大学院部会(第106回) 議事録

1.日時

令和4年5月11日(水曜日)13時00分~15時00分

2.場所

WEB会議

3.議題

  1. 産業界からの人文科学・社会科学系大学院への期待について
  2. 人文科学・社会科学系の大学院教育に関する方向性 中間とりまとめ(案)について
  3. その他

4.出席者

委員

(部会長) 湊長博部会長
(副部会長) 村田治副部会長
(臨時委員) 加納敏行、川端和重、神成文彦、小長谷有紀、小西範幸、佐久間淳一、迫田雷蔵、須賀晃一、菅裕明、高橋真木子、田中明彦、波多野睦子、濱中淳子、堀切川一男、宮浦千里の各委員

 

文部科学省

(事務局)増子高等教育局長、森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当)、里見大臣官房審議官(高等教育局担当)、古田大学振興課長、西大学振興課大学改革推進室長 他

5.議事録

【湊部会長】それでは,所定の時刻になりましたので,第106回大学院部会を開催したいと思います。
本日は御多忙の中,皆様御出席いただいて誠にありがとうございます。本日は塚本委員と長谷川委員が御欠席と伺っております。
それでは,議事に先立ちまして,事務局側で4月付の人事異動があったようでございます。文部科学省高等教育局大学振興課の古田課長から御挨拶をいただければと思います。よろしくお願いします。

【古田大学振興課長】御紹介ありがとうございます。4月1日で着任をいたしました,古田でございます。
前回の会議のときに他の業務と重なってしまいまして,参加できませんでした。大変失礼をいたしました。長く高等局の業務に携わっておりますが,また,どうぞよろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございました。それでは,引き続きよろしくお願いします。
では,事務局から,まず,会議に当たっての御連絡があればお願いしたいと思います。

【西大学改革推進室長】定例でございますけれども,ウェブ会議を円滑に行う観点から,御発言の際には挙手のボタンを押していただいて,部会長から指名されましたらお名前をおっしゃってから御発言いただきますようにお願いいたします。また,発言時以外は,マイクをミュートにしていただくようにお願いいたします。
資料につきましては,議事次第に記載のとおり,事前にメールでお送りをしております。画面投影はいたしませんので,お手元の資料を御覧いただきますようお願いいたします。
システムの状況によっては不都合があるかもしれませんけれども,御協力のほど,どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,議事に入りたいと思います。
本日は議題,2つ用意しておりますけれども,最初の議題は,産業界からの人文科学・社会科学系大学院への期待についてということで,人文科学・社会学系を含む人材育成に対する産業界からの期待やニーズに関して,本日は富士通株式会社執行役員の梶原ゆみ子様からお話をいただけることになっております。梶原様は富士通株式会社にて,人事本部副本部長(人材開発担当)を歴任されておりまして,現在,人文科学・社会学系を軸とした学術知共創プロジェクト事業運営委員会の委員,あるいは,内閣府総合科学技術イノベーション会議議員も務められておられます。
それでは,梶原様,よろしくお願いいたします。

【梶原富士通株式会社執行役員】ありがとうございます。御紹介いただきました,富士通の梶原です。現在,富士通ではチーフ・サステナビリティ・オフィサーとして,全社のサステナビリティを担当しております。さらに,社外ではCSTIでの議員や,科学技術・学術審議会の委員等も務めさせていただいております。
本日お時間いただきましたので,人文科学・社会科学系大学院への期待についてというタイトルで,富士通の現状や個人的な意見になりますけども,少し述べさせていただきます。
まず,初めに,2ページでございます。富士通における人文・社会科学系の修士,博士の在籍状況について,お知らせします。具体的な数字は申し上げませんが,いわゆる理系の修士,博士に比べて,やはり非常に少ない人数になっています。人文科学・社会学系の修士,博士そのものの数が少ないということで,採用への応募も少ないという状況と理解しております。ただ,少ない人数ではありますが,専攻分野につきましては,割と多様になっています。そして,法学系以外につきましては,専攻分野に関わらず,とても幅広い職種で活躍していただいているという状況です。
企業の立場から見た場合の課題,あるいは期待についてです。人文科学・社会学系の修士,博士の方自身が,自分の能力や強みを何と理解し,認識し,それをどう社会に生かせるか,そういったことを明確にイメージできている必要があると思っています。企業としては,自然科学系であったとしても,人文科学・社会学系であったとしても,自分の専門性や強みを生かして,社会課題の解決やイノベーションに取り組みたいという思いを持った,そういう学生を求めています。そういう意味では,そういった機運,気概,マインドを醸成するように,大学,大学院での教育に期待したいところではございます。企業において,多様な人材を採用したいという意向は非常に強まっておりますので,これからは人文科学・社会学系の専門人材の獲得にも力を入れていくという方向で考えているのが現状でございます。
次のページにいってください。一般的に企業の状況,それから人文科学・社会学系専門人材のニーズについて,簡単に御説明します。御存じのとおり,企業を取り巻く環境は,この数年で非常に激変しています。1つはVUCAと言われるように不確実性が高まっていること,例えばコロナ禍であったり,ウクライナクライシスがあったりということがございます。2つ目は,いわゆるプラネタリバウンダリーに対しての国際的な対応をしていく責務です。地球市民として,企業への変革の期待も非常に大きくなっています。こうした環境変化を踏まえまして,企業は株主のみならず,お客様,社員,パートナー様,コミュニティーといった,あらゆるステークホルダーに対して,自社がどういう存在でありたいのかという存在意義をパーパスとして言語化し,ステークホルダーの共感を得て,パーパスに基づくマネジメント,ビジネス活動を推進するようになってきています。
次のページをお願いいたします。4ページです。そういった中で,2年前の2020年に,富士通では,イノベーションによって社会に信頼をもたらし,世界をより持続可能にしていくことというパーパスを策定しています。そして,そのパーパスに基づいた,パーパスドリブン経営に取り組んでいるところです。
次のページをお願いします。富士通では,このパーパスをビジネスとして実現するために,ちょうど昨年の10月ですけれども,新たな事業ブランドとして「Fujitsu Uvance」というものを作成しています。Uvance,これはユニバーサルなものをサステナブルな方向に前進させるアドバンスという2つの言葉を兼ね合わせた造語になります。Fujitsu Uvanceの下で,サステナブルな世界の実現に向けて,社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを進めていこうとしています。
こういったビジネスにシフトしていく上では,社会や人間をこれまで以上に深く理解するとともに,目指したい未来を創造し,ビジョンを示して共感を得ていく力が重要です。そこには自然科学系の人材だけではなく,人文科学・社会学系の専門人材が活躍する機会が増えてくると思っています。政府においても人的資本の重要性や人への投資といった議論がなされていますけれども,こうした環境やビジネスの変化に対応するために日本の企業も変わってきています。
次のページをお願いいたします。6ページです。日本企業はこれまでのいわゆる日本型のメンバーシップ型人事戦略というものを転換し,新たにジョブ型人材マネジメントを導入するという企業が増えてきています。富士通自身も昨年度からジョブ型人材マネジメントに転換し,この中で,キャリア採用の数を増やしてきています。そして,新卒採用も含めて,必要とするジョブに応じた専門性や多様な経験を重視した採用に転換してきています。こうした流れを見ても,今後,人文科学・社会学系の修士,博士等の採用機会が従来以上に増えてくるのではないかという流れになってきています。
次のページをお願いいたします。7ページです。ジョブ型人材マネジメントの導入は,社員の多様な専門性に立脚した価値創造を目指しています。複雑な社会課題に対して技術を実装し,これを解決していくには,もはや特定の企業や技術の文脈に閉じた単眼的な知見の下ではアプローチできません。社会を構成する人,その営みを解き明かす人文科学・社会学の知見を含めた総合知的なアプローチだったり,産学や分野を超えた仲間づくりだったり,多様性から創出されるイノベーション,そうした取組を目指していくということが政府,アカデミアや企業,それぞれで求められているものと考えています。
次のページをお願いします。富士通の事例を御紹介します。富士通では,AI倫理の問題を重要視しておりまして,2020年に,AI倫理研究センターを立ち上げています。例えば,人材採用,それからローン審査といったシーンにAIを適用することを考えますと,性別や人種といった属性によって差別的なバイアスが生じてしまうという倫理上の課題があります。そこで,このセンターでは,社会から信頼されるAIの実現に向けて,AI技術の研究開発と並行して,AIのアカウンタビリティーを確立するための研究開発を進めています。哲学,心理学,経済学などの学際的な研究,多様な分野,立場からの知見の集約といった総合知的なアプローチにより,研究を進めています。
次のページをお願いします。また,AIによる行動予測技術の開発では,行動科学の知見を取り入れることによって,人の行動の意思決定の過程や人の内面の変化をモデル化したAIを実現することを目指しています。具体的な事例としては,東洋大学や尼崎市と協力して,犯罪心理学の知見を用いることで,特殊詐欺被害の予防管理を実現するためのAIの開発を進めています。このように,特にAIのような価値判断に影響する技術を社会実装するには,人文科学・社会科学の知見も含めた産学にまたがる協業,仲間づくりが重要になります。こういった事例のように,現在,富士通におきましては,こうした研究のために人文科学・社会学のアカデミアとの産学連携や仲間づくりを積極的に進めておりますが,今後は自社内においても人文科学・社会学系の人材を増やすといったアプローチも考えていきたいと考えています。
次のページをお願いします。経団連におきましても,人文科学・社会学系を含めた専門人材のキャリアパスについて議論をしています。人文科学・社会学系の修士,博士人材が産業界で活躍できていないという課題,これを企業としても認識しています。日本企業では役員に占める大学院修了者の割合が少なく,特に人文科学・社会学系の大学院修了者が少ないという状況もございます。そうした現状ですが,今後,産業界はどのような人材を求めているのか,経団連では,Society5.0時代に産業界で必要となる能力について,次のように挙げています。数理的推論やデータ分析力などのリテラシー,論理的思考力や規範的判断力,課題発見・解決能力,未来社会を構想する力,こういった人材を欲しています。また,自動運転やバイオなどの社会の受容性やルールが重要となる領域については,社会実装に向けた専門人材への期待が寄せられています。人文科学・社会学系の人材を積極的に採用するために,経団連ではまず,修士を対象として専門分野に特化したインターンシップのトライアルについても議論をしている状況です。
次のページをお願いします。ここから人文科学・社会学系の専門人材の活躍に向けた課題について個人的な意見ということで,大変恐縮でございますが,述べさせていただきます。まず,人文科学・社会学系と言った場合に,領域が非常に広いため,分野ごとにその状況や求められる対応,あるいはそこで求められる情報も異なりますので,この辺を丁寧に見ていく必要があると思います。そして,社会への関心や自分の研究との関わりを深く考える機会を持っていることが重要です。インターンや産学連携といったことも有用でしょうし,何よりも指導する教員に左右されるところも大きいのではないかと思います。そして,社会課題を解決するということで総合知的なアプローチが求められますので,こういった場が提供できているかどうかということも必要です。最近では,文系や理系といったカテゴリーでは判断しがたいような名称の学部も増えているのではないかと思いますが,そういった意味でも文理分断からの脱却,こういったことを考える必要があると,企業の立場としては見ています。
最後のページになりますが,この問題は,大学や大学院だけではなく,日本の社会全体のシステムをどう見直していくかという問題であると認識しております。産業界におきましても,先ほど説明しましたように,キャリア採用が増えてきているという実態がございますので,少し前よりも人材の流動性は高まってきているという肌感覚は持っていますが,セクター間を超えたような人材の流動や,複線的なキャリアパスが描けるような社会にしていくためには,まだまだ大きな課題があると思います。そして,現在,政府でも力を入れているスタートアップエコシステムの中でも人文科学・社会学系の博士の活躍等は十分期待されるものではないか,そういった道もあるのではないかと思います。実際,私の経験として,哲学を専攻して研究者になろうと思ったけれども,スタートアップに就職して,そこで自分の能力を最大限に発揮している非常に優秀な若い人材にお会いしたことがあります。そういった新しいキャリアパスがあるというのは事実だと思います。
日本の社会の中での大前提になると思いますが,周りの私たち自身が,特に企業人のことで言われるときがありますけれども,一時,博士人材は扱いにくいということを言っていたときもありましたが,そういったラベルを貼ったような見方をしていないかどうか,そして,学生自身も自分が社会で求められていないのかといった自己否定してしまうような認知バイアス,そういったものが存在しないかどうか等も意識することが必要ではないかと思います。ロールモデルを提示していったり,総合知の成功例をつくって,こういうことが社会に実績としてあるということを示していったりという取組を進めて,社会に存在するバイアスを取り除いていく,そんな地道な取組も重要かと思います。
最後に非常に僣越でございますが,もし人文科学・社会学系の博士号がなかなか取得できないという課題が存在しているのであれば,そういった道を通って産業界を目指す,そういう人材はなかなか増えないのではないかと思うところもございますので,この辺の問題もしっかり分析していただければと思います。
以上,私から御説明させていただきました。お時間いただきありがとうございました。

【湊部会長】どうもありがとうございました。
それでは,委員の皆様から御質問等々がございましたらお伺いしたいと思いますが,いかがでしょうか。挙手ボタンでお知らせいただければと思います。それでは,早速,川端委員から手が挙がっていますでしょうか,お願いします。

【川端委員】ありがとうございます。非常にしっかり社会に向かって発信をしなきゃならないし,そういうような活動をされているという中に,人文科学・社会科学系のドクターのことを考えられているというので,非常に新しいというか,具体的な動きと思います。
その上で,私は,自然科学系のドクターの話で,経団連の方々とかいろいろお話をしていて,その時代からさらに時間がたっているとは思うんですけど,質問は2つあって,1つは,要するにジョブ型採用という形を進めれば進めるほど,中途採用であったり,即戦力型の採用というものが強くなっていく。そうなると,ドクターの新卒というのはなかなか,そのまま使えますかというと,いや,ちょっと社会的な経験をもう少しさせる必要があったり,インターンシップであったり,そういうものから考えると中途採用のほうがよいという動きが進むのではないかなと。そういう意味で,ジョブ型採用自体が,この後,展開する中で,人文科学・社会科学系のドクターの新卒というものに対してどのようにお考えかというのが1つ目です。
それから,もう1点は,大企業で,梶原さんのような上のほうの方と話すとそうなんだけど,人事部の話に落ちた段階で,すぐに,いやドクターは使いづらいとか即戦力にならないとかという話が出てきたり,先ほど言われたバイアスという話がいろいろ出てきました。このところの改革というのは,企業の中ではどのように進んでいるのかという,この2点についてお聞かせいただければありがたいです。

【梶原富士通株式会社執行役員】ありがとうございます。ジョブ型が増えるので,むしろ即戦力として高い専門性を持っている博士の人が入ってくる,今までと違った形の流れができていると思っています。新卒者を企業内で育てていくのではなく,専門性を持った中途採用,そこは,ほかの会社で働いている人というのはもちろんありますし,専門性を持ったドクターの人が入ってくるということもありますので,入りにくくなるのではないかというのはむしろ逆で,入りやすい仕組みが,ジョブ型という流れの中で出てくると理解をしています。
社会経験をしてきてもらいたいという話は確かにあり,そういう意味で,アカデミアの世界しか知らないという人は,逆に困ってしまう部分もあるかもしれませんが,今の人たち,若い人たちには産学連携の経験を持つとか,あるいは,ほかの人たちとのセクター間のやり取りや,そうした場の経験を積んでいる人たちもいらっしゃっていて,企業からのドクターへの見方も,以前とは大分変わってきているのが実態としてあります。企業側も変わってきていますし,むしろ大学には,そういう社会と接点を持つような機会に触れた状態の人たちを送り込んでほしいし,そういう人であれば,しっかり採用されると思っています。
それから,人事部の様子はどうですかというのも先ほどの説明と同じです。富士通でいうとここ1年とか2年で,キャリア採用がますます増えてきていますし,即戦力という意味,それから専門性が高いということで,研究部門の人たちも博士人材の人たちの採用に非常に注力しています。人数比でいうとまだまだこれからというところがありますけれどもというのが状況でございます。

【湊部会長】ありがとうございます。川端委員,よろしいでしょうか。それでは,菅裕明委員からお願いできますか。

【菅委員】ありがとうございます。梶原様,どうもいつもお世話になっています。ありがとうございました。
私のほうからはジョブ型について少しお話をお伺いしたいんですけれども,ジョブ型の雇用を進めていくというのは非常にすばらしいことで,本来はそうあるべきですけれども,今回は中途採用的な点について,ジョブ型ということなんですが,実は,新卒採用の人たちも本来はジョブ型で採用すべき形だと思うんです。ところが,日本は,これはいろいろなところで私は何度も言っていることですけれども,学位を取る前に,ちょうど修士なら修士の1年生の終わり,あるいは,博士なら博士の2年生の終わりあたりに就職活動をしていくと。結局,学位を取る前に就職活動して,就職先を決めてしまうということは結局ジョブ型としては採っていないということになると思うんです。
基本的に,文科省もジョブ型インターンシップをやっていますけれども,海外を見ても,インターンシップというのは必ず学位を取った後にするのをインターシップと呼んでいて,途中でするものをインターンシップとは呼ばないんです。単なるアルバイトみたいな感じになると思いますので,そういうことを考えると,日本の今の就職に係るシステムそのものを変えていかないと,基本的に日本はジョブ型雇用に変わらないんじゃないかと思います。要は,中途採用のみがジョブ型採用であって,それ以外の,社会に出て中途的に採用される方以外は,もう全部ジョブ型ではなくて青田刈り採用になると思いますので,その辺は,先生,どのようにお考えでしょうか。私は,根本的に社会を変えていかないと,結局ジョブ型にならないんじゃないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。

【梶原富士通株式会社執行役員】富士通においては,中途採用は全部ジョブ型で入ってきますけれども,新卒の人たちに対しても,一部ジョブ型を,一部という言い方は語弊があるかもしれませんが,キャリア採用というか,ジョブ型を入れています。学生がどういう仕事に就きたいのかという自分の希望を明確に持っていて,職種を決めて入ってきてくれる人たちが何割かいます。
そういった意味では,新卒の人たちに対しても,ジョブを意識して入ってきてほしいし,入社後はキャリアオーナーシップということで,自分がどうなりたいのかを自分で選択してほしいということを言って,社内の考え方や制度を変えてきているダイレクションがあります。昔は新卒を全員一括採用して,全員を研修で育てるといった世界でしたが,そこから,自分自身で学んで変えていってほしいという方向に舵を切り,状況はダイナミックに変わってきています。何をやりたいか分からない,あるいはどうすればいいのか分からないという状態を長々と引っ張らず,自分で選んでくださいと,ある意味,厳しい状況にはなっていると思います。

【菅委員】逆に言うと,結局大学が変わっていないということですね。それがはっきりしたということで,私は今,理解したんですけども,要は大学が結局変わろうとしていない,企業はジョブ型に移行しても構わないと思っているにもかかわらず,大学は相変わらず何も変えていなくて,大学がここで決断して,ちゃんと学位を取ってから就職活動しなさいと決断してしまえば,あるいは,そういうオポチュニティーをちゃんとつくれば,本格的に日本もジョブ型になっていくのかと今,感じました。どうもありがとうございます。

【湊部会長】どうもありがとうございます。それでは,小西委員,どうぞ。

【小西委員】小西でございます。梶原様,どうもありがとうございました。
1つだけ質問なのですが,今日のお話の前に,富士通グループの統合レポート2021を簡単に予習させていただきました。トップメッセージの中に,「『サイロ』を超えた発想で,新たな価値創造に取り組む文化が浸透している組織」を目指すということが書かれていたと思います。現在の企業の1つのキーワードが価値創造だと思うのですけども,価値創造ができる人材は,じゃあどういう人材なのだろうと,自問自答をしているところなのですが,中教審の議論の中では,特に大学院というのは,社会ニーズを取り込んだ教育をしていかなければならない,研究は当然なのですが,そういうことを教わりました。ところが,新卒者の学生が,何が社会ニーズなのかということを把握することは,なかなか容易ではないと考えています。そういう意味において,中途採用やキャリア採用の人たちはそれなりの目的意識が社会経験を通して持っていると思うのですが,新卒者が富士通様でも多いと思うのですが,そういう社員の人に対しては,大学院でリカレント教育をさせることが有効かと思います。つまり自分の職について何が重要なのか,どんな新しい知識が必要なのかということを把握させて,そして大学院に派遣していくということが有効なのかとは思っているのですが,リカレント教育のために大学院への派遣というのは,富士通様ではどのように考えていらっしゃるのかということを教えていただければと思います。

【梶原富士通株式会社執行役員】企業として,システマチックに大学院に派遣させるというような取組はしていません。先ほどキャリアオーナーシップの話をしたんですけれども,企業が何かを提供してあげるということよりも,自分で何かをやりたい人には,そういうパスが存在しているということです。例えば,大学院で学び直したいということを希望する人に対しては,例えば休職して1年間学んでもらうということが制度的に可能ですということがベースにあります。
先ほど,社会ニーズがなかなか分からないのではないかということをおっしゃっていらっしゃいましたが,当社に入ってくる若い人たちは,どちらかというと,いわゆる社会課題を解決したいというマインドセットが非常に高い状況です。こういう人材を求めているということを言っているからというのも半分あると思うのですけども,こういう企業だから自分はこうしたいという,お互いのウィン・ウィンといいましょうか,相思相愛の中で選んで入ってくる人たちも多くて,社会の課題について,こういうことをやりたいから,富士通という企業を使って自分の目的を実現したいという声を上げてくる人が,新入社員の中にも多数いるという状態です。もちろんそうした人ばかりではありませんが,切磋琢磨し,周りを見ていく中で,お互いに影響し合っているというところはあるかと思います。そういった意味では,あらゆる形で場を提供してあげるといったところに,会社として腐心しているというところです。

【小西委員】ありがとうございます。個人の意識が非常に高くて,システマチックに何かをというのではなくて,個人の資質に任せていると,そういうことですね。

【梶原富士通株式会社執行役員】はい。

【小西委員】ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,次は宮浦委員,お願いできますか。

【宮浦委員】宮浦です。梶原様,情報提供ありがとうございました。
2つあるんですけれども,まず1点は,経営層に人文科学・社会科学系の大学院卒の方が,修了の方が非常に少ないと。それは年齢構成にもよるとは思うんですけれども,特に人文科学・社会学系が少ないというのが少し意外だなというのが印象としてあって,経営層の方は理系よりも,事業形態や内容によると思うんですけど,人文科学・社会学系の方,経営経理,財務,人文科学・社会学系の方のほうが経営層に非常に入りやすくて,理系ですと,研究所所長とか実務系で,むしろ経営層に入りにくいというニュアンスがあったんですけれども,今すごくその辺が変わってきていると,そういう認識でいいかという質問が1点目です。
2点目は,先ほど来からジョブ型の話が出ているんですけれども,大学院の高い専門性をどう生かすかということで,理系ですと,その分野の研究開発力で勝負という感じで,仕事を変えていく若い人はすごく今,増えていますし,そもそも長く勤めようと思っていなくて就職しているという感じはあるんですけれども,人文科学・社会学系の方の場合は,ジョブ型でミッションがあって,じゃあ何で勝負しますかと,何という部分をどう設定すればいいのかというのが,3年,5年のスパンだといいんですけれども,その辺りは難しい側面があると思うんですけれども,その2点について,お教えください。

【梶原富士通株式会社執行役員】1点目ですが,人文科学・社会学系が少ないと申し上げたのは,博士課程を出ている人文科学・社会学系の人の経営層が少ないということで,学部卒の人文科学・社会学系の人はとてもたくさんおります。日本企業の経営層には,自然科学系より人文科学・社会学系のほうが多いです。ただし,人文科学・社会学系で博士課程まで行っている人は,そのものの人数が少なく,経営層の中でも少ないという実態です。
専門性を持った人材と意味でいうと,いわゆるシニアの方たちは,先ほどのバイアスの話ではないですが,自然科学系の人に対して,何となく専門性しかアピールしなくて,自分の専門にしか興味がなくて,企業としては,経営やもっと広く関心を持ってほしいという印象を持っておりましたが,最近ではそういった見方が変わってきているところもあり,実際に,最近入ってきてくる博士課程の人たちへの現場での評価は,すごく高いです。そこは大学での教育を含めて大きく変わっているのだなと感じるところはあります。数年前とは,認識が実際に大きく違ってきており,これから変わっていく方向性なのだと思います。
ジョブ型において,人文科学・社会学系のミッションをどう考えるかというのは,御自身として自分は社会に対して,この専門性で何をアピールできるかとか,そういうところを持っていないと難しいのかもしれないです。先ほど専門性を持った人を企業は求めていると言いましたが,ジョブディスクリプションを書いて,こういう人材が欲しいですといって,応募をかけますので,そこにかなった人は,どういう年齢でも,どういう背景を持った人でも,博士か否かは問わない状態で採用する形になっています。その人が会社の中でどう活躍していけるかというのは,その人の努力だったりするところもありますし,富士通の中では人文科学・社会学系の博士の数は少ないですが,その人たちは非常に活躍しているという事実もあります。ちゃんと自らで道を開いていける人はいますし,どうしたらそういう人を育てていけるのかを考え,社会に関心を持った人文科学・社会学系の人を輩出していただきたいというのが企業側からお願いになります。

【宮浦委員】ありがとうございました。ロールモデルを見せていくというのも重要だと思いました。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,佐久間委員,お願いできますか。

【佐久間委員】いろいろ課題はあるにしろ,人文科学・社会学系の人材を期待しているということで,心強い話をありがとうございます。
さて,川端委員の御質問とも少し重なる部分があるんですけど,ジョブ型採用,それからキャリア採用といったことも十分に考えられると思いますが,ただ,新卒の人をそういったキャリアにどうやって結びつけるかということは課題だと思います。もちろん度々話が出ているように,意識が高い学生は,放っておいても自然にそうなると思うんですけど,対象の幅を広げていくに当たっては,マッチングというか,そういうことが必要になってくるのではないでしょうか。
そこら辺,御社,あるいは企業側の取組もあるかもしれませんが,大学として,そういうことに関して何かぜひ取り組んでほしいということがもしあれば,ぜひそこら辺のお考えをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。

【梶原富士通株式会社執行役員】繰り返しになりますけども,企業として見ると,多様な人がいるという言い方になりますが,マインドセットを別のところで持っている人もいれば,どうすればいいか分からない人もいるますので,ロールモデルを見ていろいろ考えたり,メンターを設定して,アドバイスを受けられるようにするということを含めて,企業の中での人材育成についての対応はそれなりにしてきていると思っています。
そういう施策も打っているし,何か困ったことがあれば変えていけるようにというのが企業側のイメージなのですが,そういった意味で,大学に対して,期待ということで言うと,いろいろな場を提供してあげることと思います。一言で言ってしまいますが,例えば,1つの学部の人たちだけではなくて,マルチキャリアというのか,マルチディグリーというのか,ほかの分野の人たちとの経験の中でどういうことを学んでいけるかが重要だと思います。大阪大学のプロジェクトに少し携わっている中で,私がなるほどと思ったのは,場が提供されて,ほかの分野の人たちとの会話とか,プロジェクトを動かそうとすると,非常に皆さん生き生きとしていて,すごくいい経験だとおっしゃるんですよね。ということは,これまでそうした経験をしていなかったからだと思うので,ぜひ大学では,マルチのディパートメントでのプログラムを走らせるだとか,あるいは異なるセクター,社会や,あるいは企業の何か1つのプログラムでいいですし,そういうところの経験を積む機会,一般論で言ってしまうとリベラルアーツの教育がとても重要だと思います。企業に入ると,同じ路線で最後までいけるわけがないということも含めて,そういうベースを育てること,教養やリベラルアーツが非常に重要だと思います。何だか分からないので教養課程を取ったとういことではなく,それが非常に重要だという価値を実感させるような教育をお願いします。

【佐久間委員】分かりました。ありがとうございます。

【湊部会長】よろしいでしょうか。では,神成委員,お願いできますか。

【神成委員】梶原様,ありがとうございます。おっしゃっていることはよく分かりました。社会課題解決の問題意識があって,そして,産業界で活躍できるようなスキル,数学的推論とかデータ分析とか,そして,異分野とか産業界との連携的な研究なんかをしている学生がいるんだったら,それはもう企業としては是非入ってきてほしいとのこと。しかし,それは当たり前のことだと思います。一方で,先ほどおっしゃっているように,要するに学部卒の学生に対しまして,今までOJTと言われていたもの,これが今は企業内において,個々に目的を持って自主的に育成をしていくんだと。そして,それに対する個人の努力をサポートするような会社の体制もできているんだと。恐らく大学院から博士が出るまでの5年間という期間の余裕を考えると,その間に,今,富士通さんのような大きな会社であれば,少し人材育成の余裕はあって,5年後に芽を出してくれれば,もう万々歳だというような,日本企業ならではの学部卒人材育成というのがずっとうまくいってきているわけなんです。
それに対して,それと同等のことを大学院でもやってきてくださるんであれば,優秀な学生さんは非常にいいですよと,採りますよとのこと。これは当たり前のことだと思うんですが,ただ,いい人がいたら採りますよではなくて,今はもう企業としては,そのように5年間かけて,言うなればOJTでゆっくりと育てる余裕はもうないんだと。新規産業開拓のためには,もう即戦力で入ってくる人が欲しいんだというのがジョブ型人材マネジメントに移行している理由なんじゃないかと思いますが。もし,学部卒で5年育てるということの余裕が,企業としては相変わらずあるのであれば,企業としては,学部の学生を採って,自分の会社で通用するような形でもって育てていくというのが相変わらず主流ではないかと思うので,そこに,いい博士がいたら採りますよというのは当たり前で,結局何も変わらないんじゃないかと私は思うんですけど,どんなものでしょうか。

【梶原富士通株式会社執行役員】先ほど,企業や業界も様々であるし,人文科学・社会学系の領域はそれぞれ細かく見ないといけないと思いますと言いました。私が知っている企業は自社しかありませんが,当社のような業界では5年も待っていられないという状況があります。技術の進歩は早く,外資企業との競争も激しい状況です。今,なぜジョブ型への転換を急ぐかというと私の個人的な一番分かりやすい理解は,ジョブ型に切り替えないと,外資系の企業に,人材の採用で競り負けるということです。外資系は全部ジョブ型で採っているのに,新卒を取ってゆるゆると育てていたら,競争に勝てませんし,そんな企業には優秀な人材が入ってきません。新しい技術もどんどん入ってくる業界なので,従来のように5年かけて育成するということは,少なくとも当社のような業界では通用しないというか,それだと,もう生きられないという状態はあります。なので,即戦力という形で採りたいということです。
実際に採用を行っている現場に話を聞いても,キャリア採用で一定の専門性を持った人は即戦力になるので,そういう人たちを多く採りたいという声が上がってきます。だからといって,新卒採用の人を育てないのかといったら,もちろんそれはそうではありません。一定のカリキュラムももちろんありますし,こういう教育を受けたほうがいいということも提示しています。しかし,それを短期間に習得するのか,別のことに取り組むのかというのは個人の選択の範囲になるということだと思います。
ジョブ型と言いながら,まだ過渡期ではあるという状況ではありますけども,5年は待てる業界ではないです。

【神成委員】分かりました。ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,濱中委員,お願いします。

【濱中委員】濱中でございます。お話どうもありがとうございました。
簡単に1点,教えてください。人文社会系の人材に求めるものというものを御提示いただきましたが,人文社会系の「学部に求めるもの」と「大学院に求めるもの」の違いについて,改めて教えていただければと思いました。
例えば,大学院だとより専門的な,というロジックになるかとは思いますが,たとえば大学院卒として想定されているのは学部卒に期待されているものすべてがより優れていることなのか,それともとくにこの部分が,というものはあるのか,何か質的に違うものをお考えになっているのかということを教えていただけたらと思います。Society5.0などは,よく出てくるキーワードなんですけれども,その文脈での議論はやや抽象的というか,どうつかめばいいのかが難しいところがあるので,少し具体的な観点から,ぜひ御見解をいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

【梶原富士通株式会社執行役員】本当に個人的な見解となりますが,質を求めているので,博士号を取っていれば誰でもいいというわけではありません。また,学部だと質が担保されないということでもないと思っています。
専門性が非常に高い,あるいは分析力が高い,そういった可能性は,博士の人は確率が高いのではないかという考え方はありますが。
先ほど, AI関係で例を2つほどお示ししましたけれども,AIを社会実装する際に,いわゆるAI専門の研究者だけでは,社会を全部見きれていないとか,人に対しての関心が十分でないという可能性もありますから,そこは他分野の専門人材と協働することで,多様な視点や,不足しているノウハウ,専門性,そういったところを期待しています。
したがって,研究の中で人文科学・社会学系の人材に期待する場合の質と,今,人事や経理で働いている人文科学・社会学系の人に求める質とは異なるのだろうと思います。


【濱中委員】ありがとうございます。

【湊部会長】それでは,加納委員,お願いできますか。

【加納委員】梶原委員,どうもありがとうございます。同業ということもありまして,悩みを共有できたらと思っています。今まで人材採用,博士課程,修士課程採用のときに,私どもの専門性に関して,例えばICTですとかAIだとか,それからビッグデータですとか,こういった専門領域における期待する人材へのスペックというのはかなり細かく定義できるんです。ところが,人文科学・社会学系の人材ってどのようにスペックを切っているのかというところが,非常に我々,いろいろトライアルをしたんですけども,人文科学・社会学系の人材の採用に向けては漠然としたスペックしかできなくて,こういう領域を経験していた人とか,こういう研究をしていた人ぐらいとしか定義ができていないんです。
この辺り,ちょうど11ページ目の御意見のところで,1つ目の人文社会科学も幅広く,分野毎に丁寧に状況を見ることが必要ということも御提示いただいているんですけれども,この辺り,人文社会系の学生を採用するに当たって,どのようなスペックに対する工夫をされているのか,もしも何か取組等ございましたら,御紹介いただければありがたいんですけれども,いかがでしょうか。

【梶原富士通株式会社執行役員】今,事例的にお示ししたように,AIの特定プロジェクトに対して,人文科学・社会学系のアカデミアの方々と一緒に取り組む中で人文科学・社会学系の博士人材との連携をさせていただいているというのが正直なところです。今後,どのようにそういう人たちを社内に雇用するかという段階ですので,ジョブディスクリプションの中で具体的に,人文科学・社会学系の博士人材のスペックをこのように記載していますとお示しできるようなものは,現時点では持ち合わせていません。ただ,少なくとも,ある特定のスキルを有する場合やある領域に対して高い能力を持っているケースでは,博士であろうが,学部卒,あるいはキャリア採用で経験している人かは問うておらず,ジョブディスクリプションの中に,博士人材であることという要件は,今は入れていません。
そういった中で,自分がそのポジションに合うという人が来てくれるのであれば,その人と面談をし,何が専門性ですか,どういうことが自分の強みですか,社会に対してどんな関心がありますか,何を解決したいですかという議論をすれば,わかるはずと思います。博士だからジョブディスクリプション上に何か特別な要求を入れるかというと,実はそれはないのではないかと思います。今,企業で働いている博士を持っている人たちに対して,博士を持っているからこそ特別な能力があるに違いないと思って見てきたことはあまりありません。先ほど人文科学・社会学系博士の人数は申し上げられませんと言いましたが,人数は把握しているものの,会社の中でこの人は博士だという見方はあまりしていないというのが正直なところです。

【加納委員】ありがとうございます。

【湊部会長】大分時間も過ぎてきていますが,須賀晃一委員から手が挙がっていますでしょうか。よろしくお願いします。

【須賀委員】今のお話の続きをお伺いしたいんですが,オープンイノベーションによる研究の推進で,AIの倫理研究,このときに哲学,心理学,経済学など,学際的な研究者が入っているということで,こういう方々の御専門,例えば博士課程での具体的なテーマというのは,直接的に関係あるんでしょうか。
つまり,恐らくいろいろな技術者を雇うときには,その技術の専門家ということになると思うんですけれども,ここで言う倫理は,倫理学の専門家というのは,恐らく人文科学・社会学系の中の自分で博士論文書くというときになったら,それは倫理学の専門ではなくて,倫理学のどこかの領域の何かの専門ということに普通はなっているんだろうと思うんです。
つまり,今は人文科学・社会学系の博士人材というときに,非常に先ほど細かく見ていかなきゃいけないという意見の一方で,かなり採用される段階では,その方の専門をどうこうではなくて,むしろその方がやっている研究に対して何らかのシンパシーを感じて来てくれるんだったら一緒にやりましょうという感じになっているんだとすると,必ずしも専門が生きているとも見えないような気がしたので,哲学,心理学,経済学という中で,具体的にどんなことを専門とされている方が,こういうところでどんな仕事をされているのかというのを教えていただけると,我々はもう少し考えやすいかと思いました。よろしくお願いします。

【梶原富士通株式会社執行役員】細かく見ていく必要があると申し上げたのは,例えば当社に入ってくるとしたら,哲学を研究していた人だとAIに関係してできそうという印象を含めて,割と親和性がある気がするんですけども,文学や歴史学を研究されている人たちがどうかというと,当社にとっては少し遠いかもしれません。そういう意味で,人文科学・社会学系と一言で言ったときに,どういう分野に対して,どこの業界に対しては非常にフィットしやすいとか,少し離れているかということがあると思いますので,その辺を見たほうがいいと思うという意見を申し上げました。
哲学の中でも当然何をテーマにしているかはそれぞれ違うと思うのですが,AIでは倫理的な問題が出てくるので,そこに対して広く哲学と言ってしまっているところがありますし,ここで事例に挙げたのは,その人たちがどんなテーマを研究しているかというよりも,産学連携の中で倫理的な要素や,行動科学の要素から,一緒に研究しましょうということです。企業に入ると,その専門一本でずっとやっていけるというケースは可能性が低いと思います。

【須賀委員】もちろんそうですね。

【梶原富士通株式会社執行役員】なので,そこで転換できるような人に対しては,博士人材は,その転換力だったり,専門性を何か別のことに活かすということだったり,そういう機動力といった能力も高いという期待値はあります。
一方で,マッチしなくなった領域であれば,この会社にいることはないので,別のジョブを求めて出ていっていただくということももちろんあると思います。一過性であってもお互いの気持ちが合えば,どうぞ来てくださいということです。

【須賀委員】よく分かりました。どうもありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。そろそろ最後になりますでしょうか,小長谷委員,お願いします。

【小長谷委員】ありがとうございます。梶原様,今日のクリアなお話ありがとうございました。
それで,基本的に企業にとって必要なことは,自分のスキルをもう少しより普遍的なところに転換していく能力である,これは学術だけで生きる人の場合でも同じだと思います。好きなだけだったら,それはオタクであって,もう少し普遍性を持つところで考えなくちゃいけないので。そういう意味では,根本的にそんなに変わらないと,親和性を持って拝聴しました。
それで,質問は単純なことです。ジョブ型である真に能力主義になった場合,学位の有無というのは,お給料に違いがありますか。

【梶原富士通株式会社執行役員】違いはありません。というのは,学位で給料が決まるのではなく,年功序列的な要素も撤廃しており,その人の能力,達成度,パフォーマンスに応じた評価段階どこにいるのかというところで給与が決まるので,学位の有無は影響しません。こういう優秀な人を採りたいというときに,学士であったとしても,本当に優秀な人であれば,新卒ではなく途中からでも入れますし,博士の人も,もっと高い給料で,あるいはもっと活躍してほしいという期待があるときは,早く上がっていけるようなスキームにしています。したがって,博士号を持っていれば自ずと給与が高いかというとそうではありません。むしろ何ができるかというところで給与が上がっていく形です。

【小長谷委員】ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございました。大分時間も延長していますが,せっかくなので私も一言だけお尋ねしておきたいと思います。最初に企業の立場から見た課題と期待ということで幾つかお示しいただきました。この部会では,今回,特に人文科学・社会学系の大学院の在り方,あるいは学位というものの検討を始めているわけですけれども,企業から見れば,自分の能力なり強みが自分でイメージできていることが,非常に期待されると言われているわけですが,これは自然科学系ならある程度分かりやすい。「私の成果を見てください」で済むかもしれない。しかし,人文科学・社会学系の場合は,この発信がなかなか難しい,そういうリテラシーがまだ十分でないのかもしれないと思うのです。これはアカデミアサイドの話になりますけれども,どういう形でそういう発信をするかという習慣や様式がないと,あるいはそもそもそういう意識性が実はあまりないのではないかということは,ずっとこの間,議論になってきたわけです。
先ほどからジョブ型採用という言葉が出ていますけれども,企業から見たときに,自然科学系のように細かいスペックで見ていくようなことなのか,ジョブというもののレパートリーを一般的な技術科学系のものに比して,どれだけジョブ型のレパートリーを企業側が広げられるのか(それは必要に応じてということでしょうけども)という点があります。少しショックなのは,現況ではやむを得ないかもしれませんけれども,博士だから,つまり学位を持っているからというのは特に関係ありませんと仰ったことです。それはすごく日本的な感じで,良いとか悪いではなく,それが今の現実なんだろうなと思ってしまうんです。問題はなぜそうなのかということです。学位を持っているということは直接関係ない,要するに個人の資質なり技能なりを見るだけです,たまたまあなたが学位を持っているかあるいは持っていないかだけの話です,ということなら,学位を与える教育課程としての博士課程というのはそもそも何なのかというベーシックな議論に戻ってしまう,少し暗い話にもなりかねませんが。その辺のところで,企業から見て,特に人文科学・社会学系の学位保持者のような方々が,自分の強みなり能力を表現するリテラシーがまだうまくできてないという印象なのかどうか,という点が気になります。結局,「私を見てください」ということですべてを個人に預けてしまうというのでは,それは大学としてはかなりに無責任な話にもなりかねない。
どういう形で自分たちが自己表現できるのかというところが,日本の大学院,とりわけ人文科学・社会学系の大学院の側の問題なのかという気もしたのですが,梶原様からご覧になって,その辺りはどのような印象でしょうか。

【梶原富士通株式会社執行役員】学位を持っていると,自動的に給料を高くするというところまでの経験値が企業側にないという背景があると思います。
一方,博士課程の人が非常に高いパフォーマンスで,高い専門性をもって活躍できるというポテンシャルを評価できる場合は,例えば10年ぐらい先のことを見越した給与体系を提示することもできますし,実際にそういう人もゼロではありません。私が申し上げているのは,一律に,学位を持っているからこうだと言えるところまで,日本企業として経験値がまだないのですが,学位を持った上で企業に入りたいという優秀な人には,それに報いる給与体系をちゃんと持っていますということです。

【湊部会長】随分参考になりました。まだ日本の場合は,大学と企業や産業界という世界での,とりわけ人文科学・社会学系における学位の価値についてのお互いの経験値と言いますか,コンセンサスのようなものがなかなか醸成できていないということですね。

【梶原富士通株式会社執行役員】そこの話は,人文科学・社会学系であろうが,自然科学系であろうが変わらないと思うのです。博士号を持っているからこうですよねという話では,例えば5年の差があるということに対して,大学から5年以上の価値があるはずだと言われても,一律に6年分の評価として扱うというところにはまだないのですが,高いスキルを持ち,活躍する可能性のある人たちに対しては,6年や,7年分の評価として受け入れることができる給与体系になっています。人文科学・社会学系だから能力や可能性が分かっていないということではありません。
自然科学系の人でも,博士号を取った上で企業で働きたいという人は,高い目標をもって入社してくるのだろうということも含めて,そうした優秀な人材に対応できるような仕組みにしています。

【湊部会長】ありがとうございます。時間を延長してしまい恐縮ですが,皆様よろしゅうございますか。それでは,議題1は,ここで終了とさせていただきます。梶原様,本当に今日はどうもありがとうございました。

【梶原富士通株式会社執行役員】ありがとうございました。失礼させていただきます。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,議題2に移りたいと思います。議題の2は,人文科学・社会科学系の大学院教育に関する方向性ということで,中間取りまとめを予定しているわけですけども,そのためのたたき台といいますか,案を事務局で準備しておりますので,それを西室長からご説明いただけますか。

【西大学改革推進室長】事務局の西でございます。
お手元に資料の2と3がございまして,2が今回さらに補足的な資料になっています。資料3が中間取りまとめの方向性に向けた資料となってございます。
まず,資料の2からなのですけれども,少しはしょりながらいきますけれども,2ページ目の下段のところを御覧いただければと思います。チェックが2つついていますけども,前回までの議論をまとめたものがずらっと並んでおりまして,人文科学・社会科学系の大学院教育の長所を生かしつつ,キャリアパスの開拓等に向けた改革の方向性を専攻や学生,教員の規模も踏まえつつ検討して,これを中間取りまとめとしてはどうかと,かなり差異が見えてきたので,それをきちんと踏まえる必要がありますよねということを考えてございます。
それをするに当たって,今回,我々はいろいろなデータをお示ししながら先生方に御議論いただいたわけですけれども,それをアカデミアの外から見たときにどういう期待が寄せられているかということで,今回,梶原先生に外から見たときの期待等をお話しいただいたということでございますし,我々が議論してきたことについて,今度は大学の中で,当事者として,今は学生ですとか,最近まで学生でしたという方々には,このデータをどう見えるのかということで,外と中からの視点を踏まえて議論を進めていただきたいと思ったので,中のほうでアンケートをとらせていただきました。その紹介でございます。
3ページ目を御覧いただきますと,今回,関係者へのアンケート・ヒアリングというのを事務局のほうで実施をしております。対象は人文科学・社会科学系の大学院生及び修了生,教員を含むということでございます。文科省の若手の有志でやっている勉強会というか,ネットワークがございまして,それと部会の先生方から御紹介いただいた研究科ですとか,卓越大学院プログラムの採択でアンケートに協力いただける人を募ったところです。回答者は194名ありましたけれども,これまで議論をきちんと資料4で回答してくださった人の178名の回答を集計したものを紹介いたします。
4ページ目を御覧ください。今回のアンケートの回答者の属性でございます。現在の所属,左上ですけども,大学院,ポスドク,公的研究機関等で働いていますという人が47%,博士後期の現役の学生ですが23%,修士・博士前期ですが16%,あとはURAとか,今,会社で働いていますという方がいらっしゃいます。学歴につきましては,右上のとおり,博士課程後期,満退も含めて43%ということになっています。
今後の区分けですけれども,左下,主専攻の研究分野ところ,いわゆる人文科学というのには文学,史学,哲学を入れておりまして,社会科学についても法学,政治学,商学,経済学,社会学も入れております。その他は,いわゆる文系のくくりでありますけれども,その他とくくっております。これは学校基本調査の分類に従ったもので,便宜的にこのようにまとめております。
5ページ目を御覧ください。ここからが質問に対するアンケートの回答でございますけれども,自分に専攻分野におけるキャリアパスの拡大の必要性ということについては,一番多い青の部分が,アカデミック,ノンアカデミックともにキャリアパスの拡大が必要であるという回答でございました。次いで多かったのは,アカデミックキャリアパスの拡大が必要であるという方が2割程度,ノンアカデミックについては,人文系は8%,社会科学系は13%ということになっておりまして,やはりアカデミックのほうが期待は高いのかなということになっております。
右側,アカデミア志向が強いと感じますかというお尋ねに対しては,人文科学の方が「そう思う」,「ややそう思う」を合わせると,86%がアカデミア志向が強いとお答えいただいています。社会科学分野も73%となっています。
他方,個別にヒアリングしておりまして,右下ですけども,必ずしもアカデミア志向が強いというわけではないと思うと,何となく院卒で就職したというのはなかなか言いづらい雰囲気がありますと。実際にはアカデミアの外で就職できることも多いのだけれども,大学の雰囲気が学生の思考や視野を硬直してしまうような環境にあるのではないかといった御意見をいただいております。
6ページ目,自分の専攻分野において,キャリアパスの拡大に有望な職種は何があるかということ尋ねたときに,一番左がアカデミアですけども,その次に学校教育,次いで国家公務員,地方公務員と,その他教育・学習支援業といったところが有望だとみなされているということでございました。
7ページ目,社会で役立つ能力,民間等就職者,もしくは社会人経験者に対する質問でございます。左側,大学院で学んだ研究分野の専門的な知識や技能が仕事をする上で役に立つことはありますかとお尋ねしたときに,人文科学の方は4割が「ある」と回答し,逆にいうと6割の方が,別に専門分野の知識は役に立っていませんと回答しております。これに対して,社会科学は7割弱「ある」ということで,役に立ちましたと答えております。役に立ちましたと答えた場合の内訳については,右側,約7割弱程度の方が,専攻分野と同じ内容について役に立ちましたと言っておりまして,その他というところで,データ分析とか表現スキルが役に立ったという回答になっています。
次に,8ページ目ですけれども,社会で役立つ能力のその2です。専門分野以外の論理的思考能力や最先端の知へのアクセスすることができるスキルといったことが仕事をする上で役に立つことはありますかというお尋ねについては,人文系は8割,社会科学系は9割弱が役に立ちましたということになっております。具体的にあると回答した場合,その内容はどういうものですかということが右側にありまして,いずれの分野も自ら課題を発見し,設定する能力というのが役に立ちましたというのが8割程度を占めております。次いで,最先端の知へアクセスする能力,自ら仮説を構築し,検証する能力というのが2番目,3番目ということになっておりまして,やや人文科学に比べると,社会科学のほうが課題設定能力以外の能力についても評価は高めに出ているということになっています。
9ページ目を御覧ください。標準修業年限をオーバーしやすいというデータがありましたが,それは何でだと思いますか,というお尋ねです。一番多かったのは,学問の性質上,研究成果の創出に時間がかかるというのが74%,これが圧倒的でございまして,次いで,学位の取得に求められる水準が高いというのが43%になっています。
以下,同じようなところでございますけれども,ヒアリングで寄せられた個別の意見も含めて御紹介いたしますが,真ん中から中段,アカデミックな特性,自分の力でこれまでの研究史や研究手法を整理,体得するところから開始しなければならないとか,次のところにありますように,教員や同僚のテーマの一部を手伝って取得できるようなものではないとか,その次のポツは学会報告や論文投稿等の機会が少ないといった特性がありますということでした。その下は,大学院組織や教員,学生の特性ということで,その上のポツですけれども,学位授与に向けたマネジメント能力や意識も教員によって差があるとか,一番左下のところで,教員と学生とで博士号に対する価値観のギャップがある。右上に上がりまして,学位授与に係る基準が統一されていないと。属人的な判断に依存している場合があるとか,上から2番目の真ん中あたり,研究に対する指導方針が明瞭に示されていないため,学生が適切な指導を受けることができない。次のポツ,教員に教育者としての工程管理能力がなく,時間のリテラシー,時間の感度とか時間遂行意識が低い傾向があるという,なかなか辛辣な御意見をいただいております。その2つ先のポツですけども,教員も学生も個人主義的な雰囲気がある。その次のポツ,オーバードクターが,ある意味伝統となってしまっている。下から2番目,学生の見極めが入試時や研究計画策定時にできていないといった意見をいただいております。
なかなか率直な御意見をいただいたという印象でございますけれども,10ページ目を御覧いただければと思います。オーバードクターが長いと,大学教員の正規で採用される割合が低いという傾向があるというデータをお示しして,これは何故だと考えるか聞きました。左上の上から3つ目のポツ,学問分野や研究科,研究室に問題があるとオーバードクターしやすい環境が生み出されやすい。その下,成果発表に係るハードルが高い場合,学位取得の難易度が上がれば成果は少ないので,結果的に正規雇用にもつながりにくい。標準修業年限で修了させる研究会やゼミでは教育に対するモチベーションが高く,スキルや業績獲得のサポートが手厚いと。研究室の指導教員,PIの学位や教員採用に対する考え方,研究者として1人前の証が博士号である等が影響している。
右側,採用側,こちらは大学側ですけども,一番上のポツですか,研究遂行能力やマネジメント能力,計画性が不足しているとみなされ,研究者としての資質が相対的に低く見積もられるのではないかと。3つ目のポツ,雇用側の採用コストや給与の抑制のため,同程度の能力であれば若いほうが安く雇える。下の囲みにいきますと,その悪循環についてということです。在籍年数が長くなるほど,研究及び生活費を稼がなければならなくなり,括弧,経済的支援の支援期間も切れるためと。このため,研究時間が減って成果発表もできず,より時間がかかるという悪循環に陥ると。あと,一番下ですけれども,学生時代に非常勤講師を引き受けて,そのまま研究より仕事が忙しくなってしまうことがあると。集中的に時間やお金を投資できず学位取得が遅れ,業績,大学の雑務等のノウハウがないまま,40歳くらいになると受けられるテニュアトラックが少なくなり,非正規雇用を続けざるを得なくなるといった構造があるのではないかといった御意見でした。
11ページ目,人文科学・社会科学系は,大学院生の研究時間が相対的に少ない傾向があるということはなぜですかと尋ねております。一番上のポツ,自然科学系に比して,実験等による研究時間の拘束が少なくて,研究の遂行が自身の裁量に委ねられるから。4番目のポツ,共同研究が少なく個人研究であるため,チームとしての進捗管理を受けないから。一番下のポツ,データのとおり,本当にあまり研究に取り組んでいないのではないかと,括弧,個人主義,チームでやるよりも個人主義的であるということも影響していて,どうしてもそれだとだらけやすいのは自然なことなのでは,という感想でございます。
その次,博士の学位論文のテーマ決定時期は遅い傾向にあるということについてどう考えるかということ,一番上のポツの後段ですけども,研究テーマは自分で考えるという規範があるからということ。3つ目のポツ,法学等では博士論文は1冊の単著として出版できるような内容にするという伝統があり,それが伝統的に自分の著書として残ってしまうので慎重なテーマ決定が求められるから。その下のもう一個下,テーマを絞るために学ぶ分野の範囲が他の選考と比べて多いから。下から3つ目,結局は指導教員の能力によると思う。タイムスケジュールを含めた指導不足,学生の学位取得に主体的な責任があると思っている教員が少ないから。一番下,社会科学,政策系ではテーマの賞味期限が短く,次々に新しいテーマを扱う必要があるためといった御意見でございました。
12ページ目,人文科学・社会科学系の修士の満足度が高い理由は何だと考えるか,一番上,これも圧倒的ですけども,自分の興味関心により適合した研究テーマに取り組めたから,2番目が自己の裁量や主体性が求められ,成長につながったからというのが圧倒的に大きくなっています。その他の意見でも,下のほうにまとめてありますけど,一番上のポツ,仕事や生活に直接関係する内容が多いから,特に社会科学系について。4番目のポツ,自然科学系に比して研究室の制約やしがらみがなく,個人主義で自由だからと。一方で,指導教員とのマッチングがうまくいかない場合は満足度が低くなるといった御意見でした。
13ページ目,人文科学・社会科学系の大学院教育改革に必要な組織的な取組について,いろいろ中教審等でも,こんな取組をやったらどうかということで,今までいろいろ示しておりますけれども,それを全部テーブルに並べてやったらいいのではないかということで並べております。上に行くほうが,やったらいいのではないかというのが右軸に寄っております。やらなくていいのではないかという回答が多いほうが左軸に寄ってくると。一番上が,寄附等,企業等から大学院教育に使用可能な外部資金の調達というのが一番多いのですけども,どうやってあなたの研究に企業がお金を出してくれると思いますかと尋ねたら誰も答えられなかったので,なかなかこれは,まさに経営側の先生方が一番苦労している部分かと思いますので,これはこれで置いておいて,2番目の外国の大学等での教育研究の機会の提供といったこと,3番目,異分野の教員や学生間で切磋琢磨できる環境の整備といったことが,当事者としてもこれは必要だと感じていらっしゃるということのようです。4番目のが,またお金の話なので一旦置かせていただいて,次はメンターによる授業外のサポート,研究指導の観点での教員の業績評価,大学院や指導教員からの紹介等によるキャリアパスの確保,大学等での産業界との対話というところが上から並んできていて,以下は大体同じぐらいなのですが,特に,逆に評判の悪かったワースト3が,プログラミング等,理工系の素養に関する教育,複数専攻制の設置,研究室やゼミのローテーションというのが人文科学・社会科学系の中の人からすると非常に受けが悪いということでございます。
14ページ目は飛ばさせていただきまして,15ページ目でございます。組織的な取組についてどういうことが必要ですかということを自由記述で書いていただきました。左上,マネジメントの向上,教育の資質向上というところですけども,年限超過を当たり前とみなす風潮を改める必要があると。3年で論文が書けるわけがないという意見も理解はできるが,その分野が押しなべて困難というわけではなくて,年限内で終了できるテーマを設定するように指導すべきだといった御意見。2番目のポツ,実態に合わせて修業年限を変更するというのは,国の経済的支援の枠組みに合わせる観点からも,大学としては取りづらい選択肢だと。ただし,これは大学の理事の方からの御意見でございました。実際,卒業までに5年,6年かかるのが当たり前なのだから,そこに標準修業年限を合わせるということは考えられませんかといったお尋ねに対して,実際にはそこでの国の支援やお金の問題もあるので,そこでやってしまうと1人負けになってしまうから難しいですということでした。ただ,標準修業年限を据置きにしても,実際の修業年限の実績を公表して現実を知ってもらうということは現実的に有効ではないということでした。
次のポツ,大学院生は研究への主体性がより求められることは大前提だが,教員が大学院生の主体性に頼ってばかりで研究指導を怠るため,大学教員の研究指導についてチェック体制を敷くべきだと。次のポツ,教員の時間的管理能力を養う機会の整備が必要と。民間でのインターンシップは,むしろ大学教員と大学職員に課したほうがよいといった御意見がございました。2つ目の下,一番下のところですけども,組織としての標準的な業績評価は,専攻分野ごとの研究,教育事情から乖離するため形骸化しやすいと。一方で,複数教員や組織的な指導体制をやることが必要ではないかといった御意見でした。
右側,横のつながり,チームとしての教育研究について聞いております。一番上のポツ,これは,今,オックスフォードにいる,法学で行っていらっしゃる方のコメントでしたけども,欧米では学際的な研究会が盛んであり,例えば法学分野では,AIや文化芸術との関わり等,非常にオープンで,自分でオプトインして興味関心を広げることができると。毎週,自分たちの関心のあるテーマについてどう思うかといったものをみんなで議論するオープンな場があるということで,それに比較すると,日本の研究というのは孤独な印象が強いということでした。
次のポツ,学生間で切磋琢磨できる外部資金,クラウドファンディングやアイデアソンのプラットフォームを見つける,参加するための取組が必要。チーム研究,チーム教育はこの指とまれ方式,プロジェクトベースで実施しないと真の融合とか総合知にはならないと。ただ,人文科学,社会科学のボトムアップの文化も重要であって,社会課題に向き合う機会の提供が必要だということ。これはラボローテーションが不人気だった理由ということで書いていただいているのですけども,専門の教員が各分野1名,2名という状況でラボローテーションは機能しないでしょうと。ただ,配属後に違うところに移る,移動が可能な仕組みは必要ではないかと。学生の定員が教員によって埋まりきっていないからこそ,円滑な移動が可能な部分もあるので,そういったものを取り入れたらどうかということでした。
次のポツ,人文科学・社会科学系では実験設備等による制約が少ないことを踏まえれば,オンラインで専門の近い教員から指導を受けられる緩やかなラボローテーションとか研究指導の連携も有効であると思われる。複数大学間のネットワークによる学生指導や教育プログラム,キャリア支援という仕組みにおいて,特に規模の大きくない大学では,ほかの大学との連携ができるのではないかといった御意見でございました。
以上が,ざくっとしたアンケートのまとめでございます。以下,その後,我々のほうで探してきたデータを少しだけ御紹介させていただきますと,18ページ目の真ん中,研究指導の頻度と満足度というのがあります。真ん中に表の5-2というのがありまして,指導教員の研究指導の頻度はどのくらいですかということに対して,文系のところに赤枠を引いていますけども,週に1回以上は10%,年に数回程度しか研究指導の頻度はありませんというのが25%もいるという数字になっています。これは信じがたいのですが,ただ,念のためですけども,このデータは2003年のデータでございまして,20年前ということになっていることは一応御留意いただければと思います。
19ページ目,表の5-4ということです。大学院生の研究テーマと指導教員の研究の関係について,文系の方の一番右ですけども,指導教員が得意とする研究領域とは異なったテーマで大学院生は研究しているという割合が36.4%いらっしゃる。それについて,満足度について聞いたのが5-5です。文系の一番右を見ていただくと,指導教員が得意とする研究領域と異なったテーマで,指導の満足度について十分ではないというのが23%いらっしゃいます。これはもう1個下の理系のカテゴリーで見ても,30.2%と非常に不満が強いということになっておりますので,入った研究科と専門があまりに違い過ぎるといったところに対しては満足度が低くなってしまうということでございます。
20ページがそれと同じような話でして,研究テーマがずれてくると,どうしても学位取得に必要と考える年数とか,実際の学位を取れる見込みの時期というのが非常に長くなってくるということもデータとして出ておりました。
21ページ目,企業における大学院修了者の採用状況でございます。カテゴリーとしては,上が学部,真ん中が修士,一番下が博士でございます。それぞれのカテゴリーの上が文系で,下が理系ということになっています。文系修士を見ますと,真ん中の緑が一番多く,採用する年もありますというのが52.7%。理系は毎年採用していますという割合が一番多く,45%になっています。博士になりますと,文系の博士学生の採用については,採用していませんというのが75%,理系だと50%という形になっています。
22ページ目,文系の大学院修了者の採用実績がない理由について,企業に問うております。これが左上を御覧いただきますと,文系からの応募がないからですというのが5割なんですが,企業側にとって,文系大学院レベルの専門性を求めていないからというのが43.6%という回答でございました。こちらのデータは平成27年ということで,7年前のデータでございまして,少し先ほどの富士通の梶原先生のお話からすると,この辺の状況が変わってきている可能性はあろうかとは思います。
23ページ目,企業の配属先と大学院で学んできたことの関係性について問うています。文系の修士および博士が上のほうです。専門性を考慮するかというと,あまり考慮していませんというのが一番多くて4,修士が45.5%で,博士が46.2%,まあ考慮していますというのが緑になっています。他方,図の58,下のほうのグラフというのは理系の分野です。理系の修士で学んできたことの専門性を考慮しますかというと,まあ考慮していますというのが58.2%,博士だと,考慮していますというのが49.7%ということになっているところでございます。
24ページ目,採用後の印象について問うております。大学院修了者の能力全般に対して,採用後の印象について,修士について,ほぼ期待どおりは72.3%ということに対して,博士後期については57.1%がほぼ期待どおり,また,分からないという回答が非常に多くなっています。この辺が,先ほど梶原先生との意見交換でもありましたけれども,強みというのがPRできていないし,そこが企業としても生かしていないということの理由なのかと思います。
25ページ目,今度は,こちらは大学院研究科としての人材輩出の考え方と実際の進路状況について,対比をしているものでございます。上の表の博士について,黄色のところを御覧いただきますと,博士課程を修了して,うち大学教員や研究者になった人というのが上の段に書いていますけど,22.1%。既に前回,前々回で御紹介しましたけど,その他という割合が58.3%で非常に多くなっています。他方,大学としては,どのような人材をどの程度輩出することを目指していますかというお尋ねが,その下の枠でございまして,パーセントでなくて,割合表示になっているのですけれども,大学の人文科学の博士課程としては,それ終了後に大学教員や研究者になってくれるだろうと思って教育をしていますというのは54%です。実際には22%しかいないので,ここにギャップがありますということですし,その他という割合が13%なのですけども,実際にその他という割合が58.3%いますので,教育のカリキュラムの意図している部分と実際とは相当かけ離れているということが言えると思います。
というのが人文科学でございまして,26ページが社会科学です。同様に見ますと,社会科学の大学教員,アカデミアに残っていますという割合が35.8%なのですが,アカデミアに残ることを想定していますといった教育課程は,50%,ここでギャップが生じていますし,その他のところというのが10%と43.6%ということで,実態と教育課程のイメージとしては,かなりずれがあるということでございます。
27ページです。人文科学・社会科学修了者に求められる能力と身に付いた能力ということで,左側が,これは企業にとって,仕事をする上で求められているということが,学生さん自身ですかね,仕事をする上で求められる能力というのが,一番上が他者と協働する能力が一番高いのですけれども,実質,大学院で身に付いた能力というのは,他者と協働する能力というのは,下から3番目の22%ということになっておりまして,ここには大きなギャップがあるのかと。民間企業のニーズは高いものの,実際大学,大学院で身に付けられる能力ではないということになっています。他方,自ら課題を発見し,解決に挑む力とか,あるいは青い下線を引いていますけども,高度な専門的知識,文章を書く力とか,あと論理的思考能力というのは,企業の求める力と大学院で身に付く力ということがある程度,一致しているのかと思います。
29ページ目,こちらで最後でございます。これは学生さん自身が修了した大学院,研究科において実施,提供されていたことと,もっとやってほしかったと思うことの対応関係の複数回答であります。企業の立場からは,先ほどのデータのように,協働しながらチームとしてやっていく能力というのを求めていますということで,こちらは真ん中の左で,チームワークを重視したワークショップやプロジェクト形式による授業や課題ということで,おおむねそのニーズと実際にやっていた割合というのが一致しているというところですけれども,その下,他の研究機関等との研究交流,共同研究に関しては,実施した割合よりももっとやってほしかったというニーズが高くなっています。あとは,左下に大きく赤で囲んでおりますけども,就職支援等についてはもっとやってほしかったということになってございます。
資料2が以上でございまして,これらを踏まえましてというか,全ての議論を踏まえましてですけども,資料3を御説明申し上げます。
資料3の1ページ目に幾つかマトリクスといいますか,6分割しておりますけれども,これは繰り返しになりますので,今まで我々というか,この場で議論いただいたことの問題点などが並べてあります。これらを踏まえて,人文科学・社会科学における大学院教育改革の方向性としてどんなものが考えられるかというものを書いたものが2ページ目でございます。白抜きで書いていますけれども,自主的な問いというものの尊重と,教育課程として果たすべき責任の両立に向けてということが少し大きなテーマかと思って,上段に書いております。研究室が小規模で,テーマが細分化され過ぎているのではないかといった問題意識に対して,教育研究力の集約による学生のニーズに沿ったきめ細かな研究指導や組織的な支援ということで,例えば大学院間連携を通じたバーチャルなチーム型教育研究指導体制やキャリア支援体制を構築してはどうかと。学生の視野を拡大したり,その価値を社会的にもっと広げていくということが必要だという観点で,学生と社会の双方に大学院修了者の価値や社会的通用性の気づきを与える取組が必要ではないか。例えば現代的な社会課題に挑み,新たな価値創出を目指す多方面三角型の教育プログラム,プロジェクト,プロブレム・ベースド・ラーニングみたいなものが必要ではないかと考えました。
あと,教育課程,研究指導の質保証ということでございますけれども,いわゆるディプロマポリシーとかカリキュラムポリシーは大学院でも定めることとなっていますけれども,それが研究室個別にちゃんと徹底されているかというと,恐らくそうではないということでございますので,そういった方針に準じた研究指導状況をちゃんとやっているかということを,各研究指導を研究室で可視化をしていただくと。それを大学としては,きちんとやっているという管理をするということ。各研究科を定める標準修業年限と,実際,修了した学生さんの実績を公表するといったことが考えられるのではないかと思っております。
次,大学教員としてのキャリア展望の可視化と充実ということで,アカデミックポストが非常に限られておりますので,にもかかわらず,そこに希望を持って,ずっと学生さんが残っているということでございますので,正規に採用できそうだというポストに対して,ある程度,有望な学生さんに対しては,少し取り出しをしてといいますか,ファストトラックのような形で,これに合わせて,研究実績だけではなくて,例えば対価を払いながら研究指導能力があるかどうか,もしくはそれを育成するためのプレFDを実施することですとか海外経験を早めに積ませるといったこと,大学側としては,教員採用に関して基準や要件,必要な業績等を可視化するといったことが,私はアカデミアポストが得られそうだとか,これが足りないから頑張ってみようということの透明化につながるのではないかと思います。
これらを通じまして,輩出される人材イメージですけれども,これらの人文科学・社会科学系修了者の強みを,特に課題発見力とか問いの立て方について強みがあるということが明らかになってきましたので,これに加えて,多様性や異文化の中でいろいろな人と共創,他者と共創しながら広く伝える能力ですとか,課題を俯瞰して解決に導く力ですとかというものが人材養成のイメージとしてはできるのではないか。社会全体にとっても人文科学・社会科学系の振興によって,豊かさを創出していくと。ウエルビーイングの向上でありますとか,世界を先導するような社会的価値観みたいなものを,もう少し大きなスケールにおいて社会の役に立つというような人文科学・社会科学系のプレゼンスを高めていくということにつながるのではないかと考えております。
あくまでもたたき台でございますので,先生方の御意見,また,御議論いただければと思います。以上でございます。

【湊部会長】ありがとうございました。今回,さらに付加的なデータもつけていただきました。これまで相当量のデータを検討してきましたが,人文科学・社会学系の大学院の特性といったものが,かなり驚きの部分も含めて明らかになってきた中で,今回は特にそれはなぜそうなっているのかという当事者側からの理由も含めて,データを集めていただきました。
今回のデータを見ると,そういう理由だったのか,というのが結構分かってきたところもあると思います。これまでの一連のデータ,とりわけ学生の立場から見た,学生目線での現状,あるいは問題点等について,主にそれに立脚した形で,今後の人文科学・社会学系における大学院教育の改革の方向性として,幾つかの論点を挙げていただいたということでございます。そういった論点に基づいて,今後の方向性はかなり漠然としていますが,何とか院部会としての中間まとめを提示できないかということで,今回は粗々ですけれども,原案を事務方からお示しいただいております。
今日は残り,あと10分でございますので,もしこの論点整理や改革方向性の原案について御意見があれば,あるいは遡って先ほどのデータの中で,もう少し説明してほしいということがあれば,少し議論をさせていただきたいと思います。どなたからでも結構ですが,いかがでしょうか。最初に,お手が挙がっておりますのは,迫田委員,お願いします。

【迫田委員】ありがとうございます。今日は貴重なデータをいただいて本当にありがとうございます。前回,疑問だと思っていたところがクリアになったと思っております。
特にアカデミア中心の育成になっているというのは,間違いのないことではないのかと思いますし,振り返って,自分たちの世代を考えてみますと,あまり我々の世代で修士に行く人もいなかったし,ましてや,博士課程というのは学問を目指す人以外は,まず希望しなかった,それが今の経営層の現状だと思います。今,修士のところまではある程度変わってきたと思いますが,博士課程はまだまだ難しいと思います。
ただ,先ほど梶原先生の説明にもあったように,企業は採りたいと思っているというのは,信じていただいていいのではないかと思います。経団連での議論ということで紹介いただきましたが,あれは産学協議会での議論内容でして,大学院レベルの教育が必要だと,幅広い教養が必要なんだということに関しては,少なくとも経営者レベルでは完全に一致しているし,それについて,大学の先生方も全く一致した意見だと思います。そういう意味で,まとめを見ていて人文社会系で心配なのは,現状からのスタートになっていないかという点です。もっともっと人文科学・社会科学系の博士卒,あるいは修士卒の方々が,社会で活躍できる,そういう土壌をつくっていくことが,我々として提言すべきことではないのかと思います。
あるべき姿からバックキャストして手を考えて,変えていく必要があると思います。今までのアカデミック中心を少し手直しするだけでは根本的な解決にならないのではないでしょうか。今のような先の見えない世界の中で,テクノロジーがどんどん進む中で,先ほど出ていたAIと倫理の問題だけじゃなくて,様々な問題が生じてくると思います。このような時代には,高度な知見を持った方,いろいろ課題を発見する力のある方が,絶対必要だと思うので,そういう方をたくさん社会に輩出していくためにはどうすればいいかという問いの進め方に変えていくべきではないかと思います。
そのために,じゃあ第一段階として何をしようかと考えていかないと,手直しで終わってしまうのではないかと,そこが非常に心配な気がします。ぜひこの辺,まだ引き続き議論できたらと思いますので,よろしくお願いします。

【湊部会長】ありがとうございます。もう少し必要な人材像について真正面から向き合って検討した方が良いのではないかという御意見であります。ありがとうございます。
それでは,濱中委員,どうぞ。

【濱中委員】ありがとうございます。濱中でございます。大変貴重なデータをありがとうございました。興味深く拝見いたしました。
取り上げさせていただきたいのは,スライドの13枚目なんです。「人文科学・社会科学系の大学院教育改革に必要な組織的取組について」のところで,「研究室やゼミのローテーション」「複数専攻制の設置」「プログラミング等,理工系の素養に関する教育」の3つが人気がないという点が象徴的だと思いました。この3つが人気がないのは分かるような気がしまして,というのは,大学院生の最大の目標は主専攻をしっかり学ぶことに置かれています。一方で,大学院時代は意外と短い。私も大学院で教えておりますけれども,修士の2年間は就活の関係もあってあっという間で,博士の5年間でできることも実はかなり限られています。そうした中で,副専攻だったりプログラミングだったりとか,ローテーションといったことに関われる余裕は実際ないというのが,この結果に反映しているのだろうという気がします。
主専攻の安定というのはとても大事なんですけれども,他方で主専攻を安定させさえすればいいという時代でもなくなっていて,では,そうしたらどうしたらいいのかということなんですが,梶原先生のお話に刺激を受けて申し上げると,主専攻の相対化という観点が大事なのかなという気がします。様々あるディシプリンの中で,自分の主専攻は一体どこに強みを持っているのか,これが見えてくることで,ようやく異分野との共同作業ができるようになるのではないかと思います。こうしたことを考えたときに何が大事かといえば,資料3で御提示いただいた方向性の案のところの,2つ目のポツのところ,学生の視野拡大と価値の社会的認知というのがキーになってくるのかなということを思って見ておりました。
要は,異分野の人たちと接点を持てるような状況を,そして,その中で自分の主専攻の意味や役割を考える機会を設けることが必要なのかもしれません。
先日,早稲田大学のシンポジウムで,そこで,科学史がご専門の小林傳司先生が,早い時期からの学際的な交流が大事だと強調されていたのが印象的でした。大学院の時代から,人文系でも社会系でも,理工系の人とどんどん触れ合ったほうがいいと。接点を持ち始めたときは十分に理解ができなくても,知り合いができるだけでも,その後に繋がるし,全然違うということをおっしゃっていたのが興味深かったです。そういうことを考えると,学際的な場の意識的形成というのが,今後の大学院で大事になってくるかもしれません。私の記憶だと2000年代の大学院の改革というのは,組織としての教育をいかに構築していくのかというところに力点があったはずですが,そこのところが結局どうなったのか。いずれにしても,組織としての大学院というキーワードと思い返しながら考えると,2000年代の改革の延長上として,この問題を取り上げていくことも1つの視点として大事なのではないかと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。私も非常に重要なポイントだと思います。自分の強みを主張するためには,ある程度相対化して自分の特性や価値を明示化していかないといけない,その要素が今まで少なかったんですかね。自分に籠もってしまうと見えてこない。ありがとうございます。そういうことも,これから大事な視点になると思います。
時間も実はあまりないんですが,あと残りの方々,できれば3分ぐらいずつでお願いできればと思います。田中委員,お願いします。
【田中委員】どうもありがとうございました。今回,調べていただいたデータ,大変結構だと思います。大体,私の感覚で合っているということで,議論把握をするのに大変適切なデータだと思っております。
ただ,ここで,最後の方向性,中間取りまとめの2のところで,2つ目の中ポツ,学生の視野拡大と価値の社会的認識というところに関連して博士課程について発言したいと思います。私は博士論文というか,博士課程というのは人文科学・社会学系,自然科学系を問わず,全てのところで基本は,その分野におけるオリジナルな研究を遂行する能力を持つということだと思っています。先ほど来,日本社会の大きな組織で,学位取得者が少ないという話がありました。ということは,日本社会の経営層のトップのところとか,行政組織のトップのところにオリジナルなことを自分で考えて,自分でそれを実現するためにはどうやればいいかということを考えたことのない人があまりに多いという話なんです。ただ勉強して学べばいいというので,それぞれの組織の階段に乗っかって,一番上まで到達した人が多い。例外はあるにしても,日本の社会のトップには,オリジナルな研究を自ら遂行したり,オリジナルのことをやった人がほとんどいないということになる。
ですから,日本社会全体をもっともっと活力あるものにするためには,オリジナルなことを考えて,オリジナルな問題を発見して,それをどうやって解決するか,自分の頭で考えられる,研究できる人をつくっていかなきゃいけない。これが,私が大学院の博士課程の使命だと思っております。
しかしながら,現実の博士課程はそのような使命を果たせていない。現実には,修士課程から博士課程に行ったところの研究指導体制に十分な一貫性と予測可能性が欠落している。それがゆえに,年限どおりに実現できなかったりとか,それから,上手い指導教官に当たらないと悲劇になるとか,そういう話になる。文科省として,今後,大学院教育,とりわけ人文社会系を進めていくということであれば,きめ細やかな研究指導,組織的な支援というのを,ちゃんとした目に見える形のカリキュラムポリシーという形で,各大学が設定すべきであるということを慫慂していかなければいけないと思います。つまりQualifying Examはどういう形でやって,どういう審査体制でやって,それを通ったものが論文執筆に向かえて,その論文執筆の指導体制はどういう審査委員会の構成,3人以上5名以内とか,その中には外部の教員を1人入れるとか,これは大学によって,それぞれの見識が問われるわけですけれども,ここにもあるように,今のようなオンラインで指導ができるようになるということでいえば,博士論文審査委員会体制というのは,かなりそれぞれの学生の興味に沿った形,あるいは,オリジナルの研究を執行するのに沿った形で設定することはできるので,そういう形をぜひ,いろいろなところでつくっていただくということに向かっていただければと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。本当にそこが一番ファンダメンタルなところなので,最初に書かないといけないのかもしれないですね。教育機関として,どれだけきちんとしたものができるかということだろうと思います。ありがとうございます。私もそのとおりだと思います。

【湊部会長】村田委員,どうぞ。

【村田副部会長】ありがとうございます。私からは2点ございます。
この資料は非常にいいデータで,ありがとうございます。それを前提にして,案の取りまとめなんですが,正直なところ,先ほどの迫田委員と同じで,少し視点が違うなと思っています。といいますのは,今日せっかく富士通の梶原さんに来ていただいて,企業,社会にどう送り出していくかという視点が一番重要なんですが,これは残念ながら,博士課程の話が出てきたものですから,アカデミアをどう育てていくのか,博士論文は3年で取れていないよねとかという話に行っちゃったんだと思うんですが,人文社会系の問題では,修士と博士,これを切り分けて議論しておかないといけないと思うんです。今,修士がほとんど企業に入っていない。もちろん博士も入っていないんですが,そこをちゃんと切り分けて議論をするということが,まず第1点。その上で,企業,あるいは団体,官公庁も含めてアカデミアでないところにどのようにして人材を送り出すかということが重要だと。この2つの点をちゃんと分けて議論しておかないといけないと。
さらに,よりそこで一番重要な点は,今日,先ほど西さんが説明してくれた資料,いろいろなところに散りばめられているんですけども,教員の意識改革をしていくということが恐らく人文社会系にとって大事で,人文社会系の教員は,私の大学の大学院の指導は,基本的には,なかなか修士で社会に出すということはあまり思っていないんです。だから,とにかくドクターまで行かせて研究者と。今日の資料にも出ていましたから,その意識をまず変えていかないと,理系の場合は,もう既に修士が出るのが当たり前で,特に国立大学の場合は8割,9割が修士に行って,そして企業等に就職していくわけなんです。人文科学・社会学系,社会系はそれが全く,その発想すらない。さらに博士号のところで言いますと,恐らく,今,普通の課程,文科省が定めている課程でいうと,博士号というのは,いわゆる運転免許と同じで,一人前の研究者になりましたよねという運転免許と同じで,だから3年で取りなさいと。ところが,それは取れていないというのは,先生方の中で,ある程度まとまった形で集大成みたいなところまでいかなくてもいいけど,体系的にやりなさいという意識があるから,それは学生が取れないわけで,そこの意識改革も必要なわけで,抜本的な意識改革をどうしていくかということを考えないといけない。その制度設計を考えない限り,小手先のことを幾らやったって変わらないと,私はそう思いますので,ぜひその視点を入れてほしいし,入れないといけないと思っています。
私からは以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。御指摘の点は非常に重要な点だと思います。先ほどの議論に戻りますが,これは年限の定められた期間にきちんとやるべきことをやって学位を出す,資格を出すという教育課程なんだということを,教員側も再認識して取り組む必要があるんだろうと私も思います。ありがとうございます。その点はもう少し,手厚く対応したいと思います。
それでは,次に佐久間委員ですか,お願いします。

【佐久間委員】詳しい資料をありがとうございました。改革の方向性に関して,ここに挙がっていること自体は,それぞれいいと思うんですけど,先ほど村田委員からの御指摘もありましたように,じゃあ,人文科学・社会学系の皆さん,こういう改革をやってくださいと言っても,多分うまくいかないと思います。結局,資料2のほうで,散々な言われようをされていましたけれども,人文科学・社会学系の教員に意識を変えてもらわないとどうにもならなくて,例えば「学生の視野の拡大と価値の社会的認識」のところで挙げられているような新しいプログラムを入れるといっても,教員に理解を得ないままやると,「また余計な負担を増やして」という不満が教員から出て,それが学生にも伝染して,せっかく入れたのに厄介者扱いされてそのまま放置されることになってしまいます。
そういうことを考えると,教員にどうやって意識改革をしていただくか,それを盛り込まないと,結局何の意味もないということになりかねません。資料2で書かれていることからすると,資料3の書きぶりはかなりマイルドになってしまっているので,そこの方策はぜひ盛り込んでいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございます。分かりました。それでは,川端委員,お願いします。

【川端委員】ありがとうございます。1点だけ,大きい意味では,最初に委員が言われたように,博士の意義なんです。要するに,就職しないで博士に行ったからこそ得た能力が何なのかです。何十年も前の話なら,それはオリジナリティーといって,博士研究の研究成果の出版はネイチャー誌レベルでないとダメで,それが出ない限り学位を出さないみたいな時代があって,今はそうではなく各学生が博士課程でどんな経験をしたかという話にだんだん変わってきました。
その経験があるからこそ,要するに,民間に就職したらできない経験とは何ぞやというところがしっかりできているかどうかというのは重要なところで,また博士学生の売りになっている。これは自然科学系でかなり進んできました。一方で人文社会系も同様な観点での育成がやられていることはあるはずなんだけど,調べていただければいいと思うのは,分野や研究室ごとにこのようなことの重要性を認識し学生にそのような経験をさせているか否かのバリエーションがおおき過ぎるんじゃないかなと思っています。やっているところはやっているし,やっていないところは本当にやってない。例えば,調査費用すらお金も出さずに,学生の自分のお金でやってちょうだいと,そんな話にもなりかねていないのかと。そうすると,しっかりした社会に出る経験とか,対話の経験とかというのができない状態で,博士学位という話になっていっているような世界があるんじゃないかと思います。自然科学系は設備であったり,いろいろなものが要るので,博士はある程度の研究環境も含めたスペックのところで育成はされているんですが,人文社会系は極端にひどい例もあるだろうし,そういうものが出てくるでしょう。しかしメジャーとしては,そういう経験をどう本当に,研究費が与えられて,本当にどれぐらいやられているのかということを管理しなきゃならないし,プロモーションしなきゃならないかなという気がしていました。これがしっかり前に出ていくと,人文社会系博士と言えども,専門以外のところで活躍する世界が生まれるんじゃないかと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,波多野委員,お願いできますか。

【波多野委員】お時間になっておりますので,30秒ぐらいで。梶原さんがおっしゃっていたように,特にサステナビリティ,ESG経営が重視されてきていますので,人文科学・社会学系の人材が必要とおっしゃっている。しかし,経験値がないということもおっしゃっていました。非常に重要なポイントです。一方で,本日詳しい学生目線の貴重なデータをいただき、とても理解が進みありがとうございました。特に,人文科学・社会学系の学生は企業,産業界の方と接する機会が少ない,ということが分かりました。
また,産業界のニーズを把握している大学は産業界への就職率が高いという明らかな相関関係が示されました。これから国としても総合知の活用を重要としていますので,産業界の共同研究,研究プロジェクト,国の研究プロジェクトに人文科学・社会学系の方を必ず入れるなど,それぐらいのことをして,お互いに知るチャンスをつくるということが重要と思います。
また,菅委員がおっしゃったように,就職活動の時期の適正化は重要です。人文科学・社会学系も,自然科学系の人も大学を信じていただいて,大学でしっかり育成して,その価値を,実績を可視化して,採用していただくことが重要だと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,最後になります。加納委員からお願いします。

【加納委員】すいません,短く。今回,大学院教育改革の方向性ということで,報告させていただくことになると思うんですけども,社会への貢献という視点で見ると,社会に対するメッセージも,この中に1行でもいいので入れておいていただくといいかと思いました。特に「自主的な『問い』の尊重と教育課程として果たすべき責任の両立に向けて(取組例)」というところの両立というのを,社会側にもある程度の役割を持ってもらいたい,認識を持ってもらいたいというメッセージを何か入れられないかと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。今日は,想定より早く終わるかと思ったんですが,結果的に時間どおりになりました。随分,良い議論をいただきありがとうございます。
多くの委員の方々が,大体の方向性が集約されつつあるとお考えになっているように思います。今の人文科学・社会学系の大学院教育・研究指導そのものが,必ずしも明示的に示されていないことが多分問題点の1つであって,それと社会との関係性を,もう少し両方に働きかけてつなげていくような提案ができればいいのかなと思っております。
また,今日の皆様の意見を参考にさせていただいた上で,まだもちろん最終案とはいきませんが,修正案を順次につくっていきたいと思いますので,今後ともぜひよろしく御協力をお願いしたいと思います。
今日の内容は以上でございますが,事務局から連絡お願いできますか。

【西大学改革推進室長】ありがとうございました。
また,引き続き,事務局でも頭をひねって,やれることをできるだけちゃんと書けるようにしたいと思います。ありがとうございました。
次回につきましては,来月,6月16日の開催を予定しております。詳細は追って御連絡いたします。
以上でございます。

【湊部会長】それでは,少し時間が長引き,申し訳ありませんでしたが,本日の部会はこれで終了したいと思います。どうも皆様ありがとうございました。

―― 了 ――

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