大学院部会(第92回) 議事録

1.日時

平成31年4月23日(火曜日)9時30分~11時30分

2.場所

文部科学省東館3階 3F2特別会議室

3.議題

  1. 部会長の選任等について
  2. 大学院部会の運営について
  3. 大学院部会の今後の議論の方向性について
  4. 省令改正について
  5. その他

4.出席者

委員

(部会長)  有信睦弘部会長
(副部会長) 村田治副部会長
(臨時委員) 池尾恭一、大島まり、川端和重、神成文彦、佐久間淳一、迫田雷蔵、菅裕明、田中明彦、塚本恵、波多野睦子、濱中淳子、福留東土、堀切川一男、三島良直の各委員

文部科学省

(事務局)玉上大臣官房審議官(高等教育局及び高大接続担当)、森大臣官房審議官(高等教育局及び科学技術政策連携担当)、浅田文部科学戦略官、岩本文部科学戦略官、蝦名高等教育企画課長、三浦大学振興課長、石橋高等教育政策室長、平野大学改革推進室長、坪井科学技術・学術政策研究所長、楠目人材政策推進室長、中田大学院振興専門官

5.議事録

・新しい部会長について,有信委員がふさわしい旨発言があり,了承された。
・副部会長については有信部会長から,村田委員の指名があった。

※事務局から説明の後,資料3のとおり,大学院部会の会議の公開に関する規則が了承された。


【有信部会長】
 それでは,第10期の大学院部会の開催に当たりまして,つい先ほど部会長を拝命しました有信です。一言御挨拶を申し上げます。すみません,座って挨拶をさせていただきます。
 昨年の11月に御承知のように,「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」が公表されておりますけれども,その審議と並行しながら,あるいはお互いに協調しながら,大学院について,特に人生100年時代等々,あるいはいわゆるSociety 5.0を含め,急速に変化し進展している世の中に対応していくための大学院教育の在り方について議論を進めて,第9期大学院部会の審議まとめとして「2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿」という形で公表させていただいております。審議まとめにおいては,特に大学院教育における課題が学生のキャリアパスに対する不安を招いているという深刻な問題を含め,基本的に「三つの方針」,つまり学生の不安を少しでも取り除くためのいわゆるディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシー,アドミッション・ポリシーを大学院教育においても明確にするということを基本としつつ,具体的な大学院教育の体質改善について必要なことをまとめております。
 今後は,これらを具体的に実行に移していくということが非常に大きなポイントとなってくるわけでありますが,審議まとめの報告にも書いてありますように,今後まだまだ検討するべき課題が多く残されております。特に知の生産,知の創出や新しい価値を創出していく,これは第9期のときから使い始めた言葉でありますけれども,いわゆる「知のプロフェッショナル」を育成していくということで,そのための大学院教育の改革の在り方についての審議を進め,それを具体的に実行するための施策等々を現実にまとめていきたいと思いますので,委員の皆様方の御協力,御議論をよろしくお願いしたいと思っています。
 よろしくお願いします。
 それでは,引き続き,文部科学省の方から御挨拶をお願いできればと思います。

【玉上大臣官房審議官】
 審議官の玉上でございます。第10期の大学院部会の開催に当たりまして,文科省を代表しまして御挨拶を申し上げます。
 皆様には,第10期の大学院部会委員をお引き受けいただきまして,また本日は大変お忙しい中,御出席いただきましてありがとうございます。
 第9期の大学院部会では,大学院教育の体質改善のための御提言である「2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿」を審議まとめとして取りまとめていただきました。審議まとめにおきましては,大学院は今後の社会を牽引する「知のプロフェッショナル」の育成が期待されているにもかかわらず,我が国の人口当たりの大学院学位取得者は諸外国と比べて低いということ,それから大学院が強みや特色を踏まえた人材養成ができているとは言い難い状況にあること,大学院のカリキュラムと企業等との期待の間にギャップがあることなどの課題について御指摘を頂いたところでございます。
 文部科学省といたしましては,これまでも大学院博士課程教育リーディングプログラムや卓越大学院プログラムを通じまして,博士課程修了者が高度な専門性に加えて,社会や企業の求める普遍的なスキル,リテラシーなどを身に付けられるよう,各大学における教育の見直しを推進してきたところでございます。博士課程教育リーディングプログラムでは,まず平成29年度時点で修了者の97%が就職いたしまして,うち4割が企業や官公庁に就職するなど,進路の多様化の成果が出始めており,今後,本事業の成果をほかの大学等へ普及させてまいります。
 また,審議まとめの御提言を受けまして,大学院における「三つの方針」の策定・公表の義務化などの省令改正について今後大学院部会で御審議いただきますが,各大学院が「三つの方針」を再点検することなどを通じて教学マネジメント体制を確立するよう促してまいります。
 今期の大学院部会では,先ほど述べました大学院の現状とか課題を踏まえつつ,今後策定が予定されている第6期科学技術基本計画も見据えながら,大学院制度及び研究との連携も含めた大学院教育の在り方についてさらに議論を進めていただきますようお願い申し上げます。
 よろしくお願いいたします。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,具体的な議事に移りたいと思います。議題の3ということで,大学院部会の今後の議論の方向性について議論を進めていきたいと思いますが,今回は初回でもありますので,最初に第9期の審議状況の説明,それから第10期で議論いただく事項の具体的な例を挙げていただきますので,その2つについて事務局から説明をお願いします。

【平野大学改革推進室長】
 失礼いたします。それでは,まず第9期の審議状況という点について御説明をさせていただきます。資料4-5をご覧ください。資料4-5が,第9期の大学院部会の審議の経過ということになっているわけでございます。このような形で充実した議論を繰り広げていただきまして,その結果まとまったものが,先ほど御紹介がありまし資料4-1でありますけれども,「2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿~社会を先導する人材の育成に向けた体質改善の方策~」という審議まとめでございます。こちらにつきましては,本文で触れられてございますけれども,「2040年の高等教育のグランドデザイン」というものとセットということで,大学教育の在り方というものを提言していただいているというものでございます。まずこの内容について御説明させていただきますが,時間も限られてございます。資料4-1が本文でございます。資料4-2がパワーポイントの概要,1枚物,資料4-3が要旨ということになってございます。本日は資料4-3の要旨,7枚物でございますが,こちらを使って御説明させていただきたいと思います。少し本文の方に触れさせていただくことがあるかもしれませんけれども,よろしくお願いいたします。

 それでは,資料4-3の1から説明させていただきます。大学院部会の審議まとめにおいては,まず1ポツとして,2040年頃に直面する社会の変化と「知のプロフェッショナル」ということで,どのような人材が今後の2040年の社会を見据えて必要とされるのかというところについて議論を行っていただいたところでございます。この1ポツの真ん中あたりに書いてあるわけでございますが,「知のプロフェッショナル」というものの育成を大学院が担うということが期待されているわけでございますけれども,「知のプロフェッショナル」というものにつきましては,1,学士課程で身に付けることが求められるような論理性や批判的思考力,コミュニケーション能力といった普遍的なスキル,リテラシーのいずれも学部生を凌駕する高い水準で身に付けていること,2でございますが,自ら課題を発見し仮説を構築・検証する力など,大学院教育ならではの力,大学院教育を通じて身に付くことが期待される力,このようなものをしっかり身に付けなければいけないということ,3,そうしたものの上に,各セクターを先導できるような,狭い範囲にとどまらない高度な専門的知識を身に付けていくということが「知のプロフェッショナル」には必要なのではないかということを御提言いただいてございます。
 2ポツでございます。その人材像というものを設定していただきました上で,大学院教育が2040年の需要に応えていくためにどのようなことをまず考えるべきなのかということをおまとめいただいてございます。先ほどお話がございましたが,我が国は,諸外国に比べて修士・博士学位の取得者の割合が低い。修士は3分の1,博士は2分の1,特に人社系で低いという傾向があるわけでございます。2040年に向けた「知のプロフェッショナル」の確保という観点からは大いに問題があり得るという状況でございます。一方で入学定員が未充足ということが常態化しているという専攻が見受けられるようなところもございまして,何でこのような状況,数は諸外国に比べて少ないように見えながらも,定員が充足していないような状況があるのかということについては,真剣に検討して,早期に改善を図る必要があるということでございます。
 リーディングプログラムに取り組んだ大学においてはかなりの成果が上がっているという一方で,各大学が自らの強みや特色を踏まえた人材養成ができているとは言い難いこと,また特に博士後期課程については,大学院のカリキュラムと社会や企業の期待というところにギャップがあるのではないかという指摘も根強くされているということでございます。
 このような課題というものが,若手研究者ポストの確保が困難になっているという問題と相まって,博士課程学生を中心に,キャリアパスに対する不安を招いて,大学院への進学を躊躇させる原因となっているということから,2040年の社会の需要,「知のプロフェッショナル」の需要というものに応えていくためにも,早急に社会のニーズへの一層の対応をはじめとした大学院教育の体質改善というような取組が必要であるということでおまとめいただいてございます。
 3ポツ以降でございます。3ポツ以降に丸が7個ございます。こちらの方が大学院教育の改善方策を具体的に柱立てしていただいたものでございます。
 1が,「三つの方針」を出発点とした学位プログラムとしての大学院教育の確立というテーマでございます。累次,大学院教育の体質改善の鍵というものについては,大学院教育の実質化であって,学位プログラムとしての大学院教育の確立ということで言われてきているところでございます。
 学位プログラムとしての大学院教育の確立というのは何であるかということについて申し上げておきますと,ちょっと本文の方に関連する記述がありますので,ここだけちょっと本文を使わせていただきたいと思うんですが,11ページでございます。ここのところに,学位プログラムとしての大学院教育の確立という部分がございます。この2段落目に書かれているわけでございますけれども,各大学が,既存の教員の研究活動や教員組織に依存しながら,大学院の各課程において,現状では何を教えられるかという点から教育活動を出発するということではなくて,自らの強み・特色・教育理念や社会のニーズを踏まえて,大学院生が身に付けるべき能力をしっかり意識しながら,まず明確に,どのような人材を育成するのかという目的を定め,次に,その目的を達成するために何を学ばせ身に付けさせるかという点を軸に最適な教育の姿を構想していただいて,その上で限られた資源を必要な事項に効果的に投入していただくという意図的なプロセスを踏むということが,大学院教育の実質化でありますし,また学位プログラムとしての大学院教育の確立に必要だと整理していただいているところでございます。
 資料4-3に戻っていただきまして,そのような大学院教育を確立するという観点から,2ページ目に移ってまいりますけれども,先ほど部会長の御挨拶でも触れていただきました具体的な取組という点でございます。「三つの方針」(「学位授与の方針」,「教育課程編成の方針」,「入学者受入れの方針」)の策定・公表を義務付けしていくということ。また,その「三つの方針」の点検・評価等を通じて継続的に大学院教育というものを改善していき,学位の質を担保していくといった教学マネジメントを確立するということ。人材養成目的を設定していただいた上で,教育研究組織についても柔軟な見直しを図っていただくということ。特に,学生の進路に責任を負うという意識の下で,修了者の状況の把握・追跡というものをしっかり行っていただいた上で,例えば進路の確保が見込めない専攻については,定員の縮小を図る。また社会的ニーズの高い専攻についてはしっかり振り替えも含めた見直しを行っていく。このような教育研究組織の柔軟な見直しということの必要性に触れていただいているところでございます。
 2でございます。各課程に共通して求められる教育の在り方。大学院でございますと,修士課程,博士課程,専門職学位課程ということがあるわけでございますが,ここでは各課程に共通してどのようなものが求められるのかということをまとめていただいているところでございます。大学院の教育課程の編成に当たっては,学習課題を複数の科目を通じて体系的に履修し,基礎的素養と専門的知識の応用力を養うようなコースワークの充実が必要であるということを提言していただいてございます。また,普遍的なスキル,専門的知識というものを両立させるような取組ということが期待されるといったことに触れていただいているものでございます。
 具体的取組といたしましては,明確な人材像の下で,研究科専攻横断的な人材養成というものを行っていただいている博士課程教育リーディングプログラムの優れた取組の普及,卓越大学院プログラム等を通じた優れた事例の創出・普及といったものが必要であるということ。また,ダブルメジャーのような取組,また大学分科会の方でも御審議いただいていますが,研究科の組織の枠を超えた学位プログラムのようなものを活用することによって,狭い専攻の範囲,研究科の範囲を超えた学位プログラムの展開を後押ししていく必要性に触れていただいているのが2でございます。
 3は,各課程ごとに求められる教育の在り方でございます。ここにつきましては,各課程の在り方を決して特定の枠に押し込めるという意図ではないということについて本文では触れていただいているわけでございますけれども,その課程の特性に照らして,どのような教育が求められるのかということについて一定の理念型というものを示していただいているというところでございます。
 まず修士課程でございます。修士課程につきましては,2年間で完結する課程であるということから,基本的には研究者の育成ということではなく,高度専門職業人,高度で知的な素養のある人材の育成を主目的にするということが考えられるわけでございます。  具体的な取組といたしまして,3ページに移ってまいりますけれども,学部段階でリベラルアーツが展開されている場合に,その教育の成果を引き継いで,メジャー・マイナーの深化を図るための教育を行うこと,また,学部段階で複数の専攻分野の履修などを行っている場合に,その内容の深化を行う教育を行うこととか,学部との有機的な連携・接続のようなところを十分意識する必要があるということに触れていただいているものでございます。
 また,修士課程で高度専門職業人というものを養成していくに当たっては,専門職大学院の課程とのいわゆる差別化と申しますか,専門職大学院では予定されていないような教育をしっかり展開していくということが必要なのだろうと。具体的に申し上げますと,研究指導を行う,修士論文を書いていただくといったところになるわけでございますけれども,そのようなところをしっかりやっていく。また,教育課程を編成するに当たっては,大学院設置基準では最低30単位ということになっているわけでございますが,この30単位という部分を超えて授業科目を実施していくといったことも考えられるだろうという御提言を頂いてございます。
 具体的な取組ということで申し上げてまいりますと,特定の職業に結び付くわけではないけれども,様々な職業を担う上で必要となるような専門的能力・汎用的能力というものを培う教育を意識する。また,職業社会での活用が可能であるような実践的な研究能力というものを意識した教育を行うということ。コースワークの充実という観点から,今後,実務家教員の配置を後押しするという観点から,法令上の在り方も検討していくということ。産業界等との連携という観点から,専門職大学院における教育課程連携協議会に類する枠組みの活用も考えられる。このような点について触れていただいてございます。
 続きまして,3ページの下でございますが,博士課程についての整理でございます。博士課程につきましては,極めて高度な専門性に加えて,博士課程にふさわしいレベルの幅広い能力を培うためには,コースワーク,また博士論文研究基礎力審査――いわゆるQEと呼ばれるもの,研究指導について,しっかり実施していく必要があること。また,区分制の博士課程の博士前期課程と修士課程とは本来異なる役割を有することに留意するということをまとめていただいているものでございます。
 4ページに移っていただきまして,具体的取組でございます。具体的取組ということで申し上げると,まず組織の在り方,課程の在り方ということでございますが,人材養成目的に照らして最適な教育課程を編成するということ。高度専門職業人を養成する場合,また研究者を養成する場合,いろいろな場合が考えられるわけでございますけれども,その養成目的に照らして最適な教育課程を編成する。その観点から,実際に今博士前期課程となっている部分につきましても,例えば2年間で完結することがほとんどということが見込まれる場合には,修士課程として切り出す,若しくは,そのような切り出しを行わない場合であっても,博士課程の内部でしっかりプログラム分けを適切に行うとか,このようなことが考えられるのではないかということでございます。
 2つ目の「・」,社会の求める教育とのミスマッチの解消という観点から,主専攻以外の科目の幅広い履修とか,実務家教員による実践的教育,企業等メンターの活用,このような点でしっかりと実践力のある人材育成をしていくということ。
 3つ目でございますが,博士後期課程に在学している方については,将来,大学教員になる可能性がございますし,また一般社会に出た後も大学の実務家教員として帰ってくるということも今後は考えられ得るという観点から,実践的な教育能力を身に付けさせる観点のプレFDの実施,情報提供を努力義務化していく必要があるのではないかということ。研究者として,大学教員として必要になってくる国際感覚を養うための様々な取組が必要になってくるということ。このようなことについて触れていただいているということでございます。
 続きまして,専門職大学院における取組ということでございます。専門職大学院については,具体的な取組に入ってまいりますけれども,コアカリキュラムの策定状況や教育課程への反映状況について国としてしっかり把握・情報発信していく必要があること。実務家教員に向けたFDの開発・実施,実務家教員の最新の情報,最先端の技術等を踏まえて,しっかり教育の実施状況を確認することができるような連携協議会を活用するということ。国際的な評価機関の認証の促進に向けて,具体的な在り方を検討していくということ。このようなことについて触れていただいているのが専門職大学院の部分ということで,3,各課程ごとに求められる教育の在り方でございました。
 4,学位授与の在り方でございます。学位授与につきましては,修了者が今後グローバルに開発していくという観点も踏まえまして,国際的な通用性があることを前提とした学位質保証に努めていくことが重要であるということでございます。一方,分野によって大分事情が異なる部分はあるかもしれませんけれども,我が国においては,博士学位というものについてはいわゆる「碩学泰斗」の証であるという認識になっているという大学教員の方もいらっしゃるという指摘もありまして,円滑な学位授与,研究指導体制の強化,学位審査体制の透明性・公平性の確保を引き続き図っていく必要があるということでございます。
 5ページに移ってまいります。5ページの上の部分,具体的取組ということでございます。まず,研究指導・学位審査におきましては,これは従来から累次御提言を頂いているところでございますけれども,個人任せではなく,組織として責任体制を明確化するということ。その観点から,異なる専攻の教員,実務家,海外での研究経験のある者を加えたような研究指導体制を構築して,強化していく。また,盗用検索ソフトや他大学の教員を活用するといったことを通じた学位論文審査の客観性・公平性を確保していくことが必要ではないかということ。
 2つ目の「・」でございますが,学位論文が満たすべき水準,審査委員の体制,審査の方法,審査項目など,学修の成果,学位論文の評価についての基準というものについては,改めて大学において検討していただくとともに,その基準というものについては,今学生に明示することは定められているわけでございますけれども,これを社会に向けてしっかり公表していくということが必要ではないかという御提言を頂いてございます。
 3つ目の「・」でございます。博士論文研究基礎力審査――いわゆるQEと呼ばれるものでございますが,この導入状況や,どのような形で学位が与えられているのかといったことについて,国としてしっかり調査すべきであると。この裏には,例えば,いわゆるQEにおきましてはまだ導入しているところは多くはないわけでございますけれども,筆記試験と口頭試問を組み合わせた形で審査を行っているところが40%程度であるといった実態もありますのでしっかりと調べていく必要があるのではないかということでございます。
 下から2つ目の「・」,いわゆる「論文博士」についても,今どのような形で実施がされているのかということをまずはしっかり調べるべきであるということ。  一番下でございますが,博士の学位取消というものは各大学において現在行われているということはあるわけでありますけれども,今具体的にどのような形でどれぐらい行われているのか,また博士学位取消という部分については,今各大学に任されているという状況にあるわけでございますけれども,こういった実態を調査した上で,法令上の在り方ということも場合によっては考えていかなければいけないという御提言を頂いてございます。
 5でございます。優秀な人材の進学の促進というテーマでございます。まず,入り口段階で,どのように優秀な人材に大学院教育というところの門をくぐっていただくのかという観点でございます。「知のプロフェッショナル」を育成するという観点からは,各大学が今,企業との人材獲得競争に直面しているという意識を持って,優秀な人材を増やしていく,獲得していくということが必要だということで,具体的な取組が幾つか掲げられてございます。
 1点目が,入学者受け入れの方針――いわゆるアドミッション・ポリシーというものでございますが,これに沿って大学院入試の改善・改革というものをしっかり進めていくということ。国としても,大学院入学者選抜実施要項を今後しっかりと見直していく必要があるのではないかということでございます。
 2つ目の「・」でございます。博士後期課程に進学する候補でありますところの修士課程前期課程の学生に対するリクルートというものを行っていく必要があるのではないか。それは,大学院の教員が個々にということではなく,組織的に行っていくということが強調されているわけでございますけれども,例えば,博士課程に進学することの魅力というものにはどのようなものがあるのかということをしっかり発信するということ。具体的なロールモデルを提供していくということ。進学の意思決定のタイミングを踏まえて経済的支援を制度設計していくということ。これは,経済的支援の決定が遅ければ遅いほど,本人が民間に行くのか,大学院に進学するのかというところで,てんびんにかけられないという状況があるという御指摘でございます。
 また,国費だけに頼らない経済的支援の充実の方策を考えていくということ。
 最後,そもそもどのような場合にどのような支援を受けることができて,大学院においてはどれぐらい経済的な負担が発生するのかといったファイナンシャル・プランというものが体系的に全ての大学において示されているわけではないということを踏まえまして,在学中に必要な学費や経済的支援の見通しの提示については,各大学において努力義務として位置付けてはどうかということの御提言を頂いてございます。
 6,博士後期課程修了者の進路の確保とキャリアパスの多様化ということでございます。博士後期課程の修了者は研究者となることが有力な進路とされてきたわけでございますけれども,我が国の将来に向けては様々な場面で博士後期課程の修了者が活躍していくということ,これは起業という選択肢なども含むわけでございますが,必要になってくるというわけでございます。また,産業界におかれましても,人材育成に協力し,また能力や専門性について適正に評価し,活用するということが不可欠であり,相互理解を深めていくということが必要であるという提言を頂いてございます。
 6ページをご覧ください。具体的取組ということでございます。まず,国としては,諸外国の博士課程修了者の活躍状況や能力に見合った処遇についての情報収集をしっかり行っていくということ。2つ目の「・」,大学院生の採用や能力に見合った処遇について優れた取組を行っている企業等の取組を発掘するということ。また,企業における大学院修了者の研究者以外への進路についても事例を把握していくということ。このようなことが国には求められているところでございます。
 4つ目の「・」でございます。キャリア構築について,大学として組織的な支援を行うということが必要ではないか。従来,学部・修士段階という部分は大学のキャリアセンターといったところも含めてしっかりと支援が行われている一方で,博士になると,このような体系的な支援,組織的な支援が大学において行われていないのではないかという指摘を踏まえたものでございます。
 最後,大学による大学院修了生の就職・活躍状況の具体的把握,把握した内容のカリキュラム改善への活用,定員設定への活用ということでございます。私どもの調査は本文の中に示されてございますけれども,大学,各大学院専攻単位で見ますと,大学院の就職進路状況を把握してカリキュラムの改善に生かしていますかということを聞くと,半分という割合を大きく下回るという現状にあるわけでございます。このような形でしっかりと状況というものを改善に生かしていただくというサイクルを確立していく必要があるということでございます。
 7,リカレント教育の充実ということでございます。この部分は「2040年のグランドデザイン」の記述と平仄の合ったものとなっているわけでございますけれども,今後,いわゆるリカレント教育の主戦場は大学院であるといった認識の下,どのように進めていくのか。その際,この具体的取組の上の部分に書いてございますけれども,学位を授与しない短期のプログラム,ノンディグリーのプログラムなども踏まえまして,社会人の多様なニーズに対応する教育プログラムというものに社会の大きな期待があるということに留意していく必要があるということでございます。
 具体的な取組という意味で言いますと,まず大学において内容面において実践的な教育プログラムを構築していくということ。また,履修時間・学事暦の工夫や,履修証明プログラム等の活用を図るなどして,非常に時間や空間的な障壁を下げていく努力が必要であるということ。そのような観点から,もう1個下の「・」にも書いてございますけれども,夜間・土日開講,メディアの活用,通信教育課程の設置なども考えられること。
 4つ目の「・」でございますが,リカレント教育といいますと,これはいかにも,本業ではないとは申し上げませんけれども,少しエクストラな業務という感覚で捉えていらっしゃる大学院の先生も多いのではないかという御指摘もございましたけれども,しっかりそういったものも,例えば労働契約の方で位置付けて,人事評価においてもリカレントに携わっているということを適切に評価する必要があるのではないかということ。このあたりは大学の取組ということになってくるわけでございます。
 また,最後,大学院・各大学が提供する教育課程・履修証明プログラムについて,職業実践力育成プログラム――PPとしての認定,また専門実践教育訓練としての指定の活用などを通じて,経済的な負担も含めた軽減を図ること。このようなことが提言されているわけでございます。
 8につきましては,1から7を踏まえて,人文・社会科学系の大学院の課題とその在り方については,特出しで,指摘といいますか,位置付けをしていただいているものでございます。Society 5.0やグローバル化の進展ということを想定したときに,人社系の大学院に対するニーズがどんどん大きくなっていくということについては,明らかなわけでございます。
 その上で,過去の答申においては,体系的・組織的な教育に取り組んでいる専攻の割合が他の分野に比べて低いのではないか。博士号取得までの時間が長いのではないか。教員と学生の関係が固定的ではないか。修了者のキャリアパスが見えにくいのではないか。このような提言を過去に随時頂いているわけでございます。人社系と申しましても,中においてはかなり違いがある。特に社会科学系の一部のビジネス系という部分については,今相当違った状況が出てきているという指摘もございまして,本文の方には,これは十把一絡げにするものではないということが書かれているわけでございます。
 そのようなことを踏まえましても,まだ人社系で取り組むことがあるのではないかということで,具体的な取組を幾つか挙げさせていただいてございます。学位プログラムの実施に着目した大学院の体系的な教育プログラムを確立するということが特に求められるのだろう。5年一貫の博士課程を活用しながら,しっかり見通しを持った環境というものを創っていく必要があるのだろうということ。人社系の大学においてどのような能力が可視化されて,また新しいニーズがどういう形で生じてきているかということを模索していかなければいけないということ。理工系のよい事例というものを取り入れられる部分ではしっかり取り入れていくような取組を行うこと。このような御提言がされているところでございます。
 4,今後に向けてということ。卓越大学院というものは,このような個別プログラムの取組ということに終始させることなく,我が国全体の大学院改革につなげていくことが必要であるということが触れられてございます。
 また,一番下の括弧でございます。今後,大学全体の方につきましても,大学設置基準の在り方について検討が進むということにされているわけでございますけれども,その在り方の検討と連動しながら,大学院につきましても,例えば博士後期レベルの高度専門職業人養成にふさわしい新たな課程の在り方のようなことも含めまして,課程の目的,学位の在り方,必要な単位数,実務家教員を含む教員組織の在り方,留学生の受け入れ,このような大学院全体の課程の在り方については,引き続き検討していく必要があるということが書かれております。
 雑駁な説明でございましたが,資料4-3,審議まとめについての御説明は一旦,以上とさせていただきます。
 その上で,第10期においてどのようなことについて御議論いただくのかという例という観点でまとめさせていただいたものが,資料5-1でございます。資料5-1につきましては,今の審議まとめというものも踏まえまして,第10期において御議論いただく事項の例ということでまとめさせていただいてございます。
 まず,「以下のとおり」の下の部分,括弧の中の省令改正事項ということでございます。本日,この後も御説明する時間を設けさせていただいてございますが,審議まとめにおいて,省令改正に取り組むべき事項というものが4つ挙げられてございます。「三つの方針」の策定・公表の義務化,学位論文に係る評価の基準の公表の義務化,また大学院設置基準というところで申し上げますと,プレFDの実施・情報提供の努力義務化,経済的支援や学費等に対する見通し,ファイナンシャル・プランを示すことの努力義務化という4点でございます。まず,これについて,第10期大学院部会では御審議いただく必要があるのではないかということでございます。
 その上で,審議まとめに関する事項で,今後も検討が必要だとされている事項を中心に取り上げさせていただいたのが,真ん中より下の部分でございます。  まず1個目の○,大学院における各課程で共通に育成すべき能力について明確化をより一層図っていく必要があるのではないかということ。
 2つ目,これまでの大学院が有する人材,知,情報インフラや,これまでの施策の成果をどのように有効に活用していくのか。もうちょっと申し上げますと,横展開していくのかという部分でございます。国としても,しっかりリーディング大学院の成果・課題・取組を普及するために必要なプロセスの調査をしていくこととしてございます。
 1ページ目の一番下の○でございます。専門職大学院における認証評価という観点から,国際的な評価機関の指定の方法,また教育上適正な教員組織の確認の方法等について御議論いただくということが考えられるわけでございます。
 2ページをご覧ください。一番上の部分でございます。この教育適正な教員組織とは何であるかといいますと,専門職大学院において,研究者教員,実務家教員,みなし専任教員,このようなものがたくさん入っているわけでございますけれども,例えばこのバランスについて考えていく。このようなことが挙げられているわけでございます。
 2ページの1個目の○,続いてでございますが,学位授与の在り方でございます。先ほど申し上げたQE,論文博士,博士学位の取り消し,このようなことについて調査を行ってまいりますが,学位授与の在り方についてもこれらを踏まえて検討が必要であろうということ。
 続きまして,経済的支援の在り方でございます。経済的支援の在り方については,現状はどうなっているか,また各大学の取組は,しっかり調査をしてまいりますが,引き続き検討する余地があるのではないかということ。
 博士課程修了者の処遇の改善というところ,先ほど申し上げたような処遇の実態等について調査をしてまいりますが,検討する部分があるのではないかということでございます。
 また,リカレント教育の充実の方策,人文・社会科学系大学院の在り方については,より一層踏み込んだ検討ということが考えられるのではないか。
 最後,2ページの下でございますが,大学院全体の課程の在り方については,博士後期課程レベルの高度専門職業人養成にふさわしい新たな課程,専門職大学院は修士レベルということになっているわけでございますが,後期レベルも含めた在り方をしっかり考えていく必要があることなどを挙げさせていただいているところでございます。
 3ページでございます。3ページにつきましては,第4次大学院教育振興施策要綱というものについても御議論いただく必要があるのではないかということでございます。まず,施策要綱というものが何であるかということでございますが,文部科学省といたしましては,これまで,大学院に係る累次の答申というものを頂いてまいりました後に,各大学がこの答申を踏まえまして,大学院教育の充実・強化を図ることを後押しするという観点から,今後,大学院教育をどのような改革の方向性で,どのように重点的な施策で取り組んでいくのかということで,国として必要な取組というものを整理した大学院教育振興施策要綱というものを策定しているところでございます。
 第3期というものにつきましては,参考1ということで下の部分にございますけれども,今,第3次大学院教育振興施策要綱が2020年度までを期限といたしまして,文部科学大臣決定として走っているところでございます。先だっての審議まとめというものが取りまとめられたことを踏まえて,次の大学院教育振興施策要綱は2021年から2025年ということが見込まれるわけでございますけれども,この策定につなげていく必要があるのではないかということでございます。
 また,この振興施策要綱につきましては,4ページに第5期科学技術基本計画というものが掲げられてございますけれども,今の科学技術基本計画でございますと,第5期の基本計画の中でしっかり,大学院教育改革の方向性と体系的・集中的な取組を明示した計画を策定し推進するということで,連動が図られているわけでございます。このような第6期の科学技術基本計画というものを見据えましても,振興施策要綱の検討も必要としているのではないかということでございます。
 本日,委員の皆様に限りましては,2種類,この振興施策要綱にはどのようなことが掲げられていて,現状どれぐらい進捗しているのか,またそれを踏まえてどのような形で今,現状というものが審議まとめにおいて整理されているのか,国というところを中心として今後どのようなことに取り組んでいくのかといったものを掲げさせていただいてございますが,しっかり,このような振興施策要綱の内容については,次回以降,フォローアップするための説明と議論の機会を設定していただきまして,そのような内容を踏まえまして,第4次というものの在り方を考えていくということが考えられるのではないかということでございます。
 最後,資料5-1の最後のページに,大学院部会の今後のスケジュールというものを掲げさせていただいてございます。省令の部分で少しまた触れるところはございますけれども,ごく簡単に申し上げますと,まず夏の段階までは,省令改正の議論と,また第4次の施策要綱の方向性について審議を頂いた後,夏以降に,また本日頂いた御議論も踏まえまして,第10期で議論していく内容に入っていくということでございます。第10期大学院部会の議論の終了,任期の終了は2021年2月ということでございます。
 資料5-2については,本日欠席の各委員から,今期第10期で議論すべき事項についてどのようなことが考えられるのかということで頂いているものでございます。これにつきましては,委員の議論の過程において適宜御参照いただければと思います。
 私の説明は以上でございます。ありがとうございました。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。それでは,ただいまの説明を基に,第10期で議論すべき内容について,これから具体的に議論いただきたいと思いますが,本日,菅委員と佐久間委員が早めに退席しなければいけないということらしいので,もし菅委員,佐久間委員,御意見があれば,先にお願いしたいと思います。では,菅さんから。

【菅委員】
 ありがとうございます。これまでずっと大学院のカリキュラムの改正,あるいは非常にいろいろなカリキュラムを作って,よくなってきているとは思うんですけれども,私もずっといろいろなことに関わってきながら,唯一欠けていたなと思っている視点が1つありまして,それは,昨今の就職の時期の問題というのが非常に学生を育成する上で障害になっているということであります。
 特に修士の学生に関しては,ちょうど12月の終わりか1月の初めから,就職活動が解禁されたのが4月ということで,この期間に学生の研究がかなりスローダウンする,あるいはもう学校に来なくなってしまう学生も出てきます。就職がぱっと決まってしまえばよろしいのですけれども,必ずしもそうはいかず,あるいは最近の学生さんたちは,情報過多になっていますので,次の会社,次の会社という形でどんどん次を求めていくという傾向にあります。そういった中,結局,教育のシステムをかなり改善していても,必ずしもそれを学生たちが十分受け取るような状況になっていない。まさしく大学の先生側も「では就職活動はちょっと置いておいて研究しなさい」とは絶対に言えないので,非常に困った状態になっているというのが現実です。是非とも今回のこういった議論の中に,これは実質的には大学がまず決断すべきことと私自身は思っていますけれども,2年生の本来の姿で言えば,学位を取るまでは就職活動はしないと。これが基本的に全世界的に共通した意識なんですけれども,学位を取る前に就職活動をするということが起きているのは日本だけでありまして,学位を取るまでは就職活動はしないと。これはかなり厳しい踏み込んだ議論をせざるを得ないんですが,少なくとも大学の中でできる限り,例えば修士の2年生の場合は,学位の修了は3月で結構なんですけれども,学位の審査に関しては,12月,年内に終わらせるということで,残り3か月を例えば就職活動に当ててもらう。そういう形で,連続した教育をきっちりとカリキュラムの中でできるような形にすべきではないかと,本当に最近は感じています。
 実質的には,これは現状のものを1年後ろにずらすだけで,ほとんど変わりはありません。今,1年生の1・2・3月にやっている分を2年生の1・2・3月にやると,ただ単にそれだけのことですので,社会的に非常に大きな構造変化があるわけでもなく,それで教育もでき,また会社も求めて,企業も求めているように,優秀な人材をちゃんと輩出してくれというニーズに応えるという意味では,これを大学院の中では考えていく必要があるのではないかなと考えております。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございました。

【菅委員】
 ちょっと済みません,もう1点だけ。これは,もう一つ,大学側のメリットでいいますと,就職活動というのが後ろに来るということは,博士への進学を決めるのが前に来るということです。現状は,就職活動が先に来て,博士の大学院に行くのが後に来るんです。ですので,人間というのは必ず安定を求めますので,そういった意味では先に就職を決めてしまう。それから大学院の試験というか,博士に行こうと考えると,そんなことはあり得ないので,基本的にはみんな就職を決めてしまったら,みんな就職してしまいます。なので,幾ら今まで大学院のいろいろなプログラムを作っても,結局博士の学生さんの進学率はそれほど大幅な改善が起きないというのは,そのシステムそのもの,全体の社会の中のシステムそのものに問題があると認識すべきかなと思っています。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございます。全くそのとおりで,たまたま大学と経団連で就職の在り方について,ついこの間というか,昨日か一昨日でしたかね,一定の結論は出たようですけれども,現状の問題は,ある意味,企業側にとっても余りよろしくないし,大学側にとってはかなりよろしくない。なぜかどんどん悪い方向に来てしまっているということをどこかで議論しなければいけないので,この中の審議で我々サイドから出せる内容で全てが解決するかどうかは分かりませんけれども,一応皆さん方は頭に留めておいていただければと思います。
 それでは,佐久間委員,何かありましたら。

【佐久間委員】
 よろしくお願いします。第9期でも,先ほど御説明がありましたけれども,人社系についてはいろいろ御議論いただいたところでございます。ただ,これはなかなか難しい問題でして,結局,理系の場合には前期から後期というところが問題になるのでしょうけれども,人社系の方は学部から前期というところに問題があるわけで,実際にその進学率を見ても決して高いとは言えません。さらに,その数字以上に,内実を見ると,大学によって違うのかもしれませんが,私の知っている範囲では,優秀な学生,是非来てほしいという学生ほど大学院には来ないで,学部で就職してしまうという実態があります。そんな中でも,一方で留学生はたくさん前期課程に来ますので,一応成り立っているといえば成り立っているのかもしれませんけれども,それでいいのかという問題はあるわけです。日本人の学生に是非進学してもらわないと話にならない。
 そのときに,ではなぜ進学してくれないのかというと,進学してどうなるのかという,そこが見えないところがあって,もちろん研究者を目指したいという人は一定程度いるわけですけれども,研究者の道も非常に厳しくなっています。もし研究者がだめだったら,大学院へ行った後どうなるのか。そこら辺は非常に不透明なところがあるので,目端が利く学生ほどちょっと敬遠してしまうということなのだと思います。資料5-2の湊委員からのご意見にもありますけれども,人社系の観点からしても,前期課程をどう位置付けるのかというのは非常に重要な問題だと考えているところです。
 併せて,では魅力的にするにはどうしたらいいかといったときに,それには,この第9期の審議まとめにも挙がっているようないろいろなことに取り組んでいかないといけないんだと思いますけれども,それに関しては,こう言ってはなんですが,大学の教員もかなり忙しくなっているということは事実だと思います。恐らく,この審議まとめに取り上げられているいろいろなことについて,やるべきだということに関しては多分皆さんの意見は一致すると思うんですけれども,一方で予算も,国立大学では運営費交付金をだんだん減らされているわけなので,ということは結局最終的には人が減っていくということなんですけれども,そんな中で一方では,もうお金がないんだから研究費は自分で稼いでこいと尻をたたかれているわけですよね。そういった中で考えないといけないのは,こういった教育の取組に関して,もちろん非常に積極的に取り組んでいる方もいらっしゃるわけですけれども,そこがちゃんと正当に評価されているのかということだと思います。卓越大学院みたいな大きな取組であれば,当然その取りまとめをする人は評価されているんですけれども,そういうものだけではなくて,もっと幅広く教育改革に取り組まないといけないわけで,ただ,そのときに,これまではどうしても研究の成果がまず第一に評価される。それはもちろん大事なことなんですけれども,教育についても正当に評価するということを考えないと,なかなか,いろいろ書いてあっても,結局それが実現しないということになりかねないと思います。もちろん,教育については,どういう観点で評価したらいいのかというのが非常に悩ましいところであるとは思うんですけれども,そこはやはり考えていかなければならないことではないかなと思っております。
 ということで,よろしくお願いいたします。

【有信部会長】
 ありがとうございます。人文・社会系の話はずっと課題で,議論をしてきているんだけれども,一つは,例えば欧米では,企業のトップとか,社会で活躍している人たちの中で,学位を持っている人たちの割合は日本に比べると圧倒的に高いという状況と,それからもう一つ深刻な状況としてあるのは,人文・社会系の専攻の数は圧倒的に私立大学に多くて,なおかつそこの定員充足率が極めて低い。つまり,1専攻に1人,2人とかというような専攻が実に多い。これは今日後ろにくっついているデータ集の中にも明確に書いてありますけれども,そういう状況が一方であります。ということで,基本的に人文・社会系の問題は,かなり深刻に考えていかなければいけない話があると思っていますので,是非今後の議論に生かしたいと思います。
 それでは,ほかに。どうぞ。では,池尾委員,どうぞ。

【池尾委員】
 今,人文・社会系の話が出ましたが,人文・社会系の特に修士課程はかなり問題があると思います。前にもちょっと申し上げたんですが,一つ有効な形が学部の飛び級を利用した5年制のような形で,これは学部の優秀な学生をそこで引っ張り上げるわけですし,指導教授のかなり目の届くところで大学院に引っ張り上げることができる。実際に幾つかモデルケースがあって,就職等々についても,成績がいいからということもあるんでしょうけれども,学部を出るよりも,飛び級で大学院に行ってよりよいキャリアパスを描くようなケースもないことはないわけです。どこの大学でもやられているんでしょうけれども,まだ余り目立った形になっていないので,何らかの形でこの飛び級5年制というのを活性化するような方策を考えていいのではないか。その場合にも,社会に送り込む,教師になるのではなくて,研究者になるのではなくて,高度な専門職という観点でいくのであるならば,カリキュラムの在り方もちょっと工夫した方がいいのではなかろうかと思います。例えば,実務家教員との触れ合いを多くするなり,あるいはインターンシップみたいなものを作るなり,そういった形で飛び級のプログラムみたいなものを充実させていただければと思います。
 それから,ついでに言わせていただきますと,実務家教員の話で,テニュアで大学に移籍される方には何らかの形で学位を取っていただくなりして,研究発信能力を高めていただきたい。他方では,パートタイムであったり,ローテーションであったりという形で,実務のお仕事と教育職を頻繁に行き来できるような,そんな仕組みを是非考えていただければと思います。
 以上でございます。

【有信部会長】
 今の御意見は,いろいろ仕組みの点で検討が必要だということだと理解しています。5年間というのは,例えば法科大学院で多少そういう仕組みが入れられてきていますけれども,これも制度としてというか,仕組みとして今後検討していくという話だろうと思います。  ほかに御意見があれば。では,田中委員,どうぞ。

【田中委員】
 これは先ほど来議論になっている話で,ここでは大学院をどうやったらよくするかということを考えているわけですけれども,そこにいい学生にいっぱい来てもらって,出ていってもらわなければならないとなると,その先が見えないというのが前の議論でもずっと出ているわけですよね。ということは,私どものここでの議論も,大学院をどう魅力的にするかという観点を主に考えなければいけないんですけれども,先ほど管さんがおっしゃったことと関係しますけれども,社会がそもそも大学院に何を求めているのかということをそれなりに確認しつつ議論をせざるを得ない。部会長がおっしゃったような統計は,私どもから見ると嘆かわしいと思うけれども,日本社会が産業界も政府も含めてそれでいいのだと思っているのだったら,幾ら大学院を魅力的にしたって,大学院生は増えないわけでしょう。
 ここの議論の中では,我々が想定するすばらしい日本社会というのはこういうもので,そういう中では大学院から出た学位を取った人がいっぱい輩出しなければだめだと言うことはできるけれども,実態として,産業界あるいは政府部門あるいはシビル・ソサエティーを含めて,社会がどういう人材を大学院から欲しているのかということをもう少し対話をしないといけないのではないか。今,先ほど部会長がおっしゃった経団連と大学とでやっているのは,主に新卒,学部生の話をやっているわけで,経団連の方では,どうも通年採用という形も今後増やしていくという方針のようで,結構な話だと思うんですけれども,そのインプリケーションは大学院の修士課程の人にとってはどのようになるのか,さらにあるいは博士課程の卒業生,博士号を持った人にとってはどういうことになるのか。これも一般的な議論で,日本の産業界の全くだめなところは新卒一括採用などをやっているからだと言うことはできるんですが,もしそれを徐々に新卒一括採用でないような,高度な人材をぐるぐる回しながら中途採用でも何でも有能な人をとっていくというのが本当に日本の産業界の方向性だというのだったならば,恐らく私どもも,この博士課程をどれだけやっていくか,そういう中でどういう人材を供給するために大学院プログラムを作らなければいけないのかという,この辺は少し,これもしばしば産業界の方と話をすると,CEOの偉い人たちはみんな「そうだ,そうだ」というか,「新卒一括採用などはやめて,いい人だけを採って,博士号を持っている人をいっぱい採って,学位を持っていなければだめだ」と言うんだけれども,人事部の人はそうは動かないということもあるようなことも伺うので,少し今回の議論の中でもそういう対話の機会,もちろんこのメンバーの中にも産業界のことをよく御存じの方,代表される方がいらっしゃると思いますけれども,その辺の議論も少し入れてもらえるといいかなと思います。

【有信部会長】
 全くおっしゃるとおりだと思いますが,そういう意味ではもう少し対話をするという話と,これだけグローバル化している現状を実はまだ大学サイドが本当は十分理解していただいていない部分もあり,産業界サイドは,全体を見ている人は理解をするんだけれども,周りしか見ていない人は自分の周りだけで成果を上げようとするという,これが人事部とトップの見解の相違ということになってくるわけですけれども,そういうことを含めて,今後少し議論を深めていければと思います。
 それでは,村田委員,どうぞ。

【村田副部会長】
 ありがとうございます。今の田中委員や管委員の御意見と関係があるのですけれども,先ほど社会科学系と自然科学系で,社会科学系はどちらかというと修士課程,前期課程にどう進ませるか,自然科学系は博士課程にどう進ませるかという大きな全く別の課題があるんだろうなと思うんです。そういう意味では,大学院の問題というのは,自然科学系と社会科学系を分けて考える必要が必ずあると思っています。特に社会科学系は,ここにも出ていましたけれども,リカレントをどうするかというところと関連付けて考えないといけないのではないかと思います。
 例えば,OECDのデータで言いますと,このデータにも出ていましたけれども,100万人当たり,博士課程にどれだけ行っているかというOECDのデータと労働生産性,これはきれいな相関があるんです。単純に考えられるわけではありませんが,そういう意味では,博士課程にどれだけ進ませるかという自然科学系の問題,それから一方で修士にどれだけ,前期課程に学生をどれだけ行かせるかという社会科学系の問題があると思います。この問題は恐らく,先ほど出ましたように,就職の問題と出口の問題をちゃんと考えないと,幾ら大学で工夫したって恐らく無理だと私は思っておりまして,企業,産業界側からは,学部も含めて大学教育がなっていないからだとよく言われるのですけれども,一方で企業の側が本当にちゃんと見て採っているのかという,まさに今,田中委員からもありましたように,学部に関しては新卒一括採用がようやく壊れつつあるわけで,これが変わってくると,恐らく修士の採用も変わってくるのではないかと思います。
 実は2008年以降ぐらいからRIETI(経済産業研究所)の方で労働生産性の研究が始まりまして,特に大学院の生産性について,特に内部収益率などの計算も今されておりまして,私も後輩と一緒にやったことがあるのですが,大体平均で学部卒に比べて8%から10%,高い場合は20%ぐらいの内部収益率があります。つまり,学卒よりも修士を出た方が,いろいろな論理的な思考能力とかをちゃんと学んでいるわけで,入るときはいわゆる学士と同じ採用基準で採るのですけれども,その後の成長が早いということで,収益率が高い。そのあたりのことをもう少し企業がちゃんと自覚していくと,修士を採っていくのだろうなと。ただ,それが余り自覚されていない。なぜされていないのかというところ。このあたりをちゃんと明らかにしていくことが必要なのだろうなと思うんです。
 それで,マッチング,リカレントのことで言うと,当然これは社会科学系,特にMBA等々のところが入ってきますから,このあたりのマッチングをどうしていくかということをちゃんと考えていかないといけないと思いますから,先ほど田中委員がおっしゃられたように,まさに企業とこの部会との関係をどう考えていくか。産業界にどう送り出していくのかということを考えないと,研究者養成だけでは大学院の学生は増えないわけで,ここが一番日本の問題なので,その部分は人文・社会科学系と自然科学系を分けて考えておく必要はあるかと思います。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございます。だんだん何か企業の側に話が向いてきたようですけれども,それでは,迫田委員,それから塚本委員,よろしくお願いします。

【迫田委員】
 では,産業界の方から少し意見を言わせていただきたいと思います。
 まず,ちょうど産学で大学教育と就職の在り方に関する協議会というのが1月から始まって,ちょうど私は採用とインターンシップに関する分科会の分科会長を仰せつかって,今は取りまとめているところなんですけれども,いろいろ議論していて分かっていたのが,お互いに相当誤解をし合っているなというのが正直なところでして,先ほどのような大学の先生方の御意見と産業界側からの見方が全然違うと。ある大学の先生から言うと,いろいろな邪推をした上で,何か誤解に誤解を重ねて作り上げて,幻想が生まれているという感じもしております。そういう意味で,今回,昨日発表されたのは,別に学部の話ではなくて,むしろ大事なのは大学院の教育だよねというところまで踏み込んだ書き方をしておりますので,そこがまず誤解の一つだと思います。
 それと,そういう中で正直,企業の中にも相当温度差があるというか,ちょっと私の見立てで言うと,グローバル化の進展度合いとデジタル・ディスラプションの影響度合い,これで右端から左端まで相当温度差があって,余り影響のないところは,従来どおりの一括採用で問題ないと考えている企業もたくさんあります。一方で,影響度が大きいところは,相当な危機感を持って,Society 5.0を担える人材を早く創ってほしいというのが正直なところだと思うんです。その辺もいろいろ話し合ってみて初めて分かってきたところで,そういう意味で言うと,大学院に対する企業側の期待は相当大きいと思うんです。ただ,問題は,そこのすり合わせがうまくいっていない,お互いに議論ができていないというところが相当大きいのかなと思っていまして,そこをどう変えていくかというのが今回の第10期の大きなテーマではないかなと私自身は思っています。
 その中で,例えば人文・社会系について言っても,何が海外と違うのかというのが我々はよく分からないというのがあって,ちょうど私は今,企業の研修をやる部隊の社長をやっているんですけれども,海外の同じようなところと付き合うと,ほとんどの方はドクターを持っていたりするわけです。それが圧倒的に数も違うのは何でだろうと。よほど取るのが難しいのか,何か全然違う基準でやっているのか,全くその辺が分からない。それで活躍の度合いといっても,何かよく分からないよねと。その辺が我々は専門家ではないのでよく分からないんですけれども,圧倒的に違うのではないのかなと観察はしております。そういう意味で,その辺を含めて,特に社会科学系であれば,もっともっと活躍の余地はあるし,欲しいと思っている企業はたくさんあると思うんですけれども,その辺のすり合わせがまだまだ十分ではないのかなという気がしております。
 それを是非やっていきたいなというのと,もう一つ気になっているのが,大学院経営という観点ではどうなのかなと。先ほど定員が充足されないという話がございましたけれども,本当に全部,大学院の学生自体を増やしていかなくてはいけないとしても,本当に全ての大学の大学院を維持できるかといったら,とてもそんな感じはしないので,そこをどう考えるかというのはこの部会のテーマなのかどうかというところはちょっと難しいのかもしれないんですけれども,そこを考えていかないと,先ほどの人文系定員が全然足りないところばかりという状況を解消したりすることはできないのではないかなと。本当にそれで教育をできるのだろうか,研究をできるのだろうかというと,非常に疑問に思いますので,その辺も考えていくべきではないのかなと思っております。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございます。幾つか重要なポイントを指摘されたと思いますけれども,聞きやすいところからだけ意見を聞いて,どんどん誤解を深めていくという現状もあるようです。
 それでは,塚本委員,どうぞ。

【塚本委員】
 ありがとうございます。外資系の会社等採用数が少ない場合は,年間20人,30人くらいですので,一括採用しなくても,通年採用でも全く問題ありません。他方,経団連各社のような大企業の場合,年間数百人採用しようとすると,かなり人事の人たちの実務的に大変で,さらに通年採用となると常時手続きをできる状態を維持する必要があるなどもあり,恐らくCEOレベルの方と実務の方の意見の乖離が出てくるのではないかと思われます。
 資料7の経済財政諮問会議の中の黒田日銀総裁の意見が非常に興味深いと感じました。2003年から2005年までの間の御自身が先生をやっていらっしゃるときの御経験からのコメントですが,最近は少し状況がかわりつつあるのかもしれないと感じます。最近のハーバード・ビジネス・レビューによれば,IT関係の企業が経済学者を雇い始めたという傾向がありまして,企業の考え方も,変わってきているのではないかと思っております。日本でもアマゾンジャパンが経済学の博士を採っているという話もうかがっておりますが,資料4-3や,皆さんもおっしゃったように,実態調査をするのがまずは一番いいのではないかと考えます。
 また,東洋経済の最近の調査の中にも,各社の新卒の大卒と大学院卒の人数比較のような調査がありました。その中で,NECソリューションさまとニトリさまが,文科系の大学院卒の人数が2桁以上ぐらいいまして,どういう部門のどういう職種で活躍をされているのかと調べてみると,以前より企業の考え方が変わっているというところが見える部分もあるのではないかと思います。
 以上です。

【有信部会長】
  ありがとうございます。皆さん,いろいろ意見を聞いて,それである種の形を頭の中に描いてしまっているのだけれども,もう一度,エビデンスベースというか,そこに戻るという意味で,しかし,これもどういうエビデンスベースにするかによってまた違ってきたりしますので,少しその点も含めて今後の検討課題だろうと思います。
 ほかに御意見があれば。では,神成委員,どうぞ。

【神成委員】
  神成です。私は理系の教員なんですけれども,オールラウンド型のリーディング大学院をやっていた関係で,9期においては割と文系大学院改革という話を突っ込んだのですけれども,自分のもとに戻って理系の話で考えますと,文科省のこういう場に来ますと,大学院教育と言うんですが,現場に戻ると,大学院教育と頭に置いている先生というよりは,大学院研究と置いている先生がほとんどで,研究を通した教育と言っていて,実際には,要するに最先端の研究をやって研究成果を出す,少ない研究予算でいかに研究成果を出すかというところで,ポスドクは日本にはそんなにいないので,博士の学生あるいは修士の学生を使って一生懸命最先端の研究をするということなので,大学院のカリキュラムとか,それから人材育成というのは,研究を通してやっているんだよというのが理系の先生のほとんどの考え方であると思っています。
 そこに大きなギャップがありまして,中教審で,総合力があるようなカリキュラムを,ちゃんと学位プログラムというのを作って総合力のある人間を育てるんだという話をして,そのためには教育のシステムを変えなくてはいけないというようなことを言っても,到底理系の先生にはなかなか理解してもらえなくて,それに対して予算を取ってきていかに成果を出すのかということが考えられております。したがいまして,リーディング大学院などをとって,総合力,俯瞰的に物事を考えられるような人材を育てようとすると,リベラルアーツも含めて,産業界の支援も受けて,アドオン的に,課外活動的な科目をいっぱい増やしていくんです。
 そうすると,確かに理系にもそういうマインドを持って優秀な学生さんはいっぱいいるので,そういう学生さんはちゃんとついてくるわけです。自分の研究もしっかりやって,3年間で博士課程を取って,なおかつうちのプログラムはダブルメジャーでありましたので,修士課程は文系も取ってこなくてはいけないというとんでもないプログラムを作っていたのですけれども,それでも優秀な学生さんはちゃんとこなすわけです。でも,学内においても,あそこにいる学生さんは特別だから,優秀だからということで,とてもではないけれども,そういった教育を一般のプログラムの中に入れようなどという発想はとても無理,無理という感じなんです。
 ですから,一つには,果たして本当に産業界が理系の博士教育,博士課程修了者で,本当総合力を持って社会のシステムを俯瞰的に考えられる,なおかつダイバーシティを持った価値観を持っている理系の学生さんが本当に欲しいのかどうかというのも,欲しいかどうかと聞かれたら,多分「欲しい」とは言うんでしょうけれども,ではそれが全ての修士・博士の学生として,そういう能力が欲しいのか。いやいや,多分,即戦力でITとか自動運転とかというのができる修士の学生さんを欲しいというのが本音で,プラス本当に優秀で総合力がある人が欲しいんだということなのではないかなと思うので,先ほど御意見がありましたが,本当に理系においても,産業界はどの程度の能力を持った人をどのくらい欲しがっているのかということがよく分からなくて,もしかしたら今のままでもいいバランスでそこそこに産業界は回っているのかもしれないし,いやいや,iPhoneとか,ああいうものが出てこなかったという考え方の狭さというのが,大学院のそういうオン・ザ・リサーチの教育・研究にあるのであれば,文系の社会学なども深く勉強したような人材が欲しいんだよというところにあるのかどうかという,産業界の理系に対する意見の分布も非常に重要なのではないかなと思っております。

【有信部会長】
 理系に関することが重要だというのはそのとおりですけれども,神成委員の今の話の部分で,もう既に平成17年の大学院答申を出すときに様々議論されて,その上で大学院教育をきちんと確立することが重要であるという結論が出て,その線に沿って今までやってきた部分が実は全く理解されていないところもあるのかなというので,これは少し,よく我々も議論を詰めていかなければいけないかと思います。
 17年答申のときは,大学の教員が学生を安易に研究労働力として使い回していて,本当に学生が身に付けるべき知識・技能を身に付けさせていないのではないかという深刻な反省の下に,大学院教育の充実が必要であるという方向性が出されたわけです。だから,これと今の先生方が,現状を見ても,確かに大学院の学生がいまだに安易に研究労働力として使い回されていて,これは全てではありませんけれども,一方で,いわゆるポスドクが流浪の民になってしまっている。つまり,彼らが,例えばシーケンサーのシーケンスをやる能力はあるけれども,全体的に見通す力がないという反省も含めて今まで施策が打たれてきたのだけれども,それが本当に正しかったかどうかということも含めて,今の御指摘を頭に入れつつ検討を進めていければと思っています。
 それでは,まず濱中委員,それから波多野委員,堀切川委員,その順番でよろしくお願いします。

【濱中委員】
 ありがとうございます。今,先生方皆さんがおっしゃっていたように,企業の現状を知るというのは,とても重要な観点だと思っております。私自身,企業の人たちに,なぜ大学院の人を雇わないのかということを聞いて回るということを試みておりまして,その経験について少し話をさせていただきたいと思って手を挙げました。
 改めまして,現行の大学院改革をみると,私が大学院に行っていた頃,二十数年前とはもう全然違う大学院教育が展開されているといえるように思います。これ以上一体何をやるんだというぐらいの改革プランが羅列されている気がして,あとは大学が徹底してやるだけだという感じもするんですけれども,一方で企業をみますと,先ほども有信部会長がおっしゃったように,トップが考えていることと採用現場の考えていることに大きな距離がある。そこにひとつのポイントがあるような気がしています。
 私が話を聞いてきたのは,主に採用現場の人たちです。ひとつ大きく驚いたエピソードからお話ししますと,十数年前のことですけれども,日本人であればだれもが名前を知っているような金融企業の人事課に,大学院生採用への意見を聞こうとしたところ,「大学院って何ですか」と真面目に質問されたことがあります。これはちょっと極端な例ではありますが,1つの現実です。そしてよくあるパターンのほうに話を移しますと,大学院生を雇うことを恐れているような,そうした意見を聞くことが多々あります。大企業人事課へのインタビューが多かったのですけれども,自分たちの企業には勝ちパターンみたいなものがあって,ビジネスモデルがあって,でも院卒はきっとそれを批判する,それは困る,というような御発言をされる採用現場の方々が少なからずいました。大学院生は守破離の守ができないと思われている節があるようで,それが敬遠される理由の1つになっているという印象を受けました。また,「修士課程2年で何が変わるんですか」,「それでプロジェクトを動かせるようになるというころであれば考えますけど」という声も聞かれました。院卒採用になると,なぜか急にハードルが高くなる。こうしたことも採用の障壁になっているようです。大学院で学ぶということが一体何なのか,どのような意義があるのか,ほとんど理解されていないという状況です。
 ただ一方で,もうひとつお示ししたいのは,ある人事課の方から聞いた次の話です。その方は,学生たちに就活のアドバイスをするボランティアをされているそうなのですが,ある年,ずっと連敗している人文・社会系の大学院生に,助言をすることがあったと。まずは,自分は大学院でこういう専門を追究してきて,こういうことについて深く学びましたといったことを人事課にちゃんと伝えてごらんとアドバイスしたそうなのですが,それだと連敗状態から抜け出せなかった。それで,ちょっと考え方を変えてみようと思いついた。自分はこういうことに関心を持ったのだけれども,データをとるためにどのようにアポイントをとって,どこに行って誰と協力して,どのように発信していったのかという話をしてごらんと。すると,いきなり連勝し始めたそうです。こうした話を聞くと,おそらく企業の方も大学院生に何を聞いてあげればいいのかが分からない。大学院生の方も何を言えばいいのかが分からない。それゆえ,企業と院生との間ですれ違いが生じているのが現状だと捉えることもできるように思います。
 もし,すれ違いが生じているのであれば,解消しなければいけません。ただその時に,もう1つ大事になるのは,企業ならではの理解法というのも考慮しなければいけないということです。例えば,先ほど大学院改革について文科省がまとめた文書が紹介されましたが,企業の人はあれを読んでも,きっと理解できない気がします。もっと具体的な経験だったり,本当にあそこの企業ではこうだったよみたいな,そういった具体例を共有するだったり,そういうレベルで理解してもらうプロセスを考えなければいけない。そのようなことを思いながら,企業人事課のインタビューをしていた経験があります。

【有信部会長】
 ありがとうございました。それで思い出したんですけれども,大学院設置基準ができたのが1973年です。だから,大学院の歴史はそんなに古くはない,制度としての。ただ,それ以前にも大学院というのは一応あったのだけれども,それは単に学部に設置した研究科をまとめたものを大学院と呼ぶという程度のものだったわけです。だから,そういう意味で大学院も制度的にも大きく変わりつつある中で,産業サイドも変わってきている。それを踏まえて,今のような方向でまた検討を進めていくべきだろうと思います。
 それでは,波多野委員,よろしく。

【波多野委員】
 皆様の貴重なご意見が出た後ですが,私はリーディング大学院のプログラムコーディネーターを務めさせていただいたこと,さらに,9年前まで企業におりました,というバックグラウンドから本部会では意見を述べさせていただきます。先ほど神成委員がおっしゃられたように,これまでGCOE,リーディング,そして卓越と,特に博士大学院教育に国も投資し,大学も努力し,専門性も高く,俯瞰的なものの見方もでき,社会をグランドデザインできる,かなり優秀な人材を社会に輩出してきました。教育の効果が明確になるには時間が掛かりますが,大学院教育の施策の成果がそろそろ社会や企業にあらわれていることを期待しています。学生たちは中堅どころで,35歳くらいでしょうか,活躍していると思います。特に企業の中核になり,リーダーという立場の人もいるでしょう。先ほど濱中委員からございましたように,企業の方々にも,国民にも,そして学生たちにも,どのような教育をしてきたからこのような人材が育っている,ロールモデルとデータと分析した結果を示すことがインパクトがあり重要と思います。企業側も,博士課程,博士課程を修了した学生は,グローバルな社会でどうである,だから将来はこのようにさらに活躍するだろう,しかしこれがまだ不足している,と具体的に示すことが重要だと思っています。先ほどご説明のあった資料で私が重要と線を引いたのは,諸外国の博士の修了後の能力と処遇とはどんなものかというデータです。是非定量的に示していただいて,グローバル社会において大学院人材は非常に重要,ということをデータで示していただきたいということと,教育効果,すなわちロールモデルを示すということが重要だと思っています。
 それがなければ,学生には,博士へ進学すると大変苦労し,就職も限定され,生涯賃金は変わらない,むしろ低いかもしれないという不安のみ残ります。一方最近,博士人材を求める企業に変化が見られます。例えば,こちらのリーディングの学生は,元気な中小企業に就職する人が出てきました。大企業以上にグローバル化が進んでいる企業もあり,グローバル力,俯瞰的な能力,さらに専門性を兼ね備えた人材をすぐに欲しい,とウイン・ウイン関係なのです。明確に必要な人材像を示しているのです。
 東工大は,前学長の三島委員の強いリーダーシップのもと,教育改革を実現しました。その際の議論を切っ掛けとして,教員の意識も非常に高まっています。研究だけではなくて,これからの教育はどうあるべきか,従来の学術分野・ディスプリンを横断かつ融合する新たなコースもでき,先導していると思います。その実行と運営には先生たちは非常に努力していますが,疲弊していることも事実です。企業と大学の両方の経験から言わせていただきますと,これ以上,調査や評価や審査が大学や教員に求められるのは,個人的には,もうちょっとおなかいっぱいだなと正直感じています。常に時間に追われている状況です。企業側,産業界側,社会が大学の努力をもう少し理解し,将来の人材を一緒に育成することに協力いただきたい,と実感しております。三島委員,申し訳ございません。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。その点も含めて,是非今後とも検討したいと思います。よろしくお願いします。
 では,堀切川さん,どうぞ。

【堀切川委員】
 資料4-1の前までのまとめを見ますと,これからおよそ20年かけて大学院教育のあるべき姿に向かって,多分いろいろな調査・ヒアリングをやって,課題と問題点を抽出して,大学院改革をまた皆さん頑張ってくれ作戦が続くと思うんですが,これはどう見ても暗い。暗くて暗くて,今の先生のお話ではないんですけれども,もう大学院改革は飽きてしまったという人もいっぱいいるかなと思うので,精神衛生上,健全に明るく進んでいくべきではないかなと個人的には思います。明るく進むための勝手な個人の意見です。
 それぞれの大学院でいろいろな調べあるいはOBの人からの意見を聞いたり,いろいろなことをされると思うんですけれども,課題と問題点を明らかにしてという部分もいいですが,こんなによかった,こういう成果が出てきたというプラスを集めるというのを向こう20年間やったら健全かなと個人的にはすごく思います。既に今まででもリーディングとか,これから成果が出るであろう卓越大学院とか,そういうもののよさを広めましょうというのもいいんですけれども,個別に頑張って,実はこんないいことが出ていますよというのがあるので,それを調べるというと,調べられる方も気分がいい,調べる方も気分がいい,それを社会に出すと気分がいいと思います。個人的に,私は中小企業から大企業まで産学連携ばかりがっちりやっている。今だと,それをやっても全然理解してもらえる環境で本当によかったなと思っていますが,例えば産学連携で共同研究をやっていると,学生にとってはもちろんプラスになる。生きた課題で解決まで見せられるというのはあるんですが,実は産業界から大学院修士課程を終わった人たちの開発部隊がしょっちゅうやってくるんですけれども,その人たちへの教育にもなっているんです。だから,実はリカレント教育と内部の学生の教育は,産学連携という場を使うと,両方にプラスになっていまして,そこを知っている大企業はしょっちゅうやってきます。そういうところをやってこない企業さんの業績が悪いと私は見ているところでございまして,それは中小企業でも同じなので,うまくいっている事例を拾おうということがあると,これから成果が積み上がっていく感じになるので,すごくいいかなと思います。
 あともう一つ,全然違う意見なんですけれども,多分文科省さんも,全国の大学,大学院,同じだと思うんですが,妙に評価を気にするわけでございまして,大学ランキングは世界中でいろいろなものをやっていますが,あそこで順位がどうのこうのというのは,そんなの関係ないと言いながらすごく気になる。あの数値で去年より下がった,上がったとそれぞれがやっているかなと思うんですけれども,大学全体のランキングもいいんですが,実際,個別には研究科専攻で頑張っているわけで,分野ごとのランキングを出しているところも世界にはいっぱいあります。そういうところを見ると,実はかなり上位に来ている分野が全国の幾つかの大学院にあるので,100番以内に入るのが少ないとかと言いながら,30番台に入ってくるところは結構あるんです。そうすると,それがそれぞれの大学院の強みがどこにあるかというところにもなるので,いいところ収集と成果の収集という明るく健全な作戦を20年間やっていただきたいと思うところであります。
 以上です。

【有信部会長】
 ありがとうございます。グッドプラクティスについては,いろいろなところで文科省も大分最近は整理したものを出しているんだけれども,多分それがちゃんと行き渡っていないというか,知られていないのもあるし,今,堀切川委員が言われたように,もう少しさらにそういう努力を続けるということも必要だろうと思います。
 また例によって,これは大学院部会のいつもの調子が悪くて,また時間オーバーしてしまいそうなんですが,今3人挙がっています。もう4人目はだめということです。それでは,三島委員,大島委員,福留委員と,そこで今日は打ち止めということにさせていただきたいと思います。では,よろしくお願いします。

【三島委員】
 波多野委員に振っていただいきましたが,東工大自身の改革のこと自体には触れませんけれども,一つのこの大学院教育のあるべき姿を考えるときの,「知のプロフェッショナル」とは何なんだろうという定義のところから入ってみます。資料4-3の1ページの冒頭のところに,2040年頃に直面する社会の変化と「知のプロフェッショナル」ということがあって,ここに3ポイント挙げられている1番が,学士課程で身に付けることが求められる論理性や批判的思考力,コミュニケーション能力等の普遍的なスキル,リテラシーのいずれも高い水準で身に付けていること。これが第1に入ってくるわけです。そうすると,大学院へ将来進んでいく学部の学生たちが自分は「知のプロフェッショナル」になりたいと思っているかどうか,そしてそのための努力をするかというところが非常に大きなところです。大学院に来たから,さあこれをやりなさい,博士課程に来たから,ではリーディング大学院をやりなさいということで,先ほどの波多野委員のように,大学院生が博士課程で急にこういうことに目覚めて,わっとそういう努力をして力を付けていく学生がいるけれども,よく振り返ってみると,学部のときに最初からそういう何か自分が将来何をやりたいかということを育てていったりすることを教員がみんなで背中を押してやるようなシステムを作っていかなければいけないと思います。ここは大学院部会ですから,学部のことを議論する場ではないかもしれないけれども,この連続性というのが物すごく大学院のあるべき姿に関連するのではないかなと思うところでございます。
 以上でございます。

【有信部会長】
 ありがとうございます。この連続性に関しては,実は分科会での議論を踏まえてつないであるので,かなり難しそうな話になってしまっているので,申し訳ありません。本文の方はもう少しいろいろかみ砕いて書いてありますので。
 それでは,大島委員から。

【大島委員】
 ありがとうございます。皆様の御議論を聞いていると,大学院に対して,これから大学院に進学しようとする,いわゆる育成される学生及び教員,産業界のリテラシーを向上するとともに,情報を皆さんできちんと供していく必要があるのかなというのを改めて強く思いました。そういう観点で言いますと,この資料4-3の3の各課程ごとに求められる教育の在り方というのが,非常に大事かなと思っております。その際に,先ほど有信委員もおっしゃっていた,エビデンスに基づいてというお話があったと思うんですけれども,多分これは分野ごとに非常に異なると思うんです。
 あと,修士課程なんですけれども,私は工学系の理科系にいるんですけれども,修士課程は日本は非常に特有だと思っているんです。例えばアメリカですと,修士課程は比較的コースワークが主で,研究というのは,もちろんやるんですけれども,日本に比べると余り重点を置いていないんです。それに対して,日本はきちんと論文を書いて,それに口頭発表をするということなんです。同じくイギリスも比較的アメリカと似ていて,イギリスは,例えば同じくコースワークが主で,研究というのはたった3か月なんです。なので,そういう関係で言うと,日本の修士課程というのは,非常に優れた教育プログラムである一方,ここに書いてあるように,コースワークをきちんとやって,そこから積み上げた知識を研究というものの指導を通してきちんとやるという,ある意味プロジェクト・ベースト・ラーニング的なことをきちんとやっているんですけれども,一方で,今2年間ということになっていて,ほとんどの学生は就職活動をやっているので,ほぼ実質1年やれるかどうかということなんです。
 このような博士課程でやっているようなことをミニ博士課程として修士課程でやっているというのが,先ほどいろいろな御意見も出ていて,リーディング大学院も含めてもそうなんですけれども,なかなか現場の先生が,博士課程と修士課程で,そこのトランジションをどうするかという話と,学生に対して,修士課程の学生にもそれほどの教育をしないといけないという現状もあるということだと思うんです。なので,ちょっとそこの非常に高度な修士課程を今後どうやっていくかというのが,一つ大きな課題なのかなと思っています。
 例えば,コースワークは,最近プロジェクト・ベースト・ラーニング的なものが取り入れられているので,いわゆる研究というものがコースワークの中に入れられているというのが一方であるんです。なので,本当にコースワークとして研究指導を入れるのか,今やっているような修士課程としてやっていくのであれば,例えば,先ほど出てきたように,修士の研究は12月までにして,そこから就職活動をするという形にして,そうすると,そこで研究を一旦経験することにもなりますので,選択肢として博士課程もありますし,あと例えば就職して企業に行くという選択肢もあるかと思うので,修士課程の2年間をこれからどうデザインしてくかというのが,一つ日本の大学院の課程においては,大きな,いい意味でのよい教育プログラムをどうやって生かしていくかということと,一方で社会的な就職ということを考えたときのデザインをどうするかという課題なのかなと思っています。
 あともう1点,ちょっとリカレント教育についても一言申し上げたいんですけれども,これも多分分野によって非常に異なっていると思うんです。理系は,大抵の方は修士課程を持っているので,リカレント教育で来るといった場合には博士課程に入るかということになるんです。そうすると,現行の博士課程ですと,教育よりはどちらかというと研究的な形に重きを置かれるんです。でも,一方で最近はAIとか,どちらかというと新しい分野を学びたいということもあるんです。なので,例えば修士課程を持っている学生が,では実際に日本の大学院にリカレント教育として来た場合に,どのような教育,いわゆる身分ですね。もちろん,修士課程に入り直すということもあるかと思うんです。でも,一方で,修士課程を持っているのであれば,企業としては,より優れた次のディグリーとして学生を送っているということもありますので,そういうところも少し整理して,そういうリカレント教育としてどのようなプログラムデザインと,あといわゆるディプロマとしてどういう形にしていくかというのも,コースワークとしてのリカレント教育という側面だけではないことも少し考えていただいた方がいいのではないかなと思いました。
 以上です。

【有信部会長】
 具体的な指摘だったと思います。
 それでは,最後に,福留委員,どうぞ。

【福留委員】
  福留といいます。私は,東京大学の教育学研究科で教鞭を執っておりまして,高等教育研究の分野でアメリカとの比較研究をやっておりまして,人文・社会系中心なんですけれども,ある程度これまで調べてきたことがございまして,今日の議論に少し関係するところで,少し前に,専門あるいは研究との関係で大学院の目的をどのように位置付けるかというお話があったと思うんですが,アメリカでも,基本的には専門分野を深めていくというカリキュラムというか,研究の部分も含めて,そこが中心になっているということはかなり共通していて,ただ,私の印象ですと,専門の設定がやや広く設定されていて,かつコースワークがかなり体系化されているので,そこは少し日本と違うのかなと。
 ただ,この前回の9期のまとめのところにあったような問題解決能力とか,そういったいわゆる汎用的な能力をそのものとして何か身に付けさせるようなカリキュラムをやるというよりは,むしろこの専門の学習だったり研究を深める中でそういう能力を身に付けていくというプロセスがあるような気がしております。ですので,大学院教育の中心は専門教育を深めていくというところで,そこの中でどう汎用的な能力を身に付けていくかというような考え方が一つ必要なのかなと思っております。
 それとあと,これまでちょっと論点に出てきていなかった点として,経済的支援の問題も一つの論点だということですので,これも,非常に財源がない中で,各学生が見通しを立てられるようなフィナンシャルプランというのは非常に悩ましい問題だと思うんですけれども,これは学生の大学院に進んだ後の見通しという点で言うと,修了後のキャリア,就職の問題というのが一番大きいと思うんですが,在学中にどうやって生計を成り立たせていくかという問題も非常に重要で,この点で言うと,アメリカでは,近年は基本的に生活をきちんと成り立たせることができるレベルの奨学金なり,いろいろなグラントを出して,学生を採る。それだけ採れる学生はかなり絞られてくる,特に人社系の場合は。ただ,採る学生に関しては,きちんと生活まで責任を持つといったやり方がかなり一般的になってきているということがあるようです。ですので,そういうところと比べて,どういうところまでできるのかということを考えていく必要があるのかなと思っております。
 以上です。

【有信部会長】
 そういう意味では,大学院が専門的な能力を涵養するというのは大前提として必要なことだろうと思いますし,トランスファラブル・スキルに関しては,多分アメリカの考え方とイギリスの考え方とはまた大きく違うようなところもあって,そういうことを含めて,私たちはどのように考えていくかというのを今後検討していくべきだろうと思っています。
 すみません,毎回毎回,何か時間内に終われなくなってしまうんですけれども,次の議題に,今日は若干しゃべり損なって欲求不満の方もおられると思いますが,その方は是非事務局宛てにメールで思いの丈を伝えていただければと思います。
 それでは,議題の4の省令改正についてということで,事務局から説明をお願いします。

【平野大学改革推進室長】
 失礼いたします。資料6をご覧ください。省令改正に関する御説明でございます。
 先ほどの審議のまとめの中身で事項としては触れているわけでございますけれども,今後,審議のまとめを踏まえまして,具体的な省令改正の作業に入ってまいります。その上で,改正項目は今回4つございます。
 1-1,学校教育法施行規則の改正ということでございます。先ほど来申し上げていますように,学位プログラムとしての大学院教育を確立するという観点から,「三つの方針」の策定・公表の義務化という事項について,審議まとめでは盛り込まれてところでございます。
 この四角の中に内容が書かれているわけでございます。具体的な条文というものはまた今後お示しさせていただくことになりますが,内容としてはこういうことになるということでございます。
 大学院は,当該大学院,研究科,専攻ごとに,教育上の目的を踏まえて「三つの方針」を定め,公表するものとするということを位置付けるものでございます。「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)についてのみは既に平成23年度に義務化されてございますので,ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーを義務化するというものでございます。
 この「三つの方針」の策定・公表の義務化に当たっては,また右上の吹き出しの部分がありますけれども,前回の大学院部会の審議まとめのところで触れられている内容がございますし,また主に学部向けということになっておりますけれども,三つのポリシーのガイドラインというものも作られている。こういったものも適宜活用していただきながら,各大学院で「三つの方針」を策定,また再点検していただくということを併せて求めていくということでございます。
 改正内容の2つ目でございます。学位論文に係る評価の基準の公表の義務化ということで,大学院を置く大学は,大学院における学位論文に係る評価の基準を公表するものとするということでございます。
 ※の1つ目にございますように,既に大学院設置基準においては,学位論文に係る評価の基準を学生に対して明示することは義務付けているところでございますので,この学生に対して明示しているものを社会に対しても公表してくださいという形の位置付けになるわけでございます。具体的に公表すべき項目ということ,また評価に係る基準の対象の範囲ということは,※の2個目,3個目にあるとおりでございます。
 1-2,大学院設置基準の改正ということで,3,プレFDの実施又は情報提供の努力義務化ということでございます。条文上,このプレFDというものをどう表していくのかということは今後検討してまいりますけれども,「大学院は,博士課程の学生に対して,授業を実施するために必要な能力等を身に付けさせるための機会の提供又は当該機会に関する情報の提供に努めるものとする」という努力義務の形でございます。自らプレFDを実施するということだけではなく,それが厳しい小規模の大学院などについては,ほかの大学院などで行われている機会というものをしっかり情報提供する。このような対応も考えられるものでございます。
 4,先ほど触れていただきましたが,経済的支援や学費等に対する見通し(ファイナンシャル・プラン)を示すことの努力義務化でございます。「大学院は,学生の経済的負担の軽減を図るための措置,授業料,入学料その他の大学が徴収する費用に関する情報を整理し,学生及び入学を志望する者に対して明示するよう努めるものとする」と。※の部分にございますけれども,どのような費用が徴収されるのか,またどういった形で経済的支援を受ける金額なのか,その条件とかメニューといったものが整理されて,一覧的・網羅的に確認できる形で今示されているということでは必ずしもございませんので,そういったものを一覧的な形にしていただいて,入学出願書類とかホームページの入学案内などから簡単に参照できるようにするということが求められるわけでございます。
 この内容につきましては,前期の大学院部会において審議まとめでまとめていただいたものを基本的には引き写しているものと御理解を賜れればと思います。
 スケジュールでございます。ちょっと時間の関係もありますので,この資料だけで説明しますが,右下にありますように,今回,まずここでこれについて見ていただいた上で,次回の大学分科会の方にかけていくと。大学分科会の方でおおむねお認めいただいた場合には,概要でパブリックコメントをかけていくということになります。パブリックコメントが終わった段階で,具体的な条文案につきまして,大学院部会,大学分科会でそれぞれ審議をして,大学分科会の諮問・答申というものを受けまして,夏頃に公布するということを想定しているものでございます。ですので,大学院部会としては,今回終わった後パブコメをかけて,また条文をもう一回見ていただくということになるわけでございます。
 そして,この4つのメニューの中の施行日でございます。3,4については,努力義務ということでございますので,今からでも頑張っていただきたいということで,夏公布と同時に施行するということを想定しているものでございます。1と2は,義務化するというものでございますので,一定の猶予期間というものを設けて,来年の春から義務化するということを想定しているというものでございます。
 2ページ目以降につきましては,この関係する事項に関する審議まとめの抜粋,また現状の各大学の取組状況というものをまとめているものでございます。
 以上でございます。

【有信部会長】
 ありがとうございました。ただいまの説明に関して御質問等ありましたら,どうぞ。これはこうやりますという話だから,文句を言っても仕方がないので,これがよく分からないというようなところがあれば,是非どうぞ。
 特にないようでしたら,その次の議題の経済財政諮問会議等での動きについて,また,では事務局からお願いします。

【平野大学改革推進室長】
 資料7でございます。先ほど少し触れていただいたところでございますけれども,経済財政諮問会議の動向についてでございます。実は,先月の3月27日の経済財政諮問会議において,経済財政諮問会議の有識者議員から,いわゆる民間議員ペーパーと称するものでございますけれども,御提案というものがありまして,それに対して大臣の方からプレゼンテーションを行っているということの報告でございます。  有識者議員の提案というものにつきましては,この四角の中でございますけれども,大学院等の学位取得を弾力化するという観点から,単位累積加算等の既存制度を拡充すべきではないかといった御提案でございます。
 この意図という部分につきましては,大学院の学位というものをこれからしっかり取っていっていただくということが必要な中で,必ず一から入って全て単位を取って出るような形だけではないような様々な弾力的な,社会のニーズに合わせた取らせ方というのがあるのではないかという趣旨だと推察されるところでございますけれども,そのような趣旨から御提案があったところでございます。
 大臣のプレゼンテーションの資料というものを付けさせていただいてございます。3ページ目の資料がプレゼンテーションの内容の本体でありまして,4ページ目は参考資料ということでございます。
 文部科学大臣の方からは,3ページの方でございますが,既存の,これは学部も併せてでございますけれども,飛び入学,早期卒業・修了,長期履修,入学前の修得単位の認定,履修証明,また修業年限の短縮といったものについては,取り組まれているところでありますけれども,これらの制度を活用促進するということに加えまして,右側にありますような履修証明プログラム,ノンディグリーのプログラムというものについても,学位を授与する課程の一部として今後活用できるようにするということ。これは,大学分科会ないし将来構想部会の方で前期御議論いただいていたところでございますが,制度改正を実施するということでございます。それについてプレゼンテーションしたわけでございますが,内容については記載のとおりでございます。
 簡単に申し上げますと,今まで履修証明プログラムというものは120時間以上となっていたものを60時間以上に,これは4月1日から既に見直しているところでございます。一方,これまで履修証明プログラムというものにつきましては,既存の大学で開設される科目を使う場合には,当然科目と履修生ということで単位を獲得できることがあったわけでありますが,履修証明プログラムそのものを単位認定するというスキームはなかったわけでございます。履修証明プログラムそのものについても単位授与を可能にするということ。このようなことによって,イメージ図でございますけれども,現状の左側,これまでは,短期プログラムを取って履修証明プログラムを取っても,必ずしも学位課程に結び付かない,取っても大学院の単位として使えないといった状況があったわけでございますが,今後は,履修証明プログラムそのものに単位付与することができる。また,これまでは認められていなかったような60時間以上の部分のものについてもそのような枠に取り込むということによって,ここで取った単位というものをしっかり大学院の課程,学位の課程につなげていくということを可能にしようということを進めていく。これによって短期から長期までのプログラムが相互に連携して,入り口という部分も含めて,多様な形で学位取得までつなげていくということについてプレゼンテーションを行ったものでございます。
 1ページ目へ戻っていただきまして,大学院に関する発言という部分は,先ほど御紹介いただきました黒田総裁の発言,また安倍総理の発言などを抜粋させていただいてございます。安倍総理の方からも,「理工系については企業は評価してくれるが,文系はそうではない。しっかり大学と企業がコミュニケーションをとって,人材を生み出していくとよい」といった御発言があったわけであります。
 文部科学省といたしましては,今後,いわゆる各大学院という部分がしっかりほかの積み上げてきた単位というものを活用しながら円滑に学位授与を行うという意味で,ある意味,全大学が単位累積加算的なところも含めて,学位を授与できるような方策というものについて今後しっかりと検討してまいりたいと思います。その上で,また制度改正等につきましては,必要に応じてこちらの大学院部会の方でも説明,また御意見を頂きたいと考えているところでございます。
 まずは動向ということで御説明をさせていただきました。以上でございます。

【有信部会長】
 どうもありがとうございました。ここで議論されたような内容についても関係ある部分が含まれているかと思いますが,何か御質問等あれば。
 特にないようでしたら,経済財政諮問会議だけでなくて,今,先ほども最初に説明がありましたように,次の科学技術基本計画に向けて,様々な議論がもうかなり進んできていて,その中で研究が取り上げられるのはもちろんのこと,それに関連して大学院あるいは大学改革の議論も当然組み込まれてきて,私たちも,うろうろしていると向こうから矢がいっぱい飛んでくるので,矢が飛んでくるから急げというのも不純なわけですけれとも,私たちもそれ相応の議論をきちんと詰めておく必要があると思いますので,今後ともよろしくお願いしたいと思います。
 奇跡的に時間内に何とか終わりましたが,ほかに何か,どうしても言いたいという方がいらっしゃれば。よろしいですか。
 それでは,本日の議論はこれで全て終了ということにさせていただきたいと思います。
 では,事務局から。

【平野大学改革推進室長】
 本日は活発な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
 次回の開催については,令和元年ということでございますが,6月5日を予定しております。詳細は追って御連絡をさせていただきます。
 本日の資料につきまして,郵送を御希望される委員の先生におかれましては,机上にございます附箋に郵送希望と書いていただいて残していただければ,勤務先の方に原則としてお送りさせていただきたいと思ってございます。どうぞよろしくお願いします。
 ありがとうございました。

【有信部会長】
 どうも本日は活発な議論をありがとうございました。これで閉会とします。ありがとうございました。


―― 了 ――

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