大学院部会(第101回) 議事録

1.日時

令和3年7月6日(火曜日)10時30分~12時00分

2.場所

WEB会議

3.議題

  1. 部会長の選任等について
  2. 大学院部会の運営について
  3. 第11 期大学院部会の審議の方向性について
  4. その他

4.出席者

委員

(部会長) 湊長博部会長
(副部会長) 村田治副部会長
(臨時委員) 加納敏行、川端和重、神成文彦、小長谷有紀、小西範幸、佐久間淳一、迫田雷蔵、須賀晃一、菅裕明、高橋真木子、田中明彦、塚本恵、長谷川眞理子、濱中淳子、堀切川一男、宮浦千里の各委員

文部科学省

(事務局)伯井高等教育局長、森田大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当)、新田大学振興課長、西大学振興課大学改革推進室長 他

5.議事録

・中央教育審議会令に基づき,委員の互選により湊委員が部会長に選任された。
・副部会長については,湊部会長から村田委員が指名された。
・事務局から大学院部会の会議の公開並びに書面審議について説明があり,資料2の原案のとおり決定された。

【湊部会長】それでは,改めまして,第11期最初の大学院部会の開催に当たりまして,まず,新たに部会長に選任されました湊から一言御挨拶をさせていただきます。第11期の大学院部会の部会長を務めることになりました京都大学の湊でございます。よろしくお願いをいたします。
さて,前期,第10期の大学院部会では,私も臨時委員として参加をさせていただきましたけれども,平成31年1月に取りまとめられました審議まとめ,これは「2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿」ということになっておりますが,これを踏まえまして,複数の制度改正,大学院のグローバル化,リカレント教育等について審議を行ってまいったところであります。特に大学院,とりわけ博士課程への進学者減少問題については,この部会でもかなりの時間をかけて議論を行ってまいったところであります。その一部は幸い,文部科学省の具体的政策にも反映されつつありますけれども,依然として,これは我が国の大学院の在り方そのものに関わる大きな問題でありまして,引き続き時間をかけて議論を続けるべきであるということになったと理解をいたしております。
他方で,今回のパンデミックの中で,教育研究の在り方や方法論をめぐって新しい課題も提起されてきているところでございます。したがいまして,今期の大学院部会では,前期から引き続き課題として挙げられている諸課題,諸事項に加えて,このポストパンデミック社会や,あるいは急速に進行しつつある我が国の18歳人口の急速な減少,こういったものを見据えて,大学院教育の制度や体質の改善について,委員の皆様の御協力をいただいて議論を進め,新しい方向性を見いだしていきたいと考えております。
御案内のとおり,我が国では1990年から2000年頃の間,大学の大学院重点化政策が進められて,これによって多くの大学が,いわゆる大学院重点化大学になったわけであります。それから,かれこれ20年以上が過ぎたわけでありますけれども,ここで改めて,世界の高等教育の現況と動向,それを見極めながら,我が国の大学院制度と教育の在り方,とりわけ社会とのつながり方について議論を深めるということは,私は本部会の重要なミッションであると考えております。これはかなり時間のかかる問題であるとは思っておりますけれども,当面の個別諸課題に加えて,この中長期的な課題についても並行して議論を進めさせていただければありがたいと思っておりますので,何とぞ皆様の御協力をお願いしたいと思います。
私からは以上でございます。
それでは,議題の3,第11期大学院部会の審議の方向性という議題に入りたいと思います。まずは,事務局から説明をお願いいたします。

【西大学改革推進室長】お手元の資料3に御用意をしてございます「第11期大学院部会の審議の方向性について」ということで,事務局でたたき台という位置づけで御用意をしてございます。幾つか議題の例として,先ほど部会長からも御指摘ありましたけれども,例としてお示しをしてございます。各項目について,現時点での課題認識を御説明申し上げます。
博士課程修了者のキャリアパスの拡大ということで,「産業界等との連携や,学位取得後を見据えた大学院教育改革について」と記載をしてございますけれども,一般には大学院教育には専門分野の知識にとどまらない幅広い能力の育成が期待されている一方で,現在の博士課程においては,講座制の文化がなお根強く,特定分野の知識や方法論を伝授したり再生産することにとどまっていて,社会や産業界からの期待との間にギャップがあるという指摘がございます。そのため,学術研究の高度な専門性を涵養するのみならず,学生が社会で幅広く求められているトランスファラブルスキルというものを身につけられるように,教育課程あるいは学位プログラムとして,そのような内容を構築する,確立することが重要だと考えます。
また,大学院の教育活動の成果とも言えます学生の大学院修了後の状況を積極的に把握して,その結果を踏まえて,大学院教育の内容のさらなる改善であったり教育研究組織の見直しといった教学マネジメントにつなげていくことも必要かと思います。我が国の産業界においても,大学院教育の価値を適切に評価をしていただいて,修了生の採用や処遇に反映していただくといった活動もなお必要だとは思いますけれども,このような問題意識に基づいて,大学院教育改革の具体的な方策について議論いただくテーマの一つとしてはどうかと考えております。
次に,「我が国の社会構造の現状と今後の変化も踏まえた,博士人材の質と量について」ということでございますけれども,先ほどのキャリアパスの問題も加えまして,学士課程から修士,博士課程に進学する学生が減少の一途をたどっている状況にあります。アジアを中心として,留学生がずっと増加をしてございますけれども,これらの学生が修了後に,必ずしも我が国のアカデミアや産業界に残ってくれるわけではないのが現状だと思います。したがいまして,我が国の国際競争力の確保,維持向上といった観点からも,必要とされる博士人材の質と量につきましても大きなテーマになると考えまして,議題案として記載をしてございます。
次に,「ウィズコロナ,ポストコロナ社会も見据えた大学院における教育研究の在り方」ということで,「大学院改革に係るこれまでの施策の成果等を有効活用するための方策について」ということでございます。念頭に置いておりますのは,例えば博士課程教育リーディングプログラムということをやってまいりましたけれども,産学官の参画を得つつ,専門分野の枠を超えて,世界に通用する博士課程を構築するという目的で実施された事業がございました。その修了者につきましては,特に産業界から非常に高い評価をいただいている一方で,補助対象とならなかった大学はもちろんのこと,補助対象となった大学の中においても,当初我々が期待していたほどには授業の成果の横展開がうまく進んでないといった状況にあると認識をしております。こういった国の事業のみならず,日本全国あるいは世界の各大学院の優良事例ですとか,成果を有効に横展開を図っていくための方策について御意見をいただければと考えてございます。
次に,「グローバル化に対応した大学院教育の在り方について」でございます。既に一部の大学においては,海外のトップ研究者を招聘し,講義を担当したり,学生の研究指導を行ったりするなどの取組が行われておりますけれども,コロナ禍を経て,オンライン教育が盛んになってくる中で,このようなグローバルな教育展開といったことは世界中でより一層広がっていくと考えられるため,新議題の例として挙げてございます。
次に,「『総合知』(社会課題解決に貢献する人文・社会科学と自然科学の融合)の観点を踏まえた,人文科学系や社会科学系の大学院教育について」ということでございます。科学技術・イノベーション基本計画など,政府全体の方針においても,社会課題解決に貢献するような人文・社会科学と自然科学の融合による総合知の創出と活用が重要視されております。特に,キャリアパス等になお課題が指摘されております人文系,社会科学系の人文科学系の大学院教育について改めて御議論いただきまして,具体的な方策を検討していくことも考えられると思っております。
次に,「学位プログラムとしての大学院教育,大学院における各課程の役割について」ということでございますけれども,先進諸国に比して大学院への進学者の少なさが指摘をされております。まずは,修士課程への進学促進方策が喫緊の課題かと認識しておりますけれども,先ほど申し上げたような博士課程修了後のキャリアパスの拡大のほか,とりわけ修士課程における進学インセンティブあるいはボトルネックの解消といったものが,何が必要であるのかといった点について検討してはどうかと考えております。この点,大学,大学院共通した課題として指摘されておりますけれども,学生が進学した際にどういったことが身について,何ができるようになるのかといったことが不透明であるといったことがよく指摘をされております。いわゆる3つのポリシー,学位授与の方針,教育課程編成の方針,入学者受入れの方針といったものを大学は設定をして公表することになっておりますけれども,それが十分に機能していないとすれば,それはどのような方策が必要でしょうか。大学院においては,修士課程,博士課程,区分制の前期,後期に分かれた博士課程,専門職学位課程,それぞれにおいて意義や役割があると考えますけれども,大学院教育を適切に構築していくといった手だてについて御審議いただければと考えております。
事務局からは以上でございます。

【湊部会長】ありがとうございます。今,幾つか,事務局から例を提示していただきましたけれども,ここに幾つかの大事なキーワードがございます。やはりこの部会でも議論していかないといけないと思うのは,博士課程修了者のキャリアパスの問題です。これは大学院そのものの問題というよりは,その次のステップとして,どのように社会的な,あるいはアカデミックなキャリアパスの成熟を図るか,ここは日本がいまだに抱えている大きな課題であるだろうと思います。これについて,大きな課題があると思います。それに関連して,学位人材,いわゆる学位保持者といいますか,そういった人材の社会的なメリットという問題があるんだろうと思います。ここが,1つはやはり今,主要な先進国と少し日本が違う局面にあるのではないかということで,ここについてもぜひ御議論をいただければありがたいと思います。この2つは,いずれにしても少し時間のかかる問題でありますけれども,少しずつ諸要素に落とし込みながら議論を進めていただければと思っております。その後に言っていただいた幾つかの問題,これは必ずしもポストコロナ社会だからということではないのでありますけれども,やはり日本の大学院に固有の幾つかの問題があります。これについても御議論いただきたい。ここでのキーワードは,1つはやはり人文・社会系の大学院の問題で,日本の場合,特にここが今,量的にも見劣りするところであり,これにどのように対応していくかという問題です。それから,学位プログラムということですね。いろんな試みがなされてきておりますけれども,一般的に欧米で行われている学位プログラムをどのように位置づけていくか,これは実は大学院というものの組織の在り方そのものにも関わってくる問題でありますので,根が深い問題であると思いますけれども,こういったことについても議論を深めていくことができればありがたいと思っております。これらは幾つかの例でございますけれども,今日は第1回の会議ということもあります。ぜひこういったことを踏まえて,今日は各委員の先生方から忌憚のない御意見であるとかお考えを,大学院部会に対しての審議事項のご提案を含めてお聞かせいただければありがたいと思っております。時間のこともございますので,できれば,お1人3分程度でまとめていただければありがたいと思っております。
私のほうから,あいうえお順で御指名をさせていただきますので,よろしくお願いしたいと思います。
それでは,早速ですけれども,まず最初に,副部会長の村田委員から始めていただけますか。

【村田副部会長】分かりました。ありがとうございます。それでは,私から簡単に,今,部会長からも整理していただきました前回の審議について,今後どう考えるかなんですが,湊先生は理科系の先生ですので,恐らく博士課程の修了者のキャリアパスということが大きな課題と御認識されていると思うんですが,一方,私は社会科学系が専門なものですから,今もおっしゃったように,社会科学系の,特に人文・社会科学系の場合は,いかに修士課程の学生を増やすかということが大きな課題になろうかと思います。そういう意味では,第11期の大学院部会では,理系の場合の博士課程のキャリアパスをどうするかという課題と,一方で,人文・社会科学系で修士課程の学生をどう増やしていくのかというこの2つの課題をすみ分けて議論をしていく必要があるのではないかと考えてございます。
特に,もう御存じのように,OECDのデータでは,修士,博士含めてですが,大学院の人口当たりの比率と労働生産性が正の相関があるというようなことも出ておりますし,少しデータは古いんですけれども,欧米では恐らく2000年代に入る前に,企業の幹部候補生,幹部は50%から60%が修士を持っている。それに対して日本は,2017年のデータでも11.5%ぐらいしかないというデータでございますので,5分の1ぐらいしかないんです。恐らく大きいのは,やはり人文・社会系のところであります。まさに人文・社会系のところが,いかに修士を持ってもらうか。そのことが実は,修士での深い学び,先ほど西大学改革推進室長からも少し出ましたように,いかに汎用性の高い教育を大学院でやっていけるか,そのことがいかに役に立っているかということを企業もようやく認識をし,経団連のほうでも,大学と経団連,あるいは政府が一緒になった「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」でも,ようやく大学院レベルでのリカレントということがはっきり言われておりますので,ぜひ理系と文系分けて議論をしていただくことが重要かと私は思ってございます。
以上です。

【湊部会長】どうもありがとうございます。非常に大事な御指摘で,日本では,いわゆる博士課程,修士課程を,前期,後期という位置づけがずっとされてきたわけですけれども,Ph.D.コースの前期,後期という考え方の上での修士課程というものと,独立したマスターコースとしての修士課程というものの違いはやっぱりあるんだろうと思うんです。特に人文・社会系では,そういうところの自己完結性は大事なんだろうと私も思います。ぜひその辺も含めて,少し分けながら細かい丁寧な議論をさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
それでは,あとは,あいうえお順でやらせていただきます。
まず,加納委員からお考えをお願いできますでしょうか。

【加納委員】NECの加納でございます。2点ございます。
1点は,博士課程修了者のキャリアパスの拡大ということですけれども,私,産業界にもアカデミアにも属している立場で見ますと,産業界等との連携というポイントで,今後,博士課程を修了した学生がどういう能力を社会で発揮できるのかという,いわゆる売り込み,これがやはり現時点ではまだまだ学生個人の活動に委ねられているところがあるかなと。企業から見ると,博士課程を卒業した学生の良さ,メリットといったところが,学生を通じてしか得られていないというのが現状かなと思っています。これをもっと組織的に,大学院から見れば,バックエンドでの支援という形になるかと思いますが,これをもっと前面に出して,新しい産業とアカデミア,大学院との連携によって組織的に博士課程修了者のメリット,良さ,いわゆる採用に向けた取組といったものを強力に進めていく必要があるかなと考えている次第でございます。これがまず1点目です。
2点目は,「ウィズコロナ,ポストコロナ社会も見据えた大学院における教育研究の在り方」というところで,特に1つ目の「大学院改革に係るこれまでの施策の成果等を有効活用するための方策」という点でございますけれども,私,卓越大学院プログラムの審査評価部会にお世話になっておりまして,やはり今回,ウィズコロナ,ポストコロナ,こういう状況になってきて,講義の仕方,やり方,あるいは学生の受講の在り方,仕方といったことも大きく変化してきてございます。残念ながら,こういったプログラムのヒアリングを通じて得られた情報によりますと,なかなかこれが大学の中でも水平展開できていないと。実は大学,今までは座学で終わっていた講義が,オンラインを使うことで,例えば講義を早めに切り上げて,ブレークアウトルームを使う,いわゆるシステムを有効に活用した新しい講義の取組ということを実際に行われている先生方もいらっしゃって,じゃ,これは大学で水平展開されているかというと全然されていない。こういったいろいろな取組の工夫,特に卓越大学院では,海外との連携あるいは海外への留学,それから学生間の交流,いわゆる文化系含めて,文理融合型の交流も行われているわけですけれども,コロナ禍でフェース・トゥー・フェースの機会が取られてしまった中で,いろんな工夫が行われていると思います。これを制度的に,あるいは仕組み的にどのように水平展開をしていくかといったところが今後の課題になるかなと感じました。
以上でございます。ありがとうございました。

【湊部会長】どうもありがとうございます。これも非常に重要な御指摘をいただきました。特に学生のいろんな教育の在り方等々については,1つは,これ,私見になりますけれども,やはり学生の環境がいまいちなんですね。分かりやすく言えば,学生がカンファタブルじゃないんですね,いろんなことをやるにしても。どうしても,ある教室へ詰め込まれて終わっちゃうと。そういうこともありまして,やはり学生の教育,あるいは研究活動がもう少し,学生がカンファタブルにやれるような状況,これは組織,施設等々が関わることですけれども,文部科学省にもそういうところへ少し目を向けていただければありがたいという気もしております。ありがとうございました。
それでは,川端先生,お願いできますか。

【川端委員】では,私のほうから少し。先ほど,オーバーオールの話をされたので,その中の幾つかという点で,1点目は,今までがやっぱり大学院と社会との関係って,こういうキーワードをやったときに,どうしてもそこにある社会というのは大手企業が何となくイメージの全体像を占めていて,それとどう付き合うかという世界の中に産学連携があったりキャリアパスがあったりという。ただ,これからの社会というのは,地域社会をどうするというのが日本の全体の課題に今なっている。そのときに,大学院はどう展開していくのがいいのかという,そこに多分,村田先生が言われたような人社系の方々と一緒にどうつくっていくか。地域という話をしたときにも,やっぱり今までは地域の企業とどう付き合うかって,そんなような話にしかなってない。そうではない次元をつくらなきゃならないというのは,これからの大学院なんだろうと思っています。
2点目は,先ほどから出ている博士課程の人間の話なんですけれども,キャリアパスの話を言うと,いろんなところで言っていますけど,要するに,もう10年以上前からこんな話は言っていて,民間と延々議論をして,結局10年たってどうなったかといったら,大して増えてないんです,民間にキャリアパスした博士の数は。最近,ちょっと増えたんですよ。でも,ちょっとしか増えてなくて,結局,じゃ,企業さんはというと,いや,うちは物すごく採っていますって言って,大学院の4割ぐらいも博士を採っていますという企業さんと,裏返せば,いや,もう要りませんという企業さんに分かれたのが今の状況かなという,そんな気がします。
それに対して,じゃ,大学はどうだったかというと,基本的にはいろんな言い訳を今までしてきたんです。学位プログラムですって言って,卓越大学院だと,こういう大学院改革をやりますってやって,でも,お金がないからな,学生さんは,奨学金がないしな,いや,キャリアパス見えないしなって,こうやっていたんですが,今年からフェローシップ事業が始まって,この後,6,000人の次世代研究者の挑戦的なやつが始まるという。それ以外に,じゃ,民間とのというのは,当然今までも大学,キャリアパスのコンソーシアムをやっていたり,それ以外にジョブ型インターンシップだとかという,さらに企業さんが踏み込んで,お金を出してでもやりましょうという動きが起こったという。ということは,大なたとしては,今まで障害だというのが全部取り払われた状態。あと残るのは,大学研究者の魅力みたいな。最後,魅力にいくのかなとか思っていますけど。
大なたで済まない世界がこれから,ばっと始まっていくと思います。そういう意味では,この大なたの間をつなぐものであるとか,本当にこれが実効的に,博士に進学したいと思うような優秀な者を増やすための研究開発だとか,こういうものに関する魅力をどう上げていくかというための施策を整理して,打っていく必要がある。きっと多様なので,大きなお金を1個積めば済むような話じゃないので,さあ,それ,どうするというのがキーワードかと思います。
3番目は,コロナの後で一気に世の中が変わったのは,やっぱりリカレントも含めたネットを使った教育という。これはやっぱりLXもそうですけど,いろんなところで動いている世界に我々はどう対応するのかというのと,今の若い人たちというか,うちの息子もそうだったんですけど,要するに,永久就職のイメージを全く持ってないという。それがキャリアアップするためのリカレントというのは,多分,我々が知っている世界ではない世界があるんだろうと思っていて,そういうものをぜひ議論していただければと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。これも大事な御指摘で,確かにキャリアパスは大手企業だけが出口ではないので,特に今,御指摘のあった,堅い言葉で言えば地域社会,もっと広く言えば,僕はコミュニティーということになるんだろうと思うんです。コミュニティーに対する,こういった人材のメリットがどういうふうに生かされるか。村田委員も言われましたように,そういうところでは,特に人文・社会系の人たちが,あるいは自治体を介してでもいいけれども,そういうコミュニティーにきちんとしたファンクションを果たすというような道筋が見えてくれば,随分様相も変わってくるのではないかという気もいたします。ありがとうございました。
次は,神成先生,お願いできますか。

【神成委員】こんにちは。慶應義塾大学の理工学部の神成と申します。私は,大学の法人執行部に属しているわけではありませんので,一兵卒でありますけども,2012年からオールランド型のリーディングプログラムのコーディネーターを行っておりまして,文系,理系の両方で修士課程を修了して,博士課程を終えるという5年一貫の文理融合型の博士人材教育の運用に携わってまいります。今年で10年目になりますので,10年たってもまだやっているということでございます。
先日も,修了生のOBから,現役のプログラムの学生に対しまして,このプログラムを終わってから,どういう待遇でどういう仕事をして今頑張っているのかという報告会がありました。産業界のメンターのOBも駆けつけて,そういった報告会を行っておりました。そういうことで,こういった自分の経験からしか委員会におきましても意見は言えないとは思いますけれども,現場の教育から意見を述べさせていただければと思います。
心情としましては,博士課程に学位付与のための専攻のような組織とか専門性を深掘りするための柱を育成する仕組みはもちろん必要でありますけども,研究の展開性とか,また,幅広く自分の総合力を高めるという点におきましては,専攻,研究科の垣根というものは,博士課程に限っては全く不要だと思っております。大学に残って研究・教育を行う人材も,もちろん博士課程出身者として必要ですが,我々の大学のような大学院ではむしろ,博士課程であっても産業界への人材輩出というのが主体になっております。理系の博士人材は,教養にあふれ,俯瞰的に課題を捉えられる能力を持った科学技術に秀でた人材,文系人材というのも我々のこのプログラムにはたくさん入っているんですが,やっぱり産業界で活躍できるスキルを備えた文系人材,この2つの育成が,産業界に学生を輩出するために重要なポイントであると,10年間,このプログラムに接した結果として,解であると思っております。
したがいまして,魅力的な大学院の博士課程の構築が必要で,経済的支援だけでは博士課程に行きたいという学生のマインドを捉えることはできないと思っております。学部の頃から志を高めて,彼らのモチベーションを維持していけるような,そういうプログラムをきちんと捉えていかないと,奨学金をたくさんあげるから博士に行けということでは今の学生は動かないのではないかなと思っております。
以上です。

【湊部会長】どうもありがとうございました。本当に御指摘のとおりで,プログラムの問題は,やっぱりどうしても議論の対象になるんだろうと思います。やはり一部はどうしても古い形の日本の,古い言葉で言えば講座制のようなタコつぼ型の要素が依然として残っていて,そういったものをどういうふうに解消していくかというのは,これは個々の大学の作業でもありますけれども,やはりそこは新しい形を見つけ出さないといけないということだろうと思います。ありがとうございます。非常に参考になりました。
次,小長谷さん,お願いできますか。

【小長谷委員】ありがとうございます。私は,人社系の研究を進めてきました。現在は日本学術振興会におりますので,オールラウンドで若手人材のことも考えているという立場です。今日申し上げたいのは2点ございます。1つは,チームサイエンスの正しい推進です。チームサイエンスといえば,ラボをイメージしやすいと思います。しかし,ラボを支えている方々は非常に身分が不安定で,そんな先輩を見て,自分たちもそこへ行きたい,行こうとは思わないわけですから,やっぱりそこで,必ずしもPIになるだけが全てではなくて,PIでなくても,個人的な研究を科研に応募するなどの権利は担保されて,チームサイエンスを支えるスタッフという推進です。民間企業を就職先として別につくるというのはもちろん賛成ですが,研究機関における就職口を増やすことをお願いします。そして,人社系もチームサイエンスだという考え方が必要なんじゃないかということなんです。
海外では,ホモサピエンス全史とか,感情の歴史とか,あるいは,社会学でもロバート・パットナムみたいに,たくさんの統計を使って議論するとか,ああいうぶあつい叙述は1人でやっているわけじゃないんですね。司馬遼太郎がたくさんのスタッフを抱えてやっていたのと同じように,チームサイエンスがあるから,あれだけの大きい仕事ができるわけです。日本人の研究者の能力がたりないんじゃないです。全部1人でやれとなると一生あっても足りません。そういう状況ですから,人文・社会科学が総合知を進めようと思ったら,やっぱりチームサイエンスという必要があって,そのチームサイエンスを支えるためには,身分をきっちり保障されて,データマイニングするとか,ライブラリアンとして仕事をするとか,研究の現場を支える学術的な職業が要ります。自分の好きなことをつなぎながら,文献を調べたりデータを調べたりすることで,ちゃんと食べていける人々が目の前にいれば総合的に解決できるんじゃないかなと思っています。それが1つです。
もう一つはジェンダーです。もう今ではジェンダーと言わないで,ダイバーシティーと言うんですね。ジェンダー課題を解決すれば全ても解決できるぐらいじゃないでしょうか。それぐらいジェンダーの問題は大きいと思います。よろしくお願いします。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事なキーワードがもう一つ出てきまして,確かにジェンダーの問題,私どもの大学でも随分悩んでおりますけど,大きい問題だろうと思います。今,小長谷さんが言われた中で,これは神成委員のお話とも合うんですけども,やっぱりタコつぼ化のようなものが依然として,とりわけ,ひょっとしたら文系にまだあるのかもしれない。つまり,専門を深く行くということで足れりとするようなところ,そういったところはかなりサイエンスの姿勢にも入っていきますけれども,ぜひそういったところについても議論を進めさせていただければと思います。ありがとうございました。
次は,小西委員,お願いできますでしょうか。

【小西委員】小西でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
前期に引き続きまして,私は大学院におけるリカレント教育の充実,この視点から諸問題を考えていきたいと考えております。ここで言うリカレント教育といいますのは,特に専門職のリカレント教育を考えてみたいということでございます。例えば,世界会計士連盟(IFAC)という世界的に認められた機関があるわけなのですが,そこでは公認会計士になる前の教育となった後の教育に分けております。公認会計士になった後の教育も,さらに2つに分けておりまして,監査報告に対する最終的な責任を持つエキスパートの会計士に対する教育を考えております。そうしますと,このエキスパートの会計士を教育するという意味において,専門職の博士課程の創設があり得るのではないかと考えております。つまり,キャリアパスで言いますと,博士課程を出てからのキャリアをどうするかということなのですが,専門職の博士課程と申しますのは,もう会計士として十分な実績,実務経験があると,そういう方が博士課程に入ってきて,さらにアカデミックな研究を進めていくことになります。会計分野では今,会計基準が国際的なレベルで設定されていっておりますので,そこに国を代表して,あるいは機関を代表して参加していかなければなりません。そこに理論武装をして参加できる公認会計士を育てるのは大変意義があるのかと考えております。それがまた,実務家教員の養成にもなるということです。
その内容に関してなのですが,例えば,ESG情報,環境・社会・ガバナンス情報について,これを開示していくのが世界の常識になっております。これを会計士がどう分析していくかということが,例えばテキストマイニングを用いて監査業務を行っていかなければならないというのが,もうこれは近未来でマストの状況です。それを教育するには,例えば,理系のデータサイエンス系の大学院や学部と一緒にプログラムを構築していくことが肝要かと。その方法の1つに履修証明プログラムがあるのですが,できれば文系,理系の垣根を越えた新しい教育プログラムを,リカレント教育のためにつくっていければいいのじゃないかと考えております。
国際的な視点という意味におきましては,オンラインで海外の先生に非常勤講師を願うということを副学長案件としているのですが,問題になるのが,例えば,半期15回全部をオンラインで授業した場合,何単位まで可能になるのかという,そこから決めなければなりません。いずれにしましても,海外の優秀な先生にオンラインで授業に,また研究指導に参加していただくことが必要なのかと思っております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。専門職大学院の在り方についても当然,このレパートリーに入ってきますので,ぜひよろしくお願いしたいと思います。
続きまして,佐久間委員,お願いできますでしょうか。

【佐久間委員】名古屋大学副総長の佐久間と申します。前期に引き続き,よろしくお願いいたします。
資料3にあったことは,いずれも重要な論点だと思いますが,私,もともとは人文系ですし,また,大学では人社系の改革を担当しておりますので,既に出ておりますけど,人社系について一言申し上げたいと思います。
前期の議論で,人文と社会科学系を一緒にするなという話がありましたけども。また当然,自然科学系だって問題がないわけではないですが,やはり相対的に人文系,社会科学系に問題が多いことは事実です。前期の議論で問題点については大分明確になったと思うんですけれども,残念ながら,なかなか有効な対策が示されているとは言えないというのが現状なのではないかと思います。
もちろん大学院全般としては,先ほどもありましたフェローシップは,博士後期課程の学生に経済的な支援をしようということで,これは非常に画期的な政策だと思います。ただ,そのフェローシップも,人社系も対象ですよということはちゃんとうたわれていて,名古屋大学でも予算を頂いていますので,学内での募集の際は,人社系の学生さんも対象ですよということを強調しているんですが,残念ながら,人社系の院生にはあまり振り向いてもらえていないという実態があるわけですよね。だから,総合知とか,人社系と自然科学系の融合による科学技術イノベーションといったことが謳われていて,それはそのとおりなんですけど,それを掲げただけでは人社系がついてきてくれない,ついてこられない部分があって,なかなか悩ましいところかなと思います。
また,先ほどもありましたけれども,やはり文系の場合は修士になかなか来てくれないということがそもそもの問題としてあるわけです。そこは理系のほうで,学部と修士で6年一貫みたいなことになっていることを考えると,やはり学部のカリキュラムとの関係も考えないといけないんだろうと思います。これは大学によるんでしょうけど,一部の大学では,もう既に学部の段階から専門まっしぐらというか,タコつぼまっしぐらみたいな教育が行われているところもあるので,そうなってくると,どうしても早い段階で視野が狭まってしまうのではないか。先ほど小長谷委員からありましたチームサイエンスというのは非常に重要なことだと思うんですが,現状ではカリキュラム自体がそうなっていないことが多いので,そうしたことが大切だと言われてもなかなか対応できないというところがあるし,また,総合知とか言われても,そういう視点が身に付いてないところが多分あるんだと思います。ですから,そこら辺から,やはり根本的に考えていかなければいけないのではないでしょうか。
私も,自分の大学の中で日々悩んでいるところではありますけれども,ぜひこの大学院部会でそこら辺のことも議論を深めていければ大変うれしく思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

【湊部会長】どうもありがとうございました。確かに制度だけではないんですね。制度も必要なんですけれど。ありがとうございました。
続きまして,迫田委員にお願いできますでしょうか。

【迫田委員】日立アカデミーの迫田でございます。先期に引き続き,よろしくお願いします。
私から申し上げたいのは2点ありまして,1つは,やはり社会との接続の問題です。これについては前の期でもいろいろ発言致しましたが,例えばリーディング大学院については,社会から熱烈に歓迎されています。日立でも特別チームをつくって採用に出かけているぐらいであり,決してニーズがないわけではありません。採りに行っても,なかなか採れないという状況であります。
全体で見ればそうではないということですが,1つの問題としては,ほかの会議の場で伺ったことがあるのですが,アカデミア志向の方が大量に博士課程に行っていて,そもそもあまり民間に興味を持っていないのではないかと推測します。リーディング大学院の場合には,初めから就職あるいはベンチャーをやっていこうというような方々が相当集まっておられる印象を持っており,そういう方々は民間でも十分やっていけると思います。この辺もう少し,プロダクトアウトでなくマーケットインで考えていただいて,社会で必要とされる人材をどうつくっていくのかということを検討すべきと考えます。また,そのために,優秀な方々が博士課程に行くという状況をつくる必要があると思います。日立は,非常に理系出身者が多い会社で,修士や博士が数多くいますが修士で卒業して,博士は会社に入ってから取ればいいと考える優秀な方が相当多い気がします。本来,初めから博士課程に行くべき人たちが,修士で民間に出ているところを,何とか変えていくべきだと思います。そのための条件を整えるようなことを考えていけたらと思っています。
もう一つは,オンライン化への対応です。コロナの問題で急激にオンラインが進みましたが,これは,大学にとっては,事業拡大の大きなチャンスだと感じております。オンラインが活用できることによって,社会人の学び直し,リカレント教育は,時間や場所の制約を超えて参加できる環境が整ってきたと思います。日本企業はデジタル化,DXが進んでおらず何とか遅れを取り戻さないといけないと考えている企業は,相当多いと思います。デジタル人材の育成では調査対象国中最下位というデータも出ていますので,会社が金を出してでも学ばせたいというニーズは相当高いと思います。これを何とか引きつけることをぜひ検討していくべきではないかと思います。
日立アカデミーでは様々な研修を提供していますが,海外のビジネススクールと組んで提供しているプログラムもあります。彼らのオンラインの使い方を見ますと,物すごく熟練していて,設備も整っているというのを実感します。今,日本の大学もZoomで講義はやっていただいていると思いますが,魅力的な講義にしていかないと,国の壁を越えて海外の大学に学生を取られてしまうと思います。オンラインを魅力的なものにしていく施策を考えていけたらと思います。
私からは以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事な御意見。大学あるいは大学院がDXというものをどういうふうに具体化していくかというのは,まだ実は内部でもイメージがよく出来上がってないんだろうと私は思うんです。それはやっぱり実践の中でしかできないので,そういう観点からも,これはもちろん手段として非常に重要な手段であるということを割り切って,どれだけそういったものをフルに使えるかというのは確かに大きい,グローバル的な観点から言っても問題だろうと思いますので,ぜひまた,いろいろ御意見をいただければと思います。ありがとうございました。
次に,須賀晃一先生,お願いできますでしょうか。

【須賀委員】早稲田大学の須賀と申します。よろしくお願いいたします。
私からは,2点ほどお話をさせていただければと思っております。私,経済を専門としております。そこで,先ほど来出ております理系と文系を分けるということは,私にとっても非常に重要な課題でございました。研究科長をやっているときに,大学院生拡大策というのをいろいろやりまして,修士課程については,修士の定員を充足させるために留学生を増やすというようなことをやったんです。それらの留学生が博士にそのまま行ってくれるかというと,ほとんど行かなくて,留学生の場合は修士を終えて就職をすると,日本国内からまた本国に戻っていくというのが多かったと思います。ということで,日本人学生の博士人材不足をどうやって補っていくかというときに,博士課程への留学生はあまり数は増えなかった,博士の進学者は増えなかったということがありました。
そこで考えたものが,1つは,博士を増やすということ自体に果たしてどれくらい意味があるのかということだったんですが,博士人材に関する見方については,どうも理系と文系で大きな差があって,文系の場合に拡大すると,すぐに供給過剰になってしまう。これは最終的には,様々な形での非常勤講師を大量につくり出すという結果につながっているような,そんな感じを持っております。アカデミアに就職したいというのは,基本的に恐らく人社系博士学生全体がそうだと思うんですが,そういったことから,定員を増やすという方策はそちらに向かってしまう。一方で,理系のほうは博士人材が不足していると言われておりますが,やはりそこでも今,博士に行く人たちはアカデミアを狙っている方々が多い。そのときに,じゃ,どういうふうにして産業界へつなげていくのかということが理系では問題になっているということで,どうも人文・社会と理工系の間では需要と供給の在り方がかなり違っていて,その間の調整を行うマッチングの仕組みも相当に違うんだろうという感じを持っております。
今まで,文部科学省が取られてきたことでいきますと,供給を増やす,定員を増やすという方向で考えていいのは理工だけで,人社のほうは,特にアカデミックな世界で需要が増えない限りは増やしてはいけないだろうと,今のところ考えております。もしキャリアパスとして博士人材が大量に必要な領域が出てくることがあれば考えてもいいのかなと思うんですが,今のところ,私としてはそのような領域は考えついていないということです。
その辺りを考えていくために,2番目に申し上げたいことは,両方ともにコースワークがあまりきちんと整備されていないのではないかということです。理系の場合でも,研究室単位で相当に幅広い知識を要求する研究室もございますけれども,先ほどから出ていますような,講座制の名残がそのまま維持されていくようなところもありますし,文化系の場合にはそれがさらにひどいと思っております。基本的に,先生から受け継いだ方法の下に新しいことをやるといっても,なかなか先生を超えることができないので,まず,そこに集中してやる。そうすると,幅広い知識を身につけるといった,すぐに総合知に必要な知識はほとんど身につかないということで,総合知に目覚めるのは,別なプログラムに参加した学生ぐらいだと思います。
例えば,卓越大学院プログラムに人社系の協力が必要だということで入っていった学生は,そういったことに気がついてきます。でも,通常,大学院の課程の中にいる人たちには,それはほとんど不可能です。おまけに,コースワークというのがいくらあっても,ほとんどが限定的です。例えばアメリカの大学なんかですと,メジャーが1つでマイナーが2つで,マイナーで合格していれば,それを教える資格があることなんです。ここまでの領域をきちんと学ぶということは,日本の大学院ではほとんどできていない。私が知っているのは人社系だけですが,そこはそういう形になっている。
理工のほうはどうかと聞いてみて,コースワークはやっているんだとおっしゃるんですが,産業界の方に聞くと,博士課程修了者に入ってもらって,研究テーマが合っているときにはすばらしい仕事をしてくれるんだけど,ちょっと別な研究課題が出てきたときに対応ができないという話も聞いたりしますので,状況は似ているのかと思っております。理系の方から,その辺りの詳しい話がお伺いできればと思っていますが,まず,キャリアパスを考えていく上で,コースワークの充実が私にとっては優先課題と認識をしているところです。
以上です。どうぞよろしくお願いいたします。

【湊部会長】ありがとうございます。確かに,状況,領域によって随分違うこともあって,やはりこれはきめ細かい対応が要るんだろうという気もしましたけれども,先ほど,その前の須賀先生もおっしゃったけれども,やっぱり人文・社会ひとくくりにくくって本当にいいのかなというところもあります。随分いろんな課題が出てきましたけども,また,いろいろ御議論をさせていただければと思います。ありがとうございました。
続きまして,菅裕明先生,お願いいたします。

【菅委員】私,大学院部会,期によって入っていたり入らなかったりするんですけど,かなり長い間出席して議論させていただいております。毎期,似たような議論をしているというのが事実だと感じているんですけれども,ぜひとも今回は,いまだ解決できてないことに関してしっかり議論していただく時間を取っていただけたらと思います。あくまで理系の立場からの認識でありますけれども,3つの問題点があると認識しております。修士課程の学生さんと博士課程修了者との社会的なニーズは何かというところで,やはり博士課程修了の学生さんのほうがグローバルに活躍できる資質を,博士課程の教育の中で育成できているところが大きなものになるのではないかと考えています。それを考えた上で,まず博士課程に修士課程のいい学生が進学していくかが非常に大きな問題の一つだと思っていまして,私はアメリカで博士を取ったんですけれども,そのときに一番感じたことは,アメリカで,あるいはスイスでも修士課程の間,行っていたんですけれども,社会的地位が違うと。
要は,博士課程の学生というのは一種の研究者,もう完成に近い研究者であり,労働力,研究という労働をしっかりと担える人間であるという形の社会的な認知がある。それが日本では,まだ学生というような意識がどうしても立っているというところから,社会的地位の確立というのは,1つは経済的な自立が必須であります。これはもう日本だけだと思うんですけれども,博士課程の学生さんが相変わらず学生と同じように生活をしているというところ。それから,もう一つは,修了後,やはり社会的な地位が向上できているかどうかが非常に重要なポイントとして,海外の場合,博士を持っているか持ってないかによって企業での待遇も随分違うということ,この2つをやはりきちっと日本の国内で世界レベルにしないことには,博士課程になかなか進学していかないのではないかと思います。ただ単に経済的な自立だけではやはりいかなくて,社会的な地位の向上と,この2つがどうやってそれをつくり出す,博士教育にしていくか,それが冒頭のグローバルで活躍できるというポイントだと思います。
理系では,私の肌感覚だと,博士課程に進んだ学生は全てがアカデミア志向ではなくて,企業にもどんどん就職するというのは感じているところではありますけれども,やはり先ほど申し上げたグローバルな視点でグローバルな活躍ができる人材である必要があると思います。
もう一つ,修士課程の途中で今,就職活動が行われているという現実的な,テクニカルな問題があります。これは修士課程,ほとんど1年生の学生さんが,あるいは2年生の初めに就職活動するわけですね。これは,博士課程入試の前に就職活動があります。つまり,どういうことかというと,学生にとっては,まず自分の方向を決める,決定しなくちゃいけない時期が,就職活動がまず来て,それから博士課程の入試ということになるので,やはりそこはひっくり返す必要があると私は思っています。すなわち,どういうことかと言うと,修士課程の途中で就職活動するのではなくて,修士課程が終わったところで就職活動すると。これは,文部科学省が進めていただいたジョブ型インターンシップとの連携としては非常に重要なポイントで,これが来ない限りはジョブ型インターシップも促進できないと思っていますので,やはりそこをもう少し,この大学院部会でどうするか,つまり,修士課程の審査をしてから就職活動ができるように工夫をする必要があるということだと思います。
あとは,やはり博士課程の修了者がグローバルで活躍できるという担保をどうやってつけていくか。英語力をつけることが恐らく非常に重要なポイントではあると思いますけれども,講義の英語化は,リモートも含めて必須ではないかと感じている次第です。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。いずれにしても,実はこの論点がずっと大学院部会では議論され続けてきていますし,なかなか答えが見つからない,簡単に答えがあるとは思わない。これは,制度であるとか社会の問題を含んでいますので難しい問題ではあるんですが,やはりここはきちんと議論していかないといけないんだろうと思います。とりわけ学位の社会的メリットというのは,今,御指摘があったとおりだと私も思っています。一方で,最近のいわゆるベンチャーみたいな動きがどんどん出てきて,そういう世代のメリット,功績,成功感というものが次第にそっちへ行ってしまう。それはそれでいいんだけれども,それがあまりにも偏り過ぎたときに,本来,学位保持者が持つ重厚な,あるいは包括的な知的な資産というものがどれほど社会的なメリットとして受容されるかという問題はやはり大きいんだろうと思うんです。これはもちろん社会の問題なので,一朝一夕で何かをいじれば動くということではないかもしれないけれども,これについては,やはり継続的な対策が必要なので議論していく必要はあるだろうと思っています。ありがとうございます。
それでは,高橋委員からお願いします。

【高橋委員】ありがとうございます。高橋真木子です。10期の最後の,前期の最後のコメントのときに,フリーな意見をということだったので,10期の議論を通じて,私自身がマイノリティーだなと感じた点を,多様性を提供するというお許しをいただいて,2点指摘させていただきました。1つは,理系,文系という区分が我々の議論に適した概念かなというところで,これは今日の冒頭,西室長が既に対応いただいて,今後は適宜,自然科学,人文科学,社会科学という議論をできればと思っています。
違和感の2点目は,「企業が」という点で,これは,川端先生や迫田委員が先ほど御指摘なさっていましたが,2000年代初頭までのいわゆる重厚長大の製造業系大企業というのと,金融サービス,GAFA,外資,IT,スタートアップを念頭にするのでは,企業がという概念の広さを気をつけないと,先ほどおっしゃっていたアンダー40世代が,転職を既に自然にポジティブに自分のキャリアパスに織り込んでいる点と合致しないんだろうと思っています。この2点が,やはり11期の議論に当たって意識すべきポイントかと思っております。
今期,11期のスタートに際してなんですけれども,何を議論するかの大枠は,ほぼこれまでのご議論で出尽くしておりますので,何を議論するかというよりも,何を意識して議論していくべきかという観点で,2点ほど申し上げたいと思います。
一言で言うと,もうこれまでの前提が大激変です,ということです。1つ目の激変は,やはりポストコロナだと思います。先月,NHKの深夜番組を見たんですけれども,アメリカに留学している中国人学生が,2019年までは卒業後8割がアメリカで就職したいと思っていたと。ですけれども,2020年のサーベイを取ると,今,一時帰国で中国に戻っている人が多いという特殊環境バイアスを考慮しても,アメリカの大学を卒業した後,7割が中国に戻って就職したいというサーベイが出ているという事でした。なので,我々の議論で意識したい点の1つ目としては,良いモデルとしてのアメリカの大学という位置づけは当然今後も変わらないと思うんですが,循環を前提にして,最後何割かの優れた日本人学生が,さきのように,最後は日本に帰って活躍したいと思う,その受皿づくりという観点も重要なんじゃないかと思っています。これが前提の1つ目です。
前提の激変2点目は産学連携です。先ほどの重厚長大製造業系だけではないという点なんですけども,やっぱり自然科学系のアカデミアと,そういう企業とのお付き合いが今後も日本においてはマジョリティーだとは思うんですが,何人かの先生方がおっしゃったように,社会課題の解決というのは,この2つのメインプレーヤーだけもう全然たちいかないと思っています。例えば私の業界で言うと,地域社会や市民やNPOなどのマルチステークホルダーは,もう当然の前提で入れておかないといけないのですが,これで既に少なくとも5カウントになります。さっき,小長谷先生がチームサイエンスを支える専門職とおっしゃっていましたが,全くアグリーです。その専門職について申し上げますと,例えば大学の研究推進支援の専門職として,日本では1,500人ぐらいのURAが大学等で働いています。このURAの実務者自身も重要なんですけれども,そういう新しい職を定着させるために,その人たちがエンカレッジされるコミュニティーをつくるところも,持続性を考えると重要だと思います。欧米はPh.D.ホルダーがそのコアをしっかり支えています。例えば,今回のコロナでも,接種率を上げるため,ワクチン怖いよねって言っている人たちに対して,アメリカでは本当に一人一人のとの丁寧な対話を通じワクチン接種率を上げるところにNPOの大きな存在感があります。そして,数はまだ少ないけれども,重要なところでPh.D.ホルダーが場所を得て活躍している。「社会で活躍する」の視野を広げる,ここをぜひ意識した議論が今後できればと思っています。
以上です。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に大事なフレッシュな観点で,確かに私どもの世代では,大学院を出たら大学に残るのか会社に出るのかみたいな,そういう話でしかできてこなかったんだけど,先ほどから出ているように,やっぱりコミュニティーの中で,そういう一定の知識とトレーニングを受けた人たちがどれだけファンクションできるかということは僕は確かに大きな課題だと思います。そういうところで,裾野へもっと広がっていけば,そういう知識あるいは技能を備えた人たちのメリットがそこできちんと出てくるんだろうと思うんですね。ありがとうございます。ぜひそういう観点でも議論は進めさせていただきたいと思います。
次に,田中委員からお願いをいたします。

【田中委員】どうもありがとうございます。個別の問題とか需要と供給の問題というのはいろいろございまして,もう既に御指摘されているところなので,私は今回は,若干のイメージ問題といいましょうか,そういうことについてお話ししたいんですが,イメージは,人文・社会系の博士号を取った人間というのは,学問だけやっていて,その後,社会には役に立たないというようなイメージが存在すると思うんですけれども,私,これは間違いだと思うんですね。というのは,自分のことを言うので誠に恐縮ですけども,例えば国際協力機構(JICA)というところの理事長は,今,3代にわたって人文・社会系の博士号取得者です。緒方貞子さんがやって,その後,私がやって,今,北岡伸一さんがやっているんです。全員,人文・社会系の博士号取得者です。
緒方さんについてはよく知られていますけど,その前は国連難民高等弁務官という国際機関の長をやっていた。彼女のPh.D.論文は満州事変の研究です。ですから,そういう例もございますし,それから,日銀の総裁はなかなか難しいんですけど,日銀の副総裁というのは大体みんな,経済学の博士号取得者です。ということで,これ,みんな大学の先生だろうということになるんですけど,大学の教員はみんな1つのところにへばりついて,どこにも行かないのかというと,そんなことはなくて,まさに大学の教員で人文・社会の教員がパブリックセクターからリクルートされて,3年とか5年行って,また元に戻るという,このリボルビングドアをやっているわけです。それで今,例えばJICAの中で言うと,JICAの理事とか上級審査役の中で博士号を持っている人,結構います。ですから,こういうことから言うと,人文・社会系の学問をやった人間というのは,少なくともパブリックセクターの経営をすることについては大変能力が高いと私は思っております。
大学人というのは経営能力がなくて,だから,産業界から人を入れなきゃいけないというようなことをよく言われるわけですけれども,今私が申し上げた事例からすると,大学で人文・社会系の教授をやっていた人たちというのは,少なくともパブリックセクターにおいては経営能力が非常に高いということを物語っていると思います。ひょっとすると,私は今,大学の先生に民間の会社の経営をさせたほうが,最近の巨大企業の統治の乱れ,めちゃくちゃなところ,こういうところを見ていると,大学から日本のプライベートセクターにもっと人材を送り込んで,コーポレートガバナンスをみんな立て直さなきゃいけないんじゃないかと思う次第。実際,社外取締役になっている人社系の博士号保持者は結構いっぱいいるんですね。ですから,私は,人社系の博士号を持っている人というのは,とてもとても社会に役に立つ人材の供給源だと思っておるわけですね。
ですから,これを利用しないほうが悪いって言ったら具合悪いんですけど,例えば,今言ったもので言うと,若干パブリックセクターで,こういう人社系の博士号保持者を利用しているものの多くは,メインストリームの中央省庁ではないんです。その結果,メインストリームの中央省庁は,世界で最も低学歴なビューロクラシーになっているんです。例えば,台湾だとかその他行くと,ビューロクラシーのトップにPh.D.保持者がそこらじゅうにいるわけ。だから,本来どうやって日本のパブリックセクター,特に中央省庁の幹部クラスに人社系,理科系ももちろんそうですけども,博士号取得者を増やさなきゃいけないか。これは私は,日本の国家的課題だと思っております。
以上です。

【湊部会長】 ありがとうございました。大変心強いお話で,いいですね。それでは,長谷川委員,お願いできますでしょうか。

【長谷川委員】 今回から初めて入りました。大学院部会,初めてでございます。いろいろと頂いた資料を見ていたんですけど,先ほど田中先生もおっしゃったように,本当に企業の管理職に占める大学院修了者の割合が,アメリカは4から6割に対して,我が国,6%とか,それから,ほとんど中央省庁にいないとか。これで今までどうやってきたんでしょうか。それでも日本は潰れないでやってきた,結構やってきたということは,博士号なしでも十分闘えたんですか。何がそれを補完していたんでしょうかねと。それとも,それがもうどうしようもなくなって,博士号取得者がいないからこそ,とても日本は悪くなったんだという証拠か何かが出てきたんでしょうか。
社会との間のマッチングですので,大学側だけが何かをしようとしても駄目だし,先ほど,どなたかの,たくさん増やしても余るだけだというお話もありましたように,どういう人たちを育てると,どういうふうに受け入れられるかの両方のてんびんがマッチしないといけないですよね。その意味で私は,今までずっと社会全体,別に企業だけじゃなくて,社会全体が博士号取得者というものをどういうふうに評価して,どういうことを期待するかということと,大学側がどういうような博士号取得者を育てて,どんな能力を生かしてもらいたいと思うかの対話がなさ過ぎたんだと思います。その結果,アカデミアで勝手なことをするみたいな,1つのどつぼになってしまい,それで社会側は,何も役に立たないみたいなことで尊敬もしないみたいな,そういう非常によくない2つに割れた分離の状態なのではないかって,そこを何とか回転させていかないといけないと思います。
よく研究開発とか優れた創造性,豊かな能力を持つ研究者,または,いろいろな専門的知識や能力を持つ高度専門職業人の育成とか,2本柱で書いてあるんですよね。だけど,私,これは本当は2本柱ではなくて,両者ともに結局,論理的で批判的思考力があること,そして,ちょっと上のほうから全体を俯瞰的に見ることができること,それから,様々な意見やら仮説やら欠陥があったときに,それをどう調整していくかということが考えられる人,それでコミュニケーションができて,それと今,ちょっと前には全然思ってなかったのは,このIT情報化社会だと思うんです。いろんなことが急激に起こって,そういう状況の中で,知識の断片とか情報というのはいっぱいある。それの正しさをどうやって確かめるのかとか,どこにどういういい情報があるのかというのを探せるとか,探してきたものを組み立てて結論が出せるとか。単にプログラミングができるとかデータ処理ができるんじゃなくて,情報に関するいろいろなリテラシーを含めた技量,そういうもののある人間というのが,今言ったような論理的とかなんとかを全部入れると,それが最終的に研究者になるのか,それとも,最終的には社会のいろんなところで活躍できるのかというのは,あとはその人の好みの問題で,どういう能力かという点では,世の中全体を良くしていくために,どこにでも通用する人材になるんだと思います。
問題は,そういうつもりで大学院教育をしてこなかったということだし,社会全体も,そういうつもりで博士号取得者を見てこなかったということだと思いますので,湊先生もおっしゃったように,社会全体に関わることがたくさんあるから,ここだけで一朝一夕にはいかないと思いますけど,たくさん議論をしていきたいと思います。ありがとうございます。

【湊部会長】ありがとうございます。非常に包括的な御意見で,ぜひそういうことも含めて,ここでは議論を進めたいと思います。ありがとうございます。塚本委員,お願いします。

【塚本委員】塚本でございます。よろしくお願い申し上げます。皆様がお話しになっている点と重なるところもございますが,3点お話しさせていただきます。
コロナでオンライン授業が普通にできるようになってきたというのは,リスクでありチャンスであると思っています。リカレントの対象となる社会人も含め日本にいる人がオンラインを使って海外の大学に結構行きやすくなり,そのような案内も増えてきているように感じます。国内の大学にとっては競争相手が世界に広がるということで,受講者確保において,ある種リスクとなりえます。他方,日本国内の大学におきましても,さまざまなオンラインの授業のご知見が蓄積されてまいりましたので,オンラインと対面のハイブリッドなど科目に応じた組み合わせで,日本の学生のみならず,海外の学生を呼び込むための方策を考えると,日本の大学院にとってチャンスになりうるのではないかと思います。
2点目といたしまして,長らく指摘されている博士課程学生の企業での活用が足りないという点です。最近,新入社員の初任給の表示がリクルートのページでそれぞれ掲載させていますが,学部で新卒で給料幾ら,修士で幾らとなっておりまして,博士については金額を出しているところと出してないところがあります。博士については,学部や修士とは違い新卒扱いではなく,キャリア採用枠(中途採用)にするなど,特別なものであるというような扱いを徹底して,社会的地位というか,尊敬とかをされるようにしていくことも一つのアイディアとなりうるのではないかと考えます。こちらは,大学のお考えを踏まえ,産業界と一緒に話し合っていくべき課題だと感じております。
最後,3点目,社会的地位・あこがれの職業としての研究者という観点です。博士になりたい人を増やすために,広報宣伝,啓発のアプローチを少し増やしてはみてはどうかと思います。小学生等のなりたい職業ランキングを見ていますと,時折,研究者,科学者というのが入っています。残念ながら,上位にあるわけではなく,小学生にとって認知度の高くない職業となっているように思います。すでに,サイエンスコミュニケーションなどの取り組みをなさっているかと存じますが,加えまして,小学生のスマホ使用率が50%以上になっている点などを加味して,ユーチューブなども活用し,デジタル系の柔らかい情報発信をしてはどうかと思います。「研究者になって,日本・世界のイノベーションをけん引したい!」という人材の裾野を増やしていくと,博士があこがれの未来へのパスポートとなり,徐々に日本の社会における認識が変わっていくのではないかと思います。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございました。それでは,濱中先生,一言お願いできれば。

【濱中委員】濱中でございます。以前,大学院についても扱ったことがある高等教育の研究者としてこちらに呼んでいただいているものと理解しております。
  日本の大学院教育が抱える様々な問題については,大きく2つの視点を設定することができると考えております。ひとつは「教育の内容」で,社会や企業などからの期待とのギャップに関するもの。もう一つは,コースワークではなく,個人指導や研究室指導を中心とすることに起因する「見えにくさ」に関するものです。また,「見えにくさ」については,日本の場合,専門教育が,学部,大学院,専門職大学,専門職大学院,場合によっては専門学校と,多様な機関が担っており,整理されていないことによるものも指摘できるかと思います。ここ20~30年は,こうした問題に対してどう策を講じるのかということが議論されてきたと理解しております。
そして事務局の御説明にもありましたように,その対策というのは,もう既にいろいろ考えられ,試みられています。だとすれば,なぜ,そのような対策が功を奏しないのか,もっと本質的なところに問題があるのではないかといった問いにつながっていくのだと思いますが,そうした中,つい先日,ある大学の人文・社会系の大学院の意義について考えるイベントがありまして,そこに参加させていただきました。そのイベントが私にとっては結構衝撃的で,企業や人文・社会系の修士の学生も登壇されていたんですが,何が衝撃的だったかと言えば,ごく自然に大学院で学ぶ意義について語られていたことです。大学院で学ぶことの意義を頑張って言語化するというのではなく,ごく自然に「こういう意義があるよね」という対話が成立していたところが印象的でした。5年,10年前では想像できないような空気が流れていると感じました。
もちろん,このイベントでの経験が一般化できるのかというのは別問題なんですが,もしかしたら学部教育の改革の効果,例えば主体的,能動的にいかに学生に経験させるかといった,そういった改革の効果がじわじわと出てきているのかもしれない。あるいは,高校のSSHとかSGHの効果がじわじわと出てきているのかもしれない。そのような可能性を感じました。
また,今,2021年ですが,大学院教育改革が試みられるようになったのが1990年代の頭からですから,改革から30年近く経ったことになります。その30年近くの効果というのが,ようやく出始めているという見方もできるかもしれないと思いました。30年というのはそれなりに意味のある期間で,30歳だった方が60歳になる。要は,企業などの組織にいるメンバーが入れ替わるわけです。さらにいえば,今,50代,40代という,組織をリードされる層は,大学院改革や大学院進学者数の増大と時期を重ねるようにキャリアを歩んでいらっしゃっていることになります。加えて,先ほどから出ていますように,ごく自然に転職を考える,NPOとかベンチャーへの就職を考える人たちが増えている中で,大学院進学という選択肢の位置づけが変わりつつあるのかもしれない。楽観的に過ぎるかもしれませんが,そのように感じました。
こうした見方が間違っていないのであれば,大事になってくるのは,これまでの施策の成果を改めて検証することのように思います。徐々に軌道に乗り始めているもの,軌道に乗り始めているところがあり,それがなぜなのか。そういった視点をぜひともこの部会で積極的に取り入れていただけたらと思います。
  大学からは「改革疲れ」という声も聞こえてきます。まず,これまでやってきたことの意味について検討していただければということを感じております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございます。確かにこういう会では,一生懸命ネガティブなところを探し続けてきたんですけれども,今の話を聞くと,そう捨てたものではないところをやっぱりきちんと入れていくということも大事だろうという気はいたします。本当にありがとうございます。いい意見だと思います。
次は,堀切川先生,お願いできますか。

【堀切川委員】初めての方もおられると思いますが,「堀切川」と書いて「ホッキリガワ」と読みます。私は大学の経営者でも何でもなくて,やってきたことは,工学系の人間なのですが,産学連携が大好きで,ものづくり大好きということで,売れる商品化まで目指す企業以外とは付き合わない。にもかかわらず,特許料を一円ももらわないできたというので,大学の経営者に残念がられ,社会に褒められる人間でありたいと思って生きてきた人間でございます。商品化200件以上,生涯売上金額1兆円を超えたのに一円も大学に入れないという立派な生き方をしてまいりましたというところで自己紹介を終わります。
優秀な修士課程の学生をいかに博士課程に進学をさせるかと,今,長期低落傾向で減ってきており,奨学金を出したり,いろんなこともしてきたと思いますが,効果はあんまり出ていません。博士課程に進学したがらない理由を自分なりに考えてみました。
1つ目ですけれど,修士課程の学生から見ると,近未来の自分の姿が大学の中の助教,准教授,若手の教員だと思いますが,助教,准教授の中には楽しく研究に取り組んでいる人もいるんですけど,かなりの若手研究者が楽しそうに仕事をしてないように思います。そういう人たちを見て,将来あんな人に俺はなりたくないというある意味自然な判断をして,修士課程修了後そのまま社会に出ていっていると私は思っております。ここを解決するためには,研究業績上げろ,外部資金取ってこいと,どんどん言われて,楽しくない顔をしている助教,准教授に本来の研究の楽しさを学生に言えるような環境づくりから始めないと無理じゃないかと思っております。さらに,年収も大企業に比べて低いのを目の当たりにしたら,大学教員の道に進みたくないという気持ちになると思います。昔は,年収が低くても楽しいことが研究できるって残れる人が結構いたと思うんですけれど,現在ではそのようなマインドの学生は激減しており,そこが大きな問題かなと思っています。
2つ目ですが,社会に出たほうがいいかというと,そうでもない。一部の大手企業ではドクターでもうちは活躍していますよと,採りますよと人事の人たちは言いますが,結局採っていく人はほとんど修士課程の学生です。それが実態です。大企業とも今,共同研究を行っておりオンラインでの打合せには,修士課程の学生も参加してもらっていますけれど,企業におられる学部卒業生や修士修了生の方々が研究開発ですごい活躍しておられて,そういう人たちを見ていれば,修士課程の学生は,何だ,ドクター行かなくても,あんなに楽しく立派に活躍できると考えるようになります。そうなると,大学に残っている暗い諸先輩よりは,企業で楽しく活躍する修士課程を修了した人たちを,前よりよく知っているので,当然ドクターには行かなくなるということだと思っております。根本解決は無理だと思いますが,実際には,社会に出て,企業に出てやっておられる人で,社会人ドクターで来られる人がいると,その人たちの影響が最も,内部から進学する学生には大きいと私は思っています。
そういう意味で,企業の皆様にも,大学院の授業なんかの教育で支援も必要なんですけれど,ぜひ社会人ドクターを増やすということがあると環境が変わっていくんじゃないかと私は思っているので,社会人ドクターが入りやすい状況を産業界も大学界もつくってみてはいかがと思っているところであります。
御清聴,どうもありがとうございました。

【湊部会長】ありがとうございました。ぜひよろしくお願いします。最後に宮浦委員,お願いできますでしょうか。

【宮浦委員】ありがとうございます。10期に引き続きまして入らせていただきました宮浦と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
10期からできそうなことはどんどんやってきていて,あと何をやればいいんだろうという感じにもなっちゃっていると思うんですけれども,人材育成という,社会人ドクターのお話がちょっと出てきたので,私も非常に賛成なんですけれども,社会システムそのものを企業様とアカデミアが協力してドラスティックに変えないと,なかなか変わらないんじゃないかと感じています。例えば,ある一定規模の企業様の場合は,課長職ですとか管理職になる前は,大学に在籍してドクターを取ってこないと管理職になれないとか,あるいは,大学教員も准教授になるときには,民間企業様で3年以上の仕事をして認められてこないと准教授にはなれないとか,何かそういう社会全体で仕組みを変えないと,一部いろいろ活躍されている方はいるという話題になっちゃうんですけれども,なかなか全般的な波及効果が得られにくいと感じております。
したがって,社会人の方も忙しいのに,普通の学生と同じように,毎日いないとドクターを取れないとか,そういうシステムは少し変えながら,管理職になる一歩手前の優秀な社員の方は,必ず大学に来てドクターを取っていただく。あるいは,准教授でテニュアトラック明けると同時に准教授になる方,あるいは若手の教授になる方,民間3年以上とか,それを職場もマストにしていくようなことをやると人が動くんじゃないかと考えております。
以上です。

【湊部会長】ありがとうございました。今日は本当に皆様,参考になるというか,楽しいというか,面白いというか,いい話をいただきました。ぜひ本部会では今後,今日のような話からいろいろ課題を抽出しながら議論を展開したい。とりわけ,やはり私としては,中長期のことを含めた新しい視点のことも少し取り入れたいと思っております。
特に先ほど,少子化の話をしましたけど,もう一つ大きいのは高齢化でして,人生70年の時代にセットアップされた人生プランというのは,もう多分違うんですよ。もう人生90年の時代に入ってきたときに,一番大事な20代前半から30代にかけてのところを今までと同じペースでいくのか,もう少し全体の長いスパンの中で,そこにいろんな要素を組み込んでいくのか。つまり,早く仕込んで早く外へ出すみたいなことだけでなくていいんじゃないかというようなことも含めて議論したい。これだけのメンバーにお集まりいただきましたので,私,本当に喜んでおります。ぜひ,まずは1年かけていろんな議論をして,新しい課題も抽出して,できれば対応策も出させていただければありがたいと思います。本日はちょっと遅れましたけど,本当に御協力ありがとうございました。
最後に,文部科学省から伯井さん,お願いします。

【伯井高等教育局長】高等教育局長,伯井でございます。各委員の皆様方には,第11期の大学院部会委員を,それぞれ大変お忙しい中,お引受けいただきまして,ありがとうございます。今日も様々御議論があったと思いますが,大学院をめぐる課題は多岐にわたっております。政府としては,博士課程学生への経済的支援の充実ということで,取組をさらに強化しているところでございますが,博士課程のみならず,修士課程につきましても,その役割であったり,その在り方をどう考えるのか,定員設定をどうするのか,あるいはダブルメジャーをはじめとした分野横断的なカリキュラムの履修の在り方をどうするのか,あるいは学生支援策をどうするのかとか,今日もありましたけれども,就活の時期との関わりをどう考えていくのかなど,博士課程,修士課程両方にわたって様々な課題もあると思います。また,今日も議論あったかもしれませんが,留学生につきましても,卓越した優秀な留学生をいかに日本の大学院に受け入れて,我が国に愛着を持っていただくような人材として育ってもらうかということも,このコロナ禍,ポストコロナをにらんで非常に重要な課題であると考えておりますし,リカレント教育,キャリアアップ,キャリアチェンジに対して,いかに大学院が対応していくかも大きな課題であると考えます。
これまでの蓄積がございますので,そうしたものをベースにしていただきながらも,コロナをはじめとして社会の大変革期にある中で,さらなる新たな課題も整理していただきまして,その中で,どういったものに重点を置いて深掘りしていくのか,あるいは,中長期的にさらに議論を進めていくのか,湊座長の御差配の下,活発な御議論を進めていただくことをお願い申し上げまして,私から第1回目の挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

【湊部会長】それでは,事務局から最後に何か連絡ありますでしょうか。

【西大学改革推進室長】事務局でございます。活発な御意見や御議論ありがとうございました。まず,1点御報告でございます。前期の第10期の大学院部会で方針を御了承いただきました大学院における履修証明プログラムについて単位を付与することについて,今後,パブリックコメントを実施したいと考えております。大学分科会にも報告した上でパブリックコメントを行って,改めて,改正条文,正式なものを御用意した上で御審議いただくことを予定しております。参考資料の3のところに,パブリックコメントとして付す資料を本日お配りしておりますので,また後ほど御覧いただければと思います。
あと最後,御連絡でございますけれども,本日の議事内容を含めまして,何かまた追加でお気づきの点等ございましたら,事務局にお寄せいただければと思います。非常に多岐にわたる,かつ深い議論でありましたので,また改めて事務局で御議論を整理させていただいて,次回,論点整理をさせていただければと思っております。
次回,9月以降の開催を予定しておりますけれども,改めて日程調整をさせていただいて,詳細は追って御連絡申し上げます。本日はどうもありがとうございました。
以上でございます。

【湊部会長】ありがとうございました。それでは,これで第1回目の会議を終わりたいと思います。皆様,本当にありがとうございました。

―― 了 ――

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