1996年5月に英国政府の諮問機関として発足した高等教育制度検討委員会(National Committee of Inquiry into Higher Education,委員長:デアリング卿)は,爾後20年間における英国の国家的必要に見合う高等教育のあり方について,大学人に加え財界・産業界の代表などを委員として,各界の意見聴取,作業部会,日本を含む諸外国の高等教育調査などの方法による調査・審議を行い,1997年7月に,継続的な高等教育の拡充なしに英国が国際的な経済競争の時代にその繁栄と国際的な地位を確かなものにすることはできないとする報告書「学習社会における高等教育の将来」(Higher Education in the Learning Society)を提出した。
報告書は,全24章からなり,93の勧告を含み,豊富な調査資料と併せて全体で約1700頁にわたる浩瀚(こうかん)なものとなった。過去30年余の英国の高等教育の分析を基に,目的,規模,財政,教育・研究及び学生支援と高等教育全般にわたって検討を加え,全体として生涯学習社会における高等教育の位置づけを展望するとともに,国際競争力の向上における役割を強調している。
報告書によれば,英国の高等教育は過去20年間に,学生数の倍増,公的補助の実質的減少,パートタイム学生や成人学生の増加などの大きな変化を経験したが,知識・情報重視型の世界経済秩序,継続的な能力開発を求める労働市場,情報技術の進展など環境の変化が激しく,高等教育においてはさらなる改革が求められるとして,高等教育の拡大,高等教育の水準・質の管理,高等教育による地域経済の振興,及び研究基盤の整備などの点について勧告している。また,勧告の対象は,政府,高等教育機関及び財政審議会,高等教育の代表団体,学生組合,雇用者団体,研究審議会など広範囲にわたり,勧告の実施については短・中・長期の期限を示しつつ数値目標を示すなど具体的な提案を行っている。
20年後に競争力のある経済を持続させることを目指して,過去30年の間の高等教育の分析を基として,次の20年間における新しい課題に柔軟に対処していく能力を高等教育に与えることを目的とする。
今後20年間に英国は,生涯学習社会を創出する。その実現のために,個人も国も雇用者も教育者も積極的な取り組みがもとめられる。教育は,英国人の生活の質を向上させる上で根本になるものである。したがって,あらゆる学習レベルや異なる分野の幅広い研究が世界有数のものとなることを国の政策目標とすべきである。この目標は,高等教育機関,教職員,学生,政府,雇用者,そして社会全体を巻き込んだ新たな契約に基づいて初めて実現されるものである。この契約に関する委員会の見解は表(次頁)のようにまとめられる。新たな契約の形成にあたっては,高等教育機関,産業界及び公共部門の三つの部門がそれぞれ果たすべき義務を自覚しなければならない。
高等教育の目標を,学習社会の維持・継続に置く。この実現のために,
高等教育への貢献 | 貢献から得られる利益 | |
---|---|---|
社会・納税者 (政府が代表する) |
|
|
学生・卒業生 |
|
|
高等教育機関 |
|
|
教職員 |
|
|
雇用者 |
|
|
家庭 |
|
|
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --