大学院部会(第81回) 議事録

1.日時

平成29年5月30日(火曜日)15時30分~17時30分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 部会長の選任等について
  2. 大学院部会の運営について
  3. 大学院教育の在り方について
  4. その他

4.出席者

委員

(委員)
有信睦弘(部会長),室伏きみ子(副部会長)

(臨時委員)
池尾恭一,井上眞理,大島まり,岡島礼奈,樫見由美子,加納敏行,川嶋太津夫,川端和重,神成文彦,車谷暢昭,小西範幸,佐久間淳一,迫田雷蔵,高橋真木子,田中明彦,永里善彦,藤原章正,堀切川一男,宮浦千里

文部科学省

小松文部科学審議官,戸谷文部科学事務次官,浅田高等教育局審議官,角田大学振興課長,井上大学改革推進室長,大月専門職大学院室長

5.議事録

・新しい部会長について,有信委員がふさわしい旨発言があり,了承された。
・副部会長については有信部会長から,室伏委員の指名があった。


※事務局から説明の後,資料3のとおり,大学院部会の会議の公開に関する規則が了承された。


【有信部会長】  第9期の初回の大学院部会の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。
 部会長を務めることになりました有信と申します。よろしくお願いします。
 第8期の部会では,ちょうど我が国の学術や経済の優位性あるいは競争力の低下ということを踏まえて,また新たな基幹産業創出への期待ということもあり,高度な専門的な知識と倫理観を基礎に,新たな知と価値を生み出す人材の育成ということで,議論を重ねてきています。
 一昨年の部会でのまとめには,特定分野の学術を担う研究者養成に偏った博士課程の在り方を見直して,博士課程学生のキャリアパスの多様化の促進,これもずっと試みているわけですけれども,それと企業との共同研究への大学院生の参画,あるいは社会人の学び直しニーズに応える大学院教育,専門職大学院の質の向上などを盛り込んで,文部科学省におかれては,このような内容に基づいて施策を展開してきていただいています。
 今期は松野文部科学大臣からの中央教育審議会への諮問が本年3月に出されていますけれども,高等教育の将来構想に関して新しい諮問が行われています。これを踏まえて,今後の日本を,また世界を牽引する人材を育成するために,大学院教育改革の推進とそれを支える支援方策について,委員の皆様方と検討,議論を進めてまいりたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。
 それでは引き続きまして,文部科学省から一言御挨拶をお願いします。


【角田大学振興課長】  大学振興課長の角田でございます。第9期の大学院部会の開催に当たり,高等教育局長の常盤に代わりまして,一言御挨拶を申し上げたいと思います。
 先生方におかれましては,第9期中央教育審議会大学分科会大学院部会委員をお引き受けいただきましたこと,また大変御多忙の中,本日御出席を賜りましたことを改めて感謝申し上げます。
 第8期の本部会におきましては,「未来を牽引する大学院教育改革~社会と協働した「知のプロフェッショナル」の育成~」の提言を2015年の9月におまとめいただいております。現在,この提言を受けまして策定をいたしました第3次大学院教育振興施策要綱に基づきまして,大学院の教育改革を進めているところでございます。
 現在の社会は,IoT,ビッグデータ,またAI等の急速な発展による第4次産業革命,またそれに伴います就業構造の変化,更には少子高齢化など,大きな変化に直面をしております。このような社会の変化の中で,人材育成と知の創造活動の中核である高等教育機関,とりわけ大学院は,一層重要な役割を果たしていく必要があります。中長期的視点を持って高等教育の改革に取り組んでいかなければならないと考えているところでございます。
 先ほど部会長からお話がございましたように,本年の3月,松野大臣から中央教育審議会に対しまして,おおむね2040年頃の社会を見据えた高等教育の将来構想について御審議を頂きますよう諮問をさせていただいたところでございます。本部会におきましては,この高等教育の将来構想に関わる大学院関係の重要事項について,第8期での議論を更に深めるべき事柄,また新たに議論すべき事柄について御審議を頂きたくお願い申し上げます。
 委員の皆様方には引き続き御協力,御指導を賜りますようお願い申し上げ,部会開催に当たりましての御挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。


【有信部会長】  どうもありがとうございました。第8期でもいろいろ議論を進めてまいりましたけれども,何せ難問山積みということで,是非よろしくお願いします。
 早速,議題の2番目の話に入りたいと思いますが,これも難問の一つで,昨年の8月に,「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」ということで取りまとめを行いました。更にこれを具体化していくということで,まだ議論を進める必要があるという判断が前期のときになされています。
 それに基づきまして,今期も引き続き専門職大学院ワーキンググループを当部会の下に設置して進めていきたいと思いますが,内容について事務局から簡単に説明をお願いします。


【大月専門職大学院室長】  専門教育課の専門職大学院室長の大月と申します。専門職大学院ワーキンググループの設置について説明いたします。紙の資料の資料4をお手元に御用意いただくとともに,タブレットの中央教育審議会大学分科会専門職大学院ワーキンググループの「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」概要をごらんください。
 この提言におきましては,10回の審議,専門職大学院の現地視察,大学分科会や大学院分科会への報告,産業界との意見交換を経て,昨年8月,前期でございますが,取りまとめられたものでございます。
 具体的な提言の内容でございますが,タブレットにありますように,まず現状課題として,専門職大学院は平成15年度に高度専門職業人養成に目的を特化した課程として創設以来,大学院教育の実質化や社会人教育を牽引する役割を担うとともに,一定程度の普及・定着が図られてきたと評価する一方で,社会(「出口」)との連携が必ずしも十分ではなく,多様化するニーズを的確に踏まえたプログラム提供ができていない,学位の付加価値についての理解を得られていない等のため,制度導入時に期待されていたほどの広がりには至っていない。
 また,高度専門職業人養成という観点から,修士課程と専門職学位課程の役割分担が明確ではないとの現状課題分析がなされたところでございまして,その中段,下にありますように,今後の方向性として,高度専門職業人養成機能の充実・強化,自らの強みや特徴を伸ばすための取組を促進,高度専門職業人養成のための中核的教育機関と位置付け,高等教育全体としての機能強化,社会(「出口」)との連携強化,多様なニーズへ対応するための学士課程・修士課程等との連携強化等の今後の方向性が出されました。
 具体的な改善方策といたしましては,その下にありますように,関係業界の関係者など養成人材と関係が深い者等から成るアドバイザリーボードの設置,教育課程等に関してステークホルダー等の参画を得た上でのコアカリキュラムの策定促進等に関して,具体的な提言がなされまして,アドバイザリーボードに関しましては,先般成立した学校教育法の一部改正の法案に盛り込まれたところでございますし,昨年度の予算におきまして,経営系の専門職大学院等のコアカリキュラムの策定等がなされたところでございます。
 しかし,教員組織等に関しましては,資料にありますように,専門職大学院の教員が他の課程の専任教員を兼務することを一定程度認めることを検討ということ。また認証評価に関しましても,認証評価機関は修了生の就職先,学生等から意見を聞き,評価に反映させることが必要とか,国際認証を得た場合,国内の認証評価実施に伴う負担の軽減の検討と,幾つかについて検討という形でなっておりますので,今期も本大学院部会に専門職大学院ワーキンググループを設置して,これらの事項を中心に専門職大学院の充実・強化方策について御検討いただきたいと考えておるところでございます。
 資料4をごらんください。かかる観点から,専門職大学院ワーキンググループの設置についての案というものにおきまして,1ポツにありますように,ワーキンググループの審議事項といたしまして,専門職大学院制度の見直しに関する方策について,その他専門職大学院の機能強化のために審議すべき事項についてということ。2ポツで,専門職大学院ワーキンググループの委員については大学院部会長が指名するということ。また,4ポツでございますが,専門職大学院ワーキンググループは,審議状況を適宜大学院部会へ報告するものとするという形でしているところでございます。
 この設置の案について,このような形でまとめているところでございますので,これについて説明は以上でございます。


【有信部会長】  ということで,今期から初めて参加された方には耳新しいことかもしれませんが,要は,日本の経済力が隆々としていた時期の認識のままで進んできていて,あるとき気が付いてみたら日本の生産性は極めて低い,製造業ですらアメリカよりも低くなってしまっている。そういう中で,もともと専門職大学院制度というのは,将来に向けてそれぞれの分野で高度に専門的な知識とスキルを身に付けた人たちが活躍しなければ,日本の将来の発展に大きな影響を及ぼすだろうということで設置されたわけです。
 これがなかなか思いどおりに進んでいないという,ここに書いてありますような課題の下で議論を進めてきています。そこで,今回の提案にありますように,更に議論を進めて,もう一度きちんとした見直しを進めていきたいということだと思っていますので,この設置を是非お認めいただければと思いますが,いかがでしょうか。
 特に異議がないようですので,それでは,大学院部会の下に専門職大学院に関するワーキンググループを設置したいと思います。よろしくお願いします。
 なお,ワーキンググループの委員等については,部会長が選任するということになっておりますので,人選については私に一任いただければと思います。それでよろしいでしょうか。


(「異議なし」の声あり)


【有信部会長】  ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。
 それでは次に,議題の3番目ですけれども,これが本日のメーンの審議になると思いますが,大学院教育の在り方についてということで議論を進めていければと思っています。
 事務局から,大学院教育の現状を示す基本的なデータや,第8期の審議まとめを踏まえた大学院教育改革の進捗状況,あるいは本年3月の文部科学大臣から中央教育審議会に対してなされた高等教育の将来構想の諮問内容,あるいはこの諮問を踏まえた第9期の大学院部会で議論する具体的な項目について,とりあえず具体例として挙げていただいたものがありますので,説明をお願いします。


【井上大学改革推進室長】  それでは,まずお手元の紙の資料5をごらんくださいませ。まず初めに,大学院の現状を示しますごくごく基本的なデータを御紹介申し上げます。
 1枚おめくりいただきまして,現在大学院を置く大学がどれくらいあるか,研究科数がどれくらいあるかというデータでございます。国立大学につきましては全て,そして公私立大学でも約8割が大学院を設置しており,研究科数も非常に増えてきていて多様なものとなっている現状がございます。
 続きまして,2ページをおめくりくださいませ。大学院在学者数の推移でございます。こちらにつきましては,平成3年度以降,大学院の重点化を経て,非常に増えてきた傾向がございましたけれども,平成23年度をピークに,少し減少傾向にあるということでございます。青い部分が修士課程,グレーの部分が博士課程,黄色の部分が専門職学位課程ということでございます。
 続きまして,3ページをごらんください。3ページには学士課程,修士課程,博士課程の進学者の規模を表してございます。平成22年度の18歳人口と比べまして,学士課程の入学者は約半分ということでございます。これに比べまして,修士課程,専門職学位課程,また博士課程等,進学している人の規模というものが上に示してございます。修士課程につきましては,社会人を除く入学者を22歳人口と比べますと,約5.5%,専門職学位課程につきましては,こちらも社会人を除く入学者を22歳人口と比べますと,約0.2%という数字になってございます。
 一方,社会人も修士課程,博士課程とそれぞれ一定規模の入学者はございます。博士課程に行きますと,かなり少ない規模の人口がそこで学んでいるということでございますけれども,社会人の博士課程の入学者を除く24歳人口と比べた場合は,約0.7%の入学者の割合ということになってございます。
 続きまして,分野別に見ました修士課程の進学率を紹介申し上げたいと思います。4ページでございます。修士課程の進学率については,全体的にどの分野も横ばい傾向にあるということが分かるかと思います。中でも理学や工学などについては,かなり高いパーセンテージの学生が修士課程に進学するということが分かり,特に工学の分野におきましては,恐らく学術だけでなく企業にも,こういった修士課程の修了者が行かれているという実感は委員の皆様も持たれているのではないかと思います。
 続きまして,修士課程から博士課程への進学率でございます。5ページでございます。こちらは少し修士課程の進学率の状況と様相が違ってございまして,全体的に少し減少の傾向というのが長きにわたり見られる状況がございます。この状況が,第8期で御議論いただきましたときにも,とりわけ研究者育成の観点からも危機感というものが非常に強く持たれておりまた。また先ほど部会長からもお話のあった,いろいろな産業構造が変わる中で,高度な知を持った博士人材が様々なところで活躍していくという意味において,実際にこの進学率が減っているというところは大きな課題かと考えてございます。
 続きまして,6ページをごらんください。今度は修士課程への社会人の受入れ状況でございます。こちらは大学院の規模の拡充に合わせて大幅に,平成の初めから中ぐらいまでは大分急速に増加してきた傾向がございましたが,近年は少し減少並びに横ばいの傾向となっている状況でございます。こういった点は,諸外国における大学院の学生の状況と大分異なっているかと思います。社会人の修士課程にいる学生の割合は,約1割というところでございます。
 次に,博士課程におけます社会人の受入れの状況でございます。7ページをごらんください。博士課程につきましても大学院の拡充に合わせて大幅に人数が拡大してまいりましたけれども,近年ほぼ横ばい,少し減っているという状況が見られます。社会人の割合は,数字だけを見ますと41.4%と非常に高い割合になってございまして,委員の先生方は意外だなという感覚を持たれるかもしれません。
 この数字の主な要因となってございますのが,医学や歯学の分野で,研修や研修を終えた若手の臨床医などが並行して大学院で学んでいるということがございます。そういった方々は雇用関係を持ちながら働いて学ばれているということで,こちらの社会人の方にカウントされてございます。博士課程での社会人の受入れがこれだけのパーセンテージに上がっている主な要因となってございます。
 次に8ページ,こちらは専門職大学院における社会人の比率でございます。専門職大学院につきましては,その趣旨のとおり,中身からして社会人の比率というものが相当大きなものになってございます。表の一番下,合計というところをごらんいただきますと,平成23年度以降のデータを御紹介しておりますけれども,社会人の比率が上がってきているということが全体でうかがえます。
 ただ,その上に書いてございますとおり,分野によって相当ばらつきがあるというところが見られます。ビジネスなどにおいては,ほぼ社会人と言っていいような分野もあれば,臨床心理等,社会人の少ない分野というものもあって,こちらも分野によって大分違う状況となってございます。
 続きまして,9ページを割愛させていただきまして,10ページをごらんください。10ページでは学問分野別のそれぞれの課程の学生数を紹介させていただいております。一番上,修士課程の在籍者数をごらんいただきますと,圧倒的なボリュームゾーンが工学ということがお分かりいただけるかと思います。博士課程の在籍者数を見ますと,修士課程に比べて工学は極端に減るというデータが見られます。これは先ほど申し上げた,修士課程から博士課程に進学する以外のいろいろな社会,企業等で御活躍されるボリュームゾーンが非常に大きいということが背景にございます。
 また一方,赤の保健という分野でございますけれども,保健の分野は修士課程に比べて博士課程の在籍者数が約2.5倍と,唯一増えている分野です。こちらは,先ほど申し上げた医学や歯学等の分野の学部の課程の上にございます4年制の博士課程というのがございまして,こちらに所属する学生が相当数いることといった,医学,歯学,あと薬学,獣医も含まれますけれども,そういった分野の方の特色により,博士課程の在籍者数が非常に修士課程に比べて多いという状態でございます。
 3番目,専門職学位課程の在籍者数ですが,分野はやはり社会科学が圧倒的という状況でございます。
 続きまして,11ページでございます。11ページは大学院への外国人留学生の受入れ状況を示してございます。日本の国際競争力ということが非常に重要な問題である中で,大学院でも優秀な外国人留学生を獲得しようといった様々な策を打ってございます。徐々に増えてきているというところではございますけれども,若干伸びが悩んでいるというところで,今後またこちらの部会でも御審議いただきますような論点として,1つ,優秀な外国人留学生の受入れというのはあるかなと考えてございます。
 次,12ページでございます。12ページは,日本人の学生を海外で鍛えるといった観点も非常に重要だろうということで,民間の企業の方々に大変な御協力を賜りまして文部科学省で始めております日本人の学生の留学支援制度の状況の御紹介でございます。
 こちらは大学院生だけではなく,幅広い学生,また学位を取るというものだけでなく,かなり短い期間から,企業のインターンシップも必ず組み合わせてということで,バラエティーに富んだ外国の経験をしていただくプログラムということで用意をしております。こういった取組も通じまして,大学院生においても海外で鍛えるということを進めてございます。
 13ページをおめくりください。先ほど修士課程から博士課程への進学率が減っているというところが,特に研究者育成の観点から危機感があるということを紹介申し上げましたけれども,学生自身が博士課程の進学の際に重要と考えていることは何かというところでとったアンケートの結果でございます。
 ここに1つ大きな課題というものが示されるわけでございますけれども,1つは学費の問題,そして生活費をどう稼ぐかという経済的な問題が1番目に来てございます。博士課程の在籍中の経済的支援が拡充するということを,重要な進学要件として考えているということでございます。
 もう1点目がキャリアパスの問題です。もともと研究者養成ということが博士課程の目的ではあったわけですけれども,社会・経済の発展や変化に伴いまして,諸外国を見てもいろいろなところでその力が活用され,また活躍しているということがございます。
 徐々に日本でも,伝統的に博士を取っていただいているところのほか,後に御紹介申し上げます施策も通じて,様々なところで活躍を博士人材がするという状況にはなってきてございます。しかし,まだまだその活用なり,また教育の面でも不十分な点があるかと思います。学生自身も民間企業などにおける博士課程の修了者の雇用が増加するといったことは,博士課程で学ぶ際の重要な要件として考えているという,この2点が強い要素として出てございます。
 続きまして,14ページでございますけれども,そういった2つの課題が今,博士課程の進学について学生サイドからの目で示されております。1点,経済的支援につきましては何とか我々も努力して,支援を優秀な学生に手厚くしたいということで取り組んでございます。
 平成27年度時点で生活費相当額の経済的支援を受けている学生が,まだ約10.4%ということで,これはまだ低い数字かなと考えてございます。政府全体としましては,2割の博士課程の学生が生活費相当額を受けるということを目標に掲げてございまして,こちらを早期に達成できるように我々も努力をしてまいりたいと思ってございます。
 以上が,ごく簡単ではございますけれども,現在の日本の大学院の状況を示す基本的なデータでございました。
 続きまして,部会長からも話のありました,第8期でおまとめいただきました大学院の今後取り組むべき事項ということで,資料の6-2におまとめいただいた次第でございます。この審議のまとめに基づきまして,平成28年3月に,実際に文部科学省として今後5年程度でこういうことに取り組んでいくというものをまとめました,第3次大学院教育振興施策要綱というのがございます。こちらの進捗状況を御紹介申し上げたいと思います。資料の6-1と6-3も併せてお手元に御用意くださいませ。
 なお,第3次大学院教育振興施策要綱そのものにつきましては,タブレットの参考資料4に電子媒体を入れてございますので,適宜御参照いただければと思います。
 それでは,資料6-1に沿って施策の進捗を御紹介申し上げます。審議のまとめの柱に沿った形で,この施策要綱につきましても,項目を白黒で反転させてございます。1ページにまず体系的・組織的な大学院教育の推進と学生の質の保証,2ページに産学官民の連携と社会人学び直しの促進,大学院修了者のキャリアパスの確保と可視化の推進,そして3ページに,博士課程(後期)学生の処遇の改善,そして4ページに,世界から優秀な高度人材を惹き付けるための環境整備,教育の質を向上させるための規模の確保と機能別分化の推進,専門職大学院における高度専門職業人養成機能の充実,また世界最高水準の教育力と研究力を備え,人材交流・共同研究のハブとなる卓越大学院プログラムの形成支援といった柱で立てさせていただいております。そしてさらに,一番下の指定国立大学制度の創設というのは,その後に関係するものとして新たに作られた制度でございますので,後ほどまた御紹介をしたいと思います。
 今申し上げました柱に沿いまして,個別の施策なり,また各大学の取組を促進しているということでございます。本日は主なものに限って御説明を申し上げます。
 資料6-1,1ページへお戻りいただきまして,体系的・組織的な大学院教育の推進と学生の質の保証というところから御説明申し上げます。今,ざっと項目をごらんいただきましたけれども,各取組の柱の中で,一番上のところに点線で枠囲みをした博士課程教育リーディングプログラムという施策において,この施策の進捗が見られるというものが多々ございます。
 博士課程教育リーディングプログラムにつきましては資料6-3にまとめてございますので,こちらの資料6-3を用いて,まとめて御紹介を申し上げたいと思います。
 この博士課程教育リーディングプログラムは,大変御協力いただいてございます委員の先生方もいらっしゃいますけれども,学術のみならず,企業,国際機関等,多様な分野で活躍できる博士課程の教育というものを作ろうということで,平成23年度から始まったプログラムでございます。
 特に,理工系も人社系もそうかもしれませんけれども,非常に狭い分野を究めていくといった,かなり研究室に張り付いたような博士の人材育成というのが伝統的にされてきたわけでございますけれども,資料6-3の下の図にございますような体系的な教育,多様な経験,それも学外のいろいろな機関での経験を積むというプログラムに対する支援でございます。
 1枚おめくりいただきまして,3ページのと4ページには,実際に採択されている大学のプログラムと例がございます。現在,全部で62プログラムを支援させていただいておりまして,昨年度までに中間評価を全て終えてございます。
 7ページをごらんいただきますと,各プログラムの評価ということで,SからCまでいろいろな評価がございました。
 9ページから11ページでは,実際その取組でできてきた事柄の例を示してございます。9ページの柱だけ御紹介しますと,リーダーを養成する学位プログラムの確立。タコつぼ型ではなく様々な経験,コースワークを組織的に行う教育体系が確立してきているということです。
 また,産学官民参画による修了者のグローバルリーダーとしての成長および活躍の実現性。大学の中の先生だけではなくて,産業界,また国際機関等,多様なセクターで一線で活躍される先生方の参画を大変得て,プログラムが進行してございます。
 おめくりいただきまして10ページ,優秀な学生の獲得。また11ページ,世界に通用する確かな学位の質保証システム。そして,これは時限の事業でございますので,事業期間終了後の定着・発展に向けたプランニングといったところで着実に進捗を見せてございます。
 特に皆様に御紹介したいのが,修了者の就職状況でございます。17ページをごらんください。先ほど博士課程に進学する際の重要事項として,キャリアパスの明確性というところが学生の視点からございましたけれども,こちらのプログラムでは,緑の94.5%というところが出てございますけれども,プログラム参加者のうち95%,約9割5分の方が実際に就職を決められているというデータで,通常の博士課程修了者全体のデータよりも大分高い数字が出てございます。
 19ページでは,プログラム修了者の就職状況ということで,一番下のところが端的に特徴的な数字なので御紹介申し上げます。平成28年度にこのプログラムを終えて就職先を決めた方のピンクのところ,民間企業のパーセンテージは46.3%ということで,相当高い数字が出てございます。
 20ページ以降は,プログラムのいろいろなタイプによって就職先のセクターが違うということが分かるデータを載せてございますけれども,いずれのプログラムにおいても,プログラム開始当初よりも大分,民間企業にも就職する方が増えているというデータが出てございます。
 また25ページに,実際に修了者が就職した業界,あと社名も掲げてございます。このプログラムを機に,初めて博士人材を採用してくださったという企業もございまして,またこういった企業なり国際機関等々との組織と組織の関係というのも非常に強固に構築して,より深い教育,より広い教育研究が図られるということを,我々も支援していきたいと思ってございます。
 博士課程教育リーディングプログラムでの成果の御説明は以上とさせていただきます。
 資料6-1に戻って,ごく一部,主なところを簡単に御説明申し上げます。まず1点目の体系的・組織的な大学院教育の推進と学生の質保証につきましては,この博士課程教育リーディングプログラムというのが非常に先駆的な形で,研究科・専攻をまたいだコースワークということで支援してございますけれども,博士課程教育リーディングプログラムのみならず,各大学での工夫も図られて,体系的な教育の取組,コースワークの実施等も大分増えてきている状況でございます。
 2ポツの研究倫理教育というのは非常に大事なところで,1つ御紹介申し上げますと,どこで研究に携わるにせよ,研究の倫理といったものは非常に重要でございます。こういったところを大学を超えてしっかり学ぶプログラムというものも作成して,大分広範な機関の学生が受講しているという状態もできてまいりました。
 次に,2ページをおめくりいただきまして,産学官民の連携と社会人の学び直しの促進ということで,今申し上げた博士課程教育リーディングプログラムに加えて,理工系人材に関する弊省,経済産業省,産業界等の方々との円卓会議の議論に基づく行動計画の策定と実施,また起業を支援するプログラム,そして,社会人の方が学びやすいように,学位まで重たいものではなく,必要な分野を体系的にコンパクトなユニットで学んでいただけるようなプログラム制度も作ってございます。
 キャリアパスにつきましては博士課程教育リーディングプログラムのほかに,卓越研究員ということで,各企業や大学がポストを決めまして,安定的に自立して研究できる環境を提示するとともに,政府としてはそこに研究費を付けるといった施策も通じて,キャリアパスの確立ということもしてございます。
 また,学生の処遇の改善ということで,課題にございました経済的支援の必要性ということで,幾つかの事業を通じて実施をしてございます。
 4ページですけれども,優秀な留学生の受入れのためにコーディネーターを諸外国に配置したり,また日本の大学自身の国際化を推進する,英語でも学位が取れる,そして日本語も学んでいただくといった取組の実施をしてございます。
 ほか,専門職大学院は先ほど御紹介があったとおりでございます。
 また,博士課程教育リーディングプログラムの取組を発展させる形で,第8期で御提言を頂いておりますのが卓越大学院プログラムということでございまして,こちらは平成30年度の本格実施に向けて準備をしてございます。
 また,指定国立大学というのが,この案のまとめとは別に新しくできておりますけれども,世界の有力大学と伍する大学を適切に支援・評価するという新たな仕組みも平成28年5月に改正して,現在この制度が立ち上がったというところでございます。
 以上,進捗の主な状況でございますけれども,こういった中,平成29年3月6日に大臣から諮問させていただいた高等教育の将来像というものがございまして,こちらは資料7に入れてございます。
 中央教育審議会におきましては平成17年に,我が国の高等教育の将来像という答申を頂きまして,そこで大体2015年から20年頃までに想定される高等教育の将来像というものをお示しいただいていた次第です。現在この答申に基づきまして,大学の設置認可や認証評価といった事前・事後の質保証,また大学の情報公開など,様々な施策を進めていった次第でございますけれども,第4次産業革命等の産業構造の変化等,また少子高齢社会が本格的に到来するといった状況も踏まえて,中長期的視点から2040年ぐらいの社会を見据えて,これからの高等教育の将来像について総合的に検討いただきたいといったのが諮問の概要でございます。
 主な検討事項,2ポツの下半分のところにございます。2040年とはいいましても,各高等教育機関の機能強化に向けて早急に取り組むべきものがあるでしょうということで,幾つか示されてございます。
 また,これは博士課程教育リーディングプログラムの実施の中でも出てきていることでございますけれども,学部や研究科,そして専攻といった教育研究組織の基本的な形をまたいだ様々な分野にわたって学びやすくする学位プログラムというものの位置付けについて,検討するということが求められてございます。
 3番目,高等教育の全体の規模も視野に入れつつ,高等教育機関間や地方自治体・産業界との連携の強化,また設置者国公私を超えた役割分担,連携・統合等の可能性といったことも含めての検討が入ってございます。
 そして一番下,それを支えるものとして支援方策,教育研究を支える経費の在り方,学生への経済支援といった教育費負担の在り方,こういったものが総合的に示されているというわけでございます。
 このことも踏まえまして,一例ではございますが,資料8に,この第9期で,大学院という観点で更に御議論を深めていただけるとありがたいなと考えられる事項を例示させていただきました。資料8をごらんくださいませ。
 第4次産業革命等のこういった変化,またグローバル化が更に進展する社会の中で,以下のようなことが日本の大学院を振興していく上で更に必要ではないかと考える例ということでございます。
 1番目が,多様なニーズを踏まえた大学院の振興でございます。新産業の創出,また国内外の課題解決をリードする組織として,国内外の産業界,また教育というだけではなく,すぐれた研究の拠点,また大学ではない研究機関等,他機関とより一層連携した教育の実施といったことが考えられるのではないかということでございます。産業界との共同研究,寄附講座といった形での連携,研究拠点という意味では,例えば世界のトップレベル拠点を支援するプログラム等もございます。そして,外国の大学との連携といったものを深めるといった観点もあるかと思います。
 2ポツ目が,働き方改革や社会人の学び直しのニーズに応える大学院ということであります。諸外国と比べると大分,社会人の大学院における割合というのは低いわけでございますけれども,日本社会の働き方といったありようも変わってまいりますし,また提供する大学院の方も,そういった内容,提供の仕方がこのままでいいのかという議論はあるかと思ってございます。
 3ポツ目,地方創生の観点から地域のニーズに応える大学院教育。この観点もあるかと思います。
 2番目が,専門職大学院をはじめとする高度専門職業人養成の充実ということでございます。ワーキングの設置について先ほどお認めいただいたところでありますが,特に専門職大学院は社会科学系が相当な割合を占めるということで,併せて社会科学系をはじめとする大学院の,特に修士課程の在り方というものも御議論いただくべきものかとございます。
 また,専門職大学院高度専門職業人養成のための,より柔軟で,よい教育体制を作るために,今の制度であります必置教員の考え方を柔軟化するということも,1つ論点としてあるかと思っております。
 3番目,変化への対応や価値の創造等を実現するための学修の質の向上に向けた制度の在り方。こちらは諮問にもございましたけれども,学術のタコつぼ化というところが問題の原点としてございましたが,博士課程教育の在り方,これは博士課程教育だけではなくて,各課程に共通的な論点となってございますけれども,研究科や専攻を超えた学位プログラムというものを制度上どう考えていくかということ。特に博士課程では,博士課程教育リーディングプログラムで大分,具体の取組で成果も出てございますし,実際に課題も出ております。そういったものも少し詰めながら,この大学院部会でも御議論いただければ有り難いと考えている次第でございます。
 最後に,高等教育の改革を支える支援方策ということで,財政面の論点を挙げております。
 すいません,長くなりましたが,以上でございます。


【有信部会長】  ということで,いろいろ問題が山積みだということは御理解いただけたと思います。これに対して,どう取り組んでいくかというのが問題なんですけれども,本日は初日でもありますので,文部科学省から具体的な議論のたたき台ということで示されていますけれども,これにこだわらず,それぞれの出席されている委員のバックグラウンドに基づいて,どんな観点からでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。よろしくお願いします。どなたからでも結構ですが。


【川嶋委員】  じゃ,よろしいですか。


【有信部会長】  どうぞ。


【川嶋委員】  二,三,お話ししたいと思うんですけれども,1つは前期の当部会においても,先ほど御説明があったようにドクターコースへの進学者が非常に減っているという課題が出ており,ドクターコース進学の障害になっているのが経済的な問題と,出てからのキャリアパスの不透明さということでした。
 それに関連して,二,三,お話ししたいんですけれども,1つは先ほどの御説明で,リーディング大学院の場合,大学以外への就職率・者が多かったというお話でしたが,これについては,何がリーディング大学院と一般の博士課程の進路の違いを生みだしていたのか。リーディング大学院のどのような取組や特色が効果的で,結果としてリーディング大学院の修了者はいわゆる産業界に就職しているのかということについて,分析というのはされているのかどうかということ。実際には日本学術振興会が事務局を担当しているので,そちらで中間評価のヒアリング等もされているわけですけれども,そういう分析をされているのかどうかということを確認したい。そして,もし分析がされているのならば,何が効果的であったのか,お教え願いたいというのが1点です。
 それから,在学中の経済的な支援については,昨今,高等教育の無償化という中で様々な方式が議論されていて,1つはHECSという,いわば「出世払い方式」という修了後の収入に応じて借りたものをお返しするという案も出ているようですけれども,学士課程は非常に規模が大きいわけですから,大学院,特にドクターコースの修了生については,奨学金返済等も含めて,そのような経済的な支援をまずは始めるというふうにしてはどうかということ。
 最後に,ドクターコースに進学する学生が少ないということに関して,大阪大学で今年分かったことをお話ししたいと思います。今年というか,この1月,2月に大阪大学で初めてAO・推薦入試による世界適塾入試という入試を始めました。残念ながら定員には大きく満たなかったんですけれども,118名合格し,全員入学しました。
 入学時調査や,あるいは学生との懇談会を実施しまして,これまでの一般入試で入ってきた学生と大きく違うのは,入学時点で将来の進学の構想を聞いたところ,一般入試で入ってきた新入生は,大学院のドクターまで行きたいという割合が20%ぐらい。それに対して,AO・推薦入試で入ってきた学生は40%,特に理工系の学部でその傾向が強かったということが分かりました。
 これは,大学に入れてからどういう教育をするのかや,現状が変わらず,将来展望が開けない場合は大学院のドクターコース進学を諦めてしまうのかもしれませんけれども,今回の分析からは,大学院教育の在り方だけを変えるのではなくて,学部入試,ひいては高等学校教育,初等教育までも含めて,将来の我が国を牽引していくような知的なプロフェッショナルを育てるという一貫した取組を,今後文部科学省としても実施していく必要があるのではないかと感じています。
 今回の結果が一過性のものかどうか,慎重に今後も引き続き見極めたいと思いますけれども,現時点ではそのような現状であったということをお話させていただきます。
 以上です。


【有信部会長】  さっき質問があったリーディングに関しては,何か分析結果があるんでしたっけ。


【井上大学改革推進室長】  今日資料としてお出ししていないで申し訳ございませんでした。中間評価等を経て,今見ておりますと,修士課程段階,博士課程の前期に入った段階から,かなりいろいろな選択肢があって,いろいろな方たち,狭い分野だけではなくて,外から来たいろいろな方と一緒に学ぶということが学生の視野を大分広げているといったようなのが,学生アンケートの結果などからも出てございます。
 もともとそういった学外のところ,学術外のところへの就職の関心もなくはなかったという学生がもちろんおりますけれども,初めはやはりアカデミアに進もうと思っていたような学生も,そういったプログラムの内容を経て,外からのいろいろな学外,学術外のところでの就職先というものも大変関心を深めて,そういった道を選びましたといったアンケートの結果が出てございますので,そういった教育プログラムの内容,またどういった方と教育研究活動を通じて接するかといったところが大きな原因と考えられます。


【有信部会長】  それから,さっき出た博士課程への進学者が少ないという件に関して言うと,事実的に見れば,高度成長期に比べれば倍ぐらいの数になっているわけですよね。それから,一番多いときに比べて減少分が1,500人ぐらいの減少なんです。
 ですから,単純に数だけで,博士課程への進学者が減っているから問題だという議論ではなくて,より高度な教育あるいは研究の訓練を受けて社会で活躍する人材が必要だという見込みの下に,大学院重点化が行われ,博士課程の定員が増やされたにもかかわらず,定員を増やしたことが,逆に言うとそこに入る学生の質を落としているのではないかという議論だとか,いろいろネガティブな議論が一方で出る。
 ただしその一方で,まだ世界の先進国に比べると,Ph.D.の学位を持っている人の数は少ないという問題があって,ここは慎重に議論をしていかないと,本当の意味で必要な教育訓練を受けた人たちを社会に送り出して,社会でその人たちがきちんと必要な場所にポジションを得て活躍をするという形にうまくつながるようにならない。
 そのための1つの道筋として,博士課程教育リーディングプログラムが設計されて,それでは出口側についても産業界,役所も含めて,出口側のサポートもしましょうということで,かなり系統的な指導をしてきています。
 こういう流れが1つはあるとは思うんです。これはこれで正しいかどうかということも含めて議論していただければと思います。
 どうぞ,川端委員。


【川端委員】  すいません,最初なので。
 今言われたど真ん中は,DCの入学者が減っている。でも入学者が減っていること以上に,志願者倍率が減っているんです。そこが問題なんですね。要するに,選抜が本当にされているか。それの裏返しは,もうちょっと言うと,ドクターコースであったりアカデミアであったり研究者であったり,そういうものに対する魅力が落ちている。その方向性をもう一回考えなきゃならない。
 それがここ最近というか,先ほど言われたように,ここ20年来こういうことが続いている。確かに重点化でDC定員が増えたと言いますけれども,ここ10年とかそれ以上,GCOEも含めて,リーディングも含めて,ドクターコースをがんがんもっと活躍させる,いろいろな意味での集中投下みたいなのをやられてきています。それが全然,お金だとかいろいろなものを投下したところはすごいんですけれども,それがそのプロジェクト以外の裾野に波及していない。それから,周りに資金を集中投下した研究分野の魅力が次の世代の学生たちに伝わっていない。そろそろ,事業費の在り方は,マスとしての大きさみたいなものをどうやったら広げられるかということが,今の大きな課題としてあるんじゃないかなという気がしています。
 そういう意味からも,一律でドクターをくくって何か表現するよりは,今,大学自体が社会の中で,個性化という意味合いで動いているという意味合いから見ても,ドクターコースも多様な個性を持った人材として展開していくというのがこれからの展開かなと思っています。
 もう1点は,博士離れの原因として,先ほどのキャリアパスとか奨学金の話というのは出てくるんですけれども,私たちは北海道大学の中で,その原因を調べました。その結果,どうも博士の入り口がおかしいんじゃないかと考えています。おかしいというか,力を入れていないんじゃないかな。何を言っているかというと,博士という科学技術を担う職業のリクルートというか,もう一歩先へ行くとマーケティングがやられていない。
 要するに,アカデミアというのも製造業と同じように1つの職業だと思えば,優秀な若い人たちをお互いがリクルート合戦していていいはず。アカデミアはそういう動きを全くせずに,今までは当たり前のように優秀な人が博士課程に来るはずだと思って,彼らの奨学金であったり,キャリアパスなど,入学後および学位を得た後のことばかり言っている。でも,入り口のところで全然それが表現できていない状況が今,そろそろ考えなきゃならないのかなと思っています。
 それをどうして言っているかというと,うちの大学の中でキャリアパスと奨学金に一番遠いような理学部で,ドクターの人数が増え続けている。ほかのところは,工学とかその辺が全部下がり続けている。それはどうしてかと調べても,実はよく分からないんです。
 意思決定のプロセスが,多分彼らは,我々もそうですけれども,半径3メーターのリアルな情報で進路等の意思を決定している。要するに,目の前にかっこいいドクターがいれば,それにつられてどんどん行っているという,そういうものが結局,一番ど真ん中にあって,その先になぜ行きませんかと話をすると,いや,お金がないからとか,その先が見えないからとかいう話になっていく。
 だからもう一度,入り口まで含めて全体を見直して,これからやられるいろいろな事業自体も,裾野に広げるような形まで視野に入れた事業展開ができたらなと思っています。


【有信部会長】  田中委員,どうぞ。


【田中委員】  私は今回初めて出席させていただいたんですけれども,博士課程について言うと,少しこれは,もしそういうデータがあればという話ですけれども,大学院自体の話というか,日本自体の研究力の今後のことを考えたときに,博士課程を出た,将来研究者になったり社会に出るにしても,日本社会全体としての能力向上のために博士課程が今,どのぐらい役に立っているのか。研究の分野で言えば,諸外国の研究者と一緒に共同研究をやったり,国際的な学術雑誌の中でインパクトのある論文を出したり,そういう人たちが次から次へと出てくる基礎というのは,研究面で言えば博士課程ですよね。
 それから,社会に出てくるということになれば,博士号を持って企業なり,あるいは行政なり,いろいろな社会の中で世界の最高の人材と渡り合えるような人材をどれだけ輩出できるのかというところが,この博士課程の任務ですね。そういう日本の研究や社会全体が危惧されている今の状態に対して,博士課程がどれだけ応えられているのかというところは,どういうデータを示してもらえばいいのか分からないけれども,調べなきゃいけないんじゃないかと思うんですね。
 やや卑近な例,卑近というわけじゃなくてプラクティカルな例で言うと,日本で博士号を取った人は,どれだけ国際的に通用力のある博士号を取った人間ができているのか。非常に単純に言ったら,英語で論文を書くのがどのぐらい楽々とできるのか。それから,英語で研究報告や討論をやったりするのがどれだけ楽々とできるのか。
 これは産業界に入るといったって,日本で博士号を取ったんだけれども,産業界へ入った場合に,仮に英語での討論でも論文でも,何でもかんでもぱぱぱっとできるのが博士号を取っているんだったらば,企業だって相当採りやすいんじゃないかと思うんですね。
 そうすると,例えばグローバル30とか何かの頃から,日本の各大学では英語プログラムというのをいっぱい作ったはずですが,この英語プログラムというのは外国人だけを養成しているのか。英語プログラムに入って修士課程・博士課程でやっている日本人学生というのはどのぐらいいるのか。英語で学位が取れるとなって,そこのところに入れる可能性があるのにもかかわらず,日本人学生はほとんど行っていないのかということになると,何か無駄なことを作ったんじゃないか。
 もちろん,留学生に博士号を出してあげるのはすばらしいんだけれども,もし仮に日本の大学院のいろいろなところに英語プログラムがいっぱいできていて,そこでやれば英語もできるようになるし博士号も取れるんだったら,そこに日本人がいっぱい行くというふうになった方がいいような感じがしますが,果たしてそういうことになっているのか。その辺も,もし今後調べることができるのであれば,少し調べていただけると,日本にも世界にも役立つ博士というのをどうやって作るかということにつながるんじゃないかなと思います。


【有信部会長】  全く確かにそのとおりだと思います。例えば博士課程の卒業者に関しては,政策研でしたっけ,たしか調査を始めてデータベースを作るということで,始めていますけれども,その辺はどこまで進んでいるんですかね。


【井上大学改革推進室長】  JGRADというか,科学技術・学術政策研究所でそういった博士課程のデータベースを試行的に作りつつ,それを本格展開しようとしてございます。卒業した後,どういったキャリアパスを経ているかというのを,その方についてちゃんと年度を追ってフォローできるようにということで作ってございます。
 各大学には,また各博士の方に御協力いただいて,そこに登録いただくということを進めながら,活躍なり,課程の教育も振り返るということができる形にはしてあります。


【有信部会長】  今の田中委員の質問に答えるためには,多分そういうことが逆にフィードバックが掛かって,博士課程の教育なり研究そのものが,どういう形で役に立っているかということのベースとして,あるいはそれの改善をするための基本的な情報として生かされて,それをベースに自分たちが役に立っているとか,役に立つためにこういうことをやっているとか,そういう指標を本当は知っていかなきゃいけないという話だろうと思うんですよね。
 じゃ,永里委員,どうぞ。


【永里委員】  今までしゃべった方々は全部,大学の方々でした。私は産業界の人間として,今日いろいろ問題点が,井上室長から話がありましたけれども,それについて産業界としても考えている部分はあるんですが,まず,博士課程が魅力的でなければ学生は行かないわけですから,どうすれば魅力的になるのかということを考えればいいんだろうと思うんです。
 それは,川端委員のおっしゃった魅力というのもありますけれども,要するに,1つは文科省からも指摘がありましたけれども,経済的な面で問題があるということであるならば,ヨーロッパやアメリカのように,博士課程の人たちを1人の研究員として認めて,その人たちが研究することに対しては給与を払うと。例えば産業界との,私は産業界の立場で言っていますが,産学官の連携の共同研究みたいなことをイメージしてください。そういうことをすれば,その点においては経済的な支援はできます。奨学金だけではないと思います。
 もう一つは,先ほどの話じゃないですが,田中先生の話じゃないですけれども,英語べらべらとか何とかというののほかに,Ph.D.という肩書があるかないかで,産業界の今グローバルに展開している重役若しくは社長たちは,問題を抱えていまして,ここはざっくばらんに言っていいと思うんですが,Ph.D.を持った社長というのはなかなか今,日本にはいないんですよ。なかなかというか,いるんですよ。たくさんいるんですけれども,大きな意味では余りいない。
 グローバルに活躍するというときに,その方々が異口同音に言うのが,ちょっと肩身が狭いよということなんです。そういうことを考えますと,博士課程を出て,当然のことながら企業の中で働いて偉くなっていくというのが,一番いい方法であるというふうに社会が認めるような方向に持っていかなきゃいけないと。いや,そういうふうに多分なっていくんです。
 というのは,博士課程を出た人たちというのは,生産性アップに向上するんです。それは間違いなく,します。私は産業界の人間として,今回具体的に名前を出すといけないと思うんですが,リーディング大学院を3つ以上見に行って,場合によってはディスカッションして,あるいは評価委員をしております。私が行った大学院の博士課程の人たちというのは,産業界として絶対欲しい人材です。事実,リーディング大学院の卒業生が産業界に行っているというデータが出ていますでしょう? それは,産業界の方が博士を採らなきゃいけないんだと今や思い出したのと,多分一致しているんです。
 リーディング大学院の教える内容というのは,すごく多岐にわたっていまして,文理融合であったり,学際であったり,いろいろありますので,こういう方向で博士課程を作っていけば魅力的になってきますし,就職に有利であるという風評まで立ってくると,どんどんみんな学生はそっちの方向へ行くんだろうと思います。
 いろいろたくさん言いたいことはありますけれども,この辺でやめておきます。


【有信部会長】  ありがとうございます。永里委員の言い方に水を差すわけではなくて,そのとおりだと思うんですけれども,もう一つ注意してほしいのは,最初に出されたデータで,現状というデータ集がありますよね。これを見ていただくと,博士課程だけでなく修士課程の学生も減っているんですよね。大学院そのものの魅力がなくなっている部分もある。だから,事実をきちんと見るという意味では,そこも含めないといけないと思うんですよね。
 そうだとすると,永里委員が今言われた部分は,ある層については全くそのとおりだと思うんですけれども,一般的に博士課程・修士課程という議論をやると危ないところもあって,そこを含めて……。


【永里委員】  おっしゃるとおりで,ある層について私は言っております。グローバル化とか,そういうところの層ということです。


【有信部会長】  それは全くそのとおりだと思います。
 ほかに御意見あれば,どうぞ遠慮せずに。
 じゃ,順番に。神成委員からどうぞ。


【神成委員】  私は今回初めて参加いたしますが,私は慶應のオールラウンド型のリーディング大学院のプログラムコーディネーターをやっておりまして,今年が最後であります。
 先ほどリーディングを出た学生さんが産業界に増えているということだったんですけれども,これは,もともとこのプログラムがそういうバイアスが掛かったプログラムであります。一般の大学院に来るような研究者指向の学生さんはDC1,DC2とかを取って,論文をたくさん書いて,早期修了とかPDで世界に出ていくと。
 そうじゃない学生さんに対して,文理融合教育でありますとか,産業界との接点を作って教育をするということを,多額な予算を付けてやってきたわけですから,当然社会に出る学生の数が増えなくては話にならないということです。問題は,この多額の資金が終わった後も同じような傾向で博士課程修了者が産業界に残るかというと,当然のことながら,リーディングプログラムにおいて通常の博士課程教育に対してプラスアルファでやっている産業界との接点を通した教育とか,留学であるとか,インターンシップであるとか,お金を掛けているところが切り落とされたときには,元に戻ってしまうような傾向が出てくるのではないかという危惧は,運営している本人自身も持っていることは確かであります。
 それから,産業界に出るということにつきましても,今までも産業界,特に理系でありますと専門性との接点を生かして,博士課程の学生を採用していたわけであります。今回のリーディングプログラムも多くの部分は理系の学生さんでありますから,そういった学生さんが資金の援助を受けて博士課程まで行ったときには,自分の専門性との整合性を持って産業界が受入れてくれますので,増えて当然だったのではないかなと思います。
 一方で,オールラウンド型はほとんどみんなそうでありますが,文理融合に重点を置くということで,新しい形の博士課程の人材を育成するということをした場合,産業界が諸手を挙げた形で受入れているかというと,全く違います。会社の上層部の方は,そういう理系で,かつ文系の総合力を持った俯瞰力のあるという文科省の掲げたお題目どおりの学生は,非常にいいと言っていただきますが,一方で,実際の採用の前線のところの人たちにとってみれば,前例がないとか,どういった形で採用していいか分からないということで困惑されます。リーディングのプログラムもそういった今までにない博士課程の学生を育てた場合の受入れ,それから受入先を探すことにおいては,非常に苦労しているというのが現状であります。
 永里さんがおっしゃったような,企業側の前例を超えてそういった学生を受入れてくれるということと,これは社会人学生においてもそうなんだと思うんですが,人材の流動ということが産業界の中でもっと画期的に起こらなくては,そういう新しい人材を,あるいは社会人学生を増やしたとしても,なかなか産業界の中に浸透していくことはできないのではないかなと思います。
 もう2点だけ簡単に言わせてください。理系の方は慶應大学の場合には,実は博士課程の授業料と奨学金でちょうど相殺してゼロになるような仕組みにしたんですけれども,一向に博士課程の進学は増えておりません。私が思うに,恐らく世界レベルでも,修士課程で国際会議に行ったり,投稿論文を書くという数字を集めたら,日本はほぼトップだと思うんですよね。逆に学生から見ると,修士課程の間に研究のある程度のところができてしまった学生にとっては,博士課程に行ってからあと3年,同じことをやるというのは,全く魅力がないわけであります。
 そこに何か新しい教育のメニューでありますとか,研究の連携というような新しいものが入ってこないと,それだったら産業界に行って違う生活,新しい門を開いた方が魅力的だと思うのは当然であります。そういう修士課程からのオン・ザ・リサーチ型の教育というものが,博士課程の進学をある意味,制限しているというところもあるわけなので,米国並みに,修士課程はスクーリングでもっと厳しくやって,基礎力を十分付けて,博士課程に行ったら君らはまともに研究できるかねという形にすると,大分変わるのではないかなと思います。
 もう一つは,私はオールラウンド型をやりましたので,文系の大学院というのを実際に見てみると,ほとんど大学の先生になるような方しか修士課程に行かない,博士課程に行かないというのが現状でありまして,大学の中の教育メニューにも,社会に入るためのキャリア育成のようなメニューは一切ない。その結果として,産業界も,文系の博士というのは全く門戸を開いていないという問題点がありますので,理系はまだしも,文系の修士課程・博士課程の問題点というのは非常に奥が深いのではないかという実感を持っております。
 以上です。


【有信部会長】  まさしく今の日本の大学院のティピカルな問題点を指摘されたと思っていますけれども,そういうことも含めて議論をしていく必要があると思っています。
 さっき手が挙がったのは藤原委員でしたっけ。


【藤原委員】  広島大学の藤原と申します。私もいろいろな委員がおっしゃっていることとほぼ同じような問題意識があり,リーディングプログラムを担当していますので,同じなんだなというふうに聞いておりました。生産性を高めるための仕組みについて,ちょっと話をさせていただきたいと思います。
 私がいる大学で時々あるミスアンダースタンディングなんですが,生産性を高めるためには生産量を上げるか,投入量を下げるか,スピードを上げるかという3つの要因で決まるなかで,効率性を挙げるにはあたかもサイテーション・ジャーナルの論文数を倍にしよう,分子を高めましょうという話が最初に出てきます。
 次に出てくるのは,人件費予算が減り,分子が小さくなる中で,研究成果を現状以上に維持し,更に生産性を高めようという話になります。
 そして最後に,できるだけスピードアップ,効率化できるような環境を整えて,1人がより短い時間でたくさんのことができるようにということで,話が出てきます。
 この3つとも正だと思うんですけれども,今日出た話で言いますと,例えば今後出てくるであろう卓越大学院でありますとか,あるいは専門職大学院の充実では,部局の壁を取っ払った形で,どうやって生産性を高めるかを考える必要があると思います。日本の特徴として,自らの部局の中で全てを取り込もうという意識が強く,自分の修士課程の子を何とか育てて博士課程後期に行かせようとか,学部の子を5年間面倒見ようというような傾向が強過ぎるところがあるんじゃないかと思います。
 今日出てきたキーワードで解決策を考えると,学位プログラム制というのは1つの解に近いんじゃないかと感じています。学位が付かなくてもいい,ノンディグリープログラムでもいいと思うんですけれども,自らの専門に加えてほかのサブプログラムなり,あるいは追加的なサーティフィケートを伴うノンディグリープログラムのようなものが,価値ある形で提供されるような仕組み,かつ,部局の専門的なことだけをやらせるのではなくて,学生のキャリアに応じて多様な方向性を認めるような仕組みを作っていくことが必要があると思います。これは教員側にかなりの責任があるように感じます。
 広島大学は,教員の所属を学術院というユニット制に変えていまして,研究科の再編を検討しています。その延長線上には,フレキシブルなプログラム制を実現することができるものと考えています。例えば教員が所属する必置教員が別のプログラムの主査になるような柔軟な形というのは,最低限必要なんじゃないかなと感じております。
 以上です。


【有信部会長】  ありがとうございます。文部科学大臣の諮問に答える中でも,学位プログラムの推進という中で,現状それが推進されない1つの理由として,設置認可の在り方だとか,いわば箱ベースでもともとの設計をやっていて,今言われたようにフレキシブルに,新しい分野あるいは分野間連携のような形で学位プログラムを形成するということができるようにするために,抜本的に何を変えなければいけないかということを検討することにはなっています。大学院の立場では,今おっしゃったように,もう少し制度設計を抜本的に変える前に,ある程度打てる手があるかもしれないということでは議論していく意味があると思います。
 ほかに。じゃ,どうぞ。


【池尾委員】  いいですか。最初に博士の話です。私は文系の人間ですが,文科系の博士の場合はちょっと先ほどの話には違和感があります。現状はかなり問題があるのではないかと思います。先ほど御指摘があったように,大学の教師になれないとなかなか先が見えてこない。ですので,多くの大学の博士課程が外国人ばかりといった状況になっておりますので,そのあたりもちょっとだけ考えていただければと思います。
 次に,私が発言させていただきたかったのは,専門職大学院の必置教員の柔軟化の話です。何が言いたいのかというと,実務家教員が専門職大学院に来て5年10年たつと,いろいろと問題が起こる。授業の内容が5年前,10年前のものになってしまうことがあるからです。
実は専門職大学院で教えていただきたいのは,正に最先端の実務家の方です。ところが,最先端の実務家の方はお忙しいから,なかなか移るということができない。したがって,例えば3年ローテーションで動くとか,あるいは実務家の非常勤は設置におけるカウントで優遇していただくとか,とりわけ専門職大学院では実務家教員のフレキシブルな採用みたいなことを,是非御検討いただきたい。
 それからもう1点は,アカデミシャンは博士課程へ入って学位を取って,専任講師になって准教授になってと,いろいろなステップがあるわけですけれども,実務家教員の方が専門職大学院で教授で採用されますと,そのあとのチェックがありません。ですから,その3年後に何かチェックするとか,5年後かもしれませんけれども,そんな仕組みも併せて御検討いただければということでございます。
 以上でございます。


【有信部会長】  ありがとうございました。専門職大学院の前期の検討の中でも,今おっしゃったようなことは議論には一応上っていて,まさしく今期のワーキンググループの中ではそれを議論させていただくことになると思っています。その結果,部会に上がってくることになると思いますので,是非議論していただければ。もちろん,この中のメンバーの方にワーキンググループに加わっていただく方も出てくると思いますが,よろしくお願いします。
 ほかに。どうぞ。


【迫田委員】  出口の議論で,産業界の立場で申し上げれば,今までも技術系,先ほど神成先生からありましたように大量に博士の方は採っていますし,特にリーディング大学院の方は今年,卒業生を1人採りましたけれども,非常に評判がよくて,今,オールラウンドのリーディング大学院の方について言うと,産業界はみんな欲しがっているんじゃないかなという印象を持っております。
 一方で,先ほど田中委員から御指摘があったように,グローバル化にどう対応するのかというところについては,相当遅れているんじゃないかなという気がしておりまして,例えば我々の方でもMBAとか送りますけれども,基本的に国内のところは各自勝手にやってくださいと。会社としては,費用も負担してというところは,全部海外のトップ20を狙ってトレーニングしていくという形ですし,法律について言っても,海外のロースクールに行って海外の弁護士事務所でトレーニングした方が,企業にとってはいいだろうという見方がかなり根強くございます。
 これだけグローバル化が進んでいて,売上げのかなりの部分が海外になっていく中で,大学のランキングも含めて上げていくということをやっていかないと,企業にとっては余り魅力がない出し先になってしまうんじゃないかなと思いますので,是非グローバル化というか,外の視点というのも大事にしていく必要があるんじゃないかなと思います。


【有信部会長】  今の話は,一部は神成委員のさっきの御指摘とは多少矛盾するような感じにはなっているんですけれども,これは民間企業も様々ありますし,人事部というのは極めて一般的に言うと保守的なところが普通なので,話をする相手によっては極端に印象が違うということがありますので,この辺も含めて,多分議論をする話になると思います。
 ほかにどなたか。じゃ,3人,岡島委員,それから佐久間委員,それと大島委員。じゃ,順番にどうぞ。


【岡島委員】  多分,今回初めましてなので,簡単に,私は経歴がちょっと特殊なので,そのバックグラウンドをお話させていただきますと,私は天文学でドクターを取った後に,外資系金融機関に勤めております。その後に起業して,今,宇宙系のベンチャー企業を立ち上げております。
 経歴が特殊なんですけれども,そういった経験から言わせていただくと,1回ドクターを取って,私は天文学だったので,特に産業界で天文学のドクターを採っているところというのは限られていて,特に私は研究が向いていなくて就職をしようと思ったので,そういったときに,ドクターを取ってから就職するというのが,日本企業で本当にかいがなかったんですよね。なので,外資系の企業というのはその点,非常にウエルカムで,しかもドクターという経験をプラスに評価してくれた。それが外資系企業しかなかったわけです。そこのところを日本企業の大企業の方々は頑張っていただきたいなと思うのが,まず1点です。
 あとは,今,宇宙系のテックベンチャーというのをやっていて,Ph.D.という肩書がとても生きております。宇宙系の企業って,必然的にお話をするのが海外だったりするので,そういったときに,日本だとドクターとか言っても,特に何も言われないんですけれども,Ph.D.ということでやると,じゃあ技術の話がちゃんとできますねという,1つの足掛かりみたいなものになるので,非常に取ってよかったなと,今となっては思っております。
 なので,私が言いたいのは,今までお話に上がったように,多様な経歴をどんどん増やしていくこと。そういったところをアピールというか,みんながいろいろ知ってくれるようなのがあるといいなと思うのと,Ph.D.というのが本当に研究をしていく上で,テクノロジー系の仕事をしていく上で,とても重要であるというのをみんなに周知していただきたいなと思っております。


【有信部会長】  それじゃ,佐久間委員,どうぞ。


【佐久間委員】  私は名古屋大学で今年4月に発足したばかりの人文学研究科というところで研究科長をやっておりますので,既に何人かの委員の方からも出ていましたけれども,人文系という立場から少しお話させていただきたいと思います。
 ちょうど2年ぐらい前ですかね,ある通知をきっかけに,人文系がどうのこうのという議論がありましたけれども,そのとき,人文系は要る要らないという議論があって,それに対しては,人文系は要るんだということで応援していただいたわけですが,ただ,多分それが問題ではないと思うんですよね。学問として要るか要らないかと言われれば,それは要るに決まっているので,むしろ問題は,人文系の在り方がこれでいいのかということで,それについては結局,何も解決していないところがあります。
 要は,人文系というのは非常に見えにくいというのが,いろいろな意味であると思うんですよね。実際,大学の中で改革,再編に取り組んだときも,当然本部といろいろやりとりしながらやるわけですけれども,名古屋大学の場合,本部の役員は理系中心なので,その過程でいろいろ,人文系ってこんなところなのとびっくりされたことが様々あって,それは学内でも見えていないんですけれども,あるいは文科省がやっているいろいろな取組もありますけれども,その中で,じゃ,人文系がどうひっかかってくるのかって,ひっかかる部分もあるんだとは思うんですけれども,なかなか見えてこない部分があるんですよね。
 例えばリーディングプログラムにしても,名古屋大学でもオールラウンド型というのをやっておりまして,その中で人文系も関わっているんですけれども,何となくおまけという感じが非常に強くて,結局,人文系が何をすべきかというのは非常に見えていないということが,大変重い課題としてあると思いますので,そこら辺も議論の中で考えることができたらと思っているところでございます。よろしくお願いします。


【有信部会長】  ちょっと一言だけ,人文系というのは例えばビジネスということを考えても,いろいろな国でビジネス展開をしようと思うと,その国の背景だとか歴史だとか,あるいは社会的な状況だとか,社会科学も入るかもしれませんけれども,文化的なものに対する本質的な理解がないと,ビジネスそのものがうまく展開しないんですよね。
 日本企業は今まで日本流の,特に工場をどんどん進出した経験がメーンなものだから,日本流のやり方を輸出すればいいと思っているんだけれども,例えば銀行なんかが外に出ていこうとすると,必ずそういう話になってくるわけで,そこのところは多分,日本の人文系の方々もそういう想像力を持っていただかないと,まずいんじゃないかという気はしています。
 じゃ,大島委員,宮浦委員,車谷委員,その順番で。


【大島委員】  ありがとうございます。これですね。すみません,失礼いたしました。
 2点あります。1点目はPh.D.の博士号のことです。文系,理系とありますが,理工系の博士課程に関して,岡島委員にも端的に言っていただきましたが,頂いた様々な資料を見ていても,理工系は修士課程の進学率は非常に高いけれども,博士課程に行かない。それはどうしてかというと,修士課程で就職する学生の多くは異口同音に,就職に有利だから修士課程に来たと言います。
 岡島委員もおっしゃっていたように,Ph.D.を持つことがグローバル社会でも役に立つ,ある意味,知のプロフェッショナルとしての称号をきちんとグローバルスタンダードに与えられたという認識が,なかなか学生の中に出てこない。そのために,授業料を払って大学院,修士課程までは行くが博士課程に行かないということにつながっている。例えば,RA等の処遇があったとしても,博士課程に行くことに魅力が感じられないということは数字でも出ています。学生からいろいろ聞いていますが,状況は変わらないと思います。
 ですので,先ほどから様々な意見が出ていますが,例えばグローバル的な企業でPh.D.ホルダーが大体何人いらっしゃるのかとか,外資系とかではどういう形でPh.D.を,いわゆる就職として皆さんが雇用しているのか等,具体的なデータがあると,Ph.D.を持っていることでグローバルに活躍できるということが,より具体的に描かれるのではないかと思いました。
 2点目として,リーディング大学院が比較的経済的な問題を含めて,キャリアパスとしての出口でうまくいっているという例が挙げられました。今後はリーディング大学院ではないほかの大学にもどうやって展開していくかということが,非常に大事ではないかなと思います。多分,リーディング大学院で成功したというのは,企業など異なるバックグラウンドの方が,大学院の大学という場でいろいろ学ぶことができる,そのような場が提供できたということが非常に大きいと思います。
 これは多分,社会人の学び直しについても言え,社会人の方が大学院に戻るということにちゅうちょされています。大学院に戻った際に,そういう場が提供されていない,新たにまた大学院に戻ってくるメリットがなかなか感じられないというところもあると思います。そういう教育プログラムをどうしていくかということです。また,社会人の学び直しということに関しては大体3つのパターンがあります。1つは会社がフルサポートしてくれるというところ,2番目は,会社はサポートしないから自分で時間を見付けて大学院に戻る,3番目は,退職して,大学院に,博士課程に学び直しに来る。
 最も理想的なのは1番目です。会社にフルサポートしていただけると良いのですが,会社によって異なります。そこで,2番目,3番目の方々が大学院で学び直しをするというモチベーションにつなげていくためにどうするかという,制度も含めて今後議論できると,社会人の学び直しに関しても改善されるのではないかと思います。
 以上です。


【有信部会長】  じゃ,宮浦委員,どうぞ。


【宮浦委員】  宮浦です。理工系の話題になるんですけれども,まずリーディング大学院の非常にユニークな取組を,今,総合的な数字を拝見して感じたことなんですけれども,リーディング大学院の修了者の約40%が企業,約40%が大学,国研等も含めると約50%強が教育研究機関というデータを見ますと,私の印象では,企業への輩出が少ないという印象です。
 全体を見ますと,医師等を除くと,やはり40%程度が大学に残って,国研を入れると5割を超える人数は大学等に残っているわけですので,こういうプログラムを,分野によってかなりばらつきがあるようですけれども,もう一度やるとしたら,7割8割,民間企業で活躍する方を育てるという明確なミッションでやった方が,差別化ができるのではないかと思ったところです。医師等を除きますと確かに二十数%なんですが,逆に見ますと,約40,50%は大学等に残っているということを,むしろ見るべきではないかと感じたところです。8割企業に入るスペシフィックなプログラムがあっていいんじゃないかと思います。
 それはさておきなんですけれども,マッチングがうまくいっていないんじゃないかと。これは日本全国の話題になりますけれども,例えば理工系の修士課程がこれだけみんな進学して,これだけ順調に就職しているのは,やはり産業界と学生とのマッチングがしっかりいっているので,修士課程の学生は就職したい,企業の方は是非採用したいということで,全国規模で動いて,うまくマッチングがいっているんですけれども,博士課程後期に行きますと,分野がスペシフィックになるということもありますので,こっちは人材系との話題の重複になるかもしれないんですけれども,博士用の採用サイトさえない。博士の特色を生かした民間で採っていただくようなマッチング系がないわけですね。
 ですので,例えば全国のリーディング大学院の修了者一人一人の顔が見えるような特色が見えた上で,企業の方が全ての学生にアクセスできるかというと,なかなか恐らくそれは難しいんじゃないかと思いますし,学生から見ますと,修士課程に交じって大量のエントリーシートの海の中に入るのは,恐らくとても不本意ではないかと思いますので,博士課程後期の特色を生かした産業界とのマッチングというものを是非作りながら,こういう特色あるプログラムの修了者は80%以上企業に入られるというような方向で考えていくべきではないかと,少なくとも理工系の場合は考えます。
 以上です。


【有信部会長】  ちょっと補足しますと,マッチングの仕組みは多分,リーディングの中ではある程度できている,組み込まれるような指導になっているはずです。
 それからもう一つは,リーディングは特に,いろいろな見解があるんですけれども,産業界に行く人を増やすということだけを目的にしているわけではなくて,世界で活躍できるリーダーを育成するというのが一番重要なポイントなので,特にリーディングでプログラムごとに,一概には言えませんけれども,かなりのプログラムには優秀な学生がそこに集中しているんですね。ですから,結果的に言うと,アカデミアも欲しい,産業界も欲しいということで,そこに着地をしている。


【宮浦委員】  おっしゃるとおりでございます。
 もう一つの問題点は,アカデミアに入ってから,あるいは産業界に入ってから,相互に動くようなセクター間の流動性がいまだに非常に少ないと。一回企業に入れば,大学の教員で戻ってくることは極めてまれで,逆も極めてまれな状態ですので,そこも改善をしないと,なかなか一旦入ったところから動きがとれないということがあると思います。


【有信部会長】  それも課題ですね。重要な課題だと思います。
 それでは,車谷委員と,あと室伏委員が手が挙がっていますね。じゃ,その順番でよろしく。


【車谷委員】  車谷でございます。今日初めて参加です。若干バックグラウンドを言いますと,もともとはメガバンクの副頭取を4月までやっておりまして,5月からはイギリスの割と大きな,グローバルなプライベート・エクイティ・ファンドの代表を日本でやっております。
 ずっとインベストメント・バンキングとかそういうのをやっておりましたので,割とグローバルに見たときには,特に欧米系の主要な金融機関とかプライベート・エクイティとか,グローバル企業リーダー層というのは,修士以上の方が沢山おられます。修士を採るのは当然,専門職大学院も当然というところで,人材ニーズは非常に高いということです。
 当然,我々にとっても同じです。我々にとっては人材が全てなので,そういう人材がいれば,是非採りたいということです。日本の場合には一括採用ということで,なかなか人材の流動性がないので,学生も,学卒で一括で入って会社で育ててもらった方が自分のスキルも付くよねということで,そっちを選ばれる方が多い。一方で,修士以上行かれて,非常に専門性の高い方もいて,我々の採用時にお会いすると,非常に優秀なんですね。
 1つ気になるのは,我々外資でもそうですが,経営層,立派な経営者になってもらいたいと思って採りたいわけですけれども,マネジメント教育といいますか,素養の部分がちょっと弱い部分があります。あとコミュニケーションですが,社内の会議も英語です。普通の会議も英語で,部下は外人も多い現状です。
 これは普通のメガバンク,私のいた部署でもそうだったんですけれども,コミュニケーションツールとして英語は最低できないと,難しくなっています。是非すぐ経営にサポートするような素養をもって入っていただきたい。欧米の方を採ると,そういう方が結構入ってこられる。地頭のよさとかは十分に負けないんですけれども,即戦力で比べますと,スタートアップ段階でちょっと厳しくなってしまうというところはございます。
 私自身は,高度人材に対する需要は日本の企業に大変あると思います。今や,我々みたいな文科系的な仕事をしている世界にも,高度なITリテラシーが必要ですし,数学も必要です。フィンテック,AI,自動運転,そういったものについても比較的深い知識が必要になってきていますので,私は基本的に修士大学院のところの需要というのは,今後多くなりこそすれ,少なくなることはないと思います。要は産業界とか,リーダーになるべき人をどういうふうに作っていくかというハウツーのところを,もう少し産業界と大学でしっかり議論していくべきです。そういう人材は,ポテンシャルが大きい人が多いので,もったいないかなという感じがちょっとしています。


【有信部会長】  ありがとうございました。
 じゃ,室伏委員。


【室伏副部会長】  ありがとうございます。皆様の御議論を伺っていて,いろいろ考えることはあるのですが,時間が余りありませんので,少しだけ申し上げたいと思います。
 先ほどからリーディング大学院のことが話題になっておりますが,リーディング大学院というのは高い理想を持って開始され,若い人たちが多様な場で多様な人に出会うことで,新たなイノベーションを生み出せるような人材に育ってほしいと,国としてもかなり資金をつぎ込んでいる事業です。
 私の大学も1件リーディング大学院に採択されておりますけれども,大学の教員だけでそういったリーディング大学院を成功に導くのは無理だという気がいたします。大学の教員は,自分の跡継ぎを育てたいという思いをもって,若い人を育てている人も多いので,リーディング大学院のようなものを成功させるためには,産業界,行政,また国際機関などの人たちが,一緒になって人を育てようという意識の下でやっていかないと無理だろうと思っております。
 幸い現状では,リーディング大学院に相当の資金の援助がありますので,国の内外のインターンシップなどに学生たちを送り出したり,様々な経験を積ませることができる余裕があるわけですね。ただ,今後国からの資金が来なくなったときのことを考えると,人を育てるのは大学だけではない,教育機関だけではないので,企業など,いろいろな組織が,一体になって人を育てるという体制をとっていくことが必要なのではないかと思っています。
 海外では,大きな企業のトップの人たちがPh.D.を持っています。グローバル企業の日本人のトップたちも,Ph.D.は必要だねということを最近言い出しているので,是非,国の中のいろいろな組織がみんなで手を携えて,人を育てようという思いになっていただけると良いだろうと思いますし,特に社会人の学び直しの場合には,大学にただ送り出すのではなくて,みんなで育てていこうという意識を持つことで,優れた人材を育てられるのではないかと思っています。
 以上です。


【有信部会長】  ありがとうございました。
 申し訳ありません,司会の不手際で,全員に発言を頂けなくなってしまいまして,時間が来てしまいましたので,申し訳ありませんが,今日発言されなかった方,多分御意見はおありだと思いますので,あるいは言い足りなかったことがあれば,事務局宛てにメールを送っていただければと思います。
 事務局におかれては,今日,かなり本質的な意見がいろいろと出てきていたと思いますので,これを整理して,次回以降の議論に結び付けていければと思いますので,よろしくお願いします。
 それじゃ,事務局から連絡事項をお願いします。


【井上大学改革推進室長】  本日は大変ありがとうございました。
 次回の開催につきましては,また日程をお伺いの上,調整させていただきたいと思います。
 本日の資料につきまして,郵送を希望される先生方は,郵送御希望とメモで書いていただければお送りさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


【有信部会長】  すいません,若干時間が超過をしてしまいましたが,御協力ありがとうございました。本日の会議はこれで閉会とさせていただきます。ありがとうございました。



── 了 ──


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