4 大学教員及びFDの在り方に関する調査研究の動向

1 「大学における教育活動の質的保証に関する研究」(広島大学・有本章教授他)

  • 学士課程教育の目的について、日本が職業人養成志向(71パーセント)であるのに対し、米国は市民養成志向(83パーセント)。
  • 学士課程教育を「うまくいっている」とする評価は、日本は11パーセントに対し、米国は52パーセント。一方、改善や活性化の必要性を感じる割合は日本が91パーセントに対し、米国は10パーセント。
  • 各国とも約8割が過去5年間に「教育内容」の検討・策定を実施。日本は「教育内容」に比して「教育目的・目標」の検討・策定の実施率(66パーセント)は低。日本の「教育内容」の検討の観点の上位は、「教養教育に対する社会的ニーズ」(50パーセント)、「社会の情報化」(49パーセント)、「社会の国際化」(39パーセント)など。
  • 日本は自学の同僚・構成員からの評価を特に意識するが、米国は外部を意識した多様な評価観点を重視。
  • 教員の昇進審査において、日本は米国に比して「教育活動」の重視度が低
  • 各国共通して、学士教育課程のレベル向上の重要な対策として、教員の授業等の改善が上位。今後のFDの必要性は各国とも8割が肯定。
  • 過去5年間の教育に関するFDの実施割合は日本73パーセントに対し、中国89パーセント、米国97パーセント。FD活動の未実施率は日本(13パーセント)が最高。
  • FDによって、教員の資質・能力が「はっきり高まった」とする割合は米国46パーセント、中国40パーセントに対し、日本は9パーセント。
  • FDによって、「教員の使命・役割・資質に関して真剣に考える風土や雰囲気の醸成された」とする割合は、米国63パーセント、韓国31パーセント、中国31パーセント、日本は7パーセント。
  • FD実施状況の自己評価は、「良好」・「ある程度良好」は日本が43パーセントに対し、中国78パーセント、米国62パーセント。
  • 「FD活動の概念や内容に関する専門家が学内にいない」との回答が、日本73パーセントに対し、米国は21パーセント。FD活動の連携を推進する全国組織の必要性を日本では74パーセントが指摘。日本の大学が全国組織に求める内容は「FD活動に関する情報」(52パーセント)、「モデルとなるFD活動の開発・開催」(45パーセント)など。

 注)21世紀COEプログラム「21世紀型高等教育システム構築と質的保証」に基づく研究。2003~2005年にかけて日本(343校)、中国(146校)、米国(206校)、韓国(25校)の学長からの回答を得て集計。

2 「大学設置基準の大綱化に伴う学士課程カリキュラムの変容と効果に関する総合的研究」(広島大学・有本章教授他)

  • 教員の教育・研究の志向については、「研究を重視」が31パーセント、「教育を重視」が14パーセント、「双方とも同じように重視」が54パーセント。
     ※ 1992~1993年にカーネギー教育振興財団が実施した「大学教授職国際比較調査」によれば、日本は研究志向73パーセント、教育志向28パーセントであり、国際的に研究志向の強いグループに分類。
  • 学生が所属大学の教員に強く望むこととして、高い割合を示すのは「わかりやすい講義を行う能力」(75パーセント)、「学生の意欲を引き出す能力」(65パーセント)、「学生の立場になって考えること」(53パーセント)、「専門分野の幅広い知識」(48パーセント)、「社会常識を身に付けていること」(46パーセント)。

 注)科学研究費補助金による調査研究。平成11年に国私立大学21大学・2,902名の教員、18大学・6,199名の学生から回答。

3 「進路選択に関する振返り調査」(株式会社ベネッセコーポレーション)

  • 授業・教育システムに不満を持つ者は全体の33パーセント。内訳を見ると、不満の多い順に、「外国語教育の授業」(48パーセント)、「選択できる講義数の多さ」(40パーセント)、「一般教養の授業」(37パーセント)、「専門科目の授業」(22パーセント)。
  • 教員に不満を持つ者は全体の45パーセント。内訳を見ると、不満の多い順に、「一人ひとりの関心に応じた指導」(66パーセント)、「教員とのコミュニケーションの機会」(51パーセント)、「授業のわかりやすさ」(50パーセント)、「教員の人間的魅力」(41パーセント)、「学問分野の専門家としての教員のレベル」(20パーセント)。

 注)平成17年に全国の大学生6,463名の回答を得て集計。

4 「大学生の教育効果に関する研究」(同志社大学・山田礼子教授他)

  • 学生生活の充実度は、「充実している」24パーセント、「まあまあ充実している」46パーセント。大学での経験全般は「とても満足」7パーセント、「満足」37パーセント、「どちらでもない」37パーセントなど。
  • 入学時点からの能力・知識の変容は、学生の自己評価によれば、外国語能力や数理的能力は低下。
  • 「大学教員による活動の提供」をみると、「まったくなかった」とする割合は、「心の支えや励まし」67パーセント、「授業以外でも学習内容を話し合う機会」66パーセント、「教室での学習を実生活に応用する機会」66パーセント、「専門的な目標を達成する手助け」56パーセント、「教育課程や授業に対する助言や指導」47パーセント、「知的にやりがいのある課題や励まし」46パーセント、「学習能力を向上するための手助け」45パーセントなど。

 注)平成17年10月~平成18年1月に全国国公私立大学8校の大学生3,961人の回答を得て集計。

5 「大学における教育改善と組織体制」(国立教育政策研究所・川島啓二総括研究官)

  • 調査対象中、116大学に「大学教育センター等」が設置。設置の理由は、部局ごとでは成しえない全学的な教育改善。
  • 「大学教育センター等」のうち6割以上の大学で「FDの企画・実施」、「授業評価の企画・実施」、「カリキュラム開発・改革」、「教養教育の充実・推進」、「共通教育の企画・実施」を担当。
  • FDの活動実態としては、学内外の講演会の企画実施、ワークショップの企画・実施、他大学の状況の情報収集、現状や課題の分析・検討、資料収集など。
  • 大学教育センターの自由記述によると、組織構成の問題(タテ・ヨコの連携)、人的資源の問題(教員・事務職員数の不足等)などの指摘あり。

 注)平成17年11月調査、全国国公私立大学472校から回答を得て集計。

6 「研究大学におけるFDの組織化に関する比較研究」(名古屋大学・夏目達也教授他)

  • 調査対象の12大学では、いずれもFDの中心である高等教育研究センターを設置し、学内の関連組織との連携を工夫。
  • 調査対象の多くの大学が学外機関とのネットワークを形成。米豪では、FD担当機関の全国ネットワーク組織が存在(米はPOD、豪はHERDSA)し、プログラム開発や情報収集等の活動を実施。
  • 調査対象の大学における主なプログラムは、新任教員オリエンテーション、大学院レベルのディプロマ取得コース、授業改善支援プログラム、TA研修など。
  • 教員の授業改善意欲を高めるため、教育活動に対する評価や教育実績の処遇への反映が見られる。高い評価の学部に対する学内資金の傾斜配分あり。
  • 日本の研究大学におけるFD組織化の方法としては、1.教育活動を重視する大学としての組織的取組(報奨、業績評価、FD部局設置等)、2.ニーズにあった質の高いFDプログラムの開発、3.FDプログラムへの教員参加の促進、4.研究・調査の推進。
  •  注)科学研究費補助金「学生・教師の満足度を高めるためのFD組織化の方法論に関する調査研究」(平成16・17年度)。米国(7大学)、豪州(2大学)、NZ(2大学)、蘭(1大学)を対象に調査。

7 「英国高等教育資格課程における大学教員の専門性基準」(新潟大学・加藤かおり助教授)

  • 欧州では、ボローニャ宣言等を機に、大学教員の資格課程も設置され、専門性を明らかにするための基準づくりが進行。1例が英国の高等教育資格課程(Postgraduate Certificate in Higher Education:PGCHE)。
  • ディアリング報告書(1997年)を受けて、現在、約100の大学で新任教員に対する高等教育資格課程(修士課程レベル)を提供。多くの大学で取得を義務付け。
  • 2003年の教育白書は、専門性基準の枠組みの作成を提唱。
  • 資格課程の基本構造は、計60単位を1.5~3年で履修するパートタイム制(前半の30単位取得を正規採用の条件とする大学が多)。高等教育アカデミー(HEA)の認定プログラムの場合、30単位でHEA準会員、課程修了で正会員。
  • プログラム内容はガイダンス、ワークショップ参加、プロジェクトの計画・実行、ポートフォリオ作成などで構成。実施部局はSDセンター、教育開発センター等。
  • 「専門性基準枠組み(The UK Professional Standards Framework for teaching and supporting learning in Higher Education)」は公的な基準枠組みであり、高等教育教員に求められる専門性として、6つの活動領域、6つのコア知識及び理解内容、5つの価値観を提示。各大学は、これに基づき、自学の教育目標等を踏まえて設定。

注)科学研究費補助金「英国高等教育資格課程における専門キャリア開発の基準と構造に関する研究」(平成17、18年度)。

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