答申における設置認可に関する提言(抜粋)

「我が国の高等教育の将来像(答申)」平成17年1月28日中央教育審議会

第2章 新時代における高等教育の全体像

4 高等教育の質の保証

 高等教育の量的側面での需要がほぼ充足されてくる一方,特に大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化等もあり,大学等の新設や量的拡大も引き続き予想され,また,各高等教育機関が個性・特色を明確にしながら,大学が自律的選択に基づいて機能別に分化するなど全体として多様化が一層進むにつれて,学習者の保護や国際的通用性の保持のため,高等教育の質の保証が重要な課題となる。
 個々の高等教育機関は,教育・研究活動の改善と充実に向けて不断に努力することが大切である。また,高等教育の質の保証の仕組みを整えて効果的に運用することは,国としての基本的な責務である。
 高等教育の質の保証の仕組みとしては,事後評価のみでは十分ではなく,事前・事後の評価の適切な役割分担と協調を確保することが重要である。設置認可制度の位置付けを一層明確化して的確に運用するとともに,認証機関による第三者評価のシステムを充実させるべきである。
 個々の高等教育機関が質の維持・向上を図るためには,自己点検・評価がまずもって大切である。
 また,教育内容・方法や財務状況等に関する情報や設置審査,認証評価,自己点検・評価により明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど,社会に対する説明責任を果たすことが求められる。

(1)保証されるべき「高等教育の質」
  • 高等教育の量的側面での需要がほぼ充足されてくる一方,事前規制から事後チェックへという流れの中,特に大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化等もあり,大学等の高等教育機関の新設や量的拡大も引き続き予想され,また,一定の組織改編が届出で可能となったことを主な契機として,各高等教育機関が個性・特色を明確にしながら,大学が自律的選択に基づいて機能別に分化するなど全体として多様化が一層進むにつれて,学習者の保護や国際的通用性の保持のため,高等教育の質の保証が課題となる。
  • 高等教育の質の保証に関しては,まず,個々の高等教育機関において,教育・研究活動の改善と充実に向けて不断に努力することが大切である。また,競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層進む中にあっては,学習者や社会の信頼を保持する上でも,情報の開示を含めた質の保証の仕組みを整えて効果的に運用することも極めて重要であり,国としての基本的な責務である。
  • 本来,保証されるべき「高等教育の質」とは,教育課程の内容・水準,学生の質,教員の質,研究者の質,教育・研究環境の整備状況,管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。したがって,高等教育の質の保証は,行政機関による設置審査や認証評価機関による評価(「認証評価」とは,すべての国公私立の大学等が,文部科学大臣の認証を受けた第三者評価機関による評価を受ける制度をいう。以下同じ。)のみならず,カリキュラムの策定,入学者選抜,教員や研究者の養成・処遇,各種の公的支援,教育・研究活動や組織・財務運営の状況に関する情報開示等のすべての活動を通して実現されるべきものである。
  • 高等教育の質に着目する場合,事前評価としての行政による設置認可と事後評価としての評価機関による第三者評価を言わば両輪とした,質の保証が必要である。
  • 高等教育の質の保証の一環としての事前・事後の評価の関係については,双方の適切な役割分担と協調を確保することが重要である。特に,一定の事前評価は必要であるとの観点から,設置認可制度について,我が国の高等教育の質の保証の仕組み全体の中での位置付けを一層明確化し,的確に運用すべきである。また,事後評価に関しては,認証機関による評価のシステムを速やかに整え,社会の負託に十分にこたえる効果的なものとなるよう発展・充実させていくべきである。
  • 高等教育の質の保証を考える上では,教員個々人の教育・研究能力の向上や事務職員・技術職員等を含めた管理運営や教育・研究支援の充実を図ることも極めて重要である。評価とファカルティ・ディベロップメント(FD)やスタッフ・ディベロップメント(SD)等の自主的な取組との連携方策等も今後の重要な課題である。
(2)設置認可の重要性と的確な運用

(ア)設置認可の重要性

  • 大学等の設置認可及びその審査の過程は,申請者と大学設置・学校法人審議会との「対話」を通じて,相応の時間をかけて,設置構想の実現可能性や信頼性を確保し,その内容を充実させる手続であり,高等教育の質を担保するための本来的な制度としての意義を有している。また,高等教育の質の保証は事後評価のみでは十分ではなく,事後評価までの情報の時間的懸隔に伴う大学等の選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰するのは適切でない。一部の外国に見られるような,学費の対価として安易に学位を取得させる非正統的な教育機関(いわゆる「ディグリー・ミル(またはディプロマ・ミル)」)の出現を抑止して学習者保護を図るための方策としても,一定の事前評価は必要である。
  • サービスという観点から見た場合,学校教育には,他のサービスとの関係で一般性と特殊性がある。特殊性とは,情報の非対称性,利用者が「学生」であること,単なる知識・技能の取得とは異なる(師弟関係や友人関係を含めた)学習環境の必要性,サービス享受後の効果に永続性があること,サービスの提供とその効果の検証に一定期間を要すること等を指す。
    学校教育が一般的にはサービスとしての市場性を有することに留意しつつも,「高等教育の質」に関しては,市場万能主義に依拠するのでなく,教育サービスの質そのものを保証する観点を重視していく必要がある。

(イ)設置認可の的確な運用

  • 設置認可制度の位置付けを明確化するに当たっては,審査の内容や視点等について,さらに具体化を図る必要がある。例えば,大学教員の質を審査することは極めて重要である。社会の需要に的確に対応した,大学に求められる学問的水準の教育・研究活動を担う個々の大学教員の資質及び教員組織全体の在り方が,「大学とは何か」という根本的な問題意識(第3章1(1)(ア)参照)との関連で十分に点検・確認される必要がある。実効性ある審査のためには,「専任教員」や「実務家教員」の意義や必要とされる資質・能力等について,さらに具体化・明確化する努力が必要である。また,大学としてふさわしい教育目的やそれを達成するための教育課程,またそれらと資格取得・技能習得との関係,大学としてふさわしい教育・研究環境,他の学校種との違い等について十分に審査することも重要である。
  • 現行の大学設置基準等の規定は定性的・抽象的なものが多く,設置審査の具体的な判断指針としては必ずしも有効に機能しにくい面がある。今後は,設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとしてとらえ直していくとともに,時代の変化に常に対応した基準となるよう不断の見直しを行っていく必要がある。
  • このような認識に立つとき,現行の設置基準や設置審査については,明確化すべき観点やルール化を図るべき事項が多くあると考えられる(第5章2(1)参照)。「大学の質」にかかわる要件を明確化することは,多様な主体が参入して健全な大学間競争を活発に行うための環境整備として欠かせないものと考える。ただし,そうした要件をすべて法令等の形式に網羅的・具体的に表現することには困難な面もあり,今後,適切に対応していく必要がある。
  • なお,規制改革の一環として,設置認可については届出制の導入等の大幅な弾力化が逐次進められており,大学等の参入や組織改編は大きく促進されている。少子化が進む中で大学数が大幅に増加している状況を見れば,少なくとも,設置認可制度が大きな「参入障壁」になっているとは言えない。今後は,これらの制度改正の効果等を十分に見極めつつ,教育の質の国際的通用性や学習者保護の観点を十分に踏まえ,拙速を避けながら適切に対応する必要がある。

第5章 「高等教育の将来像」に向けて取り組むべき施策

2 将来像に向けて具体的に取り組むべき施策

(1)早急に取り組むべき重点施策(「12の提言」)

3.高等教育の質の保証についての関連施策
 (大学等の設置認可や認証評価等における審査内容や視点の明確化)

  • 事前・事後の評価の適切な役割分担と協調による質の保証に関し,大学等の設置認可や認証評価等における審査の内容や視点の明確化を図る必要がある。
    (例えば,学位授与機関たる大学にふさわしい教員組織,学問分野に応じた十分な学問的経歴等を有する教員(研究者教員)の配置,「専任教員」の教育・研究や管理運営上の責任,「実務家教員」の実績評価方法,教養教育の実施方針の明示,設置後の学校法人の経営状況など)

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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