平成18年7月12日(水曜日) 10時30分~12時30分
三田共用会議所 第4特別会議室(4階)
安西 祐一郎(部会長),郷 通子(副部会長),相澤 益男(分科会長),江上 節子,金子 元久,木村 孟の各委員
天野 郁夫,荻上 紘一,黒田 壽二,佐藤 弘毅,長田 豊臣,中津井 泉,矢崎 義雄の各臨時委員
梶山 千里,雀部 博之,光田 好孝,米澤 彰純,米山 宏の各専門委員
清水高等教育局長,山中私学部長,磯田高等教育局担当審議官,辰野高等教育局担当審議官,小松高等教育企画課長,藤原国立大学法人支援課長,中岡大学振興課長,片山私学行政課長,安藤私学部参事官 他
(□:意見発表者,○:委員,●:事務局)
(1)事務局から,「私学行政の現状」及び「株式会社立大学の現状」について説明があった。また,「経営面の審査・評価等の現状と課題」について有識者から意見発表があった後,質疑応答が行われた。意見発表及び質疑応答の内容は以下のとおりである。
【清成 忠男氏(学校法人活性化・再生研究会座長,法政大学学事顧問)の意見発表:「大学全体の質保証について」】
本日は,1.学校法人活性化・再生研究会の中間報告について,2.「大学の質保証」日独ワークショップについて,3.大学設置者の質保証について,意見を発表したい。
学校法人活性化・再生研究会には2つの学校法人経営の重要検討課題がある。1つは中長期的な課題としての学校法人全体の経営革新や活性化であり,もう1つが短期的課題としての再生や破綻処理についてである。また,検討対象を大学,短期大学を設置している学校法人に限定している。
18歳人口が減少し,需給バランスが崩壊し,大学間競争が激化している。さらに,規制改革・民間開放推進会議等の提言により競争原理的な政策が導入されたため,競争が一層激化している。また,過剰参入や大学の質の低下という問題も生じている。学校法人の再生・活性化と言っても,全ての法人を救済するのは不可能であり,一部は淘汰されざるを得ないのではないか。
学校法人の経営革新・活性化については,「私立学校の経営革新と経営困難・破綻への対応-中間まとめ-」の24ページにも記されているが,学校法人におけるガバナンスの確立が非常に重要である。私立学校法が改正され,理事会の権限をはじめ理事,監事等の責務が明確になったが,意思決定とそれをチェックする仕組みが法的には必ずしも明確になっていないようである。また,経営の透明性確保と情報公開についても,財務情報の公開が義務づけられた一方で,公開方法そのものが課題として残っている。学校法人の経営革新・活性化のためには,経営力の向上が重要であり,絶えざる自己チェック,改善努力が必要である。
また,私学助成の根拠を再度明確にする必要があるのではないか。私立学校は公共性を有するため,補助金の支出対象となり,税の優遇措置が受けられる。学校教育法,私立学校法等で,私立学校は「公の性格を持つ」「公共性を高める」と表現されている。法の規定により公共性を有するという議論が繰り返されているが,実態上もそう言えるのか。公共財は排他性がなく,費用負担もない。そのため,高等教育というサービスが設置形態の如何を問わず非公共財であることは,今日では欧米の経済学では通説になっている。では,高等教育が非公共財であるにもかかわらず公共性を持つのはなぜか。それは,学生の個人的なメリット以上に,人材が蓄積されること等により,国の競争力が強化される社会的メリットが大きいからである。私立大学が一定程度以上の定員割れの状態に陥ると,私学助成はカットされる。これは,これらの大学が大幅な定員割れにより公共性を失ったということが根拠とされている。したがって,定員割れの大学がこれ以上増加するようであれば,私学助成の根拠について検討せざるを得ない状況になるのではないか。いずれにしても,公共性の向上により,教育研究の成果は社会全体に及ぶ。
学校法人の再生について,事業の再生の際に最も重要なのは教学の再構築である。これは,財政的にスポンサーがつけば問題が解決するという性格のものではない。大学間の戦略的提携が効果的な場合もある。また,財政難はあくまで結果である。志願者が減少し,それによって収入が減少する。一方,人件費を中心とする固定費は下方硬直的である。したがって,資金を投入しただけでは問題は解決しない。さらに,現在の大学は一種の成熟産業,構造不況業種である。通常では,構造不況業種の場合は新規参入がなく,市場からの退出が多いが,大学は現在も増えている。結果として,学校法人が過剰になっている。このような状況では,これまで私学団体が取ってきた護送船団方式での救済は限界に達している。
破綻処理については,まず,危機の認識を持つことが必要である。事前の対応として,日本私立学校振興・共済事業団(以下,「事業団」という。)が定期的なモニタリングを行うことによって,財務的に問題がある学校法人を把握し,その法人に対して経営相談等を実施することが挙げられる。その延長上でイエローゾーンを示して対応を求めることが必要である。イエローゾーンとは経営上看過できない兆候が見られ,経営改善に向けた何らかの対処が必要と認められる状況である。すでに危機的な状況が始まっており,放置しておくと危機は進行する。この場合,学部等の改組転換や募集停止等を盛り込んだ,実現可能な再生・整理計画の作成を指導することになる。期限内に経営改善の成果が見られない場合には,指導内容を文部科学省に報告し,これを受けて,文部科学省は経営改善計画の作成を要求し,期限を設けた指導・助言を実施することになる。
その次の段階がレッドゾーンである。レッドゾーンとは,経営状態がさらに悪化し,学生が在学中に経営破綻する可能性が非常に大きい状況である。委員の中には,この状態になった学校法人に対しては,必要に応じて募集停止を可能にする仕組みを検討したり,法的措置によって学生募集停止を命令すべきであるという意見もあった。また,法人のリスク情報を公開することで注意を喚起すべきという意見もあった。さらに,記者会見の際には,複数の新聞記者から,学生への配慮から,学校法人名を公表すべきだという強い意見もあった。
レッドゾーンの先の救済方法としては,合併等の仲介を行ったり,民間から専門的経営者を投入することで経営者の交代を求めること等が考えられる。
残された課題としては,保険の問題がある。銀行では預金保護という仕組みがあるが,同様に保険により学校法人を保護しようという考えもある。これについては,検討段階であるが,果たしてこのような保険が成立するかという困難な問題もある。また,高校・幼稚園法人でも経営破綻法人が増えており,今後これらをどうするのかについても問題である。その他,事業団で検討することが適当なものについては,今後,分科会を設けて検討していくこととなっている。
中間報告を踏まえて「大学の質保証」について考えてみたい。破綻した法人を調べると,比較的新しい大学の例が多い。短大を4年制化して初年度から定員割れしているという大学もある。このように事前規制を外してしまうと,経営破綻という問題に直結する恐れがある。定員割れによって直ちに破綻するわけではないが,いわゆる「全入時代」の到来やユニバーサル・アクセスという段階では,こうした大学の学生の質の低下が懸念される。さらに,破綻する法人が増えると,事後チェックにも限界が出てくる。また,情報公開が今後重要であるが,その前に各学校法人が内部統制組織を整備したり,ガバナンスの問題を明確にすることも重要である。
去る6月に「大学の質保証」というテーマで日独ワークショップが開催された。そこでの議論は,質保証には従来型の教育・研究の質保証という問題と,大学の組織・構造,意思決定,手続等のプロセスそのものの質保証の2つの役割があるということだった。ドイツでは近年私立大学が増加している。現在,56大学あるが,これらの設置形態は非営利有限会社である。また,ニーダーザクセン州では5つの州立大学が財団法人化された。従来のドイツの州立大学は社団法人であるが,国有財産を譲渡し,財団化した。設置形態の多様化により,意思決定方法が変化し,大学の組織・構造,意思決定,手続等のプロセスの質保証が重要になっている。また,教育・研究の基盤としての法人の質保証のためには,教学と法人の関わり方が問題になってくる。最終的には,質保証は大学全体のガバナンスに依存するものであり,法人経営の質が重要になる。その意味で今後,さらに私立学校法の改正も必要になるかもしれない。また,大学のガバナンスについての法的な保証が必要だと考える。
【清成 忠男氏の意見発表に対する質疑応答】
○ 「むすび」で「最終責任は大学ガバナンスの法的保証が必要」と述べているが,具体的にはどういうことか。
□ 例えば,国立大学を定年になり私立大学に移籍した知人が数人いるが,彼らは異口同音に「学校法人は何でもできる」と言う。つまり,ガバナンス意識が全くない理事長が非常に多いということだ。学校法人運営調査委員として調査に行くと,ガバナンスについては,学校法人によって対応が様々である。古くからある大規模校は組織で動いており,ガバナンスがしっかりしているところが多いが,新興の小規模大学ではそうではないところが多い。
商法が改正され,会社法にはガバナンスを法的に保証する仕組みが制度化された。私立学校法では,学校法人の理事会が意思決定を行い,かつ,それをチェックすることになっている。しかも,理事会の中心となる理事長等が業務の執行にも当たる。もっと機能分担を明確にすべきではないか。
○ 例えば,古い大規模大学でも,依然として教授会が全権を握っているようなところもあり,国立大学が法人化し,様々な改革を実行に移していることを考えると,大規模私立大学が一番遅れているのではないかと危惧している。大規模私立大学でもガバナンスを法的に保証すべきなのか。
□ 例えば,法政大学では2年前に外部委員による第三者評価委員会を学内に設置し,自由に意見が言える体制を作った。大学の学長経験者,教育学者,民間企業の社長,会長経験者,元官僚等の方々から多面的に御意見をいただいている。我々は,自分の大学の欠点は十分熟知しているつもりだが,その熟知している部分を明確に指摘してもらい,結果を公表する。これにより,教学サイドにも意見をぶつけて改善を図らなければ,大学は変わらない。学内に設けた第三者委員会等を,法的に制度化する必要はないが,例えば行政指導的な方法を用いて設置を促すことがあってもいいのではないか。
○ 私立大学の公共性とガバナンスの関係について,どこで公共性とガバナンスが結びつくのかが重要ではないか。経済学的な外部性では高等教育は必ずしも公共的である必要はないが,情報の非対称性のため,教育,特に高等教育は即時にその価値がわからない。したがって,市場的な交換ができないために,何らかの形で提供者に自律的な責任を負わせるという論理で,非営利的な性格を持つ学校法人制度が創設されたのではないか。
また,帰属収入で消費支出が賄えない大学法人が約120法人程あるが,このような法人が退場する場合に,誰が責任を持ち,どの観点からどの時点で退場を促すのが,社会にとってよりよい選択なのかを考える必要がある。
その場合,ガバナンスの問題としては2つある。1つは法人自身がそのような状況で客観的に判断できるのかどうか。オーナー型の私学の場合には法人自体が客観的に判断することができないケースが出てくる。もう1つは,そういった私学に対して政府または私学団体がどのように退場を促すのか。また,退場が適当であることの法的根拠をどこに求めるのか。これらの点についてはどのように考えるか。
□ 私立大学の公共性については,設置者の公共性と設置された大学の公共性の2通りがある。先ほど述べたのは設置された大学の公共性である。もう1つの設置者の公共性・公益性については,学校法人が公益法人たる財団法人から発展したものであり,それ故社会的責任があると考えられる。客観的な指標に基づき学校法人の経営状態が悪化していることが明らかになった場合,第一義的には事業団が経営相談等を行い,それでも改善しない場合には文部科学省が経営指導を行うという仕組みが今回の中間報告でも謳われている。
他業界で学校法人と類似しているのは醸造業である。国税庁は酒税を確保するため,許認可した企業の経営データを把握している。清酒の需要減により企業の淘汰が進んだ際,保有している経営データから企業を類型化することで政策を実行していった。同様に,学校法人に関しても,文部科学省や事業団が客観データを把握しており,監督官庁等としての指導・助言等の対応が重要だと考える。これは,対学生という視点から考えても重要である。学校法人内部からは経営改善という点では事後チェックが行われているが,客観的に見て社会的責任を果たしているかどうかについての認識は弱い。
【黒田 壽二臨時委員の意見発表:「経営面の審査・評価の現状と課題について」】
大学設置・学校法人審議会に置かれる学校法人分科会は,昭和62年(1987年)9月の行政改革の一環として,私立学校法上定められた「私立大学審議会」を学校教育法上の「大学設置審議会」に統合する形で発足した。旧私立大学審議会時代には,文部大臣に対して,学校法人の運営全てについて建議権があったが,統合後は「私立学校法及び私立学校振興助成法の規定によりその権限に属させられた事項を調査審議する」とされている。そのため私立学校法に基づく寄附行為(変更)の認可や私立学校振興助成法における学校法人会計基準の在り方等については,学校法人分科会で審議できるが,学校法人の根本に関わる部分についての審議ができない状況になっている。しかし,今後は踏み込んで審議することも必要になってくるのではないか。
学校法人分科会の役割には,学校法人の寄附行為(変更)認可における審査の視点として,1.学校法人の適格性,2.設置に関する事業計画,3.事務処理の適格性,4.既設校の定員充足状況,5.その他(情報開示の状況,既設校の改廃状況)の5つがある。学校法人分科会の業務について12項目挙げているが,1~3が学校法人の適格性に関すること,4~6が設置に関する事業計画に関することである。特に,大学等の設置に必要な経費が適法に確保されているかどうかについては,近年,学校法人のグループ化などもあり,審査が難しくなっている。また,監事機能の健全性については,平成17年(2005年)の私立学校法改正による監事機能の強化に対応して,改正事項が整備されているかどうか調査している。学校法人の情報開示については,大学法人はできる限りホームページ等において情報開示を行うよう指導している。さらに,学校法人全体の現状把握調査についても,当分科会の業務の1つである。
学校法人の寄附行為(変更)認可に関する審査基準については,これまで様々な改正が行われ,緩和されてきている。事前規制から事後チェックへという流れや準則主義化によって緩和されているが,規制緩和と準則主義の間の整合性がとれているのかについては懸念がある。例えば,校地について自己所有要件が緩和され,これまで校舎基準面積の3倍以上としていた校地基準面積が学生1人当たり10平方メートルと緩和された。また,大学等の設置に必要な金額の標準を定めた標準設置経費・標準経常経費についても,分野を系統別に,人文社会系,自然系,その他,医学,歯学の5つに体系化した。しかし,旧区分の最低基準を新基準としたため,準則主義化と相まって,従来と比べて安価な金額で大学等の設置が可能となり,これで大学の質が保てるのかが懸念される。標準経常経費については,人事院勧告に基づき,基準の引き下げが行われている。また,既設学校法人が大学等を設置する場合に,一定の要件の下,設置経費等に借入金の充当を認めたり,負債償還率の規定の緩和も行われている。一方,唯一定員管理については厳格化され,経過期間を経た平成20年(2008年)度以降は既設学部等の入学定員超過率が1.30倍を超えた場合は新たな設置等の申請ができなくなる。
設置認可と届出の動向について,平成18年(2006年)度開設の案件については,届出が482件のうち356件,74パーセントを占めるまでになっている。一方,学部・学科等の設置認可はわずか126件となっている。届出により学部等を設置した大学の中には,定員割れを起こしている事例もある。届出による設置では,学校法人分科会の審査を経ないため,これらの学部等の設置経費や学校法人全体の収支バランスがどうなっているか懸念される。
大学等設置に係る寄附行為(変更)認可後の財政状況及び施設等整備状況調査(いわゆるアフターケア)については,原則として完成年度に実地調査を行う。最近では,アフターケアの段階で,認可時の設置計画を殆ど満たしていない大学等が増えている。特に,専門職大学院の設置であった事例では,学生が集まらず,集まった学生分の設備しか整備していないところがあった。このような整備状況では,収支状況はそれ程悪くないが,認可時の設置計画を履行した途端,経営が立ちゆかなくなる恐れがある。
平成17年(2005年)に私立学校法が改正されたが,最も重要な論点は,理事長の経営責任の強化である。改正前は「学校法人内部の事務を総括する」という規定であったが,改正により「学校法人の業務を総理する」となった。これにより,理事長が学校法人の業務について,全ての責任を持つこととし,理事会の位置付けを法的に明確にした。それと同時に,監事機能の強化を図り,評議員会も機能的な組織になった。また,学校法人会計基準を改正し,基本金の取扱を変更するとともに,貸借対照表上の注記事項を拡大した。これにより,貸借対照表を見ることで,学校法人の活動状況がより分かるようになった。
学校法人と設置学校との関係については,学校法人が私立学校法に,私立大学が学校教育法に根拠があり,それぞれ運営されているため,教授会と理事会の関係にあるような難しい部分がある。しかし,私立大学のガバナンスについて,学校法人,私立大学それぞれのガバナンスを構築しなければ,学校法人は公益性を保ちながら維持することは不可能になるのではないか。私立大学が法律で定められているが故に公益性があるというのはそのとおりであり,公益性を維持するかしないかはそれぞれの学校法人の在り方に関わってくる。学校法人のガバナンスについて,真剣に取り組む必要があると考えている。
アフターケア期間終了後は,学校法人運営調査委員会が調査を行う。これは昭和59年(1984年)に創設され,学校法人の管理運営の組織及びその活動状況並びに財務状況等について,実態を調査するとともに,必要な指導・助言を行い,学校法人の健全な経営の確保に資することを目的としている。
学校法人と設置する大学の質保証,経営の健全化と情報開示義務及び説明責任については,今後強力に行う必要がある。また,外部に開示する以前に自己点検・評価と第三者評価をルーチン化する必要がある。よくPDCAサイクルという言葉が使われるが,Plan,Doまでは大体行われるが,Check,Actionに結びついていないのが現状である。PDCAサイクルが回転することが重要であり,それにより,改善につなげていくことを徹底する必要があるのではないか。また,経営困難法人に対する対応としては,学校法人運営調査制度を強化するとともに,事業団の経営相談を積極的に活用することが必要ではないか。
入学定員未充足数については,平成17年(2005年)度は,大学で160校,短大で159校であった。短大で数が減少しているのは,多くの短大が4年制大学に転換したこと,学生の減少のため廃止したことが要因であると考えられる。その逆に,大学の方は増加傾向にある。一方,総定員充足率と帰属収支比率との関係を見ると,平成15年度決算の数値では,定員を充足しているが,帰属収支差額がマイナスである法人,定員も未充足で帰属収支差額もマイナスという法人を合わせると151校ある。今後,定員割れの大学がさらに増加することが予想され,その際,どのような指導・助言をすれば良いかについても自ずと見えてくるようになるのではないか。
最後に,学校法人分科会における審査の在り方と今後の課題について,何よりもまず,学校法人は財政基盤の強化を図らなければならない。そのため,どのように学生を確保し,外部資金を確保するかが重要である。また,合併については,建学の精神が一致しないと難しいのではないか。そして,株式会社立大学の在り方についても今後,検討が必要ではないか。
【黒田 壽二臨時委員の意見発表に対する質疑応答】
○ 専門職大学院の事後チェックについて,早急に体制を構築しなければならないのではないか。専門職大学院は5年ごとに第三者評価を受けることとなっていながら,制度発足後3年目にして殆ど評価機関が存在しないというのは問題である。前回会議でも議論があったが,国としてどのように評価機関の形成・支援を行うのかについての明確な方針が見えない。
例えば,私見であるが,評価団体の成立が困難であれば,アフターケア終了後,完成年次を過ぎたあとのフォローを行うための組織を臨時に置くことも検討すべきではないか。全くの新しい組織を設置することも,大学設置分科会,学校法人分科会のアフターケアの権限を臨時的に延長することも考えられる。また,学校法人運営調査委員会を活用する方法もあるのではないか。
株式会社による大学設置を認める特区の全国化についても,事後チェック体制が確立していない状況で全国化の是非を問うというのは時期尚早ではないか。その意味からも事後チェックに対する早急な対策が必要なのではないか。
○ 特区評価委員会での議論では,株式会社立大学について,文部科学大臣が認可しているのだから問題はないという取扱である。少なくとも情報公開は必要であり,客観的な情報を公開するという仕組みを構築しなければならない。株式会社立大学の実態について社会に認知してもらうこと自体に大きな効果があるのではないか。
○ 株式会社立大学,その中でも専門職大学院についてはこれまでも様々な問題が出てきているが,それに対して有効な対応がとられていない。今後さらに問題が出てくるようであれば,大臣による是正勧告,変更命令を行うことも必要ではないか。株式会社による大学設置の特例については,今年度の下半期に改めて評価を行い,全国展開の是非を決定することとなっているが,文部科学省としてしっかりとした対応をお願いしたい。
【本日の意見発表に対する全般的な質疑応答】
○ 学校法人運営調査委員会が,どの程度経営改善等に対しての権限を持っているのか。また,事業団は,本来,国の補助金業務に関して作られた法人であるが,経営破綻を来す危険性がある学校法人の増加に伴い,経営改善等の機能に重点が移っているようだが,このことの是非についてどのように考えるか。
また,事前規制から事後チェックへという流れの中で認証評価制度が創設されたが,認証評価機関による財務,管理運営面の評価と学校法人運営調査委員会あるいは事業団が行おうとしている経営改善業務との関係はどうあるべきか。
□ アフターケアと学校法人運営調査委員会の関係については,前者はあくまで設置の際の認可条件が整備されているかどうかについて,大学設置分科会,学校法人分科会双方が調査を行い,指導・助言を行うものである。一方,後者は,具体的に問題がある学校法人に対しては,文書で通知し,改善状況報告の提出を求めている。
□ 事業団が経営指導等を行うことについては,教育機関や学校法人の特殊性による問題があるのではないか。一般には,事業団に相当する機関が破綻処理を行った事例はない。しかし,高等教育機関は社会的に及ぼす影響が大きく,事業団が一定の役割を果たさざるを得ないのではないか。私学団体は護送船団方式に対応してできた組織であり,その役割を果たすのは困難である。現在,事業団は助言的な仕事に限定しており,法的に処理が必要な段階になった場合には,文部科学省が行うこととなっている。「学校法人再生機構」を創設すべきという意見もあるが,現在の方法の方がより円滑に進むのではないか。
また,専門職大学院の質保証の問題については,大学基準協会でも専門職大学院の評価基準について検討を進めているが,日独シンポジウムの結果を踏まえると,専門職大学院といえども法人サイドの基盤がしっかりしているかどうかが重要である。法人の評価を明確にしなければ,今後の大学評価は専門職大学院だけに限らず,一般の大学であってもプログラム評価が意味のないものになってしまうのではないか。
○ 情報公開に関して,情報共有についての意識が足りないのではないか。外部に対する情報開示と同時に,内部に向けても情報開示を行う必要があるのではないか。また,大学ガバナンスの法的保証の際には,情報開示を前提条件とすべきではないか。
○ 法政大学では,第三者機関の導入が功を奏しているとのことだった。国立大学でも経営協議会に外部有識者を参画させたり,一般企業でも社外取締役を積極的に活用している。しかし,そういうところでも,ガバナンスがあまりうまく働かずにコンプライアンス上の問題が起こっているのが現状である。「中間まとめ」では,人材の派遣と養成について,「学校法人を再生に向かわせる専門家であるターンアラウンドマネージャーやアドミニストレーターが必要」と提言しているが,具体的にはどのような人材を想定しているのか。また,そのような人材が市場に存在するのか。
□ 設置形態によって異なるのではないか。例えば,公立大学の場合,転勤のため,2年程で全く違う分野にいた職員が配属になるため,大学固有の職員がいない。一方,私立大学の場合,外部から人材を登用したり,理事や職員が大学経営・政策を扱う大学院に通学する等非常に熱心である。国立大学法人も現在は法人間の異動は困難であるようだが,職員の流動化がないと,このような人材市場も形成されない。人の流れができる仕組みを作る必要があるのではないか。例えば,その仕組みを私学団体が担うのも1つの方法である。
○ ガバナンスとの関連で事前規制の重要性ということについてどのような考えを持っているのか。また,設置時に将来的な危機をどのくらい予想し得るものなのか。また,ガバナンスという視点に重点を置くと,予測にも変化が生じるのか。
□ ガバナンスという場合に,大学には二重のマネジメント,それに対応した二重のガバナンス,そして最終的なトータルなガバナンスがある。つまり,法人内部のガバナンスと,教学面のガバナンスがあり,最終的には設置者の教学までを含めたガバナンスという構造になるのではないか。事前規制では,事前に教育・研究の質と財政基盤についてチェックをしているが,事前の質保証とガバナンスが関係が深いと考える。これは教授会の権限とも大いに絡んでいる。例えば,首都大学東京は教員の任期制を導入し,年俸制,教員評価も導入した。そうなると,権限が移譲するだけではなく,法人側の責任が非常に強くなる。人事権やカリキュラム編成権も法人側に移ると,学内や教授会に対する説明責任が非常に重要になる。また,教員審査についても外部委員を導入する等の仕組みが考えられるが,そこまでガバナンスのことを考えて質保証を行っている大学は少ない。これらを一般化することはなかなか困難であるが,既存の大学を前提に置いた場合,教学部門のガバナンスにどれくらい設置者が関与できるかが重要ではないか。
□ 学校法人は何のためにあるか。それは,設置する学校を健全に運営するためであり,全ての視点が教育と研究に向いていなければならない。最近,理事会に外部理事を登用するように言われているが,単に外部理事を登用したから理事会機能が向上するというものではない。
現在,私立大学で問題になっているのは教授会である。古くからある私立大学の多くは未だに教授会が全権を持っている。学校教育法上「大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなければならない」となっているが,「重要な事項」には人事権や予算編成権もあり,そこに学校法人の運営の難しさがある。その権限をどのように学校法人の理事会が握るかが重要である。権限を握るということは,それだけ学校法人や理事長の責任は重くなるが,責任体制を明確にしたガバナンス体制を構築することが重要ではないか。
○ 教授会における「重要な審議」とは何かについて,これまであまり議論はされてこなかったのではないか。この問題は,私立大学だけの問題ではなく,国公私を通じた大学全体の問題としてとらえていくべきではないか。本日の意見を踏まえ,今後も議論を続けていきたい。
次回は,日程調整の上,開催することとなった。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --