資料4 「社会貢献としての大学開放振興の課題」

平成16年10月28日

中央教育審議会大学分科会制度部会

上智大学 香川 正弘

1 大学開放への関心の高まり

(1)大学開放への関心と期待

 大学開放への期待が高まっている。21世紀が知識基盤社会であるということが明確になり、国際的な経済競争に生き残るためにも、人材育成が決定的な意味を持つようになった。自治体や地域団体も、国際化と地方自立に対応して地域活性化を考える。働く人々も自らの就業能力を高める必要を感じている。また、生涯学習の成熟にともない人々の高度で多様な生涯学習ニーズが見られるようになった。これらの動きが知識の源泉である大学に向いて、大学開放の進展に期待している。
 他方、大学は、最近における一連の高等教育政策の結果、社会的貢献を求められるようになって、大学の存在する地域社会を見るようになったし、18才人口の減少により社会人を受け入れることを真剣に考えるようになった。また、大学外で社会人を対象にした高度な学習機会を提供する場が急成長していることも、気がかりなことである。こうして、大学側もまた大学開放によって、再起と発展を図らねばと思うようになった。
 今ほど、我が国の大学で大学開放が求められた時代はかつてなかったと思われる。主役である大学は、外圧により社会貢献を求められるとともに、経営を成り立たす為にも社会人を大学に受け入れたいという強い潜在的な「願望」をもっているが、過去に大学組織として地域社会や成人教育に真剣に取り組んだ経験が乏しいが、大学開放に本格的に乗り出したいと思いながらも、実践的は方法論に欠けているので、試行錯誤を繰り返しているところが多い。社会貢献としての大学開放について積極的な政策が講じられる必要があると思われる。

(2)大学拡張の研究者から見て

  • 有教育者の高度な学習意欲が満たされておらず、高度な専門性を持つ社会人が退職した場合に、そうした経験を生かす働き場がない。
  • 生涯学習であるから大学は何をやってもいいというものではない。
  • 大学の公開講座は、社会からあまり信用されていない。
  • 大学教員の情熱を傾けて研究している個人研究が学生にも社会人にほとんど開放されていないし、優れた研究者が社会人教育を担当していない。
  • 大学の資源を地域社会に開放し、大学で学びたいと思う人が、誰でも学べるような大学になること、社会人学生の割合が30~40パーセントを占めるぐらいになること、大学が地域社会において知的・文化的拠点として支持され頼りにされること、他の生涯学習機関を衰頽させるのではなく共存することが望ましい。

2 大学開放の観点からみた一連の大学改革の成果

  • 第1は、社会人が大学で学びやすくするために、大学教育を受けやすくする制度改革が行われたことである。たとえば、社会人のための入学資格の弾力化、科目等履修生、長期履修生制度、昼夜開講制大学院や専門職大学院の導入など、制度改革が行われた。これにより学内の開放体制が用意された。
  • 第2は、大学の運営が弾力化された。大学設置基準の緩和、国立大学の法人化、競争的研究資金や外部評価を導入するなどの制度改革が行われた。これらの措置により、大学を自主的に経営する観点が強調されるに至った。
  • 特に国立大学法人化により、大学と自治体とが「協働」する気運が生まれ、その影響は他の公私の大学にも波及し、地域に関心を向けるようになった。
  • 第3は、産学官の提携が本格的に進められるようになった。技術移転機関(TLO)が産学官交流センターに発展し、企業と連携した共同研究開発、大学発のベンチャー企業などが発達し始めた。
  • 産学官交流センターは、大学の持つシーズを企業化することを意図して始まったが、企業化から、企業との共同研究に進み、従業員の教育、一般社会人への教育というように広がる。この意味で、社会人教育の範疇で理解する必要がある。理工系の大学開放が始まった意義は大きい。

3 社会貢献と大学開放の意味

(1)大学拡張と大学開放の関係

  • 大学を社会に開かれていく過程を歴史的に見ると、最初に「大学拡張」、「大学開放」、「高等成人教育」(大学成人教育)、そして「継続高等教育」という三つの発展を示す用語がある。
  • 基本は、大学拡張(University Extension)にあり、その意味は「大学教育を求める人々に対しての開放」(Extension of University Teaching)で、「知の普及」機能と考えられた。
  • これを大学の伝統的な研究と教育という二大機能でいえば、教育の機能に属す。即ち、大学教育提供の対象は一般学生と社会人に分けられると考えられた
  • 「高等成人教育」(Higher Adult Education)は、大学教育の普及を中核としてその周縁部の職業的・専門職的な内容をもった教育も含む概念である。
  • 「継続高等教育」(Continuing Higher Education)は、職業的・専門的、卒後教育の部分が重要な意味を持つ大学拡張で使用される。

(2)21世紀型の大学開放

  • 「社会貢献」と大学拡張はほぼ一致する概念であるが、大学拡張が「大学教育の拡張」を主にいうのに対して、社会貢献は教育以外の分野の領域での事業活動(産学提携での企業化、教職員・学生等の文化活動や相談業務)をも包含して使用される概念と考えられる。
  • 大学拡張と大学開放は同義と考えられる。21世紀型の大学開放は、「大学の人的、物的、知的な資源」を社会に開放、即ち、教育のみならず、研究の開放も行うことを意味する。
  • 生涯学習社会においては、この大学開放が、学校教育と社会教育の両系統の頂点に位置づくという理解が求められる。

4 大学開放を推進するために

(1)大学の役割で大学開放を明確化すること

  • 知識基盤社会の形成が国家目標であるならば、大学開放は大学にとって必須な事業活動と位置づけられることではなかろうか。必須とは、社会のニーズに応えるのが義務ということである。研究中心の大学であろうと、教育中心の大学であろうと、それぞれの特質とレベルでの大学開放が考えられる。
  • 「教育の開放」は、学校教育法第52条の大学教育の目的に即してレベルが設定される必要がある。
  • 「研究の開放」というと、大学の教員と産官との共同研究が考えられるが、市民への研究の開放(ライフワークの追究)もある。一般教養や職業教育のゼミ形式の講座、大学院や専攻科レベルでの高度専門教育講座の普及、産・官・民間団体との協働による研究開発等が考えられる。
  • 我が国の大学開放は、社会人を正規の学校教育の枠内に取り組むことで対応しようとするが、社会人のニーズに対応するためには大学開放講座(成人教育)として対応することを促進することが現実的ではなかろうか。
  • このような包括的な大学開放(社会貢献)を考えると、公開講座という表現(学校教育法第62条)で大学開放を表現するのは適切でない。社会貢献は社会のニーズに合わせて、多様な形態で展開される。公開講座はその一つでしかない。また公開講座という名前は、「大学で行っている教育を見せる」という意味合いが強く、ライフワークの追究、能力開発、協働研究の意味を表現していない。
  • 社会人を受け入れる上記のような大学開放講座は、正規の大学教育や大学院教育へ進学していくための苗床でもある。現在は袋小路になっているが、進学を可能にする連携を進めていく必要がある。

(2)大学としての取り組み体制の確立

  • 大学開放を推進する核になるのは、理工系を中心にした産学官連携センターと、教養・人文科学系・社会科学系を主として扱う生涯学習センターの二つであると考えられる。
  • 産学官連携センターは、大学等技術移転促進法を基に比較的枠組みがしっかりしているのに対し、生涯学習センターは先行して出発したにもかかわらず、運営の方針や事業活動等が明確にされていない。同センターは、産学官センターの運営に習い、充実させる必要がある。名称も、生涯学習センターより大学開放センターの方が実態をよく表しているのではなかろうか。
  • 大学の社会貢献が現代社会において必須の役割であると位置づけるのであれば、大学開放センターを設置することは必須としてもよいのではないか。同センターの役割は、社会の学習・教育・研究ニーズに合わせて学内の人的・物的・知的資源を組織的に開放し、質を維持していくことにある。これらの経験を蓄積して事業活動に生かしていくのは、委員会や事務局分掌では難しい。
  • 大学が地域社会における知的創造の拠点となる窓口となるためには、大学開放センターにおいて、高度で専門的な学識を持つ社会人を、養成して講師に登用することが進められねばならない。兼務の担当講師、専門講師、専門職員、事務職員の養成も不可欠である。
  • 大学開放センターの活動は、大学経営に資する視点で行われる必要がある。学生の授業料を社会人の講座に廻すというのは、いかがなものか。不特定多数の人に開かれる講座だけでなく、地域社会の切実なニーズに応えた講座、特定集団のための講座、寄付講座を発展させるべきであろう。外部から資金が入ってくる窓口でもあるという認識を持ってもらいたい。

(3)その他

  • 学校教育法第69条第2項では、「公開講座に関し必要な事項は、監督庁が定める」と規定されている。形式的に生涯学習センターを設け、地域社会との連携が求められいます、といっていればいいというものではない。大学にふさわしい講座運営の指針を示すべき時期だと考える。
  • 大学には組織的な成人教育の経験の蓄積がほとんどない。経験の交流の場、共同での講師養成と認証、プログラムの研究開発・評価、全国的な職業・経済団体と、大学開放センターを連携させるような機関・団体を育てていくことが必要ではなかろうか。
  • 知識基盤社会とは「Higher education for all」でもある。この社会の形成を目指して大学開放を盛んにするには、地域社会の切実なニーズに大学が自治体や団体と協働して教育・研究で応えること、質を保証した教育を提供することにより社会の信用を得ること、地域社会の生涯学習のレベルを全体的に高め、大学開放講座に繋がるような学習活動を活発にすることが必要であろう。

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