資料3 遠隔教育の普及と今後の課題

吉田 文(メディア教育開発センター)

わが国の遠隔教育の制度的矛盾

1.通信制の設置基準について

  • 通信制学部:大学通信教育設置基準
  • 通信制大学院:大学院設置基準の一部改正によって対処。
  • 通信制専門職大学院:専門職大学院設置基準のなかで対処。
     ※ 大学院の場合は、通学制にならった教員配置

2.単位修得について

a.通信制と通学制の区別に関して

  • 通学制学部:「遠隔授業」で60/124単位可能。
      単位認定・単位互換により通信制大学の「面接授業」を60単位習得することは可能。
  • 通学制大学院:「遠隔授業」で30/30単位可能。
  • 通信制専門職大学院:「教材による授業」、「放送授業」は不可。「メディアを利用して行う授業」と「面接授業」は可。
     ※ 通学制と通信制の区別をすることの意味は?

b.通信制内部の区別に関して

  • 特区における通信制:インターネットのみを利用して行う機関の校舎施設の数値基準の適用除外(本部機能のみで可)。
  • 既存の通信制・通学制:上記基準の適用外。
     ※ 特区が全国区になったときは?

3.通信制の授業の方法について

 「印刷教材等による授業」、「放送授業」、「面接授業」、「メディアを利用して行う授業」

  • a.CD-ROMなどの電子出版による教材は?…「印刷教材等による授業」
  • b.映像・音声を利用したパッケージ型メディアの視聴は?…「放送授業の1つの形態」
  • c.テキスト・静止画のみをインターネットで配信する授業は?…「印刷教材等による授業」
  • d.衛星系・地上系の通信回線による教室の授業の配信は?…「放送授業の1つの形態」
  • e.映像・音声を利用したパッケージ型メディア+メールによるQ&Aは?…「メディアを利用して行う授業」になるのか…
     ※ 配信の技術による区別の意味は何か?
     ※ 教育の配信側が学習者の学習履歴を把握する(単位制、本人認証)という視点の欠如

日本における遠隔教育の普及状況

通信制

  学校数 学生数
大学 31 234,635
大学院 15 14,036
短大 10 24,558
56 273,229

 『平成15年度学校基本調査』

通学制

  大学学部(学部数) 短大(機関数)
行っている 計画している 行っている 計画している
インターネットによる授業配信 166(16.5%) 227(22.6%) 23(7.7%) 43(14.4%)
単位認定しているインターネット授業 43(4.3%) 56(5.6%) 6(2.0%) 12(4.0%)

 NIME(2003)『高等教育機関におけるマルチメディア利用実態調査』

cf.アメリカにおける遠隔教育の普及状況(1997から2000)

  遠隔教育実施機関(%) 遠隔教育コース在籍者数(人) 学位取得プログラム数(学部%)
公立4年制 78→89 711,350→945,000 1,090(42)
私立4年制 19→40 222,350→589,000 1,160(51)
公立2年制 60→90 714,160→1,472,000 520(100)
私立2年制 5→16
34→56 1,661,100→3,077,000 2,810(56)

領域(1997)

  • 学部:英語・人文・社会科学・行動科学(39%)、ビジネス(18%)、健康科学(7%)、職業(6%)
  • 大学院:教育(25%)、工学(21%)、ビジネス(13%)、健康科学(13%)

配信技術(1997→2000)(MA、%)

非同期インターネット 同期インターネット 双方向テレビ会議 一方向録画ビデオ
58→90 19→43 54→51 47→41

 NCES(1999)Distance Education at Postsecondary Institutions:1997-1998
 NCES(2003)Distance Education at Degree Granting Postsecondary Institutions:200-2001

  • ※ アメリカにおける公立セクターを中心とする遠隔教育の拡大
  • ※ 学部プログラムが半数、学位プログラムの半数がcertificate、職業領域に特化
  • ※ 非同期インターネットの急速な拡大

アメリカ高等教育システムの課題

1.組織形態

  • コンソーシアム…コンソーシアム参加機関60%、種別の異なるコンソーシアム
  • 営利大学…古典的営利大学(eg.フェニックス、デブライ)の好調、eラーニング営利大学(eg.ジョンズ・インターナショナル大学)の不振
  • 非営利大学の営利部門…失敗(NYUオンライン、テンプルU、eコーネルetc.)
     ※ コスト削減を目的としたコンソーシアム、無条件に利潤を生み出さない。

2.専門職

  • 学内IT戦略の責任者(CIO;Chief Information Officer)
  • eラーニング・コンテンツ開発の専門職(ID;Instructional Designer)
     ※ 教員役割の変化。
     ※ 日本では養成機関がない。

3.教育の機能(認知的機能と社会化機能)

  • 多くが有職成人対象の職業キャリア・アップのプログラム(社会化機能は不必要)
  • リベラル・アーツ・カレッジのeラーニングへの抵抗(社会化と遠隔教育はなじまない?)
     ※ 対象の明確化と特化した領域が必要。

4.技術課題

  • セキュリティ…公開性を特質とするインターネット、eラーニングの理念と矛盾
  • オープン・ソース(各種のeラーニング・ソフトの大学内開発→ソース・コードの公開→ボランティアによる改良→大学間の共有)…コスト・ダウンに結びつくか?他のソフトとの親和性があるか?
     ※ 日米共通の課題

5.教育の質保証

  • 機関の質保障…地区アクレディテーション団体の共通ガイドライン
  • コースの質保障…各種の調査研究(eg.Quality on the Line)
     ※ 設置基準?、認証評価?

6.国際展開

  • WTOの教育サービスの4つのモード(第2モードがeラーニング)…アジアへの進出
     ※ 英語とインターネットによる南北間格差、日本は北か南か?

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