大学院部会(第104回) 議事録

1.日時

令和4年2月16日(水曜日)13時00分~15時00分

2.場所

WEB会議

3.議題

  1. 人文科学・社会科学系における大学院生のキャリアパス等について
  2. 大学院におけるリカレント教育の振興について
  3. その他

4.出席者

委員

(部会長) 湊長博部会長
(副部会長) 村田治副部会長
(臨時委員) 加納敏行、川端和重、神成文彦、小長谷有紀、小西範幸、佐久間淳一、迫田雷蔵、須賀晃一、菅裕明、高橋真木子、塚本恵、長谷川眞理子、波多野睦子、濱中淳子、堀切川一男、宮浦千里の各委員

 

文部科学省

(事務局)増子高等教育局長、森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当)、里見大臣官房審議官(高等教育局担当)、新田大学振興課長、西大学振興課大学改革推進室長、伊藤大学振興課専門官 他

5.議事録

【湊部会長】それでは,所定の時刻になりましたので,第104回の大学院部会を開催したいと思います。委員の皆様には,お忙しいところ御参加いただき,誠にありがとうございます。
本日は19名の委員のうち,田中委員と長谷川委員が御欠席ですが,その他の17名の委員には全てオンラインで御参加をいただいております。
それでは,会議に当たりまして,まず事務のほうから事務連絡を少しお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【西大学改革推進室長】事務局でございます。会議に当たって何点か御連絡させていただきます。
ウェブ会議を円滑に行う観点から,御発言の際は「挙手」のボタンを押していただきまして,部会長から御指名いただきましたら,お名前をおっしゃってから御発言いただきますようにお願いいたします。御発言の際は,通常よりも少し声を大きく張っていただきますようにお願いいたします。また,発言時以外はマイクをミュートにしていただくようにお願いいたします。
資料につきましては,議事次第に記載のとおり,事前にメールでお手元に届いているかと思います。画面投影はいたしませんので,お手元の資料を御覧いただきますようお願い申し上げます。システムの状況によっては不都合があるかと存じますけれども,何とぞ御協力のほどよろしく申し上げます。
以上でございます。

【湊部会長】ありがとうございます。それでは,早速議事に入りたいと思います。
本日の議題の1番目は,人文科学・社会科学系における大学院生のキャリアパス等についてということでございます。
まず,事務局のほうで少し資料を用意してございますので,その説明から入りたいと思います。よろしくお願いします。

【西大学改革推進室長】事務局でございます。お手元,資料1を御用意ください。人文科学・社会科学系における大学院生のキャリアパス等についてという資料でございます。人文系に関しまして,議論する上にいろいろデータを前回,前々回から御提示させていただいて,エビデンスベーストの議論をしていただいております。その中でまた出てきた御意見等を踏まえまして新たに作成したデータがございますので,それを基にまた引き続きの議論をお願いしたいという趣旨でございます。
1枚おめくりいただきますと,1ページ目,背景データへの感想・御意見ということで,前回までにいただいた御意見の概要をまとめております。キャリアパスについての御意見ということで,人文科学・社会科学系における博士進学のほとんどが大学教員のキャリアパスを念頭に置いたものとなっているが,中略させていただきまして,いたずらに定員を埋めることは多くの非常勤講師を生むことにつながるのではないか。したがって,アカデミア以外のキャリアパスも拡大していかないといけない。また,ビジネススクールやロースクールといった専門職大学院の人材輩出の状況についても確認したいということ。あとは,人文科学・社会科学系におけるキャリアパスをフローで俯瞰できる資料があると良いという御意見をいただいておりました。
次は,標準修業年限の超過率の高さについても議論いただいておりますけれども,人文科学・社会科学系の研究課題のライフサイクル,研究に着手してから成果が出るまでの期間についての分析が必要ではないか。人社系のほうが自然科学系よりも少し長い傾向があるということで,そういった分析が必要ではないかということでございます。他の国でも日本と同じように,人文科学・社会科学系は,他の分野よりも博士の学位取得まで長い期間を要するのだろうかということ。また,博士課程への在籍期間が長い者がその後どうなっているのか,就職できているのかということも見る必要があるといった御意見でございました。
次に,教育・研究指導についての御意見でございますけれども,2番目の丸,教員の研究スタイルが非常に個別的でありまして,1つの課題を掘り下げた経験をメタ,横に展開するようなトランスファラブルスキルの養成といったものができていないのではないかといった御指摘。次ですけれども,中段から,社会科学系ではデータサイエンス等が入り込んできた結果,数量分析などの必要性が増して,下地がある程度共通化されてきているのではないかといった御意見。あとは,「自分たちの思うきちんとした教育をすれば,社会が受け入れてくれる」ということには必ずしもならないだろうということ。大学教員・研究者養成機能についても課題が存在するのではないかといった御意見をいただいておりました。
その他の御意見でございますけれども,ここの議論というのは,大学院に限るといった前提でやっていきますということと,あとは大学院生の国際性とか女性割合に関するデータもあるとよいということでございましたので,こちらについても参考という形で御用意させていただいております。
2ページ目,キャリアパスについてというのがございます。もう一枚おめくりいただきまして,3ページ目まで行っていただきますと,先ほど御指摘にありましたフロー図といったものでございまして,学校基本調査から作成をしております。3ページにあるのが人文科学系でございます。学士課程修了者が8万3,041人。真ん中の下から行っておりますけれども,このうち左側,8割程度が学士で民間企業,公的機関等というところに進まれると。一部,大学教員等になる方も学士でいらっしゃるというような非常にレアケースもありますが,今回,我々が興味があるのは,その上,修士課程に進む人3,553名。全学士課程修了者のうちの4.3%がストレートに進んでいますということです。ここに海外大学から825名が入ってきて,修士課程の修了者が3,927名。さらにこのうち17.2%が進学をして博士課程に進むということです。
博士課程のこの後のキャリアパスといったところで,左側,民間企業や公的機関等に進む人文科学系の方が約3割いらっしゃいます。右側,博士の大学教員というのが147名,15.6%。その上にぴょこっと出ておりますが,進学する人,留学する人,その他,いろんな準備をしていて,ステータスとしては,今何か違うことを考えているといった人。あと,返信がなかったとか,何をしているのか分からないとか,死亡された方が144名いらっしゃるというような状況になってございます。
続きまして,社会科学系の大学院生のキャリア形成状況ということで,4ページ目でございますけれども,同様に見ていただきますと,学士課程修了者のうち,修士に進むのが2.5%。非常に少ないかなという感じはいたしますけれども,修士からさらに博士に進むのが8.1%。この数字はいずれも人文科学系よりも割合としては少ない数字になっております。
これは後ほど少し触れますけれども,博士課程修了者のうち,博士として民間企業や公的機関に就職する人が340名,35.5%。大学教員になる方が21.4%。その他とか不詳・死亡の方という割合が非常に多いですねといったデータになってございます。全体のフロー図としてこういった状況でございますということです。
1枚おめくりいただきまして5ページ目,就職先・課程ごとの人文科学系の割合というデータを御用意しております。これは少しデータが見にくいので先に上のほうを御説明申し上げますけれども,全分野の修了者に占める人文科学系修了者の割合というのがまずありまして,それと各職業に就職した全分野の修了者に占める人文科学系の修了者の割合を比較しました。分野相対的に人文科学系修了者の就職者数が多い職業,少ない職業というものがでこぼこしてきますということになります。その上で,左側が修士課程,右側が博士課程でございます。就職者全体の3%とありますのは,修士課程修了者全体を100%とした場合に,このうち人文科学系の修士課程修了者というのが3%いますといったもの。例えば,真ん中,ぽこっと出ていますけれども,その他の保健医療従事者というのが20%になっています。修士課程修了者全体の中で,そのシェアを100%としたときに,保健医療従事者に占める人文科学系の割合というのが2割なので,相対的に文科学系の就職者数が多い職種と言えると思います。
もう一つ出ているのは,その他の専門的・技術的職業従事者でして,ここには,例えば行政書士とか,編集者,小説家,学芸員などが入ってまいります。こういったところにも数多く就職しているということだと思います。あとは事務従事者,販売従事者,サービス職業従事者においても割合が高い傾向になっておりまして,これは博士課程に進んだ場合もおおむね同じようなパーセンテージになりますけれども,その他の保健医療従事者という割合は博士課程修了者ではぐっと減っております。この辺は臨床心理士とか,そういった方々が修士まで行っても博士までは進んでいないのかなというふうに推察もされるところであります。
他方で人文科学系の博士課程修了者で一番大きな割合を示しているのは,その他の専門的・技術的職業従事者です。一番下の輸送・機械運転従事者が100%とかいうのもありますけれども,博士を出て輸送・機械運転従事者になった人はこの1人しかいなかったということなので,たまたま人文系で博士を取った方が1人いて100%になっているという見方になってまいります。
次,6ページ目でございます。先ほどが人文科学系で次は社会科学系でございますけれども,修士のところで圧倒的に多いのが,管理的職業従事者。これは博士もほぼ同じでございますけれども,企業のマネジメント層や公務員・議員などです。この辺に入るとMBAとかがメインになってくるのかなと思いますけれども,社会科学系の分野では,管理的職業従事者というのが非常に多いというふうになっております。あとは,保安職業従事者というのがありますけれども,この辺は防衛大学校とか自衛官とか警察とかということになっております。あとは,事務従事者とか販売従事者というところで,図の真ん中の辺りの職業が非常に多く出ているということになっています。
博士も同様の状況でございまして,管理的職業従事者や事務従事者,販売,サービスというのが多めになっています。人文科学系と社会科学系を比べると,管理的職業従事者のステータスに大きな差があるということが言えると思います。
7ページ目が補足ということで,先ほどお見せした棒グラフの,先ほど申し上げたような職業というのは具体的にどのような職業かといったことがそれぞれ書いてございますので,これを見ていただきながら,5ページ目,6ページ目を改めて見ていただければと思います。
8ページ目,これは9ページ目以降の資料の見方から御説明しているページになります。分野・課程ごとに,就職者の何パーセントがその職業に就いているのかということを,学士,修士,博士で比較していますということです。実物を見ながら御説明申し上げたほうがいいかなと思いますので,9ページ目を御覧いただければと思います。これは人文科学系でございまして,真ん中から右の部分で突出しておりますのが大学教員というところで,右上にオレンジで矢印を引っ張って42.8%と書いていますけれども,これは言わずもがなですけれども,学士卒よりも修士卒よりも博士卒のほうが,大学教員が求めているスキルに合致しているよということが言えると思います。
他方で,左側を見ますと,いわゆる文系的な職業が左側に並んでおり,管理的職業従事者は修士の段階でちょっと上がるんですけれども,博士まで行くとちょっと下がると。事務従事者というのは学歴が上がれば上がるほど,そこまでのスキルを求めていないのかなというような数字になっております。
先ほど少し御説明申し上げましたけれども,一番右側を見ていただきますと,その他の専門的・技術的職業従事者という者はやはり修士卒が高くなっていると。博士もそこまで低くはないというような状況であります。
10ページ目を御覧いただきますと,同じように,今度は社会科学系になります。先ほどの人文科学系と縦で見比べていただきますと,左側の管理的職業従事者や事務従事者で,やはり修士のアドバンテージが非常に高いのかなと言えると思います。ただし,販売従事者とかサービス職業従事者については,そこまでのスキルがその職業からは求められていないのかなというのが見てとれるということでございます。大学教員は博士号に圧倒的な強みがあるというのは,これはもう一目瞭然であると。
11ページ目を御覧いただきますと,人文科学系・社会科学系をざくっとまとめたものと,理・工・農・保,いわゆる理系分野でまとめたものを対比して並べてみたものです。左側の管理的職業従事者や事務従事者,販売従事者といった職業は,やはり文系のほうが就職者の割合が高いということと,真ん中辺りに並んでいる研究者,農林水産技術者,いわゆる技術者と言われるようなところには,理系分野の方々が強みを持って就職しているということが分かります。
12ページ目を御覧いただきますと,先ほど,管理的職業従事者というのは社会科学系に強みがあるということを少し御紹介申し上げましたけれども,これはほかの学問分野と比べても分野内の就職者全体に占める管理的職業従事者への就職者の割合が圧倒的に高いようでして,この折れ線グラフで見ていただくと,学士のところは,ほとんどどこも変わらないのですけれども,修士,博士となると,圧倒的に社会科学の分野が強くなっていくと。左側のパーセンテージで見ていただきますと,約8%の社会科学系の修士卒・博士卒人材が管理的職業従事者に就職しています。この中でやや気になるのが人文科学系なのですけれども,管理的職業従事者については学士,修士と上がるのですけれども,博士まで行くとがくっと下がるということで,管理的職業従事者に求められるスキルとしては,人文科学分野はあまり期待されていないのだろうかというような感じの数字となっております。
13ページ目を御覧ください。パブリックセクターである国家公務や地方公務産業への就職者割合に絞って見てみますと,同じように社会科学分野が非常に強いと。国家公務員のみで見たときも非常に強いのですけれども,人文科学分野は修士で強みはあるけれども,博士でその強みがなくなっていると。実際に国家公務員や地方公務員で人文科学の博士号までは現状必要とされていないというか,評価が正しくできていないのではないかということも言えると思います。
14ページ目,標準修業年限の超過についてというデータでございます。15ページ目を御覧いただきますと,こちらは前回も御紹介申し上げました,人文科学系だと86.4%,社会科学系では78.1%がオーバードクターということで,教育分野も多いですけれども,自然科学系の分野と比べるとオーバードクターの割合が非常に高い傾向がありますということを,前回御紹介申し上げました。
今回,さらに深掘りをしてみまして,それが16ページ目でございます。博士後期課程の在籍年数と就職先について分析したもので,オーバードクターまでして頑張った分だけいい職業に就けているというようなことがあるのかと思い調べてみたデータです。
まず,上の全分野と下の人文科学と社会科学を両方合わせたもので比較します。全分野で見ますと,博士課程の在籍年数と雇用先の関係性について,雇用先は大学と民間企業と個人事業主と公的研究機関と非営利団体(学校・行政を含む)というようなカテゴリーで分けておりますけれども,博士課程に長く在籍していたからとか,早く出たからということと,雇用先との関係性に明確な傾向はないようです。
他方で,人文科学・社会科学系では,博士課程の在籍年数によらず大学等に雇用されている割合が,全分野平均と比較して10ポイント程度高いということが見てとれると思います。真ん中に赤い点線を引いておりますけれども,ここの棒グラフで言うと,水色の部分が大学に就職した人の割合ですので,全分野が50%超といったところが,人社にすると60%,1割ぐらい高いというような数字になっております。
17ページ目,今度は人文科学と社会科学だけで抜き出して見てみました。先ほどの結果とは打って変わって,人文科学系では,標準修業年限を超過すればするほど,この水色の棒グラフ,大学等で雇用されている割合が高くなっていくという傾向があるようです。他方で興味深いことに,社会科学系は逆でございまして,標準修業年限を超過するほど,大学以外で雇用されている割合が高い傾向にあるといったことが分かってまいりました。
18ページ目を見ていただきますと,人文科学系も社会科学系も,やはり大口の就職先としては大学だということが分かった上で,では大学での勤務形態について調べてみました。今度は青色がポスドク,特任教員,研究員,といったざっくりと言えば非正規というか,任期に限りがある者です。オレンジ色の部分が,専任講師や教授や准教授ということで,ざっくりと言えば正規の職員と考えますと,人文科学系で見ると,オーバードクターすればするほど大学に就職割合が増えるといったデータを先ほど紹介した上で,このように見ますと,オーバードクターが進めば進むほど,非正規で採用される割合が多くなります。社会科学系も同じような傾向があり,博士課程に6年以上在籍すると通常よりも10%以上上がるようであり,これは人文科学系ほどではないものの,標準修業年限を超過するにつれて,ポスドクや研究員などの非正規雇用としての雇用が高まる傾向にあるようです。
19ページ目でございます。先ほどのデータを割合ではなく大学教員の絶対数として出したものです。大学の職位ごとに雇用されている博士課程修了者の在籍年数の内訳で見ております。人文科学系の真ん中部分で突出しているのが非常勤講師や嘱託講師ですけれども,その約半数がオレンジで示した博士課程に6年以上在籍した者となっています。
他方で,その下,少し出っ張って見える専任講師の部分ですけれども,これについては博士課程への在籍年数が3年以上から4年未満の割合が半分ぐらいになっています。次に社会科学系で見てみますと,専任講師の割合は,やはり3年以上4年未満の割合が高くなっているということが言えます。
20ページ目,こちらはあくまでもご参考ですが,別のデータを用いて統計上の相関があるやなしやというのを試しにはじいてみたものですが,人文科学系においては,相関係数が0.229ということで,怪しいですが一応,弱い相関はありということは言えるかも知れません。こちら何の相関かというと,研究科ごとに,輩出された博士卒学生の標準修業年限内の修了割合が横軸にあって,縦軸にあるのは,研究科ごとに,輩出された博士卒学生の就職先として,任期・雇用期間の定めのない,要するに正規雇用に就いた者の割合というデータを取った結果です。つまり研究科同士で比較すると,研究科内で標準修業年限内に修了した者の割合が高いほど,正規で採用されている者の割合も高いというのが,弱い相関があるというふうに言えるのではないかということでございます。
他方,社会科学系につきましては,あまり標準修業年限と就職,採用形態の割合について相関は見られないということになっておりました。
21ページ目に少しこのパートのまとめを書いています。人文科学系では,標準修業年限を超過するほど大学等での雇用は増えるのですけれども,同時に,大学における非正規の雇用の割合も高まる傾向があります。大学に就職した者の多くは非常勤講師であり,その大半は博士課程に6年以上在籍した者。対照的に,専任の講師など比較的安定した職位には,博士課程に3年から4年在籍した者が多く就いているという実態があるようです。
他方,社会科学系では,標準修業年限を超過するほど大学等での雇用は減少し,大学に就職した者については,人文科学系と同様に,標準就業年限の超過に伴い有期雇用の割合が高まる傾向にあります。大学に就職した者の多くは専任の講師であって,その大半は博士課程に3年から4年在籍した者ということで,ざっくり大体をまとめますと,赤字の部分,人文科学・社会科学系の大学教員を目指す者にとって,博士課程の標準修業年限を大きく超過するということは,安定した大学教員のポストを獲得するといったことには必ずしもつながってないのではないかといったことがデータ上言えるのではないかと思われます。
これはちょっと事務局の妄想ですけれども,想定される状況としては,社会科学系では比較的に大学外のキャリアパスが開かれていることから,標準修業年限の超過に伴って,大学以外で就職する者の割合も増えることが考えられます。人文科学系では,大学外のキャリアパスが限られており,標準修業年限を超過した場合においても大学外で就職する者の割合は増えず,不安定な雇用条件下で大学に就職する者が多くなっているのではないかということが推察されるということでございます。
22ページ目,こちらはほぼ参考でございますけれども,海外の事例をお調べしてまいりました。データはアメリカのNSFのアンケートデータを基に文部科学省が作成したものでございますけれども,アメリカの場合は御案内のとおり,標準修業年限というものがあまり概念としてありませんので,大体普通に,このアンケートは,ドクトラルプログラムに何年いましたかといったアンケートなのですけれども,この中で全分野,オールフィールドで見ると,5.8年です。我々で言うところの,大学院の5年課程のイメージで言うと,大体こんなものかなという気はいたします。赤字で囲ってありますけれども,Psychology and social sciencesの部分とHumanities and artsの部分は,そこから比べると多少長くなる傾向にあるようです。人文科学・社会科学系の博士号取得に時間がかかるのは,アメリカでもそのようだということです。
その半分から下,ヨーロッパでございますけれども,欧州諸国における全分野での博士課程修了に要する年数は3.5~4.5年が標準的になっています。さらにですけれども,10年前と比較して,真ん中の丸い円ですけれども,博士課程修了に要する年数は,10年前と比べて「減りました」と回答した機関が43%あります。「増えました」との回答は15%となっていて,比較的早く出すといった傾向が強まっているようです。
23ページ目,「人文科学・社会科学系の研究教育特性」といったタイトルをつけておりますけれども,前回,前々回でも御指摘いただきましたけれども,人文科学系や社会科学系のほうが研究特性上,自然科学系よりも概して長く時間がかかるのではないかといった御意見もありましたので,データを一生懸命探してみたんですけれども,スローサイエンス性に関するデータというのは取得できませんでした。
代わりに見つけてきたのが,これは何となく波紋を呼びそうな気もしますが,人文科学・社会科学分野の大学院生の1日当たりの研究時間というので,折れ線グラフで見ていただくと,左側が修士課程,右側が博士課程でございますけれども,人文科学や社会科学系の方々と比べて,自然科学系のほうが1日当たりの平均研究時間が長くなっているということが言えるというデータなのですけれども,学問特性によるというよりは,どちらかというと指導教員との関係性とか,その大学の風土とか,あとはそれぞれの研究テーマによっても大分違うのだと思います。従って,これで一概にこの学問分野というのは概してそうだよねというところまで言うのはちょっと言い過ぎるかなというのが,我々自身,データをつくっていながら感じているところです。
従って,下のほうに書いていますけれども,学位取得までに要する期間の長さや修了後のキャリアパスというのは,研究分野や研究テーマの特性のみならず,研究時間とか教員の研究指導の在り方,組織的な支援の在り方等にも大きく左右されるとも考えられますということで,関係するデータを整理した上で,今後,研究教育の課題や適切な在り方を検討する必要があるのではないかと考えてございます。
ここまでがメイン,本論として直接的に関係しそうなデータを洗ってみたものということでございまして,あとは御参考程度でございますけれども,専門職大学院の状況についてということでございます。27ページ目,3ポツ,令和3年度専門職大学院在学者の状況ということで,大体,専門職大学院の割合はどのぐらいのポートフォリオになっているのかなということでございますけれども,右側のグラフだけ御紹介申し上げますけれども,分野別社会人学生の割合ということで,ビジネスとMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)の分野は,8割以上が社会人学生です。普通の課程制大学院とかに比べると,圧倒的に社会人学生の割合がほかの分野においても多いという気がいたします。
27ページ目の右下にありますけれども,専門職大学院の分野別比率で見ると,ビジネスとかMOTの割合というのが半分超を占めている。すみません,このデータは,法科大学院や教職大学院は除いてあります。あれはまた特殊ですので,普通の社会のスキルとかというところに着目した部分で言いますと,ビジネス・MOTが57%,会計大学院というのが11%,公共政策,公衆衛生,臨床心理というのが続いていきますというようなシェアになっております。
31ページ目,7番まで飛んでいただきまして,令和2年度専門職大学院修了生の就職状況というデータを御用意しております。左側の全体(内訳)というところですけれども,修了後にどこに行っていますかというものです。ビジネス上のスキルアップにつながっていますかとか,就職にちゃんとつながっているのですかということをデータで見てみたのですが,全体の内訳で見ますと,修了前から従事していた企業に戻るということですね。これは企業人としてさらなるスキルアップの機会を企業が提供しているとか,あるいは自発的にお休みをされて大学院でスキルアップを目指しているという方がかなりいるといったのが68%という数字なので,データとしても出てきています。修了前から従事していたのではないところの企業に行く方が22%ということで,ここまで合わせると90%まで来ます。従って,専門職大学院へ行って企業にお勤めになるというところは,かなりの意味合いで就職に役に立っていると。中でのスキルがどのくらい上がったかとか,処遇がどのくらい上がったかというところまでは取れておりませんけれども,そういったことが言えるのではないか。専門職大学院というのは,ある程度社会の期待に応えて,制度設計どおりにワークしているのかなという気はいたします。
内訳で見ますと,右側の専門分野別ということで,ビジネス・MOTの分野につきましては,8割以上が修了前から従事していた企業にお戻りになるというパターンが非常に多くなっています。それは水色のところです。茶色のところは企業ということで,会計のところは元に戻る割合が半分,違うところにお勤めになるのが4割といったところで,大体を見て,かなり職業にしっかり根づいているなというのがデータとして言えるかなと思います。
32ページ目以降が,女性割合とか外国人割合についてお調べしたものです。
33ページ目は学部なので説明は割愛しますけれども,34ページ目が修士であります。一番右側の縦の棒グラフだけ見ていただければと思いますけれども,一番下の濃い緑の部分が自然科学系(男性),薄緑のところが自然科学系(女性),濃いオレンジが人文・社会科学・その他(男性),薄いオレンジのところが人文・社会科学・その他(女性)というようになっています。下の緑2つが自然科学,上のオレン2つ人文・社会科学。濃い色と薄い色が男女比という形になっています。
先ほど割愛しましたけれども,学部の33ページ目を見ていただくと,人文・社会科学のほうが全体的なシェアとしては7割,8割ぐらいを占めていて,そして人文・社会科学系の中で言うと,男女比は大体1対1になっていますというのが学部の状況なんですが,修士を見ていただくと,自然科学系の男性というものが全体のシェアの5割を占めているという状況になってまいります。
次のページが博士課程でございますけれども,博士課程もおおむね修士と同じような状況かと思います。自然科学系の男性が非常に多く,次いで自然科学系の女性,人文科学系の男性,人文科学系の女性というような割合になっているというデータです。
外国人学生の受入れ状況というのが36ページ目以降に続いてまいります。緑のチェッカーフラッグみたいものが修士課程で,赤の塗り潰しが博士課程ですけれども,大学院への外国人学生の受入れというのは,真ん中の工学が非常に多い。次いで社会科学,その他という分類で多いということでございます。これが大学院全体,修士と博士でございまして,37ページ目が修士課程に在籍する外国人割合ということで,全学問分野を並べてみたのですけれども,最新の令和3年のデータで言いますと,分野では社会科学と工学の外国人学生の割合が非常に多くて,この2つを足すと全体の5割まで行きますということになっています。
今見ました37ページ目が修士で,38ページ目が博士です。やはり工学が多いと思います。分野では工学の外国人学生が多くて,全体の3割を占めるというような状況になってございます。
すみません,長くなりましたけれども,事務局から御用意したデータは以上でございます。どうぞ御議論いただけますよう,お願い申し上げます。

【湊部会長】ありがとうございました。かなり詳細なデータを準備していただいて,なるほどやっぱりというところと少し意外なところもあるようなデータで,膨大なフィールドに及んでおりますけれども,取りあえず,このデータを御覧いただきまして,委員の先生方から御感想なり,あるいはこれはちょっとどうかというような御指摘がございましたら,お伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
それでは,順番にまいりたいと思います。まず,佐久間委員から手が挙がっております。よろしくお願いします。

【佐久間委員】よろしくお願いします。大変詳細なデータを御用意いただきまして,誠にありがとうございます。いろいろ興味深いところはあるんですけど,例えば3ページのところで,人文学のキャリア形成状況というのがあって,博士課程修了者,左側と右側に数字がありますが,左側のほうが大きい数字となっています。これはある意味,アカデミアの道が非常に狭き門であるということを示していることにもなるわけですけど,ただ,左側の数字のほうが大きいので,じゃあ,これでアカデミア以外のキャリアパスが人文学について成り立っているかというと,これは多分そうではないと思うんですよね。社会科学のほうは,管理的職業従事者への道があって,ある意味それが成り立っているのかもしれませんけど,人文学の場合は,左側のほうにいろんなものが多分入ってしまっているので,そこら辺は,精査がもうちょっと必要なんだろうなと思います。
それから,非常に興味深かったのは,博士論文を出すまでにどれぐらいかかるかという件なんですけど,結局いたずらに時間をかけても,御本人のキャリアパスにとって必ずしもいいことにはなっていないというデータが示されておりまして,これは非常に興味深いデータだと思っております。
もちろん,人文学にもいろんな分野があるので,分野によって違うわけですけれども,例えば私の専門のところなんかを見ていても,確かに優秀な学生は早く書いて修了するんですよね。いつまでも書けない学生にはやっぱりちょっと問題があるという面はあるので,そういうことを考えると,外国の例を見ても,どうしても人文学は,若干ほかの分野よりは余計にかかるのは仕方がないのかもしれませんが,3年プラス1年ぐらい,4年ぐらいですかね,そこまでには特段の事情がない限り必ず博士論文を書くということを,もうちょっと強く打ち出してもいいのではないかと個人的には思っております。
ただ,現実にかなり長くかかっている人がいるわけですので,じゃあ,それをどうするかという話なんですけど,やはり教員の側にも問題があると思います。今の教員は学生の頃そういう指導を受けて育ってきたので,博士論文を書き上げるまで長くかかっても,それが当たり前になっているわけですけど,やっぱり文系,人文系の場合理系と違って,研究室に年がら年中いるわけじゃないので,教員が学生を十分にグリップできていないところも多分にあるわけであり,そこら辺は少し教員の意識も変えないといけないだろうと思います。
もちろん,それだけで解決するかというとそういうわけでもなくて,やはり学生のほうにも対策が必要です。これはなかなか難しい問題なんですけど,学生定員があるわけですから,定員を埋めなきゃいけないと。ただ,入試のときに迷ったあげく,定員を埋めなきゃいけないから入れてしまえみたいなことで入った人がいて,その人たちが結果的に時間がかかっているとすると,それはやっぱり本人にとっても気の毒な話になっています。そこはむしろ,ある程度,博士後期課程の人数を絞ってでもなるべく早く書かせて,優秀な人たちにはしかるべくアカデミアの道を用意する,そういう循環を回すことのほうが重要なのではないかと思います。
ただ,学生を減らすと,じゃあ,教員も要らないでしょうみたいなことになってしまうと今の話は成り立たなくなってしまうので,じゃあ,どうするのか。それについては,学生数が減れば,それだけ若干の余力はできるわけですので,その余力をまさに新しいキャリアパスの開拓,新しいカリキュラムなり,新しい学位プログラムなり,そういうものをつくる方向に振り向けるというようなことをすべきではないかと考えているところですが。なかなか言うほど簡単ではないかもしれませんが,そのようなことを思いました。ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。そうですね,難しいですね。
小長谷委員からも手が挙がっております。どうぞ。

【小長谷委員】ありがとうございます。多面的なデータの提示ありがとうございます。これをどう読むかというのは,一つ一ついろいろ解説し直していきたいと思いますけど,それは時間の無駄ですので,私のほうからは2つだけお話ししたいと思います。
1つは,23ページでスローサイエンスという話題です。スローサイエンスを証明するようなものはなかったということなんですけど,ここでスローサイエンスと言われているのは,例えば野家啓一先生がおっしゃっているような,まとめるのに時間がかかるということが基本的にスローサイエンスの意味だと思いますけれども,効果が出るのに時間がかかるというような意味もあると思います。
例えば私は,卒論を論文にしたのが1983年に刊行されたんですけど,それが引用されるようになったのは2000年代に入ってからです。つまり,国際開発の舞台になったからで,それまでは誰も何とも気にかけていなかったということで,今頃来ましたかというような感じだったわけです。ウイスキーだったらよかったなと思ったぐらいです,自分の作品を。このように,いつ役に立つか分からないというそれ自体の真理というのは同じなんだけれども,役に立つかどうかということになると,それはいつになるか分からない,世の中の状況次第なので。そういう不確定性,その部分もスローだと思います。
それから,例えばゲーテは今でも引用されますし,ずっと大事なものはずうっといつまでも引用されていくという,そういう時間というのもあると思いますので,人文・社会科学における時間軸というのは,先端だけを追っかけて一気に開発をすすめる理系とはちょっと違う形になると思います。そのことが若干関係するのは,その下に出ている研究時間ですね。これは多分,質問が,研究室にいるとか実験室にいるとか,そういう拘束性で聞いているんだと思うんですね。そうすると,理系の場合はラボにいますからオンとオフがはっきりしているので,もちろんラボに何回も何回も実験を繰り返して,失敗にもめげずにいるから,すごくたくさん拘束されるとは思いますけれども,人文系の場合はオンとオフがはっきりしなくて,自分の家で夜中まで本を読んでいても,それは研究じゃないと言えば研究じゃないけど,研究と言えば研究と。そこはノーカウントされているという,そこも含めてスローサイエンスという感じではあるかと思います。
それで,もう一つは,キャリアパスの点なんですけど,今のエビデンスでは,60歳以上の古いタイプで勉強してきた人も入ってしまうので,そこはエビデンスというよりも,むしろ今目の前にいるポスドクの人たちをどうするかという,そこのキャリアパスをちゃんと解消してさしあげないと,若い人たちはお年寄りの先生を見て判断するわけじゃないですから,お姉さん,お兄さんを見て生きる道を決めていくので,ポスドクにある方が好きなことを続けながら食べていけるというバランスをどうやって提供していくかが大事じゃないかと思っています。
以上です。ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。
川端委員からお願いできますか。

【川端委員】本当にこのフロー図,ありがとうございました。これが本当に見てみたくて。私,ずっと理系を中心にドクターのキャリアパスの話をいろんなところで,大学の中でもやってきたんですけれども,そのときに理系の人間を民間に出させるというので,民間の人たちから話を聞いてそこに出していこうと。迫田さんだとかいろんな方に御協力いただいて。そういうときに,文系のドクターを採りますかというときにはなかなか手も何も挙がらなくて,まれに挙がるんですけど,そういうようなマッチングの会だとかやったときに。だから大学教員にみんな流れているんだろうと思って見てみたのが,今日のこの社会科学だとか人文科学のキャリアのページで,このフロー図が本当にすごいと思っていて,博士課程,人文科学系で900人ぐらいいて,300人が民間・公的機関で,大学関係が150ぐらい。こういう構図になっていて,先ほど言っていただいたように,これをこのまま信用するのはちょっとおかしいなという気もしていて,私自体,民間とか公的機関だとかって,これは一体,塾講師だとかああいう話がこっち側に入っているのかな。結局,そこで時間をずうっと探しながらだんだん右の大学教員のほうに流れるというそんなような構図で,最終的には右のほうにほとんど流れていく世界なのか。
社会科学は当然,活躍の場がいろいろあって,時間をちょっと持てばそこに流れるのかなという気がするんですけど,多分……。前回もちょっとお話ししましたけど,結局大学,私学を含めて,文系,人文・社会系の教員数って4万3,000人ぐらいいて,それが30年で大体世代交代するんだと思えば,毎年1,000人ぐらいは入れ替わりが起こっているはずという,すごい単純にがさっとやっちゃうとこんなような話から考えると,200人ぐらいしか動いていない。多分これ,修了してすぐのポジション,就職状況なのかなというような気もしていて,修了した後,数年後まで入れたときにこれがどれぐらい就職していくのか。基本台帳だとかあの辺は,みんな修了時点で次の職があるかないかってこんな話になるので,もうちょっと広めに見ると,この数字はもっとリアルな数字になるかもしれませんけど,非常に流れが見えて。
もう一点は,人文・社会系のほうが修士からドクターに行く進学率が高い。要するに,理系はせいぜい10%ぐらいしかいないんですよね,上に上がる人間って。人文・社会系は,一旦修士に入ったらドクターまでという感覚が強いのかもしれない。そんなような姿も出ていたり,意外に海外の留学生だらけかと思ったら,そうでもないんだとか思ったり。私の周りで見えている姿とかなり違う姿がこの数字で出ているので非常にためになって,さらに分析だとかをやらせていただければと思います。ありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,濱中委員,お願いできますか。

【濱中委員】ありがとうございます。濱中でございます。今回の資料,本当にありがとうございました。私も驚いた点が多かったです。まず最初に,人文・社会系についての感想・意見の概要の部分で,「大学教員・研究者養成機能についても課題が存在するのではないか」と,これは私がしたコメントだと思います。この視点で今回の資料を見させていただくと,やはり衝撃的だったのが,小長谷先生もおっしゃっていた23ページのデータに驚いたといいますか,平均研究時間のところが衝撃的で,人文・社会系の特に修士課程については,1時間未満だったりとか,1時間以上3時間未満のところに高い比率が確認できるのは,本当にそうなのかというような気がしたんです。
先ほど小長谷先生は,研究室に在籍している時間ではないかというようなことをおっしゃっていたんですけれども,確かにそういうような捉え方をして回答者の方が答えている可能性も強いなと思います。ただ他方では,NISTEPの調査自体を見ると,ただ単純に「修士課程在籍中における平日の1日当たりの平均研究時間について最も近いものを選択してください」と書いてあるだけなんですよね。なので,先ほども先生がおっしゃったように,本を読んでいる時間などを省いてしまっているというようなことも十分にあり得るんですけれども,この実態は一体何なのかということが課題として上がってくるのではないかなという気がしました。
私も企業の人事の方々にお話を聞く機会をできるだけつくっているんですけれども,そのとき人文・社会系の卒業生,修了生に関しては,学部卒に比べてどれだけ力がついているのかがよく分からないということをおっしゃる方も多いです。私は大学側にいる人間ですから,なかなか評価してもらえないんだなという理解でいましたが,もしこのデータが示しているように,1日1時間とか2時間しか研究していないのであれば,人事の人たちの評価というのも,もう一回真剣に考える必要もあるように思いました。たしかに修士の学生からは,インターンなどに多くの時間が割かれている話も聞きます。果たして2年間で何をやっているのかということを改めてこの部会でも取り上げるといいかなということを思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。随分興味深いお話ですね。
ほかに,手が挙がっていないでしょうか。私のほうでも,このデータを見せていただいて幾つかポイントを,特にこれから議論のベースになるポイントを考えているんですが,人文・社会系,あるいはヒューマニティーズ・アンド・ソーシャルサイエンスと言いますけれども,ヒューマニティーズとソーシャルサイエンスで結構違う傾向が出ているなというところがあって,これは全く一緒には考えられないのではないかというのが1点です。
それからもう一つは,その違いを反映してか,卒業後のキャリアパスを見ても,これは私の感覚に過ぎないかもしれませんけれども,ヒューマニティーズのところが,どちらが原因で結果かは分からないにせよ,大学との密着度が非常に高いという気がしています。それが学生の側にあるのかメンターの側にあるのか,あるいは制度的なものなのか私は分かりかねるのですが。
それに関連して,社会的なニーズと当事者意識のようなものがあって,私も最近様々な企業のトップの方々とお話しさせていただく機会があるんですけれど,経営者に限らず,色々な機関の方々も含めて,人社系人材の必要度は増している,我々は人社系の考え方や人材が必要だと皆さん口をそろえておっしゃるんです。その度合いがどんどん強くなってきているように思われる。ところが,そういう方々も,具体的にどういう役割を期待しているのかという話になると,だんだん分からなくなっちゃうんですね。何となくそういう時代だと思うんですが,では,人社系の方々にどういう形でコントリビューションしてもらうかとなると,なかなか難しいね,ということをおっしゃる。他方で,大学の側からも,そういう形での具体的な発信があまりなされていないのではないか。そういう意味では,専門職大学院のほうは非常にはっきりしているわけですが。
人社系と言っても,ソーシャルサイエンスからヒューマニティーズの方へ来ると,当事者的にも,どういうところにその社会的な重要性があるのかというようなことが,どうもあまりはっきり発信・提示されていないというような要素があるのかなという気がします。今,濱中委員からも話がありましたけれど,通常の大学院というのは学位を出すための教育課程なわけです。大学院はアメリカで始まった150年前ぐらいからのシステムだと思いますが,そういう教育課程の中で,特にヒューマニティーズのような領域について,学位を出す教育課程として大学にそういう教育組織を置くことの重要性,とりわけ同時代的な現状での意義と重要性を,もう一度議論しておくべき時なのではないかと思うわけです。答えを私も持っているわけではもちろんないですけれども。
そこに学生の問題もあるけれど,むしろメンターの側の意識性がもう少しクリアになっていないと,そこが漠然としていると,このキャリアパスの問題も,結局,曖昧なままに終わるのではないかという懸念があります。その辺のところは私は専門領域ではないので詳しくないんですが,何か委員からコメントございますでしょうか。できれば文系の先生方から。当事者的な立場からご覧になってどうであるかというようなことです。
では,佐久間委員からお願いできますか。

【佐久間委員】先生がおっしゃるとおりで,結局人文の場合,かつては,そもそも課程博士論文なんか書かないという,そういう時代があったわけですけど,今はそうじゃなくなったわけです。でも意識は十分に変わっていない。学生のほうもそうかもしれませんし,教員の意識が追いついているかというとそれもそうではないので,ここは改めて考えないといけないと思います。課程がある以上,やっぱり年限に近いところで出す義務はあると思うんですよね。もちろん人文の場合,研究に時間がかかるという要素はあるわけですけど,やりようはいろいろあると思うので,そこも含めて考える必要があると思います。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,ここで菅委員,お願いできますか。

【菅委員】ありがとうございます。いろいろなデータ,解析いただいてありがとうございました。まず,9ページ,10ページを見ますと,人文系にしても社会科学系にしても,就職先というのは,普通の企業に行くか,特に博士課程に行くと,もうアカデミアしかないわけですよね。そういう意味で,5ページ,6ページを見ると,割と就職している人たちは幅広い職業に就いていらっしゃるというのが分かると思いました。
一方で,それが19ページですかね,人文科学系と社会科学系でアカデミアに入った後にどのような割合になっているかというので見ると,これが本当に私から見て,社会科学系と人文科学系の方々がこういうふうになってほしい,これで仕方ないというか,これが理想だというふうになっているのかどうかというのが私は非常に疑問に思うというか,知りたいところなんですね。前回のときにも私,コメントを出したと思うんですけれども,こういったデータを見て,社会科学系,人文科学系の方がどのようにしていきたいかというのが相変わらず私には分からないので,そこを肌感覚で教えていただきたいのと,それから大学院に進んだ学生さんが全員アカデミア志向なのかどうかということですね。どれくらいの割合でアカデミア志向なのかということです。例えば理系だと,大学院に進んだからといって,アカデミア志向の人は多分10%から20%ぐらいで,80%の大半は就職をまず最初に考えていって,それでちょっと途中で気が変わったり,むしろもっとやりたいと思った子たちが博士課程に進むという形で,さらにその先に何があるかというと,別に大学の先生になる,研究者になりたいと思っているわけではないという場合が多いんですけれども,それが肌感覚的に人文科学と社会科学ではどのような状況なのか,もし教えていただけると,どのような形に将来持っていかなくちゃいけないのかということが分かってくるんじゃないかと思うんです。せっかく大学院部会ですので,これをどのようにするのが理想なのか,あるいは目標なのかというのをしっかり議論して定めていけたらいいんじゃないかなと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。まさに私が先ほど申し上げたのはそういうところでありまして,アカデミア志向に見えるのが,元来の志向なのか志向にならざるを得なくなっているのかというようなことがまだ我々からよく見えない部分がありますね。その辺の議論をやらないと,形だけ整えていっても,数のゲームではこれは済まないというところがあると思います。ありがとうございます。
それでは,小長谷委員ですね。

【小長谷委員】ありがとうございます。肌感覚でということですので,日頃から身の回りに,長くかかった人とか,さっさと書いた人もいろいろですけれども,ドクターの年限はいろいろでも,最終的に就職先に困るという問題が大きい。それだけの数がありませんので。そういう人たちを見ている立場としてお話ししたいと思います。
アカデミア志向であるというのは確かにそういう面があると思います。ただ,それはアカデミアしか今まで考えていなかったからで,それ以外のところには行きたくないとか,そういう拒否的な反応があるわけじゃないです。機会があるんだったら,ぜひ示してあげればいいと思います。研究そのものが好きなだけではなく,そのテーマが好きなわけですので,そのテーマによって職種は何かというのは全然違うわけですね。限りなく農業に近い方もいれば,工学に近い方もいるし,開発,経済に近い方もいるし,本当にどんな職種を提供すればということではなくて,オールラウンドで企業でもそういう場所が,研究職じゃなくても専門性が生かせるようなところというのが開かれていたらいいということが1つと,彼らは研究が本当はしたいわけで,生活するためにそういうところで働いてもいいと思っていますけど,そこでへとへとになるまで働くと研究はできないわけですね。だから,へとへとになるところへ行った人は,ブラックですとか言ってまた研究職に戻ってきたりするわけです。せっかく行ったのに戻るのかい,みたいな。またポスドクの道をもう一度行く。
私が見ていて思うのは,ワーク・ライフ・バランスですね。そんなにお給料は物すごくなくてもいいんです。生活のためのお給料が確保されていて,研究の時間がちゃんと確保されていて,その仕事というのは専門性をなるべく生かせるような仕事で。そういう形で提供されれば,仕事につける人が増えると思います。目の前でそういうふうにたくさんはけていけば,ああ,そんな生き方もあるんだなということでキャリアパスが広がっていくだろうなという,事例主義です。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。これは想像以上に議論が白熱していまして,時間が少しビハインドになっていますが,それでは,今手が挙がっている委員が四名いらっしゃるので,そこまでは議論をやっておきたいと思います。簡潔にお願いできればと思いますが,村田委員からお願いします。

【村田副部会長】ありがとうございます。先ほどの肌感覚という話で言いますと,人文・社会科学と理系の違いで,これも一般論なのかどうか分かりませんが,私は社会科学系ですので,まさに経験知としか言いようがないんですが,理系の大学院の場合,特に修士はそうだと思うんですけれども,博士もそうかもしれませんが,先生方の研究を手伝うという意味で,大学院生を教えることと先生方の研究とがある意味補完的なんですね。先生方の研究をより高めるためには,優秀な大学院生が恐らく必要なのではないかというふうに,これまでのいろんなことをお聞きしていると思うんですが,人文・社会科学系の場合は,逆に先生方の研究と院生への教育というのは代替的なんですね。先生方が学生を教えると,その時間は自分の研究から取られるという意味で,大学院生を積極的にというインセンティブはまだ先生方になかなかないのではないでしょうか。あったとしても,それはあくまでもアカデミアを育てる,自分の後継者を含めたアカデミアを育てるという意味でしかないので,いわゆる企業へというところへの体制が全くできていない。そこが大きく理系と文系の違いなんだろうなと思います。
さらに,その関係から言いますと,人文・社会系の学生,特に社会科学系の学生がアカデミア以外の企業のところでも管理職は非常に高い比率になっていたわけですが,そういうところに行くような教育をしていくときに,残念ながら,アカデミアの学生を育てようとしておりますので,専門的な能力,研究者として必要な能力をどうしても先生方は重視する。博士課程に行けるかどうかというところなんですが,一方でその能力というのは,企業等に入って管理職になっていく能力とは必ずしも一致しません。トランスファラブルなスキルであって,専門的な知識,アカデミアとしての技能や知識ではないわけで,その辺りのところがなかなかうまくいっていないというのが大きいのかな,そこが理系と文系の大きな違いであるのかなと思います。
逆に言うと,実はトランスファラブルスキルが企業にとってもすごく有効なんだということを今ようやく企業のほうで気づきだして,じゃあ,今後,大学側でそれを育てていく仕組みをどうしていくかというのがまさに課題になってきているのではないかなと思うんです。
それから,私も23ページのこのデータを見てびっくりしたんですが,正直言って社会科学系だったら,人文科学もそうなんですが,社会人学生の割合がどれぐらいかを調べてほしいんです。理系の場合で社会人学生は,働きながらなんていらっしゃらないと思うんですよね,実験室に行かないといけませんから。社会人学生が入っているので勉強時間がどうしても取れないというデータなのか,ちょっとそこだけは確認させていただければありがたいなと思っています。
私からは以上です。

【湊部会長】分かりました。ありがとうございます。
では,波多野委員,お願いできますか。

【波多野委員】ありがとうございます。文系の先生方にもいろいろ伺うことができたんですが,私は,このデータは非常に貴重だと思いました。理系と文系ってそんなに違いはないのかなと思っています。ただ,先ほど,9ページ,10ページの就職先のバリエーションがかなり少ないと。それは思い込みであって,企業,産業界も今,総合知という観点からも,あとESGという観点からも社会貢献しなきゃいけないので,利益だけではなく。文系の人の力,それも専門性が高い文系の力,企業に合わせる必要はなく,専門性が高い文系の方々の,人文科学系,社会科学系の力が必要だというふうに感じていると思います。それをもう少し,何かアンケート,企業の人が,どういう人を本当に求めているかというところは今後調べていく必要があると思っています。
逆に,文系の博士,修士の学生がどんなところに,企業に本当に就職したいのか,現役の方が本当に研究者になりたいのか。先ほど研究者になるのが目的だとおっしゃっていたと思いますが,今のこの時代どう考えていらっしゃるのかというのは,いま一つ,時代も変わってきましたので,そこら辺はきちっと調査する必要があるなと思いました。
また,海外のデータもすごく貴重で,海外の方がどういう業種に就職しているかというものがあればいいなと思ったのと,あとパブリックセクターですね。そこはどれぐらいのパブリックセクター,例えば文科省さん,どれぐらいの博士,修士の人が,それも専門性が高い人文系,社会系の人を求めているかというのは,もう少しやはりお互いにクリアに示さないとなかなか前に進みにくいなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,迫田委員,お願いします。

【迫田委員】会社の立場で,民間の立場で少しインプットですけれども,やはりだんだん今修士までは採用が増えていると思います,人文・社会系でも。我々のところでも,小さい会社ですけれども,大学院の修士までで就職した方とか,教育学で修士まで取っているというような方がどんどん入ってきていますので,そこはそんなに心配ないのではないかなという気がします。これはちょっと時間の問題かなと思う一方で,今日の資料にもあったように,大学院,博士課程までとなると,人文系でどれだけ本人たちがやりたい仕事が民間にあるだろうかというところはやや気になるところでありまして,例えば海外で言えば,心理学のドクターの方が民間で教育サービスの仕事をしたりというのはあるんですけど,まだそこまで一般的じゃない気がしますし,長い間採用を見ていますけど,人文系のドクターの方が応募してきたのはあまり見たことないんですよね。
ということで言うと,あまり,そもそも先ほどのお話もあったように,希望されていないケースがやっぱり多いのではないかなと。あっても社会科学系の方々,あるいは人文の中に心理学は入るのかと思いますけれども,そういう方々がその専門性を生かす形で社内の研究機関あるいは分析等々の業務,戦略企画とかそういうところではいろんな可能性があると思うんですけれども,あまりそれ以外のところには恐らく希望していないのではないかなと思います。そういう意味で言うと,社会科学系はまだまだあるような気がするんですけど,人文系のところは,アカデミア以外の道というのは相当,本人のやりたいというものとは合わなくなってきている可能性が高いなという気がします。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,須賀晃一委員,お願いします。

【須賀委員】私,社会科学のほうですので,ちょうど専門職と理工系との中間的な感じのところだと思っていますが,社会科学系でかなり就職先が修士でも増えてきたと。修士で入ってきて,就職活動が相当に盛んになってきたのは,どちらかというと留学生が入ってきてからのようなイメージを持っております。大体が日本人の場合には,修士で入ってくるとそのままドクターを目指してアカデミアへと。その間で自分に能力がないということが分かった人たちが通常の学部生に混じって就職していると,こういう形だったような気がしております。ですので,今でも修士から博士へということを念頭に置いている人たちというのは一定数いて,これは完全にアカデミア志向であるというふうな,そんなイメージでございます。
社会科学の中でかなり共通の土俵が計量分析,データサイエンス等々によって出てきて,そこはかなり理工系と近づいている部分があると思います。先生方の中でも,共同研究者を育てるので学生を入学させるというような感じになってきている部分があります。その一方で,そうでない歴史・思想系とか,経済なんですが,経済史とか経済思想とかというところでは,どちらかというと人文系と同じようなそういうものを持っていて,一旦そこに入っていくと,大量の資料に追われて,それで読むだけでも時間がかかるということだと思います。そういったやり方を見ていても,同じ社会科学系の中でも,比較的短期間で博士論文を取れる人と十分時間をかけないと取れない人たちというのがいるということです。
それから,じゃあ,時間をかければ取れるのかというと,必ずしもそうではなくて,むしろ昔流に指導されているのが歴史・思想系に多いような感じがいたします。歴史系でも,計量分析を使うような方のところでは比較的早いということで,むしろ人文と社会に差があるということが先ほど来の議論でしたけれども,社会科学系でも,そういう計量系と,それから人文に近い歴史・思想系とでは分けないと話がうまくないのかなという感じもしております。
それで,この資料との関係で申し上げますと,やはり考えなければいけないのは,就職先としてどういうところがあって,それに対してどんなものが必要となっているかということを我々もあまり今まで考えてこなかったというのがあろうかと思います。先ほど申し上げた計量系というところなんか,計量を道具として使う,これが十分に使いこなせれば学位を与えるというような形の修士論文の形式というものを考えてきました。ということで,やろうとすれば多少はできるのかなという実感は持っております。博士に関してもそんなことができるのかというのは今後の課題で,アカデミアに行きたい人と,そうではなくて自分の力がいろんな社会で役に立てられるのかもしれない,そのときのプログラムをどうつくっていけばいいのかということを分けながら考えていく必要があるかなと思っております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
では,最後に川端委員,手っ取り早くお願いできますか。

【川端委員】すみません。手っ取り早くやります。今お聞きして一言だけ言いたかったのは,文系の方々,御存じとは思いますけど,理系の十数年前,私,理学部,物理なんですけど,同じ議論していたんですよ,十数年前に。素粒子だとか宇宙だとか理論だとか極低温だとかって,こんな分野では絶対民間に行けねえぞという話をみんなやって,オーバードクターが死ぬほどいた時代を私ずっと生きてきました。そういう中でここ15年ほど博士のキャリア教育やキャリアパスをやっているうちに,須賀さんが言われたみたいに,学生さんがこの専門分野で生きるんじゃないんだ,博士での経験値を使って社会で頑張るんだとみんな思い始めたんです。それがこの15年かかったんですよ。
それと同じ道を今,文系はたどっているんだと僕は思っていて,だから現在の就職先を整理していくよりは,理系におけるキャリアパスの動きがこれから文系にも起こるんだということを文系の先生方に理解してほしいです。それから,今の話をしたときに悲惨な話は必ず出てくるんですよ。採用した側や学生側両方にこんなひどい目に遭ったという少数の話。でも,サイレントメジャーの本当にうまくいっている姿というのは必ずあるはずなんです。それをロールモデルとして外に出すことと,もう一点は,今後,先ほども湊先生が言われたように,産業イノベーションから社会イノベーションに変わる。ここにどんな人材が求められるのかという議論を,ぜひもっと深めてほしい。特にこの場合の活躍の場は,地方自治体とか官僚だと僕は思っています。そんなところにどんな展開が起こるかということをぜひ議論の中に入れていただければと思います。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。今のお話も非常に説得力のある内容です。予定時間をかなり超えていますが,この課題は,ちょっとパンドラの箱を開けちゃったかなという気がしないでもないんですが,もう少しこの辺の議論を深めていく必要があると思います。とりわけ,やはり大学の側,メンターを含めて,人社系の大学院教育課程がどういう現代的な在り方を提示・発信できるかという要素はかなり大きいような気もします。そういうことも含めて,もう少し議論を深めた上で,何とかこの部会として見解を出せるようなところまで持っていければありがたいと思っております。これはもう少し懸案として今後さらに議論をさせていただきます。
それでは, 2つ目の今日の議題に移りたいと思います。
2つ目は,大学院におけるリカレント教育の振興についてという,これも大きな課題ですが,これも事務のほうで少し資料を用意しておりますので,簡潔に説明をお願いできますでしょうか。

【西大学改革推進室長】ありがとうございます。時間が押している中で大変恐縮なんですけど,1点だけ,先ほどのデータに補足で御説明申し上げたいと思っていまして, 23ページの人文・社会科学の学生のほうが研究時間が短いよねというのが違和感があるというお話でしたけれども,実は同じようなところで,研究者,大学の先生方の割いているエフォートの時間を見たデータもありまして,それは人文・社会科学と自然科学系の先生の費やしている教育及び研究の時間,両方合わすと大体同じぐらいなんです,両者とも。ただ,人文・社会科学系の先生は,自然科学系と比べると研究時間よりも教育の時間が長い。自然科学系の先生は,研究の時間が長くて教育の時間が短い。その差が大体150時間ぐらいずれがあります。
そういう点を見てみると,全く推測でしかないのですが,学生にとっては,研究をしているというよりは先生とお話をしていたりなど,それこそ人文科学系だと,1人でお風呂に入って2時間ぐらい考え込んでいたとかということも含めてそれは研究の時間というふうに,本人はアンケートを取られたときは認識として答えていないかもしれないけれど,そういったことはなかなかデータとしては出てきにくい部分なのかなと。学生と先生が話している時間というものを学生自身は研究の時間と感じていないというところもあるのかなというふうに思いました。その辺は,単純にアンケートで出てきているデータをお示ししているだけなので,どう見るかというのは非常に難しいところだと思います。従いまして,我々も面白いデータだなと思いつつ,23ページまで後ろに下げたというのが率直なところでございまして,その辺は一つの参考として御覧いただければと思います。すみません,補足で長くなりました。
資料の2番,大学院におけるリカレント教育の振興についてでございます。1ページ目をおめくりいただきますと,テキストが長いのでものすごくざっくり申し上げますと,大学院のリカレントが大事だということがすごく言われているのですけれども,大学院に求められているリカレントというのは,短期的・専門的な話と長期的・汎用的な話の2軸に分けて考えないと,リカレント,リカレントといったときに整理がつかないといいますか,大学院教育は何を果たすべきかというのをきちんと分けて考えたほうがいいのではないかというのが,この1ページ目に書いてある趣旨でございます。
2ページ目,それをイメージとして簡単に書いているのですけれども,縦軸に具体性・固有性が高いものが上にあって,汎用性・転用性が高いものというのが下に置いてあるということで,一番上というのは,例えば企業のOJTとかで身につけられるような特定の状況,スポットで使えるような知識とかスキルというようなもの。真ん中にあるのが,技術領域とか業種全体で使えるような知識とかスキル。一番下にあるのが,全産業に共通的な知識とかスキル,基礎的・概念的なスキルというふうに,3つに仮に分けてみた場合に,我々行政,大学院が果たすべき役割というのはどこかというふうに考えますと,恐らく一番上のところは,OJTとか実務経験を積むことによって身につけられる部分が多いのではないかと。むしろこれは企業が提供できる教育,スキルなんじゃないかと。
真ん中の部分,この辺が大学と企業の中間のようなところで,自己啓発だったり,資格や,大学における履修証明や検定,そういったことで身につけられるようなものとして位置づけられないかと考えております。一番下にあるものは,学部と修士と博士では,それぞれ求められるものの質が全然違うと思いますけれども,一番浅いところで言うと,例えば社会人としての基礎的なスキル,基本的な,人とコミュニケーションができますよね,というようなことから始まって,大学院レベルの学術の在り方や,どの分野に行ってもデータの見方がちゃんと分かることや,世界最先端の知にアクセスできる力とかというものが大学院レベルにはあるんだろうと思います。
課題として考えられますのが,その下に書いていますけれども,丸1,大学院におけるリカレント・リスキリングを通じて身につけるべき知識やスキルについて,産業界等のニーズが具体化されていないということと,短~中期的な教育プログラムの学修成果が社会で活用される見通しが不透明。これを身につけて何になるのかよく分からない,実際身につけたらちゃんと処遇に反映させてくれるのかよく分かりませんというようなことです。
課題の丸2番,大学院の課程教育・研究活動を通じて身につけるべき新しい価値を探求して,それを世に問うていく力というものが適切に見える化されていたり,評価されていないということです。先ほどの人文科学系の在り方の話とも少し共通すると思いますけれども,より高度な汎用性とか転用性を持つ人材の価値が十分に認知・活用されていない,大学もそれを証明できていないというようなことが課題として挙げられるのではないかと考えました。
次,3ページ目を御覧いただきますと,例えばこうなるといいのではないかということで,先ほどの図で言うと,大学と企業の中間みたいなところがメインでターゲットになるかなと思うのですけれども,例えば民間企業や認定団体・業界団体,大学・大学院というところが,ある程度スキルの標準化や,こういった資質・能力を身につけたよみたいなものを,見える化が進めば進むほど,雇用形態への適用も可能になってくるのではないかと。
三角形のA,B,C,Dというふうに真ん中にありますけれども,企業内研修で個人に与えられるもの,検定・資格の活用で与えられるもの,履修証明プログラムや専門分野の学位などで身につけられるというものがある程度スキル標準化されれば,それを積み上げることによって,この人はこういうスキルを持っているよということが見える化できるといいよねというふうに思っています。それは企業側としては,ジョブディスクリプションといった形で,こういったスキルを持っている人を募集しますというふうに言うと,そこの目詰まりというのが比較的解消される方向に向かうのではないかと思われます。
次の4ページ目のところですけれども,これはより汎用的なスキルの話ですけれども,丸の2番,課程教育で養われる能力の多面的な評価,あくまでイメージですけれども,まず一番左側の上に学部生がいます。これが修士課程・博士課程を通じて社会に出ていきますといったときに,研究室教育を通じて輩出された人材の価値をできるだけオープンにしていくことや,見える化していくという努力は必要なのではないかというようなことでございます。下に社会が求める能力というのをオレンジで囲っておりますけれども,ビジネススキルというのは企業でやってくださいねということだと思いますが,研究室の教育の中で,例えば課題設定とか検証能力とか異質・独創性とか,大まかな分野の専門性,新規の物事に対する積極性,説明・コミュニケーション能力,学術的な専門知とか実験技術とかいうものが,どんな研究分野であれ,それを深掘りする過程で本来身につけられるべきものであろうというふうに仮定をするならば,それを無意識にひたすら研究室が各自勝手にやるというのではなくて,そういったことをきちんと意識しながら研究室教育を行うということはできないだろうか。何となく我々,今までそういったトランスファラブルスキルが重要だといったときに,外部の座学でコースワークといった形で科学技術概論とか何とか入門とか,特に修士課程に本当に学生がそれを求めているかどうかというのが定かではないようなものであっても,そういったものを習得させることが大事だと言って,外形的にはそれを身につけたようなことになっているのですけれども,でもやはり,企業側が今まさに求めているものというのはもっと深いところにあって,自分がのたうち回って一生懸命研究する中で他人をどう説得するかとか,どうエビデンスを集めてくるかとかといったところを研究を通じてやるということが重要なのではないかと思われます。
右側に「研究者のコンピテンシーの見える化」というふうに題していますけれども,イギリスのVitaeというところから引っ張ってきておりますけれども,研究者でこういったスキルを身につけるといいよねという見える化にチャレンジしている取組があります。例えば右上に書いてありますのが,知識と知的能力ということで,この辺は認知能力とか知識基盤,左下は研究の管理運営ということで,例えばPIになるためのスキルみたいなところですけれども,研究管理ができます,財務,資金調達,リソースができますといったこと。むしろ,右下とか左上に書いてあるのが,今まさに企業などから期待されている部分かなと思うのですが,エンゲージメントとか,影響とインパクト,他と協働し,研究の広い影響力を確保するための知識とスキル,他との協働性。右下にあるのが,個人の能力。有能な研究者になるための資質とアプローチということで,自己管理とか個人の資質とか能力開発,キャリア開発といったことが,それぞれの観点でスキルセットとして身につけられるというような,まさに教育課程として仕掛けを設けるということが考えられるのではないかと思っております。
すみません,こちらはデータに基づくというよりは,こういった形があり得るのではないかといった御提案でございまして,この点についてもいろいろ御審議いただければと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。こういう資料ですが,残り30分ほどこれについて少し議論を進めたいと思います。リカレント教育の必要性がずっとこれまで言われてきて,ここへ来て,特にその要請が加速化しているということでございます。いよいよリアルにリカレント教育を考えるとなると,具体的にどういう状況設定をするかというのはかなり大事な問題になってきています。1つには,産業形態や構造の変化が非常に加速化してきているということがありますね。それによって,例えば今まで企業の中にいる人たちが,大学を卒業したフェーズから一定期間やってきたけれども,どこかでやはり補充が必要になる,知識的な面であれ,技術的な面であれ,もう一度アカデミアを介して一段ギアを上げる,というようなことがあると思います。
それから,少しラジカルなのは,産業構造が変わってしまって,リスキリングのようなことが求められる,関連領域であっても新たな方向での再教育,再トレーニングが必要になるという局面もあると思います。
さらにラジカルに言えば,背景には当然ながら長寿化が確実にあって,同じドメインで知識や技術の更新を個人のレベルで続けていくということだけでなく,『100年時代の人生戦略』の著者のスコット教授なども言っているように,就業期間が長くなるにともなって,就業が分断化され,ある時期で大胆にやり直すということも起こりうる。場合によっては,自分が働く領域自体を変えてしまうということもあり得るし,そういう意味では,新しいライフスタイルをつくるということまで含みうるわけですが。そうすると今ぱっと思いつく限りでいくつかのパターンを言いましたけれども,おのおのでリカレント教育モチベーションというのは少しずつ違うわけですね。どれが主になるかというのは,これからどういう社会になっていくかにもよるとは思いますけれども,リアルにリカレント教育の,少なくとも一部あるいは主たる部分を大学が担っていくということを想定するならば,やはりそれに応じたようなプログラムであるとかシステムをつくっていかないといけない。今大学が保有している教育課程の中へ社会人がそのまま入り込んでいくというのは現実ではなかなか難しい。そういう具体的な議論が必要になっているという段階ではないかという気もしております。そういうことを含めて,今後どういう方向で議論を進めていくかということについて,恐らく大学分科会の中でもとりわけ大学院部会がここの重要な場になると思われますので,少し深掘りした議論を進めていきたいと思っております。
それでは,今日いただいた資料を含めて,議論の口火をどなたでも結構ですが切っていただければと思います。
早速,村田委員から手が挙がっています。どうぞ。

【村田副部会長】ありがとうございます。今日,文科省のほうに用意していただいた資料に基づいてお話ししようと思っております。
2ページ目のところ,スキル階層と大学院の機能のところの一番下,課題の1と2,分けていただいているのは,これ非常に分かりやすくなったと思うんです。というのは,課題の1って,どちらかというと,短~中期と書いていますけれども,今部会長がおっしゃったように,社会人の方で大学院でもう一度学ぶ,そのプログラムの話だと思うんです。一方で,2番目のほうは,新たな価値を探求し提案する力,研究活動を通じて,これは言ってみれば,フルタイムで2年間,大学院修士だったら修士に行くという話なんですね。そういう意味では,ここではリカレントとは書いていますけれども,大学院の活性化,大学院をどう産業界と結びつけていくかというときには2つの局面があって,1つは,今の社会人をどう大学院でリスキリングするのかという話と,いわゆる大学院の課程全体にどういうふうに生かして,その課程が,先ほどアンケート調査といいますかデータがありましたけれども,特に人文・社会系の大学院生をどういうふうにして増やしていくのかという問題があろうかと思うんです。
その点,4ページの資料なんかは,まさにコースワークも含めて,大学院の授業の中で,2年間だったら2年間の中で,あるいは1年間でもいいと思うんですが,どういうコンピテンシーを身につけていけるかということを抜本的に考えていかないといけない。そうしないと,先ほど川端先生がおっしゃいましたように,これから人文・社会系が同じような道をどううまくたどっていけるのかどうかということになろうかと思いますから,その点少し議論を分けて考えないといけないのかなと思うんです。私としては,より重要なのは丸2のほうで,より根本的なところが,ここが一番重要だと思うんです。日本の大学院生修了者が少ないわけですから,ここをどうするかということが一番大きな,より重要な課題でないかというふうに認識しています。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に分かりやすい御説明で。
それでは次に,高橋委員,お願いできますか。

【高橋委員】ありがとうございます。では,3点ほどなんですけれども,1つ目は,まずこのテーマに関する感想です。1つ目の先ほどの人社系のビッグイシューに比べると,これは実質的な課題で推進すべきという方向性が分かっていて,座長がおっしゃるように,取り組まなくちゃいけない課題だというふうに認識しています。
その上で2つ目なんですけれども,このリカレントという言葉を,こういう審議会で少なくとも数年来聞いていると思っています。本家本元の大本のOECDの定義ではなくて,私としてはこの部会では,それで議論するべきリカレントというのは,おっしゃったように,産業構造変化に伴うマクロなレベルの,しかも政策として対応していかなくちゃいけないワーキングライフの長期化に伴うドメインを変えるような,その制度,仕組みづくりだと思っています。
なので,そこにフォーカスした上でということで3点目なんですけれども,ほかの委員も御指摘になった2ページ目を見ながら申し上げます。この話は,1つ目の話題,人社系と同じで,やはりある種パンドラの箱を開けるような危険性がある。あまりそういうところでそもそも論を,フィロソフィーではなく具体な話ができればなというところで,言葉の定義を少し申し上げたいと思います。
知財のスキル標準ですとかITのスキル標準,リファレンスで使っていらっしゃいますけれども,このスキルという言葉と,何を大学院レベルで提供するかというところにもう少しサブシステムとして言葉をそれぞれ定義したほうがいいんじゃないかと思っています。私,URAのスキル標準とその質保証の制度設計をこの10年やってきて,その言葉遣いに非常に苦しんだ経験から申し上げますと,いわゆる,ざっくりした一般名詞としての「スキル」というのは恐らく2つに分けられます。1つは「業績」で,1つは「業務遂行能力」です。この「業績」というのも企業の中では,経験とか実績とか,さらにサブシステムが構成されていると思います。
なので,ページ2の一番下の丸2の西室長の言葉で申し上げると,「企業が求めているもっと深いところ」というところにきちんと名称をつけて議論をしたほうがいいんじゃないかと思います。それこそが恐らく当面の,今今の必要なあしたのための仕事の知識ではなくて,課題解決ができたり,その課題を深掘りするための知識獲得能力のようなところに通じ,それこそが大学院を経て獲得する能力だということだと思うので,そこら辺を少し,場合によっては,別途,スキル標準等の構造もありますので,皆様のお話の前提に言葉の整理ができれば今後いいかなと思った次第です。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事なポイントだと思います。やはり共通の基盤から話を進めていかないと,気がついたらみんな色々なレベルで話をしていたということになりかねないですね。ありがとうございます。
それでは,堀切川委員,お願いできますか。

【堀切川委員】堀切川です。これからの大学院は多分,リカレント教育で役に立つというところが,やっぱり大学院があっていいなと言われる1つのポイントだと思うので,すごく重要だと思うんですけど,いろんな資料を説明していただいてありがとうございました。
非常に簡単な意見ですが,2ページ目で課題が2つ整理されていますけど,課題の丸1の「産業界等のニーズが具現化されておらず」って,そのとおりだと思います。ただ,ここを少し掘り下げてみると,産業界も業種によってニーズが違うのと,会社の規模で全くニーズが違うので,ここで書かれているのは,何となく製造業の大企業というイメージがすごく強いんですけれど,産業界のニーズというところは少し幅が広いので,それからサイズ感,中小企業では全くニーズが変わるというのもあるので,そこら辺を切り分けて今後ニーズを拾い上げるにはどうしたらいいかというのは議論が必要かなと思いました。
さらに言うと,リカレント教育が産業界だけというのもちょっと少ないかなと思っていて,個人的には,地方に行って思うのは,地方自治体の職員,非常に真面目でやる気のある人がいっぱいいるんですけれど,彼らは新しい考え方とかに飢えていて,彼らもまたリカレント教育の場があれば非常に伸びる,考えるきっかけにもなるので,そういう地方の公務員というか,そういうところまで広げて,社会全体としての今後のニーズの拾い上げというのが大事かなと個人的には思ったところです。
それからあと,4ページ目ですか,面白いデータだなと思って,右側の下のほうに丸い円がありますけど,研究者のコンピテンシーの見える化って,ああ,なるほどなと思って,これで見るとちゃんとドクターに教えていないところいっぱいあったなと個人的には思ったりしています。ドクターコースが終わって社会に出て研究者とかやっている卒業生たちの話を聞くと,学んでおけばよかったという非常に具体的なことが1つあって,先生方は研究費獲得のために科研費も外部資金もいろんな紙をいっぱい書いて出してくれていたと。あの書き方を教わりたかったというのが非常に多いです。研究者になってから国の金をどう取ったらいいかという作文の仕方のためにわざわざ大学まで相談に来る卒業生もいるんですけれど,本当はそういうところも含めて,さらけ出して教えるというのがいいのかなと思ったりしたので,こういう4ページの円でまとまっているようなところのそれぞれを強くしていくにはどうしたらいいかと考えるきっかけに非常にいいのではないかと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,宮浦委員,お願いできますか。

【宮浦委員】ありがとうございます。リカレント教育については,先ほど議論がありました文系・理系の問題ですね,それと非常に密接に関係があると思っているので,むしろこの4ページとかを見ますと,専門に縛らない柔軟性とか,いわゆる総合知の部分というのは,まさに人文・社会系のスキルというか能力が必須なわけで,元理系の方が理系に戻ってきてスキルアップするというよりは,学生時代,元文系,元理系が,どちらかさえも分からないニュートラルな立場で社会人の方とか,いろいろな立場の方が大学に戻ってきて,元文系の方は理系,元理系の方は文系のことをむしろ学んだほうが専門に縛られない柔軟性が養われるんじゃないかなと思いました。
したがって,リカレント教育も,人文・社会科学系と理系を混ぜるようなプログラム的な大学院教育も含めて,そこで混ざった形の教育をリカレントとして用意すると,ニーズに合わせて柔軟に対応できるんじゃないかなと思った次第です。ですので,文系・理系の問題をむしろこのリカレントの土壌で考えるとやりやすいのかなというふうに感じましたので,その点を検討していくのも1つの方法じゃないかなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。おっしゃるとおりで,大学のプログラムも,ニーズに対応するという局面も当然要るんだけれども,ニーズをつくり出すという要素もやっぱり要るんだろうと思うんですね。そのためにどのように工夫していくかというリアルな話にこれからなるんだろうと思います。ありがとうございます。
それでは,小西委員からお願いできますか。

【小西委員】小西のほうから,大きく2点お話しさせていただきます。
1つ目の議論のところでお話ししようと思っていたのですが,専門職に関しては,ここのリカレントでお話ししたほうが整理しやすいと思ってお話しします。先ほども分野別の専門職大学院が載っていましたが,以前の大学院部会でも,専門職大学にはそれぞれ個性があって実情は異なっているということが確認されています。例えば,資格に関係あるものとないものと大別できると思います。資格に関係あるものも,ロースクールのように資格取得のためのものと,教職のように資格維持のために分けることができると思います。私が所属している会計大学院では,その両方の機能が含まれているということになります。これらに対して,MBAは資格には関係がありません。
今の資料の3ページ,イメージとあるのですが,これは非常に分かりやすい表だと思っています。例えば,会計大学院は,この真ん中の認定機関・業界団体を含めたリカレント教育をイメージしているということです。金融庁の公認会計士監査審査会,それから公認会計士協会,そして会計教育研修機構と連携して,一貫したリカレント教育をやっていかなければなりません。つまり,結論として,専門職ごとのリカレント教育に関するビジネスモデルがあるのじゃないかと。リカレント教育について,一緒くたにして議論することはできないというふうに考えているのが1点目です。
2点目は,リカレント教育というのは,対象は社会人だと考えています。そうしますと,先ほどからいろいろと話題に出ている,前のスライドの研究時間のところで,村田先生もおっしゃっていたと思うのですが,修士課程における社会人の割合です。同様に,専門職に関しても挙げられています。ぜひ文科省の方にお願いがあるのですが,20年ぐらい前のアメリカのMBAでは一旦大学を辞めてMBAへ行って,修了後に就職をし直すということが一般的でした。その当時は,夜間の大学院で昼間は働きながらという社会人の大学院生もありましたが,これはアメリカでは非常に少数派でした。日本では,一回会社を辞めてしまうと再就職できないよね,だからなかなか大学院って難しいよねというのがMBAではあったかと思います。今,アメリカの現状がどうなのかということを,アップデートしていませんので,そこら辺の実情を次回教えていただければと思います。
そして,博士課程に関しても,社会人がどのぐらいいるのかなと。これは日本においてです。専門職は博士課程を持っておりませんが,専門職につながる一般博士課程を持っている専門職もあります。例えば,会計専門職と連携している一般博士課程に入学する人は,会計士や税理士の資格を持っている人でドクターを取りたいという人が非常に増えているものですから,日本の現状としては博士課程における社会人がどのぐらいいるのかということを教えていただければと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
次は加納委員,お願いできますか。

【加納委員】詳細な調査,ありがとうございます。3点コメントさせていただければと思います。
まず,2ページ目,スキルの階層と大学院の機能(イメージ)というところで,今まさに課題1,2という2つが挙げられていると思いますけれども,これ,実は大学のリカレント教育の問題ではなくて,言葉を変えていくと,全て企業のソリューション事業をどう伸ばすかというところの課題と全く同じ言葉に,文章に置き換えることができます。つまり,産業界等のニーズの具体化というところ,それから,まさに研究活動を通じて身につけるべく,つまり課題2というのは,企業の課題をどのように解決していくか,お客様の課題をどのように解決していくかといったところのソリューションそのものになるかなと思います。そういう視点で,これから大学の教育の一つとして,ソリューションサービス,特に人材育成を通じた企業へのソリューションサービスというのをどういうふうに実現していくかという考え方が一つは必要なのかなと思いました。
それから,2つ目は,企業がリカレント教育に対してどういう認識にあるかという考え方の問題がまだまだあると思います。何かというと,やはりまだまだリカレント教育というのは個人の自己啓発であり,個人の能力育成にのみとどまっているということです。企業の活動である事業活動に対して密接に結びつけられたリカレント教育という形をまだまだ企業自身も認識していない。この辺りの在り方といったことも一つ重要な考え方かなと思いました。
それから,3つ目は,先ほどのソリューションにも相当するんですけれども,リカレント教育を一つの共通的なものとして捉えることができなくて,ソリューションも同じなんですけれども,まず自分たちの大学,リカレント教育の機会を提供する大学がどういうセグメンテーションでどういう企業に対してどういうソリューションを提供していくかといったところを,まずパイロットとしても何か始めてみる必要はあるのかなと思いました。自分のところは何ができるかということよりは,こういう企業のこういう課題を解決する人材を育成していきますということなのかなと考えています。
例えば4ページ目の左下にありますところ,これは一般的には修士課程,博士課程で教育を通じて能力を育成していくということなんですけれども,例えば課題設定・検証能力,専門に縛られない柔軟性,社会・経済的価値の判断・創出能力,この辺りの能力は,恐らくリカレント教育を受ける世代の人たちは既に企業の中で教育を受けている。いわゆる自己啓発を受けている。しかも,OJTやOJDで能力を十分開発できてきていると。こういった人たちに対して,リカレント教育が企業の活動の一環,ソリューションとしてどういうソリューションを提供できるのかという形が今後求められてくるのではないかなと思いました。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,あとお三方,今手が挙がっている委員のところまでにしたいと思いますが,まず塚本委員,お願いできますか。

【塚本委員】どうもありがとうございます。では,簡単に2点だけお話しさせていただきます。
企業がどういうリカレントを求めているのかがはっきりしていないというのはそのとおりのような気がします。例えば4ページのコンピテンシーの話でも,企業ごとにも違いますし,企業の中でもリーダーなのかマネジャーなのかスタッフなのかによっても違いますし,当然ながらCEOが替わったり外部環境が変わったりすると,コンピテンシーも見直しが入ります。
先ほどパイロットという話がありましたが,幾つかの大学と幾つかの典型的な業種の企業との間でパイロットプロジェクト的なものに取り組んで,どういうものがワーカブルなのかという実証実験的なことをやってみるのもいいのではないかと思います。例えば弊社ですと,イリノイ州立大学とコースをつくったり,スタンフォードとコースをつくったりしております。日本でも三菱商事さんやユニクロさんがハーバード大学とプログラムを作っておられたりしていると報道等で見ております。従いまして.分からないと双方に言い合っているよりは,どのようなものがいいか,まずは試してみるというのも取り組みの一つとしてありえるのではないかと思います。
もう一点は,先ほどのお話にも重なりますが,キャリアパスはもう会社が与えてくれるものではなくて自分で作るものだということをすでにあるとは思いますが,キャリア教育として中学生,小学生ぐらいから充実させるとともに,企業の側には,「社員の成長の機会を提供できない企業を,優秀な学生や人事は選びません」というようなメッセージを併せて送っていったらいいのではないかと思います。
以上です。

【湊部会長】すごく参考になります。ありがとうございました。
それでは,次は神成委員から手が挙がっていますかね。

【神成委員】文科省の資料で課題をクローズアップしていただいて大変ありがたいと思うんですけれども,これに応える形で,大学としてどうあるべきかということを考えなくてはいけないと思います。やはり先ほどの人文・社会科学の博士問題と同様に,研究室の指導教員の下に放り込むという形で解決する課題では全くなく,研究の論文をまとめるということ以外に,アドオン的に教育プログラムを大学としていかにしっかりと作っていくかというところが一番重要であると思っています。特にこのリカレント教育の場合には,どこの大学も画一的にやる必要はなくて,こういう分野が強いリカレント教育はここの大学が持っているというように特徴を出して競争していけばいいと思います。そういう教育プログラムをいかに各大学が本気になって作っていくかということが重要で,それは先ほどの人文・社会科学におけるトランスファラブルスキルを養うための教育プログラムをどうやって作っていくかということと同じように重要だと思います。ただ,そう考えると,理系よりもやはり文系のそういった教育プログラムの充実性というのが重要ではないかと思います。今回のJSTの6,000人博士サポートのための博士教育改革プログラムという各大学から出てきた教育プログラムの中身を見ても,ほとんど文系研究科からの提案はないんですよね。文系が理系の博士教育をサポートするために手助けしてくれるという形の相乗りはあっても,文系の博士教育,あるいは社会人向けリカレント教育の場をうまく活用して社会にこれから出ていく文系博士を教育していくんだということに手を挙げている大学院はほとんどありません。これは本当に言いにくいですけれども,人文系の先生方にご自身の研究から離れた教育プログラムに対する考え方を変えてもらわないといけないのではないのかと思っております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。
それでは,最後に濱中委員からお願いします。

【濱中委員】すみません,簡単に1点だけ申し上げます。神成先生から,大学として考えるべき課題についてとても貴重な意見が出たんですけれども,もう一点,制度として考えるときに,このシートの2ページ目,習得方法,一番下のスキルのところで,さらっと大学教育と大学院教育が並べられて書いてあるわけなんですけれども,何を学部レベルで担って何を大学院レベルで担うのかというのをきちんとこの大学院部会でも整理した上で議論をしないと,制度としてわかりにくいものになってしまうことには注意すべきであるように思いました。ここを整理しておかないと,企業側からしてみれば,大学・大学院は結局何をやっているのかがやはりよく分からないというような結論になってしまいます。大学院部会ではありながら,学部教育のことに関しても留意する必要があるというようなことを申し上げたくて手を挙げました。よろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事なポイントだと思います。大学院レベルでやれること,リカレント教育という観点での大学院教育の関与についても,可能な限りここで議論を進めることができればと思います。ありがとうございます。
今日の2つのテーマは共に関連したところもございますので,今後もう少し深掘りをして,できるだけリアルな話を進めるための,具体的なパイロットプロジェクトみたいなものがあってもいいのではないかという話もありますので,今後議論を深めたいと思います。また,リカレント教育についても,されに資料を集めて皆さんにお示ししていきたいと思います。どうもありがとうございます。
ちょっと遅れておりまして,先へ進ませていただきます。その他でございますが,1点だけ,前々回でしたか,JDのときの学生の二重学籍に係る御質問がございまして,各委員にメールで返事は行っていると思いますが,一応ここで再確認ということで,文部科学省のほうから説明をさせていただきます。よろしいですか,お願いします。

【伊藤大学振興課専門官】大学振興課の伊藤と申します。資料の3に沿って御説明させていただきます。
先日のこちらの院部会で,ジョイント・ディグリー制度の改善の御説明をさせていただいたときに,改善のうちの1点として,今,国内の大学1大学と海外大学との連携が認められているものなんですけど,国内大学が複数,1つのプログラムに参加できるようにするという話がございました。そうすると,学生さんの在籍関係はどうなるんですかという御質問をいただきまして,その学生は,それぞれ参加する複数の国内大学及び海外大学に在籍することになりますということで,そのときに,じゃあ,二重学籍ということなのかというようなことで御質問をいただいていたところでございます。
考え方としましては,平成20年から国内大学同士の共同教育課程という似たような制度がございまして,資料3にございますとおり,その平成20年の共同教育課程の施行の際の通知の中で,共同教育課程を複数大学で組んだ場合に在籍関係はどうなるかということが書かれております。その中で,資料にありますとおり,全ての構成大学に在籍するんだということで,つまり,二重なり三重なりの在籍関係になるということでございます。ただ,その際には,管理の関係上,どこか本籍というのを一応決めていただくということで,なので,例えば調査であったりとか,あと補助金の関係の計算をするようなときには,本籍で便宜的にカウントして計算をするようにするということになりますと。
それから,二重学籍というのは元来,文科省としては基本的には望ましくないということを言っておるんですけれども,その今までの考え方との関係はどうなんだということで,それについてはQ&Aを以前から載せさせていただいておりまして,資料の後半にありますけれども,二重在籍というのが望ましくないというのは,結局,各プログラムごとに習得が必要な学習時間というのが確保できないと。そこが一番大きなネックとなるということで望ましくないということを言わせていただいておると。そこからすると,複数大学で1つのプログラムをつくる,この間のJDだったり,もしくは平成20年の共同教育課程ということについてはそういった問題は生じませんので,過去の見解とも整合するものであるというふうに考えておるところでございます。
御説明は以上でございます。

【湊部会長】そういう文部科学省の説明でございます。よろしゅうございますでしょうか。特に皆さん,御懸念がなければ,JDについてはそういう理解で合意したということで進めさせていただきます。よろしいですね。どうもありがとうございました。
それでは,今日はちょっと時間が超過いたしましたけれども,いい議論ができたと思います。できればこれを次のステップでもう少し資料を集めながら,より具体的な形に持っていって,何とか大学院部会としての具体的な考え方を提出できるよう進めたいと思っていますので,今後ともぜひよろしく御協力をお願いします。
それでは,事務方から連絡事項はございますか。

【西大学改革推進室長】本日も白熱した御議論をいただきまして,誠にありがとうございました。本日の議事内容も含めまして,また何かお気づきの点がありましたら,事務局まで御連絡いただければと思います。
次回につきましては,令和4年,本年の4月以降の開催を考えてございます。日程調整の上で,詳細は追ってまた御連絡申し上げます。
以上でございます。

【湊部会長】どうもありがとうございました。それでは,本日の部会はこれで終了したいと思います。本当に皆様,御苦労さまでした。これで失礼いたします。

【西大学改革推進室長】ありがとうございました。

―― 了 ――

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