいていますけれども,多分この部会で盛り上がっているほど,産業界の個社,個別に見たときの人文科学・社会科学系の人材ニーズ,つまり,積極的に採用したい,もしくは,毎年採用を増やしていますといったニーズを示すデータはどこにも見当たらないのですね。
なので,最初に,村田先生もおっしゃっていましたけれども,今,社会の中で学位を持った人文科学・社会科学系の人材が少ないので,そこに対しての企業のニーズというものを前に打ち出して,そこからひもといていくというアプローチは,おっしゃることはよく分かるのですが,現状,総論賛成,各論反対状態で,一般論としては必要なのだろうけど,具体的に大学の修士号を持った人に何ができるのか,博士号を持った人に何ができるのか,と問われている状態なのだと思っています。
であるからこそ,かつ,ここは大学院部会であるからこそ,大学院が輩出すべき,輩出した人材に対して,産業界に対して,そこの理解が伝わっていないと。なぜならばこういった課題があるからだというような構成でつくってきたつもりであります。
企業に対して,もっと採用してくださいと言っても,いや,別に要らないですと言われているのが現状なので,人文科学・社会科学系の人材は社会で十分活躍できると,大学側が胸を張って自信を持って言えるようにしていかないといけない。逆にそれができるのであれば,良い人材が欲しいというのはいつだって企業の常識だと思います。したがって,産業界からのニーズありきでつくっていくというのはちょっと難しいのかなというのが私の,ここまでつくってきた担当者としての感想でございます。
また,高橋先生からいただいた御意見も,東大の菅先生からもずっと言われている話でして,これも本当にクリティカルだなと思うのですが,とはいえ,例えば就職協定みたいな形で,卒業して学位を取ってから就活をしなさいという形にしたときに,逆のハレーションとして,もう大学を中退して就職しますといった行動をする人も多分いるんじゃないかなという気はしていてですね。
具体的に高橋先生がおっしゃっていること,東大の菅先生がおっしゃっていることもよくよく分かって,どういうアプローチがあるのだろうとずっと考えているのですけれども,具体的に打ち出す方策がないので,今のところ,二の足を踏んでいるというところでございます。
事務局のほうでも考えがまとまっていない部分があり,また,時間を超過して申し訳ありませんが,以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。今の西室長の話にもありましたけれども,村田委員からも御指摘のとおり,やはり問題点としては,なぜ我々が人文科学・社会科学系の大学院教育をここで議論しなければいけないのかということを振り返れば,やはり一つには,せっかく大学院のプロセスを経ているのに,なかなかその人材が社会へうまく展開できていないという,そういう事実があるのは否めないんだろうと思います。それは誰が良い,悪いではなくて,そういう事実が,これで健全なのかというと,どうも学生目線から見ても必ずしもそうでもない。とすれば,そういう目詰まり状態があるとして,どこに問題があって,どこを改善すれば,もう少し目詰まりが解消して,そういう方々が社会へ流れていく取っかかりになるかという書きぶりになるのではないかと私は思っております。
ここは一方で,あまり強く書きすぎると,現場の人文科学・社会科学系の大学院側のほうにもいろいろな考え方もあり,そことのバランスが難しいんですけども,しかし,多くの委員が,問題点については概ね全て共有されておられますし,これからやはりもう少し社会への発信や展開の発想を広げていくような道筋の提起が必要であろうと思います。
そこには社会が持っている歴史的背景もあって,現状ではすぐに我々の手に及ばないこともありますが,少しでも改善することによって,人文科学・社会科学系の学生を受入れるメリットを示していくことができるかもしれないということなんだろうと思います。
それで,個別の課題につきましては,概ねの委員の先生方に,確かにそうだとご同意いただいておりますので,最終的にどのようにまとめていくかということの書きぶりについては,もう一度,私と事務方で,今日いただきました色々な,御意見を包括した上で,全体の構成を考えさせていただきたいと思います。
まださすがに,一任くださいと言えるほどの自信もありませんので,できればどういう形にするか,先生方に下案をもう一度見ていただいて,その段階であと細かいところは一任していただけるようにお願いするという段階まで行けるように,もうワンステップ置いたほうがいいのかなという気もしますが,西室長,どうですかね。

【西大学改革推進室長】事務局の力が及ばず,申し訳ありません。また先生方も,もう一度御覧いただければと思います。ありがとうございます。

【湊部会長】それでは,ぜひそういうふうにさせていただきたいと思います。
本当に最後になります。事務局から連絡事項だけお願いします。

【西大学改革推進室長】ありがとうございました。本日も活発な御議論いただきまして,ありがとうございました。本日の議事内容も含めて,また追加的な御意見とかお気づきの点ございましたら,事務局まで御連絡いただければと思います。
次回の日程については,また改めて御相談させていただきたいと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。今日は私の不手際で10分も超過いたしました。誠に申し訳ありませんでした。
では,107回目の院部会はこれで終了とさせていただきます。皆さん,どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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